2009

11.07

「ねずみ石」大崎梢

ねずみ石ねずみ石
(2009/09/18)
大崎 梢

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サトとセイは、中学に入学して間もなく親しくなったクラスメイトだ。セイは話題が豊富で、ボケと突っ込みの合間が抜群。勉強はけっこうできるのに優等生らしさがまったくなく、つきあいがめっぽういい。ただ、好奇心旺盛で、無頼の知りたがり屋だった。セイにはサトの住んでいる神支村の祭りについて教えることを約束した。山間の小さな集落にある神支神社の祭りには、恒例の子供向けイベント「ねずみ石さがし」がある。

祭りの夜には、ねずみ石と呼ばれる「子」という漢字が入った七つの石が、お祓いをうけた後にありがたいご利益を授かり、村のあちこちにこっそり隠される。それを子供たちが探す。石を見つけたら願い託す特別な石だ。一生に一度とも言われている。サトには、四年前のお祭りの記憶がない。ねずみ石を探して迷子になり、翌朝山の中で見つけられた。熱を出して寝込み、元気になったら、夜の記憶がごっそり抜けていた。

同じ夜、村では尾ヶ滝という小さな滝のそばに住んでいた女子高校生とお母さんが惨殺されていた。事件は未解決で、犯人はまだ捕まっていない。事件を担当する刑事は、犯人を見てるんじゃないかと、サトにしつこく会いにくる。サトにとっては胸のざわつく相手で気に食わない。セイはその殺人事件に興味を持ったらしい。そして四年前に殺された三島理恵と同級生で、事件にこだわっていた顔なじみのタマさんが殺された。

なんか微妙に引っかかる部分があって、うまく乗り切れなかった。まずサトが一番大好きな近所のおにいちゃんの修ちゃんに嫉妬をしたりと、サトに対するセイの執着が理解できなかった。そのセイや修ちゃんも、サトに何やら隠したまま、自分本位に行動を命じてきたりと、イライラを感じさせるところが多々ある。それには後に明らかにされる理由があるのだが、サトにとっては知ったことではない。そういう自分勝手が鼻についた。

中盤になってからは幾分読みやすくなるのだが、「ねずみ石」などの土俗的な魅力が生かされていたとは思えず、セイや修ちゃんのことはサト目線で語られているけれど、サト自身は、四年前の一夜の記憶がないとだけしか提示されておらず、どういう性格の少年なのかわからないままでは感情移入がしづらい。そうして途中から一人で行動することになる主人公サトの人物像が見えてこないまま、気がつけば犯人と向き合っている。

そういうわけで、美点を見つけられないまま、読み終えてしまった。書店ものは新シリーズがスタートして、まんねり気味をひょいと避けた。ミステリ色が薄い「夏のくじら」では、よさこい祭りの熱気にわくわくした。ただ、「片耳うさぎ」に系譜する作風はまだまだ。これからもっと頑張れという感じでしょうか。というか、光文社の編集者よ、しっかりせい。他社は、この作家を育てているぞ。なんてね。

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大崎梢
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    2009

11.06

「八朔の雪―みをつくし料理帖」高田郁

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
(2009/05)
高田 郁

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大阪で生まれた十八歳の澪は、両親を水害で亡くし、天涯孤独の身であった。大阪でも名の知れた料理屋「天満一兆庵」に拾われて奉公に上がり、女でありながら板場へ入ることを許され、主人の嘉兵衛に厳しく料理を仕込まれた。その天満一兆庵が火事に遭い、江戸店を任された若旦那の佐兵衛を頼って江戸に来てみると、江戸店はつぶれていた。佐兵衛が吉原通いに明け暮れて莫大な散財を負い、挙句、江戸店を手放して消息を絶ったということだった。そんな話を信じる嘉兵衛ではなかったが、度重なる心労がたたって落命した。

残された女将さんの芳は身体を悪くし、奉公人に過ぎない澪と二人で裏長屋に暮らしていた。神田同胞町には小さな稲荷がある。化け物稲荷という名前で知られた、つい先頃まで荒れ放題だった稲荷神社だ。澪が草を引き、お社に手を入れ、何とかお参りできるようにしたのは三月ほど前のことである。その働きぶりを見られて、蕎麦屋をしている種市に、店を手伝ってもらえないだろうかと声をかけられた。つる屋に雇われて三月。澪は大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、医師の源斉先生の指摘に目から鱗が落ちる思いをする。

つる屋は、吟味した材料を使い、とびきりの蕎麦を出す。しかし値は安い。幾ら売れても材料費に食われ、儲けは知れている。蕎麦が苦手な者にもつる屋に足を運んでもらえるような、お客の幅を広げるような肴を作ることが、種市への何よりの恩返しではないだろうか。澪は上等な鰹節の出汁がらを捨ててしまうのは何とも惜しいと、天性の味覚と負けん気で日々試行錯誤を重ね、常連客で一刻者の浪人・小松原をも味方につけ、ぴりから鰹田麩(かつおでんぶ)という一品を作りあげた。これが巷の評判を取った。

どんなに辛くても、落ち込んでも、常に前向きな澪に、自分も頑張ろうと励みをもらえる素敵な作品。また大阪と江戸の食の違いも詳しく並べられていて、そこも興味深く楽しむことができた。大阪人である読者が東京へ旅したとき、まず一番に確認したのはうどんの汁。濃いとは聞いていたが、その黒さは予想以上。驚きながらも、美味しく頂きましたとも。でも西と東ではその常識が二つにわかれ、某カップ麺では、西はW、東はEと側面に印字され、地域によってスープの濃さが違う商品が実際に販売されている。これ、ほんと。

そうした食文化だけでなく、風土の違いにも毎回驚きながら、澪はやがて店そのものを任されるようになり、種一や芳に深い愛を持って見守られ、源斉や小松原の一言をヒントにし、おりょうら長屋の住人の人情にも助けられ、両の眉を下げながら健気に頑張り通した結果、つる屋はついに料理番付に載るほどの人気店になっていく。人気がでれば、澪の腕を妬み嫉み、料理番付で最高位の料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてくるが、料理については一切の妥協を許さない澪にとって、それは乗り越えられない苦難ではない。

全四編が収録されていて、各編を読み終えるたびに、なんとも言えぬ幸福感が押し寄せてきた。今回シリーズ第二弾「花散らしの雨」の発売があって、たまたまどど〜んと書店の棚に積まれているのを発見し、そこに店内放送で著者自身による販促テープが流れてきて、なんとなく二冊を手に取ることにした。これが大当たりだった。今からでも遅くありません。美味しそうな料理の数々と温かな人情に癒されること間違いなし。文庫書き下ろしなのでぜひ買って、これからのシリーズを一緒に揃えていきましょう。おすすめです。

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    2009

11.05

「翼をください」原田マハ

翼をください翼をください
(2009/09/16)
原田 マハ

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二〇〇七年、アメリカのカンザス州アチソン。新聞記者の青山翔子は、山田順平がこの町に住んでいるところまでは突き止めた。そして必ず会って、真実を聞き出す。山田は暁星新聞社の純国産飛行機「ニッポン」号が世界初の世界一周を成し遂げた時に随行したカメラマンだったのだ。しかしこの史実はGHQによって歴史の闇に葬られていた。色あせた古い写真には塗りつぶされた謎の人物が写りこんでいた。第二次世界大戦の直前に世界一周したという飛行機に、外国人女性が同乗していた? そして見つけた、エイミー・イーグルウィングのポートレイト。アメリカ、カンザス州アチソン。この辺鄙な町に生まれ、世界へとはばたいていった有翼の女神。

二十一歳のエイミーが、女性パイロットとして初の大西洋横断飛行に成功したのは一九二八年。ビル、ボビーの二人の乗組員、魔法の言葉と呼んでいる通信士のトビアスに支えられての快挙だった。そして一九三三年、エイミーは、ついに大西洋横断単独飛行に成功した。エイミーは大西洋を横断して感じた。世界はひとつ。国境というのは人間が作り上げたもので、物理的には存在しない。自分は世界平和のために飛んでいる。しかし、知己を得た博士は反論する。民族の違い、国家の違い、個人の違いはどうしたってある。それを認めて、受け入れること。それが共存共栄への第一歩だと。エイミーは自分がぼんやりと憧れていた「日本に向かって飛ぶ」と予感していた。

暁星新聞の宿年のライバル新聞社社用機が東京―ロンドン間の渡欧飛行に成功した。ただ日本での主流は目で確認し方向を定めるというもので、これに対してアメリカでは無線と計器を利用した飛行法が取り入れられていた。優れた計器をわが国の工場で作って、純国産機につけて、日本人の飛行士を乗せれば…、理論上は、世界一周飛行ができる。一九三九年、暁星新聞社は海軍の全面協力を得て、世界一周大飛行を決行することになった。「ニッポン」乗組員には、機長の中尾、副操縦士の吉田、操縦士・機関士の八百川、整備士の下川、技師の佐伯、通信士の佐藤、そして、カメラマンの山田が選ばれた。飛び立った「ニッポン」には、もうひとり、極秘の乗組員がいた。エイミーだった。

二十世紀の戦争は、もはや軍人同士の殺し合いではなく、力も名もない人々を空から徹底的に殺戮する地獄と化していた。飛行機は武器ではなく平和の使者である。この世界はひとつ。そう信じるエイミーと、純国産機「ニッポン」の乗組員一同が心を一つにして、世界一周飛行にチャレンジする。この大冒険に幾度となく涙腺が緩んでくる。粋な計らいで再会するエミリーと母親。エイミーをずっと待ち続けているビルとボビーと出会う山田。モールス信号を通したエミリーとトビアスの二人だけにわかる会話。操縦席についたエイミーの勇姿。日本に帰還した山田の演説。世界一周を成し遂げた八人の乗組員の大冒険と、切なくて深いラブストーリーに拍手。涙なくして読めない感動の一冊だった。

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    2009

11.02

「オイアウエ漂流記」荻原浩

オイアウエ漂流記オイアウエ漂流記
(2009/08/22)
荻原 浩

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おんぼろプロペラ機がトンガ沖の海に墜落。乗り合わせていたのは日本人会社員ら八人と外国人一人、そして犬一匹。リゾート開発会社勤務で上司にコキ使われる二十八歳の塚本賢司。うるさ型であだ名は「パワ原」という河原部長。その部長の最大の標的になっている温厚な安田課長。氷の女王と畏怖をこめて呼ばれる菅原主任。ただの馬鹿でしかないスポンサー企業御曹司の野々村副社長。そして結婚を後悔している早織と頼りなさそうな薮内というお見合いパーティーで出会った新婚カップル。小学四年生の仁太と夢の中にいるじっちゃん。ジョー・サイモンという謎の外国人。機長が連れていたセントバーナード犬。彼らが流れ着いたのは小さな無人島だった。

火も水もなく食べ物にも困るポリネシアの無人島でサバイバルが始まった。塚本賢司はひとり忙しく走りまわされ、菅原主任は現実主義者となって裁定し、安田課長は何をやってんだか右往左往し、河原部長は下の者には威張って怒鳴りながら御曹司にお追従。その御曹司はというと能天気な大馬鹿野郎。新婚の早織は夫を含めた男の品定めばかりして、夫の薮内はすべてがとろくさく、仁太は冒険に胸をわくわくさせて、じっちゃんは寝てるか突然元気になるかで、サイモンは外人らしい陽気なトラブルメーカーぶりを発揮する。しばらくはすぐに救助がやってくるという希望を捨てきれず、これまでの人間関係が維持される。

ところが、いくら待っても船影も飛行機の姿も全く見えない。救助が期待できないとなると、十人の関係性は徐々に変化し、これまで貯めていた黒い本音も、秘密にしていた過去も晒し、一触即発の仲たがいを何度もした結果、無人島で生きていくための知恵を絞るようになる。塚本はわずか三ヶ月だがボーイスカウトの経験者で、菅原主任はフリークライミングの経験をいかし、薮内は陸での行動はダメでも魚や海に詳しく、早織の持つバックは四次元ポケットで、じっちゃんは南国で戦争をしたサバイバル経験者で、仁太は子どもなりに頑張る。みんな必死になる。行動しなければ死ぬ。まだ死ねない。さらに口うるさいだけだった河原部長までもが山生まれであったことが役に立ち……。

長かったけれど、面白かった。回収し切れていないエピソードがあったことや、あっさりしすぎたエンディングを迎えるところは少し寂しかったけれど、墜落場面からサバイバル生活のすべてにユーモアがあって、初期の荻原作品を思い出した。いつの頃からか読まないようになった荻原さんだが、こういう作風ならまた読んでみたい。早織だけはホラーの人だけど、基本みんないい人ばかりだ。楽しく、気持ちよく、ほのぼのと読めるサバイバル。そういう一冊だった。


荻原浩さんのサイン。

荻原1

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    2009

10.31

10月に買った本

雪だるまの雪子ちゃん雪だるまの雪子ちゃん
(2009/09)
江國 香織山本 容子

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無理無理
(2009/09/29)
奥田 英朗

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同期同期
(2009/07/17)
今野 敏

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新参者新参者
(2009/09/18)
東野 圭吾

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太古の血脈太古の血脈
(2009/10/17)
藤木 稟

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はじめての麦わら帽子はじめての麦わら帽子
(2009/09/01)
本上 まなみ

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WILLWILL
(2009/10/05)
本多 孝好

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まほろ駅前番外地まほろ駅前番外地
(2009/10)
三浦 しをん

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よろこびの歌よろこびの歌
(2009/10/17)
宮下 奈都

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天才探偵Sen〈4〉神かくしドール (ポプラポケット文庫)天才探偵Sen〈4〉神かくしドール (ポプラポケット文庫)
(2009/10)
大崎 梢

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駐在刑事 (講談社文庫)駐在刑事 (講談社文庫)
(2009/09/15)
笹本 稜平

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僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)
(2009/10)
小路 幸也

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八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
(2009/05)
高田 郁

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花散らしの雨 みをつくし料理帖



11月そして12月 (中公文庫)11月そして12月 (中公文庫)
(2009/10/24)
樋口 有介

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本が売れないと言われる時代を、ひとりで蹴散らした!



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    2009

10.31

10月に買った本の代金

個人メモです。


総額18.839円


↑こいつバカ?



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自分への戒め
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    2009

10.30

「狩眼」福田栄一

狩眼 (講談社ノベルス)狩眼 (講談社ノベルス)
(2009/09/08)
福田 栄一

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多摩川沿いの河川敷で死体が発見された。死体の身元は、世田谷区在住の野田孝良という医師。野田は死体で発見される四日前から行方不明になっていた。野田の死因は、鈍器による後頭部の打撲傷だったが、実際は頭部を滅多打ちにされていて頭蓋骨の原形をとどめていないほどの惨状となっていた。そして、この事件を奇異なものにしているのは、殺害後に犯人が死体の両目を刳り抜いているという点だった。

捜査本部の一員である若手刑事の伊瀬巡査部長は、所轄の南多摩署刑事課の同僚である杉内と共に、地取り捜査を担当していたが、何一つ有力な情報を得ていなかった。死体発見から二週間が経過しようとしている現在、捜査は完全な行き詰まりを見せていた。そんな中、伊勢は刑事課長の水野から今の担当を外れて、別の役割を与えられた。それは警視庁本部からきた戸垣巡査部長と組んだ、独自の“調査”だった。

戸垣は捜査本部の方針から逸脱した行動を取る。執拗に単独捜査へのこだわりを見せ、擁護者である水野にさえ情報を隠そうとする。伊勢は戸垣の捜査方針について意見するような真似はやめた。ただ、それは表向きだけのことであって、実際に唯々諾々と従うつもりはなかった。確かに、伊勢は戸垣の捜査姿勢に対して畏敬の念を抱くようになったが、それ以上に、水野課長に対する尊敬と信頼の力の方が強かったからだ。

福田栄一さんと言えば、ユーモアのあるパズラー小説の書き手だ。それが今回は真っ向から刑事小説に取り組んだ、というのが本書。まずは犯人に襲われる被害者の目線で始まり、本編では変人刑事に振り回される若手刑事という図で展開し、そこに白内障を患ったOLや深夜の倉庫番をする男の目線が加わり、中々捜査が進展しない捜査本部を他所に、ベテランと若手のコンビは少しずつ犯人に近づいてゆく。ところが、意見がわかれて唐突にコンビを解消。そこからが著者の真骨頂であるパズラーぶりが発揮されるのだ。

犯人はこいつだろう、と思わせては、ひっくりかえし、ようやく事件は解決か、でも残りのページ数はまだまだあるぞ、と思っていたら、またまたひっくりかえり、そして最後には意外な人物が浮上して…。著者にすれば、この謎の人物は王道なのかもしれない。しかし、一読者にとっては、思いもよらない展開だった。それともう一つ。いくら意味深であっても、プロローグとはそういうものだと読み飛ばしがちだ。そこにもひっかけがあって…。

やられました。少し読後感は悪いですが安心して読めると思います。ただ、刑事ものに重厚さを求める方には軽いかもしれません。でも、おっと驚く仕掛けは中々のものがあり、意外性も楽しめる作品でした。まだまだ名前の知られていない作家ですが、デビュー作からずっと注目しています。これからも読み続けたい作家だと、追いかけていきたい作家だと思っています。大きくなあれ。大好きな作家です。

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福田栄一
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    2009

10.28

「完全犯罪に猫は何匹必要か?」東川篤哉

完全犯罪に猫は何匹必要か? (光文社文庫)完全犯罪に猫は何匹必要か? (光文社文庫)
(2008/02/07)
東川 篤哉

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十年前、寿司店経営者、豪徳寺豊蔵の自宅のビニールハウスにて、男性の変死体が発見された。死亡推定時刻は前夜の午後八時から十一時までの三時間と断定された。この時間帯に犯人は被害者をビニールハウスの中ほどに連れ込み、その腹部を刃物によって刺し、凶器を持って逃走したものと考えられた。被害者の身元は豪徳寺家からほど近いところで開業医を営んでいる矢島洋一郎という医者だった。目撃者を捜していたところ、午前零時をすぎた時間に、ハウス内にて不届きにも立ち小便をしていたサラリーマンがいた。ところが、死体はなかったという。事件はものの見事に迷宮入りした。

そして現在。烏賊川市近辺において回転寿司といえば「招き寿司」をおいて他にない。有名といえばもうひとつ。「招き寿司」は店舗の前に巨大な招き猫が鎮座していることで、特に有名である。寿司チェーン社長・豪徳寺豊蔵が破格の金額で私立探偵・鵜飼杜夫に行方不明になった愛猫ミケ子の捜索を依頼した。捜索には弟子にあたる戸村流平と、若きビルオーナーの二宮朱美も協力した。その数日後、豊蔵は自宅のビニールハウスで遺体となって発見された。なぜか普段は門前にある等身大招き猫がハウスの裏口におかれ、表の入口には娘の真紀が座ったまま縛りつけられていた。

烏賊川暑の自称エースと自称ホープもすぐさま現場に駆けつけた。砂川刑事と志木刑事である。怪しげな一通の手紙に呼び出された真紀は、犯人の罠にかかって縛られ、猫のお面を被った犯人が、父親をナイフで刺し殺すところを目撃し、出口に置かれた等身大招き猫の足元のあたりに、ミケ子らしき三毛猫が並んで座っていたのを記憶した。豊蔵氏の葬儀には、ミケ子の捜索を依頼されていた鵜飼たち三人の姿もあった。その葬場のトイレ内で、なんでも屋の岩村が殺されているのを流平は見つけてしまう。猫、猫、猫。猫づくしのユーモアミステリ。烏賊川市シリーズ第三弾。

やはり東川篤哉はいい。450ページという長編にも関わらず、あっという間に読み上げてしまった。何がそうさせるのか。それは一重に、この作家特有の笑いにある。どこを読んでいても笑いがある。プロローグからエンディングに至るすべてにだ。そしてとにかく軽い。登場人物たちの行動が軽妙でコミカル。会話もボケとツッコミがテンポ良くからみ合い、厭きるということがまずない。それでいて、本格としての完成度も高く、淡々としがちな謎解きにも面白味が込められたものとなっている。そして動機にしても、それを持ってきたかと、つい感心してしまうものだった。今後も読んでいきたい。そう思わせる魅力がこの作家にはいつもある。

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東川篤哉
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    2009

10.26

「霊峰の門」谷甲州

霊峰の門霊峰の門
(2009/08/26)
谷 甲州

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山の民の天狗は、吉野の山を支配する一言主の呪術によって、韓国広足の命によって、葛城に住まいする役小角の謀殺を命じられた。天狗は呆然として童女をみていた。一見すると幼女のようだが、物腰は大人の女を思わせた。童女は皐月女と名乗った。既視感があった。そうだった。俺は天狗などという名ではない。俺の名は佐提比古。皐月女との離別をしいられ、ついには壬申の乱で敗れた大友皇子の死者の代理、尸者という影として葬られた。輪廻転生。成仏に縁遠い衆生は、迷いの中で何度も生と死をくり返すという。

河内に兵を挙げた楠木軍は追いつめられていた。多聞丸は父の死をきっかけに、自分がこの世に生まれてきた理由を思い出した。我が命と引きかえに、他人の死を肩代わりする。ほとんどの場合は追いつめられて非業の死を遂げた。汚名を着せられて誅殺されたことも一度ではない。死をまぬがれない者たちの尸者として、あるいは人々の恨みを一身に負って首級を差し出した。そのたびに影として転生し、あらたな運命にしたがって身代わりの死を受けてきた。多聞丸は比丘尼を通して皐月女と出会う。七百年ぶりの再会だった。

二百五十年後。熊野衆の忍び黒滝の半兵衛は、本能寺の織田信長を討った明智光秀を、輪廻した楠木正成を成仏させるべく、光秀が陣を構える山崎の地へと駆ける。そして時は流れ、天誅組と称する勤皇派志士の一団は、吉野を倒幕運動の拠点として、新政府を樹立しようと画策していた。楓は組織としての脆弱さを抱えている天誅組挙兵の真っ只中に連れ出される。生とは何か? 死とは何か?  輪廻転生を繰り返しながら奈良時代、鎌倉末期、戦国時代、幕末を生き、時代と戦乱に翻弄された男女の悲劇を描く歴史伝奇大作。

なんて無闇に長い作品なんでしょう。そして、歴史に名を残した人物を登場させながらも、なぜかそこは駆け足で通り過ぎて、それを活かさない方へ持っていこうとする。確かにページ数を一番割いていた天誅組の無謀な挙兵についてはあまり知られていない。これはこれで面白く読めた。しかし、表のテーマである輪廻転生とはかけ離れた歴史小説が長々と続くのには正直戸惑った。そのように、全体的にだらだらと間延びをし、何を一番に読ませたいのかが中々見えてこない。そして、奈良時代から幕末へと千年にも及んだ輪廻の輪は、ご都合な展開によってごくあっさりと絶たれる。天誅組の高取城攻めは濃いのに、ほんの少しの活劇で終焉をむかえるなんて、これには唖然とした。作品のバランスも悪く、もやもや感しか残らなかった。面白そうと思った勘はどうやらハズレ。自分とは合わない作品であった。

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    2009

10.23

「さよならの次にくる〈新学期編〉」似鳥鶏

さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫)
(2009/08/30)
似鳥 鶏

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苦労性の高校生・葉山君の、山あり谷ありの学園探偵ライフ。「さよならの次にくる〈卒業式編〉」から続く、爽快なフィナーレまで一気呵成に突き進む学園ミステリ、後編。「ハムスターの騎士」「ミッションS」「春の日の不審な彼女」「And I’d give the world」「よろしく」の五編を収録。

名探偵の伊神さんは卒業、美術部の葉山君は二年生、演劇部部長の柳瀬さんは三年生、そして迎えた新学期。「曲がり角でごつん」がきっかけで、葉山君は可愛い一年の眼鏡女子・佐藤希さんと知り合った。入学以来、怪しい男に後をつけられている。一年の教室にも不審者が侵入した。彼女の携帯には気味の悪いメールが届き、指定された場所には人形の首が入った紙袋。葉山君は柳瀬さん以下演劇部有志の力を借りてストーカー撃退に奔走することになる。(「ハムスターの騎士」)

部員総勢一名しかも男子だけの美術部に新入部員が一名入部した。佐藤希だった。ところがいざ美術部の活動をしようとすると、他の芸術部員からのヤボ用がすり寄ってくる。ミノが持ってきたミッションとは、職員室の教師の机に接近し、引き出しを開けてカードキーを摂取、偽造カードキーとすり替えた後素早く引き出しを閉める、というものだった。ミッションは成功。だが翌日、本物はまだ返していないにも関わらず、教師は何の問題もなくカードキーを使用し、システム管理室の扉を開けた。(「ミッションS」)

市が主催する文化祭から演劇部にお呼び出しがかかった。人手が足りないということで美術部の二人も借り出されることになった。今回は出張公演であり泊りがけになる。そして、事件が起こった。部屋のドアはオートロック。ドアを開けるべき鍵は身につけていた。窓には鍵がかかっていた。それなのに、朝起きたらテーブルの上にはマネキンのジェシカが横たわり、その下には脅迫状があった。葉山君は数日前から脅迫状めいた手紙を立て続けて受け取っていた。(「春の日の不審な彼女」)

愛心学園の中等部に謎の紳士が出現したらしい。その紳士が捜していたのは私のことではないか。作家の幻城影彦のシリーズに出てくる千堂愛は私がモデルなんです。そのせいで手紙を送ってくる人や、写真を勝手にサイトに上げる人も、中にはいるんです。これまで父には黙っていた。だが、その時は話してしまった。冗談めかして、日常の家族の会話として話した。それならば、父がたいした衝撃を受けることもない、と思っていた。しかし、父の反応はおかしかった。(「And I’d give the world」)

そして、後日談。(「よろしく」)


〈卒業式編〉と〈新学期編〉を続けて読んで思ったことは、これは二冊で一つの作品であるということ。各短編ではそれぞれに謎が提示され、名探偵の伊神さんの推理によって謎は解かれていく。葉山君のがんばりや、柳瀬さんのテンション高さといったキャラものとしては抜群に面白い。しかし、連作短編ミステリとしては若干物足りなさがある。そう思っていたら、本作の終盤にガツンとやられてしまった。意味不明であった断章や、人物がふともらした何気ない一言に意味があったと、その伏線の多さに驚愕する。そして現れてくる事実に…、これ以上はネタバレになるので言えません。読むときは是非とも二冊続けて読みましょう。これは二冊で一つの作品ですから。学園ミステリでは、今一番面白い作家だと思います。

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似鳥鶏
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