2010
![]() | 太古の血脈 (2009/10/17) 藤木 稟 商品詳細を見る |
祖父の名は、酒井勝軍。歴史を齧った人間であれば、その名を目にしたことがあるはずだ。酒井勝軍は、明治から大正、昭和にかけて常に日本軍の要職にあり、当時流行した日本人とユダヤ人が同祖であるとする説を唱えた先駆け的存在である。さらに世界を駆けめぐって、ピラミッド日本起源説等を提唱したという、異端の歴史研究家であった。酒井勝一が歴史を志したのは、大いに祖父の影響によるものだ。しかし、祖父が亡くなり、長ずるにつれ、勝一は祖父の異説に否定的な意見を持つようになった。
勝一は、大学の講師を辞め、大阪で進学塾の講師をして二十五年が経つ。祖父の残した手帳に、丹後の伊根に百五十五年に一度だけ海上に現れる島があるとの記述を見つけた勝一は、妻との結婚記念日に旅行を計画していた。だが、その直前に妻が殺されてしまう。戸惑う勝一の前に、自分はサンカ(幻の漂白民)だという男、当麻カヤキが現れる。祖父から託された手帳には、当麻を名乗る者が現れたらその言葉に従うことが明言されていた。勝一は当麻に導かれて、妻と行くはずだった浦島伝説発祥の地に向かう。
この著者のことはまったく知らなかった。大好きな高橋克彦氏による帯の推薦文を見て、高橋氏の「竜の柩」の系譜かな、と手にすることにした。日ユ同祖説、歴史ある寺社仏閣、浦島伝説、秦氏、弥勒信仰、ヒヒイロカネという金属、フリーメーソン、三種の神器、聖徳太子、弘法大師空海、天皇家、キリストの墓、日本ピラミッド。これらのキーワードは、酒井勝軍や竹内文書を齧ったことがある人ならピンとくるだろう。そして彼らを追う狂信的な帝国陸軍に、待ち受ける様々な仕掛けの数々。解釈がつけられていく裏歴史の謎。
こういう伝奇小説は好きだ。でも高橋作品なら必ず場の雰囲気を変えるユーモア系の人物がいる。そういう人物がいない分、全体的に硬い。敵方の組織にしても作りすぎが胡散臭い。だが、それでも知的好奇心をくすぐる内容だった。ただ惜しいのは、独自の解釈に押しが足りないところだ。例え、その説がが無茶苦茶であっても、自分の説はこうだ、と言い切って欲しかった。そうすることによって、その可能性は…、と読者の妄想力が働くからだ。「竜の柩」には、ひょっとすると思わせる力があった。冒険にもワクワクした。それと比べると、本書はカタルシスを得るまでには至らなかった。しかし嫌いではない。惜しいの一言だ。
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