しんちゃんの買い物帳

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「世界がぼくを笑っても」笹生陽子

世界がぼくを笑っても世界がぼくを笑っても
(2009/05/26)
笹生 陽子

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『われらが浦沢中学にすごい先生がやってくるってさ』 始業式の日、着任式がはじまった。非公式の浦中HPで噂の最終兵器を特定すべく、壇上に向いたハルトの視線は、彼らの中でもっとも目立つ人物のほうに吸い寄せられた。第一印象、やぼったい。二度見してなお、やぼったい。男にしてはかなり小柄で、軟弱そうな身体つき。そわそわしていて落ち着きがなく、無駄に満面の笑みを浮かべているのが、気持ち悪くてしかたない。なんか変わった生きものがいる。そう、彼こそがハルトのクラスの新担任、小津ケイイチロウ先生、だった。

ハルトの家は貧乏で父子家庭。飽きっぽいのか、この十年で親父は三回転職し、いまはカラオケスナックのバーテンをやっている。趣味はギャンブルと、子どもの頃から好きだったという野球。友達をすぐに作れる性格なので、仲間がちょくちょく家にやってくる。中でも特に古株なのが、ニューハーフのアキさん。うちへ遊びにくると必ず家事手伝いをして帰る。そういう意味では、アキさんがうちに来るのは大歓迎だ。ただし、同級生のだれにもそれを知られないと前提で。

はずれの親を持った子どもは、精神面でも苦労する。なら、せめてスクールライフだけでも無難に平和にすごしたい。そんなハルキの思いを知ってか知らずか、例の変わった生きものは、相変わらずぐだぐだで、だれが見たって先生に向いていない。クラスでは、無愛想で単独行動が楽なハルキ、特撮マニアの安東、鉄道オタクの長谷川、空気の読めない滝沢、地味で無口でおとなしい南原めぐみ、別室登校している西崎アキラと、さえない生徒の含有率がけっこう高かった。

たまさか迎えた担任教師が、見るからにだめなやつだった。だめだ、だめだと騒いだ生徒も、あんまりぱっとしなかった。ただし、身内以外の人間にまで、ごちゃごちゃいわれたくない。担任を馬鹿にしたいたずら書きを黒板に書かれた。だめクラスの人だと、よそのクラスの生徒たちにからかわれた。二年のオレたちを「じゃま」といって一年生が押しのけた。学校全体が恐れる不良の山辺グループが因縁をふっかけてきた。その日、機嫌が悪かったハルトは、ニカッと笑い、山部に頭突きをくらわせた。

今風の学園小説でしょうか。やることがなくて暇だ、熱くなれるものがないと、ぐうたらな毎日を過ごしていても、ふと目線を変えてみれば、そこは素敵な光景なのかもしれない。何でもいいからやってみれば変わる。本書の場合は、河川敷の貸し農園で、トウモロコシの栽培から収穫にあたることなのかな。なんとなく友達ができて、なんとなく頑張っている担任を応援したくなる。表紙の絵は、そういう一場面。けっこういい感じでした。

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「贖罪」湊かなえ

贖罪 (ミステリ・フロンティア)贖罪 (ミステリ・フロンティア)
(2009/06/11)
湊 かなえ

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空気がきれい。それだけが取り柄の田舎町。当時、町にコンビニがないことを不便に思っている子どもなんていなかった。生まれたときからあるものが当たり前。テレビでバービー人形のコマーシャルをしていても、それは見たことのないおもちゃで、欲しいとも思わなかった。それよりも、フランス人形のほうが重要だった。この町に、日本一の精密機器メーカーの工場が建てられた。それと共に、東京から人が来た。エミリちゃんを含む東京からの転校生により、普通だと思っていた自分たちの日常が、かなり不便で取り残されたものであることを、じわじわと思い知らされた。

あの日の夕方、お盆ということもあって、校庭で遊んでいたのは、紗英と真紀と晶子と由佳、そしてエミリちゃんの五人だった。そこへ、作業着の男がやって来た。「誰か一人手伝ってくれないかな」あの頃の田舎町では、人を疑うことはまったくなかった。むしろ、手伝いという言葉を聞き、立候補したぐらいだった。エミリちゃんが選ばれた。男はエミリちゃんの手を引き、連れて行った。「グリーンスリーブス」のメロディで六時になったことに気づき、エミリちゃんを呼びに行くことにした。彼女の死体を見つけたのはその直後だった。

四人ともが、あの日のことははっきりと頭の中に浮かべることができるのに、どうしても男の顔だけが思い出せなかった。事件から日が経ち、町の人たちが事件のことを口にしなくなった。エミリちゃんのお母さんに四人が呼び出されたのは、中学一年の夏だった。わたしはあんたたちを絶対にゆるさない。時効までに犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できるような償いをしなさい。できなかった場合、わたしはあんたたちに復讐するわ。翌日、エミリちゃんのお母さんは町を出て行った。

事件から十五年が経ち時効まであとわずか。一番おとなしかった紗英が約束通り、彼女なりの償いを果たした。しっかりものだった真紀も、勇気を出して告白することにより、償いを果たした。ぼんやりだった晶子も、何においても脇役だった由佳も、事件について話し出した。それは彼女たちに間違った償いの連鎖が始まってしまったということだ。その償いだけど、特に真紀の怒りの演説は迫力満点。まるでいわれのない呪縛を振りほどこうともがいているようだ。そう、娘を失った悲しみや犯人が捕まらないもどかしさを、一緒に遊んでいた子どもたちに転嫁したエミリちゃんのお母さん、つまり、麻子さんに向けてだ。

少女たちに責任はない。いや、彼女たちも被害者だ。幼くして同級生のむごい死を目の当たりにし、犯人に顔を覚えられていたら、次は自分が殺される番だと恐怖している。その時の自分の行動を悔やんでいる。自分のせいだとまで思ってしまった。そうして起きてしまった償いという名の罪。そして最後に呪いをかけた張本人の身勝手な語りが始まり、本当の罪が浮かび上がってくる。またここまで犯人の存在を忘れていたら、強烈な一撃が振り下ろされた。これには絶句。見事にやられてしまった。

誰も自分をわかろうとしてくれない。自分はこんなにもかわいそうなのに。誰しもが抱いてしまうちっぽけな負の感情。そういう疎外感を突き詰めた作品でしょうか。そしてそこからくる背筋のざわざわ感が始めから終わりまで続いている。こういう「嫌ぁ〜」な感じを今後とも続けて欲しい。自分としては、もっと毒々しくても大丈夫だけど。あと、突っ切った人ばかりではなく、その一歩手前のグレーゾーンにいる人も、読んでみたい、と思った。


その湊かなえさんのサイン会に参加してきました。今回で二度目です。
自分のことを覚えていられたので、チョットこそばかった^^;

湊かなえ2_r1

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「ねこの根子さん」あさのあつこ

ねこの根子さんねこの根子さん
(2009/05/26)
あさの あつこ

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根子さんは、ねこです。とてもりっぱな三毛猫です。見た目も、かしこさも、行儀のよさも、ぜんぶりっぱなんですよ。根子さんは捨てねこだったのです。小さな、小さな子ねこだったころ、根子さんはイチョウの木の根本にすてられたのです。お母さんをよびました。でも、お母さんはきてくれません。ガサ、ガササ。へんな音がしました。黒くて大きなとんがったものが、根子さんをおそってきます。それは、カラスのクチバシでした。もう、だめです。

「こらーっ」大きな声がしたのです。人間の声でした。カラスがあわてて、とびさっていきました。たすかったんだ。「かわいいなあ」だきあげられました。あたたかな手でした。お母さんのおなかみたいに、あたたかでした。ありがとう。根子さんはお礼をいいました。たすけてくれて、ありがとう。男の子がにっこり笑います。根子さんをそっとだきしめます。それが、圭介くんでした。石島圭介くん。

圭介くんは幼稚園に通っていました。その日も、お母さんの佳美さんと一緒に、幼稚園からお家に帰るところでした。「ね、ママ。このねこ、家でかってもいいでしょ」佳美さんは、ちょっと首をかしげました。「こんなかわいいねこさんなら、ママもかいたいわ」圭介くんは笑いながら、根子さんを高く持ち上げました。「これからは、ぼくの家のねこだよ」ミャウミャウ。「どうぞよろしくおねがいします」根子さんは、とても礼儀正しく、あいさつをしました。こうして、根子さんの物語がはじまりました。

あさのさんの児童書です。根子さんを中心にした石島家の成長という感じでしょうか。根子さんは、りっぱな美しい大人のねこになり、ラブラドールのエヒメくんや、小さな白い子ねこのトコロテンが加わり、妹の麻湖ちゃんが生まれて、と石島家は大家族になっていく。そこにはユーモアがあって、優しさがあって、思いやりがあって、あたたかさがあって、団結力が芽生えて、という児童書らしい作品だ。また我孫子三和さんによる挿絵が素晴らしい。あたたかな雰囲気を演出し、根子さんの凛とした姿におもわずうっとり。とってもキュートな一冊でした。大人でも十分に楽しめると思います。

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「フリッカー式」佐藤友哉

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)
(2007/03/15)
佐藤 友哉

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鏡家は壊れている。鏡家七人兄弟も、みごとなまでに破壊されていた。まともなのは僕(公彦)と佐奈だけだ。僕は妹の佐奈には甘かった。その佐奈が死んだ。首を吊って自殺した。大槻涼彦と名乗る男が僕のアパートにやって来た。大槻は愉快そうにビデオを再生した。映し出されたのはホテルの一室。それは中年男たちによる妹の陵辱ビデオだった。デブ。眼鏡。老人。三人のレイプ魔は財界などの大物だった。復讐してやる。だが一般人を殺すのとはわけが違う。大槻はプレゼントだと言って、一枚の封筒を取り出した。それは連中の愛娘の写真と行動スケジュールだった。僕はスタンガンを手に捕獲を開始する。

一方、公彦の幼馴染で同級生の明日美は、特異な能力を持っていた。最初に彼との接続が発生したのは小学校高学年のときだった。誰かの目を通した風景が広がる。ナイフが少女の首に突き刺さった。突き刺しジャック。八年間で七十七人もの少女を殺害した大量殺人者の名称だ。また接続が始まった。その現場には見覚えがあった。彼に殺害される少女の多くは、とびきりの笑顔だった。彼は、少女の首筋にナイフを突き刺した。行くしかない。少女の死体。その死体を見下ろすように、男が立っていた。二人の人間と一つの死体が集う部屋。半開きになったそのドア越しに、突き刺しジャックは立っていた。

さすがメフィスト賞受賞作。他の新人賞ではありえない壊れぶりだ。登場人物のほとんどが壊れている。でもなぜか憎めない。彼らの倫理観はともかく、その思考の末に出した結論が、わかってしまえるからだ。強姦魔のような凶悪犯によって身内に被害者が出たならば、その怒りはどうしたって収まりそうにない。例え犯人が死刑になったとしてもだ。人が人を裁くことは許されない。でもその行為がいけないと理性でわかっていても、感情的には別になってしまう。自分の手で破壊したいという衝動は押さえられない、と思う。

主人公は誘拐に成功した。だが、そのあとを考えていなかった。その困惑がまた、益々憎めなくするのだ。その一方で、ヒロインは突き刺しジャックを追いかけ、その過程である男と出会ってコンビを組むことになる。読者にとって、その男は愉快な男じゃないかと勘ぐる仕掛けが施されている。そしてジャックもまたヒロインに接近していく。その突き刺しジャックの犯行にも、一応筋が通った理由がある。人を殺す、という結論があって、読者の意識の中での、殺人という危険な定義を投げかけた作品のようだった。

この壊れた作品は、その後シリーズ化されているみたいだ。「鏡サーガ」と呼ばれているらしい。ロボット工学者という長男の潤一郎はどんな人?公彦が引っ張られた次男の創士は?自殺したという長女の癒奈は?予言能力を持つ次女の稜子は?三女の佐奈は?四女の奈緒美は?まだまだクレイジーな兄弟の物語が待っている。今後これらを読むのが楽しみになった。

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6月に買った本の代金

個人メモです。

総額8.915円


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6月に買った本

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「マーキングブルース」室井滋

マーキングブルースマーキングブルース
(2009/03/17)
室井滋

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室井滋という名前を見て、想像するのは何か。庶民派女優、エッセイスト、よくしゃべる面白いおばちゃん、「やっぱり猫が好き」の次女……。思うことは人それぞれだろう。でも悪い印象はなく、とても感じのいい人という印象は共通するように思う。本書はそんな室井滋の初小説集らしい。それもご自身が猫を六匹も飼っているという猫好きで、その猫を視点とした猫と女の七つの物語だ。まずエッセイでは、私の立場で描かれたある一つのエピソードが語られる。次にそのエピソードを元にしたネコの立場で書かれた短編小説があり、という二部構成になっている。その合間には、ご自信で撮影された猫写真が収録されている。

猫随想「深夜の訪問者」/猫物語「帰省」
おしゃべり主婦がなんとなく興味を持ったもの。それはお盆の迎え火という行事だった。主婦の母が死んだのは五年前。この家に引っ越してきたのは三年前程前。焚いた盆の迎え火に帰ってきた家族の正体は?/知らぬが仏。なむなむ〜。ユニークな発想で、こういう感性がある人って羨ましい。猫目線ならではの面白さが存分に出ていたように思う。

猫随想「可愛い仔がお家で待ってます」/猫物語「クリスマス、タクシーで」
タクシードライバーのおっちゃんの猫で、名前は市子。おっちゃんが、離れて暮らす娘の名前をつけた。実は、おっちゃんの猫になる前は全然違う名前がついていた。片カナでモモカと。モモカが市子に変わったのには、少しややこしい事情があった。/子が親を選べないように、飼い猫も飼い主を選べない。しめっぽいけど、おっちゃんにグッときた。

猫随想「真夜中のチラシ」/猫物語「29番の猫」
兄弟一匹だけが家に残され、あとの三匹はコインパーキングの一番端っこ、29番の白線の中に捨てられた。その日、28番に移動火葬車が停められた。幼い三匹は、飼い猫のお別れの儀式とやらを見守った。その時、飢えた妹二匹はお供えのキャットフードに飛びついてしまって。/ノラにはノラの意地がある。夢がある。29番が切ない。にく(肉)〜。

猫随想「美容師A子、かく語りき」/猫物語「若いうちから猫と暮らすと」
弘美が泣いている。次第にイライラして、弘美に向かって呼び掛けてみた。だが、残念ながら、声は彼女に届かない。何故かというと、もうすでに死んだ猫だから。今いる所は、テーブルの上に置かれた骨壷の中だった。/猫の霊にまで心配される三十三歳独身女性。そうとうに病んでいる。猫好きもここまで行くと、怖い。

猫随想「あの仔のためならどこまでも」/猫物語「粉雪の舞う夜に」
小さなスーパーのレジ周りの風景はいつも同じだった。女主人の秀子がレジを打ち、看板猫のヒデ婆がレジ横に陣取っている。大晦日の夕暮れのこと。筋金入りの猫婆で、いつもは挨拶もしない人嫌いの志村婆が、妙に緊張した眼差しで睨みつけてきた。/猫のエサ代ってバカにならない。飼い主としては、我が身を削ってもという気はわかる。でもねえ。

猫随想「シゲルとチビ その愛の形」/猫物語「ぼくは繋がれし者」
飼い主は猫っ可愛がりというやつで、至れり尽くせりしてもらう毎日だ。食べ物は贅沢で、トイレもとっても清潔。おまけに冷暖房完備。ただ難点はひとつ。猫用リードを体に装着されて外をお散歩すること。その飼い主がやらかした悪気のないイイ事とは。/想像すると笑える。服を着せられた犬はよく見るけど、あれって犬的にはどうなんだろう。

猫随想「大切にしよう"エコ″と"ネコ″」/猫物語「男一匹、松岡!」
名は松岡。喫茶店のマスターがつけた名前だ。メシ場はあえて分散させている。マスターの店。ボランティアがやって来る公園。コンビニのわき道。そして、リリーが飼われている豪邸。その豪邸から人気がなくなった。/捨てられたロシアンブルーのリリーと、保護者になったノラの松岡の交流が微笑ましい。ラストの締めとしては絶妙。


猫と同居していると不思議に思うことは数々ある。例えば、壁の一点をじっと見つめていたり、はっと何もない空間を見たり、突然饒舌に話し出したり、居ないと思っていたら、なんでというところからゴソゴソ出てきたり、獲物を誇らしげに持ち帰ってきたり、ふいと出かけたまま何日も家に帰らずに心配させて、ふらっと何事もなかったように帰ってきたり。同居人はとにかく振り回されるのだ。

でもこいつが意外とかしこい。なでなですると小ちゃい頭。あっちを向いてこっちを向くと忘れていそう。しかし、窓を開ける、ドアを開ける。しかも、人間のその時の気分を読み取るすごいやつなのだ。でもその能力を発揮するのは、猫自身がそう思ったときだけ。それ以外のときは、オレ猫だよ〜ん、と腹を出して撫でろのポーズ。ずるい。でも、その姿に「もう!」と人間は操られてしまうのだ。そういう人と猫の距離感の妙を本書で堪能されたし。


室井滋さんのサイン。

室井

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「アンハッピードッグズ」近藤史恵

アンハッピードッグズ (中公文庫)アンハッピードッグズ (中公文庫)
(2001/10)
近藤 史恵

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作家の真緒(マオ)はパリで暮らし始めて3ヶ月。3年前からホテルで働く岳(ガク)から、犬の弁慶の面倒を見るためにと、日本から呼びつけられて同棲が始まった。人なつっこさと愛嬌。このふたつはだれもがあげる、ガクの長所だろう。とはいえ、マオは他人ほど、彼のこの長所を評価するつもりはない。彼がそれをうまく武器にすりかえる瞬間を、何度も目にしている。マオだって、いつも彼のこの武器にほだされたり、振り回されたりしているようなものだ。

そんなある日、ガクが若い日本人カップルを連れて帰ってきた。都築夫婦は新婚旅行にきて、パスポートとお金を空港で掏られたという。とにかくホテルまで行けばなんとかなるだろうと思っていたが、旅行代理店の不備で、予約が入っていなくて、部屋も満室だった。それで、唯一の日本人スタッフであるガクが、親切心を出したわけだ。そこで、浩之と睦美夫婦をしばらく泊めることにした。しかし四人で出かけたベルサイユ宮殿ではぐれたことから、四人の関係の歯車は微妙に狂い始めた。

マオと浩之は待ち合わせ場所で待ち続けたのだが、ガクと睦美は一向に現れない。弘之は睦美のことが心配で、明らかに不機嫌だった。マオは知っている。ガクにはそばにいる人を楽しくする才能が備わっている。しかも相手が女性だと効果は絶大だ。案の定、睦美は浩之とはぐれたにも関わらず、彼女は明らかに楽しんでいた。その日から都築夫婦は不協和音を立て出した。

大人の恋愛小説は苦手だ。だが、著者はミステリ作家だけあって、一筋縄ではいかない作品へと仕上げていた。まず、過剰なドロドロが一切ない。嫉妬に狂うような鬱々とした描写もない。とても静かだ。だからといって、傷ついていないわけではない。思考を停止させているわけでもない。でも、二人はこうなることをあらかじめ知っていた。それでもある結末を迎えてしまう。

何百回も繰り返された喧嘩と仲直り。それでも一緒にいるマオとガク。うまくやるためのマナーとか、方程式とか、そういうのを心得て、なおかつ、パリで孤立した異邦人でいることで二人は平衡を保ってきた。そんな危ういバランスの上に成り立っているカップルと出会ってしまったことが、都筑夫妻の不幸だったに違いない。とびきりの毒に鳥肌が立った。そして、ため息をもらしたままページを閉じた。これはすごい。

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「なみだ特捜班におまかせ!」鯨統一郎

なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)
(2009/03/10)
鯨 統一郎

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伝説のサイコセラピスト・波田煌子。シリーズ第二弾は、彼女が迷宮入りとなった猟奇事件を捜査する特捜班に、犯罪心理分析官として民間からスカウトされた。とはいっても、この特捜班のメンバーが役立たずばかり。主任が定年を控えたさえない久保さん。次はダイナマイトボディだけをウリにしている左遷された前泊ナナ。エリートだが独善的でうるさ型の高島警視。取り柄といえば堅実な事務処理能力だけという花山仁(ぼく)。波田煌子は、プロファイルはおろか心理学の知識さえ覚束なく見えるのに、なぜかその不思議な推理は事件の核心へ。

被害者はバーに勤めていたホステス。その三井紀子が、マンションの二階にある自分の部屋で、全裸で殺されていた。口と女性器に、薔薇の花を挿し込まれて。現場からは、モンシロチョウの鱗粉が検出された。彼女はポプリが好きで、いつもはあけてあるポプリの瓶のフタが、なぜかみんな閉まっていた。そして何種類もある宝石の中から、ダイヤだけが盗まれていた。(「涙の赤い薔薇」)

被害者は寿司屋を経営していた男。被害者は自宅の家庭用冷蔵庫の中から、バラバラ遺体となって発見された。しかも三段に分かれた冷蔵庫で、一番上の冷凍室に頭、中段のいちばん広い冷蔵室に胴体と手、いちばん下の野菜室に足が入れられていた。奇妙なことに、冷蔵庫は、ガムテープによってドアの部分を外側から目張りされていた。部屋には被害者の血痕がかなり大胆に付着していた。(「涙の冷蔵庫殺人」)

被害者は大学生の男。真夏の江ノ島の海岸、しかも真っ昼間、海水浴客で賑わう浜辺に、被害者の生首が置かれていた。生首はなにも、隠されていたわけではない。周りの人間は勝手に思い込んでいたのだ。砂の中に体を埋めて、首だけ出しているものと。生首はパラソルの下にあったのだが、正確に覚えている目撃者はいなかった。(「涙の海岸物語」)

被害者は八階建ての大型文具店に勤めていたエレベーターガール。彼女がエレベーターに乗務しているときに、事件は起こった。五階で数人の客が乗り込んできたとき、彼女はお辞儀をした。そしてそのまま、首が落ちた。首が切断されていたのだ。しかも数人の乗客が「いらっしゃいませ」と言ったのを聞いていた。(「涙のエレベーターガール」)

被害者はアイドル歌手。テーマパークの人気アトラクションに〈ホラーゾーン〉というのがあった。平たく言えばお化け屋敷。違うのは、お化けがスターたちのフィギュアであるという点だ。そこで死体となって発見されたのが被害者。犯人によって、フィギュアと死体が入れ替えられていたのだ。(「涙の少女人形」)

被害者は資産家の人妻。殺害現場は自宅の庭にある小屋の中だった。その小屋で被害者は絞殺された後、ロングヘアの一部を切り取られ、さらに両腕が方の部分から切断されていた。そして、切断された腕は遺体の脇、もともと腕があった位置に置かれていた。被害者は、死後、犯されていた。(「涙のクニタチーゼ」)

被害者は元プロ野球選手。被害者は人形にされていた。それも小さな人形に。異常なことに、その人形は被害者本人の皮膚を使って作られていた。眉毛は本人の眉毛が使われ、鼻には鼻の皮膚が使われていた。発見場所は自主トレ用に建てた別荘で、毎年、シーズンオフには夫婦二人でこもっていた。(「涙のサヨナラホームラン」)


基本はすべて同じパターン。未解決事件の再捜査が始まる。エリート意識のかたまりである高島警視は独自の推理を披露する。煌子はその問題点を的確に突いていく。怒り心頭の高島警視は、煌子に嫌がらせをするが、本人はまったく気づいていない。高島警視主導で捜査が行われるが、早々に事件は暗礁に乗り上げてしまう。そこに、煌子がすっとぼけたプロファイルをお告げすると、事件はあっけなく解決。そこには鯨風味のユーモアが込められていて、大笑いという感じではないが、定型化された面白さが約束されているのだ。安心して読める。それがこのシリーズの特徴でしょうか。前作の「なみだ研究所へようこそ!」と合わせて、おすすめしたい。

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「訪問者」恩田陸

訪問者訪問者
(2009/05/14)
恩田 陸

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山中にひっそりとたたずむ古い洋館――。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる? 一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が! 冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた……。果たして「訪問者」とは誰か? 千沙子と昌彦の死の謎とは? そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った――。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー!《出版社より》

苦手を公言している作家なのに、また買っちゃいました。でもこれは読みやすかったです。劇団本谷有希子ならぬ劇団恩田陸という感じでしょうか。気難しい長男の朝霞千蔵、好奇心を隠そうとしない次男の千次、磊落な三男の千衛、悪戯っぽい末っ子の千恵子、その夫で驕慢な協一郎という朝霞一族の老人たち。そして働き者の家政婦の更科裕子。大人びた少女の愛華。彼らが住む館にやって来たのは、雑誌記者を名乗る井上とカメラマンの長田。老人たちたちはやたらと「訪問者」を気にしている。それは「訪問者に気を付けろ」という警告文が届いていたからだ。

そこに来客を告げるベルが鳴った。現れたのは少女の母親の澄子。昌彦の幼なじみでもある彼女は、とにかく表情をよく変える。ふと窓の外を見ると亡き千沙子の幽霊が。慌てて外に出てみると、見知らぬ男の死体が転がっていた。またベルが鳴った。すると、誰かが玄関の外に置いていったのは、昌彦が大事に持っていたという木彫りの象。またまたベルが鳴った。今度は、嵐による崖崩れで立ち往生になったという劇団員の小野寺敦だった。

登場人物のみなが怪しい。状況は嵐によって閉鎖された山荘。つまり密室だ。提示される謎も多い。実業家朝霞千沙子と映画監督峠昌彦の死はどちらも事故死だと思われているが二つの死は殺人なのか。昌彦の実父は誰なのか。隠し財産はあるのか。訪問者とは誰のことなのか。ああでもない、こうでもないと、議論が重ねられ、そこにまた現れた人物が次の疑問を提示して。

ページ数は少ないけれど、体よくあっちこっちと揺さぶられた。変にSF方向に行くこともなかった。一応筋は通っていたと思いたい。だけど、この結末に納得しろと言われると、なんかむくむくと反論が浮かぶようで、でも普通なら文句ありでも、恩田作品ならありなんでしょう。たぶん。たくさん読んでいる作家ではないが、これはわりと普通でした。一応、自分なりに褒めてます。


恩田陸さんのサインは二冊目。

恩田2

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プロフィール

しんちゃん

Author:しんちゃん
オス。O型。やぎ座。
大阪人。

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