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    2007

08.31

「烏金」西條奈加

烏金烏金
(2007/07)
西條 奈加

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浅吉は金貸し業に興味を持ったと嘯き、因業な金貸し婆のお吟に取り入る。そして斬新な発想で次々と貧乏人たちを助けつつ、利益を上げていく。いつしか猜疑心の強いお吟も気をゆるし始めるが、浅吉とは偽名であり、お吟の溜め込んだ隠し金を狙っていたのであった。

「ゴメス」シリーズのSF設定が苦手だった自分には持って来いな純和風時代小説。こんなのを待っていました。と言っても「ゴメス」も面白かったです。だけど、あの持ち回った特殊な設定の説明がだるかった。それがすこーんと抜けたんだから面白くないわけがない。だけど大絶賛とまではいかなかった。

浅吉は算術家である師匠の丹羽九厘から学んだ知恵を使い、身売りを考えるお照を救ったり、商売敵に苦しむ八百徳に商売繁盛の策を授けたり、莫大な借金を抱えたのん気な御家人・長谷部義正の借金の返済方法を指南していく。現在の言葉でいう企業アドバイザーというやつ。確実な取立てのためと言いながら、親身になって客の相談に乗る浅吉だから、その後、彼らから信頼を得る上に、お照からは熱い視線をおくられる。

やがて浅吉は相棒である烏の勘左を通して、スリやかっ払いを働く子供たち勝平らに出会い、まっとうに生きるよう商売を教えていく。これら商いを始めていく彼らの姿がとても爽やかで、読んでいてワクワクしてくるものだ。彼ら子供たちの商売も軌道に乗るが、ある事件が起こってしまうことで、浅吉がお吟に取り入ったわけが判明する。そこは自分で読んで確かめてもらいたい。

本書は前半部分で様々な人物たちに種を蒔き、後半部分で実になり浅吉の元へ帰ってくるという趣向。後半はちょっと急ぎすぎかなあと思える部分が垣間見えた。浅吉の幼なじみのお妙絡みの騒動や、少年たちのまっとうな商売の成り行きを、もっと丁寧に描いて欲しかった。欲張りな読者なのでねえ。

それとなぜ浅吉がこれほどまで人のために役立とうとしたのかは、最後までわからなかった。江戸人情だといってしまえばそれまでだが、そこらの背景描写がきっちり描かれていると、もっと楽しめたと思う。そこがちょっと残念。しかし江戸人情は読んでいて気持ちが良いのもほんとのこと。浅吉だけでなく、出てくる人物たちがみんな良い人たちばかり。最後まで江戸人情あふれたお話が楽しめました。

ちょっと辛めに書いたが面白かったのは間違いない。ただ西條奈加さんはこんなもんじゃない。もっと面白い作家になると思うから、ついつい辛めの感想になってしまう。今後も要チェックな作家の1人なのである。

そうそう、タイトルの「烏金」ですが、朝にお金を借りて品物を仕入れ、その品物を売った利益から金と利息をその日の夕方に返すこと。これを「烏金」というそうです。


TBさせてもらいました。ナカムラのおばちゃんの読んだん ポチッとお願いします。その一つが励みになります。 にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
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西條奈加
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    2007

08.31

「参加型猫」野中柊

参加型猫 (角川文庫)参加型猫 (角川文庫)
(2006/09/22)
野中 柊

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沙加奈と勘吉の夫婦の日常には、猫のチビコが参加している。そんな彼らの、引越し屋さんの荷物はこびから、新居での引越し作業をとおした3日間の日常風景を描いた作品です。

冒頭での描写で騙された。引越し屋さんとしてやって来たのは、やる気のなさそうな今風の若者三人。その内の一人がチビコを見て、「可愛いですね、すごく器量良しの猫だと思う」の一言。その言葉でたよりなさそうだった彼らが、いい人たちかもになった。猫好きならこれだけで一発KOされてしまう。やったー、猫小説だー、と思ったが、その後は思ったようなお話ではなかった。

猫のチビコがほとんど出てこないのだ。じゃあどんなお話かというと、沙加奈と勘吉が新居で荷物を片付けながら、近くのイタリアンで舌鼓をうったり、マンション一階の焼肉店へ引越しの挨拶を兼ねた食事にいったり、町をサイクリングしたり。その合間に二人の出会いを回想したり、初エッチを思い出したりと、二人のこれまでが描かれている。それで結局は引越し作業が終わらないまま、終わってしまう。

要するに価値観の違う沙加奈を勘吉が追い続ける。つうか不安を持ちながらこれからも追い続けるだろうなというお話。夫婦なんだけど、恋人の延長のような二人の日常が、たんたんと勘吉の目線で綴られている。ジャンルでいえば恋愛小説の部類だろう。

勘吉の沙加奈への盲目ぶりは少し恥ずかしくもなる。しかしなんか良いのだ。言葉が上手く見つからないが、いやらしさがなくて心地が良い。この先にどうなるかわからない不安要素がありながらも、なんとかなる?ならない?なんて思いながら、二人は歩いている、いや、歩き続ける。なんだ、現実の世界と同じじゃないかと、彼らが身近な存在に感じられた。

猫が家族に参加するように、佐可奈が勘吉の人生に参加するというような構成で描かれている。普段は意識しない他人を見る目線が新鮮で、人間関係のあり方みたいなものが面白かった。現実でも自分を中心とした考えが当たり前であり、他人が自分の生活に参加しているという、こういう物の考え方もあるんだなあと気づいたのも新鮮だった。

忙しい生活をしている方には、ケってなる方もいるかもしれないが、自分は普通に楽しむことが出来た。タイトルや表紙を見て猫本を期待して騙されましたが、読んで良かったです。

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その他の作家
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    2007

08.31

8月の本代の合計金額

な、なんと、計6.269円。やれば出来るじゃないか。 ポチッとお願いします。その一つが励みになります。 にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

自分への戒め
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    2007

08.30

「Presents」角田光代

PresentsPresents
(2005/12)
角田 光代松尾 たいこ

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うわー、すごい出会いをしてしまった。お薦めをしてくれた方々に感謝です。女性が一生のうちに受け取る贈り物、すなわちタイトルそのままな12の短編集です。

ひとつひとつが心に浸みてくる作品たち。すべての言葉を大事に読んでいきたい。じっくり時間をかけて、心に刻みながら楽しみたい。あるいは登場人物たちに共感して、かつての自分と重ねてみる。そしてこれからを想像する。そんな作品ばかりなので、無粋な内容紹介はしたくない。というか先入観なしに読んで欲しい本です。出来れば感想なんて控えたい。それじゃあ、ここに取り上げる意味がないので、無粋な内容紹介から始めてみますが、極力、内容には触れないようにします。

赤ちゃんの名前を考えるうちに親の愛に気づく「名前」。たくさん失ったような気がするが、たくさん手にいれていたと気づく「ランドセル」。突然のキスで恋を知っていく「初キス」。初めての一人暮らしで母にもらったお鍋は、たくさんのもの与えてくれていた「鍋セット」。社会に出るということは、どういうものかと気づく「うに煎餅」。恋人との付き合いを通して世界の扉を開いた「合い鍵」。同じ景色を見てきた親友たちから忘れていたものと祝福をもらう「ヴェール」。一緒に生活をしながらも、別のかたちをした何かを手に入れていると気づく「記憶」。理想の思い描いていた家庭とは違うが、現在の家庭の姿に気づく「絵」。風邪をひいて寝込んだことにより、これまで知らなかった幸せを知る「料理」。娘の結婚式で三十年前の奇跡を思い出す「ぬいぐるみ」。死を目前にして、家族や友人たちからたくさんのものをもらっていたことに気づく「涙」。

ほんま無粋やなあ。無粋ついでに思ったことは、温かい系が好きだったということ。作品名をあげれば、「名前」「ランドセル」「初キス」「鍋セット」「ヴェール」「絵」「料理」、あれ? 半分以上やないか! 名前をあげなかった作品たちも面白かった。だけど琴線に触れたのはこの七作品。よくみてみると、自分が経験したか近い経験をした作品ばかりが並んでいる。親の有難さだったり、大人になって気づいたことだ。やはり経験値が高いほど心に響くのだろう。

もらうものって、品物だけではなく、かたちが無いものも含まれる。もちろん嬉しいものもあるし、困ってしまうものもある。贈ってくれる人の考えがあれば、受け取る側の心の動きがある。

最近で思い出したのが頂物。もらって嬉しくないものばかりを毎年贈ってくる、ある大人がいる。苦手なチーズの詰め合わせや、飲めないと知っているのにコーヒーの詰め合わせを贈ってくる困った人だ。もらって嬉しくないだけでなく、その人の人格まで疑ってしまう。悪気はないのだろうが、これだけはもう少し気遣ってもらいたいものだ。ああ、素敵な本の感想を悪口で汚してしまった。削除を考えたが、思ったことなので残しておこう。

人にものを贈るというのは難しい。本人に何が欲しいと尋ねるわけにもいかず、その人の喜ぶようなものを選ぶわけだが、選んだあとには身が竦むような感覚を覚える。その点、この作品はとっても素敵な時間と温かな余韻をプレゼントしてくれた。まだ未読の方は、このプレゼントをもらうチャンスがある。買うにしろ借りるにしろ、そっと手をのばせば本書を手にすることが出来る。さあ、どうしますか?

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角田光代
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    2007

08.29

「ZOO 2」乙一

ZOO〈2〉 (集英社文庫)ZOO〈2〉 (集英社文庫)
(2006/05)
乙一

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「血液を探せ!」
かつての交通事故で痛覚を無くしたワシ(六四歳)は、目覚めると血だらけで脇腹には包丁が突き刺さっていた。二度目の妻であるツマ子(二五歳)と長男のナガヲ(三四歳)は、これで遺産が手に入るとウキウキ。臆病な次男のツグヲ(二七歳)は役に立たず、同行していた主治医のオモジ先生(九五歳)が持ってきていた輸血用の血液は、行方不明になっていた。

おもろーい!なんなんだ、この面白さは。どんどん死にかけていくのに緊迫感がまったく無い。つうか滑稽なブラック・ユーモアが冴えているのだ。本心をむき出しにした妻と長男に、頼りにならないというより無責任なボケた主治医。それに次男の裏の顔。こんなの好きだー!

「冷たい森の白い家」
伯母の家に引き取られ馬小屋で暮らす男。彼は伯母の娘に文字と計算を教えて貰うが、やがて馬小屋を追われてしまい、生きていくためにある森の中で家を建てようとする。男は人を狩って、死体で壁を積み上げ始めた。

なんだ、このグロさは。だけど訳のわからない魅力がある。神秘的というか不思議な空気感が漂っている。やがて男は出会った少女と約束をし、彼女の望を叶えるために森を出る。その結果がまたシュール。乙一ならではの世界観が楽しめた。

「Closet」
義弟のリュウジの住む離れに呼び出されたミキ。一夜明けるとリュウジの姿が家の中から消えていた。離れのスペアキーを持つ父。リュウジを殺したと疑う義妹フユミ。圏外にいる母。何故か存在の影が薄い夫のイチロウ。この家で何が起こったのか、ミステリーです。

個々の思惑や疚しさが絡んで怪しさが増す。犯人だと思っていた人物があっさりと覆るラストは秀逸。おもいっきり、やられちゃって下さい。上手いっ!

「神の言葉」
周囲にこびへつらいながら生活をしてきた僕は、自分の声によって生き物の行動を操る能力を持っていた。言霊遣い。同級生のアサガオの成長に嫉妬し枯らす。凶暴な犬を手なずける。母の精神を壊す。父の指を飛ばす。やがて僕は弟の侮蔑のまなざしに恐れを抱くようになる。

これは何ていったら良いのだろうか。言霊の能力を省けば、コンプレックスから精神の崩壊を招くというたぐいのお話。タイトル通りに主人公が言葉をつかって思い通りにする。その結果罪悪感に陥り、自ら壊れていく。だけどそれだけではなく、もっと大きな何かがある。スケールあるラストの結末にゾクリときた。

「落ちる飛行機の中で」
T大に五回落ちた青年に飛行機がハイジャックされた。後部の三人掛けの窓際に座った女性に、隣の席に座っている男が墜落死は嫌ですねと声をかけてきた。女性は安楽死がしたいと答えると、男は安楽死が出来る薬を譲っても構わないと返してきた。薬を巡ってやり取りをしている二人が気づくと、空いた通路側の席にハイジャック犯が腰掛けていた。

すかした感じが面白い。やがて三人が己の現状の気持ちを語り合い、女性が安楽死の薬を譲り受けるかを決断する。乙一なので何かをやってくれるとは思っていたが、あの展開は想像を超えた。やっぱ上手いなあ。それにラストのセリフも素晴らしい。これは好きだ。


「むかし夕日の公園で」
両親が帰ってくるまで誰も居なくなった夕方の公園で過ごす少年。少年は砂場の中に腕を垂直に差し込み、砂の世界を探検していた。

文庫だけのおまけ作品です。短いページ数だが乙一らしさが本領発揮。すごいっ。ゾクッとくる展開だが、それに対して少年が返した答えが見事。大人だから楽しく読めたが、子供が読めばトラウマになる可能性あり。単行本版を読んで未読という方は、ぜひ立ち読みを。


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乙一
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    2007

08.28

「とりつくしま」東直子

とりつくしまとりつくしま
(2007/05/07)
東 直子

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この世に未練がある、死んだことに納得がいかない、どうしても会いたい人がいる、見ておきたいものがある。そんな方々のために、とりつくしま係は、日夜業務を果たしておるのです。思いついたモノを言ってごらんなさい。モノになって、もう一度、この世を体験することができるのです。あなたは何に「とりつき」ますか?

簡単な内容紹介。
「ロージンバック」ピッチャーの息子が使うロージンバックになって息子を見守る母。
「トリケラトプス」二年前に結婚した夫のお気に入りのマグカップになった妻。
「青いの」いつも遊んだ大好きなジャングルジムになった男の子。
「白檀」尊敬する書道の先生の扇子になった女性。
「名前」密かに観察をしていた図書館司書の名札になった老人。
「ささやき」年老いた母の補聴器になった娘。
「日記」妻が一日を綴る日記になった夫。
「マッサージ」リビングに置かれた最後の大きな買い物のマッサージ器になった父親。
「くちびる」憧れの先輩の彼女が使うリップクリームになった少女。
「レンズ」孫にねだられたカメラになったおばあちゃん。
「びわの樹の下の娘」は番外編。死んだら髪の毛を一本、裏庭のびわの樹の下に埋めて欲しいという一人娘。

良かったです。東さんのちょっと変わった不思議な世界が心地良かった。お気に入りは切ない系の「青いの」、温かい系の「白檀」「日記」、可愛い系の「名前」「くちびる」でした。ブラック系の「ささやき」はイラっときたが、ラストの場面では笑ってしまった。中でも一番のお気に入りは「マッサージ」です。妻の身体を揉み解す夫に愛を感じ、そっけない態度をしていた娘の一言に涙しました。笑いがあって温かくて切ない。そしてたっぷりの愛がある。めっちゃ琴線に触れました。

東さんの小説は2冊目だが、じんわりと心に浸みてくるのがとても気持ちが良い。一篇がすごく短いお話なんだけど、一つずつ大事に読んで行きたくなる魅力がある。まさに至福の時間ってやつです。さて、自分が死んだら何にとりつこうかな?今のところ思いつかないが、そう考えただけで楽しくなりました。お薦め!

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東直子
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    2007

08.27

「青年のための読書クラブ」桜庭一樹

青年のための読書クラブ青年のための読書クラブ
(2007/06)
桜庭 一樹

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二十世紀始めに修道女聖マリアナによって建てられた、伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。良家の子女が通う学園だが、旧校舎の裏の崩れかけたビルに異端者だけが集う「読書クラブ」が存在し、抹殺された学園の禁忌が、部員によって読書クラブ誌に残されていた。その読書クラブ誌を読むという形式で、物語が綴られています。

「烏丸紅子恋愛事件」
大阪の下町臭のする庶民、烏丸紅子は、乙女の楽園にとつぜん放りこまれた。周りから浮いた存在の紅子が行き着いた先は読書クラブ。そこには学園一の才媛だが、容姿の醜さゆえに、異端者が集う読書クラブで、妹尾アザミがくすぶっていた。アザミを筆頭とした読書クラブで、毎年聖マリアナ祭の折に投票で決められる王子に、知性はないが容姿に恵まれた烏丸紅子を送り込もうとする計画が始まった。

「聖女マリアナ消失事件」
聖マリアナ学園設立者である聖マリアナが、学園から忽然と姿を消した。彼女はパリ郊外の貧しい農村に生まれ、父親は厳しく禁欲的な人間であったが、母親は対照的に明るくのんきな女であった。マリアナは父に似て求道的な性格に生まれたが、六つ年上の兄、ミシェールは父と折り合いが合わず、十八歳になると父親から逃げるようにパリへ出た。そんな兄と久方ぶりにパリで再会したことから、二人の兄妹の人生の歯車が狂ってしまった。

「奇妙な旅人」
外の世界にバブルの風が襲った頃、聖マリアナ学園にも新たな風が吹き荒れた。とつぜん資産を増やした新興成金の娘三人が転入し、色つき扇子を片手に、権力を一手に握る生徒会に対してクーデターを起こしたのだ。しかし旧態の制度を望む生徒会OGの動きで、彼女たちはあっけなく破れ、三人は行き場を失い読書クラブへ亡命してきた。

「一番星」
読書クラブが一番大人数を誇った頃、部長の加藤凛子を慕っていた、赤面症の山口十五夜が突然変貌。クラブを飛び出したのちに、伝説のロックスター、ルビー・ザ・スターとなって学園中を席巻したのだ。人気が翳りだしたルビーこと十五夜は、これまで慕っていた凛子を中傷した歌詞を歌いだし、さらに爆発的な人気を得た。

「ハビトゥス&プラティーク」
来年には男子校と合併し、少女たちの花園であった学園にも最後の年がやってきた。その最後の読書クラブ員は、ビルが老朽化のため閉鎖され、流民の民となった肥満体型でぬいぐるみのような五月雨永遠ただ一人だった。その永遠が愛読書を真似て、スポーツ感覚で教官室に侵入し、生徒の没収された品物を取り返しては、スリルを楽しんでいた。それがいつの間にか、「ブーゲンビリアの君」と、少女たちの英雄として噂が一人歩きをしていた。


西の官邸と呼ばれ、選ばれし者が権力を一手に握る生徒会。東の宮殿と呼ばれるのが、花形の演劇部。北の新校舎の隅でたむろしているのが、インテリヤクザの新聞部。そして廃墟のビルに巣くう読書クラブは、南のへんなやつ等。とまあ、こんな感じの組織図の中で、聖マリアナ学園で起きた正史では語られない暗黒の歴史が語られる。誰かが主人公というのでは無く、聖マリアナ学園が主人公ともいえる作品。「赤朽葉家」が一番近い作品かも。

読み始めは正直にいって取っ付きにくかったです。ここに出てくる少女たちの話し方が、「ぼく」といった男言葉が普通に使われているからだ。それに読書クラブの部員たちを再三、異端者たちと説明されるが、彼女たちの方が普通であって、その他大勢の方がおかしな存在だから。まあ、この設定には慣れてしまえばいっさい問題は無くなり、存分に桜庭ワールドを堪能するだけ。

閉鎖された乙女の園。そこで起こるのは、女子だけが集まったために発生する、特有の華やかさと陰湿さの数々。これが面白く無いわけがない。特に男性には摩訶不思議な世界が新鮮で、そんなアホなと突っ込みながらも楽しめることだろう。

それに移り行く時代によって、少女たちの考え方や持つ小道具にも当然変化が現れる。そこらも中々リアルであって、読み見応えがある。桜庭一樹は少女を描くのが上手いのである。本書を読むことでまた再確信したのである。それにおもろい。

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桜庭一樹
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    2007

08.26

「ひとかげ」よしもとばなな

ひとかげひとかげ
(2006/09)
よしもと ばなな

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私の心の中での彼女の名前は「とかげ」だ。そう呼ぶのは、彼女の内ももに小さなとかげの入れ墨がしてあるからだけではない。それを見つけたとき、私は不思議とただ納得した。心に傷を抱えながら愛しあう二人が、出会ったこと、付き合い始めたこと、そして男がプロポーズをしたことで、これまで隠していたお互いのかげを理解し、お互いに受け入れていく。

官能的というか情感的な文章が心に浸みていく。心にかげを持った男性は清潔感のある児童専門クリニックのアシスタントで、クリニックに来る人たち、来なくなった人たち、そして知り合った子どもたちを見守っていきたいと思っている。一方のとかげと呼ばれる女性は、雑居ビルみたいな感じのマンションの暗い内装の一室で、資格をとった気孔や鍼を駆使して、病に苦しむ人たちを救おうとしている。

お互いにかげを持っているが二人は対照的な考えを持ち、それでいてお互いのかげを感じることで安らぎを覚えたりしている。読んでいてすごく切ないんだけど、ページを捲る手を止められない。そして心の揺れが出る場面で、表紙の色違いの女性が挿絵で出るたびに、ざわりとしたものを感じ、またページを捲ってしまう。ようするに読ませるのが上手いのだ。

結局は男性女性ともかげを持ったまま生きていくのだが、読んだ後にちょっと温かくなるような終わり方なので、安心して読めるだろう。そして過去に出版された「とかげ」へとなだれ込んでいく。そう、これはリメイク作品だそうです。新旧の作品の読み比べをした結果、やはり自分は「吉本ばなな」よりも「よしもとばなな」が好きだと確信。「TUGUMI」を読んで苦手だと思ったのも、「ばなな」さんの何かが変わったことで読める作家になったのだ。それがわかったのが一番の収穫かも。気づけば一気にばなな作品を3冊も読んでいるし。

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その他の作家
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    2007

08.25

「煙か土か食い物」舞城王太郎

煙か土か食い物 (講談社文庫)煙か土か食い物 (講談社文庫)
(2004/12)
舞城 王太郎

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サンディエゴで腕利きの救命外科医として、チャッチャッチャッチャッと、料理をするように人の身体を傷付けて元通りに戻す作業をしている奈津川四郎の元へ、母が頭を殴られ意識不明の重体だと連絡がきた。急ぎ福井は西暁の故郷へ戻った四郎は、母も含めて五人もの女の後頭部を殴ったあと生き埋めにするとう、連続主婦殴打生き埋め事件が起こっていることを知る。

不甲斐ない田舎の警察なんか当てにならないと思った四郎は、「お前の浮気、バラすぞ」と地元の友人・高谷ルパンを脅し、ルパンの不倫相手のウサギちゃんも巻き込み、さらに捜査するには国家権力が必要だと、警視庁官僚になった真陸貴宏(マリック)を東京から呼び、名古屋から検事になった白碑将美を西暁に誘う。

奈津川家は地元の名士で、父の丸雄と一番上の兄の一郎は政治家。二番目の兄の二郎は、家の敷地内にある密室状態の三角形の蔵から脱走し、そのまま姿を隠してしまった。三番目の兄の三郎は、気紛れに学習塾を始めたもののすぐに飽きて、現在はルンババ12シリーズというミステリーを書いている。

その三郎が連れてきたのが自称名探偵の番場潤二郎。あれ?っと思って「世界は密室」を調べてみると、そこに出ていた名探偵ルンババだと、今回再読をしていまさら気づいた。両方読んでいたのに何故気づかなかったのだ。わからん。

内容紹介はこれぐらいにしといて、舞城作品の特徴をあげておこう。まずは度肝を抜くのがページを埋め尽くす改行のない文章。しかも句読点が省かれ一文がながーいのである。まるでお経のようなのにポップな文体で疾走感がばつぐん。これは計算されているのか、暴力的なシーンでもあっさりと読めてしまうという不思議な効果を生む。一見、京極夏彦のようだが彼のように官能的ではなく、町田康ともまた違う。これが舞城だとしかいいようがない独特な文章であり、世界観である。これに肌が合えば、何ともいえないリズムが身体に心地よさを与えてくれるのだ。合わない人も居るだろうが、自分としてはOKなのだ。

物語はここまで大風呂敷を広げるのかという感じだが、ラストの一点に向っていく展開は圧巻。舞城よ、もうどうにでもしてくれ。とにかくすごいの一言。凄ーい! 読み終わって思うのは、ミステリというよりも家族愛が溢れた作品だということ。

メフィスト賞だから出てきた作家であり、これだけでもメフィスト賞もまたすごい。まあ、ダメな作家も生まれてしまったが、森博嗣、小路幸也、辻村深月、が誕生したのだから許そう。なんて偉そうに言っているんだ(汗) なんやかんや言っても、舞城王太郎にバンザイなのだ。

あれ? 作品の感想になっているのかな??

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舞城王太郎
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    2007

08.24

「銀の鍵」角田光代

銀の鍵銀の鍵
(2003/03)
角田 光代100%ORANGE

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わたしは、はたと我にかえったら、広場と向き合うようにして、コンクリートのくずれた塀に腰かけていた。それで、わたしはだれなんだっけ。年はいくつで、どんな仕事をしているんだっけ。よくよく考えてみると、わたしはそれまでのことをなんにも、覚えていなかった。目の前をとおりすぎていく彼らの言葉が何もわからないことで、わたしは異国人らしいとわかった。ポケットの中身を全部出してみる。煙草。赤いライター。書きかけのメモ。封の開いていないティッシュ。何か文字が印刷された細長い紙切れ。そっけない銀色の鍵。自分を知る手がかりはこれだけだった。

お腹がすいてにおいに誘われていった食堂では、タバコ1本で料理をたらふく食べさせてもらったり、持っていた切符らしき紙切れを若い女たちに見せると、腕をとって駅まで連れて行ってもらったり、電車内で向かいに座った親子に家に泊めてもらったりと、行く先々で返礼を期待しない親切な人々出会う。ただそれだけ。だけど何も思い出せなくても感情があるということだけは思い出す。そしてこれからの未来が待っていてくれると気づく。

この作品は、雰囲気を読んで、雰囲気を楽しむのが一番なのだろう。だからあえて感想は控えたいと思う。角田さんが苦手だという方にもお薦めできる作品でした。

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角田光代
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    2007

08.24

「はなうた日和」山本幸久

はなうた日和はなうた日和
(2005/07)
山本 幸久

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「閣下のおでまし」
母と喧嘩をした勢いで十歳の一番くんが向った先は、写真でしか見たことがない父のマンション。そこに居たのは、父の同姓相手の連れ子・ハジメくんだった。

「犬が笑う」
最愛の恋人・ソラヲを失った陸子は、これまでの仕事を辞めスナックで働き始めた。そんな陸子を訪ねてきたのは、かつての恋人・ソラヲの奥さんだった。

「ハッピー・バースデイ」
定年を十日後に控えた虹脇に、直属の部下であるOL・櫻井が相談にのって欲しいと言ってきた。かつて社長を殴った経験がある虹脇に、副社長を殴って欲しいということだった。

「普通の名字」
雑貨屋でバイトを始めたバツイチのミトコは、オーナーの柴谷さんから見合いを勧められた。しかしあと数日で見合い日というある日、見合い相手が当日はドタキャンをすると律儀にも仕事場まで訪問してきた。

「コーヒーブレイク」
窓から散歩中の犬が脱走する風景を見た織部は、大事な会議中にも関わらず、会議を抜け出して一緒に犬を追いかけることにした。

「五歳と十ケ月」
とうのたったアイドルのミドリは、カメラ小僧相手に撮影会を開いたあと、近くの百貨店内の書店で、小さな子供を連れすっかりパパの顔になった中学時代の同級生に出会った。

「意外な兄弟」
いまだに顧客と満足に会話ができない営業の沼野は、デブで下戸なダメ人間。そんな沼野は、特撮オタク仲間の四人でだれかしらの家に集まり、まんじゅうパーティーを開いて特撮についてだべっていた。

「うぐいす」
息子夫婦と同居をしているサトヨは、先立たれた夫・次郎さんの作業場を片付ける息子の姿に、次郎さんとの思い出の場所がどんどんなく消されていくような気がした。


「美晴さん」がいまいちだったが、山本さんに再チャレンジしました。これは悪くなかった。たいして大きなことは起こらないですが、普通の日常を過ごしている人たちが、ちょっと前向きな気持ちになる。ただそれだけなんだけど、ちょっぴり暖かな気持ちなれて、ほんわかした時間を過ごせた。

本書を読んでいて、女性の作家が描いたような不思議な錯覚に何度かとらわれました。登場人物のちょっとした会話部分や、料理をする場面で。これは自分だけでしょうか?

特にこれが良かったという飛びぬけた作品はなかったのですが、「閣下のおでまし」の少年たちや、「ハッピー・バースデイ」の女性のしたたかさ、「普通の名字」の新たな出会い、「意外な兄弟」の前向きなやる気、これらは普通に良かったです。

肩肘張らずに気軽に読める、そんな一冊でした。息抜きにはピッタリかも。

TBさせて貰いました。「bookworm」

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山本幸久
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    2007

08.23

「ジウ」誉田哲也

ジウ―警視庁特殊犯捜査係 (C・NOVELS)ジウ―警視庁特殊犯捜査係 (C・NOVELS)
(2005/12)
誉田 哲也

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第一特殊犯捜査二係の門倉美咲巡査と伊崎基子巡査。いつでも泣ける弱さを持ち、笑顔の絶えない優しさのある美咲。かたや筋肉バカで、自分しか信用しない武闘派の基子。対照的な二人が活躍する、サスペンス、バイオレンス、ハードボイルド、ラブ、エログロと、いろんな要素がつまった大長編です。

シリーズ物ではなく3冊で1作品です。だからネタバレなしでは内容紹介が書けない。なのでネタバレありで書きます。よって未読の方はご注意を。


人質を取った立てこもり事件が発生し、捜査一課特殊犯捜査第二係(SIT)も出動するが、事件が夜間に入ったため、美咲は差入れ役を命じられ犯人のもとへ向かう。しかし美咲もまた人質になるが、基子の咄嗟の判断で犯人を逮捕。だが逮捕直前に男の振り上げた包丁で、美咲は傷を負ってしまった。その後逮捕した岡村和紀は、「利憲くん事件」の共犯者だと判明。その事件とは、誘拐された幼児は取りもどしたものの、身の代金を奪った犯人グループに逃走されてしまったという警視庁の汚点だった。岡村の供述から浮かんできた首謀者、謎の中国人美少年ジウの存在が明らかになる。

上層部の怒りに触れた美咲は異動を命じられるが、直属の上司である麻井係長の配慮で、「利憲くん事件」の被疑者・岡村が送られた碑文谷署へ移動することに。そこでコンビを組んだのが、捜査一課殺人班三係主任警部補の東弘樹。彼女は東に惹かれ、ときめいた毎日を送りながらもジウを追う。一方、手柄を立てた基子は女性初の特殊強襲部隊(SAT)への配属を命じられ、SAT内で同僚である雨宮崇史と出会う。そんな中、新たな誘拐事件が起こり二人の女刑事は交錯する。


ジウ〈2〉警視庁特殊急襲部隊 (C・NOVELS)ジウ〈2〉警視庁特殊急襲部隊 (C・NOVELS)
(2006/03)
誉田 哲也

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ジウの新たな誘拐事件「沙耶華ちゃん事件」は、即日人質を無事救出するという結末を見るに至った。「利憲くん事件」を捜査中の美咲と東のコンビが、それと知らずにジウの隠れ家を張っていたからだ。SATの突入が始まり、基子の活躍によって被疑者五人を確保。基子の同僚・雨宮が殉職という痛手を伴うが、そこにはジウの姿はなかった。

負傷しながらも実行犯・竹内の取調べを続ける美咲と東は、竹内の供述から「新世界秩序」というキーワードを引き出す。そんな中、表に出ていなかった誘拐事件の存在が浮かび上がり、さらにジウと竹内を引き合わせたという西尾が、信金立てこもり事件を起こす。

一方、雨宮の殉職をマスコミからそらすために、上層部により基子の情報がマスコミに売られた。その交換条件として基子は特進をはたし所轄へ移動する。そんな基子へフリーライターの木原が接近し、基子はジウの存在を初めて知り興味を持つ。そして独自に捜査をした結果、ついにジウと接触をする。


ジウ〈3〉新世界秩序 (C・NOVELS)ジウ〈3〉新世界秩序 (C・NOVELS)
(2006/08)
誉田 哲也

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西尾の信金立てこもり事件は、信金の爆破で突如終焉を向かえた。そして爆破により壊滅したSATの建て直しに、基子は第一小隊の制圧一班の班長に任命された。しかし基子はジウと接触したことで、温度のない笑みを浮かべるようになっていた。そのことに気づいた美咲の元へ、基子からを装った宅配物が届く。中には基子がジウと接触していた空白の三日間を証拠付ける品物が入っていた。その頃、基子はジウのパトロンであるミヤジと会っていた。

選挙演説の応援に駆けつけた内閣官房長官が射殺され、総理大臣が拉致された。それとほぼ同時刻、歌舞伎町周辺道路がトラックで封鎖され、外の世界と完全に隔離した無法地帯が突然成立した。「新世界秩序」を名乗る彼らが突きつけてきた要求は、歌舞伎町の治外法権を認めること。基子はジウやミヤジと共に渦中の真っ只中にいた。



美咲の女の子っぽい描写は素直に受け入れられたのだが、基子の持つキツさというか考え方には、馴染めなくてひいてしまった。しかし雨宮と出会ったことで、基子の過去がわかってからは違和感もきれいに取れた。だけどジウと接触してからはまたキツクなる。なんて疲れる設定なんだろう。美咲の思考は単純で安心して読めるのに。あと美咲の東への乙女的な愛は好きだった。ベタ甘最高!

第二巻でミヤジの語りがストーリーの合間に挿入されるが、初めのうちは煩わしかった。だけど「新世界秩序」やジウの思考を辿るには、ミヤジの語りは外せない。この語りが無ければもっと理解に苦しんだろう。そこらを考えると誉田さんの勝利だろう。

ストーリーの谷間に、ちらっと出てくる今泉や日下を見つけるたびに、にやりとしてしまったのは自分だけではないだろう。他作品とリンクするなんて憎い演出をするなあ。出来れば姫川も登場して欲しかったけど、そこまですると露骨すぎるかな。

それにしても長ーーい! 三冊でもゲップが出そうなのに、ノベルス特有の上下二段組なのだ。だけど気持ちが良いドライブ感はさすが誉田さん。視線をコロコロと変えて飽きさせないし、ジウの存在は中々明らかにされないが、ジウが持つに至った概念を理解させるための情報の小出しは、読者をぐいっと引き付けていく。ジウや共犯になった竹内の持つ思想を描写するには、結局は三冊になったのも妥当なところだろう。それと基子の変貌も。

しかしたくさんの人が死んだなあ。いったい何人が死んだのだろう。一巻最後で雨宮が死んだのは驚いたが、第三巻の独立国家誕生は、そこまでするのかいって、読んでいて突っ込んでしまったではないか。それに悪のメインがいつの間にかジウではなく、ミヤジに代わってるし。だけどジウが残したあの四文字があるから、タイトルはやっぱり「ジウ」なんだろう。

最後の場面の美咲と利憲くんの会話には、ぐっとくるものがあった。この場面を読むことによって、事件の背景なんかもリアルにわかるし、美咲の優しさと利憲くんの健気さが読後の余韻を引き出していた。警察ものかと思って読み始めたが、結局はジャンル不明の大長編でした。

長いけど面白かったです。分厚い3冊を3日で読破。まさに一気読みとはこのことだろう。なのに疲労感はまったくナシ。なんて自分はタフなんだ。というか、それだけ魅力のある本なのでしょう。これはシリーズ化はありえないだろうが、姫川シリーズで逆リンクはあるかも。今後はそちらを期待して待ってみよう。

本が長い分だけ感想も長くなってしまったよん。
ここまで読んでくれた方、ご苦労様でした。(ペコリ)


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誉田哲也
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    2007

08.22

「はじまりの空」楡井亜木子

はじまりの空 (ピュアフル文庫 に 1-1)はじまりの空 (ピュアフル文庫 に 1-1)
(2007/03)
楡井 亜木子

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お姉ちゃんは就職だってしたばかりなのに、妊娠したから結婚するっていう。そんなに簡単にできちゃって、いいわけ? すぐ産むって決めて、いいの? 結婚が決まったので、お互いの家族を紹介しあうという名目で、食事会をすることになった。そこで初めて会ったお姉ちゃんの結婚相手の兄で、34歳には見えない童顔の小林蓮に会うたびにどんどん惹かれていく、17歳の岡崎真菜だった。

本書では34歳で中年扱いをしているが、ここは自分の年齢が近いので、ぐぐっと反発心を出して、真菜が呼ぶ「お兄さん」で書いていきたいと思う。ちっこいプライドですが。

真菜には同級生の彼がいるのだが、お兄さんに会うたびに背伸びをしてみたり、お兄さんの勤める画廊のオーナーである伽歩子さんに嫉妬をしたりと、自分が気づかぬうちにお兄さんの存在が心の中を占めていく。そんな彼女の心の動きがとても可愛く、ときには妄想をまじえて微笑ましく描かれている。こういうのを読むとキュンときて、ぎゅっと抱きしめたくなってしまう。男でもキュンときたんだから、女性が読めばもっとキュンキュンくるかもね。

本書では真菜の視点で描かれているので、お兄さんの内心は読者の想像に委ねられている。だから個人的な想像だが、お兄さんの真菜に対する仕草が必死に我慢をしているように思えて、ずっとにやけっぱなし。この安易に手を出さないじれったさが、本書の魅力の一つでもあるのだろう。

17歳の少女と34歳の男性の恋なんて見ると、ケって感じになりがちだが、本書はタイトルのとおり、二人の関係が「はじまる」のかどうかという期待感がずっと持続し、最後の最後まで、にやりとドキドキが楽しめた。

どろどろの恋愛小説は苦手だが、本書のような、淡くて、切なくて、爽やかで、キュンって心に響くのは大好きです。こういうのを読むと、恋がしたいなあ、とすぐになってしまう。初読みの作家さんですがすごく気に入りました。だから、もちろん他作品も読んでみたくなる。単純やなあ。 

楡井亜木子さん(にれい)、要チェックです。

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楡井亜木子
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    2007

08.21

「ZOO 1」乙一

ZOO〈1〉 (集英社文庫)ZOO〈1〉 (集英社文庫)
(2006/05)
乙一

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「カザリとヨーコ」
一卵性の双子の姉妹なのに、なぜか姉のヨーコだけが母から理不尽な虐待を受けている。食事はカザリの残り物、家での居場所は台所にあるゴミ箱横の座布団一枚の上だけ。そんなヨーコは迷い犬を見つけ、飼い主であるスズキさんと出会い、しだいに仲良くなり安心な時間を持つことになる。

母親の虐待やクラスのいじめには、すごく不条理で居心地が悪くて、お尻がもぞもぞとする。しかしラストの結末には、思わずニヤリと笑えてしまう黒さが待っている。好き嫌いが別れるだろうが、こんなのは大好きです。


「SEVEN ROOMS 」
謎の犯人に拉致監禁された姉と弟。その閉じ込められた部屋の床中央には、隣の部屋と繋がった排水のための溝があり、身体の小柄な弟が調べてみると、全部で7部屋が並んであり、それらの部屋には女性が1人ずつ監禁されていた。1日に1人ずつ順番に殺されていく女性たち。そして姉弟にも、1日、1日と、タイムリミットが迫る。

無茶苦茶グロイです。ああダメだ、なんてエグイんだ、なんて思っていたら、最後には違う意味で泣きそうになった。なんて素敵な姉弟愛なのだろう。これ以上触れると、ネタバレしてしまうのでここまで。


「SO-far そ・ふぁー」
幼稚園児の少年は両親と3人で仲良く暮していたが、ある日をきっかけに、不思議な毎日を過ごすことになる。父には母が見えていない。母には父が見えていない。少年を挟んだ向こう側にはだれもいないと、父と母の両方が思っているのだ。そして父と母のどちらかが死んだのだと、少年は理解した。

こういう不思議な世界系は苦手。だけどこの作品は読める。そして、なんて切ないお話なんだろう。白黒で別けられる乙一作品ですが、数少ない灰色の乙一作品だ。


「陽だまりの詩」
私が目を開くと、そこには白衣を着た男がこちらへ視線を送っていた。私が彼に作られたのは、男と共に住む家の家事をすることと、病原菌に感染した彼の死後に埋葬をすること。二人で生活をするうちに、私はさまざまな感情をしだいに覚えていく。

これも切ない。自分の死後の処理をするためだけに作られたロボット。そのロボットには教えられていない感情がたくさんあり、日々の生活の中で、徐々に感情とはこれのことかと理解をしていく。そして死とは何かを学んだとき、切なーーいのである。


「ZOO」
今朝もまた、写真が郵便受けに入っていた。写真には人間の死体が写っている。それは自分の恋人だった女の腐敗が進行していく写真。それを男は毎日パソコン内に保存し、彼女を殺した犯人を捜しに出かける。自分が彼女を殺したのに。

これはなんて言ったらいいのだろう。理解の範疇を超えた作品であることは間違いない。ただ、受け入れられるか拒否反応が出るかは読者次第。自分は後者だっただけのこと。


文庫版だけのおまけ。漫画家・古屋兎丸氏との対談も収録。

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乙一
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    2007

08.20

「DIVE!!」森絵都

DIVE!!〈上〉 (角川文庫) (角川文庫)DIVE!!〈上〉 (角川文庫) (角川文庫)
(2006/05/25)
森 絵都

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ミズキダイビングクラブ(MDC)は赤字経営が続き、存続の危機をささやかれている。クラブを所有するオーナー会社が出したクラブ存続の条件は、オリンピックへ選手を出すこと。新しくクラブにやってきたコーチの夏陽子による指導のもと、少年たちは成長していく。

親本が4冊なので、内容紹介はネタバレを含んでいます。未読の方はご注意を。


「一部 前宙返り三回半抱え型」
自分は平凡だと思っていた知季が、夏陽子の指導で眠っていた才能が目覚めて飛躍していく。それによって仲間のやっかみに苦しんだり、飛び込み中心の生活が知季に災いとして降りかかる。そして津軽から夏陽子が連れてきたライバルが登場。少年たちは、アジア合同強化合宿の参加権を賭けた試合を目指す。

「二部 スワンダイブ」
津軽から出てきた飛沫の生い立ちや、海で育った故のプールという狭い世界への反発を抱えて、強化合宿への選考会に挑む。そして飛沫に飛び込みを教えた祖父で、伝説のダイバーだった沖津白波の軌跡を追う。

「三部 SSスペシャル‘99」
大人の勝手な思惑から、突然オリンピックの代表内定が決まる。選考会なしで選ばれたMDCのエース・要一だが、実感がわかずに釈然としない思いにとらわれ、スランプに陥る。そしてついには、内定を取り消してもらいに日水連の会長へ直訴をしに行く。

「四部 コンクリート・ドラゴン」
要一が内定を辞退したために空いた最後のオリンピック出場枠。その出場枠を目指して最終選考会に挑む少年たち。知季、飛沫、要一、彼らの運命や如何に。


すっごい面白かったです。読め、読め、とお薦めされまくったのも納得です。出てくる少年たちがそれぞれに個性的で、未完の大器の知季、野生児の飛沫、自信家でエリートの要一、とお気に入り君も選り取り出来ます。自分は頑張りやで健気な知季がお気に入りでした。序盤でのぐずぐずから、上を目指す意識の変わりようが、とても好感がもてました。

一部、二部、三部、と主役になる少年がそれぞれ代わります。だから代わった直後は少し違和感を感じますが、それも自然と馴染んでいきます。だから四部での最後の大会では、誰を応援していくのか悩みました。知季、飛沫、要一、それにレイジも頑張れと忙しいったらありゃしない。ピンキー山田、改めキャメル山田が、地味に活躍してるし。結局はお気に入り君を応援したんだけどね。

この作品に関してはとやかく言いません。他の方に言われ続けたことを、そのまま一緒に叫ぶだけ、読め!と。まだの方は、今すぐに読みましょう。

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森絵都
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    2007

08.20

「ワーホリ任侠伝」ヴァシイ章絵

ワーホリ任侠伝ワーホリ任侠伝
(2006/10/20)
ヴァシィ 章絵

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一流商社でイカ輸入担当をするイマドキOLのヒナノは、ワーキングホリデーで日本にサヨナラすることを目標に、六本木でキャバクラ嬢を始めた。そこでリュウイチと知り合い、二人は恋に落ちて大人の関係になるが、リュウイチはヤクザの跡取りで、跡目争いに巻き込まれた結果、ヒナコの目の前で射殺されてしまう。

そのことで自暴自棄になったヒナコはデリヘル嬢になり、デリヘル仲間といったホストクラブで、オカマのニッキーと仲良くなる。しかしそんなある日、デリヘル嬢ヒナコの前に客として現れたのは、昼の仕事でセクハラを続けていたサカイだった。あられもない姿を写真に撮られたヒナコは、かつてリュウイチのボディーガードをしていたキシモトに連絡し、サカイを半殺しにしたキシモトは組を破門。サカイはリュウイチを殺して跡目についた、前組長の孫・ディクテーターとつるんで悪さをしていたのだった。

そしてかつて一緒に行く約束をしていたニッキーとキシモトと共に、ニュージーランドへワーキングホリデー兼、逃避行をすることにする。

ここまで長々と内容紹介を書いたが、ようするにジェットコースター小説です。風が吹いたら桶屋が儲かる式で、最後はタイトル通りに任侠に走る。しょっちゅう横道にそれながらも怒涛の流転人生に疾走感があり、読者は最初から息をつく間もないまま、最後までぐいぐいと引っ張られてゆく。そして気づけばエンディングを迎えているというわけ。

なんてエネルギーに溢れた作品だろう。少々の豪腕ぶりなんて目をつぶってしまえ、と思わせるパワーがなんといってもすごいのだ。第1回小説現代長編新人賞受賞の冠は伊達では無く、極上なエンターテインメント作品が新たに誕生。そんな一冊だろう。

今後もこの作家は要チェックなのだ。 うーん、褒めすぎたかな。。。

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その他の作家
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    2007

08.20

「香港の甘い豆腐」大島真寿美

香港の甘い豆腐香港の甘い豆腐
(2004/10)
大島 真寿美

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人づき合いがへたなのも、自分に自信がないのも、頭が悪いのも、溌剌としていないのも、夢がないのも、希望がないのも、全部そのせい。「どうせ父親も知らない私ですから」と彩美は母親にぶつけた。すると母親からは、パスポートとエアチケットを握らされたれ、「あんた、父親に会いたいんでしょ」と、会いたいのかわからないまま、強引に母に香港までつれてこられた。これまで知らなかったが、どうやら父親は香港にいるらしい。

高校生の彩美が主人公なんだけど、無気力でぐうたらな生活をしていたのが、香港の熱気で活力を得るというお話です。これまで仕事ばかりで友達もいないと思っていた母に、友達がいたことを知ったり、自分の出生の秘密が明らかになったりと、彩美の17歳の夏はとにかく忙しい。とりあえず父親には会ってみるが実感はわかない。それよりも、香港にいるんだから、もっと香港を楽しみたいと、母と大喧嘩の末、母の友達のマリイさんの部屋へ1人で居候をする。

大島さんといえば、主人公の心理がぐらぐらと揺れていて、読者がそれに共感するという作品がほとんどです。だけど、本書は主人公の心の動きよりも、香港の良さに惹かれてしまう。読み終わった感想が、香港に行きたーい!だもの。まあ、彩美の成長だとか、国際電話で話すおばあちゃんとの会話とかも、それなりに面白い。だけど、やっぱ香港の街しか印象に残らなかった。

別に観光地をぐるぐる周るんじゃないのだけど、出てくる香港の人たちにすんごくパワーがあって、ああ、こんなのいいなあと思えてしまう。それに屋台で食べる麺類が無茶苦茶美味そう。詳しく描写されてないけど、香港の熱気つうか、勢いがこちらにガンガンと届いてくる。とにかく香港に行きたくなる1冊でした。

こんな感想でいいのか?(汗)

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大島真寿美
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    2007

08.19

「デッドエンドの思い出」よしもとばなな

デッドエンドの思い出デッドエンドの思い出
(2003/07/26)
よしもと ばなな

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苦手意識のある作家さんだけど、これも読めてしまった。何故だろうと考えたら、どうやら「よしもとばなな」のひらがな名義にありそう。以前の「吉本ばなな」とは何かが違う。死が身近にあるのは同じだが、文章にひっかかりがあったのが、自然と心に響くようになったのだ。まだ3冊しか読んでいないが、「よしもとばなな」なら今後も読めそうです。つうか面白い。

「幽霊の家」
私と岩倉くんは一緒に鍋を食べることになった。恋とかそんなのではなく、バイトでお世話になったお礼をしようという気持ちの表れからだ。彼の住むアパートは、取り壊されることが決まったボロアパートで、元大家さんが住んでいた部屋で彼は生活をしていた。彼が言うには、ここには幽霊が出る。もう死んでるんだけど、気づいていない大家さん夫婦が幸せそうに暮している、と彼はのん気に語る。

すごく良いお話です。幽霊がメインではなく、幸せそうな幽霊を見た男女の、出会い、別れ、再会、を描いた作品です。自分にとって大事なものを親から継いでいく二人がすごく良い。反発しながらもいずれは親の偉大さに気づく。親の背中を見て子は育つ、という当たり前のことです。それと二人の関係が交じり合って、居心地の良い雰囲気を感じられました。

「おかあさーん!」
私はすごくおなかが減っていた。社員食堂でカレーにしようと決めた瞬間、和歌山のカレー事件が頭をよぎった。その直感どおり、カレーには毒が入っていた。

入退院をした女性は、身体も心もだるさを抱えたまま、職場に復帰をする。そして、いろんな人の優しさを感じながらも、かつて暴力を受けただろう記憶になかった母を思い出す。彼女はこの事件をきっかけに、かたくなに1年後と決めていた結婚を早める。死にかけたことによって、彼女の何かが少し変わったのだ。きっかけがどうあれ、生きることの素晴らしさみたいなものが感じられて、幸せな気持ちになれました。

「あったかくなんかない」
小説家になった女性が、未だに心の中で生きている、小さいときのたったひとりの友達を思い出す。まことくんは老舗の和菓子屋の末っ子で、家にはいつも大勢の人がいた。しかしまことくんは、私の家にいると安心するという。書店を経営し、店舗の2階で親子3人が住んでいるちっぽけな家なのに。やがてまことくんとは突然会えなくなってしまう。

大きなおうちで大家族の少年は、家族の愛情を受けていたが、どこか寂しさを感じていたのでしょう。だけど、少女はそれを気づかずに、逆にいつも誰かがいるのを羨んでいる。そして突然まことくんが亡くなったことにより、まことくんが言っていたことに気づき、物事の本質を悟る。すごく切ないお話ですが、「どうして明かりが暖かいのか」という、少女と少年のやり取りは、暗い雰囲気を和らげ、読者にも暖かみをあたえてくれます。

「ともちゃんの幸せ」
ともちゃんは少女期に年上の幼馴染にレイプされ、お父さんを家に出入りをしていた秘書に取られたからか、得体のしれない悟りを持ってしまった。そのともちゃんが、三沢さんという四十歳くらいで、背がすらりと高くて、もうかなりはげていて、指にはたくさん毛が生えた男性を意識しだした。

きつい過去を持つともちゃんは不思議系に育った。そのともちゃんのちょっとした時間を一緒に過ごす。これは雰囲気を読む作品でしょう。だから感想はパスします。

「デッドエンドの思い出」
西山君は子供のとき、お父さんに2年間も軟禁され、親戚の通報で大げさに救助された。そして今では三十歳になり、お酒を飲ませるよくある小さなお店、「袋小路」の雇われ店長をやっていた。そのお店のオーナーは私のおじさんで、私はお店の二階の小さなスペースで居候をしている。実は、私には遠距離恋愛をする婚約者がいたのだが、物の見事に捨てられ、両親や妹との家族の結束のかたさがわずらわしく、はじめて実家を出たのだった。

彼のさり気ないやさしさや独特な感性に、女性は癒されていく。安っぽく男女の仲にならないのも素晴らしい。お互いにとって楽しい時間を過ごし、寂しがりながらもあっさりと自分の場所へ帰っていく。そこが清々しくて男前やなあと惚れ惚れとしました。今後もきっと、この絶妙な距離のまま、二人は良い関係を維持し続けるのだろう。たぶん。

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その他の作家
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    2007

08.18

「この本が、世界に存在することに」角田光代

この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチ・ブックス)この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチ・ブックス)
(2005/05)
角田 光代

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読み終えたら疲れる作家。自分にとって角田さんの作品はそういう位置づけ。それがこの作品では違いました。どこか温かくて切ない。少し元気をくれる。そんな本に纏わる、本への愛が詰まった短編集です。

「旅する本」
店主は言う。「あんたこれ売っちゃうの?」かつて自分が手放してしまった同じ本に、女性はネパールの古本店で再会する。本の最後のページには自分で書いたイニシャル。そしてまたアイルランドで再会。読むたびに書かれた物語の意味がかわっている。かわっているのは本ではなくて、私自身だと女性は気づく。

「だれか」
タイのちいさな島でマラリアにかかってしまった女性は、宿泊している宿に残された旅行者たちが置いていった本を読むが、物語を読むのではなく、この本を通過していった無数のだれかの物語を読む。

「手紙」
伊豆の旅館の部屋で偶然見つけた詩集。その本の中には、宛名のない女性が書いた手紙が挟まれていた。手紙を書いた女性に、手紙を読んだ女性は、自分のそれを重ねてしまう。

「彼と私の本棚」
同棲していた恋人と別れることになり、天井まである本棚から、私が持ち込んだ本と、彼が持ち込んだ本を分別する女性。そして出会ったきっかけ、付き合うようになった経緯を思い出す。それはよく似た本棚を、お互いに持っていたことが始まりだった。

「不幸の種」
私は十八歳で、大学進学のために実家を出てはじめて東京でひとり暮しをはじめた。やがて恋人ができ、今まで使ってきたものをそのまま運び入れた部屋に彼を招いた。そこで彼は私の知らない本を本棚から見つけて、夢中に読みふけっていた。その後、彼女には不幸が次々に襲い掛かる。友達に彼を取られ怪我まで負う。原因はあの持ち主のわからない本、不幸を呼ぶ本だと思い、彼を取った友達に、元恋人に本を渡してもらうことにする。

「引出しの奥」
裏表紙を開いたところに、いっぱい書き込みがある、伝説の古本。わたしの通う大学周辺の古本屋を、その本はぐるぐる回っているらしい。わたしは名前を知らないクラスメイトと共に、その本を探すことにした。

「ミツザワ書店」
文芸雑誌の新人賞に受賞したぼく。本が出たら一番最初にだれに伝えたいですかと質問され、思い出したのはミツザワ書店のおばあさんだった。ぼくの生まれ育った家の近所にあり、その町の人たちは当然お世話になる、さほど広くはないごくふつうの本屋だった。正月に実家に帰ったぼくは、十年ぶりにミツザワ書店に向った。

「さがしもの」
入院中のもう長くないおばあちゃんに、誰にも内緒で本をさがしてほしいと、私はメモを渡された。しかし、どこの本屋に行ってもその本は見つからない。おばあちゃんは言う。「もしあんたが見つけだすより先にあたしが死んだら、化けて出てやるからね」そしてついに見つけることがないまま、おばあちゃんは亡くなった。おばあちゃんは言葉通りに…。

「初バレンタイン」
二十三年間の人生ではじめて恋人が出来た女性。今年のバレンタインは突き返されることなくチョコレートを贈ることが出来る。チョコレートだけじゃ芸がない、それにはあの本を贈るしかない。しかしあれこれ考えた結果、チョコレートは用意できなかった。そして自分が一番好きな本をプレゼントすることにする。

「あとがきエッセイ 交際履歴」
角田さんの本とのこれまでのおつきあいが紹介されています。これは自分で読んで確かめてみて下さい。

全部書き出したら限がないので、内容紹介はこの辺で止めておきます。他の作品はタイトルだけで勘弁してね。と書こうと思ったが、あまりにも秀作揃いだったので、結局は全部の内容紹介をしてしまう。すっごく良かったです。本好きなら嫌いな人はいないでしょう。

全部が、本、本、本、です。本を通して男女が出会う「彼と私の本棚」「引出しの奥」「初バレンタイン」これら作品たち。本によって運命が変わる「ミツザワ書店」「さがしもの」「初バレンタイン」の作品たち。知らない誰かの人生が見えたり、読む年代によって感想が違ったり、など、本が何かのきっかけになる。何度でも言います。すごく良かったです。この作品たちと出会えてすごく幸せです。あとがきで角田さんが語っている、「本は人を呼ぶのだ」の言葉。自分もこの本に呼ばれたのでしょう。そして、これからも本に呼ばれ続ける毎日を送っていくのだろう。


余談。
本を誰かにプレゼントするのって難しいですよね。喜んでくれなかったらどうしよう、読まずに捨てられたら嫌だなあ、など、すごく不安になります。ある時期から自分はプレゼントをする本を決めました。新潮文庫から出ている銀色夏生さんの「ミタカくんと私」「ひょうたんから空」の2冊をセットにして贈っています。とても可愛らしい内容で、ページに描かれた絵もキュート。

この角田さんの本が文庫化されたら、新たにプレゼント本の仲間に入りそうです。
本好きの方へのプレゼントにピッタリかも、です。

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角田光代
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    2007

08.17

「疫病神」黒川博行

疫病神 (新潮文庫)疫病神 (新潮文庫)
(2000/01)
黒川 博行

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建設コンサルタントの二宮は、建設業者に起こるいやがらせや工事の妨害に備え、毒は毒をもって制すに習って、ヤクザをつかってヤクザを抑えるサバキの仲介を二蝶会の桑原に依頼している。そんな二宮の元へ、富田林の小畠という産廃業者が建設廃材の最終処分場を作る計画があるが、処分場を申請する段階になって、水利組合から保証金の上乗せを要求され困っている。同意書に組合長の印鑑をもらってきて欲しいと持ちかけられた。

橋本という水利組合長を調べはじめると、本蔵環境開発の水谷という男と会っていた。水谷は白曜会というヤクザの幹部で、本蔵環境開発はヤクザの看板を隠したフロント企業だった。その橋本と水谷を、薫政会の陵南組というヤクザ二人組もまた尾行をしていた。二宮は、それらを二蝶会の桑原に話さざるをえなくなり、聞いた桑原は儲けのうまみを敏感に感じ、二人はコンビを組んで、幾重にも利権がからんだ抗争の只中の大阪を駆け巡ることになる。

軽妙な関西弁がぽんぽんと踊る笑いの溢れたハードボイルドです。この二人組がすごく好きで、今回が3回目の再々読になりました。何度読んでも楽しめる。いわゆる自分にとってのお宝本です。タイトルの意味は、二宮と桑原がお互いにそう思っているということ。

本書の舞台は大阪です。大阪生まれ大阪育ちの自分にとって、庭のような作品です。知っているところばかりを二人は駆け回る。桑原が女にカラオケ屋をやらせているのが守口の大日。めっちゃ近所やないかいとそれだけで興奮をしてしまう。それに道路の渋滞状況なんかもすごくリアルで、そうそう、あそこはいつも混んでると共感しまくり。

二宮の自分の仕事に対する義理堅さと借金返済計画、桑原の極道的な独自の考えと行動力。これらが絶妙にマッチして読者を楽しませてくれる。時には尾行をしたり、暴力や脅迫もあり、捕まって監禁されたり、とハラハラしっぱなしでスリルも満載。

出てくる悪党たちが、とことん汚い奴らで、そんな中を、ボケたしゃべりを交わしながらも二人はたくみに泳いでいく。これらは黒川作品の特徴でもあります。黒マメコンビが活躍する刑事モノや他のシリーズもすべて主人公たちはコンビを組んでいます。それが本書では、カタギとヤクザのコンビです。面白くないわけがありません。悶絶とまではいきませんが、ニヤリ笑いがおさまらない。

熱いハードボイルドも良いですが、笑えるハードボイルドもある、というのを教えてくれたのが本書です。この作品に関しては文句なしの大絶賛です。ぜひぜひ、手に取ることをお薦めします。読んで絶対損はなし。これを読まなくちゃ、もったいない!

近いうちに続編の「国境」も再々読をする予定。こちらは北朝鮮に潜入をしてしまう。今の政治情勢にマッチをしていて、読むのがすっごく楽しみです。

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黒川博行
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    2007

08.16

「映画篇」金城一紀

映画篇映画篇
(2007/07)
金城 一紀

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映画をモチーフにした5篇が収録。その元になった映画は5作中1作しか観ていませんが、そんなのは関係なかったです。ちなみに観たことあるのは「ドラゴン怒りの鉄拳」だ。それに作中には、「大脱走」「酔拳」など、もっとたくさんの映画が出てくるが、こちらも観て無くてもまったくの問題なし。いやー面白い。そして素晴らしい。この作品を読んだ直後に感じたのは、映画を観たあとのような高揚感と、印象に残った部分の情景が目に浮かぶこと。映画を読む、という言葉がぴったりの作品でした。

それに作品同士がリンクをしているのも憎い演出。ショッピングモール内のレンタルビデオ店や、つまらないという謎のフランス映画に、製薬会社が起こした薬害事件。それに全篇で登場する、市民会館で上映される「ローマの休日」は、最後にとても素敵な物語として登場とほんと憎いのよ。金城一紀はやはりすごかった。


「太陽がいっぱい」
デビュー小説が映画化されることになった僕は、その撮影現場で朝鮮学校時代の同級生、永花と再会する。20数年ぶりに彼女と話したことをきっかけに、子供のころいつも一緒に映画館に通った龍一を思い出す。彼はたった1人の親友と呼べる友達だった。

映画を観ることで繋がっていた少年たちが、ある日を境に縁が切れてしまった。それがあることをきっかけに、復縁をしていく。ちょっと切なくて、じんわりとくる作品です。これは金城さんの自伝なのでしょうか。


「ドラゴン怒りの鉄拳」
夫の自殺で1人自宅にひきこもる日々を送っていたわたしは、夫が延滞したビデオを返却するために久しぶりに外出する。高額の延滞料に気を使ったのか、ビデオ店の店員・鳴海にお薦めビデオをサービスしてもらう。それを観たら感想を彼に伝え、またお薦めをサービス。やがて元気を取り戻した彼女だが、ある決断が迫られる。

夫の死で壊れかけた女性が、鳴海の薦める映画と、彼の笑顔で救われていく。ほんわかとした恋愛小説です。そして作品間でリンクをしている薬害事件が、彼女によって進展します。作中に出てきた「タンロン怒りの鉄槌」は、すごく見たーいのである。


「恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス」
好きな映画「フランキーとジョニー」の話をしたことから、高校の同級生で、席が隣の石岡さんと僕は会話をするようになった。少しずつ心をかよわせた二人だが、彼女の誕生日の日に、彼女からある計画を打ち明けられる。

心に闇を持った少年少女が、現実から逃れるためにある計画を実行する。ちょっとハードボイルドです。中々良い感じで読めていたが、ラストの締め方にはあれ?と首を傾げてしまった。個人的だが、ちょっと期待と違い残念。


「ペイルライダー」
夏休みの自由研究で、「映画ランキングベスト50」を調べることにした小学生のユウは、ビデオ店からの帰りにいじめっ子に難癖をつけられた。そこに現れたのはハーレーに跨った全身黒ずくめのライダー。逃げたいじめっ子の後、ヘルメットを脱いだライダーは、真ん丸のえびす顔で、パンチパーマの中年のおばちゃんだった。

ヒーローのおばちゃんと少年との交流と、おばちゃんの復讐を描いた作品。映画的というかマンガちっく。元気でいつも笑顔のおばちゃんには、忘れられない過去があった。その結末には、目を塞いでしまいたくなるような残虐な描写が。ギャップがすごいです。


「愛の泉」
おじいちゃんの一周忌に集まった鳥越家の面々。しかし、いつも「だいじょうぶオーラ」が出ているおばあちゃんに元気がない。5人の孫たちは、おばあちゃんがおじいちゃんと初めて観た映画の上映会を開き、おばあちゃんに元気になってもらおうと計画する。

ちょろちょろとこれまでに出てきた「ローマの休日」の上映会。これが開かれるまでの経緯や頑張りが描かれています。他の孫たちに押し付けられた鳥越くんの奮闘ぶりと恋、そしておばあちゃんを思う孫たちの心が、とても心地が良くて、最後にはふるふるときてしまった。すっごく良いお話が最後に読めて大満足です。


久しぶりの金城一紀の新刊は期待を裏切らなかった。買って大正解でした。
これがサイン本だったりもするのだ。

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金城一紀
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    2007

08.15

「羽の音」大島真寿美

羽の音羽の音
(2001/05)
大島 真寿美

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ある日、女子高校生・菜生はテレビが映らなくなったのを機に、学校へ行く気が失せた。婚約者のいる姉・花保もまた、初恋の人・透樹の噂を聞き、会社を休み続けてテレビゲーム三昧。両親の離婚を機に処分するはずだった家で、二人暮らしをする姉妹。登校拒否と出社拒否をした姉妹を描いた作品です。

姉妹がひきこもっているだけの生活です。姉は透樹がどこで見かけられたのか、情報をひたすら待ちます。姉がひきこもった理由はわかる。だけど妹がひきこもった理由がわからない。菜生はミキオの見舞いへたびたび行きます。それ以外はずっとひきこもり。その菜生と入院中のミキオとの関係がわからない。二人のやり取りから、読者が想像するしか方法がありません。そんな姉妹の1ヶ月間を、1日ずつ丁寧につづっています。

これまで読んだ大島作品の中でも、独特な雰囲気を持った作品でした。
すごく脆くて不安定な少女の心。大人になる前の繊細な揺れみたいなものが、透明感ある文章でつづられています。上手く言えないのがすごくもどかしいです。たぶん読まないとわからないでしょう。

やがて姉は妹を置いて、羽を広げて旅立って行きます。ここでも妹はどうなるかわからない。だけど、きっと同じように羽を広げて前向きになる。そう信じたいようなラストでした。

読者の解釈に委ねられた作品です。だから抽象的な感想になってしまう。興味を持たれた方は、ぜひ自分で読んで、色々と感じて欲しい。不安定な心をきれいな文章で描かれているので、すんなり読めることは間違いないです。

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大島真寿美
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    2007

08.14

「MOMENT」本多孝好

MOMENT (集英社文庫)MOMENT (集英社文庫)
(2005/09)
本多 孝好

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病院で清掃員のアルバイトをしている大学生・神田。彼が働く病院には、死を間近にした患者の願いを一つだけかなえてくれる黒衣の男がいる、という必殺仕事人伝説の噂があった。神田はある老女の願いをかなえることで伝説を受け継ぎ、いつしか黒衣の男は灰色の作業着の掃除夫に姿を変えていた。

「FACE」
三枝という喉頭癌の老人は、かつての戦地で上官の命に従い仲間を殺したという。その遺族たちと接触をして、その様子を報告して欲しいというのが、老人からの最後の願いだった。

「WISH」
心臓に障害のある14歳の少女・美子の願いは、去年の修学旅行先で出会った青年を見つけて、一緒に撮った写真を渡して欲しい。出来れば会いにきて欲しい、というものだった。

「FIREFLY」
乳癌が再発した上田さんが再入院してきた。見舞い客はおらず、誰かの留守電にメッセージを残し続けている姿に神田は気になって行く。こまごまとバイトを頼んでくる上田さんだが、最後に大事な依頼を持ち出してくる。

「MOMENTO」
特別室に入院をしている有馬さんという紳士。彼は死ぬその瞬間に、自分が何を考えるのか、何を考えるべきなのかがよくわからないと自問し続けている。そんな中、灰色の清掃夫の仕事人の前に、元祖・黒衣の男の仕事人が現れた。

死の間近に迫った依頼者たちは、本当の依頼内容を決して語らない。だから依頼結果が出てみると居心地が悪かったりもする。特に居心地が悪かったのが1作目の「FACE」という作品だ。神田を利用してかつての復讐を果たそうとする。1作目からこんなに読後感が悪くて大丈夫かなと思ったが、2作目の「WISH」、3作目の「FIREFLY」では、死を前にした登場人物たちが恐怖を持ちながらも温かな心を見せてくれる。そして4作目の「MOMENTO」では、生きることと死ぬことを真正面から捉えたお話にぐっときてしまった。

本書の中である登場人物が主人公に質問を投げかけるという部分が多々あります。その部分には、作者から読者のあなたならなんと答えますか、という問いかけを感じてしまう。それに対して明確な答えは浮かびませんが、死とは何かを考えることは悪くはないと思った。

テーマが随分と重い中でも、微笑ましい部分はあります。主人公の神田に清掃員の仕事を紹介したのが病院へ出入りをしている幼なじみの森野だ。彼女が高校を卒業する年に両親が交通事後で亡くなり、家業である葬儀屋を彼女は継いだ。神田とは仲も良く、一番の理解者でもあるしっかり者。そんな神田と森野の関係が全体を通して楽しめた。かなりじれったいのだが、読みどころと言えるだろう。

本多さんの本はどこか納得いかないんだけど、何故か読めてしまう。そしてまた読んでしまう。どこが良いのかいまいち理解が出来ない。でもいいんだな。変なことを言っているが、これは前から感じていること。たぶん自分とは別次元の感性を持っているのだろう。だから読むたびに新鮮だったりもする。

ミステリとしても納得の出来るものではなかった。だから気軽にお薦めすることは出来ない。だけどいいんだよなあ。矛盾してるんだけど。相性が良いんだか悪いんだか、ほんと自分にとって不思議な作家なのだ。そしてまた、他の本も読んでしまうのだろうけど。

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本多孝好
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    2007

08.13

「ソウルケイジ」誉田哲也

ソウルケイジソウルケイジ
(2007/03/20)
誉田 哲也

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警視庁捜査一課殺人捜査第十係の主任警部補である姫川玲子。玲子を筆頭とする通称・姫川班には、菊田和男、石倉保、湯田康平、葉山則之、の四人が、現在の玲子の部下である。そんな彼らに蒲田警察署で帳場が立ったので出動せよと命がくだる。多摩川土手の路上に放置駐車されていたワンボックス軽自動車の後部荷台から、成人男性の左手首が発見されたのだ。

その手首の持ち主は、大工仕事を請け負う工務店を営む高岡賢一。犯行現場らしき大量の血痕がある場所から通報したのは三島耕介という青年。耕介は、転落事故によって父親を亡くし、それ以後、高岡の世話になり続けていた。過去の保険金目当ての自殺も絡み、次々と意外な事件の本質が浮かび上がっていく。

前作では、勘に頼る玲子の捜査を嫌っていたライバルは、ガンテツという悪徳刑事でした。今回のライバルは、データーを地道に集め、勘にまったく頼らない基本に忠実な捜査をする日下警部補です。ときには日下の目線で描かれているので、玲子との対比も面白い。そして参考人になる三島耕介の目線も加え、ストーリーに深みを増していきます。

それとまたもや変な関西弁を話す井岡博光が出て来て、前作同様に玲子とコンビを組みます。彼がユーモア担当と、玲子と菊田の微妙な関係に無理やり割り込んで、変な三角関係を築きます。

すごく面白かったのですが、途中で浮かび上がってくる内藤という人物の謎が解ってしまいました。それになんとなくだけど、事件の本質というか、犯人の目星もついてしまった。これは素直に喜ぶべきなのかなあ。だから驚きというものはありませんでした。

ですが警察小説としては、かなりの面白さがあるのには間違いない。過去があって現在の事件が起こってしまう。そこにはくだらない男が絡んでいて、ムカツク~と感情移入させておいて、それを意図も簡単にヒックリ返してしまう。ちょっとネタバレしすぎ?これ以上は控えますが、さすがは誉田さん、上手いです。

それに菊田が日下に結婚とはという質問に対して、日下が答えたセリフには痺れました。読んだ方にはわかると思いますが、それぞれの家庭にあった玉を作っていくという話です。
まさに目から鱗です。いい事を言っていました。

たぶんシリーズ物だから続編があるのでしょう。玲子と菊田の関係に進展はあるのか。次のライバル刑事はどんな個性をもっているのか。次回作にも期待大です。出来れば驚かして欲しいです。あぁ、大きなことを言ってしまった。


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誉田哲也
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    2007

08.12

「スコーレNO.4」宮下奈都

スコーレNo.4スコーレNo.4
(2007/01/20)
宮下 奈都

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麻子は、父が経営する古道具屋に三人姉妹の長女として生まれた。麻子は一つ年下の妹・七葉と比べて、器量や何かに対する執着心が自分には欠けていると思っている。歳の離れた妹・紗英はお豆さん。遊びには混ぜるがノーカウントの存在だ。優しい両親と厳しい祖母に育てられた麻子の中学生、高校生、社会人1年目、社会人3年目を描いた成長物語。

NO.1からNO.4と、麻子は少しずつ歳を重ねていく。NO.1では初恋と失恋を経験し、NO.2では妹と同じ人を好きになり苦しむ。そしてNO.3からは社会人になり、NO.4では、仕事での飛躍や自分に取って大事な物を見つけていく。NO.2までは、両親や祖母の教えを吸収しながらも様々な出来事に苦しんで心を痛め、そしてNO.3からは、これまでに吸収した物を存分に活かして、自分を成長させていく。これがすごく爽快。

それにラストの場面なんて、幸せな気持ちになりすぎて、何度も読み返してしまった。仲の良かった姉妹のすれ違いと関係の修復や、自分に足りないと思っていたものが仕事を通じて埋まっていくところなんて、素晴らしすぎてもうめちゃめちゃ好きだった。父に教えられた骨董を見る目や、祖母の名言があんな風に役立つなんて、すごくスマートでおしゃれでした。宮下さんはミステリを描いても上手いかも。でもやっぱりこんな素敵なお話をもっともっと描いて欲しい。

あ~、この本、いいな~!もうすんごく良かったです。新人離れした文章力に描写力。そして読者をぐいぐいと引き寄せる世界観。ウットリしすぎて、とろけてしまいそう。だから作品の内容は極力ばらすのは止めておきます。予備知識なく読んで本書の魅力でぐらぐらになって欲しい。すっごく温かな気持ちになれる良書でした。読んで損はなし。めちゃめちゃお薦めです。大絶賛!

今後も要チェックな作家が誕生です。


余談。
積んでる「コイノカオリ」も読まなくちゃ。

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宮下奈都
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    2007

08.11

「あおい」西加奈子

あおい (小学館文庫 に 17-1)あおい (小学館文庫 に 17-1)
(2007/06/06)
西 加奈子

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文庫版を読みました。「あおい」「サムのこと」の2篇に「空心町深夜2時」が追加されています。これから読むという方には文庫版がお薦めです。

「あおい」
主人公のあたしことさっちゃんと、3才年下で同棲中のカザマくんのお話です。親友だった雪ちゃんが好きになったカザマくんと3人で会い、横取りしてしまったさっちゃん。その後、スナックでアルバイトをするが、ママの常連客の森さんと内緒で仲良くなり、スナックを辞めてしまう。それと同時期に、さっちゃんのお腹の中にはカザマくんとの赤ちゃんが育っていた。

なんでもない日常だと思っていたら、突然ヘビーになったりする。仲良くなった本屋で働くみいちゃんと同等な過去の消えない傷が出て来て、ちょっと切なくなったりもするが、どこかのん気な関西弁と独特の文体が、優しい世界を作り出している。それに全体に散りばめられた西さんのセンスがきらりと光り、読者を心地良い気持ちにさせてくれます。
一人きりになるとふいに「カザマ君」って口にするさっちゃんに、キュンときてしまいました。あぁ、ほんとにカザマくんのことが好きなんだなあと、さっちゃんの思いがぐっと心に浸みました。

「サムのこと」
一緒につるんでいたサムがトラックにはねられ亡くなった。スミ、モモ、キム、ハス、そしてアリは、サムのお通夜へ向う。そこでサムのお兄さんに聞いた、これまで知らなかったサムのことを知る。面倒くさがりの彼らは、サムに自分のことを聞かれはしたが、サムのことを何も聞かないでいたのだ。

お通夜の席で、彼らは生前のサムとの思い出を語り合います。でもそれは自分自身のことを語ることでもあります。それぞれの自分の思いを吐露していく姿は切ない。しかし最後にお通夜の会場から出て、彼らはいつもの日常に戻っていく。結局は何も変わらないダメな彼らに、親近感を覚えました。

「空心町深夜二時」
車が脱輪しJAFを呼んだ。場所は空心町。そこで見つけたラーメン屋でJAFを待つ男女。明日は大阪を出て東京へ向うという女性が、別れることになった男と過ごした時間を思い出す。

これで会えないという緊迫感はなく、女性がなぜ別れようと言ってしまったのか、一緒に東京へ行こうと声に出せない姿を、たんたんと描かれています。彼女が何故大阪を出ることを決意したのかは分かりません。ただ漠然と東京行きを決め、二人の最後の一夜を偶然入ったラーメン屋で過ごす。ただそれだけなのに、なんか心にしっとりとした物が残りました。文庫版だけのちょっとエッチなおまけ作品です。

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西加奈子
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    2007

08.11

「チョコリエッタ」大島真寿美

チョコリエッタチョコリエッタ
(2003/03)
大島 真寿美

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高校二年生の宮永知世子は、進路調査に「犬になりたい」とまじめに書いてしまう女の子。
知世子が幼稚園年長組の夏休みに、親子3人で遭遇した交通事故。その時の事故で母が亡くなり、知世子は父と霧湖ちゃん(父の妹)、犬のジュリエッタと共に暮してきた。生前の母が、幼かった頃の知世子が、子犬のジュリエッタとたいして変わらないレベルだといって、チョコリエッタと呼んだ。その姉妹みたいに育ったジュリエッタが死んだことにより、知世子の現実逃避に歯車が掛かってしまう。

「犬になりたい」「死にたい」「殺されたい」という主人公が痛いです。これまでに読んだ大島さんの描く人物には、共感出来たり、可愛らしさを覚えたが、本書の主人公はそれらを突き抜けた存在でした。自分はチョコリエッタであるということに執着する知世子。第二章では、夏休みの間をずっと犬として過ごす知世子。心に蓄積された傷があまりにも痛々しくて、読むのがつらくなり、眠たくなって、半分寝ながら読んでしまいました(汗)。おいおい。と突っ込んでおこう。

ネタバレしますが、第三章でやっと映像に映ったチョコリエッタを客観的に見ることが出来ます。それまでは心がここに無い感じの知世子が居心地は悪くて、お尻がもぞもぞとしっぱなしでした。

不安定な少女という点では他の作品と共通するのですが、彼女のぶっ飛び具合には馴染めませんでした。それに知世子や霧湖ちゃんのイライラは、読んでいて気持ちの良いものではありません。

タイトルのかわいさや表紙の愛らしさとは内容はまったく一致しない、ちょっと苦手な1冊でした。ほんと気が滅入る。だったら記事にするなよ、と言いたくなるけど、好きな大島さんなんで書いてみました。目指すはコンプなんでねえ。。。

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大島真寿美
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    2007

08.11

8月11日 書店でお買い物

アップするのを忘れていたので、纏めて載せておこう。
金城さん、長嶋さん、はサイン本をゲットです。
感想を書いた時に、サインの写真をアップしま~す。
どうしても見たいという方は、SNS「本を読む人々。」で公開しています。

映画篇 映画篇
金城 一紀 (2007/07)
集英社

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エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集 エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集
長嶋 有 (2007/05/31)
エンターブレイン

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月と菓子パン (新潮文庫 い 86-1) 月と菓子パン (新潮文庫 い 86-1)
石田 千 (2007/07)
新潮社

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私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5) 私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5)
三浦 しをん (2007/07)
新潮社

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サウダージ (文春文庫 か 30-3) サウダージ (文春文庫 か 30-3)
垣根 涼介 (2007/08)
文藝春秋

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NO.6 [ナンバーシックス] ♯3 (講談社文庫) NO.6 [ナンバーシックス] ♯3 (講談社文庫)
あさの あつこ (2007/08/11)
講談社

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逃亡くそたわけ (講談社文庫) 逃亡くそたわけ (講談社文庫)
絲山 秋子 (2007/08/11)
講談社

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富士山大噴火 (講談社文庫) 富士山大噴火 (講談社文庫)
鯨 統一郎 (2007/08/11)
講談社

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お買い物
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    2007

08.10

「ぽろぽろドール」豊島ミホ

ぽろぽろドールぽろぽろドール
(2007/06)
豊島 ミホ

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痛い!なんて痛いんだ。歪んだ人物ばかりだが、何故かすいすいと読めてしまう。出てくる人たちとは絶対にお友達にはなれない。共感することも出来ない。なのに面白いではないか。人形に惚れた?というか依存した?人物たちが描かれた6つの短編集です。

「ぽろぽろドール」
鎌倉のおばさまからもらった、ほっぺをビンタすると涙をながす等身大の人形。少女はつらいことが起こるたびに、人形をいじめて優越感に浸る。そんな少女が恋をした。

「手のひらの中のやわらかな星」
過疎の村から街の高校に入学した少女は、こんなきれいな子たちがクラスメイトなのかと思うと共に、自分の容姿について初めて真剣に考えた。友達の出来ない少女は、憧れの冬馬さんにそっくりな、大人向けの着せ替え人形に夢中になる。

「めざめる五月」
2ヶ月限定で田舎の学校へ転向した少女は、同じ町内に住む坪内くんと知り合う。彼に見せられたのは自分とそっくりな等身大の人形。彼はいきなり人形にキスをし、人形の心の代弁者になって欲しいという。

「サナギのままで」
少女は坊ちゃんと共に過ごし、坊ちゃんの心に気づかないまま別れ、坊ちゃんは戦死した。大人になった少女はマネキンを作る職に就き、心にずっと残る坊ちゃんのマネキンを作り、マネキンに魂を込める。

「きみのいない夜には」
彼と同棲中の女性は、ネットで大人向けの着せ替え人形を落札する。届いた人形には、前の持ち主から人形宛の手紙が同封されていた。その後も、元の持ち主から人形宛に届く郵便に、女性は心を揺るがせる。

「僕が人形と眠るまで」
自分の整った顔に依存した少年は、交通事故で顔に大やけどをし、これまでの生活が一変してしまう。自分を知る人がいないところで一から始めようと、成長した青年は上京する。そこで彼女は出来るが、彼女は行為の時には必ず目を閉じる。そんなある日、青年は幸せだった頃に付き合っていた女性そっくりの人形と出会う。


ここからネタバレありで、すき放題に語っています。
未読の方はご注意を。

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豊島ミホ
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    2007

08.09

「神田川デイズ」豊島ミホ

神田川デイズ神田川デイズ
(2007/05)
豊島 ミホ

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同じ大学に通う学生たち6人の物語です。舞台が同じ大学なので、短編の枠を超えてあちらこちらでリンクをしています。その辺りも楽しみどころです。

「見ろ、空は白む」
大学に入れば何かが変わると思っていた原田。しかし気づくと、6畳間の下宿に入り浸る陸奥男と仁田と共に、こたつを囲んでエネルギーを浪費するだけの生活を、3年間も送ってしまった。そんな彼らが熱意を持って始めたのはお笑い。(デブ・しゃくれ・若ハゲ)トリオの、「童貞メガネーズ」誕生。

「いちごに朝霧、映るは空」
田舎から出てきた中野道子は大学の人の多さに馴染めず、ふと知り合った先輩に憧れ、先輩のいるサークルに入ってしまった。しかしそのサークルは「不戦をうったえる会」という、左の政治サークルだった。道子はクラスコンパの自己紹介で、そのことを告げると周りの空気が変わってしう。

「雨にとびこめ」
準は大学デビューをするために、星占いの知識を武器に、クレバーな大学生活を目指す。参加したコンパで彼女が出来るが、ある雨の日に、かつての憂鬱な思い出が脳裏をよぎり、自分の本心に気づいてしまう。

「どこまで行けるか言わないで」
映画サークルの先輩のダルさに嫌気がさした女の子3人は、女の子のためのピンク映画をつくろうと、新しい映画サークルを立ち上げる。しかし映画が好きということと、映画をつくるという熱意の違いが、3人の女の子たちの前に立ち塞がる。

「リベンジ・リトル・ガール」
内定をすでにもらった小林貴理子には、あとはオール優で卒業を目指すだけ。しかしいくら成績が良くても、小林には大学で話をする相手が1人も出来なかった。そんな小林だが、ふとしたきっかけで、同じ語学クラスの角田と話をするようになり、初めてクラスコンパに参加をしてみる。

「花束なんかになりたくない」
たかおは19歳で大手出版社の新人賞を受賞したが、その後の作品がぱっとせず、小説をあきらめて就職活動を始めてみる。そんなたかおには、両親が亡くなった従妹の星子が同じ大学にいて、星子の世話にうんざりしながらも、放っておくことが出来なかった。

ここに出てくる学生たちはそれぞれに悩みを抱えています。それに疲れています。自分は大阪生まれ大阪育ちなので、田舎から出てきた人が感じる、都会と田舎とのギャップというものが解りません。それに、何故こんなに友達が出来ない人たちがいるんだろう、何故こんなに負な生活をたんたんと送っているのだろう、と疑問がたくさんありました。だから逆に新鮮で、へ~、こんな違う人種の人たちがいるんだなあと、ふむふむと、面白く読むことが出来ました。読む人が代われば、懐かしさを感じる方もいるのでしょう。

都会ってそんなに疲れるものなんでしょうか。田舎に対する憧れみたいなものがありますから、やっぱ疲れているのかな。。。だからどちらかと言うと田舎話の方が好きです。まあ、両方とも豊島さんの魅力だけどね。これから「ぽろぽろドール」を読みます。 むう…、人形かあ。

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豊島ミホ
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