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    2007

11.30

11月の本代の合計金額

計14.299円也

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自分への戒め
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    2007

11.29

おしらせ

引越しをすることになり、新しくネット環境が整うまで、お休みさせて貰います。
コメント、TB、をくれた方にはちゃんとお返事をしたいので、休んでいる間は承認制にさせてもらいます。ではまたの日まで。


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お知らせ
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    2007

11.29

「ホルモー六景」万城目学

ホルモー六景ホルモー六景
(2007/11)
万城目 学

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ホルモーとは、京都大学青竜会、立命館大学白虎隊、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックスの各サークルメンバーが構成員で、千匹と千匹の普通の奴には見えないオニをお互いに引き連れ、京都市内で戦争ごっこをする。あくまで平和的な競技だが、オニを全滅させてしまったときだけ、悲惨な悲劇が起こる。

ホルモーに関わる人物たちの6つの外伝です。これから読まれる方が多いと思うので、極力ネタバレは避けます。もちろん前作の「鴨川ホルモー」を先に読むことをお薦めします。まずは簡単な内容紹介から。

その勇猛ぶりを源平合戦における巴御前にたとえられる、京都産業大学玄武組の二人静こと定子と彰子は、彼氏のできないさびしさを分かち合って、いつも二人で過ごしていた。そんな二人の友情と女の意地を描いた...「鴨川(小)ホルモー」

イタリア料理店でバイトする少年の前に現れた新入りは、厚ぼったい頭に、顔半分近くを占めるメガネをかけた女だった。名前を楠木ふみ。急な店長の休みにも動じずに、見事に店を仕切ってみせる頭のキレ。後に今孔明と呼ばれるに至る凡ちゃんの一面を描いた...「ローマ風の休日」

風変わりなもっちゃんが恋をした。恋文を書くように勧めると、なぜか阿部も一緒に書くことになってしまった。もっちゃんと阿部の友情が、ある物を遺し、それが代々のホルモーに受け継がれることになる軌跡を描いた...「もっちゃん」

二度目の挑戦で同志社大学の門をくぐることになった巴は、フトしたことがきっかけで大学内の書庫に入ることになり、箱の中から「horumo―」と英語で書かれた妙な手紙を見つけ、解読を試みるも意味がわからない。呂布にたとえられる芦屋の元彼女である巴が、ホルモーの謎に挑む姿を描いた...「同志社大学黄竜陣」

東京で働くサラリーマンとOLが、各々の同僚に誘われ合コンに出向くと、そこにいたのは、京都産業大学玄武組四百九十八代会長榊原康と、龍谷大学朱雀団四百九十八代会長井伊直子だった。二人はかつて越後の竜と甲斐の虎にたとえられ、都大路にその名を轟かせた、ホルモー史に残る好敵手だった。そんな二人がビルのテラスで見たものは、空に漂うオニ。二人がオニの出所を探ると...「丸の内サミット」

「ホルモオオオォォォーッ」の雄叫びを空に放った者には、後日、何かが訪れる。立命館大学百虎隊メンバーである珠実にも、ついに何かは訪れた。それは文通だった。相手の名前は「なべ丸」。バイト先で見つけた古びた板きれの裏表を使って、過去の時代に生きている人物との文通が始まる...「長持の恋」

読み始めは短編なので小粒かと思いきや、いきなり鴨川でホルモーをはじめるし、次の短編では凡ちゃんが登場し、さらに他のメンバーもちらほらと登場する。その上でそれぞれの短編の主人公たちの人間ドラマも読ませるのだ。万城目さんの短編は初読みだが、悪くないと思う。前作と繋がる部分もあるし、前作で語られなかった人物の話もあり、歴代OBの話もある。ぐっとくるものや、はっは~んとなるものもある。もちろん前作を読んでるとなお良い。

ホルモーの戦い自体は、一作目の「鴨川(小)ホルモーだけだが、ホルモーを経験したという特異な共通認識というか、おたくならわかるでしょ的な仲間意識上手くからめられて描かれている。特に「丸の内サミット」などは、その傾向が上手く生かされていた。

特にぐっときたのは「もっちゃん」というあだ名がタイトルになった作品だ。この作品は万城目さよりも森見さんの匂いがするように感じた。比較してはいけない二人なのだが、モテない男がアパートにこもって、憧れの彼女をどうにかしようと打ち込む姿は、どうしてもダブって見えてしまう。しかし万城目さんは、男汁を飛ばす男の努力を絆に繋げ、ある感動を読者に与えてくれる。それゆえにぐっとくるのである。

短編だというのもあるが、デビュー作よりもかなり読みやすく、文章もこなれている。よって満足。次は予定通り大阪が舞台だろうか。今後も注目していきたい作家であり、つい財布の紐が緩む作家だ。石居麻耶氏のイラストも相変わらず良い。


TBさせてもらいました。「今日何読んだ?どうだった??」

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万城目学
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    2007

11.29

「タルト・タタンの夢」近藤史恵

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)
(2007/10)
近藤 史恵

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ビストロ・パ・マルは、カウンターが七席、テーブルが五つという、予約でほぼ埋まってしまう小さなレストラン。フランスの家庭料理っぽいメニューが人気で、料金もリーズナブル。従業員は、客とのやり取りを一手に引き受ける料理人の志村洋二、俳句が趣味というソムリエの金子ゆき、ぼくことギャルソンの高築智行、そして店長兼料理長の三船忍のたった四人。顔が怖くて無口な三船シェフの料理は絶品で、なおかつシェフは名探偵だった。

常連の西田さんは、なぜ体調を崩したのか。偏食家の愛人は、なぜ奥さんに勝てないのか。ケーキの中に入れた空豆が、なぜなくなってしまったのか。フランス旅行から帰った妻が、何も語らずに実家に帰ったのなぜか。合宿所で野球部員が酒を飲んで暴れたが、どこから酒を持ち込んだのか。恋人と別れる原因になった鵞鳥料理だが、彼が特別な鵞鳥だと言っていたのはなぜか。二十三個入り、二十九個、三十一個、と不規則な数の詰め合わせセットを売るチョコレート専門店。

さらっと読むと日常の謎系の作品のようだが、読者が謎に挑むような作品ではなく、謎を味付けに使った、ちょっとした人間ドラマを読ませる系統の作品だと思う。それらと共に、家庭的なレストランの温かな雰囲気と、美味しそうな料理にヨダレを飲む、という楽しみ方をするのが一番良いだろう。しかし飛びぬけて面白いという作品はなく、ありていに言えばどれもが小粒。せいぜい少しニヤリぐらいなのだ。

個人的に思うことだが、フランス料理のメニューや用語などは、フランス料理に縁がない人なので、いまいちピンとこなかった。それに、料理を題材にしたこの手の作品も、最近増えたので目新しいものがなかった。この点では、二番煎じ、三番煎じはつらいのだ。だけどこういう温かな雰囲気でのほほんとした作品は好きだ。だからこの作品が今後シリーズ化して、料理が美味しそうな作品=三船シェフと定着して欲しい、と思うのは自分だけではないはず。よって今後の動向しだいで作品の評価は上がるかも。ただ先にも書いたが本書だけでは小粒なのだ。だから好きな作品だけど絶賛出来ず。ちょっと惜しい。


TBさせて貰いました。「今日何読んだ?どうだった??」

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近藤史恵
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    2007

11.27

「悦楽の園」木地雅映子

悦楽の園悦楽の園
(2007/10)
木地 雅映子

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革命家だと聞かされていたパパと一度だけ会い、そして妥協はしないと約束をした。15歳で妊娠して、出産して、死んだママがパパに妥協しなかったのなら、自分も妥協しない。そう思いながら、異質な女系家族に生まれた相原真琴は13歳に成長した。

周りと協調した「ふつう」が求められる学校生活。そんなものはごめんだ、とフト思いたった真琴は、化け物の絵しか描けない落ちこぼれの南くん、隣のクラスの不良少年といわれる染谷と、欲情むき出しの彼らに疲れながらもつるむようになる。特殊な立ち位置の優等生、学校一キモいチビ、茶髪のヤンキー。ヘンな三人組は、やがて校内でかなり目立ち、そして浮いていく。

前半部分はラノベのような学園小説になっているが、中盤あたりからは木地作品の「オルタ」の進化系のようなお話になってゆく。ある女性から、周りに知られていないが、南くんが発達障害の子だと教えられ、母の再婚相手から虐待されている南くんを真琴は救いだす。そしてわけあって不登校児のたまり場になった自宅に匿い、誰もが頭が上がらない女系家族の長であるひいおばあさんが一手に預かることになる。

そしてこれまでおかしな行動を取っては、クラスのみんなにヘンな眼で見られていた南くんが、特殊な才能を持った選ばれし子だと知り、彼が帰ってきたときの居場所を作ろうと、真琴は染谷の助けを借りながら、普通の人たちに戦いを挑む。

世間でいう普通というカテゴリで中央にいて、踏ん反り返っている人たちについて考えさせられる。一緒に個性を消してグループを作り、そして変わった人が目障りだからと、衆を頼んでひとりひとり潰す。こんなのが面白いのだろうか。それらをイジメともいうし、無意識の群集心理ともいう。

少女たちはこれらに戦いを挑んでいくのだが、これが何とも奇妙な展開なのだ。詳しくは書かないけれど、一種の集団催眠のような洗脳作戦にでる。普通にしがみついて安全な位置にいたい人に、相手の心理を掴んで誘導するのだが、このときの主人公の悪役ぶりは少し怖い。だけど、わりと好きな暗躍でもあった。

終盤になってくると、南くんと会えないもやもやから、真琴は幻想世界に迷い込み、あとはラストのオチに向かってむふふな世界に入っていく。本書の最後のようなベタ甘は大好き。爽やかで、甘酸っぱくて、ニヤリなのだ。

この作品は三部構成になっているのだろう。前半のラノベテイストで読者の心を掴み、中盤から木地作品特有の周囲から浮いてしまう障害の有様を提示し、そして終盤で読者をぐらぐら揺らした上でエンターテイメントなラストを迎える。「ガレオン」や「オルタ」から、さらに進化した、超ド級の大傑作だと思った。恐るべし、木地雅映子。

この作品が他の方たちにも受け入られることを、切に願う。

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木地雅映子
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    2007

11.26

「ぼくがぼくであること」山中恒

ぼくがぼくであること (岩波少年文庫 86)ぼくがぼくであること (岩波少年文庫 86)
(2001/06)
山中 恒

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画像がこれしかありませんでしたので使いましたが、読んだのは角川文庫版です。

「地震のものすげえのがきて、うちなんかぺちゃんこになっちまわないかな」などと、五人兄妹の下から二番目の小学六年生・秀一は思う。教育ママの説教にウンザリし、チクリ魔の妹には口で負け、兄妹はみんな優等生でそれがプレッシャー。それに学校でもヘマをやらかしては立たされてばかりのおちこぼれ。やがて夏休みになり、前から家出を計画していたことを、うっかり口を滑らせてしまうが、母や兄妹たちはゲラゲラ笑うばかり。秀一は勢いだけで家を出てしまう。

家は出たもののいくあてのない秀一は、公園わきに停まっているトラックの荷台に忍び込むが、そのトラックは轢き逃げ事件を起こしてしまう。あわてて逃げたその先の山村に迷い込んだ秀一は、老人と少女の二人暮らしの家になんとか転がり込んだ。そこで頑固でお節介なおじいさんの仕事を手伝いながら、同級生ながらも仕事の手伝いも家事もこなす夏代と友達になって、秀一はひと夏を居候で過ごす。

彼らと一緒に規則正しい暮らしをしながら、やがて自ら家に帰る決心をした秀一は、夏代らに別れを告げ、山村をあとにする。そのひと夏を過ごしたことで秀一は成長し、母の脅しやこまっしゃくれた妹が愚かに見えるようになっていた。いつでも家出していくところ、自分を受け入れてくれるところが出来た秀一は、何事にも冷静に対応するすべを身につけていた。

やがて母とぐるになった妹の暴挙が明らかになって、家族は崩壊寸前になり、そこへ他の兄妹たちも社会問題に巻き込まれてとばっちりを食うが、母親は息子たちが自分のいうことを聞かなかったせいだと一方的に決め付け、息子たちの言い分を聞かない。それによって反旗を翻した兄たちによって家族は崩壊してしまう。

秀一の成長を描きながらも、一方で当時の社会への問題提起がなされていく。しかしまあ、悪いことをして息子に謝れないバカな母親や、人間のクズに育ってしまった人受けのする妹がいる家って、むちゃくちゃ居心地が悪そう。こんな環境でよく少年が真直ぐに育ったと思う。こんな家を出て早く夏代たちの元へ行け、と思うのは自分だけだろうか。

その後の展開としては、自分の都合で子供をしばりつけようとしていた母親には鉄槌を食らわし、自分の儲けしか考えない轢き逃げ犯にも罰を与えるのは、痛快の一言だ。だけど、いくらしっかりと子供だけで生活できるといっても、親なしでは生きていくことは叶わない。そんな当たり前のもやもやがありながらも、秀一少年は「ぼくがぼくであること」を母親にわかって欲しい、と正面から向き合う決意を最後にする。えらいやっちゃ。

すごく痛い母親だったけど、こんな親になってしまう可能性が誰にでも起こりうる。子供に勉強しろと口うるさくいい、父親のような大人になるな、立派な大人になれという。そして、いつの間にか自分の思い描く理想に無理やり当てはめようとする。子供は大人のおもちゃじゃない。子供に道を示すのは当たり前だが、押し込めるものではない。児童書だけど、大人に読んでもらいたい作品であった。

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その他の作家
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    2007

11.25

「背の眼」道尾秀介

背の眼背の眼
(2005/01)
道尾 秀介

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るるぶで見かけた福島県の山中にある白峠村へ旅行にやって来た、ホラー作家の道尾。その訪れた村では、ここ二年ほどの間に四人の子供が神隠しに遭い、一人目の男の子は頭部だけになって河原に流れ着いたという。そんなこととは知らずに、白早川の上流まで散歩に出た道尾は、菊の花がたくさん並べられた河原で、「レエ オグロアラダ ロゴ…」という無気味な声を聞く。一夜明けてその言葉の真の意味に気付いた道尾は東京に逃げ戻り、大学時代の友人である真備庄助の構えた「真備霊現象探求所」を訪ねる。

そこで真備が別件でまとめていたファイルを見せてもらった道尾は、さらに驚愕の出来事を知る。その「背の眼」の題されたファイルには、四人の人物から送りつけられた、ある共通点のある写真が挟まれていた。その写真には、誰かの背中に眼のようなものが写りこんでいること、そしてその眼を背負った人物がきまって後に自殺をしているらしいこと、それから白峠村とその隣町であること。恐怖に慄く道尾は、真備と助手の北見凛とともに、再び白峠村へ向う。

ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作だそうですが、背中に眼が出る以外はホラーっぽくないし、サスペンスというには複線の数が多い。よって民俗学を絡めた本格ミステリといえる作品だと思う。天狗伝説などの民話や伝説に、霊能者の存在。昔から残る因習や霊についての薀蓄などと、あのいつも異装束を着ている作家の影響がかなりあった。だけど、あそこまで圧倒的な雰囲気を持っているわけではなく、ユーモアもあるし、ホームズ系のスタイルも継承しているので、大先輩たちへのオマージュと自分は捉えて読んだ。

これを物まねだという方もいるかもしれない。だけど、その後のこの作家の活躍を考えれば、ただの物まねではないことは確かだと思う。散りばめられた複線、関係ないと思われた人物たちが繋がる瞬間、読み手を勘違いさせるテクニック。トリックスター道尾の原点を覗いたようだった。

ただ、少し長いのである。選考委員の選評にもあったが、余分な贅肉が多いゆえに、間延びしたような感じを受ける部分があった。それに、登場人物たちにもう少し色気があれば、もっとのめり込むことが出来たと思う。しかし、本書のような民俗学を取り入れたジャンルは個人的に好きだ。読者が疲れないような良い意味での軽さがあり、提示された謎は基本的にすべて解明され、読後も爽やかな余韻が残る。

個人的にですが大好きな作品だったので、続編もチェックしなくては。

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道尾秀介
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    2007

11.24

「蜜の森の凍える女神」関田涙

蜜の森の凍える女神 (講談社ノベルス)蜜の森の凍える女神 (講談社ノベルス)
(2003/03)
関田 涙

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風花学園高等部に通うヴィッキーと森下吉乃さん、中等部に通う誠は、何度も訪れたことがある別荘だから、と親たちの特別許可をもらって、仙人平にある別荘に三人でやって来た。そこへ大学のサークル仲間六人が、突然の吹雪に行く手を阻まれ迷いこんで来た。体格も態度も立派な野村、田舎のチンピラのような中嶋、神経質そうな植田、溢れた才能が不快感を与える高口ら男性四人に、大金持ちの娘の典子、臆病そうだが隠しきれない魅力を持つ小夜子ら女性二人。

吹雪によって閉じ込められた人々。外部との交信も不通となり、逃げ出すことも出来ない。これらシチュエーションを楽しもうと、彼らは探偵ゲームをすることにした。しかし余興のつもりが、翌朝に刺殺死体が発見されて事態は一変する。そこに五十年前に起きた、売れない探偵小説家が刺殺され、内縁の妻が冤罪の疑いがあるまま獄中で病死した事件がからみ…、という第28回メフィスト賞受賞作です。

語り手であり、全体を見る目線がぼくこと誠。その姉であるヴィッキーが探偵という設定。このヴィッキーのわがままぶりが、好きになれるかどうか別れるところだろう。二階堂蘭子とも似ている、少し狙いすぎのキャラなのだ。語り手のぼくが自己完結するのも少し気になったし。

サークル仲間も実際は気が合う仲間ではなく、各々に含むところがあって、裏ではぎすぎすした感情が渦巻いている、というのもありがちな設定。だから、これまでにあった本格といわれるジャンルの作品を、キャラ立てて読みやすくしたような作品だ。本格ミステリにラノベを取り入れた感じかな。

本格好きには頼りないかもしれないが、キャラ小説が好きな方には喜ばれるかも。どちらにしろ読み手を選ぶ作品だと思うけど。自分はどうかって? 悪くはなかったけど、褒めるほどでもなく、普通でした。

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その他の作家
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    2007

11.24

「夜が闇のうちに」楡井亜木子

夜が闇のうちに夜が闇のうちに
(1996/12)
楡井 亜木子

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前作「チューリップの誕生日」で迎えた結末と直結しているので、未読の方にはネタバレになってしまいます。よってご注意を。

ライブハウスのオーナーである三原さんの一言で、触れたこともない楽器を買い、バンドを組んだこともないのにオーディションを受け、大人たちに混じって仕事と学校の二束の草鞋をはくことになった、十五歳のユーリ。夏休みに入ってから一緒に暮らしていたフジシマに、年齢を明かしたことでユーリは男のアパートを突然追い出された。行き先のない夜を過ごすことになったユーリは、何時にかけてもかまわない、お袋が起きてるから、と三原さんに先ほど渡された名刺裏の手書き番号に頼ることにした。

ユーリは思う。何度か、彼はあたしの進む道を決めている。あたしの前に伸びているレールが彼にだけ見えているように、簡単にポイントを捻ってあたしの生活を変える。今日渡された名刺も、彼が握っているポイントのひとつなのだろうか。そうだとしたら、あたしはどう変わるのだろう。彼は新しい事実をあたしに示し続ける。彼の自宅や、血の繋がりのない母親や二歳の息子や、自分の病気を。深夜に訪れた三原さんのマンションには、別れた妻の義母である日向さんと、彼の息子である慧が暮らしていた。

良い。とにかく良い。カリスマとして一線を越えてはならない三原さんと、大人としてみんなから扱われる女子高生のユーリが、徐々に結びついていく。そして彼の息子や義母とも仲良くなり、マンションへ通うようになる。彼女が持つ感情は恋なのだろうか、憧れなのだろうか。それにユーリの一人称ゆえに、はっきり見えてこない三原の感情も想像するしかないがピュアなのだ。この作品は続編だし、ユーリの心の揺れや二人の関係、突然起こる悲劇によって壊れてしまうあの人、とはっきり書けない難しさがある。それらを伝えられないが、痺れるような時間の流れがすごく心に沁みて、ぐらぐらと心を揺すられてしまった。

ラストは唐突に終わってしまったような印象を持ったが、それゆえに、その後が気になって、あれこれと推測するような余韻が残った。だけど大人っぽいといってもユーリは女子高生。その後にどうなったか、というサービスがもう少し欲しかったのが本音だ。全編は面白かったが、そこだけは消化不良だった。惜しいな~。

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楡井亜木子
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    2007

11.23

「氷の海のガレオン/オルタ」木地雅映子

氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)
(2006/11)
木地 雅映子

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自らを天才だと信じて疑わないひとりのむすめがありました。斉木杉子。十一歳。わたしのことです。くだらないわたしのあだ名は、おすぎばあさん。結婚前からパパとママが決めていた、この響きのいい、古風な名前のセンスが理解できるような子供はひとりもいない。

少女は両親が集めた家の図書室の本を沢山読むことで、言葉を学んできたのだが、それが学校ではまったく通じないことに気づき、それ以来、自分は天才だからと思いこむことで、自分を守ってきた。クラスメイトのひとつひとつの低脳な事柄があるたびに、心の中で毒づき、それゆえに学校で居場所が見付けられない少女。少女の兄や弟も彼女と同様で、やがて彼らは、自分たちが変わりもんではないかと不安に思うようになる。

周囲に馴染めない子供や、グループを作って自分たちのワクからはみ出した子を排除しようとする子供たち、とかなり痛いところを突いた作品だ。主人公は前者で、後者の子たちから必死に自分を守ろうとする。彼らと違って自分は高尚だから、とわざと人目につくように難しい本を読み、画集を開いて、同級生たちと距離を取ろうとする。だけど本心では孤独を感じていて、自宅の庭にあるナツメの木に名前をつけて、そっと話かけている。

理由は違うが、グループに入れなくて孤独を恐れる少女が、彼女に付きまとってくるのだが、彼女はタスケテという心の叫びを感じながらも、自分とは人種が違うからと無視し続ける。本書では、少女が普通の人たちと違う、となっていたが、普通ってなんだろうと考えた。考え方が多数なら普通なのだろうか。人と同じなら普通なのだろうか。そこに個性はあるのだろうか。

主人公の異質さは、自分ではどうにもならないところからきている。それは兄や弟も同じで、社会に上手く適合できない。要領の悪さなどではなく、もっと根本なところで異質なのだ。ここでは家族の血が問題になっているが、やがて不安が募って彼らは学校で問題を起こす。そんな彼らの姿を見て母親が荒治療を施すのだが、その結果、彼らは社会に協調するのではなく、さらに孤高の人になっていく。それが他の作品とは違って本書の異質な作品ぶりなところだろう。自分の子供時代とはまったく違う少女だが、共感できる読者も多いだろう。だけど、それよりも本書を読んだ今の子供たちの意見が聞きたい。

文庫版収録の「オルタ」も、学校に馴染めないアスペルガー症候群という自閉症の女の子を、母親目線で描いている。この症状は、誰かが何かをしてくるのには理由があるはず。けれどやられた本人は、自分のこころの内側に世界を探す。嫌われているからなのか。自分が悪いのだろうか。少女は相手の心を読まずに、自分が何かをしたのかと問う。何故と。そしてぼーっと精神的解離をしてしまう。こちらもドキリとする内容で、沢山の物事を考えさせられた。でもこちらは子供には理解出来ないかもしれない、大人向きの作品だろう。

両作ともYAの枠を超えたすごい作品だと思う。こういうのは好きだ。

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木地雅映子
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    2007

11.23

「いつか、僕らの途中で」柴崎友香 田雜芳一

いつか、僕らの途中でいつか、僕らの途中で
(2006/02)
柴崎 友香田雜 芳一

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山梨の高校で教員をしている男性と、京都の大学で修士二年目の女性が、遠く離れた地で手紙のやり取りをする。四季によって変わるさまざまな風景と共に、遠距離恋愛の遭いたいという感情を抑えつつ、好きな相手を大事に思いながら近況を綴る。

男性の文を田雜氏が担当し、女性の文はもちろん柴崎さん。それに文だけでなく田雜氏のイラストが全ページに渡って描かれており、視覚としてもイメージを膨らませていく。

手紙形式の短い文章で薄い本だが、優しい気持ちにさせてくれ、愛おしさと切なさがすごく心に浸み込んでくる、とても贅沢な時間を過ごすことが出来ました。

ここから独り言。

遠距離恋愛をしたことがないのでよく分からないのだが、こんな風に抑えた手紙のやり取りが出来るのだろうか。もっと遭いたいという泣き言のような思いや、ちょっとエッチっぽい文言を入れたりという風なのを想像するんだけど。

だけど、手紙のやり取りっていいと思う。もちろん電話で連絡もしているだろうし、今ならメールのやり取りが当たり前なんだけど、でもこういう古風な繋がりって、なんか素敵やなーと憧れる。手紙を書きながら相手を想い、書き直しては相手を想い、ポストに投函するときに相手を想い、そろそろ手紙が着く頃と相手を想う。

想像するだけでヨダレが出そう。

別に遠距離恋愛がしたいとは思わないけど、こんなロマンチックは好きだーーー!

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柴崎友香
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    2007

11.22

「ホテルジューシー」坂木司

ホテルジューシーホテルジューシー
(2007/09)
坂木 司

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大学の卒業旅行に備えてまとまったお金を手に入れたい柿生浩美ことヒロちゃんは、友人のサキちゃんと、大学の図書館でアルバイト情報紙とにらめっこしながら、この夏休みのバイトを探す。そこでヒロちゃんの目に飛び込んできたのが、石垣島のプチホテルで一夏働いてみませんか、の文字。結論から言うと、宿の仕事はヒロちゃんに向いていた。しかし、幸せは長く続かなかった。オーナーが世話になった那覇のホテルが人員不足で、ヒロちゃんが応援に行くことになってしまう。そしてたどり着いたのは、コンクリート打ちっ放しの古い雑居ビル。一階にはくたびれた喫茶店兼バーと何かの事務所、それにチラシのベタベタ貼られた旅行社が並んでいる。その何かの事務所に見えた所が、ヒロちゃんの働くことになった、ホテルジューシーだった。

ホテルで働く人たちは、調理を担当している比嘉さんに、掃除係のクメばあとセンばあの双子のおばあさん。そしてヘビメタのような長髪で、昼はまったく頼りにならないが、夜になるとマトモになるオーナー代理。実質的にホテルを切り盛りしていたバイトの松谷さんは、ヒロちゃんの石垣島のリゾート話を聞いて旅に出てしまった。そんな中、大家族の長女でしっかり者ゆえに働き者であるヒロちゃんは、風変わりな宿泊客たちに出会い、お節介を焼いていく。

かつて子供を連れて旅をして、各地でお花見をしたという山本さん。言葉遣いやマナーがなっていない、今風ギャルのユリとアヤ。骨董やアンティークを扱っているという、わけありの田中さん。旅慣れた風を装いたい、自意識過剰の矢田さん。口当りのいい雑誌の文句のような考えで沖縄で屋台をするが、食いつぶしてしまったヤスエさん。当たり前の夫婦の形じゃないが、お互いに愛しあっている久保田さんご夫婦。彼ら宿泊客と接しながら、ヒロちゃんは世間の理を知り、成長していく。

作品のゆっくりした時間の流れは良かった。オーナー代理といい、双子のおばあちゃんといい、信じられないほどいいかげんで、おおらかで、時間がスローな沖縄タイムを過ごしている。それに比嘉さんの美味しそうな沖縄料理や、オーナー代理の昼夜のギャップは面白い。ただ、ヒロちゃんがよくプリプリと怒ってばかりなのが、読んでいて疲れるんだ。人のグチを聞かされるのって、迷惑でしんどいんだよな。これが本書のマイナスポイントかも。

あと、やっぱり比べてしまうのが、ヒロちゃんとサキちゃん。男目線になるが、ここはサキちゃんに軍配かな。もりもり頑張るヒロちゃんも悪くないけど、頼り気ないサキちゃんタイプに男は弱いんだよ。(騙されるな!と声が聞こえそう) それに文句タレはやっぱ嫌。

なんだかんだとヒロちゃん同様に文句をいったが、面白く読めました。だけど個人的な好みは、やっぱり姉妹篇の「シンデレラ・ティース」でした。

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坂木司
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    2007

11.22

「本格推理委員会」日向まさみち

本格推理委員会 (角川文庫)本格推理委員会 (角川文庫)
(2006/12/22)
日向 まさみち

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万城目学さんを生み出した、ボイルドエッグ新人賞、第1回受賞作です。

小・中・高と一貫教育をしている木ノ花学園の高等部に進学した城崎修は、殺伐とした小説家の母と、日常のない冒険家の父と、未来の大道芸チャンピオンの妹と暮らす、ごく普通の料理が得意な高校生のはずだった。入学初日に高校生活の案内のために詰め込まれた講堂で壇上に立った美貌の理事長・木ノ花あざみから問題がだされ、答えるように命令される。幼い頃の夢が名探偵だった修と、すべて勘で答えた幼なじみの椎は、全問正解して理事長室に呼び出された。そこであざみの手によって作られた組織に、二人もメンバーになるように強要される。それが「本格推理委員会」で、学園内の事件を解決するのが役目だということだった。さっそく小学部の音楽室にある音楽室に女の幽霊があらわれたという事件の真相を探りに、委員会のメンバーに引っ張られるようにして乗り込んでいく。

人物に深みがあるのではなく、キャラが立っている作品。読みながら人物を想像すると、実写ではなくアニメが思い浮かぶような感じ。それにジャンルでいえばラノベだから、ミステリとして読むのではなく、キャラ小説として読めば面白く読めると思う。ざっと登場人物たちを紹介していきます。

主人公の修は妹思いで料理が得意な少年。妹のミアはお兄ちゃんにべったりなロリコン好きには堪らない存在。幼なじみの椎は大阪色まる出しで大雑把だが勘がするどい少女。椎の妹・梢は姉とは正反対のクールな少女。委員会の委員長・桜森鈴音は頼りなげに見えるが学内一の頭脳をもつ美少女。もう一人のメンバーである楠木菜摘先輩はカラテ部エースで学内最強の美少女。女理事長のあざみ先生は権力を振り回すわがままな美人。そして修の同級生で、ニヒルな響サンと下ネタ好きの虎スケ。幽霊に固執する眼鏡の小学生の美咲とツレの美少女・杏子。

登場人物は多いのだが、とにかく個性的だからすぐに覚えることが出来る。彼らがバタバタと騒いだり、はちゃめちゃなやり取りをするのだが、一つ一つ紹介するのは無粋なので止めておきます。ミステリ要素もありますが、いわゆる学園ミステリなので、そんなに複雑なものではなく、幽霊を見たという些細なことを調べるだけ。かといってこれがつまらないわけじゃない。むしろ分かりやすくて面白く読めた部類に入る作品だろう。ただ、主人公のぐずぐずぶりにはイラッときましたが。

自分も含めたオタク層に喜ばれるような作品だと思うのだが、年配者にはさてどうだろう。読み手を選ぶような萌え系の描写が多々ありましたが、楽しい時間を過ごすことが出来ました。こういうの、わりと好きです。

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その他の作家
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    2007

11.21

「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター」五十嵐貴久

1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター
(2007/10)
五十嵐 貴久

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わたしの家は、ダンナの幸輔、わたしこと美恵子44歳、ムスコの真人の三人家族。今まで大きな問題もなく、平和で穏やかな毎日だった。しかし1995年は最悪の年だ。一月の阪神・淡路大震災。三月の地下鉄サリン事件。そしてムスコの高校受験失敗。中学生浪人になったムスコは何を考えてるかわからないし、ダンナは家庭のことは干渉しないがポリシーだし、母親の悩みはつきないのだ。

そんなわたしが、フトしたことがきっかけで、コンビニのバイトを始めた。そこで毎日がつまんないという理由で万引きをする雪見34歳を捕まえ無罪放免し、その話を腐れ縁の幼なじみであるかおりに話すと、雪見をいきなり呼び出し、何故かカラオケをして意気投合。そしてかおりの「バンドがしたい」という一言でバンドを組むことになり、メンバー募集のチラシをコンビニにはると、ギターとベースをやっていたという新子46歳がやってきた。ずぶの素人3人と経験者一人の、当面の目標は、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を演奏すること。彼女たちは楽器を買うことから始めるのであった。

ホップ・ステップ・ジャンプでいうところの、ホップがやたらと助長すぎる。美恵子の主婦の悩みや、かおりの性格の問題点や、雪見との出会いなどが描かれているのだが、こちとらバンド物を期待しているので、はっきりいってイライラが溜まる。そして中盤あたりになって、やっとバンド物らしくなってくる。

彼女たちがやりたい曲は、誰もがイントロを聞いたことがある「スモーク・オン・ザ・ウォーター」という有名な曲だ。《ジャッジャッジャー ジャッジャジャジャーン》というあれ。聞けるところがあったので、リンクしておきます。「ここ」のベスト版の10曲目がそうです。ポチッとどうぞ。

ギターを担当することになった美恵子は、最初のうちは弦を押さえる指の痛さに泣いていたが、バイト仲間である石川くんの親切な教えもあって、ゆっくりながらも上達していく。キーボードを担当することになったかおりは、ピアノ経験者ということもあって上達も早い。ベースの新子は経験者なので弾けて当然。問題なのはドラムを担当することになった雪見で、リズム感がまったくない上に、置き場所や値段の問題があって安易に購入できないことだった。

これらは初心者なら誰もが通る道なので、自分も経験者なのですごく懐かしい。譜面をよめないし、コードも上手く押さえられない。さらに右手と左手の動きの違いに戸惑うのだ。ドラムに関しては本当にその通りだ。置き場所がまずないし、置けたとしても防音対策が大変。それにタムタムやスネアという太鼓、シンバル、バスドラムと、手足の動きがばらばらで、尚且つ一定のリズムをキープしなければならない。

やがて彼女たちもスタジオを借りての初音合わせをするが、雪見はカウントしか取れないし、美恵子は出だしのタイミングがわからない。さんざんな出来だったが、帰り際に美恵子はボーカルまですることを命じられ、彼女たちのバンドは曲りなりにもスタートする。

これもすごく懐かしい。個人でいくら練習しても、みんなが自分のことだけで精一杯で、周りの音を聞く余裕がなく、ごちゃごちゃの騒音にしかならない。バンドになると音楽にならないのだ。それらがやがて音になり音楽になって、バチッと決まったときは快感なんだけど、そこまでの苦労は経験者にしかわからないだろう。

彼女たちもある程度演奏できるようになると、人前でやってみたいとか、レパートリーを増やしたいとか、いろんな色気がでてくる。そんな色気がでてきた時に、他の曲を挑戦するとヘタなバンドになる。そこを新子さんがビシッとまとめていたのは、やるねえと感心してしまった。

その後、バイト仲間の石川くんが通う高校で、神戸の震災復興支援のチャリティー・ライブを開催することになり、参加自由ということなので、彼女たちはやるっきゃないと申し込むのだが、その石川くんが通っている高校というのが、美恵子のムスコが受験に失敗した学校で、これまでダンナやムスコにも、内緒でバンドをしていたことを打ち明けるときがくる。あとは読んで確かめてください。ダンナさんがとにかくカッコイイんだ。

大好きなバンド物の作品だということで長々と書いたが、自分と重なる部分が多々あったので、普通の方より楽しみが多かったと思う。その辺をしょっぴいても、読んで損はない、とお薦めしちゃいます。いやー、楽しかった。

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五十嵐貴久
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    2007

11.21

「初恋よ、さよならのキスをしよう」樋口有介

初恋よ、さよならのキスをしよう (創元推理文庫)初恋よ、さよならのキスをしよう (創元推理文庫)
(2006/09/20)
樋口 有介

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柚木草平は元警視庁の刑事だったが、ある事件をきっかけに退職し、現在は刑事事件専門のフリーライターとして生計を立てる一方、探偵としても活動している。妻の知子とは三年前から別居状態なので、一人暮らしというのも、「侘しくて、案外にいい」と気ままに過ごしている。妻の元に引き取られた娘の加奈子とは、月に一度顔を合わせる約束になっているが、その約束はほとんど守っていない。

前作「彼女はたぶん魔法を使う」で娘の加奈子と約束した、カモノハシを見にオーストラリアへ行く代わりに訪れたスキー場で、柚木は高校時代の初恋の人・実可子と二十年ぶりにばったりと再会する。かつての柚木は同級だったとはいえ親しく口をきくこともなく、男たちに囲まれている実可子を遠くから眺めるだけだった。彼女は以前と変わらない美貌のまま、高級雑貨店のオーナーをしていたが、それから一ヵ月後、柚木は実可子が何者かに殺害されたことと、彼女がスキー場から帰ってすぐに、「自分になにかあったら柚木さんに相談するように」と、柚木の名刺を娘の梨早に渡していたことを、彼女の姪の佳衣から聞かされた。彼女はそういうことが起こるかもしれないと、一ヶ月前から予測していたのか。柚木は佳衣の依頼を引き受け、かつて実可子と仲良しグループだった同級生たちと、久しぶりに再会することになった。

一言二言多いのではなく、三言四言と余計な口をきく柚木。彼が美女にうつつを抜かしながら活躍するシリーズ二冊目です。シリーズ物の感想は、前作と重複する部分が多いので難しい。いい女とのむふふな会話や、お年頃の娘とのやり取りなどは、前作のところで書いた。だから本書に限っての部分に触れていきたいと思う。

本書のヒロイン・佳衣は、大型のマシン(バイク)を乗り回す二十七歳の女性。大学でサンゴの研究をしている助手なのだが、前作のヒロインほど色気を感じなかった。まあ、個人的な好みですが。柚木との絡みも少なめで、あまり印象に残らなかったのが残念。

今回柚木が追いかけるのはかつて憧れだった同級生の死で、彼女と付き合いのあった同級生四人を疑って捜査していく。だから当然青春時代の思い出を振り返ったり、柚木の過去にも触れる。同級生たちは、大成功している者もいれば、身の程をわきまえて細々と暮らしている者がいる。そんな彼らのいつも中心にいたのが殺害された女性で、この二十年の間に彼らの生活に何があったのか、彼女に対してどういう思いで付き合ってきたのか、という、知っているがよく知らない人物の暗部を探っていく。それによって、表面しか知らなかった人物の裏の顔や、どろどろした内面が見せられていく。自分の中で美化した思い出を、自分の手で崩していくのはかなり怖いことだ。それらを表したのがタイトルの意味だろう。

本書は派手さはないが、自然な流れで読者を飽きさせることなく、最後まで読ませてくれる作品だ。そしてラストには、柚木と娘の加奈子とのとっておきのやり取りが待っている。出番の少ない加奈子ちゃんだが、とても爽やかな余韻を与えてくれる。娘が妻に似た仕草をするのって、父親はどんな思いで受け止めるのだろう。そんな事を思いながら楽しい読書が終わりました。


柚木シリーズ
「彼女はたぶん魔法を使う」
「初恋よ、さよならのキスをしよう」
「探偵は今夜も憂鬱」
「刺青白書」
「夢の終わりとそのつづき」
「誰もわたしを愛さない」
「不良少女」
「捨て猫という名前の猫」

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樋口有介
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    2007

11.20

「男は敵、女はもっと敵」山本幸久

男は敵、女はもっと敵男は敵、女はもっと敵
(2006/02/23)
山本 幸久

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三十六歳のバツイチだけどスタイル抜群のいい女、高坂藍子。フリーの映画宣伝マンとしてバリバリ働く彼女を中心に、彼女をめぐる人々を描いた連作短編集です。

「敵の女」
イベント会場でナチの軍服を身にまとい、戦争映画の前売り券を販売している藍子。そこへ彼女の前に訪ねてくるさまざまな人たち。老け顔で成金趣味の妹・麻衣子、キザで色男だと勘違いしているかつての不倫相手・西村、藍子にちょっかいをだそうとしている妹のダンナ・梨本。藍子の千客万来な一日。

「Aクラスの女」
グッズのデザインや製作をしている会社に入社して一年半。真紀はバイト時代から付き合いだした湯川とそろそろ籍を入れようというある日、かつて真紀から湯川を横取りして結婚までしてしまったあの女が、真紀のいる事務所に仕事のために訪れるという。あの女はとても魅力的で、女としての負けを素直に認める。だけどあの女のことは一生許せない。

「本気の女」
大学時代に同期だった元亭主は、六人目の浮気相手に本気になり、八重は息子の良太を引き取って離婚した。会社ではなんでも屋として働く八重は、飲み屋の席で入社したての西口から、浮気の見破り方を相談される。そこへ当の本人が女を連れてやってきた。そこで西口は彼女ではなく、自分が浮気相手だったと知る。

「都合のいい女」
吾妻は一年前の合コンで知り合った女と付き合っているが、自分がこの女を好きなのかどうかわからない。そんな彼がヒットしそうにない映画の試写会場で、招待客を待っていると、そこに現れたのはたった二人のお客さん。長生きしたもん勝ちと思わせる評論家の莉田翁と、かつてコンビを組んだことがあるフリーの宣伝マンをしている藍子サンだった。

「昔の女」
西村は藍子と結婚するつもりで、まずは結婚式の日取りを決め、式場をおさえ、新婚後のマンションを購入した。その上で、妻の八重に離婚しようと告げ、フリーの身になった。それからすぐ藍子のもとに走ると、藍子からはいまのカレシを紹介され、プロポーズはあっさり断られた。それ以来、西村はずっと一人で無聊を慰めていた。

「不敵の女」
世田谷映画祭の手伝いをすることになった藍子は、莉田翁をひっぱりだしてトークショーをしてもらい、吾妻に助っ人を頼んで忙しく働いている。そこへいつもと様子の違う妹の麻衣子、元亭主の湯川、吾妻の元上司だった宗方、元浮気相手だった西村の息子の良太たちが次々に訪れ、好き勝手にしゃべっていく。


山本さんの本をこれまでに四冊読んで、やっと気付いたことがある。個人的にですが、女性的な文章だとこれまで思っていたが、それはどうやら文章がやたらと「ひらがな」表記が多いことから、そう感じていたということだ。「ひらがな」の多さで、やわらかな雰囲気を演出していたことに、いまさらだが気付いた。

それとこれまでのように人物が薄っぺらいのは同じだが、他作品にあった笑えないユーモアや、狙いすぎてシラケさす手法が排除されていたので、スマートな仕上がりになっていた。だから愛想笑いのようなぎこちなさを感じずに、普通に読むことが出来た。よって、他の方は厳しい評価をしているのが多い中、これまで読んだ中で本書が一番好みかも。こんな意見があってもいいよね。

それともう一つ。チラッと他作品のキャラが絡んでいたが、ああいうのは他の作家さんに任せた方がいいと思う。それよりも、個性を強調している人物のはずが平面的で終わっているので、これら人物たちを立体的に見せるような努力をしてもらいたい。出てくる人物たちが、風が吹けば簡単に飛ばされそうで頼りないのだな。

褒めるはずが辛くなってきたので、今日はここまで。続く…?
だけど、期待感がある作家なのは確かなのだ。

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山本幸久
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    2007

11.20

「チューリップの誕生日」楡井亜木子

チューリップの誕生日 (ピュアフル文庫 に 1-2)チューリップの誕生日 (ピュアフル文庫 に 1-2)
(2007/09)
楡井 亜木子

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「バンドをやってみろ。ユーリにはベースが向いているな」
日本で最初のパンクバンドだといわれている「黒いキューリ」のヴォーカリストで、さまざまな伝説を持ち、現在は最も過激なライブハウス「キューリとミカン」のオーナーで、帝王として君臨している三原さんの一言で、大人の女性ばかりのロックバンド「チェルシー・ガール」に加入した高校一年生のユーリ。

十五歳の少女は、学校に行きながら週に三回か四回ライブハウスに出演する生活を過ごし、いつも寝不足で本当に忙しい生活とはどんなもんかを知る。少女が働いていることも、それが皆の憧れている仕事であることも、クラスメイトは知っている。彼女たちは、少し離れた所で輪を作るようにして、少女に接している。そしていつの間にか大人の世界にいることに慣れてしまったことで、同じ場所で同じ光景を見ている同じ年のクラスメイトなのに、少女にはもうバンドメンバーよりも遠い存在になっていた。

学校と仕事に追われ自分を見失いかけていた少女は、ある日、二十三歳のフジシマに出会い、二十一歳と偽って接するうちに、フジシマといることでしか安心感を持てないようになっていた。

突然大人の世界で毎日を過ごすことになり、一生懸命着いていこうと頑張っていると、周囲にいる同年代の子たちよりも早く大人に染まってしまった少女。そこで感じるのは孤独。しかしバンドメンバーとは年齢的に差があって、頼ることは出来ても同じ目線で語り合うことは出来ない。そこで感じるのも孤独。そんな孤独に明かりを灯したのが、フジシマとの出会い。

ただ一緒にいて、酒を飲んで、体を重ね、少女の帰りを待つだけの無職男。しかし少女は男といることで安らぎを感じ、メンバーとも共通の会話が出来るようになり、自分が大人になったと大きな勘違いをする。大人の世界と高校生という現実の狭間で翻弄されながらも必死に自分を持とうと食らいつく少女が痛ましい。だけど頑張れと応援したくもなる。

少女が加入したバンドのメンバーであるエミさんがすごくカッコいい。そしてライブハウスのオーナーである三原さんがとにかく渋い。彼ら魅力ある人物の中でも飛びぬけて良かったのが、単身赴任中の少女の父親だ。長期間離れ離れになっているからか、娘の成長に戸惑いながらも、純粋に娘のやっていることを応援してくれる。それに飲み屋に連れて行き、一緒に酒を飲みながらやり取りする会話が痺れるのだ。まあ、少女が未成年なので褒められたことではないが、こんな理解ある父親には憧れる。

楡井さんのとても綺麗な文章が、不安定な少女に命を与え、ひりひりした緊張感ある雰囲気を作っている。そして自分を大人と勘違いしてしまった少女の心をポキリと折ってしまう最後。それゆえに彼女の心の叫びもずしんと心に響きました。冒頭からラストまで一気読みをしてしまった、すごく素敵な青春小説でした。お薦め!

「夜が闇のうちに」が続編のようなので、こちらも読むのが楽しみだ。

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楡井亜木子
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    2007

11.19

「アクセス」誉田哲也

アクセスアクセス
(2004/01/16)
誉田 哲也

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ネットの基本料金がタダ、携帯の通話料もタダ。誰かを紹介して、その人が登録して仮契約になったら、本契約になりタダになるという謎のプロバイダがあった。従兄弟の加奈子の紹介で知った美少女の雪乃は、イケメン高校生の翔矢を誘って、このプロバイダと本契約をした。すると彼らの周りで次々と奇怪な事件が発生するようになった。

恋に臆病な普通の女子高生・加奈子。彼女の同級生が自殺し、その自殺をネタに少女を中傷する悪意に充ちた電話攻撃が、誰ともわからない相手から続けられ、少女は壊れる寸前まで追い詰められた。
天真爛漫な不良少女・雪乃。彼女はホッベにチュウだけの援助交際の相手から、自分のプロフィールと別の援交相手とのエッチ写真が、誰かわからぬ者から送られてきたと教えられ、そして自分にもさせろ、と迫られた。
ジャニーズ顔の女ったらし・翔矢。ヤクザ映画オタクの同級生が突然狂気し、母親を殺害して警察に指名手配された。その同級生が彼の目の前で付き合っている女性を殺し、次はオマエだと宣言してきた。

キーワードは携帯。そして契約してしまったプロバイダ。三人の少年少女は、見えない相手との戦いに挑もうとするが…。

前半は人物たちに何が起こったのかが紹介され、中盤からはがらりとストーリー展開が変わる。ホラーサスペンスというジャンルらしいが、ホラーやSFファンタジーはなんでもありの世界。本書でもそれは言えることで、ざっと説明すると、少女がプロバイダのサーバーの中に入ってしまう。いわゆるバーチャル・リアリティの世界に閉じ込められて、友達の助けを借りて脱出しようとする。平たく言えば、マトリックスの様なもので、本の表紙にある携帯から指が出ているイメージが、一番しっくりとくるだろう。

主人公が誰なのかという視点のややこしさは少しあった。雪乃の目線、翔矢の目線はわかるのだが、加奈子のストーリーでは、母親の目線で加奈子を見ている。これは中盤以降に意味を持って、前半部分では心配する母親の感情としては良く伝わるのだが、加奈子が脅える恐怖感というものが薄れてしまっていた。ここは加奈子の目線の方が良かったのかな、とは思った。

これまで誉田さんの刑事ものや、「ジウ」なんていう化け物小説を読んできたが、デビュー作である本書に原点があったことを知った。それは何かというと、簡単に人が死ぬこと。それもグロい方法で。日本刀で顎の下から上へ一突きなんて、ねえ。それに内臓がぐちゅぐちゅとか、よく考えるよな、まったく。あ~怖わ! ホラーよりもこれらグロい描写が一番怖かったつーの。

今では目新しいものではなくなった世界観で、少し散漫な部分もあったが、普通に楽しむことが出来た。ただ、帯の「クールな女子高生《雪乃》ファン急増中!」は、大げさだと思う。中盤以降ほとんど出てこないし、ラストには…ねえ。

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誉田哲也
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    2007

11.19

「人のセックスを笑うな」山崎ナオコーラ

人のセックスを笑うな (河出文庫) 人のセックスを笑うな (河出文庫)
山崎 ナオコーラ (2006/10/05)
河出書房新社

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表題作である「人のセックスを笑うな」と「虫歯と優しさ」が収録。

「人のセックスを笑うな」
十九のときにユリと出会った。彼女はオレの通う美術の専門学校で講師をしていた。そのとき彼女は三十九歳で、見た目も三十九歳だった。髪は長く真っ黒で、パーマをかけていたけれど、ほったらかしのぼさぼさで、化粧も口紅ぐらいしかしていないようだった。汚れたスモックを着ていつもニコニコ笑っていた。
突然近づき、そして突然去った年上の恋人と過ごした日々を描いた、第41回文藝賞受賞作、芥川賞候補作です。

「虫歯と優しさ」
伊東美咲似の歯医者さんに虫歯を治療されながら、恋人との出会い、初めて部屋に泊まった時のこと、別れが訪れたことなどを思う、女性の格好で日々過ごしている私。


ダンナがいるのに教え子に手をだすユリと、ぽっちゃりしたお腹がフェチの青臭いオレ。こんなカップルだけど、本人たちはいたって真面目に付き合っていた。だから笑わないでおくれ、という表題作と、オカマちゃんが可愛い歯医者さんに治療されながら、彼氏との過去を振り返り、別れの時がきたことを受け止める短編だ。両作品とも別れを描いたもので、年の差カップルとオカマちゃんが主人公だが、設定がそうであっても恋は変わらない、ということだろうか。

ちらっと本書に対する他のレヴューを見てきたが、作品だけでなく審査員まで結構酷評されていた。だけど、自分はそんなに悪くないと思えた。確かに人物設定がこれなので、共感なんて出来るわけもないが、相手が年上の女性ということで、必死に背伸びをしようとする若者の姿が良かったし、自堕落で垢抜けない女性だが、君のこと好きなんだよ、とサラッと言ってしまう淡白さがかっこいい。

それに、おっと思わせる表現が随所にあった。例えば、女の子は支えたりしない。気持ちがすぐ変わる。思っていないことを言う。そのくせ“察して“って言うのだ。こういう言葉を、女性である山崎さんから出てきたところが、やるねえ、と唸ってしまうのだった。

タイトルにインパクトがあるが、内容は結構ピュアで、文体も軽妙で読みやすい。ページ数も少なくてすぐに読めてしまうが、表題作だけでなく、同時収録の「虫歯と優しさ」も中々の秀作で、満足出来た一冊でした。

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山崎ナオコーラ
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    2007

11.19

「いつか、キャッチボールをする日」鯨統一郎

いつか、キャッチボールをする日いつか、キャッチボールをする日
(2007/10)
鯨 統一郎

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新島隆二は今年三十六歳になるプロ野球選手。東京レンジャースの代打要員としてそれなりに活躍をしている隆二だが、いつクビを切られてもおかしくない状況だ。二つ年下の妻の奈々子との間に、十年前に子どもができた。その息子の準も小学四年生になり、地元の少年野球チームで練習に励んでいるが、キャッチボールも満足にできないという有様だ。親子で練習してキャッチボールが上達しはじめたある日、息子が原発性心機能不全症の病気に犯されていることがわかり、余命が一年、と医師に宣告された。手術費用を捻出するためにも、まだまだ引退はできない隆二は、これまで以上に集中力を増し、チームをクライマックスシリーズ出場に導く。息子との約束は、クライマックスシリーズでのホームラン。そこに、明日の試合は、絶対に打たないでください、という一本の電話がかかってきた。

最近ではめずらしくない鯨さんの真面目系の作品です。しかしそこは鯨さんですから、真面目なだけで終わることなく、日本野球界の問題点や、選手の様々なデーターがみっしりと詰め込まれている。それも過去現在の選手が実名で登場しているという拘りっぷりだ。残念ながら野球にはまったく興味がないので、そうなんだ、という程度に留まってしまったが、野球好きなら小躍りするような作品だろう。

主人公は野球賭博に絡んだ事件に巻き込まれるのだが、ここで出てくるのが、どこやらで見かけたことがある刑事コンビ、大田黒と岩間だ。直情型の大田黒と冷静な岩間の二人が絡む作品は、真面目系の作品だという事だろうか。(ルビアンにも出ていた)

この作品はネタバレをしないとこれ以上は書けない。だから最後に一言だけ。お父さんとキャッチボールがしたい息子。息子とキャッチボールがしたい父親。彼ら親子が迎えるラストが切なくて、鯨さんではめずらしく涙しそうになりました。作品自体は捻くれたモノではなく、ストレートな作品です。野球に興味がなくても理解出来るように丁寧に描かれていましたが、やはり野球世代の方には、特にぐっとくる作品だと思いました。

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鯨統一郎
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    2007

11.18

「監禁」福田栄一

監禁 (講談社ノベルス フL- 1)監禁 (講談社ノベルス フL- 1)
(2007/06/08)
福田 栄一

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その紙切れはリサイクルショップに運び込まれた事務用机の引き出しの奥に入っていた。美哉は紙切れをゴミ袋に捨てようとしたが、その裏に何か文字が書き殴られているのに気付き、やがてその意味を知ると、ぞっと全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。そこには、「助けてくれ カンキンされている 警察にれんらくを」と書かれていた。

勤めていた小さな電機会社の先輩社員を口論の末に殴り倒し、独身寮を飛び出して一ヶ月になる泰夫は、三日間野宿した公園で、老婆に相談に乗って欲しい、と声をかけられた。千瀬と名乗った老婆は、このままだと姪夫婦に殺されてしまうかもしれない。一緒に住んで姪夫婦のたくらみを暴いて欲しいと言ってきた。

棗の母親に結納の席に来てもらおうと、義人と棗は実家にいた母を訪ね、そこで一泊する二人だが、明後日に祖父の誕生祝いが行われるということで、棗は残ることになり義人は別れて一人帰る。そして祖父の誕生日の夜、屋敷が全焼する火事が起こり、泊まっていた家族五人が焼死して、棗の行方がわからなくなってしまった。

時系列の違う三つの物語が進行し、やがて繋がっていくという、パズラー要素が前面にでたミステリです。山場といえるような大きなうねりはありませんが、三つのストーリーがどれかに偏ることなく丁寧に描かれている。この作品の持ち味は、読んでいくと、ここが繋がっていたのか、と徐々にリンクしていき、最後にバシッとピースが嵌まる気持ちよさだろう。こういった計算された作品の構成は福田さんの真骨頂ともいえる。それに、とにかく読みやすい。これも福田さんの特徴だ。

監禁というキーワードだが、読み始めは何のことやらさっぱり分からない。しかし後半になってくると、監禁というタイトルの意味が納得できるようになる。三つのストーリーがそれぞれに別の監禁に関わるのだが、それがやがて一つの事件に繋がっていく。そして冒頭や章の合間に挟まれていた意味が不明だった語りの文章が、読み終えたあとにぶわっと意味を持って生きてくる。これも福田さんの作品構成の妙だろう。

ワクワク感やカタルシスはあまり期待できないが、上手いなあと思えてしまうのは、福田作品では毎度のことである。この端正さがいま一つ伸びない欠点だろうが、今後も読んで行きたい注目株であることは間違いない。

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福田栄一
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    2007

11.18

11月19日 書店でお買い物

本は買ってたんだけどサボってた。なのでまとめてアップ。
この多さは気が滅入るな。


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お買い物
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    2007

11.17

「そこへ届くのは僕たちの声」小路幸也

そこへ届くのは僕たちの声そこへ届くのは僕たちの声
(2004/11/25)
小路 幸也

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植物状態になった患者に突然意識を取り戻させたり、あるいは患者さんからのメッセージを伝える者がいるという噂。その者の名は「ハヤブサ」
子供が誘拐されるが、一日後には何事もなかったように帰ってくる、おなじパターンの無意味な誘拐事件が日本全国で起こっている。犯人の名は「ハヤブサ」

記者の辻谷とノンフィクション・ライターの真山、元刑事の八木。彼らがこれらの謎を各々に追っている。中学生のかほりは友達の満ちるに、子供の頃から空のどこかから男の子の声が聞こえると打ち明けた。そしてかほりは大好きなリンが通っている、星好きな子供たちが集う天文台のメンバーになった。彼ら大人たち子供たちが、やがてある地点で合流したとき、「ハヤブサ」のすべてが明らかになる。

これは難しい。どこまで内容に触れてよいのやら判断がしづらい。ここからネタバレありです。極力ネタバレは控えますが、知りたくない方はご注意を。

まず冒頭から視点がころころ変わってしまうので、人物を捉えるまでが少し読みづらい。しかし一度捉えてしまえば、後は大人サイドのお話、子供サイドのお話、と別けて読んでいくことが出来る。かほりが聞こえているという「そらこえ」さんが不思議な設定なのだが、かほりも満ちるもそれが当たり前として捉えているし、大好きなリンが見えない相手としゃべっている姿を見ても、いつか本人に聞いてみたい、とその場は留まっている。やがて「ハヤブサ」にリンが関わっていることが明らかになり、大人たちと子供たちが天文台で合流し、これまで大人たちが追いかけていた謎が、特殊な能力を持った子供たちのネットワークによる、人助けだったことを知る。

ここで「ハヤブサ」から語られる、「遠話」というテレパシーのような特殊な能力だが、すべてが説明づけられずに、何故かわからないが子供時代だけの能力だ、と変に説明されていないのが良かったと思う。これは他シリーズの、のっぺらぼうに顔が見えてしまう少年や、死体を見つけてしまう少年とも同様で、分からないことは分からない、という小路さんのこだわりなのか、自分とはすごく相性が良かった。

ここまでのストーリー進行が本の中盤すぎぐらいで、そこからさらに大きな事件が起こってラストに向けて加速する。最後の展開は自分にとって結構好きなものでした。自分たちにしか出来ないことだから、と使命感を出して、難問に立ち向かっていく。少し切ないのだが、爽やかな余韻が気持ち良かったです。少し助長かなとも思える部分があったが、最後までじっくり読ませてくれる一冊でした。

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小路幸也
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    2007

11.16

「ららのいた夏」川上健一

ららのいた夏 (集英社文庫)ららのいた夏 (集英社文庫)
(2002/01)
川上 健一

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坂元ららと小杉純也が初めて出会ったのは、運動会のマラソンでのことだった。エースで4番の野球部員である純也は、今年も陸上部を抑えて断トツの優勝候補だった。それが中間点を過ぎて独走する純也の背後から軽快な足音が迫ってくる。部活に興味はなく、ただ走ることが好き、というららだった。二人は走りながら会話し、一瞬でお互いに恋に落ちる。ららは大好きな走ることで次々と奇跡を起こし、純也は共に走ることでプロ野球選手の道を駆け上がっていく。爽やかで切ない青春ラブストーリーです。

川上さんの青春モノは、出来すぎという言葉を呑んでしまうほどの圧倒的な力がある。
本書は純愛小説とスポーツ小説が見事に融合されている。

驚くべき走る才能を見せたららに、陸上部の監督が部活入りを勧めるのだが、ららはあっさりと断ってしまう。その理由がすごく良いのだ。「好きで走るってことは、好きな時に好きなように走りたいということで、だから、部活には向かない好きだと思うんだ。こう走れとか、これだけ走れっていわれて走るのはきらいなの。だから、一人で勝手に走っているのがいいんです」

この言葉の通りに初めて参加したロードレースでは、招待選手をぶっちぎりで突き放して独走するが、応援にきていた純也を見つけると、立ち止まって話し込むし、ゴール寸前に海で溺れている子供を見つけたら、コースから外れて子供を助けに行ってしまう。順位であったり完走することがららのゴールではなく、気持ち良く走ることがららのゴールなのだ。

そして陸上部のキャプテンに誘われて参加した駅伝、純也と一緒に走った初めてのフルマラソン、純也の夢が実現して離れ離れになって走ることになった東京国際マラソン。ららはどこで走ろうが、舞台が大きくなろうが、走ることが楽しいだけ。周囲の大人たちがいくら騒ごうと楽しく走るだけ。

そんなららだが、勘の良い方ならタイトルを見ただけでラストがどうなるのかに気づくだろう。だけど、じっと目を瞑ると、ららが笑顔を浮かべて、楽しそうに走っている姿が思い浮かぶ。スッスッ、ハッハッ。ららの息遣いまでもが聞こえてくる。ららが起こした奇跡と感動が読者の心にじんわり沁みてきて、そしてラストは大泣き。すごく感動した一冊でした。

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    2007

11.15

「ルビアンの秘密」鯨統一郎

ルビアンの秘密 (ミステリーYA!)ルビアンの秘密 (ミステリーYA!)
(2007/06)
鯨 統一郎

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八年前に、当時小学三年生だったレイと母親を残して、植物学者である父親が家を出た。そして今、レイは高校二年生になり、母親の教育に対する過度な期待に押しつぶされそうだった。そんなレイは、今日こそケリをつける、と別居を続けているのに、まだ籍を抜かない両親に痺れを切らして、勝手に離婚届けを持って八年ぶりに父親に会いに来た。すると部屋の中には胸に刃物をつきたてられて倒れた父親の姿が。父はレイの目をハッキリ見つめて、「ルビアン」と一言漏らして息を引き取った。

いつも奇抜なことをする鯨さんだが、一応まともなミステリになっている。主人公が追うルビアンという謎の言葉。父の葬儀に顔を出した謎の女性。銀行員を騙って現れた謎の男。貸金庫から出てきた十万円相当の株の明細書。父が買っていた北海道の原野。新宿中央公園から少しずつ姿を消すホームレス。幼い頃に父と何かを約束していた記憶。

これらの謎を少女が追うのだが、やっぱり鯨さんだから普通とはちょっと違う。悪役チームが早い段階で登場し、名前も行動も露わにして、主人公たちと同時進行で悪事を起こす。そして少女が身近に迫ってきたと知ると、「目障りだ、消せ」なんてアニメちっくなセリフを吐く。自分が児童書をよく読んでいるので思うのだが、鯨さんはこっちの方面の作品に向いているのかも知れない。

主人公の少女はたった三人だけの部活、野草研究会に所属している。可愛らしい顔をしていつも明るい今針山彩。背が高くてイケメンだが、冗談好きな高任慶一。顧問の猪鼻先生。彼らと一緒に公園へ行き、さまざまな野草を目当てにフィールドワークをして、あれこれと語り合う。これらは何も関係ないような場面だが、実は…、というところが何となくわかってしまうが面白かったです。

他にも、先入観に囚われた大田黒と冷静な岩間の刑事コンビや、父の勤め先の同僚である優しい陳正行と怪しい西潟沙都美、途中で知り合うことになるジャナリストの永田や、元ホームレスで社会復帰した大仏、といったキャラたちが少女の助けになり、怪しい行動をして疑心を生む。

事件自体はそんなに難しいものではなく、ルビアンの意味もわりと早い段階で想像出来る。ただ、悪役チームのスパイが少女の身近にいて、その正体が明らかになるまでは、結構鯨さんのいいように振り回された。ラストも爽やかで悪くないんじゃないでしょうか。たまにはこういうまともなミステリも読みたくなった一冊でした。

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鯨統一郎
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    2007

11.14

「天才探偵Sen-公園七不思議」大崎梢

天才探偵sen―公園七不思議 (ポプラポケット文庫 63-1)天才探偵sen―公園七不思議 (ポプラポケット文庫 63-1)
(2007/11)
大崎 梢

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七不思議って、知ってる? ぼくの住んでる町には、公園にまつわる不思議があるんだ。ひとつの公園にひとつずつ、ぜんぶで七つ。いつからどうして広まったのか。なぜこの町なのか。

小学校六年生の渋井千は、幼なじみの香奈に絵を描いてもらい、同じく幼なじみの信太郎に文章を書いてもらって、学校で壁新聞を作っていた。そして次の壁新聞のテーマは多数決の結果、学区内にある公園の七不思議に決定した。

公園の七不思議とは、
第1公園:ひとりでに動き出すぶらんこ
第2公園:すべり台の下にひそむ怪人
第3公園:遊び相手の顔が別人に見えるシーソー
第4公園:赤い血のような水のでる水のみ場
第5公園:真夜中、カンカン音がするジャングルジム
第6公園:吸血もぐらの現れるてつぼう
第7公園:死体の埋まってる砂場

自分たちより小さな子供たちが、安心して遊べる公園を取り戻そうと、少年たちが噂を追っていくと、五年前の事件が現れ、さつき町の七不思議は大きな事件に繋がっていたことを知る。やがて宝探しも加わっていく、というお話です。

まずは少年たちを紹介しておこう。
主人公である千(せん)は、さつき小はじまって以来の天才児。テストはいつも満点。成績は学年一。地域の診断テストも決まってトップ。そして保険の万希先生にあこがれているオマセくん。
香奈は、騒々しくて、偉そうで、可愛げゼロ。だけどクラスのみんなは、バンビみたいに可愛いという、しっかり者で活発な女の子。
信太郎は、王子さまのような見た目で、気が弱くて臆病な男の子。むかしイジメられていたところを、千がかばってからは、いつも千にくっ付いて言いなりになっている。

彼らが公園の噂や過去の事件を追っていくのだが、一番イメージしやすいのは、マンガの「名探偵コナン」かな。小五郎の方のストーリーではなく、コナンくんや歩美ちゃんたちが活躍する少年探偵団の方がかなり近いと思う。出てくるヒントに少しずつ気付いていき、彼らの町で何が起こったのか、何が起きているのか、と謎の真相近づいていく。

児童書なのだが、本書がこれまでよりも一番ミステリとして良く出来ていたと思う。大崎さんって児童書向きの作家かも。わかりやすい謎に、宝探しのワクワク感。そしてラストの盛り上げ方も上手かったし、気持ちがいい適度な余韻も残る。本書を読んで、自分の中でかなり大崎さんの株が上り、今後シリーズ化するみたいなので、読んで行きたいと思えた一冊でした。

大崎さんを読んで、苦言を言わなかったのは初めてかも。


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大崎梢
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    2007

11.13

「彼女はたぶん魔法を使う」樋口有介

彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)彼女はたぶん魔法を使う (創元推理文庫)
(2006/07/22)
樋口 有介

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何故今まで読まなかったのか、悔やまれる作品だ。自分のバカ、バカ、おバカーー。

10歳の娘・加奈子と、マスコミなどで健啖家として有名な知子とは別居中の柚木草平は、一応刑事事件専門のフリーライターということになっているが、警視庁の特捜にいたときの元上司・吉島冴子から回ってくる事件の調査で食いつないでいる。今回冴子から持ち込まれたのは、女子大生の轢き逃げされた事件。さっそく依頼者である被害者の姉・島村香絵を訪ねた後に、被害者の友人たちに訊き込みを開始する。すると柚木の調査が進むうちに、話を聞いた被害者の同級生が殺害されてしまった。

事件自体はそんなにややこしいモノではない。出てくるキャラたちの味付けもしっかりしているし、ちょっとトレンディな雰囲気で、ストーリー展開もスマート。その中で光るのが、主人公である柚木が繰り広げる会話だ。それもいい女たちとのナンパちっくな軽妙な会話や、お年頃になってきた娘との会話など、粋なユーモアが絶妙で、読み始めてすぐに“好き!”となった。とにかく読んでいて心地良いのだ。ニヤニヤと笑みを浮かべたまま、次のページを捲るのが止められないつーの。

三十八歳の主人公が出会う女性は、いい女ばかり。うら若き近眼美人の夏原祐子は、近眼ゆえに顔を近づけ、じっと見つめながら主人公と会話をする。こんな会話をいい女としたーい。羨ましい限りなのだ。でも実際に顔を近づけて見つめられたら、モジモジしてしまうだろうな。小せえぞ、自分。

ここには三十路を超えた男性が持ってしまう夢がある。そして、女性との会話の進め方や、ナンパの極意?がてんこ盛り。これらを参考に、明日から薔薇色の生活をレッツ・エンジョイ、なんてとても出来やしないが、それらもろもろがスパイスになっていて、作品にラテン系の陽気さを与えている。

事件の結末はあっと驚くようなものでは無いが、人間の欲望を巧みに絡ませ、展開だけでなくこちらもスマートな仕上がりだ。それに、柚木曰くところのサービスが充実している。これまで登場した人物たちへの、その後の配慮も実に細やかで、読者が気になる部分が丁寧に描かれていて、大いに満足感を与えてくれた。それに最後のオチも、ざまあみろって感じで素晴らしかった。

十九年前に出版された作品だがこれがビックリ、新しいのだ。新刊として発売されても違和感を与えないであろう。ミステリであり、ハードボイルドが苦手な読者(自分も含む)にも読めて、なおかつ面白い。男性なら柚木に憧れ、女性なら柚木に惚れる。とにかく最高に面白い快作でした。

お薦め!

あまりの面白さに、慌てて文庫の既刊をコンプしてしまった。
今後ちびちびと読んでいきまーす。

柚木シリーズ
「彼女はたぶん魔法を使う」
「初恋よ、さよならのキスをしよう」
「探偵は今夜も憂鬱」
「刺青白書」
「夢の終わりとそのつづき」
「誰もわたしを愛さない」
「不良少女」
「捨て猫という名前の猫」

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樋口有介
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    2007

11.12

「Run!Run!Run!」桂望実

RUN!RUN!RUN!RUN!RUN!RUN!
(2006/11)
桂 望実

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岡崎優は、幼い頃から陸上選手だった父の英才教育を受け、全国中学校駅伝競技走大会に三回出走し、自分の出した区間最高記録を走る度に塗り替え、全国高校駅伝競技走大会においても、三年連続区間最高記録を出した実績を抱え、目標のオリンピック金メダルの通過点として、S大学に入学した。

優が嫌いな言葉は、根性、気力、仲間。優がこの陸上部入ったのは練習するためだけ。傲慢で口のきき方をしらず、仲間と交流する気持ちはさらさらない。自分のために走るのだから、声援など無意味。応援を受けたから走るわけじゃない。君ならできるという言葉は必要ない。金メダルのために必要ないものは、いらない。岡崎優とはそういう選手だった。

ほんと嫌なヤツです。いくら走るのが速くても、絶対に友達になれない。こんな優に気軽に声をかけるのが、同級生の岩本。通称・岩ちゃん。邪険にされてもめげず(能天気?)に、声をかけ続けるすごくいいヤツ。

ここからネタバレしているかも。ご注意を。

そんな優だが、兄が突然ホームから転落して、電車に轢かれて死んでしまう。兄に異常なぐらい過保護だった母が壊れ、その母の口から兄と優の出生の秘密が語られる。遺伝子をいじって、母の欲しい頭のいい子供、顔のいい兄を産み、父の求めた長距離選手に向くように筋肉を増やした優をと。なんか記憶にあるなと思ったら、ガンダムの強化人間を思い出した。

母のいった一言で、メンタルなところからスランプになってしまう優だが、ここでもまた、自分の練習を止めてまで心配する岩ちゃん。さらに体調の悪い優の世話までやく。ほんと、なんていいヤツなんだろう。

やがて優は箱根駅伝の花の2区に選ばれるが、箱根ではDNA鑑定があると知り、これまでのキャリアを棒に振ってしまう恐れを抱き、優は出場辞退を決断する。そして監督コーチからは、補欠選手に選ばれた岩ちゃんのサポートを命じられる。そんな優の姿に、これまで不快感をあらわにしていたチームメイトが、優が変わったと勘違いをして、急にやさしくなったりする。こんな簡単に人が変わったと信じるなんて、S大陸上部の人たちは単純な人ばかり、とは思ったが。

岩ちゃんのサポートを口ではめんどくさいと言いながらも、優は岩ちゃんのダメな部分に、かつて父に付きっ切りで指導された幼い頃の自分を思い出す。そして、苦学生ゆえに睡眠時間を削ってバイトをしながらも、一生懸命走る岩ちゃんの姿に、優の何かが揺れだす。ここら辺から面白さがぐっと増し、箱根駅伝へ突入していく。

本書はスポーツをする姿に熱く感情移入する作品ではありません。未熟な考えのまま育ってきた若者の壁というか、一段上に登る姿を描いた作品だろう。たぶん比べられるだろう作品が二つほど思いつくが、それらとは別系統の「バッテリー」の方が近いのだと思う。

前半はさておき後半は面白く読めた。ただ残念なのは、DNAなんて出してこられても、馴染みがないのでイマイチ伝わって来ない。そこがこの作品の異色なところだ。

重い空気でストーリーは進行していくが、そんな空気を和らげるのが、岩ちゃんであり、コーチの一人である小松ボンであり、保健師のあさ美さんである。彼ら人物たちの配置の妙が、この作品の面白さを高める重要なファクターになっていた。

あえて作品名はあげませんが、こんな箱根駅伝があっても良いと思えた、一冊でした。

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桂望実
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    2007

11.12

「リンゴォ・キッドの休日」矢作俊彦

リンゴォ・キッドの休日 (角川文庫)リンゴォ・キッドの休日 (角川文庫)
(2005/05/25)
矢作 俊彦

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読んだ角川文庫版は、「リンゴォ・キッドの休日」「陽のあたる大通り」の二編が収録。

「リンゴォ・キッドの休日」
高台の洋館で高級クラブに勤める女の死体が発見された。そして米軍基地内の桟橋沖に沈んだワーゲンからは身元不明の男の死体が引き揚げられた。無関係に思える二人だが、同じ拳銃で射殺されていたことがわかり、非番だった神奈川県警捜査一課の二村永爾は、署長の岡崎からの電話で呼び出され、事件は公安部の扱いだが、公安の連中は不自然な状況にもかかわらず、彼らは自殺説で片づけようとしている。だから、独自に捜査をしてくれないか、と命じられた。

「陽のあたる大通り」
古い知人にたのまれ、二村は女優の浅井杳子と会い、彼女が脅迫を受けているという手紙を見て、プロの手口だと確信した。それと彼女が撮影している現場で、これから起こる事件を予告する電話を彼女は受けていた。そして彼女の撮影でエキストラをしていた女性が、暴行の末に殺された。

自分がまだ小学校に通っていない頃に書かれた作品です。だから携帯電話がまだなくて二村が公衆電話を使うシーンがあったりと、時代を少し感じさせる部分があるのはどうしようもない。だから年代を問うことはしない。だけど、かなり読みづらい文章と文体だ。主人公がキザっぽくてナンパぽいのは構わない。ただセリフがすべて上辺っぽい感じなのが嫌なのだ。それに二村がとる行動の描写が、いかにもハードボイルドです的なのが肌に合わない。なんか狙いすぎが気持ち悪かったのだ。

とここまで辛口で書いたが、熱狂的な支持を受けている、という部分はなんとなくわかった。ストーリーの展開やなんやかんやは現代に通じるものがあった。だけどやはり読みにくくて、全体的に居心地が悪い。

この感想を書く前に、ある場所で面白い意見を聞いた。この作家さんは自分らより一回り上の世代に好まれている、と。なるほど、と納得できた一言だ。今後このシリーズは読まないだろう。だげど、「ららら科學の子」は積んでいるのでチャレンジしてみたい。

アマゾンのレヴューは熱い。だけど、こんな意見もあるのである。

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    2007

11.11

「海辺の博覧会」芦原すなお

海辺の博覧会海辺の博覧会
(2007/08)
芦原 すなお

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来月で五十八歳になるという男が、突然死にそうになって、向った病院で医師に妙な注射をうたれて意識が遠のき、気がつけば、マサコ、トモイチ、アキテル、フミノリたち、懐かしい顔をした少年たちが、目の前に立っていた。男は昭和30年代の少年時代に戻って、生まれ育った海辺の町に帰ってきていた。

「海辺の博覧会」
少年が小学校の四年生で明日から夏休みという日、いつも遊んでいる松林にある砂地で友達たちと遊んでいると、おっさんたちがトラックでやってきて、その砂地に博覧会の小屋を建てだした。それと同じ頃、大学生の兄ちゃんと知り合い、博覧会が完成したら、一緒に見に行こうと約束した。

「へび祭り」
明日から神社の祭りが始まるという日。フミノリはへびに小便をひっかけようとするイタズラをしようとした。するとその夜、フミノリはすごい熱を出して寝込み、フミノリの父は外出したきり戻ってこなくなってしまった。さらに、祭りで小屋掛けしているへび娘のヘミちゃんがいなくなってしまった。

「青いことり」
栃若が盛り上がる相撲ブームが到来し、宿敵である港の子供たちと、相撲の対抗戦をすることになった。そんな大事なときに、トモイチが転校してきた女の子に恋をし、腑抜けになってしまった。マサコの提案でスケベ裁判を開きトモイチは元に戻るが、ある出来事がきっかけで、少年たちは相撲で絶対に負けるわけにはいかなくなった。

「子ども競馬」
ローマ・オリンピックで男子体操が金メダルを獲得し、単純な少年たちはオリンピックを目指して宙返りを練習する毎日。そんなある日、ゴクドレのゴクちゃんと親しくなり、競馬のすばらしさを聞かされ、競馬大会を開催することになった。丁度、アベベを見て走ることに熱くなった少年たちだが、宿敵である港の子供たちが参加させろと言ってきた。

「選挙犬」
少年たちの町で選挙が始まった。そして選挙があると、どこやらからやってくる選挙犬もやってきた。選挙犬には、その犬が気に入った候補者が当選する、という噂があった。選挙は大人の世界だけでなく、少年たちのクラスでも実施されることになった。級長を務めていた子が転校することになり、後任を選ぶことになったのだ。

「ごきげんよう」
少年らの住む海辺地区にあるグラウンドで、市制大運動会が開催される。少年らは千六百メートルリレーに出ることになるが、その前に二つの事件が起こった。一つは宿敵の港の子供たちを偵察に行ったフミノリが見つかってしまい、港が勝ったら子分になれと脅されたこと。もう一つは地域を一年中巡回していた片山のじいちゃんが、ボケたおした末にあっさり死んでしまったこと。そして、少年たちのリレーが始まる。

「あれーじょお!」
少年らが六年生になった年にベルリンの壁が造られ、少年達は脱出者と警備兵に別れたベルリンの壁ごこでドロンコになって遊ぶ。そこにマサコが子供会の水泳大会が開催されるという情報を持ってきた。彼らは海で一緒に猛特訓するが、フミノリは何を思ったのか、一人で海に出かけ、波にさらわれて溺れ、命はとりとめたが意識が戻らなくなってしまった。


自分の生まれる前の年代のお話だが、どこか懐かしさを覚える。小学生高学年の頃だったと思うが、その頃に初代ファミコンが発売された。その発売以前は、ここに出てくる少年たちのように、毎日ドロンコになって遊んでいた。何をあんなに一生懸命遊んでいたのだろう。おにごっこ、かくれんぼ、盗人と探偵、三角ベース、ザリガニ取り、坊さんが屁をこいた。他にも名前は忘れたが、毎日外が暗くなるまで遊んでいた記憶がある。それも近所の同級生だけでなく、友達のお兄ちゃんや、年の違う子供たち、女の子も混じって、いつも遊んでいた。現在は少なくなっただろう、そういうにぎやかな遊びが、本書には溢れている。

男勝りで勝気なマサコや、アキテルの三歳年下の甘えん坊のフミノリ、といった元気で個性的な子供たちが、いきいきと何事にも好奇心をだし、毎日が小さな冒険のように過ごしている。部屋にこもって遊ぶのではなく、自分たちの生まれ育った町を庭のように遊んでいる。そんな彼らの姿に懐かしいと思う反面、現代のメールをしながら歩く子供を思い浮かべて、複雑な思いを感じた。

それにしても、芦原すなおさんが描く昭和は絶品。ノスタルジックな雰囲気に、気持ち良く酔えた一冊でした。

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芦原すなお
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