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    2008

01.31

「林檎の木の道」樋口有介

林檎の木の道 (創元推理文庫 M ひ 3-6)林檎の木の道 (創元推理文庫 M ひ 3-6)
(2007/04)
樋口 有介

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高二の暑い夏休み、広田悦至は以前つき合っていた宮沢由美果が、千葉の御宿の海に身を投げて自殺したと知らせを受けた。事件当日、渋谷から彼女の呼び出しを断っていた悦至。渋谷にいたはずの彼女が、なぜ千葉の海に。だれもが自殺したと納得している由美果の事件を、再会した幼なじみの友崎涼子とともに調べ始めると、由美果の遺留品の中に、封を切っていない下着があったことを知り、彼らは事件が殺人だったと確信する。次第に明らかになる事件の全貌。自分たちの知らなかった由美果の本当の姿。切なくも爽やかな青春ミステリ。

主人公の広田悦至とヒロインの友崎涼子が、二人とも面倒な性格で変わり者。悦至は高校生とは思えないほどスカしていて皮肉屋でもある。涼子はしつこくて怒りっぽくてぶっきらぼうな少女。だけど二人をペアにするとこれが面白い。他作品と性格が被らないように、計算して人物が作られたのだろう。そして脇を固める人物たちも面白い。友達のマツブチくん、祖父さん、祖父さんの彼女の孝子さん、バナナ好きのお袋、お袋の彼氏の笹村さん。みんな個性的だが特にマツブチくん、祖父さんの二人に魅力があった。

柚木シリーズ以外の作品を読むのはこれで二冊目だ。これが前に読んだ「風少女」と、ストーリーの展開がまったく同じ。まず同級生の女の子が死んで、主人公がかわいい女の子と一緒に亡くなった彼女を知る人物たちから話を聞いてまわり、自殺だと思われていた彼女が身近な人物に殺されていたことが明らかになる。それらとともに本当の彼女がどんな人物だったかを知ってゆく。

まったく捻りがない同じストーリー展開だけど、これが面白く読めてしまうからあら不思議。それは主人公がヒロインや他の女の子を見る目線が少しエッチで、異性を意識する描写が瑞々しいからだ。今も昔もかわらない健全な若者らしく、ミニスカートの裾から見えるふとももが気になる。こういう見えそうで見えない焦らしが見事で、ここにチラ見の美学があるのだ。

本書の設定が真夏の暑い日で、とにかく暑そうで彼らの汗が伝わってくるのだが、あいにくと今は冬で寒い。これだけは読む時期を完全に間違えた。だけど夏を演出する小道具や素材などの扱い方が絶妙だった。こういうなに気ない文章や描写が、人物たちに色気を感じさせ、作品をより面白くさせる。そしてその色気に甘酸っぱさがあって、懐かしくもあり淡い気持ちにもなれる。

最後に少しだけもったいなかった点をあげて終わりにする。主人公が住む自宅ビルの屋上は、以前は和風庭園だったのだが、母の意向で現在はバナナ園になっている。そこで黒いデメ金を飼おうと、一度埋まってしまった池をスコップでせっせと掘り返している。その池も復元し、お祭りで黒いデメ金も手に入れた。しかしそこでプツッと切れて終わってしまう。池に二人でデメ金を放流する場面が欲しかった。その描写があれば、もっと夏が完成していたのに、とコタツに足を突っ込みながら思った。


TBさせて貰いました。「今日何読んだ?どうだった??」

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樋口有介
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    2008

01.31

1月に遣った書籍代金

個人メモです。

合計:7,802円


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自分への戒め
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    2008

01.31

1月に買った書籍

個人メモです。


空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)
(2008/01/10)
奥田 英朗

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瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫 き 21-5)瑠璃の契り―旗師・冬狐堂 (文春文庫 き 21-5)
(2008/01/10)
北森 鴻

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写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3)写楽・考 (新潮文庫 き 24-3 蓮丈那智フィールドファイル 3)
(2008/01)
北森 鴻

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12歳たちの伝説 4 (4) (ピュアフル文庫 こ 1-4)12歳たちの伝説 4 (4) (ピュアフル文庫 こ 1-4)
(2008/01/10)
後藤 竜二

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12歳たちの伝説 5 (5) (ピュアフル文庫 こ 1-5)12歳たちの伝説 5 (5) (ピュアフル文庫 こ 1-5)
(2008/01/10)
後藤 竜二

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4つの初めての物語 (ピュアフル文庫 (さ-2-1))4つの初めての物語 (ピュアフル文庫 (さ-2-1))
(2008/01/10)
さとう まきこ

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魔女の隠れ里 (講談社文庫 は 78-4 名探偵夢水清志郎事件ノート)魔女の隠れ里 (講談社文庫 は 78-4 名探偵夢水清志郎事件ノート)
(2008/01)
はやみね かおる

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バベル島 (光文社文庫)バベル島 (光文社文庫)
(2008/01/10)
若竹 七海

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阪急電車阪急電車
(2008/01)
有川 浩

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風が強く吹いている風が強く吹いている
(2006/09/21)
三浦 しをん

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お買い物
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    2008

01.30

「洗面器の音楽」藤谷治

洗面器の音楽洗面器の音楽
(2007/10)
藤谷 治

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「ふたつのピュアハート」という軽薄で凡庸な作品がベストセラーになった。しかし渾身作であったその後の二作品が不評に終わり、残ったのは小説への未練と多少の預金残高だった。私はフトしたことがきっかけで、商店街の奥にある店舗で古書店をオープンした。そして細々ながらも客商売をしていると、この世界には他人というものがあると、判りきっている常識を発見した。その他者との交流を描いた作品を書いてみたいと思い、編集者にデリヘル嬢を紹介してもらい親しくなった。その麻里を題材にした、娼婦が主人公の小説を書いていたある日、渋谷区内のホテルで身元不明の女性が全裸死体で発見された。それはかつて私が情事を重ねた娼婦なのか。私はその女性が連絡の取れなくなった麻里なのではないか、と恐れていた。

これは困った作品だ。作品について伝えるのが非常に難しい。まず第一章で主人公の私と麻里が出会い、第二章で身元不明の女性が全裸死体で発見され、第三章で麻里を題材にして書き上げた原稿を主人公(読者)が読み、第四章で麻里が恐怖していたヤマダという男が現れ独白し、そしてすべての謎が明らかにされぬまま物語は終わる。

ヤマダを名乗る男が語った話や、担当編集者の謎の行動やらが謎のままなので、もやっとしたモノが残った。だけどこれは作者の意図したものだし、この主人公ならこの終わり方もありかなと思う。現実と虚構が入り混じったような不思議な世界で、文学というよりも少し幻想的な匂いがした。

本書を読み終わってみても、作品のどこに中心点があるのかよくわからなかった。主人公の私なのか、行方がわからなくなった麻里なのか、主人公が書いた小説なのか、すべてが混濁していて捉えどころがない。とにかく変わった作品だ。唯一わかるのは、主人公のモデルが藤谷治本人だということぐらいか。

藤谷治氏の作品はすべて読んでいる。「アンダンテ・モッツァレラ・チーズ」のポップでラブな作品や、「恋するたなだ君」の不思議世界の恋愛作品や、「いなかのせんきょ」の講談調でストレートな作品や、「誰にも見えない」の乙女心を深く掘り下げた作品と、作風の幅がすごく広い。そして「いつか棺桶はやってくる」「またたび峠」の《つんつるてんの男》で新境地を開いたが、キャラ読みが大好きな読者にとっては、この新境地の世界を読み解くのがかなり難しい。できれば、以前の作品のように、軽く読める作品に戻って貰えるとありがたい。あくまで個人的な要望だけど。

ごちゃごちゃ書いたが、結局は藤谷治氏のファンだ。これからもずっとファンだ。ただ難しい本を読み込む力のないしょぼい読者なのだ。こういうしょぼいヤツでも絶賛できる作品を、次回作では期待したいのである。

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藤谷治
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    2008

01.30

「半落ち」横山秀夫

半落ち (講談社文庫)半落ち (講談社文庫)
(2005/09)
横山 秀夫

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妻を扼殺しました。現職警察官・梶聡一郎警部が、白血病で息子を亡くし、今度は自らの手でアルツハイマーを患う妻を殺害して自首してきた。温厚で礼を尊ぶ人情家。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの空白の二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完落ちしないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは。

W県警本部捜査第一課の志木和正警視は、取調べで梶の物語を読み取ろうとし、W地方検察庁検事正の佐瀬銛男は、県警の供述捏造工作を突き破ろうとし、東洋新聞W支局記者の中尾洋平は、県警と地検の対立を知ってスクープを形にしようと奔走し、梶の私選弁護人になった植村学は、名前を売るチャンスだと意気込んで接見に臨み、左陪席裁判官として審理にあたる藤森圭吾は、法定での茶番に激しい苛立ちを覚え、M刑務所で刑務官をする古賀誠司は、定年まであと一年なのに心の平穏を乱される。

梶聡一郎に関わる人物たちの目線を通して、自ら命を絶つことなく、自首した男の空白の二日間を追う。それぞれの人物たちにもドラマがあり、個人ではどうすることも出来ない上からの横ヤリに挫け、野心ある者は梶の澄んだ無垢な目と対峙して何かを思い、家族がアルツハイマーで苦しむ者は感情をどうにか抑える。数々の人間ドラマに引き込まれて、なぜ男が口を噤むのか興味が駆り立てられる。そしてラストで真相が明らかになったとき、深い感動で涙しそうになった。

直木賞落選の理由が、現実味に欠ける、だった。本なんて読んだ人が面白ければそれで良いわけだし、選考委員の好きな傾向に振り回されるのは変だし、本作以降も横山氏の人気が継続しているわけだし、結局は選考委員がバカを見ただけなのかも。だいたい作家が作家をこき下ろすこと自体がおかしい。出る杭は打つ? それとも足の引っ張り合い? 本書のラストに感動できないセンセイ方って、かわいそう。

読後の興奮が大きすぎて、本書の内容以外のところで、必要以上に熱くなりすぎたかも。重厚骨太で、しかも読みやすく、すんなりと世界に入っていけてとても面白かったです。帯に書いてあったとおり、震えました。

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横山秀夫
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    2008

01.29

「わたくし率イン歯ー、または世界」川上未映子

わたくし率イン歯ー、または世界わたくし率イン歯ー、または世界
(2007/07)
川上 未映子

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あははっと笑ってごまかすか、なんじゃこりゃーと困惑してみせるか、とにかく変わった作品だ。はっきり言って、どう書いても本書のことを伝える自信がありゃしません。

年齢やら性別やら記録やらとは別に、それらに左右されない、計算とか運動とか法則など、そういうものが体のどこかにある。普通は脳にあるとされるのが常識だが、それが脳では魅力がない。だからわたしは歯にしたい、というか、奥歯に詰まっていることにした。

その歯だけど、わたしは二十五年ものあいだ歯を磨いたことがない。それが原因なのか、虫歯や歯痛などの歯の痛みも知らないし、歯医者も知らないし、治療の経験もない。そこで求人広告を見つけたので、面接を受けて採用されて、歯医者でアルバイトをすることになった。

それがきっかけで、わたしはまだいもしない体内の赤ちゃんへ語りかける日記を書き始めた。職場では見習い医師の三年子(ミネコ)の仕打ちと、噛み合わない戦いを繰り広げ、家では会えない青木についてたくましく妄想を繰り返す。そんな毎日に、わたしが働く歯医者へ青木が治療を受けにやって来たことで、日常が一変する。

簡単に内容を書くとこんな感じの作品なのだが、わたしの語りがねちっこい関西弁で、頭がイッチャっていて、まともなコミュニケーションも皆無で、ある種で哲学的っぽくて、句読点が不規則で、リズムがあるのかないのか不明で、ぶっちゃけて何を言っているのかさっぱり分からない。

だけど青木が歯医者を出たあとからは、なんかよく分からないのだが、わたしの絶叫やそのあとの行動にものすごく勢いあって、ガツンガツンと自分の感性を殴られたような、強烈な迫力があった。これまで信じていたものが砕ける瞬間というか、壊れたわたしがさらに壊れていく刹那が、我が心をブワーンと揺さぶったのだ。

同時収録の「感じる専門家 採用試験」は、すごく詩的だった。昼寝から目覚めた女性が主婦とは何かと自問し、四時になればスーパーへ出かけ、妊婦を見て疑問を投げつける。これもよく分からないが、言葉遊びがすごく面白い。それに音楽を聴くような感じで、まるでメロディが流れているみたい。

本書は分かろうと読むのではなく、曖昧な感覚で読むといいのかもしれない。それでも読み手を選ぶかもしれない。だけど、上手く言葉に出来ない作品だが、こういう感性を刺激する作品は好きだ。分からないなりにも、なんとなく波長が合うのだろう。本書の関西弁が大阪人である自分にすーっと入ってきたのも大きな要因だと思う。

芥川賞受賞でマスコミの登場も増えたが、本書を読んでますます興味が出た作家だ。受賞作を読んでも、たぶんよく分からないだろうが、お気に入りの作家になる予感がした。

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川上未映子
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    2008

01.28

「A HAPPY LUCKY MAN」福田栄一

A HAPPY LUCKY MAN―長編小説 (光文社文庫 (ふ18-1))A HAPPY LUCKY MAN―長編小説 (光文社文庫 (ふ18-1))
(2007/03)
福田 栄一

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大学で絶対に落としてはならない国際法の単位だが、異様に甘い教授が入院し、その代りにこの大学で最も厳しい助教授が講義を担当することになった。法学部三年の柳瀬幸也は一週間でレポート提出という突然の難題に頭を抱える。

バイト先の蕎麦屋では、店の裏手にある会社からいつも来る常連客が、昼食時になっても誰もやって来ない。どこもかしこも老朽化した住処である東雲寮に帰ると、管理人がこれまた緊急入院。それによって寮長を務める幸也が管理人も兼任する羽目になった。さらに片腕の杉村は実習で北海道へいくことになり、彼女と連絡が取れなくなったので彼女の様子を見るように頼まれた。

さらに麻雀の音がうるさいと上級生同士が揉め、トイレの詰まり、蛍光灯の交換。それらはこれから始まるドタバタの単なる序章でしかなかった。はたして幸也はレポート書き上げることができるのか。柳瀬幸也の目が飛び出してひっくり返るほどに忙しい一週間の物語が始まった。

巻き込まれ型というか超お節介の主人公が、多くの問題を抱え込んでしまう福田さんお得意の大風呂敷を広げた作品。はっは~ん。これがデビュー作なのだが、すでにここから壮大な世界が始まっていたのね。他にも、ライバル寮との喧嘩騒ぎ、寮生を追いかけ女子大生が寮に押しかけて来る、バイク盗難事件、痴漢騒動、女子寮とのパーティー、田舎のじいさんがやってきた、などなど、大小さまざまな問題が主人公の一手にのしかかってくる。他人任せな人物たちにイラっとくるが、そんなの一々気にしてられないほど、問題が山積みなのだ。

こればけネタをバラ撒いて、いったいどう収束させるのだろうという不安。そんなことは福田栄一にとっては瑣末な杞憂だ、と読者はあっさりと思い知らされる。やっと一つの事件が片付いたと思ったら、またまた次の事件が起こる。そして連鎖連鎖。これがまさにぷよぷよのような無限スパイラル。

これは福田栄一の構成力あっての作品だ。そしてとにかくすごいの一言しか出てこない。個性的な魅力ある人物がたくさん出てきて、日常ミステリの要素もあって、さらに文章がとても読みやすく、疾走感も抜群。しかもこれがデビュー作だなんて、お・ど・ろ・き!騙されたと思って、本書を読んでみてはどうだろう。お薦めです。

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福田栄一
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    2008

01.27

「陽の子雨の子」豊島ミホ

陽の子雨の子陽の子雨の子
(2006/03/28)
豊島 ミホ

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私立の男子中学に通う夕陽は、担任のみゆき先生を訪れていたお姉さんと、なりゆきで下校することになった。すると、二十四にしては幼く見える雪枝さんが、別れ際に「メアド教えて?遊んでよ」と言ってきたので、メールアドレスを交換した。

二度と戻らない本当の家出を十五でし、雪枝に拾われて彼女の祖母の遺産である家に隠れ住んで四年になる聡。遠慮なく居座って三年が経った頃から、「アンタなんか捨てちゃおうと思うのよ。聡、大きくなりすぎたよ」と、雪枝は言い出すようになった。

そんな雨の子である雪枝と聡が寂しさを分ちあって住む家に、陽の子である夕陽がやって来た。少年たちと女性のひと夏の青春物語です。

さて、どう書こうか。上手く頭の中がまとまらない。困ったな…。

自分の可能性を諦めてしまった。ダメな自分のまま立ち止まってしまった雪枝は、家出をした聡を拾い、二人は流されるような日々を祖母の遺産で食って、だらだらと過ごしていた。そんな雪枝が気紛れで夕陽に声をかけ、聡のことを隠したまま、仲良くなった夕陽を我が家へ呼ぶ。

聡は家出をしてからほとんど外出をせずに、雪枝の家にひきこもり、成長もそこで止まったままの自堕落な生活を送っていた。そこへ現れたマトモな夕陽見て、かつて自分が幸せだったころのような彼の眩しさに苛立ちを覚える。

一方で、まともな少年の夕陽は、淡い期待にどきどきしながらも、ざわざわとした何かを感じ、雪枝たちに深く関わってはいけないと直感しながらも、少し気になって連絡を受けると家を訪問してしまう。

ここまで自分で書いていて、なんだかよく分からなくなってきたぞ。ようするに、停滞してしまった雨の子の二人と、きらきら光った陽の子が接触することで、雨の子は曇りの子になり、陽の子は陽の子のまま一段成長する。といった作品なのでしょう。

雪枝と聡の生活もなんとなく分かる気がする。自分の未来が見えずに、何をしたらいいのか、何ができるのかが分からずに、ただ楽な生活をだらだらとしてしまう。それに金銭的な心配がないなら、なおさらそういった生活が続いてしまうのも。だけど本質的にこのままではいけないことも分かっている。だけど前向きに生きるきっかけがない。自分の力でえいっと立ち上がれない。そんなところに夕陽が現れ、止まってしまった時計が少しずつ動き出す。

その点、夕陽は分かりやすい。この年頃って、若い年上の女性にはすごく特別な感情を持つ。同年代の女の子とは別次元といえるぐらいに違うのだ。性的なことも含めてあわよくばと思うし、化粧だったり、服装であったり、大人であることに憧れる。その大人と一緒にいることで、同級生より一歩先をいったような錯覚をしてしまうんだ。でもカタブツの夕陽は、そっちに行かずに留まるのだが。

作品的には現実感に遠いシチュエーションながら、上手く言葉が見つからずにもぞもぞしてしまったが、なんとなくこの作品の言いたいことは掴めたと思う。ただ自分のボキャブラリーのなさが恨めしい。ざらざらとした世界で、豊島さんにしてはすこしエッチで、それでいて読後感がいい。ちょっと不思議な作品だけど、彼らの少し成長した姿は清々しかった。

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豊島ミホ
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    2008

01.26

「阪急電車」有川浩

阪急電車阪急電車
(2008/01)
有川 浩

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ネタバレを注意しましたが、本人が気付かずにバラしているかも。

宝塚劇場で有名な宝塚駅から西宮北口まで、片道わずか15分の阪急今津線。えんじ色の車体にレトロな内装が個性的な車両が、兵庫県の南北をちょろっと走る。そんな今津線の各駅で乗客が乗り降りするたびに、何がしかのエピソードが繋がり、新たな物語が始まっていく。

征志が宝塚駅から隣り合わせで座った女性は、征志の側から一方的に見覚えのある人だった。宝塚中央図書館でよく見かけ、その女性を観察した結果、どうも好みの作家や興味の傾向が似ているらしい。征志が運命の女性と出合う。...「宝塚駅」

翔子が宝塚南口駅から電車に乗り込むと、呪い!?という男女の会話が聞こえてきた。五年も付き合っていた男が、翔子のコバンザメをやっていた女と浮気をし、できちゃった結婚をすることになった。不幸を願う新郎新婦に呪いの願をかける...「宝塚南口駅」

時江が孫娘と逆瀬川駅から電車に乗ると、純白のドレスの女性がドアの近くに立っていた。孫娘の花嫁さんの声に、その女性の目から涙。時江は彼女に話しかけ、励まされた女性が電車を降りたあと、孫娘の気をそらすべく、犬を飼おうと思うと告げる。...「逆瀬川駅」

翔子は老婦人にいい駅だからと勧められて小林駅に降り立った。駅で見上げるとツバメの巣。見るとあちこちにツバメの巣がかかっている。渡ってきたツバメが安心して巣をかけ、子育てのできる、いい町で、いい駅だった。翔子が途中下車して業を落とす。...「小林駅」

カツヤの看過できない暴言に、ミサは仕返し半分、心配半分で言い募った。するとカツヤが突然電車のドアをガンと三度も蹴った。向かいの女の子が泣き出すし、ミサは停車した仁川駅でキレた彼氏に置き去りにされた。ミサが別れの覚悟をする。...「仁川駅」

別れを決意したが、ルックスがめっちゃ好みやし、と心が揺らぐミサ。そこへ甲東園駅からにぎやかな女子高生が数人乗り込んできた。その中のえっちゃんが語るアホな社会人との恋バナに引き込まれるミサ。悦子が年上の彼の話を披露。...「甲東園駅」

圭一は女子高生の嬌声を聞きつつ、電車は門戸厄神駅でラッシュを向かえた。乗り込んでくる客に押され、圭一は同じ大学指定の教科書を持つ女の子にぶつかった。お互いにコンプレックスを持つ圭一と美帆が出合った。圭一の初めての恋の予感...「門戸厄神駅」

西宮北口は阪急神戸線と連絡し、西へ向かえば三宮(神戸)、東へ向かえば梅田(大阪)という、都会への中継ポイントだ。翔子の持つ引き出物がこの駅でゴミになり、ミサはえっちゃんたちをそっと見送り、圭一は美帆ちゃんを誘って初デート。宝塚から出発し、乗客を乗せたり降ろしたりしながら西宮北口まで到着した電車は、また新たな乗客をその車内に招きいれ、人数分の物語を乗せて、宝塚まで線路を走っていく。...「西宮北口」

そして、折り返し。「西宮北口」から「宝塚駅」まで、電車とともにミサ、悦子、圭一、翔子、征志たちのその後の物語が続いていく。ここは迷ったけど書かないでおこう。というか書きすぎたかも。

前半部分の電車の南下も面白かったが、後半の折り返してからの北上がすごーくとってもグレイトに面白かった。感謝の気持ちにニンマリとなり、人生の機微にカッコいい~となり、男の理性にキュンとなり、ベタな甘さにデヘヘとなり、常識ない集団をやっつけてヤッターとなり、温かな幸せにムフフとなった。良いーーっ!すごく良かったです。これは買って正解の本でした。

しかもサイン本だったりして。

有川浩1

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」


TBさせて貰いました。
Bookworm
今日何読んだ?どうだった??
Roko's Favorite Things

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有川浩
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    2008

01.25

「吉原手引草」松井今朝子

吉原手引草吉原手引草
(2007/03)
松井 今朝子

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出入り口は大門たったひとつ。お歯黒溝にぐるりと囲まれた三丁四方の遊郭の中は、思えばひとつの大きな舞台なのかもしれぬ。いずれも綺麗に着飾った女郎役を相手にして、お客人は皆われこそ天下の二枚目なりという心意気で舞台に立つ。色事の口舌や濡れ場はもちろん、惚れたあげくに生きるの死ぬのといった愁嘆場もあり。されどそれすべて仮そめの芝居だと思えば、下手な間違いはせずとも済むのかもしれぬ。

その吉原で一、二を争う花魁だった舞鶴屋の葛城が突然消えた。吉原に足を踏み入れた男は、舞鶴屋の見世番、番頭、新造、遣手、妓楼の主人、客など、関係者に聞き込みをし、葛城失踪の謎を追う。それと共に、吉原とはどのような場所であったかと案内する。第137回直木賞受賞作です。

隆慶一郎氏の「吉原御免状」が好きなので、吉原という異質な世界にすんなり入ることが出来た。吉原に住むさまざまな人たち。そのそれぞれの人生や仕事内容、そして彼らの語りによって、少しずつ葛城という花魁を肉付けしていく。彼女はどこからやって来て、どんな風に育ち、トップへ駆け上がり、そして何を考え、なぜ消えてしまったのか。

まず読ませ方が上手いと思った。そこにいない人物を他人の目線で語らせることで、葛城という女性を読者に想像させる。顔が見えずに煙に巻かれたままの葛城。吉原を代表する女性だったのだから、綺麗なのはもちろん、それプラスどんな魅力があったのだろう、同性から見てどう思われる女性だったのだろう。そして全盛のときに消えてしまった背景には何があったのだろうと。

ただ、直木賞受賞作にこんなことを言っては失礼だが、地味だった。インタビューに答えるそれぞれの人物たち。彼らが自分たちの人間ドラマとか生き様などを語るのだが、それが淡々としたもので、ぐいぐい読ませる勢いというのが欠けていたように思う。個人的なことだが、彼らのドラマにはあまり惹かれなかった。

だけど、葛城のことや、聞き込みをしている名の無き男の正体などは、興味をもって読む事ができた。まあ、読み終わってみると、二人とも想像の範囲内だったけど。花魁は男を上手くだますのが商売。そんな吉原という異質な世界でトップにまでなった女性。彼女はいったいどこへ消えてしまったのでしょう。ただ、華やかそうな吉原だが、一方では苦界という側面もあるのは事実のこと。

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その他の作家
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    2008

01.24

「世界が終わる夜に奏でられる音楽」楡井亜木子

世界が終わる夜に奏でられる音楽世界が終わる夜に奏でられる音楽
(2007/12)
楡井 亜木子

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また振られた。どうして?わけわかんない。最初のうちは有頂天なくせに、しばらくすると相手は必ずこう言うのだ。莉絵にはもう、ついていけない。だらしなさすぎる。私程度の女を持て余すなんて、この先ろくな人生じゃない。そんな気が強く恋人と長続きしない大学生の倉田莉絵の前に現れたのは、背が高く綺麗な目をした無口な男の子、谷耕太。中学二年生だった。

同じマンションに住む文子さんのところに遊びに行くと、彼がいた。親がいなくていまどき着る服に不自由な子供。それが突然二人で住むことになった。文子さんが仙台に引っ越すことになり、いちおう伯母さんのところに耕太はいるが、あれは育児放棄と言うより虐待ってやつだ。文子さんとの友情に答えるために、莉絵はあっさり同居を引き受けた。これからは私が、あんたを守ってあげる。いい男にしてあげる。ゆっくりと莉絵との暮らしに馴染んでいく耕太と、それを保護者の目で見守る莉絵。新しい愛のカタチの物語です。

いい。すんげえいい。大人たちから犬並の仕打ちを受け、かしこい犬みたいにしなくちゃ売られる、と思うに至った人格を形成してしまった耕太。弱々しく怯えた声、警戒心が強く人の温かさ優しさを知らずに育った耕太。一方、最初はかわいそうなひとりぼっちの男の子の面倒を見てあげなくちゃ、と気負っていたけど、耕太を預かっていた伯母で成金のくそばばあを見返してやる、よく泣く少年に物事や世間を教えていくうちに、たまにドキッとする質問をされ、答えることが出来ずに焦る日々。ある日、ふと振り返ればいろいろと自分も教えられていたと気付く莉絵。

莉絵はもちろん耕太を守ってあげたいと思い、耕太も男の子なら女性を守らなくちゃと思っている。他人の二人がお互いに思う気持ちが、すごく読者に伝わってきました。それに莉絵のバイト先の仲間がとてもいい人ばかり。莉絵のことを大切な仲間として接し、莉絵から聞いた耕太のこともよくわかってくれている。こんな優しさに溢れた職場ならいいな、と思った。

昨年からハマり出した楡井亜木子ですが、気付けば本書で5冊目を読了。この最新刊は特別にきらりと光っていました。ネタバレしたくなかったので、作品内容はあまり書かなかったですが、むちゃくちゃ好きな作品でした。エロさもないし、すごくピュアで、ぜひともお薦めしたい1冊です。読んで損なし。

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楡井亜木子
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    2008

01.23

「ひょうたんから空」銀色夏生

ひょうたんから空―ミタカシリーズ〈2〉 (新潮文庫)ひょうたんから空―ミタカシリーズ〈2〉 (新潮文庫)
(2002/06)
銀色 夏生

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三月。ここは、ナミコの家。小さな庭だが、リビングに面した南向きのぬれ縁の上に何かツル性の植物でも植えようか、と相談していると、家出中のパパがミタカの友達を名乗り帰ってきた。はじめて会った人に話すみたいに話すママ。ソファーにすわってかたまるパパ。「オカーサン、オレ、帰ります」のミタカの言葉に、「お友達も、お気をつけて」と送り出すすママ。それから岡田さん(パパ)は時々やってきて、みんなでひょうたんを作った。「ミタカくんと私」に続く、ナミコとミタカそれと家族のつれづれの日常小説。

ナミコ、ミタカ、ママ、弟のミサオ、友達の瞳ちゃん、瞳ちゃんの妹でミサオのガールフレンドのハナちゃん。そして新たに加わる、パパの岡田さん、瞳ちゃんのボーイフレンドの丸山くん、黒いねこのキキ、体の大きなチヨ、歴史の好きな坂本くん。みんなキュート。

庭に植えたひょうたんの成長と共に家族が再生していく。ただそれだけの、のんびりまったりしたふつうの日常。前作同様にかわいくて温かくて癒される~。

とやかくいいません。お薦めです。こちらもお値段340円と安―い。

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    2008

01.23

「ミタカくんと私」銀色夏生

ミタカくんと私 (新潮文庫)ミタカくんと私 (新潮文庫)
(2000/06)
銀色 夏生

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本棚整理をしている途中、この本と目が合った。あるわけないが、ムズムズしたので再読することにした。前からイチオシの本なので、再プッシュをしてみよう。再読です。

一見とっつきにくいけど、顔がいいから女の子にモテる。幼稚園から一緒だったという理由で、いろいろな人にミタカ君のことを聞かれたりもする。人前で無口なところは特だ。口は悪い。私の家に、ミタカ君は日常的にいついている。うちはママと中学生の弟ミサオ、恋人ができてパパは家出中。だからいつも四人で、ごはんを食べたり、テレビを見たり。

ナミコはなぜヒマなんだろうと思い、カッコいい男の人と出会いたいと夢見る。そして、バイト先でかわいい瞳ちゃんとなかよくなり、その妹のすごく前向きなハナちゃんとも知り合う。日々は平和に過ぎていき、これからも続いていく。ナミコとミタカのつれづれの日常小説です。

とにかく可愛いの。ナミコも、ミタカ君も、ママも、ミサオも、瞳ちゃんも、ハナちゃんも、文章も、本文イラストも、ぜえ~~んぶ可愛いの。のほほんとして、微笑ましくて、幸せな気分になれます。

あれこれいいません。めっちゃお薦めです。お値段も380円と安い。買っちゃって下さい。

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    2008

01.22

「ロンド・カプリチオーソ」中野順一

ロンド・カプリチオーソ (ミステリ・フロンティア 41)ロンド・カプリチオーソ (ミステリ・フロンティア 41)
(2007/12)
中野 順一

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デビュー作「セカンド・サイト」の続編です。

「タクト…泣いてた。一つだけ約束して。しばらくのあいだ、新宿西口には近寄らないって」バーでピアノ弾きをするタクトは、触れた相手の未来を瞬時に読み取ってしまう、特殊なビジョンという予知能力を持つ恋人の花梨からそう忠告を受けた。だが、単調で何の刺激もない毎日の繰り返し、この泥濘から引っぱり出してもらえるなら、どんな酷い目に遭ってもいい、と刺激なしでは生きていけない性格から敢えて西口に向かったタクトは、そこで一人の女性、トモミと出会った。

それがきっかけなのか、次々と厄介な事件に巻き込まれ始めた。世界的指揮者の父に500万を強請る腹違いの弟かもしれない男からの電話、アキラと共に心を許し合った仲間のコウジが不審な行動、二人組みのチンピラから襲撃を受ける。ヤクザの柳田もなにやら魂胆がありそう。そして突然の友の死。すべての背景に存在するものとは何なのか。花梨のビジョン、アキラの情報力を借りて、行動派のタクトが新宿の街を縦横無尽に駆け回る。

前作よりも数段面白かった。自分は本格ものでもキャラ読みしてしまうアホな読者だが、そんなキャラ読み読者にはピッタリの作品だった。後先考えずに突き進む主人公、彩りを与える花梨、魅力あるアドバイザーのアキラ、謎の女性のトモミ、怪しいヤクザの柳田、そしてゲイのマスター。

ミステリとしては、うーん、どうだろう。読みやすい文章だし、若者らしい淡白さと適度な熱さはある。だけどオチとしてはアンフェアな感じがした。これについては詳しく書くことが出来ないが、盛り上げておいてそんなのありかよ、と思った。もっと納得いく展開が欲しかったというのが正直な感想。

でも読んだことがないけど、石田衣良氏のあのシリーズが好きならハマるかも。今の若者が深く考えずに突っ走る疾走感とでもいうのかな、そんな勢いは楽しめると思う。というか勢いだけで読ませる作品なのかもしれない。

内容紹介で書いたことがすべて解決しなかった。本書のこの終わり方って、続編を指示していると取っていいのかな。少しフラストレーションが溜まった本書だが、続編があるのなら、そちらで埋めて欲しいと思った。あるのかないのかわからないが、続編を含めて次回作に期待したい。

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    2008

01.21

「風少女」樋口有介

風少女 (創元推理文庫 M ひ 3-5)風少女 (創元推理文庫 M ひ 3-5)
(2007/03)
樋口 有介

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赤城下ろしが吹き荒れる二月のある日、父親危篤の報を受け、六年ぶりに故郷の前橋駅に降り立った斎木亮は、駅舎を出たところで偶然、中学時代に好意を寄せていた川村麗子の妹・千里と出会う。そこで聞かされる、初恋の女性の死。昨年地元に帰っていた彼女の身に何が起こったのか。なぜ睡眠薬を飲んで風呂場で溺れたのか、麗子らしくない死に方に納得いかない斎木と千里は、中学時代のかつての級友たちに会い、彼女の死の真実を追う。

麗子は常識では考えられないぐらい綺麗だった、その彼女があんな死に方をするはずがない、という変な理由で行動し始める大学生の斎木亮と高校生の川村千里。ちょっとここに違和感を覚えるが、それ以外は面白かったです。淡くてほろ苦い記憶でしかなかった麗子。未だに引きずるほど一途に好きだった彼女。それが自分の虚像であったこと、まったく知らなかった一面を持っていたことを、斎木はどんどん知っていく。だけど彼女はもういない。

これってすごく切なーい。自分なら耐えられないと思う。だけどその隣にはいつも千里がいて、弱みを見せることが出来ない。その千里が涙をながして無防備に弱みを見せるからだ。そして毎日隣にいて一緒に過ごす千里が、どんどん自分の中で大きな存在になっていく。そんな千里だが、普段は明るくてすごく魅力があった。それと対をなすのが斎木の妹の桜子。あだ名はつぼみ。

樋口作品にいい女は付きもの。それが本書ではかわいい女の子になっている。年下の明るい女の子と、兄をイジめるがかわいくてしかたがない妹。この作品が書かれた時代には萌えという言葉は生まれていないが、まさにそれ。主人公は萌え系女子の二人に囲まれて、毎日を過ごす。なんて羨ましいことだろう。しかも頭をなでなでしたり、からかってみたり。うん?これって少女マンガの世界に近くないかな。まあ、いいか。その少女たち二人との会話がすごく面白かった。これが樋口作品の一番の楽しみなのだ。

しかしこの主人公は大学生という設定なのだが、柚木草平なみにニヒルをきめている。柚木と違ってナンパではないが、実際にこんなスカした話し方をするヤツがいたら、自分なら絶対に敬遠する。でも二次元の世界ならカッコよく思えてしまう。そこが本の不思議なところでもある。そしてこのニヒルが最後までニヒルのまま終わる。あんなにかわいい千里に手を出さないなんて、こいつは渋すぎ。主人公の姉が島倉千代子の「人生いろいろ」が好きってのも渋すぎ。

柚木シリーズも面白いが、それ以外の作品も面白いことが、本書を読んでわかった。今年も樋口有介をどんどん読んで行きたい。というか、こんなに面白い作品を知らなかったのが、いまさらだが悔やまれる。復刊を踏み切った東京創元社はえらい! すごくお薦めしたい作品でした。

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樋口有介
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    2008

01.20

「狩人は都を駆ける」我孫子武丸

狩人は都を駆ける狩人は都を駆ける
(2007/12)
我孫子 武丸

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「ディプロトドンティア・マクロプス」の続編です。前作の内容を簡単に紹介すると、京都で探偵事務所を開設したばかりの私に依頼人が2名。「失踪した父を探してほしい」という大学教授の娘と、「カンガルーのマチルダさんを見つけて!」とわけのわからないことを叫ぶ美少女だった。捜査を始めた途端、私は暴漢に襲われる。すでに巨大な陰謀の渦中にいたのだ。そして、巨大化したカンガルーが京都の街を暴走する、なんじゃこりゃーという作品。

さて本書はその前作の前日譚。個人事務所を開業してはや六ヶ月。しかしもはやわずかばかりの貯えも底をつきそうで、アパートの家賃も、二ヶ月滞納している。この事務所を畳んで、アルバイトの口を探すべきか。そんな私立探偵の元へくる依頼はペット絡みのものばかり。動物嫌いの探偵が、京都を舞台に活躍する五編を収録。

「狩人は都を駆ける」
事務所の向かいで犬猫病院を開業している獣医の沢田。彼がでかいヤマだ、とにかくここへ行けとメモを置いていった。メモを頼りに訪れてみると、威厳たっぷりの老婦人・藤井貴美子が待っていた。そして見なさいと渡された手紙にはこう書かれていた。「雷蔵はあずかった。返してほしかったら今日中に一千万円用意しろ」と。その雷蔵とは、ドーベルマンの犬だった。

「野良猫嫌い」
沢田の紹介でメインクーンを飼い始めたという、ホステスのみひろが訪ねてきた。彼女の住まいの近くで、このところ猫たちがひどい殺し方で殺されているという。犯人が捕まらなくてもいい、期限付きで様子を見回って欲しいという依頼を、直に生きた猫が相手じゃないからと引き受けることにした。

「狙われたヴィスコンティ」
事務所にやって来たのは、最初から鼻持ちならない雰囲気の女性だった。その彼女の所に、今度のドッグショーへの出場をとりやめるように、という脅迫状が送られて来たとのこと。貧すれば鈍する。私立探偵はシーズーのヴィスコンティをボディーガードすることを引き受けてしまった。


「失踪」
ツケが利くスナックのバーテンダーから相談を持ちかけられた。知り合いの女性が飼っていた猫がいなくなってしまった。どうやら彼女の家の近所で、白いワゴン車の男が猫さらいをしているという噂が事実広まっている。確実に不幸なことに、このところまた依頼のない期間が続いていたので、引き受けることにした。

「黒い毛皮の女」
雨の夜、黒い影が見えたような気がして、急ブレーキを踏んだ。黒い毛皮をまとった彼女をはねてしまったのだ。叩き起こした沢田によって彼女の命は救われた。彼女は推定二歳。避妊手術もちゃんとした女の子。ずっと屋内で大事に飼われていたであろう黒猫だった。行きがかりで動物嫌いの探偵は、完全看護の臨時パパをするはめになってしまった。


前作と違ってマトモな作品でした。軽く読めてユーモアもある。でも手加減する気が微塵もない子供の怖さや、後味の悪いものや、苦笑いしてしまうものや、じーんとくるものという風に、捻りのあるオチがそれぞれにある。一本調子で終わっていないのが、この作品を飽きさせずに読ませる面白みであり、我孫子風の味付けだろう。

久しぶりの新刊、存分に堪能することが出来ました。筆の遅い我孫子センセイですが、次回作を気長に待ちたいと思います。単純な言葉ですが、面白かったです。

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我孫子武丸
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    2008

01.19

「笑う招き猫」山本幸久

笑う招き猫 (集英社文庫)笑う招き猫 (集英社文庫)
(2006/01/20)
山本 幸久

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これで山本幸久さん、コンプです。で、なぜデビュー作が最後まで残っていたのかと言うと、唯一買って積んでいたから。借りた本は読んで買った本は読まない。これじゃ~ダメなのだが、図書館に行くとついつい借りてしまう。そんなことってありませんか?? おっと、余談はここまで。

男と並んで愛誓うより、女と並んで笑いを取る、それが二人のしあわせなのよ♪
出会って八年、コンビを組んで二年になる、駆け出しの漫才コンビ、「アカコとヒトミ」。超貧乏で彼氏なし、初ライブは全く受けずに大失敗。おまけにセクハラ野郎の先輩芸人を殴り倒して大目玉。今はぜんぜんさえないけれど、いつかは大舞台。体に浴びます大爆笑。夢は武道館。そしてカーネギーホール。ノッポで常識派のヒトミ(ツッコミ)と、豆タンクで自信家のアカコ(ボケ)。性格も暮らしぶりもまさに正反対。そんな二十八歳の女性漫才コンビの、漫才にかける熱い情熱を描いた作品です。

すっごい面白かったです。二人の漫才のネタもと言いたいけれど、こちらはベタすぎかな。こんな読み方でいいのか分からないが、自分はキャラ小説として読みました。目線であるがゆえに一歩引き気味のヒトミ。陽気で自分たちは面白いと信じ込んでいるアカコ。アカコの祖母で千里眼の持ち主の頼子さん。二人をサポートするマネージャーのデブヨシ。コワ面で痔もちの事務所社長。売れない芸人の乙と娘のエリちゃん。美の追求者のメイキャップ・アーティスト白縫。とにかくみんな個性的で魅力的。

アカコとヒトミの二人が、まったく面白くないと貶す、何故かアイドルのように若い女の子に支持される「金ピカラッキョー」というコンビが登場する。この彼らがネ○チューンを代表とする東京芸人とダブった。個人の好みだから好き嫌いはあると思う。でもあれで面白いの??と同じような適当さが許されている東京のお笑いが信じられない。それにバカがモテはやされるクイズ番組も観る気がしない。本書でも触れているが、漫才師がテレビタレントで満足して、本業の漫才をしないのも面白くない。そんな現状が普通になった中で、漫才だけでやって行きたいという化石のようなアカコとヒトミに好感が持てました。

ラーメンズというお笑いの人?が、文庫版の解説をしている。このラーメンズがどうやらアカコとヒトミのモデルらしい。いったいどんなコンビなんだろうと検索したが、写真を見てもまったく知らなかったです。知っていますか??


TBさせて貰いました。「今日何読んだ?どうだった??」

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山本幸久
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    2008

01.18

「図書館革命」有川浩

図書館革命図書館革命
(2007/11)
有川 浩

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ああ、これで終わってしまうのか、と寂しさを感じている方に朗報です。シリーズスピンアウト「別冊 図書館戦争?」が今年四月に発売決定。しかも、タイトルの最後に数字が付いているということは、?、?と続くということ?? それに、同月にアニメの放送もはじまる。プチ情報はここまで。

敦賀原子力発電所が大規模な襲撃を受け、テロリストが壊滅されたその翌日、実際にカミツレの花を見たことが堂上の興味を強くしたらしく、笠原郁と堂上篤の二人は、カミツレのハーブティーを飲みに街へ出かけることに。郁はクローゼットを開けて大長考状態。何とか納得のコーディネイトになり、化粧も薄化粧で何とか無難にクリア。ふと時計を見ると、「キャ―――――ッ!?」待ち合わせに遅れるギリギリの時間だった。そんな二人の赤面デートの真最中に、緊急事態勃発の連絡が二人の元に。昨日のテロリストが参考にしたのではないかというほど事件に似たストーリー、その作品を描いた作者である当摩蔵人がメディア良化委員会に目を付けられた。そこで当摩先生を基地で匿うことが決まり、堂上班は彼の身辺警護を命じられた。

郁・堂上のバカップル誕生? 手塚・柴崎のキレ者同士の行方は? 小牧・毬江の恋の進展は? と大甘を期待するのだが、これまでと比べて硬い内容が多くを占めていた。図書館の自由というよりも表現の自由、メディア良化委員会が行う検閲を巡って、政治的な戦いを繰り広げてゆく。それも各章で一応完結するという前作までと違って、長編作品になっている本書は、ポンポンッとテンポ良く読む作品ではなく、じっくりと静かな戦いを繰り広げるという感じでストーリーは進行していく。

ですが甘~い部分は健在で、あんな事をしたり、こんな事をしたり、いや~んえっち、なんて事も…。こればかりはお楽しみなので書かないけれど、少しパワーアップしていたような気がする。それに本好きなら食いつきそうな、郁の本の読み方や、堂上、小牧、柴崎、手塚たちがどんな本を読んでいるか書かれていた。これってポイント高いよね。堂上は郁の読み方をバカにしていたけど、自分の読み方は郁に近いかも。

郁たち主要な人物については、これまでに散々と語っているから省くが、やっぱり玄田隊長が渋くてカッコよすぎ。あの無茶っぷりには惚れるな。それに稲峰元司令官の車椅子ってすごくねぇ!? 二台あれば合体しそうなんですけどぉ。これはマズいかな、大阪のおばちゃんも面白かったです。

先にも書いたが、これまでよりも地味な作品だ。でもたま~に出てくるベタ甘にきゅんとなる。そしてラストには…。い、言いたい。でも言えない。こればかりは自分で読んで、おもいっきりニヤリと笑ってください。すごく面白いというわけではありませんでしたが、読者の期待を裏切らない甘さが溢れ、充分堪能させてくれる作品でした。

そして「別冊 図書館戦争?」は楽しみですね~! 電撃文庫マガジン掲載の、緒方副隊長の過去は読みました。他にはどんな人物にスポットが当たるのでしょうね。わくわく。

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有川浩
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    2008

01.17

「サマースクールデイズ」深沢美潮

サマースクールデイズ (ピュアフル文庫)サマースクールデイズ (ピュアフル文庫)
(2006/06/01)
深沢 美潮

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マイ ネーム イズ 沢村千里。チサトって読む。アイム 16 イヤーズ オールド。引っ込み思案でなかなか言いたいことを言えない千里は、入ったばかりの高校も休みがち。高校一年の夏休み、東京の都心からちょっと離れたアメリカンスクールで行われるサマースクールに、母にすすめられ参加することになった。爽やかなハーフの少年・ジャスティンと出会い、ドキドキドキドキ。大阪から来た有起という友達もすぐにできた。しかし、同じクラスには瑞穂のグループがいた。幼稚園からの幼なじみで仲が良かったのに、ある日を境に、あれこれ悪口を言いだした瑞穂がいる。目の前が暗くなる。最悪…。

女の子特有の心の揺れ、感性、恋心、そしてイジメ。女の子なら誰もが経験するお話なのだろう。しかし、男ってこういうのを知らずに育っていく。だから、女の子どうしのジメジメした喧嘩や、陰湿なイジメなど、よくわからない、というか理解できない。気に食わない相手を無視するのは分かる。その相手が楽しそうにするのにムカツクのも分かる。だからといって面と向かって悪口を言ったり、他の人にあることないこと嘘を吹き込んで、落としいれようとする陰険さを発揮するのはなぜ。まあ、男には永遠に分からないのが、乙女心と女性のハート。

でも作品としては面白かったです。主人公のちーちゃんに共感はできずだが、読みやすい文章だし、展開もはやいし、馴染みないサマースクールの明るさも良かった。それになんと言っても、一人の少女が成長していく姿が気持ちいい。本書は男諸氏にはお薦めできませんが、女子や女性が読むと感情移入できるんじゃないでしょうか。少女時代を懐かしがって読むのもいいし、等身大の存在として女の子が読むのには良いと思う。ちーちゃんのピュアな心に、みずみずしさを感じることができるだろう。たぶん。

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    2008

01.16

「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎

ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
(2007/11/29)
伊坂 幸太郎

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大事な話がある、おまえのことに関する重要なことだ。青柳雅春は、旧友の森田森吾に呼び出されていた。そしてこう告げられた。おまえは狙われていたんだ。痴漢に間違えられたことも、宅配ドライバー時代に受けた嫌がらせも、おまえの評判を悪くさせるために仕組まれていた。おまえは陥られている。今もその最中だ。たぶん、金田はパレード中に暗殺される。おまえは逃げろ。

国民投票による首相公選制が敷かれ、監視社会化が進んだ架空の日本。半年前に野党から初めて首相に選ばれた金田のパレードが、地元仙台市街地で行われた。順調に進行していると思われたその時、ラジコンヘリコプターが出現した。ビルの上空から降下してきたラジコンは、金田首相の乗るオープンカーに近づき、爆発を起こした。

街では多くの人間が右往左往し、声を上げ、騒いでいるのが伝わる。緊急車両のサイレンの音も近づいてくる。視線を上にやると、煙も見えた。爆発。そこに現れた警察官が発砲してきた。これはおかしい。普通じゃない。青柳雅春は地面を蹴り、逃げた。首相暗殺の濡れ衣を着せられた男は、巨大な陰謀から逃げ切ることができるのか。

首相が衆人環境の中で暗殺される第一部。入院患者が無責任に事件報道を観る第二部。二十年後のあるライターが暗殺事件を検証する第三部。そして濡れ衣を着せられた青柳雅春が逃走劇を繰り広げる第四部。最後にエピローグである第五部という構成。ガッツリ500ページの大長編で、これがすごい超大作だった。

大学時代のサークル仲間だった、青柳雅春、森田森吾、樋口晴子、カズの四人。ストーリーは彼らの過去と現在が交錯して展開していく。そしてメインは青柳雅春の逃走劇だが、テレビから流れる青柳についての情報が、いかに根拠がないか、現実と離れているのか、それを実感した樋口晴子は、娘の七海を連れて独自に動く。

主人公は大きな陰謀によって逃げることになるのだが、その逃げ方というか逃げさせ方が上手いと思った。宅配便の運転手だった頃に知ったあらゆる知識や習慣を駆使して逃げていく。詳しくは書かないが、伊坂の複線のばら撒きとそれを生かした効果は、抜群に断トツに上手い。その効果が現れるたびに、読者はむむむっと唸らされる。それに人物の使い方もすごい飛び技を使ってくる。この辺りは、初期作品の「ラッシュライフ」にも見えていたが。

すごく好きな作品の場合、自分には二つのパターンがある。猛烈に愛情を込めて書き殴るか、多くを語らずにとにかく読めと薦める。この作品に関してはあまり書きたくない、というか、変に余分な情報を知るのはよして、とにかく読んでおくれと言いたい。

息が詰まる緊迫感、誰も信じることが出来ない孤独感、無実を信じる数少ない温かな魅力ある人物たち、そしてとても怖い情報操作。青春物語という側面もあって、追われるスリルもあって、とにかく読み応えがある、最高のエンターテイメント作品でした。お薦め!

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伊坂幸太郎
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    2008

01.15

「フィッシュストーリー」伊坂幸太郎

フィッシュストーリーフィッシュストーリー
(2007/01/30)
伊坂 幸太郎

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「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」の4編を収録。

「動物園のエンジン」
私が、大学時代の先輩の河原崎さんを、夜の動物園に誘ったのも、動物園職員の恩田がいたからだ。特別な理由があったわけではない。単に、「夜の動物園って、新鮮だと思いませんか?」とその程度の動機だった。その河原崎さんが突然、人差し指を出し、斜め先に向けた。私は首を伸ばし、目を細める。人がうつ伏せで、倒れていた。恩田が言うには、頭の調子がおかしくなって、寝ているだけ。彼は元職員で、彼がいると動物たちの活気というか、生命力というのとも違って、動物園全体にエンジンがかかった感じになるそうだ。

シュールです。シンリンオオカミの檻の前で寝る男。彼が寝たふりをして独り言を言っていると思わせて、実は…。めちゃくちゃシュールです。

「サクリファイス」
本業は空き巣で、副業は探偵だ、などとうそぶいて暮らしている黒澤は、二週間前から行方が分からなくなっている山田という男を追って、小暮村へやって来た。その小暮村には、困ったことがあれば、生贄を洞窟にこもらせる、こもり様という風習が江戸時代から続いていた。一夜を泊めてもらった自称芸術家の柿本とその妻の花江から、風習や村民の話を聞くうちに、黒澤は自分の想像が当っているかどうかを確かめたくなった。

伊坂的には異色の作品。民族学を取り入れた軽いタッチのハードボイルド。好奇心旺盛な黒澤が、自己満足のためにこそこそする。

「フィッシュストーリー」
《僕の孤独が魚だとしたら》という文章で始まる小説を思い出した男性は、深夜の峠道で女性の短く上げた悲鳴を聞き、《僕の勇気が魚だとしたら》という文章で始まる小説が好きな数学教師は、乗っていた飛行機がハイジャックされ、《僕の挫折が魚だとしたら》という文章で始まる小説に引き込まれた売れないバンドマンは、その文章を盗作してプロ最後のレコーディングをし、ハイジャックに遭遇したことがある橘麻美は、人為的なネットワークの欠陥を発見した。

実在の小説かと思い検索するが不発。CDで検索しても不発。伊坂の発想だったのか、と気付くまでどれだけ検索したことか。

「ポテチ」
テレビでは地元仙台を本拠地とする球団のナイター中継が流れている。空き巣の常習犯である今村忠司が同棲中の大西若葉と侵入したのは、その地元球団が試合中の尾崎選手の部屋だった。その居間の棚にあった、双子の兄妹と幼馴染みとの恋愛を描いた、とても有名な高校野球の漫画をくつろいで読む今村に呆れる大西。そこへ電話が鳴って留守番電話機能が作動し、女の子が尾崎に助けを求めるメッセージを残した。留守電に吹き込まれたコンビニへ向かった二人は、尾崎の代理と告げて女の子に話かけた。

キャラが生きた作品。若葉の目線で見た、今村、黒澤、今村母が面白かった。何気ない描写がきらきらと輝いていた。

こういう短編集も面白いね。ジャンルがばらばらで、読んでいて飽きがこない。そして、いろんな伊坂と出会えてすごくお得感がある。4編とも派手さはないが、じわじわと面白さがこみ上げてくる。他作品を読んでいると、さらに楽しめる一冊でした。


作品間のリンク
「オーデュポン」:伊藤
「ラッシュライフ」:河原崎、親分と今村、老夫婦強盗、佐々岡
「重力ピエロ」:黒澤、泉水

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伊坂幸太郎
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    2008

01.14

「HEARTBLUE」小路幸也

HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)
(2007/12)
小路 幸也

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ニューヨーク市警三十八分署の失踪人課に所属するダニエル・ワットマンのもとへ、かつて暗闇で生きてきた少年サミュエルが訪れて言った。彼女が、ペギーがいなくなったんだ。しかしその少女は死体にになって発見された。その現場には、胡桃の実が付いたキーホルダーが少女の遺留品として残っていた。そのキーホルダーと同じものを見た記憶がある。それは別の少女の自殺現場で見つかったキーホルダーとまったく同じものだった。刑事の勘なのか、ワットマンは何かが気になり調べてみると、飛び降り自殺した二人の少女は同じような悪夢を見ていた。

一方、ニューヨークで暮らし始めたCGデザイナーの巡矢新(メグリヤ)は、友人であるフォトグラファーの恵野かんなから幽霊が写っている写真を見せられた。そこには良く知る警察官のワットマンに向かって、居るはずのない女の子が微笑んでいる姿が写っていた。メグリヤはワットマン宅を訪れるが彼は留守。そこで同居している彼の父デイヴィットに、言伝を頼もうと例の写真を渡そうとする。するとその写真を見たデイヴィットは驚愕の表情を浮かべ、その直後に発作を起こして倒れてしまった。

ダニエル・ワットマンは、サミュエル少年と同僚で家族同然のレベッカと共に、二人の少女の自殺の謎を追いかけ、メグリヤは、かんなと共にワットマンの家族を探り始める。今もお互いの心の中に「彼」がいる二人の男。彼らが動いた末に明らかになった真実とは。

かなり前に前作を読んでいたので、記憶がすぱっと抜け落ちていた。しかし読み進めていくと、ぼんやりとだが思い出してきた。前作で主人公に頼られたのがメグリヤで、ニューヨークの地下に住む「彼」と子供たちが一緒にいた描写もあったなと。そして短い章割り、作品の雰囲気も同じ。切なさがあるところもと、ドンドン思い出すことができた。ただワットマンだけは思い出せず、それがちょっと残念。前作を読んでいてこれだから、単独で本書を読んでも理解できない部分が多いだろう。一番良いのは続けて読むこと。当たり前か。

これまでに何度か書いたことがあるが、翻訳ものが苦手だ。だからまったく翻訳ものを読まないので、当っているのか検討はずれなのかわからないが、本書の所々で向こうの作品のモノマネのような部分があった。向こうの作家ならこう書くだろう、という意識しすぎのような描写が多々あったように思う。そこが少し引っかかってしまった。本書を読むのは日本人、あるいは日本に住む人たち。向こうの作品と並ぼうと意識せずに、舞台はアメリカでも日本の作家であることを貫いて欲しかった。これは全くの個人的な感想だけど。

ネタバレを避けて抽象的なことを書いてきたが、登場人物たちは素敵な人ばかりだった。真面目なダニエル・ワットマン、大人びいたサミュエル、過去から脱皮したレベッカ、思いやりのあるメグリヤ、唯一ふつうのかんな。彼らの魅力で読ませる本書だが、ちーと物足りなさを感じた。だけど続編が出たら必ず読むな。だって小路さんのファンやもん。


TBさせて貰いました。「今日何読んだ?どうだった??」

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小路幸也
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    2008

01.13

「親不孝通りディテクティブ」北森鴻

親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)親不孝通りディテクティブ (講談社文庫)
(2006/08/12)
北森 鴻

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地元の博多に帰ってきてから、紆余曲折を得て八年、いつの間にか長浜の一角にバーの屋台を構えるおじちゃんになった鴨志田鉄樹。そこを訪れるのが、結婚相談所の調査員を生業にしている根岸球太。通称テッキとキュータの腐れ縁コンビが、事件に巻き込まれてしまう、博多を舞台にしたハードボイルドな連作短編集です。

収録作は、「セブンス・ハウス」「地下街のロビンソン」「夏のおでかけ」「ハードラック・ナイト」「親不孝通りディテクティブ」「センチメンタル・ドライバー」の六編。

分別があって洞察力がするどいテッキ。野性の勘に頼って直情型暴走思考のキュータ。そんな腐れ縁の二人が、ベストカップルな夫婦の自殺、謎の失踪人の捜索、男誑しと拳銃を持ったストーカー男、殺された援助交際をしていた女子高生、逮捕された性格の温かな親父、過去に因縁のあった男といった事件に関わり、足を使い、表裏の情報を集め、偶然の一言などをきっかけに、真相に迫ってゆく。

二人以外にも脇がしっかりしていた。腐れ縁コンビのかつての恩師であり、結婚相談所の代表をするオフクロこと華岡妙子。裏のバイトをしている博多署の悪徳警察官。ライブハウス「セブン」の経営者にしてシンガーの歌姫。みんな個性があって魅力があった。特に二人は頭が上がらないけど、すごく慕っているオフクロとの関係が良かった。悪徳警察官も意外といいヤツっぽい側面があるし、煙たい歌姫がテッキとキュータの資質を比較するのも面白い。

本書が普通の作品と少し違うのは、主人公の二人がまっとうな仕事をしながらも、裏の世界のきわどい部分に半歩ほど入っていて、ありふれた捜査をしないこと。金と引き換えに情報を引き出したり、時には暴力を振るう。しかし、二人の陽気さ、特にキュータのはじけっぷりがあるので、あまりダークさを感じずに読むことができる。この部分がパートタイム探偵でありながら、ハードボイルドなのだ。

それに二人の会話が博多弁というのがめずらしかった。「~ったい」「~やろうもん」「~じゃと」という聞きなれない言葉が、温かみがあってテンポがあってかなり新鮮だった。福岡の方が読むと、大阪弁の作品を大阪人が読む感覚と同じなんだろうか。どんな風に感じるのかちょいと興味があるね。

ラストは続編を望めないような終わり方ではあるが、こういう終わり方は嫌いではなかった。切なさがあって、二人の絆が見え隠れしていて、こんなのもありかなと思う。たぶん少数意見だろうけど。馴染みのない博多ですが、違和感を感じさせない描写は、さすが北森鴻と言える。異色の作品で少し雑だけど面白く読めました。

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北森鴻
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    2008

01.12

「銃とチョコレート」乙一

銃とチョコレート (ミステリーランド) 銃とチョコレート (ミステリーランド)
乙一 (2006/05/31)
講談社

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大金持ちの豪邸から英雄の金貨が盗まれた。そして数ヵ月後には、白銀のブーツが盗まれた。現場に残された赤いカードには「GODIVA」の文字。怪盗ゴディバの犯行だった。

移民の子に生まれたリンツ少年のヒーローは、探偵のロイズ。首都で起こる事件とロイズの活躍にいつもわくわくしていた。ある日、リンツは亡き父さんが買ってくれた聖書の表紙の中から、折りたたまれた紙を発見した。それはどこかの地図で、盗まれた英雄の金貨の絵が地図に描かれていたことでリンツは確信した。地図を描いた人物こそ、怪盗ゴディバに違いないと。リンツは憧れの探偵ロイズに手紙を書いた。それが、冒険、いや悪夢の始まりだった。

ドラマチックな展開。善悪が混濁した世界観。やはり乙一は一筋縄ではいかぬ。つうか、これをネタバレなしにどうやって書けというんだ。二転三転するストーリーは確かに面白い。健気なリンツくんや、逞しいお母さんもかっこいい。だけど、これを子供が読むと人間不信になるかも。信じていた世界が一気に崩れるし、差別があらゆるところに蔓延している。それに狂気をもった人物も。うーん、これ以上はネタバレなしでは書けない。

大人が読む分には問題ないけど、子供が読むにはキツイのではないかと思った。それに平田秀一氏のイラストは大人が見ても怖かった。しかし、現実の子供は普通に「ZOO」を読んで読書感想文を書く子がいるそうだし、たぶんアリなんでしょう。この作品は「うつのみやこども賞」を受賞している。この賞の基準は、小学5・6年生が「友達にすすめたい本」だそうです。だけど、本書はちょっと黒すぎに思えた。でも受けいれられているんだよな。

唐突ですが、乙一さんのあとがき「わたしが子どもだったころ」を参考に遊んでみます。

わたしが子どもだったころは、毎日泳ぐことが当たり前の生活でした。
学校の水泳部で泳ぐだけでなく、帰宅後に毎週5日間スイミングで泳ぐ。
夏はゴーグル焼けで目の周りだけが白く、メガネザル状態。
体育の授業では、何故か先生の隣に立たされ、ラジオ体操の見本をさせられました。
運動ができる人というレッテルを貼られ、目立つことを強要され、それが苦痛でした。
その反動からか、肩幅が広く、首の太い、筋肉質の読書オタクが出来あがってしまいました。

こういうのを本の感想からの逃避という。
作品は乙一らしくて面白かったです。

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乙一
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    2008

01.11

「名前探しの放課後」辻村深月

名前探しの放課後(上)名前探しの放課後(上)
(2007/12/21)
辻村 深月

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名前探しの放課後(下)名前探しの放課後(下)
(2007/12/21)
辻村 深月

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大好きな辻村深月さんの新刊なので買いました。

依田いつかがそれに気付いたのは、本当に突然のことだった。撤去されたはずの看板が、何でまだあそこにあるんだろう。ふと見た携帯に表示された日付は、三ヶ月前の日付。これはタイムスリップ? いつかは、口を聞いたことがない一人の女子生徒に相談を持ちかけた。彼女の名前は坂崎あすな。これから俺たちの学年の生徒が一人死ぬ。自殺して死ぬ。しかし自殺の詳細を覚えていない。誰が死んだのか、どういう理由で、どんな方法で死んだのか、何度も思い出そうとするが、無理だった。肝心なところが、全然覚えてない。いつかは三ヶ月後に起こる「誰かの」自殺を止めるため、あすなに相談し、仲間たちと放課後の名前探しをはじめる。

上下巻の作品なので、どこまで書いて良いやらとネタバレの判断が難しい。まずは登場人物の紹介からいこう。主人公のいつかはモテ系な男子で、即物的な考え方をする。読者にはやっぱり違和感があるのかな。後で書くけど、個人的には彼に近い学生時代を送ったので共感できました。もう一人の主人公であるあすなは負けず嫌いの女の子で、「グリル・さか咲き」を経営する祖父と二人暮らし。少し情緒不安定なところがあって、そこがちょっと…。でも彼女のじいさんはかわいらしかった。

他にいつかを手伝う仲間は天木敬、長尾秀人、椿たち。リーダーシップを発揮する天木は、目標を決めて邁進する優等生。いつかの親友の秀人は、ひょうひょうとしながら臨機応変になんでもこなす。秀人の彼女である椿は、お嬢様だけど人との関係を築くのが上手い。個人的には秀人と椿のバカップルが好ましく思えました。それにこの二人は…、ねえ。

作品については、各章のタイトルを文学作品にし、その章の内容を匂わせていたのは上手と思った。上巻は仲間集めがメインになっているので、毎度のごとく展開がスロー。これにはもう慣れてきたような気がした。中盤に入ってからは水泳のレッスンが始まる。元バリバリの水泳選手だったいつかが、泳げない河野くんとあすなの二人の弟子に丁寧に泳ぎを教える。自分も中学生まで水泳の選手だったので、泳げて当たり前の人からすれば、泳げないということが理解しにくい。しかし、いつかはすごく親切に指導していく。こういった温かなスポーツ風景は好きだな。

先にちらっと書いたが、このいつかの境遇とあの頃の自分が結構ダブった。だから、ケガがなければ、といういつかの気持ちがすごくダイレクトに分かるのだ。今では読書に明け暮れる自分だか、かつてはメダルをもらうようなちょっとした水泳選手だったからね、と何気に自慢。でもケガが原因で逃げてしまったのは、いつかと一緒。それゆえにすごく共感できた。

作品の内容に触れられるのはこれぐらいまでかな。ああ、そうそう。本書はこれまでの既刊とのリンクがすごく多かった。下巻に入ると、あの人もこの人もという懐かしい人たちがオンパレードでした。特に「凍りのくじら」と「ぼくのメジャースプーン」の人物たちがバンバン出てくる。本書を読む前に、この二冊だけは絶対に読んでいた方が良い。というか、「ぼくのメジャースプーン」を読んでいなければ、ラストは??すぎて理解できないかも。

ラストでは、これまでムズムズした違和感が見事に消えていきます。これまたお見事としかいいようがない。本当にこの著者はラストが上手い。ミステリであり、逃げてきたことへ立ち向かう成長であり、仲間の絆を深める青春であり、恋の物語でもあった。しかし、お薦めはしにくいな~。既刊を読んでいないと、本書の面白さが存分に楽しめない。そこが残念だったかな。初の単行本だけど、ノベルスで出版した方が良かったと思うのは自分だけだろうか。だけど既刊を読んだ方なら満足できる作品だと思います。


余談。既刊から確認できた人物は6人でした。


TBさせてもらいました。「今日何読んだ?どうだった??」

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辻村深月
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    2008

01.10

「さよならワルガキング」笹生陽子

さよならワルガキングさよならワルガキング
(2001/12)
笹生 陽子じびき なおこ

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おかんのさいふに手をつけた。ぬすんだ金は三百円。ワルガキングのトレカのふちは玉虫色にきらきら光って、めっちゃきれい。うまいことやったつもりでいたけど、その日のうちにおかんにばれた。三百円をぬすんだバツに、塾へ行かなきゃならなくなった。まじめにやる気がまるでなしで、心のそこからやさぐれてたら、自習室にとじこめられた。そこで出あったマスク男になつかれた。おまけに弟子にしてくれ、だって。

普通に児童書です。勉強嫌いなやんちゃ坊主の森くんと、生まれながら病弱な少年の橋本くんが出会う。隣に住むワルぶった兄ちゃんに、いろいろと悪いことを吹き込まれる主人公。金持ちなら人間貯金箱にしてしまえ。そうか、その手があったのか。しかしマイペースな橋本くんと一緒にいても、タイミングが上手くつかめずにいる。そこでまた隣の兄ちゃんが悪魔の言葉をささやく。そんなこととは知らない橋本君は、無邪気に太平洋が見たいと言う。二人で海へ向かうが、その途中で橋本くんが発作をおこす。そして主人公は本当の強さとは何かに気付く。というお話です。

子供の頃の男の子って、ワルに憧れるのは普通だと思う。喧嘩の強さに憧れたり、ワルぶった近所の兄ちゃんに憧れたり、もう一つ上をいけば、バイクに興味を持って暴走族に憧れたりする。チャリでコーナーを攻めるぐらいならかわいいものだが、誰かが始めた万引きがきっかけで、お前もやってみろ、万引きも出来ない弱虫か、となるパターンが多いと思う。

本書は児童書なので、そうなる悪事の寸前で、著者の意図でそうならないような展開になっている。大人が読むと豪腕なんだけど、それはしかたがないと思う。だけど、そういう世界もあるとちらっと見せて、ワルにもワルの上下関係があって、ワルってそんなにカッコイイもんじゃない。ワルぶるのはしんどいものだと、わかりやすく描かれている。

ほんとその通りなんだな、これが。一年早く生まれただけで、絶対服従の過酷な世界。すごく理不尽で、アホみたいな世界。これら世界に踏み込まなければ安全というわけではないが、ワルに憧れて、ワルになろうとするとしんどいだけ。先輩から法外なお金を要求される場合もあるし、身体に傷を負う場合もある。でもワルになったら、ごめんなさい、勘弁して下さい、が通じない世界。まったく言葉が通じない無茶が通る世界。

本書は本当の強さが描かれている。喧嘩が強いのが本当の強さじゃない。周りから怖がられるのも強さじゃない。ほんとの強さとは何かを考える読書にピッタリかも。

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笹生陽子
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    2008

01.09

「バックステージ・パス」楡井亜木子

04.jpg

バックステージ・パス / 楡井 亜木子


VOCAL:SHOW、GUITAR:HASHI、BASS:KEISUKE、KEYBORD:ALICE、PIANO、SATOKO、DRUMS:EDDIE、あるバンドのメンバー、それぞれの物語。

「#1音符の香り」
趣味でバンドの写真を撮っている志帆子は、原宿のライブハウスで初めて彼を見た。ギターのハシこと中井裕二。彼はメンバーと目があっても、笑いかけたりはしない。相手が持っているメロディーを取り出し、自分のものと重ね合わせて確認しているような深刻な顔つきを変えない。彼の小さな頭の中は、本当に譜面だけでいっぱいなのかも知れないと志帆子は思う。

「#2妖精の住み処」
シンセサイザーを担当するアリスこと平英晴は、すべてが不安定だった。一年半ほど前、彼はショウに頼みこまれて、一晩の約束でシンセサイザーを弾いた。そして、指に妖精が降りてきた。妖精が大騒ぎしながらキーを捜して飛び跳ねた。こんなすごいステージは初めてだとアリスはバンドに加入した。そんなアリスは、性格の悪い女ばかり好きになってしまう。

「#3もうひとつの鞄」
サトコはバンドでピアノを弾く。バンドに求められているのは、サトコがつくり出す音だ。メンバー全員が、バンドに関して同じだけの権利と責任を、揃いのリュックサックのように背負っている。が、皆は無意識に求めている。サトコが程よく女であることを。揃いのリュックサックとは別に、小さな鞄がサトコの肩にはかけられている。人目を引くカザリがいくつもくっ付いていて、サトコの動きを牽制させたり目立たせたりする鞄だ。

「#4零時間」
エディこと井戸藤裕には、どんな曲にも対応できる正確なリズムマシーンが埋めこまれている。エディは、自分の記憶が時々途切れることがあるのを知っている。さほど長い時間ではないが、気にかけずに済むほど短くもない。医者や家族や友人が病んでいると指摘した場所に、もしもその機械が埋められているとしたら、もうリズムを生み出すことが出来ない。ドラムセットを前に、戸惑って瞬きを繰り返すだけだ。記憶を失うことよりも、エディはそれを恐れていた。

「#5早咲き」
啓介がショウのバンドに参加して、一年が過ぎた。ショウがエディの同級生で、啓介と十二歳違うことを知ったのは、バンドに正式に加入することになった後だった。啓介は人々の持つ目に見えない定規が信じられなかった。長い定規を持つ人々は尊大で説教が好きで臆病で、啓介を含めた短い定規の持ち主は、無鉄砲で狭量で小心だった。長さの違う定規を持つ者は、同じ状況にあっても互いに認め合えないものだった。

「#6棘」
麗には、ショウの神経を磨耗させる存在が感じられる。澱んだ体臭で湿ったライブハウスの空気は、ショウをごりごりと削る無数の棘を含んでいる。身体を動かし、息を吸いこんで声を吐き出すたびに、集まってきた棘はショウを削る。彼の身体は、周囲にびっしりと生えた棘に怯えていることがある。麗は、ショウの痛みを味わっているのかも知れない。彼が痛みに打ちひしがれて提出するものを吸いこんで、甘く温かい水を身体中に巡らせる。

「#7エゴイスト」
匂いも音もない、漠然とした気配だった。やがて、ショウは気づいた。一人の時に背後で膨らむ気配は、跪く巨人の影だった。目も口もない黒紫の巨人は、重さを増しながら強引に関節の向きを変えてショウの行動を支配した。「そうか。そういうことか・・・」ショウは思わず呟いた。影の気配が薄くなり、身体は動きを取り戻した。梅澤祥一はショウとして、、ヴォーカリストとして、リーダーとして、バンドを結成し、事務所を興して何年経っただろうか。もう、限界なのかもしれない。

はー、延々と内容紹介を書いてしまった。つうかこんなに長いのを誰が読むのだろう。自分なら絶対に読まないな。というわけで、ざっと思ったことを書いて終わりにしよう。

お気に入りの人物は、ハシくん。カリスマ・ギタリストで孤高な感じが渋くてかっこいい。エディは自分より若い人妻が気になり、言い寄られて…、というストーリーも面白かった。サトコは一番普通かな。これは安心して読むことが出来た。ショウの物語は、崩壊と思わせながら再生するお話だ。ラストを締めくくるにはこれしかないでしょう。そして作中に、チェルシー・ガールという女ばかりのバンドが出てくる。これは著者のデビュー作「チューリップの誕生日」で、主人公のユウリが所属しているバンドだ。こういうオマケは結構嬉しい。

熱いバンドものではないが、しっかりと一人一人の物語を読ませる作品だった。こういう作品は好きだ。だけど図書館では書庫に保管され、申請しないと手元に届かない。(大阪府立図書館の場合) 楡井さんの本を全部読んでやるぞー!と鼻息の荒い読者であった。

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楡井亜木子
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    2008

01.08

「絶対、最強の恋のうた」中村航

絶対、最強の恋のうた絶対、最強の恋のうた
(2006/10/26)
中村 航

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大学の試験に受かって、やっと春が来たと思った。そして僕は大学生になり、彼女に出会った。ときどき彼女と会うことがあって、そうすると少しだけ話をした。彼女はいつも、とても遠くから僕らに気付き、手を振ってくれた。長い春休みになり、僕は考えていた。次に彼女に会ったとき、できれば今度は、僕が先に彼女を見つけたい。僕は彼女に何かを言おうと思った。何か大切で、きらきらした言葉を。一歩先に踏み込むような言葉を。

カナリヤのように浮かれた中学時代。クールに振る舞い続けた高校時代。私は大学に入ったら今度こそ、彼氏をつくろうと思っていた。正しい男子を見極め、そのあったかなハートを一撃で射貫いちゃおう。そして一年後。春というのは予感の季節だ。だけどまさか新学期初日から、あんなことが起こるとは思わなかった。その男子は、もみじ饅頭を持って私の前に現れた。

恋愛色が濃い作品かと思っていたが、ほのぼのとした青春小説だった。前半は僕こと大野君の目線。後半は私こと彼女の目線。最後におまけで、大野君の友達、坂本君のお話という構成の作品だ。付き合いだした当初は、べったりと過ごす二人。しかし彼女が無理を感じ、大野君は規則正しく付き合っていこうと提案する。電話は週に三度。会うのは週末だけ。全力疾走を終えた二人は、ゆっくり並んで歩きだす。

大野君は毎週末を彼女と過ごし、毎週火曜日は木戸さんのアパートを訪ねて、友達の坂本君、二つ年上の木戸さんと、三人で鍋パーティーをする。この三人の集いがすごく面白かった。とにかく木戸さんの個性が強烈でファンタジー。中村作品にはおかしなファンタジーが付きものだが、まさか人物にファンタジーを持ってくるとは思わなかった。これが結構なユーモアがあって、作品にピリリとスパイスを与えている。やるじゃんって感じかな。

一方彼女の火曜日は、中学時代の友達とバイト先で再会し、仕事場がボーリング場なので、二人でおしゃべりしながらボーリングの腕を磨いていく。会話の合間に、――ぱこっ。――ぱからん。というピンが倒れる効果音があって、すごくシャレたものがあった。こういうセンスも好きやな。

わりと淡白な恋だけど、人ぞれぞれの恋があっていいと思う。ほんわかして、ちょっぴりかわいくて、猫をだっこするような癒しのある作品だった。おまけの坂本君のお話も素敵で、お気に入りの一冊になりました。

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中村航
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    2008

01.07

「あかね雲の夏」福田栄一

あかね雲の夏あかね雲の夏
(2006/09/21)
福田 栄一

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約二年間勤めた旅行代理店が倒産し、失業保険でぐうたらをしていた俊太は、本家の大叔母さんが亡くなったと連絡を受け、郷里へ帰った。そこで、亡くなった千代子さんが住んでいた屋敷の管理をすることになった俊太だが、そこは鄙びたド田舎の村だった。

なんてことのない田舎の日常なんだけど、これが想像以上に面白かった。懐かない犬の九郎。他人に心を閉ざす無愛想な少女の知穂。俗っ気のあるひょうひょうとした僧の恵慧。藤木商店の美津子。都会ではありえない、田舎特有の踏み込んだ人付き合いにドキッとしながらも、俊太は彼らとのどかな毎日を過ごす。

知穂と並んで釣をし、気の合う恵慧と酒を飲み明かし、美津子のご機嫌伺いをする。そんな、すべてがゆっくりした時間の中で、少しずつ自分の将来について考えてゆく。ほんとただの休暇。だけど、こんな実りある休暇なら、お金を払ってでも買ってみたい。

大阪生まれ大阪育ちの自分だけかもしれないが、こういう田舎にすごく憧れがある。舗装されていない道や、草木に囲まれた斜面の道。どこまでも水田が続く風景や、開けた青い空。こんな自然の中で、わんこを連れてゆっくり散歩してみたい。

これまで読んだ福田作品と違って、謎も仕掛けもなんもない。だけどこんな福田作品もあったのですね。意外だったけど、めっちゃイケてる。福田さんってほんとにすごいかも。読みやすい文章、情景が浮かぶ描写、匂ってきそうな自然。文芸の福田さんにまた逢いたくなりました。才能ある作家って、読むたびに好き度が上がってゆく。読後の余韻も気持ちよく、すごく雰囲気のある作品でした。面白かったです。お薦め。

余談
福田さんの男女って、なぜ恋をしないのだろう。意図して描かないのか、描けないのか。
作品を読むたびに、これが気になる。

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福田栄一
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    2008

01.06

「浮世でランチ」山崎ナオコーラ

浮世でランチ浮世でランチ
(2006/09/12)
山崎 ナオコーラ

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気の合う人を側に置き、意見の合わない友達からは、そっと離れる。女の子が好きだった中学時代。四、五歳のとき、「かーみーさーまー」と太陽を拝んでいた。友達と宗教ゴッコもした。しかし少女は十四歳のときに、神様みたいなものに祈ることを止めた。そんな少女もやがて女性になる。子供のときはいつも神様がいたような気がした。大人になると神様の気配をまったく感じることがなくなった。自分の成長は自分しか期待していない。どう成長したらこの世界を生き抜くことができるか、自分で考えなくてはならない。会社を退社した女性は、一人アジア旅行へと旅立った。

人との関わりが楽にできる人。それができない人。折り合ってまで必要だと思わない人。本書の主人公は、折り合ってまで必要だと思わない丸山君枝。神様の話を通して、友達と仲良くなっていく中学時代。二十五歳になってアジアを旅する現在の彼女は、訪れたタイの寺院で、祈りをささげる人々の顔を眺めるだけで、自分は何も祈らない。面白いのは、同じ人物だけど考え方が変わった二十五歳の彼女と、中学時代の彼女が交互に描かれていく点だ。何故こうまで変わってしまったのか、双方をつなぐ要素わからないまま、平行してストーリーが進んでいく。それがいっそう興味をそそるのだ。

前作の感想時にも書いたと思うが、著者の感性にすごく惹かれた。例えば、ノビをする猫を見て、エコノミー症候群にならないようにしている、だとか、誰かが地球を触って、中を覗いているんじゃないか、私がうごめいているのを、誰かが見つめているんじゃないか、といった、こういう言葉がぽんっと出るセンスが羨ましい。

浮世に上手く溶け込めない主人公を読んで、自分の姿と重なる部分が多いにあった。他人に合わせることが苦手で、流行にぶわっと一気に傾倒してしまう日本人気質が嫌いで、同じに同化したがるのをアホかと眺める冷めた目線。ほんと、かなり似ているかもしれない。主人公のさまよう旅に、己を見るようで共感があり、考えることもあり、自分が中学生だった頃に思っていた大人と、今の自分と比べて唖然としたり…。

大きな出来事があるわけではないが、あの頃と現在を描くことで、読者のあれこれを膨らませる作品だと自分は思った。子供の頃は、「神様、あの子と両思いになれますように」とか、神様によくお願いをしていた記憶がある。それが今では、賽銭箱にお金を入れたときにしか神様にお願いをしない。普段、神様を信じていないのに。

今の自分と向き合えて面白い読書が出来ました。こんなにぐだぐだを考える読者は少ないと思いますが、たまにこんなヤツもいるのです。最後まで駄文に付き合ってくれた方には、お礼が言いたい。ありがとう。

TBさせて貰いました。「今日何読んだ?どうだった??」

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山崎ナオコーラ
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