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    2008

03.31

「無痛」久坂部羊

無痛無痛
(2006/04)
久坂部 羊

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神戸市内の閑静な住宅地で、これ以上ありえないほど凄惨な一家四人残虐殺害事件が起こった。凶器のハンマー他、Sサイズの帽子、LLサイズの靴痕跡など多くの遺留品があるにもかかわらず、捜査本部は具体的な犯人像を絞り込むことができなかった。そして八カ月後、精神障害児童施設に収容されている十四歳の少女が、あの事件の犯人は自分だと告白した、が……。

見るだけですぐに症状がわかる二人の天才医師、「痛み」の感覚をまったく持たない男、別れた妻を執拗に追い回すストーカー、殺人容疑のまま施設を脱走した十四歳少女、そして刑事たちに立ちはだかる刑法39条―。人を殺せば殺すほど、罪に問われぬ人がいる。罪なき罰と、罰なき罪。いちばん悪いのは誰だ?《本の帯より》

書店で海堂尊の医療シリーズと並べられて平積みされていた。これはすごく気になってしまうのはわかってもらえるだろう。思わず手にとってレジに直行、ではなく、その足で図書館へ行き、運よく棚にあったのを借りた。おいおい…買えよ。

まずは内容紹介の補足と人物紹介をしておきます。

為頼英介、四十七歳。妻とは死別。東灘区の古アパートで診療所を営む開業医。患者の外見の兆候から病気が診断できるが、治らない病気が見えるなら、見えないほうがいいという。犯人の兆候も読み取れる。

高島菜見子、二十七歳。三歳の息子の裕輔と二人暮らし。精神障害児童施設で臨床心理士をしている。サトミの症状を見て欲しいと、為頼に相談を持ちかける。別れた夫の執拗なストーカー行為に悩まされている。

南サトミ、十四歳。菜見子の患者で、強迫神経症や自閉症の症状もある境界型人格障害の中学二年生。会話は菜見子とのメールでしかしない。教師一家惨殺事件の自白をするが、刑事の訪問を知って施設を脱走。

白神陽児、三十六歳。医師会に属さない関西有数の私立病院長。新しい発想で現在の医療に風穴を開けようとしている。彼もまた症状が見えてしまう医師だが、治る患者を見分けて病院の治療成績を上げようとしている。

イバラこと伊原忠輝、二十三歳。白神が特別に手をかけて治療している患者であり、手術エリアの機材係。嗅覚が鋭いのと、先天性無痛症なので痛みをまったく感じない。助けてくれた白神を崇拝して、実験台にもなっている。

佐田要造、三十四歳。うぬぼれが強くて自分に甘く、小心さと図々しさが入り混じった自分勝手な男。半年で離婚された菜見子を逆恨みして、執拗なストーカー行為を続けている。

早瀬順一郎、三十二歳。灘署に所属する刑事。一家殺害事件の犯人を追う。刑法三十九条を悪用して、刑を逃れる犯罪者が赦せない。刑法三十九条に理不尽な思いを募らせている。その刑法三十九条とは、心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する。というもの。

冒頭で提示されるおぞましい殺人事件の犯人は誰か、という謎解きはいつのまにか作品の中心から離れてしまっている。たぶん、為頼と菜見子が絡むストーリーが主流になっているのだろう。それらと平行して、白神や佐田やイバラたちコンプレックスを抱える人物のストーリーが展開していく。その彼ら各々のストーリーに盛り上がりが欠けていて、長々と読まされるのは少し飽きがくる。この著者は構成力に難がある。その不味さが本の分厚さにも繋がっているのだろう。それゆえに、患者の外見の兆候から病気が診断できるという魅力ある設定が生かされていなかったのが残念だった。

医療のこと、人格障害のこと、刑法三十九条のことなど、たくさんの問題提起はあるが答えは読者に委ねられている。難しい問題ではあるが、提起するならば意見に同調するしないは別として、一応の答えを出して欲しかった。

そして終盤に来て、ジェットコースター並みの加速度であらゆることが繋がっていく。忘れられた冒頭の事件や、ストーカーや、精神の異常やら、これまでバラバラだったストーリーが結びついていくのだ。かなりご都合主義が見えるが、そこは面白く読めた。ただ、そこまで持ってくるまでの読ませる力が足りないのかなと思った。やはり、この人に必要なのは構成力でしょ。ミステリとしても破綻しているし、自分としてはもう一つだった。

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    2008

03.31

3月に遣った書籍代

個人メモです。

合計14.423円


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自分への戒め
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    2008

03.31

3月に買った書籍

個人メモです。


弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)
(2008/03/07)
我孫子 武丸

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ハーフ (ピュアフル文庫 く 1-1)ハーフ (ピュアフル文庫 く 1-1)
(2008/03/10)
草野 たき

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タイムスリップ釈迦如来 (講談社文庫 く 56-5)タイムスリップ釈迦如来 (講談社文庫 く 56-5)
(2008/03/14)
鯨 統一郎

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遙かなる時空の中で 遙かなる夢ものがたり (GAME CITY文庫 こ 1-2)遙かなる時空の中で 遙かなる夢ものがたり (GAME CITY文庫 こ 1-2)
(2008/02/29)
近藤 史恵

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遙かなる時空の中で3 紅の月 [GAMECITY文庫] (GAME CITY文庫 こ 1-1)遙かなる時空の中で3 紅の月 [GAMECITY文庫] (GAME CITY文庫 こ 1-1)
(2007/12/08)
近藤 史恵

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うた魂♪ (朝日文庫 し 37-1)うた魂♪ (朝日文庫 し 37-1)
(2008/03/07)
栗原 裕光、小路 幸也 他

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QED鬼の城伝説 (講談社文庫 た 88-14)QED鬼の城伝説 (講談社文庫 た 88-14)
(2008/03/14)
高田 崇史

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人類は衰退しました (ガガガ文庫 た 1-1)人類は衰退しました (ガガガ文庫 た 1-1)
(2007/05/24)
田中 ロミオ

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人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫 た 1-2)人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫 た 1-2)
(2007/12/19)
田中 ロミオ

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とっても不幸な幸運 (双葉文庫 は 18-1)とっても不幸な幸運 (双葉文庫 は 18-1)
(2008/03/13)
畠中 恵

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木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫 M ひ 3-10)木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫 M ひ 3-10)
(2008/03/11)
樋口 有介

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きょうの猫村さん 3きょうの猫村さん 3
(2008/03/21)
ほし よりこ

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吉原暗黒譚―狐面慕情 (学研M文庫)吉原暗黒譚―狐面慕情 (学研M文庫)
(2004/04)
誉田 哲也

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ほんたにちゃん (本人本 3)ほんたにちゃん (本人本 3)
(2008/03/20)
本谷有希子

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θは遊んでくれたよ (講談社文庫 も 28-35)θは遊んでくれたよ (講談社文庫 も 28-35)
(2008/03/14)
森 博嗣

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ここから古本店で。
夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38)夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38)
(2007/10)
海堂 尊

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SPSP
(2008/03/04)
金城 一紀

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みなさん、さようならみなさん、さようなら
(2007/11)
久保寺 健彦

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成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)成吉思汗の秘密 新装版 (光文社文庫)
(2005/04/12)
高木 彬光

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飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)
(2006/12)
仁木 英之

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カツラ美容室別室カツラ美容室別室
(2007/12/07)
山崎 ナオコーラ

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    2008

03.30

「こうふく あかの」西加奈子

こうふく あかのこうふく あかの
(2008/03/27)
西 加奈子

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二〇〇七年七月。俺(靖男)は三十九歳。妻(国子)は三十四歳。夫婦は結婚して十二年になる。大学を卒業してからすぐに勤めた調査会社では、順当に課長のポストをもらい、収入も今のところ安定している。妻は美人であるが、話が面白くなかった。つまらない女であるがゆえに、妻のことを心配したり、疑ったりすることは、一度も無かった。俺たちは平凡という心地よい波の中を静かに進む、小ぶりではあるが絶対に沈まない、安定感ある船に乗っているようなものだった。そして俺たちの平凡に唯一足りないもの、それが子供だった。

ある日、妻に、妊娠したと告げられた。俺は、腰を抜かすほど驚いた。何故、妻の妊娠発言に、それほど驚いたのか。それはこの三年ほど、俺たちはセックスをしていなかったからだ。凡庸ではあるが善良、頭は鈍いが素直、つまらないが従順、そして、色気のないただの美人、貞淑、性について鈍感な妻。今まで信じていた妻の像が、ガラガラと音を立てて崩れてしまった。そんな妻は申し訳ないという顔をしながらも、口から出る言葉は裏腹だった。「私、産みます」。妻は、ただずっと、阿呆の女であった。俺はじっと考えた。俺の未来、会社での俺の未来、家庭での俺の未来、俺としての俺の未来。そして、結論を出した。体面だけを考えた挙句、「産みなさい」と。

一方、二〇三九年。かつて我が国のプロレスはアントニオ猪木をはじめ様々な選手がめざましい活躍を遂げた、世界でも有数のプロレス国だった。それが現在その地位は下降の一途をたどっている。所属レスラーが七人程度の小さな団体に、謎に満ちたマスクマン、アムンゼン・スコットはいた。そしてセコンドには、いつもチャイナ服の小男チャンがいた。彼はどんな小さな試合でも全力でやる。死ぬ気でやる。アムンゼンは向かうところ敵なしであった。

主人公は完璧主義の男で、妻が他の男と同衾したことで、自分の存在を無視されたこと、相手の男が気になるという、二重の屈辱を強いられる。男は言葉には出さないが、誰の子なのだ、という思いが心中を駆け巡っている。だけどプライドの塊である男は、言葉に出せない。すごく身勝手な考え方をする男が、我が面子を守るために、悶え苦しむ姿は滑稽だ。男は働く会社でも笑わせてくれる。才気溢れる課長を演じきっているつもりなのだが、それらがすべて空回りしているのだ。

その問題を起こした妻は、どこかの線が抜けているような不思議ちゃんで、彼女の何を考えているのか分からないふわふわ感も、いい味を出している。この妻の意識が、罪悪感やその類のものから、やがて純粋に腹の中の子供だけに移行していって、目に見えてどんどん生き生きしていく。そんな妻の姿に男は惨めさを味わい、意思を持たなかった妻が、ひとりで歩んで行こうとしているように思えて、男はさらに打ちのめされる。

主人公には同期の兎島という男がいて、名前を呼ぶ前や何かを話す前に、必ず「あ、」をつける。「あ、何時?」「あ、いいよ」「あ、たぶん」というように。こやつが能天気でひょうひょうとした存在感の薄い男だが、妙に不思議な魅力があった。この兎島に連れられて、ある店へ飲みに行くことで、もうひとつのプロレスラーのストーリーと繋がっていく。

この店の常連客に、ジリとキキの八十の婆さんコンビがいるのだが、いつも粋な恋バナを披露してくれる。この恋バナは、西加奈子っぽいユーモアで微笑ましく思えた。そしてカウンター奥にあるテレビでは、猪木の試合が無声で流されている。猪木と言えば「道」。本書のテーマも「道」。この道について語られる終盤は、なにやら文学の匂いがした。文学=わからない、という偏見を個人的に持っているのだが、西作品もしかりだった。でも二つのストーリーが交差するラストは爽快で、そして男が叫ぶ「俺の息子よ!」という言葉が、とても読後感を良くしていた。

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西加奈子
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    2008

03.29

「重力ピエロ」伊坂幸太郎

重力ピエロ (新潮文庫)重力ピエロ (新潮文庫)
(2006/06)
伊坂 幸太郎

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兄は泉水。二つ下の弟は春。春と私(泉水)とは、半分しか血が繋がっていない。母は同じだが、私が一歳の頃、母は、突然部屋に押し入ってきた強姦魔に襲われた。その時に妊娠したのが、春だ。それゆえに春は、性的なるものに、嫌悪を抱いているが、その性的なるものが存在しなければ、春はこの世に生まれてこなかった。その母もすでに逝き、父親は癌で入院中。泉水は遺伝子情報を扱う企業に勤め、春はグラフィティアートを消す、つまりスプレーによる落書き消し専門の業者をしている。

二人の住む町で最近話題になっている連続放火事件だが、自分の会社が放火されたことよりも、別のことに私は驚いていた。昨晩、マンションの留守番電話に、春からの伝言が入っていたのだ。兄貴の会社が放火に遭うかもしれない。気をつけたほうがいいと。春は放火の起きるルールを発見していた。連続放火の現場近くには、グラフィティアートが必ずあるということ。そして描かれた英語の文字列を繋げると、謎の文章か暗号になることを。放火事件とグラフィティアートの謎も、兄貴なら解ける、その言葉に、入院中の父も加わり、兄は真相に近づいていく。

ミステリだと思っていたが、どうやら違ったみたい。形だけを見れば、叙述ミステリなのだが、純文学か、家族小説か、アンチ社会小説か、ジャンルで表現するのは難しい作品。そんな中でも、家族の絆が一番テーマになっていたと思う。大人になってもやんちゃな兄弟と、優しく見守るお茶目な父の現代のストーリー。それと、まだ母が生きていた頃を懐かしんで回想した温かなエピソードのサイドストーリー。弟は最強の兄弟だと言い、父は最強の家族だと言う。こう言い切れる彼らが、とても眩しかったし、素敵だと思えた。

伊坂の社会論みたいなものは個人的に好きだ。暴論も数多くあるのだが、言いたいことはよくわかる。二つほど特に印象に残ったので、ここに書いておく。「悪巧みを図る者はいくらでも抜け道を探す。彼らは面倒くさいことを嫌がらない。割を食うのは無害で無知な一般人だけだ」 本当にその通りだと思う。それともう一つ。「覚悟の意味も知らない政治家が胸を張り、どうでも良いゴシップばかりを報道するテレビが正義を盾にする」 政治家は言いえて妙だと思ったし、今の横並びしたテレビの一方的な攻撃にはうんざりしている者にとっては、よく言ってくれた、と共感しまくった。たぶん、ほとんどの方はスルーした言葉だろうが。

ただ、個人的に感じたことだけど、本書に限って言えば、過去の偉人の発言、DNA、クロマニョン人などの薀蓄は、助長すぎたかと思った。興味のないことを長々と読まされるのは結構しんどい。ここが欠点と言えば欠点かな。しかし、家族の物語としては、素晴らしかった思う。いい家族だ。いい親父だ。


作品間のリンク
「ラッシュライフ」:黒澤、伊藤、高橋
「アヒルと鴨」:春、田村蕎麦主人
「フィッシュ」:泉水、黒澤

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伊坂幸太郎
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    2008

03.28

「傷春譜」楡井亜木子

傷春譜傷春譜
(1994/08)
楡井 亜木子

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物心がついた頃、正確には母親が死んだ五歳の時から、大人たちが磨理枝について述べる感想はずっと、ひとつだけだった。かわいそうに、磨理枝ちゃんは。私は、かわいそうなのではない。ただ、母親がいないだけなのだ。十一歳の時に父親が再婚した。周りの大人たちは、また口々に言う。かわいそうに。大変ね。私はかわいそうでも大変でもない。ただ、新しい女が母親になるだけなのだ。父親は新しい女を選び、その女も父親を選んだ。これからは、二人が暮らす中に私がいる。継母との仲は、悪くない。周りの大人たちは嘆くけれど、私は本当に、自分のことをかわいそうだとは思っていない。ただ、どうしようもないと思っていただけだ。

継母と暮らすようになって五年。都立高校に通いだした園田磨理枝は、クラスメイトの斎藤夕凪と仲良くなった。父さんも、若い男と暮らしてる母さんも、幸せなクラスメイトも、すべて憎い。だから、何もかもどうでもいい、という夕凪と、何もかもどうしようもない、という磨理枝。そんなとてもよく似ている二人、まったく違ってもいる二人の、傷つきやすい青春を描いた作品。若さゆえの痛さがあって、不器用だが、それが大胆さにもなる少女たちの恋。あるいは親子関係。表題作である「傷春譜」では磨理枝という少女を描き、「あたたかい鎖」では夕凪という少女を描いている。

磨理枝は小学生の頃から、父親が再婚するまで、一人で家のことをすべてやってきた。それゆえに、年齢よりも老成した感覚を持つ少女に成長し、継母との生活も上手くいっているが、無意識のうちに気遣いをして過ごしてきた。そんな彼女が、夕凪からある劇団のチケットをもらったことから、三十四歳の劇団員に一目惚れし、京都に帰った男を追いかけてまで、会いにいく。大人なら理性が働くことで歯止めをかけてしまう。また子供ならそんな行動力はない。大人でもなく子供でもない、どちらにも属さない不安定な年頃。そんな彼女だからこそ、無鉄砲さを発揮することが出来るし、間違いも起こす。タイトルの「傷春譜(しょうしゅんふ)」とは、まだ人生の春しか知らない少女が傷を負うことだと、自分なりに解釈してみた。このタイトルにも楡井さんのセンスが光っていると思った。


もう一人の主人公の夕凪は、母親を愛していると思ったことがないし、彼女から愛情を感じたこともなかった。だけど、彼女は母親のくせに若い男と一緒になることを選び、家を出て行った。そんな夕凪は、子供であることを嫌悪し、大人であることを武器にする。男を自分のものにしたければ、その男の時間をお金で買うし、何事も理詰めで物事を考える。そんな夕凪だから、母親を奪っていった男と会い、大人の幼稚な自分勝手を追及するが、血のざわめきのような震えを感じてしまう。そんな心の痛さを打ち消そうとして、男に頼ろうとするが、その男は定職を持たず、何人もの女を相手に遊んでいるだけのバカ男で、正体のわからない痛みをさらに、夕凪に与えるだけでしかなかった。精一杯背伸びをして、物事に理由を求めるがゆえに苦しむ。その苦悩する姿、やり場のない苛つく姿が、「あたたかい鎖」というタイトルとは結びつかないが、それは夕凪がまだ、あたたかさに気付いていないからかもしれない。

未熟な少女たちの心の叫びが響き、圧倒するような凄みを感じた、一冊だった。

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楡井亜木子
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    2008

03.27

「人類は衰退しました」田中ロミオ

人類は衰退しました (ガガガ文庫 た 1-1)人類は衰退しました (ガガガ文庫 た 1-1)
(2007/05/24)
田中 ロミオ

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わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は”妖精さん”のものだったりします。平均身長10センチで3頭身、高い知能を持ち、お菓子が大好きな妖精さんたち。わたしは、そんな妖精さんと人との間を取り持つ重要な職、国際公務員の”調停官”となり、故郷のクスノキの里に帰ってきました。祖父の年齢でも現役でできる仕事なのだから、さぞや楽なのだろうとこの職を選んだわたしは、さっそく妖精さんたちに挨拶に出向いたのですが……。田中ロミオ、新境地に挑む作家デビュー作。《本の背表紙より》

雑誌「ダ・ヴィンチ」で、ちらっと紹介されていた本書。その記事を読んで興味が持てたので、ふだん疎遠なラノベにチャレンジしてみた。これはゆるい。めちゃくちゃゆるい。文章は読みやすく、ファンタジーらしく独特な世界観は構築されているが、それがほとんど意味をなしていない。生かされていないのではなく、わざと世界観で勝負するのを避け、主人公のキャラと、観察する側の妖精たちに焦点を絞って読ませてゆくのだ。

主人公のわたしは、地元に戻って祖父と同じ調停官になった。しかし、現役の祖父は、この調停官という仕事をまったく何もせずに、趣味の銃の手入ればかりをしている。その祖父いわく、こちらでしなければならないことなど、実際はほとんどない。自由にやってくれ、とノウハウも何も教えてくれない。そこで主人公は、妖精の好きなお菓子と、楽しい度が高そうなお子様ランチ風の旗を持って、妖精の生息地である粗大ゴミの山を訪れ、ふだん人前に姿を見せない妖精をおびき寄せようとする。

それが図に当って妖精たちはあっさり現れる。そのときの勢いで妖精たちを拉致してしまった主人公は、金平糖で餌付けして、なんとなくリーダーっぽいので、きゃっぷさん、なんとなく日系な印象なので、なかたさん、自分でなまえを決めたいとう妖精には、さー・くりすとふぁー・まくふぁーれん、ちくわさん、と命名することで、彼らの信を得る。

そのファーストコンタクトはやがて一瞬で終了してしまうが、そこでわかったことは、平均身長10センチ、三頭身、お菓子が大好き、おどろくと体を丸めてボール状になる、高い知能までは知っていたが、新たに無邪気な性格、失禁癖あり、極めて敏捷、そしてふだんはばらばらに生活をしているが、一度群を作ると、爆発的に増えるが、解散するときは一瞬ということ。それらを踏まえて、セカンドコンタクトを狙っていく、というのが作品の流れ。

主人公の女の子が、妖精たちを観察するために、お菓子で懐柔して、ときに干渉して、妖精たちの行動がひとつの結論を出すまでを、超メルヘンの生命体と一緒に行動する。ただそれだけのゆるすぎる内容の作品だが、キャラの造形を含めた、好感のもてるだらしなさや、脱力しまくったあれやこれを読ませるのが、すごく上手いと思った。

作品の内容から得るものなんて、これっぽっちもない本書だが、とにかく妖精たちがかわいらしく、主人公の祖父であるおじいさんの無関心さもいい味をだしているし、主人公の女の子のいい加減さ、適当さ、やる気があるのかないのかという中途半端さも、これはこれでありだろう。面白ければいい、かわいければそれでいい、と思った一冊だった。

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    2008

03.26

「天山の巫女ソニン」菅野雪虫

天山の巫女ソニン 1 金の燕天山の巫女ソニン 1 金の燕
(2006/06/13)
菅野 雪虫

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大陸から大きく張り出した半島は、三つの国に分かれていた。北には広大な草原と山林を有する〈巨山の国〉、南には豊かな海の幸に恵まれた〈江南の国〉があり、そのあいだに挟まれるように〈沙維の国〉があった。北のような鉱山資源も南のような外国との貿易力もないが、おだやかな気候の下、さまざまな農作物の実る国だった。天山はその中ほど、半島の東側に三国にわたって連なる山脈の一端にあり、沙維の国を見下ろす位置にあった。

生後まもなく、天山の巫女に見込まれたソニン。巫女の特殊な能力とは、夢見をすること。特別な草をたいた煙の中で、体から魂を切り離し、空に放す。体から離れた魂は、生身の人間ではとても行けないような遠い土地でも、自由に行き来することができる。しかし十二年間の修行の後、ソニンは素質がないと里に帰されてしまう。

天山からおりてきて三ヶ月、お父さんとお母さん、ユナねえさんたちと暮らす家族の生活にも慣れ、ミンという友達もできたのに、今度は思いがけない役割になって、沙維の国のお城に召されることになる。沙維の末王子、生まれつき話すことができないイウォル王子の侍女に登用された。実はイウォル王子の手に触れると、なぜか声が聞こえるソニンだった。王宮内の陰謀にまきこまれたソニンの冒険と成長の物語。第46回講談社児童文学新人賞受賞作。

五巻完結予定の第一巻の本書。さて、どう書こうかな。未読の方に配慮してネタバレなしで感想を書くか、シリーズ読破に向けて、自分のための覚書として書くか…。まあ、これだけ詳しく内容紹介を書いたから、感想を省いてもいいかな。

ここからは自分用、あるいは本を読んだ方だけ、先に進んでください。ネタバレありです。

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菅野雪虫
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    2008

03.26

「吉原暗黒譚」誉田哲也

吉原暗黒譚―狐面慕情 (学研M文庫)吉原暗黒譚―狐面慕情 (学研M文庫)
(2004/04)
誉田 哲也

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不夜城、新吉原。廓の中央を貫く大通り、仲ノ町に連なる引手茶屋。その上下のひさしに果てなく並ぶ提灯の赤は、空の色まで塗り替える。何もかもが外界とは違う街。江戸唯一の公認遊里。男の肉欲と女の欺瞞が渦を巻く、ここは暗黒桃源郷。

吉原大門脇の面番所に詰める今村圭吾は、三十八歳の貧乏同心。食われてたまるかという思いがある今村は、この町に食われるくらいなら、いっそ食う側に回ってやろうと思い、吉原で頻発している貸し花魁殺しを金で解決してやると、女衒の元締め、晴海屋の丑三に話を持ちかけた。お役目とは別に、元花魁のくノ一・彩音、元隠密同心で幼なじみの仙吉とともに、犯人の狐面たちを追い詰めていく。

一方、狐面の盗賊に両親を惨殺された過去をもつ娘おようは、上品さと輝くような美貌を持ち、長屋でひっそりと大工の幸助と愛をはぐくんでいた。しかし、三ヶ月ほど前から、おようの様子がときおりおかしくなり出した。それは彼女の悲惨な過去の出来事に関係があるのだろうか。

キャラの立った裏家業モノの今村サイド、ホラーテイストで切なさのあるおようのサイド。この対極した二つの両輪が平行して展開してゆき、やがて交わってゆく。

悪党になりきれない小悪党の今村は、生まれは忍、育ちは女郎、三人の男を密かに殺して、今は売れっ子の女髪結いの彩音と、しっぽり睦みながら、狐面たちを追う。そこに同心なら誰もが震えあがる剣豪の仙吉が加わってからは、どうもペースを仙吉に握られて面白くない。彩音にも励まされ、その焦る今村の姿が面白く、なんかこいつが憎めないのだ。

一方、馬鹿のつくような善人の幸助は、おようさんにぞっこんラブで、かつて父親から虐待されるも、健気に生きるおようを守ってやりたいと思っていた。そこにおようが狐憑きのような状態にたびたびなり、心配した幸助は、大工仕事を掘り出して、一日中おようを影からそっと見守る。なんてイジらしく切ない愛なんだろう。

誉田氏の作品は好きでよく読んでいるのだが、今回初めてというか、唯一の時代物を読んだ。わるくないと思った。人物の個性もちゃんとあるし、わかりやすい娯楽性もある。犯人探しのドタバタや、今村と彩音の艶っぽい場面もユーモアがあるし、悪党をやっつける痛快さもある。それでいて、切なさもあり、ちょっぴりホラー風味があるものの、一本の柱に沿ったストーリーがしっかりしている。最後のオチはまあ、先が読めてしまう展開なのだが、これはありかな。王道だし。

刑事物のイメージが強い誉田氏だが、これはこれで面白く読めた。あまり世間に知られていない作品だが、誉田ファンなら読んで損はないだろう。

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誉田哲也
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    2008

03.26

「ラ・パティスリー」上田早夕里

ラ・パティスリーラ・パティスリー
(2005/11)
上田 早夕里

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森沢夏織の勤務先・フランス菓子店〈ロワゾ・ドール〉は、駅から徒歩で十分ほどの坂をのぼった場所にあり、喫茶部が併設された中規模程度の個人店である。定休日の火曜日以外は、毎日のように大勢の客が訪れる。土日や祝日には遠方からも客が来て賑わう。関西地方ではよく名前を知られた神戸にある店だ。アルバイトで入り、製菓学校を卒業後、真面目に勤めたのが効いたのか、四月から正規の従業員として採用になった。正式にパティシエとして雇われたのである。

新人職人である夏織の朝一番の仕事は、誰よりも早く出勤し、厨房のオーブンに火を入れることだ。その日も、いつもと同じように厨房に入ると、見覚えのない先客が、作業台に向かって飴細工を作っていた。お菓子の作り方以外はまったく記憶がない謎の菓子職人・市川恭也だった。彼はオーナーに頼み込み、新人パティシエの待遇で、〈ロワゾ・ドール〉で働くことを認められた。

二人の交流を通じて描く洋菓子店の日常と、そこに集うさまざまなお客の人間模様。10年前の懐かしい味を求めてやってくるお客。そんなめずらしい客もいれば、ほとんどの客は気まぐれ。どんなに美味しいケーキでも、そればかり食べ続ければ、やがて飽きてしまう。そこでお店側も新たに工夫する。

そして従業員たちのそれぞれの夢。ある者は独立を目指し、ある者はコンテストで優勝がしたいと言い、東京に店を出したいと夢を語りあう。そして喧嘩別れした親子のこと、恋人未満の二人の関係のこと、市川恭也の失われた過去のこと。彼らの人間ドラマが中々面白く、読み終えたあとは、ほんのりとした幸せな気分に浸ることが出来た。

甘いモノがまったく食べられないおいらだが、ひと欠けぐらいは食べてみたいと思うまでになった。ザ・ケーキ三昧という描写ばかりで、甘いモノに目がない方にはたまらない本だと思う。ストーリーの方は、甘みよりもちょっぴりビター風味で、香りのよい紅茶が似合いそうな本であった。

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    2008

03.25

「ほんたにちゃん」本谷有希子

ほんたにちゃん ほんたにちゃん
(2008/03/20)
本谷有希子

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いやー、笑えた。本を読んで声を出して笑ったのは久しぶりかも。これは予断を与えたくないので、消極的な紹介になってしまうかも。だけど、最高に面白かった。買うのはえらい恥ずかしかったけど…。

90年代。東京。高校卒業後、自己啓発本コーナーに置いてあった『あなたも大丈夫だよ』というなんだかわけの分からない本にまんまと「大丈夫なのかな……?」と惑わされて入学した、写真の専門学校での生活も、両親を幼い頃に二人とも亡くしているっぽい感じで、エヴァンゲリオンの綾波レイのイメージである不遇キャラを、それとなく匂わせてみるが、中途半端だったせいもあったけど、クラスの中でもすぐに浮上。初めは気取ってみんなから離れていた自分も、そのうち本当に放っておかれるようになり、「個性派で売っていくぞ」って東京デビュー狙ったはずだったんだけど。それでも理想を貫き、無口で無表情で陰のある女を努める、ほんたにちゃん。

そんなほんたにちゃんはある日、「え、あの人、お正月に来て家の中うろうろしてたけど親戚のおじさんじゃなかったの?」作戦で、まるで初めから同行していたかのように、紛れるカタチで飲み会に参加した。そこにスペシャルゲストとしてやって来たのは、カリスマ・イラストレーターの野次マサムネだった。その世界の野次から、作品のモデルになって欲しいと頼まれた。これがこのおっさんとほんたにちゃんの因縁の出会いだった。

自分が何者かになる資格があるのか、才能がある人物なのか、有名人になりたい、お金持ちになりたい、人生の勝ち組になりたい、みんなから羨まれる人間になりたい。敗北して、実家の石川県に帰って農業を継ぎたくない。そのためには、目の前に現れたカリスマに、このおっさんに認められなくてはと、目前に現れたビッグチャンスに己の人生を賭けた死闘を挑んでゆく。執筆当時、19歳。本谷有希子の原点、幻の処女小説をセルフリメイク。

あらゆる人間から馬鹿にされる女だった主人公は、曝しに曝した生き恥で身動き取れなくなっていたので、上京を期に、カッコいい女イコール謎の人となぜか思い込み、他人の言動などに一切の興味がないという性格設定を装う。だけどやっぱり上手くいくわけがない。そんな自意識過剰な痛い勘違いの繰り返しにニヤリ笑いをし、ジタバタと脳内で妄想する姿に吹き出し笑いをし、その結果悶絶する姿に腹がよじれそうだった。

最近よくメディアに登場する本谷有希子だが、そのときに目にした、彼女の行き当たりばったりの思考や、やたらと高いテンションが、本書の主人公は本人を投影しているのではないか、と感じさせてしまうところがある。どうやら雑誌『hon-nin』連載時から、「これって本谷有希子の自伝?」と話題騒然になっていたらしい。というわけで、この主人公のおしゃべりを、本谷有希子の早口な口調に当て嵌めて読むと、さらに面白さがアップするかも。

本谷有希子最大の武器である両輪は、ブラックな笑いと、痛い笑いだと個人的に思っている。そのいつものようなブラックさはあまりないが、痛い笑いがこれでもかというぐらいに、ぎゅうぎゅうと詰め込まれていた。そんな笑える痛さを、主人公が絶えず提供してくれるのだ。ネタバレしたくないので具体例は避けたが、これは読んで損なしだと思った。小気味よく疾走する文章が気持ちよく、冒頭から最後のおっさんとの壮絶な戦い(一方的な)まで、一気読みをしてしまった。劇団の匂いがほとんどしない、こういう純粋なお馬鹿の小説を、また読みたい。これは大好きです。買って正解やぞ。

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本谷有希子
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    2008

03.24

「嫁洗い池」芦原すなお

嫁洗い池 (創元推理文庫)嫁洗い池 (創元推理文庫)
(2003/05)
芦原 すなお

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東京郊外に妻と二人で住む作家のぼくの許に、同郷の悪友、河田警部が美味そうな食材を手にやってくる。妻は料理の腕に勝るとも劣らない推理の冴えを見せ、捜査のヒントを示唆する。それに従って、ぼくたちがちょっとした再捜査に着手する、とあら不思議! どんな難事件も見事な解決を見せるのだ。「ミミズクとオリーブ」に引き続く、在宅台所探偵の事件簿第二弾。

成人式に親子で市民会館に行くという約束がありながら、置き手紙を残していなくなってしまった娘。...「娘たち」 豪邸の離れという密室内で起こった、吹き矢による毒殺事件。...「まだらの猫」 ヤクザの親分が子分に殺され、目撃者もいて、犯人も自供するが。...「九寸五分」 大きなお屋敷のご主人がジョギングから戻って突然死したのだが、お手伝いさんは誰かにじっと見られていたような気がすると言い、犬の様子もおかしかった。...「ホームカミング」 先代社長の葬儀が終わった晩から、現社長の行方がわからなくなってしまった。...「シンデレラの花」 死体がある、自分がやったと言う者もいる、しかし動機がまったくない不思議な事件。...「嫁洗い池」

これら6つの事件簿と、一応はミステリの体裁は取っているが、本書の魅力はなんといっても、作家のぼくと奥さんと河田の珍妙なやり取りにあると思う。謎の提出者の河田と、司会であり会話の脱線者であるぼくと、凄腕料理人であり在宅台所探偵の奥さん。彼らの滑稽な会話に、おもわずクスリと笑い、ときにプっと吹き出し笑いをしてしまう。

それにぼくのお茶目な思考が、とてもかわいらしくて好感が持てる。ジムに通って、ストイックにメニューをこなし、オリンピックを目指そうかと考えたり、秋はおじさんだっておセンチになるんだもん、とふと乙女のように涙ぐみそうになったり、初めて見たプリクラをやってみたいと、河田とおやじ二人でプリクラを撮ったりする。愛すべきおじさんぶりで、ここにも魅力があるのだ。

それから前作と同様に、何故か河田は毎回所属先が移動している。赤坂警察から始まり、武蔵野署、本庁の捜査一課、目白署、池上署、大崎署と。そして最後には、とんでもないところに飛ばされる。これら移動があるたびに、ぼくと河田がベタなやり取りをするするのだが、これがニヤリなのだ。

そして本書で外せないのが、美味そうな香川の郷土料理の数々。料理名をイチイチあげることは控えておくが、腹が減っているときには禁断の書になる危険あり。またそれら料理を食らう男二人が、気持ち良い食いっぷりで、とてもいい感じなのだ。表紙のイラストのが、まさにそれ、「嫁洗い池」の食事風景だったりする。

ハズレのない芦原作品だが、その中でも、このシリーズは特に大好きだ。すでに続編も手に入れているので、いつでも作家のぼく、奥さん、河田に会える。そしてミミズクの夫婦とも。今後も芦原すなおの新刊既刊とも、どんどん読んで行きたいのである。

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芦原すなお
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    2008

03.23

「フラミンゴの家」伊藤たかみ

フラミンゴの家フラミンゴの家
(2008/01)
伊藤 たかみ

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大阪にほど近いJ市駅の北側は町の顔。一方、駅の南側に位置し、シャッター通りと言われれ、町の下半身と呼ばれるさかえ通り商店街。そこでパチンコ屋とスナックを経営する実家を手伝い、すっかり水商売が板についた片瀬正人。6年前に離婚した妻がガンで入院し、幼い頃に別れたきりの娘・晶を預かることになったのだが…。子どもだけでなく親も大人になる。人の本当の強さとは何かを問う、悲しさの中にも可笑しさがある家族小説。

子供の世話だけはちゃんとするべきだと言う正人に対し、仕事から手が離せないと言う翔子。夫婦はすれ違いの日々が続いて、ついに別れることになった。彼女とはいっさい連絡を取らず、娘の晶と会うこともなかった。それが翔子の入院がきっかけで、娘の晶と一緒に住むことになった正人だが、我が娘とどう向き合えばよいのかわからずに、恐々と接する。それに地元人に戻った正人だが、娘は都会で育ってきた。翔子の病気のことも漏らせない。

一方の娘側、晶はかつてパパっ子だった記憶がまったくなく、自分のことを捨てたと正人のことを思っていて、パパとは呼ばずに片瀬さんと呼んで距離を取る。本人は隠そうとしているが、どこから見ても田舎ヤンキーの匂いがするし、愛車は改造シーマーだし、女の影もちらついている。だけど、母にもしものことがあれば、祖父母のもとか、母の恋人の小早川さんか、ないとは思うが正人に引き取られるかもしれないので、一応人物を見極めようとする。

ちょっと難しい年代の女の子を取り巻く大人たちに魅力があった。キャバレーを出そうとする正人の母、商才のある弟の龍二、幼なじみでパブ経営の高井戸、高井戸の妹であり正人の恋人のあや子、片瀬家の居候兼ボディーガードのたあ坊。中でもおかんのパワーと、あや子のさりげない献身さが印象的だった。

どんどん病状が悪化する翔子のことや、これからのことを考えていかなければならない不安。父娘は押しつぶされそうな現実に襲われながらも、家族経営の商売のこと、さかえ通り商店街夏祭りのことなどの問題も抱えていく。さまざまな困難はあるが、周りにいる怪しげな人々とのひと夏の生活を通して、父娘の関係は、ぶつかりながらも絆を強めていく。

晶がお母さんのことを想う場面は、ぐっと込み上げてくるものはあるが、全体的にユーモアがあって、晶を猫かわいがりせずに、自分で考えさせようとしているのが良かったと思う。それに、片瀬さんと呼んでいたのが、自然にパパと呼んでいることに気づいた時、こちらまで幸せでいっぱいになることができた。大人とは、子供が大きくなっただけで特別な存在ではない。父娘が一緒に成長していく姿に感動した、一冊だった。

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伊藤たかみ
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    2008

03.22

「うた魂♪」小路幸也

うた魂♪ (朝日文庫 し 37-1)うた魂♪ (朝日文庫 し 37-1)
(2008/03/07)
栗原 裕光小路 幸也

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合唱コンクールの全国大会の常連校・七浜高校合唱部で、合唱部のソプラノのパートリーダーを務める荻野かすみは、自分の歌声とルックスに異常なまでの自信を持つ女の子。ある日、憧れの生徒会長・牧村純一から、写真のモデルを頼まれて有頂天となるが、歌っている顔が「産卵中のシャケみたい」と言われて、すっかり自身を喪失し、合唱へのやる気を失ってしまう。そこに突如、湯の川学院高校ヤンキー合唱部の番長・権藤洋が現れて…。《本の背表紙より》

2008年ロードショーの映画を完全ノベライズ。普段この手の本に触手を伸ばさないが、作家が小路幸也とあっては別、別、別。というわけで、文庫本だし、と買っちゃいました。

主人公の荻野かすみは、歌が大好き、歌ってるあたしも大好き、みんな、あたしの歌を聴いて!という自信過剰の女の子。小学校からずっと一緒の親友で、同じ合唱部の楓やミズキの歌唱力は認めるが、あたしが一番上手いと内心で思っている。おまけにかわいさも一番、とも。そういう性格なので、音痴の子には反感を持たれるが、自分ではまったく気付かない。そんなかすみの歌っている姿を写真に撮りたいと、片思いの牧村に告げられ、うきうきドキドキするものの、出来上がった写真は、社会の授業で見た記録映像のシャケの顔そっくり。クラスのみんなに笑われるし、自分でもシャケの産卵のときの顔だとショックを受け、歌うのが怖くなってしまう。

権藤洋は、売られたケンカは買わずにはいられない。自分が強くなるのは好きだけど、ケンカが好きなわけじゃない。そんなとき、街を歩いていると、透き通るような女の歌声が聴こえてきた。その曲が、歌が、胸に突き刺さってきた。盗んだバイクで走り出す♪ 15の夜、尾崎豊。この歌に感動し、女の声に感動した。名前を訪ねると、もらった楽譜にせぬまゆうこと書いて、女は立ち去った。権藤は高校に入学後、ハンパな連中を集めて合唱部を作った。権藤率いるヤンキー合唱部は、歌に、合唱に、マジで命を懸けている。

黒木杏子は、音大を出て、音楽に生きようとしたのに、田舎のケーブルテレビのディレクターをしている。そんなある日、同じ音大出身のカメラマン中島に、全国大会の常連である七浜高校合唱部の顧問が産休で、代理の顧問が瀬沼裕子だと知らされた。彼女は杏子の憧れの存在であり、突如、姿を消して行方がわからなくなっていた。そんなときに、ヤンキー権藤率いる合唱部と出会い、荒削りだが、彼らのソウルに可能性を感じ、偶然を装って助言する。

荻野かすみ、権藤洋、黒木杏子。彼らの一人称で、交互に描かれている。やがて合唱コンクールに向かう途中で、彼らは交わってゆく。こんなにもベタな文章、ベタな感情を、小路幸也が描いているとは思わなかった。ここに出てくるのは、真直ぐな生徒たちで、歌に真直ぐ向き合っている。そして軽いコメディタッチがありつつ、青春モノとしてよく出来ている。みんなで何かを作ろうという連帯感は若干薄いが、ひたむきさなどは丁寧に書かれていた。映画のスチール写真も挟まれていて、映画の方もなかなか良さそうで、そちらもちょいと気になった。それにお値段のほうも良心的で、益々いい本だと思った。お薦めです。

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小路幸也
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    2008

03.21

「平成大家族」中島京子

平成大家族平成大家族
(2008/02/05)
中島 京子

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歯科医を自主的に引退し、優雅な隠居生活を夢見た緋田龍太郎72歳。30歳を過ぎても引きこもりの長男・克郎を「いつか追い出してやる」と思いながらも実行せずにいる。そんなところへ、夫のIT事業失敗に直面した長女・逸子の一家が舞い戻ってくる。有名私立中学から公立中学へ転校余儀なくされたさとるは、いじめに巻き込まれないための「公立サバイバル」に密かに取り組む。さらに、大阪で結婚生活を送っていたはずの次女・友恵が突然離婚、35歳で妊娠して出戻ってくる。そして妻・春子の母、タケは時折、大連の頃の記憶が頭を巡りだす。緋田家が外に出したものは全部、しかも外で増えてしまった人数をすべて抱えて戻り、出そうにも出て行かないものが、相変わらず残った。思わぬ形で四世代同居となった家族のそれぞれの思いを描いた大家族の物語。

これは良かった。三人称でだっと勢いある大家族を描くのではなく、一人称でそれぞれの人物の悩みを描き、家族たちが次々とリレーしていくことで、大家族の月日が過ぎていく。

龍太郎、72歳。何事にも事なかれ主義の緋田家当主。2年前に歯科医を勝手に定年退職。趣味は囲碁と義歯製作。...「トロッポ・タルディ」 友恵、35歳。緋田家の次女。夫との離婚後、妊娠。子供の父親が14歳年下の駆け出し芸人であることは誰にも言えない。...「酢こんぶプラン」 さとる、13歳。柳井家の長男、中学2年。有名私立中学を退学し、公立中学へ転校。両親が鬱陶しく、いじめを恐れている。...「公立中サバイバル」 逸子、40歳。龍太郎の長女。夫の会社が倒産し、一家で実家に転がり込む。溺愛する息子を転校させたことに罪悪感を抱く。...「アンファン・テリブル」 タケ・92歳。春子の母。要介護2の認知症で、時折、大連にいた頃の記憶と、現在がごっちゃになる。...「時をかける老婆」 克郎、30歳。存在感が薄い緋田家の長男。庭の物置に引きこもったまま、インターネットトレードにハマっている。...「ネガティブ・インディケータ」 皆川カヤノ、24歳。週二回、緋田家を訪問するタケの介護ヘルパー。元カレと別れ、正真正銘、初めての恋人と,ただいま甘い恋の真っ最中。...「冬眠明け」 聡介、44歳。逸子の夫。IT事業に失敗。職探しと偽って、知らない街を放浪中に、ある求人案内に足を止める。...「葡萄を狩りに」 春子、66歳。龍太郎の妻。母親の介護や、家庭に無関心な夫と我の強い娘たちに振り回され、悩みと不満が鬱積。...「カラスとサギ」 漆畑慎吾、21歳。芸名うるうるしんご。編み物が趣味のピン芸人。ひとりで産むと告げた友恵に対して、答えられなかった過去をくやむ。...「不存在の証明」 緋田家のエピローグ。あらたな生活への旅立ち。...「我輩は猫ではない」

内容紹介と人物紹介を頑張ったと思う。でも体調が悪いので感想はパス。お許しを。だけど一言だけ。これめっちゃ好き!

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中島京子
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    2008

03.21

「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊

ジェネラル・ルージュの凱旋ジェネラル・ルージュの凱旋
(2007/04/07)
海堂 尊

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桜宮市にある東城大学医学部付属病院に、伝説の歌姫が大量吐血で緊急入院した頃、不定愁訴外来の万年講師・田口公平の元には、一枚の怪文書が届いていた。それは救命救急センター部長の晃一が特定業者と癒着しているという、匿名の内部告発文書だった。病院長・高階から依頼を受けた田口は事実の調査に乗り出すが、倫理問題審査会(エシックス・コミティ)委員長・沼田による嫌味な介入や、ドジな新人看護師・姫宮と厚生労働省の“火喰い鳥”白鳥の登場で、さらに複雑な事態に突入していく。
将軍(ジェネラル・ルージュ)の異名をとる速水の悲願、桜宮市へのドクター・ヘリ導入を目前にして速水は病院を追われてしまうのか……。そして、さらなる大惨事が桜宮市と病院を直撃する。《本のカバーより》

なるほど、そういうことか。時期は水色の「ナイチンゲール」と同時進行中。そして冒頭では、如月翔子が田口のことを、バチスタ・スキャンダルをたくみに泳ぎ、前代未聞の大抜擢を受けた腹黒い魔物で、高階病院長の懐刀だと思い込んでいる。実際は愚痴外来という居心地のいい巣穴から、ぽんぽこぽんの高階に無理やり引っぱりだされただけなのに。このように内面と外面が食い違っている面白味が披露されるなんて、これだけでツカミはオッケー。それに水色では頼りない看護師の小夜と田口の目線でストーリーが始まったのが、赤色の本書ではICUの爆弾娘と揶揄される翔子と将軍の異名をとる速水の目線で始まる違いも面白い。

それに今回もきらりと輝く青色の「螺鈿迷宮」に引き続き、暴走するミス・ドミノの姫宮看護師が登場。ダメっぷりは相変わらずだが、論理構築の権化ともいえるICUの花房看護師長との噛み合わない会話や、速水と亡くなった少女の父との死亡解剖をめぐる言い争いに割って入り、児童虐待があったことを暴くなど、読ませる部分がたんとあった。

そんな中、相棒である裏番長の藤原看護師の活躍はあるものの、田口は登場こそ多いのだが、いつまでたっても傍観者の立ち位置のまま物語は推移していく。そんな風に思っていたら、最後の最後でおいしい部分をごそりとっと持っていった。行灯くんも、政治を身につけたということかしら。

本書で再び、田口・白鳥のコンビが復活だが、本書の主役はジェネラル・ルージュこと速水センター部長だろう。彼のカッコよさ、潔さ、救命救急にかける情熱など、彼の強烈な個性に読ませる部分があったと思う。同期のがんがんトンネル魔神こと島津助教授が唱えるエーアイの必要性や、速見が投げかける現在の医療現場の抱える問題点を、エシックス・コミティの沼田やその腰巾着の一個小隊と対決する。ああだこうだと倫理ではぐらかすエシックスの面々は正直うざい。だけど、最後には速水と島津、そこに加わる白鳥の舌鋒で、エシックスを粉砕するのは快感だ。

ネタバレするわけにはいかないので書かないが、その後も速水の活躍にわくわくドキドキし、彼の一挙手一投足から目が離せない。評価はあまり高くない水色の「ナイチンゲール」を読んでいると、さらに赤色の本書の面白さが増すだろう。情熱=赤色のカラーがぴったりとくる作品だった。

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海堂尊
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    2008

03.20

「ラットマン」道尾秀介

ラットマンラットマン
(2008/01/22)
道尾 秀介

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主人公の姫川亮は三十歳で、アマチュアロックバンドのギタリスト。幼いころに姉と父を、奇妙な状況の中で亡くしていた。高校時代の同級生で結成されたバンドは結成十四年を経て、デビューを目指すでもなく、解散するでもなく、細々と今も活動中。メンバーは、ベーシストの谷尾、ボーカリストの竹内。二年前にドラムスだけが、姫川の恋人、ひかりからその妹の桂に交代していた。姫川とひかりの関係には僅かな軋みが存在していた。ひかりの倦んだ態度に、姫川は猜疑心を抑えられない。そんななか、事件は姫川たちが練習中のスタジオ「ストラト・ガイ」で起こった。そのスタジオで起こった事件が、姫川の過去の記憶を呼び覚ます。

あーーーっ、またやられた。あいつが怪しい、いや、こいつだ、まてまて、こっちだ。などと犯人探しをしてみるが、結局は道尾秀介のミスリードに踊らされ、やっぱりね、と油断していたら、またもや、ものの見事にひっくり反された。さらにその後にも。少し疲れた。だけどこれは心地良い疲れだ。そして読み終えて思うこと、それは抜群に上手いということ。

「ラットマン」とは、心理学の絵に由来するもので、同じ絵柄であっても、横に並ぶ絵が違っていると全く別なものに見えてしまう、という心理的錯視を示すもの。つまり視覚が与える錯覚、思い込みのようなもの。これを練りこんだ手腕は、ほんとに凄かった。圧巻というやつ。

それに加えて、文章による引っかけや、エピソードの並べ方、違う人物での一人称なども、ラットマンの絵さながらの錯覚を読者に与えてゆく。そしてコピーというキーの使い方が巧みだった。エアロスミスのコピーバンドを、ただのコピーだと卑下し、実際の行動もコピー…。おっと、これはやばいか。

現在の姫川が遭遇する事件と、過去の事件の謎が、まるでシンクロしているかのように描かれ、やがて驚くべき真相が浮かび上がってくる。もう思う存分、道尾秀介にやられちゃって下さい。そしてタイトルの「ラットマン」の意味を噛み締めて欲しい。すごく面白く、すごくよく出来たミステリであった。


おまけ。
作中に出てきたエアロスミスの「Toys in the Attic」という曲が聞きたい方は、このあとの「Toys in the Attic」をクリック後、左サイドのディスコグラフィの中から、上から11番目の「闇夜のヘヴィ・ロック」を選び、1曲目を視聴して下さい。

クリック→「Toys in the Attic」

ちなみに「エアロスミス濃縮極極ベスト」の4曲目、「Walk This Way」は踊る御殿の曲。16曲目は映画「アルマゲドン」の主題歌。

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    2008

03.19

「遙かなる時空の中で」近藤史恵

遙かなる時空の中で 遙かなる夢ものがたり (GAME CITY文庫 こ 1-2)遙かなる時空の中で 遙かなる夢ものがたり (GAME CITY文庫 こ 1-2)
(2008/02/29)
近藤 史恵

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ごく普通の女子高生・元宮あかねは、同級生の森村天真、後輩の流山詩紋とともに、不思議な井戸から、異世界「京」へと召喚された。”龍神の神子”として選ばれたあかねは、怨霊や鬼と戦う日々を送っていたが、その影響で穢れを受けやすく、「物忌み」の日は外出を控えなければならず、その日は神子を守る八人の男たち、「八葉」の誰かと一緒にいなければならなかった。外出できないあかねは、「八葉」たちに「京」で起こった事件や、過去の不思議な事件を話すようせがむ。

左大臣家に仕える武士団の一員。天の青龍である源頼久。彼があかねに語ったのは、かつての同僚・祐成の話だった。不死となった祐成の身分違いの恋の行方と、彼の不死の理由を追う。「六道を閉ざされた男」

帝の弟で、仁和寺に出家している法親王。天の玄武である永泉。彼があかねに語ったのは、シキミという少年の話だった。少年は、狐が化けた姿だった。家族を殺され、人間への復讐を思い抱くシキミと、それを止めようとする永泉。「冬衣の狐」

内裏の警護を担当する近衛府に勤める貴族。地の白虎である橘友雅。心を病んだ女性に、愛した男性と間違われた友雅は、その間違われた男に会い、この件に怨霊が関わっていることを知る。友雅は頼久と協力して解決に挑む。「朝顔塚」

あかね、天真とともに京に召喚された中学生。地の朱雀である流山詩紋。彼は最近出会った少年のことを語る。いつも大きな犬といっしょにいた少年と、詩紋は友達になった。そう語った直後、行方不明になってしまう詩紋。八葉とあかねは協力して詩紋を探し求める。「朱雀門の犬」

何も知らずに近藤史恵だ、と買った本だが、元は乙女ゲーのノベライズだった。というわけで、ゲームの世界観やキャラはまったく知らなかった。でもラノベとしては、よく出来ていたと思う。あまりファンタジー色も強くなく、特異な設定に縛られていることもない。四話とも一話完結で、さらっと読めてしまう。前三話は八葉という人たちの昔語りで、この世界観に固執したものではなく、単独作としても読める作品だ。最後の一話はゲームキャラがオールキャストになっているので、ゲームファンの方なら垂涎ものかもしれない。

ゲームは好きだけど読書が苦手だという人でも、お気軽に手に取れる作品だと思う。そして読み手を選ばない作品だろう。これを読んで面白ければ、近藤史恵の他作品を読んでみてはどうだろうか。キャラが魅力的で、読後感も悪くなくない。でもちょっぴり切ないけれど、さくさく読める。そんな一冊だった。

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近藤史恵
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    2008

03.19

「ワンダー・ドッグ」竹内真

ワンダー・ドッグワンダー・ドッグ
(2008/01)
竹内 真

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高校一年の甲町源太郎が拾った一匹の子犬。ワンダーと名づけられたその犬を学校で飼うために、甲町はワンゲル部に入り、頭の固い先生たちを相手に大奮闘を演じる。三年後、千草由貴はワンダーの自由のために初めてのクライミングに挑んだ。六年後、教育実習生として高校に帰ってきた甲町。彼らのそばにはいつも、茶色くて人懐っこい犬がいた。少年と少女と犬の十年間を描いた極上の成長小説。《本の帯より》

第一章は、甲町源太郎が入学式当日に拾った犬を、ワンゲル部でワンダーと名づけ、このワンダーを部活所属の部員犬にする。そのため学校で飼えるように、犬嫌いの教頭先生をいかに説得するか、というお話。甲町、三年生の三上部長、滝副部長、二年生の角田、そして顧問の大池先生。彼らのワンダーフォーゲルを通しての成長、ワンダーとの絆、ワンダーが学校に受けいれられるまで、そして彼らの卒業を描いた物語。「ワンゲルとワンダー」

第二章は、部活はしたくないが、ワンダーの世話をしたい、という初の女子部員がワンゲル部に入部した。その千草由貴は、ワンダーの世話は熱心にするが、集団行動に馴染めず、一方で色恋の噂が耐えない。大池先生は顧問として黙っていられなくなり、ワンダーの学校での開放を交換条件に、ボルダリングのモニターを言いつける。千草は嫌々始めたロッククライミングだが、その競技の面白さに引き込まれていく。「クライミングとマウンティング」

第三章は、ワンダーを連れてきた張本人、甲町源太郎が教育実習生になって学校に戻ってきた。その甲町を待っていたのは、立派に成長したワンダーと、噂に尾鰭が付いてすっかり話が大きくなった甲町伝説。教育実習には来たものの、まだ教師を目指す決心がつかない甲町。その彼が実習するクラスには、ワンゲル部の後輩である戸橋と、妙に攻撃的に絡んでくる矢城一恵がいた。「実習と脱走」

第四章は、これまでに何かと影になって協力してくれた新聞記者の長谷川。大池先生の後輩である彼の発案で、空沢高校ワンゲル部の同窓会が開かれることになった。場所はワンゲル部らしく山でのキャンプ。続々と集まる顧問、現役、OB、OGたち。そんな彼らの姿をテレビクルーが撮影する。後日、仲間が集まってテレビ放送を見たとき、そこにはみんなのワンダーの成長した姿があり、言葉にできそうにない思いが駆け巡る。「同窓会と部員犬」

ワンダーと接しながら生徒たちの成長していく姿が瑞々しく清々しかった。上下関係が厳しくなく、温かな先輩後輩の関係もすばらしい。子供たちの目線まで落とさずに距離を取りつつ、生徒を信じて協力する先生も素敵だった。そして、みんなの愛を受けて育ったワンダーは幸せな犬だ。ワンダーフォーゲルにある言葉、自分で決定し、自分の良心に基づいて自分の責任で行動し、そして新しい人生を形成する。このワンゲル精神が心にある限り、彼らは真直ぐに生きていくのだろう。どこか児童書の匂いがして、とても読みやすく、ラストにはぐっときて、そしてすごくいい作品だった。お薦め。

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竹内真
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    2008

03.18

「医学のたまご」海堂尊

医学のたまご (ミステリーYA!) (ミステリーYA!)医学のたまご (ミステリーYA!) (ミステリーYA!)
(2008/01/17)
海堂 尊

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僕は曽根崎薫、14歳。歴史はオタクの域に達してるけど、英語は苦手。愛読書はコミック『ドンドコ』。ちょっと要領のいい、ごくフツーの中学生だ。そんな僕が、ひょんなことから「日本一の天才少年」となり、東城大学の医学部で研究をすることに。でも、中学にも通わなくちゃいけないなんて、そりゃないよ……。医学生としての生活は、冷や汗と緊張の連続だ。なのに、しょっぱなからなにやらすごい発見をしてしまった(らしい)。教授は大興奮。研究室は大騒ぎ。しかし、それがすべての始まりだった……。ひょうひょうとした中学生医学生の奮闘ぶりを描く、コミカルで爽やかな医学ミステリー!《本のカバーより》

桜宮中学に通うカオルは、潜在能力試験で全国1位の成績を取り、東城大学医学部総合解剖学教室での研究に参加することになった。実はその試験問題を作成したのはゲーム理論学者のパパで、問題を作るためにその実験台として協力させられていたからだ。二人のやり取りは、現在パパがアメリカに住んでいるので、メールでの会話で。つまりカオルは試験の中身を事前に隅々まで知っていた、というわけだ。

歴史以外はからっきし苦手なカオルは、ガリ勉の医学オタクの三田村、英語が得意な幼なじみの美智子に助けてもらいながら大学に通うが、元来がお調子者なので、「何事も勝ちすぎるのはよくない。ほどほどが一番」というパパの教えを忘れ、つい調子に乗って知ったかぶりを発揮し、深みにはまっていく。

そんなカオルは研究室で、すぐに浮かれる藤田教授の下、カオルの指導教官を受け持つモグラさんこと桃倉さん、先輩のスーパー高校生医学生の佐々木さんらと、レティノ(目玉の中で勝手に増える憎いガン)について研究する。そんなある日、桃倉さんについて実験をしていると、カオルは大発見らしいことをしてしまう。藤田教授は追試(確認)をしていないのに、その発見を論文にし、功を焦ってなりふり構わず発表してしまった。

その後、その実験がエラーであったことがわかり、身勝手な大人の代表選手の藤田教授は、すべてカオルの独断だと世間に取り繕い、わが身の保身に走ろうとする。そのときカオルは、海の向こうにいるカオルのパパはどうするのか、というお話。

ジャンルでいえばYAだが、これがすごく面白かった。補足情報としては、左開きの本で横書き。つまりは英語の教科書のような作りになっている。それにしてもリンクが多かった。おいらが気づいただけでも、田口教授、高階学長、佐々木さん、如月翔子看護師長、酔っ払いのバッカスと正論のシトロン星人、貝殻の残骸、とめちゃめちゃあった。その中でも佐々木さんの位置づけは格別なものがあった。それに田口が教授に昇進し、翔子が看護師長になっている。そんな未来の設定なので、藤原元看護師長はすでに鬼籍に入っているのかも、なんてね。

そして、さまざまなパパの教えも面白かった。数々あったので、すべてを書き連ねたりはしないが、中にはにやりと笑ってしまうものもある。それにいい格言もある。そんな中で、アクティヴ・フェースやパッシヴ・フェースが出てきたのには、吹き出してしまった。しかもこちらの説明の方が理解しやすい。アクティヴはやられたらやり返せ。この場合相手が本気で反撃してくるから、総力戦になる。パッシヴの極意は明鏡止水。すべての事象をあるがままに受け止めて、可能な限り波風を立てない方法。闘わないことを最上として、ダメージは少ない。ただしこれも相手次第で、相手がものすごく悪質だった場合、無傷ですまない可能性がある。とのこと。

海堂さんは作品の中に詰め込みすぎのきらいがあるのだが、本書はその点、YAらしくすっきりしていた。これぐらいのネタの量で丁度いいと思う。でもミステリは相変わらず下手かな。医学ミステリーと銘打ってはいるが、全然ミステリになっていない。せいぜい佐々木さんの正体ぐらいがおおっとなった程度。だけどエンタメとしては二重丸をあげたい。

赤色や黒色の本を読んでいたら、もっと楽しめたのかもしれない。でも図書館の順番が回ってきたからこれはどうしようもない。それでも大満足な読書ができたから、好し好し。

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海堂尊
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    2008

03.18

「アルキメデスは手を汚さない」小峰元

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)
(2006/09/16)
小峰 元

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女子高生が妊娠中絶手術の失敗で死んだ。彼女は最後まで相手の男の名を明かさなかった。ただ、臨終のとき「アルキメデス」という不可解な言葉だけを残した。死んだ女子高生の父、柴本健次郎はこの時代の建築ブームで財を築いた資産家で、娘の復讐を誓う。そして日頃の豪腕ぶりを発揮し、娘と親しくしていた同級生たちを特別に初七日に招き、死の原因を作った男をあぶりだそうとする。しかし高校生の実態がわからずに空回りする。

一方、突然の呼び出しで柴本家に行くことになった学生のうちの一人、内藤規久夫は自分の弁当がいらなくなったので、昼休み恒例の弁当セリ市に出すことにして、柴本美雪の初七日に参加した。そこでとち狂った健次郎から美雪の男として疑われるが、そこへ内藤の弁当を食べたクラスメイトの柳生が倒れたと連絡が入った。その弁当からは劇薬である砒素が検出された。

幸いにも命に別状がなかった柳生だが、彼の姉が不倫関係を続けている会社員が失踪し、他殺体となって柳生家の床下から発見された。表向きは病死と伏せていた死を中絶の失敗が原因だと噂を流し、毒入りの弁当を食べるに至り、姉と不義をしていた男が殺された。一人の人間に関連して三つの出来事が相次いで発生したことで、柳生に嫌疑が掛けられるが、彼には修学旅行に行っていたという鉄壁のアリバイがあった。1970年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。第19回江戸川乱歩賞受賞作。

これはネタバレなしでは書きにくい。まあ、頑張って書いてみるが期待しないでもらいたい。誰が妊娠させたのか、毒殺未遂事件、ちっぽけな密室事件、絞殺扼殺の謎、時刻表によるアリバイ崩しなど、ミステリ要素としては豊富だ。しかし、どれもが小さくて、単独の謎ではしょぼい。それらを結びつけることで、一つの作品に仕上げたことは評価できると思う。

大人の世界で通用する考え。子供たちだけで通用する考え。そこにギャップがあるのは、いつの時代でも同じだと思う。いつでもはっちゃけた若者はいると思う。そこに焦点を絞ることで、ストーリーを終結しようとした作者の意図はなんとなく理解できる。子供たちを理解しようとする大人。理解しようとしない大人。それらとは別次元の子供たちも、やがて大人になり、また同じようなギャップを感じるようになる。まるで無限ループのように埋まらない溝が、いつまでも続く。そんな閉塞感が披露されるところが、少し息苦しくなった。

最後に救いがあったので、読後感は悪くなかった。しかし、真相解明部分が助長すぎて、作品のバランスを崩していたのが残念だった。それに謎解きというよりも自白になっているし、そこがちょっと消極的なのがマイナスだと思った。

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    2008

03.17

「負の紋章」ヒキタクニオ

負の紋章負の紋章
(2008/01)
ヒキタ クニオ

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東京を東から西へ横断するJR中央線の阿佐ヶ谷駅を最寄り駅にする場所に、石渡の家はある。周りには建物が密集し、キャラメルの粒のような小さな家が並んで建っている。石渡宗介、45歳。妻・由美子と小学四年生の一人娘の佳奈との三人暮らし。これまで当たり前の日常を生きてきた。そこにあるのは小さな幸せ…。早く帰ってきて、誕生日のプレゼントを渡すから。娘の佳奈の言葉を裏切ってしまった石渡は、翌日の朝、出かける間際の由美子と軽い口喧嘩をしてしまい、微熱のある佳奈をひとり家に残して、意地をはって暑気払いに出かけた。そして夕刻、自宅に帰ってみると、留守番をしていたはずの佳奈の姿がどこにもなかった。

二人は探せる場所はほとんど探した。しかし、佳奈の痕跡さえ見つからない。佳奈は洋服も着替えていない。靴も履かずに、財布もある携帯も置いたまま、いったいどこに。何が起こっているのかわからない二人は、警察に捜索願を出した。四日後、佳奈は井の頭公園で無残な死体で発見された。全身に無数の噛み傷が残る異常な殺害状況だった。

娘を亡くした夫婦の前に、悪意のない悪意は大きな塊となって連日押し寄せて来た。外出すると、必ず労わりと慰めの言葉を掛けられる。そのあとにやってくるのは好奇な視線。それはマスコミの取材であっても、友人知人であっても同じだった。誰も悪意はない。しかし、そんな言葉を聴くと疎ましく感じた。佳奈には美少女という言葉が付けられ、殺害の文字と共に、顔写真が全国を回遊する。

そんな二次被害の大きな渦に、由美子が呑み込まれ実家に帰った。由美子は佳奈の思い出だけを抱き、その他のすべてを忘れ去ることで、納得しようとしているのかもしれない。そして石渡は、犯人を警察よりも早く見つけ、自分の手で殺す。それが自分の考える納得だと思うようになる。そう、復讐という名の己の正義を。

前半部分のやり切れなさや、重たく冷たい雰囲気は、いつものヒキタ作品を感じさせる。その後、頭が固くて古い石渡は、少女への変質的な性欲を安易にロリータ嗜好、つまりオタクと結びつけ、秋葉原へ出かける。そこでフトしたきっかけで、女性警察官のコスプレをするポリ子と名乗る女の子と出会う。それから度々ポリ子が石渡の前に現れ、この手の犯罪は嫌悪している。警察マニアだから捜査の方法も詳しいし、オタクならうってつけなので手伝わせて、と訴え続けて助っ人になる。この軽さは初期のヒキタ作品のノリかと納得するものの、その後の展開はどんどんはちゃめちゃになってゆく。

ポリ子の紹介で、大金持ちでラブドール(高級ダッチワイフ)収集家の木之本、痛みに耐えたり与えたりに快感を覚えるラバーフェチの熱子、新しい犯罪の方法論を考える絵図男、という、ある意味でプロのオタク集団が石渡に協力することになる。この辺りから、内容はとんでも小説になってゆく。違法行為で性犯罪者を探すものの、やっと犯人を見つけたと思ったら、佳奈を殺害した犯人は警察に逮捕されてしまう。その後の展開はあえて書きません。あしからず。

こういう先の読めない変てこな大風呂敷は嫌いじゃない。その後の展開もツッコミを入れればキリがないのだが、前作「不器用な赤」の後味の悪さよりも、本書の悪ノリの方が好みだった。重苦しい雰囲気だと覚悟していた内容とはまったく違うが、読後感もすばらしく良く、また、こういうめちゃくちゃな作品を読みたいと思った。個人的にはありかな。

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ヒキタクニオ
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    2008

03.16

「オーデュボンの祈り」伊坂幸太郎

オーデュボンの祈り (新潮文庫)オーデュボンの祈り (新潮文庫)
(2003/11)
伊坂 幸太郎

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コンビニ強盗にあっさり失敗した伊藤は、気が狂った警察官の城山に逮捕されてボコられるが、乗っていたパトカーがスピンして、止まった隙になんとか逃げ出した。その後、伊藤は気が付くと見知らぬ島にいた。荻島。仙台の先の牡鹿半島を、ずっと南下したところに位置する、外界とは隔絶した誰も知らない小さな島。本当の孤島らしい。その荻島には、妙な人間ばかりが住んでいた。

島の案内人である日比野、反対のことしか言わない変人画家の園山、唯一島と外を行き来する熊のような轟、地面に横たわり心臓の音を聞く若葉という少女、足に障害を持った小柄な田中、太りすぎて動けなくなった市場のウサギさん、伊藤と同じく外から来たが嫌われ者の曽根川、疑り深いが役立たずな警察官の小山田、郵便局員の草薙青年と奥さんの百合、この島のルールとして人を撃つことを許された桜、人語をしゃべり未来を知っているカカシの優午。

翌朝、伊藤が目を覚ますと、島の状況は一転していた。カカシの優午が殺されたのだ。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を予測できたカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。生前のカカシに勧められた、元彼女の静香に絵葉書を出し続けることによる作用とは。そして、昔から島に言い伝えられている言葉、「ここには大事なものが、はじめから、消えている。だから誰もがからっぽだ。島の外から来た奴が、欠けているものを置いていく」という、言葉の意味するものとは、いったい何なのか。

ローカル・ルールに縛られたお伽の国。そこに紛れ込んだ主人公が、あっちこっちと島中を行ったり来たりして、奇人変人を訪ね歩く。ただそれだけのお話なのだが、これが読ませるのだ。個性的な人物たちのエピソードあり、殺されたカカシの謎あり、島の言い伝えあり、殺害される人物もあり、極悪非道な城山の動きあり、静香に迫る危機あり、といろんなピースが落ちている。主人公がそれらをこつこつ拾って、島の外部でもいろいろあって、それぞれの人物に割り当てられた役割が一つになったとき、この孤島である荻島に、ある奇跡が起こる。

今回は再読なので、結末を知りつつ読んだ。すると中盤あたりで、伊藤がさらっと答えた言葉が、この島に欠けているものの正解だったりすることに気付いた。未読の方はページ数を忘れて頂きたい。既読の方で文庫本をお持ちの方はページを捲って欲しい。文庫版214ページの12行目。278ページの7行目。複線探しの再読はたまにしてみるが、まさか答えが記されているとは思わなかった。恐るべし、伊坂幸太郎の茶目っ気。

再読でも充分に楽しめたし、再読でしか見つけることが出来ない楽しみも味わえた。たまには再読も悪くない。特にミステリでは、作者の綿密な仕掛けが面白いし、読み込みが足りなかった部分が埋められ、新しい発見がある場合もある。しかし、今回気付いた伊坂の豪胆さには、ミステリの驚き以上にびっくりだった。


作品間のリンク
「ラッシュライフ」:伊藤、神様のレシピとカカシ
「グラスホッパー」:神様のレシピとカカシ
「フィッシュストーリー」:伊藤

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伊坂幸太郎
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    2008

03.15

「セ・シ・ボン」平安寿子

セ・シ・ボンセ・シ・ボン
(2008/01)
平 安寿子

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笑う留学物語。生き迷っていた若いタイコが、留学先のパリで出会った、風変わりな人物、おかしな出来事。笑って、あきれて、やがてしみじみとする、調子っぱずれの留学物語。
《出版社より》

広告会社に就職したのはいいが、要求されることができない無能さに気付かされて、悄然と退職。心を入れ替えて、普通のOLに鞍替えしたが、二年で飽きた。結婚願望は、全然ない。したいことがない。できそうなことも、ない。でも、フランス語はちょっとだけ、できた。一言で言えば、見栄。プラス、輝ける将来を約束する何かに遭遇するのではという根拠のない期待。二十六歳のタイコはパリでホームステイを始めた。

「大きな欠点のある男」
ホームステイでお世話になるマンソー家のレナート、四十二歳。彼女が語る単身赴任中の夫フィリップのこと。出会いから馴れ初め、結婚までの過程に、女の黄金時代は三十代と人生の教訓まで熱弁。でも結局はお惚気なのかも。

「人生はトラブルとアクシデントで出来ている」
語学学校でクラスメイトになったアメリカン・ガールのプリシラ、三十二歳。彼女はキャリアウーマンで頑張り屋。そして人妻なのに性は自由奔放。そっちまで頑張らなくても、と情の深さにヒイテしまった。これがアメリカンなのか。いや偏見か。

「典型的な英国男」
どこか取り澄ました雰囲気のある、親しみにくい下宿メイトのグラハム、三十六歳。イギリス人らしい傲慢さで人を見下す高慢チキ。まったく打ち解けないのだが、食べられないものが一致する場面は微笑ましかった。

「根性曲がりのブルーアイズ」
語学留学と称して外国に行き、遊んでばかりいるアホンダラのバルゲ、二十二歳。世間知らずのノルウェー人で、他人を攻撃的に揶揄する。一部の人にはウケが良いが、主人公と同じくうんざりなヤツ。殴ってやりたいと思う反面、憎めなさもある。

「坊やなんて言うな!」
生意気な青二才だが、どこか惹かれるドイツ人のヘルマン、二十歳。文学的で頭がよく、彼の本質がわかってしまえばかわいらしいヤツ。ラストで彼に仕返しをするタイコににやり笑い。意外とタイコも人が悪いな。

「帰れない国は美しく」
祖国を離れて八年になるイラン人のアーマッド、三十三歳。イスラム革命に揺れる当時の世界だが、彼の愛国心はまったく揺れない。天性のモテぶりはやっかむところが、ちょいとカッコいい大人でもある。

「謎の日本人」
何もかもがうさんくさい日本人のヤスコ、年齢不詳。皇室に連なる家系で、結婚が嫌で外国を転々と逃げ回っているという。ばればれの嘘を平気でつき、疲れるし友達になりたくない女。しかし、こういうタイプの人間はどこにでもいる。

「典型的な英国男と旅すれば」
ホストのマンソー夫婦が旅行に出かけることになり、二人の下宿人は、ベルギーのブリュッセルにあるアパルトマンまでドライブすることになった。プライドの高いグラハムと方向音痴のヤスコ、貞淑な大和撫子のヤスコとホモセクシャルのイギリス人の、噛み合わないやり取りが笑いを誘う。

「アンブラッセ!アンブラッセ!!アンブラッセ!!!」
ユーロセンター三ヶ月コース、最終の日。フランス式別れの挨拶、アンブラッセ大会が開催。軽く抱き合って、頬に空気のキスをする。タイコの大和撫子ぶりがかわいらしく愛おしい。彼女はそのとき何を思うのか。

「想い出はセ・シ・ボン」
その後日談と、パリをどう思っているのかを綴ったエピローグ。

エッセイは生の声がストレートに伝わるので、感情の押しつけが強すぎて苦手なのだが、本書はジャンルでいえば私小説。だから主人公のタイコと共に、なにコイツ、やっぱそう思うか、それはヒクよね、おまえはガキか、などと共感しまくりで楽しむことが出来た。それに文章が読みやすく、国によっての考え方の違いや、個性ある人物たちの良いところ悪いところに、適度な感情の運動をすることができた。

日本人が優れているとは思わないし、劣っているとも思わない。でも、この作品を読むと、そんなに捨てたものじゃないと思えてくる。しょせんは個人のモラルかとも思う。何が正しくて何がいけないことかは人それぞれの価値観だが、タイコさんとはお友達になれそう、いや、なれると感じた。

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平安寿子
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    2008

03.14

「まほろ駅前多田便利軒」三浦しをん

まほろ駅前多田便利軒まほろ駅前多田便利軒
(2006/03)
三浦 しをん

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まほろ市は神奈川にはりだした東京南西部最大の街。神奈川や八王子からヤンキーたちがくりだし、繁華街の一すじ裏には“ちょんの間”があり、暇をもてあました金持ちが妙な道楽をする。外界から異物が流れ込む混沌と平凡な日常のリズムが奇妙に両立するこの街で、多田と行天の便利屋コンビがまきこまれる数々の事件とは……。近年めきめきと頭角をあらわした気鋭の乗りに乗った最新作です。多田・行天のキャラクターの魅力全開の一冊。
《出版社より》

まほろ駅前で便利屋をする多田啓介。商号は多田便利軒。多田は預かったチワワを連れた仕事の依頼先で、変人として有名だったかつての同級生・行天春彦と再会した。行くあてがなく急に転がりこんできた謎だらけの行天と、わけあって飼い主募集中になったチワワ。二人と一匹の便利屋兼共同生活が始まる。

BLエッセイ「シュミじゃないんだ」で、この二人のことに触れていたがなるほど、こういうことだったのかと納得。確かにいい大人のおやじ二人だけで同居ってふつうはありえない。というかあっても少ないと思う。でもこの二人の関係は悪くなかった。

お節介な多田と何を考えているのかわからない行天のコンビ。彼らコンビは、チワワがきっかけで自称コロンビア人のルルとハイシーと出会い、チンピラのシンちゃんを知る。そして親の愛に飢える由良というガキの面倒を背負い込み、凪子とはるの親子は行天の過去を多田に運び、疫病神の星が寄こした晴海に多田が過去の事実を告げ、最後に多田は自分の罪なき罪の過去を行天に打ち明ける。

さり気ない優しさあり、ちょっぴりハードボイルドあり、親子のこと、家族のこと、引きずる過去のこと…。ときにむさ苦しくも、似ていないようで似ている二人が絶妙ないい味を出していた。特に内面が見えてこない行天のキャラが秀逸だった。無口で無関心かと思いきや、自分から他人の懐へ飛び込んで行き、その果てには暴力で解決しようとする。なんて無茶苦茶なヤツと思わせておいて、フト捨てられた子犬のような一面も見せて、放っておけないような哀愁を漂わせる。まったく捉えどころがない人物なのだが、お節介のくせに屈折しまくりで後悔だらけの人生を過ごした多田と並ぶことで、茶目っ気と自由さが際立ち、なんか、こいつ好きとなった。多田も悪くはないけど、個人的には行天派ということ。ただそれだけ。

本書のような、薬、娼婦、チンピラ、暴力といった、殺伐とした三浦しをんを読んだのは初めてだが、読み始めは戸惑ったものの、最後には本を閉じるのが惜しくなってしまった。これの救いは、ラストが中継地点のような終わり方で、続きがあるかも、という希望が持てたこと。また多田、行天、ちわわ、ルルたちと再会したい。そう思えた一冊だった。

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三浦しをん
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    2008

03.13

「先端で、さすわさされるわそらええわ」川上未映子

先端で、さすわさされるわそらええわ先端で、さすわさされるわそらええわ
(2007/12)
川上 未映子

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語り手の少女、あるいは女性が、銭湯、部屋、図書館、教室、電話、渋谷、といったそれぞれの場所から物語を思弁を、言葉と言葉にならぬものを渾身で発信します。わたしにとっても大切な一冊になりました。読んでくれはった方にはとっても、なんというか、いい一冊になってくれれば本当にこれ以上に嬉しいことはありません。
(川上未映子公式ブログ「純粋非性批判」より)

詩集です。ポエジーです。収録作は、表題作の「先端で、さすわさされるわそらええわ」「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」「ちょっきん、なー」「彼女は四時の性交にうっとり、うっとりよ」「象の目を焼いても焼いても」「告白室の保存」「夜の目硝子」の七編。

詩とは謳うことであって、これに一々感想をいうのは無粋である。なんてカッコいいことをいいたいが、何を謳っているのかよく理解できなかった、というのが本当のところ。しかし、リズミカルな文章がすーっと頭の中に浸透し、そこに留まることなく、すーと抜けていく。おいおい、抜けてはいかんだろう。ははっ。というわけで、本書の良さを上手く伝える自信がない。内容を紹介するのも難しい。そこで本文の一部を引用させてもらって、内容紹介ならびに作品の雰囲気を伝えたいと思う。

まずはきらりと輝く言葉のセンス、物事のとらえ方が素晴らしいと思った一文。「抜いた毛はしばらくすると細くなって面白くなくなってちり紙のうえで死んでゆく。おおよ艶としていたさっきまでの命は毛から失われてしまうのです。ぐいんぐいんとしていた髪の毛いっぽんさよなら」 抜いた髪の毛一本で、ここまで生命のはかなさを表現するなんてすごい。それに文章がきれい。

次は苦悩する人を表現した妙の一文。「どれくらい首を折り曲げたらそれは『うつむく』ということになるのかを、ただぼんやりと、考えるというほどのあれもなく、指が草をぷっと吸って捨てるように思えば、気まぐれならば美しさもあるもの、ぼんやりと、人は、生まれて、生きて、そして死んでゆく、それだけではなんでいったい駄目なんでしょうか。それだけでは、なぜこんなにも色んな場面が苦しいのでしょうか」 抽象的な一節を加えることで、苦悩する姿にも美しさを感じさせる。

次はまず一文を。「ここにはやはり、思想しかないのです。語られなかった思想、切り捨てられた思想も相殺された思想もあるなかで、利用するものとされるものの偶然の導くところによって、遺された思想はここで結晶したのです」 これは図書館を評したもの。普段なに気に利用している図書館が、この一文では生き物のような迫力を感じさせる。確かに思想のかたまりだし、偶然の本との出会いもある。思想の結晶とは、怖くもあり、好奇心をくすぐるものである。

最後は素敵だと思った一文。「『われわれは不在のものを抱きしめるばかりでなく、かつて存在していたものをも、いまだ存在しないものをも抱きしめる』のだから、こんなことは生きているのなら誰にでもわかっていることなのだと思いながら、あらゆる濃紺の輝く空白に突き当たり、もう一度だけ顔をあげれば、そこには、光の中で視力がとらえる、あなたの顔も、あるのです」 この一文は、あえて語らず。

引用ばかりだが、これに何かを感じてもらえ、本書を手に取るきっかけになれば嬉しい。

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サイン本を買ってしまった。
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川上未映子
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    2008

03.12

「パワー系181」墨谷渉

パワー系181パワー系181
(2007/12/28)
墨谷 渉

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「パワー系181」 「測量男の手記」 の二編を収録。


「パワー系181」
180センチを超えるリカの夢は、男をスリーパーホールドで失神させること。ブラジル人の柔術の達人が日本人のプロレスラーを失神させた試合をテレビで見て、落ちていく日本人のプロレスラーの表情や眼つきに、鳥肌が立ち全身の毛穴が開いた気がした。そんなリカは、金を払わせてイヤラシー客を懲らしめる新しい商売を始めた。[ソフトコース]60分、18.000円より。[ハードコース]60分、21.000円より。パワー系個人クラブ・リカの世界。

そこに快楽を求めて訪れるさまざまなお客たち。身長、体重、胸囲、股下、その他全部で十四項目のサイズを測りたがる測量男。フルパワーの張り手を求める張り手マゾ。衣服を交換して着させて欲しいとねだる衣類フェチ。そして小柄な男特有のコンプレックスからくる妄想を持つドチビ短足おやじ。

第31回すばる文学賞受賞作なのだが、何が言いたいのかよくわからなかった。これぞ文学とでも言っておくのが差しさわりがないのかも。人それぞれにヘキはある。でもここに登場するのは特殊なヘキを持った人たち。ヘキよりも嗜好という言葉の方がピッタリくるのかもしれない。そんな変人たちがリカのHPを見て、風俗ではない不思議なクラブ、パワー系個人クラブ・リカの世界へやって来る。

そこで繰り広げられる珍妙なやり取り。そこにエロはまったくなく、各々の嗜好だけを満足させるあれこれ。ある一人を除いて満足したのだから、この個人クラブは優良店なのだろう。その内の一人は悲惨なだけなのだが、自業自得とも言えるし。だけど、これは何だったのだろう。ほんとによくわからない作品だ。


「測量男の手記」
これは先の作品に出てきた測量男の独白。土地家屋調査士事務所で働く男が、これまでの性交について、自分や他人を測量するこだわりについて、やがて背の高い女を捜すようになった所以、ランというデリヘル嬢とのことを語る。

自分の中で正当化した変態のお話。まあ、毒にはならない変態なのでイタさはない。こういうのをシュールというのだろうか。これっぽっちも共感できないが、こちらの方が作品としての完成度は高かったように思えた。でも、やはりよくわからない。

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その他の作家
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    2008

03.11

「乱暴と待機」本谷有希子

乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)乱暴と待機 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/02/27)
本谷有希子

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古ぼけたモスグリーンの絨毯に妙にしっくりきているちゃぶ台。それと最小限の家具。砂地の壁には大きな月捲りのカレンダー。異様な存在感をひときわ強く放つ鉄製の二段ベッド。四年近くもの間、六畳間ひとつの古く陰気な借家で同居している三十歳間近の“兄”こと英則と、“妹”、奈々瀬、二十五歳。奈々瀬は上下灰色のくたびれたスェットに丸くて大きなめがねというさえない姿で家に籠もり、「あの日」から笑顔を見せなくなった英則のために日々“笑い”のネタを考えている。保健所で犬の殺処分の仕事をしている英則は、ある日、天井板の一角に隙間を発見したのをきっかけに、天井裏に身を潜めてはこぼれる灯りから、妹の一挙手一投足を覗き続ける。

原因を思い出せないのに復讐を考える英則、お兄ちゃんから復讐されるのを待ち続ける奈々瀬。体に触れてはいけない、もちろんセックスもない、疑うこともない、気づかれていないふりをする、恨む側と恨まれる側という関係も崩してはならない、それら暗黙の決まり事をお互いに守り、他人から見れば異質な同居生活を過ごしていた。そこにイレギュラーな人物が介入してくる。英則の職場の同僚で、なんの罪もない犬を殺しまくる日々に、悪夢を見続けている番上。番上は二人の生活に興味を持ち、彼女であり二人をよく知るあずさにも言い付けて、あの手この手で二人の秘密を聞き出そうと近づく。

無表情で語ることのない傍観者である英則。人に嫌われないように、おどおどびくびくと挙動不審な萌え系の奈々瀬。いらぬ好奇心を持つ、軽薄で馬鹿だが憎めない番上。高慢で自分勝手な考えを持つが、好きな男の言う事は聞いてしまうあずさ。嫌われる事を恐れて訪問を断れない奈々瀬によって、野次馬の二人を引き寄せることになり、「兄妹」二人の世界は少しずつ変容していく。愛情関係よりもずっとずっと確実なつながりを祈るように求め続ける、男と女の物語。

いつもより多めに内容紹介を書いたが、その理由はネタバレなしで感想を書く自信がないから。ここからネタバレありで書きます。ご注意を。

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本谷有希子
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    2008

03.10

「桃山ビート・トライブ」天野純希

桃山ビート・トライブ桃山ビート・トライブ
(2008/01/05)
天野 純希

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時は安土桃山時代。本能寺の変により織田信長が謀殺され、天下が豊臣秀吉のものとなったころ。歩き巫女の母に捨てられたあと、女猿楽の源八一座に拾われた少女・ちほは、秀吉の御前興行にて見事な舞を披露し、秀吉から喝采を受ける。一方その頃、かつては武士の息子でありながら、浪人となって最後は無残な死を遂げた父を見て、親父の轍は踏まん、悪の道に生きる、と掏摸や置き引きを繰り返しながら毎日を過ごしてきた藤次郎は、ある日、商人風の男から大きな皮袋を盗んだ。中に入っていたのは、その頃まだ珍しかった三味線。その音色に魅せられた藤次郎は、独学で演奏法を取得し、諸国修行の旅に出た。

そこでたどり着いた京の五條河原で、藤次郎は出雲のお国一座の笛役者・小平太と出会う。すったもんだの挙句、お国一座を飛び出した二人は、自由な一座を作ろうと座員探しを始めた。その二人に、元奴隷の黒人の鼓打ち・弥介を加わり、そこにちほが合流して、四人で一座を結成、諸国巡業の旅に出る。一年半の西国での修行を経て京に戻った四人は、五条河原で小屋を掛ける林又一郎の夢、この国の芸の歴史を俺らで塗り替える、に賛同した彼らは、やがて都の人々を惹きつけてゆく。

そんな折り、豊臣家の行政を担う石田三成は、河原や寺社の門前に巣食う芸人や遊女の統制をはじめた。型破りな音楽と、自由な踊りを武器に、権力に立ち向かった若者たち。激しいビートが自由を謳う。第20回小説すばる新人賞受賞作。

これはロックです。各々が楽器を手に持ち、気持ちがいい音楽がしたくて仲間を探す。仲間が集えば人前で演奏したい。さらにお客を自分たちの音で酔わせたい。自信満々の者がいれば、自分の演奏に自信がない者もいる。陽気な者がいれば、何も考えていない者もいる。ときには対立もするが、このメンバーでしか出せない音楽がある。そして個々の音が合わさったときに、大きなうねりを生み出す。疾走するグルーブ、弾けるリズム、ビートを刻み、得体のしれない勢いが身体を揺らす。楽器が三味線だろうが、笛だろうが、鼓だろうがそんなのは関係ない。好きなように自由に奏でれば、それはロック。ロックンロールなのだ。

というわけで面白かったです。ジャンル的にいえば歴史ファンタジーかな。それぞれの生い立ちから出会い、修行時代を経て、ちらほら噂が広まる。そしてプロデューサーの仕掛けで、満を持してプロデビュー。一躍お客のハートをがっちりつかむが…。とここまでは申し分がないほどわくわく。だけど、そこから先は中だるみをしていたように思えた。

物語が彼らの手を離れ、その時代背景、つまりは石田三成の民衆への締め付けや、秀吉に世継ぎが生まれたことで、後継者にまつられていた秀次が邪魔になる、という地の文になったところは少々退屈だった。しかしラストでは、彼らの勢いが盛り返し、最後は気持ちよく、ぱたんと本を閉じることができた。読みやすく、疾走感もあって、とてもこれがデビュー作とは思えないほど、充分に満足できた作品だった。次回作も楽しみな作家だと思う。

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    2008

03.09

「こうふく みどりの」西加奈子

こうふく みどりのこうふく みどりの
(2008/02/28)
西 加奈子

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おばあちゃん、夫(おじいちゃん)はしゅっぽんして失踪中。早起きで、家中の誰よりも体力がある。ちょっと先のことを予知する力を持つ。お母さん、妻子ある男性を愛し、緑を出産。よく寝る。銀行の封筒で手紙を出す。いつもうだうだとタバコを吸い続ける。藍ちゃん、いとこ。出戻りで子持ち。好きになったら、年齢問わず。いつも干しぶどうを食べ、ぶどうの甘い匂いがする。料理が得意。桃ちゃん。4歳なのに、まだおっぱいを吸いにくる。声を発しない。意思表示もまったくしない。カミさんとホトケさん、メス猫。ポックリさん、メス犬。

うちの家には女のお客さんが多い。そのほとんどが、おばあちゃん目当てなんやけど、おばあちゃんがおらんくても、その人らは家に入って、ぐずぐず動かんようになる。お母さんが布団で煙草吸いながら寝てんのとか、桃ちゃんがおしっこ漏らすのんとか、そんなんは気にならへんみたいや。それよりも、時々入れるお母さんのだらしない合いの手とか、ひっきりなしに藍ちゃんが持ってくる異様に美味しい料理とか、カミさんホトケさんの作る仲のいい影とか、ポックリさんが与えてくれるのらくらした密度が勝っていて、皆心から、自分の家みたいに、居心地良さそうにしてる。(本文を引用)

1991年。そんな大阪の下町の女系家庭で育ったのが主人公の辰巳緑、中学二年生。女未満。初恋まであと少し。家族のことや、学校のこと、友達の明日香のこと、気になるコジマケンのことなどが、ネイティブな大阪弁で綴られていく。ズバリ面白かったです。まず始めに、緑の目に飛び込んでくる巷間に溢れた文字の数々。「セールスお断り」「小便禁止」などの注意書きであり、宣伝であり、選挙ポスターであり、標語などである。これら言葉で構築した、独特なリズムを持つ作品世界。この言葉の扱い方や処理の仕方に、きらりと輝く西加奈子さんのセンス良さに気づく。これは新しい試みで、面白いことを考え付いたなと感心してしまう。

そして主人公の緑の心理描写が瑞々しくて、それと同時に、彼女の本音には生っぽさがある。女のだらしなさが溢れたのん気な辰巳一家の日常にまったりとしながらも、友達の恋バナにうんざりとし、自分の女のしっとに気づきどきりとし、ケン(犬)というおかしな名前の男子が気になりキュンとなる。さらに、おばあちゃんの死に怯え、何もしないお母さんを疑問に感じ、亡きシゲおじさんのことを思い、藍ちゃんの分別ない行動に怒り、藍ちゃんしか必要としない桃ちゃんを漠然と見守る緑。そんな浮雲のように流される日々の中で、一瞬にして起こるさまざまな出来事。それらに、緑が何を感じ、どう思うのか。その時々の緑の姿にとても共感してしまうのだ。

そんな緑の物語に加え、平行して描かれたもうひとつの物語あり、その謎の女性たちのひとり語りがやがて交錯してくる。最初は何のことかよくわからないのだが、読み進めていくと徐々に何かが見えてくる。ある女性は刑務所に入っている旦那との話を語り、ある女性は近所のお兄さんへの恋心を語り、ある女性は妊娠したことを手紙に綴る。これら三人の女性とも、女の業を背負っている。それらがすべて語り終えられたとき、辰巳一家のそれぞれに抱える秘密や過去の闇が明らかになる。

はっきり言う。上手い。緑の目線では見えなかった物事を、サスペンスのような手法で、違う側面から肉付けしていく。それらを読むことで、切なさが増し、ちょっぴり幸せな気持ちになり、また元の生活に戻る安心感を味わうことになる。アントニオ猪木の引退の言葉「道」にインスピレーションを受けたという「女の道」を、存分に楽しむことができた。そして、二卵性双生児の片割れ、「こうふく あかの」の出版が待ち遠しいのである。

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西加奈子
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