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    2008

04.30

4月に遣った書籍代

個人メモです。

合計8.562円

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自分への戒め
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    2008

04.30

4月に買った書籍

個人メモです。

For YouFor You
(2008/03)
五十嵐 貴久

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風花風花
(2008/04/02)
川上 弘美

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ガールズ・ブルー 2 (2) (ポプラ文庫 あ 1-2)ガールズ・ブルー 2 (2) (ポプラ文庫 あ 1-2)
(2008/04)
あさの あつこ

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クレイジーヘヴン (幻冬舎文庫 か 16-4)クレイジーヘヴン (幻冬舎文庫 か 16-4)
(2008/04)
垣根 涼介

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人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫 た 1-3)人類は衰退しました 3 (ガガガ文庫 た 1-3)
(2008/04/19)
田中 ロミオ

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ゆめつげ (角川文庫 は 37-1)ゆめつげ (角川文庫 は 37-1)
(2008/04/25)
畠中 恵

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いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)いつかパラソルの下で (角川文庫 も 16-5)
(2008/04/25)
森 絵都

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クレィドゥ・ザ・スカイ (中公文庫 も 25-7)クレィドゥ・ザ・スカイ (中公文庫 も 25-7)
(2008/04)
森 博嗣

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のぼうの城のぼうの城
(2007/11/28)
和田 竜

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    2008

04.30

「ショコラティエの勲章」上田早夕里

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア 44)ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア 44)
(2008/03)
上田 早夕里

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絢部あかりが勤めている老舗の和菓子店〈福桜堂〉。その二軒先に店をかまえる人気ショコラトリー〈ショコラ・ド・ルイ〉で、不可解な万引き事件が起きた。その事件がきっかけで、あかりはルイのシェフ・長峰と出会う。ボンボン・ショコラ、ガレット・デ・ロワ、新作和菓子、アイスクリーム、低カロリーチョコレート、クリスマスケーキ――さまざまなお菓子をめぐる人間模様と、菓子職人の矜持を描く、小松左京賞作家の鮮やかな力作。《本のカバーより》

「鏡の声」
あかりが最近できたお隣さんを偵察に行くと、少女の万引きを見たと執拗に怒りまくるトレンチコートの女性と、それは濡れ衣だと自信満々に対応するお嬢様学校に通う少女たちの言い合いが始まった。あかりは万引きの瞬間を見ていたような気がしたので、失礼な客を演じて発言することにした。

「七番目のフェーブ」
友達の結婚祝いに、仲間たちでガレット・デ・ロワを特注することにした。そのケーキを切り分けると、一個だけ陶器の人形が誰かに当たる。その人形を特別に仲間の人数分、六個の人形を注文したが、中から出てきた人形は七個だったと聞かされた。この謎についてあかりは調べるように頼まれた。

「月人壮士」
夏の新作和菓子の候補になった菓子があるが、これには問題点がひとつあった。お隣の〈ショコラ・ド・ルイ〉が近日発売するアイスクリームと、あまりにもデザイン類似していたのだ。あかりは実は、若手菓子職人のたっての希望で、〈ルイ〉の長峰シェフと若手職人との会談の橋渡しをしていた。

「約束」
〈ルイ〉のショコラティエである中本さんが、あかりの要望に答えて修行時代を語る。その時の〈パティスリー・イワタ〉には、先輩として長峰がおり、同期で入店した梅崎という男がいた。梅崎という男は、フルーツへのこだわりが強く、盛り付けには目を見張る技術を持っていた。その一方で、長峰にはよく怒られていた。

「夢のチョコレートハウス」
この写真の男が店に現れても菓子を売らないでくれ。ご主人の糖尿病を心配する夫人が〈福桜堂〉にやって来た。長峰はそのご主人、田山さんの注文で低カロリーのチョコレートを試作していた。その田山さんが商店街で倒れ入院した。彼の所持品の中に〈ルイ〉の紙袋があるのを見て、その菓子を食べたせいで主人が倒れたと夫人が激怒した。

「ショコラティエの勲章」
関西ショコラ倶楽部という会員制のクラブがあり、前回の田山さんのお誘いで、例会に特別参加することになったあかり。会員の一人が急用で欠席することになり、有名シェフの娘が代理でやって来た。そして最近のスイーツは似たものばかりで面白くないと、担当シェフだった長峰の洋菓子を批判。長峰は次回の例会でもう一度スイーツを作ることに。

前作の舞台である洋菓子店〈ロワゾ・ドール〉が出てくるし、主人公だった森沢さんも登場していた。お菓子繋がりの作品だから、リンクの予感が少しあったので、先に「ラ・パティスリー」を読んでおいた。これが正解だった。こういった作品間のリンクは最近の風潮なのかな。

作品の内容的には可もなく不可もなく、いたって普通。ミステリとしては前作同様に小粒だけど、菓子店で働く人物たちの物語としては十分に楽しんで読める。わかりやすく言えば、テレビ映えしそうな作品だ。肩肘はらずに気軽に読めるし、なによりたくさんの和洋を問わないお菓子が出てくる。よって甘いもの好きにはヨダレが出そうな作品かも。そういう自分は、甘いものが苦手だけど…。

チョコのように後味がいいものばかりでなく、ビターすぎて苦い作品もある。前作にもこういう傾向があったので、これが上田早夕里という作家の特徴なのかもしれない。そして、香りのよい紅茶が似合いそうな本であった。


関連本。「ラ・パティスリー」上田早夕里

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    2008

04.29

「ビールボーイズ」竹内真

ビールボーイズビールボーイズ
(2008/02)
竹内 真

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一九八三年、十二歳の少年たちが秘密基地に集まった。正義感の強いリーダー的存在の正吉、頭脳明晰で参謀役の広治郎、ドジで泣き虫だが優しさを持つ勇、そして、男勝りで喧嘩っぱやいが孤独を内に秘める紅一点の薫。北海道の新山市にあったビール工場の閉鎖で、家族と町を離れることになった茜をしのんで、憎いビールを飲み干すことにしたのだ。これが記念すべきビール祭の第一回目だった。

中学の修学旅行では、旅館の蒲団部屋に忍んで酒盛りし、離れ離れになった高校生時代、将来の道への分岐点、あるいは自分というものを見つめたり、かつての恩人を助けたり、その時々の彼らの転換期には、仲間と共に、傍らにはいつも、ビールがあった。12歳から30歳までの年月を共に過ごし、あるいは地元を離れても、お互いの繋がりは薄らぐことなく、いつもビールを通じて、友情に、お互いに頑張る姿を励みに成長していく。

やがて正吉はある目標を持つようになる。それは、自分自身で会社を興して新山の町にビールを生み出すこと。それがやがて、大きなうねりとなって、仲間を招集することになり、大きなビール祭へと繋がっていく。「カレーライフ」の系統を継ぐビール小説。ビールの歴史が詰まったコラム付き。

ビール・デビューというか、お酒との付き合いはわりと早かった。酒飲みの親父がいたし、子供がお酒を飲むことに寛容な親だったので、高校時代にはすで家で飲んでいた。親公認なので、友達が遊びにくれば、ジュース代わりにビールやチューハイを飲んでいたし、勢いがつけばマイ・ブランデーを飲んでいた。いま考えると変な家庭に育ったものだ。もちろん居酒屋でも…、おっとっと。

そんな環境で育ったせいか、正吉や勇たちが、酒盛りして騒ぐ気持ちがすごくよくわかる。ビール・ダーッシュ!なんてはしゃぎぶりも可愛らしかった。それに修学旅行での夜のお楽しみも、同じようなことをかつて経験したことがある。女子の部屋で遊んでいるところを見つかり、こっぴどく説教された。それも酒くさい先生に。ただ本書と違うのは、仲間と一緒に捕まったのではなく、捕まったのが自分ひとりだけだったということ。仲間に裏切られたのではなく、単独行動をしていたからだ。いやー、若かった。そして、青かった。

本書の話に戻るが、この作品で上手いのは、夢が先にありき、ではなく、彼らが成長する過程でそれが人生の大きな目的になっていく点だ。それに正吉以外の勇、薫、広治郎のエピソードもしっかりと書かれている。各々の進路や仕事によって、ばらばらに暮らすことになるが、三人になったり二人になったり、あるいはその時々で参加する人物が入れ違ったりしながらも、ビール祭が続いていくことで繋がっている絆。彼らの友情の絆と成長する姿が微笑ましくて、すごく羨ましく思った。

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竹内真
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    2008

04.28

「スメラギの国」朱川湊人

スメラギの国スメラギの国
(2008/03)
朱川 湊人

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きっつーぅ。このホラーは、猫好きをどん底まで突き落とす作品だ。

大手事務機メーカーに勤める二十六歳の営業マンである香坂志郎は、そう遠くない将来、その部屋に恋人の麗子を迎えるつもりで新築のアパートへ引っ越すことにした。その引越しの当日、新居のベランダには、かなり大きいブス顔の野良猫が丸くなって寝ていた。そのアカトラ猫にジンゴローと名付け、客分として付き合うことにする。そして引越しの挨拶に大家宅を訪ねると、アパートのすぐ前にある広大な空き地の真ん中にある、ひょっこりひょうたん島のような林のところに近づかないこと、白い猫を見かけても絶対にかまわないように、と奇妙な忠告を受けた。その後、ヨアヒムというもう一匹を加え、志郎の生活にはいつの間にか猫二匹が溶け込んでいた。やがて、同僚から車を安く手に入れた志郎だが、車を駐車しようとしたところで、プリンスと名付けた子猫を轢いてしまう。これが猫たちとの壮絶な戦いの始まりであった。

一方、もうすぐ七十に手が届く佳代は、孫娘が拾ってきたチョコとアイスというキジ白の兄弟猫と同居していた。そのチョコとアイスの二匹は、空き地の林で白い猫と出会い、そのオウさまの歌声を聴いたことで、新しい猫としてのさまざまな能力と心を手に入れていた。そしてもう一方で、志郎の上司である村上は、一人息子を交通事故で亡くし、周囲に馴染もうとせずにいた。生前の息子と約束した百機の模型戦闘機が完成した時、息子を轢き殺した犯人を殺し、自分も死ぬ。彼の目的はただひとつ。息子の復讐だった、

恋人との熱々ぶりや猫たちとの微笑ましい新生活を読んでいる分には楽しかった。それが170ベージと長く続くのだが、不幸な事故をきっかけにして、人間と猫のどろ沼の戦いに突入していく。主人公が運転ミスで子猫を轢き殺してしまい、なぜあんな所に猫がいたんだ。エンジンの音に驚いて、逃げるのが普通だろう。大きな音がしていたはずなのに、何で怖がらないんだ。何で逃げてくれないんだ。と罪悪感に襲われながらも、自己保身に逃避してしまう人間の臆病さはわかる。そこに子猫の復讐に、問答無用という感じで一丸になって襲い掛かる猫たち。これがとてつもなく恐ろしい。

その轢かれた子猫は実は不思議な力を持った白い猫の子供で、猫たちにはオウさまと呼ばれ、主人公にはスメラギと名付けられた白い猫の子供だった。スメラギの歌に導かれて心を持ち、スメラギを頂点としながらも、実際は知恵の働くルイが築いた猫の集団が、執拗に主人公や周辺のもろもろに攻撃してくる。これがどっちが悪だとはっきりすれば感情移入しやすいのだが、人間と猫の両方に非があり、そのままお互いに引き返せないところまで突き進んでいく。これがすごくしんどい。

その一方で、猫のチョコが体験する冒険や悲劇や喪失、救われた恩返しなど、作品としての救いは少々ある。それに新たに誕生したラッキーや、ヒロインの持つ天性の明るさに救われるけれど、やはり半端じゃなく気が滅入る。特に猫ちゃんと一緒に暮らす方たちには酷な作品だ。うちのニャンズは、進化した猫じゃなく、古い猫で良かった。などと安心しつつ、やはり多くの猫たちが死んでいくのは、読むのがツラかった(=^・^=)にゃん。

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朱川湊人
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    2008

04.27

「九つの、物語」橋本紡

九つの、物語九つの、物語
(2008/03)
橋本 紡

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泉鏡花の「縷紅新草」を読んでいたら、お兄ちゃんが部屋に入ってきた。「あのさ、ゆきな、前から言ってるだろう。俺の部屋に入るなよ」 そこはわたしの部屋ではなく、お兄ちゃんの部屋だった。お兄ちゃんは周囲が呆れるぐらいの読書家で、実にたくさんの本を読んでいた。この六畳の狭い部屋は、ちょっとした図書館のようなものだ。顔立ちが整っていて、喋るのがうまくて、服の趣味がいいお兄ちゃんは、やたらと女の子に人気がある。年はふたつしか違わないのに、わたしとお兄ちゃんはまったく似ていなかった。わたしはどちらかというとひとりでいるのが好きで、顔の造りだって地味だ。

久しぶりにお兄ちゃんの特製パスタを食べたあとで、ふたりはリビングで一緒に過ごす。ここでやっと、第一話の最後になって、妹のゆきなからあることが告げられる。「お兄ちゃんは二年前に死んだはずだよ」と。大学生のゆきなは、両親が海外へ行ってしまってから、古くて広い家にひとり住んでいた。そこに幽霊のお兄ちゃんがふらっと現れて、毎朝毎晩、美味しい料理を作ってくれ、兄妹だけどいるはずのない兄との、ふたりの生活がはじまる。

この作品はタイトルが示す通り、九つの物語だ。第一話「縷紅新草」は泉鏡花、第二話「待つ」は太宰治、第三話「蒲団」は田山花袋、第四話「あぢさゐ」は永井荷風、第五話「ノラや」は内田百聞、第六話「山椒魚(改変前)」第七話「山椒魚(改変後)」は井伏鱒二、第八話「わかれ道」は樋口一葉、第九話「コネティカットのひょこひょこおじさん」はサリンジャー。これらの作品をゆきなはお兄ちゃんの本棚から拝借して、家や駅や大学で読み耽る。彼女もまた、作中の人物と同じように、現実や社会生活の中でいろいろな思いを抱えている。そして小説を読むことで、自分の気持ちと登場人物を重ねたり、ふっと直感した瞬間、それらの悩みがしだいに解消してゆく。

近代文学を作品に絡めると重くなりがちだが、やたらと女の子にモテて、一見ちゃらちゃらしているのに、いつも明るくタフで、ひょうひょうとしたおにいちゃんが絡むことで、楽しくて呑気な作品になっている。しかし、そんな生活がずっと続くわけにもいかない。ゆきなは些細なことで恋人と喧嘩をするし、ずっとひきずっているお母さんへのわだかまりや、記憶から消えていたお兄ちゃんの死んだ経緯などが明らかにされ、信じるべきはなんなのかがわからなくなり、そしてすべてが怖くなって、見えない重圧に押し潰されそうになる。

そこで、お兄ちゃんが幽霊になってゆきなの前に現れた理由が生きてくるのだが、この辺は予定調和かなと思いつつも、妹を大事に想う兄の姿にはぐっとくるものがあった。うちの妹に対しても、兄としてこんな想いがあるのだろうか。たぶん普段は眠っているが、本質的にはあるのだろう。そういうこっ恥ずかしいことを思いつつ、ぱたんと本を閉じて余韻を噛み締めた。

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橋本紡
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    2008

04.26

「チルドレン」伊坂幸太郎

チルドレン (講談社文庫 (い111-1))チルドレン (講談社文庫 (い111-1))
(2007/05/15)
伊坂 幸太郎

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「バンク」「チルドレン」「レトリバー」「チルドレン?」「イン」という、五つの短編集のふりをした長編作品。

大学生の鴨井が、友人の陣内と仙台駅東口にある銀行支店に到着した時には、すでに店のシャッターは降り始めていた。しかし陣内はお構いなしだった。閉まりかけのシャッターと地面の隙間に身体を滑り込ませ、店内に入ってしまった。そこへ銃を持った男が二人、銀行内に飛び込んできたのだ。人質は一人ずつロープで巻かれ、アニメのお面を顔に付けられた。やがて鴨井は、隣にいた盲目の青年から、この事件の推移を示唆される。それが永瀬との出会いだった。「バンク」

「バンク」から十二年後、陣内は家裁調査官になっていた。その後輩にあたる武藤は、マンガを万引きして送致されてきた少年の担当になった。保護者である父親とやってきた木原志朗君は、父親を意識しすぎて何も答えてくれない。その父親もしかり。何かわだかまりがあるように見える親子。結局面接が空振りになってしまったので、来週もう一度、再面接をすることにした。そして陣内から事前に持たされていた文庫本、芥川龍之介の「侏儒の言葉」を読むことを宿題にして、今日のところは終わりにしようとした。「チルドレン」

再び過去に戻り、大学卒業を前にした陣内は、家裁調査官を目指して受験勉強のはずが、レンタルビデオ店でバイトする女の子に交際を申し込み、見事に断られてしまった。優子は恋人の永瀬と盲導犬のベスとともに、陣内の失恋によるリハビリに付き合わされ、仙台駅西口前の高架歩道にあるベンチでたむろしていた。そこへ、俺たちがこの場所に座り始めて二時間が経つのに、不機嫌カップル、鞄男、ヘッドフォン男、読書女、と顔ぶれが変わらず、誰も立ち去らない、と陣内がいい出した。「レトリバー」

「チルドレン」の一年後、家事事件担当になった武藤は、たまたま会った陣内に飲みに行こうと誘われた。行き先は試験観察中の少年が働く居酒屋だった。武藤は現在離婚調停中の夫婦を担当していた。その揉めている夫婦について陣内に相談してみるが…。かつて陣内はこう発言していた。少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、法律の目的なんて全部嘘。俺たちの目的は、奇跡を起こすことだ。その言葉の通り、陣内のバンドが演奏するライブハウスで、奇跡が起こる「チルドレン?」

「バンク」から一年後、永瀬は鴨井の服を一緒に選んだあと、陣内がデパートの屋上でバイトを始めたと聞き、優子とベスとともにデパートの屋上にやってきた。優子が席を外している間に不審な少女が現れ、続いて陣内が隣に座るが、その気配に気づかなかったし、陣内に懐いているはずのベスが、警戒心を解かないことで不安に襲われる。そして折りについて語られていた、陣内の父親とのわだかまりが、ここで吹っ切られる。「イン」

目線となる鴨居や、永瀬、優子、武藤たちにも魅力はあるが、本書はなんといっても陣内の強烈なパワーがすべてだろう。これは誰の目線で語られようが、主人公は陣内で間違いない。いや、たぶん。これまでの作品に出てきた強烈な個性を持った人物たちを、ギュッとまとめたようなへんてこなヤツだ。

お気に入りのエピソードをひとつ挙げると、盲導犬を連れて立っている永瀬に、見知らぬおばさんが、哀れな者を見る顔でやってきて、お金を手渡して去っていく。その話を聞いた陣内は怒る。善意を押しつけてきたことにではなく、何でおまえがもらえて俺がもらえない、どうしておまえだけ特別扱いなんだよ、と真剣に怒る。とにかく思考の飛び方がまともじゃなくて、周りにいる人たちは大変かもしれないが、なんかすげえカッコいいやつだった。

時系列がバラバラになっているのも、そこにちょっとしたマジックがあって、そこの中心にいるのも陣内だ。銀行強盗犯の脱出ミステリ、家裁調査官を生かしたミステリ、日常系のミステリと、ミステリのジャンルも豊富で、中でもサプライズ的な「チルドレン?」が特に面白く読めた。この作品はすっごく好きだなー。非常にスマートに洗練され、なおかつ、アクの強い陣内が素敵な作品だった。面白かったです。


作品間のリンク
「ラッシュライフ」:お面銀行強盗
「陽気なギャング」:4人銀行強盗
「砂漠」:武藤

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伊坂幸太郎
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    2008

04.25

「こっちへお入り」平安寿子

たいら

こっちへお入り

親友の友美に駆り出され、落語教室の受講生たちが熱演するステージを見ることになった江利は、友美の落語があまりにも下手なのでついこう思ってしまった。英語と落語じゃ、一字違いの大違い。英語ができれば海外旅行もドンと来いだが、落語なんか覚えたところで何の役に立つ。しかし四十がらみの「桜家チェリー」さんや「やど家おかね」さんの落語を聞いてちょっと見直していると、最後の一人が出囃子にのって高座に上がった。

高座名は「桜家楽笑」。今日の演者たちの師匠、かたく言うなら、「女性のための生涯学習・落語講座・講師」である。いつのまにか彼のリズムに巻き込まれていたらしく、聞き手として、自然に拍手ができた。この人の落語なら、もっと聞きたいな。そう思った。

そして打ち上げ会場での一言が、江利を変えた。落語をひとつ覚えたら、癖になる。落語にはそういう魔力がある。魔力。わたしには関係のないもの。一生、出会えそうもないもの。落語を覚える。ただそれだけで、魔力に触れられるものなのか――。わたしにやれるのか。人を笑わせられるのか。オヤジギャグで人をうんざりさせるアホ上司とは大違いの、ちゃんとした笑いをとれるのか。吉田江利、三十三歳。独身OL。わたしは、秋風亭小よし。気づけば落語にどっぷり嵌まっていた。

まず章の冒頭で、落語のネタが紹介される。そこで主人公が引っかかる人物のこと、あるいは現実で引っかかった出来事が披露される。そして、あれやこれやと思い悩んだ末に、落語のお噺と現実の出来事が上手く重なって、やがて主人公が腑に落ちたり納得するという展開の作品だ。だから落語をまったく知らなくても、主人公が親切丁寧に落語の内容を教えてくれる。ここが気に入らないだとか、ああだこうだと、まるで落語エッセイのように書かれているのが読みやすかったり、面白かったりする。

そして初心者にありがちな描写がうまく書かれている。ひとつを暗記すると、それを掘り下げようとするのでなく、次を次をと覚えたくなってしまう。そのにわかファンぶりが滑稽で、熱中しすぎる主人公がかわいらしく思えてくる。そして誰かに落語の話をしたくなって、惰性で付き合っている恋人に熱くなって語るが、こいつが毎回、何故か水を差す。頭でっかちの評論にムッする。胸くそが悪くなる。だけど…、というのが、この作品のポイント高い部分なのだが。

そんな一方で、落語の世界を知り始めると、お人好しや、見栄っ張りや、粗忽者や、知ったかぶりの愚か者たちが、ああ、こんな人、いるな、これはあの人みたいと、次第に思い当っていく。それにカルチャースクールの面々で落語について語りあう場面が、すごくいきいきしていていい感じだった。講師の楽笑さん、奥さんのチェリーさん、おかねさん、晴晴さん、すみれさん、利休さん、グッチーさんと、みんなの落語好きが、気持ちいいぐらいこちらに伝わってくるのだ。

こういう落語ラブの作品を読むと、すぐに影響されてしまい、落語を聞きたくなってしまう。そんなだから、人間って単純な生き物だな、とつくづく思ってしまった。すごくおもしろかった作品だ。

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平安寿子
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    2008

04.24

「ボクシング・デイ」樫崎茜

ボクシング・デイボクシング・デイ
(2007/12/13)
樫崎 茜

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小学生だったあの頃、夏目栞は「ち」と「き」を区別していうことが出来なかった。舌をどこにつければ「ち」になって、どうすれば「き」になるのかわからなかったからだ。そのため、決まった曜日の決まった時間になると、四年二組の教室を抜け出して、少し離れたところにある特別教室へ通っていたのだ。その特別教室で行われていた授業は、「ことばの教室」と呼ばれていた。

「ちくわ」「巾着」「きつね」「キツツキ」……。周囲が話している言葉はちゃんと聞き取れるが、口をどう動かせば発音できるのかわからない。「ことばの教室」では、舌の動かし方や、発音の練習を繰り返していた。そして、それにつき添ってくれていたのが佐山先生という名の、定年を目前に控えたおじいちゃん先生だった。

佐山先生は生徒といっしょになって楽しむことができる、数少ない教師だった。きっと、それが人柄ににじみ出ていたのだろう、緑丘小学校に通っている誰もが佐山先生のことを知っていた。そして、誰もが先生のことを慕っていた。教室を抜けて「ことばの教室」に通っているからという理由で栞がいじめに遭わなかったのは、もしかしたら、そんな佐山先生の威力が強かったのかもしれない。

伐採の決まったセコイアとの日々のふれあい。友達が校庭で見つけた隕石。車椅子と交換するために集められたたくさんのプルタブ。みんなの気持ちがひとつになった署名運動。タイトルになっている「ボクシング・デイ」とは、一日遅れでクリスマスプレゼントを開ける日のこと。すべての人にプレゼントをもらう機会があって、プレゼントを開ける権利がある。千晶くん敦志くん恵美ちゃんゆきちゃん、そして、佐山先生と過ごす毎日が、プレゼント開ける連続だったと、栞が回想する物語。

今日は昨日のくりかえし。平凡な毎日を過ごすことがなにより。このような言葉が作中にあったが、ここには穏やかで、ゆたかな思いやりに満ちた、あたたかい空間がある。児童書にありがちないじめはなく、両親の無理な押しつけもなく、学級崩壊もない。ただあるのは、特定の発音ができないということ。

でもそれは卑下するようなことではなく、たいしたことではないと説いている。かけっこが得意な子とそうじゃない子がいるように、しゃべるのが速い子もいれば、遅い子もいる。手先が器用、不器用があるみたいに、口の中にだってそれが同じことがいえるはず。舌足らずなしゃべり方を嫌だと思うなら、しゃべり方の練習をすればいい。

単純でいいことをいっているように思えるが、実際にはそう上手くはいかないと思う。子供特有な無邪気なからかいが深い傷になるし、そのことがきっかけで、逃れられない無限ループに嵌まっていきもする。本書のような絵空事は奇跡としかいいようがない。でも、だからこそ、こういうきれいな物語があってもいいのではないか。そう思えた一冊だった。

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    2008

04.23

「犬はどこだ」米澤穂信

犬はどこだ (創元推理文庫 M よ 1-4)犬はどこだ (創元推理文庫 M よ 1-4)
(2008/02)
米澤 穂信

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体調不良により銀行を中途退社した紺屋長一郎は、地元に帰って何か自営業を始めようとした。最初にお好み焼き屋を思い浮かべたが、いろいろ支障があって叶わなかった。そこで探偵事務所を開いた。寂れた商店街の、四階建ての古い雑居ビル。一階にコンビニが入っているおかげで見てくれはそう悪くないが、壁面には微かに、ヒビさえ入っている。その二階が、長一郎の借りたスペースだった。この事務所?紺屋S&R″が想定している事業内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。

開業したばかりのその事務所に、長一郎の友人から紹介を受けて、一人目の依頼者がやって来た。東京のコンピュータ会社をいつの間にか退職して、その後の行方がわからなくなってしまった孫娘を捜して欲しい。長一郎はその失踪人捜索の依頼を受諾した。その翌日、高校剣道部の後輩であるハンペーこと半田平吉が、ハードボイルド探偵になりたいと?紺屋S&R″を訪ねてきた。その最中に、またもや友人の紹介で依頼者がやって来た。古文書の由来を調査して欲しいと。新たな依頼を受け、それと同時に、所員を一人、増やすことになった。

失踪人捜索の調査は私こと紺屋長一郎、古文書の由来調査は俺ことハンペー。二つの事件を二人の探偵が調査していくと、なぜか微妙にクロスしてゆく。これが予想以上におもしろかった。でもまどろっこしさもあった。二人は毎日顔を合わせているのだが、肝心な部分を報告しあわない。ハンペーは古文書調査の合間に、失踪人である佐久良桐子の名前が出てくるのにまったく気づかない。これがじれったいのだ。逆に長一郎も、自分が調べていく中での疑問をハンペーに一言漏らせば、繋がっていることがわかったのに。でも、そこがこの作品の面白さだったりするのだけど。

二人の調査自体は地味なものだが、そこに民族学がからんできたり、チャット仲間であるGENを名乗る人物に相談したり、喫茶店をしている実はやんちゃな妹をこき使ったり、正体不明の人物が現れたりと、狭い田舎を舞台にしながらも外との繋がりを広げることで、こじんまりとした閉塞感を感じさせずに読ませるのは、さすがに上手いと思った。

そして、佐久良桐子という人物の全貌が明らかになるラストでは、それまであったイメージをひょいっと瞬く間に変えてしまう。これぞミステリの醍醐味だろう。ときにユーモアがあり、謎に近づいていくわくわく感があり、ミステリとしての驚きもあり、サスペンスのようなざわざわとした雰囲気も楽しめる。これは面白かった。田舎に今風を持ち込んだのが、この作品のキーポイントだったように思えた。これまで読んだ中で、一番のお気に入り作品かも。


TBさせてもらいました。「今日何読んだ?どうだった??」

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米澤穂信
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    2008

04.22

「そのぬくもりはきえない」岩瀬成子

そのぬくもりはきえないそのぬくもりはきえない
(2007/11)
岩瀬 成子

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主人公の波(なみ)は小学4年生の女の子。波のお父さんとお母さんは四年前に離婚して、中学一年のお兄さんとブティックを経営しているお母さんと三人暮らし。進学塾、ソフトボール、絵の教室に通っているが、お母さんにそうしたらと言われて、「うん」と返事した結果だった。お母さんの言うことは正しいと思う。でもちょっと違う、という気持ちがお腹の中でもやもやするのに、言葉になっては出てこない。お母さんの考えと違うことを言おうとすると、言う前に言葉がへなへなとしぼんでいく。

ある日、ひとつ年上の真麻ちゃんから、足の不自由な高島のおばあちゃんの代わりに犬の散歩をしているのだけど、金曜日は散歩させられなくなったので、あんた代わって散歩させてよ、と頼まれた。お母さんが犬を飼うのはダメと言いそうだから、犬に接することなんて考えもしなかった。でもハルの散歩を引き受けてしまう波。

それがきっかけで、高島さんちの二階には幽霊が出るという噂を知りながら、フトした用事を頼まれて、波は二階へ上がる。そこには青いパジャマを着た高島朝夫くんという少年がいて、折り紙をきっかけに次第に仲良くなっていく。すっかり仲良くなったふたりだが、朝夫くんの存在は波以外に誰も知らなかった。

自我の目覚めを迎えるが、上手く口にできない女の子が主人公。ああ言っても、こう言っても、お母さんに間違ってるって言われそうな気がする。それはほんとの気持ちじゃないよと、お母さんは言う。よおく考えてごらん。波がしたいのは、ほんとはこうでしょ。お母さんはいつも波のほんとの気持ちを説明しようとする。痛たたたっ。お母さんの決め付けが痛すぎる。お母さんの言う通りにしておけば、心配ない。ちゃんとうまくいくから。だってさ。

ぐるぐる巻きにされた少女は、さぞや息苦しかっただろう。お兄さんも同じ目にあっていたのでわかってくれるのだが、強く言ってくれない。いや、言えない。それぐらい強い思い込みをしてるお母さんだが、かつて自分もお母さんに同じことをされていたのに気づいていない。こうなって欲しいという想いはわかる。でもそれが、その子にとってベストなのか。合っているのか。進学校に行くのが子供の将来にとって幸せなのか。

そんなストレスのある日常にもある変化が訪れる。自由人であるひとつ年上の真麻ちゃんであり、犬のハルの散歩であり、朝夫くんという正体不明の少年との出会いである。ハルの散歩をするためにはソフトボールをさぼらなければならない。ここで少女はささやかな反抗を生まれて初めてする。お母さんに嘘をついて、習い事をさぼるようになるのだ。おっとり屋で口にだせない少女は、自分の想いを行動で示していくのだ。だけど、いつかは嘘がばれるときが来る。

本書のおかあさんは、最後にわかってくれたが、実際の親たちはどうなのだろう。自分のエゴを子供たちに押し付けていないだろうか。子供にとって一番いいことを考えている。それが子供からすれば本当に一番なのだろうか。そんなことを思った一冊だった。子供と一緒に、子育て中のお父さんお母さんに読んで欲しい作品だ。

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    2008

04.21

「僕僕先生」仁木英之

僕僕先生僕僕先生
(2006/11/21)
仁木 英之

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時は唐代。若き王弁は父の財産に寄りかかり、学ばず、働かず、娶らず、ひたすら安逸を貪っていた。そんなある日、父の命で黄土山へと出かけた王弁は、そこでひとりの美少女と出会う。自らを僕僕と名乗るその少女、なんと何千何万年も生き続ける仙人で…不老不死にも飽きた辛辣な美少女仙人と、まだ生きる意味を知らない弱気な道楽青年が、五色の雲と駿馬を走らせ天地陰陽を大冒険。第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。《本の帯より》

ファンタジーらしいファンタジー作品。この手にありがちな中国を舞台にしているのだが、そこがちょいと残念に思ったりもする。当然の如く漢字表記が多くて、父親の王滔(おうとう)とか、ページを捲ると読めなくなってしまうのだ。だからたぶん的な雰囲気読みをしてしまうのだ。こういう作品を出版するのなら、最後まで振り仮名を振るサービスがあって然るべきだと思う。でもそれらを差し引いても面白かった。

主人公の王弁は、父親の財産を当てにして、ただぼんやりと床に寝そべり、気が塞げば庭に出て、腹が減れば食うといった、ぐうたらな毎日を過ごしていた。そこにフトしたことがきっかけで、僕僕と名乗る美少女の仙人と親交を結ぶことになり、いつの間にか弟子になっている。

そして漠然と旅に憧れていた主人公は、先生の旅に同行することになり、都では当代きっての仙人の司馬承禎とともに玄宗皇帝に拝謁し、大原府では犬頭の商人と出会い、譲ってもらった死にかけた老馬が実は古今無双の名馬であったり、その吉良に乗って跳んだ不思議な世界では渾沌に飲み込まれ、帰り道では蝗(いなご)の大群を見事に撃退した人の技を目の当たりにする。そんな主人公の冒険にわくわくしっ放しだった。

それらのベースには史実を踏まえた時代設定があり、人間と仙人という身分違いの淡い恋があったり、無気力だった青年が前向きに生きようとする変化があったり、仙人ならこういう不思議をさらっと見せてくれる的な興味を満足させたりと、読ませ方としては抜群に上手いと思った。

また師匠である先生のキャラがとてもかわいらしかった。結構俗っぽかったり、その逆で何千年も生きてきた冷たさがあったり、本当の姿を中々見せない謎で惹かせたり、掴みどころのないしたたかさがあったり、男なら抱きつきたくなるような色気を感じさせたりと。そんな仙人の先生も、主人公と一緒に日々を過ごすことによって、少しずつ変わっていく姿も良かった。

そして続編が読みたいというあなた。仁木英之氏のブログに朗報が載っていたりする。こちらをクリックしてくれたまえ。「駆け出し物書き雑記」 あー、面白かった。そして続編も楽しみだ。次はぜひとも振り仮名を頼みまする。


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仁木英之
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    2008

04.20

「少女ノイズ」三雲岳斗

少女ノイズ少女ノイズ
(2007/12/14)
三雲 岳斗

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欠落した記憶を抱えた青年と心を閉ざした孤独な少女。彼らが出会った場所は無数の学生たちがすれ違う巨大な進学塾。夕陽に染まるビルの屋上から二人が見つめる恐ろしくも哀しい事件の真実とは――。気鋭の作家が送る青春ミステリーの傑作!《本の帯より》

猟奇的な殺人事件の現場を訪れて、その風景を写真に収めることが趣味という大学生。スカこと高須賀克志は、法科学の准教授であり異常犯罪マニアでもある皆瀬梨夏から、雙羽塾での奇妙なアルバイトを無理やり押し付けられた。登塾するなり行方をくらまし、立ち入り禁止の屋上や地下室など、誰も訪れるものがいない場所で、セーラー服に銀色の無骨なヘッドフォンという姿で、ぐったりと死んだように倒れて時間を過ごす少女、斎宮瞑のバイト講師という建前の世話係だった。少女は頭がよくて洞察力に鋭く、病的なまでの正義感を持っていた。しかし一方で、人並み以上に愛情に飢え、もろいほどに孤独で不安定な女子高生であった。

「Crumbling Sky」
小学生の頃、彫像の除幕式典に参列しているスカの目の前で、担任教師が突然死んだ。空はよく晴れていた。なんの前触れもなく、背広姿の男が苦しみ始め、そして不自然な形に首を曲げて倒れていた。空から降ってきた見えない何かが頭に当ったのか。それ以来、スカはだだっ広い開けた場所が怖くなるトラウマを抱えることになった。

「四番目の色が散る前に」
廃業したファミレスの駐車場で見つかった少女の死体には、右腕が欠損していた。その殺人現場に忍び込んで、その風景を写真に収めていたスカは、雙羽塾に通う納戸愛美と出会った。そして左腕が切断された高校生の死体が発見された。別れ際に瞑がぽつりと漏らした言葉、ABCでなければいい。その意味するところとは。

「Fallen Angel Falls」
浦澤華菜という少女が、机の中に仕込まれたガラス片によって手首を怪我した。その少女はつい先日にも、階段から突き落とされ救急車で運ばれていた。自分は呪われていると彼女は言う。その少女の袖口からのぞく白い手首には一条の傷跡が走り、一度自殺未遂をした噂があるのに、屋上で自殺の真似事をしていた。

「あなたを見ている」
スカをカウンセラーと勘違いして、森澤恵里という少女が相談に来た。ストーカー男を自宅で刺し殺してしまったが、警察が調べてもそのような痕跡は発見されなかった。その後もストーカーからの陰湿な嫌がらせが続く。彼女は本気で怯えているし、おそらく嘘ではない。少女が幽霊を刺した同じ日、姿なき者から刺されるという通り魔事件が起こっていた。

「静かな密室」
斎宮瞑という少女が、両親の離婚がきっかけでスカの前から姿を消して三ヶ月。試験監督のバイトをしている試験中の教室で、同僚の女性が何者かに頭を殴られて殺されていた。その翌日、大学の写真部の部室で火災事故に巻き込まれたスカは、現在病院で入院していた。そこに現れた警察官の二人は、スカを容疑者だと思い込んでいた。

ミステリの体裁はとっているが、これを読んで謎を解けるかたはいないだろう。論理やロジックを紐解こうとしても、斎宮瞑の飛躍した推理というか、こじ付けというか、著者の豪腕ぶりで無理やり解答にたどりつくような感があった。だからミステリを求めて読むと、肩透かしを食わされるだろう。

それよりも、優等生の仮面を被った少女の退廃的な弱さを上手く読ませる作品だと思った。変わった性癖を持つ主人公や、不思議系美少女のヒロインという、キャラで読ませる傾向が強いと感じていたが、読んだあとで他の著作を見てみると、この作家はラノベ作家であることを知った。そう、ラノベ作家なら納得できる。それを知ってからフト思い返すと、出てきた登場人物たちが女子高生ばかりだった。これは単行本の皮を被ったラノベ小説。この言葉が一番ぴたりと嵌まる作品だと思う。よって読み手の年代が若干絞られるかも。ふつうは表紙で気づくのだろうが、まったく気づかない天然ぶりを発揮してしまった。とほほ。

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    2008

04.20

「For You」五十嵐貴久

For YouFor You
(2008/03)
五十嵐 貴久

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冬子叔母が倒れた。彼女は私の母の妹に当たる。私を産んですぐ亡くなった母の代わりに、幼い私を育ててくれたのが叔母だった。母も叔母も身内の縁が薄い人で、冬子叔母自身も独身だったため、血縁で言えば、姉の子である私が最も近いことになる。私は急ぎ病院に駆けつけたが、叔母は四十四歳という若さで帰らぬ人になった。それが、ひと月前の出来事だった。

映画雑誌ジョイ・シネマ編集部で働く佐伯朝美は、謎に包まれた若手韓流スター、フィル・ウォンへのインタビューの質問事項に頭を悩ませていた。そしてつきあっている彼とも微妙ながら関係が続いている。バツイチ、子持ち、十二歳も年上で、しかも収入の安定しないフリーのカメラマン。その彼との関係について、冬子叔母と大きなケンカをし、それが彼女との最後の会話になってしまった。そんな後悔を思いだしながら遺品整理をしていると、三十年ほど前に書かれた叔母の日記帳を見つけてしまう。その日記には、叔母の高校二年生の頃からの純粋でまぶしいほどの青春の日々と、たった一度の恋が綴られていた。

高校二年生の吉野冬子が、Uこと柴田裕子、みかりん、ピータン、ナオら仲良しグループで、アイドルの話やファッションの話、現実に交際している人たちの噂で盛り上がる日々を過ごしていた。そんなある日、季節外れの転校生がやって来た。背が高く、低くてよく通る声。運動神経がよく、成績はトップクラス。無口で、静かな男の子。それが藤城篤志だった――。三十年前のいきいきとした冬子と、その冬子の一途な想いがこもった日記を読みながら、仕事に一生懸命になる佐伯朝美。そして…。

これはネタバレなしでは肝心な部分が書けない。ストーリーは、韓流スターのフィル・ウォンへのインタビューは難しい、というのが定評のインタビューを成功させようとする朝美と、八十年代を生きる冬子の青春が、交互に書かれている。片思いにしろ、仕事ものとしても、王道をそのままいく作品だ。とにかくすべてがベタな展開で、一昔前の少女マンガのようだった。読んだことないけど。

すべてが控えめで、今では考えられないような奥ゆかしい叔母の恋。日没を気にしたり、一緒に喫茶店に入ることが特別だった時代。視線が合うだけでドキドキし、グループデートにウキウキするが、二人きりになれば何を話してよいかわからない。このような一昔前の地方都市で過ごす純朴な高校生の青春だから、純粋さが漂っていて、ちょっとした出来事で甘さが匂い立つ。これにキュンとなるのだ。

一方で、現代に生きる朝美は過酷ともいえる忙しい毎日を送っている。そんな彼女が、叔母の日記と、自分の仕事を通して到達するラストは、まさにミラクルだった。出来すぎだとか、展開が唐突すぎるとか、そのように言うかたがいるかもしれない。だけどあえて言おう。とてもいい話だった。最高に面白かった。溢れる幸福感がどっと押し寄せてきて、気持ちよく本を閉じることができた。ベタ甘、最高! お薦めの一冊です。


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    2008

04.19

「夢見る黄金地球儀」海堂尊

夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38)夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア 38)
(2007/10)
海堂 尊

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二〇一三年、晩夏。舞台はおなじみの桜宮市。平沼平助は家族経営である平沼鉄工所の営業部長にして臨時工員。天才エンジニアで社長の父親の豪介には、現実味のない妄想に振り回され、経理課長でありIT関連を一手に引き受ける女房の君子には、支払いを先のばす役所に催促するようせっつかれている。彼らに息子の雄介を加えた平沼一家は、少し惰性はあるものの平和に暮らしていた。

そこに、「久しぶり。ところでお前、1億円欲しくない?」と8年ぶりに現れた悪友が言い放った。かつてバブル華やかなりし頃に、政府が人気取り政策の一環で地方自治体に景気よくばらまいた「ふるさと創生基金」というものがあり、それをすべて金の地金に替えて黄金をはめ込んだ地球儀を作って、同時に開館した桜宮水族館別館「深海館」の目玉として安置していた。それをガラスのジョーこと久光譲治が、盗まないかと持ちかけてきたのだ。

そこに不当な市役所との契約書に父親が判を押していた事実が明らかになり、黄金地球儀の警備の全責任を負わされ、しかも金塊になにかあれば、損害額を賠償しなければならないことになった平助だが…。

しかしフトしたことがきっかけで、ある計画を思いついた平助は、蓮っ葉通りにあるジャズバー・ブラックドアを訪れ、アルトサックス奏者、歌姫、女性バーテンダーに計画を打ち明ける。困り事全般を引き受ける4Sエージェンシーのメンバー、牧村瑞人所長と浜田小夜にセキュリティ・バックアップを依頼し、高校の後輩で怪力の持ち主である殿村アイに協力を頼む。こうして、市民のお金を湯水の如く浪費する、桜宮市役所に天誅の鉄槌を浴びせ倒す?ジハード、ダイハード(聖戦に死ね)″、桜宮市水族館別館中央ホール安置黄金地球儀強奪大作戦が始動する。

冒頭から100ページを超えるまで続く第一部が、はっきり言ってどうしようもないぐらいつまらなかった。エキセントリックな父親との不毛なやり取りや、役所の小西課長とののらりくらりしたやり取りが、退屈だし面白くないしイライラを誘う。医療シリーズを読んでハマっていなければ、つまり、これが初めて海堂作品を読むことになっていたとしたら、途中で投げ出していただろう。ああ、言っちゃった――。

だけど、第二部に入ったあたりから徐々に面白さを発揮し、他作品とのリンクも次第に増えていく。ハイパーマン・バッカス、でんでん虫、コンビナート火災に直撃されたショッピングセンターなどの、ちらっと登場する小物や風景。水色本で重要人物だった瑞人と小夜の驚きのコンビが登場して、さらに強奪計画にまでからんでくる。それにバカバカしいネーミングのすごい機械が数々登場する。これにはこの親子ならガンダムでも作れそうに思えて、ひとりニヤついてしまった。

第三部に入ってからのストーリー展開は、二転三転する大掛かりなものを目論んでいるが、ちょっと手を抜きすぎというか荒っぽいというか、イマイチのめり込むことが出来なかった。軽いキャラも狙いすぎのようで、田口や白鳥と比べて書き込めていないように思えた。それにやはりこの人はミステリが下手だなという馬脚が見えてしまうのが残念。しかしエンタメとしては面白く読める。これだけは毎回の謎だ。さまざまな不満が出てくるのだが、ラストを読むと爽快な気分になれ、気持ちよく本を閉じることが出来る。中身がすかすかなのに、何故、というぐらい二人の関係が微笑ましくなってくるのだ。これがこの作品の一番のミステリだったりして。ああ、また言っちゃった――。

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    2008

04.18

「ツクツク図書館」紺野キリフキ

ツクツク図書館 (ダ・ヴィンチブックス)ツクツク図書館 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/02)
紺野 キリフキ

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町のはずれに図書館がある。名前はない。看板にはただ図書館と書かれている。そこが筑津区だから?ツクツク図書館″と呼ぶ者もいる。本を読むこと。それがツクツク図書館員の仕事だった。この図書館のつくりはふつうと違う。広いうえに入り組んでいる。とにかくさまざまな部屋がある。ドアを開ければ開けるだけ、新しい部屋が現れる。そしてそれぞれの部屋がそれぞれに本を抱えている。たとえば「おもらしの短編小説の部屋」「夜の押入れの部屋」などと。でもどんなに本があっても、おもしろい本だけは一冊もない。つまらない本しかない、だめな図書館なのだ。

だめな図書館なら職員もへんてこぞろい。弱気な館長、つまらない本を運んでくる運び屋、外国語の本だけを読む語学屋、読んだ本を正しい部屋に戻してくれる超遠視の戻し屋ちゃん。その図書館は一人の着膨れた女を雇った。女は働かないで、わがまま放題。その女によって、静かな図書館がちょっとにぎやかになっていく。ちょっとシュールで笑えるエンターテインメント小説。

とにかく静かで不思議な物語。そしてシュール。性格の悪い着膨れた女には同居人がいる。?ニャア″と鳴かずに?ふぎ″と鳴く猫。このギィという名前の猫は、本を読む。人間が寝静まった夜にである。ちょこん、と行儀よくお座りした後、ページに目を落とす。猫は夜目がきくので部屋は暗いが問題ない。一文字も逃さずに丹念に文字を追う。やがてそのページを読み終わり、いったん顔をあげる。猫は前足をぺろぺろとなめる。そして本に向かって、ぺたん、と下ろす。それから足をそっと持ち上げる。紙も一緒になって上がってくる。ある高さまで来たら、勢いよく横にふる。するとページはぺらりとめくれ、新たなページが登場するのである。一回でめくれたときは、とてもうれしいらしい。そして?今日はここまで読みました″とページの隅に足跡をちょこんとつけて、猫専用のしおりにする。これら一連の描写は、猫好きにはたまらないだろう。

この猫にはある夢があって、女のはちゃめちゃぶりや、不思議な図書館のあれこれなどを読ませながらも、結局はこの猫のための物語なのかも、と思わせるシュールなラストにおもわずニヤリ笑い。これっていったい何ナノ、という疑問を持つことはタブーで、最初から最後までへんてこで、まったりしていて、ゆるく脱力していて、そして、とてもかわいらしい作品だった。

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    2008

04.17

「世界は密室でできている。」舞城王太郎

世界は密室でできている。―THE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS (講談社文庫)世界は密室でできている。―THE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS (講談社文庫)
(2005/04)
舞城 王太郎

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僕こと西村友紀夫が十三歳で、隣に住む親友のルンババこと番場潤二郎が十二歳のとき、ルンババの姉の涼ちゃんが、番場家の二階の屋根からひょいと飛び降りて、二日間生き延びて死んだ。遠方への家出癖があり、父親の番場耕治氏はくり返しくり返し涼ちゃんを家に閉じ込め、涼ちゃんの脱獄と逃亡と捕縛と再収容の果てしないくり返しがのんびりと続いていた。その涼ちゃんが自分の家の屋根から飛び下りた。あの時涼ちゃんはどこを目指したのだろうか。名探偵と呼ばれることになるルンババが始めたのは、姉の死の真相の解明だった。

月日が経ち、中三の修学旅行で東京へ行った僕は、都庁の前でのんびり鳩に餌をやっていると、不倫関係で揉めている美人とおっさんが、派手な殴り合いを始めた。こりゃ止めなければとそばに行って声をかけると、振り向いた彼女の拳が飛んできた。その女の人のパンチ一発で僕はノックアウトされてしまった。気がつけば僕は埼玉に上陸していた。なぜか彼女の家にラチられていたのだ。こうして僕は、都庁観光課に勤める姉のツバキさん(椿)と、高校をサボりがちな妹のエノキという風変わりな井上姉妹と知り合った。

その井上ツバキとエノキの姉妹が、埼玉からここ福井にやって来ると突然の電話があった。ツバキと不倫中だった谷川徹がストーカーになって行方不明だし、その谷口の妻の万里江さんは子供たちと一緒に殺されてしまってるし、万里江さんのお腹にいた三朗君は犯人に連れ去られたままだし。僕らの冒険がこうして始まった。待ち受ける密室事件の数々にルンババと僕は立ち向かう。

とかく人をナメたような密室殺人ばかりが起こってしまう本書だが、正統派ミステリーというのとは少し違う。名探偵であるルンババによって謎は解かれるけれど、けっして何もかもお見通しの完璧な探偵ではない。常識ではありえないくだらない考えを真剣に検討し、そして一瞬の飛躍によって解決をしてみせる。これら謎に読者がチャレンジするような作品ではなく、本質はもっと別のところにあると思った。

冒頭でルンババの姉がショックな死に方をする。その出来事がきっかけでルンババは名探偵の道を進むことになるが、その隣にはいつも主人公の僕がいる。ここで何かジョークをいって笑わせようとするが、単に笑わせようとするのではなく、必死に友を励まそうとする主人公がいるのだ。そして、ずっと姉の死が心の引っかかりになっているルンババの心の密室を、主人公が一緒になって乗り越えさせようとする青春小説になっている。

ルンババの影になりがちな主人公だけど、エノキという強烈な個性を持ったヒロインが登場することで、若者らしい煩悩を見せてくれる。何も取り柄がないふつう人の息吹を組み込むことで、無茶苦茶に暴走した世界観を、こちら側に引き寄せているのは上手いと思った。また、ぶっ飛んでいるエノキだけど、ふっと見せる弱さがかわいらしくて、守ってやりたい的な男心をくすぐるくすぐる。

ページいっぱいに埋まった字の羅刹は相変わらずだが、舞城の持ち味であるスピード感、グルーブ感、疾走感は健在で、ぐいぐい読ませながらも、時にブラックなユーモアでぷっと笑わせてくれる。読んでいる方が少ない舞城だが、こやつからは目が離せないと思った。おもしろかった。

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    2008

04.16

「株式会社ネバーラ北関東支社」瀧羽麻子

株式会社ネバーラ北関東支社 (ダ・ヴィンチブックス)株式会社ネバーラ北関東支社 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/02)
瀧羽 麻子

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東京の外資系証券会社では、日付が変わるまで働くのがあたりまえだった。上司はインド人、社長はドイツ人。弥生の肩書きはマネージャーで、さまざまな国籍を持つ六人の部下がいた。その七年間務めた会社を退社して選んだ転職先は、北関東にある納豆会社ネバーラだった。通勤バスは一時間に一本。部屋の家賃はそれまでの三分の一。朝は簡単な朝礼とラジオ体操で始まり、三時にはおやつタイム、仕事はだいたい六時頃に終わる。しかしいったん慣れてしまえば、ぬるい生活はゆとりがあって快適だった。

自分がなにをしたいのか、なにが欲しいのか。いろんなことがよくわからなくなって、一度リセットするために、東京を離れた転職をした主人公。彼女がのんびりした休息を経て、やがて道を選ぶときが来る。お仕事小説であり、納豆小説でもある作品。

配属された経営企画部のスタッフは、弥生を入れて五人。カタカナ語が多い杉本課長、ひとつ歳下で一言多い沢森くん、パートで四十代後半の西川さん、事務員で東京に憧れるマユミちゃん。そこに後ほど本社から研修にやって来る佐久間さん。そんな彼らの憩いの場は、町で唯一の居酒屋であるなにわ。屋号そのままでおかみは関西人の桃子さん。彼らが主な登場人物たちだ。桃子さんはいい味をだしていたが、みんないい人すぎて、もう少しクセがあればなぁ。ちょっと人物が淡白だったかも。

ある出来事がきっかけで自分を見失った主人公が、馬鹿にできないローカル町の情報ネットワークに驚きながらも、気のいい同僚たちや桃子さんとゆっくり過ごす中で、自分のペースを取り戻していく。他人から見れば、逃げているだけかもしれない。自分の居場所ではないかもしれない。だけど長い人生なんだから、ちょっとぐらい休んでもいい。そう思えた読後感のいい作品だった。だけど、ここでも立ち直るきっかけがぼやけていて、もう少しメリハリがあればいいのにと思った。

作中でどこにも触れていなかったが、この町って納豆王国の水戸でしょ。ここに出てくる人たちの食事にはもちろん納豆、冷蔵庫の中も納豆だらけ、スーパーで売っている納豆も種類が豊富、納豆の自動販売機まであり、納豆の食べ方にも独自のこだわりがある。健康法はすべて納豆という、納豆信仰が蔓延する不思議な町だ。

最近は納豆嫌いで有名な大阪でも、食べる方が増えている。だけどその一方で、非常に嫌悪している方もいる。そういうおいらは後者のタイプ。臭いがダメ、糸がダメ、ぐるぐる混ぜて異臭を撒き散らすな、といいたい。存在自体を目の前に出さないでくれ的に毛嫌いをしている。

たぶん一生食べない物体だが、本書はふつうに面白かった。もったいないと思う部分はあったが、オチも悪くなかったし、けちょんに貶すほどでもなかった。ただ飛びぬけてどうこうという作品でもない。ふつうという言葉が、一番ぴたりとくる作品だった。でもこういうのんびりは、わりと好きだ。

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瀧羽麻子
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    2008

04.15

「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
(2006/12/21)
伊坂 幸太郎

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大学入学のため関東から東北に引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは尻尾の曲がった猫、次が全身黒ずくめの長身の青年。その悪魔めいた河崎は、初対面だというのに、同じアパートに住む外国人が塞ぎこんで殻に閉じこもっているので、彼を元気づけたいと言う。だから?一緒に本屋を襲わないか″と持ちかけてきた。ターゲットは、厚くて立派な広辞苑。そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか決行の夜、僕こと椎名はモデルガンを持って、はたきの似合いそうな小さな書店の裏口に立ってしまった。

その二年前、ペットショップで働くわたしこと琴美は、同棲中のブータン人留学生ドルジと、行方不明になった店の売れ残り犬、クロシバを探していた。そこに轢き逃げにあった無残な猫の死体と出会い、その猫を埋めてあげようと、立ち入り禁止の立て看板がある公園に侵入した。そこで最近市内で連続して発生しているペット殺しの犯人グループらしい、若い男女三人組と遭遇してしまう。二年の歳月を隔てた二つの物語が、交互に語られてゆく、第二十五回吉川英治文学新人賞受賞作。

これってネタバレなしでは書きにくい。まあ、頑張ってみるけど、抽象的なことばかりになるかもしれない。琴美は以前、河崎と一ヶ月ほど付き合っていたことがあり、琴美、ドルジ、河崎による不思議な三角関係を作っていた。その彼ら三人の物語に、椎名が飛び込み参加してしまうという構図の作品になっている。目線は椎名と琴美だけど、作品の中心にいたのは河崎であり、ドルジなのかもしれないと思った。

その河崎が吐く暴言だが、いたく惹かれてしまったセリフを一つ。「目に見えないものは信じないことにしている。どこかの半島で食料がなくて餓死する子供が何百人いようと、見知らぬ大陸の森で動物の大虐殺が行われていようと、それを見ない限りは信じない。いや、信じないことにしている。目で見るまでは、何も存在していないのと同じだ。俺はそう思う」 このセリフがカッコよくて、ちょっと極論だけど、このような妙に心に残る言葉が出てくるのも、伊坂作品の特徴だと思う。

それと、琴美が勤めているペットショップの店長の麗子さんもカッコよすぎ。蝋人形のように無表情で色白美人だけど、痴漢に啖呵をきったり、気に入らない客を殴ったり、ちょいと気持ちがいいオトコ前だった。それと行方知れずになったクロシバだけど、切ないラストを緩和させてくれるあたりが、伊坂のカッコよさだとも思った。

遊びでペット殺しをする若者は許せないし、外国人だということで偏見を持つことも問題だと思う。作中に書かれていたが、ペット殺しと名付けた瞬間に、ひどく表層的で罪の軽いものに感じられるとあった。援交やニートにも同じことが言える。実際は売春や引きこもりなのに、変にネーミングをすることで、本質をぼかしているようで、こういった世間の風潮、メディアの躍らせ方に、自分は嫌悪している。伊坂作品を読んでいると、こういった社会への警笛が数多く書かれている。そこの部分にも共感できて、よく言ってくれたと、益々伊坂が好きになるのである。

作品の感想というよりも、伊坂論のようになってしまった。だけどネタバレなしではほんとに無理。そして今回もリンクがあったので、最後に記しておく。


作品間のリンク
「重力ピエロ」:春、田村蕎麦主人
「陽気なギャング」:響野祥子
「死神の制度」:春

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伊坂幸太郎
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    2008

04.14

「深泥丘奇談」綾辻行人

深泥丘奇談 (幽BOOKS)深泥丘奇談 (幽BOOKS)
(2008/02/27)
綾辻行人

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京都の奥には、何かが潜んでいる…。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶…作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!デビュー20周年。綾辻行人の新境地!初の連作短編怪談集。奇妙な風味の自伝的幻想と怪奇。◆『ドグラマグラ』好き、『クトゥルー神話』好き、『ミステリーズ』に寄稿した「悪霊憑き」も収録。《出版社より》

「顔」
推理作家である私は強い眩暈に襲われ、深泥丘病院(みどろおか)に検査入院した。?ちちち……″と、どこからか妙な音が聞こえてくる。音は虫のたぐいではなく鳥でもなく、その他の小動物でもなく、これは人の口から発せられるのではないか。そんな気が、強くした。そして検査をしてみると。

「丘の向こう」
医師の言葉に従って散歩の距離を意識的に延ばしてみた。すると深泥丘の向こう側に抜ける遊歩道があり、その坂を下りきった先で線路を見つけるに至った。その日、線路沿いのそこかしこに鉄道マニアの姿があった。そこに、ごごご…という地響きを立て、?物凄いもの″が走ってきた。

「長引く雨」
二週間以上の雨が続くある日、暗い顔をした幼き自分が写った写真を見つけた。四十年ほど前に撮られた写真らしいが、私の記憶にはまったくない。しばらく見ているうちに、遠景に写った橋の下にいくつか、奇妙な?影″が並んでいるのに気づいた。?長引く雨″が続くと?良くない″。最近そういった声ばかり耳にしていた。

「悪霊憑き」
ここしばらく日課にしている散歩で、こともあろうに川に浮かぶ水死体を見つけてしまった。私はその女性を知っていた。彼女は?水の悪霊″に取り憑かれていたのだ。しかも、彼女に憑いたものを落とす、本物の霊能者による悪霊祓いに、私は立ち会っていた。そこで見たもの、結末とは。

「サムザムシ」
ずきずき、ぎりぎりと痛む右の奥歯。そこで病院に新設された歯科診療室を訪れた私は、最後に治療した七年前に、どこの歯科医で治療したかを訪ねられた。家内の郷里である南九州の猫目島だと答えると、今どき珍しいと云うか、貴重と云うか、と意味深な言葉を医師は口にした。私はかつて経験した?あれ″を思い出した。

「開けるな」
妻が買ってきたお土産の中から、なぜか古びた一本の鍵が出てきた。それから毎晩、同じ夢ばかりを見るようになってしまった。その夢とは、子供の頃の自分が主人公で、父方の祖父が住んでいた家にあった、開けるなと激しく叱りつけられた記憶がある、閉ざされた?黒い扉″を、例の鍵で開けてしまうものだった。

「六山の夜」
八月十六日、五山送り火のその日。五山全部が見える病院の屋上が開放されると、医師にお誘いを受けた。それに噂によれば、今年は?六山″の年でもあるという。私は京都の行事の中でも、これだけは愛着があった。そして六山目の送り火がそろそろという時、私は急激な目眩の発作に襲われ、倒れ伏してしまった。その送り火を見た人たちが取った行動とは。

「深泥丘魔術団」
深泥森神社の秋祭りの中日であるその日、病院で恒例の?奇術の夕べ″が催されるという。若い頃に手品に凝ったことがある私は、妻と並んで客席の人となった。第一幕、第二幕と進み、最後のショーで私は舞台上でお手伝いをするはめになってしまう。箱の中に閉じ込められた私。そこで私の身体が、信じられないことになった。

「声」
ぎゅあぁぁぁぁぁ……という声が、窓の外で響いた。三年ほど前に引っ越してきたこの家だが、ここ一ヶ月ばかり前から聞こえはじめた。妻は猿の声だと云うが、どうもしっくりしない。今夜は本当に近くで鳴き声が聞こえる。照明のスイッチを切って、息を呑みながら懐中電灯のライトを、妻の指すほうへ差し向けると、?その何か″がそこにいた。あの顔は――と思うまに、そいつの影がいきなり、左右に倍以上も大きくなった。


綾辻行人の待望の新刊は、トリックやロジックは一切なし。主人公は綾辻行人本人を思わせる本格ミステリ作家である。毎回体調不良を訴える主人公には、これって自虐ネタなんだろう、というユーモアを感じさせて、そこに面白味があった。

「そんなことも知らなかったの?この町に長く住んでいて、~を知らないなんて」と妻は主人公の知らない町の常識を知っている。体の不調や記憶力の減退に恐れを抱く主人公は、深泥丘病院に毎回通って診察を受けるのだが、石倉医師や咲谷看護師も、それら~を知っている。知らないのは長年この町に住んでいる主人公だけ。たった一人ぽつんと突き放される主人公を読んでいて、妻も石倉も咲谷も怪しく思えてくる。取り残された主人公が不思議な体験をしていくのだが、その答えを披露せずにうやむやのまま終わってしまう。そこにすっきりを求めるかたは、不満を覚えるかもしれない。だけど、おいらは面白く読めた。

ホラーとしてのひぇーという怖さはなく、幻想的かといえばそれほどでもない。鳥肌ものでもなく、圧倒的な雰囲気があるわけでもない。はっきり言ってしまえば、単発で読めば中途半端だ。だけど、各々の短編を続けて読むと、奇妙な連鎖に気づくことになるだろう。そして深泥丘周辺が、いつしか異界のように思えてくる不思議な作品になっている。論理では説明できない不思議の連続なのだ。

それにこの装丁の凝りようはすごい。表紙しかり、カバーを外してもしかり、さらにページを捲るたびにカラーのイラストが現れる。内容だけでなく、贅沢な仕掛けにも、賞賛を与えたい。それらイラストと、永遠にループするような夢幻世界にただ身を任せてみると、案外気持ちが良くなるかもしれない。

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綾辻行人
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    2008

04.13

「乳と卵」川上未映子

乳と卵乳と卵
(2008/02/22)
川上 未映子

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芥川賞受賞作の「乳と卵」と「あなたたちの恋愛は瀕死」の二編を収録。

もうすぐ四十歳になる姉の巻子と、その姉の娘で小学生の緑子が、大阪からわたしの住む東京のアパートにやって来た。姉の頭の中には豊胸手術しかなく、女になることを嫌悪する娘は、そんな母親への激しい反発から口を開かなくなった。言葉にはできない豊胸への思いを持つ母と、会話をスケッチブックにペン書きする娘。そんなおかしな親子を、姉の妹であるわたしの目線で描いた三日間。その合間に、娘の緑子の日記を読む、という作品。

これまでに「わたくし率イン歯ー、または世界」「先端で、さすわさされるわそらええわ」を読んでいるが、これが嘘やん、というぐらい読みやすくなっていた。ネイティブな大阪弁で書かれているのも同じ、句読点の独特な使い方も同じ。ふつうはここで「。」やろというところを「、」で区切り、ここは「、」やろというところに「、」を打たない。そうかと思えば、やたらと「、」で文章をぶった切る。前二作を読んだときは、するすると文章が頭に入ってくるのだが、その一方で、入ってきた文章が脳内に留まらずに、するすると出て行ってしまって、これには困惑してしまった。それが本書では、入ってきた文章がちゃんと留まるではないか。こんなのは当たり前のことなのだろうが、川上未映子の作品では、これは大きな出来事だと思う。

銭湯で行きかう女の胸を舐めるように観察し、己の乳首にコンプレックスを持っている巻子。胸よりも、もっと先に気にすべきことがあると思うわたし。そんなお母さんを大事に思うけれど、なぜそんなに胸を大きくしたいのかわからず、しゃべれば喧嘩になるからと口を開くことをやめた娘。その緑子は、生理について考えてブルーになり、卵子のこと、あたしの中に人を生むもとがあることや、体の変化が憂鬱で、大人になるのが厭だと思っている。女性ならではの悩みや不安なので、これについては答えようがない。だけど、大人になってもコンプレックスはあるし、子供と大人の狭間の年代には、体の変化に怯えた記憶も確かにある。だけど、彼女たちはそこに必死になるので、滑稽だけど切なくもなる。そして、ラストのわけのわからないパワーは、相変わらずすごいと思った。

同時収録の「あなたたちの恋愛は瀕死」は、川上未映子にとって、初の標準語で書かれた作品だ。リズム感は残っているが、まったく雰囲気の違う作品になっている。化粧品店や街中で、たくましく思考想像した女性のあれこれを描いている。そして、ティッシュ配りの男のイライラが、その女性と交錯することで、最後にパワーが破裂してしまう。ページ数の少ない作品だが、ひりひりとした孤独感や、女性ならではの風景、男性からは絶対に見えない世界が面白く読めた作品だ。

芥川賞受賞ですごく売れているみたい。だけど、おいらは図書館で借りたよん。。


TBさせてもらいました。「また楽しからずや!」

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川上未映子
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    2008

04.12

「シンメトリー」誉田哲也

シンメトリーシンメトリー
(2008/02/21)
誉田 哲也

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警視庁刑事部捜査第一課殺人犯捜査第十係第二班、通称”姫川班”の主任を拝命している、姫川玲子警部補。彼女が活躍する「ストロベリーナイト」「ソウルケイジ」に次ぐ第三弾は、七編が収録された短編集。

「東京」
玲子がまだ品川署の強行犯捜査係にいて、同じ係のデカ長だった小暮に、刑事のイロハを叩き込まれていたころ、品川東高校の女子水泳部員が、プールのある屋上から飛び下りた。その女子が所属する水泳部にはいじめがあった。しかし、いじめの対象は被害者ではなかった。

「過ぎた正義」
三人の女子高生を誘拐、監禁、殺害し、心神喪失で無罪となった男。都合四人の女子中学生を強姦し、内二人を殺害、一年少々の禁固刑で出所した元少年。その二人が、交通事故、薬物中毒で、連続して死んだ。ベテラン監察医の國奥に教えられ、その話が玲子の心に引っかかって残った。

「右では殴らない」
覚醒剤使用の痕跡がある男性が、立て続けて劇症肝炎で死亡する症例が起こった。玲子がその話を國奥から聞いたわずか三日後、またしても同様の死者が出た。所轄所も覚醒剤取締法違反程度にしか認識していなかったが、玲子は連続殺害事件と定義して取り上げた。

「シンメトリー」
JR某線が乗用車に接触、脱線、横転した事故で、百人からの命を奪ったのに、車を運転していた米田は、たった懲役五年で出所してきた。その米田が、事故のあったその場所で、電車に轢かれて死んだ。復讐した犯人の目線で描いた異色作。そこに玲子が犯人の前に現れる。

「左から見た場合」
あれは超能力だと噂された手品師の男が、何者かに刺殺された。その死体の側に転がっていた携帯電話には、〇四五、六六六、とだけ入力されていた。そのマル害の所持していた携帯の電話帳に、たった一人だけ登録されていた渡辺姓の人物。渡辺繁とは一体、何者なのかと気になる玲子。

「悪しき実」
マンションの部屋で男が死んでいる、そう110番通報をして、同室賃借人の女が姿を消した。玲子は即座にその美津代の身柄を確保した。検死結果では他殺か自殺か判断がつかず、亡くなった人物について美津代に問うても、私の亭主で私が殺した、以外は答えない。玲子の勘では、彼女は殺していない。その死んだ男は誰なのか。

「手紙」
玲子が捜査一課に引っ張られることになった事件。今泉係長と出会うきっかけになった、デカ長時代の武勇伝を玲子が披露する。中目黒の児童公園内でOLが、胸部、腹部を三箇所刺され、失血死した事件が起こった。その当時交通課にいた玲子が、数合わせで呼ばれ、捜査本部に参加した事件だった。

おなじみの今泉係長、玲子に惚れている菊田和男、ベテランの石倉保、若手の湯田康平、ベテラン監察医で恋人気分の國奥定之助など、もちろん登場はしている。だけど、短編なのでそれらの人物とのじゃれ合いは少なく、ほとんどは玲子が単独で事件を追うストーリーになっている。理論立てて犯人を追うのではなく、玲子の勘に頼る部分が多いのはシリーズを通しての特徴だ。とにかく玲子のキャラで読む作品になっているので、ミステリやサスペンスを期待すると、肩透かしを食うかもしれない。まあシリーズの三冊目なので、それらをわかって読む人がほとんどだとは思うが。

そんな中で変わり種は、玲子が怒りまくっている「右では殴らない」と、表題作になっている「シンメトリー」だろう。この「シンメトリー」の冒頭にあったような、細切れに書かれた風景描写は好きだった。それと暗号ミステリの「左から見た場合」もそうだ。こういう茶目っ気あるユーモアは、誉田作品では初めて読んだことになるのかも。それぞれに派手さはないものの、バラエティにとんだ作品集になっている。姫ファンなら、もちろん読むしかないっしょ。


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「ストロベリーナイト」誉田哲也
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「シンメトリー」誉田哲也

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誉田哲也
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    2008

04.11

「FINE DAYS」本多孝好

FINE DAYS (祥伝社文庫)FINE DAYS (祥伝社文庫)
(2006/07)
本多 孝好

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「FINE DAYS」「イエスタデイズ」「眠りのための暖かな場所」「シェード」の四短編が収録。

「FINE DAYS」
高校三年の僕は、学校中の女子生徒の頂点に君臨している安井と仲が良く、校舎屋上での喫煙仲間でもある。そして生粋のいじめられっ子だが、僕と安井と話すようになり、いじめられっ子を卒業した神部画伯。彼ら三人は、当てもなく漂流するいかだに乗っているみたいだが、思い思いに時を過ごしていた。そこにある噂を引っさげて、一学年下に彼女が転校してきた。美少女の彼女に何か事を起こすと、たたられるらしい。

「イエスタデイズ」
売り言葉に買い言葉で家を飛び出してから一年。死の床にある父から、僕は三十五年前に別れた元恋人を捜すように頼まれた。手がかりはスケッチブックに描かれた若かりし頃の彼女の絵と、真山澪という名前だけ。その人と父の子供がいるかもしれないとも。かつて彼らが一緒に住んでいたアパートへ向かったところ、僕の前に現れたのは、絵と同じ美しい女性と、若き日の父だった。

「眠りのための暖かな場所」
大学院に進んだ私は、担当教授の切なる願いで、ゼミに友達がいない結城ツトムと喋るはめになった。その後、すれ違えば会釈ぐらいは交わし、多少の言葉も交わすようになった。そこに結城のことが好きだという立川明美が事故に遭い、結城の幼なじみが現れ、信じられないような過去の話を語りだす。結城と私は、何かを抱えている者同士、間にある線を認めて抱えた冷たさを分け合う。

「シェード」
彼女の住むマンションへの行き帰り、通りかかるたびに覗いていたアンティークショップのショウウィンドウ。ずっと前からクリスマスプレゼントにしようと決めていたガラスのランプシェードだけが、そこからなくなっていた。場所を移しただけかもしれないという微かな期待に、僕はその店のドアを押した。そこで店主の老婆から語られるランプシェードにまつわる物語が、今の自分と重なりあって、僕を霞めていた霧が晴れていく。

文章は相変わらずきれいで読みやすい。背表紙に恋愛小説とあるが、ファンタジーのようなホラーでもあるような、恋愛色の薄い恋愛小説だ。これまで本多作品を読むたびに、腑に落ちないと書いてきたが、本書は表題作以外を面白く読めてしまった。さて、どう褒めようか。

「FINE DAYS」は、いつも一緒にいる三人にすごく魅力があった。しかし、同じような内容のホラー作品を読んだ記憶があった。違う展開なら、褒めていたかもしれない。次の「イエスタデイズ」も、過去の女性に恋をするのはありがちな作品だと思う。だけど、そこに乗っからないというか、距離を取る主人公の強さに心地よさを覚えた。「眠りのための暖かな場所」は、二人の抱えた重みよりも、主人公である私のぶっきらぼうさ、横柄さ、消極的なところが、個人的な好みをくすぐられた。「シェード」は昔語りとしては凡庸。だけど、そこから導きだされた現在、これからを予想するベタな会話は好きとしか言いようがなかった。

強烈なシーンはなく、淡々としているのだが、ほろ苦い切なさや痛みがすうっと浸み込んでくるような、短編集だったと思う。これまで読んだ作品の中で、一番好きかも。

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本多孝好
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    2008

04.10

「虚空の旅人」上橋菜穂子

虚空の旅人 (偕成社ワンダーランド)虚空の旅人 (偕成社ワンダーランド)
(2001/07)
上橋 菜穂子佐竹 美保

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十四歳になった新ヨゴ王国の皇太子チャグムは、相談役であり学問の師である、若き星読博士シュガと共に向かったのは、ヤルターシ海に面した海運と海産物で栄えるサンガル王国だった。新王即位ノ儀に招かれたのだ。新王が即位する、このときに、地方領主である島守りたちが怪しげな動きを見せ、得体の知れない南方の商人が暗躍し、ナユグール・ライタの目に選ばれた少女が現れた。

それは、サンガル王国に語り継がれている伝説で、海の底にナユグール・ライタという民が暮らしているとされ、その異界の海の民に目として選ばれた少女は、王宮に招いて最上のもてなしを受けたあと、海に落とされ、殺される運命にあるという。それを聞いたチャグムは、かつての自身を襲った運命と、あまりにも似すぎていたことに驚く。チャグムは精霊の卵を宿すという不思議な体験をしていた。あの時、女用心棒のバルサと、その幼なじみの薬草師タンダ、そして、師匠である呪術師トロガイが、彼の命を救ったのである。そのナユグール・ライタの目になった少女から、あのナユグの水の臭いを、チャグムは嗅ぎ取ってしまう。

チャグムは、その華やかな宴の席で、接待役のサルーナ王女と、血の気の多いタルサン王子と親しくなる。そのタルサン王子だが、突然、新王になるはずのカルナン王子を傷つけてしまう。人変わりしてしまったタルサン王子は、呪いにかけられていることに、シュガが気付いた。一方、海に浮かぶ家船で暮らすスリナァは、南方のタルシュ帝国がサンガル王国侵略を企てていることを知り、かつて幼いころから一緒に海にもぐり、遊んだ友であり、今では雲の上の人になってしまったタルサン王子に急を告げようと、一人孤独な船旅をはじめた。チャグムは、サンガル王家に渦巻く呪詛と陰謀の中に身を置くことになる。「精霊の守り人」シリーズの外伝。

これまでは、バルサが放つ孤高の力強さが目についたが、本書は王国と王国の狭間に揺れるチャグムの物語だ。新ヨゴ王国では、身近に数は少ないが、心が通じた者たちがいた。それが今回はシュガしかいない。だけど、皇太子チャグムにとって、シュガとって、先の未来にこれからの新ヨゴ王国にとって欠かせない二人の、主従の絆を深めるきっかけになる。

それに他国の内乱、外敵の脅威の中に身を置いたチャグムは、政治の世界、あるいは外交の世界にいるので、うかつな行動を取ることが出来ない。そんなもどかしさの中で、サンガル国の政治力や、いざとなった時の決断に疑問を感じ、自身の持つあやうさを認識しながらも、その考えを曲げたくはない、と強く思うようになってゆく。

サンガル王国の王子であるタルサンと、一緒に育ったスリナァ、ナユグール・ライタの目になった少女エーシャナの三人の物語も読ませるものがあるし、そして将来的には、チャグムとサルーナ王女はあり、なんて楽しみかたもある。冒険のわくわくではなく、少し大人の世界を垣間見せてくれる作品だった。

放りっぱなしで終わってしまった感はあるが、その辺りは「蒼路の旅人」に引き継がれるのだろうか。まだまだ読む楽しみがあって、嬉しく思う。


「精霊の守り人」 
 
「闇の守り人」 
「夢の守り人」 
「虚空の旅人」
「神の守り人 来訪編」
「神の守り人 帰還編」
「蒼路の旅人」
「天と地の守り人 ロタ王国編」
「天と地の守り人 カンバル王国編」
「天と地の守り人 新ヨゴ皇国編」
「流れ行く者 守り人短篇集」

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上橋菜穂子
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    2008

04.10

「飯綱颪」仁木英之

飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)
(2006/12)
仁木 英之

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深川の十六夜長屋に住む、泥鰌漁を生業とする甚六が、ある日川べりで行き倒れの男を見つけた。その男は驚くほどの巨体で、剛毛に覆われた体が血と泥に塗れた姿は鬼を思わせた。恐ろしさにかられた甚六だったが、苦しんでいる姿を見て男を長屋へ連れて行く。長屋の住人たちの介抱によって男は体力を回復するが、一切の記憶を失っていた。歴史群像大賞最優秀賞、日本ファンタジーノベル大賞、W受賞の気鋭の著者が贈る、受賞第一作長篇書き下ろし小説。《背表紙より》

これが初めて読む仁木英之作品。おもいっきり取っ掛かる順番を間違えているが、まあ、ご愛嬌ということで。どうも「僕僕先生」とはタイミングがあわないんだよな。

泥鰌獲りの甚六、とみの親娘は、拾ってきたごつい男を、山みたいだから山さんというあだ名をつけて、居候させることにした。彼らの住む長屋には、樽職人をしている太助、弥八、九兵衛の喧嘩早い三兄弟とその妻たち、何やら過去を秘めた浪人で、寺子屋先生をしている藤村忠兵衛、旦那と一人息子を辻斬りに殺され、死ぬに死ねず、自分をどうすることも出来ない未亡人さえ、長屋の鼻つまみ者で、博打打ちの磯次、という面々が住んでいた。

一方、松代藩十万石は、大水害で多額の借財を負い、家老の原八郎五郎の極端な財政再建によって、城下は不穏な空気に包まれていた。その家老の原は、藩のために、どんな手段でもいいから逃げたあの男を連れ帰れと、江戸藩邸の若穂貞光に命じる。その原が邪魔で仕方がない江戸家老の屋代定助は、影働きの海野大桷を使って、あの男の動向を探らせる。

その問題の記憶をなくした男とは、真田忍軍の末裔で、代々真田家のために影働きをしてきた、狩人と呼ばれる集団の若き頭領だった。松代藩を守ってきた凄腕の集団は、かつて見せたその結束力が嘘のように三つに分かれていた。一団は藩主に絶対の忠誠を誓い、もう一団は江戸家老に味方している。そして最後の一団は彼らの頭領が姿を消してからというもの山里に引っ込んでどちらの命令にも従わなかった。その山さんと呼ばれる男を巡った暗躍に、長屋に住む庶民たちが巻き込まれていく。

人情もの、忍者ものと呼ばれる系列作品の定番パターンだろう。江戸っ子のきっぷの良さ、見過ごせない人情、人間離れした躍動。善悪の陰謀が渦巻くなかで、自ら記憶を封じた男。その封印を解いて目覚めさせることを依頼され、引き受けることになった江戸っ子庶民。そのことによって、無害である庶民たちは、狩人たちの獲物になってしまう。

序盤は登場人物が多いこともあって、それら人物を把握しやすいように丁寧に書かれている。物語の主人公は泥鰌の甚六であって、眠れる獅子の山さんではない。だから剣戟ものを期待すると肩透かしを食うかも。派手な活劇はあるものの、その役目を担う者が眠っているから。でも隠れキャラが登場して、楽しませてくれたりもするのだけど。武器を手に取ることがない甚六たち江戸っ子たちが、松代藩の内紛に巻き込まれる主流のストーリーがあり、そこに過去の山さんに関わりがあった人物のストーリーがあり、さらに、寺子屋の藤村先生、未亡人のさえ、仇を持つ若穂貞光などのストーリーが、平行したかたちで展開していく。

時代もの特有の言い回しや用語は抑え目になっている。だから取っ付き難さというものはなかった。それに江戸ばかりが舞台ではなく、長屋の男衆だけで善光寺参りに行ったりと、ひとつ所に留まらない遊び心もあって、読者を飽きさせない工夫もしっかりしている。それに男と男が対峙する美学などもしっかり書かれていて、ほんとに定番というもの、をきっちり詰め込んだ作品だと思った。「僕僕先生」を読んでいないので比較は出来ないが、読んで損なしだと思った。タイトルは「いいづなおろし」と読んでください。

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仁木英之
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    2008

04.09

「フュージョン」濱野京子

フュージョンフュージョン
(2008/02)
濱野 京子

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今年イチオシの作品を見っけ。ぜひ読んでほしいなー。

八木原朋花は中学二年の女の子。夏休みに入ってからずっと、いらいらして落ち着かない。理由はわかっている。高校教師をしている母親が家にいる時間が長いからだ。何を話していいのかわからない。どんな顔を向けたらいいのかわからない。だから、あまり口をきかないようにしているのだけど、それでも、時々、朋花の苛立ちはマックスを越える。そんな時は、相棒の銀色のチャリに乗って、家を飛び出す。ペダルを漕ぐたびに車輪がきしむ。もっと速く走ればいい。もっと、あたしの意思を感じて、もっと速く。遠くへ行きたい。でも、どこへ?

そんなある日、朋花はヤツらと、そして、ダブルダッチと出会った。超優等生の沢田美咲、ヤンキー娘の村元玲奈、パシリのうわさがあった小塚玖美という、ありえない組み合わせの三人組が縄跳びをしていたのだ。それはただの縄跳びではなかった。ビシッ、パシッ、と軽快に地面を打つ縄は二本あった。その中をかいくぐるように跳ぶ。縄が二本ってことは、跳ぶテンポも二倍ということだ。跳び越したと思うとあっという間にもう一本が来る。縄に足を取られることなく、軽々と跳ぶ。身体をひねって回転する。すごく速い。なんてスピードだろう。スゲエ!こいつ、何なんだよ! 大きな力に引き寄せられるように、朋花は一歩、また一歩と踏み出していた。その時、声がした。やってみる?

朋花が加わった四人でダブルダッチをすることになって、朋花だけでなく、四人の少女たちの物語が動き出す。朋花には超優等生の兄の悠ちゃんがいるのだが、自分の価値観で縛ろうとする親の圧力が息苦しくて、ある日突然、家を出て行ってしまった。その悠ちゃんからは、朋花だけに風景を撮った写メールが時折送られてくる。そのことは両親には明かしていない。そしてクラスでは友達と呼べる存在が彩乃しかいない。自分も優等生なのに自信が持てず、そんな自分を嫌いに思っている。それ以上に両親は嫌い。何か夢中になれることを見つけたいと思っていたが、それが縄跳びだった。

美咲は何でもできる超優等生。それゆえにまわりがバカに見えてしまって、いつも退屈をしていた。しかし、四人で縄跳びをすることで、頼りになる性格の悪さを発揮していく。玲奈は大人たちから不良の烙印を押されていた。確かにキョーボーだけど、ほんとは優しくていい子だったり、純情だったりすることがわかる。玖美は玲奈のパシリという噂があったが、実際はちんぴらに絡まれていた玖美を、玲奈が助けたことで仲良くなっていた。いつも誰よりも先に来る努力家で、天然で、人をよく見るムードメーカーだと知る。

四人の少女たちのくすぶった胸のうち、親は親だから、親の子をやめれない苛立ち、わかろうとしない大人たちへの不満が痛いほど伝わってくる。ふつうに生きることが息苦しくて、たまったものを吐き出すすべを知らないもどかしさ。そんな中で、熱中できる何かを見つけ出せた喜びが、ストレートに伝わってくる。はじめは八木原さんと呼ばれ、ヤギハラ、トモカと呼び名が変わっていく。跳びたい。ただ跳んで、身体をひねり、ステップをリズミカルに刻んで、風を感じて、仲間の呼吸が聞こえて、四人だけの一つの世界になる。そして四人みんなが成長して、変わっていく。そんな彼女たちの姿が眩しくきらきら輝いていた。

補足。タイトルのフュージョンとは、ダブルダッチの競技の中で、回転やアクロバット、ダンスステップなどを組み込んで、オリジナルの動きを作り出しながら跳ぶフリースタイルという種目に、さらに音楽を融合させたものをいう。

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濱野京子
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    2008

04.08

「ブラックペアン1988」海堂尊

ブラックペアン1988ブラックペアン1988
(2007/09/21)
海堂 尊

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一九八八年五月。ある晴れた日の朝、一人の研修医が東城大学医学部付属病院への坂道を駆け上っていた。その青年の名は世良雅志。神の手を持つとされている佐伯清剛教授率いる佐伯外科教室に入局したばかりの新米医師だった。佐伯教授の言葉は絶対。ここでは彼がルールだ。そこに世良の指導医であり、赴任して間もない高階講師が新兵器を持ち込み、天性の跳ねっ返りさを発揮して、総合外科学教室を引っかきまわし、医局員の十年選手という変わり者で、オペ室の悪魔と呼ばれる手術職人の渡海、といった個性派の面々の中で、世良は一人前の医師として扱ってもらえないもどかしさ、技術をもたないゆえに無常感に襲われながら、二人の凄腕医師に挟まれて、己の医師としての方向性を模索していく。

口は禍の元。とばっちりの矢がどこから飛んでくるのかわからない、という忠告を受けながらもついつい口を出してしまう主人公。そんな若さがあり、不親切なようでいて、いつの間にかちゃんと身に付いてしまう高階講師の指導のような上に立つ者のさりげなさや心ある医療のもとで、新しいものを取り入れようとする斬新さがあり、自分の手術技術がすべてだと言い切る人あり、老獪さもありと、まんべんなく揃った人物たちが面白い。

主人公の世良、裏主人公の高階講師、何かありげな手術職人の渡海、大御所の佐伯教授、中間管理職の垣谷助手、やり手の藤原婦長、やはりネコのままの猫田主任、初々しい花房看護婦、口うるさい黒埼助教授、学生としてやって来る速見、島津、田口の三人。新しい人物たちに加え、肩書きは違うがおなじみの人物たちの登場に楽しくなったのだ。

癌告知について、製薬会社との癒着、新技術導入に伴う人材育成、病院の自己保身など、医療の問題点を読ませながら、いつか手術で人を殺してしまうのではないかという恐怖や、忙しい合間の淡いデート、心も技術も磨いていく成長など、人間ドラマとしてもしっかりと読ませてくれる。

それにおまけのように登場していた、学生たちの三者三様のレポートも面白く、中でも田口が手術嫌いになったエピソードはニヤリだった。そうか、世良の未熟さが不愁訴外来を生んだのかと。田口ではないが、おいらも血を見ると貧血を起こしてしまうほどの怖がりなので、本書の手術シーンの多さには、ちょっと及び腰になってしまった。だって生々しくて、臨場感があって、緊迫感もある。苦手と言いつつ褒めざるをえないのだから、さすがは現役のお医者様といったところかしら。

患者を治すのは医師の技術ではない。患者自身が自分の身体を治していく。だけど、患者になる身としては、名医に頼みたいものだ。出版社を越えたリンクを楽しみつつ、若者の成長、医師とは、が面白く読めた作品だった。

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海堂尊
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    2008

04.07

「もう誘拐なんてしない」東川篤哉

もう誘拐なんてしないもう誘拐なんてしない
(2008/01)
東川 篤哉

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田舎でもなく、かといって都会というほどでもない。そこそこ暮らしやすい地方都市、山口県下関市。樽井翔太郎は、二十歳の大学生。七月も半ばを過ぎれば学生は夏休み。うまいバイトを求めて先輩に相談したところ、軽トラックのたこ焼き屋台を、体よく押し付けられてしまった。軽トラ屋台を任されて一週間、下関の街で商売することに早々と限界を感じた翔太郎は、商機を求めて関門海峡を挟んだ対岸の福岡県門司港まで、軽トラ屋台を走らせた。翔太郎の目論みは当って、午前中の売り上げは上々。この調子なら、午後にはもうひと稼ぎできるはず、と期待を膨らませていたところ、少女の悲鳴が聞こえてきた。

漫才コンビのようなヤクザ二人から、勢いで助けた女子高生は、門司を拠点とする暴力団花園組組長の娘・花園絵里香だった。彼女が妹の移植手術費用を必要としていることを知り、翔太郎はひとつの提案をしてやった。俺がおまえを誘拐してやろうか? かくして、大学の先輩で、たこ焼き屋台のオーナーである甲本一樹を巻き込んで、ひと夏の狂言誘拐がはじまった。

一方、そんな魂胆を知らない花園組の面々。身代金を要求する電話を受け、組長よりも子分たちの忠誠心を受ける、妹思いの絵里香の姉・皐月が、組のナンバー3であり、切れ者の名が高い山部勢司と共に、妹を救うべく立ち上がる。キュートな姉妹、トボけた翔太郎、個性豊かなヤクザたちの活躍が楽しいユーモア誘拐ミステリー。

深みなんてこれっぽっちもなく、のほほんとゆるくて、能天気に浮かれて、ベタな笑いがてんこ盛りで、軽快にドタバタして、まったく肩肘張らずに読める作品。つまり東川篤哉らしい作品だ。偽札、殺人、狂言誘拐、身代金受け渡し、殺人容疑、逃亡、怪人ワカメ男の登場と、イベントは多いのだが、どれもこれもが小粒。しかも説明が足りないというか、投げっぱなしで放置されたものが数点あり、そこが中途半端に終わっていたのは残念だった。だけど、それらを差し引いても十分に面白かった。

あちらこちらに散りばめられたユーモアの数々や、念入りに書き込んでいないにも関わらず、魅力ある登場人物たち。ちょっとスケベな主人公に、タイプの違うヒロインが二人、その父親の二重人格ぶりに、ボケキャラの宝庫の組員たち。大きな山場はないものの、彼らの会話や一挙手一投足がクスリと笑わせてくれる。活字で読者を笑わせるのは難しいとは思うが、東川篤哉はそれをいとも簡単にやり遂げてしまう。これは稀有な才能だ。よって、ミステリとしてはインパクトに欠けるが、ユーモア小説としては安心して読むことができるだろう。あー、面白かった。

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東川篤哉
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    2008

04.06

「主題歌」柴崎友香

主題歌主題歌
(2008/03/04)
柴崎 友香

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デザイン関連の会社でOLをしている実加の楽しみは、三つ上の三十一歳の小田ちゃんと、テレビの中でも身の回りでもかわいい女の子を見つけて報告し合うこと。同期のいつ子を加えた三人組でランチに行っても、かわいいアルバイトの女の子を見つけて盛り上がり、仕事場に一カ月ほど前からアルバイトに来た、背が高いというよりでかいという印象の愛ちゃんも、かわいいな、ええ子やよ、と言い合い、雑誌「PLAYBOY」の綴じ込み『永遠のセクシー女優名鑑』を歩きながら見入ってしまい、路上駐車の車にぶつかりそうになったり、同棲中のもうすぐ三十四歳になる洋治よりも、プレイボーイを必死に見てしまうほど、とにかくかわいい女の子が大好き。

女子好きな女性って、おいらは男だからこういう感性というか何というかはよく分からない。同性愛というわけでなく、ただかわいい女の子を見て楽しんで、きゃっきゃと騒ぐだけ。これとは少し違うが、女同士で手をつないだり、人前で笑いながら女同士でキスをしたりする女の子たちがいる。これはおいらのまわりにいる人たち限定なのかもしれないが。だけど男同士ではとても考えられない。……。うげーーっ、想像したら気持ちが悪くなってきた。これだけは乙女たちの空想上の楽しみだけに留めておきたい。というか、BL(男と男のラブ)をすんなりと受け入れてしまう女の子がいること自体を不思議に思う。どこかで聞いた記憶があるのだが、男は想像する人種で、女は現実がすべての人種。これで言うならば、男性は想像力が強すぎて、ある一定を超えると楽しめないが、女性にとっては、想像はあくまで想像でしか過ぎず、だからあんなにドギツイものでも平気で読めるのかもしれない。あら……、話が脱線しすぎたかしら。えーっと、汗、汗、女子好きのお話だっけ。

主人公の実加は友達の花絵の個展を訪問したり、音楽の趣味が合う森本やりえといっしょにライブに行き、食事をする。それら人とのやり取りを描きながら、周りの風景や人たちも描写し、さらにふっと実加以外の目線で物事を見ることで、全体像が明確に膨らんで、情景が目に浮かぶ柴崎ワールドを構築している。さらりと描いているようでいて、ここに柴崎友香の上手さがあると思う。

女の子の友だちをみんなうちに呼んで開催した女の子カフェも、とても楽しそうで、すごくいい雰囲気だった。柴崎友香が描く女の子って、みんな普通なのだが、それぞれに魅力がある。ある一部分を強調するわけでもないのに、みんなが生き生きしているように感じられるのだ。三十歳になった敬一と、どこかで繋がっている人物たちがリレーする「六十の半分」、恋する女性のなに気ない日常を切り取った「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」が同時収録されている。これら30ページほどの短編二作も、また違った味わいがあって、短いながらも情景が目に浮かぶ。ふつうの日常を面白く読ませてしまう柴崎友香は、やはりすごいと思った。

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柴崎友香
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    2008

04.05

「もっと、わたしを」平安寿子

もっと、わたしをもっと、わたしを
(2004/01)
平 安寿子

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イケてない五人五様の人生を、リレー形式で描いた作品集。

「いけないあなた」
ご飯食べに来ない。二つ返事で馳せ参じたら、監禁された。監禁場所は理佐所有のマンション一室、トイレ内。二股がバレる覚悟はしていたが、言い訳は準備していなかった。そこに二股相手の広子が現れた。ドアの外で二人の女が言い争う修羅場の中、口べた堅太り優柔不断でモテない前半生を送ってきた江口真佐彦は、いったい何を思う。

「ノー・プロブレム」
自分は仕事ができる。頭だっていい。売れっ子コーディネーター篠さおりの鞄持ちをやらされ、篠の鼻を明かしてやりたくて、出しゃばってみた。社内のOLからは、人の言う事を聞かない、子供だ、いいのは顔だけ、筋金入りの自己中心人間のレッテルを貼られ、総スカンを食うが、吉村有樹は鼻で嗤う。そんな中で、ブスで少女趣味の有馬富貴だけは応援してくる。

「なりゆきくん」
クロス職人の親娘のもとで働くようになって一年の清原正太は、でかくて無骨で無口だから女にモテない。そんな正太だが、社長の娘であるしのぶから食事に誘われ、濃厚なキスまでされるようになった。だけど自分からは前進することは出来ない。そんなある日、ただの従業員、としのぶが自分のことを言ったのを聞いてしまった正太は、キスで確かめようとするが。

「愛はちょっとだけ」
瀬戸朝香似と言われる太田絵真にとって、物心ついたときから、男の子に構われるのは宿命みたいなものだった。そんな絵真だが、いやらしい顔をしている、男をその気にさせる顔だ、とかつて言われてショックを引きずっていた。仕切り屋花子が幹事を務める合コンに、サクラとして参加した絵真は、そこで絵真を傷つけた言葉を吐いたかつての親友、麻衣子と偶然再会した。

「涙を飾って」
女手ひとつで健気に子育てするシングルマザー、それが売りだった行田薫子だが、一年で段違いに無口になった小学五年生の息子、進が何を考えているのか分からずに怖い。肉体的成長もさることながら、進学問題も迫ってきた。そこで進の父親候補として、務める会社の社長ジュニアに目を付け、周囲の同性の白い目も気にせずに、媚へつらい、女として売り込みをかける。

人間の嫌な部分、不遜な部分、屈折感などを、さらっと書いて、それを嫌味にあまり感じさせないのは、さすがに平安寿子だと思う。それに深刻ぶったり、ネチネチ妬んだり、イライラ嫉妬することもない。どこかカラッとした部分があって、ドロドロの泥沼になることもない。読んでいて不快になることはまずなく、何かが欠けた人物たちが憎めないのだ。むしろ愛すべきキャラクタに思えてしまうのだから、これがほんとに不思議だ。中でもお気に入りだったのは、「ノー・プロブレム」「愛はちょっとだけ」に登場した、漫才師の宮川花子似の仕切り屋花子こと有馬富貴だった。サブキャラなのに、この存在感はすごい。こんなに面白い平安寿子だけど、中々メジャーにならない。そこが少しもどかしく思う。

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平安寿子
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