「みなさん、さようなら」久保寺健彦
2008年04月03日 (木) | 編集 |
みなさん、さようならみなさん、さようなら
(2007/11)
久保寺 健彦

商品詳細を見る

芙六小学校を卒業したのは全部で107人。みんな団地に住んでいた。小学校の卒業式で起きたある事件をきっかけに、団地から出られなくなってしまった渡会悟。それを受け入れた悟は団地で友達を作り、恋をし、働き、団地の仲だけで生きていこうとする。「団地に閉じこもってたら、悟君の友達は減る一方でしょ。さみしくない、そういうのって?」 月日が経つにつれ一人また一人と同級生は減っていき、最愛の恋人も彼の前を去ろうとしていた。悟が団地を出られる日はやってくるのだろうか――。限られた狭い範囲で生きようとした少年が、孤独と葛藤に苛まれながらも伸びやかに成長する姿を描く、極上のエンターテイメントであり感動の物語。第1回パピルス新人賞受賞作。《本の帯より》

主人公は団地っ子の悟。中学へは行かないと宣言し、それ以降、団地の敷地内から一歩たりとも外へ出ない生活を始めた。団地には、遊戯室とトレーニングルーム、視聴覚室と図書館を併設したコミュニティセンター、通称コミセンがあり、保育園もある。他にも公共施設があって、クリーニング屋、ケーキ屋、本屋、酒屋、中華料理屋、八百屋、肉屋、郵便局の出張所、内科医院と、必要なものは揃っている。運動も勉強もここでできるし、友達もいる。主人公はパトロールをして同級生の動向を把握し、信奉する極真空手の創始者の大山倍達に憧れて、ランニング、基礎体力作り、空手の練習などのトレーニングをして、体を鍛える。始めは面白がって一緒に行動していた友達だが、一人抜け、また一人抜け…。

そんな中で、同じように団地が全てだった薗田くんと仲良くなったり、隣同士で幼なじみの松島さんと話すようになって社会の正論を知ったり。そして不登校だった中学卒業を期に、敷地内にあるケーキ屋のタイジロンヌで師匠のもと働きはじめる。そんな主人公だが、かつての同級生たちは少しずつ団地を去っていく。やがて彼女もできて、このままストーリーは進むのかと思いきや、主人公がなぜ団地を出られなくなったのか、というトラウマの原因が提示され、ここから作品の雰囲気が変わってゆく。

これまでがわりとのん気だったのに対し、けっこう重い流れになっていく。これが少し苦手というか退屈というか。団地の老朽化に伴って、若者の流出がやまず、お年よりも亡くなって、お店もシャッターが下ろされ、空き部屋が目立つようになっていく。それに幼なじみも、恋人も、師匠も、親友もと、魅力ある人物が次々と去っていく。作品の展開としては納得できるのだが、物悲しさよりも辛気臭さによって、読むペースを下げてしまった。しかしそこに救世主が登場する。孤独なサッカー少女のマリアだ。途中で中だるみを感じたものの、彼女とからむことによって終盤に盛り返し、最後は気持ちよく本を閉じることができた。

だけど、一番の理解者であるの母親のヒーさんや、変わり者と見ずに接してくれた多くの人たちに対して、主人公ははたして感謝していたのだろうか。もし気付かぬままだったら、こいつはサイテーなやつ。そういった心理描写がごっそり抜け落ちていたのが残念だった。それとも閉鎖した世界で生きてきたので、そういう感情の欠如をわざとねらったのか。それならば、やはりサイテーなやつ。なんてイジワルを言ってみたりする。