「もう誘拐なんてしない」東川篤哉
2008年04月07日 (月) | 編集 |
もう誘拐なんてしないもう誘拐なんてしない
(2008/01)
東川 篤哉

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田舎でもなく、かといって都会というほどでもない。そこそこ暮らしやすい地方都市、山口県下関市。樽井翔太郎は、二十歳の大学生。七月も半ばを過ぎれば学生は夏休み。うまいバイトを求めて先輩に相談したところ、軽トラックのたこ焼き屋台を、体よく押し付けられてしまった。軽トラ屋台を任されて一週間、下関の街で商売することに早々と限界を感じた翔太郎は、商機を求めて関門海峡を挟んだ対岸の福岡県門司港まで、軽トラ屋台を走らせた。翔太郎の目論みは当って、午前中の売り上げは上々。この調子なら、午後にはもうひと稼ぎできるはず、と期待を膨らませていたところ、少女の悲鳴が聞こえてきた。

漫才コンビのようなヤクザ二人から、勢いで助けた女子高生は、門司を拠点とする暴力団花園組組長の娘・花園絵里香だった。彼女が妹の移植手術費用を必要としていることを知り、翔太郎はひとつの提案をしてやった。俺がおまえを誘拐してやろうか? かくして、大学の先輩で、たこ焼き屋台のオーナーである甲本一樹を巻き込んで、ひと夏の狂言誘拐がはじまった。

一方、そんな魂胆を知らない花園組の面々。身代金を要求する電話を受け、組長よりも子分たちの忠誠心を受ける、妹思いの絵里香の姉・皐月が、組のナンバー3であり、切れ者の名が高い山部勢司と共に、妹を救うべく立ち上がる。キュートな姉妹、トボけた翔太郎、個性豊かなヤクザたちの活躍が楽しいユーモア誘拐ミステリー。

深みなんてこれっぽっちもなく、のほほんとゆるくて、能天気に浮かれて、ベタな笑いがてんこ盛りで、軽快にドタバタして、まったく肩肘張らずに読める作品。つまり東川篤哉らしい作品だ。偽札、殺人、狂言誘拐、身代金受け渡し、殺人容疑、逃亡、怪人ワカメ男の登場と、イベントは多いのだが、どれもこれもが小粒。しかも説明が足りないというか、投げっぱなしで放置されたものが数点あり、そこが中途半端に終わっていたのは残念だった。だけど、それらを差し引いても十分に面白かった。

あちらこちらに散りばめられたユーモアの数々や、念入りに書き込んでいないにも関わらず、魅力ある登場人物たち。ちょっとスケベな主人公に、タイプの違うヒロインが二人、その父親の二重人格ぶりに、ボケキャラの宝庫の組員たち。大きな山場はないものの、彼らの会話や一挙手一投足がクスリと笑わせてくれる。活字で読者を笑わせるのは難しいとは思うが、東川篤哉はそれをいとも簡単にやり遂げてしまう。これは稀有な才能だ。よって、ミステリとしてはインパクトに欠けるが、ユーモア小説としては安心して読むことができるだろう。あー、面白かった。