「フュージョン」濱野京子
2008年04月09日 (水) | 編集 |
フュージョンフュージョン
(2008/02)
濱野 京子

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今年イチオシの作品を見っけ。ぜひ読んでほしいなー。

八木原朋花は中学二年の女の子。夏休みに入ってからずっと、いらいらして落ち着かない。理由はわかっている。高校教師をしている母親が家にいる時間が長いからだ。何を話していいのかわからない。どんな顔を向けたらいいのかわからない。だから、あまり口をきかないようにしているのだけど、それでも、時々、朋花の苛立ちはマックスを越える。そんな時は、相棒の銀色のチャリに乗って、家を飛び出す。ペダルを漕ぐたびに車輪がきしむ。もっと速く走ればいい。もっと、あたしの意思を感じて、もっと速く。遠くへ行きたい。でも、どこへ?

そんなある日、朋花はヤツらと、そして、ダブルダッチと出会った。超優等生の沢田美咲、ヤンキー娘の村元玲奈、パシリのうわさがあった小塚玖美という、ありえない組み合わせの三人組が縄跳びをしていたのだ。それはただの縄跳びではなかった。ビシッ、パシッ、と軽快に地面を打つ縄は二本あった。その中をかいくぐるように跳ぶ。縄が二本ってことは、跳ぶテンポも二倍ということだ。跳び越したと思うとあっという間にもう一本が来る。縄に足を取られることなく、軽々と跳ぶ。身体をひねって回転する。すごく速い。なんてスピードだろう。スゲエ!こいつ、何なんだよ! 大きな力に引き寄せられるように、朋花は一歩、また一歩と踏み出していた。その時、声がした。やってみる?

朋花が加わった四人でダブルダッチをすることになって、朋花だけでなく、四人の少女たちの物語が動き出す。朋花には超優等生の兄の悠ちゃんがいるのだが、自分の価値観で縛ろうとする親の圧力が息苦しくて、ある日突然、家を出て行ってしまった。その悠ちゃんからは、朋花だけに風景を撮った写メールが時折送られてくる。そのことは両親には明かしていない。そしてクラスでは友達と呼べる存在が彩乃しかいない。自分も優等生なのに自信が持てず、そんな自分を嫌いに思っている。それ以上に両親は嫌い。何か夢中になれることを見つけたいと思っていたが、それが縄跳びだった。

美咲は何でもできる超優等生。それゆえにまわりがバカに見えてしまって、いつも退屈をしていた。しかし、四人で縄跳びをすることで、頼りになる性格の悪さを発揮していく。玲奈は大人たちから不良の烙印を押されていた。確かにキョーボーだけど、ほんとは優しくていい子だったり、純情だったりすることがわかる。玖美は玲奈のパシリという噂があったが、実際はちんぴらに絡まれていた玖美を、玲奈が助けたことで仲良くなっていた。いつも誰よりも先に来る努力家で、天然で、人をよく見るムードメーカーだと知る。

四人の少女たちのくすぶった胸のうち、親は親だから、親の子をやめれない苛立ち、わかろうとしない大人たちへの不満が痛いほど伝わってくる。ふつうに生きることが息苦しくて、たまったものを吐き出すすべを知らないもどかしさ。そんな中で、熱中できる何かを見つけ出せた喜びが、ストレートに伝わってくる。はじめは八木原さんと呼ばれ、ヤギハラ、トモカと呼び名が変わっていく。跳びたい。ただ跳んで、身体をひねり、ステップをリズミカルに刻んで、風を感じて、仲間の呼吸が聞こえて、四人だけの一つの世界になる。そして四人みんなが成長して、変わっていく。そんな彼女たちの姿が眩しくきらきら輝いていた。

補足。タイトルのフュージョンとは、ダブルダッチの競技の中で、回転やアクロバット、ダンスステップなどを組み込んで、オリジナルの動きを作り出しながら跳ぶフリースタイルという種目に、さらに音楽を融合させたものをいう。