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    2008

05.31

「ぼくらのバス」大島真寿美

ぼくらのバス (ピュアフル文庫 お 1-1)ぼくらのバス (ピュアフル文庫 お 1-1)
(2007/05)
大島 真寿美

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暇で暇で死にそうな夏の初めの土曜日、小学五年生の圭太は、弟の広太を誘って昔通った「バスの図書館」へ行ってみた。圭太の家の近くのお屋敷のすみに、動かなくなった廃車のバスがあって、そこは昔図書館だった。おじいさんがバスの図書館を作った人で、集まった子供たちみんなに本を読んで聞かせてくれた。こっそりお屋敷にしのびこむと、まず、びっしりはえた雑草が目に飛び込んできた。バスは、庭よりいっそう、あわれだった。おじいさんが死んだ日から放置されたままで、まるで、幽霊バスのようだ。

そのバスを二人で掃除をして、本棚を整理すると、圭太と広太の、ちらかしっぱなしの部屋よりも、きれいになった。すっかりかわりばえしたバスに、お菓子、オセロ、将棋、ポケット・ラジオなどを持ち込んで、秘密基地の完成。だれも知らない、ぼくらのバスだ。夏休みも半ばが過ぎたある日、バスの中に見ず知らずの中学生くらいの男の子がいた。以前この近所に住んでいたという中学二年の富士田順平は、家出してきたと言う。そして、今日からここに住むと言い出した。紆余曲折を経て、こうして、バスの利用者は三人になった。少年たちの、ひと夏の青春ストーリー。

こういう秘密基地って、子供の頃にはあった。自分の場合、空き家になったアパートの一室がそうで、友達と窓から侵入してよく遊んでいた。いま考えると、不法侵入なんだけど、でもそんなことが子供に分かるはずもない。ちょうどファミコンが出だした頃で、マリオやドンキーコングに夢中になる側らで、誰にも内緒の秘密の場所に、よく入り浸っていた。そんな子供時代を思い出して懐かしくもなり、そのアパートが潰されたことに切なくなったことを思い出した。

そういう子供だけの秘密って、どこか危うさがある。本書でいえば、家出中の順平が少ない所持金を浪費したことによって金欠になり、圭太と広太の兄弟は、お母さんに飼い猫と偽って中学生の順平の世話をする。皮肉な目線で見ると、親に隠れて自分より大きな動物を飼っていることになる。順平から見れば、二人の兄弟は餌を持ってくる飼い主だ。こういうバランスの悪さ、あやうさを描くのが、大島さんはひじょうに上手い。それでいて、居心地の悪さを感じさせずに、ほんわかと読ませてしまうのだから、さすがといったところだ。

少年たちの家の近くだけど、これは冒険の物語だと思う。自分たちでアイテムを揃え、ルールを作り、仲間の絆を深め、共に困難を乗り越えて、そして帰ってきたら、気づかないうちに少し成長している。今のゲームっ子や、塾通いにひーひー喘いでいる子供に、こんなわくわくはあるのだろうか。ぼくらの場所となるような遊ぶところがあるのか。そう考えると、ぼくらの子供の頃は贅沢だったのかも。

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大島真寿美
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    2008

05.31

「熱風」福田隆浩

熱風熱風
(2008/02/29)
福田 隆浩

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息を整え、黄色いボールをゆっくりと投げ上げた。夏の日差しが、ボールの底に鮮やかな黒い影を作り出している。片足に体重を写し、ラケットを振りかぶる。ゆるめた膝に力を入れ、高みに舞い上がっていくボールの影を目で追った。ボールは光の中で一瞬留まり、そして、あきらめたように落下を始める。体じゅうの力を右腕の一点に集中させ、黒い影めがけてラケットを振り下ろした。ラケット面がボールを捕らえる音が両耳の補聴器から体の中に響き渡る。

主人公は盲学校に通う十二歳の孝司。物心が付いた頃には耳に補聴器という奇妙な機械がかぶさっていた。いつ何をする時でもその小さな機械は自分の身近にあった。孝司はあの試合のことを思い出す。人を馬鹿にしたような挑戦的な目つきをした白い帽子の少年。完敗だった。中山順一。それがあいつの名前だった。中山は髪の毛が抜けてしまう病気で、あいつの白い帽子の下にそんな秘密があったことなんて考えもしないことだった。あの髪が抜けむき出しになった頭皮がもとで、前にいたテニスサークルで相当辛い目にあったらしく、うちの桜庭テニス会に移ってきたらしい。

ある日のミーティングで、孝司は中山とペアを組むことをコーチから命じられた。中山と組んでダブルスの試合。猛練習をするが、頑固で負けず嫌いの二人は喧嘩をするばかりだ。家族のこと、学校のこと、自分たちのハンデのこと。テニスをしていれば、あれこれ余計なことを考えたり、思い出したりしなくてよかった。それになにより、勝ちたいという思いが誰よりも強い二人は、お互いに競うように練習に励む。少しずつわかり通じ合える二人だが、試合数日前になって中山が練習に現れなくなってしまった。中山がコートに現れることを、孝司はひたすら信じて待つが……。第48回講談社児童文学新人賞佳作受賞作。

この痛さは反則気味かな。でも面白さが勝っていたとも思う。聴覚にハンデを負った孝司は、忙しく働く親とコミュニケーション不足のまま過ごしてきた。聾学校では、親と子が授業を受けるのが普通だが、仕事が忙しくて親は手話をちゃんと覚えることなく、自由に語り合えないないまま月日を重ねてきた。現実に理想はない、と悟ってしまった聴覚障害の少年の姿は痛すぎる。

一方の中山は、同級生だけでなく、母親までも中山の容姿を差別する環境で育った。これは酷い。そのフォローは一応あるものの、酷すぎて怒りがふつふつと湧き上がる。たったひとりで自分を守るしかなかった少年の心を思うと辛すぎるし、飛んでしまった帽子を必死で追う中山の姿は反則だ。それにイジメの場面はやはり気が滅入る。

そんな二人が、喧嘩をしながらも少しずつ心をかよわせ、試合に勝つというひとつの目標に向かってひたむきに突っ走る。ダブルスペアとしては、言葉少なだけど、お互いの意思を読み取って、助け合っていく姿には胸が熱くなった。重い設定だけど、彼らの前を向いた姿には清々しさがあり、二人の少年を応援したくなった。でもやはり、これは反則気味。

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    2008

05.30

「船上にて」若竹七海

船上にて (講談社文庫)船上にて (講談社文庫)
(2001/06)
若竹 七海

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「時間」「タッチアウト」「優しい水」「手紙嫌い」「黒い水滴」「てるてる坊主」「かさねことのは」「船上にて 」という八編を収録した短編集。

「時間」
川村静馬は、ばったり再会した大学の友人から、気になる話を聞かされた。話とは、彼がかつて失恋したその女、五十嵐洋子についてだった。彼女は五年前に事故にあい、そのとき母親が亡くなった。彼女自身も半身不随で車椅子の生活になって、結局一年ほど前に死んだ。その二ヶ月前に見舞いにいくと、彼女はごく普通だったが、ある時間をきっかけに様子が一時おかしくなったという。調べた結果、彼女は自殺したとしか思えない。その彼の前に、洋子のことをすべて知る北上綾乃が現れた。

「タッチアウト」
自分が病院にいると理解できた。ベッドの枕元にかけられた橋爪雪彦という自分の名前を見た途端、あらゆる記憶がよみがえってきた。殴られたのだ。幾度も幾度も。彼が死ぬほど焦がれていた女、林田ゆかりに。一方のゆかりは怖かった。度重なるストーカー行為。それがどうやって家に入り込んだのか、突然部屋の扉が開き、彼が立っていた。俺は未成年だからたいした罪にならないという言葉とともに襲い掛かられた。そして…。一ヵ月後、ゆかりは結婚する。遠くの街に行く。その日さえ、早く来てくれさえすれば。

「優しい水」
苛立ちの中で目が覚めた。あたしが見ているものは、どう見ても、空よね。それにしても、この角度から見る青空に、なんとなく見覚えがあるような気がする。ああ、そうだ。会社のビルの脇の隙間。そこから見上げる空によく似ている。どうして、ビルの隙間なんかで寝ていたんだろう。あら、身体が痛い。今度はがくがくと震え出した。声だって出ない。そうだ、あいつはいったいどうしてあたしを屋上から突き落としたんだ。そうだ。あたしって天才。ちゃんとメッセージを残しておけばいい。

「手紙嫌い」
志逗子は手紙が嫌いだった。最近の身の回りの情報。そんなものは電話で話してくれればいい。などと、いくらでも言い分がある。そんなある日、友人から憧れの写真家を紹介してもらえることになったが、その相手は手紙マニアだった。そんなとき、行きつけの古本店で、ふと本棚の一角に吸い寄せられた。《実践・特殊手紙文例集》これだ。この本だ。買ってきたその本を開いてみると、脅迫の手紙、投書、予告状、遺書と章が続く。その遺書の用例が、祖父が自殺したときの遺書とまったく同じものだと気づいてしまった。

「黒い水滴」
渚に殺人の疑いがかかった。渚は私の義理の娘である。私が二十八、渚が五歳のとき、私は彼女の父親である斉藤一平と結婚した。斉藤は文字どおりの女殺しだった。渚を産んですぐその母親が亡くなると、すぐにとっかえひっかえし始めた。二番目の妻は八年目、三番目の妻は一年半、四番目の妻は三年で、次々事故で亡くなったのだ。私は五番目の妻である。長生きしたのは私だけだが、なんのことはない、三年あまりで離婚して逃げ出したのだ。その亡くなった元夫の内縁の妻が死んだ。その時刻、私は渚と共にいた

「てるてる坊主」
柴田広美は三次恭平の紹介で、その旅館を訪れた。中庭は枯山水になっていて、左手の一帯は無粋にもコンクリートブロックが高く積まれている。まだ真新しいブロック塀はかつて竹薮で、三次とともに子供の頃から友だちだった輝男がそこで首を吊ったのだ。私は部屋の窓枠に腰を下ろしたとき、なにかが視界をかすめたのに気づいた。なにも、ない。気のせいか、と目を落とすと、再びなにかが動く気配がした。ブロック塀のうえになにかがのぞいている。あれは、白い、闇に浮かびあがるほど白い、人間の顔だった。

「かさねことのは」
わたしは友人の春日のもとへ、帰宅途中の足を向けた。春日はわたしの高校時代の先輩で、現在は精神カウンセラーの仕事をしている。彼はしかめつらしい顔でファイルを開き、何度も読み返しているところだった。春日は人を食ったような笑みを片頬に刻み、ファイルをこちらに差し出す気配をみせた。この手紙をきみに見せよう。手紙に登場するのは五人の人物だ。このうちのある人物が事故で死に、ある人物が殺された。その人物は誰か。そして、彼らの間に何があったか。きみは当てることができるか、と言ってきた。

「船上にて 」
豪華客船のデッキで読書にふけっていると、ハッターという引退した宝石商の老紳士が話しかけてきた。我々はすっかり意気投合し、夕食も一緒にすることになった。その食事の席に、もうひとり、新たな客が加わった。このトマスなる男はたいへんな額の遺産を相続したとかいう大富豪で、出港前に、ナポレオンが三歳の時の頭蓋骨をとある人物から譲り受けた、と嬉しそうに語る。その後、ハッター氏から、かつて濡れ衣でダイヤの原石盗難事件の犯人に仕立て上げられた話を聞いていたところ、トマスがかけこんで、一言、こう叫んで失神した。ナポレオンの頭蓋骨が盗まれた。

初期作品ばかりだそうだが、モロに好みの作品が多かった。最後の三行であっと驚く仕掛け。後味の悪さ。ブラックユーモア。ふつうの方は、へなへなと萎えてしまうようなこれらが妙に気持ちいい。「タッチアウト」のあと少しのタイミングでというぎりぎりラインの絶妙さ。「優しい水」の残したダイイングメッセージの皮肉な行方。「手紙嫌い」のラストで披露されるブラックな過去の真実。「かさねことのは」の読者への挑戦。お気に入りを挙げるとすれば、この四作品が良かった。ブラックテイストが好きな方に、お薦めしたい一冊だ。

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若竹七海
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    2008

05.29

「タイマ」嶽本野ばら

タイマタイマ
(2008/03)
嶽本 野ばら

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ある日、新宿をひとりで歩いていた小説家の僕は警官に呼び止められた。一応、職務質問ということでして。何が入ってるんですか? 中身は? どうして逃げる。何を持ってやがるんだ。タイマ――だと? こうして乙女のカリスマは、乾燥大麻とそれを吸引するパイプを所持することから大麻取締法違反、大麻所持の現行犯として逮捕された。

連行、逮捕、そして留置場に移送。一九八号と呼ばれ、執拗な尋問、家宅捜索にも同行。ここでの生活は秩序という名の許に決められた規則は必要であれ、不必要であれ、絶対のものであり、如何なる理由があろうとそれを損主せねばならず、どれだけ心情に訴えようとしても、個人の主義主張を通そうとしても、一切の特例が許されないことを悟る。過酷な留置所生活が始まる中で、作家である僕にとって何よりも辛かったのは、最愛の恋人との連絡が全くとれなくなってしまったことだった。

ストリップ嬢のあいと僕は運命的に出会い、お互いの唯一の理解者として、純粋な愛を育んでいた。BABY、MILKなど好きなお洋服のこと、NIRVANA、HOLEなどオルタナティブな音楽のこと。そして余りにお互いのセンスや思考が似通っていた。二人はシンクロし合ってしまったのかもしれない。それゆえに君は僕に、先生って超能力があるでしょ? 超能力者じゃなければ、どう考えても神よね。と問いかけてきた。ようやく釈放された僕が愛しい君と再会すると、なんと彼女は僕の真似をして、ドラッグに手を出していた。

どこまでがフィクションであり、ノンフィクションかはわからない。これを自虐ネタと取るか、悪ノリと取るかは読者によって別れるだろう。自身を投影しただろう主人公は、逮捕当時、反省がこれっぽっちもなく、逮捕されたことを小さなトラブルに巻き込まれた程度にしか思っていない。ある意味で、これがリアルな思いなのかもしれないが、そう言ってしまっていいの?そんな甘さを主人公に吐露させて大丈夫?などと、読者は心配してしまう。

そういった現実の事件を題材にしているのだが、本質的なテイストは今までと同じ。僕が君に問いかける。薬を常習した僕がぶっ飛んだ踊り子の君に問いかける。これまでだと、この痛さやブラックさが快感だったのだが、本書に限っていえば生々しすぎて、これを面白いと思ってもいいのだろうかと、無意識のうちに一歩後ずさりをしてしまう。

作品の価値とは別のところで身構えてしまうのは仕方がないと思う。それなのに、タイトルからして「タイマ」というストレートな爆弾を持ってきて、作品の内容がこれ。正常な読者なら、この作品を評価することは出来ないだろう。大きなチャレンジであることはわかる。だけど、答えを簡単に出すことは出来ない。今後、この著者にどう向き合えばいいのかは、読者が選ぶことであり、著者のこれから次第としか言いようがない。

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嶽本野ばら
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    2008

05.29

「のぼうの城」和田竜

のぼうの城のぼうの城
(2007/11/28)
和田 竜

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戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかで最後まで落ちなかった支城があった。武州・忍城。周囲を湖で取り囲まれた「浮き城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の水攻めにも屈せず、僅かの兵で抗戦した城代・成田長親は、領民たちに木偶の棒から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。城代として何ひとつふさわしい力を持たぬ、文字通りの木偶の棒であったが、外見からはおおよそ窺い知れない坂東武者としての誇りを持ち、方円の器に従う水のごとき底の知れないスケールの大きさで、人心を掌握していた。武・智・仁で統率する従来の武将とは異なる、新しい英傑像を提示したエンターテインメント小説。《出版社より》

これは面白かった。史料に残された史実とフィクションが上手く融合されている。そのことによって、歴史好きなら知っている有名なエピソードが多い序盤は少し退屈だった。逆を言えば、歴史に疎いかたにはとても親切な作品だと思う。まあ、主な人物紹介や時代背景は作品に欠かせないから、歴史が好きだと言うかたは中盤までガマンしてもらいたい。

主人公は成田長親という無名の戦国武将。馬にも乗れず、刀術、槍術、体術、あらゆる運動ができない。武勇もなければ知力もない。百姓仕事を手伝うことを大いに好むが、恐ろしく不器用なために感謝されるどころか迷惑がられている。図抜けて背が高いが、ただ大きいだけ。その大きな男がのそのそ歩く。その姿がまさに、でくのぼうのごとくで、それに申し訳程度に様を付けただけ。家臣はおろか小物、さらには百姓領民にいたる者たちが、面と向かって呼ぶ。のぼう様と。しかしそこには愛情がある。俺たちがついてなければ、のぼう様は何もできない、そう思わせる得体の知れぬ人気があった。

石田三成に率いられた二万の秀吉軍に対し、忍城方は士分五百人と女子供の領民を合わせた総勢約三千七百人。篭城戦が繰り広げられるのは主に三箇所。成田家一の家老であり、長親の幼馴染みでもある正木丹波守利英は、東南の門佐間口で長束大蔵大輔正家と対峙。戦うために生まれてきたという同じく家老の柴崎和泉守は、東の門長野口で大谷刑部少輔吉継と対峙。兵書に親しみ、毘沙門天の生まれ変わりと豪語する若き家老の酒巻靱負は、南の門忍口で石田治部少輔三成と対峙。そして、のぼう様のためにと集まった百姓たち。

彼らの寡兵で大軍を破る合戦場面にわくわくし、三成の水攻めによって孤立してしまう忍城にドキドキし、それによって、でくのぼうと思われていた長親が取る行動に興奮する。天下統一を目指す秀吉の軍勢が、唯一、落とせなかった武州・忍城。その軍事絵巻が思う存分堪能できた一冊だった。読後は痛快の一言に尽きる。今後もこの作家は要チェック。


サイン本を見つけたら買うしかないでしょ。

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    2008

05.28

「王国は星空の下」篠田真由美

王国は星空の下 (ミステリーYA!―北斗学園七不思議)王国は星空の下 (ミステリーYA!―北斗学園七不思議)
(2007/03)
篠田 真由美

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深い森にかこまれた幼稚園から大学院まで揃う全寮制の私立北斗学園。その広大な敷地の一画には戦前からの建物が点在し、異空間をつくりあげている。その学園には、やたらと具体的な、それでいて不気味な不思議、つまり北斗学園には七不思議があった。

一、北斗なのに星が八つの円になっている学校の校章の不思議。二、ときどき勝手に動き回る大理石像の不思議。三、書庫の迷路で人が消え、黒魔術の本が隠されているという旧図書館の不思議。四、壊れたパイプオルガンが鳴り出す旧音楽堂の不思議。五、実際のところ元はなにに使われていたのかわからない開かずの礼拝堂の不思議。六、海外で盗難に遭ったまま行方不明の有名な絵が隠されているという記念博物館の不思議。七、北斗学園を作った「喜多泰山」という人の正体がわからない学園創立者の不思議。

その七不思議のうち一と七は学校自体に関わる謎で、それ以外が足を踏み入れるのはタブーという暗黙のルールがある旧ブロックがらみの謎だった。中等部二年で新聞部の三人、行動派のアキ、慎重派のハル、知性派のタモツは、それらの謎を暴き出して白日の下に晒してやろうと、夜の寮を抜け出して調査を続けるが、それを邪魔しようとする何者かがその前に立ちはだかる。やがて、とんでもない事件が起きた……。

冒険的要素があるので、わくわくするのかと思った。しかし、そういうノリはあまりなかったように思う。その要因のひとつとして、少年たちの幼稚な会話が邪魔していたように感じた。万事がせっかちのあわて者で、走り出してからどこへ行くか考える、しゃべり出してから内容を決めるオレことアキ。そのアキといつも対立する慎重派で、物知りで、照れ屋の恥ずかしがりだけど実はかなり友達思いのハル。アキとハルがぶつかると冷静に意見を調整する、楽観的で前向きなタモツ。そのアキの直線的な行動や物言い、無邪気すぎる語り手ぶりが、中学生としては無理がある。ここにちょっと引っかかってしまった。

それともう一つ。学園の総長派と理事長派の対立や、見つけてしまった首つり死体に、殺し屋の存在。そして、隠されたある物の在り処。これらをミステリと言ってしまっていいのだろうか。ちょっと違うように思うんだが。でも、サブキャラはYAものらしくわかりやすい色づけをされていたと思う。北斗学園を王国だと言った正体不明のJ。旧図書館の魔法使いこと淵野先生。ゴジラの異名を持つクラス委員の森下静香。高飛車なクラスメイトの宍戸万梨菜。ミス北斗学園と呼ばれるスーパー高校生の不破宙美女史。学園の乗っ取りを企む東城理事長。死神のような危ない小沼。

唯一とも言えるミステリ部分の星座にまつわる謎解きは、そんなアホなという展開だが、個人的には嫌いじゃなかった。しかし、これを読んだ子供に理解できるのかは、はなはだ疑問が残るところだ。七不思議と銘打っているのにも関わらず、次巻に持ち越しているのも減点ポイント。しかし、すでに発売されている続編を読ませようとする企みと捉えるのなら、成功なのかもしれない。悪い点ばかりを抽出してしまったが、当たりハズレのあるミステリーYAとしての評価をするとなれば、可もなく不可もなくという普通の作品だった。

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    2008

05.28

「ショートソング」枡野浩一

ショートソング (集英社文庫)ショートソング (集英社文庫)
(2006/11)
枡野 浩一

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ハーフの美男子なのに内気で、いまだチェリーボーイの大学生、克夫。憧れの先輩、舞子にデートに誘われたが、連れていかれたのはなんと短歌の会!?しかも舞子のそばには、メガネの似合うプレイボーイ、天才歌人の伊賀がいた。そして、彼らの騒々しい日々が始まった―。カフェの街、吉祥寺を舞台に、克夫と伊賀、2つの視点で描かれる青春ストーリー。人気歌人による初の長編小説。文庫オリジナル。《背表紙より》

内気で自分に自身がない国友克夫。モテ男でサドっ気がある天才歌人の伊賀寛介。この二人の男が、須之内舞子を通して出会い、互いに影響し合っていく。その二人は、お互いに勘違いをするのだが、そのすれ違いぶりは読者にしかわからない。そういった手法は中々上手いと思った。

克夫は舞子先輩ラブで、伊賀さんという恋人がいるのがわかっていても、呼び出されるとほいほい出かけて玩具にされている。ちょっと性格が真面目すぎて、克夫は面白味が少ないのかもしれない。しかし、短歌の素人である克夫の才能に伊賀は注目し、嫉妬し、親切をしながらも、からかったりイジワルをする。その克夫のことをかわいいと思ってしまう自分に、ホモの可能性があるのではないかとビビッたり、というユーモアは結構好きだった。

読み始めは、伊賀のだらしない下半身に辟易しながらも、読んで行くと彼の印象がどんどん変わっていく。その伊賀の彼女であり克夫の憧れの舞子先輩は、どんな人物なのか先に進むにつれよくわからなくなっていく。二人の男に好かれるのだから魅力があるのだろうが、伊賀の性の捌け口であり、ただ一方的に奉仕する女であったりと、どうも道具的にしか描かれていなかったように思った。そんな彼女は、はたして伊賀のことが好きだったのだろうか、それとも伊賀の才能にただ惚れていただけなのか。深読みすると、伊賀に群がる女たちは、彼のどの部分に惹かれて寄ってくるのか。そこに伊賀の本質があったように思った。

そんな二人の成長の傍らには、いつも短歌がある。克夫が詠んだ歌。伊賀の歌。舞子やそれ以外の登場人物の歌。それらがストーリーと上手く絡み合って、作品のかわいらしさを演出している。さすがに著者は歌人だけあって、そのときの物語の状況に合った歌がピタっと嵌まっている。この作品は下系の描写が多いので、短歌もそっち系が多いのは失笑してしまうが。

それと最後にもう一つだけ。なにやら部屋に閉じこもっていた克夫の妹。彼女の謎だった行動が明るみ出るラストには、おもわず吹き出してしまった。これはあえて語らず。気軽に読めて、日頃縁のない短歌にも触れることができて、クスクス笑える作品だった。作家である枡野浩一の作品をまた、読みたいと思った。

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    2008

05.27

「メルヘンクラブ」さとうさくら

メルヘンクラブメルヘンクラブ
(2008/04/09)
さとう さくら

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マナベはうんざりしていた。タケヲのいないこれからの世界に。やり切れなかったけれど、どうにもできなかった。嘘でも何でも、もうどうにでもよくなった。主人公は真鍋頼子二十五歳。いつまでも自暴自棄に陥って、ひきこもるわけにもいかず、マナベは仕方なく、スキルや経験の嘘をついて派遣会社に登録し、急募の大学事務に応募すると即決で、翌日から仕事だった。派遣のマナベを含め、部署全体が退屈で暇だった。誰もがあくびをこらえてお茶を飲み、喫煙室に行き、少ない仕事を定時に引き延ばしていた。でも、ここまで退屈の方が、働く気のないマナベには好都合だった。

ある日、マナベは学生と間違われて学生に声をかけられた。夢、見てますか? 眠って見る夢です。メルヘンクラブ。入りませんか? 夢なら好きな人と出会い放題。なりたいものになり放題。なんとなくつられて、マナベはメルヘンクラブに入会した。部員は大学生の市村、高橋、清水、由紀、香奈とニセ大学生のマナベの計六人。活動場所は図書館内の陰気な書庫。マナベは、思い出と空想とさらに、夢でタケヲを補充することにした。夢なら永遠に、タケヲはマナベに微笑んでくれる。マナベは、タケヲと会いたい一心で夢を見る練習を始めた。

かわいらしいタイトルに騙されるな。主人公であるマナベの胸中はタケヲ、タケヲ、タケヲーーーーッ、と最初から最後まで別れを告げられたタケヲのことしかない。そのタケヲとの出会いから別れまでを延々と回想し、メルヘンクラブで実際に夢を見られるようになっても、タケヲの夢ばかりを見る。夢と現実の落差に虚しくなりつつも、またタケヲの夢を見る。どこまでも後ろ向きでいるマナベの姿を読まされるのは、すごくしんどい。

そんなマナベは、いつも人に合わせ、何も主張しない。返事はいいですよと毎回答えるが、その意味するところは、どうでもいいですよ。自分というものがまったくなくて実がない。個性がない。抜け殻のようで、ただタケヲにだけ固執している。他の部員たちもコンプレックスの塊で、夢を見ることで現実逃避をしているだけ。

ここにあるのは鬱だけ。陰気のオンパレードで、とても息苦しい。個人的なことだけれど、自分の殻に閉じこもって、近づくなオーラーを出すタイプの人間ではない。どちらかと言えば、いつものん気にダメさを振りまいているような自分には、まったく共感できる部分がなかった。過去もまったく振り返らない。自分と同タイプの今が良ければそれでいい。そう思っているマイペースな方には、本書は合わないだろう。

ラストは、取って付けたような鬱からの脱皮モードになる。予想通りの展開でこれは嫌いじゃないが、行くのなら鬱のままドン底まで突き落として欲しかった。これって捻くれているのかな。日本ラブストーリー大賞シリーズと帯にあったが、未練たらしい妄執としか思えなかった。硬い文章ということもあって、この作品のノリは自分の肌には合わなかった。

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    2008

05.26

「百万の手」畠中恵

百万の手 (創元推理文庫)百万の手 (創元推理文庫)
(2006/06/10)
畠中 恵

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主人公の音村夏貴は十四歳の中学生。父親を三年前に交通事故で亡くし、現在は母一人子一人の母子家庭に暮らしている。しかし父を失った悲しみのあまりか、母は次第に息子に執着するようになった。その母の異常な独占欲に身震いが走り、夏貴の持病である過呼吸の発作もひどくなってゆく。そんな中、兄弟同然に育った親友の日野正哉だけがいつも頼りになっていた。

その正哉が両親を助けるために、目の前で燃えさかる自宅の中へ飛び込んでいった。夏貴の手に残ったのは漫画雑誌の読者プレゼントで貰ったストラップの付いた彼の携帯電話だけ。嘆き哀しむ夏貴だが、死んだはずの正哉がその携帯電話から語りかけてきた。「どう考えてもおかしいんだよ」彼が巻き込まれたのは不審火だったという。その真相を探ってほしいと。家の中に火の気がなかったうえに、消化活動が終盤に入ってもなお激しく燃え上がる不可解な火事だった。何故正哉と彼の両親は死ななければならなかったのか。真相を探るために夏貴は正哉と動き出す。

読み出してすぐに突然母が再婚すると言い出して、未来の養父が夏貴の前に現れる。それが水商売のオーナーをしている東省吾という男で、夏貴曰くところのこのおっさんが、アウトローの匂いがしてやたらとカッコいい。このおっさんはやがて、正哉とパートナーの役割を交代するのだが(ここはちょっと引っかかった)、それ以降はこのおっさんの魅力で読ませていくように思った。

事件は、日野家の家事、突然現れた正哉の妹、DNA鑑定、受精卵流用、夏貴の家の家事…、と流れて行き、やがて夏貴の命も何度と狙われるようになる。犯人を追っているのか、それとも追われているのか、という展開になり、到達点にどんな結末が待っているのだろうと興味を持って読み進めたが…。

残念だった点をはっきり言うと、夏貴と正哉が携帯電話で話すという設定は肩透かしだった。それにファンタジックな世界だと思わせておいて、途中から科学的なものにすり替わっていたのはいただけない。なんか以前に読んだことがある作品を、無理やり繋ぎ合わせたような感じを受けてしまった。作品としてのまとまりがないように感じた。

だけど、少年の苦悩や心情もすごくわかりやすいし、彼を助けることになるおっさんは素敵だった。その新しい家族を築くきっかけとしては面白く読めた。でも人物の立ち位置や役割などが「しゃばけ」と被っていたようにも思えた。発作をおこす夏貴が若旦那で、心配する武等派のおっさんが手代の妖で、最後にボスと対決みたいな。こんなことを思ったのは自分だけだろうか。養父と未来の息子という関係はマル。それ以外はバツ。こういった評価になったけれど、みなさんはどう思われましたか??

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畠中恵
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    2008

05.25

「夏の階段」梨屋アリエ

夏の階段 (teens’ best selections 13)夏の階段 (teens’ best selections 13)
(2008/03)
梨屋 アリエ

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好きだからこそ、線を引く。嫌われないよう、線を引く。希望に胸ふくらませて入学した高校。でも新しいクラスメイトとは、まだまだ微妙な関係で―――。地方都市の進学校・巴波川高校、通称ウズ高を舞台に、5人の高校生が織りなす、恋と友情、未来への葛藤。ほんのり甘く切ない5つの連作短編集。《出版社より》

「夏の階段」玉木崇音
たくさん勉強していれば、人より多くのことを学び、だれよりも早く大人になれるのだとおれは信じている。おれが早く大人になってしまえば、あの二人は早く親の役目を終えて、安心して離婚できるのではないか、と思っていた。夏期講習からの帰り道、八段ほどの階段と出会った。のぼりつめたところに、あるべきものがなにもなく、まったくの中空なのだ。そこでクラスメイトの遠藤と、階段から見える黄色い家に住むおばあさんと出会う。

「春の電車」緑川千映見
中学を卒業して、高校に入学した。学校に慣れて新しい友達ができるまでは「仮」の友達だから、なにをするにもまずは相手の様子をうかがい合ってしまう。ミーコやキョンちゃんやマサミィと過ごした日々を、懐かしく思い返さずにいられない。まずは、友達を作らねば……。教室内の人間関係が落ち着いてきた頃、わたしは遠藤さんとお昼休みにお弁当を食べる仲になっていた。入学式の日に、玉木くんのことを聞いてきた女の子だ。

「月の望塩」福田和磨
ぼくはクラスメイトの緑川千映見が玉木崇音の横顔を見つめているときの、透明なまっすぐさが好きだった。ぼくから見れば、緑川千映見は確実に、玉木崇音という男に恋を……片思いをしているのだった。ボケナス玉木のほうはまったく視線に気づいていない。ぼくは緑川の視線の先を追い、緑川と同じように玉木の姿を見た。玉木が目で追っていたのは、男子にちょっかいを出している遠藤珠生の姿だった。

「雲の規格」河野健治
小さかった頃、オレは時々スーパーヒーローになっていた。成長とともにオレには友達がいたし、女子にも好まれる容姿だったし、小器用でセンスもよく、勉強もスポーツも苦労なくできた。友人として二人でつるむ福田から緑川にフラレタと聞き、その緑川から相談を持ちかけられた。オレは女子個人ではなく、女子の群が大好きなのだ。福田のように一人の女子を好きになるなんて無理な話。ってことはモテ男のオレは、あいつに負けているのか?

「雨の屋上」遠藤珠生
わたしは誰にでもなれなれしく接する図太さを備えた分、特定の人とべったり深く付き合うことには窒息するのです。好きだからこそ、線を引く。嫌いにならないよう、嫌われないよう、線を引く。緑川さんは何かでそれを察して、この不思議な距離感を保ってくれているのかもしれません。ですます調ではなく、キャピッとしゃべるのは、相手に不愉快な印象を与えないためのハイテンション偽装です。わたしは、みんなに好かれる人間になりたいのです。

同じ時期をリレー方式による五人の目線で語られていく。彼らにはいろんな悩みや葛藤がある。クラスメイトをこんな目線で見ているという内面もある。しかし、目線の人物が変わることで、他の人は誤解や思い込みをしていることが明らかになる、といった皮肉的な面白さがここにある。自分のことをわかってくれない。でも言葉にして伝えることができない。そんな一方で、自分も相手をわかろうとしない。純粋で、不安定で、未熟だけど瑞々しい。そして、繊細さがもどかしさを生む。自分にもこういった年代があったと懐かしさを思い出した。青春の1ページかぁ。

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梨屋アリエ
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    2008

05.24

「宙の家」大島真寿美

宙(ソラ)の家 (角川文庫)宙(ソラ)の家 (角川文庫)
(2006/12/22)
大島 真寿美

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一刻も早く家に帰って眠りたい。女子高に通う雛子は、学校にいるといつもそう思う。彼女の家は、マンション十一階にある一一〇五。家族は、単身赴任中の父・理一、時々ヒステリックな母の圭以子、歳の割にしっかりした小学生の弟・真人、同居する祖母の萩乃。圭以子曰く、川森家の4LDKはどうにかこうにか地上約四十メートルくらいの宙空をくるりくるりと地球と一緒に回っている。

雪の積もったある日、学校から帰宅した雛子は、コタツでひっくり返ってぐうすか眠る萩乃に声をかけた。そんな所で眠ると風邪ひくよ、おばあちゃん。うう、と呻いた途端、萩乃が飛び起きた。お裁縫のお時間はいつもそう。運針の途中で眠くて眠くてたまらなくなってしまって。うふふ。聞き憶えの無い笑い方、笑い声。雛子は話にもついていけない。通信不能。ハギノ、ハギノ、ヘンジヲシテクダサイ、コチラヒナコ。雛子がパニックを起こしかけた矢先、通信が可能になったようだ。そして、ぐご、という萩乃の声が、軽いいびきに発展した。

なんかおばあちゃん、この頃少しおかしいのよね。数日後、圭以子が雛子に言った。圭以子の命令で雛子が萩乃の部屋へ様子を見に行くと、せっせと針を動かしていた。脇目も振らず布を縫っていた。堰を切ったように萩乃が運針するようになったのはそれからまもなくだった。おばあちゃんがボケだした。圭以子はヒステリーを爆発、雛子はあやふやにお手上げ、そんな中で、真人だけは萩乃とアクセスし始める。しかし、萩乃の通信不能はどんどん加速してゆく。時は繰り返し、地球は回る。一一〇五も回る。

同時収録の「空気」は、「宙の家」の後日談。しっくりこない夏休み。しっくりこない川森雛子。朝起きて、御飯を食べてまた寝て、少し起きて本を読んでうとうとして、昼食の支度をして真人と食べて、部屋に戻ってぼんやりして、そしたらまた眠くなる。自分の扱いが下手になっている。そんなヒナコに、真人の友人フミマル君から手紙をもらう。相談したいことがあるので、うちに来て欲しい。弟と二人で夏休みに弟の友達の家に行く。おかしなことになったが、それは真人の作戦だった。

ピンチなんです。兄が変なんです。フミマルの母違いの兄・波貴のことだ。鳥肌がたつぐらいクーラーで冷やされた部屋で、自分が撮影したビデオを無言で見続ける波貴のことを薄気味悪く思いつつも、何故か波貴のことが気になる雛子。フミマロ君はお兄さんはかっこよかったと言い、一方で、殺されると思ったとも言う。雛子と波貴、そしてフミマロの物語。

揺らぐ家族を描いた「宙の家」と、ショックから立ち直っていく「空気」の連続した二作品だ。どちらも大島さんらしい人間のダメさが出ているが、ボケ老人にあたふたしてしまうお話は、ウチのおばあちゃんを思い出した。お母さんがパニックになっていたが、実際はあんなもんじゃない。ここで披露するようなことではないが、身内にとってはすごく心身ともに疲労の限界をむかえる。そんな閉じ込めたブラックボックスを思い出した。そんな中、雛子とおばあちゃんの通信(カタカナ)には笑ってしまった。

「空気」は危ういバランスが素晴らしいと思った。ふいにベランダの柵を乗り越えて飛んでみてもいいような気になった。という書き出しで始まる一文にはっとし、空の向こうに何があるのか、という漠然とした疑問にちょっとした前向きな傾向が見える。死にたいわけではなく、何かにとぐろを巻かれているような感覚って少しわかる。わかっているけど抜け出せない。いや、抜け出す気にもならない。そういうぼんやりとした閉塞感が心に響いてきた。

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大島真寿美
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    2008

05.23

「震度0」横山秀夫

震度0震度0
(2005/07/15)
横山 秀夫

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阪神大震災のさなか、700km離れたN県警本部の警務課長の不破義人が失踪した。県警の事情に精通し、人望も厚い不破がなぜ姿を消したのか? 本部長の椎野勝巳をはじめ、椎野と敵対するキャリア組の冬木警務部長、準キャリアの堀川警備部長、叩き上げの藤巻刑事部長など、県警幹部の利害と思惑が錯綜する。ホステス殺し、交通違反のもみ消し、四年前の選挙違反事件なども絡まり、解決の糸口がなかなか掴めない……。《本の帯より》

文庫化されたぞ、というわけで、単行本を図書館で借りてきた。なんじゃそりゃ。

主要人物は、N県警の最高幹部六人。警視庁キャリアの本部長、椎野勝己警視長46歳。警視庁キャリアの警務部長、冬木優一35歳。警視庁準キャリアの警備部長、堀川公雄51歳。地元ノンキャリアの刑事部長、藤巻明宣58歳。地元ノンキャリアの生活安全部長、倉本忠57歳。地元ノンキャリアの交通部長、間宮民男57歳。いわゆる上から順にエライ人。登場人物が多いので、名前と所属を覚えるまでがちょっと大変だったかな。

テレビ画面から流れる阪神大震災の被害状況が明らかになっていくさなか、同じ最高幹部のひとりが失踪したことで、警察の不祥事にならないように極秘裏でなんとかしようとする。そんな隠蔽体質によって幹部たちが右往左往する。そこにあるのは彼らの保身と野心だけ。そういうぎすぎすした展開なので、読むのはそうとう疲れた。だけど面白い。まず、刑事部と警務部が水面下で情報戦を繰り広げ、本部長は後ろめたいことを隠蔽しようとし、ある者は天下り先のことに固執し、ある者は密かに出世を目論み、ある者は高見の見物を決め込んで、自分の知った情報を女にべらべらしゃべる。その一方で、元婦警だった妻たちも鞘当をし合う。

誰もが個人プレイに走って情報を秘匿し、情報が揃わないから全体の絵がまったく見えてこない。それがゆえに誰もが疑心暗鬼に陥っていく。悪循環すぎて、傍から見ているとバカにしか思えないし、ほんとにこんなヤツらがいたとしたら、警察組織は腐敗しているとしか言いようがない。でもありそうだから怖くもなってくる。

そういった警察内部のごたごたや、醜聞の連続が終盤まで続き、人間の身勝手さや薄汚さだけを、いやというほど読まされる。このようなブラックな人間ドラマは個人的にすきだけど、一般的に受けいれられるのだろうか。これだけは個人の好みだし、よくわからん。しかし、自分としてはありの作品だった。だけど、ここに大震災を持ってきた意味はあったのだろうか。被災地の近隣地域に住むものにとっては、あの震災を安く扱って欲しくないんだけどな。

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横山秀夫
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    2008

05.22

「うさぎとトランペット」中沢けい

うさぎとトランペット (新潮文庫 な 46-2)うさぎとトランペット (新潮文庫 な 46-2)
(2007/06)
中沢 けい

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「楽隊のうさぎ」の続編です。

正木宇佐子は四年生の三学期から、学校に行くのがちょっとイヤになっているのは、ほんとうだった。沙織ちゃんの味方になるのか、それともミキちゃんの肩を持つのか、どっちなのと聞かれるのがとてもイヤだった。沙織ちゃんは幼稚園の頃からずっと一緒で、誰でも彼女の言うことを聞かなければいけないような気がしてくる女の子だ。でも、ミキちゃんは沙織ちゃんの言うことを聞かない。ミキちゃんは四年生の二学期になって転校してきた子だった。授業中にはなんでもはきはきと答える。沙織ちゃんと意見が違っても、ミキちゃんは「私は違う意見です」と言う。それなのに、休み時間になるとミキちゃんは誰とも口をきこうとしない。

五年生になって、沙織ちゃんとミキちゃんと、そして宇佐子は同じ木村先生のクラスになった。しかし、宇佐子は新学期が始ってから三日目に微熱を出し、ずっと学校を休んでいた。微熱が続く夜明け、宇佐子は花の木公園から響いてくるトランペットの音色に心惹かれて、そっと家を抜け出す。トランペットを吹いていたのは細面の背の高い青年だった。ほんのちょっとの間だったけれども、あの不思議な音の主を見つけることが出来て満足した宇佐子。その日をさかいに、微熱はすっかり収まった。そして、お母さんやお父さんには秘密だったが、三日に一度の割合で朝早くに家を抜け出しては、花の木公園にトランペットを聞きにいった。

そのトランペットのお兄さんとミキちゃんは知り合いだった。ミキちゃんはクラリネットを吹いていたのだ。そのミキちゃんには、いつの間にかヒキガエルというあだ名がつき、目に見えて、女の子たちはそばに近づかない態度を取っていた。ミキちゃんを包囲し始めた冷たい壁に傷ついた宇佐子は、またもや熱を出すようになって学校へ行けなくなってしまう。そんな時ふたりが出会ったのが「花の木ウインド・オーケストラ」だった。いろんな年代の音楽好きが集まった地域の吹奏楽団だ。ミキちゃんと練習に通うようになった宇佐子だが、自分でも演奏してみたいと思うのに、そう時間はかからない。じきに宇佐子はトランペットを手に取ることになる。そして自分でも気づかないうちに成長していく。

ブラバン小説のふりをした、少女の心の痛みと成長を描いた作品かな。その少女は母を早くに亡くし、大人になるのが回りよりも少しだけ早かった。その少女に対してのクラスによるいじめと、知らない振りを決め込む孤独な少女。そんな見えない空気に当てられて、どうすることも出来ない口数のすくない女の子。やがて女の子と少女は音楽を通して仲良くなっていく。なんかこういったいじめものを読むと気が滅入る。それに過保護気味な女の子の母親がかなり痛いし、仲良くする友達の悪口を言うのにも親として問題があるように思う。おまけに作品内にたくさんの事柄を詰めすぎで、全体的にぼやけてしまったような印象を受けた。内容も期待していたものとは違っていたし、文体も肌に合わなかった。というわけで、自分には本書の良さが伝わって来なかった。まあ、これは続編なので、前作が面白かったという方はチャレンジしてみてはどうだろう。こういう意見もありますが。

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その他の作家
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    2008

05.21

「ストーリー&テリング」松久淳+田中渉

ストーリー&テリングストーリー&テリング
(2006/07/26)
松久 淳田中 渉

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絵門千明と麻生藤太はともに三十七歳。絵門藤太というペンネームのコンビ漫画家である。麻生が原作担当で、プロットや登場人物、ストーリーを考える。それを書いたものを渡されたり話を聞かされたりして、漫画作品として仕上げていくのが絵門の担当。もともと、というか今でも、絵門はイラストレーターとして、一般的にはまだまだだが、出版業界ではそこそこ名も売れていた。麻生はもともと、というか今でも、超売れっ子の放送作家で、一般的に知られていなくとも、テレビ業界でその名を知らぬものはいないという男だった。

大雑把で女好きの独身貴族の麻生に対して、五歳の息子を厳しくしつけて育てている絵門。さて、助手席にむすっとした顔の絵門、後部座席の真ん中から子供のように身を乗り出している担当石川を乗せ、神泉のほうに新しくできたというバーに向かって、鼻歌を歌いながら麻生が運転するジャガーが高級マンションの駐車場を出ようとするちょうどそのころ。

表参道のイタリアンレストランを出た梶山真智子は、太田奈津の「もう一軒行こう」の誘いに時計を見つめて少し悩んでから、「よし」と笑顔になって頷いていた。真智子は小学校の先生で、六歳の娘のシングルマザー。真智子は、女としても、長いつきあいの大学の同級生としても、奈津の女っぷりには惚れ惚れする。しかもPR会社の女社長というキャリアも申し分なし。

バー・アモーレセカンドシーズン。店を切り盛りしているのは、長男次男三男と呼び合うアモーレブラザーズ。だが、その三兄弟。実は本業がそれぞれ、小説家とCMディレクターと映画宣伝プロデューサーとかいう、バー以上にいかがわしい連中で、ほとんど自分たちの楽しみのために店を持ったというパターンらしい。全員三〇代半ばすぎで、もちろん本当の兄弟などではない。

そのアモーレブラザーズの下ネタに、にやにやしている奈津と、その横でやや怒りをこめかみあたりに滲ませている真智子。そこに新しい客が入ってきた。男三人。絵門、麻生、担当石川である。初対面でいきなりバトルを始めた絵門と真智子だが、その翌日、絵門の部屋七〇七号室の隣の隣、七〇五号室に真智子母子が引っ越してきた。ともにバツイチで子持ちの似通った境遇の絵門と真智子。まるで中学生の初恋のような中年の恋愛に、親友、母親、子供達から励まされ、ふたりの恋愛は少しずつ進んでいく。

期待通りの面白さだった。「ラブコメ」「ラブかストーリー」とリンクした、王道をいくようなラブコメ路線の作品。想像通りに展開して、想像通りの結末に落ち着く。意外性なんてまったくないが、こういうベタを直球で行く作品は好きだ。漫画的な作品を読みたいかたにお薦めしたい。

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松久淳+田中渉
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    2008

05.21

「死神の精度」伊坂幸太郎

死神の精度 (文春文庫 (い70-1))死神の精度 (文春文庫 (い70-1))
(2008/02/08)
伊坂 幸太郎

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私は、人間の死についてさほど興味がない。人の死には意味がなく、価値もない。どの人間がいつ死のうが関係なかった。けれど、それにもかかわらず、人の死を見定めるためにわざわざ出向いてくる。なぜか? 仕事だからだ。

主人公は千葉と名乗る死神で、調査員として人間の世界に派遣されてきた。その調査とは、対象者となった人間を一週間にわたって観察し、「可」もしくは「見送り」と、「死」を実行するのに適しているかどうかを判断して、担当部署に報告を行う。しかも、その判断基準は個人の裁量に任せられているので、この調査制度は儀式的なものに近く、よほどのことがない限りは「可」の報告をする。

その結果が「可」である場合、その翌日、つまり八日目に、「死」が実行される。その実行を見届けて、仕事を終了したことになる。それが、死神の仕事だ。死神の千葉が関わる「死神の精度」「死神と藤田」「吹雪に死神」「恋愛で死神」「旅路を死神」「死神対老女」の6編を収録。

「死神の精度」
大手電機メーカーの苦情処理を担当しているぱっとしない女性、藤木一恵。負を醸し出す彼女には、自分を指名してまでクレームをしてくる常連クレーマーがいた。そのクレーマーが、彼女に会いたいと言ってきた。

「死神と藤田」
栗木という男を探している任侠の男、ヤクザの藤田。兄貴分を殺されたことに怒る藤田の側には、憧れの藤田を守りたい、だが、上から藤田の監視を命じられていることに揺れている舎弟の阿久津がいた。

「吹雪に死神」
吹雪で閉ざされた洋館で次々と人が死んでいく。招待状によって招かれた宿泊客の何人かは、すでに、同僚によって「可」の報告が出ていた。一緒に来ていた旦那がすでに殺されていた田村聡江が、今回の調査対象者だった。

「恋愛で死神」
八日目、荻原が血を流して無事に死ぬのを見届けた。ブティックで働く荻原は、向かいのマンションに住んでいる古川朝美に片思いをしていた。その恋が始りだした彼女のマンションの部屋内で、荻原は死んだ。

「旅路を死神」
喧嘩の末に人を刺し殺した森岡耕介が、ナイフを見せびらかすようにして、千葉の待つ車に飛び乗ってきた。森岡はその殺人以前に、母親をナイフで傷つけていた。逃走中の殺人者を乗せた車は、北へと向かって走りだす。

「死神対老女」
人間じゃないんでしょ。浜辺で美容室を営む老女にそう語りかけられた。そして老女はこうも言った。わたしが死ぬのを、見に来たんでしょ。その老女に、街の若者を四人くらい見つけて、明後日に店へ来るように声をかけて欲しい、とお願いされた。

これまでの伊坂作品とずいぶん趣の違う作品だ。一言でいうとシュール。苗字が町や市の名前で、CDショップの試聴コーナーから立ち去ろうとせずに、受け答えが微妙にずれていて、素手で人間の身体に触れると人間は気絶してしまう。そして、仕事をするといつも雨に見舞われる。そんな死神に取り憑かれた、六人の人間たちの人生を描いた作品であり、人間とは?といった漠然とした疑問を投げかけた作品だ。

個人的には、兄貴は特別という信仰に燃える舎弟がいい感じの「死神と藤田」、クローズドサークルに死神が挑む「吹雪に死神」、切なくもピュアな想いがあふれる「恋愛で死神」、最後に上手さが光る「死神対老女」が好きだった。この作品は、続編に繋げやすそうに思えた。そう思ったのは自分だけではないはず。この願いが、伊坂幸太郎に届くといいのに。


作品間リンク
「魔王」:千葉
「アヒルと鴨~」:春

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伊坂幸太郎
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    2008

05.20

「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」川上未映子

そら頭はでかいです、世界がすこんと入りますそら頭はでかいです、世界がすこんと入ります
(2006/11)
川上 未映子

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ちょこっと随筆、ほとんど日記という、ブログ「純粋非性批判」を書籍化したのがこの本。これは小説よりもだいぶ読みやすい。が、独特な文章や、物事を捉える不思議な目線、感受性の強い個性は健在で、かなり変わった世界観を構築している。読もうと身構えるのではなく、彼女のリズムに上手く乗れば、するりと文章が脳内に浸透し、世界がすこんと入ります。ぷぷっ、タイトルをもじってしまった。

ミニチュアフィギア?の玩具、シルバニアファミリーにまつわる小学生の頃の思い出に爆笑し、「!」と「?」マークは、猫をお尻のほうから見た模様だという指摘に目からウロコし、酔いという範疇をはるかに超えた憐れな病例に我が身をあわせ、携帯へのエロメールを拒否するやり方が判らないことや、やらなあかんことがあるときに限って人は普段あんまりしないようなことをしてしまうに、そうそうと共感し、上京したときに手に入れたサボテンのサボコの病状に一喜一憂してしまう。そして、歌詞の創作中には、大浴場の湯船でおしっこが出来てしまう倫理についてメモ書きしたい衝動を押さえ込む。ええっ!?

私のことをわかってほしい、という強い想いで綴られたあれこれだが、ときにストレートな表現で、あるいは凶暴で、そして鬱々とする素の川上未映子。そんな彼女の本質がすごくよく出ていたと思う。それにしゃべり口調のまんまやん、といった、読者に対する投げ掛ける言葉が妙に気持ちいい。それに、かなり過激な女の性のことについて触れていたが、全然エロくないのは不思議だ。相手の目をずっと見つめるは、メモしておこう。

全篇にわたり、ユーモラスとシリアスの配分が絶妙で、リズムある心地良い語りに酔わされてしまった。彼女の歌手としてレコーディングに取り組む姿が多くあったが、そちらは未だ手付かずなので、今度は彼女の作った音楽を聞いてみたい。そう思えた一冊だった。

この本を図書館で借りたが、あえて一言。お値段、1.800円は高すぎるんじゃない。買ってないから言う権利はないんだけど。

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川上未映子
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    2008

05.19

「QED竹取伝説」高田崇史

QED 竹取伝説 (講談社文庫)QED 竹取伝説 (講談社文庫)
(2006/03/15)
高田 崇史

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元オカルト研究会会長で、漢方薬局に勤めるタタルこと桑原祟。1つ後輩で薬剤師の棚旗奈々。タタルと対照的な体育会系新聞記者の熊つ崎こと小松崎良平。いつもの店「カル・デ・サック」に集まるいつもの3人。そこで熊つ崎が持ち出した話題が、奥多摩にある魔のカーブであった。何の変哲もないただのカーブなのに、不思議な交通事故がよく起こる。しかも事故を起こした人物は、その事故直前に、竹藪の竹が物凄い光を発したと証言しているという。地元には笹姫様の伝説があり、その祟りだともいわれていた。タタルはこの話題をきっかけに、竹取物語に隠された真実を語り出す。

一方、奈々の働くホワイト薬局の上司である外嶋一郎は、奥多摩へ散策に来ていた。清冽な空気を楽しんでいた外嶋だが、竹槍で体を貫かれた若い男の死体を発見してしまう。警視庁捜査一課警部の岩築竹松が捜査に当たるが、事件は進展をみせないまま、さらなる事件が起こる。織部村に伝わる笹姫手毬唄をなぞったような、首吊り死体が発見されたのだ。竹取物語の真相に迫ったとき、タタルたち一行は、奥多摩の織部村へ向かう。こうして過去と現実が繋がり、事件の真相が明らかになる。QEDシリーズ第6弾。

今回の歴史ミステリは竹取物語。かぐや姫から、小野小町、鬼、七夕、タタラ、出雲と、タタルの飛躍が展開していく。まあ、いつもの如く、文献資料による考証、薀蓄、言葉の語源など、博学ぶりは本当にすごい。これはすごいとしか言いようがないから困る。興味のない方にはちんぷんかんぷんだろうけど。ただ、どこまでが検証されたもので、どこからが著者の創作なのかが、もっとはっきりわかればいいのだが。それに、言霊信仰や呪といった縛りや、小野小町などの掘り下げ部分は、過去の作品と重複していたので、目新しさはなかった。

それに、現代に起こった事件パートの動機や謎の解明、あるいは関係者の描写が、かなり薄弱になっているのが気になった。歴史の謎に重点を置くのはわかるが、殺人事件を絡ませるのであれば、もっとそこにしっかりとした理由が欲しかった。魔のカーブの正体があれでは、肩透かしとしか言えない。それに犯人への追求場面も、緊張感が欠如していたように思う。せめて出入り口ぐらいは塞いでもらわないと。

今回は、事件と歴史の謎部分のバランスが悪かった。ちょっと荒さが目だってしまった内容だが、次のシリーズ作も読むつもり。だって走り出したら止まれないのだから。しかも、すでに続編を買ってあるし。というわけで、シリーズ6冊目は厳しい評価になってしまった。

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高田崇史
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    2008

05.18

「ペンネームは夏目リュウ!」濱野京子

ペンネームは夏目リュウ!―キミも物語が書けるペンネームは夏目リュウ!―キミも物語が書ける
(2008/02)
濱野 京子

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夏目宏樹は、読書と野球が好きな小学生。新刊を楽しみにしていた探偵小説の最後の一冊を目前で買われ、図書館では借りようとした本をタッチの差で持って行かれてしまう。だれだよ、と思って見ると、三つ編みにした髪に、ピンクのフレームのメガネ、この間のあいつだった。

新学期が始って小学五年生になり、クラス替えにちょっとドキドキしていると、一番仲良くしている永井翔太とまた同じクラスだった。翔太はちょっと太めで、アニメとマンガが大好き。同じクラスになったメンバーを見回していた宏樹は、ひとりの女の子に目を止めた。ピンク色のフレームのメガネをかけている子。童話作家を目指す勝気な少女、それが島崎明日香だった。

いっしょに遊んだりするグループがだいたい固まってきたある日、宏樹は図書室で本を借りようと、その本に手をのばした。ところが、同時にもう一本の手がその本にのびていた。またもや、島崎明日香だった。明日香は物語を書いているので、どうしても今日読まなくてはいけないと言い、宏樹はそのときの勢いだけで、自分も探偵小説を書いている、と言ってしまう。それがきっかけで、宏樹は探偵物語を書き始めた。

見せ合いっこしたところ、実力には大きな開きがあった。宏樹は正直に初めて物語を書いたと告白し、明日香にいろいろとアドバイスをもらった。それを参考に、まずはホームズをもじったテームズという主人公を日本人探偵にしてみた。高校生探偵の七瀬リョウ。そのリョウはどんな人間なんだ? パソコンに向かって呼びかけたところ、想像していたリョウの姿が目前に現れた。このリョウと会話しながら、宏樹はリョウを活躍させる物語を考えていく。

児童書でありながら、文章を書くこと、お話を書くことができる人は、特別な人ではない。本が好きなら、やり方さえわかれば物語は書ける。誰でもやってみようと思えばできることだとこの本は説いている。この本の主人公たちも、何もないところから、最後には一冊の文集を作りあげる。そんな彼らの創作に対する試行錯誤を楽しむ本編と共に、「ミニミニ創作講座」「那須正幹先生へのインタビュー」「作家への七つの質問」などが収録されている。翔太がお話を楽しく書いているのを読んでいくうちに「ぼくにも書けるかも」「わたしも書いてみたい」そんな気持ちになれるかも。本が好き、そういう子供たちに読んで欲しい一冊だった。

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濱野京子
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    2008

05.18

「カツラ美容室別室」山崎ナオコーラ

カツラ美容室別室カツラ美容室別室
(2007/12/07)
山崎 ナオコーラ

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主人公は、二十七歳の佐藤淳之介。高円寺にある1DKのアパートへ引っ越してきて、梅田さんに「近くに引っ越してきました」と連絡した。梅田さんは、三十二歳で奥さんがいるのにも関わらずフリーターという自由人。梅田さんとオレは、友達の友達、という間柄で知り合い、なぜか意気投合して、だんだんと間の友だちの介在なしに二人で遊ぶようになった。その梅田さんから、美容院へ誘われた。それが、カツラ美容室別室だった。

梅田さんが紹介してくれた、店長のカツラさんは、カツラを被っていた。黒い七三のカツラだ。「カツラ美容室別室」は、四十七歳の桂孝蔵と、二十七歳の樺山エリコと二十四歳の桃井ゆかりの、三人で切り盛りしているのだった。髪を切ったあとに、店の慰労会を兼ねた花見へ参加することになった。美容院を舞台に、淳之介とエリ、梅田さんたちの交流を描いた作品。

この作家さんの作品を読めば、何かしら感じるものがあるのだが、本書に限っていえば残念ながら何も感じなかった。その要因を考えてみたら、ヒロインが結構しんどい女であったり、カツラさんが捉えどころなかったり、独りよがりな会話を聞かされたりと、登場人物たちに魅力を感じることができず、彼らの想いに共感できなかった。

しかしその一方で、ちょっとした描写に、おお、いいなぁと感じさせるセンスの良さは健在だった。例えば、しんどい女をアパートまで送ったあと、自分のアパートへ帰った場面を引用すると、「部屋へ戻ってから、牛乳を温めた。電子レンジへ入れ、スイッチをオンにしてから、中を覗くと、カップがくるくると回り始めた。このカップが耐熱かどうかオレにはわからなかったので、割れるんじゃないか、とドキドキして、オレンジに光る電子レンジの中をじっと見ていた。一分して音が鳴り、ドアを開けると、ホットミルクの匂い、すごい、出来上がっている。疲れる女といるよりも、アパートで牛乳を温める方がいい」とある。

こういうなに気ない一場面に、やはり作家さんは違うなー、と感心してしまう。自分の日常にもある場面のはずなのに、こういう一文はまず出てこない。耐熱かどうか心配しながらも、停止するまで見て、なおかつ出来上がりに感心した上で、しんどい女と対比する。こういうのを才能だと言うのだろうと、しみじみと思った。

乾ききった人間模様にはノレなかったが、作者のこういった物の捉え方や描写力は好きだ。本書は自分には合わなかったが、今後も注目はしていきたい。たぶん、何かを感じさせてくれるだろうから。

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山崎ナオコーラ
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    2008

05.17

「ボトルネック」米澤穂信

ボトルネックボトルネック
(2006/08/30)
米澤 穂信

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兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋したひとを、弔っていた。諏訪ノゾミは二年前に死んだ。ここ東尋坊で、崖から落ちて。ノゾミの事故の原因は、この強風だと聞いていた。そのとき、風に乗って、不意にどこからか、かすれ声が聞こえた(おいで、嵯峨野くん)……その瞬間。強い眩暈がぼくを襲った。天地が逆転したように、平衡感覚が狂う。落ちた、とぼくは思った。

気がつけば見慣れた金沢市内にいる。東尋坊からの復路の切符が残っているのに、自分はどうやら金沢市の浅野川のほとりで、ベンチに横になっていたらしい。ぼくは考える。夢にしてはおかしい。東尋坊に行ったことは間違いないようだ。ところが憶えもないのに金沢に戻っている。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。

二つの可能世界が交わった。それもどうやら単に合流したわけじゃなくて、ぼくの生まれなかった世界に転がり込んでしまったらしい。天真爛漫で、ちょっと馬鹿っぽいけれど、楽しそうで、おせっかいな「姉」のサキ。「弟」のリョウはサキの提案で、二つの世界の間違い探しをすることになった。

家のリビングルームで。そして不仲の両親のこと。街に出ればアクセサリ屋が残っていたり、うどん屋の爺さんが元気だったり、それから、死んだはずのノゾミが生きていたり――。こちら側とあちら側での違いの理由をたどると、そこには必ずサキがいた。そしてノゾミの死の真相が明らかになって…。

これはすごく面白かった。他のブロガーさんのところで拝見していたので、ラストに問題があることは薄々知っていた。よって、覚悟はしていたけれど、こういう終わり方は個人的に好きだ。ご都合で救済されるよりも、とことんまで突き放してくれると、そこに作者の潔さを感じてしまうのだ。だから、他の方たちのように、重苦しくて辛いとか、気が滅入ったということはなかった。ラストに救いが欲しいとも思わなかった。やってくれたなあ、というのが正直な感想かな。むしろ、最後のメールの一文には、賞賛の言葉をあげたくなってしまった。こういうのはたぶん、極がつくぐらい少数意見だろうけど。

それに、サキの明るさに惹かれたし、リョウの無気力さというかダメさに、妙に共感してしまった。こういった、ネガティブな思考の人物に対して魅力を感じてしまう傾向が、自分にはある。同じようなタイプかと言えば、まったく違って能天気だし、思いつめることもない。だけど、何故かしっくりきてしまう。潜在的になにかあるのかもしれないが。

これまで読んだ米澤先品の中で、マイベストに位置する作品だった。こういうヘンテコな意見があってもいいだろう。人にはお薦めはしにくいが、これは傑作だと思った。この意見に賛同する方って、……少ないだろうなあ。

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米澤穂信
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    2008

05.16

「仔羊の巣」坂木司

仔羊の巣 (創元推理文庫)仔羊の巣 (創元推理文庫)
(2006/06/17)
坂木 司

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僕の名前は坂木司。外資系の保険会社に勤めている。僕はごく小さい頃から、自分が平凡だと知っていたから、異形の才を持つ人間に憧れた。僕は鳥井真一と出会った。彼は、僕にないものばかりを持っていた。まっすぐなまなざしと、まっすぐな言葉。僕が憧れ続けた、美しくも悲しいいびつさがそこにはあったのだ。僕はそんな彼が、一番精神的に追いつめられていた時期に手をさしのべた。それ以来、彼は僕を介してしか、外界と接触しなくなったのだ。だから僕は、彼のすべてを受け止める。いや、受け止めたいと思った。ときに幼く、ときに不安定で美しい彼の心を。ひきこもり探偵シリーズ第二弾。

いやー、すっかりご無沙汰をしてしまったこのシリーズ。二人の依存しあった関係が気持ち悪い、ということは覚えていたが、それ以外の記憶がスコンと抜け落ちていた。それにしても、やっぱり二人の関係が気持ち悪い。首筋がもぞもぞしてくるような感じかな。

町のお巡りさんになった友人の滝本の問いかけ。「鳥井はともかく、お前はあいつと世界のたった一つの窓口でいることに、納得してるのか? それとも、誰にもなつかない動物のオンリーワンであることを、杖にしてすがってるのか?」に対して、頬を濡らす坂木。その坂木を見た鳥井は、「さかきをなかせるやつは、ゆるさない」と怒る、さ、寒い。絶対零度のブリザードがビューっと吹き荒れる。この二人の依存具合が、ちいとキツイ。

この歪だ関係は苦手だ。しかし、著者のファンだから読むのだ。それに二人の関係さえ除けば、坂木のお人好しぶりはかわいらしいし、鳥井が吐く直線的な意見は好みだ。それにサブキャラに魅力がある。しかし、前作の「青空の卵」を紹介した記事でを読み返しても、ほとんどと言っていい程、サブキャラのことを書いていなかった。そこで、本書に登場したサブキャラを紹介しておくことにする。

町のお巡りさんになった滝本。その後輩の小宮くん。銘菓を送る寺田さん。盲目の塚田くん。デパートに勤める巣田さん。木工教室の先生になった栄三郎さん。その生徒になった利明くん。誤解で坂木を攻撃した女子高生の矢崎さん。歌舞伎役者の安藤さん。坂木の同僚の吉成と佐久間さん。駅員の下島さんと後輩の斉藤くん。「なか川」のご主人と奥さん。これって、役に立つのかな。。というわけで作品紹介。

「野生のチェシャ・キャット」
鳥井がひどい風邪をこじらせたある日、坂木は営業部の同僚である吉成哲夫から、同期の佐久間恭子の様子がおかしいと相談を持ちかけられた。性差別なく業績を評価してもらいたい。保険のおばちゃんにはならない。そう言っていた彼女の机の上に、同窓の名簿があった。営業方針がまんま保険のおばちゃん的に変わったとしか思えない。だから一緒に探ってくれという話だった。いつもならここで鳥井に頼むところだ。でも名探偵はベッドの中。さぁ、どうしよう?

「銀河鉄道を待ちながら」
手作り木工教室を開くようになった木村栄三郎さんから、遊びに来るように誘われた坂木と鳥井。視覚に障害がある塚田くんと合流した三人は、地下鉄の駅で、塚田くんが面倒になったという駅員の下島さんと知り合う。そして栄三郎さんの家で、彼の生徒だという土屋さんと一緒に木工作りを習う坂木たち。その後日、駅員の下島さんから、ホームの一番前で風船を持って立ち尽くす奇妙な少年が毎日いるので、鳥井の探偵力を貸して欲しいと声をかけられた。

「カキの中のサンタクロース」
坂木は最近、おかしな視線を感じる。すると、若い女性が持ったバッグから飛び出たラケットで腹部を強打され、石段に腰かけていた女子高生たちにエロオヤジ扱いをされ、そして、巣田香織さんと歩いていたところ、ワインの入った布袋でふくらはぎを直撃された。怒った巣田さんのとっさの行動で、ワインの瓶に砂が詰められていたことが分かった。攻撃してきた彼女たちは確信犯だと鳥井は言う。その一方で、前の事件で知り合った、利明少年がわだかまりを持っている父親の謎を解く。


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坂木司
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    2008

05.15

「別冊 図書館戦争?」有川浩

別冊図書館戦争 1 (1)別冊図書館戦争 1 (1)
(2008/04)
有川 浩

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先に書いておきますが、シリーズあっての作品なのでおもいっきりネタバレしています。内容を知りたくない方には危険なので、どうかご注意を。

図書館革命のごたごたから、基地の近くの指定病院に転入してきた堂上の側には、郁の姿があった。できるだけ顔見せろ、という堂上の言葉があったゆえだ。その郁の手にはリンゴと果物ナイフが…。柴崎がリンゴや梨をくるくる剥くところは何度も見たことがあるので、イメージだけはできている。しかし案の定、赤い皮の上で果物ナイフがつるりと滑る。堂上が迷わず郁の手を取って、切り傷を口に含んだから、郁は顔中真っ赤になって硬直状態。その堂上の表情が凍りつき、郁が振り向いたドアには柴崎ほか小牧と手塚が勢揃いだ。キャーーーーーーッ!? 郁の恥ずかしさによる悲鳴が響く。甘い。冒頭から甘すぎて、とろけそうだ。

その堂上が隊に復帰した初日、偶然一緒になった二人が、特殊部隊事務室のドアを開けると、そこには「退院&カップル成立&王子さま卒業おめでとう、堂上くん」と書かれた横断幕。う、ウケる。玄田隊長のおふざけはお茶目すぎて、おもわず吹き出してしまった。それに、中学生並の恋愛観が明らかになる手塚や、経験値大で郁をツッコミまくる柴崎。毬江の前髪を上げ、額に軽く口づける小牧に、顔を真っ赤にする初心な毬江。これよ、こんなベタ甘で楽しいのを期待していたのだ。しかもクマ殺しの異名の他に、新たにブラッディ笠原という異名が増える郁のエピソードには、吹き出し笑いをしてしまった。

そして、この別冊では郁と同じくらい堂上が笑わせてくれる。その堂上のポロリ発言や、らぶらぶ発言に、こちらまで顔が真っ赤になりそう。そんな二人の遅い恋の進展に、何度も鼻血ブー寸前の悶絶状態になって、ばたりと倒れ伏してしまった。よって、この本に関して感想を書くのは野暮ってもの。以下はさらっと個人的な備忘録。もう一度忠告しますが、ネタバレしています。

その小牧のお姫さまであるところの毬江が、図書館の蔵書に必ず貼り付けてあるバーコードシールが切り抜かれてゴミ箱に捨てられていたのを見つけた。その結果、他にも研究書として高価な本が盗難されていたことが明らかになる。そこで、本泥棒を確保するために、エサを撒くことになる。「明日はときどき血の雨が降るでしょう」

年末年始の休暇に入った堂上班だが、郁は実家に帰る気になれず寮に居残っていた。堂上が入院していた間は個室だったので、キスとかできたのになー、とモンモンとしていた郁。その堂上が実家に帰ったその日、郁の携帯が着信音を鳴らした。液晶画面には堂上篤の文字。しかし、聞こえてきた声は、郁を問い詰める女の声。堂上の妹による、いたずら電話だった。ひょんなことから郁のことが堂上の家族にばれてしまい、堂上家の面々が、郁に会いたいと言い出した。郁は何の覚悟もないまま、堂上家に挨拶に伺うことになった。「一番欲しいものは何ですか?」

郁と堂上が付き合いだして七ヶ月。キスはしたけど、それ以上は経験値がないから怖い。相手は三十過ぎの大人の男。しかもキスならいくらでもしたいくせにその先はイヤ、とか何の生殺しよそれ。などと、柴崎曰く、純粋培養純情乙女・茨城県産という弊害が問題になって、ぎくしゃくしてしまう郁と堂上の二人。そんな最中に、図書館内が催涙ガスで充満するという事態が起こり、聴覚障害者の子供がひとり取り残されてしまった。「触りたい・触られたい二月」

合意と予定が取れて、初めて二人で外泊を入れた日。ホテルの部屋内では堂上が使うシャワーの音が聞こえる。郁は部屋の明るさを確かめ、そっと自分の胸元を広げてみた。イッタイナンデスカコレハ。うっかりスポーツブラとショーツのセットで、こんな日に来ちゃった。下着で初手から下手を打った郁は、もうひとつ下手を打ってしまう。その大失態が癒えた頃、他館で暴漢が人質を取って立てこもったと出動要請がかかり、その一方で、活発な雄大くんとお母さんの親子に、図書館員たちは振り回されることになる。「こらえる声」

付き合いはじめて一年以上が経ち、二人で近くに部屋とか借りたいなーって、郁が堂上に提案したところ、あっさり却下されてしまい、郁は拗ねてしまう。喧嘩が仕事に影響するほど郁も子供ではなかったが、何やら揉めたらしいということが周囲にバレバレになる程度には子供だった。手塚曰く、やりづらいことこの上なし。そんな個人的なケンカを引きずって拗ねてるところに、良化特務機関が図書館所蔵のある作家の本を狙って襲撃をかけてきた。「シアワセになりましょう」

えっちな場面まで、笑わせてくれた有川センセイに拍手! 夏に出版予定だという別冊?にも期待大なり。6月27日発売予定の「ラブコメ今昔」にも期待大大。

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有川浩
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    2008

05.15

「ラティーノ・ラティーノ!」垣根涼介

ラティーノ・ラティーノ!―南米取材放浪記 (幻冬舎文庫)ラティーノ・ラティーノ!―南米取材放浪記 (幻冬舎文庫)
(2006/04)
垣根 涼介

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大長編「ワイルド・ソウル」の執筆のため、ブラジルとコロンビアの二十数都市を訪れた取材エッセイ。サン・パウロではちょっとした言葉のやり取りで相手に同情したり一緒になって喜んだりと、いつも感情が行動に直結してくる国民性に触れ、カリではコカインの作り方を教わったり、ストリート全体を包む雰囲気のなにかに、心のどこかを鷲づかみされ、ボゴタでは追い剥ぎと対立し、サルバドールでは観光擦れしたくそったれと一触即発になる、など、サン・パウロ、サントス、カリ、メデリン、カルタヘナ…、と大移動。

人口の九割が善人むき出しのお人好し。すぐに人を信用し、二、三回笑い合えば、もうアミーゴ。残る一割が、強盗、殺人、婦女暴行、なんでもござれの骨の髄からの悪党。そんな危険と隣り合わせながら、二ヶ月にわたり旅した末に辿り着いた大切な感覚とは?

垣根涼介の短気な一面や、短気な一面や…、ってこんな治安の悪いところで何度もよくキレるわ。この強気なところから、「ヒート・アイランド」のアキのようなキャラが生まれたのかな。これは取材旅行でありながら旅日記でもある。だから感想が書きにくい。よって、このエッセイの表側、つまり「ワイルド・ソウル」に生かされたであろう事柄に触れたい。

その昔、日本国政府と外務省に詐欺同然の扱いを受けて、アマゾンに入植させられた戦後の南米移民。その多くの人々は、開拓地とは名ばかりの荒地を与えられ、耕しても耕しても米は育たずに、挙句、マラリヤや赤痢で赤貧のうちに家族を無くした。耕作地を捨て、アマゾンの大地を流民となって彷徨った人たちは、いつしかアマゾン浪人と呼ばれるようになった。それが後に日系一世と呼ばれる多くの人たちで、今では三世、四世の人たちが生まれている。そんな環境の中で何故彼らは生き残れたのか。それらの背景などが本書に記されている。などと書くと専門書のように勘違いされるかもしれないが、これはエッセイだ。

陽気なブラジル男や、積極的なブラジル女。多くの国から移民を受け入れている国民性。他民族が集まることでのメリット。そして悲惨な境遇に同情した街の売春婦たち。今でも無数の貧民窟が存在し、武装強盗団が跳梁する国。コロンビアでは今も内戦状態が続いている。そんなあれこれを、決して重くなることなく軽妙に綴られている。地球の反対側に位置し、気軽に旅行へ行くことのない南米という地。しかし、日本人とは縁が深い国。そんなことを思いながら、興味深く読んだ一冊だ。

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垣根涼介
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    2008

05.14

「ジーン・ワルツ」海堂尊

ジーン・ワルツジーン・ワルツ
(2008/03)
海堂 尊

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桜宮市・東城大学医学部を卒業、東京・帝華大学に入局した32歳の美貌の産婦人科医、曾根崎理恵―― 人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。顕微鏡下人工授精のエキスパートである彼女のもとに、事情を抱えた五人の妊婦がおとずれる。一方、先輩の清川医師は理恵が代理母出産に手を染めたとの噂を聞きつけ、真相を追うが…。髪よりも細い硝子管で、彼女は生命を作り出す。それはただ、人間らしい望みのためだけに。生命の誕生を支配するのは神か、それとも医者なのか?《本の帯より》

まず内容紹介の補足をしておきます。産婦人科学教室の助教、曾根崎理恵の専門は不妊治療で、発生学の講義受け持っている。その一方で、郊外にあるマリアクリニックに週一回非常勤の医師として通っている。院長の三枝茉莉亜は末期の肺癌を患い、さらにある事件が関係して、クリニックはあと八ヶ月で閉院が決まっていた。そこで理恵は、古参の妙高助産師と共に、一児の母の甘利みね子三十四歳、堕ろおすか迷っているキャリアウーマンの神崎貴子二十八歳、オレンジ髪のヤンキー娘の青井ユミ十九歳、そして、人工授精が着床した足かけ五年の付き合いになる荒木浩子三十九歳、双子を着床した山崎みどり五十五歳、といった、たまごを宿した五人の妊婦を担当している。

さらっと書いてしまうが、五人の妊婦たちの妊娠経過は一筋縄ではいかない。ある者は残念ながら流産する。そして、高度な奇形が判明して出産後に胎児が死亡するケース。重篤な奇形である短肢症であることが判明するケース。それから、人工授精患者がふたり。ようやく待望の一子を授かった者。双胎妊娠のケースが代理母である可能性を疑われている者。まずは、母である彼女たちが決意を下す場面で、上を向いて涙が出ないように我慢をした。そして、ばたばたした出産場面にどきどきしながらも、生まれてきたことに対して、またもや涙を我慢する。そこで、冒頭で曾根崎理恵がもらしていた一言が脳裏を過ぎる。五体満足で生まれ落ちることがどれほどの奇跡か。

クリニック側はここまでで、次は大学医学部側に移りたい。陽気な部分では、曾根崎の講座を受けている男子学生の金田と眼鏡女子学生の鈴本が、ユーモアがあってかわいく思えた。彼らが受ける講義は、というか、読者が読まされることになる、妊娠とは、それに伴うさまざまな事柄など、これにはすごく勉強になった。専門用語がありながらも、理恵先生の授業は真面目に読むと、すごく分かりやすい。それに、旧弊な体質の屋敷教授との対決も、胸がすうっとする。

ただ、今回はもろもろの問題提起が前面に出ていてちょっと硬い。厚生労働省官僚のご都合主義、地域医療の崩壊、不妊治療、代理母問題など。それに伴ってか、全体的にエンタメ度が低く、さらに、代理母についてのミステリもパッとしない。実際のところ、140ページ辺りで理恵の狙いが読めてしまった。いつになったらミステリ部分を褒められるのだろう。

曾根崎理恵の過激な発言をすべて肯定できるかというと、これも難しいのだけど、官僚と現場の意識の違いなどは、なるほどと頷けるものがあった。それらと共に、妊婦さんの決意であったり、出産する姿であったり、神の降臨であったり、ヤンキー娘の変身ぶりであったり、誕生した薫くんのお父さんがアメリカ在住のゲーム理論者だったり…、おっと語りすぎたか。とにかく、海堂尊さんのラストだけは、毎回楽しく読めてしまうから不思議だ。これって、褒めになってるのか?? 出来ればそろそろ、東城大学医学部付属病院を読みたい。

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    2008

05.13

「弥勒の掌」我孫子武丸

弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)
(2008/03/07)
我孫子 武丸

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冴えない高校教師の辻恭一が、ある日、家に帰るとそこに妻のひとみの姿がなかった。妻名義の預金通帳と共に。自分の犯した浮気が原因で、夫婦関係は冷戦状態が続いていた。妻の家出。これが自分の犯した愚かな行為に対しての正当な罰なのか。

その後数日、恭一は普段と変わりなく過ごした。離婚届が送られてくれば、黙って判子を押すつもりでいたし、慰謝料の要求も覚悟していた。最初はただ情けなく、あきらめしか感じられなかった。それが心の中にやり場のない苛立ちと怒りが湧き上がってきた。そこで恭一は妻の荷物や服をゴミ置き場に捨てた。

妻が家出して一週間が過ぎたその日、彼の前に二人の刑事が訪ねてきた。妻に捜索願が出されているという。妻が行方不明になっても自分で捜索願も出さない旦那がいる。突然大量に服を捨て始めた。元々夫婦仲は極めて悪い。殺したんじゃないかと疑われても、仕方がない。もし、どこかで妻の死体が発見されるようなことがあれば、真っ先に疑われるのは自分だ。そのような疑惑を消すために、恭一は消えた妻を捜すことにした。

一方で、刑事の蛯原篤史は急な呼び出しを受けて、霊安室に立っていた。顔にかけられた布が除けられると、蛯原は一目でそれを確信した。愛する妻の亡骸がそこにあった。しかもラブホテルで殺されているのを発見されたという。そこへ追い討ちをかけるように、ヤクザとの癒着の疑いをもたれ、本庁で取調べを受ける。身内だから捜査にタッチできない。しかも別件で、本庁に睨まれている。だが蛯原は自分の手で仇を取ることを、自分に誓う。

やがて二人の男は、妻たちが関わっていたという《救いの御手》なる新興宗教団体を知る。五十六億七千万人の人類を救うべく地上に降臨したと称する謎の女《弥勒》。彼女を教祖にいただくこの新興宗教は、ありふれたカルトかと思われた。この《救いの御手》を介して、偶然にも出会った二人の男の運命は大きくぶれて、しだいに、秘められた教団の本体へと引き寄せられてゆく。

失踪人捜し、犯人探し、というミステリのふりをしたハードボイルド調のサスペンス作品かな。新興宗教という怪しさを小道具として散りばめ、さらに、平凡な日常の中に潜む狂気なども取り入れて、上手く融合されていた作品だと思う。それに、こういったラストを迎える作品は、これまでに読んだことがなかったし、トリックうんぬんよりも、作品の最終到達点は個人的にはありだった。でもこれってネタバレなしでは、これ以上書けない。ただ、身勝手な男が主人公なので、女性が本書を読むと嫌悪を感じるかも。そこら辺が気になったので、女性にはお薦めしにくい。でも、おもしろかった。

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我孫子武丸
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    2008

05.12

「さようなら窓」東直子

さようなら窓さようなら窓
(2008/03/21)
東 直子

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あの窓のことをあたしは一生忘れない。「きいちゃんが眠れないんなら、なにか話をしてあげる」ゆうちゃんがくれた、やさしい不思議な、つんとする物語たち。雑誌『anan』連載時より話題沸騰。06年『長崎くんの指』、07年『とりつくしま』に続く、人気著者初の長編恋愛小説。《アマゾンより》

ゆうちゃんの家で暮らす20歳の女の子、きいちゃんこと築(きずき)。いつからか、きいちゃんは眠れなくなった。ベッドに入ったとたん、胸の奥がいたくなる。世界中の寂しさが、心臓をめざしてやって来て、ぎゅうぎゅうしめつけているみたい。右目の奥もじわーっと、そしてときどき、ぐーっと、痛くなる。「安らかに眠りにつける薬」も飲んでみたのに、ちっとも効かない。ベッドの中で、右を向いたり、左を向いたり、うつぶせになったり、じたばたしていると、先に眠っていたはずのゆうちゃんが、きいちゃんの肩をひきよせて、声をかける。眠れないんなら、眠れるまで、またなにか話をしてあげようか。

美容師をしているやさしいゆうちゃんが、不眠症でうまく眠れないどこか危うさのあるきいちゃんにいつも不思議なお話を聞かせてくれる。「泣いた赤おに」という絵本について語りあう。近所に住んでいた友だちのこうちゃんちの話。ジャムのつくり方を教えてくれたお春さんの話。転校生だった山上ゆかりさんの話。特撮とかの小道具をつくっていた岩ちゃんの話。ピョートル大帝と名乗る男のストーカーに怯える中田剛蔵。謎のくしゅを置き土産にくれたミリさんの話。パーパになれたという隣に引っ越してきたおじさん。ウソつきなのでホランと呼ばれていた女の子と偽加藤さん。これら不思議物語たちが少しずつ現実とまじり合い、独自の小説世界が広がっていく。

作品タイトルが示している通り、彼女が抱えていた問題は、やさしいだけじゃ解決しない。ゆうちゃんに頼りきりで、ずっと生きていくわけにはいかない。やがて、きいちゃんにも生き方を変えるときが来る。だれにも甘えないで、ほんとうの自分になるために。会いたいから、会わない。きちんと自分のことを、自分で考えて決める。そんな前向きな別れではあるが、一緒に過ごした時間の記憶、心に届いたものは一生消えない。

しみじみとした温かさがあり、もたれあう居心地の良さも共感できる。ふたりの決別は切なくもあるが、自分の居場所へ旅立つ姿は眩しかった。不思議な物語ではあるが、やさしさがあふれ、でも、やさしさだけでは前へ進まず立ち止まってしまう。大好きだけど、さようなら。弱かった自分とも、さようなら。すごくかわいくて、すごく心に浸みる、とても素敵な作品だった。

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東直子
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    2008

05.11

「グラスホッパー」伊坂幸太郎

グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)グラスホッパー (角川文庫 い 59-1)
(2007/06)
伊坂 幸太郎

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鈴木は教師という職業を捨て、怪しげな?令嬢?に勤め、何らかの薬物ではないかと思いながらも、一ヶ月もの間それを女性に売り続けたのは、すべて、妻の復讐のためだった。令嬢の社長である寺原の長男に妻を轢き殺されていたのだ。ところが令嬢には、鈴木と同じような目的で潜入してくる人間が多く、ただの社員か、それとも復讐者なのか、それを確かめるためのテストがあった。若いカップルを殺せ。鈴木は幹部社員である比与子からそう命じられた。その鈴木のテストを見届けるために寺原長男がやって来るが、目前で何者かに押されて、車にあっけなく撥ねられて死んでしまう。どうやら押し屋と呼ばれる殺し屋がいるそうだ。その押し屋を追うように比与子から命じられ、鈴木は押し屋を尾行し始める。

身長百九十センチ、体重九十キロの身体から、鯨と呼ばれる殺し屋がいた。彼には変な能力があった。物理的な恐怖ではないのだが、彼を前にしていると、どこか絶望的な気持ちになる。その自殺を強要する能力で、三十三人目の対象者に語りかけ、相手が自ら死を選ぶように仕向けて自殺させる。その後、以前殺した亡霊にささやかれながら室内の確認をしていたところ、窓ガラス越しに偶然、押し屋が寺原長男を殺す場面を目撃する。実は鯨には押し屋に先を越されて対象者を殺されたという過去の負い目があった。その自らの悔恨を清算して、仕事をやめとうと鯨は考える。

みんみんとうるさくしゃべることから蝉と呼ばれるナイフ使いの殺し屋がいた。鯨に殺しを依頼した政治家が、自分が雇った鯨を信頼できなくなり、上司の岩西という男を通して、鯨を始末するように蝉は依頼されていた。その岩西は仕事を引き受けるだけで、労働は蝉ひとり。報酬を搾取された上に、岩西に使われていることを不満に感じていた蝉は、令嬢が組織を挙げて押し屋を捜していることを知り、押し屋を殺した男として名を上げようと考える。

押し屋、自殺屋、ナイフ使いという三人の殺し屋、非合法な組織の令嬢と、悪者ばかりが登場して、とにかく人がたくさん死ぬ。しかし、鯨を除いて、暗さというものをあまり感じなかった。油断だらけでお人好しな鈴木もそうだし、底抜けに明るい蝉もそうだし、あばずれぶりがムカツク比与子にしても、負のイメージが少ない。特に蝉と岩西は、悪者なのにカッコよくまで思えてしまう魅力があり、個人的に彼らはお気に入りのキャラだった。実際にナイフを振り回す若者がいたら怖いけど。それに、鈴木と亡くなった妻との会話も微笑ましいし、健太郎と孝次郎の兄弟も萌えさせる。

三つのストーリーが平行しながら交互に展開していくのもテンポが良く、殺害シーンは綿密すぎる描写でうへーだが、人物たちの会話文が軽妙で、どこか洒落た雰囲気が全体的にあって、すいすい読むことができた。伊坂作品としては異色の部類になる本書だが、こういうスタイリッシュなハードボイルドは好きかも。


作品間リンク
「魔王」:ガブリエル・カッソ
「陽気なギャングの日常と襲撃」:ガブリエル・カッソ
「オーデュポンの祈り」:神様のレシピとカカシ
「フィッシュストーリー」:ジャック・クリスピン

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伊坂幸太郎
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    2008

05.10

「二都」藤谷治

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二都

そのメールは巷を賑わす新興宗教を追う女性ライターから。その手紙は父が鎌倉の実家に遺した美しい義母から。互いには繋がらない二つの都、二人の女――気鋭の作家が織りなす、過去と未来のあわいに惑うひとりぽっちの男の物語。《出版社より》


父が創業した会社を乗っ取られながらも、お飾りの重役として干されていることに何の不満もない堀雅也。その彼の元へ、中野いずみという女性ライターから一通のメールが送られて来た。友人のうちでも理性のある現金な男だった加山昇平が、ゴンドワナ大陸教団という新興宗教団体に深く関わっているので、加山を紹介して欲しい、といった内容だった。雅也は知らなかったが、退社した加山がかつて部下だった社員を勧誘している、という噂が会社内にあった。

そんな折、会社とは無関係なところで絶縁していた父が亡くなった。雅也は義母である信子を憎んだり軽蔑したりする気持ちは微塵もなかった。信子は多くを語らない。しかし、母の死と短かった人生を蹂躙しているという思いが、希薄になったりすることはなかった。雅也は信子に対してどっちつかずの態度を取り続けていた。大学を出て、会社に入って、都内にマンションを借りて以来、一度も帰らなかった鎌倉の実家へ、二十年以上も会わずにいた、三つしか歳が違わない義母と顔を合わすべく、電車に乗り込んだ。

うーん、この作品は言葉にするのが非常に難しい。主人公が、ライターの中野いずみと義母の信子に対しながら、自分は旅をしていたつもりだけど、実際は旅をしているつもりだけで、ただ流されていたことに気づく物語、かな。間違っているかもしれないが。

中野いずみには手伝いをする優越感に、男は酔い、義母の信子には先行きを心配しながらも、男は惑わされる。そのベースには、能であったり、更級日記の一文であったり、宗教的な小道具があったりする。そんな二人の女性、つまり二兎に挟まれた男は、結局は何も手に入らない。これって教訓でもあるのかな??

つんつるてんの男の頃からだろうか、藤谷治の新境地!と本の帯に文句が謳われだしてから、作品を読んでもよくわからなくなってしまった。本書もはっきりいって何がどうなのか理解できなかった。たぶん、日本的な謙譲の美徳というか、普遍の崩壊というか、一瞬で儚く散る美、いわゆる耽美的なものを目指そうとしている作品のように思えた。でも違うのかもしれない。結局は、何もわかっていないのだ。文藝って、難しい。

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藤谷治
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    2008

05.09

「ザ・万歩計」万城目学

ザ・万歩計ザ・万歩計
(2008/03)
万城目 学

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『鴨川ホルモー』でデビューの奇才、待望の初エッセイ集!●万博公園に出現したオレンジ色の巨大怪鳥とは!? ●係長から「マキメっち」と呼ばれるとき ●「この世に存在するはずのない曲」への想い ●負のカリスマ「御器齧り」との仁義なき戦い ●「オリーブの首飾り」を聞く小さな歓び ●カッパドキアで魅惑のハマムを……!? ●京都市が極秘裏に実行している防災計画について ●モンゴルで夢見たエコで優雅な遊牧民生活……《出版社より》

そこにあるというのは知っていたので、まずは探してみた。あったあった。森見パンチを発見!というユニークな表紙。それに本に挟まれていた栞を見てニヤリ笑い。そんな本書だが、読み始めは歌にまつわるエッセイで、これにはあれ?と思うが、次の「鴨川ホルモー」が生まれるまでや、作家の部屋探し、会社勤めのエピソード、ゴキブリとの戦い、あちこちへの旅行記、「鹿男あおによし」誕生秘話と、全体的にクスクス笑いがほとんどで、抱腹絶倒とまではいかなかった。そんな中でも、トルコのサウナで経験したことに対しては大爆笑してしまったが。

個人的にだが、お気に入りだった一文を紹介。《梅田に到着するも、集合時間まで余裕があったので本屋に寄った。自分の本の前に、書店員の方が書いてくれたポップが立っていた。のぞいてみると、「三分の一までガマン! あとは一気にいけます!」と書いてあった。東京ではまずお目にかかることのない、率直すぎるコメントに胸をどきどきさせたのち、私は待ち合わせの店に向かった》 なんていう小洒落たエピソードなど、物の捉え方が万城目らしいので、ちょっと微笑ましくかわいらしいと思えた。

でも全体的に昔のことが多く語られているので、「ホルモー」や「鹿男」のような、もう少し最近のこと、本にまつわることが書かれていると、さらに良かったかも。それにゴキブリについてはありがちな話だし、読んでいて気持ちがいい話ではないし、もっと酷い経験をしたことによって、思い出しただけで鳥肌がでる身にとっては、ご遠慮願いたかった。

それにしても、京大生って変なやつばかり、などと、またもや偏見を強くしてしまった。読みやすいし、おもしろかったけど、やはり、小説の方を読みたいのである。次の大阪はいつ??などと、欲張りな一読者であった。

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万城目学
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    2008

05.08

「SP」金城一紀

SPSP
(2008/03/04)
金城 一紀

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テレビドラマ「SP」の原案・脚本を担当した金城一紀。そのシナリオが一冊の本になって帰ってきた。小説ではなくシナリオという部分が購買欲をそそらなかったので、図書館予約をしていたのだが、結局は、ある理由があって買ってしまった。

警護課第四係に所属する井上は、幼い頃に両親がテロの巻き添えで亡くなったことから、ある特殊な能力を身に付けた。五感から相手の様々な情報が目や耳に流れ込んでくる能力、シンクロ。合コンの場でも、シンクロして相手の女性の嘘を見破って、場を白けさせていたところに、係長の尾形から緊急の呼び出しを受けた。都知事が行動予定にない突然のお出掛けをすることになったからだ。都知事警護に急行したシネコン内で、片足を引きずりながら歩く不審な大男に気づいた井上は、その大男に職質を掛けてみた。すると突然、大男はナイフを抜き、井上に襲い掛かってきた。その男を逮捕するものの、SPがテロリストを逮捕するのは前代未聞のことだった。

尾形率いる尾形班、井上、笹本、山本、石田。彼ら五人のチームが、「東京都知事暗殺を阻止せよ」「元内閣総理大臣を警護せよ」「重要参考人を警護せよ」「警備四係に合流せよ」「巨大アトリウムを警護せよ」で、テロリストからの要人警護のはずが、何故か犯人逮捕の大活躍。そこには、くすっと笑えるユーモアがあり、マニアックな映画へのオマージュがあり、派手なアクションによるわくわくあり。そして影で動く人物の怪しさもある。

本書では、ドラマの裏側をネタバレした、金城一紀による注釈が本文の下段に書かれている。個人的なことになるが、初回の放送を観て、再放送を観て、さらにスペシャル番組を観ても不明だった部分が、この本を読んでやっと理解できた箇所があった。一番の重要ポイントである、何度もフラッシュバックしていた井上の両親が刺殺されたシーンでの、現首相である麻田、秘書の高島、殺人犯になった山西の目線のやり取りは、本書に読んだことによって理解できた。これって鈍いのかな。

それに、ビートルズの名を語った二人が、あやふやなまま埋没したことや、いきなり自殺?した西嶋管理官や、ペイント弾を撃ったスナイパーに、なによりラストでの尾形の怪しい目線。これらは映画へと継続されていくのだろう。それらを再確認できたことで、本書を読んだ意味があったと思う。

これは小説ではなくシナリオなので、会話文がセリフであったり、そのときの心理描写が説明調であったり、背景が抜けていたりと、渇いた感じになっていたが、ドラマを観ていた方なら十分に楽しめる本になっていた。それに、金城一紀の映画への愛も伝わってくる。岡田くんや真木さんを想像して読めば、より面白く読めることだろう。

これを買ったわかりやすい動機はこれ。

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金城一紀
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