2008年05月01日 (木) | 編集 |
![]() | 花が咲く頃いた君と (2008/03/19) 豊島 ミホ 商品詳細を見る |
ひまわりで遊び、コスモスに恋をし、椿に涙して、桜の微笑みに頬笑む。目を閉じ、耳を澄ませば、可憐な花の囁きが聞こえる。日常の切ない一瞬を切り取る名手が、いま、分岐点にいるあなたに贈ります。静かに。だけど力強く生きる。そんな決意が聞こえる珠玉の短編集。《本の帯より》
花のある別れの風景を描き出した「サマバケ96」「コスモスと逃亡者」「椿の葉に雪の積もる音がする」「僕と桜と五つの春」の四編を収録。
「サマバケ96」
中学三年生のユカが、同じクラスになったアンナと仲良くなったきっかけは、ひとりの男子だった。アンナは髪の毛は真っ茶だし、短いスカートでガニ股気味に座る。真面目っ子のユカとはまったく縁のないタイプの女の子だけど、ユカがその男子と小学校から同級生だったというだけで、なしくずしで友達になった。アンナの見ているだけの片思いに付き合いながらも、彼女の影響を受けて、色んな初めてのことをした。たぶん違う高校に行くから、夏休みに一緒に渋谷に行こう。中学生最後の二人だけのひと夏のはずが。
「コスモスと逃亡者」
たからはひとりで、家の中にいる。窓枠の中におさまったコスモスの花の淡い色がぽつんと目立つ景色が好きで、退屈な時、じっとその絵を見ている。高校の頃はただ笑っていた。でも最近、心臓だと思うところがきゅーっと痛くなることがある。男の子から離れていかれ、すれちがうだけで笑われ、お母さんにずっとおんぶされる生活。あたしってなんのためにいるんだろう。そんなある日、借金取りのコワいにーちゃんから逃げているおじさんと出会い、おつかいを頼まれるようになった。
「椿の葉に雪の積もる音がする」
小さい頃から、眠れない夜にはおじいちゃんのところに行った。おじいちゃんは雁子の気配だけで薄く目を開ける。「眠れない」 そう申告すると、おじいちゃんは黙って蒲団の端に寄ってくれる。「聞こえんか。椿の葉に雪の積もる音がする」 それは雁子にとって、魔法の呪文だ。おじいちゃんに言われてじっと耳を澄ますと、何故か急に眠くなってくる。中学二年になった今でも、本当に眠れなくて困ったら、おじいちゃんのところに行くかもしれない。そのおじいちゃんが倒れた。
「僕と桜と五つの春」
その桜の木と出会ったのは、小学校五年の塾の帰り道だった。不自然な板塀のその向こう。はがれたトタンの穴をくぐれば、それはそこにあった。もろもろの建材が小山になって置き去りにされた中に、一本、若い桜が立っていた。そのはかなさ、うっすらと立つ甘い香り、そして瓦礫の中に立つ細い幹の強さ。すべてに打ちのめされた。五度目の花がいつもより一週間も遅く咲いた頃、吉谷純一はひとつの出会いをした。あの桜の気配がする女の子。それがカナハギエリカだった。
豊島ミホらしい短編集だ。まず一作目は、少女たちの友情であり、約束をやぶって男に走ってしまう友達。そのことによって、少女は苛立ち、不機嫌になる。こういう少女の心の揺れを書くのが本当に上手い。二作目は、言葉は悪いかもしれないが、いわゆる頭が弱い少女がダメ男と出会う。この少女の痛さはちょっと反則気味かな。だけどふたりのやり取りはかわいらしいし、最後のセリフにはぐっときた。三作目は、たぶん幸せってこういうのだと漠然と思っていた。それが、あたりまえだった存在が欠けることで、自分にとってどんなに大事なものだったのかに気づく。これのラストもきたな。最後の四作目は、「ぽろぽろドール」を彷彿とさせるブラック路線。個人的にはこの短編が一番好きだった。まず主人公の僕が、痛い、痛すぎる。だけど、桜の木と少女と出会うことで、すごく真直ぐになる。あとはまあ、読んだかただけのお楽しみなので、黙して語らず。
短編集って長編よりも満足度が薄い。さらっと読めるけど、ガツンとくるものが少ない。その点で言えば、この短編集はバラエティに富んでいるのはもちろんだが、十分満足できる内容だった。個人的には◎だった。←目玉の親父じゃないよ。
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