2008年05月03日 (土) | 編集 |
![]() | 片眼の猿 One‐eyed monkeys (2007/02/24) 道尾 秀介 商品詳細を見る |
盗聴専門の探偵事務所「ファントム」に谷口楽器が仕事を依頼してきたのは、いまから一ヶ月ほど前のことだった。ライバルメーカーの黒井楽器が、我が社のデザインを盗用している疑いがある。その証拠を見つけてもらいたい。それが依頼の内容だった。
そんなわけで、三梨幸一郎は中途採用の社員を装って谷口楽器に潜入し、日々黒井楽器の本社ビルにせっせと聴き耳を立てているのであった。黒井楽器の本社というのは、太い道を挟んだ向かいのビルだ。異様な耳を持つ三梨は、異様な目を持つらしい女性の噂を聞き、その冬絵をファントムのスタッフに新たに雇った。産業スパイという地味な調査をしていると、三梨はとんでもない一部始終を聴いてしまう。それが妙な事態に巻き込まれた始まりだった。
ローズ・フラットというアパートを事務所兼住居にしている主人公だが、そこの住人たちがすごく魅力的だった。アパート前で飼われている老犬のジャック、通いのスタッフでもやしのような顔の帆坂君、探偵の師匠である野原の爺さん、野太いダミ声のまき子婆さん、トウミとマイミのまるでシャム双生児のような双子姉妹、そして、トランプマジックと予知能力という奇妙な才能を持ったトウヘイ。そこでのちょっとした和気藹々とした雰囲気が面白くていい感じだった。
主人公はかつて秋絵と一緒に暮らしていたが、ふらっと部屋を出た数ヵ月後に、秋絵は遺体で発見された。二人が一度だけ小旅行に出かけた場所で、首吊り自殺をしていたのだ。その秋絵の写真を今も大事にしている主人公だが、その秋絵と似た名前の女性、つまり、スタッフとして選んだ冬絵が、人殺しかもしれない疑いがでてくる。彼女は以前、四菱エージェンシーという探偵業界では誰もが知っている悪名高き探偵社で働いていた。これまで道尾作品を読んでいる読者としては、冬絵が怪しいと思わせておいて、どうせ最後にひっくり返すのだろうと先読みをしてしまう。その事件の顛末は、あれ?と驚くぐらい淡白すぎて物足りない。
それよりも、いつの間にか作品タイトルになっている「片眼の猿」の方に謎の主眼が移行していた。そちらの部分では、あれやこれやの複線が思い当たり、読者を驚かせるという道尾の技巧は確かに発揮されている。しかし、求めていた驚愕はこんなのじゃなかったのですけど。このあたりに腑に落ちないもやもやがあって、残念ながら手放しで絶賛はできない。冬絵の怪しさを前フリに使っていて、それをヒックリ反すという意味ではやられたのだろう。しかし、これまでに読んだ作品の様な悔しさはまったく感じなかった。軽いハードボイルドタッチで、キャラ読みしやすい作品なのだが、派手に謳った帯の文句は過剰すぎかな。本書だけを読んで道尾を判断されたくないが、ちょっと道尾らしからぬ作品だと思った。
余談をひとつ。これってケイタイ小説だったのか。奥付を見てびっくり。
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