「さようなら窓」東直子
2008年05月12日 (月) | 編集 |
さようなら窓さようなら窓
(2008/03/21)
東 直子

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あの窓のことをあたしは一生忘れない。「きいちゃんが眠れないんなら、なにか話をしてあげる」ゆうちゃんがくれた、やさしい不思議な、つんとする物語たち。雑誌『anan』連載時より話題沸騰。06年『長崎くんの指』、07年『とりつくしま』に続く、人気著者初の長編恋愛小説。《アマゾンより》

ゆうちゃんの家で暮らす20歳の女の子、きいちゃんこと築(きずき)。いつからか、きいちゃんは眠れなくなった。ベッドに入ったとたん、胸の奥がいたくなる。世界中の寂しさが、心臓をめざしてやって来て、ぎゅうぎゅうしめつけているみたい。右目の奥もじわーっと、そしてときどき、ぐーっと、痛くなる。「安らかに眠りにつける薬」も飲んでみたのに、ちっとも効かない。ベッドの中で、右を向いたり、左を向いたり、うつぶせになったり、じたばたしていると、先に眠っていたはずのゆうちゃんが、きいちゃんの肩をひきよせて、声をかける。眠れないんなら、眠れるまで、またなにか話をしてあげようか。

美容師をしているやさしいゆうちゃんが、不眠症でうまく眠れないどこか危うさのあるきいちゃんにいつも不思議なお話を聞かせてくれる。「泣いた赤おに」という絵本について語りあう。近所に住んでいた友だちのこうちゃんちの話。ジャムのつくり方を教えてくれたお春さんの話。転校生だった山上ゆかりさんの話。特撮とかの小道具をつくっていた岩ちゃんの話。ピョートル大帝と名乗る男のストーカーに怯える中田剛蔵。謎のくしゅを置き土産にくれたミリさんの話。パーパになれたという隣に引っ越してきたおじさん。ウソつきなのでホランと呼ばれていた女の子と偽加藤さん。これら不思議物語たちが少しずつ現実とまじり合い、独自の小説世界が広がっていく。

作品タイトルが示している通り、彼女が抱えていた問題は、やさしいだけじゃ解決しない。ゆうちゃんに頼りきりで、ずっと生きていくわけにはいかない。やがて、きいちゃんにも生き方を変えるときが来る。だれにも甘えないで、ほんとうの自分になるために。会いたいから、会わない。きちんと自分のことを、自分で考えて決める。そんな前向きな別れではあるが、一緒に過ごした時間の記憶、心に届いたものは一生消えない。

しみじみとした温かさがあり、もたれあう居心地の良さも共感できる。ふたりの決別は切なくもあるが、自分の居場所へ旅立つ姿は眩しかった。不思議な物語ではあるが、やさしさがあふれ、でも、やさしさだけでは前へ進まず立ち止まってしまう。大好きだけど、さようなら。弱かった自分とも、さようなら。すごくかわいくて、すごく心に浸みる、とても素敵な作品だった。