「ストーリー&テリング」松久淳+田中渉
2008年05月21日 (水) | 編集 |
ストーリー&テリングストーリー&テリング
(2006/07/26)
松久 淳田中 渉

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絵門千明と麻生藤太はともに三十七歳。絵門藤太というペンネームのコンビ漫画家である。麻生が原作担当で、プロットや登場人物、ストーリーを考える。それを書いたものを渡されたり話を聞かされたりして、漫画作品として仕上げていくのが絵門の担当。もともと、というか今でも、絵門はイラストレーターとして、一般的にはまだまだだが、出版業界ではそこそこ名も売れていた。麻生はもともと、というか今でも、超売れっ子の放送作家で、一般的に知られていなくとも、テレビ業界でその名を知らぬものはいないという男だった。

大雑把で女好きの独身貴族の麻生に対して、五歳の息子を厳しくしつけて育てている絵門。さて、助手席にむすっとした顔の絵門、後部座席の真ん中から子供のように身を乗り出している担当石川を乗せ、神泉のほうに新しくできたというバーに向かって、鼻歌を歌いながら麻生が運転するジャガーが高級マンションの駐車場を出ようとするちょうどそのころ。

表参道のイタリアンレストランを出た梶山真智子は、太田奈津の「もう一軒行こう」の誘いに時計を見つめて少し悩んでから、「よし」と笑顔になって頷いていた。真智子は小学校の先生で、六歳の娘のシングルマザー。真智子は、女としても、長いつきあいの大学の同級生としても、奈津の女っぷりには惚れ惚れする。しかもPR会社の女社長というキャリアも申し分なし。

バー・アモーレセカンドシーズン。店を切り盛りしているのは、長男次男三男と呼び合うアモーレブラザーズ。だが、その三兄弟。実は本業がそれぞれ、小説家とCMディレクターと映画宣伝プロデューサーとかいう、バー以上にいかがわしい連中で、ほとんど自分たちの楽しみのために店を持ったというパターンらしい。全員三〇代半ばすぎで、もちろん本当の兄弟などではない。

そのアモーレブラザーズの下ネタに、にやにやしている奈津と、その横でやや怒りをこめかみあたりに滲ませている真智子。そこに新しい客が入ってきた。男三人。絵門、麻生、担当石川である。初対面でいきなりバトルを始めた絵門と真智子だが、その翌日、絵門の部屋七〇七号室の隣の隣、七〇五号室に真智子母子が引っ越してきた。ともにバツイチで子持ちの似通った境遇の絵門と真智子。まるで中学生の初恋のような中年の恋愛に、親友、母親、子供達から励まされ、ふたりの恋愛は少しずつ進んでいく。

期待通りの面白さだった。「ラブコメ」「ラブかストーリー」とリンクした、王道をいくようなラブコメ路線の作品。想像通りに展開して、想像通りの結末に落ち着く。意外性なんてまったくないが、こういうベタを直球で行く作品は好きだ。漫画的な作品を読みたいかたにお薦めしたい。

「死神の精度」伊坂幸太郎
2008年05月21日 (水) | 編集 |
死神の精度 (文春文庫 (い70-1))死神の精度 (文春文庫 (い70-1))
(2008/02/08)
伊坂 幸太郎

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私は、人間の死についてさほど興味がない。人の死には意味がなく、価値もない。どの人間がいつ死のうが関係なかった。けれど、それにもかかわらず、人の死を見定めるためにわざわざ出向いてくる。なぜか? 仕事だからだ。

主人公は千葉と名乗る死神で、調査員として人間の世界に派遣されてきた。その調査とは、対象者となった人間を一週間にわたって観察し、「可」もしくは「見送り」と、「死」を実行するのに適しているかどうかを判断して、担当部署に報告を行う。しかも、その判断基準は個人の裁量に任せられているので、この調査制度は儀式的なものに近く、よほどのことがない限りは「可」の報告をする。

その結果が「可」である場合、その翌日、つまり八日目に、「死」が実行される。その実行を見届けて、仕事を終了したことになる。それが、死神の仕事だ。死神の千葉が関わる「死神の精度」「死神と藤田」「吹雪に死神」「恋愛で死神」「旅路を死神」「死神対老女」の6編を収録。

「死神の精度」
大手電機メーカーの苦情処理を担当しているぱっとしない女性、藤木一恵。負を醸し出す彼女には、自分を指名してまでクレームをしてくる常連クレーマーがいた。そのクレーマーが、彼女に会いたいと言ってきた。

「死神と藤田」
栗木という男を探している任侠の男、ヤクザの藤田。兄貴分を殺されたことに怒る藤田の側には、憧れの藤田を守りたい、だが、上から藤田の監視を命じられていることに揺れている舎弟の阿久津がいた。

「吹雪に死神」
吹雪で閉ざされた洋館で次々と人が死んでいく。招待状によって招かれた宿泊客の何人かは、すでに、同僚によって「可」の報告が出ていた。一緒に来ていた旦那がすでに殺されていた田村聡江が、今回の調査対象者だった。

「恋愛で死神」
八日目、荻原が血を流して無事に死ぬのを見届けた。ブティックで働く荻原は、向かいのマンションに住んでいる古川朝美に片思いをしていた。その恋が始りだした彼女のマンションの部屋内で、荻原は死んだ。

「旅路を死神」
喧嘩の末に人を刺し殺した森岡耕介が、ナイフを見せびらかすようにして、千葉の待つ車に飛び乗ってきた。森岡はその殺人以前に、母親をナイフで傷つけていた。逃走中の殺人者を乗せた車は、北へと向かって走りだす。

「死神対老女」
人間じゃないんでしょ。浜辺で美容室を営む老女にそう語りかけられた。そして老女はこうも言った。わたしが死ぬのを、見に来たんでしょ。その老女に、街の若者を四人くらい見つけて、明後日に店へ来るように声をかけて欲しい、とお願いされた。

これまでの伊坂作品とずいぶん趣の違う作品だ。一言でいうとシュール。苗字が町や市の名前で、CDショップの試聴コーナーから立ち去ろうとせずに、受け答えが微妙にずれていて、素手で人間の身体に触れると人間は気絶してしまう。そして、仕事をするといつも雨に見舞われる。そんな死神に取り憑かれた、六人の人間たちの人生を描いた作品であり、人間とは?といった漠然とした疑問を投げかけた作品だ。

個人的には、兄貴は特別という信仰に燃える舎弟がいい感じの「死神と藤田」、クローズドサークルに死神が挑む「吹雪に死神」、切なくもピュアな想いがあふれる「恋愛で死神」、最後に上手さが光る「死神対老女」が好きだった。この作品は、続編に繋げやすそうに思えた。そう思ったのは自分だけではないはず。この願いが、伊坂幸太郎に届くといいのに。


作品間リンク
「魔王」:千葉
「アヒルと鴨〜」:春