2008年05月24日 (土) | 編集 |
![]() | 宙(ソラ)の家 (角川文庫) (2006/12/22) 大島 真寿美 商品詳細を見る |
一刻も早く家に帰って眠りたい。女子高に通う雛子は、学校にいるといつもそう思う。彼女の家は、マンション十一階にある一一〇五。家族は、単身赴任中の父・理一、時々ヒステリックな母の圭以子、歳の割にしっかりした小学生の弟・真人、同居する祖母の萩乃。圭以子曰く、川森家の4LDKはどうにかこうにか地上約四十メートルくらいの宙空をくるりくるりと地球と一緒に回っている。
雪の積もったある日、学校から帰宅した雛子は、コタツでひっくり返ってぐうすか眠る萩乃に声をかけた。そんな所で眠ると風邪ひくよ、おばあちゃん。うう、と呻いた途端、萩乃が飛び起きた。お裁縫のお時間はいつもそう。運針の途中で眠くて眠くてたまらなくなってしまって。うふふ。聞き憶えの無い笑い方、笑い声。雛子は話にもついていけない。通信不能。ハギノ、ハギノ、ヘンジヲシテクダサイ、コチラヒナコ。雛子がパニックを起こしかけた矢先、通信が可能になったようだ。そして、ぐご、という萩乃の声が、軽いいびきに発展した。
なんかおばあちゃん、この頃少しおかしいのよね。数日後、圭以子が雛子に言った。圭以子の命令で雛子が萩乃の部屋へ様子を見に行くと、せっせと針を動かしていた。脇目も振らず布を縫っていた。堰を切ったように萩乃が運針するようになったのはそれからまもなくだった。おばあちゃんがボケだした。圭以子はヒステリーを爆発、雛子はあやふやにお手上げ、そんな中で、真人だけは萩乃とアクセスし始める。しかし、萩乃の通信不能はどんどん加速してゆく。時は繰り返し、地球は回る。一一〇五も回る。
同時収録の「空気」は、「宙の家」の後日談。しっくりこない夏休み。しっくりこない川森雛子。朝起きて、御飯を食べてまた寝て、少し起きて本を読んでうとうとして、昼食の支度をして真人と食べて、部屋に戻ってぼんやりして、そしたらまた眠くなる。自分の扱いが下手になっている。そんなヒナコに、真人の友人フミマル君から手紙をもらう。相談したいことがあるので、うちに来て欲しい。弟と二人で夏休みに弟の友達の家に行く。おかしなことになったが、それは真人の作戦だった。
ピンチなんです。兄が変なんです。フミマルの母違いの兄・波貴のことだ。鳥肌がたつぐらいクーラーで冷やされた部屋で、自分が撮影したビデオを無言で見続ける波貴のことを薄気味悪く思いつつも、何故か波貴のことが気になる雛子。フミマロ君はお兄さんはかっこよかったと言い、一方で、殺されると思ったとも言う。雛子と波貴、そしてフミマロの物語。
揺らぐ家族を描いた「宙の家」と、ショックから立ち直っていく「空気」の連続した二作品だ。どちらも大島さんらしい人間のダメさが出ているが、ボケ老人にあたふたしてしまうお話は、ウチのおばあちゃんを思い出した。お母さんがパニックになっていたが、実際はあんなもんじゃない。ここで披露するようなことではないが、身内にとってはすごく心身ともに疲労の限界をむかえる。そんな閉じ込めたブラックボックスを思い出した。そんな中、雛子とおばあちゃんの通信(カタカナ)には笑ってしまった。
「空気」は危ういバランスが素晴らしいと思った。ふいにベランダの柵を乗り越えて飛んでみてもいいような気になった。という書き出しで始まる一文にはっとし、空の向こうに何があるのか、という漠然とした疑問にちょっとした前向きな傾向が見える。死にたいわけではなく、何かにとぐろを巻かれているような感覚って少しわかる。わかっているけど抜け出せない。いや、抜け出す気にもならない。そういうぼんやりとした閉塞感が心に響いてきた。
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