2008年05月29日 (木) | 編集 |
![]() | タイマ (2008/03) 嶽本 野ばら 商品詳細を見る |
ある日、新宿をひとりで歩いていた小説家の僕は警官に呼び止められた。一応、職務質問ということでして。何が入ってるんですか? 中身は? どうして逃げる。何を持ってやがるんだ。タイマ――だと? こうして乙女のカリスマは、乾燥大麻とそれを吸引するパイプを所持することから大麻取締法違反、大麻所持の現行犯として逮捕された。
連行、逮捕、そして留置場に移送。一九八号と呼ばれ、執拗な尋問、家宅捜索にも同行。ここでの生活は秩序という名の許に決められた規則は必要であれ、不必要であれ、絶対のものであり、如何なる理由があろうとそれを損主せねばならず、どれだけ心情に訴えようとしても、個人の主義主張を通そうとしても、一切の特例が許されないことを悟る。過酷な留置所生活が始まる中で、作家である僕にとって何よりも辛かったのは、最愛の恋人との連絡が全くとれなくなってしまったことだった。
ストリップ嬢のあいと僕は運命的に出会い、お互いの唯一の理解者として、純粋な愛を育んでいた。BABY、MILKなど好きなお洋服のこと、NIRVANA、HOLEなどオルタナティブな音楽のこと。そして余りにお互いのセンスや思考が似通っていた。二人はシンクロし合ってしまったのかもしれない。それゆえに君は僕に、先生って超能力があるでしょ? 超能力者じゃなければ、どう考えても神よね。と問いかけてきた。ようやく釈放された僕が愛しい君と再会すると、なんと彼女は僕の真似をして、ドラッグに手を出していた。
どこまでがフィクションであり、ノンフィクションかはわからない。これを自虐ネタと取るか、悪ノリと取るかは読者によって別れるだろう。自身を投影しただろう主人公は、逮捕当時、反省がこれっぽっちもなく、逮捕されたことを小さなトラブルに巻き込まれた程度にしか思っていない。ある意味で、これがリアルな思いなのかもしれないが、そう言ってしまっていいの?そんな甘さを主人公に吐露させて大丈夫?などと、読者は心配してしまう。
そういった現実の事件を題材にしているのだが、本質的なテイストは今までと同じ。僕が君に問いかける。薬を常習した僕がぶっ飛んだ踊り子の君に問いかける。これまでだと、この痛さやブラックさが快感だったのだが、本書に限っていえば生々しすぎて、これを面白いと思ってもいいのだろうかと、無意識のうちに一歩後ずさりをしてしまう。
作品の価値とは別のところで身構えてしまうのは仕方がないと思う。それなのに、タイトルからして「タイマ」というストレートな爆弾を持ってきて、作品の内容がこれ。正常な読者なら、この作品を評価することは出来ないだろう。大きなチャレンジであることはわかる。だけど、答えを簡単に出すことは出来ない。今後、この著者にどう向き合えばいいのかは、読者が選ぶことであり、著者のこれから次第としか言いようがない。
2008年05月29日 (木) | 編集 |
![]() | のぼうの城 (2007/11/28) 和田 竜 商品詳細を見る |
戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかで最後まで落ちなかった支城があった。武州・忍城。周囲を湖で取り囲まれた「浮き城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の水攻めにも屈せず、僅かの兵で抗戦した城代・成田長親は、領民たちに木偶の棒から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。城代として何ひとつふさわしい力を持たぬ、文字通りの木偶の棒であったが、外見からはおおよそ窺い知れない坂東武者としての誇りを持ち、方円の器に従う水のごとき底の知れないスケールの大きさで、人心を掌握していた。武・智・仁で統率する従来の武将とは異なる、新しい英傑像を提示したエンターテインメント小説。《出版社より》
これは面白かった。史料に残された史実とフィクションが上手く融合されている。そのことによって、歴史好きなら知っている有名なエピソードが多い序盤は少し退屈だった。逆を言えば、歴史に疎いかたにはとても親切な作品だと思う。まあ、主な人物紹介や時代背景は作品に欠かせないから、歴史が好きだと言うかたは中盤までガマンしてもらいたい。
主人公は成田長親という無名の戦国武将。馬にも乗れず、刀術、槍術、体術、あらゆる運動ができない。武勇もなければ知力もない。百姓仕事を手伝うことを大いに好むが、恐ろしく不器用なために感謝されるどころか迷惑がられている。図抜けて背が高いが、ただ大きいだけ。その大きな男がのそのそ歩く。その姿がまさに、でくのぼうのごとくで、それに申し訳程度に様を付けただけ。家臣はおろか小物、さらには百姓領民にいたる者たちが、面と向かって呼ぶ。のぼう様と。しかしそこには愛情がある。俺たちがついてなければ、のぼう様は何もできない、そう思わせる得体の知れぬ人気があった。
石田三成に率いられた二万の秀吉軍に対し、忍城方は士分五百人と女子供の領民を合わせた総勢約三千七百人。篭城戦が繰り広げられるのは主に三箇所。成田家一の家老であり、長親の幼馴染みでもある正木丹波守利英は、東南の門佐間口で長束大蔵大輔正家と対峙。戦うために生まれてきたという同じく家老の柴崎和泉守は、東の門長野口で大谷刑部少輔吉継と対峙。兵書に親しみ、毘沙門天の生まれ変わりと豪語する若き家老の酒巻靱負は、南の門忍口で石田治部少輔三成と対峙。そして、のぼう様のためにと集まった百姓たち。
彼らの寡兵で大軍を破る合戦場面にわくわくし、三成の水攻めによって孤立してしまう忍城にドキドキし、それによって、でくのぼうと思われていた長親が取る行動に興奮する。天下統一を目指す秀吉の軍勢が、唯一、落とせなかった武州・忍城。その軍事絵巻が思う存分堪能できた一冊だった。読後は痛快の一言に尽きる。今後もこの作家は要チェック。
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