「ぼくらのバス」大島真寿美
2008年05月31日 (土) | 編集 |
ぼくらのバス (ピュアフル文庫 お 1-1)ぼくらのバス (ピュアフル文庫 お 1-1)
(2007/05)
大島 真寿美

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暇で暇で死にそうな夏の初めの土曜日、小学五年生の圭太は、弟の広太を誘って昔通った「バスの図書館」へ行ってみた。圭太の家の近くのお屋敷のすみに、動かなくなった廃車のバスがあって、そこは昔図書館だった。おじいさんがバスの図書館を作った人で、集まった子供たちみんなに本を読んで聞かせてくれた。こっそりお屋敷にしのびこむと、まず、びっしりはえた雑草が目に飛び込んできた。バスは、庭よりいっそう、あわれだった。おじいさんが死んだ日から放置されたままで、まるで、幽霊バスのようだ。

そのバスを二人で掃除をして、本棚を整理すると、圭太と広太の、ちらかしっぱなしの部屋よりも、きれいになった。すっかりかわりばえしたバスに、お菓子、オセロ、将棋、ポケット・ラジオなどを持ち込んで、秘密基地の完成。だれも知らない、ぼくらのバスだ。夏休みも半ばが過ぎたある日、バスの中に見ず知らずの中学生くらいの男の子がいた。以前この近所に住んでいたという中学二年の富士田順平は、家出してきたと言う。そして、今日からここに住むと言い出した。紆余曲折を経て、こうして、バスの利用者は三人になった。少年たちの、ひと夏の青春ストーリー。

こういう秘密基地って、子供の頃にはあった。自分の場合、空き家になったアパートの一室がそうで、友達と窓から侵入してよく遊んでいた。いま考えると、不法侵入なんだけど、でもそんなことが子供に分かるはずもない。ちょうどファミコンが出だした頃で、マリオやドンキーコングに夢中になる側らで、誰にも内緒の秘密の場所に、よく入り浸っていた。そんな子供時代を思い出して懐かしくもなり、そのアパートが潰されたことに切なくなったことを思い出した。

そういう子供だけの秘密って、どこか危うさがある。本書でいえば、家出中の順平が少ない所持金を浪費したことによって金欠になり、圭太と広太の兄弟は、お母さんに飼い猫と偽って中学生の順平の世話をする。皮肉な目線で見ると、親に隠れて自分より大きな動物を飼っていることになる。順平から見れば、二人の兄弟は餌を持ってくる飼い主だ。こういうバランスの悪さ、あやうさを描くのが、大島さんはひじょうに上手い。それでいて、居心地の悪さを感じさせずに、ほんわかと読ませてしまうのだから、さすがといったところだ。

少年たちの家の近くだけど、これは冒険の物語だと思う。自分たちでアイテムを揃え、ルールを作り、仲間の絆を深め、共に困難を乗り越えて、そして帰ってきたら、気づかないうちに少し成長している。今のゲームっ子や、塾通いにひーひー喘いでいる子供に、こんなわくわくはあるのだろうか。ぼくらの場所となるような遊ぶところがあるのか。そう考えると、ぼくらの子供の頃は贅沢だったのかも。

「熱風」福田隆浩
2008年05月31日 (土) | 編集 |
熱風熱風
(2008/02/29)
福田 隆浩

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息を整え、黄色いボールをゆっくりと投げ上げた。夏の日差しが、ボールの底に鮮やかな黒い影を作り出している。片足に体重を写し、ラケットを振りかぶる。ゆるめた膝に力を入れ、高みに舞い上がっていくボールの影を目で追った。ボールは光の中で一瞬留まり、そして、あきらめたように落下を始める。体じゅうの力を右腕の一点に集中させ、黒い影めがけてラケットを振り下ろした。ラケット面がボールを捕らえる音が両耳の補聴器から体の中に響き渡る。

主人公は盲学校に通う十二歳の孝司。物心が付いた頃には耳に補聴器という奇妙な機械がかぶさっていた。いつ何をする時でもその小さな機械は自分の身近にあった。孝司はあの試合のことを思い出す。人を馬鹿にしたような挑戦的な目つきをした白い帽子の少年。完敗だった。中山順一。それがあいつの名前だった。中山は髪の毛が抜けてしまう病気で、あいつの白い帽子の下にそんな秘密があったことなんて考えもしないことだった。あの髪が抜けむき出しになった頭皮がもとで、前にいたテニスサークルで相当辛い目にあったらしく、うちの桜庭テニス会に移ってきたらしい。

ある日のミーティングで、孝司は中山とペアを組むことをコーチから命じられた。中山と組んでダブルスの試合。猛練習をするが、頑固で負けず嫌いの二人は喧嘩をするばかりだ。家族のこと、学校のこと、自分たちのハンデのこと。テニスをしていれば、あれこれ余計なことを考えたり、思い出したりしなくてよかった。それになにより、勝ちたいという思いが誰よりも強い二人は、お互いに競うように練習に励む。少しずつわかり通じ合える二人だが、試合数日前になって中山が練習に現れなくなってしまった。中山がコートに現れることを、孝司はひたすら信じて待つが……。第48回講談社児童文学新人賞佳作受賞作。

この痛さは反則気味かな。でも面白さが勝っていたとも思う。聴覚にハンデを負った孝司は、忙しく働く親とコミュニケーション不足のまま過ごしてきた。聾学校では、親と子が授業を受けるのが普通だが、仕事が忙しくて親は手話をちゃんと覚えることなく、自由に語り合えないないまま月日を重ねてきた。現実に理想はない、と悟ってしまった聴覚障害の少年の姿は痛すぎる。

一方の中山は、同級生だけでなく、母親までも中山の容姿を差別する環境で育った。これは酷い。そのフォローは一応あるものの、酷すぎて怒りがふつふつと湧き上がる。たったひとりで自分を守るしかなかった少年の心を思うと辛すぎるし、飛んでしまった帽子を必死で追う中山の姿は反則だ。それにイジメの場面はやはり気が滅入る。

そんな二人が、喧嘩をしながらも少しずつ心をかよわせ、試合に勝つというひとつの目標に向かってひたむきに突っ走る。ダブルスペアとしては、言葉少なだけど、お互いの意思を読み取って、助け合っていく姿には胸が熱くなった。重い設定だけど、彼らの前を向いた姿には清々しさがあり、二人の少年を応援したくなった。でもやはり、これは反則気味。