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    2008

06.30

6月に買った書籍代

個人メモです。

合計15.623円

やっちまったー!

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自分への戒め
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    2008

06.30

6月に買った書籍

個人メモです。

単行本
オカンの嫁入りオカンの嫁入り
(2008/06/04)
咲乃月音

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破滅の石だたみ破滅の石だたみ
(2008/06)
町田 康

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ランラン
(2008/06/19)
森 絵都

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闇の底闇の底
(2006/09/08)
薬丸 岳

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虚夢虚夢
(2008/05/23)
薬丸 岳

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忍びの国忍びの国
(2008/05)
和田 竜

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文庫本
空の中 (角川文庫 あ 48-1)空の中 (角川文庫 あ 48-1)
(2008/06/25)
有川 浩

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対話篇 (新潮文庫 か 49-1)対話篇 (新潮文庫 か 49-1)
(2008/06/30)
金城 一紀

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I’m sorry、mama. (集英社文庫 き 16-2)I’m sorry、mama. (集英社文庫 き 16-2)
(2007/11)
桐野 夏生

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賢者はベンチで思索する (文春文庫 こ 34-3)賢者はベンチで思索する (文春文庫 こ 34-3)
(2008/06/10)
近藤 史恵

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クローズド・ノート (角川文庫 (し37-1))クローズド・ノート (角川文庫 (し37-1))
(2008/06/25)
雫井 脩介

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木野塚佐平の挑戦だ (創元推理文庫 M ひ 3-11)木野塚佐平の挑戦だ (創元推理文庫 M ひ 3-11)
(2008/06)
樋口 有介

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〔MF文庫 ダ・ヴィンチ〕晴れた日は、お隣さんと。 (MF文庫 ダ・ヴィンチ ふ 1-1)〔MF文庫 ダ・ヴィンチ〕晴れた日は、お隣さんと。 (MF文庫 ダ・ヴィンチ ふ 1-1)
(2008/06/21)
福田栄一

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好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫 ま 49-6)好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫 ま 49-6)
(2008/06/13)
舞城 王太郎

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雨の日も、晴れ男 (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1)雨の日も、晴れ男 (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1) (文春文庫 み 35-1)
(2008/06/10)
水野 敬也

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神様が用意してくれた場所 3 いつかの少年 (GA文庫 や 1-3)神様が用意してくれた場所 3 いつかの少年 (GA文庫 や 1-3)
(2008/06/14)
矢崎 存美

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春のオルガン (新潮文庫 ゆ 6-3)春のオルガン (新潮文庫 ゆ 6-3)
(2008/06/30)
湯本 香樹実

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    2008

06.30

「闇の底」薬丸岳

闇の底闇の底
(2006/09/08)
薬丸 岳

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埼玉県警からの連絡を受けて、日高署の長瀬たちはすぐに現場へ向かった。山道脇の斜面の草むらに牧本加奈は全裸で放置されていた。犯人は七歳の少女を凌辱した挙句に首を絞めて殺害した後、自分の汗や唾液や精液が検出されないよう遺体を洗浄する周到さだ。長瀬は冷たく固まった加奈の遺体を脳裏に焼き付ける。加奈はどんな苦しみを感じたろう。自分にされる行為の意味すらわからない子供をいたぶりながら殺した犯人への憎悪が溢れ出してくる。長瀬は姿の見えない犯人に心の中で言い放った。必ずお前を捕まえてやる。そして、死刑台に送ってやると。長瀬は小学四年生のときに妹を殺された性犯罪被害者の遺族だった。

坂戸中央公園のゴミ箱の中からスーパーの袋に入れられた男性の頭部が発見された。埼玉県警捜査一課の村上が現場へ行くと、その後、レジ袋の中から被害者のものらしき保険証が出てきた。身元確認のためにその住所のマンションを訪ねたところ、上半身裸の首なし死体が浴槽の中にあった。村上は吐き気を堪えながらよく見てみると、男の腹のあたりに刃物か何かで切った縦にも横にも斜めにも不規則に切られた傷跡があった。S……そう読めた。毎日のように起こる陰惨な事件。苦しみ悶える被害者や遺族の姿。とうてい理解できない犯罪者の思考。それらのものと対峙しているうちに、村上は疑問にぶつかっていた。自分がいるこの世界は自分が守るべき価値のあるものなのだろうか。

紗耶を失いたくない。妻の嘆き悲しむ姿は見たくない。男はある計画を思いついた。犯罪をなくすためには恐怖しかない。犯罪を犯すかもしれない者たちの個々に底知れない恐怖を植えつけてやる。しかし、それは同時に、自らも地獄へと導く道だった。紗耶を守るためなら男は自分の身を差し出すことを厭わない。牧本加奈が殺害される事件が起きると、男は行動を開始した。男の手帳には何人かの性犯罪前歴者の名前がある。これから子供が犠牲になる性犯罪が起こるたびに、このリストにある者を殺し続ける。男は警察やマスコミに対して、死体をバラしたときの映像と犯行声明文を送りつけた。サンソンという名前を語って。

これはドキドキだった。そして、すごく面白かった。性犯罪にあった遺族の気持ちと、出所した性犯罪前歴者を守る警察官という立場にいる長瀬の葛藤。その感情を表に出さない長瀬を見守るベテラン刑事の村上。それに加え、サンソンと名乗る男の計画。その三視点によってストーリーは展開していく。ミステリとしては、中盤あたりで帰結が想像できたが、それを差し引いても読み応えがあった。安易に長瀬に共感したとか、マスコミに煽られた一般市民のようにサンソンに同調したとか、そういったことはまったくなかったが、とにかく、薬丸岳はすごい、ということだけは分かった。行き着くところが見えているのにドキドキする。緊張して手に汗握る。もう痺れまくった。

これまで作品を読まなかったことが悔やまれる。新刊の「虚夢」もすでに手に入れてあるので、デビュー作ともども読んで行きたい。今後も追いかけて行きたい作家に出会ってしまった。

サイン本に、むふふ。

薬丸


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薬丸岳
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    2008

06.29

「瑣末なおもいで」埜田杳

些末なおもいで些末なおもいで
(2006/12)
埜田 杳

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眠れない夜の底にいた。ベッドに横になる直前までは確かに眠たいのに、いざ横になれば目が冴える。一向に意識が遠のく気配がない。眠れない。眠りにくい日々が続いたある日、窓を開けてみた。そこは深海のようだった。檜山か。その時不意に、深海で声がした。同じ高校の、同じ部活の矢鳴恭巳だった。やはり眠れずに夜のそ底をうろうろさまよう矢鳴と、まともに言葉を交わした最初の日だった。二人は次第に打ち解けあい、キューピーさんとあだ名される矢鳴の幼なじみの女子生徒も輪に加わった。その矢鳴から、檜山にだけ打ち明けられたことがある。俺さ、あれに罹ってるよ。

″あれ″とは。最初は痒くなる。躰の何処かが、無性に痒くなる。掻いているうちに、羽根かが生えてくる。羽根が生えたら、痒かった部位は無くなる。生えてきた羽根が、部位を持ってどこかへ飛んでいくからだ。罹ったひとは、将来的に全身を無くすことになる。死ぬのかどうかも判らない。何故罹るのかも判らない。ひとには伝染らない。勝手にある日突然あるひとりが罹り、勝手に無くなってしまうのだ。

檜山は矢鳴に近づきたいと思う。だけど、友達とは何かがわからない。そこでキューピーさんに聞いてみると、彼女はこう答える。友達も、親友もいない。そんな区分けが大嫌いだ。好きなひとと、嫌いなひとと、どちらでもいいひとしかいない。そしてクラスメイトはどうでもいいひとたち。彼女はそう思うことで自分を守っていた。

そのキューピーさんのことが好きな矢鳴は、自分の想いやさまざまなことを檜山に語る。矢鳴が話す相手になぜ檜山を選んだのか。たいして親しくなかったから。深くまでは踏み込むことをしないから。もしくは深くまで踏み込む交友をしない臆病なやつだと思ったから。などと檜山は自問自答する。キューピーさんと同じく檜山もまた、自分で周りとの壁を作っているのだ。

そして、自分の知る人物がいなくなる。喪失してしまう。友達といえるのか、親友といえるのかもわからない。やがて矢鳴は学校まで辞めてしまうが、何も変わらない。人ひとり減ったところでどうにも、何も変わりはしない。社会もそんなものだ。その程度のものだ。個人なんて。人ひとりなんて。しかし、矢鳴が消えても、これからも生きていかなければならない。矢鳴の痕跡は薄れ、矢鳴を思い出すことは少なくなるだろう。そんなとき、自分はどう思うのか。あるいはどう向き合うのか。

奇抜な設定で、別れに対する心の揺れを描いた作品だ。抽象的すぎる部分はあるが、いなくなってしまうことがわかっている人物との距離の取り方や、自分との折り合いの付け方や、なにもかもが未熟だ。だけど、これが青春という若さなのかもしれない。思い出にはしたくないけれど、いつのまにか思い出になる。忘れることが大人になることなら、大人になるということは残酷なことだ。しかし、いつまでもあの頃にはしがみついていられない。そんな難しいことを考えてしまった読書になった。

某ネット書店では辛口だったけれど、そんなに悪くはないと思った。

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    2008

06.28

「ぶたぶたの食卓」矢崎存美

ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)
(2005/07/12)
矢崎 存美

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薄ピンク色のバレーボールくらいの大きさで、右側がそっくり返った大きな耳と突き出た鼻。手足の先は濃いピンク色をしている。しっぽもちゃんとついていて、しかもぎゅっと結んである。そんな見た目は愛らしいぶたのぬいぐるみだが、中身は心優しき中年男。名前は、山崎ぶたぶた。彼と出会った人々が新たな一歩を踏み出す。シリーズ第六弾。

「十三年目の再会」
祖母がよく話していたこの街に引っ越して二ヶ月。いつもシャッターが閉まっていた中華料理店にのれんがかかっているのを見て、小池由香はその店に入った。その店で食べたチャーハンの味が、祖母の作ってくれたチャーハンとそっくりだった。由香は思い出す。十三年前に死んでしまった祖母とは、二年間ふたりで暮らしていた。その祖母が作ってくれたチャーハンが大好きだった。あの懐かしい味がなぜ、ここにあるのか。その答えは、常連客の山崎ぶたぶたから語られる。

「嘘の効用」
谷萩琢己は実家の農業を継ぐことが嫌だった。家を出よう。東京に行こう。会社に入って働こう。そうして勤めた会社を十年目にして辞めた。一月近くぷらぷらした琢己は、とりあえず何かを始めようと思い、男性のみの料理教室に通うことにした。その料理教室の講師として現れたのは山崎ぶたぶた。何だか雰囲気がほわんと明るくて、教え方も丁寧。リストラされたと嘘をついて料理を習う日々が半年ほど過ぎたある日、講師の仕事で食べていると思っていたぶたぶたが、会社をリストラされていたことを知った。

「ここにいてくれる人」
刈屋美澄は何をするにも億劫になり、夫に内緒で、診察を受けてみると軽い鬱だと診断された。その同じクリニックに通う久美子と知り合いになり、彼女が最近アルバイトを始めたというカフェに行き、彼女のすすめるクレープを食べてみた。美澄はこれを食べたことがない。まぎれもなく初めての味だ。それでもこれは、思い出の味だ。美澄が子供の頃に思い描いていた理想のお菓子の味だった。これを作ったのは、このカフェのマスターである山崎ぶたぶただった。

「最後の夏休み」
吹成一司は二十年ぶりにこの街にやってきた。小学五年生の一年間を過ごした街だ。一司が生まれてすぐに父親が家を出た。母親は親戚に一司を預け、住み込みで働き始めた。これまで親とは一度も暮らしたことがない。ずっと一人ぼっちだった一司だが、この街で初めて友達ができた。ぶたのぬいぐるみが親という彼女。好きなだけカキ氷を作って食べさせてくれたぶたぶた。ひどいことをしてしまった彼女に謝りたい。優しくしてくれたぶたぶたにお礼が言いたい。母の会いたいという手紙を読んで、一司はこの街にやってきたのだった。

このシリーズについてはもう語ることがない。お薦めです。

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矢崎存美
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    2008

06.27

「夕子ちゃんの近道」長嶋有

夕子ちゃんの近道夕子ちゃんの近道
(2006/04/27)
長嶋 有

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西洋アンティーク店のフラココ屋に集い繋がって深まり、やがて、めいめいが自分の場所に旅立ってゆく。フラココ屋を舞台にした七つの連作短編集。

フラココ屋の二階に転がりこんだ僕は、フラココ屋の店番をするようになった。店長はインターネットオークションの対応が忙しく、閉店時にしか顔を出さない。その店長と長い付き合いがある瑞枝さんは、特になにも買わない常連客だ。その瑞枝さんと僕との交流を描いた「瑞枝さんの原付」。

店長の実家兼フラココ屋本店からの帰りのホームで、夕子ちゃんと一緒になった。夕子ちゃんはフラココ屋のオーナーの孫娘で、大家の八木さん宅はフラココ屋のすぐ裏にあり、姉の朝子さんとそこに三人で住んでいる。夕子ちゃんは定時制高校に通っていて、コスプレが好きだ。その夕子ちゃんに誘われて、はじめて歩く道で帰ることになった「夕子ちゃんの近道」。

夜の三時の電話は瑞枝さんで、スクーターでこけて怪我をしたという。翌日、瑞枝さんの安否を心配しつつ、三年ぶりに日本にやって来たフランソワーズとの待ち合わせ場所へ店長とともに絵を届けに行くと、瑞枝さんが店長の昔の恋人だったとこっそり教えられた。その数日後、フランソワーズは店長の前カノだったと瑞枝さんに聞かされる「幹夫さんの前カノ」。

現役美大生の朝子さんの卒業制作はフラココ屋の裏口ですすめられた。だから用事で裏口を通るたびに、木の箱を作り続ける朝子さんの没頭する姿を見つづけた。その作品がついに完成して、展示されることになった。その展示された作品を見て、巨大な都市を連想し、そのことを伝えると、朝子さんの顔が曇った。何かに見えることは失敗らしい「朝子さんの箱」。

フラココ屋の本店に行くとフランソワーズが待っていた。そのフランソワーズは、亡くなった祖父が集めた家具がたくさんあるので、フランスまできて欲しいという。翌日、フランソワーズが相撲のチケットを持って店にやってきた。そこへ、夕子ちゃんが現れて、おじいちゃんが気絶したと言い出した。きっと、あのことを打ち明けたんだ「フランソワーズのフランス」。

少しの居候のつもりだったのが、フラココ屋の二階に住んでもうすぐ半年になる。手伝いとはいえ小道具屋の仕事を、店長の仕事ぶりを目の当たりにしてきた。しかし、簡単な接客や店舗の掃除しかしていないので、何も身に付いていない。それ以上を望んでいないからだ。そろそろ帰る時期がきたのだろうか「僕の顔」。

フランスへやってきた。店長はのみの市。僕はそれに付き添い。瑞枝さんは友達に会う予定。夕子ちゃんたちは観光。皆、目的はばらばらだ。いつもなにかが自分たちをゆるく束ねている。日本ではフラココ屋が。フランスではフランソワーズの部屋が「パリの会員」。

全体的にまったりしている。主人公の僕でさえ謎のままだ。名前も、年齢も、家族も、フラココ屋で居候するに至った経緯も明らかにされない。瑞枝さん曰く、背景みたいに透明な人。そういった空気のような主人公の目線でフラココ屋に集う人々を見続ける。そして時間の流れと共に人々のことがわかり、くっ付きすぎず離れすぎずという微妙な距離感を持ったまま、お互いに影響を与え合って、行くべき場所へ巣立っていく。

世間からはみ出した人々が集うフラココ屋。こういったコミュティがあると楽だろう。こんな休憩ならしてみたい。そう思えた気持ちのいい一冊だった。

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長嶋有
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    2008

06.26

「雨の日も、晴れ男」水野敬也

雨の日も、晴れ男 (文春文庫 み 35-1) 雨の日も、晴れ男 (文春文庫)
(2008/06/10)
水野 敬也

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二人の小さな神がいた。一人の名をシャナ。もう一人はワンダー。二人はまだ幼く、そして、よく一緒に遊んでいた。ある年のクリスマスの朝、シャナはおやじたちの目を盗んで、「運命の手帳」を持ち出してきた。この手帳に名前と運命を書くと、その書かれた人物の人生はその通りになってしまう。シャナは下界の隅々を見渡して、イギリスのロンドンにいる一人の男をターゲットにすることにした。

男の名前はアレックス。どこにでもいるような家庭を持ち、毎日決まった時間に会社に行き、週末は家で子供と遊んで暮らす。平凡を絵に描いたような男だった。二人の幼い神が、互いに争いあって、不幸な出来事をいたずら書きしたことによって、善良なアレックスに突然不幸が次々と押し寄せる。

ここからネタバレしています。ご注意を。

目覚まし時計が故障し、アレックスは遅刻をするが、そこにいたのは人事異動で初めて会う上司。その上司にいじわるをされるが、アレックスは意表をついたいいわけで怒りをかわすが、待っていたのは仕事の大失敗。そこで取引先へ直接出向いてあやまり、大物社長とのコネを作って会社に戻ると、アレックスは円形脱毛症になっていた。このハゲを生かして仲間から笑いを取ろうとするが、突然会社をクビになってしまう。

カフェで今後のことを考えていると、見知らぬ男から殴られて、大乱闘の末に病院で治療を受けるはめに。警察の事情調査が終わった頃、アレックスの携帯電話が鳴った。パパ、助けて。娘はいないが過去に関係のあった女が娘を産んだのかも、と想像を働かせた結果、お金を振り込む。振込み詐欺だった。

そのあと家へと帰る途中に、家が火事で息子がまだ家の中にいる、とパニックに陥った妻からの電話があった。駆けつけたアレックスは、ビデオを撮影する野次馬にオレの姿を撮れと命じ、燃え盛る我が家へ突入し、息子を助けて脱出。燃える家のわきで、クリスマスを祝うが、仕事をクビになったことを妻に告げると、妻は息子を連れて猛ダッシュで逃げてしまう。

アレックスは全てを失った。シャナとワンダーのいたずらがすべての原因だった。しかし、アレックスはどこまでもポジティブな男だった。その悲惨な状況を楽しみ、自分のいいように勘違いをし、人をかばい、誰かを笑わせようとして、ひたすら前向きに生きようとする。

こんなヤツはいねえ、と言ってしまえばそれまでだが、くだらないのが面白い。笑いのジャブに、何度か声をだして笑ってしまった。全部のジャブがヒットするわけではないが、クリーンヒット率はかなり高かった。だけど、それだけのものでしかなかった。でも、息抜きや暇つぶしに読むには丁度いいかと思う。肩肘はらずに読めて、アレックスに癒されて、とにかく笑える本だった。

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    2008

06.25

「オテルモル」栗田有起

オテルモルオテルモル
(2005/03)
栗田 有起

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二十三歳の本田希里は実家で生活している。家族構成は両親、双子の妹、妹の子供、その子の父親だ。現在、両親と妹の沙衣は家におらず、めいっこの美亜とその父親の西村さんと三人で暮らしている。沙衣が薬物中毒でリハビリ施設にいて、両親は沙衣につきっきりで、いまも病院のそばに部屋を借りて、父はそこから会社に通い、母ともども彼女の世話をしている。希里はめいの美亜が小学校に上がったのを機会に、ここぞと思う場所で働きたかった。

そのホテルは地下にあるという。最下階は13階、客室は九十九ある。募集しているのはフロントデスクの受付だった。年齢や学歴は問わず、接客の経験がなくてもかまわない。勤務時間は日没から日の出まで。夜に強く、孤独の癖があり、めったにいらいらしない人を歓迎する、という。

そこで、希里は履歴書を書いて投函し、面接を受けるとあっさり採用。三日間の研修を経て、フロントデビューすることになった。このホテル、オテルオテル・ド・モル・ドルモン・ビアンは会員制契約型施設で、お客様に提供するものは、最高の眠り、そこからみちびかれる最良の夢だった。どうか良い夢に恵まれますように、とお客様に声をかけるフロントでの仕事、そして、声の届かなくなった妹の沙衣と対話をする物語。

これは不思議な物語だ。現実から隔離されたような不思議なホテル(作中ではオテル)での仕事と、希里と沙衣の双子姉妹の生い立ちから現在に至るまでの波乱万丈が交錯して書かれている。気持ちよく眠るためのホテル内での循環システムについては説明を省くが、希里の家族構成がとにかくすごかった。

生まれつき病弱だった妹の沙衣は、成長過程の間でぶっ飛んでしまい、ついには薬物中毒になってしまう。薬物中毒なった沙衣は、両親につれられて病院へ通ったり、カウンセラーを渡り歩いていた。両親の愛を、心配を一身に集める沙衣に対して、地味で平凡な生活を過ごしてきた姉の希里。高校に進学した希里は、学年が二年上の西村先輩と付き合うようになる。夏休みのある日、両親と沙衣は長野で行われるカウンセリングの合宿に出かけたので、希里は西村先輩を家に泊めた。二日目に買い出しから希里が帰ると、西村先輩は沙衣と抱きあっていた。そして、沙衣は妊娠して美亜が生まれた。しかし、沙衣の悪行はまったく変わらず、先に書いたとおりで、希里はめいの美亜とその父親の西村と三人で暮らしている。

この西村という男はどう考えてもおかしい。まともな神経じゃない。この設定からいくと女の敵であるはずだ。だけど、何とも影が薄い。ストーリーの流れでは、最後は姉妹の絆的な物語になるのだが、この西村はまったく除け者にされている。触れないことで見せしめにしているのだろうか。まあ、本題とは関係のないところで熱くなってもしかたがないので、西村についてはここまでにする。

お客様と一体になって眠りを提供する不思議なホテル。そこで、姉妹は一度ずつ眠ることになる。彼女たちは楽しかった子供時代の夢を見る。そして、二人で仲良く遊んでいたことを思い出す。特に眠れない沙衣がホテルで眠ると、お客様も寝過ごすほどの安眠がホテルに訪れる。何がどう作用したのかはわからない。しかし、読者だけはしたり顔で微笑むことができる。少し不思議な設定だけれど、すごくいい物語だった。

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栗田有起
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    2008

06.24

「年下の男の子」五十嵐貴久

年下の男の子年下の男の子
(2008/05/16)
五十嵐 貴久

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買ってしまった。印鑑を握る手が、ちょっと震えていた。三十七歳にして池袋から電車で三十分、2LDK、三千八百万円の新築マンションを買ってしまった。わたし(川村晶子)はマンションだけは買うまい、と決めていた。三十七歳、独身、一人暮らし。これでマンションを買ってしまったら、何かを認めることになってしまう。決して口には出せない、何かを。でも、買ってしまった。

マンション売買契約の翌日、いつも通りの一日が始まるはずだった。勤めている銘和乳業は飲料メーカーとして業界で中位クラスだが、最近は医療品や化粧品の分野にも進出している。わたしは宣伝広報課に所属し、社内広報とPR業務が仕事だ。それが三十七歳にして初めて、本物の土下座を見ていた。

銘和乳業では、春の主力商品である健康バランスドリンク?モナ″の宣伝のため、フリーペーパーの配布を実施することになっていた。そのフリーペーパーの編集は青葉ピー・アール社に一任してあった。そして配布を明日に控えた今日、定価表示が抜け落ちていることがわかった。?モナ″の発売日は明日だ。そこで抜け落ちた空白部分に価格を印刷したシールを貼ることになり、つまり、担当者であるわたしと、ピー・アール社契約社員の児島くん二十七歳の二人だけで、徹夜作業をすることになった。

登山が趣味だという典型的なアウトドア派の児島くんと、DVDを見るのが何よりの楽しみだという半ば引きこもりに近いわたしでは、生きている世界があまりに違う。おまけに彼は二十三歳、わたしは三十七歳、このジェネレーションギャップはどうにもならないだろう。十四も年下の男の子とどうにかなるなど、どんなうぬぼれた女でも考えない。でも、と思う。話さなくても、十分楽しかった。楽だった。そのあとはよく喋った。そして、もっと話していたいと思った。それって、もしかして。ちょっとだけだけど、胸が小さく鳴った。この感情はもしかしたら。そして……。

オレ、川村さんが好きなんです。まっすぐに好意を伝える児島くん。嬉しくないはずがない。でもそれはやっぱり難しい。まだ恋をしたい。男の人と付き合ってみたい。だけど、自分の年齢を考えれば、次に付き合う相手は結婚ということを考え合わせなければならない。だから十四歳下ともなると、常識の中ではあり得ない。彼が好意を示してくれたことは事実だけれど、本気で受け取ってはいけない。真剣になってしまえば、最終的に傷つくのは自分だから。

五十嵐さん、すごすぎです。なんで、こんなにも女性の心理がわかるのだろう。覆面作家で実は女性作家?なんてことを思ってしまうほどすごい。五十嵐さんのデビュー作から三冊ほどは、はらはらしながら読んだ記憶がある。それが、最近は安心して読めるようになった。今回はラブコメ要素がたっぷりで、大人の女性の恋物語になっている。主人公のわたしと年齢が近い女性の方は、羨ましいことこの上ないだろう。男である自分にとっては、共感できるとか、そういった部分は全然なかったけれど、十分とキャラ読みさせてもらった。

揺れるわたしの心と共に、お仕事小説の側面もある本書。若い児島くんが青すぎて、たまに寒くなるけれど、これは読んで損ナシだと思った。お薦め。

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五十嵐貴久
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    2008

06.23

「天国の本屋」松久淳+田中渉

天国の本屋 (新潮文庫)天国の本屋 (新潮文庫)
(2004/04)
松久 淳田中 渉

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さとしは就職が決まらなかった。何をしたいわけでもない。そもそも大学だってみんなが進学するからなんとなく行っただけで、そのうちやりたいことも見つかるだろうとタカをくくっていた。さとしは深夜のコンビニで大きなため息をついていたら、派手なアロハシャツを着た初老の男に声をかけられた。なんか急に倒れたような気がした。次にさとしが目覚めると、そこは本屋だった。どこの商店街にでもあるようなごく普通の本屋だ。

アロハのおっさんはヤマキと名乗り、ここは天国の本屋だと言った。さらにヤマキは言う。人間の現世での寿命というのは、実は百歳ジャストに設定されている。もちろん誰もが百歳まで生きられるわけではない。二十歳で死ぬ者もいれば八十歳で死ぬ者もいる。つまり、二十歳で死んだ者は天国で八十年、八十歳で死んだ者は天国で二十年、残りの人生を生きることになる。そして、百歳という天寿をまっとうすると、人は天国での記憶をすべて消去され、赤ん坊として現世に再び生まれてくる。そう言い残してヤマキはバカンスに行ってしまった。

突然、天国の本屋でヤマキの代理としてバイトすることになったさとしだが、いざ働き始めてみると、自分でも不思議なくらいこの仕事が性に合っていることに気づいた。さらにこの店のサービスである朗読を担当することにもなるが、さとしが本を読めば読むほど朗読目当ての客がどんどん増えた。ついには店の一角に朗読専用のコーナーまで設けてしまった。誰もがさとしの朗読に耳を傾けるというのに、ユイだけは決してそれをきこうとしない。ユイとは本屋のレジを担当する若い女性で、減らず口だけど、けっこう可愛い顔。必要以上に髪をショートにしてノーメイク。その薄いグリーンの瞳を持つユイに、さとしは恋心を抱いていることに気づいた。

すぐに読み終えてしまう短い物語だけど、長々と内容紹介をしてしまった。ようするに、さとしが自分の性に合った仕事を見つけ、ユイに恋をするが、そのユイの心には闇があって、という、わかりやすい王道を行く作品だ。でもこれが、優しく温かな気持ちになれて、幸福感がどっと押し寄せてくる。それに加えて、本屋さんが舞台なので、さまざまな本が紹介されている。ページの後にある引用・参考文献の本はネタバレしていたが、ちょっと心憎い演出だと思う。気軽に読めて、いい気持ちになれる。本好きさんなら、さらにプラスαがある。これはすごくいい本だと思った。

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松久淳+田中渉
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    2008

06.22

「福袋」角田光代

福袋福袋
(2008/02/15)
角田光代

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人生に“当たり、ハズレ”なんてない!? 謎で不可解な届け物や依頼、または同僚や夫など身近な人の不可解さに出くわしたら、あなたならどうする? 8編の短篇をとおして、直木賞作家が開く、人生のブラックボックス。《アマゾンより》

角田さんの作品は、大きく別けるとしんどい系とありがとう系の二種類がある。しんどい系とは、読むとへとへとに疲れる作品だ。ありがとう系とは、よくぞ書いてくれた、ありがとう、となる作品だ。そのありがとう系の代表作が、「この本が、世界に存在することに」「Presents」の二作品だ。本書のジャケを見て、ありがとう系を予想して手を出すことにした。これが微妙だ。読みやすいし、かわいらしいユーモアもある。でも、人間の嫌な部分も描かれている。これに疲れるかといえば疲れはこない。どちらかの系統でいうと中間にあたる作品だ。ではさらっと内容紹介を。

「箱おばさん」
駅ビルの地下にある洋菓子屋で働いている私。そこへずいぶん大きな段ボール箱を抱えたおばさんがやって来て、すぐに戻るからと強引に段ボール箱を置いていった。いつまで待っても箱おばさんは帰ってこない。店長にぐちぐち嫌味は言われるし、それに箱の中身はいったい何だろう。

「イギー・ポップを聴いていますか」
それはどう見たって、捨ててあるのではなく、届けられたもののように見えた。家の真ん前には電信柱があり、そこはゴミ集積場になっているから、ごくふつうに考えれば、それはゴミだ。そのきちんとした紙袋を、拾いものではなく、届けものだと思うことにして、そっと家に持ち帰った。

「白っていうより銀」
二人ではじめたことを二人で終わらせる。そんな必要もないのに二人で離婚届を出してきた。それから、握手することもなく礼を述べ合うこともなく、互いに背を向けて、駅のホームへと続く階段を駆け上がった。すると、トイレに行く間だけと言って、若い母親が赤ん坊を押しつけて走り去ってしまった。

「フシギちゃん」
恋人が女とメール交換をしていることを年上の同じ派遣社員に言うと、一緒にごはんを食べようと誘われた。その長谷川さんはかつて、恋人の部屋で居候していたと言う。そして、彼の留守の間に、引き出しを開け、箱という箱を開け、棚という棚をのぞいて見た。すると、ついにパンドラボックスを見つけてしまった。

「母の遺言」
母の四十九日に集まった四人の兄妹。母にずっと付き添っていたのは、実家を離れたことがない長女だった。その長女から、形見分けと遺言状が遺されていることを知らされる。まとまったお金があることが分かり、兄はいかがわしい店のオープン資金、姉は悲劇のヒロインを演じて苦労の報酬、まじめな妹はユニセフに寄付、私はわけのわからない借金を抱えている。はたして遺言状の中身は。

「カリソメ」
二つ年上の友彦とは、出身大学や学部が同じというだけで親近感を覚え結婚したが、三年半、夫だった友彦は、二週間前に出ていった。本気の相手は、二十四歳のフリーターだった。もうここにはいない友彦宛の郵便物の中に、同窓会の通知があった。交際中も結婚後も、友彦の友人に会うこと、名前も聞いたことがない。何ひとつ知らないことが薄気味悪くなったので、同窓会の代理出席を決めた。友彦がどんな男だったのか、訊いてみようと思ったのだ。

「犬」
珠子とはお見合いパーティーで出会い、結婚前にはお試し期間が必要というわけで、同棲することにした。新居に一軒家を見つけて引っ越してきたら、前に住んでいた人の飼い犬が玄関前にいたので、犬を飼い主のもとへ届けに行った。すると、その女は感謝の言葉もなく、再会を喜ぶ気配も見せない。それ以降、珠子は犬の様子を毎日見張りに行くようになった。

「福袋」
炎天下、私はさっき会ったばかりの女性と大阪の街を歩いていた。私よりひとつ年下の彼女は、兄の恋人ということだった。その三重子の情報では、兄はこの繁華街の一角にあるラーメン屋で働いているという。中学高校とあがるにつれ、どうしようもない男になってしまった兄だが、ついに犯罪者にまでなってしまった。私は亡くなった母の言葉を言ってやるつもりで、兄に会いにきたのだ。

開けてびっくり、何がでてくるのかな、といった作品集だ。モノであったり、記録であったり、理由であったり、猜疑心であったり、思わぬものであったり、借りの姿であったり、本当の姿であったり、本心であったりと、実際に読んでみないと中身がわからない。そこにいろんな意味があって、それを知ることで、それ以前とそれ以後の関係性や見えてくる風景が変わってくる。それはいい方向に向かうばかりではない。見ない方が良かった場合もある。それを開けるかどうかは本人次第。あなたならどうしますか?

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角田光代
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    2008

06.21

「シルエット」島本理生

シルエット (講談社文庫)シルエット (講談社文庫)
(2004/11)
島本 理生

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冠くんに初めて出会ったとき、彼を霧雨のような人だと思った。二人の始まりがどこだったのか、正直よく分からない。言葉の量よりもタイミングや空気で伝えようとする彼に、必死で耳を傾けた。そんなとき、自分の気持ちがたしかに彼に全身全霊で向かっていることを感じていられたし、彼もまた、わたしのそういう心をしっかりと感じとって、絶妙なタイミングで笑顔を返した。冠くんには秘密が一つだけあった。冠くんの母親は浮気をくり返すようになって、とうとう父親のほうが激しい口論の末に妻を刺して逃走した。母親は寝たきりになったという。

それ以来、女の人の体に嫌悪感がある冠くん。それは徹底していた。手をつなぐことさえも、例外ではなかった。冠くんと恋愛するようになって、わたしはようやく自分の存在を認められたようで嬉しかった。ただ、彼は、わたしの肉体までは愛することができなかった。あのときのわたしは自分に自信のない子供だった。自分のすべてを認めて肯定してくれる存在を必要としていた。そして彼はそんなわたしの一部分だけを愛した。冠くんと別れ、むちゃくちゃな精神状態のまま半ば居候のように転がり込んだ遊び人の藤井。今の恋人、大学生のせっちゃん。

せっちゃんとの毎日は楽しい。けれど気を緩めるとすぐに、あの日々に引き戻されそうになる。それはまるでわたしが望んでいるかのように強く、後ろ髪を引く。こんなにもせっちゃんを本気で好きなのに、冠くんとのことはまるで別格のように自分の中に今でもはっきりと存在していることに我ながら唖然としてしまう。女子高生の内面を鮮やかに描いた群像新人賞優秀賞の表題作と、「植物たちの呼吸」「ヨル」を収録。

自分が高校生だった頃とあまりにも隔たりがありすぎて、少し引いてしまった。今の女子高生って、男の家に入り浸ってやりまくりなんだろうか。しかも、男の家から学校に行くなんてことは考えられない。これが男ならさもありなんだけど、女子高生がねえ。でも、心理的な描写はさすがに上手いと思った。誰かと触れて安心したいという想い。だけど、冠くんは手も触れてくれない。肩を抱いてくれない。そういう寂しさは、すごくこちらに伝わってくる。その点でいえば、今彼のせっちゃんは安心をくれる。だけど、冠くんを忘れられないことにもやもやもする。好きなまま別れたのだから。今彼がいて、元彼を想って心が揺れるのだけれど、こういう上手く折り合いがつけられない青さが、不器用さが、等身大の女子高生と言えるかも。

熱くならずにどこまでも静かで、それでいて揺れる想いが熱い。これって若さだなぁと思った作品だった。恋人の部屋で恋人を待つ女性を描いた「植物たちの呼吸」と、自分の存在を否定されることを恐れる少女を描いた「ヨル」の二作品。この女の子たちの不安感もなるほどなぁと思った。でも、やりまくりは…ねぇ。ちょっと衝撃度が大きかった。

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島本理生
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    2008

06.20

「星のひと」水森サトリ

水森

星のひと

中学三年の槙野草太を中心に据えた、「ルナ」「夏空オリオン」「流れ星はぐれ星」「惑星軌道」四つの連作短編集。

「ルナ」
体が重い。心も重い。重力が重いのだ。女子の仲良しごっこがくだらない。やかましい母親。小汚い部屋。幼い頃のはるきは本当のお母様からのお迎えを待っていた。本当は大金持ちの家の娘だ。いつかきっと本当のお母様が現れて、このあばら家から救い出してくれる。もちろんそんな夢想はすぐに終わった。でも、いまだに終わらない思いがある。自分の居場所はここではないこと。自分は何か、特別な存在であること。いつの日か、必ず、何かすごいことをやってのける。ある日、クラスメイトの草太の家に隕石が落ちた。あの隕石は、ほんのわずかに軌道がずれれば、自分の上に降っていた。あと一歩で自分が主役になれたのに。そんなイライラが爆発して、UFOを召喚する約束をしてしまった。

「夏空オリオン」
槙野草一郎、三十五歳。今年で勤続一五年。もがき続けた年数は、そのまま息子の年齢と重なっている。草一郎の結婚は、いわゆるできちゃった婚であった。息子の草太は誰からも望まれず胎内に宿った。せめて草太が成人するまでは、演じきらねばならない。愛しあう夫婦。円満な家庭。全責任を負うなどと豪語しておきながら、今では家事も子育でも、ほとんどさっちゃんに任せきりだ。墓場まで持っていく決意でいた愛してるの嘘も、すでにメッキが剥げ落ちている。さっちゃんには、どれほど感謝を尽くしても足りない。尊敬もしている。だが、ひとりの女性としてどうかと言えば、太ったさっちゃんに欲情のカケラも抱けなくなって久しかった。そして、星降る夜に、夫婦は崩壊に向かい加速を始める。

「流れ星はぐれ星」
ビビアンは尽くした。骨までしゃぶらせるほど貢いだ。そうするに足る男だった。それが突然ぽいと捨てられて、行くあてのないままホテルに泊まった。明日からの暮らしのことは、明日になったら考えよう。翌朝、テレビの中に、遠い初恋の人が映っていた。隕石が民家を直撃というニュースとともに。かつてお隣に住んでいた、八つ年上のお兄さん。それは恋と呼ぶにはあまりに幼い思い出だ。なにしろ当時のビビアンは、まだ男子小学生だったのだ。しかし、心の奥底にしまい込んでいた思いが、一気にあふれ出してくる。今でも草ちゃんがいちばん好き。草一郎に会いに行こう。ビビアンは自分を焚きつけて、化粧もそこそこ、一〇分後にはホテルを飛び出していた。

「惑星軌道」
暑さにダレた教室に、目が覚めるニュースが飛び込んできた。草太の家の屋根に隕石が直撃したのだ。クラスメートはきゃっきゃと草太に群がったものだが、明浩にはそんな真似はできやしない。関心の片鱗も覗かせず、だが内心ではウズウズとしていた。斜めに生きる者として。肩で風切る者として。理科系オタク少年のような、あどけなくも辛気臭い趣味は、あってはならぬことだった。だが、隕石である。宇宙から飛来した隕石は、地球よりも高齢である可能性がある。なんと地球よりもだ!欲しい。隕石がどうしても欲しい。草太に譲って欲しいと切り出したいが、なかなかきっかけがつかめずにいたその日、明浩と草太は七人の若者にボコられて、気がつけば、ボートに乗せられて川の上を漂っていた。

はるき、草一郎、ビビアン、明浩に草太とオールキャスト、という流れで、槙野家への隕石直撃の前後を描いた作品だ。「ルナ」はとにかく青い。自意識の塊のようであるはるきだけれど、自分をイジメる相手を逆に不憫に思ってしまう強さがある。そういったイジイジしない部分に好感が持てた。「夏空オリオン」は草一郎の異星人ぶりが目立った。ばかみたいに優しいひとで、なんでもかんでも受け入れてしまう。だけど、こういう人と結婚したさっちゃんは大変だ。でも寂しいストレスからぶくぶく太り、暴言を投げつけることで、心を開かそうとするのは間違っている。結婚前のエピソードを読むと、どっちもどっちかな。明らかにさっちゃんは変な人だし。「流れ星はぐれ星」はビビアンの乙女ぶりがかわいらしかった。最後に見せる老獪な部分も笑えた。「惑星軌道」は明浩の不器用さや、太陽のような草太の根っこが見られて、さらに全員集合で各話のその後が披露される。そして、タイトル「星のひと」の意味がわかる。

デビュー作である「でかい月だな」でも思ったが、人物の心理描写が抜群に上手い。ちょっと複雑な部分をさらりと書いてしまうのだ。「ルナ」のはるきのような息苦しさだけでなく、すべての人たちが、《本当の自分はべつにある》と思っている。その痛みは誰にでもあって、その痛いところをちくちくと突いてくる。自分で言えば、「惑星軌道」の明浩がよく似たタイプだった。やんちゃをしているからこそ、本当の自分を出せない。カッコ悪いと思っているのだ。そういう痛さが、すごく共感できた一冊だった。

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その他の作家
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    2008

06.19

「荒野」桜庭一樹

荒野荒野
(2008/05/28)
桜庭 一樹

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以前ファミ通文庫で刊行された「荒野の恋」の第一部と第二部の二冊に、第三部を新たに書きおろして、一冊の本にまとめられたのが本書。

主人公は山野内荒野、十二歳。幼い頃に母を亡くした荒野は、北鎌倉は今泉台にある、なかば崩れかけたような古い大きな平屋で、いつも女の匂いをぷんぷんさせている恋愛小説家の父と、年齢不詳の若い家政婦さんと、三人で暮らしていた。その荒野が中学校に入学する日、電車のドアにセーラー服を挟まれているのを、文庫本を熱心に読んでいた同じ中学の制服を着た少年に助けられた。彼の持っていた本は「青年は荒野をめざす」五木寛之。わたしと同じ名前、と言おうとしたのだけれど、少年はわきめもふらずに行ってしまう。

同じクラスになった、巻き巻きヘアーで美人顔の江里華や、日焼けしたショートヘアの麻美という新しい友達もできた。そして、電車で出会ったあの少年、神無月悠也とも同じクラスになるが、荒野の名前を知ると、悠也は何故か睨んできた。その悠也が語った。遠くに行きたい。荒野と悠也は少しだけ話しをするようになったある日、山野内家に見覚えのある母子がやって来た。神無月蓉子さんと、息子の悠也だった。父と蓉子さんが再婚すると、荒野はそのとき初めて聞かされたのだ。「第一部」

十三歳になった荒野だけれど、学校は相変わらずだ。ますます大人びた江里華とボーイッシュになった麻美との仲良し三人組も健在。けれど、ひとりだけクラスからいなくなった男子生徒がいた。遠くへ行きたいと言っていた悠也がアメリカへ留学していた。そして、蓉子さんのお腹の中に赤ちゃんができて、男子と話すことが苦手だった荒野にも、気軽に話せる男子の友達ができた。悠也とは全然違うタイプで、クラスの中心的な存在の阿木くんだった。「第二部」

十五歳になった荒野に小さな妹ができた。中学から一貫の高校は相変わらずだ。中学入学と同時にできた三人組も、もう三年以上のおつきあい。お互いの考えていることや行動パターンがなんとなく身にしみこんでいる。東京の全寮制男子校に進学した悠也とは、月に一、二回デートするようになった。いちおう恋人どうしと言ってよい。これは父にも蓉子さんにも語ることがない秘密。最近やたらと家が静かなのはなぜだろうと思っていたら、父の小説がなんとかいう賞の候補作になり、そのことがきっかけで山野内家はおかしくなってしまう。「第三部」

早く大人になりたい、変わりたい、という気持ち。まだ知らないことを、全部、知りたい。でも変わりたくもない。恋ってなぁに?という荒野が十二歳の第一部。恋、とか、好き、という気持ちは、相変わらず、わかったようなわからないような、不思議なもの。でも、好きな人もしたがるよ、という、見え始めたそれは、なんだか不気味なようにも思えてしまう荒野が十三歳の第二部。男子は男子、女子は女子で固まってけっして相容れることがなかった中学のお子ちゃまのころから、いつのまにか、恋の秘密も、性の発見も、大勢ではなく、二人きりで共有するものになった荒野が十五歳の第三部。荒野が少女から少しずつ大人の階段を登っていく作品だ。

レトロな雰囲気が漂う古都鎌倉。その町で育つ青臭い少女たち。少し匂いフェチっぽい地味な荒野、すごく美人さんなのに女の子好きな江里華、スポーツ万能で活発な麻美。出会った当初に一番おませなのは、大人びた江里華なのに、高校生になると、彼氏持ちの麻美が先を行って、彼女があれこれ語る体験談がたいへん貴重になっていく。そんな風に、成長速度の違う三人のバランスがすごく良かったと思う。

女性をとっかえひっかえするのはいかがなものか、という嫌悪を抱きそうな小説家の父だけれど、真面目にキザなセリフを言うのがユーモラスで、どこか憎めないのだ。それに、一緒に住み出した頃は、子供扱いをしていた蓉子さんと荒野の関係も、いつの間にか、嫉妬に苦しむ蓉子さんを荒野が気遣うようになっている。作品のラストでは、対等のおんなとして、蓉子さんの背中を押す荒野が印象的だった。

「赤朽葉家」では女三代を描いていたが、本書では、荒野の十二歳から十六歳までの成長過渡期を描いている。この年頃の一年って、女子にとってはすごく大きな変化があると思う。自身の身体の変化もあり、好きという一言の重みも変わり、なにより、女子が女性、男子が男性というように、時間の流れが急速に変わっていく。その変換期を抽出した本書は、すごく読み応えがあった。

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桜庭一樹
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    2008

06.18

「My name is TAKETOO」ヒキタクニオ

My name is TAKETOOMy name is TAKETOO
(2008/04)
ヒキタ クニオ

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主人公はフィリップ・K・武任。職業はバレエダンサー。二〇二一年アメリカ、ロサンゼルス区で、日本国籍の父親とアメリカ合衆国で育った白色人種の母を持つ異種交配種として生まれる。手足の長い体躯のバランスと骨格は、母親の持っていた白色人種のDNAを受け継ぎ、柔らかく閉まった筋繊維と肌理の細やかな肌は、父親の持っていた黄色人種の質感を持っている。男の足の指は両足とも四本しかない。バレエを踊るために矯正を施してある。男の第五中足骨粗面があったであろう場所の切断面には、リエ・チタニウムが嵌め込まれていた。競技者は金属の足を使って踊るのだ。そのような過酷なバレエダンスの世界大会で、フィリップ・K・武任は五年にわたってグランプリ勝者を続けている。

とまあ、人物紹介だけで気づくとは思うが、主人公が競技するバレエは普通のバレエではない。競技の美しさや技術を採点するだけでなく、身体に対する金属使用量の割合が減点制の採点になり、また、金属を足に装着することによる鎮静のためのドーピングが認められ、その使用量が減点方式で採点されている。つまり美しさを表現するとともに、その肉体の痛みを耐える精神を競う競技でもあるらしい。

一方で、この近未来二〇六〇年の世界経済を見ると、石油社会の覇者であったアメリカは没落し、水素エネルギーを安定して供給することを可能にしたオーストラリアが世界経済の中心にいる。そのオーストラリアからバレエダンスの世界大会が始まる。40歳を前にした武任の背後にぴたりと張り付く若いライバルの存在。武任は老いを受け入れ、老化と戦おうと決意したとき、突然、身体の変調に襲われる。

誰もが武任の身体を自分たちが創り上げたと自負するチーム・タカトウのスタッフ。トレーナーのテッド、専属外科医のドン、ドーピング担当のブランカ、監督のジョナサン、メカニック担当の高城と室田。彼らは武任とともに一丸となって事態と立ち向かおうとするが、そこには金にものを言わせる権力者によるスタッフの買収があった。闘うバレエダンサーの過酷な運命と究極の美しさを描いた作品だ。

読む前は興味がほとんどなかった。ヒキタクニオの新刊だから読もう、と単純に思っていただけだ。しかし、読んでびっくり、これがすごい大作であった。毎日の身体の管理、ケア、食事制限と、どこまでもストイックにバレエに臨む姿や、躍動する競技場面に、衰えていく肉体、重圧から来る精神の疲れ、追われるものの過酷さが、鮮やかに描かれている。そして、先代チャンピオンから勝ち取った称号とともに、受け継ぐことになった重圧だけではないたくさんの事柄。それらに対する武任の姿が、刀のように鋭くて、ここに研ぎ澄まされた美があるように思った。ハイテク化が進んだ近未来の世界だけど、一番大事な根っこは今と変わりがない。それが何なのかを、ヒキタクニオが語っているように感じた。

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ヒキタクニオ
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    2008

06.18

「消える総生島」はやみねかおる

消える総生島<名探偵夢水清志郎事件ノート> (講談社文庫)消える総生島<名探偵夢水清志郎事件ノート> (講談社文庫)
(2007/07/14)
はやみね かおる

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第一回万能映画新人オーディションにご応募くださいまして、ありがとうございました。念入りな選考の結果、あなたが選考に残りましたので、ご通知いたします。つきましては、予告編フィルムのロケーションを兼ねたクリスマスパーティーを行いますので、ご参加のほど、よろしくお願いします。

万能財団が映画グループを作ることになり、万能映画第一弾として、社長自らが監督をすることになった。その映画のイメージガールに選ばれた亜衣、真衣、美衣の三つ子の姉妹は、総生島に招待された。その姉妹の親切をあてにして生活をしているお隣の教授は、総生島で事件が起こると主張し、世にも呪われた不思議な事件を解決できるのは名探偵の夢水清志郎だけだと豪語し、強引に彼女たちに同行する。

都会を遠く離れた孤島に無事到着するが、やがて、乗ってきたクルーザーは爆破、電話線は切られ、閉ざされた島になり、島に伝わる伝説の鬼が現れ、そして、人が消え、山が消え、島が消え、館が消える。少々強引なところはあるが、キャラの魅力で読ませる名探偵夢水清志郎事件ノート第3弾。

息抜きにもってこいの作品だ。これはシリーズ作なので、いちいちの感想はパスしたい。よって内容紹介だけで、ご勘弁を。

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    2008

06.18

「ぼっちゃん 魏将・郝昭の戦い」河原谷創次郎

ぼっちゃん

ぼっちゃん―魏将・カク昭の戦い

時は三国時代の中国。多くの功績を挙げながらもその功績を部下たちの手柄とし、昇進とは無縁の生活を送っていた魏の将軍・郝昭。人間としては立派だが世渡りベタの父の姿に、息子・凱は苦々しく思っていた。そんな折、諸葛孔明の侵攻を防げとの大命が郝昭にくだされる。不利な状況のために無理やり押し付けられた役目だったが、これを凌げば大出世は間違いない!凱は父の業績をしっかり伝えるために従軍を申し出た。名将・郝昭と孔明の陳倉城の激突をダイナミックに描いた期待の新人、堂々のデビュー!第13回歴史群像大賞最優秀賞受賞作。

三国志関連の作品では蜀の国、いわゆる劉備と孔明側の立場で書いた作品がほとんどだ。本書は敵国として見られがちな魏側の目線で書いている。しかも、曹操や夏侯惇や夏侯淵、敵になる蜀側の劉備や関羽や張飛といった英雄たちの没後の時代だ。はっきり言って有名人がいない。よって、殺戮マシンたちによる人間離れした活躍があるわけではない。しかし、これが読ませるのだ。

蜀の孔明軍は魏への北伐を五度も行う。その北伐といえば孔明対司馬懿を連想するだろう。しかし、五度とも孔明対司馬懿の対決があったわけではない。その北伐の二度目にあたる陳倉城の攻防では、突然、郝昭(カクショウ)の存在が浮かび上がってくる。後に名将と呼ばれる郝昭だけど、この時点ではまだ有名にはなっていない。

本書では、その郝昭を主人公にするのではなく、その息子である郝凱の目線で書かれている。作品タイトルでわかる通り、ぼっちゃんだ。この奇抜な試みだけでも賞賛に値する。人質として都で育ったぼっちゃんは、父の同僚がどんどん出世していくのを見て育ってきた。それゆえに、立身意欲に欠ける父をはがゆく思っている。そういった中央の動きは知っている。一通りの兵法も学んでいるので知識だけはある。だけど、戦場を一度も体験していない。

この陳倉城の篭城戦で、ぼっちゃんは戦闘というものを初めて経験するわけである。自軍は正規兵千人足らず、民兵もわずか二千足らず。一方の敵軍は二万という大軍。作戦は城を守って、いつくるとも知れない本隊を待つだけ。初陣であるぼっちゃんは怖い。しかし、どんなに不安でも、一人逃げ出すわけにもいかない。父を信じて戦うしかないのだ。

さて、本当の主人公である郝昭だが、金城の湯池将軍(きんじょうのとうちしょうぐん)と呼ばれる篭城線のエキスパートだ。彼の戦いぶりはあえて書かないが、とにかくカッコいい。その父の戦う姿を見て、ぼっちゃんは何を思うのか。シンプルな作品だけど、これがすごく面白かった。文章も気が抜けるほど軽やかで、章割りもさくっと区切られている。それに三国志を知らなくても楽しめる作品だ。これは今後も楽しみな作家が誕生したと思う。

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    2008

06.17

「FUTON」中島京子

FUTON (講談社文庫 な 70-1)FUTON (講談社文庫 な 70-1)
(2007/04/13)
中島 京子

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大学で日本文学を講義しているデイブ・マッコリーは、日系の学生で愛人でもあるエミと時間を開けて家を出て、三時間後には教室で最前列に座っているエミに再会する。エミはデイブがこれまで教えた学生の中でもいちばん頭が悪い部類に入っていたが、華奢で毛のない四肢と漆黒の長い髪が彼をひきつけてやまない。おまけに脇フェチで、おぼこかったエミを大人の女にしてやったと悦に入っているエロオヤジだ。そのエロオヤジ、もとい、デイブは百年前に書かれた田山花袋の「蒲団」を研究し、妻目線で見た「蒲団の打ち直し」を執筆している。

「蒲団」とは、作家の元に弟子入りした若い女のことを憎からず思っていた作家だが、女にはやがて同世代の恋人ができる。その二人の付き合いに、作家の内心は穏やかではないが、師であり保護者という立場にあるため、注意はするものの強い態度には出ることができない。理解がある大人という見栄をはっているのだ。そこへ最終的に、二人に肉体関係があることが発覚し、作家の怒りは爆発、女は故郷に帰るはめになる。(明治時代の貞操観念によって) その女が去ったあと、作家は気づく。あれは恋だったと。

その「蒲団」をなぞるように、エミ・クロカワは日本からの留学生コンドウ・ユウキと関係を持っている。それを知ってしまったデイブは、いつの間にかエミに対して執着していた自分に気づきうろたえる。そのエミが失踪し、なにも手につかなくなってしまったデイブだが、エミが夏休みに日本へ行くという情報をつかむや、偶然誘いを受けていた東京で開催される学会に出席することにした。つまり若い女を追いかけて東京まで行ってしまう。

そして、エミの祖父の店「ラブウェイ・鶉町店」で待ち伏せするうちに、デイブは画家のイズミと知り合う。エミの曾祖父ウメキチが馬鹿に健康で区のヘルパーに来てもらえない。そこで父親の世話まではできかねるタツゾウ(エミの祖父)に雇われたイズミは、おじいちゃんの絵を描くという名目でウメキチに近づき、身の世話をしている。そのイズミには同居人であり恋人でもある男装のハナエがいて、男だと思い込んでいるウメキチはハナエが面白くない。

そしてそして、ウメキチはイズミに会ったことでなんとはなしに華やかな気分になり、かつて戦火の中で出会い、関係のあったツタ子の記憶まで表に出てくる。彼女は終戦後、米兵相手の娼婦になり…。その記憶を聞いたイズミは、ウメキチの体験を本格的に絵に描こうとする。やがて、デイブとイズミは新たな三角間系ができあがってしまう。

簡単にまとめる文章力がなかったので、延々と内容紹介を書いてしまった。わかりやすく言えば、ここにあるのは「蒲団」を下地にしたちょっと込み入った三角関係ばかり。どこを切っても三角関係が出てくる金太郎飴のようなものだ。いやらしさはまったくない。ただ、若い女の子に振り回される中年男が滑稽なだけ。いつの時代でも中年男は若い女が好きで、若い女は利用するだけして去っていく。この中年男の惨めさにおかしみがあるのだ。

そのベースになっている「蒲団」を知らないという方も安心して読めると思う。デイブが書いた体である「蒲団の打ち直し」が、本文中に挟まれているからだ。これが「蒲団」を側面から見た物語になっていて、デイブたちの物語にも繋がっていく。別れた妻のサラ、エミ、イズミ、ハナエと、さまざまな女たちが語りながらデイブを通り過ぎていく。その女を知るという経験が、「蒲団の打ち直し」のラスト、失恋に泣く作家の妻の心情を書かせるに至る。上手い。これは面白い。だけど、この作品の良さを伝えるのは困難なのだ。もうお手上げ。

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中島京子
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    2008

06.16

「カフーを待ちわびて」原田マハ

カフーを待ちわびてカフーを待ちわびて
(2006/03/20)
原田 マハ

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舞台は沖縄の離島、人口八百人の与那喜島。友寄明青の日課は、砂浜で暗くなるまで黒いラブラドール犬のカフーと遊ぶこと。そのあと、裏のおばあのところで夕餉を食べる。同居していた祖母が他界して七年、家業の雑貨商をひとりで切り盛りする明青の食事の面倒を見てくれていた。その夜、おばあは大切なことを思い出したように訪ねた。ウシラシ(お知らせ)、あったかね。おばあは島にいる唯一の巫女で、そして、何よりその霊感は神がかっていた。

おばあのところから戻った明青が郵便受けを開けに行くと、青い封筒が一通、ひらりと足元に落ちた。北陸の孤島へ島民一行と出かけたとき、ウケ狙いで「嫁に来ないか」と絵馬に書いた。その絵馬を見て「私をあなたのお嫁さんにしてくださいませんか」と幸という女性が応えてきた手紙だった。これがさっきおばあが言っていたウシラシなのか。

そして三週間後、夕方の散歩の帰り道、「友寄明青さんのお宅はどこでしょうか」と明青はひとりの女性に声をかけられた。それが幸だった。こんな美しい人には会ったことがない。しかも、これからお世話になります、と一方的に宣言し、明青の家に住み込んでしまう。どこから来たのか、どういう理由でここまで来たのか、いつまでいるつもりなのか、大事なことは何ひとつ聞けないまま、溌溂とした幸に明青は惹かれていく。折しも島では、幼なじみが勧めるリゾート開発計画の波に、小さな島は静かに揺れていた。第1回日本ラブストーリー大賞受賞作。

思っていたより面白かった。出来すぎかなと思うところはあるが、こういうピュアなのは好きだ。主人公は右手にハンデを持つ朴訥な男。そこにやって来たのは、白い帽子とワンピースが似合ういい女。一見お嬢様のように見えるが、実際のところは、大飯食らいで、寝ぼすけで、わんぱくで、料理を含む家事全般が苦手でというアンバランスな女。男って意外とこういう一面に弱いかも。一方的な偏見だけど、得意料理は肉じゃが、とか言う女は信じられない。

じれったくて、甘酸っぱくて、切なくて、いなくなるかもしれないという不安があって、どこまでもピュアだ。かといって、単純な男女の恋愛ものかと言うと、そう簡単ではいかない。ちょっとミステリっぽいところがあるし、カタチの違う家族の物語であったりする。

でも作品としては惜しい部分がある。リゾート開発に住民の意思が流れ込むこと、それにからんで反対派の子供がイジメられること、それがきっかけでその家族が島を離れてしまうこと。これが作品の雰囲気をぶち壊していたように思えた。ここはのんびりな沖縄モードで一貫して欲しかった。

だけど、友寄明青というぶきっちょな男の物語としては面白かった。犬のカフー、裏のおばあ、そして謎の多い幸。友寄明青の生活すべてをしめることになる人たち。ここの三角プラス犬はすごくいい雰囲気で、この先どうなるのだろうと興味を持って読むことができたし、気持ち良く本を閉じることができた。しかし、ほんと惜しい。好みの問題だけど。

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原田マハ
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    2008

06.15

「ショートカット」柴崎友香

ショートカット (河出文庫 し 6-4)ショートカット (河出文庫 し 6-4)
(2007/03)
柴崎 友香

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どうやったらワープできるん?表参道に行きたいねんけどという想いを描いた「ショートカット」と、真夜中におるから思ったことがほんまになるという奇跡の「やさしさ」と、考えても仕方ないことを考えるのはやめるというのが目標の「パーティー」と、行きたいとこは行ってみたらええということに気づく「ポラロイド」の四編を収録。

「ショートカット」
〈なあ、おれ、ワープできんねんで。すごいやろ〉 合コンに参加した小川奈津は、自己紹介のときはいちばんタイプじゃないと思っていたこの黒目がちな丸刈りの人だけれど、なんとなく、この話がどこかにつながるような感じがした。少なくとも、おもしろくない人とは思わなかった。瓶ビールを、グラスが余ってるのにジョッキに注いでいるから。さらに、なかちゃんは言う。〈一瞬で東京やで。しかもな、表参道やで〉 東京。表参道。一ヶ月前から奈津の心の中にずっとある地名。愛梨ちゃんが見ていた雑誌に、表参道にいる森川の写真が載っているのを見つけたときからだ。

「やさしさ」
南堀江のはずれにあるあっちゃんの小さなカフェは、一周年のお祝いパーティーでたくさんの人でいっぱいになっていて、会社が終わってすぐに来てから、五時間以上もいたけれど、ずっととても楽しかった。二時間前に片野くんが来てからは特に。これから学校の友達の家に行くという片野くんと話したかったので、わたしも帰らなあかんけど電車はもうないから歩いて帰ろうかなあ、とタクシー代ぐらい持っているくせに聞こえるように言ってみると、片野くんは途中までいっしょに歩いてくれると言い出した。三十分以上かかりそうな道程なのに。

「パーティー」
一週間ほど前、フリーマケットで中古レコードやがらくたを売っていたなかちゃんと名乗ったその人は、写真をやっているのでモデルになってほしいと和佳ちゃんに頼みこんだ。どうしても写真に撮りたいと熱く語り続け、和佳ちゃんだけじゃなくてわたしと二人でと言っていることにようやく気づいたときには、和佳ちゃんもわたしもそんなに言うならちょっと行ってみてもいいけど、と曖昧な返事をしてしまった。目指すマリーナへと続く堤防を歩く途中に水門を見て、あの人のことをまた思い出してしまっていた。この何日か、彼のことを思い出すことが増えてしまった気がする。一段落したように思っていたのに。

「ポラロイド」
ポラロイド写真の中には、ほんの数分前まで確かにここで目の前に見えていたものが全部揃っている。シャッターを押して、わざと浮かび上がるまで画面を見ないで、何分後かに答え合わせをするみたいに写真を見る、その瞬間がおもしろくてまたポラロイド写真を撮る。雑誌の編集者である木島さんとの打ち合わせに東京へ来たわたしは、木島さんの顔が別れた彼氏と似ていることに気づいた。久しぶりにその人のことを思い出したけれど、今、なにをしているのかを電話して知らせたいのは、ここからそう遠くないところに住んでいるはずのその彼ではなくて、大阪にいる別の人だった。

ここにあるのは日常の風景ばかり。合コンや、二人きりの夜道や、夏の暑い一日や、見知らぬ街で過ごす一日だ。そういうどこにでもありそうなシチュエーションの中で、二十代の大阪人女性が、男友達、女友達、友達の恋人、仕事の付き合いがある人、なかちゃんらと会話しながらも、心の中にいる特定の人を想っている。憧れだった人や、遠距離恋愛の彼や、まだ忘れられない元彼や、すでに次の恋の相手という具合に。

これらは独立した物語になっているが、なかちゃんという魅力ある男の子が、すべての物語に登場している。作品の順番では時系列はバラバラだけど、読んでいくと、なかちゃんの一日の行動が見えてくる。ふたりの女の子をモデルにして写真を撮り、合コンでべろんべろんに酔って、自転車で帰る途中に転んで怪我をして、遅くなったが東京にいる友達に約束通り電話する。なんてことはないが、これもどこにでもある日常の風景のひとつで、このなかちゃん遊びはちょっとおもしろい。

それにしても、柴崎さんが描く女の子って、毎回ともなんてかわいいのだろう。彼女たちに魅力があるからこそ、物語の世界にすうっと入っていける。その女の子たちが出没する場所がまた、馴染みのあるところばかりで、彼女たちが歩く情景が目に浮かんだ。これは大阪人だけの特権だろう。でも他の地域の方であっても情景が見えるかもしれない。それだけの筆力があると、前から常々思っている。これって評価しすぎなんだろうか。

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柴崎友香
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    2008

06.14

「フェイバリット」高田侑

高田

フェイバリット

城井由真、二十九歳。この年齢は正直重い。土壇場のように思えてならないのだ。別に何かが変わるわけではないのだが、三十という年齢に手の届く場所に自分がいるということが、つまり土壇場なわけだ。由真は仕事をやめて二ヶ月になる。資格を取るのに二年を費やし、就職先がなくて一年を棒に振り、ようやく見つけた働き口でプロの保育士としてデビューした。それから七年。一生懸命が報われない職場だとも気づかず、無理をしてしまった。胃潰瘍も円形脱毛症も一度ならず経験し、じんま疹に悩まされるに至って早めに対処しておけばよかった。職場に近づいただけで激しい嘔吐感に襲われ、三半規管が悲鳴を上げはじめたところで退職を決めた。

ハツモは渾名で初茂一幸というのが彼の名前で、その珍しい名字のためにハツモがそのまま愛称になった。小学校からの幼なじみで、どういうわけか高校も同じだった。男として意識したことはないが、年に二度くらいの頻度で遊びにでかけている。小太りだし、三十前だというのに髪も少しうすくなってきている。はっきり言ってしまえば「いけてない」ハツモと会おうと思うのには、ちゃんと理由がある。ハツモと出かけると、思いがけないことが待っているからだ。行き先は毎回違って、ハツモにおまかせすることにしている。

牛が好きなんだといわれて牛舎へ連れて行かれ、芝生の丘ででんぐり返り、河川敷で凧揚げし、大声コンテストで叫び、池でザリガニ釣り、杉林でカンツォーネを熱唱する男に会い、一面の緑がはえる芝畑でのんびりする。ハツモは誰かを喜ばせるためじゃなく、自分の好きなこと、お気に入りの場所に連れて行く。ハツモの流儀は単純明快。自分の受けた感動を、衝撃を、別の誰かに味わわせたい。誰もが喜ぶわけではないが、由真の心は騒ぐ。どきどきする。すげえ!と叫ばずにいられない。

読み始めは、文章が下手っぽい、野暮っぽいと思ったけれど、慣れてくるとそんなに気にならないようになっていた。とにかく、いけてないハツモに魅力があって、読み手はぐいぐい読まされる。ハツモは相手の気持ちをつかもうなんて、これっぽっちも考えないまま、相手の懐にスッと自然に入る。なにより自身が楽しんでいるから、気がつけば壁を作らずに仲間を作っている。

これは由真とハツモの物語であり、ハツモと過ごす中で、由真が見失っていた自分の何かを見つけ出す物語でもあり、由真の家族の物語でもある。これが詰め込みすぎの窮屈ではまったくなくて、自然と心が温まる物語になっている。ただ、帯に「笑いのジャブ」と書いてあるが、微笑ましくはあっても笑いはなかった。そこは作家ではなく、出版社のミスかもしれない。だけど、笑いがあると思って読む読者は、あれ?と首を捻ってしまう。そこが少し引っかかってしまったが、それを差し引いてもいい気分になれた。これは面白かったです。

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    2008

06.13

「風花」川上弘美

風花風花
(2008/04/02)
川上 弘美

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里美は卓哉の恋人である。三年ほど前から、卓哉と恋愛をしている。卓哉とは同僚で、卓哉の五年後に入社した。里美と卓哉のそういう関係を、匿名の電話で、のゆりは知らされた。電話があった日の夜、のゆりは卓哉に電話のことを報告した。里美との関係の有無を問いただそうとしたわけではない。ただ、どうしていいかわからなくて、かといって腹に溜めておくほどの決意もつかず、ともかく報告したのである。卓哉は里美との関係を否定せず、あまつさえ、離婚のことまでほのめかした。

翌日の昼、里美から電話があり、のゆりは里美と直接会うことになった。里美はてきぱきとした女だった。卓哉のことは好きである。でも卓哉とのゆりが離婚することは望んでいない。たとえ離婚しても卓哉と結婚する意志はない。どうしてものゆりが卓哉との恋愛をやめてほしいと希望するならそれも可能だが、いくばくかの時間が必要である。ごく事務的に説明され、のゆりは圧倒された。結論はそちらに預けます、と、取引先とのやりとりのような言葉を残し、里美はさっさと席を立った。

卓哉はその後だんまりを決めこんで口を閉ざしているばかり。その沈黙が、事態を膠着させてしまった。里美からその後連絡はない。のゆりからも、里美に連絡をしていない。里美からゆだねられた結論を、のゆり自身もどうやって出していいかわからないまま、二ヶ月という時間が、ゆるやかに過ぎていった。

ほわんとしたのゆりが夫の浮気を知り、離婚した方がいいのか、どうしたらいいのか、という自分の心がわからないまま、はんぶん兄のような叔父の真人に心配され、医療事務の講座で知り合った年下の瑛二と食事をしたり、大学の先輩だった唐沢知子と沖縄旅行へ行ったり、夫の転勤で神戸へ一緒に移ったりと、月日がどんどん流れていく。

こちらを向くことのない夫との生活の中で、そのときの風景だったり、こうだと思っていた夫の違う一面に気づくことや、漠然と感じて揺れる心が淡々と綴られている。何故のゆりがこんな生活を続けられるのかわからない。執着しているようでもないし、意地になっているわけでもない。本気の浮気をした夫や、夫の不倫相手に怒ることもない。でもこれがのゆりという女性なのだろう。

のゆりがどういう答えを出すのか、というのが作品の結末になる。これにはもちろん触れることはしないが、結婚って何だろう、結婚するきっかけとは、みたいなことを考えた。のゆりの微かな息遣いのような考えるという行為が、読み手であるこちらにじわっと伝わってくる。上手く言葉にできない。伝えようとすると、するっと言葉が逃げていく。パソコンに向かう今の自分は、まるで本作の「のゆり」のようだ。何を書きたいのか、よくわからなくなってしまった。それにしても、男って馬鹿だなぁ。女って……。

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またサインに釣られた。
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    2008

06.12

「くうねるところすむところ」平安寿子

くうねるところすむところくうねるところすむところ
(2005/05/25)
平 安寿子

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この世界を踏みつけて、思いきり叫びたい。バカヤロ―――!!! そう思っただけなのだ。ほんの出来心なんです。すいません。もう、しません。だから。だから、誰か、助けて。三月半ば、宵の口。月もおぼろな夜空の下、地上五メートルの中空にかかっている頼りない足場板にへばりついて、梨央は口の中でそう唱えた。そうです。酔っていたのです。そうでなければ、スカートにストッキングという格好で足場に上がったりしない。酔っぱらって建設現場の足場によじ登った挙句、降りられなくなってしまった。三十歳。普通その歳で、足場に上がって泣くか、猫じゃあるまいし。

助けてくれた工事関係者に、黒澤映画の姿三四郎を見た。鼻梁は太く、唇は薄くて大きめ。黒目が大きい一重瞼の目が、心配そうに梨央を見ている。こんな風に見つめられるのは久しぶりだ。鼻の奥がツンと痛んだ。助けてくれた。心配してくれた。ずっと求めていたことを、見も知らぬ男に与えてもらった。その男をなんとか捜し出した梨央は、トビの親方である徹男と再会。訥々とだが自分の仕事の魅力について語る徹男に対して、不倫相手で、上司でもある五郎の皮肉な横顔を見ていたら、梨央の中で何かが音を立てて弾けた。仕事を辞めて、生き方をやり直す。その先には、田所徹男の笑顔がある。あそこに行きたい。だから、行くんだ。

もう、イヤ! そう叫んで、何もかも投げ出したい。こんな風に、ポイッと。鍵山郷子は、重ねた工事台帳の上にボールペンを放り出した。離婚に突っ走ったのは怒りからだが、祥二と別れることが誰にとっても最善の方法だと確信した。従業員十一名を抱える鍵山工務店の社長をいきなり排除したら、一体どういうことになるのか深くは考えなかった。会社は父の夢だったはずだ。その父は人生の終盤をまるごと母に与えようとしている。娘も冷たい。誰も助けてくれない。守ってくれない。孤立無援だ。こうして、正式に社長として出社したのは、三ヶ月前のことだった。

家老である専務取締役の棚尾のじいさまに連れられて挨拶まわりをした。総務主任で影の女帝と呼ばれている日比野時江おばばが帳簿をドサドサ放り出して説明してくれたが、さっぱりわからない。二十歳前の若殿なら、我が手で国を盛り上げようと青雲の志に燃えたりできるだろうが、あいにく四十五まで生きてしまった年増女だ。そのうえ、亭主に裏切られた傷心を抱えているのに、自転車操業は当たり前みたいなしょぼいこと言われて、元気が出るわけがない。鍵山工務店はもう終わったんだ。一人娘のわたしが、幕を引いてやる。

まったくの素人だけど、建設の仕事をしたい前向きな三十女。建設について素人で、後ろ向きな四十五歳女社長。そんな素人の二人が、鍵山工務店を舞台に、建設の世界で奮闘していくお仕事小説。これはすごく面白かった。仕事に喜びや生きがいを見出した転職したての新人と、自分には無理だからと会社を畳んで生活資金に換えようと思う女社長。そんな対照的な想いを持っている二人がからみ、あるいは酔った席で自分の熱意を語り、思わぬところからの参戦もあって、予定通りの結末を迎える。

これを出来すぎと言う方がいるかもしれない。でもあえて言い切りたい。平さん、これ最高よ。大金が動いて一生ものになる家だからこそ、工務店の仕事の大変さも、お客様である施主のわがままぶりも、なによりも、家を建てるということの重みを感じることができた。

テンポ良く読めて、爽快な気持ちになれる。そして、働く女性や、行き詰って少し疲れている女性にお薦めしたい作品だった。文庫化で買わずに借りて読んだけど、この文庫本は買おうかな。いや、買うべきかも。すごく楽しくて素敵な作品だと思った。

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平安寿子
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    2008

06.11

「幽霊人命救助隊」高野和明

幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1)幽霊人命救助隊 (文春文庫 た 65-1)
(2007/04)
高野 和明

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浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で三人の男女に出会った。スタミナあふれる老ヤクザの八木、気弱な会社経営者の市川、投げやりでプータローの安西美晴。彼らは全員自殺者だった。裕一もまた、首を吊って死んでいた。そこへ神があらわれ、ここは天国と地上の中間点で、馬鹿な死に方をしたために、天国に行きそびれたのだと言う。そして諸君らに天国行きのチャンスを与えてやるから、自殺をしようとする人間の命を救え。地上の時間で七週間。ノルマは百人の命。粗末にした命の償いをしろと命令する。一同がうなずくと、神は出陣じゃと言いながら、彼らの背中を断崖から突き落とし出す。

こうして真っ逆さまに落下して地上に戻った彼らは、まず自分たちの服装が変わっているのに気づいた。蛍光色のオレンジ色のジャンプスーツに、兵隊が履くような黒い編み上げのブーツ。腰に巻かれた作業ベルトには、五つの道具袋が機能的に装着されている。おそろいのユニフォームの背中を見ると、目にも鮮やかな白の抜き文字で、「RESCUE」とあった。レスキュー――それは救援隊の意味だ。再び地上に降りたった幽霊たちが繰り広げる救助作戦が始まった。

自殺者が判断できるゴーグルを付け、救助対象者が見つかると意識に入り込む。モニターすることで彼らの精神の変調、常軌を逸した思考、死の誘惑など、苦しい胸の内をまざまざと見せ付けられる。そして、自殺を思い留まらせようと、言葉を届けるメガホンを通して説得、応援、あらゆる手段を講じていく。この救済方法が、ダサくてアホらしくて良かった。

それに幽霊になった四人の死んだ時期が微妙にずれていて、彼らの死んだ年代のまま、使う言葉も、世間の風潮も、常識も、そこでストップしている。だから年代間によるギャップが生じている。よって彼らの会話の中に、ナウいな、チョベリバ、そんなバナナ、といった死語がぽんぽん飛び出し、それがツボに嵌まってしまって、ときたま吹き出してしまった。

マンガ的な分かりやすさでおもしろい。でもその反面でしんどさもある。救助対象者をモニターして出てくるのは、自殺を思うまでに至った寂しさ、絶望、生きる苦労、イジメ、自己嫌悪、借金苦、鬱などだ。言葉にすると、なんてことないように思うかもしれないが、精神的に狂ってしまった感情のオンパレードで、これら負の心理ばかりを読まされると、さすがにこちらまで気持ちがどん底に落ちてくる。

だけど、そんな苦しい場面も救助隊の必死の攻防で救われる。そしてまた、四人の死語がまじったずれた会話に戻り、新たな救助対象者を見つけようと、人の集まる場所へ行く。そう、これは連作短編の形式をとった長編作品なのだ。約600ページに及ぶ大長編だが、その長さを感じさせることなく、適度な息継ぎを間に挟んで読むことができた。実際のところ、一日で一気に読んでしまった。生きていることを素晴らしい、と感じられる、とてもいい作品だった。

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高野和明
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    2008

06.10

「フリッツと満月の夜」松尾由美

松尾

フリッツと満月の夜 (TEENS’ENTERTAINMENT 1)

主人公は小学五年生のカズヤ。夏休みの三週間を海辺の港町で過ごすことになったカズヤだが、デザイナーの母さんは行かずに父さんと二人だけとか、直前まで知らされていなかったとか、勝手にきめられたこととか、どうしても納得できないまま、この町にやって来た。

この町は、東京とはあまりに違う。一言でいえばのんびりしている。外に出れば必ず誰かを見かけるが、たいてい同じ人がずっとそこにいる。走り回るのは子どもくらい、すたすたと道を横切るのは猫くらい。港のほうであまった魚でももらっているのか、猫はたくさんいた。その猫だけど、ときたま金色のピアスをつけた猫がいる。うまく猫と人が共存できる地域をめざそうと、不妊手術をすませたノラ猫のしるしが金のピアスだという。

カズヤたちが借りた家の三軒となりにメルシー軒という食堂があり、カズヤはある日、そこの一人息子で、ミステリ好きのミツルから、この町に住んでいたあるおばあさんをめぐる秘密の話を聞かされる。

おととし亡くなった人で、名前は佐多緑子。この町一のお金持ちで、亡くなる四日前に佐多家の財産、つまりものすごくたくさんの現金を銀行からおろし、まっすぐ家に帰ったあと、亡くなるまで一度も外出することもなかった。それなのに佐多緑子が亡くなったあと、お金はどこにもなかった。銀行から持って帰ったはずの大金が、そっくり消えていたのだ。

その消えた財産の半分は自分のものだと主張するこの町で二番目のお金持ちであり、町長をしている出川轟三。この出川はそのお金を遣って、林を伐りたおし、丘をけずってゴルフ場を作る考えに夢中になっているらしい。その出川の手から守るべく、カズヤとミツルは、佐多緑子が隠した財産を見つけようと行動する。

ミステリとしては早い段階でオチに気づいてしまったが、YAらしく、さまざまな分かりやすい鍵となるものが用意されている。ダビデの星、市域の猫を見守る会、不審な男、きれいな図書館のお姉さん、魔女みたいだった佐多緑子おばあさん、そして、ピアスをつけた茶色いトラ猫。これだけ揃った鍵が、上手く融合されていたように思う。

ただ、大人が読むには少し物足りないかもしれない。だけど、YA世代なら十分楽しめる作品だ。宝探しの冒険であり、仲間がいて、ライバルがいて、少しだけ混ざる魅力的なファンタジー。子どもらしい夢のある作品で、YAが好きなかたにはありだと思えた。

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松尾由美
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    2008

06.09

「後宮小説」酒見賢一

後宮小説 (新潮文庫)後宮小説 (新潮文庫)
(1993/04)
酒見 賢一

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時は槐暦元年、帝王が腹上死で急逝。彼には正妃が一人、后妃が二人、夫人が四人……その他多数の女官を入れて約五百五十人からなる後宮があった。いわゆる、日本でいうところの大奥である。嫡子が王位を継ぐにあたって、定めにより、この後宮は解散させられる。若干十七歳の皇太子のために、まず、宦官がやった仕事は後宮作り。そこで早急に新しい後宮を作るべく、宦官の格チームが広い国土を飛び回る。ここで緒陀地方の一田舎娘である銀河が、素乾国の後宮に入宮することになる。

宮殿に着くと、他の宮女候補たちと後宮に入るにあたっての研修を受けなければならない。普通の山出し庶民である銀河は、明らかに敵意があって話にならないセシャーミン、別世界の人のような玉遥樹、極端に無口な江葉らと共に、角先生による後宮哲学、一番弟子の菊凶による性技術、つまるところ、女大学での房中術の実技を教えられる。そしてついに新後宮の官職が発表されてみると、銀河はなんと正妃、つまり皇帝の第一夫人の職に任ぜられたのである。

一方、平勝と厄駘の二人は自警団のような頭領をしていた。そこに、農民一揆の鎮圧に助力してもらいたいと使者が来て、その際、二人は幻影達と渾沌と名乗ることにし、あれよあれよという間に、三万の州兵の実質上の指揮官になってしまう。その幻影達は、あろうことか、退屈を紛らわせるためという理由で挙兵する。世にいう幻影達の乱(渾沌の役)である。

やがて、幻軍が北盤関破るの報が宮廷にもたらされた。慌てふためく役人たち。そこで帝王が尻を叩いて北師営軍を出すが、圧倒的な兵力差を持ちながらも、臆病風に吹かれた北軍はあっけなく壊走してしまう。このような急を告げる情勢の下、後宮に珍妙な軍隊ができあがる。発起人は銀正妃、銀河である。ともあれ、この女百人ほどの奇妙な軍隊が幻軍を最終的に苦しめる。さて、後宮の行方は。銀河の運命やいかに……。

第一回ファンタジーノベル大賞受賞作である本書だが、この本は妹のもので、かつてどうせ読まないだろうと、後ろのページだけ読んでしまった本である。だから、結末をばっちり知りながら読んだことになる。アホです。いくらその時に読むつもりがなくても、ラストは読んではいけない。しかし、それを差し引いても面白かった。

架空の文献に記された架空の王朝を紐解くという手法がよく出来ていて、いかにも歴史小説と読めてしまうが、実際は完全な作り物。そういった錯覚を起こすがこれは完全なファンタジーである。そのホラ吹きぶりが絶妙で、悪者である反乱軍までもが、憎めなくて、愛嬌があって、最後まで無邪気だ。よって、大団円ではない結末なのに、どこか爽快さがあり、小気味よい余韻を持って、本を閉じることができる。でも、アホをしなければもっと…ねぇ。

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    2008

06.08

「遠まわりする雛」米澤穂信

遠まわりする雛遠まわりする雛
(2007/10)
米澤 穂信

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やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。この信条を堅く守っている折木奉太郎は、なにがなんだかわからない間に、現在までの友人、福部里志と知り合い、なぜか、小学生の頃はずっとクラスが同じだった伊原摩耶花は、里志に思いを寄せ、広大な農地を擁する旧家の娘である千反田えるは、「わたし、気になります」という言葉とともに大きな瞳で詰め寄って、奉太郎の省エネ主義を揺るがしてくる。神山高校に入学し、入部直後から春休みまで、古典部を過ぎ行く一年を描いた短編集。

入学から一ヶ月、音楽室でピアノがひとりでに音楽を奏でだしたという学校の怪談。初夏、授業進度を教科書にメモしていた先生が、進んだページから間違えて授業してしまった謎。夏休み、自殺のあったというその部屋に、首吊りの影を見たという千反田と摩耶花。十一月のはじめの日、放課後の教室に流れてきた奇妙な校内放送はどういう意味で行われたのかという推理ゲーム。元日、荒楠神社の納屋に閉じ込められてしまった奉太郎と千反田の脱出劇。二月二十四日、摩耶花が里志のために作ったチョコが盗まれた行方を追う。春休み、千反田の頼みで生き雛祭の行列に参加する奉太郎だが、長久橋の工事が突然始まってルートが変更になってしまった。

前作のカンヤ祭が楽しかっただけに、短編集ということもあってどれも小粒だった。奉太郎と里志、奉太郎と千反田というペアはあるが、四人でわいわい騒ぐという作品が少ない。そんな中で一番好きだったのは、「あきましておめでとう」というわいわい騒ぐ系の作品だった。

元日に巫女のバイトをする伊原摩耶花を見に行こうと、千反田えるに誘われて奉太郎は初詣に行く。おみくじと迷子、落し物の担当をする摩耶花に会って、二人はおみくじを引いていると、社務所内がなにやら忙しそう。そこで二人は手伝うことにして、言われたとおり蔵へ向かう。しかし、そこは蔵ではなく納屋で、酔っ払ったおっさんに外から閂をかけられてしまった。暗闇の中に閉じ込められてしまった二人。その頃、福部里志は「新春ドラマスペシャル 風雲小谷城」を見終わって、のらくらと摩耶花のもとにやって来た。豪農千反田家の一人娘が男と二人でいるところを発見され、あらぬ噂を立てられたくない。そこで奉太郎は、落し物の担当をしている摩耶花、その側にいる里志に、閉じ込められたことに気づいてもらおうと、あれこれ知恵を絞ってわざと物を落とす。

こういう日常のミステリでありながら、古典部の四人が別行動しながらも繋がろうとする作品が好きだ。前作もこのパターンで、本書でもこの系統を期待していたが、収録されていた作品の中では、「正体見たり」「あきましておめでとう」の二編だけ。なもんで、もっと四人をからませてくれよ、ともどかしい短編集だった。次は古典部四人の個性が生きた、がっつり読める長編を期待したいのである。

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米澤穂信
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    2008

06.07

「コンビニたそがれ堂」村山早紀

コンビニ

コンビニたそがれ堂 (ピュアフル文庫 む 1-1)

風早の街の駅前商店街のはずれに夕暮れどきに行くと、古い路地の赤い鳥居が並んでいるあたりで、不思議なコンビニを見つけることがあるといいます。見慣れない朱色に光る看板には「たそがれ堂」の文字と稲穂の紋。ドアを開けて中に入ると、ぐつぐつ煮えているおでんと、作りたてのお稲荷さんの甘い匂いがして、レジの中には長い銀色の髪に金の瞳のお兄さんがにっこりと笑っています。切れ長の目はきらきら光っていてちょっとだけ怖いけれど、明るくてあたたかい声でその人は「いらっしゃいませ」と言うのです。

「いらっしゃいませ、お客さま。さあ、なにをお探しですか?」

そのコンビニには、この世で売っているすべてのものが並んでいて、そうして、この世には売っていないはずのものまでがなんでもそろっているというのです。大事な探しものがある人は、必ず、ここで見つけられるというのです。店の名前はたそがれ堂。不思議な魔法のコンビニです。不思議と出会い、なくしてしまった大事なものと再会し、あたたかさを与えてくれる5つの物語。

アメリカに行った初恋の女の子と不本意な別れ方をしてしまった五年生の男の子「コンビニたそがれ堂」。大事にしていたリカちゃん人形をママに捨てられてしまった三年生の女の子と、いつもは優しいけれどときどき怖くなってしまうママ「手をつないで」。ラジオ局のアナウンサーを続けることが幸せなことかわからなくなってしまった30歳の女性「桜の声」。お兄ちゃんに拾われて一年間幸せだった余命残り少ない子猫「あんず」。若いお父さんとお母さんと女の子を七年間見守ってきた壊れたテレビと、もう一度テレビさんに会いたい女の子「あるテレビの物語」。

特に好きだったのは4番目の作品。もうすぐ死ぬことを知った猫が、コンビニで人間になれるキャンディを手に入れ、愛されたて幸せだったお兄ちゃんや、家族みんなの前へ少女の姿になって現れる「あんず」は、もう泣くしかなかった。猫と同居する人なら感涙すること間違いない作品だろう。

彼ら彼女たちが、偶然、あるいは必然的にコンビニに辿りつくことで奇跡が起こる。人と人。人と物。人とペット。物と人。対するカタチは違ってもそこには大事な想いがある。そこに、ほろっときたり、よかったねとほっとしたり、今の自分を見つめなおして噛み締めたり、涙腺が崩壊する切ない感動があったり、ありがとうの気持ちがある珠玉の物語たち。ええ話やなあ、としみじみと思った。これはすごい本かも。

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    2008

06.06

「三色パンダは今日も不機嫌」葉村亮介

三色パンダは今日も不機嫌三色パンダは今日も不機嫌
(2008/03/20)
葉村亮介

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三色パンダはてくてくと歩いていた。彼の行く先は羽村氏のアパート。三色パンダには白と黒に加えて、茶色い毛がおでこに生えている。なぜ茶色い毛が生えているのか? それは彼自身にもわからない。さて三色パンダは羽村氏のアパートに向かっている。ほら、到着した。羽村氏は年齢と職業が不詳のぐうたら男だ。三色パンダが羽村氏のアパートのドアをノックした。羽村氏はまだ眠っている。なにせまだ午後二時だ。三色パンダは頭にきて、さらにドンドンと羽村氏のアパートのドアを叩いた。羽村氏は仕方なく起き上がった。実際、三色パンダのノックは執拗で、こればかりは無視してやり過ごすことはできないと羽村氏は判断した。羽村氏はドア越しに訪ねた。「うるせえな。早く開けろよ」 三色パンダはアパートのドアを蹴っ飛ばした。羽村氏は三色パンダの迫力に圧倒され、ついドアを開けてしまった。こうして三色パンダは強引に羽村氏のアパートに住み着いた。

三色パンダは雑草しか食べない。特製のドレッシングしか好まない。三色パンダは朝早く起きて、わけのわからない詩を朗誦し始める。三色パンダの茶色い毛は繊細な問題だ。三色パンダはいつもイライラしていて、かんしゃくを起こして暴れまわることも、羽村氏にとっては困った事態なのだが、それ以上に困るのは部屋に閉じこもって出てこなくなることだ。ユウタという名前こそ明らかにした三色パンダだが、それ以外のことは不明だった。ある夏の終わり頃、三色パンダは羽村氏に尋ねた。「おい、羽村。この辺にいい動物病院はないか? 精神科だ」 三色パンダに日課がひとつ加わった。詩を朗誦すること、雑草を食べること、そして山田医院に通うこと。その三色パンダが突然姿を消してしまった。第1回ランダムハウス講談社新人賞優秀賞受賞作。

かなりへんてこな設定で、シュールすぎる淡々とした描写。ちょっとしたユーモアがあって、まったく先が読めないストーリー展開。これがさくさく読めて、勢いづいてページをめくる手が止まらなくなってしまう。そして、終盤になってやっと気づく。これって、ミステリだったのかと。仕掛けが巧妙で、まったく思いもよらなかった。

この本は表紙を見て、なんとなく嗅覚が働いた。これは面白そうと。その野性の勘が見事に的中。ただ残念なことに、この本はネタバレなしでは面白さが伝えられそうにない。よって、これ以上は書けない。内容紹介をしたのはほんの序盤でしかないので、あとは自分で読んで確かめて欲しい。有望な新人作家が誕生したことは間違いのない事実。そう記して、ここで終わりにする。お薦め!

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    2008

06.05

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」柴崎友香

次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)
(2006/03/04)
柴崎 友香

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四人の若者たちのドライブ中の人間模様を描いた「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」と、失恋の痛みから逃れるためにすぐ眠ってしまうくせのついた女の子が半年ぶりに大学へ行く「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」を収録。

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」
恵太、高速降りようや。もう飽きたわ、おれ。そう言いながら小林望はルリちゃんを見た。ルリちゃんはシートの背中越しに恵太のほうを見ていて、口の端っこが少し笑っていた。笑った顔がかわいい。笑ってなくてもかわいい。恵太が笑っているから笑っているんだと思う。それを見て望も笑ってみようかと思う。だけど、助手席のコロ助が水をさす。なんで、そんなにわがままばかり言うんだよ、小林くんは。いつものことだけど。

恵太とルリちゃんのカップルがディズニーランド旅行をすることを知った主人公の望は、東京に引っ越した清水さんに会いたいという後輩のコロ助をだしにして、半ば強引に同乗したことから、若者たちのロングドライブが始まる。望はルリちゃんのことを好きになってアプローチをかけるが、ルリちゃんはまったく眼中になく、恵太くんラブ状態。のほほんとした親友の恵太も、望の入る隙がないと全然心配していない。コロ助はカップルに気を遣いながらも、望の言葉に敏感になって説教ばかりする。

車中にいる若者たちのなんてことのない会話だけでストーリーが展開する作品だけど、これが面白い。わがままばかりを言ってかき回す主人公と、いさめ役の後輩の会話がテンポ良いし、大人な対応をする親友や、相手にしていない親友の彼女との距離感が抜群に良い。こういう台風型の主人公ってはらはらするものだが、場の空気を作るし、ダメなやつなんだけどこれが憎めない。それにかつての栄光を捨てて惰性で生きている主人公が、最後にふたたび前進をしようとする姿が、読後の余韻を良くしていたと思う。

「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」
目が覚めたとき、部屋は薄暗かった。壁に白い四角があって数字が並んでいるのが、窓から入ってきたほんの少しの光を浴びて浮き上がって見えた。それを見ていて、一月十日だと気づいた。半年も経っている。あかん。絶対に、こんなことではあかん。目標を決めよう。まずは目標を掲げることが大切。真剣に考えた。二時間考えて、わたしは決めた。戦うこと。眠らないこと。これが今年の抱負。花田くんに失恋して落ちこんで寝ていたわたしは半年ぶりに大学に出かけた。

でもやっぱり眠ってしまうヒロイン。学内の食堂でも、研究室でも、音の破裂するライブハウスでも、どこでも熟睡してしまう強者ぶり。一対一の先生を目の前にして眠ってしまうエピソードとか、そんな眠っているヒロインを温かい目で見ているかおるちゃん(男)とか、「戦うこと、眠らないこと」と毎回言いながらどっぷりと眠りに落ちる姿が、とにかくかわいい。こういう何気ないゆるい日常は、柴崎友香さんの真骨頂だ。ヒロインの物語であり、登場しない花田くんの物語であり、優しいかおるちゃんの物語であることがわかる、作品後半での気持ちの重なりは秀逸だと思った。

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柴崎友香
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