「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」柴崎友香
2008年06月05日 (木) | 編集 |
次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)次の町まで、きみはどんな歌をうたうの? (河出文庫)
(2006/03/04)
柴崎 友香

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四人の若者たちのドライブ中の人間模様を描いた「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」と、失恋の痛みから逃れるためにすぐ眠ってしまうくせのついた女の子が半年ぶりに大学へ行く「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」を収録。

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」
恵太、高速降りようや。もう飽きたわ、おれ。そう言いながら小林望はルリちゃんを見た。ルリちゃんはシートの背中越しに恵太のほうを見ていて、口の端っこが少し笑っていた。笑った顔がかわいい。笑ってなくてもかわいい。恵太が笑っているから笑っているんだと思う。それを見て望も笑ってみようかと思う。だけど、助手席のコロ助が水をさす。なんで、そんなにわがままばかり言うんだよ、小林くんは。いつものことだけど。

恵太とルリちゃんのカップルがディズニーランド旅行をすることを知った主人公の望は、東京に引っ越した清水さんに会いたいという後輩のコロ助をだしにして、半ば強引に同乗したことから、若者たちのロングドライブが始まる。望はルリちゃんのことを好きになってアプローチをかけるが、ルリちゃんはまったく眼中になく、恵太くんラブ状態。のほほんとした親友の恵太も、望の入る隙がないと全然心配していない。コロ助はカップルに気を遣いながらも、望の言葉に敏感になって説教ばかりする。

車中にいる若者たちのなんてことのない会話だけでストーリーが展開する作品だけど、これが面白い。わがままばかりを言ってかき回す主人公と、いさめ役の後輩の会話がテンポ良いし、大人な対応をする親友や、相手にしていない親友の彼女との距離感が抜群に良い。こういう台風型の主人公ってはらはらするものだが、場の空気を作るし、ダメなやつなんだけどこれが憎めない。それにかつての栄光を捨てて惰性で生きている主人公が、最後にふたたび前進をしようとする姿が、読後の余韻を良くしていたと思う。

「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」
目が覚めたとき、部屋は薄暗かった。壁に白い四角があって数字が並んでいるのが、窓から入ってきたほんの少しの光を浴びて浮き上がって見えた。それを見ていて、一月十日だと気づいた。半年も経っている。あかん。絶対に、こんなことではあかん。目標を決めよう。まずは目標を掲げることが大切。真剣に考えた。二時間考えて、わたしは決めた。戦うこと。眠らないこと。これが今年の抱負。花田くんに失恋して落ちこんで寝ていたわたしは半年ぶりに大学に出かけた。

でもやっぱり眠ってしまうヒロイン。学内の食堂でも、研究室でも、音の破裂するライブハウスでも、どこでも熟睡してしまう強者ぶり。一対一の先生を目の前にして眠ってしまうエピソードとか、そんな眠っているヒロインを温かい目で見ているかおるちゃん(男)とか、「戦うこと、眠らないこと」と毎回言いながらどっぷりと眠りに落ちる姿が、とにかくかわいい。こういう何気ないゆるい日常は、柴崎友香さんの真骨頂だ。ヒロインの物語であり、登場しない花田くんの物語であり、優しいかおるちゃんの物語であることがわかる、作品後半での気持ちの重なりは秀逸だと思った。