「フリッツと満月の夜」松尾由美
2008年06月10日 (火) | 編集 |
松尾

フリッツと満月の夜 (TEENS’ENTERTAINMENT 1)

主人公は小学五年生のカズヤ。夏休みの三週間を海辺の港町で過ごすことになったカズヤだが、デザイナーの母さんは行かずに父さんと二人だけとか、直前まで知らされていなかったとか、勝手にきめられたこととか、どうしても納得できないまま、この町にやって来た。

この町は、東京とはあまりに違う。一言でいえばのんびりしている。外に出れば必ず誰かを見かけるが、たいてい同じ人がずっとそこにいる。走り回るのは子どもくらい、すたすたと道を横切るのは猫くらい。港のほうであまった魚でももらっているのか、猫はたくさんいた。その猫だけど、ときたま金色のピアスをつけた猫がいる。うまく猫と人が共存できる地域をめざそうと、不妊手術をすませたノラ猫のしるしが金のピアスだという。

カズヤたちが借りた家の三軒となりにメルシー軒という食堂があり、カズヤはある日、そこの一人息子で、ミステリ好きのミツルから、この町に住んでいたあるおばあさんをめぐる秘密の話を聞かされる。

おととし亡くなった人で、名前は佐多緑子。この町一のお金持ちで、亡くなる四日前に佐多家の財産、つまりものすごくたくさんの現金を銀行からおろし、まっすぐ家に帰ったあと、亡くなるまで一度も外出することもなかった。それなのに佐多緑子が亡くなったあと、お金はどこにもなかった。銀行から持って帰ったはずの大金が、そっくり消えていたのだ。

その消えた財産の半分は自分のものだと主張するこの町で二番目のお金持ちであり、町長をしている出川轟三。この出川はそのお金を遣って、林を伐りたおし、丘をけずってゴルフ場を作る考えに夢中になっているらしい。その出川の手から守るべく、カズヤとミツルは、佐多緑子が隠した財産を見つけようと行動する。

ミステリとしては早い段階でオチに気づいてしまったが、YAらしく、さまざまな分かりやすい鍵となるものが用意されている。ダビデの星、市域の猫を見守る会、不審な男、きれいな図書館のお姉さん、魔女みたいだった佐多緑子おばあさん、そして、ピアスをつけた茶色いトラ猫。これだけ揃った鍵が、上手く融合されていたように思う。

ただ、大人が読むには少し物足りないかもしれない。だけど、YA世代なら十分楽しめる作品だ。宝探しの冒険であり、仲間がいて、ライバルがいて、少しだけ混ざる魅力的なファンタジー。子どもらしい夢のある作品で、YAが好きなかたにはありだと思えた。