2008年06月15日 (日) | 編集 |
![]() | ショートカット (河出文庫 し 6-4) (2007/03) 柴崎 友香 商品詳細を見る |
どうやったらワープできるん?表参道に行きたいねんけどという想いを描いた「ショートカット」と、真夜中におるから思ったことがほんまになるという奇跡の「やさしさ」と、考えても仕方ないことを考えるのはやめるというのが目標の「パーティー」と、行きたいとこは行ってみたらええということに気づく「ポラロイド」の四編を収録。
「ショートカット」
〈なあ、おれ、ワープできんねんで。すごいやろ〉 合コンに参加した小川奈津は、自己紹介のときはいちばんタイプじゃないと思っていたこの黒目がちな丸刈りの人だけれど、なんとなく、この話がどこかにつながるような感じがした。少なくとも、おもしろくない人とは思わなかった。瓶ビールを、グラスが余ってるのにジョッキに注いでいるから。さらに、なかちゃんは言う。〈一瞬で東京やで。しかもな、表参道やで〉 東京。表参道。一ヶ月前から奈津の心の中にずっとある地名。愛梨ちゃんが見ていた雑誌に、表参道にいる森川の写真が載っているのを見つけたときからだ。
「やさしさ」
南堀江のはずれにあるあっちゃんの小さなカフェは、一周年のお祝いパーティーでたくさんの人でいっぱいになっていて、会社が終わってすぐに来てから、五時間以上もいたけれど、ずっととても楽しかった。二時間前に片野くんが来てからは特に。これから学校の友達の家に行くという片野くんと話したかったので、わたしも帰らなあかんけど電車はもうないから歩いて帰ろうかなあ、とタクシー代ぐらい持っているくせに聞こえるように言ってみると、片野くんは途中までいっしょに歩いてくれると言い出した。三十分以上かかりそうな道程なのに。
「パーティー」
一週間ほど前、フリーマケットで中古レコードやがらくたを売っていたなかちゃんと名乗ったその人は、写真をやっているのでモデルになってほしいと和佳ちゃんに頼みこんだ。どうしても写真に撮りたいと熱く語り続け、和佳ちゃんだけじゃなくてわたしと二人でと言っていることにようやく気づいたときには、和佳ちゃんもわたしもそんなに言うならちょっと行ってみてもいいけど、と曖昧な返事をしてしまった。目指すマリーナへと続く堤防を歩く途中に水門を見て、あの人のことをまた思い出してしまっていた。この何日か、彼のことを思い出すことが増えてしまった気がする。一段落したように思っていたのに。
「ポラロイド」
ポラロイド写真の中には、ほんの数分前まで確かにここで目の前に見えていたものが全部揃っている。シャッターを押して、わざと浮かび上がるまで画面を見ないで、何分後かに答え合わせをするみたいに写真を見る、その瞬間がおもしろくてまたポラロイド写真を撮る。雑誌の編集者である木島さんとの打ち合わせに東京へ来たわたしは、木島さんの顔が別れた彼氏と似ていることに気づいた。久しぶりにその人のことを思い出したけれど、今、なにをしているのかを電話して知らせたいのは、ここからそう遠くないところに住んでいるはずのその彼ではなくて、大阪にいる別の人だった。
ここにあるのは日常の風景ばかり。合コンや、二人きりの夜道や、夏の暑い一日や、見知らぬ街で過ごす一日だ。そういうどこにでもありそうなシチュエーションの中で、二十代の大阪人女性が、男友達、女友達、友達の恋人、仕事の付き合いがある人、なかちゃんらと会話しながらも、心の中にいる特定の人を想っている。憧れだった人や、遠距離恋愛の彼や、まだ忘れられない元彼や、すでに次の恋の相手という具合に。
これらは独立した物語になっているが、なかちゃんという魅力ある男の子が、すべての物語に登場している。作品の順番では時系列はバラバラだけど、読んでいくと、なかちゃんの一日の行動が見えてくる。ふたりの女の子をモデルにして写真を撮り、合コンでべろんべろんに酔って、自転車で帰る途中に転んで怪我をして、遅くなったが東京にいる友達に約束通り電話する。なんてことはないが、これもどこにでもある日常の風景のひとつで、このなかちゃん遊びはちょっとおもしろい。
それにしても、柴崎さんが描く女の子って、毎回ともなんてかわいいのだろう。彼女たちに魅力があるからこそ、物語の世界にすうっと入っていける。その女の子たちが出没する場所がまた、馴染みのあるところばかりで、彼女たちが歩く情景が目に浮かんだ。これは大阪人だけの特権だろう。でも他の地域の方であっても情景が見えるかもしれない。それだけの筆力があると、前から常々思っている。これって評価しすぎなんだろうか。
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