「オテルモル」栗田有起
2008年06月25日 (水) | 編集 |
オテルモルオテルモル
(2005/03)
栗田 有起

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二十三歳の本田希里は実家で生活している。家族構成は両親、双子の妹、妹の子供、その子の父親だ。現在、両親と妹の沙衣は家におらず、めいっこの美亜とその父親の西村さんと三人で暮らしている。沙衣が薬物中毒でリハビリ施設にいて、両親は沙衣につきっきりで、いまも病院のそばに部屋を借りて、父はそこから会社に通い、母ともども彼女の世話をしている。希里はめいの美亜が小学校に上がったのを機会に、ここぞと思う場所で働きたかった。

そのホテルは地下にあるという。最下階は13階、客室は九十九ある。募集しているのはフロントデスクの受付だった。年齢や学歴は問わず、接客の経験がなくてもかまわない。勤務時間は日没から日の出まで。夜に強く、孤独の癖があり、めったにいらいらしない人を歓迎する、という。

そこで、希里は履歴書を書いて投函し、面接を受けるとあっさり採用。三日間の研修を経て、フロントデビューすることになった。このホテル、オテルオテル・ド・モル・ドルモン・ビアンは会員制契約型施設で、お客様に提供するものは、最高の眠り、そこからみちびかれる最良の夢だった。どうか良い夢に恵まれますように、とお客様に声をかけるフロントでの仕事、そして、声の届かなくなった妹の沙衣と対話をする物語。

これは不思議な物語だ。現実から隔離されたような不思議なホテル(作中ではオテル)での仕事と、希里と沙衣の双子姉妹の生い立ちから現在に至るまでの波乱万丈が交錯して書かれている。気持ちよく眠るためのホテル内での循環システムについては説明を省くが、希里の家族構成がとにかくすごかった。

生まれつき病弱だった妹の沙衣は、成長過程の間でぶっ飛んでしまい、ついには薬物中毒になってしまう。薬物中毒なった沙衣は、両親につれられて病院へ通ったり、カウンセラーを渡り歩いていた。両親の愛を、心配を一身に集める沙衣に対して、地味で平凡な生活を過ごしてきた姉の希里。高校に進学した希里は、学年が二年上の西村先輩と付き合うようになる。夏休みのある日、両親と沙衣は長野で行われるカウンセリングの合宿に出かけたので、希里は西村先輩を家に泊めた。二日目に買い出しから希里が帰ると、西村先輩は沙衣と抱きあっていた。そして、沙衣は妊娠して美亜が生まれた。しかし、沙衣の悪行はまったく変わらず、先に書いたとおりで、希里はめいの美亜とその父親の西村と三人で暮らしている。

この西村という男はどう考えてもおかしい。まともな神経じゃない。この設定からいくと女の敵であるはずだ。だけど、何とも影が薄い。ストーリーの流れでは、最後は姉妹の絆的な物語になるのだが、この西村はまったく除け者にされている。触れないことで見せしめにしているのだろうか。まあ、本題とは関係のないところで熱くなってもしかたがないので、西村についてはここまでにする。

お客様と一体になって眠りを提供する不思議なホテル。そこで、姉妹は一度ずつ眠ることになる。彼女たちは楽しかった子供時代の夢を見る。そして、二人で仲良く遊んでいたことを思い出す。特に眠れない沙衣がホテルで眠ると、お客様も寝過ごすほどの安眠がホテルに訪れる。何がどう作用したのかはわからない。しかし、読者だけはしたり顔で微笑むことができる。少し不思議な設定だけれど、すごくいい物語だった。