2008年07月01日 (火) | 編集 |
![]() | メジルシ (2008/05/16) 草野 たき 商品詳細を見る |
飛行機に乗るのは初めてだった。旭川までは、一時間三十五分。右隣にすわっている離婚したい美樹さんは、心理学の教科書らしきものを読んでいる。左隣にすわっている離婚したくない健一くんは、またガイドブックをめくっている。双葉は今度新しく通いはじめる高校のことを考えた。双葉は高校の寮に入る。楽しそうな寮生活が待っていると思うと、両親の離婚なんてどうでもいいと思えた。ましてや、たったの三泊四日の家族旅行なんて、あっという間に終わる。もうあとこの四日間だけ我慢してればいいのだ。旅行から帰れば、すでに荷物を送ってある寮に直行できる。そう、これは親孝行のために行くのだ。
離婚の話がでてからの健一くんは、急におしゃべりになった。結婚式や双葉が生まれたときのこと…、とにかくこの家族にまつわるエピソードを必死でひっぱり出してきて、ひとりで勝手に盛り上がっていた。だけどそれは、この家族がとてもいいものだったことを印象づけたいものが見え見えで、美樹さんと双葉を逆にしらけさせた。そんな健一くんが離婚を承諾する条件として出したのが、今回の北海道旅行だった。さすがの美樹さんも最後のお願いだと頭をさげる健一くんに、しぶしぶうなずいて、今回の旅行が実現したのだ。
これは家族の再生を描いたお話ではない。良くも悪くもハプニング続きの旅行で、けっして、ハッピーエンドの旅行ではない。いや、ハッピーなことなどひとつもない。ずっと大人ぶってごまかして、見ないようにしてきた母親のこと、父親のこと、自分のこと。善意だけしかないような父親。絶対に目を見て話さない母親。不安になると右手のヤケドのあとをなでて心を落ちつかせようとする双葉。いつもびくびくして、自分を隠して生きてきたことと向き合う、あるいは、ずっと上辺だけで過ごしてきた家族との関係を清算する旅行になる。
ものすごく痛いお話で、正直にいうと読むのがしんどかった。新しい一歩を踏み出すのには、とても有効な旅行になった、とラストで作者は双葉に言わせているが、なんだかもやもやしたものが残った。ネタバレになるから詳しくは書けないけれど、この母親は、母親としても、主婦としても、人間としても失格だと思った。人と比べてずるいと思う嫉妬心はわかる。だけど、やってはいけないこと、超えてはいけない一線があって、この母親は…。この憤りをどこに持っていけばいいのだろう。家庭を作ることに不向きな人なのか。ああっ、わからない。いや、わかりたくない。
| ホーム |




