「リトル・バイ・リトル」島本理生
2008年07月02日 (水) | 編集 |
リトル・バイ・リトル (講談社文庫)リトル・バイ・リトル (講談社文庫)
(2006/01)
島本 理生

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高校を卒業したばかりのふみは、母と父親違いの妹と三人で暮らしている。大学の受験勉強のさいちゅうに、母が二度目の夫と離婚した。そうなると、彼と血の繋がりのある小学二年生の妹ユウちゃんはとにかく、ふみの大学の受験費用を払う責任は彼にはまったく無いわけで、なんとかしようにも、すでに入試直前の時期で資金繰りは困難を極めた。そこで受験を来年に見送ることにして、一年はがんばって稼ごうと、ふみはティッシュ配りのバイトを始めた。母は先日まで、接骨院でマッサージ師として働いていたが、院長の夜逃げで何の前触れもなく、職場が潰れてしまので、新しい接骨院で働き始めた。

そんなある日の朝、ふみが目覚めるとなぜか首が痛くてたまらなかった。すると母は、寝違えたか冷えたのだろうから後で自分の治療院に来るように言ってから、仕事へ出かけていった。その野崎治療院にいくと、以前、ふみちゃんの好きそうな子がいると母が話していた、キックボクサーでひとつ年下の周と出会う。

最初の父親とは七年前のふみの誕生日から一度も会っていない。二番目の父親と会うのはあいかわらず居心地が悪い。一年前から通っている柳さんの習字教室に通い、母に紹介されたボーイフレンドの周と遊び、女三人で暮らす母子家庭を支えるふみの日常。今いる家族、いなくなった家族、家族を軸にした人々とのふれあいの中で、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた作品。第二十五回野間文芸新人賞受賞作。

かなり複雑な家庭環境で育ったふみだけれど、ぐれるわけでもなく、家を飛び出して自立しようとするわけでもなく、ふみはひょうひょうと淡々と毎日を過ごしている。それは笑えないことを真面目に言う母と、持っている空気が似ているからなのか。二人は母娘というよりも、親友や姉妹のような関係で、幼いユウちゃんを加えた穏やかな関係を築いている。そんな生活に、安心して会える周が加わり、豪快な彼のお姉さんとも知り合う。

そして、ふみは習字の先生の柳さんに優しい父を投影しているのだろうか。ユウちゃんの父とは完全に距離を取っているが、自分にエアガンを向けて撃ったことや、酒を飲んで暴れた記憶があるにも関わらず、最初の父のことを折りに触れて思い出す。でもそれは一瞬でしかなく、また元の淡々とした日々に戻っていく。ごく普通の家庭で育った周の姉弟が、見えない温かい光線で、現実のいい方向へ引き戻してくれたのだろうか。

とらえどころのない作品だったけれど、がつがつしていなくて、なんか好きだなぁ。うまく言葉にできないけれど、安易な性描写に走った「シルエット」からは、格段に成長が見えたデビュー二冊目だった。でも、こんなのんびりした生活をしていたら、受験には失敗しそう。余計なお世話か。