「百瀬、こっちを向いて。」中田永一
2008年07月04日 (金) | 編集 |
百瀬、こっちを向いて。百瀬、こっちを向いて。
(2008/05/10)
中田 永一

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アンソロジーはほとんど読まないので、本書ではじめて中田作品を読んだ。ん〜、いいじゃん。これがすっごく好きな作風だった。ドロドロのしんどい恋愛ものは苦手だけど、こういうライトな恋愛ものは好きだ。ちょっと切なくて、甘酸っぱくて、温かみがあって、人物に魅力があって、という四つの短編集。

「百瀬、こっちを向いて。」
高校一年生の僕は、勉強も運動も、社交能力までも欠けていて、髪の毛もぼさぼさで服装もダサダサのモテないくん。高校で一番の美人と評判の神林徹子先輩が、宮崎先輩と付き合っているとはじめて知ったとき、僕はおどろいて、そして納得した。家が近所の宮崎瞬は兄のような存在だった。その宮崎先輩に呼び出された翌日、僕に百瀬という彼女ができた。宮崎先輩は、神林先輩と付き合っていながら、他にも百瀬という恋人がいたのだ。その百瀬との関係を疑われたので、宮崎先輩の幼なじみである僕が、百瀬と恋人どうしだという演技をすることになってしまった。

「なみうちぎわ」
高校生になったわたしは、近所に住む小学六年生の登校拒否児童の家庭教師を引き受けることにした。わたしは恋愛には向かないガリ勉女で、学校を一度も休んだことがないことが、唯一の自慢だった。小太郎の家庭教師をはじめた最初の頃は、彼のからかいに本気で腹を立てていたが、しだいにじゃれあいを楽しめるようになった。そんなある日、入江で溺れている小太郎を発見したわたしは、何も考える間もなく海に飛び込んだ。そして気が付けば、月日は五年経ち、わたしは二十一歳になり、小太郎は高校生になって学年を追い越されていた。

「キャベツ畑に彼の声」
夏休みのわたしに、テープおこしというバイトを紹介してくれたのは、都内の出版社に勤める叔父だった。録音されたインタビューを再生し、会話を耳で聞きながら、キーボードをたたいて一文字ずつ入力していく。小説家の北川誠二のテープおこしにとりかかると、仕事を忘れてわたしは声に聞き入っていた。やたらと女子に人気があり、黒いセルフレームのメガネがいい二十六歳の男性国語教師の声にそっくりだった。ためしに北川誠二の処女作を読んでみると、主人公は黒いセルフレームのメガネを愛用しているという描写があった。わたしは本田先生と二人だけの秘密を共有することになってしまった。

「小梅が通る」
クラスではわたしと松代さんと土田さんの三人で地味な女子グループを形成していた。華やかな女子グループと交流することは皆無だし、男子が話しかけてくることもない。たまに他の子たちの話し声が聞こえてきても、わたしの場合、きもちわるいとか、メガネがあっていないとか、しもぶくれ顔とか、ホクロ人間などと言われる。それは、人から興味を持たれることがないように地味メイクで作った嘘の顔だった。焼肉店で山本勘太と遭遇したのは会計をしているときだった。いつもの化粧をしておらず、わたしは素顔だった。わたしは妹の小梅だとごまかしたが、それ以来、山本勘太は小梅に会わせて欲しいと話しかけてくるようになった。

まずは表題作の「百瀬、こっちを向いて。」だけど、主人公は恋人のフリをしている女の子のことを好きになってしまう、ちょっと切ないお話だ。憧れの先輩との距離感もいいし、最後で見せる意外さも絶妙で、素直に上手いなぁと思った。二作目の「なみうちぎわ」は、少し残虐な設定だけれど、読んで行くとある謎が明らかになっていく。少し痛いけれど、ミステリとしてよくできていたと思った。三作目の「キャベツ畑に彼の声」も意外性があった。先生を思う少女の淡い想いだと思って読んで行くと、これもミステリ色の強い作品だと気づく。こういう優しさのあるトリックは嬉しくなる。最後の「小梅が通る」は別格かな。もろもろの目線や偏見が嫌で、美人さんということを隠している少女と、どこまでも鈍感な少年のやり取りが、すごく微笑ましかった。こういう甘酸っぱいのは大好きだ。

この中田永一という作家は、ある有名作家の覆面だという噂があるけれど、ほんとのところはどうだろう。自分で読んで確かめてみるのも、面白いかもしれない。そういう読み方をせずとも、十分楽しめる恋愛小説だった。お薦め。

「八月の降霊会」若竹七海
2008年07月04日 (金) | 編集 |
八月の降霊会 (角川文庫)八月の降霊会 (角川文庫)
(2000/08)
若竹 七海

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一通の手紙「降霊会のお知らせ」、すべてはそこから始まった。富士山麓の山荘に集められた一見何の接点もない人々。降霊会、それは単なる娯楽でしかないはずだった。しかし、霊媒師の口から出てきたのは、誰も知るはずのない招待客の秘された過去―。死体、人骨、異様さを増していく山荘。降霊会に絡んだ忌まわしき意図とは?招待客の点が線で結ばれた時、すべての謎が明らかになる。サスペンスフル本格ミステリー。《背表紙より》

けったいな作品だ。ミステリのようであり、ホラー。ホラーのようでいて幻想的。これが読み進めていくと、どんどん先が読めなくなっていく。絶対的な権力者によって招待された各々にわけありな人々。夢見がちな歴史ロマンス作家の南澤秀子と個人秘書の渡辺司。インチキ霊媒師の真名木美鶴といずみの親娘。占い詐欺師の佐久間保子と夫の繁夫。誘拐殺人犯の娘という汚名をはらしたい田中逸子。世俗臭ふんぷんたる大手百貨店社長の安達優三郎。父の別荘管理の仕事を継いだ臨時雇い執事の吉岡義一。その人々を待ち受けるのは、屋敷主人たる水屋征司であり、彼の傍らには叔父の魂胆をしらない寧と智の従兄弟がいる。

彼らが集い、いざ降霊会が始まってみると、霊媒師の口から参加者の過去に犯した犯罪が語られ、霊媒師は昏睡状態に陥ってしまう。それによって、脛に傷もつ輩は、わかりやすく怒り、ある者は行方を消してしまい、ある者は酒に逃げて酔いつぶれた。翌朝、酔いつぶれた者の部屋から惨殺死体が発見されるが、当人はわけがわからないと途方に暮れるばかり。それをきっかけにして、次々に謎が出現してくる。

玄関ホールにかかっている稚拙な肖像画の母娘の謎があり、人間の頭蓋骨が発掘され、過去の誘拐事件が浮かび上がり、出席者全員のトピックが書かれたメモを見つけ、突然包丁を握って暴れ出す人物のあっけない死。そして、ぱたぱたと聞こえる見えない子どもの足音。ここまではいい。それが、ある人物の手記を読むあたりから、混迷のオカルト世界に突入していく。そんなはずはない、いやいやまさか、とストーリーがどの方向に向かっていくのかがまったく読めなくなってしまうのだ。そして、ラストでは…。これには賛否両論があるかもしれないが、あとは自分で読んで確かめてもらいたい。

設定で言えば、権力者によって作られた吹雪の山荘で、いわゆるクローズドサークルものだ。そして、なにかことが起こるたびに、権力者の豪腕ぶりが発揮される。ミステリのカタチとしては、すごくブサイクだ。しかし、集められた人物たちが、一見まったく関係なさそうに見えて、どこかで繋がっている。現在と過去の事件や出来事もしかりだ。こういった点はさすがに上手いと思う。それに余韻の悪さという点でも若竹七海らしくて、最後は少し驚きの展開だったけれど、個人的にはアリの作品だった。