「1985年の奇跡」五十嵐貴久
2008年07月05日 (土) | 編集 |
1985年の奇跡 (双葉文庫)1985年の奇跡 (双葉文庫)
(2006/06)
五十嵐 貴久

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理想的ともいえるほど気持ちのいい五月雨。だがグラウンドは戦場だった。都立小金井公園高校野球部のナインが、ホームベースを挟んで二つに分かれていた。国生さんに謝らんかい。てめえこそ新田に謝れ。おニャン子クラブで誰が一番かわいいかで揉めていた。

主人公は高校二年生のオカちゃんこと岡村浩司。ショートで六番という、中途半端なポジションでありながらキャプテンなのは、要するにジャンケンで負けて押し付けられただけである。現在野球部員は全部で九人しかいないので、レギュラーもへったくれもないうえに、練習試合ですら勝ったことがない弱小チームだ。野球は好きだが、正直なところ他にやることがないから野球部にいるだけで、実態はといえば単に気の合う仲間の集まりに過ぎない。それが小金井公園高校野球部の伝統であり、現部員もまたそれを忠実に受け継いでいる。ただ、最近は本当にひどいと思う。四時前になるとみんなが帰り支度を始める。理由は簡単で、四月から始まった夕やけニャンニャンを見るためだ。

転校生が来るらしい、という噂は聞いていたが、それが沢渡俊一だとまでは知らなかった。中学時代は誰もが認めるエースで、プロのスカウトまで見にくるほどの逸材。しかも、絵に描いたような優等生だったがそれを鼻にかけることはない。おまけに顔も良くて性格もいいのだから、文句のつけようがなかった。その沢渡は野球推薦で名門校に入学したが、肘をこわしたので地元のこの学校に転校してきたという。それがフトしたことがきっかけで、沢渡の腕からボールが放たれた。地面すれすれを走る硬球が、火を噴いているかのようだ。復活した球威は凄みを増していた。しかし野球部員たちの優先順位は一に女の子、二に夕ニャン、三、四がなくて五でも六でもなく、七か八ぐらいに野球がくる。そこに、おニャン子にいてもおかしくないようなカワイイ女の子がマネージャーとして加わり、もしかしたら、何かが間違えば、とんでもないことが起こるかも、と浮かれるが…。

1985年といえば、自分は中学生だった。だから、本書の少年たちと年代がすごく近かった。学校が終われば友達の家に集まって夕やけニャンニャンを見ていたし、おニャン子で誰が好きかという話題で盛り上がってもいた。それにこの年は、阪神タイガースが優勝ということもあって、大阪の街は大変な騒ぎになっていた記憶がある。しかも、作中にでてくる当時の流行歌が懐かしいだけでなく、すべて歌えることに気づいた。まさに、どんぴしゃといえる作品だ。

ストーリーも、のんべんだらりの少年たちが、ある出来事がきっかけで、目標に向かって突き進むというわかりやすいもので、そこにヒロインや、専制君主的な校長という悪役の存在や、憎きライバル校といった王道ともいえる配役が加わる。もちろん少年たちのキャラも立っているので感情移入もしやすいし、読後の爽快感もバツグンだった。もう、真直ぐド真ん中というストレートな青春小説になっているので、これは嫌いな方はいないだろうからお薦めもしやすい。というわけで、お薦めです。

最後に、おニャン子クラブで誰が好きだったかというと、会員番号11番、福永恵規サン。