2008年07月11日 (金) | 編集 |
![]() | 館島 (ミステリ・フロンティア) (2005/05/30) 東川 篤哉 商品詳細を見る |
会社社長にして異能の建築家、十文字和臣。彼の最新作は、彼自身が老後に備えて造ったといわれる四階建ての別荘である。六角形の奇抜な外観と、内部に秘められた巨大な螺旋階段、その他にもさまざまな特徴を有する、このいかにも十文字らしい館は、完成から一年もしないうちに彼の遺作となった。螺旋階段の踊り場で、十文字和臣が変死体となって発見されたのだ。死因は転落死ではなく墜落死。階段から落ちたくらいでは、こんな死に方はしない。結局、警察の捜査員の懸命の努力にもかかわらず、捜査は早々と頓挫した。
十文字和臣の謎の死から半年が過ぎ、本州と四国を結ぶ瀬戸大橋計画のルートに組み込まれた瀬戸内海のとある孤島、この横島にある別荘に、十文字和臣のすべてを引き継いだ未亡人の康子夫人の意向によってふたたび事件関係者が招かれた。
遠縁にあたる岡山県警捜査一課の相馬隆行。康子夫人の姪である私立探偵の小早川沙樹。十文字の右腕だった副社長の鷲尾賢蔵。県会議員の野々村淑江。そのひとり娘の奈々江。主治医の吉岡俊夫医師。フリーライターの栗山智治。そして、複雑な関係にある三人の跡取り息子、長男の信一郎、次男の正夫、三男の三郎。
彼らが集った別荘では、新たに連続して殺人事件が勃発する。しかし、嵐による悪天候のために警察の到着は望めない。そんななか、未亡人に依頼された女探偵は若手刑事を引き連れて事件および異形の館の謎に立ち向かう。
東川篤哉といえばユーモアミステリという方が多いだろう。しかし、これをミステリとは認めたくない。いや、他の東川作品もミステリとは言いたくない。何故か。それはなっていないからだ。冗談のような犯人の動機にしろ、SFのようなありえないトリックにしろ、こじ付けのような推理にしろ、ぜんぜんミステリになっていないからだ。それを知っていてなぜ読むのか。ユーモアの部分が格別に面白いからだ。
思い出したら下心をむき出しにする若手刑事の相馬隆行と、ただの酒豪のようでしかない女探偵の沙樹との絶妙なボケツッコミや、そこに美少女の奈々江という天然ボケを加えたトリオによる漫才と、あれこれカタチを変えながらも繰り広げるどたばたコメディ。これがとんでもなく面白いのだ。キャラが立つという言葉がピッタリくるのだ。この笑いについては読んでみてのお楽しみにしておくが、ミステリの拙さを差し引いても、読む価値ありだと思う。
こういったコメディだけを期待して読んでいる作家だが、いつかはミステリとしても読ませる日が来るのだろうか。今のところ、そんな兆候はまったく見えない。このまま見えないままでもいいかとも思うが…。
2008年07月11日 (金) | 編集 |
![]() | 眠らない少女―高橋克彦自薦短編集 (角川文庫) (2006/08) 高橋 克彦 商品詳細を見る |
深夜2時を過ぎても眠ろうとしない5歳の娘に手を焼き、妻が口にした一言。この一語によって、夫は、かつて耳にした世にも恐ろしい物語「人喰いあまんじゃく」を思い出すのだが…(表題作「眠らない少女」)。ホラー、ミステリー、タイムトラベル、幻想、掌編小説…。「いつかは果たしたい夢」だったと語る著者自薦による初期短編集。いずれも名品佳品の、高橋文学の精髄を示す宝玉10編!全編自作解題付き。《出版社より》
この短編集は、読んだことがある作品ばかりだった。ということは、高橋作品のすべてを持っている身としては、二重買いになってしまったことになる。やってしまった。内容を確かめずに買うから、こういうことになってしまうのだ。でも、半分以上は忘れているだろうと思って読んでみた。
やはり、高橋克彦のホラーは怖かった。背筋がぞぞぞっとするのだ。それ以外のジャンルもすごく上手い。懐かしいシリーズの短編もある。そして、今回のように再読するたびに思うことがある。自分の頭が忘れっぽいトリ頭で良かったと。さて、自虐はこの辺までにして、さらっと内容紹介をしておこう。
潜在意識の奥底で眠っていた記憶が、妻の一言でよみがえる「眠れない少女」では、著者のねらいどおりに気持ち悪くなり、三十年ぶりに参加したクラス会は、お互いに記憶のない人物ばかりだったという「卒業写真」では、記憶の錯覚に切なさがあふれ、美術界のスーパーマンである搭馬双太郎が初登場して、冷静に贋作者の罠に立ち向かう「歌麿の首」では、また塔馬の新作が読みたいと欲求がわき、「蒼夜叉」の原型作品だという「ばく食え」では、現代に伊達政宗が登場かよとツッコミをし、ホラーの「子をとろ子とろ」と幻想的な「星の塔」は、東北の民話をモチーフに上手く話を膨らませ、不思議な温泉宿に迷い込む「ゆきどまり」と母の死を追って無限ループにはまる「ねじれた記憶」は、ちょっと面白いオチが待っている。そして、覗くと人を狂わせてしまう魔鏡の「鏡台」を読むと、ラストには「ドールズ」の目吉センセイが登場する「紙の蜻蛉」が待っている。
高橋克彦といえば、多作でジャンルも幅広いことで有名だが、その高橋克彦がぎゅっと詰められた一冊になっている。自分のように高橋作品を読み尽したファンならば、新刊が待ち遠しくなるだろうし、あまり高橋作品を読んだことがない方には、自分に合う作品傾向が見つかるかもしれない。ここにはなかったが、いわゆるノーマルなミステリや、歴史ミステリや、歴史大河や、伝奇小説など、多数のジャンルを描いているからだ。ご本人はホラーが一番好きだと語られているが、どれもこれもすごく面白い作品ばかりだ。まだ読んだことがないという方は、本書を高橋克彦の入門書にしてはどうだろう。
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