「銀河不動産の超越」森博嗣
2008年07月15日 (火) | 編集 |
銀河不動産の超越銀河不動産の超越
(2008/05)
森 博嗣

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毎日が気だるい。これまでの人生は、なんとか危険を避け、そんなに頑張らなくても生きてこられる道をあらかじめ吟味して、言い換えれば、怠わけられるだけ怠わけて過ごしてきた。しかしながら、就職活動でことごとく惨敗が続き、ここだけはやめておけ、と言われた銀河不動産へ就職する羽目になった。

銀河不動産は、下町の商店街の一番端にある。六十五歳になる銀亀元治社長は気力の人で、大人しい事務員の佐賀佐知子は四十代だと思う。銀河不動産の三人目の社員が、私こと高橋だ。ようするに、現在三人しかいない。私としては、銀河不動産が存続するかぎりは、ここに勤めていたい。なにしろ、居心地が良い。社長はやや偏屈ではあるが、悪い人ではない。佐賀さんも、もちろん良い人だ。仕事量は少なく、私のような虚弱な人間には、おあつらえ向きといえる。

その客は、ある日の午後に現れた。間宮葉子という地元の大金持ちの夫人である。私は彼女をある物件に案内したのだが、彼女はそこを買う代わりに、そこに私が住むように、という条件を提示したのだ。賃貸料は五万円と破格に安い。私は成り行きで引っ越すことになってしまった。ただ、そこは一戸建てで、しかも部屋が異様に広すぎるので、部屋のコーナーに、自分のものをまとめて置くことにした。炬燵、冷蔵庫、敷きっぱなしの布団。全体の面積の三パーセントだけが、私の住居空間になった。

ぼつぼつと銀河不動産にお客たちが訪れる。ミュージシャンの丹波さんを連れたまま忘れ物を取りに家に寄り、新居が火災にあった芸術家の山田さんと島田さんの女性二人を臨時的に部屋へ住まわせたり、高齢者向けのアミューズメント施設を始めたいという池谷さんは何故か我が家でジェットコースタを組み立て出し、その池谷さんの娘である登美子さんが突然やってきてなんとなく流れで同居することになり、その彼女は、とても可愛らしく、優しい人で、さらに、私と結婚したがっているのである。この広い部屋を借りたことが、人生のすべてのきっかけになっていく。

いい意味で力が抜けていて、つかみ所がないのに、状況だけは加速しながら展開していく、という、巻き込まれタイプのような作品でいて、実は優柔不断な主人公がお人好しをした結果に基づいている。いわば、わらしべ長者ならぬ、成り行き長者のような作品だ。そして、作品の設定上、主人公に欠落しているものを、周りの人たちが代弁するような言葉や、その人たちの多少強引な行動力もありながら、成り行きに身をまかせるが、それをしたということが、努力だと言っている。私は、私なりに努力したと。こういう姿勢は世間では認めてくれないだろうが、実際に、こういうことが起こったらちょっと面白いだろうな。夢があって、ハッピーな気持ちになれる。そんな一冊であった。