「謎の転倒犬」柴田よしき
2008年07月21日 (月) | 編集 |
謎の転倒犬―石狩くんと(株)魔泉洞 (創元クライム・クラブ)謎の転倒犬―石狩くんと(株)魔泉洞 (創元クライム・クラブ)
(2008/05)
柴田 よしき

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就職は決まらない。借金は返せない。そんなある早朝、僕は摩耶優麗(まやゆうれ)と出遭った。徹夜のバイトが明けた眠たい空気の中で、優麗は、冗談としか思えないような濃く派手な化粧ですくっと立ち、僕を混乱の極みに落とし込んだ。リクルートスーツとパソコンとデジカメを買ってローンに苦しんでいることを優麗にズバリと当てられてしまったのだ。いきなり核心に至る展開である。そして、経緯が未だによくわからないまま、彼女の経営する(株)魔泉洞という占いの館で働くことになった。

僕の名前は石狩拓也。だけど、誰も石狩と呼んでくれない。原因は、総務部長兼経理部長兼金庫番兼ご意見番兼ボーディーガド兼……とにかく、困ったらなんでもこの人にお任せ、という役割を社内で担っているウサギちゃんこと宇佐美儀一郎氏が、トカチくんと呼ぶからだ。一番最初にした自己紹介のときに、北海道の平野の石狩として、インプットしたようだが、呼ぶ段になると十勝くんとなってしまう。つまりそれがニックネームになってしまったのだ。

摩耶優麗は、女性である。年齢は不詳だが、素顔なら二十五、六に見え、営業用の化粧をすると四十代、テレビ化粧だと三十代、仕事が終わったあとの剥げかけた化粧なら五十代くらいに見える。占い師としての能力は天下一品だと、ウサギちゃんは言う。そして世間的にも、摩耶優麗の占いはものすごくよく当たる、と評判で、魔泉洞は客の行列が連日絶えない。

優麗には、他人の過去に一瞬で飛んで、過去の出来事を目撃する超能力があるそうだ。僕も初対面の時に、ずばっと言い当てられた。でもそんな能力は信じていない。必ずからくりが、トリックがあるはずなのだ。カリスマ占い師・麻耶優麗の名推理と、優麗に翻弄される石狩くんの受難を、ユーモラスに描いた、本格ミステリ連作集。

軽く読めます。なにしろ収録作のタイトルからしてパロディになっている。「時をかける熟女」は「時をかける少女」、「まぼろしのパンフレンド」は「まぼろしのペンフレンド」、「謎の転倒犬」は「謎の転校生」、「狙われた学割」は「狙われた学園」、「七セットふたたび」は「七瀬ふたたび」という風に。軽っう!というか人を食ったようなタイトルばがりだ。

それぞれの内容は、スリの犯人探し、失踪人探し、愛犬の謎の行動、強奪された定期券、盗まれた本のゲラ、という日常的なミステリになっている。だけど、本書の見どころというか読みどころは、キャラ読みしやすい軽妙な会話にあると思う。わがまま言い放題の優麗に、オカマ言葉のウサギちゃんに、平凡な主人公の石狩くん。この三人のバランスが良くて、緩いけれど微笑ましい空気感が作られている。このテンポ良い会話の妙によって、読者は気持ちよくサクサク読めるのだ。これはぜひとも東京創元社には、シリーズ化をしてもらわなくては。読んだみなさん、ですよね!