「死者のための音楽」山白朝子
2008年07月24日 (木) | 編集 |
山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽BOOKS)山白朝子短篇集 死者のための音楽 (幽BOOKS)
(2007/11/14)
山白朝子

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これは愛の短篇集だ。と帯で乙一が言っている。ちょっと不思議な感じがした。確かに愛の物語であることは間違いない。ジャンルでいえばホラー作品だが、親子愛であったり、恋人であったり、姉弟愛であったり、さまざまな愛のカタチがある。いやいや、そうではなくて、乙一の覆面名義だという噂があるのに、帯に乙一の推薦文があるから不思議なのだ。実際のところはどうなんだろう。まあ作品を読んでいると、そうそう、とらしさに膝を打つ場面が多々あった。そういった七つのホラー短篇が収録。別題が、山白朝子短篇集。

「長い旅のはじまり」
和尚は、物取りに襲われて父を殺された少女を助けた。名前を思い出せない少女はお宮と呼ばれることになり、普通に生活できるまで回復することができた。お宮が子供を身ごもっているとわかったのは、彼女が村に来て三ヶ月のことだった。しかし、お宮の体は無垢であり、なのに確かに子が宿っている。やがて生まれてきたお宮の子供は、まだ目にしたことがないはずの風景や、不思議な夢を見るようになった。それを知ったお宮は、あの子は父の生まれかわりだと言い出した。


「井戸を下りる」
高利貸しをする父を怒らせてしまい、幸太郎は父の追っ手から逃れようとしていたところ、雑木林で偶然見つけた井戸を下りることにした。その井戸の底には部屋があって、雪という女が住んでいた。その日以来、男は雪の待つ井戸へ頻繁に通うようになった。男と雪は心からお互いのことを好きあうようになった。だけど、雪は秘密の多い女だった。しかし、男は本当のことを知るのが怖く、雪は知られるのが恐ろしく、だからいつもお互いにはぐらかしていた。そうこうするうちに、父が男に縁談を勧めてきた。

「黄金工場」
村と工場のあいだには森がひろがっていた。千絵ねえちゃんは都会の女の人みたいな化粧をして工場に出勤した。僕は千絵ねえちゃんの姿をちらっとでも見たくて、森に入った。やがて錆びた金網にぶつかり、金網にそってあるいていると、工場の排水弁の土管がつきでていた。そこから廃液が放出され、きたない水は地面のくぼみにたまっていき、巨大な沼となった。表面に油が浮かんでおり、腐った果物のような、甘い匂いがした。そこで僕は、黄金色のコガネムシを拾った。

「未完の像」
少女が訪ねてきたとき、師匠は外にでていた。少女の年齢は十四か十五というところだろう。ここに弟子入りしたいのだが、女でも仏師になれるのか。これまでに何人もの人を殺してきたので、近いうちに捕まって縛り首されるだろう。その前に自分で仏像を彫って残しておきたい。そう少女は言った。その少女は、本物以上の形を与えられた小鳥を小刀で彫った。弟子入りは認められなかったが、私は師匠に内緒で、彼女の仏像ができるのを見守ることにした。

「鬼物語」
祖父の話ではあの山には鬼が住んでいるという。村の子供たちがみんなで山に出かけた。少女たちも誘われたが、弟が泣いて怖がったのでついていかなかった。少女と弟は双子だった。子供の頭が小川を流れてきたのは夕方のころだった。山に行った子供たち全員の頭だった。かつて、桜の花見に集まった村人すべてが桜の沢で殺された。罪人を追って村にやってきた侍が山に入ったきり帰ってこなかった。村人たちは巨大な熊の仕業だという。そこで、山に火を放ち、子供殺しの熊ごと焼き払うことになった。

「鳥とファフロッキーズ現象について」
私の自宅は山裾にあり、周囲は森だった。私は小説家の父と二人きりで生活していた。ある日、中学校から帰宅した私は、巨大な鳥が屋根にひっかかっているのを発見した。動物病院に運び、そこで鳥は命を救われた。しかし、そいつがなんという鳥なのかは特定できなかった。前進が真っ黒な羽根におおわれているため、ちょっと見は鴉に似ているが、嘴の形状や目つきは鷹に似ていた。回復したそいつには奇妙な能力があった。私たちが何かを欲したとき、その鳥はそのものを持ってきてくれた。

「死者のための音楽」
母親は生まれつき耳がわるかった。母は子供のころに川で溺れて死にそうになった。そのとき音楽が聞こえてきた。耳はわるいはずなのに、その演奏と歌声は、はっきりと聞こえた。なにか祝福をうけているようで、胸をつかれたみたいにかなしくなる。でも、よろこびさえもわいてきて、あらゆる気持ちがいっせいに咲きほこって、心の中が色でいっぱいになる。おとうさんが亡くなったひしゃげた車内でも、手首を切った今も、死にそうになるたびに、どこからともなく、それが聞こえてくるの。うつくしい音楽が。

個人的に面白いと思ったのは、人の欲が怖かった「黄金工場」と、嫉妬と羨望に揺れる「未完の像」と、血が飛び散る切ない愛の「鬼物語」と、ミステリの要素が強かった「鳥とファフロッキーズ現象について」と、母娘の対話が切ない「死者のための音楽」だ。おいおい、ほとんどではないか。だけど、白黒で分類されるところの黒作品のままだったので、これでは好きになってしまう。すごく面白かった。そして、お薦めです。