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    2008

08.31

「ララピポ」奥田英朗

ララピポララピポ
(2005/09)
奥田 英朗

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超お下品な六つの連作集。

「WHAT A FOOL BELIEVES」
三十二歳のフリーライター杉山博は対人恐怖所。高学歴だけがプライドだが、自宅アパートでひきこもって書く原稿料は十四万四千円。それが博の月収のすべてだった。家賃十万円のアパートは音が筒抜けの欠陥住宅だったが、つい最近からうれしい誤算があった。上の階に引っ越してきたホスト風の男が、週五日のペースで女を連れ込むのだ。かすかに聞こえる喘ぎ声だけでは満足できず、盗聴器まで買ってしまった。毎回下半身に手が伸びる博だが、誰とでもいいから、急にセックスがしたくなった。そこで声をかけたのが、いつも図書館で会う、若いブスでデブ女だった。

「GET UP, STAND UP」
二十三歳の粟野健治はキャバクラ嬢スカウトマン。給料はすべて歩合で、女の稼ぎの五パーセントが健治に入ることになっている。抱える女の数がすべてだった。所属する事務所はキャバクラだけでなく風俗店やAV業界ともつながりがある。もちろん健治も稼ぎの良い風俗やAVに女を送り込みたいのはやまやまだ。健治はトモコというデパートに勤める女性をキャバ嬢にスカウトした。そのトモコは会話が苦手だと言ってきたので、ヌキ・キャバに移籍させた。トモコは自分の意志というものがあまりない不思議な女だった。性感ヘルス、そしてAV女優へと、言われるがまま突き進んでいく。

「LIGHT MY FIRE」
四十三歳の佐藤良枝はアダルトビデオ業界に身を投じた。夫との性交渉はすでになく、若い男とできるというだけで全身が熱くなったのだ。夫は平凡なサラリーマンで終電帰宅。一人娘はデパートに勤務していた。良枝の日々は毎日が日曜のようなだ。居間でテレビを見ながらぼりぼりと尻をかく。若手俳優を頭に浮かべ自慰行為に耽る。鼻クソをほじってはテーブルの縁に擦りつける。ゴミが出れば部屋の隅に放り投げる。唯一の日課は隣家に届く郵便物の盗み読みで、その隣家に苦情の手紙が送られていることを知った。

「GIMMIE SHELTER」
二十六歳の青柳光一はカラオケボックス店員。女子高生の手コキは黙認していたが、一度抜いてもらったことがきっかけで、ポン引きに強要されて、カラオケ店はすっかり制服姿の売春婦の溜まり場になってしまった。押しに弱く、アパートでも新聞の勧誘を断れず判子を押してしまう。それ以外にも浄水器やフライパンセットのローンがある。すべて訪問販売で購入したものだ。ノーと言えない男だった。近所の飼い犬の鳴き声で毎朝目が覚める。まだ吠えている。ふつふつと怒りが込みあげてきた。我慢がならなくて匿名の手紙を出した。飼い主はいつまでたっても無視を続けてきた。

「I SHLL BE RELEASED」
五十二歳の西郷寺敬次郎は官能小説家。出版社からの注文がさばききれなくなり、手書きから口述筆記に替えた。口述中に勃起するのは毎度のことだ。年収は二千万前後をキープしている。不満があるとすれば、世間的な地位だけだ。官能作家は、正しく評価されていない。街で次の構想を練っていると、制服姿の女子高生が目に入ってきた。そのとき背中に声がかかった。手コキで一万ポッキリ。どう? 相手は女子高生で、青い果実だった。過去十年間のどのセックスよりも気持ちが良かった。欲望が理性を撥ね退け常連客となり、行為がエスカレートしていく。

「GOOD VIBRATIONS」
二十八歳の玉木小百合は口述テープの原稿起こしをしていた。容姿に恵まれないデブ女。しかしこう見えて、男には不自由することはなかった。先週までは、太ったフリーライターがボーイフレンドだった。次のターゲットは、いかにも女にもてなさそうな郵便配達員に決めた。醜男の前にやれそうな女がいれば、誰だって体を血が巡る。そうして、山田と関係を持った。山田が帰っていくと、盗撮したDVDを取り出した。このDVDをいつものアダルトショップに売った。その後、山田が二人の後輩を連れてきて、またもや新作DVDが出来た。DVDのデブ女シリーズは売れまくった。

なんか内容紹介だけで疲れてきたぞ。性ありきの作品で、オチがおもいっきりブラック。黒いのが好きなので、個人的にはアリだった。ただ残念だったことがひとつだけあった。最後の作品でそれまでの人物が総登場。そんなありきたりな顛末はいらねえ。これには、ガックリときた。

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奥田英朗
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    2008

08.31

8月に買った書籍代

個人メモです。

合計13.640円


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自分への戒め
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    2008

08.31

8月に買った書籍

個人メモです。

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    2008

08.30

「花鯛」明川哲也

花鯛花鯛
(2008/07)
明川 哲也

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表題作の「花鯛」「オニカサゴ」「寒平目」「甘鯛」の四編を収録した釣り小説。

「花鯛」
離婚した妻のもとで暮らす娘が突然訪ねてきた。そして、年に一、二度しか会えない娘が、釣りに行こうと誘ってくれた。花鯛の桜鍋が食べたいと言って。まったくもって、ひどい釣りになっていた。這い上がってくるものを抑えようと、治彦は喉から下に向けて念力を送り続けた。目尻が熱くなる。この海。このうねり。気の毒なのは娘だった。娘の奈緒は甲板でひしゃげていた。奈緒は今日が船釣りデビューなのだ。釣りの真似事をしていたのは最初の十五分ほど。それからはずっと青空と対峙していた。

「オニカサゴ」
つくづくやっかいな子だ。覚えたひとつのことをずっとべらべらしゃべり続ける。その言葉を抑えられない少年を手で制し、釣り用ベストから今日何度目になるかの携帯を取り出した。いずれもすぐに留守電に切り替わってしまう。また良太は一人でしゃべり始めた。その良太の父が現われぬまま、船が護岸を離れていく。狙うオニサゴには毒針があって危険。その面倒な釣りに、この少年と来てしまった。良太に釣りの醍醐味と、捌く魚料理を教えたのは文彦だ。その良太は、片思いに終わった玲子の息子だった。

「寒平目」
康夫は舳先の様子を伺った。何度も見た。どういうわけでお前がそこにいるんだ。俺はわざわざ船まで替えたんだぞ。頼む、船酔いでもしてキャビンに消えてくれ。康夫に念を送られたその男は、左手で竿を構え、右手で顎ひげをつまんでいた。銀一。俺はどうしても今日はヒラメを揚げなきゃいけないんだ。邪魔をするな。もう昔のように付き合えないんだから。中学時代の同級生だった銀一はトラブルメーカーだった。どういうわけか銀一に接近され、仲間だと思われてとばっちりを受けていた。

「甘鯛」
父親が若くして去り、秀夫が上京するまで母一人子一人でやってきた。その母親も七十歳になり、父と三人で食べたグジをもう一度食べたいと言ったので、早朝の海にやってきた。甘鯛は初めてで要領がわからない。ええって。どうってことないって。秀夫は昨日も同じ言葉をつぶやいていた。なんでこんな女と結婚したんだろう。自分の母親に冷たい態度を取るこの女は誰なんだろう。もちろん、妻のみが悪いのではない。母親の毒舌も、自分のふがいなさも疲れる状況につながっていた。ええって。どうってことないって。

人生につまずいた気弱な男たちが、一発逆転を狙って海にでた。こいつを釣りあげれば、オレの人生変わる! という帯の文句があったが、そんなに大層なお話ではない。読み始めは海に出た四人の男たちにイラッとくるのだが、次第にそれぞれの人間ドラマにのめり込んで、ラストではほろっときてしまう。以前、この作家によるカラスの物語を読んだことがあるが、自分がカラス嫌いなので夢中になることはなかった。ただその時は泣ける要素があるとは思った。今回は人間の物語なので、そういう弊害はなかった。というか、すごく面白かった。世界観に引き込む力が非常に強く、とくにオチが素晴らしかった。すこし捻くれたストーリーをものの見事にオトしている。この作家は、メジャーではないが、すごいのかも。

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    2008

08.29

「武士道セブンティーン」誉田哲也

武士道セブンティーン武士道セブンティーン
(2008/07)
誉田 哲也

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旧姓西萩改め甲本早苗は、父の仕事の都合で福岡南高校に転校してきた。福岡南剣道部は幾度も全国優勝を果たしている強豪中の強豪校だ。しかもその、団体戦の次鋒に抜擢された。それは発言権のあるレナの推薦があったからだった。レナが磯山に勝つためのスパイにされようとしていたのだ。ルールに反していなければそれは反則ではない。試合に勝つためならなんでもする。レナの剣道には魂がない。武士道がない。それは剣道という名のゲームでしかなかった。自分の思う剣道とは違いすぎる。なんで私、こんな学校を選んじゃったのだろう。

磯山香織は去年辺りまで、繰り返し五輪書を読むのを日課としていた。常に兵法者たらんとし、それ以外の行動を可能な限り慎み、自らを律してきた。団体戦なんて自分の出番が終わったらお終い。チームが勝とうが負けようが知ったことではない、と考えていた。剣道はあくまでも個人競技。複数で勝ち星を持ち合って競うものではないという認識だった。東松女子剣道部への帰属意識も、当時は非常に薄かった。だが西萩を始め、この部の面々と時を過ごす間に、少しずつ、違う考えも芽生え始めた。

剣道の手に汗握るという場面はあまりなかったが、今回はより少女たちの内面を掘り下げている内容だ。とはいっても、香織も当然少しは成長しているが、人の心は相変わらず読めないままだ。今回は早苗がメインで、香織は緩和材になっている。二人の少女たちは、前作とはまったく逆の立場になっていて、早苗サイドを読んでいると、のんびり屋だった早苗の心が揺れまくりで、その原因であるレナに腹が立ったり、その彼女が逆にかわいそうに思えてきたりする。

一方の香織サイドは、自分の勝利がすべてだったあの香織が、後輩の田原を育てようとしていたり、イジメられっ子の清水に頼まれて偽彼氏まで演じている。その香織、田原、清水の変な三角関係が絶妙な味を出していて、ほのぼのとした描写が多く、ついニタニタ顔になってしまうのだ。それと香織の父の言葉がすごく印象的。武者の生業は戦うこと。武士の生業は戦いを収めること。なんかこの親父はカッコいい。それに香織の師匠である桐谷先生はシブすぎ。おまけだけど、福岡南の吉野先生は今後に期待大。

離ればなれになってしまった二人だけど、実はちゃんとつながっている。その分かりやすい象徴がレナの存在にある。香織とレナの過去にはなにやら因縁があって仇敵同士だ。それを知らない早苗だけど、レナが近づいてきたことで、二人の過去になにがあったかを知ることになる。早苗はレナが憎いわけじゃない。人間的に嫌いでもない。だけど、レナのスポーツ剣道や、勝つことがすべてという学校の方針が嫌いだった。早苗と香織がやってきた武道である剣道とは、相容れない別ものでしかない。二人の盟友は遠く離れても、武士道という道でつながっていたのだ。

ああ、エイティーンが待ち遠しい、それに姫とも会いたいなあ、と誉田ファンの独り言。

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誉田哲也
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    2008

08.28

「原宿ガール」橋口いくよ

原宿ガール (ダ・ヴィンチブックス)原宿ガール (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/07/02)
橋口いくよ

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私は昔、アイドルになりたかった。毎日毎日、自分がアイドルになる日を待っていた。私を見つけて欲しかった。でも、あのきらきらした世界は私を見つけださないまま、今もあたりまえのように存在している。杉浦弥代子は、三十二歳の派遣社員。若く見える。今までこの言葉に喜んできた。あたりまえだが、こんな言葉が本当に若い人にかけられることはない。つい最近まで若く見えるという言葉ひとつで浮かれていた自分が恥ずかしくなる。

叶わぬ夢を忘れかけていたある日、渋谷でアイドルグループ?原宿ガールズ″のスカウトに声をかけられた。高校生だと思われたのだ。夢が再燃した彼女は年齢を十七歳と誤魔化したままオーディションに挑み、なんと合格してしまった。高杉ちえり。私がもらった名前だ。派遣の仕事も辞めた。そうして、私は原宿ガールのメンバーになった。

はじめまして。高杉ちえりです。あだ名はチェリーです。十七歳です。これから一生懸命がんばっていきますので、よろしくお願いします。毎日毎日レッスンと仕事。朝から夜まで十代の女子たちと過ごす日々。アイドルなんて、世間が思うほどのお金ももらえなくて、自由がなくて、簡単に友達にも裏切られる。だけど、私はアイドルに憧れていた。そしてアイドルになった。私は十七歳のアイドル、チェリーなのだ。

はっきり言って設定に無理がある。十五歳もさばをよんで、しかも十代なんてありえない。そんな夢物語だけど、そしておもいっきり痛いんだけど、これが悪くなかった。十代の女子たちによる馬鹿話や、グループのセンターポジション争いや、恋人の一郎とのかみ合わない会話や、何を言っているのかわからない社長の話など、面白いと思える部分とそうでない部分があって、文章もあまり上手くはない。だけど、マンガ的な読みやすさがあって、グルーヴ感みたいなものがあって、これはこれで一応ピンク色の世界が構築されている。

そんなピンク色のお話なので読み手を選ぶかもしれない。読者の年齢によっても壁ができるかもしれない。万人が面白いと思えるような作品ではないが、自分的にはアリだった。ASAYAN的なお話や、ライトな作品が読みたいという方は、一読してみてはどうだろう。

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    2008

08.27

「千両花嫁」山本兼一

千両花嫁―とびきり屋見立て帖千両花嫁―とびきり屋見立て帖
(2008/05)
山本 兼一

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時は幕末。将軍の上洛にわきたつ京の都で、真之介とゆずは「とびきり屋」という道具屋を構えた。ゆずは、京で屈指の茶道具屋の愛娘。真之介は、そこの奉公人だったが、ゆずと駆け落ちして夫婦になったばかり。一癖ある丁稚たちを仕込みながら、いわくつきの御道具をさばき、血気盛んな新撰組や坂本龍馬らと渡り合う。“見立て”と“度胸”で、動乱の世を渡る夫婦の成長物語には、政治に左右されない庶民の強さが感じられる。“はんなり”系痛快時代小説の誕生。

「千両花嫁」
ゆずを略奪してきた新妻の実家、老舗のからふね屋が強奪にあった。奪われたのは、結納金として置いてきた天保小判千両。犯人は、壬生浪にやって来た浪士組の芹沢鴨。その千両を取り返すべく…。

「金蒔絵の蝶」
室町でも老舗の呉服屋千倉に嫁入りした芸妓の小梨花。その小梨花の嫁入り道具一式が、千倉の家風に合わないと姑が言いがかり。嫁入り道具一式を取り替えないかぎり、もはや千倉にいられなくなってしまった。

「皿ねぶり」
新之介が雇った奉公人たちは半端者ばかり、と笑っていたところ、新之介は風変わりな侍を連れてきた。今日から居候をする坂本龍馬だった。その坂本が、二日ほど勝先生を匿って欲しいと言ってきた。その夜、不逞浪人が襲撃してきて…。

「平蜘蛛の釜」
ゆずの留守の間に、坂本への預かり物を新之介はうっかり売ってしまった。中は鉄くずだが、あれには箱にしかけがあり、何か大切な物が隠されていた。その預かり物は、ゆずが袖にした、しつこい茶道家元の手に渡っていた。

「今宵の虎徹」
いつも商売のことで世話になっている枡屋から、十三振りの刀を買った。すべてが虎徹である。ただし正真正銘の本物は一振りだけ。新之介は目利きの賭けを手代たちに持ちかけた。そこへ近藤勇もからんでくる。

「猿ヶ辻の鬼」
日本が愛おしくなる品を、という注文を新之介は武市から引き受けた。軍艦に乗りたくなるような贈り物を、という注文をゆずは坂本から引き受けた。彼らの送り主は同じ公家で、自分らの陣営に取り込みたくて、贈り物を競っていた。

「目利き一万両」
新之介は自分の身元に関わる品物を道具市で落札した。その品を、道具にくわしいかつての主人に見せていたところ、新撰組の連中が乱入してきた。ゆずの兄が不逞浪人として捕縛されたのだ。そして一万両を出せと吹っかけられた。

全体的にまったりしすぎている。歴史の流れに沿って物語は展開していくのだが、目利き対決にしろ、なんにしろ、とにかくあっさり解決されてしまう。読んでいて面白いと感じられる部分がほとんどなかった。ただそんな中で二点だけ目を惹く部分があった。幕末の有名人が数多く登場し、新之介が彼らに下す人物評が愉快であるのと、新之介とゆずの初々しさである。それ以外ははっきり言って物足りない。「皿ねぶり」だけは盛り上がりがあるが、この作家はもういいかなあ、という感じだった。

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    2008

08.26

「カタブツ」沢村凛

カタブツ (講談社文庫 (さ95-1))カタブツ (講談社文庫 (さ95-1))
(2008/07/15)
沢村 凛

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家庭がありながら運命的な出逢いをしてしまった2人、人の世話ばかり焼いてしまう癖を恋人に咎められる青年、息子が事故に遭遇しても足がすくんで助けられない夢にうなされる母親、隣室の女性がストーカーに殺されたのに何もしなかったと非難される男。誠実な人々の窮地を描いて共感を呼ぶミステリー集。《背表紙より》

「バクのみた夢」
ふたりは、出会ったらそれだけで惹かれあった。もっと早く出会えていればと道雄が言うと、いっそ出会わなければ良かったと沙織里が嘆いた。沙織里には夫がいて、道雄には妻と娘がいる。そして、ふたりはそれぞれに、自分の家族を愛していた。彼らに知られてはならない。そうして、ふたりは結論を出した。どちらかひとりが死ぬしかないと。

「袋のカンガルー」
いつも人の世話を焼き、自分のことよりも他人のことを優先にしてきた啓には、双子の妹がいた。妹の亜子は自分の友人以外の同姓に、いたく敵対的になる。それが啓の親しい女性となると輪をかけて。おまけに嫌がらせの天才だ。だけど、突き放すことができない。結婚を意識する女性と妹の亜子。日曜日をどちらと過ごすか決断することになった。

「駅で待つ人」
待ち合わせウォッチング。これがぼくの趣味なんです。あの日、ぼくもここで待ち合わせをしているんだというふうを装って、観察にとりかかった。その中のひとりの女性こそ、ぼくの理想の待っている人だった。彼女にエスペランサという名前を付けて、こっそりながめていた。彼女の待ち人が来た途端、不条理なことが起こった。

「とっさの場合」
息子が死ぬ夢をみた。瞬間的に人を助けるアニメをみた。包丁を落としてしまった。私はとっさの場合に弱い。反射神経のにぶい人間だ。もともと、強迫神経症気味だった私は、息子が目前で車に轢かれそうになっても、立ちすくんでしまうに決まっている、という妄想に押しつぶされそうになり、留奈と話し合って、イメージトレーニングを始めた。

「マリッジブルー、マリングレー」
結婚を目前にして、婚約者とともに彼女の実家のある福井県へやって来た。以前にこの入り江の景色を見たことがある。しかし福井県に足を踏み入れるのは初めてだ。昌樹は交通事故の後遺症で、三年前の二日間の記憶がなかった。その三年前の同じ日にあの入り江で殺人事件があったという。景色に見覚えがあるということは、俺は人殺しなんだろうか。

「無言電話の向こう側」
いつでも自信満々の友がいる。自分の意見をはっきりと言い、その上で他人の意見も聞く。その彼の部屋に無言電話がかかってくる。そして彼には暗い過去があったことを知る。かつて住んでいたマンションで、隣に住むOLがストーカーに襲われていたのに、部屋から出て助ける者がおらず殺されてしまった。彼は非常な住人として非難されていた。


ここからネタバレありの感想です。未読の方はご注意を。

「バクのみた夢」
これはすごく良かった。こんなに温かい不倫の物語ははじめて読んだ。?どちらかひとりが死ぬしかない″という、なんで?と首を傾げる結論を出すのだが、そのあとの展開が滑稽で、オチも素晴らしかった。最初にこれを持ってこられたら、他の作品への期待が膨らむ。

「袋のカンガルー」
普通の人なら、考えるまでもなく彼女を選ぶはず。それをこの男は、妹のチワワのようなウルウル目線をはねつけるも、結局は妹との記憶に負けてしまう。この馬鹿男は一生このまま妹の尻に敷かれるのだろう。それにしても、この妹はホラーだ。これも好きな作品だった。

「駅で待つ人」
読んでいて、どういう内容なのか中々見えてこない。ストーカーにでもなるのかと思いきや、ええっと驚きの展開に。でも彼の怒りも、なんとなくわかってしまう。主な登場人物の三人とも、まともじゃないというところに面白味があった。こういうブラックなのも好きだ。

「とっさの場合」
弱い弱いお母さんだと思っていたら、これのラストには痺れてしまった。これは上手い。長いネタ振りは少し疲れるが、このラストじゃあ文句が言えない。ここまでは酷くはないが、鍵のかけ忘れや、エアコンの電源を切ったかなど、気になってUターンして家に戻ることがたまにある。これって、強迫神経症気味なのか。

「マリッジブルー、マリングレー」
ミステリとしてもよく出来ていたと思う。そして、これのオチがちょっと怖い。だけど、ニヤリ。やっぱりブラックなのは好きなのだ。余韻を引く感じで、彼の空白の二日間がすごく気になる。何をしたのかこっそり教えて欲しい。

「無言電話の向こう側」
最後の作品だけあって、カタブツ度が非常に高い。自分なら絶対に言い訳をすると思いながら読んだ。友人の濡れ衣を晴らそうとする主人公の心が気持ちいいし、男は黙して語らずというスタンスを貫く友人の美学もカッコいい。だけど、友人なら打ち明けて欲しいかな。少し寂しいよ。

カタブツたちは、真面目で、自分であろうとして、それゆえに変な方向に走り出す。それがすごく滑稽で、ハッピーばかりじゃなくゾクっとくる作品もあって、すごく好きな作品集。というか、好きだ好きだのオンパレードの感想になってしまった。この本を譲ってくれたある人に感謝です。ありがとう。むちゃくちゃ面白かったです! 

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沢村凛
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    2008

08.25

「CHICAライフ」島本理生

CHICAライフCHICAライフ
(2008/06/27)
島本 理生

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――2003~2006年のできごと――
付き合うのは問題のある年上男(「問題のある男」)ばかり。幽霊が見えるダンサーの母(「幽霊 VS. 母の話」)を反面教師に、恋愛の相性が完璧な弟(「弟コンプレックス」)を可愛がってみたり、引きこもる“ゲーマー”の彼と同棲(「オタク(?)の生態」)してみたり。まともなのは島本さんだけなのか、それとも……?――著者初のエッセイ!
『ナラタージュ』の切なさはどこに?恋愛小説の名手・島本理生のリアルワールド《出版社より》

エッセイって作者の声が生すぎて苦手だ。だから、エッセイ作家の本はほとんど読まない。本書は島本理生の初エッセイである。エッセイは苦手だけど、好きな小説家のエッセイは別ものである。これまでに読んだ小説の裏側が見えてくるからだ。そして、これが想像していた島本理生像を見事に崩してくれていた。

第一印象は、恋愛ネタがすごく多い。この若さで、文系女子で、こんなにお付き合いの経験があったとは正直びっくりだった。(偏見?) そして、島本作品を読んで気づくのが、よく登場するのがダメ男であったり、女性から男性を誘う場面が多いことだ。このエッセイでは、問題のある男性とばかり付き合ってきたとか、好きになると積極的になるだとか、島本理生は自身のことを語っている。本書を読むことで、自身の経験を作品に反映していたのだと知ることになる。

そしてもう一つ面白かったのが、作家合コンのことや、作家同士の不遇自慢や、カラオケに関する話題での某作家の島本評などの、お付き合いのある作家との微笑ましい一場面が、読んでいてぐふふと笑えてしまうのだ。おまけに、同居人(佐藤友哉)との絶対に変!という噛み合わない会話などが、ふんだんに紹介されている。ここまで私生活をさらけ出すのかとちょっと驚きだけど、他人事だからこそ無責任に笑えてしまうのだ。しかし、この二人は大丈夫なんだろうか。余計なお世話だけど。

他にも面白いお話がいっぱいあるが、エッセイの内容をばらすということはネタバレになってしまうので、あとは自分で読んで確かめて欲しい。これまで持っていた島本理生という作家のイメージがガラリと変わるはず。ファンなら、読んで損なしだと思った。

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島本理生
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    2008

08.24

「ボックス!」百田尚樹

ボックス!ボックス!
(2008/06/19)
百田尚樹

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私を助けてくれたのがあなただったらよかったのに。木樽優紀の頭の中に高津耀子先生の言葉が何度も甦る。そうだったらどれだけよかったかと優紀は思った。高津先生は憧れの女性だった。まさかあの電車の中で不良たちにからまれていたのが本当に高津先生だったなんて。あの時、鏑矢義平は最初からやる気だった。優紀は必死で押しとどめた。もう止められない。あとはもう一瞬の出来事だった。あっという間に五人の男たちは無様に床に這わされていた。あの光景を思い出すと、ぞくぞくする。あんな風に不良たちを叩きのめすことが出来たら――。

鏑矢とは幼なじみだった。隣同士に住んでいたから、いつも一緒に遊んだ仲だった。鏑矢は子供の頃から活発な子供でケンカも強かった。反対に優紀は体が弱く、ケンカになりそうになると、それだけで泣いてしまう気の弱い子供だった。鏑矢は優紀がイジメられるといつも助けてくれた。怒るとすぐに手が出る気の短い子供だったが、優紀には一度も手を上げたことがない。鏑矢は運動も得意で、クラスの人気者だった。しかし勉強は出来なかった。中学へ上がってからも鏑矢との友情が続いていたが、二年生の終わりに優紀の父が亡くなり、引っ越すことになった。

恵美須高校を選んだのは、特進クラスがあったことと、成績が五位以内の優秀な生徒には授業料の免除があったことだ。優紀の家は貧しく、授業料全額免除は大きかった。恵美須高校に入って数日して、優紀は懐かしい男に声をかけられた。鏑矢だった。鏑矢は体育科に入っていた。体育科ははっきり言って勉強が出来ないクラスだった。その分、全員が何らかの運動部に入っていた。鏑矢はボクシング部だった。鏑矢は強かった。ボクシングをするために生まれてきたような男だった。

優紀にも鏑矢のように強くなりたい気持ちはあった。鏑矢も含めてボクサーたちは凄いと思った。彼らはなぜボクシングを選んだのだろう。どうして相手を殴り倒すことを目的とするスポーツを選んだのだろう。しかも自分も殴られる。優紀は街で殴られた。中学時代にイジメを受けていた知り合いにからまれたのだ。無抵抗だった自分にものすごく腹が立った。なぜ男らしく戦わなかったのか、と激しく自分を責めた。たとえ負けても戦うべきだった。その時、優紀の脳裏に鏑矢の姿が浮かんだ。優紀は鏑矢のいるボクシング部に入った。

天才肌ゆえにボクシングの怖さを知らないカブちゃんと、文武両道を目指す努力肌のユウちゃん。幼なじみで仲のよい彼らがライバルに。交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。その二人を見守る素人顧問の耀子。彼女の目線があるからこそ、ボクシングの奥深さがより伝わってくる。そして二人の前に立ちふさがる厚い壁。モンスターと呼ばれる無敵の王者・稲村。少年たちの成長ものとしても、ボクシングものとしても、面白いと思われる材料が、これでもかと詰め込まれていて、それらがすべて生かされている。

ボクシングを普段観るのはプロの試合であって、プロとアマのルールはかなりの違いがある。そういった点も、さり気なく紹介されているし、知らない方にも親切に教えてくれる。そしてなんといっても熱くなれる。まったく先の読めない展開に、ハラハラドキドキしっぱなし。何度予想を裏切られたことか。これはいい意味である。王道だと思わせて、そこをひょいっとズラしてくるのだ。

これはおもしろかった。600ページ弱という分厚さも気にならなかった。ただ難点は耀子先生が女を出すところで、これがわずらわしい。しかし、久しぶりに体が震えた読書になった。読後の余韻も中々熱が冷めてこないのだ。これは凄い作品かもしれない。そう思った一冊だった。お薦め。

百田さんのサイン。

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    2008

08.23

「21 twenty one」小路幸也

21twenty one21twenty one
(2008/06)
小路 幸也

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同級生だけど、ただの同級生じゃない。僕たちは、「21」というもので繋がれた仲間。榛中学校の僕らの学年は一クラスしかなかった。それが、二十一人のクラスだった。男子は十一名、女子は十名。糸井凌一、リュウジ、岩さん、タカシ、翔、コウヘイ、尚人、キンゴ、半沢晶、まっちゃん、宮永、ミーナ、留美、愛、比呂、祐子、絵里香、佳恵、博美、佐衣、遥。

入学式の日、担任の韮山先生がいちばん最初に言った言葉はわすれない。「この二十一人が、今日から卒業までの仲間です。そして、なんと二十一世紀に、二十一歳になる仲間なんですよ」 なんでもない、他愛もない、ただの偶然だ。でも、その偶然が重なって集まった仲間がいる。その事実が、ある種の連帯感をもたらしたのは事実だった。二十一世紀に、二十一歳になる、二十一人。僕らは、21・21・21。「twenty one」だ。

中学を卒業して十年。二十一世紀になって四年が過ぎて、僕たちも二十五歳の大人になった。そこに突然の訃報。同級生の死。あの、半沢晶が自殺した。遺書は残されていなかった。全員の連絡用にと晶が作ったサイトにも何も書かれていない。僕らに何も告げずに、僕たちの、あの教室で、首吊り自殺した。晶は何故自らの死を選んだのか。

糸井凌一、佐衣、まっちゃん、比呂、宮永と、章ごとに柱になる人物たちが移っていく。彼らはまず中学時代の思い出を回想する。読者はこれにぐっときて人物たちの魅力に引き込まれ、そして、自分が晶を死なせてしまったんじゃないかとか、誰にも言わなかった隠し事などを仲間たちに打ち明けていく。この人間ドラマがまた読ませるのだ。しかし、全員がその死にショックを受けているというわけではない。微妙に温度差があって、そこがリアルだと思った。

そして、通夜の晩、クラスの中心人物だった宮永から、推理によって導き出された死の理由が披露される。このラストは…う~ん、どうだろう。これには賛否が分かれそう。というか、否の意見の方が多そうだ。ちょっと死の理由としては弱いかな。ネタバレはしたくないが、読んだ方だけに伝わるようになんとか書いてみると、そもそもミステリになっていない。読者に対してフェアではなかった。それに水晶の謎も中途半端である。他にも気になる部分があと数点あった。あの人のこととか。

だけど、仲間たちの絆が、そのマイナス部分を埋めていたように感じた。中学時代の回想シーンには涙しそうになったし、大人になってからの強い結びつきにもぐっとくる。こういったノスタルジックな描写や同級生の絆は、さすがは小路幸也と言えるものがあった。ただ最近の作品は詰めの甘さが目立つのは確かだ。本書にしろ「モーニング」や「カレンダーボーイ」にしろ、もう少し最後まで書ききって欲しい、というのが正直なところだ。全体的に面白いのだけど、そこが残念だった。

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小路幸也
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    2008

08.22

「日傘のお兄さん」豊島ミホ

日傘のお兄さん (新潮文庫 と 17-2)日傘のお兄さん (新潮文庫 と 17-2)
(2007/10)
豊島 ミホ

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豊島作品の文庫化といえば、恒例になっているのが大幅なテコ入れ。今回も一編が削られ、二編が改稿だけでなく改題もされている。文庫版は「あわになる」「日傘のお兄さん」「すこやかだから」「ハローラジオスター」を収録した四つの作品集。

「あわになる」
私は二十四歳だった。事故に巻き込まれるという運の悪い死に方だった。私は幽霊となって、この世にとどまっている。自分の葬式を立ち去り、町の中をぐるぐる歩き回った。そうして私は一軒の家の前で足を止めた。ここも葬式なんだろうか。この家は、葬式ではなく結婚式だった。新郎の名前を聞いた途端、よくわからない感情のかたまりが、私の胸を押した。新郎のタマオちゃんは、私の中学時代の同級生で、好きで好きでしょうがない男の子だった。奥さんになった人はさっぱりとした人で、私は玲奈さんにも惹かれた。それから、私はタマオちゃんの家に居座り続けた。

「日傘のお兄さん」
彼は日傘を差していた。お兄さん!と、私はその人のことを呼ぶ。私は保育園に通っていて、家に帰ったあと、すぐに裏の竹やぶに走るのが習慣だった。そこに、お兄さんが待っていたから。ある日お兄さんがいなくなった。私も両親が離婚することになり、母に連れられてこの東京の外れに来た。中学三年生になった夏実の前に、突然、お兄さんが現れた。脚が震えて、涙が出そうで、でもそれよりずっと、胸を満たしている喜びの方が大きかった。「追われてるんだ。かくまってくれないか」夏実は翌日の学校でとんでもない噂がネットに流れていることを知る。?東京多摩地区にロリコン日傘おとこ出没″しかも手配画像に写っているのは、お兄さんの横顔だった。しかし夏実はお兄さんを信じた。こうして、夏実とお兄さんの逃避行が始まった。

「すこやかだから」
涼子は神社の娘だった。父は涼子が小さかった頃、よく涼子の手を引いて神社の石段をのぼった。そしてこの石段から、夕暮れを見せた。夕焼けは神様の手のひらなんだ。父は繰り返し繰り返しそう言い聞かせていた。六年生になった涼子が、石段から夕焼けを見ていると、そこに男の子が現われた。ナイフを持っていると、瞬く間に全校に噂を轟かせた、一学年下の転校生だった。

「ハローラジオスター」
知世は毎日毎晩渋谷で遊びまくり、辛うじて引っかかったのが、北国のド田舎にあるちっこい大学だった。ぐれている知世はこの田舎でだって、遊び尽くしてやるんだ、と決意する。新歓コンパに参加した知世の前に、これだという男が現れた。第一印象は、地味で無愛想で苦手なタイプだ。しかしこの無口な男の声は、この世のものではないほど美しかった。この男を落としてやる。これがノブオとの出会いだった。

さて、感想。「あわになる」は切ないけれどユーモアがあって、そっちに行くのか!という驚きのある作品で、豊島ミホらしいきらりが印象的だった。「日傘のお兄さん」は文句なしに好きだなあ。今の自分がよくわらないという少女が、いい思い出しかないお兄さんと再会して、一緒に逃げる道を選ぶ。この逃避行自体も面白いし、その結末にもぐっとくる。時折だけど、その中三少女がお兄さんに心のなかでツッコミを入れるのだが、その時だけ女性になっている。こういうのにもぐぐっときてしまう。「すこやかだから」は性の兆しが瑞々しかったし、「ハローラジオスター」はいい加減女の成長が微笑ましい。この二作はデビューした賞により近い作風だと思った。一見バラバラのような作品集だけど、どれもが甘酸っぱい。そして、痛さはあるけれど、かわいらしさもある。これが豊島ミホなんだよなあ。

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豊島ミホ
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    2008

08.20

「夏から夏へ」佐藤多佳子

夏から夏へ夏から夏へ
(2008/07)
佐藤 多佳子

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日本代表リレーチーム、メダルへの熱き挑戦! 『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した著者が、昨年の世界陸上から北京オリンピックまでを日本代表チームに取材し、世界に挑む日本のトップアスリートたちの熱き闘いを描いたノンフィクション。《出版社より》

2007年、我が地元大阪で世界陸上が開催された。日本人選手が活躍できず、盛り上がりに欠けた大会であった。そんな中で、長居陸上競技場で熱い視線を送っていた人物がいた。高校陸上のスプリンター達をモチーフにした小説を書くために、陸上部の練習や試合を四年に渡って見続けた結果、陸上の魅力に取り付かれた佐藤多佳子だった。

陸上という競技はメジャーではない。野球やサッカーのように、テレビで放送されることもまれだ。何故なら日本人が勝てないからだ。最近では、マラソンやハンマー投げやハードルで注目を集めるようになったが、トラック競技の花形であるスプリントでは、外人の活躍を見るしかなかった。しかし、スプリント界で、唯一世界に対抗できる競技がひとつだけあった。100メートル走では勝てないが、世界一のバトン技術と言われる100メートル×4、代表4継チームであった。

4継はミスやトラブルの少ない競技ではない。強豪国でも、高確率で決勝に進むわけではない。ハイスピードでピンポイントの三回のバトンパスや、メンバー四人それぞれの走りの精度など、多くの条件を満たさないと、チームとしての好成績につながらない。言うまでもないが、個人競技ではなくチーム競技なのだ。第一走者の塚原直樹、第二走の末續慎吾、第三走者の高平慎士、アンカーの朝原宣治。彼らのバトンが繋がれば、4継にはチャンスがある。メダルが夢ではないのだ。

第一部では、世界陸上での4継メンバーのすべてが佐藤多佳子の文章によって綴られている。本物の人間ドラマだ。若きチャレンジャーの塚原から、身体に不安を抱えるエースの末續、突出したスプリンターの間をつなぐ高平、日本スプリンター界のパイオニアである朝原と、彼らの紹介を交えながら、緊迫したスタート前、予選、インターバル、決勝へと、階段を駆け上がっていく。読んでいて鳥肌がふつふつと立ってくる。仲間を信頼しきっているそれぞれの想いに涙が流れる。テレビでレースを見るだけでは伝わってこない感動がここにはあるのだ。

第二部では、世界陸上が終了したあとの練習風景や、本人を含む関係者へのインタビューを纏めたものである。陸上を始めたきっかけや、自分なりの練習メニュー、メンタルの持って行き方や、陸上への熱い思いなど、選手の素顔を知ることができる。これを読んでいるのといないのとでは、選手への感情移入度が違ってくるだろう。

オリンピックのレースが始まる前に読めて良かった。いろんな期待はあるけれど、彼らアスリートの熱き挑戦を、目に焼き付けたい。そう思えた一冊だった。

サイン本をげっと。

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佐藤多佳子
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    2008

08.20

「ピンクの神様」魚住直子

ピンクの神様ピンクの神様
(2008/06/26)
魚住 直子

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いつでもどこでもいくつになってもニンゲンカンケイは難しい。だれにでも、眠れない夜がある。ひとから見たらささいなこと、でも自分には大切なこと。人生は、そんなトラブルに満ちている。あらゆる世代の女性たちのこころを優しく繊細に描き、勇気をくれる小説集。思い切って前を向けば、私も変われるだろうか。《出版社より》

「卒業」「首なしリカちゃん」「ピンクの神様」「みどりの部屋」「囚われ人」「魔法の時間」「ベランダからキス」を収録した七つの短編集。

「卒業」
後藤寿々は、この消防署に初の女性消防士として配属されたばかりだ。就職した寿々に対して、えりと友香は大学と専門学校にそれぞれ進んだ。進路は別々だが、会おうと思えばいつでも会える、と思っていたけれど、実際には三人の都合が合わない。二人の友達とは離れていくようで寂しさを感じ、それゆえに仕事でミスをしてしまう。

「首なしリカちゃん」
幼稚園に入園した娘の里奈に仲良しの子ができた。遊んでいる様子を見ると、里奈は気の強い舞子ちゃんによく泣かされている。それとなく娘に訊いてみたが、舞子ちゃんと遊びたいのは本心らしい。だから、舞子ちゃんとは遊ぶなとは言えなかった。でも舞子ちゃんのママとは喋れば喋るほどこの人とは合いそうにないという思いが強くなる。

「ピンクの神様」
小学五年生の葵は、自分が堂々としていれば人はついてくると思っている。五人グループのリーダーである葵は、ターゲットを決めては無視をし、その落ち込む様子を見るのが、鳥肌がたつぐらい楽しかった。次の標的は侑里。期間は無期限。その一方で、葵は両親の不仲を知り、子供のころから神の存在を信じていて、街で見かけたホームレスに神を投影する。

「みどりの部屋」
文子は転職してひと月あまり、万事順調と気分良く過ごしていただけに、あゆみちゃんから聞かされた悪口が気にかかる。前の会社で働いていたときも、学校にいたときも、女同士の小競り合いは腐るほどあった。文子は心の中で軽蔑しながら、いつも適当にやり過ごしてきた。文子が癒しをもとめて観葉植物を買っているうちに、部屋がジャングルになってしまった。

「囚われ人」
典子が叔母から文具店を引き継いで十五年が過ぎた。典子は客のどんな話でも聞く。中でも友達や人間関係についての話は真剣に聞いた。じっと耳を傾け、わかるなあと思うから相槌をうつ。すると話す方も少しすっきりした表情になる。それは典子も嬉しい。でもだからといって、いい人だとは絶対に思われたくなかった。典子の過去に、そうさせない出来事があった。

「魔法の時間」
はあっと、ひなはまたため息を吐いた。これからどうしよう。ばれてるのだから演じるのはもうやめなくちゃいけない。けど、天然ボケをやめてどんなキャラになればいいんだろう。つっこみタイプの大久保さんと中島さん、それに天然のひなという三人でうまくやっていたのに。いや、二人はずっと以前から悪口をいっていたのかもしれない。そんなとき、クラス内で浮いている昌本さんと話す機会ができた。

「ベランダからキス」
佐紀と祐治は引っ越してきてからまだ半月なのに、もう数え切れないほど喧嘩をしている。喧嘩の原因は、祐治の実家が佐紀との結婚を反対していることだ。一番腹が立つのは祐治の態度だ。当然、佐紀の味方をすると信じていたのにそうじゃなかった。このアパートにはお節介で図々しいおばさんがいて、それにも無性に腹が立った。引っ越してきてからまだ一ヶ月、祐治がここを出て実家に帰った。

登場するそれぞれの女性あるいは少女たちは、何がしかの鬱々とした感情を抱えていて、おたおたするが自分ではどうすることも出来ず、深みにはまってしまう。そこに些細なきっかけがあり、ぱっと視界が開けたと感じると、これ幸いと先へ歩みだす。これが女性的というか何というか、ひとつ決断すると、切り替えがとてもはやい。すべての女性がこうだとは思わないが、男性ではこういうことはまあないだろう。それと男性目線になるが、女の子特有の陰湿なイジメや、陰口を言うなどの女性同士の小競り合いや、自分のキャラを作ることなどは、読んでいてよく理解できないし、気持ちが良いものではなかった。だけど、女性が読むとたぶんわかるんだろうなあ。そして、あらためて思った。女性って強い。女性って怖いと。

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魚住直子
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    2008

08.19

「ピロティ」佐伯一麦

ピロティピロティ
(2008/06)
佐伯 一麦

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エゴがぶつかりゃ、人情も通う。マンションが現代の長屋なら、管理人は長屋の大家さんのようなものだ。後任に仕事を引き継ぐ管理人の言葉を通じて、人間の心の深層を、野間文芸賞作家が軽妙なリズムで描く。《出版社より》

けったいな作品である。膝を悪くした現管理人の山根が、後任としてやって来た渡辺に、管理人としての仕事の引継ぎをする。ただ、それだけの内容だ。いや、それだけでしかない。しかし、とにかく変わった作品なのだ。どう変わっているのかというと、最初から最後まで、管理人の語りしかなく、地の文というのが一切ない。情景描写や人物同士の会話がまったくなく、管理人のおっさんが一人で話しているだけなのだ。舞台の一人芝居を想像してもらえれば、本書はまさにそれである。

ひたすら一人で語るマンションの管理人。ほんとうによくしゃべる。彼が目にしたこと、経験からつかみだしたコツ、住人との付き合いかた、出入りするさまざまな業者の人たち、世帯数四十二戸のマンション管理という仕事。地の文がなくても、管理人が語ることで、情景が見えてくる。マンションというコミュニティが一つの物語を形成しているのだ。

自分の仕事柄、マンション管理人の人たちとは話す機会が多い。愛想のいい人がいれば、口のききかたを知らない人もいる。働き者がいれば、頼りない者もいる。ここに出てくる管理人は、人柄がよくて、気配りが行き届く人で、奉仕の人である。こういうしっかりとした人が管理人だと良いが、そうではない人が管理人だと、マンション自体が暗いオーラを発しているような気がする。まったくの勝手な偏見だけど。

管理人の仕事は、共用部分の掃除から始まり、館内の巡回、住人たちのライフラインとなる水道電気などの点検チェック、消耗品の交換、騒音などの住人からの苦情の対応、各種案内の通知などで、けっして住人たちのドアの中を覗くことはない。だけど、ちょっとした会話や、玄関まわりやポストを見ることで、なんとなく住人たちの生活ぶりを察知する。あそこの子供は、あそこは一人暮らしで、あの人は口うるさい、あの人はそそっかしいと。

隣に住んでいてもお互いをよく知らなかったり、エレベーターで一緒になっても挨拶をしないなど、人付き合いが希薄になりがちなマンション住まいだけれど、管理人だけは住人の人柄を知っている。その管理人は、住人に対して一線を引いてけっして干渉することはないが、心の内では声をかけるべきかを問答している。この感覚が非常におもしろかった。

もう一度いう。マンション管理人の朝から夕方までの一日を書いた作品だ。ただそれだけの作品なのに、これが読ませてしまうのだ。本当にけったいな作品であった。

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    2008

08.18

「ギフト」日明恩

ギフトギフト
(2008/06/17)
日明 恩

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その少年に目が留まった理由は、ただ一つだった。こぼれ落ちる涙をぬぐおうともせずに立ちつくしていたからだ。それもホラー映画の並ぶ棚の前で。しかも今日が初めてではなかった。十日間連続だった。他人に興味を持たない。そう決めて須賀原は日々を過ごしてきた。だがけっきょく好奇心に負けた。少年の視線の先にあったのは、『シックス・センス』に間違いない。タイトルには聞き覚えがあったが、観ていなかった。

白いバンが速度を落とさずに交差点に突っ込もうとしているのを、須賀原の目は捉えていた。少年が横断歩道へ飛び出したので、少年の腕をつかんで力一杯引っぱった。見開かれた少年の目の中で瞳だけが動く。つられて須賀原も視線を移した。いたのは白髪頭の老女だった。老女の側頭部は明らかに砕けていた。こんな状態で、人間が立っていられるのだろうか。ありえない。そう答えをだしたと同時に少年から手が離れる。その瞬間、老女が消えた。

翌日、レンタルビデオ店へ出勤すると須賀原の手はあのDVDへと伸びていた。『シックス・センス』――死者を見ることができる少年の物語。交差点で見た、とつぜん現われて、そして消えた人身事故にあったとしか思えない老女。この二つを結びつけるのは簡単だった。老女は生者ではなく死者。あの少年は、映画と同じく死者を見ることができる。

あの老女は死者なのか? 死者は本当にいるのか? そのことばかり、考えつづけていた。いや、違う。本心ではとっくに気づいていた。本当に知りたいのは、俺の側に死者がいるのかだ。彼がいるのなら、謝りたい。詫びたい。許しを乞う気はない。許して欲しいとも願っていない。ただ、謝りたいのだ。心に傷を負う元刑事と、“死者”が見える少年が、霊にまつわる事件を解決していく。

この作品は連作短編集のようでいて長編作品でもある。二人が話すきっかけになった老女(「とうりゃんせ」)、虐待を受けた犬(「秋の桜」)、びしょ濡れの少女(「氷室の館」)、しゃべつつづける女(「自惚れ鏡」)、そして、逃亡中に撥ねられた少年(「サッド・バケイションズ・エンド」)、と二人がさまざまな死者を成仏させていくことが物語の縦軸なら、横軸は元刑事と少年の成長であり旅立ちである。

死者が見える能力があるゆえに家族が崩壊してしまった少年は、須賀原や成仏していく死者と触れ合うことで、見えてしまうという能力と向き合い、自分なりの答えを出す。自分を責め続ける元刑事は、追跡中に少年を死なせてしまったという過去の呪縛から、事件以来ずっと生きる喜びを封印してきた。その過去の事件に相対することで、拒否していた社会へ復帰することになる。

心に傷を負う元刑事、死者が見える少年、わけあってこの世に留まり続ける死者たち。これだけの負が揃っているので、かなりヘビーな内容になっている。はっきり言ってしんどい。しかし、二人が事件を解決することで、爽やかな余韻を残す作品でもあるのだ。特に印象深かったのは、「秋の桜」と「氷室の館」だった。これは文句なく好きな作品だった。出会いの「とうりゃんせ」と別れの「サッド・バケイションズ・エンド」は、作品の本筋にあたるのでちょっと抑え気味だったかもしれない。

その中で異色だったのが「自惚れ鏡」である。はっきり言えば嫌いな作品だ。これを好きだという方はいないだろう。だけど、ここに登場したような、自分から目を背ける人物は確かにいる。これがリアルすぎて、ムカツキ度も半端じゃなくて、逆に言えば、これが一番印象に残る作品でもあるのだ。

ラストはほろ苦い終わり方だけど嫌いじゃなかった。それよりも、映画『シックス・センス』がネタバレされていたので、もう映画を見る気がなくなってしまった。まだ見ていなかったのに。冒頭に作品名が出たときから嫌な予感はあったが、本当にネタバレをするかな。そこは大いに不満だけど、こういった暗いところに花が咲くような作品は好きだった。

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    2008

08.17

「ひゃくはち」早見和真

ひゃくはちひゃくはち
(2008/06/26)
早見 和真

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新聞社に勤める青野雅人は、徳島支局に移動になったことを恋人佐知子に告げたその夜、二人が高校時代に会ったことがあるという事実を佐知子から打ち明けられた。しかも、出会いは飲み会で、初体験の相手が自分で、さらに佐知子を振っていた。思い出せ、思い出せ。ああ、イライラする。でもどうしても思い出せない。こんなに好きになった子のことを思い出せないはずがない。この八年間、高校時代を思い出すことはただの一度もなかった。逃げたものと対峙するほど雅人は強くなかった。雅人は野球部に所属していた。その封印したはずの三年間の過去を振り返る。

前年夏に甲子園ベスト4という華々しい結果を残した京浜高校には、多くの新人部員が集まった。シニアリーグの全国大会で三年連続優勝した春山をはじめ、抜群のキャプテンシーを持つ三重のボーイズリーグ出身の健太郎。お調子者の純平ですら、湘南のポニーリーグで全国優勝しており、京浜高校入学後も一年からレギュラーとして試合に出場している。その誰もが所属していたリーグは違えど、一度は全日本の舞台を経験しており、言うなれば全日本選抜ともいうべき豪華な顔ぶれがこの年の京浜高校に集結したというわけだ。

一方、雅人とノブはそんな華やかな世界とはかけ離れた場所で野球をしてきた。お互い地元中学の軟式野球部の出身で、県大会にすら出場できなかった。雅人とノブ以外に三人いた一般入試組の野球部員は、入寮するまでの一ヶ月の間にみな辞めてしまった。二人は落ちこぼれのコンプレックスを胸に秘め、反発心だけでここまでやってきた。何よりもお互いの存在だけを拠り所にしてきたのだ。

そして自分たちが最上級生になり、雅人に与えられた仕事は伝令だ。四六時中監督の隣にへばりつき、時にはその指示を仲間たちに的確に伝え、時には直接マウンドに出向いてピッチャーを優しく癒す。野球エリートばかりのチームにあって、こんな役割ができるのは自分しかいないと雅人は自負している。そう、これは野球小説だけど、主人公は補欠の少年なのだ。

文章はあまり上手くない。だけど、少年たちのイマドキ度がおもしろい。部員全員が寮生活を強いられる私学の強豪校ともなれば、ガチガチの管理体制が敷かれていると思われがちだ。しかし彼らは、野球エリートであるレギュラーでさえ、寮の屋上でタバコを吸い、酒を飲み、週に一度の休みには渋谷で合コンをして、セックスをしまくっている。

だけどその一方で、彼らが屈強な絆で結ばれているのは、目指す方向が一つに向かっているからだ。女のケツばかり追いかけている純平も、真摯に野球に取り組む春山も、仕切りたがりの健太郎も、勉強をしっかりやっているノブも、当然そうではない雅人も、最上段にある目標はただ一つ。甲子園に行きたいという強い思いだった。

野球にも遊びにも全力投球だった彼らに、雅人が封印するほどの過去とは、いったい何があったのか。そして、雅人は佐知子との出会いを思い出せるのか。これは野球小説であり、友情物語であり、家族のありかたであり、ラブストーリーである。型にはめない、まったく新しい等身大の高校生の姿を描いた作品だ。

ただ惜しいのは、大人サイドが拙いことだ。冒頭の主人公の目に余る幼稚さや、魅力に欠ける佐知子の描写など、どうしても引っかかってしまう部分があった。だけど、高校球児サイドは時間を忘れて読みふけてしまう面白さがあった。高校時代だけでも良かったように思うのは自分だけだろうか。そういう惜しい部分があったので絶賛はできず。でも、おもしろい。

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    2008

08.16

「あたり」山本甲士

あたり(魚信)あたり(魚信)
(2008/06)
山本 甲士

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舞台はある地方都市。この地方には「奇跡を信じたければ、釣りをするがいい」という言い伝えが残っていたが、それを知る人もいまは少なくなっていた……。思いがけず釣りをすることになった主人公たちが熱中するうちに、小さな奇跡が起き始める。言い伝えは本当だったのか!? 次の休日には思わず釣りに行きたくなる物語!《本の帯より》

魚釣りにまつわる六つの短編集だと思いきや、それぞれの作品は独立しているようでいて、実は順番につながっている。Aが主人公だとしたら、次の作品の主人公であるBが、Aと接触することになる。そうして、B、C、D…と次々にリレーしていく。しかし、作品を個別に読んでも面白い。

「おいかわ 追河」
北畑新吾は、何度も仕事と住む場所を変えてきた。その新吾の元に、幼なじみの息子が訪ねてきた。記憶がよみがえった。あいつとは一緒によく遊んだ。特に近所の小川で。雑魚釣りか……。何だか懐かしい。どうせ失業中で忙しい身ではない。久しぶりに小物釣りをやってみたくなった。新吾は川へ行った。そして、釣りを通して、さまざまな人々と出会っていく。

「らいぎょ 雷魚」
潤平の就職が内定していた信販会社が倒産してしまった。さすがにあわてたが、自分一人ではどうしようもなく、就職浪人ということになった。ライギョ釣りから安アパートに帰ると、見覚えのある男の子がコンクリートの段差に腰を下ろして、漫画雑誌を読んでいた。隣の部屋に母親と二人で暮らす男の子は勇太という名前で、ライギョ釣りを教えることがきっかけになり、友達になった。

「うなぎ 鰻」
野池はちゃんと、当時の面影を残していた。政志がすぐに帰らずにここに来ることにしたのは、どういう選択をすべきか考える時間が欲しかったからだ。その人が、これまでずっと尊敬していた専務だということが問題なのだ。専務から、交通事故について口裏を合わせを頼まれたのである。陽が暮れてきたせいか、野池の表情があの頃の感じになってきた。しかし当然ながら、あのおじさんの姿などない。

「あゆ 鮎」
俊也は中庄吉朗という男に会いに行った。社長の息子という銀のさじを最初からくわえている男が、何の努力もなしに会社に入り、しかも気まぐれで希望したセクションに割り込んだ。そして、そのとばっちりで押し出されてしまった不幸な人がいる。中庄吉朗だ。一応、業界では大手とされている会社を辞めて、老朽化したアパートに転居していた。しかし、中庄吉朗は仕事をしないで、アユ釣りに行っていた。

「たなご 鱮」
篤史は山中に謝った。自分の勝手な思い込みによる通報で、潔白の山中が逮捕されてしまったのだ。しかし、おかしな人だ。いい年をした大人が夜間に一人でタナゴ釣りとは。しかも、誤認逮捕されたことよりも、ミヤコタナゴがいたことを警官が信じてくれなかったことを怒っていたようだ。タナゴ釣りか。小学校四年生のときに、親父に連れられて、何度か近所でタナゴ釣りをした。

「まぶな 真鮒」
もし財布でも入っていれば、ぐらいのつもりだった。バックには四千万円が入っていた。一円も使わずに自首しても実刑かもしれない。まずはどこかに身を隠すべきだと思った。そこに、基一のことを孫のケイスケだと思い込んだじいさんが声をかけてきた。一人暮らしだったじいさんの部屋に転がり込み、言われるままフナ釣りを一緒にすると、基一はフナ釣りにはまってしまった。

個人的に好きだった作品は、わらしべ長者のような「おいかわ 追河」と、年の離れた友情を築く「らいぎょ 雷魚」と、実は…というオチがある「たなご 鱮」だった。それ以外の作品もレベルがすごく高かった。こんなに濃密な連作集はめずらしい。マジで釣りに行きたくなった。釣りは小学生の頃にルアー釣りしかしたことがない。こんな自分でも、魚が釣れそうな気がした。釣りがしたい。飼っている熱帯魚水槽で釣りを…。(おい)

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山本甲士
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    2008

08.15

「優しい悪魔」垣谷美雨

優しい悪魔優しい悪魔
(2008/06/20)
垣谷 美雨

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岩崎佐和子の勤める中堅の機械部品メーカーでは、三ヶ月前までは、各フロアの窓際の一角にリフレッシュコーナーという名の喫煙所があった。丸いテーブルと椅子もあり、飲み物の自動販売機が壁に沿って何台も並べられていた。しかし、三ヶ月前に突然、リフレッシュコーナーは禁煙となった。それを境に、その場所は女性社員が昼休みに弁当を食べる場所になった。そもそもリフレッシュコーナーというのは、休憩所であって喫煙所ではないということを、全館禁煙になって初めて佐和子は知った。

社屋が全館禁煙になってからというもの、ニコチン依存症の社員たちは惨めな状況に追い込まれていった。タバコを吸いたくなったらわざわざエレベーターで一階まで降り、守衛室のある通用口を通り抜けて、駐車場まで来なくてはならなかった。喫煙が許されているのは、この場所だけなのだ。駐車場の片隅で灯油缶を取り囲む社員たちは、負け組だった。タバコをやめることすらできない意志薄弱な人間の集まりだった。

佐和子は一本目を根元まで吸ったあと、すぐに二本目に火を点けた。最近は駅でも吸えませんからね。久美が言う。だいたいタバコがそない体に悪うて他人に迷惑かけてるゆうんなら、そもそもなんで売ってるわけ? ついこないだまでテレビで堂々とコマーシャル流してたんは、じゃんじゃん吸ってもええゆう証拠やで。それにな、タバコ税のこと考えてみろゆいたいわ。うちら喫煙者は、税金ぎょうさん払ってるんやから、お国の役に立ってるねんで。由利子が言った。

しかし、タバコを吸わないではいられない体は本当に不便だった。ここのところ急速にどこも禁煙となり、喫煙所を常に捜さなくてはならなくなった。不便なだけではなかった。四十歳を過ぎたあたりから体調が悪い。喉が痛い。できるならタバコを必要としない人間に生まれ変わりたい。禁煙にチャレンジし続けて二十年。今度こそ本気で取り組みたい。いや、違う。今までだって本気だったではないか。今だ、今しかない。ヘビースモーカーの働くお母さん、岩崎佐和子の飽くなき挑戦の日々を描いた禁煙奮闘小説。

喫煙者にとっては本当に肩身が狭い世の中になった。そこに禁煙の作品かよとは思ったが、これは喫煙者を責める内容ではない。喫煙者の声を代弁しつつ、禁煙の失敗談であり、なおかつタバコを吸うことの害をも説いている。喫煙者からすれば、声を大きくして訴えたいことを言ってくれるし、タバコを吸わない方からすれば、あの煙が邪魔なのだという描き方がされている。たぶん。

だけど、そういったうんぬんを抜きにしても面白かった。複線だと思う部分を読んだだけで、先が読めてしまうという甘さはある。しかし、テンポのよい文章で、禁煙中なのにすぐに吸ってしまうダメさが滑稽で、自分勝手ないいわけぶりが楽しめる。吸う人と吸わない人がいる会社で、吸う夫と禁煙に苦しむ母を知る娘のいる家庭で、そして、喫煙者を白い目で見る街という環境で、スモーカーのお母さんは、はたして禁煙することができるのか。その答えは、本書の中にある。お薦めです。

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垣谷美雨
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    2008

08.15

「ごめん」原田マハ

ごめんごめん
(2008/05/27)
原田 マハ

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その瞬間、4人の女性は何を決意したのか?
「天国の蠅」「ごめん」「夏を喪くす」「最後の晩餐」の4編を収録。

「天国の蠅」
その雑誌を見つけたのは夫だった。中ほどのページにピンク色の付箋が貼ってある。開くと投稿コーナーに娘の名前が載っていた。娘の詩を読んでみる。いつのまにか娘の中に育っていた前向きな資質を読み取って、範子は嬉しくなった。詩の雑誌なんて、初めてみたな。そう思いながらパラパラとページをめくり、ふと閉じかけたページに目がとまった。タイトルは天国の蠅。作者の名前は載っていない。その詩が、自分たちを捨てた父親の記憶を呼び起こした。

「ごめん」
それは純一の会社の近所らしき支店名のある普通預金の通帳だった。開けてみると、びっしりと振りこみの明細がある。陽菜子は帳面を凝視した。毎月、給料日に一万二百十円が、どこかに振りこまれている。そして、その翌日に同じ金額が、この口座に振りこまれている。振りこみ人の名前はオリヨウとある。意識不明の重体に陥った純一に会ったときですら、陽菜子は落ち着き払っていた。けれど、陽菜子は、初めて不安になった。陽菜子は口座のやり取りをするオリヨウを探しに高知にやって来た。

「夏を喪くす」
咲子はこの夏、四十歳になる。忙しい人生。でも、充実した日常。ともに歩む仕事仲間がいる。恋する相手がいる。なんとなく、夫もいる。そして、その夫にも恋する相手がいた。咲子は乳癌の告知を受けた。いまのままでいい。これ以上のことは何も望んでいない。なのに、どうして。自分が癌だなんて。しかも乳房を取ってしまうなんて。死ぬのかな。わかっている。乳房を失うということは、渡良瀬を失うことだ。乳房切除を拒否することは、命を失うことを意味するのかもしれない。夫は、どうするだろうか。

「最後の晩餐」
麻理子は足早に進む。この街では自然と早足になる。ニューヨークは実に七年ぶりだった。階段を上がれば、そこには懐かしい街の風景が待っているはずだ。街の匂いがする。見慣れた風景。初夏の青空が、ぽかんと広がっている。麻理子がこの街に暮らす時分には、そのくすんだ青の中に二本の巨大な超高層ビルが建っていた。それがもうなくなった。クロはいなくなった。あの運命の日に。麻理子はかつて暮らしていたアパートにやって来た。行方不明になったクロとシェアしていたあの部屋に。

デビュー作を読んで面白かったので、現時点での最新作を読んでみた。めっちゃ好みかも。ガツンとくる作品はないが、それぞれの作品を読むと、じわーっと余韻が広がってくる。このじわーの正体を上手く言葉にできない。そこがもどかしい。だけど、好きということだけは間違いない。主人公はすべて女性である。彼女たちの決意に、おおっとなるのだ。それに引きかえ男たちは、現実もこんなものかなと思った。女性は強い。男は…自分を含めて弱いかも。

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原田マハ
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    2008

08.14

「走れ!T校バスケット部 2」松崎洋

走れ!T校バスケット部 2 (2)走れ!T校バスケット部 2 (2)
(2008/04)
松崎 洋

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前作の続きなので、ネタバレでいきます。知りたくないという方はご注意を。

二作目になるが、主な登場人物を一応紹介しておこう。キャプテンでチームのエースである陽一。スリーポイントシュートを身につけた俊介。足の速さでは彼の右に出る者はいないメガネ。頭の中はいつも女の子しかないのぞき魔。寿司屋の息子で文句マンという別名を持つチビ。身長とパワーはあるが走れない一年生の健太。その健太のお守りを命じられる同じく一年のコロ。バスケの素人だけど元気印の顧問小山先生。マネージャーで陽一の彼女の浩子。同じくマネージャーで俊介の彼女のルミ。学校一長身女子の美香。女子陸上部の志保。俊介だけが見える謎の黒人モーガン。

ウィンターカップ予選決勝で、東京ナンバーワンの私立H校に劇的な勝利を収めたT校。ウィンターカップまであと四十日。H校の岩田コーチと部員たちは、陽一へのイジメやラフプレーを反省し、時間が許す限りT校を訪れ、練習相手を務めてくれた。H校との一ヶ月に及ぶ練習は、T校部員たちに大いなる自信を植えつけた。

ウィンターカップが始まり、T校は初戦でストリートバスケを繰り広げる沖縄のK校と対戦。初出場の緊張でガチガチに固まるT校部員は、前半をリードされるが、緊張のほぐれた後半で盛り返し、見事初戦を突破。しかし、次の対戦校は東北の強豪校で全国的に有名なA校だった。

ウィンターカップが終わり、彼らの活躍を見た一年生が新たに入部してきた。陽一、俊介、コロたちは、河川敷公園でタロウという犬を飼う謎のホームレスと出会う。そして、陽一や俊介、チビにメガネ、のぞき魔たちは三年生になり、それぞれの将来に向かって歩みだす。

はっきり言ってバスケ色の濃かった前作の方が面白かった。文章がよろしくないのに、日常風景を読まそうなんて無謀なことをしている。相変わらずマンガ的ではあるが、盛り上がりに欠けていて、平面なのっぺらぼうになっている。二匹目のどじょうは逃したというところかしら。こんな中途半端な作品なら、前作で終わっていたほうが良かったと思う。なぜバスケットから離れてしまったのだろう。そこが残念だった。これ以上の文句はみっともないので、今回はここまで。

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その他の作家
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    2008

08.13

「人くい鬼モーリス」松尾由美

松尾

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)

高校二年の夏休み、わたしこと村尾信乃は、家庭教師のアルバイトのため、優雅な避暑地にやってきた。手ごわいと聞いていた生徒は、芽理沙という名の超美少女。小生意気だけど、どこか寂しさを漂わせた芽理沙に、わたしは興味をひかれる。
だが、すてきな夏になるかも、という期待は、あっさり打ちくだかれた。芽理沙に引き合わされた「人くい鬼」を見た瞬間に。この世のものとも思えない異様な姿をした、この世に存在するなんて信じたくもない、生き物だった。
彼女いわく、大人には見えないし、生きている人間には害をあたえないそうだが、はたして、その言葉をうのみにしてもいいのだろうか?
やがて、静かな別荘地を震撼させる、恐ろしい事件がたてつづきに起きる――。
人くい鬼の存在を知らない大人たちの推理と、その存在を前提に繰り広げる少女たちの推理。少女たちと人くい鬼の不思議な絆を描く、さわやかでマジカルなミステリー。《本の折り返しより》

この作品は、モーリスという名の「人くい鬼」がキーになっている。「人食い鬼」ではなく、「く」はひらがなである。そのちがいは、生きている人間は絶対に食べないということ。「人くい鬼」は死んでまもない人や動物の残留思念または魂なんてものを、エネルギーとしてとりこむ。その過程で、死体は「消滅」させてしまう。そして自ら手を下して動物の死を招くことはない。さらにその姿を見ることができるのは子供だけで、大人たちからは見えない。

そういった「人くい鬼」の設定を踏まえたミステリーになっている。つまり、死体が発見されるが、その次の段階では死体が消失している。主人公の信乃と芽理沙は、死体が消えてしまったことはモーリスの仕業だと思うのだが、それを知らない大人は殺人と消失をくっ付けて同一犯だと踏むのである。いわば子供の論理と大人の論理があって、その微妙な間を、高校生という大人の一歩手前の主人公が推理していくのだ。

ただ、個人的にしっくりこなかったことがある。主人公は「人くい鬼」を恐ろしく、おぞましく感じる気持ちがある。しかし、芽理沙にはそんな気持ちはない。いや、それ以上で、死体がでたら「人くい鬼」の格好のエサだと捉える傾向まである。この部分がざわざわとさせるのだが、その後の展開で、芽理沙はあっさりしすぎともいえる態度を取っている。ネタバレになるので上手くいえないが、あのざわざわとした居心地の悪さが、こうも簡単に払拭されてもいいものなのだろうか。

しかし、作品的には悪くない。ファンタジーとミステリーが見事に融合されていて、すごく雰囲気があって、「人くい鬼」を飼っている美少女の心もゾクゾクさせる怖さあって、ラストでは少し切なさがあり、静かな余韻をもって終わっていく。エピローグでは、YAらしくサービスがてんこ盛りであったが、あれはあれで愛嬌があったように思う。惜しいのは先に書いた部分で、もう少し何かがあって欲しかった。

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松尾由美
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    2008

08.12

「蜘蛛の糸」黒川博行

蜘蛛の糸蜘蛛の糸
(2008/06/20)
黒川博行

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笑われても平気。男だもの。 彫刻家・遠野公彦。独身、四十二歳。頭髪と体型に少々の難あれど、相続資産あり。そんな遠野に巡ってきた、千載一遇のモテモテチャンス。だが、ひょんなミスをしたことが運の尽き。艱難辛苦、抱腹絶倒、めくるめく夜の迷走劇がはじまった──。(表題作『蜘蛛の糸』) 他、しょうもなさ天井知らずの男たちを濃厚に描いた全七編。人間の本質を独特のユーモア、視線で描いたミステリーで絶大なる支持を得る黒川博行。彼の魅力が濃縮されたユーモア短編集。女の前で条件反射的にええかっこをしてしまう男たちのあほらしさ、むなしさ、そして脳天気さを、抉って晒して笑いのめす。《アマゾンより》

黒川博行といえば刑事もの。そんなイメージを発破による爆破のように瓦解させる恐るべき短編集だ。主人公が彫刻家の遠野公彦である作品が三点、それ以外の作品が四点。では、さらっと内容紹介をしてみよう。

モデルにやって来た亜実は、直前になってヌードにはならないと言い出した。彫刻に着衣のモデルなんて、あってはいけない。なんとか裸にしてやろう。いや、裸に剥いてみせる。これは芸術のためだ。本心は亜実の裸が見たい。下半身の疼きが、遠野を狂わせてゆく。……「充血性海綿体」

見知らぬ番号だった。相手は瑠美。かつて飲みにいった店の女で、記憶にあるのはEカップのブラとピンクのショーツだけだった。USJに行きたいという電話だった。オープンしたばかりのUSJのディレクターだと自分は言ったらしい。モテたくて。……「USJ探訪記」

先輩の作家から、アルバイトを紹介された。刑事が素人の手習いでミステリー書きはじめ、それを添削するというものだ。刑事の書いた原文はだらだらと長い。どうでもいい描写が多すぎる。あまりの下手さに、書き直して見本を見せることになるが。……「尾けた女」

彫刻家の遠野が再登場。きっかけは田中医院で打ってもらった精力剤だった。体がカーッと熱くなった。股間の膨らみの勢いにまかせ、狙っている女に会おうと電話した。それが遠野を襲う不幸への連鎖の始まりだった。……「蜘蛛の糸」

黒マントを着た中年男から、判進平刑事はご指名を受けた。中年男は十一階から飛び降りるといって騒ぎになっていた。飛び降り男はバンパイアだと名乗り、判刑事はヴァン・ヘミング教授にされた。高所恐怖症の判刑事の受難。……「吸血鬼どらきゅら」


車だけは自慢だ。ボルボのワゴンタイプだった。それが検問に遭い、車検切れが発覚し、即レッカー移動。電話をかけた車検代行会社はすべて、外車お断り。そこに、所有者が検査場に持ち込むユーザー車検というのがあることを教わった。……「ユーザー車検の受け方教えます」

三度目の今回は、遠野の前に映画プロデューサーが現れた。これから制作する映画に出資しないかという誘いだった。そこに、知り合いらしい男から、裏カジノに行かないかと誘いがくる。ディーラーと裏でつながっているので絶対に勝つという……「シネマ倶楽部」

遠野が登場する作品がすっごく面白かった。下心がまるだしで、浮かれ具合が突き抜けていて、悲惨な目に毎回遭うのだが、これが懲りないおバカである。憎めない愛すべきキャラだ。特に男性なら遠野の気持ちがわかるだろう。のん気に笑っていられない方もいるだろう。

「USJ探訪記」もやりたい一心で女のわがままに振り回される遠野と同系統の作品だ。「尾けた女」は作家が作家志望の刑事にミステリを指南することになる。この二人のやり取りがとにかくシュールだ。「吸血鬼どらきゅら」は建設中のビル十一階の縁に高所恐怖症の男が立つという設定が面白い。「ユーザー車検の受け方教えます」はやることなすこと上手くいかないという滑稽さが絶品だった。

今回は下ネタが多い。だけど、全然いやらしさがない。なぜかと言うと、すべてが失敗談だからだ。男っていくつになってもだらしない。成長しない。そう笑えてしまう抜けている部分が楽しいのだ。こういう短編集ならまた読みたい。遠野に再会したい。そう思えた一冊だった。

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黒川博行
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    2008

08.11

「タイム屋文庫」朝倉かすみ

タイム屋文庫タイム屋文庫
(2008/05/22)
朝倉 かすみ

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祖母が死んだ。祖母が「おばあちゃん」から「仏さま」に変わった気がした。祖母の亡きあと、小樽の祖母の家に住もうという身内はいなかった。おばあちゃん家で暮らしたいという柊子の希望は、親戚一同から歓迎された。一度動きだしたら止まらなかった。からだが勝手に動いた。忌引休暇を終えてすぐ、柊子は上司に退職を願いでた。不倫関係にあった男だった。

荷物は本が多かった。荷物のほとんどが本といってよかった。とりあえず全部持ってきた。数は五百ほどである。タイムトラベルにちなんだものばかりだった。蒐集歴はおよそ十五年になる。きっかけは初恋のひとのひとことだった。タイムトラベルの本しか置いていない本屋があったらいいな。知るひとぞ知るって感じで、目立たない小さな店で。それは柊子が十六歳になったばかりの初夏のことだった。かれとは卒業以来、会っていない。

居間に積もった本を元手に、貸し本屋を始めようと、思いついた。時間旅行にかんする本だけを扱う本屋を。このまちの、この家でひらこう。たったひとりの客を待つ店があってもいいじゃないか。もう、三十一歳。ただ、彼と会いたいだけだった。貸し本屋の名前はタイム屋文庫がいい。動き出したら止まらなかった。柊子の胸のうちはオー・ライだった。親指を力強く立てている。

お初の作家さんだ。第一印象は優しい文章かな。そして、読んでいるとなぜか気持ちよくなってくる。それゆえに何度も眠くなってしまった。(おい) 退屈という意味ではない。文章から情景が浮かびあがってくるし、主人公が何を思っているのかも伝わってくる。だけど、気がつくと首をカックリとしているのだ。

主人公の柊子は、朝は朝刊くばり、昼はレストラン・ヒワタリという風にバイトをかけもちしながら、夕方から貸し本屋をいとなむ日々をおくる。そこを訪れるのは、レストラン・ヒワタリのオーナー樋渡徹、学生時代からの友人の木島みのり、実家に出戻った姉などで、彼らはタイム屋文庫でうたた寝をすることで夢をみることになる。いわゆる、時間旅行をしてしまうのだ。というわけで、登場人物たちも眠くなるわけである。自分だけではないのだ。(おいおい)

その不思議な夢をみた人たちは、何かしらに気づいて前を向いて歩き始める。しかし、すべての人が夢をみられるわけではない。店主の柊子もしかりで、なぜか夢をみることがない。その彼女はどうしたら前へ歩むことができるのか。彼女が前へ歩むとその先には何があるのか。それは自分で読んで確かめてほしい。優しい文章だからか、優しい気持ちになれた。温かな気持ちになれた。そして、夢のある素敵な作品だと思った。

自分がタイム屋文庫でうたた寝をして、はたしてどんな夢をみるのだろうか。それともみることはないのか。そういったタイム屋文庫を訪れてみたいという想いとともに、自分の蔵書で貸し本屋をしてみたいという憧れがでてきた。およそで本を数えてみたら八百以上はあった。商売っ気が抜きならできそうだ。

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朝倉かすみ
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    2008

08.11

「警視庁特捜班ドットジェイピー」我孫子武丸

警視庁特捜班ドットジェイピー警視庁特捜班ドットジェイピー
(2008/06/20)
我孫子武丸

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警察のイメージアップを図るため、日本のお偉方たちは、安易にも戦隊ヒーローブームにあやかり「警視庁戦隊」を作り、広報活動をさせることにした。部隊名は「警視庁特捜班ドットジェイピー」。ジェイピーはジャパニーズポリスの略。ドットが付くのは、なんか今風だから。集められたのは、性格に大きな難があるものの、格闘、射撃、コンピュータなどの達人にして美男美女の五人の警官。しかし、彼らを逆恨みする犯罪者が現れた!  戦え! ドットジェイピー! 世間の眼に負けるな! ドットジェイピー!  浅はかで投げやりな平成ニッポンを照射し笑いのめす怪作、誕生!  《本の帯より》

ぷぷっ。なんじゃこりゃ。はっきり言ってしまえばB級コメディである。しかし、このアホらしい笑いがツボに嵌まってしまった。我孫子センセイが好きなように遊んでいる。この遊びに上手いこと混ぜてもらったようだ。以前から、我孫子作品とは妙に波長が合う。デビュー作に登場した不幸なあの刑事からして爆笑だった。それが今回はリミッターを外してアクセルをベタ踏み状態だ。これを読んだら、今のバラエティ番組がいかにつまらないかを再認識させられる。

まずキャラがすごく良い。万年巡査部長だった高崎は、いきなり警部補に昇進されてドットジェイピーの班長に任命された。そんな彼の頭の中には七〇年代のあの伝説的刑事ドラマしかない。だから、自分のことを班長ではなくボスと呼ばせ、窓際でブラインドを人差し指で押し下げて、その隙間から下界を見下ろすポーズばかりを取っている。まるでボスになりきったような振る舞いが一貫していて、それゆえに威圧的な態度になる。

早崎綾は、ロリータアイドルのような容姿ながら格闘のエキスパートである。彼女の欠点は、エロを感じた瞬間に相手を半殺しの目に遭わせてしまうことで、それが犯人でも、今の東京都知事がモデルの知事でもかわりがないことだ。その知事を彼女はマスコミの前でノックアウトしてしまう。そのあとのメンバーによるフォローは、腹がよじれそうなほどに笑わせてくれる。それにコードネームであるバージンホワイトにまつわることでも。

五人のメンバーにはそれぞれコードネームがつけられる。格闘の達人の早崎綾はバージンホワイト。射撃の達人で、映画の銃撃戦に影響を受けまくっているのが三枝博信ことソルジャーブルー。見たものをそのまま記憶する能力を持った腐女子の沢渡香蓮はビューティーパープル。自然な女垂らしの窪寺類はキューティーイエロー。コンピューターに精通している一之瀬瑛次はデジタルブラック。そんな問題児集団である彼らが、ドタバタを繰り広げる。これが最初から最後まで抱腹絶倒で、読書のページを捲る手が止まらなかった。お約束の展開が好きな方は、ぜひどうぞ。

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我孫子武丸
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    2008

08.09

「ラブコメ今昔」有川浩

ラブコメ今昔ラブコメ今昔
(2008/07/01)
有川 浩

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突っ走り系広報自衛官の女子が鬼の上官に情報開示を迫るのは、「奥様とのナレソメ」。双方一歩もひかない攻防戦の行方は?(「ラブコメ今昔」)
出張中新幹線の中で釣り上げた、超かわいい年下の彼は自衛官。遠距離も恋する二人にはトキメキの促進剤。けれど……。(「軍事とオタクと彼」)
「広報官には女たらしが向いている」と言われつつも彼女のいない政屋一尉が、仕事先で出会ったいい感じの女子。だが現場はトラブル続きで……。(「広報官、走る!」)
旦那がかっこいいのはいいことだ。旦那がモテるのもまあまあ赦せる。しかし今度ばかりは洒落にならない事態が。(「青い衝撃」)
よりによって上官の愛娘と恋に落ちてしまった俺。彼女への思いは真剣なのに、最後の一歩が踏み出せない。(「秘め事」)
「ラブコメ今昔」では攻めに回った元気自衛官、千尋ちゃんも自分の恋はいっこうにままならず……。(「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編」)

内容紹介でどこまで書いてよいのやら判断できなかった。そこで角川のHPから引用させてもらうことにした。「クジラの彼」に続く自衛隊ラブコメシリーズ第二弾。ここからは個別の感想になるが、未読の方は注意して欲しい。大丈夫だと思って書いているけれど、ネタバレありかも。

「ラブコメ今昔」
突き放しても挫けないスマイル千尋ちゃんと、その追っかけに閉口する今村二佐。そして、天然の今村夫人が可愛かった。印象的だったのは、今村二佐が語る自衛官としての覚悟。その今村二佐をたじたじにする千尋ちゃんのパワーは圧巻だった。だけど、こういう形振りかまわない人は苦手かも。

「軍事とオタクと彼」
年下の自衛官の笑顔にやられてしまった大阪人の歌穂。出会ったときから彼に胸キュンで、歌穂からきっかけを作りだす。だけど、その彼は女性慣れしていないために少々じれったい。この行動力のギャップが楽しい。そしてかわいい。読んでいるこちらまでキュンときたし、歌穂の弟もいい味をだしていた。

「広報官、走る!」
ドラマ撮影に協力することになったが、撮影はスケジュール通りに実行されることは一度もない。隊内からも局側からも苦情の嵐で、その間に板挟みになったのが、広報の政屋一尉とADの汐里。二人の最大の敵は、横暴なディレクターの王様。この王様にムカついて、最後に溜飲を下げるという展開はオーソドックスかな。

「青い衝撃」
ブルーインパルスのパイロットと言えば、アクロバット飛行の花形。だから夫はモテモテ。そこに不吉な影が登場。公恵と目を合わせ、勝ったように微笑むあの女が現われた。それ以降、夫の飛行のたびに、浮気をにおわせるメモが女から送られてくるようになった。この女がとにかく気持ち悪い。だけど、ラストは爽快だった。

「秘め事」
手島二尉は上官の娘と付き合い、有季は父親に内緒で父親の部下と付き合っている。そんなこととは知らない父親は親バカ丸出し。その後の展開は一番ベタな作品かもしれない。そして、親父萌えの作品でもある。その一方で、自衛官の結婚式で語られるスピーチの重さは、簡単には言葉にならないぐらい心が引き締まる。

「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編」
一作目に登場した千尋ちゃんと吉敷の馴れ初め。先の作品では、突撃体当たりが得意な千尋ちゃんが目立っていたが、今回は吉敷の人物像を掘り下げている。僕は不器用ですから、というセリフが似合いそうな吉敷の一発逆転劇。この作品を書き下ろしたことで、もう一度「ラブコメ今昔」が生きてくる。これって「阪急電車」の逆折り返しバージョンなのか。

全体的に甘さは控えめかもしれない。そして、今回はシリーズ作の外伝はなかった。だけど、こういうわかりやすい恋愛ものは好きだ。甘酸っぱいだけでなく、そこに自衛官ならではのピリっとした緊張感を挿入し、それでもニヤニヤさせてくれるのだ。しかし、「別冊図書館戦争」を読んだあとでは、弱冠物足りないことがなくもない。ベタ甘に対する免疫力が知らないうちにアップしてしまったのか。こうなった要因は有川センセイに大いにあると思う。これは責任を取ってもらわなくては。もっと悶絶するような作品をお願いします。

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有川浩
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    2008

08.08

「プリズムの夏」関口尚

プリズムの夏 (集英社文庫)プリズムの夏 (集英社文庫)
(2005/07/20)
関口 尚

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主人公のぼくはまあまあのレベルの高校に通っている。親友の今井とは、一年生のときに同じクラスになり、そして三年生になって違うクラスになった今でも、ほぼ毎日のようにつるんでいる。そんなある日、二人の少年は松下奈那に出会った。行きつけの映画館の切符売り場でアルバイトを始めた女性で、年齢不詳の年上美人だけど、無愛想で不可解な人だった。

謎めいた美しい大人の女性となんとか知り合いになりたい。あわよくば近づきたいと思う二人。しかし、彼女は二人の挨拶を正面から受け止めるけれど、どこまでも無愛想だった。二人はお互いに牽制しあいながらも、松下奈那の年齢や素性を知ろうとあの手この手を試みる。そして偶然、松下さんに彼氏がいることを知ってしまい、二人はなんとなく意気消沈してしまう。

二人の少年の楽しみは、一緒に観た映画やお互いに観た映画について語り合うこと。それに、今井は映画の感想を述べるサイトを運営していた。その今井が面白いサイトを見つけたと言って、ぼくに見せてくれた。アンアンのシネマ通信というサイトの中にある「やめていく日記」という題がついた日記だった。はじめはアンアンという女性の離れて行く恋人への切実さを今井は評価していたが、更新が進むにつれ、アンアンのうつ病日記に変貌していった。

どうせ弱いふりをして、かまってほしくて、いつも人のせいにするやつさ。今井は吐き捨てるように言った。今井の父親はリストラされたことでうつ病になり、その父親のノイローゼが家族を苦しめていた。それ以降、今井からこのサイトについて口が開かれることはなくなった。「やめていく日記」が更新されても、ぼくからも日記について話しかけることはなくなった。

学校が夏休みになり、あえて松下さんのいる映画館を避けて、別の映画館に行った二人だが、そこで過呼吸で苦しむ松下さんに出会い、ぼくは助けることになった。その夜、松下さんのことを思い出して眠れなかったぼくは、久々に「やめていく日記」を見てやろうと思った。するとそこにはアンアンが過呼吸になったと書いていた。この日記のアンアンという作者は松下さんなのか? 日記の女性が松下さんなら助けたい。第15回小説すばる新人賞受賞作。

また内容紹介をこれでもかというぐらい書いてしまった。最近の悪いクセが出たな。作品のことは書ききった感があるから、あと少しだけ書くことにするが、この少年たちぐらいの年頃って、年上の女性に憧れを持つのはふつうのことだ。同級生とは比べものにならない色気があって、会話をするだけで大人の仲間入りをしたような錯覚をするのだ。それが年を重ねていくと、いつの間にか、年下の若いお姉さんが輝いているように見えてくる。それが男にとっての女性の二十代である。女性の方からはお叱りを受けるかもしれない。だけど、男って何故、こんなに二十代女性に弱いんだろう、というオチを残して終わりにしたい。

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関口尚
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    2008

08.07

「ぼくは落ち着きがない」長嶋有

ぼくは落ち着きがないぼくは落ち着きがない
(2008/06/20)
長嶋有

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人って、生きにくいものだ。みんなみんな、本当の気持ちを言っているのかな?青春小説の金字塔、島田雅彦『僕は模造人間』(’86年)山田詠美『ぼくは勉強ができない』(’93年)偉大なる二作に(勝手に)つづく、’00年代の『ぼくは~』シリーズとも言うべき最新作!「本が好き!」連載中に第一回大江健三郎賞を受賞したことで、ストーリーまでが(過激に)変化。だから(僕だけでなく)登場人物までがドキドキしている(つまり落ち着きがない)、かつてみたことのない(面白)不可思議学園小説の誕生!* ( )内は作者談《出版社より》

望美たちの通う桜ヶ丘高校の図書室のもろもろを取り仕切るのは「図書委員」と「図書部員」だ。図書委員はクラスから一名ずつ選抜される。昼休みや、ときには放課後も拘束される図書委員になるのを皆は嫌がる。仕方なしに選ばれた者は、なにかと口実をつけて図書室の業務をサボってしまう。望美の入学するより何年も前の代に、本好きの女子グループがあった。貸し出し作業をしてくれる者がいないと図書室は運営されない。自分たちの読みたい本も入荷しない。そこで、教師にかけあって、自発的に図書室の管理運営を執り行う「図書部」が発足した。

図書部員には、望美、頼子、健太郎、ナス先輩、部長、登美子、綾…その他多数の部員がいる。部員たちの多くは朝、登校しても教室にまっすぐいかない。まずは二階の図書室に寄り、部室に弁当を置いていく。弁当だけでなく、雑誌や漫画や、携帯電話を置いていくのだ。あるいはゲーム機やデジカメや、私服やネイルセットやドライヤーを。そんな好き勝ってがまかり通る部員たちの部室での日々を描いた、文科系部室小説。

自分が文系男子ではなかったので、文系のクラブってこんな感じなんだ、という興味の持ち方で読んだ。とにかく、まったりしている。部員たちの会話がユルいのである。トンちゃんがさぁ「カツクラ」に載ったんだよとか、けばだったここをむしるのはやめようとか、どうしたら女子アナと結婚できるんだろうとか、私コーヒー、俺ミロ、砂糖もね。牛乳いれてー。ガリガリ君買ってきてー。などと、だらだらしている。

しかし、そこにはいろんな個性があって、彼ら彼女たちは、どんなことで傷つくか分からない年代でもある。だから、理不尽な言いがかりによる無視といった心のすれ違いや、対人関係の未熟さからくるバランスの危うさがあって、第三者から見ればなんともなくても、内実は仲良しこよしの一枚岩というわけではない。おまけに融通の利かないカタブツの先生などが登場して、それが高校生活をリアルなものに感じさせたりするのだ。

きれいで爽やかなものだけが青春ではない。不器用で、無神経で、傷つきやすくて、あらゆることが不安定な年頃だからこそ、何気ないことで心が揺れたり、ぱっと楽しくなったり嬉しくなったりするのだ。思うことや興味や関心がたえずあっちこっちと動いている。そんな中での一瞬の心境が上手く捉えられていて、ここに長嶋流の青春があったと思った。ただ一つ残念だったのは、登場人物たちの学年関係がイマイチ把握できなかったことだ。この部分だけは不親切だと強く思った。「ンモー」。

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長嶋有
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    2008

08.06

「虚夢」薬丸岳

虚夢虚夢
(2008/05/23)
薬丸 岳

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白い雪で覆われた公園にはたくさんの人たちが集まっていた。そのとき、どこからか奇声が聞こえてきた。少し先で小学生の子供たちが懸命に走り回るのが見える。子供たちを追いかけているのは黒いジャンパーを着た大人の男のようだ。男の右手に握られているものが光を放った。その正体に気づいたとき、公園のあちこちから悲鳴が上がった。男は子供を後から捕まえて羽交い絞めにすると、何度も子供の胸に刃物を突き刺した。

留美を見た。雪を丸めながらにこやかに笑っている。佐和子は必死に走った。助けて、あなた。後ろから衝撃があって、前のめりに倒れた。背中が妙に熱い。顔を上げると、男が見下ろしていた。血しぶきを顔に浴びた若い男に見覚えがあった。近くのコンビニで見かけるアルバイト店員だ。若い男が留美に目を向けた。やめて、お願い、助けて、神様。若い男が留美の首を刃物で突き刺した。

十二人もの人たちを殺傷する凶悪事件を起こした犯人には、精神科への通院歴があった。犯人の名前は藤崎裕之。留美を含めて三人を殺害し、九人に重軽症を負わせた藤崎が罪に問われることはなかった。この世には、人を殺しても、残虐な罪を犯しても、罰せられない者たちがいるのだ。刑法三十九条という法律によって。

逮捕されて検察に送致された藤崎は、起訴前鑑定で統合失調症と診断され、犯行時は心神喪失であったとして、不起訴となったのだ。心神喪失者の行為は、これを罰しない。心神衰弱者の行為は、その刑を軽減する。刑法三十九条という法律によって、あの通り魔事件は社会からなかったものにされたのだ。

三上孝一と佐和子は三年前に離婚してから、一度も連絡を取り合っていなかった。その佐和子から、あの男とすれ違ったといって三上に電話がかかってきた。佐和子が「あの男」というのはひとりしか思い浮かばない。藤崎とすれ違った――。そんな馬鹿なことがあるわけがない。藤崎がこの街にいるわけがない。あれほどの事件を起こしてから四年しか経っていないのだ。

佐和子は事件の後に統合失調症と診断されていた。留美を殺した藤崎と同じ病名だ。佐和子の幻覚かもしれない藤崎を探すことなど馬鹿馬鹿しいことかもしれないが、せめて自分だけでも佐和子の言葉に耳を傾けて、信じてやろうと三上は決めた。今回こそ佐和子を守ると誓った元夫の三上、徐々に壊れていく妻から逃げようとする今の夫の坂元、藤崎と接触してしまったキャバ嬢のゆき。彼ら三人の視点で、物語は展開してゆく。

長々と内容紹介をしたが、これは作品のさわりでしかない。ここから登場人物たちが動きだすのである。どう動くのか、どういうことが起こるのか、どういった結末を迎えるのか。それは作品を読んだ方だけが知ることのできる特権である。この著者の書くテーマは重いかもしれない。だけど、重さを感じさせずに、するするっと作品世界に引き込まれてしまう吸引力がある。

ただ、問題提起に対しての著者なりの答えがあれば、それに賛同するかは別にして、さらに良かったと思う。この著者は毎回問題提起を投げっぱなしだから、そこがもったいない点である。それに、どんでん返しやラストの展開は、活字中毒なら結果が見えてしまうかもしれない。しかし、これはフェアだからだ。やりすぎていないからだ。その点は認めてあげたいし、十分満足できる内容の作品だった。

薬丸さんのサイン。

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薬丸岳
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    2008

08.05

「平台がおまちかね」大崎梢

大崎

平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)

井辻智紀が明林書房に入ったのは昨年、大学を卒業してすぐの春からだ。その前に二年ほど同じく明林書房で編集のアルバイトを続けていた。四年生の秋に正社員の話を持ちかけられ、そのまま入社が決まった。それともうひとつ。明林書房からは、配属先が営業であるとあらかじめ告げられていた。これも入社を決めた大きな理由だった。本は好きで、昔から本に携わる仕事をするのは夢だったけれど、どうしても編集部だけは避けたかった。普通の活字中毒とは違い、魂本と出会うと物語世界にどっぷりのめりこんでしまうからで、本の名場面をジオラマとして再現するのが趣味だった。

営業が向いているとも思えない。どちらかといえば地味で不器用で、人前で何かをしゃべるのは大の苦手だ。尻込みなどという言葉はこのさい棚の上に放り投げ、両足に力を入れ、なんとか踏みとどまらなくては。そう思いながら、担当エリアの書店をまわる日々を送っている。そこでよく顔を合わせるのが、佐伯書店の営業マンだ。自分より四つ、五つ年上の真柴は、営業マンとしてたてるべき先輩であるのだが、どうも素直に尊敬しにくい。何かといい加減な男で、頭の中身は八割方女性のことで占められている。しかも「ひつじくん」などとふざけた呼び方をしてくる。そんな「ひつじくん」こと井辻智紀が次々と謎を解いていく。

「平台がおまちかね」
最新の売り上げデーターを目で追っていると、意外な数字に目が留まった。一冊の本だけ、やけに売れている店がある。その本はこの半年に四十八冊も売れていた。ベストセラーなら珍しくないが、でもこの本は五年前に出た本だった。早速その書店を訪ねてみたら、店長はにべもなくこう言った。君には関係ない。悪いが、帰ってくれないか。

「マドンナの憂鬱な棚」
書店員の彼女は仕事熱心で、接客はもとより品揃えにも、常にこまやかな気配りをしている。多忙の合間を縫い、棚作りにも精を出している。彼女を影ながら応援したいと思っている営業マンから、自分がマドンナと呼ばれていることなど、つゆほど気づいていないだろう。智紀も「マドンナの笑顔を守る会」に入会させられた。その彼女から笑顔が消えた。

「贈呈式で会いましょう」
今日は自社が主催する賞の贈呈式、並びに記念パーティーが開催される。贈呈式は作家本人にとって、おそらく人生の中でも大きな晴れ舞台であり、新人賞は門出を祝う席だ。塩原はまさに今日の主役で、彼を祝って会が催される。その主役が受賞作の贈呈式を前にして、長いこと出版界から遠ざかっている老作家に会いたいと突然取り乱した。

「絵本の神さま」
初めて訪れた書店のシャッターが閉じられていた。小さい書店ながら、絵本に力を入れた地元住民に愛される書店だった。ぼんやりと突っ立っていたら、となりの蕎麦屋のご主人が声をかけてくれた。商店街の客足も減り、経営が苦しかったんだろうと。そして、昨夜もシャッターの前で、雑誌を持ってぼんやり突っ立っていた男がいたと。

「ときめきポップスター」
書店主催でポップ販促コンテストが開催された。参加者は出版社の営業たち。みんなが忘れているような本を紹介し、優れたポップで販促効果を上げ、書店の売り上げに貢献する。そのイベントが始まると何故か、佐伯書店の真柴が選んだ本だけが、平台の上で一列ごっそり移動したり、他の本の間に一冊だけ挟まれたりという出来事が起こった。

成風堂シリーズは書店員の目線、新シリーズでは出版社営業マンの目線で、書店や書店員、あるいは本にまつわることを描いている。成風堂シリーズでは、ネタ切れの心配をしてしまうほど行き詰っていたが、本シリーズになって一皮むけていた。やはり想像だけど、一つの舞台で続けるのはしんどかったのに違いない。本作では、毎回違う書店で、たくさんの書店員が登場してくる。そして、出版社の目線ならではの見えてくる事柄が新しい。どう新しいかは、読む人の楽しみであるから、あえて書かないでおく。

それに、キャラの方もこちらの方が立っている。ライバル出版社の真柴であり、他の大手出版社の営業マンたちであったり、ひつじくんの前任だった先輩の吉野など、個性的な濃い面々が、作品に彩りを与えていた。こういった点では、作者の力量が上がってきたと言えるだろう。ただ、ミステリとしては弱いのはあいかわらずだ。しかし、自分を含めた読者というかファンは、この著者にミステリを求めていないかもしれない。(おい)

今後がもっともっと楽しみになった、新シリーズの開幕である。

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大崎梢
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