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    2008

10.31

「超・ハーモニー」魚住直子

超・ハーモニー (講談社文庫)超・ハーモニー (講談社文庫)
(2006/07/12)
魚住 直子

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響は、学校から帰ってきてうちが近づくと、胃のあたりがきまって重苦しくなった。三和土に見たことのない女物の靴があった。そうか、客が来ているのか。響は自分の脱いだバッシュとふと比べた。ハイヒールの方がずっと大きい。でっけえ女。思わずつぶやいた。どうせ母親のよく似た友人のうちのひとりだろう。

足音を立てないように二階の自分の部屋に上がる。すぐに勉強を開始しなくてはいけない。念願だった中学に入学して二ヶ月。寝る前に予習を少しやるだけでは授業についていくのがやっとだ。クラスメートたちは小学校のときとまったく違う。みな、余裕がある。一番余裕がないのが、響だった。だが、机についてもやっぱりやる気が起きなかった。

このごろ学校から帰ってきても何もする気になれない。ただ、体がだるい。響は机を離れると、ベッドにもたれて目をつぶった。響は、はっと目をあけた。今のメロディーはなんだ。いや、まただ。また聞こえる。小さな音。知らないメロディーなのに妙に懐かしくて泣きたくなる。いったい、どこから聞こえてくるんだろう。

その時、ドアの向こうで母親の声がした。母親の顔はこわばっている。自信たっぷりで生きている、いつもの表情じゃない。将樹が、帰ってきてるのよ。居間のドアを開けた。クリーム色のワンピースを着た人が、ソファーにスカートをふわりと広げて座っている。ひさしぶり、響。懐かしい声だ。どこか父親の声に似ている。目の前にいるのは確かににいちゃんだった。少しえらのはった顔。細い鼻筋。目尻のさがった二重まぶた。

けれど、腰までのばした髪は、濃い茶色に染まり、毛先は大きくカールしてある。ゆで卵をむいたような白い肌。薄いオレンジ色の口紅。目は、ぼかした茶色のアイシャドウで彩られている。どんな顔をすればいいんだろう。笑おうにも、しかめようにも、顔の筋肉が動かない。高三の夏休みに家出をしていたにいちゃんが、「女」になって帰ってきた。親子、兄弟、友だち同士、あっちでカリカリ、こっちでギシギシ。この世は不協和音でいっぱいだ。

この両親がひどすぎる。もうめちゃめちゃムカついた。にいちゃんが女になって帰ってきたことに対して、父親は無視を通し、母親は受け入れるポーズは取るものの、考えることさえ拒否。そして弟である主人公に対しては、うちの子はできるという重圧をかけている。こんな息苦しい家は最悪。だから、兄は家出をしたし、弟は体内に怒りを溜めつつ、ストレスに押しつぶされそうになっている。家がこんなのでは落ち着けないし、学校は学校で部活しか居場所がない。子供には子供なりの悩みがあるのだ。その子供とまともに向き合おうとしない親って、サイテー。そんな中、にいちゃんは女になったけれど、男前でした。

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魚住直子
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    2008

10.31

10月に買った書籍代

個人メモです。


合計12.860円


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自分への戒め
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    2008

10.31

10月に買った書籍

個人メモです


夜の光夜の光
(2008/10)
坂木 司

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犯罪小説家犯罪小説家
(2008/10)
雫井 脩介

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恋愛嫌い恋愛嫌い
(2008/10)
平 安寿子

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アイスクリン強しアイスクリン強し
(2008/10/21)
畠中 恵

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船に乗れ! 1 (1)船に乗れ! 1 (1)
(2008/10)
藤谷 治

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おそろし 三島屋変調百物語事始おそろし 三島屋変調百物語事始
(2008/07/30)
宮部 みゆき

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あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫 い 72-8)あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫 い 72-8)
(2008/10/15)
井上 夢人

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守護天使 [宝島社文庫] (宝島社文庫 C う 2-1)守護天使 [宝島社文庫] (宝島社文庫 C う 2-1)
(2008/10/02)
上村佑

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さがしもの (新潮文庫 (か-38-4))さがしもの (新潮文庫 (か-38-4))
(2008/10/28)
角田 光代

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QED~ventus~熊野の残照 (講談社文庫 た 88-16)QED~ventus~熊野の残照 (講談社文庫 た 88-16)
(2008/10/15)
高田 崇史

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小森生活向上クラブ (双葉文庫 む 4-1)小森生活向上クラブ (双葉文庫 む 4-1)
(2008/10/16)
室積 光

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お買い物
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    2008

10.30

「蟋蟀」栗田有起

蟋蟀蟋蟀
(2008/09)
栗田 有起

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「サラブレット」「あほろーとる」「鮫島夫人」「猫語教室」「蛇口」「アリクイ」「さるのこしかけ」「いのしし年」「蟋蟀」「ユニコーン」を収録。生き物をテーマにした十の短篇集。

「サラブレット」
青木茶巾と名乗り、手相を観る占いの部屋を開いた。じっさいには手相はよくわからない。けれども手相観はよく当たる。なぜならば、だれかの手に触れると、その人の現在、過去、未来が見えるからだ。うちは女系家族で、女はみんな生まれつき、この特技を持っていた。一年は、無事に過ぎていった。しかし、恋に落ちた彼の手に触れてしまい、彼の未来にわたしがいないことを知ってしまった。それがきっかけで、占い師という職業について、考えさせられる日々がつづいた。そんなある日、全盲のかわりに、とても耳がいい女性が部屋にやってきた。

なんかわからんけど、一緒に叫びたくなった。馬絵さん! 行け行け行け!

「あほろーとる」
彼女と知り合ったのは、大学の研究室だった。助教授になったばかりだったが、取材やテレビ出演などの仕事が急に増えた。そこに秘書としてやってきたのが彼女だった。愛らしく、有能で、それでいて、水中で生活したいという彼女。そう、彼女に恋をしはじめていたのだ。夕食に誘い、酔った勢いという力を得て、彼女を次の店へ誘った。そのバーは高層ビルの最上階にあった。酔った彼女は、そこで連続側転を始めた。翌週、その失態を心苦しく思った彼女は休養を申しでた。説得の条件として、彼女は動物を飼いたいと言い出した。研究室に持ち込まれたのは、アホロートルという両生類だった。

うーん、理解しづらい。誰か、解釈の仕方を教えて。

「鮫島夫人」
別れた夫とボートに乗った。親父が入院したので、一緒に行って元気づけて欲しいという。まだ離婚したことを告げていないということだ。彼とは二十五歳のときに結婚し、三年後に離婚した。知り合ったのは、大学の教室だ。私たちはふたりだけの親交を深めていくことになった。本当の恋の話は、彼としかしたことがない。彼は男性の肉体を持った女性だった。彼にとって私はある意味で運命の人間だったのだろう。胸の奥底にしまっておいた秘密の小箱を、私のまえでならたやすく開けられるようだった。ようし、この人を守ろう。なんとかして守ろう。いつのまにか私はそう決意していた。

ふたりの関係がすごくいい。この作品は好きだな~。

「猫語教室」
夫の栄転が決まった。地方の営業所の副所長に任命されるという。私にできるのは、日常生活のさまざまなわずらわしさから、彼を解放することしかない。彼の人生にとって私が必要とされる存在になるためには、それしかありえない。新居の部屋はマンション一階にあった。猫が現れた。おしっこの強烈な臭気がする。夫は猫を嫌っている。憎んでいるといっていい。それから二週間、死にもの狂いの闘いがつづいた。結果は惨敗だった。そこに目に付いたのは、妻たちのサークル活動案内。様々な言語がある中、猫語と記されているのを見つけた。にゃにゃにゃにゃにゃー。部屋のほうぼうからそんな声が上がる。

くっくっくっ、アホらしさがツボにはまった。

「蛇口」
パパは一年に数回の頻度で浮気をしている。彼が恋のとりこになると、すぐにわかる。彼は若くてかわいい女の子が大好きだった。株の取引で儲けている彼は、金にあかせて、そういう女の子をたやすくゲットしているらしかった。ママもかつてはそのひとりだった。十五歳のとき、彼女はパパに見初められた。十六歳の誕生日に籍を入れ、学校を辞めた彼女は、十七で赤ん坊を産んだ。パパのお相手に、私はまったく興味がない。今度の女性の年齢は、十八。私のちょうど一歳年下だ。私は彼女のことを知っていた。彼女の名前はチカ。チカは、とっても仲のよかった、私の後輩だ。

絶倫ロリコン親父はどうかと思うが、こういうシュールな作品は好き。

「アリクイ」
幼なじみの杏子が出産のため、実家に帰ってきた。杏子が妊娠したと知ったそのときから、母の興奮ははじまった。熱狂は日増しに大きくなり、最高度数を示す針はすでに振り切れているようである。杏子の家はうちの真向かいにある。どちらの家庭も、ほぼ同時期に引っ越してきたのと、僕と彼女の歳がおなじだというので、すぐに母親どうしが交流をはじめた。たがいの家族も、ふたりが並んでいるとまるで本物のきょうだいだと口を揃えた。仕事帰りに、僕は彼女の部屋へ行った。次の日も、その次の日も。その夜、宇宙とひとつになるダンスを母が踊っていた。早くあの子に教えてあげたい、と。くるっくるっくるっ。

杏子のお相手が微妙。子供のパパが彼だったら、母のするどさもあって面白くなったのに。

「さるのこしかけ」
広和さんと出会って、関係が一年近くつづいたある日のこと、彼がめずらしく、自分の部屋に来ないかと誘った。そのころには、彼と結婚して、家庭を作りたいと願うようになっていた。そこに現れたひとりの女性。結婚式を来月に控えた婚約者だった。こと恋愛において、勃発したトラブルはこれまでも数え切れない。どうして自分の周辺で厄介事ばかり起こるのか。できるだけ顔と腰を低くして生きようと決めた。それなのに、また、トラブルに見舞われてしまった。死んだほうがいいと思う。事故に遭うのが無難だろう。雷に打たれることを望んで山に入ると、見知らぬ生きものと出会う。

なぜか山伏姿で、しかもハイキングを楽しんでいる、という短絡的思考が面白い。

「いのしし年」
朱美が目をさましたとき、目の前に人の顔があって彼女は仰天した。その顔があまりに醜くて衝撃を受けたのだった。笑っているかに見えたその顔はにわかにくしゃくしゃになり、やがて両の目から涙がこぼれはじめた。朱美は思わず吹き出しそうになった。なんておかしな顔なんだろう。しかし吹き出すまえに重大な事実に気づき、すぐさま暗澹たる気持ちになった。彼は朱美の兄だ。兄と朱美は、顔つきが一卵性双生児のようにそっくりのきょうだいだった。朱美は数日前に大量の睡眠薬を服用した。彼女に迷いはなかった。ふたたびまどろみから目を覚ました朱美の前に、美しい顔をした若い女がいた。

兄がいい奴だ。妹思いで泣けそうだ。それに引きかえ、妹は痛々しい。ブスに負けるな。

「蟋蟀」
たぶん妊娠していると思うの。そういって女はうつむいた。とっさにおれは、やられた、と思った。しまった、はめられた、と。おれが誠実な男ではないというのは、最初から知っているはずだ。自分は一生結婚するつもりはないと関係がはじまる前にはっきり告げている。今日子は、それでもいい、といった。それから半月ばかりが過ぎた。杏子からの連絡はなく、こちらからすることもなかった。ふいに思いついて、タマコに電話をかける。祖母のタマコは今年で八十五になる。おれは女に執着したことは一度もない。ただひとり、タマコを除いては。彼女の腰に二匹の蟋蟀がいる。入れ墨の男と女の彼ら。

タマコがいい味を出しているし、この男も決して悪人ではない。それにしても女は強い。

「ユニコーン」
私のなかには馬がいる。そのことに気づいたのは十三歳のときだった。とっくみあいのけんかを妹としたのがきっかけだった。目の前に突然現れた一頭の馬。妹のなかには象がいた。たいていの人のなかには、何かがいた。観察を続けてわかったのは、どうやら女のなかにいるのは、例外なく本人よりも大きな身体を持つ動物だということだった。男のなかにいるのは、動物とは限らなかった。クワガタやセミ、ガンダムという人もいた。美大を出て、デザイン事務所に就職した。三十歳になり、チームのリーダーになった。久しぶりに恋人と会うその日、いつもの藍色の馬ではなく、ユニコーンが現れた。

お仕事小説として面白かった。自分の中で、男よりも仕事が大事と気づいた瞬間が素敵。

次の展開がよめないところに面白さがある。そんな短編集だった。お気に入りは、「サラブレット」「鮫島夫人」「猫語教室」「蛇口」「さるのこしかけ」「いのしし年」「蟋蟀」「ユニコーン」と、ほとんどが好きだった。やっぱ栗田さんはいい。

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栗田有起
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    2008

10.29

「となり町戦争」三崎亜記

となり町戦争 (集英社文庫)となり町戦争 (集英社文庫)
(2006/12)
三崎 亜記

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となり町との戦争がはじまる。僕がそれを知ったのは、毎月二度発行され、一日遅れでアパートの郵便受けに入れられている「広報まいさか」でだった。もともとこの町に縁もゆかりもあるわけではない。探し当てたアパートがたまたまこの町にあったという、それだけの縁。住み始めてもう二年になるが、この町のことはほとんど知らないし、知り合いと呼べるような人もいない。

開戦の日を迎えた。町はいつもどおりの倦怠感を漂わせている。黙々と歩く人の姿もなんら変わりはなかった。銃声も聞こえず、目に見える流血もない。特に変わった雰囲気は感じられなかった。そうして、何事もないまま、僕はそれからの日々を表面上は何の変わりもなく過ごした。次第に今が戦時中であることすら忘れがちになっていった。

それでも、町の広報誌に発表される戦死者の数は増え続ける。戦争は確実に始まっているのだ。僕の眼に見えない形で、戦争は確実に町を覆っているのだ。何もわからなかった。この町ととなり町の間に、どんな確執があるのか。何を求めて二つの町は戦っているのか。死者を出してまで得るべきものがあるのか。いったいどこで戦争は行われているのか。何もわからないまま、その数字を見続けるしかすべはなかった。

そんな戦争に現実感を抱けずにいた僕に、町役場から一通の任命書が届いた。戦時特別偵察業務従事者。僕にはこの戦争によって得るものもなければ、もちろん失うものもないのだ。だとしたら、この戦争の行方を知ることができるのならば、偵察という、あまり積極的ではない形で戦争を観察してみるのもいいのかもしれない。僕は任命を受けることにした。見えない戦争を描いた、第17回小説すばる新人賞受賞作。文庫版では、地域振興事業運営を請け負う会社に勤める新人女性を主人公としたサイドストーリーを収録。

なんともまあ、感想が書きにくい作品だ。戦争をリアルに感じない主人公は、なぜ戦争をするのか、人の死とは、みたいなことを自問しながらも、戦中に身を置いている。その戦争は、主人公だけでなく読者にもまったく見えてこない。その戦争する理由が地域振興という意味のわからないもので、町役場も一部の住人も大真面目で、お役所仕事の一環となっている。ここに戦争反対というわかりやすいメッセージがあるわけでもなく、だから何?という疑問はあるのだけど、これが不思議と面白く読めてしまったのだ。

その点、サイドストーリーの方はわかりやすい。何の関係もないと思っていた仕事のはずが、めぐり巡って、誰かの死に手を貸していたという皮肉。作品の完成度としては、こちらの方が上だと思った。

戦争というものに、いまいちピンときていない主人公たちは、今の日本人を代表しているのかもしれない。面白かったけれど、しかし、変な作品やなぁ。

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三崎亜記
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    2008

10.28

「薄妃の恋-僕僕先生-」仁木英之

薄妃の恋―僕僕先生薄妃の恋―僕僕先生
(2008/09)
仁木 英之

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一人の少女が雲に乗ってゆるりと進む。一人の青年が、今にも倒れそうな痩せ馬の手綱を曳きながら、その後につき従っていた。「先生、これからどこに行くんですか?」「さあね」 五年ぶりに姿を見せた師をまぶしげに見上げながら、青年王弁は今の気分をどう表現していいか、ちょっとわからない。本当に嬉しい時に普通にしているのも不自然な気もする。それでも、雲の上の少女がごきげんそうなのでよしとすることにした。

ぐうたらした生活を送っていた王弁の前に現れた少女は、彼をとんでもない世界に引っ張り込んだ。僕僕と名乗る少女は雲を御し、術を自在に使う仙人であった。成り行きで弟子となった王弁は、頭を持って振り回されるようなめまぐるしい日々を送ることになった。そして五年後の春、彼女は帰ってきた。とにかく、いまこうして自分の右斜め上に彼女が浮かんでいる風景を、王弁はずっと待ち続けていたのだ。

江陵府では、料理のことでもめている料理人の師弟と出会い、長沙城では、雷神の少年と人間の少年の約束に出会い、醴陵では、この世のものでない存在に恋した男と出会い、南嶽衡山では、何でもすぐに忘れてしまう薬屋主人とその店を守っている弟と出会い、衡陽では、横暴な有力者の下で働きながら父の仇討ちを願う男と出会い、零陵では、街全体を恍惚とさせる歌姫に出会う。シリーズ第二弾は、六編収録の連作短編集。

相変わらず王弁くんはピンクの煩悩を持て余し、先生はそんな王弁を手玉に取って楽しんでいる。そんな二人がとってもキュートで、そこに妖異が登場して、また冷やかす。すごくわかりやすいパターンだけど、これがツボなのだ。今回は連作だからか、ロードノベルとしての道中色は若干薄め。派手な演出も控えめだけど、作品としての完成度は、さすがに二作目だけあって、こちらに軍配。

また、脇を固めるメンバーもすごくかわいい。人の姿になってもナマズの顔のままで、女言葉を使う珠鼈(シュベツ)。人間の友達ができた雷神の子供の砰(バン)。先生のための庵に変化する、普段は狸の姿で王弁の頭の上がお気に入りの第狸奴(ダイリド)。まるで一反木綿のような人型の皮で、空気を注入すると人に見えるが、浮いてしまうのが難点という薄妃(ハクヒ)。女神の切った髪に魂魄が宿った従順な鶉(シュン)。その南嶽の女神の魏夫人(ギフジン)と、前作にも登場した道人の司馬承禎(シバショウテイ)。

本の表紙や背表紙が読者の想像をかき立てる。王弁と先生の関係に進展はあるのか。そしてさらなる出会いにも期待したい。僕僕先生と王弁の、次のあてのない旅を待つ。次も五年後?


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仁木英之
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    2008

10.27

「悪人」吉田修一

悪人悪人
(2007/04/06)
吉田 修一

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佐賀―福岡を結ぶ遠い昔に見捨てられた峠道。この三瀬峠の崖下で若い女性の絞殺死体が発見された。被害者は石橋佳乃。今年の春、短大を卒業し、福岡市内で保険の外交員を始めた彼女は、久留米で理容店をしている実家を離れて、職場に近い会社の借り上げアパートに引っ越していた。その彼女を最後に見たのは、このアパートで佳乃がもっとも親しく付き合っている同僚二人だった。

その夜、同僚三人で外食に出かけた際、現在付き合っているという大学生の増尾圭吾と、この後会う予定だと彼女は匂わせていた。この同僚の証言により、警察は増尾圭吾を重要参考人として捜索しているが、彼はここ三、四日前から、行方がわからなくなっていた。しかし、佳乃が実際に待ち合わせをしていたのはその男ではなかった。増尾からなかなかメールが来ないのに焦れて、つい退屈しのぎに登録した出会い系サイトで知り合った男の一人、長崎市郊外に住む若い土木作業員、清水裕一だった。

その一方。なんでもない。メールで知り合った男と会うくらいなんでもない。車までくると、裕一は助手席のドアを開けてくれた。出会ったばかりの男なのに、馬込光代はまったくと言っていいほど不安がなかった。「ホテルにいかん?」こんなにギラギラした性欲を目の当たりにするのは久しぶりだった。「行ってもよかよ」セックスなんかどうでもよかった。ただ、誰かと抱き合いたかった。抱き合える誰かを、もう何年も求めていた。自分のことを抱きたいと思ってくれる人に、強く抱きしめてもらいたかった。

重要参考人として指名手配されていた増尾圭吾が、警官に身柄を拘束された。そして警察の捜査が裕一へ。なぜ、もっと早くに出会わなかったのだろう。もっと早く光代に会っていれば、こんなことにならなかった。逃げられるわけがないのは知っている。ただ、光代はとにかくこの場から逃れたかった。今は裕一と別れたくなかった。こうして二人は逃避行に及んだ。二人は互いの姿に何を見たのか? 残された家族や友人たちの思い、そして、揺れ動く二人の純愛劇。一つの事件の背景にある、様々な関係者たちの感情を静謐な筆致で描いた渾身の傑作長編。

痛いお馬鹿な嘘つき女が、無責任で身勝手な男に惚れたのは不幸。そのお馬鹿な女に、適当に遊ばれてしまった男も不幸。寂しさを埋めてくれる男に出会ったら、その男が殺人者だった女も不幸。イライラしているところに拾った女が、余計にイライラさせる女だった男は。誰が本当の悪人だろう。その一方で、何不自由なく育てた娘を殺された両親、母親に捨てられた孫を育てた被疑者の祖母がいる。

もし、裕一が石橋佳乃よりも光代と先に出会っていたなら。そう考えてみても、石橋佳乃はやっぱり痛い目に合ったかもしれない、増尾圭吾もしかり。しかし、裕一と光代には違った可能性があったかもしれない。殺人犯に対して、ふつうなら怒りがくるはずなのに、殺された被害者の女や、遊び人のぼんの方を嫌悪するのは自分だけなのだろうか。読んでいて、すごくやりきれない思いを抱え、いろいろと考えさせられてしまう作品だった。

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その他の作家
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    2008

10.26

「スローモーション」佐藤多佳子

スローモーション (ピュアフル文庫)スローモーション (ピュアフル文庫)
(2006/06/01)
佐藤 多佳子

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柿本千佐、女子高の一年生。ニイちゃんは、白バイに追われて無茶な走りをして、トラックにぶつかり、バイクごと空中飛行。それ以来、足をちょっと引きずって歩く。二十二歳の今もだいたい一日交代で、外でふらふら家でゴロゴロの無職。何をしているか誰も聞かない。父さんの職業は小学校教師。暇だと六時前に帰宅している。ワルのニイちゃんにさんざん手こずらされたおかげで、あたしに修道女のようなタイプを望んでいる。母さんはバツイチの十歳年上の堅物男と結婚した。専業主婦で小心者で心配性。

同じクラスの及川周子は、VIP級の変人。まるで頭が足りないみたいに、口をきかないし、動作がトロい。スローモーション。だけど綺麗な動作。父親が殺人犯だという噂があって、あたしは誰よりもマジに信じこんでいる。だって、犯罪が、あっけなく、うっかりと、バカバカしいほど簡単に起きるってことを知っている。怪我人は全治二週間。いわばアクシデントで、ニイちゃんは殺意のカケラもなかった。ケンカの現場で、誰かに渡されたナイフが、うっかり誰かの足に突き刺さったのだ。そう、アクシデントだ。

そんなニイちゃんと周子は、ふとしたきっかけで、あるいは出会うべくして出会っていた。家族のやっかい者のニイちゃんが家出した行き先は、一人暮らしをする及川周子の部屋だった。ともに暮らし、やがて別れがやってくるまでの一部始終を、あいだに入ることになった千佐の視点で語っていく。束の間の寄り添い、再び歩き出すまでの物語。

女子にありがちなグループからのハグレや、無邪気な攻撃、閉塞感がありつつ、バイクの事故以来その場に留まったニイちゃんの逃げる気持ちや、及川周子のスローモーションの意味。千佐のニイちゃんを心配する気持ち、うとむ気持ち、周子に対しての嫉妬の反面、気づかう気持ち。これらが、青くって、痛くて、ちょっぴり切なくて、この年代だからこその繊細さがここにある。でも初期の作品なので、今の佐藤多佳子を期待して読む作品ではないのかもしれない。ジャンルでいえばヤングアダルト。YAが好きな方や、YA世代の方なら、共感はあるかも。大人がすべて敵に見えたあの頃が懐かしい。

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佐藤多佳子
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    2008

10.25

「地図男」真藤順丈

地図男 (ダ・ヴィンチブックス)地図男 (ダ・ヴィンチブックス)
(2008/09/03)
真藤順丈

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雑誌「ダ・ヴィンチ」の特集で絶賛されていたのを見て読みたくなった。借りてから知ったがこれって第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作ではないか。身内を持ち上げた記事に引っかかってしまったのか。とりあえず、読んでみることにした。

フリーの助監督の俺は、ロケハンを前にした下調べで撮影の候補地をリスストアップするために街を歩いていると、関東地域大判地図帖を小脇に抱えた漂浪者と遭遇した。地図帖には、意味不明のマーキングと、軌跡をえがく矢印、そのすきまを埋めつくす書き込み、書き込み、書き込み。記入はどれも、物語の断片だ。矢印にしたがって、物語の断片を順番に回収していくと、しだいに見えてくる。地図上にえがく人物たちの物語群がだ。

その地図帖の持ち主は地図男だ。その素性をまるで知らないし、本人に質問をぶつけてみたところで、満足な答えが返ってきたためしがない。年齢は不詳。とにかく神出鬼没である。地図帖の内容どおり、関東エリアを行動範囲にしているらしい。そしてありとあらゆる場所を正確に把握している。それに物語を量産させている理由に関しても、なにもわからない。地図男が地図帖を開くとき、物語を地図男は誰に語っているのか。ともあれ、俺は地図帖の物語を読むしかない。

千葉県北部を旅する絶対音感を持った天才児Mの物語。東京二十三区に住む夜の住人たちの地元愛と矜持をかけた壮絶な激闘。そして、多摩川を境にその運命を隔てられた、男の子と女の子の物語。物語に没入した俺は、次第にそこに秘められた謎の真相に迫っていく。といった、かなり変テコな内容の作品だ。読み始めは、何これという感想。中盤になっても、何これという感想。最後の最後になって、そういうことかとやっと理解できる。

はっきり言うと苦手な作品だった。たぶん、この本の薄さじゃなければ、途中で放り投げていた。つまらない、つまらない、眠たい、と我慢しながら読んで、ラストに来て、やっとおおっとなった。だけど、カタルシスを得るほどではない。作風の変わる作中作は苦手だし、たった一つのキーを繋ぐためだけに、スカスカの物語を三つも読まされる意味がわからない。とにかくもったいぶったところが自分とは合わなかった。この作家はもういいかな。

結果、あの特集記事はやりすぎでしょ。でもこれは個人的な意見であって、この真藤順丈という人、実は四冠を取ったすごい新人なんだよな~。

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その他の作家
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    2008

10.24

「容疑者Xの献身」東野圭吾

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
(2008/08/05)
東野 圭吾

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天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、アパートの隣室に一人娘と暮らす靖子に秘かな想いを寄せていた。靖子は、元夫の富樫にしつこくつきまとわれ、発作的に自室で彼を殺してしまう。警察への自首を覚悟した靖子だったが、殺害に気づいた石神は、彼女たちを救うため、完全犯罪を企てる。そして、靖子にこう言うのだった。「私の論理的思考にまかせてください」草薙刑事から事件のあらましを聞いた帝都大学理学部の助教授、ガリレオこと湯川 学は、関係者の中に懐かしい名前が混じっていることに気づく。帝都大学の同期生で、湯川が唯一天才と認めた男、石神哲哉だった。《出版社より》

直木賞受賞作だけあって、ストーリーも面白いし、ミステリーとしても面白かった。天才物理学者の湯川と天才数学者の石神という好敵手の関係や、湯川の葛藤なども良かったと思う。だけど、どうしても好きになれないことが一つあった。靖子という女の身勝手さが個人的に受け入れられなかったのだ。

元夫の富樫につきまとわれ、娘への暴力から、気がつけば母娘ふたりで殺害。警察に出頭するか母娘が揺れているところに、隣人石神が登場。ここまでは同情できる余地がある。石神の指示で、犯罪を隠そうとするのもまだわかる。しかし、ホステス時代の馴染みの男が現れると、犯罪者だという立場を忘れて女になったり、嫌がる娘を連れて三人で食事をしたり、その挙句に石神を元夫と同系列に置く感覚が嫌悪の対象になった。

なんなの、この女は。なぜそこで女になれるのかが理解できないし、魔性の女でもないし、まったく魅力を感じさせない。だからといって、石神とくっ付けとは思わない。その石神にしても、想う気持ちが異常に重くて、純粋なんだけど、恋愛にならないのはわかる。しかし、この女の浮かれっぷりが普通じゃない。この靖子の存在が作品にのめり込むことを阻んだ。

話変わって、単行本出版当時、この作品に対して本格論争があったことを思い出した。自分は面白ければどっちでもいいやと思っていた。本格に自分なりのこだわりがあるなら、自分の作品にこだわればいいだけで、東野氏の作品をどうこう言うのは筋違いだと思った。あれ以来、大人気ないかもしれないがあの作家の作品は読まなくなった。

本書は、いわゆる叙述ミステリというジャンルで、冒頭に殺害場面があって、読者は犯人を知ったまま、探偵との対決をわくわく読む系統の作品だ。例えると、刑事コロンボや古畑任三郎が同じタイプだ。本書の場合、そのトリックが解明された時、石神の行為はまさに献身だったと明らかになる。石神の人物像がガラリと変わるのだ。そこでまた話は戻る。靖子って、そこまでする魅力があったのかな、と。自分には、もやもやが残る一冊だった。

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東野圭吾
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    2008

10.23

「クラスルーム」折原一

クラスルーム (ミステリーYA!)クラスルーム (ミステリーYA!)
(2008/07)
折原 一

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栗橋中学校3年B組を卒業した7人の男女。10年ぶりに届いたクラス会の通知が、受け取った者の不快な記憶を呼びさます。沈黙と恐怖に支配されたクラスルーム。どす黒い怒りを秘めた不気味な教師。誰もが記憶から消し去ったであろう、あの地獄のような日々。幹事の名前に誰一人見覚えがなく、会場が夜の校舎であることが、さらなる不安を掻き立てる。クラス会まで、あとわずか。忌まわしい過去への扉が、いま開く……。はたしてこれは現実なのか、妄想なのか。読むものを不安におとしいれる「タイムカプセル」の姉妹編。《本の折り返しより》

佐久間百合、青野ミチル、秋葉一平など、彼らの元に届いた3年B組クラス会の通知。ビュン。目を閉じると、風を切る音がした。思わず首をすくめ、背後をふり返った。そこに誰もいるはずがないのに、背筋にぞくっと寒けがし、全身に鳥肌が立った。嫌悪感と同時に漠然とした恐怖感があった。その後に訪れたのは、違和感だった。差出人の幹事、長谷川達彦という名前に記憶はなかった。さらに、往復ハガキの返信先がまた不可解だった。郵便局留め置きとなっているのだ。

栗橋中学校3年B組は、最初は普通だったけど、途中から変になった。担任が突然の産休を取り、新しく担任になったのは桜木慎二、三十三歳。社会の教師で、剣道部顧問だった。教室の中は張り詰めた雰囲気になった。竹刀が横に振られ、ビュンと風を切る音がした。クラスの誰もが、びくびくしながら授業を受けていた。指導が度をすぎているのだ。気が短いので、すぐに怒る。力で教室を支配する強圧的な奴。高校進学を控え、内申点を握られているから、誰も逆らえず、ことなかれ主義の校長は当てにならない。ビュンと風を鋭く切る音が教室内に鳴り続ける。

クラスの平和を取り戻すために、桜木をやっつける。そこで八月の夜の学校で行われた肝だめしを称したこらしめ。しかしあの夜、いったい何が起こったのか、誰も覚えていなかった。あの十年前の肝だめしに関わった者たちが、長谷川達彦という見知らぬ男によって、集められようとしている。暴力教師だった桜木慎二も。そして招かれざる客もいて…。多視点によって、過去と現在が交錯する、折原一らしいミステリ作品。

これは面白かった。姉作品にあたる「タイムカプセル」も読んでいたが、すでに記憶はない。だけど、そんなことは関係なく面白く読めた。桜木の無茶ぶりにはエエッとなるのだが、繰り返されるビュンという効果音が憎らしさを増加させ、そのことによって、出来る子と不良たちが一緒になって、暴力教師をやっつけようとする姿に応援したくなる。ガツンとやっちゃえ、と。

そこに加わる淡い恋心がスパイスになり、長谷川達彦って誰なんだという興味や、見え隠れするもう一人の謎の人物が気になって、後半のスリリングな展開、あるいは、意味深なプロローグが後を引いて、最後まで一気に読んでしまった。そしてラストの一ページは「ベタ」の一言。これは褒めの意味で。これまで読んだミステリYA!の中で、一番好きかもしれない作品だった。お薦め。

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その他の作家
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    2008

10.22

「火村英生に捧げる犯罪」有栖川有栖

火村英生に捧げる犯罪火村英生に捧げる犯罪
(2008/09/25)
有栖川 有栖

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気鋭の犯罪学者・火村英生と、ワトソン役の作家・有栖川有栖の名コンビが活躍する「長い影」「鸚鵡返し」「あるいは四風荘殺人事件」「殺意と善意の顛末」「偽りのペア」「火村英生に捧げる犯罪」「殺風景な部屋」「雷雨の庭で」といった8篇を収録した短編集。

「長い影」
夫は首をねじって窓の方を眺めている。訊くより先に、妻は動いていた。夫の肩越しに外を見る。廃工場の塀の角から長い影が伸び、アスファルトの上に落ちていた。それはじきに、巻き取られるようにして消えていく。廃工場から怪しげな男が出てきたところを夫は見たという。かつての工場の経営者に連絡したところ、中から不自然な縊死死体が発見された。鮫山警部補、火村英生准教授、作家有栖川有栖という非日常的なトリオの訪問を受けた桑原夫婦。やがて捜査の中で、桑原夫婦とは食い違う証言が出てきた。

「鸚鵡返し」
マンションで、男が殺された。胸を鋭利な刃物で刺されて、失血死。怨恨による犯行の可能性が濃厚だった。一つ変わったことがあって、現場には目撃者がいた。リビングの片隅に鳥籠があり、中の鸚鵡がすごいことをしゃべった。「ハンニンハ、タカウラ」 捜査を始めると、高浦という人物が本当に浮上してきた。女子大生をめぐって被害者と鞘当てを演じていた。そして、三角関係の渦中にいた女子大生に、もう一人の男がつきまとっていたことが判った。

「あるいは四風荘殺人事件」
先頃、脳卒中で逝った推理小説界の重鎮宅に、有栖川有栖は招かれた。ご令嬢が遺品の整理をしていたところ、まったく作風の違うアイデアを創作ノートに遺していた。社会派ミステリで鳴らした作家が何故、本格ミステリなのか。さらに、結末部分がないままの絶筆。ご令嬢は純粋な好奇心から、父親の遺した謎の答えが知りたいと言う。できることなら自分で解決したかった。内心忸怩たるものを持ちながら、有栖川は火村英生の研究室を訪ねる。未完の推理小説と共に。

「殺意と善意の顛末」
火村英生の声は穏やかだったが、それだけにかえって凄みを帯びていた。殺してなんかいない。潔白です。浦井には、能力不足を理由に解雇した広告会社社長を逆恨みから殺害した容疑が掛けられていた。アリバイ工作は火村に看破された。その推理については反論する気もないようだが、まだ罪を認めるつもりはないらしい。被害者が同じマンション内の広い部屋に買い換えたのはつい半年前のことだった。その新しい部屋に足を踏み入れたことはないと主張する。しかし和室の襖から浦井の指紋が検出されていた。

「偽りのペア」
洛北大学に通う女子大生が、自宅マンションの近くで待ち伏せていた若い男に刺殺された。被害者の友人は、彼女が不吉な気配に怯えていたと証言した。付き合っていた男との別れ話がこじれて怖い、と。被害者は、この夏に一人で南の島へ旅行した折、やはり京都から一人できていた男と知り合った。お互いにペアルックで写真を撮ったりもした。お互いに惹かれるものがあり、こっちに帰ってから親しく交際を始めたが、じきに相手は地金を出した。その写真の男を探し求めたが、男の身元は判らなかった。

「火村英生に捧げる犯罪」
大阪府警本部に速達が届いた。大阪府警に挑戦する。火村英生に捧げる犯罪だ。などという文章が続き、差出人はprof.Rとあった。R教授からの挑戦なのか。一方、有栖川有栖宅に奇妙な電話がかかってきた。自分が書いたものと瓜二つだ。盗作された。謂れのない言いがかりの上に、話がしたいので東京まで出て来いと言う。その頃、京都のとあるマンションで女性の死体が発見された。遺体は浴室に下着姿で壁にもたれかかり、切断された自分の頭部を膝に抱えていた。死因は扼殺だった。

「殺風景な部屋」
何もない部屋だった。すべてのものが運びだされ、がらんとしている。打ちっぱなしのコンクリートの地下室だ。天井も壁も、くすんだ灰色。仰向けで、左胸にナイフがささり、右手に携帯電話を握ったまま、中年男は息絶えていた。床には少しだけ這った形跡があった。男はこのビル二階で信用調査会社を経営していた。しかし、その実態は、ひたすら金の匂いを嗅ぎ回って、総会屋の真似事や恐喝まがいのことをしていただけだった。ワトソン役は現場にいるが、名探偵は集中豪雨とぶつかって、新幹線に閉じ込められていた。

「雷雨の庭で」
妻はクラス会と称して、浮気相手と一夜を過ごした。それで朝帰りしたところ、庭で亭主の遺体を発見した。被害者は頭を強打されていて、即死だった。兇器は見つかっていない。何よりも謎なところは、死亡推定時刻には雷雨が振っていたのに、被害者は雨合羽を身に着けて庭に出たことだ。そのポケットには軍手があった。妻の浮気が発覚してから、夫婦仲は破綻していた。そして亭主は日頃から、隣家に住む放送作家の早瀬に対して、悪質な誹謗中傷を繰り返していた。その早瀬にはネット通信をしていたというアリバイがあった。


どれもハズレはなかった。そんな中で好きだった作品は、「鸚鵡返し」「あるいは四風荘殺人事件」「殺意と善意の顛末」「偽りのペア」の四編で、中でも「偽りのペア」のトリックは秀逸だと思った。すべてが短編集だけど、その中にはショートストリーもあって、この切れ味のするどさに正直驚いた。数ページで事件の背景をこちらに伝え、そして物の見事に落としてみせるオチ。これにはやられてしまった。


有栖川さんのサイン会に参加してきました。
女子率がすごく高かったです。

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その他の作家
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    2008

10.21

「センチメンタル・サバイバル」平安寿子

センチメンタル・サバイバルセンチメンタル・サバイバル
(2006/01/19)
平 安寿子

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父方の祖父が倒れたので、パパとママが介護を兼ねて出雲に住むことになった。祖父のそば屋を継ぎたいというパパの申し出に、ママもわりにすぐ従った。るかはもう社会人だし、弟の英悟はイギリスの語学学校に留学中。夫婦ふたりが生活の場をそっくり変えるには格好のタイミングといえる。るかは待望のひとり暮らしができると喜んだが、そうは問屋が卸さない。部屋を借りなければならないが、それだけの生活力はフリーターのるかにはない、と決めつけられた。

就職難だというのに危機感がまるでなく、いい加減だったるかは就職しそびれ、アルバイト情報紙でみつけた画材屋でとりあえず働くことにした。そうしたら、これが居心地がよい。それで、アルバイトの身分のまま、三年目に入っている。正直、ボーナスなし社会保障も一切なしで、月収手取り十五万円は苦しい。でも、二十四歳でフリーターは珍しくないし、やっていて楽しいほうを選びたいから、職探しはしていない。お金の問題より、そういう生ぬるい性格を、両親は不安がるのだ。だが、両親と一緒に出雲に行くのは不本意だ。

そこに龍子叔母が登場した。独身で働き続け四十八歳の今、社員研修のプロとして、あるときは新入社員に接客マナーを教え、あるときは中間管理職に部下の掌握術を伝授するため先生と呼ばれている、仕切り屋のキャリアウーマンである。わたしが責任持ってるかを預かると、胸を叩いたのだ。条件は、家事一切とカワサキ(カワサキさんからもらった猫)の世話をするハウスシッターをすること。両親はもちろん、すぐにのった。こうして龍子叔母との同居が始まったフリーターるかの日常。

女性向けコラムを小説にしたような作品になっている。食べること、プチ整形について、セックスのこと、セックスアピールなど、るかのバイト先の古木店長や同僚の民ちゃんとひとつのテーマについてやり取りをして、家に帰ると龍子叔母のご高説を聞く、という流れに沿った連作集だ。だから、男性読者としては微妙に居心地が悪い。ガールズ・トークを盗み聞きしているようで、もぞもぞしてしまうのだ。男性にとってはパンドラの箱かもしれない。いやいや、そんな大げさなものではないけれど、女性にとってなら、プルプルの二の腕や、ダイエットなんていう話題はあるあるって感じなんでしょう。それに男ってバカだよね~という共感があるかもしれない。

登場するキャラは、覇気のないフリーターのるかや、大人の立場からバッサリ斬る叔母さんや、ロマンチスト男の古木や、前向きなパワフル女子の民ちゃんや、常連客で浮世離れしたワビコさんや、るかが思いを寄せる左官屋のノンタと、それぞれに魅力があって、面白おかしく会話をしている。ただし、この作品は先にも書いたが、女性向けだなと思った。だから、そういった点で他の作品と比べると、ボーイズが入る隙がなかったので、評価は下げざるをえない。

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平安寿子
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    2008

10.20

「パコと魔法の絵本」関口尚

パコと魔法の絵本 (幻冬舎文庫 せ 3-1)パコと魔法の絵本 (幻冬舎文庫 せ 3-1)
(2008/07)
関口 尚

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その古くて小さな総合病院は、東京の郊外にあった。入院棟である旧館は、かつて教会だったものを改装したぼろぼろの建物。その病院の関係者や入院患者は変わり者ばかりだった。ひょうひょうとしたところがあって、人を食ったような態度の浅野医師。逆上しやすいたちで、患者を殴っては問題になる看護師のタマ子。夫の叔父が年商六百億円という大企業の会長で、金にがめつい看護師長の雅美。厚化粧の下から浮き出る髭面がかなり強烈なオカマの木之元。消化活動に夢中になるあまり、応援に駆けつけた消防車にひかれた消防士の滝田。暴力団の組員で、銃で撃たれた龍門寺。子役から脱皮できなかったことをいまだに引きずっていて、自殺未遂をくり返している室町。神出鬼没で、いつもとんちんかんなことを口走っている堀米。

「おまえが私を知ってるってだけで腹が立つ」 その病院に入院した大富豪の大貫は、自分の名前を呼ばれるのを、何よりも嫌っていた。顔を覚えられるのも嫌いだった。相手がひと角の人物ならまだいい。だが、雑魚のような人間に、名前を呼ばれたり、顔を覚えられたりすると、虫唾が走るのだ。大貫はいつもそう腹を立てながら六十年を生きてきた人間だ。要するに、偏屈じじいだった。

入院してから一週間が経ったその日、大貫の目の前に、絵本をかかえた少女が立っていた。赤いパジャマを着ているところから、この少女も入院していることはわかる。暇つぶしにはなるだろうと、少女が持つ絵本を読んでやることにした。絵本の名前は「ガマ王子とザリガニ魔人」。内容が自分や周囲にいる雑魚とそっくりで、途中で読むのがばかばかしくなり、文章をでっち上げて、切り上げてしまう。そもそもこの絵本は、この少女のものだ。ちがうと気づくのは当然だ。しかし、少女は思わぬことを言ってきた。

「ありがとう。わたし、パコ」 パコは一点の曇りもない笑顔で見つめてきた。まるで天使のようだ。しかし、大貫は人のいいオジサンから一瞬にして偏屈じじいに戻ってしまう。その翌日に会ったパコは、昨日絵本を読んでやったにも関わらず、初対面だと言い出した。さらに、自分の探していたライターをパコが持ち、朝起きたらパジャマのポケットに入っていたという言葉に、パコが盗んだと勘違いして、パコの頬を叩いてしまった。その後、大貫は彼女が事故の後遺症で一日しか記憶がもたない病気だと知る。

大貫にも後悔が胸に押し寄せてくる。しかし、頬を二度も叩くようなひどいことをしたというのに、その加害者にパコは微笑みかける。この子はなにも覚えていないんだ。叩かれたことさえ覚えていないんだ。両親が死んでいることを知らないまま、命が続く限り待ち続けるしかないのだろうか。やりきれなさに、思わず大貫の頭をなでる。頬にもそっと触れてみた。そのとき、思わぬことが起こった。パコが驚いた顔をしている。「昨日もパコのほっぺに触ったよね?」 今度は大貫が驚く番だった。昨日を失った少女の心に特別な思い出を残そうとした大人たちの、心温まる奇跡の物語。

さて感想。映画が観たくなった。……以上。(おいっ)

内容紹介に力を入れすぎたので短く書くけれど、はじめは偏屈じじいの傲慢ぶりがムカついてしょうがなかったのだが、心を入れ替えてからは面白く読めた。ただ、人物の描写が薄っぺらいのと、同じ文章が重複する部分があって、そこが少し気になってしまった。だけど、この作品は視覚的効果の恩恵を受けやすいと思い、それゆえに、映画が観たくなったというわけだ。パコ役の女の子がかわいいしね。それにしても、大貫が蹴飛ばした猫はどこにいったのだろう?

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関口尚
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    2008

10.19

「別冊図書館戦争 2」有川浩

別冊図書館戦争 2 (2)別冊図書館戦争 2 (2)
(2008/08)
有川 浩

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スピンオフ第二弾は、完結編にしてちょっぴりビター。先行して電撃文庫マガジンに掲載された「もしもタイムマシンがあったら」を収録。第一弾に収録されていなかった時は、あれ?っと首を傾げた。よくよく考えると、前作は郁と堂上の鼻血ブー&イケイケ一色だったので、収録作としてはこちらの方が座り良い。その一編があって、お次は堂上と小牧の若かりし頃。そして、三、四、五、と分類されているが、待ちに待った柴崎と手塚コンビのあれこれ。これが本書のメインだろう。さて、ネタバレなしを心がけて、内容紹介にいってみよう。


「もしもタイムマシンがあったら」
あたしは結婚式のときにもう一回戻りたいかな~。郁が珍しく女の子表情でうっとりする。堂上教官はどこに戻りたいですか? 手塚は? 小牧教官は! 郁は事務室の奥を振り向いた。緒方副隊長はいつに戻りたいですか? タイムマシンがあったら。それまで黙々と書類を処理していた緒方が、ふと仕事の手を止めて考え込む風情を見せた。……大学の頃、かな――。正確には大学三年。まだ進路が決まっていなくて、今でも昨日のように思い出せる鮮やかな日々。もう取り返しがつかないからこそ、それは年経るごとに鮮やかさを増すのかもしれない。大学は法学部で、彼女は同じゼミの学生だった。

「昔の話を聞かせて」
堂上班と柴崎が隊員食堂で昼食を摂っていると、今年の新隊員二人が駆け寄ってきた。訓練期間中に郁と手塚が担当していた防衛部配属の隊員で、郁たちが所属する特殊防衛員に憧れている。堂上と小牧の上官二人に階級は当然のごとく届いていないが、年齢は郁たちが入隊した当時のこの二人に追い着いた。だが、柴崎や手塚はさておき、郁は当時のこの二人のように部下に対して上官たり得ているか、それはまったく自信がない。その夜、堂上の言葉に凹んでしまった郁に対して、何でも一つ言うこときく、と焦った堂上は和解の申し入れをしてきた。郁は要求する。堂上教官たちが新米だった頃の話が聞きたい、と。

「背中合わせの二人(1)~(3)」
郁が結婚して官舎に移ってから、柴崎は一人部屋が空くまで二人部屋を一人で使っていた。だが、部屋が足りないということで、四ヶ月の約束で寮監から一階級下の士長との同室を頼まれたのである。その水島は社交性に欠けた手のかかる陰気な女であった。その頃、柴崎は奥村という男に二ヶ月来ストーカーをされていた。男は柴崎が拒否できる言質を取らせない。しかも自分は利用者だと言外に主張して対等の立場に降りてこようとはしないのだ。要するにストーカー行為に慣れていた。

手塚の手伝いを得て、まずまずの日常が戻ってきたのもつかの間、今度は男子下士官の独身寮に柴崎のアイコラ写真がばら撒かれた。しかも写真の右下には、柴崎のスリーサイズが一センチの狂いもなく書かれていた。さらに、出会い系サイトに、見覚えのある写真とともに電話番号と柴崎の名前が掲載された。一向に相手が見えてこない中、柴崎は犯人の手の中に…。好き合っているのが見え見えなのに、肝心の本人たちが自分の気持ちに気づかないというもどかしさ満点の二人、柴崎と手塚の大団円。


終わっちゃった。でも有川さんなら、また面白いことを考え付いて、読者を満足させてくれるだろう。待つよ。新作を、新シリーズのスタートを。

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有川浩
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    2008

10.18

「100回泣くこと」中村航

100回泣くこと (小学館文庫 な 6-1)100回泣くこと (小学館文庫 な 6-1)
(2007/11/06)
中村 航

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犬が死にそうだ、と実家の母から電話があった。実家には就職してから帰っていなかったから、最後に見たのは四年前のことになる。高校を卒業した春に拾ってきた犬だから、今は八歳。茶色くて長い毛に覆われた、雑種の小型犬。メス。名前はブック。僕が拾ってきた犬だった。浪人生活の一年間、僕は犬といつも一緒に過ごした。大学に合格し、また合おうな、と言ってブックと別れた。

バイクで帰ってあげなよ。電話口で彼女が言った。ブックのことは彼女に何度も話してあった。バイクで拾ってきた犬は、単車のエンジン音を聞くと大喜びする犬に育ったこと。2ストのエンジン音にだけ反応する、違いのわかる犬に育ったこと。大学生になって初めて帰省したとき、久々のバイクの音に跳ね回って喜んだこと。喜びのあまり失禁してしまったこと。僕は考えた。ブックのために僕ができるのは、四年近く乗っていなかったバイクを直すぐらいだった。母親からの電話が鳴った。ブックの容態が良くなった、という連絡だった。じっくりバイクを直して、ブックに会いに行こう。

車体を洗い、バッテリーを充電し、部品を交換し、タンクの中の汚れを流し、あとはキャブレターの洗浄。彼女とキャブを洗っている時、僕は結婚しようと彼女に告げた。練習が必要だと思うの。彼女は言った。一週間、結婚してみる。うまくいったら一年結婚してみる。僕らは結婚したつもりになって、一年くらい暮らしてみることに決めた。やあ、嫁に来たよ。僕と彼女の生活が始まった。僕らのプロジェクトの名はハッピネス。こんな生活が続けばいいと思った。続くと思っていた。ずっとずっと続くんだと思っていた。

う~ん、なんだかなあ。ブック重体、ブックとの出会いを回想、ガソリンスタンドでの師匠との出会い、バイクの修復、プロポーズ、ブックと再会、同棲スタート、とここまでは良い。いい雰囲気で気持ち良く読める。しかし、その後がどうも、重くてしんどくて。彼女の病気が発覚、闘病生活、痩せていく彼女、そして死。こういうお涙頂戴系は苦手だ。よくあるパターンなんだけど、この種の恋愛ものは、村山由佳のデビュー作以来、受け付けない体質になってしまった。

言葉を選ぶセンスや、会話文などは、いつも通り輝いていた。ただ、テーマに死を持ってきた時点で、申し訳ないが、自分とは合わなかった。それに、単行本の表紙は素敵だったのに、この文庫版の陰気さは頂けない。中村航は好きで読むけれど、これに関してはすまん。ダメだった。なんて言いながら、ほろっときた。彼女の死にではなく、ブックの死にだけど。

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中村航
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    2008

10.17

「幽談」京極夏彦

幽談 (幽BOOKS)幽談 (幽BOOKS)
(2008/07/16)
京極夏彦

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「手首を拾う」「ともだち」「下の人」「成人」「逃げよう」「十万年」「知らないこと」「こわいもの」という「幽」を八編収録した作品。

「手首を拾う」
男は汽船に乗り、閑古鳥が鳴く旅館へ向かった。そこは、七年前に妻と訪れた旅館だった。思い出と少しも変わらない道中、建物、従業員、そして庭。注文通り、以前と同じ部屋に通された男は、庭を眺めながら回想する。三年前に別れた妻は、ここに来た時、すでに壊れていた。その日、この庭で手首を拾ったこと、細い、白い、綺麗な、人間の手首。生きている手首。その手首を拾って、男は妻への興味を一切失った。そして、男は、元の場所に埋めた。男はその手首の場所へ…。

「ともだち」
男はあまり色のない街を歩いている。今日は自由だ。取りなれない有給休暇を取って、あまり見覚えのない街を訪れている。目的はない。当てもない。計画もない。見覚えもない。意味もない。色もない。三十年以上前、三年半ばかりの短い期間であったのだが、ここは男が暮らしていた街だった。帰りついた着いたここは、見覚えのない見知らぬ場所だ。その電柱の横に森田君が立っていた。森田君はともだちだ。森田君と再会したのは、実に三年前のことである。先週の初め、その森田君は死んでいた。

「下の人」
下の人が泣いてうるさい。ここは父の持ち物だったマンションだ。しくしくしく、声なんか、掠れたような、何かこするみたいな、そんなか細いのしか聞こえないから。だから、余計気になる。うるさい。最初に確認したのは、二ヶ月くらい前のことだった。かさ。そんな音がした。何か居る。ここ暫くそんな気がしていた。ベッドの下から気配がする。ベッドの下を覗いて見ると、何かあった。やっぱり居たんだ。つまり女が見たのは、顔だった。でっかい歪んだ顔。その日から女性と顔の共同生活が始まった。

「成人」
人形のどうぐと題された小学生が書いたひな祭りの作文と、奇妙な箱と題された高校生が綴った文集の一編、そして不惑を目の前にした出版社勤務の編集者が大学時代に体験した奇妙な一夜。さらにライターが拾ってきた某役場に勤めている人のある目撃談。それら関係がないと思われた話が重なった時、異形のものが姿を現す。その異形のものに魅入ってしまった編集者の行く末とは。

「逃げよう」
変なものに追いかけられて逃げた。校門の横の泥溝から沸いたんだと思う。翠色だった。わりと大きくて、意外に速い。がむ、がむ、がむという声かで啼く。変なものだし、厭なものは厭だ。その時はでも、周りに沢山こどもが居たから大丈夫だろうと思った。見てはいけない。見てはいけない。まずいよ。一人になっちゃったよ。あれは、誰でもない、僕について来た。来るな。来るな。来るな。でも、ついて来る。走った。おばあちゃんの家に逃げ込んだ。汚くて、臭くて、嫌いだったおばあちゃん。男の脳裏に残る、あるはずのない記憶。

「十万年」
人はみな違っているのだから、世の中がどう見えているのかも人それぞれなのだろう。男は、自分が観ているこの世界が、はたして正常なものなのかどうなのかと、自分で自分を疑う。自分の見えているものが必ずしも他人に見えているのかどうか、また他人に見えているものが自分にもみえているのか。歪んでいるかもしれない。そう考えて男は余計に怖くなる。幼い頃、文字を全て鏡文字で書いた。自分の世界だけが反対で、裏返しだと思っていた。中学生の時、私は視えるの、という女生徒がいた。彼女には、きっと何かが見えていたのだろう。男は、思う。他人の眼で世界を観たい。

「知らないこと」
隣の親父、今日も変だったぜと兄が言った。隣家の主は、外見だけは至って普通の紳士なのだが、一般に異常と呼ばれる行動を執る。道端でわーわー泣いていたり、地べたを這い擦り回っていたり、夜中ににゃあにゃあ啼いていたり、門柱の上に気をつけの姿勢で立っていたり、自分の家の塀にひらがなの?も″という字を何文字も何文字も書いたり、庭を汚物で埋めてさらに排便までしていたりと、奇人ぶりは続いた。その隣の親父の行動をチェックしては妹に報告するニートの兄。妹は隣家の親父のことを気にしない。その認識が崩れて。

「こわいもの」
怖いものとは何だろう。座敷の真ん中に男は座っている。壁は壁、柱は柱、畳は畳だ。そういう物体で仕切られ、隔離された空間こそが、部屋だ。つまりこの場所は、座敷という概念でしかない。じゃあ柱や畳が交差する点は、隅の角の、あの闇の点は、何なのだろう。その線と線が交わって作る点にも、質量はない。在るのだけれど、ないのだ。ないけれど、見える。もしかしたら、あの点は、何処かに繋がっているのかもしれない。隈路への入り口は、何処にでもあるのだ。でも、それは怖いのとは、少し違う。嫌いなものは、別に怖いものじゃない。死は、怖いものなのだろうか。男は真実の恐怖について、自問する。


妖怪でも怪談でもなく、幽談である。あやしいものや不思議なことに対峙する主人公。あやしに魅せられて現実を離れようとするもの、見えているのにあっさりと現実に戻るもの、異常な生活に諦めてしまうもの、魔に魅入られて抜け出せなくなったものなど、本当に隣にあるのかも知れないと思わせる不思議な世界。お気に入りは、詩的な「手首を拾う」と、ユーモラスな「下の人」と、面白い構成の「成人」と、奇人ぶりから目が離せない「知らないこと」だった。重複するような内容があったのは頂けないが、ざわざわ感が心地良い作品だった。

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その他の作家
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    2008

10.16

「おそろし」宮部みゆき

おそろし 三島屋変調百物語事始おそろし 三島屋変調百物語事始
(2008/07/30)
宮部 みゆき

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袋物屋の三島屋には、奉公にあがったばかりの娘が一人いた。おちかというこの娘は、歳は十七。主人伊兵衛の長兄の娘、つまり姪である。伊兵衛の生家は川崎でもその名を知られた大きな旅籠であった。とはいえ伊兵衛は三男坊で、家と商いの跡目は長男だから、早々に御府内へと出てきたのだ。伊兵衛の長兄は、自身の才覚でお店を持ったこの弟に、一目も二目も置いていた。

おちかは、この長兄から三島屋が預かった娘であった。奉公というよりは行儀見習いである。ただしこれには、一抹の事情が絡みついていた。当初、おちかを行儀見習いではなく、養女として遇することを、伊兵衛夫婦は考えていた。彼らもまた、おちかの心の底までは知らずとも、彼女が実家へ戻れないことを承知していた。ならば江戸でのんびりと、それこそお嬢様暮らしを味あわせ、物見遊山も一緒に楽しみ、然るべく花嫁修業もさせた上で、良いところへ縁付かせようと思っていた。

しかし、おちかはそれを断った。何より、彼女は外へ出ることが嫌だった。有体に言えば恐ろしかった。人交じりすることも怖かった。だからといって、ただ三島屋の内にこもってお雛様さながらに日を過ごしていては、もっといけないことになる。おちかは働きたかった。夢中で身体を動かしたかった。そうしている間だけ、心の内に寄せては返す底深い悲しみや苦い後悔、実家であのような出来事が起こったことを忘れることができる。おちかには人というものがすべて恐ろしく思えてならなかったのだ。以来、おちかの日々は女中仕事に忙しく過ぎてゆく。

そんなある日、伊兵衛はおちかを呼ぶと、よんどころない次第だから、これから訪ねてくるという客のお相手をし、よくよく事情をお話して、私に代わってお詫びしておいてはくれないか。頼んだよ、とおちかが抗弁する暇を与えずに言い置くと、間もなく夫婦で飛び立つように出かけてしまった。おそるおそる客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていく。以来、三島屋を訪ねる人々に対応し、彼らが語る不思議な話を聞くことがおちかの仕事となり、その話がおちかの心を少しずつ溶かし始めて……。宮部流百物語。

さすがに女王だけあって、物語の世界に引き込む力がすごい。「曼珠沙華」「凶宅」「邪恋」「魔境」「家鳴り」といった五編の連作短編集と思わせながら、実は長編作品になっている。「曼珠沙華」ではおちかの過去になにがあったのか興味をもたせ、「凶宅」では後を残した終わり方をし、「邪恋」でおちかの過去が明らかになり、「魔境」でおちかの心がゆさぶられ、「家鳴り」でこれまでを踏まえた最後を締めくくる。まさに熟練の冴えを見せて、読者のハートをガシっと掴んで話さず、最終話へとページを捲り続けるのだ。それと共に、不思議な話の二本立てになっている。次はどんな趣向でくるのだろうか。そんな期待を持ちつつ、本をそっと閉じて、ため息を吐いた。おもしろかった。そして、大満足だった。


宮部さんのサイン。これは珍しいかも。

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宮部みゆき
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    2008

10.15

「夫婦一年生」朝倉かすみ

夫婦一年生 (shogakukan paperbacks)夫婦一年生 (shogakukan paperbacks)
(2008/07/31)
朝倉 かすみ

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青葉と朔郎は共に三十三歳の新婚夫婦。十日前に結婚披露パーティーをおこない、九日間の新婚旅行から帰ってきたばかり。なんだか、すっと夫婦婦随プレイをしている感じがする。結婚が決まってからずっとだ。でも、それは案外、わるくないのだった。青葉が朔郎と出会ったのは、去年の四月である。青葉が勤める会社を朔郎が訪ねてきたのがきっかけだった。付き合い始めて、じき一年になろうという時、朔郎の転勤に伴って、プロポーズを受け、会社を辞めて、新天地札幌で専業主婦としての生活が始まった。

太田青葉は料理の心得がほとんどない。料理本を購入したのは、結婚直前のことである。書いてある通りにやれば、すべての料理がつくれそうな気になった。しかし、そうは問屋がおろさなかった。焼けばいいだけのはずのホッケのひらきなのだが、青葉には、焼けたかどうかがわからないのだ。そもそも火加減がわからなかったことにも気づいた。ささがきにしたごぼうを浸ける酢水というのも謎だった。本には濃度が書かれていないからだ。新婚生活二日目にして、初めてこしらえる料理をチャレンジャーメニューと呼ぶ慣習ができていた。

他に、初めてのご近所付き合い、もしも宝くじが当たったなら、夫の両親が泊まりにくる、夫が風邪でダウン、という新米専業主婦の奮闘記。

夫が家事を手伝わないとか、どこか他人事めいているとか、移動という行為を億劫がる出不精とか、現状を引き伸ばしたがるとか、好きなものにだけまめとか、そういう妻の目線があり、その妻は化粧品や美容室代などは生活費から出していたり、夫に気づかれていないへそくりがあったり、家計のやりくりと食事を受け持てば、家庭を制したも同然かもと思ったり、男性にとってはしきりに反省するか、それとも、鵜飼の鵜を実感するか、人それぞれだと思う。

その一方で、既婚女性なら、新婚時のあるある度は大きいかもしれない。それともあんな頃もあったな、と遠い目をするのだろうか。日々の細かい節約や、主婦同士の井戸端会議など、毎日主婦を経験していくことで、青葉は生活感をにおわせるようになり、次第に妻になっていく。その先は想像だけど、女性が強くなり、女性からおばさん化していくのだろうか。などと、ここまでは作品に書いていないけれど、ついつい深読みしてしまった。すまん。

プレイ感が抜けない二人のやり取りが微笑ましくて、かわいらしくて、おままごとじみているのだけれど、実際の新婚家庭の風景って、こんなものなのかもしれない。青葉さん、素敵でした。そして章ごとにある四コマ漫画も良かった。この作品、とても好きです。とにかく、かわいかった~。

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朝倉かすみ
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    2008

10.14

「ドールズ 闇から招く声」高橋克彦

ドールズ 闇から招く声 (角川文庫)ドールズ 闇から招く声 (角川文庫)
(2004/02)
高橋 克彦

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シリーズ第三弾はスプラッター系ホラー・サスペンス。

隣人からの通報を受けてその部屋のドアを開けた瞬間、警官はあまりの生臭さに吐き気を覚えた。夥しい血が廊下を伝って靴脱ぎ場にまで達している。奥の部屋から子供の泣き声が聞こえてきた。そこは夫婦の寝室らしかった。警官の全身が凍りついた。ベッドの上には人の死体がばらばらにされて積み上げられていたのだ。ベッドの枕元に五、六歳の男の子がいた。その子の左腕が玩具の手錠でベッドの脚に繋がれているのを発見した。この子は親たちが無残に切り刻まれるのを目の前で見せられていたのである。

恒一郎は車に怜を乗せて郊外にある県の産業文化センターに向かった。目玉は世界のモンスター屋敷というものだ。化け物屋敷なら必ず目吉が興味を示す。それで古書店を昼で閉めて誘ったのである。二人はそのお化け屋敷の中で腑分けされた本物の死骸を発見。怜を巻き込みたくなかった恒一郎は外へ出た。そこに約束していた怜の父親真司が二人の父子と肩を並べてやって来た。見知らぬ二人、進藤と息子の正也は盛岡に移住してくるといい、正也を日中ドールズで預かることになった。

信司たちと別れたあと、二人はまたも捨てられた手首を発見。化け物屋敷の裏にある簡易トイレの中だった。しかもその手首はひからびていて、最初に発見した死体とは別の死体の手首であったことがわかる。さらに後日、恒一郎の車のボンネットの上に犬の生首が置かれていた。これは警告なのか。そして盛岡に殺人鬼が現われたというのか。無責任な真司を他所に、恒一郎は大学病院で働く戸崎と松室らと共に犯人像を推理。二転三転する犯人像だが、怜の中に甦った泉目吉の前に現れたのは…。

約500ページの大長編だ。それに今回は前二作とは違い、かなりグロい描写が多くなっている。まず冒頭からして、血が溢れ、内臓が口に捩じ込まれ、なんて地獄絵図が繰り広げられている。そしてドールズの面々に対して、何者かが殺戮ゲームを仕掛けてくる。見えない敵がひっそりと窺っていて、ばたばたするのを影で嘲笑っているのだ。その正体が言いたい。だけど言えない。だから書けることが制限される。ううん、もどかしい。

というわけで、話をずらしてみる。これまで書かなかったけれど、戸崎と松室の医者コンビが好きだ。豪放で洒脱な戸崎と、押されキャラだけど催眠術の特技を持つ松室。高橋作品ではよくある設定だけど、少々強引だけど優しいおっちゃんキャラと、空気をよめないやられキャラによる掛け合い漫才が面白い。こういう場を明るくするキャラがいることで、長い作品にリズム感を与えて、飽きさせることがないのだ。これでシリーズ三作目を読了。あとは、待望の新刊「月下天使」を読むのみ。楽しみだ。

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高橋克彦
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    2008

10.13

「空飛び猫」アーシュラ・K・ル=グウィン

空飛び猫空飛び猫
(1993/03)
アーシュラ・K. ル・グウィンS.D. シンドラー

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自分の四匹の子猫たちみんなに、どうして翼がはえているのか、お母さんにはさっぱりわけがわからなかった。セルマ、お前の顔は汚いよ。ロジャー、ジェームズをぶつんじゃありません。ハリエット、ごろごろと喉をならすときはね、軽く目をつぶって、前足でこねこねするように揉むのよ。子猫たちはみんな揃って美しく、すくすくと育ていった。

でも口にこそださなかったけれど、お母さんは子猫たちのことが心配でならなかった。というのは近所の環境があまり良くなかったし、食べ物だって手に入れるのがどんどん難しくなっていた。ある日、一匹の大きな犬がちびのハリエットを追いつめて、襲いかかろうとしたとき、ハリエットはふわりと宙に飛び上がり、屋根に降りたった。そのときにお母さんには合点がいった。

お母さんは子猫たちを呼びあつめ、口を開く。ここは子供たちが成長するのにふさわしい場所ではない。お前たちはここから飛んでいくためにその翼を授かったのだ。お前たちにここから出ていってほしいと。子猫たちはみんなしくしく泣いた。でもみんなにはわかっていた。猫の親子にとってはそれが当たり前なのだということが。

セルマとジェームズとロジャーとハリエットは、喉をならしながら大好きなお母さんに別れの挨拶をした。そして一匹また一匹と順番に、子猫たちはその翼を広げ、空に飛び立っていく。路地を越え、屋根を越え、遥か彼方へと。たどり着いたのはある森。自分たちが街の路地裏にくらべたらずっと安全なところに来たのだということは、子猫たちにもわかっていた。でも、世界じゅうどこにいったってやはり危険はあるのだということも、子猫たちにはわかっていた。

この絵本についての感想は邪魔でしょうから、ここでおしまい。「帰ってきた空飛び猫」「素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち」「空を駆けるジェーン―空飛び猫物語」と続く。

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    2008

10.12

「超人計画」滝本竜彦

超人計画 (角川文庫)超人計画 (角川文庫)
(2006/06)
滝本 竜彦

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新人作家は悩んでいた。厳しすぎる現実を前に立ちすくみ、ダメ人間ロードを一直線に突っ走る自分はこのままでよいのだろうか?…いや、よくない!!虚無感とルサンチマンに支配された己を変えるには、そうだ!“超人”になるしかないのだ!!「くじけてはダメ、ゼッタイ!」やさしく励ます脳内彼女レイと手を取り進め、超人への道!!『NHKにようこそ!』の滝本竜彦が現実と虚構のはざまに放つ前人未踏の超絶ストーリー。《背表紙より》

長年のひきこもり生活は、確実にひきこもり者の精神を蝕んでいく。肉体と精神が腐れていく毎日は、思いのほか心やすらかで、このクズ人間ロードを、もうずいぶん遠くまで歩いてきてしまった。しかしこのままでは、確実に人間を失格する。超人になるんだ。エロゲーの美少女もいいが、人間女と付き合いたい。見知らぬ彼女からのメールを待ち続ける日々には、別れを告げよう。デジカメ片手に街に出て、広い世界を見て回るのだ。

でも渋谷でナンパなんて無理だから、とりあえず、出会い系に自己紹介プロフィールを打ち込んで、送信ボタンをクリックした。とここで大問題が。エロゲーシナリオ執筆における不摂生がトリガーになり、人相が変わるほど毛が抜けていたのだ。ハゲ問題だ。脳内彼女レイの励ましに、完全にハゲる前に剃ることにした。スキンヘッドに生まれ変わるのだ。勢いこんでNHKに出演してみれば、テンパッて彼女募集を呼びかける始末。そしてさらに続く鬱の数々。

い、痛たたたたた。身を売っているのはわかるけれど、全然ダメすぎて大丈夫じゃない。ただの妄想なら笑っていられるが、この人のは危なすぎる。脳内彼女レイと会話するのは受け入れられるが、渋谷、渋谷と言っているだけで、なぜ家を出ないんだ。それがひきこもりなんだろうか。その辺がよくわからない。本書の中で、二作目から二年間なにもしなかったとあったが、今度はもっと長い間、なにもしていないではないか。三冊目である本書が出版されてから数年が経つ。未だ見ぬ4冊目に期待したい。ただ読んでいるだけなのに、とにかく疲れた。

それと、結婚したのね。

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    2008

10.11

「岬バーガー」本馬英治

岬バーガー岬バーガー
(2008/07/11)
本馬 英治

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海と漁船と小さな山々とトンネルと古い町。岬の真下には、地元でも穴場的なサーフポイントがある。それが高校二年生の涼の生きている世界だ。ケンとは中学時代からの付き合いで、サーフィンも一緒にはじめた。友達の家の庭で野ざらしになっているサーフボードを見つけたのがきっかけだった。友達のお姉さんが使っていたもので、色が全面ピンクでも気にならなかった。あのサーフボードがなかったら、今でも話していなかったかもしれない。

岬下には、三人のサーファーが亡くなる悲劇があったという。ひとりの少女とふたりの少年。三人とも十七歳でとにかく仲がよく、いつも一緒だったという。ところがある凪の日、突然の高波が少女を連れ去ってしまった。なぜかその日に限って少女はひとりで海に入っていたらしい。翌朝になって、変わり果てた姿で少女が発見されると、少年ふたりもあとを追って、次々と岬の崖から身を投げたのだという。以来、黙祷を捧げてから海に入るというのが当たり前の儀式になった。

ほのかに想いを寄せる同じクラスの凛がサーフィンをやりたいと言い出した。彼女もまたサーフィンという魔法にかかった。ある日、学校帰りに三人で岬に行くと、見なれない軽トラックが停まっていた。男はここでハンバーガースタンドをはじめると言い、小屋を建てはじめた。男は南雲哲也と名乗った。やがて小屋は完成した。看板には白地に青い文字で《MISAKI BURGER》と書かれた。

まあまあ面白く読めたけれど、爽快という作品ではなかった。少年ふたりと少女ひとりは、サーフィンを通じてきずなを強めていく。彼らは賑やかに浮かれているではなく、どこかクールで、時折甘酸っぱくて、まるで一昔前の和製青春映画のようだ。夏休みに入ると、三人は岬バーガーで働きはじめる。僕たちの場所で働いて、サーフィンをして、充実した毎日を過ごす。しかし、平穏な日々はそう長くは続かなかった。岬にリゾートホテルが建つ、という決定した事実が突然降りかかってくるのだ。立ち退かせ屋による暗い陰湿な暴力に、岬バーガーが、僕たちの世界が侵されていく。

青春物語であるのとともに、環境破壊もテーマになっているのが本書だ。砂浜に流れ着く人間によるゴミ。それを拾い集めるボランティア。開発による廃棄物のせいで赤黒く濁った潮。すべての生命は海から始まっているはずなのに、自らの手で汚していく人間たち。海を愛する人がいれば、海を壊していく人がいる。そういう本書だからこそ、爽快とはいい切れない複雑な余韻を残すのだ。著者は海が好きなんだろうな。それもきれいな海が。

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    2008

10.10

「偏路」本谷有希子

偏路偏路
(2008/09)
本谷 有希子

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元旦。場所は四国。木多若月は、遍路の通り道に面した従兄妹の家にいた。リビングでは、父の宗生、伯母の和江、従兄のノリユキがこたつを囲んでいる。少し離れたダイニングテーブルで若月が雑煮を食べている。従姉の知未はガムを噛みながら年賀状を書いているらしく、芋版を押している。ハートフルな会話が飛び交う中、若月は沈黙を続けていた。実は所属する劇団が解散することになり、女優になる夢を諦め都落ちしたい、実家に帰りたいと打ち明けるために、おとんが二泊したら遍路に行くというのに付いてきたのだ。

九年前、若月は両親の反対を押し切り東京に出た。さらに出て行く時、仕送りをくれんかったらホステスになるって無理やり強迫して、好き勝手で家族を振り回していた。「都落ちしたい」 その言葉を聞いた宗生は激怒。若月もまた逆ギレ。間に入った和江に背中を押されて、「申し訳ありませんでした。都落ち、させて下さい」と若月がいうと、「じゃあ、わしが、あんたの反対に、東京に行くわ」と宗生。ずっとノートに自分が感じたこと思ったことを全部したためていたので、それを出版してもらいに東京に行くと言い出したのだ。

若月は浅い人生で満足している親戚を見て、田舎でやっていく自信をさらになくし、父の宗生は奇人ぶりを発揮して、ただただ物事を掻き回し続ける。ノリユキは知未の貯金をすべて遣ってしまい、知未は三十超えて働かない兄を責め、和江はおろおろ、遊びにきた和江の従妹の依子は、我が物顔で家中を引っ掻き回す。田舎の親戚宅で繰り広げるドタバタの数々。夢を追うことの痛みと、諦めることの苦み。温かくも不気味な、田舎の人々。そして、父と娘の間にある、一筋縄ではいかない愛情。夢と現実、愛と確執の物語。

戯曲作の第二弾は、父娘、そして親戚。というわけで、巻末には本谷家父娘対談が収録されている。この対談で、実際に父娘間であったエピソードが作品のベースになっていると、明らかにされている。自分のおとんなら嫌だけど、傍から見るぶんなら面白い親父さんだ。それに仲良さそうだけど、向かい合って座るの、なんか気持ち悪い、と避ける本谷さんが、わかる。これって自分だけかと思っていた。正面も気持ち悪いけど、真横も気持ち悪いんだよなあ。

そろそろ作品のことに触れていく。パンチの効きは若干弱いかもしれないが、時折ブーーっと吹き出すほどの笑いがあって、いつもの身勝手さが渦巻いており、善意の人が実は残酷な人だったりと、ブラックぶりは健在だった。それに、ダメな人ほどかわいく思えてしまうのは、自分もダメな人だからでしょうか。初めは戯曲の台本風に馴染めなかったけれど、慣れてくると、これがスピード感を生み、ぽんぽんとリズム良く読めて、あっという間に読み終えてしまった。やっぱり本谷有希子はいい。これからも買って読んで行きたい作家だ。

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本谷有希子
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    2008

10.09

「食堂かたつむり」小川糸

食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

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料理店でのアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。同棲していたインド人の恋人と共に何もかもがもぬけの殻だった。祖母の大切な形見であるぬか床だけは無事だった。ガスメーターが入った狭いスペースの中で管理していたからだ。ここには留まれない。家財道具は引っ越したように何ひとつ残っていない。大家さん宅に鍵を返却し、大型バスターミナルへ向かった。精神的ショックからなのか、倫子は声を消失していた。

十五歳で家を出てから、一度もふるさとに帰っていない。以来おかんとは、年賀状でしか交流していない。山に囲まれた人口五千人足らずの村。村の人たちは、影でルリコ御殿と呼んでいる実家に帰ってきた。ルリコはおかんの名前で、広い敷地には、母屋の他、おかんの経営するスナックや物置小屋、畑などが点在している。この土地は、もともとおかんの愛人が所有していたのだ。

家に戻って来ることをしぶしぶだがおかんは承諾してくれた。条件は、エルメスと名付けられた豚の世話係を引き受けること。もちろん、食費、光熱費、家賃などは別途、きちんと払わなくてはならない。そのためにも、働かなくてはいけなかった。考え込むうち、ふと、この家の物置小屋を借りてちいさな食堂をオープンされることを思いついた。ここは食材の宝庫だ。料理なら作れる。その自信はあった。開店資金は、おかんが、消費者金融並みの高い利息を付けて貸してくれることになった。

顔なじみの熊さんをアドバイザーにして、ほぼ熊さんと倫子の二人三脚で完成させた。オープンさせる食堂の名前はかたつむり。倫子はこれからゆっくりと前に進んでいくのだ。頭の中では、食堂かたつむりのイメージがほぼ固まっている。それは、一日一組だけの、ちょっと変わった食堂だ。メニューはない。食堂かたつむりの名前にふさわしく、ゆっくりと時間をかけて味わってもらいたい。だから、時計は置かない。音楽はかけない。そうしてオープンの日を迎えた。

なんか出来すぎをやりすぎた感はあるものの、悪くはなかった。ただ、余分な文章が多いわりに、調理師免許は持っているのかとか、営業許可を取得しているのかなど、あるべき情報がぽこっと抜けていたり、大事なはずのぬか床が活用されぬままだったり、主人公が料理を始める前に料理の神様にお祈りするだとか、大げさな部分がある反面、人物の感情がわかりづらいのが気になった。そういった書き慣れていない、ぎこちなさみたいなものが見えてしまったのは残念だ。

それに、ここまでレシピが詳しく書かれているのは珍しいものの、最近料理を売りにした本も増えて、そこも目新しさを感じなかった。だからなのか、売れて大絶賛の一方で不評の意見もあって、そういう自分が気になった部分、あるいはエルメスを含めた部分が賛否両論を別けたのかなあと思った。ほのぼのとして、食堂のコンセプトであるスローを楽しめたけれど、もう一度読みたいとは思えなかった。でも食堂かたつむりが近くにあったら行くけどね。

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    2008

10.08

「下北沢 さまよう僕たちの街」藤谷治

下北沢―さまよう僕たちの街 (ピュアフル文庫 ふ 2-1)下北沢―さまよう僕たちの街 (ピュアフル文庫 ふ 2-1)
(2008/09/10)
藤谷 治

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すでに読んだ本なのに、同じ本だと知らずに買ってしまった。前の作品タイトルは「下北沢」で、今回は「下北沢 さまよう僕たちの街」だ。微妙な改題だけど、せめて改題したと表記して欲しかった。それでもふつうは気づくんでしょうね。悔しいので、もう一回読んでみることにした。でも巻末に収録された西加奈子さんとの対談は文庫版だけのおまけ。うーん、買って正解? 再読したことで見えてきたこともあったし、結果オーライ? というわけで、前回に書いたことと重複するかもしれないが、同じ本について書いてみる。

箱貸しの雑貨屋を始めたのは、ついその年の春のことだった。長いサラリーマン生活の中でようやく貯めた金は、開店資金であっという間に使ってしまい、貯金はおろかその日その日の電車賃も危ういような経営状態が何ヶ月も続いたが、勇はすがすがしい気持ちだった。街全体が路地裏みたいな下北沢の、さらに路地裏ではあるけれど、下北沢に店を出したのだ。なんといっても、人と出会う。これ以上の贅沢というか、幸福は、またとないくらいだ。

元アイドルタレントのみずほ。その彼氏のミチオ。小説家でホステスもしているミナミ・ナミコ。アート作家のトミマツ。和食屋のナオちゃん。三ヶ月をかけてデートの約束を取り付けた常連客の桃子さん。彼らと過ごす平穏な日々。そんなある日、変わり者の詩人・土蔵真蔵とのふとした出会いから、平穏な毎日に被害が出始め…。ありとあらゆる人種が集う下北沢という街、そこで生きている人たちを描いた作品。

まず自由人ばかりが跋扈していて、あたしならなれる、という根拠なき自信のある人が集まり、この街は特別だと熱狂的に愛し、そこにいることで優越感に浸っている。そして、コンプレックスや閉塞感を持っている人が、特別な人の仲間入りをしたような勘違いができる街で、その可能性を秘めた街に、憧れが憧れを呼び、そこに自分の欲しいステイタスを街にくっつけて、自己満足に酔っている、という印象を受けた。見たこと、行ったこと、風聞を聞いたことがまったくないのだけど、なんとなく漠然とそう思った。

そういう特別意識はちょっと好きじゃないんだけど、気持ちはわかる。若い頃なら、誰もが自分は違うという思いはあっただろうし、いまでもひょっとしたらという気持ちがないわけではない。これはブランド志向に近いのかもしれない。そういう独特な雰囲気を持つ街で、勇と桃子さんの恋の駆け引きがあり、はたまた、みずほとミッチャンの恋物語があり、崩れ行くポエム土蔵真蔵との関わりがあって、これが下北沢なんだと主張している。そして、ラストのしんと静まり返った下北沢の夜にぐっときて、静かに夜が明けていく。再読だけど、感動した。

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藤谷治
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    2008

10.08

「100KBを追いかけろ」黒史郎

100KB[キロババア]を追いかけろ100KB[キロババア]を追いかけろ
(2008/07/11)
黒 史郎

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3人はただ見つめていた。灰色の空。灰色の川。灰色の街並み。工業地帯の凸凹な影。煙突が落とす細長い影。コンテナ。クレーン。大型トラック。誰かが創ったこの街を、100キロババアが走り回る。3人はただ、見つめるしかなかった。―灰色の街、鶴見に起こる連続怪事件。ジュン、カオル、トシオが追う不気味な影、都市伝説100キロババアの正体とは?ホラー界の新星が送る青春エンタテインメント《出版社より》

〈100キロババア〉深夜、道路を車で走っていると、後方から老婆が走って追いかけてくる。その走りは異常なほど速く、100キロの速度を出しても追いついてくるという。これに追い抜かれると車は事故を起こし運が悪ければ死ぬこともあるという。また追い抜き様に振り向き、笑うともいう。似たものに「ターボばあちゃん」「ジャンピングばばあ」などがあり、いずれも「走るお婆さん」という系統に分類される都市伝説である。

親父の修理工場で働く、オカルトおたくでチャットにはまっているジュン。彼の元へ五年ぶりにカオルが訪ねてきた。彼女は高校二年生の時、両親と愛犬を何者かに惨殺され、福島の祖母の家に引き取られていた。五年たった現在も捜査に進展はない。その彼女は一年前にこの街に戻って舞台女優になっており、次の公演で100キロババアを演じるので、100キロババアについて教えて欲しいと尋ねるのだ。

その少し前、車の衝突事故現場を通りかかったジュンは、ドアウインドウに書かれた命という血文字を目撃し、写メールを取っていた。その夜、チャットの話題にその事故があがった。交通規則を守らない車が狩られ、制裁のしるしに命の言葉が刻印される。100キロババアの制裁だというのだ。その一方で、車を運転していたのは仲間のトシオの叔父だと知った。車に同乗していた叔母は、猛スピードで追い越していくお婆さんを見たという。ジュン、カオル、トシオは、通称100キロババアを探すことにした。

ほんの少しだけど気になる部分があった。三人の主人公が無味無臭でまったく魅力を感じなかったこと。コーラが好きというエピソードがなく、何故かコーラばかりが登場したのかが謎なこと。ホラーが混じるのは反則かもしれないと思ったけれど、この著者はホラー作家だということ。これらはけなすほどの粗でもない。だけど、読んだ感想がそれぐらいしか思い浮かばないから困惑している。それ以外はほんとふつうだった。取り立てて面白かった部分もなかった。待っても言葉が降りてこないので、今日はここまで。

これって文句を書くよりタチが悪いかも(汗) すまん。

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    2008

10.07

「赤×ピンク」桜庭一樹

赤×ピンク―Sakuraba Kazuki Collection (角川文庫 さ 48-1)赤×ピンク―Sakuraba Kazuki Collection (角川文庫 さ 48-1)
(2008/02)
桜庭 一樹

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ここで行われているのは一つのイベント。「ガールズブラッド」と銘打って毎晩開催される、地下キャットファイトクラブの悪趣味な物語だ。女の子たちは檻の中の囚人。女の子たちが心からも体からも流す、新鮮で、でもどこか嘘くさい血を観にお客が集まってくる。非合法かもしれない怪しげなショーを観るためにだ。六本木の裏通りを、道にさまようこと数分。統廃合によってずいぶん前に廃校になった小学校の校舎前。薄く汚れた正門は、夜になると密かに開けられる。会員制「ガールズブラッド」の客たちが、今夜も闇に紛れてひっそりとやってくるのだ。

暗い校舎の前を通り過ぎ、中庭に出ると、たくさんのベンチと、キャンプファイヤーのように明々と揺れる松明の炎。そして真ん中には真っ黒な八角形の檻が設置されている。ふいに大音量のレニー・クラヴィッツが流れ出す。檻の中には、派手な衣装を着せられ、手錠をかけられて鎖につながれた女の子がいる。軍服姿のウェイターが、監視をするように、そこかしこに立っている。白いライトがグルグルと回りだす。同時に、花火が景気よく打ち上げられる。オープニングパフォーマンスが終わり、音楽とライトが消えると、第一試合が始まる。

本当は二十一歳だけど、まだ十四歳という設定で出演している、精神的に不安定なまゆ。SMクラブでなんちゃって女王様をし、真面目で人の望むことばっかりに応えるミーコ。インターハイ四位の空手の達人で、女にモテる女嫌いの皐月。この三人が物語の主人公だ。彼女達は、何かを求めるようにして、ここに辿り着いた。三人とも何か抜け落ちたものを心に抱え、毎日のガールファイトに一瞬の安らぎを見出している。不器用で、喪失感に負けそうで、だけど必死に生きている少女達の物語だ。

面白く読めたし、好きだといえるけれど、基本的に少女たちが大人になっていくというのを描いているので、どうしても共感といったものが湧いてこない。女子ならわかるーとなるんだろうが、男子的にはわからない部分があって、入り込めない部分がある。ただ、くそエロ高校生の武史の好奇心ぶりはわかる。だけど、高校生としてはちょっと知識がなさすぎる。中学生という設定ならすとんと落ち着くんだけど。

今回、角川文庫から出版されたので買った。元のファミ通文庫なら読む機会は持たなかっただろう。あの少女マンガ風の表紙は、年齢的にいってさすがに手が出せない。ぐっとくるという作品ではなかったけれど、女子同士の会話が楽しくて、怪しいキャラにも魅力があって、居場所がないというのも現代的で、あまりラノベっていないのも個人的には好きだった。気軽に読めて、すっきりする作品だと思った。

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桜庭一樹
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    2008

10.07

「婚礼、葬礼、その他」津村記久子

婚礼、葬礼、その他婚礼、葬礼、その他
(2008/07)
津村 記久子

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表題作と「冷たい十字路」の二編を収録。

「婚礼、葬礼、その他」
大学のハイキングサークルの同級生である友美から、結婚をするのだが、二次会の幹事とスピーチを引き受けて欲しい、という手紙が届いていたのは、会社の帰りに旅行代理店に寄った夜のことだった。式の日は、ヨシノが先ほど予約してきた旅行の日程の最後の日でもあった。ヨシノも知っている内田君と結婚するのだそうだ。友美と内田君の結婚式はよほど参加したい行事だし、と申し込んだその日に代理店に断りを入れた。

式の日の明け方に見慣れない番号の着歴があることを発見した。電車を降りたときにもヨシノの携帯を鳴らしたが、相手にしなかった。知らない番号は相手にしないのが信条だった。屋久島で聞くはずだった雨の音を頭に思い浮かべながら放心しているうちに、結婚式は終わってしまった。披露宴の会場へ移動する途中、携帯の電源を入れると、その瞬間に着信音が鳴り響いた。見覚えのある着信番号に、ヨシノはいいかげん腹が立って、なんの業者か確かめてやろうと通話ボタンを押した。職場の常務だった。上司の父親が亡くなり、今晩お通夜だという。ヨシノの慌ただしい一日を描いた作品。

友達の結婚式と上司の父親の葬儀なら、結婚式を優先してもいいような気がしたのだけど。しかもすでに出席していることだし、スピーチも二次会の幹事も引き受けているわけだし。だけど、ヨシノは式を途中で抜けてお通夜へ向かう。そこが少し引っかかったけれど、そのお通夜がまあ、酷いお通夜で、披露宴での料理を期待して、今日は何も口にしていないので腹はぐうぐうなるわ、故人の愛人同士の喧嘩に巻き込まれるわ、死んだジジイは孫に嫌われ、長女は涙を流す自信がない。しかも結婚式場からかかってきた電話はピンチの電話。人の不幸ってなんて楽しいんだろう。そういう黒い甘い蜜が楽しめた作品だった。

「冷たい十字路」
すっとばしている自転車がつぎつぎとやってくる。地下鉄の駅が面している交差点は、二つの高校と一つの小学校の通学路が交わっている。おまけに角には二十四時間スーパーがあり、混雑に拍車をかけている。その向かいの古びた建物の産婦人科は、スーパーと対照的に静まり返っているが、自転車通学者に玄関先の植木鉢などを引っ掛けられてときどき悲惨なことになっている。

両校の生徒は、お世辞にも道を譲り合ってうまくやっているとはいえない。高校生たちはスピードを落とそうとしないし、横に広がって走るのもやめようとしない。そういう連中が、前からも後からもやってくる。小学生は、そんな物騒な歩道を通って毎朝通学している。ガシャン。金属がぶつかる鋭い音があがった。高校生たちが自転車と絡み合うようにして地面に落ちていた。遅刻するわけにはいかない人々が、ほとんど一瞥すらせずにその横を通り過ぎていく。

忙しい人々。無関心な人々。マナーの悪い自転車運転。道を自分たちだけのものだと勘違いしている人。これがリアルすぎて怖い。付け加えると、メールをしながらふらふらしている若者や、すれ違うたびにきゃっと自転車を降りるおばちゃんや、日傘をさして道の真ん中を走る女の人。歩道に乗り上げて駐車している車。むかつく奴らを挙げ出したらキリがない。そうして起こるべくして起こった衝突事故。この事故を、周辺にいる人たちの多視点で見ることで、事故の真相が見え隠れしてくる。これってホラーより怖いかも。だけど、上手いなあ。

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津村記久子
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    2008

10.06

「三月の招待状」角田光代

三月の招待状三月の招待状
(2008/09/04)
角田光代

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充留のもとに、一通の招待状が届くところから物語は始まる。差出人は澤ノ井夫婦である。澤ノ井正道と坂下裕美子。大学の同級生で、そのころから交際していたから、十五年以上いしょにいることになる。とはいえ、別れてはヨリを戻し、別れてはヨリを戻して、三年前、あきらめたように結婚したのだ。そして離婚パーティー。カードにはわざわざ離婚式と書いてある。会費は要りませんとあった。離婚パーティーを機に、大学時代の仲間がリレーしていく。

雑誌や新聞にコラムを書くのが充留の仕事だった。ノンフィクションライターになりたかったのだが、軽めの毒舌コラム、しかも芸能関係ばかり書いている充留に、シリアスなノンフィクションの依頼などあるはずもない。最近では、充留はすっかり重春の情報に頼っている。充留より八つ年下の重春は、芸能関係に呆れるほど詳しい。重春は無職というわけではなく、ウェブのデザインなどをやっているらしいが、ほとんど家にいる。昼食を作ってくれるから充留にはありがたいが、ときおり、無性にいらつくことがある。しかし充留にとって不思議なのは、いらつく、という気分と、好きである、という気持ちが、まったく矛盾しないで自分の内にあることだ。

この2LDKには、裕美子が住み続けることになっている。家具のほとんどは裕美子が持っていたか新たに買ったものだから、正道が出ていってもほとんど何も変わることがない。出ていって、と言ったのは裕美子だし、ここに住み続けると決めたのも裕美子だった。離婚届をもらってきて先に記入したのも裕美子であり、どうせなら、ぱあっとパーティーをしようと提案したのも裕美子だった。自分といっしょにいながら、正道が好きな女を作るのは今にはじまったことではなかった。十五年にわたって、おなじことがくりかえされた。ずっと同じ場所にいた。十五年なんて本当はたっていなくて、おんなじ時間で足踏みしていたのではないか、裕美子はそんな気がした。

麻美は明らかに調子が狂ってしまった。なんで私だったんだろう。離婚したての裕美子でもなく、学生時代に仲のよかった充留でもなく、どうして私だったんだろう。宇田男が声をかけてきたのは私だった。離婚パーティーの三次会がカラオケ屋だった。とにかく気がついたら、踊り場で宇田男と抱き合っていた。唇を吸いあうように粘ついたキスをして、宇田男がブラウスの内側に手を突っ込むのを許していた。やってしまいたいと麻美は思ったのだが、それを実行に移すには、酔いが足りなさすぎた。それで、今度ね、と言ったのだ。連絡すると宇田男は言った。たぶんもう連絡はこない。携帯電話を置こうとしたとき、メール受信を知らせる音楽が鳴り渡った。夫の智からだった。

台所で作業する遥香の後ろ姿を眺め、正道は、裕美子に投げつけられた言葉を思い出していた。責任が生じたとたんにケツをまくって逃げ出すような男よ、あなたは。遥香にどんな変化があったのか、正道には理解できない。いっしょに暮らすときのためと郊外にマンションを借りさせ、けれど一年間は誠意を持ってひとりで暮らすべきだと主張し、レストランやバーや、屋外デートをことごとく拒み、ひとり息子の世話をする母親みたいに、嬉々として家事をしに通う恋人の内面で何が起きたのか、考えても考えても正道にはわからない。わかるのは自分の内面の変化だけだ。窮屈な場所に、理不尽に閉じ込められた。正道はそんなふうに感じていた。


三十四歳になった大学時代の仲間たち。彼ら五人の微妙な関係が本書の読みどころになっている。自活する女、専業主婦、元夫婦など、彼らは社会での自分のポジションを持ちながらも、学生時代から一歩も足を踏み出さずに仲良しこよしの関係でいた。そんな彼らは、お互いに引け目や相手の嫌なところを感じていて、その言葉がもちろん本人に向かうことはないが、心中の語りとして、あるいは第三者に対してなら饒舌になる。

趣味わる。ばっかじゃなかろうか。昼メロおばさん、って感じ。なんていうか妄想っぽいっていうか。といった見下したようなセリフがぽんぽん吐き出される。それが次の章で別の語り手に変わると、それまでの共感や反感がぱたりと裏返ったりする。そうしながらも、他人が入ってくることが出来ない奇妙な結束を持つ仲間を作っているのだ。その依存のような変てこな関係にむずむずとくるのだが、これが角田作品らしくもあるのだ。

過去を共有する仲間が悪いわけではない。しかしこれが個人としてならどうなのか。三十四歳になって、学生だったころから抜け出せない大人。居心地の良かったあの頃をずっと引きずっている大人。そんな彼らが、何とか変わろうとして、じたばたもがき、うろうろとさまよい続けるのだ。離婚を選ぶ人、反動で逆方向に進んでしまう人、気持ちにけじめをつける人など、さまざまに揺れるこころがあって、それぞれが見つける新たな出発がある。

上手く言葉が見つからなくて、ぐだぐだになってしまったけれど、この作品は好きだった。

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角田光代
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