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    2008

11.30

「ガリレオの苦悩」東野圭吾

ガリレオの苦悩ガリレオの苦悩
(2008/10/23)
東野 圭吾

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二冊同時刊行の短篇集の方。「落下る」「操縦る」「密室る」「指標す」「攪乱す」を収録。

「落下る」
マンション七階のベランダから落下したのは、銀行勤めをしている三十歳の女性。彼女の頭部には殴られた痕跡があった。事件が起こった直前まで、彼女の部屋にいたという男が警察に名乗り出てきた。しかも落下の瞬間をマンション下の路上で見ているという。その時男は、宅配中のピザ屋店員から呼び止められ、何か文句をいわれたということだった。

「操縦る」
かつて帝都大学で教鞭を執っていた助教授は、信望が厚く、この日のパーティーに集まったのは、そんな教え子たちの中でも特に気に入っている者たちだった。そのパーティーの最中、ガラスが割れる音がして、離れ家から炎が噴出。焼け跡から見つかった死体は、刃物で刺されて死んでいた。殺されたのは長男で、自堕落な生活をしていた疫病神だった。

「密室る」
湯川は夫婦でペンションを始めた友人に招かれた。ちょうど十日前の夕方に、その客はやってきた。その日は他に、二組の客がいた。妻の弟と、父子の二人連れだ。客は一階の部屋に入ったまま出てこずに、夜明けになって、崖下に転落していた客が発見された。友人は部屋が密室になっていたので謎を解いてくれというが、事件のことを話したがらない。

「指標す」
老女が殺害され、仏壇に隠していた金の地金が盗まれるという事件が起こった。その同じ日から飼い犬も行方不明となった。容疑者となったのは、金の隠し場所を知っていた保険外交員の女性。その貧しい母娘二人暮らしの部屋に、何度か男が来るところを近所の人に目撃されていた。母の無実を晴らそうとした娘はダウジングで失踪した犬の遺体を発見する。

「攪乱す」
悪魔の手を名乗る人物から、捜査一課長の元へ怪文書が届いた。悪魔の手を使えば人を殺せる。事故に見せかけて殺せる。数日内にデモンストレーションを行うと。同じ頃、湯川の元にも同様の文書が届いていた。これは湯川への挑戦状なのか。初めの犯行は転落事故。二番目の犯行は交通事故。予告状と犯行声明文が湯川・警視庁の各々に送られてくる。


トリックを見破ろうとしたり、物理を理解しようとする無駄な時間は使わなかった。いくら考えても、凡人には絶対にわかりっこない。だから始めからエンタメとして読むことに決めて、それに徹することにした。個人的に面白かったのは、恩師と対決する「操縦る」と、犯人を罠にかける「攪乱す」だった。また、女性刑事の内海薫(役・柴崎コウ)が登場することによって、女性特有の観察力や洞察力などが随所に見られ、作品の幅が広がっているのは誰もが気づくことだろう。今後このシリーズは、湯川・草薙のコンビではなくて、湯川・薫のコンビに益々移行していきそうな予感がするのは自分だけだろうか。それもまたよしだけど。

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東野圭吾
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    2008

11.30

11月に買った書籍代

個人メモです。


合計18.062円


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自分への戒め
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    2008

11.30

11月に買った書籍

個人メモです。


モダンタイムス (Morning NOVELS)モダンタイムス (Morning NOVELS)
(2008/10/15)
伊坂 幸太郎

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イノセント・ゲリラの祝祭イノセント・ゲリラの祝祭
(2008/11/07)
海堂 尊

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ファミリーポートレイトファミリーポートレイト
(2008/11/21)
桜庭 一樹

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ロードムービーロードムービー
(2008/10/24)
辻村 深月

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チームチーム
(2008/10/17)
堂場 瞬一

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僕の好きな人が、よく眠れますように僕の好きな人が、よく眠れますように
(2008/10/30)
中村 航

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チェーン・ポイズンチェーン・ポイズン
(2008/10/30)
本多 孝好

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光
(2008/11/26)
三浦 しをん

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新ほたる館物語 (ピュアフル文庫)新ほたる館物語 (ピュアフル文庫)
(2008/11/10)
あさの あつこ

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妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉 (講談社文庫)妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉 (講談社文庫)
(2008/10/15)
香月 日輪

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Presents (双葉文庫)Presents (双葉文庫)
(2008/11/13)
角田 光代松尾 たいこ

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生き屏風 (角川ホラー文庫)生き屏風 (角川ホラー文庫)
(2008/10/25)
田辺 青蛙

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うそうそ (新潮文庫 は 37-5) (新潮文庫)うそうそ (新潮文庫 は 37-5) (新潮文庫)
(2008/11/27)
畠中 恵

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日暮らし〈上〉 (講談社文庫)日暮らし〈上〉 (講談社文庫)
(2008/11/14)
宮部 みゆき

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日暮らし〈中〉 (講談社文庫)日暮らし〈中〉 (講談社文庫)
(2008/11/14)
宮部 みゆき

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日暮らし〈下〉 (講談社文庫)日暮らし〈下〉 (講談社文庫)
(2008/11/14)
宮部 みゆき

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探偵伯爵と僕―His name is Earl (講談社文庫)探偵伯爵と僕―His name is Earl (講談社文庫)
(2008/11/14)
森 博嗣

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お買い物
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    2008

11.29

「聖女の救済」東野圭吾

聖女の救済聖女の救済
(2008/10/23)
東野 圭吾

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二冊同時刊行の長編の方です。

子供を持てないのなら、結婚生活自体に意味がない。男と女は結婚して、まず夫婦となる。その後、子供を作って父親と母親になる。そこまでいって初めて、一生の伴侶となれる。その信念を変える気がない以上、子供を持てる見込みのない生活を続けるわけにいかない。義孝にいわれるまでもない。子供を産むことは、綾音自身の夢でもあった。だがどういう神の悪戯か、その能力に恵まれなかった。それならそれで仕方がないと諦め、割り切って生きてきた。義孝ともうまくやっていけると信じていた。愛情は変わっていない。彼はいった。綾音には、その言葉はまるっきりの嘘に聞こえた。

IT会社社長・真柴義孝の死体が自宅リビングで発見された。発見者は妻の愛弟子である若山宏美。妻の綾音はパッチワーク作家として有名で、宏美は綾音の助手としてカルチャースクールの講師をしていた。その宏美は義孝と愛人関係にあり、義孝の子を身ごもっていた。義孝は妻の綾音と別れ、宏美と結婚する気でおり、綾音には相手が宏美だと告げないまま別れ話を前々日に宣告していた。その綾音は自宅の鍵を宏美に預け、実家のある札幌に帰省中。義孝の死因はコーヒーに混入された亜ヒ酸。一番動機があると思われる綾音は、死亡推定時刻に遠く北海道におり、アリバイも完璧だった。

捜査に乗り出した草薙刑事は、綾音の美貌に惹かれ、彼女の無実を信じようとする。片や後輩の女性刑事・内海薫は、些細な点から彼女の犯行ではないかと疑いを持つ。依然、毒物混入方法は不明。薫は容疑者に恋した草薙に内緒で、帝都大准教授湯川学の研究室の門を叩く。北海道にいる人間が東京にいる人間を毒殺することが可能かどうか。また毒物を混入した方法やタイミングとは。という「容疑者献身のX」と同系統の叙述ミステリー。

今回から柴崎コウが演じていた女性刑事・内海薫が登場している。それに彼女は移動中にiPodで福山雅治のアルバムを聴いていたりと、もろにドラマを意識した作品となっている。それにしても、このシリーズに登場する人物たちは真ともじゃない人ばかりだ。子供を産んでくれることだけが女性の価値という男しかり、恩義ある女性の夫を奪って後釜に入ろうとする女しかり、ラストで明らかになる犯人の動機しかり、こんなトリックを考える著者しかり。(おっと) 本書はミステリーなので、書くことができる部分が制限されてしまう。よって本日はここまで。

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東野圭吾
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    2008

11.27

「夜の光」坂木司

夜の光夜の光
(2008/10)
坂木 司

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慰めはいらない。癒されなくていい。本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を被って過ごしている。家族、恋愛、将来……。問題はそれぞれ違うが、みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、確かに共振し合える仲間がいる。そしてそれは、本当に得難いことなのだ。《出版社より》

主人公のジョー、ゲージ、ギィ、ブッチは、天文部に所属する高校三年生。入部からほぼ二年間、四人の間にこれといった会話はなかった。他人に興味がない人間ばかりが集まった天文部部員だが、天体望遠鏡で夜空を観測する観測会だけは全員揃って参加していた。皆、観測になどまったく興味を示さなかったというのに。先輩が卒業し、四人だけの定例会を始めて開いたあの日の夜、偶然、駅ビルの中で四人は再会した。夜にばかり会う四人。昼は他人で、夜は仲間。四人の関係を秘密にして、スパイに身をやつすのはどうかと話は決まった。

部長をもじってブッチ、どう見たってギャルだからギィ、自称アーティストくさい芸術家だからゲージ、ぱっと見はお嬢様っぽいからジョーと、コードネームを決定し、全員でメールアドレスを交換した。ほどなく一斉送信で送られてきたメールには、コードネームの一覧表が書いてあった。ブッチ=黄川田祐一、ギィ=安田朱美、ゲージ=青山孝志、ジョー=中島翠。スパイの世界に身を投じた四人。彼らのミッションが始まった。

学校の裏庭に現れた季節外れのホタル。デリバリーにピザのアラカルトを毎週頼む二人の人物。学際で初対面の相手から勘違いで恨まれたジョー。片手にぬいぐるみのような何かを持った不気味な女子生徒。謎としては日常のちょっとしたミステリになっている。それらが縦軸ならば、四人の少年少女たちの闘いが横軸になっている。

彼らは他人からは見えなくても、内面では必死になって闘っている。嫁に行きさいすれば、それが幸せだと思い込んでいる両親を持つジョー、頭が良さそうで、子供っぽくない人を演じているゲージ、父親がアル中で暴力を振るい、母親は怖がって何もしないという家庭のギィ、祖父を筆頭に、年功序列が骨の髄までしみ込んだ農家のブッチ。はっきり言って、顧問の田代以外はここに出てくる多くの大人はサイテー。

その彼ら四人の憩いの場が、天文部での観測会であり、一緒にいるだけで安らげる仲間だ。育ってきた環境も、友達の種類も違う。べたべたとくっ付き過ぎず、それでいて相手を思いやる信頼関係。そしてスパイであることで世界で誰よりも深くつながる部分を共有した仲間。彼らはまだ雌伏のときにあり、新天地への脱出を心に秘めている。そんな底辺にいても、もたれあいではなく、しっかりとした自分を持った彼らの姿が、とても眩しく思えた作品だった。

坂木さんのサインはこれで三冊目。

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坂木司
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    2008

11.26

「地獄番鬼蜘蛛日誌」斎樹真琴

地獄番 鬼蜘蛛日誌地獄番 鬼蜘蛛日誌
(2008/10/21)
斎樹 真琴

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地獄に堕ちた女郎の願いは、蜘蛛になること。代わりに閻魔が命じたのは、鬼の御用聞きと地獄の見回り、そして日誌を書くこと――。鬼蜘蛛と変化した女郎が見つめる、怨むこと怨まれること、許すこと許されることの意味。《本の帯より》

地獄に落ちた亡者が、生前に犯した罪の所為で地獄にいるのならば、地獄で亡者を苦しめる鬼は、生前の亡者に怨みのある者。報復をする為に、死後、亡者を追いかけてきた。或いは手ぐすねを引いて地獄で待っていた者達。鬼となった亡者は、人の姿のときに閻魔様の前で怨みを手放してさえいれば、極楽に逝けたのだろう。極楽に逝けるのを放棄してまで地獄に来たのだから、その怨みの深さたるや恐ろしいものがある。そうして飽きることなく報復し続ける鬼の様子を、鬼蜘蛛と化した女郎が淡々と書き綴っている。

なます地獄は、美しい者に怨みを持つ醜い者が怨みを晴らす場所。鬼達は自分が欲しいと思った綺麗な手を持つ女から、長い足を持つ男から、鋸でそれを刻んで奪い取って、自分の体に縫い付ける。賽の河原で亡者に石を積ませている鬼達の生前は、徳の高い僧侶。説法に耳を傾けない民達を、次第に憎むようになって、亡者に石を積ませている。またその開祖についていけば救いの道を見つけられると信じていた僧侶が、道などなかったと言って開祖を責めている。

女郎は何故に鬼蜘蛛になり、地獄で番をしているのか。女郎は蜘蛛になって、閻魔様を地獄に引きずり落としてやろうと決めていた。女郎は、祖母・母、娘と代々続いた売女の三代目。十二の頃、母から女衒の男にたった五両で売られた。そして虚しさを抱くうちに解った。閻魔様も含めて、弱者を支配する神仏は皆、弱い者なのだと。人間がどんなに拝もうと、平気で見殺しにする。人が行った見殺しを死後に神仏が罰するのならば、神仏が行った見殺しは、死後に人間が罰して良いはず。だから決めた。閻魔様を地獄に引きずり落としてやろうと。そして赦しを乞わせてやろうと。

苦しい。不幸だ。救いがない。女郎は、親を怨み、世の中を怨み、神仏までも怨んでいる。その隣では、鬼が亡者を虐めて愉悦に浸っている。怨み事や泣き言を読まされるのは、気持ちが良いものではない。だけど人間の心の中の黒い部分は、こういう感情で占められているのかもしれない。本書では、地獄で起こる様々な出来事を通し、鬼蜘蛛の心に変化が現れて、やがて解脱の時がやって来る。少し残虐で、少し滑稽で、人の生きる理由を考えさせられた読書となった。

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その他の作家
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    2008

11.25

「木野塚佐平の挑戦だ」樋口有介

木野塚佐平の挑戦だ (創元推理文庫 M ひ 3-11)木野塚佐平の挑戦だ (創元推理文庫 M ひ 3-11)
(2008/06)
樋口 有介

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テレビでは現職総理死去のニュースを報じている。木野塚探偵事務所開設以来の秘書兼助手であった梅谷桃世がケニアに行ってから、もう半年がたつ。手足ばかりが長くて女性ホルモンの足りない桃世に恋したわけではない。木野塚氏の好みはあくまでも妖艶なセクシーギャル、さらさらのストレートヘアにタイトなミニスカート、と、まあ、そんなタイプだ。なにしろ木野塚氏はハードボイルドの私立探偵で、事務所は新宿の雰囲気ある裏町で、加えて盗聴マイクから暗視カメラ、それに変装用のつけ髭まで待機させている。あとはそれに相応しい美人秘書がいればいい。なのに、桃世にかわる秘書の募集を、なぜかためらっていた。

木野塚氏はなんとも鬱々とした気分だった。探偵事務所に客が来ないことも自分の頭に髪が少ないことも、なにもかも気に食わない。週刊金魚新聞の編集長、高村女史の色気に惑わされたとはいえ、うっかり金魚の取引に加担するなど、ハードボイルドのすることか。木野塚氏は深くため息をつきながら事務所に帰ったところ、驚きで三十センチも飛びあがることになる。ずいぶん日に灼けてはいるものの、それはまさしく梅谷桃世で、坊主頭にちかい短髪もうすい胸もひょろ長い手足も、まさしく、ケニアにいるはずの桃世だった。

復帰した桃世によって、窓に洒落たブラインドカーテンがかかり、机の上は整然。部屋に埃の臭いもなく、壊れたクーラーまで新品になった。だが、木野塚氏憧れの美人キャスターの香川優子をストーキングしているらしい自称犯罪分析家や、部屋が盗聴されていると思い込んでいる自称作家の中年未亡人など、依頼人は頭に少々病気があるらしい人ばかり。そんな中、桃世は青年医師の金魚事件をあっさりと解決する。さらにストーカー男のことでは、香川優子が桃世の従兄妹と大学が同級で、会えるかもしれないと言い出した。

そのあこがれの香川優子に話を聞いたところ、彼女をストーカーしているらしい男は、先ほど亡くなった総理の暗殺疑惑と彼女がそれに直接関与していることをほのめかし、自分との結婚に同意すればこれを公表しないという怪文書で強迫していた。しかもふとした偶然が重なって彼女の部屋から盗聴器が発見される。正式に香川優子から仕事を依頼された木野塚氏は妄想する。事件を解決した暁には、香川優子と、手に手を取って明るい未来へ踏み出すのだ。こうして木野塚氏は、総理の死が暗殺でなかったことを調査することになった。

シリーズ二作目は長編にして、念願の大きな事件に挑むことになる木野塚氏だが、これが予想範囲を超えるスケールの大きさで、これは広げすぎ、やりすぎの嫌いがある。枯れてなお妄想たくましい六十歳の木野塚佐平氏と、秘書兼助手の身分を越権する色気のない桃世、二十四歳。このコンビのからみも思っていたほど少なくて、一作目とは随分放れたところにきたなというのが正直な印象。嫌いではない。だけど求めていたものとは若干違う。だから肩透かしまでとはいかないが、困惑を覚えてしまうことは事実だ。これが単独作なら、これはこれでいいのだけれど、シリーズものの続編としては、世界観の枠を超えすぎているなと思った。


「木野塚探偵事務所だ」樋口有介
「木野塚佐平の挑戦だ」樋口有介

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樋口有介
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    2008

11.24

「すべての若き野郎ども」久保寺健彦

すべての若き野郎どもすべての若き野郎ども
(2008/09/25)
久保寺 健彦

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恭平は十六歳。達夫は十五歳。阿修羅特攻隊長だった恭平は、集会に参加する途中、達夫と出会い喧嘩となる。恭平の得意技皿割り(膝を狙った前蹴り)はかわされ、達夫の旋風脚(跳躍しながら回し蹴り)を食らって恭平は気絶した。恭平はルールに縛られた暴走族が急に面倒になって阿修羅を抜け、来るもの拒まずという達夫と組んで遊ぶことにした。ガンガン喧嘩して、売り出す。それで最終的には天下統一。

自分の方が強いから、という理由でタメ口を禁じられ、恭平は達夫を達夫君と呼び、達夫は恭平をチャボ(千葉)と呼ぶようになる。自分からふっかけることはないが、売られた喧嘩は必ず買い、危なっかしい戦いぶりにもかかわらず、達夫は連戦連勝。また、達夫のナンパの成功率は異常に高い。好き放題に喧嘩をし、ナンパをしている達夫の行動は、街中の不良の反感を買い、阿修羅を抜けた恭平が一緒なのも、その傾向を強めた。そしてターゲットとなる。そこにウルトラセブンになり切っている伝説の男が現れて……「帰ってきたウルトラセブン」

喧嘩上等といった少年マンガのような出発点から、自分の未来が見えない若者を描いたドタバタ劇へと作品内容は展開していく。その作品のベースには毎回とも対決がある。鎌倉時代トークを望む不思議女子と格闘少女......「恋人は鎌倉人」 ミカジメ料を要求してくるヤクザ......「スチュワート家のクリスマス」 年下のゴロツキに指名手配されて追いかけられる......「四月町グラフィティ」 勢いという点では若干スローダウンするが、達夫のはちゃめちゃぶりに振り回されつつ、恭平の狂犬ぶりはそのままキープ。そこに為になる先生や年下の恋人も現れるが、それでも変わらずにわーわー街を駆け回っている。

暴力的な場面にある年代の方は眉をひそめるかもしれない。でも、こういうやんちゃに憧れる一部の若者は確かにいる。親は堪ったもんじゃない。世間的にも白い目で見られるだろう。もちろんこれらを肯定するわけではない。しかし、持て余したエネルギーが抑えられないときがあって、それが何となく気がつけばそこにいたりする。そして、仲間とつるむのが楽しかったりもする。ようするに子供なんだけど、自分たちが子供だと気がついていない。そういう若さからくる青さ痛さが許容できるかどうかで、読者の好みは別れそうに思えた。

自分は面白く読むことができた、というか、無茶したくちなので。ほほほっ。

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久保寺健彦
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    2008

11.23

「螢坂」北森鴻

螢坂螢坂
(2004/09/22)
北森 鴻

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ビアバー香奈里屋のマスター工藤が、客にまつわる謎を解き明かすシリーズ第三弾。「螢坂」「猫に恩返し」「雪待人」「双貌」「孤拳」の五編を収録。読んだのは文庫版だけど、画像がダサいので単行本版を使用。

「螢坂」
この街で、オレを待ってくれる人はもう誰もいない。彼女はこの坂を螢坂と呼んだ。螢坂だけは、あの日のままだった。十六年前の有坂祐二は、戦場カメラマンとして名を馳せることを夢見て、恋人の江上奈津美と別れ、中東へと旅立った。ふと立ち寄ったビアバー。そこは五年前に亡くなった奈津美が常連客となっていたお店だった。

「猫に恩返し」
タウン誌に掲載された「猫に恩返し」と題された小話は反響が良かった。それが猫の顕彰碑を建てることになり、募金を集める記事を掲載することになった。募金は集まり、顕彰碑は建った。だが、線路に面したわずかな隙間に建てられた石碑は、こちらから文字を読むことができない。碑が見えるのは、すぐ近くにある踏切からだけだった。

「雪待人」
再開発計画に反対した三代続いた画材屋が、近く店を閉めるらしい。だったらどうして九年前のあのときに。新ビルへの移転を拒んだのがその画材屋であり、商店街は開発から取り残される形となった。あとはずるずる坂道を滑り降りるようなものだった。開発が進む地域を目前にしながら、南原の金物屋は為す術もなく閉店へと追い込まれた。

「双貌」
再就職がうまくいかない柏木は、特有の悪臭がしない路上生活者と出会ったことをふと思い出し、香奈里屋のマスターや、占い師の北さん、ライターの七緒、石材店主人の浅海ら常連客が登場するミステリを書き始めた。一方、小説家の秋津は、香奈里屋にいた客を見たことがある気がしたが、どうしても思い出すことができなかった。

「孤拳」
谷崎真澄は、「孤拳」という幻の焼酎を探していた。幼き頃、大好きな脩兄ィと祖父の書斎で隠れて初めて口にしたアルコールのことも、記憶がなくなる寸前に、唇になにか柔らかいものが押し当てられたことも、脩兄ィとの、大切な秘密だ。その病弱だった脩兄ィが、「孤拳」を探してくれと死の間際に真澄へと託した。

シリーズ三冊目にもなると、もう感想はいいかな。幸せな気分になれる旨い肴と、度数の違う四種類のビールが飲めるビアバー香奈里屋。マスターの工藤が出す料理、常連客の会話、そして工藤が解答を出す人間ドラマと、どれも一級品なので読んで損なし。「花の下にて春死なむ」「桜宵」と併せてお薦めです。

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北森鴻
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    2008

11.22

「ある日、アヒルバス」山本幸久

ある日、アヒルバスある日、アヒルバス
(2008/10/17)
山本 幸久

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冒頭の板チョコ三兄弟で笑いのツボを刺激され、次のメタボギャルという言葉で心をがしっと鷲掴み。主人公は通称デコこと高松秀子。ハトバスならぬアヒルバスで東京観光やイロモノ企画旅行で参加者を案内する入社五年目のガイドさん。叱咤激励してくれた三原先輩の退社に少なからずショックをひきずり、自分はもてると勘違いしている運転手の小田切次郎がウザい。まずはそんなデコの東京案内から物語は始まる。

三原先輩の教えを守り、参加者にグループ名をつけて、顔を記憶する。おばあちゃん三人組はチャットモンチッチー、年寄りが半数以上の男性七人は笑点。ちょっと気になる女子高生一人はチェキッコ。そして偽伯爵は常連客。彼らとの会話部分は楽しいものの、観光案内自体は東京に土地勘がないのでイメージが膨らまない。だから間延びを感じて少々退屈。それにちょっとベージ数を取りすぎかな。地方人は置いて行かれたなあと思った。

そして次は、ベテランガイドの鋼鉄母さんから、新人指導員を命じられるが、デコ命名の女おすぎ、平和鳥、おかっぱ左門、お手玉パティ、クウたちバスガイド予備軍は、もう少しまともな子を採用してほしいという問題児ばかり。さらに、デコ自身が口うるさい先輩と思われるのが嫌でご機嫌をとっているから、それを新人に見透かされ軽んじられている。そんな中、同期の中森亜紀に、会社はバスガイドあってこその会社、女が働ける環境にするべきだ、革命だ、革命起こさねば、と持ちかけられる。そこに盗撮写真が雑誌に掲載されて…。

後半の上手く進まない新人育成の奮闘ぶりと、パンチラ盗撮犯のあれこれの方は面白く読めた。なめた新人にはガツンと行けよ、とは思うが、その分を亜紀がやってくれるし、怖いと思われた鋼鉄母さんのいいところも見え、さらにその息子のカオルくんが超かわいい。保育園児がござる口調って反則よ。だけど、ついついニヤけてしかうかわいらしさに狙いすぎを許してしまう。その狙いが良い方に働けばいいけれど、ここでもひとつ悪い方が出てくる。デコがクウに指南するガイドネタがまた、地方人を置き去りにする。東京に迷いこんだ恐るべき野獣って何? 面白さがわかんねえよ。

とまあ、東京限定のネタに、親指を下に突き出してブーと言いたい。些細なことだけど、内輪受けって外にいるとつまらないもの。ツカミも良くて全体的に面白いけれど、残念ながら疎外感があったことで絶賛できず。そういう一方で、大阪が舞台なら絶賛していたかも。まったくもって我儘な読者だ。ほんと身勝手な意見で、あしからず。

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山本幸久
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    2008

11.21

「船に乗れ!(1)合奏と協奏」藤谷治

船に乗れ! 1 (1)船に乗れ! 1 (1)
(2008/10)
藤谷 治

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音楽一家に生まれた僕こと津島サトル。母方の祖父は、新生学園大学の音楽科を創設したパイプオルガン奏者。祖母はピアノ奏者。母親は四人兄弟で、母親以外は全員プロの音楽家。つまり音楽家でないのは一族のうちサトルの両親だけ。だから、立って座れるようになると同時くらいに、もうピアノの前に座らされた。最初のピアノの先生は祖母だった。だがピアニストを目指すには向いていなかった。中学一年のとき、おじいさまはそれを見越して、チェロを習わせたらどうかと腹案を出してきた。音楽をやるなら芸大に行くのは当たり前のことで、芸高を受験したものの、学科と面接で落とされてしまった。残るのは私立だけだ。当然のことながら、おじいさまがいる新生学園大学付属高校を受験することになった。

新生学園というのは、幼稚園から大学までそろった巨大学園なのだが、大学と高校の音楽科だけを例外として、あとはすべて女子高なのだ。本年度の新入生で男子は六人だけ。そうしてサトルの音楽学校の日々が始まる。フルート専攻の寡黙な美少年の伊藤慧と友情を育み、鮎川千佳にいいように弄ばれ、ヴァイオリン専攻の南枝里子に恋をする。初めてのオーケストラ、倫理社会の金窪先生との出会い、厳しい夏季合宿、市民オケのエキストラとしてのさんざんな初舞台、南と北島先生と結成したピアノ・トリオ、伊藤慧の独壇場になった文化祭、練習の集大成となるオーケストラ発表会、そして、ピアノ・トリオを披露するホーム・コンサートと、音楽漬けの慌しい日々が過ぎ去る。

YA作品にありがちな、少年少女のポップな会話で読ませていく作品ではない。しっとりとした文章が情景を脳裏に浮かび上がらせ、主人公に同化して、頑張れと応援しながら成長を見守っていく。そして主人公は南に言い寄る先輩を見て嫉妬にかられる一方で、皆と音を合わせることの難しさを知り、またぴたりとすべての音が揃った瞬間の喜びを覚えていく。そう、一人ではなし得ないような美しい音楽が生まれるのだ。そのように物語も後半になるとどんどんスピードを加速してゆき、最後は軽い興奮と共に、出てきた曲目を聴きたくなってしまうのだ。

いい作品だ。本当に音楽が流れてきそうな作品だ。藤谷さんがジャイブ?という驚きは正直なところあったが、この出来なら文句なしだ。そしてこれは三部作で、続編は来夏に出るらしい。今からすでに待ち遠しい。津島サトル、南枝里子、伊藤慧、金窪先生、北島先生たちと早く再会したい。そして一番のお気に入りは鮎川千佳で、彼女に背中をバシバシ叩かれたい(おい)。音楽小説としてだけでなく、学園小説としても楽しめる作品だと思った。お薦めです。


藤谷さんのサイン本をみつけたので、即買い。

ふじたに1

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藤谷治
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    2008

11.20

「さいはての彼女」原田マハ

さいはての彼女さいはての彼女
(2008/09/26)
原田 マハ

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「さいはての彼女」「旅をあきらめた友と、その母への手紙」「冬空のクレーン」「風を止めないで」の四編を収録した短編集。

「さいはての彼女」
二十五歳のときに通販の会社で起業。それから十年。気がつけば、社員百人を抱え六本木ヒルズに本社を構える会社の社長になった鈴木涼香。恋に破れ、側近スタッフに当たり散らしたせいか、何人かの重要なスタッフが辞表を出した。その中に秘書の高見沢もいた。そして、最後のミッションを言い渡した。沖縄でのサマーバケーションを手配すること。すべて一流のものを予約して、車で迎えにくること。涼香が到着したのは沖縄ではなく、女満別。レンタカーはポンコツの軽自動車。有能な秘書にしてやられた。そこに現れたのは、ハーレーにまたがった華奢な女の子、ナギだった。

「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
山深い宿でのひとりぼっちの滞在で、ナガラのことを思い出す。なぜなら、ハグの旅には、いつもナガラが存在していたから。とにかくにぎやかな友人である。いつからか年に三、四回もナガラと旅をするようになっていた。きっかけは、ハグの失業にある。再就職しようにも、三十五歳までの年齢制限に引っかかる。そんなとき、何気なく入ったメールがあった。ナガラからのメール。旅に出ようという件名だった。ひとりで来たことに、もう後悔はなかった。けれど、友を連れてこられなかったことを悔やんでいた。そこに予期しないナガラからのメールが入った。

「冬空のクレーン」
陣野志保は、三十五歳で、日本を代表する大手都市開発の企業で、日本最大級の開発案件に関わる課長補佐のポストにいる。部下を叱責したところ、その男はそれっきり休職し、名誉毀損で会社を訴えると言い出した。社長直々に咎められ、自宅まで行って謝るよう厳命された。謝る気なんて毛頭なかった。こうなったら篭城して根競べだ、と一ヶ月の休職を決めた。それが志保の休職を知らされた部下は、出社して生き生きと仕事をしているという。逃げ出したい、逃避したい。遠く離れたところへ、何一つ人造物がない場所へ。そうして、志保はやってきた。雪の白以外、ほんとうに何もない北海道へ。

「風を止めないで」
じゃあ、行ってきます。ナギが言った。ひらりと足を上げてシートにまたがる。華奢な身体は、鉄の馬の屈強なボディに比べて、どうにも不釣合いだ。アンバランスだよ。似合ってないよ。やめたほうがいいよ。そんなふうに、何度いじわるを言ったことか。ほんとうのところ、ハーレーに乗った娘の姿は、きゅんとなるくらいかっこいいのに。夫は娘とタンデムしていて、トンネル火災の事故に巻き込まれ、娘を炎から守って亡くなった。ナギはハーレーをこよなく愛している。そのナギが旅立ったところに、面識のない桐生という男性が娘を訪ねてきた。なんとなく、夫の面影をその桐生に重ね合わせてしまう。


最初と最後に登場するハーレー乗りのナギ。彼女のかっこよさや愛らしさがすごく印象に残り、また作品タイトルも内容とぴたりと合っていると思った。それ以外にも良作が揃っている。二作目は時間の流れが静かで低温な作品だけどラストにはぐっとくるものがあり、三作目は仕事からの逃亡先での素敵な出会いに癒される。四作目はナギの家族のお話。それぞれに出会いがテーマとなっていて、上手くいかない、おもしろくないといった何がしかの屈託を持った人たちが旅先で出会い、ふっと枷がはずれる瞬間が心地よい。だけど、やはり一番はナギでしょう。彼女のような明るくて元気な女性と出会えるなら、旅に出てもいいかな~、と若干ひきこもり気味の読者は思ってしまった。とそんな与太は別にして、とにかくいい作品集だと思った。お薦めです。

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原田マハ
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    2008

11.19

「ホリー・ガーデン」江國香織

ホリー・ガーデン (新潮文庫)ホリー・ガーデン (新潮文庫)
(1998/02)
江國 香織

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果歩と静江は、小学校にあがった時からのつきあいで、もう二十数年になる。大学の四年間だけブランクがあるのだが、それにしてもお互いに知りすぎた相手であることに変わりはない。初めて吸った煙草も、初めて飲んだお酒も、初めて寝た男も知っていた。そして果歩が最低の失恋をした時も、いつも静江は隣にいた。

静江は心の中で憤慨する。いい加減で軟弱で、口ばかり上手くて大嘘つきの、あんな男のどこが果歩をひきつけたのか、静江にはさっぱり判らなかった。そして、さらに判らないのは、別れたあとの果歩なのだ。もう五年近く経っている。いいかげん新しい現実に心を開いてもよさそうなものではないか。静江の基準では、どう考えても、津久井のような男に果歩があれだけ拘泥する価値はないと思っている。

果歩は思う。静江がつき合っている芹沢というのはどういう男なのだろうか。妻帯者のくせにずいぶんながいこと、一人で外国に住んでいたらしい。芸術家だと静江は言っていた。芸術家というものを、果歩は信用していない。芹沢に出会って、静江は自由の味わい方を覚えた。つきあう男に感化されるのは自然なことだし、静江と芹沢がどんなデートをしようと、果歩には関係ない。不倫なんて卑怯だわ。だけどあのとき静江はひどい剣幕でそう言った。

中野さとるは果歩にいきなり呼び出され、夕食につきあわされた挙句、十二時をまわったとたんに追い出されるというのはよくあることだった。中野も、それを我儘ではないとは思わなかったが、果歩の我儘は一種の流儀なのだと納得していた。だから女子社員が陰でささやきあっている言葉、惚れた弱みとか忠犬さと公とかは全然的外れだと思っていた。自分が果歩の我儘をうけとめてやれる男だと自信を持っていたし、自分にばかり向けられるという点において、すでに報いられていた。

タイプは違うが、腐れ縁なのか、ずっとつきあいが続いている二人の女性。他人が手をだせないほど濃密なくせに、ひどく不安で緊張した空気や緊迫感を漂わせている。でも特別な友達であることはお互いに同じだ。これが、読者が男だからか、いまいちよく判らない。それにこの人たちはまともじゃない。好きでもない男とつぎつぎ寝る果歩と、四十五の男と遠距離不倫の関係にある静江。そして果歩が他の男と寝ているのを知っても、ひょうひょうとしている中野くんの変人ぶり。痛たた、という人ばかりだけど、何故か憎めない。そんな女性二人男性一人ときどき猫の日常が、淡々と過ぎていく。

大きな出来事が起こるわけではない。だけどこれが読ませるのだ。少し静江のお節介がうるさく感じる部分はあるものの、ポジティブ人間の中野くんが良くて、果歩とその中野くんの行く末が気になって、途中で読むことを止められない。それに透明感のある文章が心地よく、本を閉じたときは清々しさが残った。いい作品だ。でもこれはどちらかと言えば、女性向きの作品だと思った。

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江國香織
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    2008

11.18

「ドールズ 月下天使」高橋克彦

ドールズ 月下天使ドールズ 月下天使
(2008/09/26)
高橋 克彦

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待望のシリーズ第四弾は、「使命」「神の手」「導きの道」の三編を収録。これが七年ぶりの新作だそうで、ファンとしては単純に嬉しい。だから、本書を読むに当たって、既刊三冊は再読済みだ。復習はばっちりということ。すると、いきなり前作の事件(正也)に関連した作品を読むことになる。おさらいをして正解だった。えっへん。

「使命」
一階は恒一郎が借りて同道堂という古書店を開いており、土蔵を改造した二階のほうは信司が遊び半分で経営している喫茶店「ドールズ」。聖夜は十日ほど前からドールズを手伝ってくれている。長い髪に端正な顔立ち。刑事の桜小路と梅原の花見コンビによると、彼女は県警本部の婦人警官に護身術の指導をしているそうだ。その三ヶ月前までは警視庁の警察学校で剣道の指導をしていたという。何故ドールズでアルバイト勤務をしているのかは誰も分からない。その花見コンビは、東京で起こった連続殺人で右往左往していた。大臣まで勤めた政治家を筆頭に有名医科大学の学部長と組織暴力団の組長の三人が連続して殺された。その犯人から、次のターゲットの名をずらりと掲げたリストが送り付けられてきたのだ。そして第四の死体は東京ではなく岩手で発見された。

「神の手」
怜の通う小学校にテレビの取材が入ることになった。女優業の傍ら自画作の絵本を出版している椿有子が母校で思い出話を語りたいとの申し入れがあり、その模様がテレビに収録されるということだ。それがどうやら嘘っぱちで、岡村をはじめとするスタッフがいきなり猟銃を突き付け、椿有子も児童も人質となり、岡村たちは学校に立て篭もった。その人質の中には怜の姿もあった。犯人側の要求でテレビの中継車が持ち込まれ、テレビを通して犯行声明が読み上げられる。児童の家族のために用意されたホテルには恒一郎と戸崎が待機している。そこに怜のことを心配した聖夜が現れて。

「導きの道」
聖夜の背後に二人の男女が立ち並んでいた。松室が撮った写真に写っていたのは、聖夜が六歳の時に事後で亡くなったという父と母だった。恒一郎がその事故を調べたところ不審な点が浮かび上がってくる。さらに、聖夜の父の親友だという男が事故で亡くなっていた。同じ岩手でだ。聖夜はその頃の記憶がいっさいない。当時のことを知る人物を探したところ、聖夜親子を知る神父に会うことができた。近づいてはいけない、言えません、と口を噤む神父。そこにあの写真を見せると、神父は心臓発作を起こして息を引き取ってしまう。その直前、またおまえか、と怜に向けて発した神父の謎の言葉。同時刻、神父と会う約束をしていた男が事故に遭って亡くなっていた。


あらすじに力を入れたことだし、ここからネタバレありです。未読の方はご注意を。

さて感想。「使命」では、そう簡単にレギュラー陣が増えるはずがないところに、聖夜という謎の女性が絡んでくる。勘のいい人もそうでない人もこれは何かあるぞと思う。そう、問題のある一人に対して、ドールズ組がこそこそと動いて、目吉センセイが諭すというパターンのものだ。シリーズ二作目がこれと同じだった。でも戸崎の乱暴な物言いは健在だし(今回はちょっと説教臭い)、松室の大人になってからの目覚めにもニヤリ。

「神の手」では、一変してダイハードばりの派手なアクションものになっている。そういえば、高橋作品では「バンドネオンの豹」など、まれにアクションものがあったことを思い出した。しかし聖夜が加わったことで随分毛色の変わった作風に仕上がっている。ドールズはホラーやミステリーだと思っていたので、まさかこういうヒーローものを読むことになるとは想像外だった。だから動けないレギュラー陣は隅っこに追いやられている。でも好きだ。とにかく聖夜ちゃんがカッコいい。

「導きの道」では、狐憑きとか、箱神など、東北に残る伝承はいかにも高橋さんぽいけれど、これもドールズらしくない作品だ。最初は「霊の柩」のようなオカルト、次に「総門谷」「星の塔」などの初期作品をごちゃ混ぜにしたような展開で、そしてラストには奇書「あやかし」のようなとんでもない世界観が待ち受けている。これは原点に戻ったということなんだろうか。嫌いではないが、ドールズではやりすぎかも。というか、香雪さんはどこ?待っていたのに最後まで登場しなかったじゃん。

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高橋克彦
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    2008

11.17

「卵と小麦粉それからマドレーヌ」石井睦美

卵と小麦粉それからマドレーヌ (ピュアフル文庫)卵と小麦粉それからマドレーヌ (ピュアフル文庫)
(2006/03/02)
石井 睦美

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中学にはいって、二日目の朝だった。「じぶんがもう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」前の席の子が振り向いて、突然そう言った。川田亜矢という子だ。菜穂はびっくりして、「はい?」なんて、まぬけな声を出した。気がつくと、川田亜矢から川田がとれてしまった。亜矢は図書室が好きだった。菜穂は一緒に通ううちに、上原先生のいる図書準備室が好きになった。こうして二人は仲良くなった。モウコドモジャナイッテオモッタトキッテ、イツダッタ? そしてそれは、不思議な呪文みたいに、菜穂のからだをいっぱいにした。

バターとバニラエッセンス。あまい空気が廊下を通って玄関までおしよせている。ママの焼くお菓子の匂いだ。ママのご自慢の焼き菓子。お店で売ってもおかしくないくらい味も見栄えもいいマドレーヌ。ママの愛情を菜穂とパパに食べさせるために、ママはせっせと料理学校に通う。7月14日。パリ祭。13歳の誕生日。きょうから夏休み。ママの突然のパリ留学が発表される。今回のママは、もう決めてるって感じがする。どんなにたのんだって、もう変わらない。絶望的な気持ちの菜穂に、「なに言ってるの、変わるのはあなたよ」と亜矢。菜穂は懸命に自問自答する。

亜矢が語る、小学六年生のときのいじめ。知性と教養と美貌をたくわえるという、学校が別になった幼なじみのまゆ子。そして、12がトゥエルブ、13からはサーティーン、フォーティーン。ティーンエイジャーになった菜穂。冒頭で問いかけられた「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」という言葉。子供だけど、でももうまるきりの子供じゃない。悩みながらも、自分のために、自分が変わろうとする菜穂。そんな彼女の姿が健気で愛おしい。40歳にして、自分の夢をかなえようとするママは素敵。それを送り出そうとするパパも素敵。でもこれが実際に我が家だったら、やはり困るよな~。だけど、えらい。

続編を読むのに再読してみました。いい作品です。

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石井睦美
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    2008

11.16

「星のしるし」柴崎友香

星のしるし星のしるし
(2008/10)
柴崎 友香

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30歳を目前にした会社員・果絵と、その恋人、友人、同僚、居候らが大阪の街を舞台に織りなすゆったりとしたドラマ。祖父の死、占い、ヒーリング、UFO、宇宙人……。日常の中にごくあたりまえにあるいくつもの見えない「しるし」が、最後に果絵にひとつの啓示をもたらす。繊細で緻密な描写力によって、世界全体を小説に包みこむ方法を模索してきた、純文学の世界で最も注目される作家の集大成的な傑作です。《出版社より》

奈良と京都の境目の新興住宅地。元旦の夜から、二十九歳の果絵は主婦の皆子といっしょに高校の同級生の新築の家を訪ねた。恋人の家に居ついている二十歳のカツオが遠慮なく付いてきて、夜中まで鍋を食べ続けて、朝五時に寝て昼前に起き、せっかくだからと皆子の運転する車で春日大社に初詣に寄り、そして夜のファミリーレストランにたどり着いた。その駐車場から見える二階建て住宅のベランダにいる不審な男女。お互いに指差して微動だにしない。ET?UFOを呼んでる?という不思議なオープニングから物語は始まる。

レストランの席に座ると、通路の反対側のテーブルでは、女の人二人が占いをしている。そこに父方の祖父が救急車で運ばれたという母からの急な電話。病院に着いて、案内された場所は霊安室。最後に会ったときの祖父の様子が思い出せない自分が、申し訳ない気がする。祖父が死んだ実感がないまま通夜、告別式を済ませ、月曜の朝に出社すると、お正月気分などはどこにもなく、去年から続いている仕事が滞りなく行われている。ここからは、いつもの柴崎作品と同じ。女性ならではの小道具と共に、普通の日常が淡々と続いていく。

親会社の意向で会社が移転することが決まっており、そもそも存続自体が怪しいのだが、だからと言って、これという意見もなく、ただ嫌な上司に対してだけ思うことが一つある。殺す。土日のほとんどは恋人の朝陽の家に入り浸り、そこに十七年来の親友である皆子やその夫の岡ちゃん、居候のカツオ、その他にも、二階がバンドの楽器置き場になっていることから、誰もが自由に出入りしている。果絵の悩みは、なんにもないことが悩み。仕事に目標や意欲があるわけでもなく、結婚を焦っていることもない。

スターバックスでの人物ウォッチングや、朝陽の家で飲み会をしたり、会社では同僚と当たり障りのない会話をし、果絵の中には生前の祖父はいなかったのに、祖父のことを思い出して感傷に浸ってみたり、同僚の紹介で怪しげなヒーリング・セラピーに行ってみたり、皆子の勧めで占いに行ってみたり、カツオがUFOスポットがあると言い出して石切神社に参拝に行き、年下とのすき焼きパーティーでは話についていけない。そして最後に、宇宙人が現れる夢を見て怖くなり、ふっと気づく。自分は一人じゃない、と。

三十歳を目前にした女性の迷いや不安感、わけのわからない漠然とした焦燥感が描かれた作品だと思う。この主人公の側にはなんとなく占いがある。頼るわけでもなく、無視するでもない。信じないわけでもない。自分にとってのいいとこ取りをするのだ。これがなんとも女性らしい。男なら占いなんて鼻からケッて感じで見向きもしない人が多いだろう。自分もそうだ。多くの女性は雑誌の占いコーナーをチェックしている。ほんと女性って、何故こんなにも占いが好きなんだろう。

いつものように大きな出来事が起こるわけでもない。淡々とした日常の中で、変わらない毎日を生きている。そこに自分を重ねて共感するもよし、世界観というか雰囲気を楽しむのもよし、何か深いものがあるに違いないと深読みするのもよい。人それぞれの楽しみ方はあると思うが、自分は真ん中の読み方だった。馴染みある地名が出てきたのも、またよしだった。これは大阪人の特権なり。あるのは普通の日常だけ。でもこんな柴崎作品が好きだ。

柴崎さんのサイン。

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柴崎友香
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    2008

11.15

「アイスクリン強し」畠中恵

アイスクリン強しアイスクリン強し
(2008/10/21)
畠中 恵

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時は明治二十三年。築地の居留地近くに、新しき菓子である西洋菓子を売り始めたお店があった。そのお店、風琴屋の店主兼菓子職人の名は皆川真次郎(ミナ)。元士族の真次郎は居留地の育ちであった。子供の頃に親を亡くし、築地居留地にある宣教師の家に置いて貰い、下働きをして生きてきた。その地で外国人の料理人から、外国の菓子を習う機会に恵まれ、その経験を頼りに新しい味覚の世界を帝都で切り開き、士族の身から華麗なる転身をはかろうと、西洋菓子風琴屋を開店したのだ。しかし資金も馴染み客もまだまだ足りず、今は予約販売をするのみという、いささか心細き状況であった。

巡査の長瀬は、真次郎のことを女の子のように「ミナ」と呼んで殴られない彼の親友で、旗本の跡取りであったのだが、御維新で禄を失い、なけなしの教養をたよりに試験を受け、警官という官吏の身分の端に登用され、糊口を凌いでいる。そんな徳川方の元ご身分の高い方々は、警察で自然と集まり、一つの集まりを作っていた。長瀬たちは皮肉も含め己たちを、若様組などと内々で称している。

また、ヒロインは小泉沙羅という女学生。明治になってからの成金貿易商が父で、その父にくっついて居留地によく来ており、その縁で真次郎たちとは幼なじみ。喋らなければ麗しくも花のごとき女学生だが、真次郎の作る西洋菓子に目がないお菓子好きで、好奇心が旺盛なおきゃんのお嬢さま。

物語は、手紙の差出人を推理し、何を一番に欲しているかを考察し、それを持って参上せよ、という挑戦的な手紙を受け取る序で始まる。次の「チヨコレイト甘し」では、店の将来が掛かったパーティー料理と合わせて、勘違いから追われている小弥太をかくまうことになる。「シユウクリーム危うし」では、貧民窟の親分同士の縄張り争いに上手く乗せられ、「アイスクリン強し」では、新聞社に文句を言いに来たあげく、奇妙なことに首を突っ込むはめになる。「ゼリケーキ儚し」では、沙羅は見合いに連れ出され、長瀬は警視の命で人探しをすることになり、真次郎は蔓延したコレラと向き合うことになる。「ワッフルス熱し」では、若者たちは金欠から、褒賞目当てに、冒頭の序にあった手紙の謎について考える。

新しいものが西洋からどんどん入り、目まぐるしく移り変わる明治という時代。そんな激動の世に流されることもなく、翻弄されることもなく、しかっりと地に足を着けて日々を生きていこうとする若者たち。彼らの今後が気になる新シリーズの始まり始まり。


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畠中恵
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    2008

11.14

「モダンタイムス」伊坂幸太郎

モダンタイムス (Morning NOVELS)モダンタイムス (Morning NOVELS)
(2008/10/15)
伊坂 幸太郎

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検索から、監視が始まる。岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」 五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」 渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」 大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」 井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」 渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」 永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」《本の帯より》

システムエンジニアの渡辺拓海は、残業から帰ってきたと思ったら、浮気を疑う妻の佳代子が寄越した若い謎の髭の男(岡本猛)に殴る蹴るの暴力を受け、爪を剥がされそうになり、脅される。彼女の手にかかれば、どんなことが為されるのか、見当もつかない。だが、浮気相手である桜井ゆかりは海外に旅行中だったから、少し、渡辺にも余裕があった。

その翌日、先輩の五反田正臣は、あの仕事はやばい、と言って姿を消し、渡辺は後輩の大石倉之助とともに、その残された仕事を引き継ぐことになった。仕事は、出会い系サイトのプログラム修正だったが、その発注元は異常なほどに秘密主義を貫く会社で連絡がつかない。そしてプログラムの中には暗号部分があり、解析したところ、現衆議院議員で、用務員時代に永嶋丈が一躍有名となる事件が起こった「播磨崎中学校」と、さらに「安藤商会」いうキーワードが飛び出してくる。

作家で友人の井坂好太郎は、「安藤商会」を独自に取材したことでホームページを勝手にいじられたという。「播磨崎中学校」と「安藤商会」をネット検索した大石倉之助は卑劣な犯人の濡れ衣を着せられ、死ぬことが一番似合わない加藤課長は自殺した。浮気相手の失踪。髭の男(岡本猛)は家を燃やされた。渡辺は思いもよらない危機が迫っていることに気づく。いびつな三者会談(渡辺、井坂、岡本)を開いた結果、「安藤商会」を作った安藤潤也と渡辺の祖母は遠縁かもしれないという可能性が出て、渡辺は「安藤商会」があるという盛岡へ向かうことになるが・・・。という内容。

一応「魔王」をおさらいしておくと、若くして亡くなった安藤兄は、自分が念じた言葉を、人間相手に喋らせることができる〈腹話術〉という超能力を持ち、弟の潤也は、無敵のじゃんけんと、十分の一イコール一の特技を使って競馬や競艇で莫大な財産を築いている。その「魔王」から五十年後の世界が本書だ。

さて、感想。う~ん、書きにくい。ネタバレになりそうで厳しい。だからお茶を濁して、自分が面白いと思ったエピソードをあげてみることにする。まず一つ目は、携帯電話のマナーついての考証。店内や電車内で会話するのは問題ないのに、携帯電話で喋ると煙たがられる。読んだ通常版ではP126に答えがある。なるほどと思いつつも、おばちゃん同士の会話は、通常でも騒音だと思うのは自分だけなのだろうか。だけど、それはあるかも、と思わせる説であることは間違いない。

それと二つ目は、人は知らないことに出会うと、検索する、ということ。現在では、検索サイトにキーを打ってポチッと。確かに便利だ。それを落とし穴とした伊坂の発想はおもしろい。それと、気になった事柄があると、やはり検索してしまうことで、本文に出てくるキーワードもしかりだ。気になって、「安藤商会」などでポチッと検索してみると、あれれ~、なんか変てこなページに行き当たる。これで自分にも何か災いが降りかかってくるのだろうか。ドキドキ。ちょっとニヤリ。

とまあ、いつまでも脱線したままでは終われないので、作品の方に戻るが、とにかく先が読めない展開で、途中、井坂好太郎の小説とか、永島丈の告白みたいに、中だるみしている部分はあるものの、特別な能力はいつ覚醒するのだろう、またどんな能力なのだろう、と興味を持って読むことができた。あと暴力的な描写があって、そこはさすがに目を背けたくなった。そして一番は、渡辺の妻、佳代子はいったい何者なんだ、彼女はどんな職業なんだ、という謎が大きく糸を引いて残った。二作続けてのガッツリ系で、次はどのような作品が出るのだろう。次回作も楽しみですね。

伊坂のサインです。

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伊坂幸太郎
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    2008

11.13

「木野塚探偵事務所だ」樋口有介

木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫 M ひ 3-10)木野塚探偵事務所だ (創元推理文庫 M ひ 3-10)
(2008/03/11)
樋口 有介

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警視庁(ただし実務経験皆無。経理課一筋三十七年)を定年退職した木野塚佐平氏。フィリップ・マーロウ、リュウ・アーテャーなど、ハード・ボイルドに憧れる氏は、長年夫人に内緒で貯めたへそくりを元手に、憧れの探偵事務所を開業する。目的はあくまでも、フィリップ・マーロウ。殺人事件を解決し、政治の腐敗を追求して、マスコミに颯爽と登場する。テレビの美人キャスターと恋に落ち、夫人とは離婚して、事務所にはストレートヘアの肉感的なギャルをはべらせる。

しかしなんといっても、私立探偵の探偵事務所にもっとも必要な備品は、小説に出てくるような美人秘書だった。グラマーで足首が細くて、扇情的で所長には従順で、というまさしくそういう美人秘書なのだ。そこで求人誌に秘書の募集広告を依頼するが、念願の美人秘書どころか誰もやってこない。そこに偶然現れたのは、ショートヘアで胸がうすくて手足が長くて、そうでなくとも女性ホルモンが足りないと思われる女の子。差し迫った必要から、彼女、梅谷桃世を第一秘書として、採用することにした。

当てが外れて仕事がこないそんなある日、近所づき合いで掲載した業界紙の広告から、ひょんな依頼が舞い込んでくる。記念すべき木野塚探偵事務所最初の事件は、何と、金魚の誘拐事件だった。凶悪事件に関わりたい。だが、やってくる依頼は、恋患いした飼い犬に思いを遂げさせてやりたいという老人、丹精込めた菊の花を何者かに切られたという陶芸家、留守の間にマンション四階から猫が姿を消したという初恋の女性。ハード・ボイルドとして生きたい六十男、木野塚佐平氏の活躍?を描いた連作集。

主人公はハード・ボイルドを目指しているが、ものの見事に空回りしている。だが、本人は上手くやっているつもりという部分にユーモアがあって、それが滑稽さを醸し出している。それに、横からしゃしゃり出てきて、さらっと事件を解決してしまう助手兼秘書のヒロインが気にくわない主人公だが、自分が事件を謎解いたと思い込んでいるあたりがかわいらしい。こういうのって、一歩間違えれば手柄を横取りする嫌な上司になりがちだけど、その点の樋口氏の手腕はさすがという感じ。

主人公を通して、ハード・ボイルドとはこうあるべきという部分を逆手に取りつつ、男とはいくら年を重ねても魅力ある女性に弱く、自分にいいように勘違いする生き物で、自分の理想とは合わなくとも、一緒にいるうちに情が出てしまう、という男の性が上手く織り込まれていたと思う。そのラストでは、マジで、という展開になるけれど、すでに続編が出ているからショックはなかった。近いうちに、その続編も読みたいと思う。

収録作:「名探偵誕生」「木野塚氏誘拐事件を解決する」「男はみんな恋をする」「菊花刺殺事件」「木野塚氏初恋の想い出に慟哭する」


「木野塚探偵事務所だ」樋口有介
「木野塚佐平の挑戦だ」樋口有介

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樋口有介
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    2008

11.12

「ctの深い川の町」岡崎祥久

ctの深い川の町ctの深い川の町
(2008/08)
岡崎 祥久

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備えあれば憂いなし。そんな暮らし、何もかもが急に嫌になり、四十男は急行電車で四十分の懐かしの故郷に戻った。荷物は赤帽に運んでもらうことにするが、その赤帽はカーブを曲がり損ねて横転。荷物は炎上。捨ててもいいと思った荷物が燃えて弁償金がもらえて、男は愉快に思う。男は仕事を見つけることにする。乗務員募集、寮完備の貼紙が目に留まった。故郷には、待っている人は誰もいないが、あの市の地理だけは持ち合わせていた。

ノーブル交通に面接に行ったら、伊佐山が出てきた。中学で同級生だった男である。これをコネと呼ぶのかどうかは知らないが、ともかく不採用にはならなかった。ノーブル交通は、制服として、青いビロード風の上着と、白いフリルのついたシルク風のシャツを着なければならない。召使い風の従業員である。召使い風従業員は、客席のドアをかならず手で開け閉めしなければならない。それと、客人の有無にかかわらず、スピードを出さずに走る。それは同時に、客人の望むスタイルでもある。幸いなことに。

風変わりな発明家の同僚・勝俣と仲良くなり、二児の母親になった同級生・青山由美と再会。その青山由美と二人だけの食事のはずが、勝俣が加わることになり、二匹の子豚ちゃんも加わる五人の食事会。数学者の客人を乗せては無意味な会話を続け、質問の多い客人を乗せてはタクシーを走らせる日々。そんなある日、男の体を疼かせた若い女性ドライバー河村勢津子は、謎の伝言を残して辞めていた。

なんでもない普通の日常の中に、くすっと笑えるエッセンスを配合。そんな特別な何かが起こらない日々だけれど、読んでいると何となく癒される感じ。タクシーの運ちゃんの一日ってこんなものかもしれない。自分たちの日々もこんなものかもしれない。ただ何となく流されていくそんな日々でも、この作品のように少し視点をずらして見てみると、ちょっと面白い日々になるのかもしれない。内容があるわけではないが、こういうだらだらしたのって、好きだな~。

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その他の作家
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    2008

11.11

「遺品」若竹七海

遺品 (角川ホラー文庫)遺品 (角川ホラー文庫)
(1999/12)
若竹 七海

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金沢市郊外、銀鱗荘ホテルに眠っていた今は亡き女優・曾根繭子にまつわるコレクション。その公開作業が進められる中、明らかになったのは、コレクションを収集した大林一郎の繭子への異様なまでの執着。繭子の使った割り箸、繭子の下着、繭子の…狂気的な品々に誘われ、やがてホテルには、繭子が書き残した戯曲を実演するかのような奇怪な出来事が次々と起こる。それは確実に終幕に向かって―。書き下ろし本格長編ホラー。《背表紙より》

主人公は学芸員のわたし。失恋し、失職し、家族とも折り合いが悪く、どこにも居場所がない。そこに大学の先輩からある職を紹介される。その先輩とは、大林国際観光グループの創業者の孫にあたり、傲岸不遜を絵に描いたような男。グループにとってお荷物になりつつあるホテルに曾根繭子の膨大なコレクションがあるという。近年になって再評価されてきた女優兼作家の曾根繭子。創業者は彼女のパトロンであり愛人。そして熱烈なコレクター。その繭子の資料を整理して、資料室を一般に公開したいので、その仕事を任せたいということだった。

その銀鱗荘に住み込んで、タケルという若い助手とともに、仕事に打ち込むわたし。ふと聞こえてくる謎の声。「ここにいるからよ」「できないって言ってるのに」「助けて」生臭い臭気が漂う。木箱の中から次々と出てくる変質的な品々。そこに幻の舞台稽古を映したらしい8ミリフィルムが持ち込まれ、その戯曲の原稿が発見される。繭子はこのホテルに滞在中、その戯曲を練り、そして、突然自殺した。彼女はいったい何を考えていたのか。どうして自殺したのか。彼女の死体は、結局見つかっていない。

そうしたところに奇妙な出来事が立て続けて起こる。猫が消え、宿泊客が貴賓室の塔から墜落し、女中が姿を消し…、これら起こった出来事は、まるで繭子の戯曲をなぞられているようだ。そして繭子の遺品を持ち逃げしようとした宿泊客が燃え、映画で繭子が着た衣装をまとった幽霊がホテル内を徘徊する。気がつけば、主人公の容姿は繭子のそれと似ていく。脱出を試みても、車はホテルにしか戻って来ることができない。これは繭子の呪いなのか。それとも…。という内容のミステリーホラー作品。

あまりザワザワ感はなく、重々しい作品でもない。しんどくなることもない。ある意味でポップなリズム感すらある作品になっている。というのは、無茶をいう上司、自分の保身しか考えない支配人、おしゃべりで身勝手な女中、好き放題な宿泊客。これら人物たちに振り回され、主人公のわたしは終始怒っていて、読者も一緒になって腹を立てるからだ。それがテンポのよいリズムを生み出しているのだ。それにちょっとしたロマンスもあって、さらに幽霊の正体も…。おっと、これはいえないか。ラストは切ないというか綺麗というか…。一筋縄ではいかないという意味では、若竹さんらしいかな。とにかく、前向きな主人公に好感が持てて、ミステリーとしてもホラーとしても堪能できる作品だと思った。

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若竹七海
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    2008

11.10

「動物学科空手道部1年高田トモ!」片川優子

動物学科空手道部1年高田トモ!動物学科空手道部1年高田トモ!
(2008/09/17)
片川 優子

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主人公は大学に入学したての高田友恵(トモ)。トモが学内にたくさんの動物のいるこの学校に入ろうと決めたのは、八割方お姉ちゃんに対する意地だった。トモは高校二年生まですべてお姉ちゃんに迎合していて、お姉ちゃんが絶対的な価値基準だった。お姉ちゃんみたいになりたい。そう思わなくなった原因は、すべてテラダコウジのせいだ。高校二年生までの人生の中で、最大の汚点。呼び出され、好きだから付き合ってほしいと言われ、とりあえず了承し付き合うことになった。

付き合い始めると、トモはどんどんテラダコウジを好きになった。三ヵ月がたち、テラダコウジが、なぜトモと付き合いだしたのか、そのからくりがすべて解けた。テラダコウジははじめから、お姉ちゃんが目的だったのだ。お姉ちゃんに近づくために、トモに近づいた。そして二人は仲良くなった。事態を悟ったお姉ちゃんは、仕方ないわと言った。それからトモは、お姉ちゃんのことも、テラダコウジのことも嫌いになった。

お姉ちゃんは動物が嫌いだったけれど、トモは大好きだった。お姉ちゃんが動物を嫌いな理由は単純。臭くて汚いから。お姉ちゃんはいつだって綺麗でいい香りがしてキラキラしていて美人さん。でもあのことがあるまでは、トモはとにかくお姉ちゃんが大好きで大好きで仕方がなかった。トモは自分らしく生きることに決めた。お姉ちゃんのマネじゃなくて、自分のしたいこと。動物全般が大好きで、一生動物に関わる仕事ができたら幸せに違いないと確信がもてた。

女らしくすることはお姉ちゃんの存在や生き方を肯定するみたいだから嫌で、だから一切の女らしさを捨てることを決意した。女らしさなんて、くそくらえだ。私は強くなってやる。空手は、その目標を達成するための最後の仕上げのようなものだ。求めていたのはこれだ、間違っていなかったと確信し、大学生活におけるもう一つの目標が、達成できそうな気がした。何か一つのことを、やりきること。そんなトモの大学生活の日々。

主人公は、現在の著者を投影した大学生。だけど、作品のジャンルでいえば児童書かな。動物学科に入学し、空手部に入った女子の一年間だ。食肉センターを見学してへこんでみたり、牛の世話当番を通して筑山楓くんに惹かれたり、空手の初めての試合、初めての合宿、初めての昇給審査をビビリながら経験したり、空手中心の生活をしていたと気づいてとまどったり…。その一方で、こざっぱりとしたミヤビ、かわいい系の愛ちゃん、ぼんやり系のマルと友達になり、栄を代表とした空手部員とも馴染んでいく。

取り立ててここがいい、という部分はないけれど、続きが妙に気になる。こういうのってマンガを読んだ時の感想に近いのかもしれない。続編がありそうなので、今後も追いかけて行きたいと思う。

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片川優子
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    2008

11.09

「出星前夜」飯嶋和一

出星前夜出星前夜
(2008/08/01)
飯嶋 和一

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寛永十四年。徳川三代将軍家光の治世。九州島原藩領の有家の地は、キリシタン大名有馬晴信の日野江城があった北有馬まで南へ約五キロ、現領主松倉勝家の森岳城下まで北へ約二十二キロの位置にある。鬼塚の庄屋甚右衛門はこの年、齢五十八歳。甚右衛門の家は代々鬼塚土着の豪族であったが、南から勢力を拡大してきた有馬氏と主従関係を結び、以来有馬家重臣として有家の物心にわたる中心となってきた。そしてキリシタン弾圧がすすむ中、有馬直純が日向延岡に移封され、大和五条より松倉重政が入封されたのを機に下野することとなった。この二年、島原領は夏の台風と冬の旱魃による不作に見舞われ、さらに有家の童たちに悪性の疫病が流行し、次々と倒れていた。

この年、外崎恵舟は齢三十三。恵舟の名はすでに熊本、平戸、天草あたりまで知られ、恵舟の治療を受けるためにわざわざ宿をとって長崎に滞在する者もあった。誰もが知っていながらけっして口にはしないが、恵舟こそ、奇跡的な治療で知られたイスパニア人修道士マグダレナから直接南蛮医術の手ほどきを受けた唯一の日本人医家だった。その施療の間を訪れたのは、日野江城時代に父とは懇意の間柄だったかつての鬼塚監物時次、有家村鬼塚の庄屋甚右衛門その人だった。

一人でも救うという思いに駆られ島原にやって来た恵舟だが、かつての故郷は何もかもが変わっていた。尽きようとする薬種を求めるも、舟を出すにはお城からの許可を待つ必要があり、それどころか異常な搾取により往診の手間も薬代も支払えないほどの困窮ぶり。さらに取り調べまで受けて恵舟は追放処分となった。役人はおのれの保身ばかりを考え、民の困窮など考慮する余裕もない。代官所のあきれた実態を見ても、もはや松倉家などには何も期待できないことは明らかだった。外からの強大な力がいる。恵舟は旧知の長崎代官、末次平左衛門に訴える。

松倉家の島原藩領は、幕府が検地によって公認したその表高は四万三千石である。ところが松倉家が領内検地を行って勝手に算出した草高は、表高の二倍にも当たり、それを無理強いし納めさせている。その報告は平左衛門には信じがたいものだった。この二十年、民は苛政にただ耐えていた。恵舟が何を求めて末次屋敷に来たのかよくわかった。島原藩領の状況は限界を超えており、ここまで来れば何が起きてもおかしくはない。だが、何も出来ない。大事が起きなければ、幕府は何もできない。ここへ来て整いつつある幕藩体制そのものがそうさせていた。

若き寿安の怒りは松倉家中にだけ向けられていたのではなかった。松倉家はいうまでもないが、鬼塚監物始めかつての水軍衆も、松倉家と同罪であり、これまで忍従ばかりを唱えてきたことが招いた人災だとしか思えなかった。額に十字のクルスを描き込んだ寿安は、かつて教会堂のあった森に入り、大勢の若衆たちがそれに呼応して家を捨てた。そこに起こった有家の代官屋敷火災。役人にとって家事の不始末を転化するには、教会堂に立て篭もる若衆たちの額に描いた赤いクルスは格好の的。

なんとか鬼塚監物の取り成しで事態は収束するも、そこに飢餓に瀕する民の生活を無視した加重な年貢納入の通告がもたらされる。これにはもはや万策つきるところに至っていた。島原の民衆は救済を求めてキリシタンに立ち帰った。そして最後の矜持を守るために、島原に一斉に反乱の狼煙を上げる。だが、絶望の果てに突入するしかなかった武装蜂起に、いわゆる勝利などあるはずもなかった。ただひたすら教義のために死ぬという破滅への道をたどり始めただけだった。


天草四郎やキリシタンの反乱というイメージが強い島原の乱だが、ここで描かれている姿は宗教戦争ではなく、苛政に虐げられた農民たちの行き場のない怒りの爆発である。これは現在の経済不況や弱者を虐げる政治とも通じることであって、自分も含めた今の日本人はもっと怒るべきではないのか。自分の生活を守るためには、さらに厳しい目を政治に向けるべきだ。なんて偉そうなことを思ってみた。

作品のことに戻るが、綿密な取材に基づいていた緻密な描写が多いのだけど、たびたび同じことが重複したり、ここまで細かい書き込みは余分ではないかという部分があって、それが重厚さを作り出している反面、無闇にページ数を増やしている嫌いが見えた。それに集中して一字一句を読んでいかないと、気づけば何を伝えていたのかが理解出来なくなってしまう。雰囲気読みを極端に遮断する文章であり文体なのだ。読むのなら覚悟して読むべし。そして著者の四年間のエネルギーがそこかしこに詰まっていて、しっかりとした手応えがあり、読んだという充足感と共に、ラストにはとてつもない感動が到来してきた。歴史が好きな方は本書をどうぞ。


飯嶋和一さんのサインです。

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    2008

11.08

「桃の向こう」平山瑞穂

桃の向こう桃の向こう
(2008/09/26)
平山 瑞穂

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バブルのはじけた不況の中、みんな自分を探していた。頭でっかちで不器用な来栖と金持ちのぼんぼんの多々良。正反対の二人と奇妙に繋がる煌子。3人が駆け抜けた失われた10年の愛と捻れた友情を描く傑作青春小説!《本の折り返しより》

「ラス・マンチャス通信」で、うへ~となって以来嫌いではなかったが、容易に手を出すとえらい目に合いそうな気がして無意識に避けていた作家だ。だから、この新刊は久しぶりの平山作品だ。と言っても、新刊なのに図書館で借り手がいなかったので、それならばとチャレンジすることにした。あれ?こんなに軽いの。これが第一印象。それと、軽いわりに、読むのがしんどい。慣れるまでの話だけど。

まずはは、ひとり目の主人公、頭でっかちな来栖幸宏の視点で、仁科煌子との出会い、恋愛観が描かれている。この思考のまわりくどさに辟易させられた。恋愛関係とは、手続きと決まりごとを共有した制度だという。「告白」をして、「つきあおう」という契約を交わし、その日を境に「つきあっている」になり、デートをしなければならず、ほとんどの場合、性的交渉を持たねばならない。相手に別の異性が出来れば、それを責め、そうした関係は、二人が「別れる」という手続きを踏むまで持続する。こうはなりたくないと言っているのだ。そんなめんどくさいことを考えるかふつうは。好きという好意や、嫉妬、独占欲なども、この妄想制度に当て嵌めた結果、誰よりも制度に振りまわされているが来栖という青年。この痛さが読んでいてしんどいのだ。

次はお調子もので要領のいい多々良晃司が登場。金持ちのぼんだ。タイプで言えば来栖の真逆で、ものを考えない人。臆面もなく「きれい」とか言い出す今風の派手な若者なんだろうけど、あまり印象に残らないヤツだ。この男二人が仁科煌子と出会い、ある日を境に彼女と疎遠になっていく。この仁科煌子という女性がちょっと不思議ちゃんで、男目線ではいまいち捉えどころがない。その仁科煌子が次に登場する。「経験の幅を広げる」という目標を持ち、意外と頑固で、いつも何かを考えているという内面が見えてくるのだが、はっきり言うと、めんどくさい女だ。彼女のその後は、自分の中でストンと落ちた。行っちゃったのね、と。

そうして、二人の男はお互いにほとんど接点がないまま社会人になる。来栖はアルバイト生活をしつつ、初めて彼女が出きて、やがてライターの道へと進んでいく。多々良はオーナー一族というレールに乗って常務取締役に就任し結婚する。そんな違う道を行く二人だけど、多々良の悩める妹がきっかけであったり、恩人だと言う男の結婚式で再会する。タイプはまったく違うのに、仁科煌子という女と前後して関わり、しかも二人とも、つきあうまで行かなかった、という二人の男たち。その不思議な因縁が面白く、また爽快なラストだった。

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    2008

11.07

「あわせ鏡に飛び込んで」井上夢人

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫 い 72-8)あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫 い 72-8)
(2008/10/15)
井上 夢人

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様々な雑誌等に掲載された作品を集めた文庫オリジナル。巻末には大沢在昌との対談を収録。

別れ話を持ち出したら、わかった、と言って、美代子は手を差し出した。美代子の手を握り返すと、右の掌に貼りつくような妙な感覚が走った。右手は、美代子の左手にしっかりと固定されてしまった。瞬間接着剤。以前、テレビのCMで、走ってきたバイクが一瞬にして柱にタイヤを貼りつけられてしまうのを見た。接着剤は彼女の指にまで塗られていた。あなたと、はなれたくないの。狂気の女を描いた......「あなたをはなさない」

保険金が下りればすべてがうまくいく。しかし、晋一に自殺する勇気はなかった。弓美に泣かれ、途方に暮れていたところに、小山田勇が現れた。自分とそっくりの男を弓美に誘惑させ、媚薬といって青酸カリを飲ませて殺させた。あとは自分が砂糖の入った偽薬を飲むところを第三者に見せて、死体と入れ替わる。これで偽装の完成だ。ふと、その薬包紙に目を戻した。まさか、オレは弓美の足枷? 晋一は疑心になり......「ノックを待ちながら」

FBIは、二十四時間、シェルマンを監視している。外出すれば尾行され、家の中では盗聴されている。一ブロック先の路上にある車は三日間もあそこから動こうとしない。連中の懐から抜け出すのは、不可能に近かった。それが、たった一本の電話で逆転した。注文した木箱を配達してくれるというパークス夫人の言葉を聞いたとたん、彼の頭の中ですべての計画が組みあがった。そして、女と黒人の男の配達人が現れて......「サンセット通りの天使」

男はいなくなった人を訪ねて、その家にやってきた。身体の不自由な老婆が語り出す。ここを借りた人間はみんないなくなるだなんて。人聞きの悪い。なにを疑ってらっしゃるの? 車イスに座ったきりのおばあちゃんに、なにができるとおっしゃるの? 手伝いの人って? ここに住んでるんです。あたしがここに来るずっと前から。呼んだって、出てきやしませんよ。名前って? ヘヤボッコ。愛称ですよ。あの人は、この家を守っているように、あたしを守ってくれる。そのかわり......「空部屋あります」

ここは夜間警備員が詰める警備室。六時間ほど前、このビルに億を越える現金が運び込まれた。チャンスは数時間。現金のそばにいるのは史郎と楠本の二人しかいない。突然、楠本が警棒で襲いかかってきた。恐怖から、楠本を殴り殺してしまった。もちろん、計画では楠本を殺害する予定だったが、もっと後で行う作業だった。しかも楠本には自殺してもらわなくてはならない。彼自身の手で書かれた遺書も用意していた。楠本の頭部のひどい有様では、絶対に自殺などには見えない。その後、史郎は......「千載一遇」

この世界に未練はなかった。名倉哲郎には妻がいる。娘も二人いる。そういった人々の存在は、今の名倉にとって、なんの意味も持っていなかった。遺書めいたものを書いたのも、あとに残る者への儀礼以上の意味はない。小瓶には液体が入っている。人は神経毒という。その通り猛毒物質である。しかし、これは単なる毒薬や幻覚剤ではない。生命体の肉体と精神意識体を切り離す作用を持っているのだ。私は死なない。肉体は死ぬが、私の意識は生き続ける。もはや、私の意識を死に導くものは何も存在しないのだ......「私は死なない」

下取り価格は八万円。二台パソコンがあって、どこが悪い? 二台という利点を生かすことを考えよう。新旧二台のパソコンで何ができるのか、ずっと考えつづけた。まず思いついたのは、パソコンにゲームを対戦させること。しかし、前と寸分変わらないゲームを再現するだけ。これはプログラムだから当然の結果だった。次に思いついたのは、パソコン同士で会話させること。新しいパソコンを手に入れてから、もう一年が経とうとしている。とうとう自分自身で対話プログラムを作りあげた。彼らの名前は......「ジェイとアイとJI」

城戸優一は病院の院長という社会的な地位もあり、都心と郊外をあわせて七百坪の土地を持っている。芸術家のパーティー? 看護婦の中で、いまだに城戸の誘いを拒絶し続けている良子が言うからついてきてやったのだ。こんなパーティーだから、知人など誰もいない。城戸が知っている顔と言えば、このパーティーの主催者である天沢だけだ。画家なのだそうだ。天沢の妻は、城戸の病院で死んだのだ。良子の誘いを無下に断りきれなかったのも、その負い目のようなものがあったからかもしれない......「あわせ鏡に飛び込んで」

もう、会わない。録音された真紀の声は、最後のあたりで泣き声のようになっていた。うそだ…。もちろん真紀とのつきあいは秀暁のほうが長い。伸哉は、秀暁から真紀を紹介されたからだ。結果として、二人の間に伸哉が後から割り込んだという形になった。だけど、秀暁は真紀を友達だと言って紹介しただけだ。真紀も秀暁を友達だといった。どちらが好きなのだと、問い詰め、迫られて、真紀は秀暁を選んだ。伸哉は真紀からの留守電をそのまま、秀暁の留守電へと転送した。その翌日、秀暁が死んだことを聞かされた......「さよならの転送」

全篇、手紙だけという構成の作品。妻は弟を事故で亡くしてから、人が変わったようになってしまった。五年前に妻と結婚し、妻の家に入った。具合がよくない義母には、住み込みで看護婦がついていたが、この看護婦も、なんだかだと言って追い出してしまった。使用人も次々と辞めさせて、今では吉岡という男だけになってしまった。妻が尊敬する先生から意見してもらえないだろうか、という夫からの手紙が届く。その後の手紙のやり取りから、弟の事故は夫が関わっている、家の乗っ取りを夫が画作している、と妻が主張していることがわかるが......「書かれなかった手紙」


インパクトのある作品を挙げるとすれば、「ノックを待ちながら」ぐらいか。これの緊迫した心理描写はずば抜けていた。総じて、大当たりという作品がごろごろしているわけではない。だが、ハズレはなかった。「あなたをはなさない」では、狂女の取った行動がブラックで面白く、「サンセット通りの天使」では、ハードボイルド調でこれのオチにも切れがあり、「空部屋あります」では、しっとりとしたホラーが楽しめ、「千載一遇」では、そうきたかというドンデン返しが気持ち良く、「私は死なない」では、ぞぞぞっとくる恐怖に鳥肌が立ち、「ジェイとアイとJI」では、機械をあやつるカッコよさがあり、「あわせ鏡に飛び込んで」では、オチのオチにほっとし、「さよならの転送」では、人間の身勝手さに痛さを感じ、「書かれなかった手紙」では、ミステリにおおっときた。

古い作品ばかりだけど、あまり古色を感じることはなかった。それと、どれもが黒い作品ばかりだけど、自分が黒好きなので何の問題もなかった。岡嶋時代の爽快さを求めると、合わないかもしれない。読むのなら、その点だけ注意して頂きたい。

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井上夢人
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    2008

11.06

「空へ向かう花」小路幸也

空へ向かう花空へ向かう花
(2008/09/26)
小路 幸也

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僕は女の子を殺してしまった。それから家の中が、静かになった。もうすぐ死んでしまった女の子の誕生日だったってわかった。死んだら、あの子にあやまれるかなって思った。ビルの屋上から飛び降りようとしたら、光が眼に入った。まぶしくてまぶしくて飛び降りるのをやめて、その光がどこから来るのか確かめた。ずっと向こうの、小さなビルの屋上。僕に向かってキラキラ揺れてる。何かが、光ってる。

あの子は死のうとしてる。わたしはあわてて一生懸命考えて、カバンの中から鏡を出した。お日さまがちょうど上にあるからそれでわたしはあの子の顔を狙った。キラキラ、キラキラ、光を反射させて。死ぬのはやめろよーっ、て思いながら。そうしたら、その子は飛び降りるのをやめた。じっとこっちを見て何が光っているのかを確かめようとしている。だから、わたしは思いっきり身体を伸ばして両手で手招きをした。ここへ、おいで。

冒頭をそのまま引用させてもらった。この描写だけで泣きそうになり、他にも泣けるポイントがいっぱいあった。

不幸な事故で少女を殺してしまった春之(ハル)と花歩(カホ)は出会うべくして出会った。それというのも、死ねと書かれたカードがハルの家に毎日届く。それを苦に、ハルはビルから飛び降り自殺をしようとした。偶然、自宅のビル屋上から発見したカホは鏡を使ってそれを止めた。ハルの顔に光を当てた鏡は、死んだ由希菜がカホの誕生日にプレゼントした鏡だった。そう、ハルが殺してしまったという少女は、カホの親友だった。そしてハルとカホは、毎日のように由希菜がここに来て遊んでいたカホの住むビル屋上で、二人は話し合う。カホと由希菜は、ビルの屋上を庭園にしたいと話していたことから、ハルとカホは二人で庭園を造ろうと決める。

そんな二人は子供だというのに並みの大人が背負うのも辛いほどの寂しさを抱え込んでいる。ハルはいったい自分が何をして由希菜が死んでしまったのかよくわからない。だけど死んでしまったというのは事実で、由希菜の両親や兄は、不幸な事故でハルに罪がないことは明らかなのに、ハルの両親を訴えていた。そのハルの両親は、高額の慰謝料を請求され、さらに世間に晒されるという余りにも重たい現実から眼を背け、自分が何をしているのかが見えなくなり、いちばん苦しんでいるハルのことを見ないふりしていた。

一方のカホは、父親の虐待で足を骨折し、その父親は刑務所行きで、母親には捨てられたという過去を持ち、年老いた祖父と二人暮らしをしている。自分を守るすべは早く大人になること。そんなカホは子供らしい遊びをしたことがなく、公園にある遊具で嬉しそうに遊ぶ。その姿には泣きそうになった。ふだんは元気で健気で前向きな少女。それゆえに痛々しいのだ。

ここからはネタバレ注意です。これ以上先に進まない方へ。本書はお薦めです。


そんな二人の庭園造りだけれど、協力してくれる素敵な大人がいる。過去を語りたがらない肉体労働者の井崎原のおじさん(イザさん)と、花屋でバイトする大学生の桔平(キッペイ)だ。大人たちは大人だちで、自分たちのできることをしようとする。しかし、そうそういいように物事は進んでくれない。子供と大人四人での庭園造りが始まったとき、カホのおじいさんが亡くなってしまう。カホはお通夜でもお葬式でも泣かない。だけど、ハルの肩に頭を載せたとき、それまでが嘘のように泣いてしまう。これには読者もまたぐっときてしまうのだ。

身寄りがなくなったカホは児童施設に入るしかないのか。ビルは地権者に返すことになりいずれは壊される。庭園造りはどうなってしまうのか。死ねと書かれたカードの差出人は。ハルの家庭は。ハルとカホは。それとイザさんの過去とは。あとは読んで確かめてください。これより先は、ネタバレありでも書けない。

余興を一つ。

書きすぎたかと思うけれど、まだ書き足りない。そこで、明かされることがなかった不幸な事故を推理してみる。場所は公園。ハルは友達と二人で遊んでいた。二人とも野球部で、ハルはピッチャーだった。事故以降、二人とも野球部に参加しなくなった。イザさんが聞き込んで得た証言では、女の子はハルの方へ駆け込んでいった。そこから見えてくるのは……、ハルの投げた軟球が少女の頭を直撃。どうだろう?

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小路幸也
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    2008

11.05

「春のオルガン」湯本香樹実

春のオルガン (新潮文庫 ゆ 6-3)春のオルガン (新潮文庫 ゆ 6-3)
(2008/06/30)
湯本 香樹実

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小学校を卒業した春休み、私は弟のテツと川原に放置されたバスで眠った──。大人たちのトラブル、自分もまた子供から大人に変わってゆくことへの戸惑いの中で、トモミは少しずつまだ見ぬ世界に足を踏み出してゆく。ガラクタ、野良猫たち、雷の音……ばらばらだったすべてが、いつかひとつでも欠けてはならないものになっていた。少女の揺れ動く季節を瑞々しく描いた珠玉の物語。《背表紙より》

小学校を卒業したけど、中学生でもない春休み。桐木トモミは、自分が怪物になった夢ばかりを見ている。きっかけは苦しむおばあちゃんに、もう死んだほうがいい、と思った翌日、おばあちゃんが死んでしまったことだった。それとともに、原因不明の頭痛にも悩まされ、中学受験にも失敗し、ネジのゆるんだ時計の、振り子にでもなったみたいな気がしている。そして桐木家もまた、隣のおじいさんとの境界をめぐったいざこざが原因でギクシャクしていた。

外で働いているお母さんは、毎日のように、いろいろな人のところに相談に行って、毎晩くたくたになって帰る日が続き、おとうさんとケンカするようになった。そのケンカがきっかけで、翻訳家のおとうさんは、めったに仕事場から家に帰ってこなくなった。おじいちゃんは、何故か納戸の整理をし続けている。そんな大人の問題は聞きたくない。だけど弟のテツは、ちゃんと聞いていた。憎くて憎くい、猫がきらいだというおじいさんの家の庭に、夜中に猫の死骸を置きにいったのだ。

べつに、予定をたてたり約束みたいなことをしたわけじゃない。だけど、テツとトモミは猫さがしを始めた。もっと正確に言うと、死んだ猫さがしだ。その道中に、毎日野良猫たちに餌をやってまわっているおばさんと出会って、ボート小屋の裏と家電やバスが捨てられたガラクタが山積みのところで猫に餌をやり、いつものようにお隣からはおじいさんがおばあさんを怒鳴りつける声が聞こえ、また捨てられた猫たちがすみかにしているガラクタの山に出かけ、その帰りに落雷の音が鳴る夜の暗さの中、男の手がすれちがいざまにトモミの胸をつかんだ。

おかあさんは、私のことなんかちっとも気にかけてない。おとうさんは、家に帰ってこない。そこにある出来事が起こり、姉弟二人は家出をすることにした。行き先は野良猫のすみかと化した捨てられたバスの中。その深夜、心配したおじいちゃんがバスにやって来た。おじいちゃんは、自分の子供の頃のお話を訥々と聞かせてくれる。トモミも自分の胸の内に抱いていた苦しみを打ち明ける。トモミはこのバスで過ごした一夜から、明確ではないが、ゆっくりと、子供から大人への階段を登り出す。

弟の無邪気さが羨ましくもあり、疎ましくもある。やっかい者だけど、お姉ちゃんだから弟の面倒は見る。かといって、弟と同じように、はしゃげる年頃は過ぎ去ろうとしている。でも大人まではほど遠い。そんな微妙な時期に、向き合ってくれる大人、あるいは気づいてくれる大人はいない。少女は猫おばさんや猫たちと関わることで、自分で一歩を踏み出すことができるが、もしそういう存在がいなかったならばどうなったのだろう。

おとうさん、逃げないで。おかあさん、ちゃんと見てあげて。おじいちゃん、もう少し構ってよ。隣のおじいさん、命拾いしたな。(おっと) 核家族でありながら、姉弟二人で過ごす環境になるのは仕方がないけど、大事な存在をもっとじっくりと見つめて欲しい。自分は鍵っ子じゃなかったし、こういうほったらかしで育ったわけでもない。でも今の子って、これに近いような気がした。そこに不安を感じるのは自分だけでしょうか。

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湯本香樹実
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    2008

11.04

「虚栄の肖像」北森鴻

虚栄の肖像虚栄の肖像
(2008/09)
北森 鴻

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香菜里屋シリーズ、冬狐堂シリーズ、蓮丈那智シリーズを買って積んでいるのにも関わらず、図書館の新刊に目がくらんで借りてしまった。読みたくて買ったはずなのに、図書館に負けた。自分の心が負けた。そんな本書の主人公は、花師と絵画修復師の二つの顔を持つ佐月恭壱。「深淵のガランス」に続くシリーズ第二弾は、「虚栄の肖像」「葡萄と乳房」「秘画師遺聞」という三編を収録した連作集。

「虚栄の肖像」
場所は黒御影石の墓前の前。緋毛氈を広げ五、六人の男女が器を並べて酒食に興じている。有田焼の大皿小皿、白磁の酒瓶、南京赤絵の茶碗に黒瀬戸といった銘物。中でも目を引くのが、古備前の甕と、そこに活けられた桜だった。冬狐堂の仲介により、佐月は墓前の前で桜を活けることと、絵画修復の依頼を請けた。仕事の報酬は、桜を活けた古備前の甕。その甕の底に小さな傷があった。なぜか佐月にはこの小さな傷が気になって仕方がなかった。

「葡萄と乳房」
藤田嗣治作品の修復依頼を請け、その帰りに、ふと桔梗寺に寄ってみようかという気になった。山門をくぐろうとしたその時、今から十五年前、同じ場所で倉科由美子と交わした会話を思い出す。佐月は山門をくぐった。忘れることのない声、記憶の中にある声に幾分かの落ち着きを重ねた声で呼び止められた。幻聴ではない。振り返ると黄八丈を一部の隙もなく身につけた倉科由美子が、そこに立っていた。

「秘画師遺聞」
凄まじい目。感情が迸っているようだ。秘め処の三つの黒子がなまめかしい。秘画あるいは秘図とも、あぶな絵などと呼ばれることもある緊縛画であった。号は英斎とあった。絵師の腕の確かさは言葉にするまでもないが、悲しいかな画面のそこそこに褐色が見えた。修復師ならば、これを仕事にかけぬ法はない。仕事をせよと、絵がいっている。謎の絵師を探るうちに思わぬ真実が立ち現れて…。

仕事仲間の善ジイこと前畑善次郎、絵画研究所の若槻伸吾、行きつけのバーの朱明花、その父で裏の顔を持つ朱建民、冬の狐と呼ばれる旗師(宇佐見陶子)。佐月のストイックさが際立ち、おなじみの面々が華を添えて、なおかつ、美術骨董の世界にある真贋の闇に知的好奇心をくすぐられ、そこにいる魑魅魍魎どもの暗躍にわくわくドキドキを覚える。そして絵画に秘められた謎。これはもう、面白くないわけないでしょ。

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北森鴻
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    2008

11.03

「サンネンイチゴ」笹生陽子

サンネンイチゴサンネンイチゴ
(2004/10)
笹生 陽子

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ある朝、学校一のトラブルメーカーがとなりの席に座っていた。現実のあたしは、思ってることとやってることのつりあいがまるでとれてない。でも、いくら無口でおとなしくても感情がないわけじゃない。プライドもあるし、意地もある。ゆずりたくない一線がある。くだらない日常、灰色の毎日、やることなすことカラ回りのあたし。が、いつのまにか友情の三角関係の中にいた―14才のホンネ小説。《データベースより》

森下ナオミは、内向的な14歳の少女。正義感は人一倍強いのだけれど、心の中では勇ましく啖呵を切っているのに、声に出して意見することができない。いってみれば、内弁慶型ひっこみ思案。きらわれ者ではないけれど、自分からアプローチするのは得意じゃなくて、向こうから話かけてくるのを待つのが性に合っている。だから友達が少ない。毎日がつまらない。自分だけ何をしてもうまくいかない。ただ、目立たないように小さくなって、事態のゆくえを見守っている。そんな小心者で存在感のかけらもないナオの日常に、ちょっとした非日常が舞いこんでくる。

ある時カバンを盗まれたことから、天下無敵のバトルマスター・柴崎アサミと、そのアサミと彼氏彼女らしいヅカちんと話すようになり、奇妙な友情がはじまる。アサミは、口も悪けりゃ態度も悪く、武勇伝には事欠かない学校一の問題児。目があっただけでドキドキするそのアサミが何故かナオのとなりの席を強奪していた。そのアサミとラブラブという噂のヅカちんに、ナオは乙女心をくすぐられる。自分とは違って、行動力があってまったく違う世界観を持つ二人。ナオにとって、彼らの世界に触れたとまどいがある一方で、テンションが高くなる。

自分の中に眠っていた芯の強い自分や、自分の意思で行動するということ。ちょっとした勇気を出せば変わるかもしれない事態。アサミとヅカちんと付き合うようになって、ナオは少しずつ成長していく。ときに無防備すぎて危なっかしいものの、そんな彼女の背をそっと押したくなる。そしてめばえる本当の友情。いい作品だ。それにすごくいい三人組だ。この作品を読んで、久々に爽快な気持ちになれた。そして、子供にとって大人とは、ズルくてわかってくれない存在だったと、ふと思い出した。

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笹生陽子
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    2008

11.02

「犯罪小説家」雫井脩介

犯罪小説家犯罪小説家
(2008/10)
雫井 脩介

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待居涼司はミステリー系の新人賞を受賞して、デビューから三年になる。五作目の「凍て鶴」は、今までの現代を舞台にした犯罪物から離れて、昭和のレトロチックな家族の愛憎劇をサスペンス風味に仕上げた。待居とっては新境地と言える作品だった。それが権威ある日本クライム文学賞を受賞。さらに「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がっていた。

監督に抜擢されたのは、映画界で注目を集めている人気脚本家の小野川充。オノミツの愛称で知られる小野川はホラー界の奇才と称される有名人で、映画化では監督、脚本、主演を務めるという。彼は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」の主催者にして、集団自殺のコーディネイトをしていた木ノ瀬蓮美の影響が見られると言い、また、木ノ瀬蓮美の死体が公園の池に浮いた状態で発見されたところを、小野川自信が目撃していたことで、木ノ瀬蓮美に関心を寄せていた。

その小野川曰く、待居の記憶に残っているかは別として、木ノ瀬蓮美の顔くらいは写真か何かで見ているはず。なら、それが待居の潜在意識に影響を与えてもおかしくないし、待居があの事件に引き寄せられたところがあるのかもしれない。だから破滅願望とか、運命の厳しさとか、人間の非力さとか、そういったものが作品に込められていると、奇抜な持論を展開する。

待居はあっさりと否定する。しかし、著者本人の否定にもかかわらず、サイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、「落花の会」を取材していたノンフィクションライターの今泉知里と接触。木ノ瀬蓮美の実像と事件の背景を調べ始める。「落花の会」の真の姿が見えてきた時、小野川と今泉は、すでに深みに嵌りすぎていた。全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する心理サスペンス作品。

何でも勝手に決めつける電波系の小野川がウザイのだけど、この強烈キャラが振り回しているようでいて、実は…という部分に面白味があった。そして作品全体を通して漂っているザワザワ感が気持ちいい。また、自殺系サイトを調べ続けていくと、どんどん嵌っていく姿が異様。まるであっちの世界に引っ張られていくようで、サイトの住人たちを特別な人みたいに英雄視する部分が不気味。それが眠っていた狂気を目覚めさせてしまったのか。これはかなり怖かったです。でも面白かった。ネタバレなしで書けるのはここまでかな。


雫井さんのサイン。

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雫井脩介
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