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    2009

01.31

「遠くて浅い海」ヒキタクニオ

遠くて浅い海遠くて浅い海
(2005/09)
ヒキタ クニオ

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あるときは三郎(「凶気の桜」)、あるときは幸三(「消し屋A」)、今回は将司と名前を変えた消し屋の将司。消し屋とは、殺し屋だが、人間の生きてきた痕跡すら消してしまうから、消し屋だ。将司はオカマの蘭子を連れて、那覇行きのフェリーに乗った。フェリーに乗りこんだのは、殺害した本土のヤクザ総長の遺体を解体し、海中に沈めることで消しの仕事の処理をするためだった。

沖縄に着いた将司に早速仕事の依頼の電話がかかってきた。依頼人は小橋川という男。天才を消して欲しい。天願圭一郎は十八のときに、新薬の基となる物質を発見し、世界で通用する物質特許を取得。その物質を応用して新薬を発明し、そこで製法特許も取得した。この物質を利用して作られた薬は二百二十種類あって、その半分以上は天願が作り上げた。小橋川は、天願の持っている権利を管理する会社をやっている。その天願を殺すのではなく、自殺させて欲しいというのが依頼だった。

自殺をさせるには、そいつの頭の中を覗かなければいけない。依頼を受ける条件として、将司から要望を小橋川に出した。天願と自由に会って近づける状況を作って欲しい。将司は蘭子を連れて天願邸に滞在することになった。下手な細工をせずに、仕事は消し屋だと明かすと、天願は目を輝かせて興味を示す。そして同居している十三歳の麻という少女もまた、将司のことを面白がる。俺を殺しにきたんだろう、という天願の問いに、将司は簡単にそれを認めた。認め合う天才と天才。天才による対峙が始まる。

ヒキタ作品はよく読むが、どうもこのシリーズは苦手みたいだ。ストーリー展開が平坦だからなのか、すぐに飽きがきてしまう。延々と読まされる天願の成長記録。調合した薬を売りさばき、ヤクザを襲撃したりと、天願の過去という横道の方では暴走しているが、現実の世界ではまったりと向き合うばかり。これが将司のいう、対象者の頭の中を覗くという行為なんだろうが、そちらにばかり重心を傾けた作品構成にちょっとイライラが募る。

小説とはフィクションを楽しむものだが、それが作られすぎると仇となる場合がある。本書に限っていえば、その作りすぎが自分とは合わなかった。天才という設定や、天願と小橋川の出会いなど、安物のドラマのようで、「血」のうんぬんにしてもなんだかな~という感じ。これは自分が読んで思ったことであって、他のかたが読むとそうでないかもしれない。ただ、自分とは残念ながら肌が合わなかった。それだけのことです。

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ヒキタクニオ
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    2009

01.31

1月に買った本の代金

個人メモです。


総計6.336円


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自分への戒め
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    2009

01.31

1月に買った本

個人メモです。

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)
(2009/01/23)
湊 かなえ

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廃墟建築士廃墟建築士
(2009/01/26)
三崎 亜記

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the TEAM(ザ・チーム) (集英社文庫)the TEAM(ザ・チーム) (集英社文庫)
(2009/01/20)
井上 夢人

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マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫) (ピュアフル文庫)マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫) (ピュアフル文庫)
(2009/01/10)
木地 雅映子

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春朗合わせ鏡 (文春文庫)春朗合わせ鏡 (文春文庫)
(2009/01/09)
高橋 克彦

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ヘブンズ・ドア (角川文庫)ヘブンズ・ドア (角川文庫)
(2009/01/24)
はらだ みずき

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バスジャック (集英社文庫)バスジャック (集英社文庫)
(2008/11)
三崎 亜記

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夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
(2008/12/25)
森見 登美彦

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お買い物
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    2009

01.30

「オリンピックの身代金」奥田英朗

オリンピックの身代金オリンピックの身代金
(2008/11/28)
奥田 英朗

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昭和三十九年。米軍の士官宿舎が昨年日本に返還され、五輪選手村として使用するため、辺り一帯に舗装道路が走るようになった。代々木総合体育館は九割完成。渋谷公会堂とガラス張りの区役所も完成した。東京に初めてできた、緑と近代建築が居並ぶ風景だ。この通りを自分の車で走るのが、須賀忠の目下のお気に入りだった。赤いボディのホンダS600が千駄ヶ谷の自宅に届いたとき、警察官僚の父親はしばし絶句。旧華族の母はモダンガールで、忠は母親の影響を受けたと、父は決めつけた。兄は大蔵省の役人。姉は外交官の妻。最年少ゆえに甘やかされて育った忠は、テレビ局の制作部に配属され、舶来文化に詳しい若手局員として重宝がられている。

東京オリンピックまであと二ヶ月。成功を望まない国民は一人としていない。今年になってから世間はオリンピック一色だった。敗戦で打ちのめされた日本が、ようやく世界に認められ、一等国の仲間入りを果たそうとしている。あれから十九年、首都東京は完全に再生した。そんななか、警視総監宛に一通の封書が届いた。オリンピックのカイサイをボウガイします。その二日後、オリンピック最高警備幕僚長、つまり五輪警備の実質的な責任者である須賀警務部長宅がダイナマイトにより爆破された。その一週間後、今度は警察学校がまたもや爆破された。箝口令が敷かれた中で、捜査一課の落合昌夫は、公安部が指揮する特別捜査本部に召集された。

島崎国男は、東大の大学院生でマルクスを学び、資本主義が持つ非合理性を理解できるのは労働者階級しかないと、労働が知りたくて、出稼ぎ中の兄を亡くした現場で肉体労働を始めた。この国の労働者たちは我慢することに慣れきっていた。人権という概念すら持っていない。無理をしてでも先進国を装いたい国側にとっては、願ってもない羊たちだろう。そうした弱者からとことん搾取するのが資本主義のピラミッドなのだと、現実を日々突きつけられる。しかもオリンピック開催を口実に、東京はますます特権的になろうとしている。田舎は貧しく、東京だけが富と繁栄を享受するなんて、断じて許されない。こうして彼は、オリンピックを人質にして、身代金をいただこうと国家や警察と対峙することにした。

テロ犯となる島崎国男、彼を追う刑事の落合昌夫、島崎と大学でクラスが一緒だった須賀忠、といった三人の目線で描かれた「邪魔」「最悪」の系譜を行く超大型サスペンス。テロへと走る犯人の思考はまったく理解できないが、それでもこれは面白かった。その犯人を追う警察にしても刑事と公安が対立し、独自に追いかける元同級生は実家を爆破されている。事件の始まりは静かで、その中心にいるのは島崎でその他の人物たちの背景もしっかりと書かれているが、そういった反面で、ストーリーはなかなか遅々と進まない。だけど、気がつくと物語の世界に引き込まれていた。それぞれの人間ドラマがしっかりしているのだ。

そしてオリンピックというお祭りの裏側で、そのしわ寄せを食いながらも立ち上がることを知らない最底辺にいる労働者たち。そこら辺は勤労勤勉といわれる日本人らしいとは思うが、ちょっと大人しすぎるのは今も昔と変わりはない。かといって、権力に立ち向かうぞ、とそこいらにダイナマイトを仕掛けられると迷惑この上ない。それに反権力のはずが金銭まで要求するのはヒロポンで頭がいかれてしまったのか。そこに少々疑問を感じるのは単に書ききれていないのか、それとも頭がよくてもネジが一本抜けた人物にわざとしたのか、そこは自分には読み取れなかった。テロ犯となる島崎の内面がもっと描かれていると、もう一段上に行く作品だと思った。


奥田英朗さんのサイン。
奥田

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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奥田英朗
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    2009

01.29

「天山のソニン 2」菅野雪虫

天山の巫女ソニン  2  海の孔雀天山の巫女ソニン 2 海の孔雀
(2007/02/27)
菅野 雪虫

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一年ほど前、十二歳のソニンはイウォル王子の侍女として城に招かれた。生まれつき口のきけないイウォル王子だが、ソニンとそっと手にふれると、言葉を交わせることができた。城から一月ぶりに家に帰ってきたソニンは、居間にでんとすわった客人を見て、思わず呟いてしまった。なんでイルギが? このイルギという人物は、一年前に無実の罪で捕らえられたソニンを城の地下牢から助け出してくれた武官で、それ以来ソニンの家族からは厚い信頼を得ていた。

おまえはイウォル王子と一緒に江南の国へ行くんだろ? 江南で会議が行われる場合、友好の証として王族の一人が行くことになっていた。戦が終わって初めての会議にはパロル王が、その後は次男、三男と続き、次は四男の王子が行く番だった。だが、今回は末王子イウォルたっての希望だそうだ。しかも王子は会議に出るのではなく、留学するのだとイルギはいう。ソニンは何も聞いていなかった。実は前々から江南のクワン王子からもっと見聞を広めるべきだと誘われていたのだ。

イウォル王子と王子付きの侍女であるソニンは江南の国へやって来た。沙維からの援助によって復興された豪華な王宮や、南国の華やかさに目を見張る一方で、庶民の暮らしぶりがあまり豊かでないことに疑問を持つ。そして派手好きに思われたクワンだが、病気の妹リアンのことを心配する妹想いで、ソニンはイウォルに内緒でリアンの相手をすることを引き受けた。そのリアンを見たイウォルは蔑みの目で見てしまい自己嫌悪に落ちる。

クワンは頻繁に地方の無理難題を押しつけられていた。ミナ王妃は自分の長子ハヌルより、近年目だって活躍するクワンのことが我慢ならなかった。あわよくば命を落とすかもしれない、そういう期待を込めて危険な任務を与えるが、クワンの活躍があって、王子の信奉者はますます増えていた。だが、そのイワンもまた心の闇を抱えていた。イウォルの身柄と引きかえに、天山の巫女の知識を用いて毒を作るよう強要してきた。そもそもイウォルをこの国に呼んだのもこれが目的だった。

巫女として育てられ、自分というものを持たないソニン。自分の不自由さを補うために、役立つソニンを物のように扱うイウォル王子。そして今回のキーとなる病の妹を抱えているクワン王子。彼らは、王妃の側近ヘスの陰謀に巻き込まれるが、この事件を通して一回り大きく成長していく。

三巻を読むときの備忘録としたいので、今回も第一巻に続き感想はパスしたい。あしからず。


関連作品。
「天山のソニン 1」

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菅野雪虫
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    2009

01.28

「八月の舟」樋口有介

八月の舟 (文春文庫)八月の舟 (文春文庫)
(2008/05/09)
樋口 有介

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けだるくて退屈な夏休み。高校生のぼくは不思議な魅力を持つ少女、晶子と出会う。晶子、親友の田中くん、そしてそれぞれの家庭や周囲の大人たちを傍観しながら、ぼくの夏が終わっていく…。1960年代の北関東の小さな街を舞台に、清冽な文体で描かれた、ノスタルジックで透明感に満ちた青春小説の傑作。《裏表紙より》

主人公は、高校生の僕こと葉山研一。父親と姉が家を出ていき、二階建ての家に教師をやめてピアノ教室をしている母親と二人暮らしをしている。夏休みのその日、悪友の田中くんと赤城山にドライブに出かけることにした。その途中、車に乗り込んできたのは晶子さん。田中の四人いる姉の一番上の子で、二人が通う高校の校長が父だそう。三人で大沼の岸辺で十本のビールを空にした帰り道、田中くんの運転する車が崖に激突し、田中くんだけ怪我を負った。

翌日、入院した田中くんを見舞いに行くと、田中くんの怪我は幸いにも軽く、やはりお見舞いにきていた晶子さんと一緒に病院を出た研一は、晶子さんの家へ向かった。案山子と渾名されている校長と何故か将棋をするはめになり、その後、教えられていた晶子さんの部屋に向かった。ぼくらは長いキスをかわした。次の日の約束をして、二人はそこで別れた。そのキスの余韻の残る帰り道、体が弱かった中学時代の同級生がプールで溺れて死んだと聞かされる。

読み出してすぐに困惑してしまった。まず起承転結がない。それにいつもと雰囲気が違うしミステリでもない。ここにあるのは夏の日々のみ。これは樋口作品初の純文なんでしょうか。斜に構えた主人公に、気の強そうなヒロイン、風変わりな大人たちに、それぞれにワケありの家庭環境と、ユーモアも含めたベースとなる部分はいつもと同じ。だけど、ちょっと尖った少年少女たちは、閉塞感のような思いを抱えており、そういう諦観のようなものを淡々と綴っている。

けだるくて、怠慢的で、虚無感が漂う不思議な作品だ。他の作品にあるようなかるみを期待して読むと、ここの空気の重さに押しつぶされてしまうかもしれない。ただ、無免許の高校生が酒気帯び運転をしたり、ビールやタバコは当たり前だけど、恋愛に関しては初心なところが、本書を読む上での安らぎどころだったかもしれない。でもちょっとしんどいよ、これは。

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樋口有介
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    2009

01.27

「レッド・マスカラの秋」永井するみ

レッド・マスカラの秋 (ミステリーYA!)レッド・マスカラの秋 (ミステリーYA!)
(2008/12)
永井 するみ

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主人公は三浦凪、17歳。凪と雪絵は東京ガールズフェスティバルにやって来ていた。友人のミリはプロのモデルだ。そんなのは、前から知っている。なのに、びっくりしてしまった。これまで知っていたミリとは、別人みたいに思えたのだ。ミリが私たちの目の前に来た。ひときわ印象的なのは、鮮やかな目元だ。じっとミリを見つめていたら、その理由がわかった。赤いのだ、目元が。もしかしたら、これが火の鳥マスカラだろうか。ミリのブログで読んだ記憶がある。赤くて情熱的な目元。

ミリとは、雪絵の家出というか失踪事件というかを通じて知り合った。雪絵がミリのブログの読者だったことがわかり、雪絵の行方について何か知っているかもしれないと思って連絡をとった。同じようにして知り合った紀穂子というお嬢様がいる。彼女は今、スイスに短期留学中である。ミリも紀穂子も同じ17歳、高校二年生だけど、ミリはプロのモデルである。ショーの最後までミリは赤いアイメイクで通していた。

ショーが終わり楽屋を訪ねたところ、ミリの様子が何かおかしい。ミリと組んで歩いていた男性モデルの一樹によると、ミリと仲良かったイリヤというモデルにもあのメイクを勧め、余分に買ってあったレッド・マスカラをイリヤに分けてやった。二人は同じメイクで舞台に立つ予定だったけれど、前日にメイクの練習をしたイリヤの瞼が腫れ上がり、当日舞台に立つことができなくなっていた。

この状況に、ミリがマスカラに何かおかしなものを混ぜたんじゃないかとか、イリヤを脱落させて、自分だけ目立ちたかったんだろうとか、ミリの悪い噂が飛び交っていた。ミリはそんなせこい真似をしない。マスカラに問題があるのか、そのモデルの欠場が本当にマスカラのせいのか、それとも他に理由があるのか。凪は、ミリの濡れ衣を晴らそうと奔走する。「カカオ80%の夏」につづく、シリーズ第二弾。

前作の内容はほとんど覚えてはいないが、何の問題もなく読めた。それに化粧品に疎くても問題なし。ミステリとしては若干物足りなさがあるものの、エンタメ小説としては十分楽しめると思う。またお馴染みの人物たちがいい味を出している。ズィードのマスター、夜遊びの激しい母親、かつて母と分けありだったDJジェイク、今回は当事者のミリ、傍観者の雪絵、お嬢様の紀穂子。新たに登場するのは、化粧品メーカーのすみれ社長、時計屋の瀬菜さんなど、個性が豊かだ。

これは安心して読めるシリーズだと思う。そして、夏、秋ときたので、次は冬かしら。

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    2009

01.26

「水の迷宮」石持浅海

水の迷宮 (光文社文庫)水の迷宮 (光文社文庫)
(2007/05/10)
石持 浅海

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片山は急いでいた。深夜の水族館は、水槽でできた迷路のようだ。最近水槽の状態が安定していない。ほとんどが水温に関するトラブルだ。一度には狂わない。ひとつケアすればまた次という具合でおかしくなる。トラブルは今夜も発生した。片山は予備水槽が使用可能な状態であるか確認しようとした。水温は大丈夫か。片山は反射的に、温度計の目盛りを見るのではなく、水槽に手を突っ込んだ。途端に全身に鳥肌が立った。片山の心臓は、その瞬間停止した。

古賀は深澤を飼育係室の一番奥に連れていった。小さいテーブルが設置されていて、その上に写真立てが載っている。片山だ。三年前に亡くなった前の飼育係長であり、古賀と深澤の大学時代の先輩でもある。三年前の今日、片山は館内で冷たくなっていた。過労による心不全。そう診断された。深澤はそれ以来、命日には必ず水族館に足を運んでくれる。古賀と深澤は、同じダイビングサークルに所属していた。深澤はその後電機メーカーに就職し、古賀は先輩の片山が勤める水族館に、欠員の補充として推薦してもらった。

ところがいざ入ってみたら、そこはとんでもないところだった。設計が古く、お世辞にも魅力的な水族館といえるものではなかった。雑な運営に、やる気のない職員。たった一人、片山だけが魅力的な水族館にしようと奮闘していた。古賀も懸命に働いたが、いつ閉鎖するのかタイミングを計っているような状態だった。それを一変させたのが、現館長である波多野の招聘であり、深澤の登場だった。そして水族館は生まれ変わった。道半ばで死を遂げた片山。その命日に、水族館の展示生物への危害を予告する、不吉なメールが届いた。そして、自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように、殺人事件が起きた。

犯人は内部犯なのか。外部の人間なのか。共犯者がいるのか。犯人の狙いはどこにあるのか。三年前の片山の死との関わりは。来館者すべてを人質に取られたことで、警察を当てに出来ない。そんな中、水族館の存続を賭けて職員たちは議論を尽くし、探偵の深澤が謎に挑む。といった水族館を舞台にした本格ミステリ作品。

個人的なことだが、魚が好きというか、泳ぐ姿に癒されたくて、熱帯魚を飼育している。だから水族館の舞台裏は興味深く読んだけれど、気になる点が少々あった。冒頭部分でいえば、「温度計の目盛りを見るのではなく、水槽に手を突っ込んだ」は、些細なことだけどこれはおかしな一文だ。素人じゃないのだから、手は突っ込まないでしょう。それにそこで感電って無理がありすぎ。ちょっと詰めが甘いな~という部分が目に付いたのは残念。おまけに温度計って…、普通は水温計というし。

それ以外は概ね満足する内容だったが、事件の真相が明らかになった後がどうも納得できなかった。確かにラストはきれいだ。だけど、理想のために、あったことに蓋をして、あれから頑張りましたでは甘すぎでしょう。人の死をこんなに軽く片付けるのは頂けないし、巻末の解説で某作家がこの甘さを加護しているのも見苦しく思えた。これ以上はネタバレになるので言えないが、この部分は読み手によって賛否が別れそう。ハッピーエンドが好きな方には喜ばれそうだけど、自分はダメ派でした。

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    2009

01.25

「マルコの夢」栗田有起

マルコの夢マルコの夢
(2005/11)
栗田 有起

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パリへやってきたのは、三ヶ月前のことだった。こちらで暮らしている姉に、仕事を手伝って欲しいと頼まれた。姉はフランス人と結婚し、夫婦で日本食材の輸入代行をしている。就職先が決まらない一馬に、姉の頼みを断る理由はなかった。ところがある日を境に、キノコ料理が名物の三つ星レストラン「ル・コルドン・ブルー」で働くことになってしまった。仕事はキノコの担当。キノコ室はつねに施錠されていた。何故そこまで厳重にしなければいけないのかは、マルコがいるからだ。

マルコとは、この店の人気メニュー「マルコ・ポーロの山隠れ」なる料理に使われているキノコのことだ。あまりの人気のため、特別な客にしか出さない裏メニューになった。このキノコが珍種で、この店ではトリュフよりも喜ばれ、最も仕入れ値の張るキノコだ。マルコの正式な名前は誰も知らない。便宜上、料理名からみんなはマルコと呼んでいる。そのマルコの在庫が残り少なくなり、オーナーの部屋に呼ばれた一馬は、原産国である日本に行って探してくるように命じられた。

う~ん、なんか感想が書きにくいぞ。言えるのは、最初から最後までキノコばかりということ。そして主人公が他の人物とからむことも少ない。だけど、点と点の関係でしかない脇役たちが妙に印象に残る。レンズの割れたメガネをかけているギョームしかり、好みの女性を見つけるとサインを頼むピコリも、わりといい加減な母親や、物事に執着というものがない父親も、みんな主人公とすれ違う程度の登場だが、出てきた途端くすっと笑ってしまう。

そしてストーリーは読者の想像の裏へ裏へと展開していく。主人公は真面目である一方で、父譲りの落ち着きなさも兼ね備えている。そんな彼が進んだところにはキノコがあり、本人は真剣にキノコと向き合っているのだろうが、それがシュールな面白さに繋がっていく。そして気がつけば不思議世界へと足を踏み入れている。

そこはお伽の国ならぬキノコの国。といっても、色とりどりのキノコに囲まれるわけではなく、どちらかといえば、じめっとしたボロアパートに出現してしまったキノコの方がイメージとしては近い。これまたシュールだ。でも食うものには困らない。食べられるキノコだからだ。さらに味は絶品らしいとくる。そのキノコを食べながら、主人公の夢は広がってゆく。

とにかく変テコなお話だけど、こういう世界観は嫌いではない。ただ、もう少し長く読んでいたかった。魅力的な人物が多くいるのに、すぐに遠ざかってしまうのは勿体ない。特にファンキーな両親との会話は面白さが絶品だったのに、と思うのは自分だけではないだろう。

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栗田有起
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    2009

01.24

「蛇衆」矢野隆

蛇衆蛇衆
(2009/01/05)
矢野 隆

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先を見通す力を持つという巫女の最後の予言。そやつは蛇じゃ。人を喰らう蛇じゃ。どこまでも冷たく、どこまでも執念ぶかい。漆黒の蛇。その赤子は御主を呑み喰らう蛇となる。その男には、生まれたばかりの嫡男がいた。我が子を、我が子を殺せ。

時は室町末期。戦場を転々とし、誰にも仕えることなく、己の技倆と才覚のみで生き、金で戦を請け負う蛇のごとき最強の傭兵集団がいた。蛇衆(じゃしゅう)。敵を殴り倒し、蹴り殺していく体術遣いの朽縄。旋龍を回転させながら、敵をなぎ倒していく槍の十郎太。砕躯で敵の頭蓋を粉々に吹き飛ばす金棒使いの鬼戒坊。雫という凶刀の雨を降らせる小刃投げの無明次。雷鎚より敵陣めがけて一直線に矢を突き立てる弓の孫兵衛。血河を流暢な動きで振り回し、敵の首を飛ばしていく大太刀遣いの夕鈴。そして雇い主との渉外担当をする商人の宗衛門。

筑後と肥後の国境近くの鷲尾領。蛇衆は鷲尾家に雇われ、隣接する我妻家との戦いでめざましい働きをみせる。だが、我妻家との戦は痛み分けに終わった。その鷲尾家は、当主嶬嶄の家督争いに家臣たちは揺れていた。鷲尾家の長子である弾正と、次期当主にふさわしいといわれる二子の隆意。そこにある噂が流れ出す。荒喰いの頭目と目される男が、三十年前に死んだはずの嶬嶄の嫡子ではないかと、まことしやかにささやかれだしたのだ。老いて病に伏せる妻を問い詰め、当時赤子は逃がされたと知った嶬嶄は、幾重に罠を張りめぐらして、朽縄を鷲尾家に引き入れる。

朽縄が蛇衆を離れ、鷲尾の地に残ってから一年半が過ぎようとしていた。若い十郎太は、朽縄がいなくなったことで、誰に求められたわけでもないのに、自分がなんとかしなければと躍起になっていた。空回りをしていることは解っていた。夕鈴だって朽縄と袂を分かったことで苦しんでいる。仲間に見せなかった夕鈴の寂しさ。十郎太の痛々しい姿が、夕鈴の奥底に隠していた感情を揺り動かす。そこに新しい仕事が到来した。場所は筑後と肥後の国境の山奥。雇い主は鷲尾家の朽縄だった。第21回小説すばる新人賞受賞作。

これは良かった。ありていに言えば、真田十勇士、南総里見八犬伝などを、ごちゃ混ぜにしたような作品だと思う。時代小説にエンタメ要素を加え、彼らの戦闘場面は、某ゲームのような何百人斬りといった派手なもので、とにかくこの暴れっぷりが爽快だった。だけど、ゲームのようにコンティニューがないところが潔い。それに、読者を楽しませよう、わくわく読ませようという、著者のサービス精神がそこら中に溢れ、その活劇場面がカッコよく、全体を通してリズミカルで文章に勢いがあった。また、ええっという驚きもあり、家の怨念を背負った黒い渦もあり、そして、一人一人の結末への向かい方が、切なくて、壮絶でいて、清々しさに彩られている。次回作もまた読みたいと思い、「蛇衆」の続編にも期待したい。これはお薦めです。

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その他の作家
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    2009

01.23

「草祭」恒川光太郎

草祭草祭
(2008/11)
恒川 光太郎

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美奥という地が舞台。その地には、隣り合った異世界があった。「けものはら」「屋根猩猩(しょうじょう)」「くさのゆめがたり」「天化の宿」「朝の朧町(おぼろ)」の五編を収録。

「けものはら」
春の失踪は早くも教室で噂になっていた。雄也は誰も見ていないことを確認して、四年ぶりに水路へと降りていく。“けものはら”はまだあるのだろうか? 周囲を囲む崖。生い茂る雑草。注連縄の石。野原は変わらずにそこにあった。雄也はあの日の黒い化け物のことを思い出す。あれは現実だったのか。そのとき、背後から唐突に名前を呼ばれた。春だった。そして、彼を捨てた母親の死体が横たわっていた。

「屋根猩猩」
美和が怪しい少年に出会ったのは高校からの帰り道。男の子は猫のように屋根に駆け上がり、視界から消えた。数日後、路地の奥を猫が一匹横切るのが見えた。続いて、猫よりも大きな赤い毛に覆われた獣がさりげなくすっと横切った。振り向くと例の男の子が立っていた。そのタカヒロが案内したのは、瓦屋根の上。猩猩の載った屋根が並んでいた。タカヒロは、夢枕に猩猩が現れて以来、この地区で守り神をやっているという。

「くさのゆめがたり」
幼少の頃より、関心事は人よりも植物だった。叔父は山歩きの達人で、幼いころからよく一緒に山に入って手ほどきを受けた。毒や薬について教えてくれたのも叔父だった。ある夏、酒に毒を入れて叔父を殺した。僧侶の名はリンドウといった。私たちは叔父の死体を、庵のそばの花畑に埋め、リンドウの故郷へ落ち着いた。リンドウの娘、絹代を深く愛し、絹代の夫も、娘の花梨も深く愛した。その絹代一家が、山賊に襲われた。

「天化の宿」
家は冷え切っていた。友達のアミさんの最後の声が脳裏に甦る。飛んで戻ってくるまで、そこで待っていて――。それは線路だった。秘密の気配のようなものに誘われ、いつのまにか線路沿いに歩きはじめていた。その先に、着物姿の男の子が二人立っていた。双子に導かれたのは、クトキの館。苦しみを解くと書いて苦解きという。人間は、生きているときっと苦しくなる。苦しみが、心に根をはるようなものなら、苦解きが必要らしい。

「朝の朧町」
長船さんと一緒に暮らすようになって四年目。実は俺は町を持っている。その町に、行ってみる? 当然、最初は冗談だと思っていた。菜の花畑を私たちは歩いた。自分の影を見ると二つあった。長船さんの影も二つ。こんなところにこんな町があるとは知らなかった。誰もいなかった。朧な影の町に入り込んでいた。長船さんが子供の頃に岩棚の上で見つけた碧い珠。珠の中には青空があった。その下には町。長船さんの町。


幻想的で透明感あふれる文章。哀しさや切なさ、そして人の生々しさが残酷であり、反対に美しい世界でもある。現世と異世界の境界を越えるのは、心に闇を抱えている者なのか。妖しい気配に心の闇を委ねてしまえば、心地よく取り込まれてゆく。そこに留まることを選んだ者もいれば、心を強くして引き帰す者もいる。個人的には、「屋根猩々」「くさのゆめものがたり」「天かの宿」の三作品が良かった。読んだときの情感を大事にしたいので、個々の感想はあえてせず。あしからず。

作品とは別のことだけれど、この作家の作品は、寒い頃ばかりに読んでいるような気が…。

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恒川光太郎
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    2009

01.22

「明日、月の上で」平安寿子

明日、月の上で (徳間文庫)明日、月の上で (徳間文庫)
(2006/06)
平 安寿子

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あたしは昔「とんがりトビ子」と呼ばれていた。怒るとトンビみたいな凶暴な目付きで大人を睨む子供だったからだ。長じて二十六歳となった今も角はいっこうに丸くならず、他人の言い種にいちいち反応して喧嘩腰になる。だから呼び名も、トビ子のままだ。今じゃ、自分でもそう名のるからだが。

霧舟温泉にたどりついたときは、ここに居座るつもりはなかった。ただ、美幸さんに会ってブンちゃんの消息を教えてもらいたいだけだった。ストリップ小屋すばる屋は旅館が並ぶメインストーリートの一番端にあり、目指す鳳凰軒は一本入った裏通りにあった。ブンちゃんはお姉さんとだけ連絡を取り合っていた。そして、霧舟温泉という地名と、そこでただ一軒のラーメン屋の嫁だということも聞きだしていた。

鳳凰軒はウチが守るとミツばあさんは、耳こそ遠いが元気が自慢。かわいそうなのはおとなしい美幸さんで、頑固で口が悪いミツばあさんにこき使われ、単身赴任の夫は帰ってこない。トビ子は成り行きでお店を手伝ったところ、ミツばあさんの一人合点で、何も言わないうちに鳳凰軒で働き、二軒隣の二階をねぐらにすることになった。トビ子の意思。それはブンちゃんを捕まえること。ここなら、ブンちゃんの消息がいつかは知れる。

田舎の共同体は昨日今日のやってきた者を受け入れるようにはできていない。それが、ローカル新聞が募集した「私の好きな町」に作文を応募して優秀賞をとってからは、一躍みんなの友達になってしまった。ストリッパーのマリアさんは半生記の作文係を頼んでくるし、ショーの作演出をする入谷さんはますますエロス論を語り込むし、美幸さんと帰ってこない亭主についての噂話に巻き込まれるし、鳳凰軒で働く誠也くんにすばる座の新しい専属さんで弱冠二十歳の真理花ちゃんと天秤にかけられるし、いやはや。

これはちょっとキャラが作られすぎていて、登場人物に共感することができなかった。まともはいや。はみ出したい。あたしは大物なんだから。これぐらいなら勘違いして思うことはあるだろう。だけど、この主人公はぜんぜんかわいくない。自分ばかりがエライと世間をなめきっている女性というのはわかるが、ふと見せる隙や、弱い部分にぐっとくるはずがぐっとこないのだ。そんな内面が綴られているのにも関わらず、突然よくわからないまま全共闘をかっこいいと言い切ったりして、主人公の輪郭がぼやけたりもする。

自分の生き方さがしがテーマなのだろうが、そんな中途半端な具合なので、イマイチ作品世界に乗っかることができなかった。そう思いながら巻末のあとがきを読むと、二十五歳のときに一度書いて封印し、五十を過ぎて書き足した、曰く、二十五歳の著者と五十歳を過ぎた著者のコラボ作品で、あえて若書きのまま、本にしたチャレンジ作だとある。勇気があることは認めるが、読者としては微妙なところだ。読むほうとしては面白いに越したことはないのだから、ね。

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平安寿子
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    2009

01.21

「彼女の知らない彼女」里見蘭

彼女の知らない彼女彼女の知らない彼女
(2008/11)
里見 蘭

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夏子の家は、下町で定食屋を営んでいる。もともとは父親がやっていたのだが、夏子が中学に上がる前に亡くなってしまった。それからは母がほとんどひとりで切り盛りして、夏子と弟を育ててくれた。高校を卒業後、夏子は家業を手伝うようになった。もし家に余裕があれば、大学へ通っていただろう。でもそれは無理な相談だった。母を手伝って、いずれは店を継ぐ。他に選択肢はないように思えた。自分の選んだ道に後悔はないし、後悔したいとも思わない。だが、夏子とて考えずにはいられない。人生にもしもがあるならば、と。

蓮見夏希は、日本を代表するランナーであり、前回のロンドン大会で、史上最年少で女子マラソンの金メダルを獲得し、今度の東京オリンピックでは、二連覇の期待がかかっている。その夏希は頚骨の披露骨折で、全治三週間。代表選考の名古屋まで四ヶ月。コーチの村上は無理をさせたくない。会社の方針は、名古屋で優勝して、オリンピックに出場する。そこに村上が出会ったのは、パラレルワールド間を移動するマシンを発明した井尻博士。彼曰く、それに乗って、別世界の蓮見夏希をスカウトしてくればいい。故障していない彼女を。いわば、本物の影武者を。

その男は、何やら勢い込んだ様子でこう言った。君は、自分に別の人生があるかもしれないって、考えたことはないか。モニタに映像が映し出された。女子マラソンの中継を録画したもののようだ。走っているのは、自分と瓜ふたつの少女だった。テロップには蓮見夏希とあった。名古屋マラソンに出場してもらいたい。君にはすばらしい素質が秘められている。マラソンは、計画的なトレーニングを四ヶ月みっちり行えば、未経験者でも充分に完走できるようになる競技だ。君ほどの天分に恵まれた人間なら、優勝も夢じゃない。その夜、夏子の返事を聞いた村上は、よしっ、と拳を握りしめた。

第二十回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作は、別世界でマラソンに挑戦するという作品。別世界だが同じ人。だから持っている才能も同じはず。走れば勝てる。という、有名なハリウッド映画と、最近流行の陸上ものがドッキングしたようなお話。まずパラレルワールドの説明がうざい。でもそれを乗り越えれば読みやすくなる。だけど、読みやすくとも全体的に平坦な印象がずっとあり、読者を作品世界に引き込む何かがここにはない。

主人公はひたすら走っている。だがここでも躍動感に欠けており、息遣いがまったく感じられない。また主人公とコーチのやり取りも事務的で、マラソンにかける熱意だとか想いの強さが伝わってこない。独自性もなく、真似もしきれておらず、最初から最後までずっと中途半端なまま終わってしまっている。それに、ラストの落ちもこれではねぇ。時間の無駄とまでは言わないが、読者を満足させる力量はまだないのかも。

選評を読んでみたが、こちらにも疑問を持たざるを得なかった。選考委員たちは、普段からスポーツ小説を読んでいないような気が……たぶん。

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    2009

01.20

「プレゼント」若竹七海

プレゼント (中公文庫)プレゼント (中公文庫)
(1998/12)
若竹 七海

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フリーターの葉村晶は事件に巻き込まれ、小林警部補は借りたピンクの子供用自転車で現場に駆けつける。二人が出会った事件を綴った連作短編集。「海の底」「冬物語」「ロバの穴」「殺人工作」「あんたのせいよ」「プレゼント」「再生」「トラブル・メーカー」を収録。ぶっちゃけ、葉村晶と小林警部補が交互に登場する構成には?だった。でも、ラストで二人が合流。著者の狙いはこれだったのかと納得。

「海の底」
たまに原稿を書き、現在は掃除会社でバイトをしている葉村晶は、大学の先輩で編集者の遠藤から、ホテルの部屋にくるよう呼び出された。室内には遠藤と若い編集者がひとり。そして足元のじゅうたんには、血のしみが広がっていた。この部屋に泊まっていたのは売り出し中の覆面作家。若い編集者が前日に一時間ほど初対面を済まし、翌日にやって来たら、血のあとがあり、本人は行方不明。だが、事件ではないから、内々で、プロのテクニックでじゅうたんのしみを消去するよう言ってきた。

「冬物語」
雪深い山奧の別荘。男は少年時代から親友だった吉本を呼び寄せ、計画通り殺害した。吉本は銀行に就職し、男はちっぽけな建設会社を継いだ。貸しつけのノリマがきついという泣き言に、男はしかたなく土地を担保に金を借りてやった。景気が低迷し、金の回収のめどがたたなくなったらしいと踏んだ吉本は、担保の土地を押さえ、彼の勧めで入会したカードを無断で私用。結果、弁護士の勧めで自己破産し、会社は倒産した。許しを乞うつもりなら……賭けだった。事件の事情を伺いにきたのは小林警部補。

「ロバの穴」
葉村晶の現在の職場はテレフォン・サービス会社。会社名を“王様の耳はロバの耳社”という。仕事についてからまだ三日だが、不倫を告白され、汚職目撃談を聞かされ、過去のあやまちをどう思うかと問われ、いじめの悲惨を打ち明けられた。さしずめ安上がりで誰にも傷のつかないカウンセラー、という役回りである。空気を入れ替えようとサッシに手を伸ばした。そのときだった。影は上から下へと移動したのだ。この会社に勤めていて自殺したのはこれで二人目。ひとの心の闇が魂を塗りつぶしたのだろうか。

「殺人工作」
三杉若葉のまえには死体がある。塩川春美の死体が。身体中の血がバスタブに溜まった水にほとんど流れ出していた。袋の中に春美を入れた。道はすいていた。若葉の仕事は、片倉忠の秘書である。その家は暗闇の中に沈んでいた。しかし、バスタブは春美のそれと同じように血で赤く染まり、片倉の死体が半分沈みかけていた。袋から春美を出し、バスタブにほうりこんだ。ふたりの死体は、バスタブの血の海に、揺れながら仲良く寄り添った。これなら誰が見ても、立派な心中死体だと思うだろう。だが、小林警部補は…。

「あんたのせいよ」
二週間前から葉村晶は興信所で働いていた。そこに掛かってきた一本の電話。相手は大嫌いな佳代子だった。今晩レストランに来てほしいといって電話は切れた。貞二、佳代子、それに晶。学生時代のよくある三角関係。佳代子は見事に彼をかっさらった。彼女との待ち合わせをすっぽかした翌日、刑事がふたり晶の部屋にやってきた。貞二の婚約者が何者かに殺されたという。その犯行時刻、佳代子はゆすりの相手と会っており、晶がきていれば、アリバイは証明されたと怒鳴りこんできた。

「プレゼント」
デザインオフィス・佐伯里梨。広々としたオフィスは以前と少しも変わっていない。里梨の私室。ここに入るのも一年ぶりだ。一年前の誕生パーティーの日に里梨が殺された。ここにいるのは、あの日、ここに来ていたひとたち。旦那の佐伯。御母様の友子。歯医者の鶴見。里梨の幼馴染の幸恵。事務員だった京。公共機関に勤める氷室。プログラマーの達也。それぞれがあの日のことを語りだす。そのとき、クローゼットから男がひとり、飛び出してきた。現れた男は間の抜けた声で名乗った。私、小林警部補と申します。

「再生」
葉村晶は興信所の調査員になって一年が過ぎていた。依頼者は作家の男。原稿がまったく書けておらず、仕事場の隣室には担当編集者がいた。ところがその日、どうしてもある人物と会わねばならず、出かけていたのは四十分。ここに篭っていたというアリバイのために、窓に向けてビデオカメラを回しておいた。そして帰宅して、ビデオを再生した。映っていたのは、人殺しの場面。逮捕されたのは小娘。だが、ビデオに映っている犯人は男だった。だが、息子がそのテープの上に録画して、その証拠は消えてしまった。

「トラブル・メーカー」
山道脇で意識不明の重体の女性が発見された。現場に急行する小林警部補。被害者の所持品のクレジットカードの裏に、ぞんざいなサインがあった。葉村晶......。姉に勧められて冗談で応募した懸賞で香港旅行があたった。しかし、幸運は目的もなくやってこない。妻を尾行してほしい。そう切り出した男は、スーツの内ポケットから札束をひとつ、つかみ出した。妻の名は鳥羽メイ。晶の中学時代の同級生だった。重症の万引癖があり、見張りを付けたいという。うさんくさい説明を聞いて断ったが、それでも男はしつこかった。

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若竹七海
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    2009

01.19

「空とセイとぼくと」久保寺健彦

空とセイとぼくと空とセイとぼくと
(2008/11)
久保寺 健彦

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ぼくはお父さんの言うことをおかしいと思ってなかった。みんなが何円かずつお金をくれれば、いまとはちがう生活がはじまると信じていた。お父さんは食べるものと住むところがあるのが天国だと言った。ぼくたちは上野公園に住んでいた。ぼくたちの家は銅像の横にあった。あたりには、ブルーシートのテント。村のようになっていた。その中でいちばんみすぼらしかったのが、ぼくたちの家だ。お父さんが死んで引き取られた施設も逃げ出した。犬のセイといれたら、それで満足だった。やがて一人と一匹は公園を旅立つ。

ぼくはどんどん犬みたいになった。まず、耳がするどくなった。鼻もするどくなり、そのおかげで目指すゴミ箱をかぎあてられるようになった。それに、夜目がきくようになった。ほかにもセイに教わったことがある。二人は一つの街に長くいなかった。怪しまれる前に移動してたせいもあるし、新しい知らない場所へ行ってみたかったからだ。でも、その公園に入ったとき、一目で気に入ってしまった。そこでリョウ君と友達になったとき、ぼくはその年十四歳になること、七年間セイと旅をしてたことが、このときわかった。

ぼくとリョウ君はホストクラブで働くことになった。その夜、ぼくたちは、セイをだきかかえ、街はずれの動物病院へ駆け込んだ。セイが急性フィラリアにかかってしまった。女性の発情が臭いでわかるぼくは、セイの治療費を捻出するため新宿でホストとして働くことにした。源氏名はポチ。教養もなければ読み書きすらもできないけれど、犬のような従順さと、毎日の努力が実り、その能力を開花させていく。街ではブレイキン(ブレイクダンス)を踊るエイジさんとトシさんと出会い、店ではリカさんという太客の指名もついた――。犬と二人きりで育った少年の成長と、犬との絆を描いた青春小説。

犬との野宿生活をひたすら送る第一部、ホストとして成功していく第二部、ブレイキンに熱中していく第三部、という三部構成になった作品。その場面展開には豪腕ぶりが目立つものの、これまでの作品の中で一番面白く読むことができた。ただ気になるところが一つ。何故この著者は毎回性的なことを盛り込むのだろう。必要性があるようには思えないし、読者によってはひいてしまう方がいるかもしれない。そこが少し引っかかってしまった。

だけど、学んで成長させるという書き方がすごく上手いと思ったし、相棒であるセイとの結びつきの強さには感動した。前々作の団地に依存には眉をしかめたが、動物に依存なら共感することができる。主人公にとっては、お金がないとか家がないとか、そんなことは瑣末なことで、ずっとセイといられない時間の方が辛いのだ。

だから、いずれやって来る別れの場面は切なくて胸が締め付けられそうになった。目からかがやきが消えた、という死の瞬間の描写には、飼い猫の臨終を看取ったときを思い出し、涙しそうになった。セイの最後の行動の謎もやばかった。でも、最終的に安らげる場所、食べるものと住むところを手に入れた主人公は、これからもきっとたくましく生きて行くのだろう。セイとの思い出とともに。

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久保寺健彦
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    2009

01.18

「エリアの魔剣1」風野潮

エリアの魔剣〈1〉 (YA!フロンティア)エリアの魔剣〈1〉 (YA!フロンティア)
(2008/12)
風野 潮そらめ

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一年で月が一番大きく見える夜に行われる秋の大祭。トューリア大陸の東側の地方ではエリアの都に、西側の地方ではディンダムの都に、それぞれ巡礼が集まる。聖都エリアには、月の石を磨いて作られたこの世を魔から守る魔封剣たるエリアの魔剣があり、ディンダムには、エリアの魔剣より威力は落ちるが同じく魔封剣であるディンダムの守護の魔剣が安置されている。巡礼たちは、その剣の波動を我が身や身近な道具に浴びせるために都を訪れるのだった。聖都エリアでは、太古の昔から巫女が魔剣を守っており、一方のディンダムでも、代々カーンと呼ばれる御子が守っている。

リランと親友のダキリスは秋の大祭の前日に行われた少年武術大会で優勝と準優勝し、カーン大公に招かれてディンダム城内に一泊することになった。その夜中、宰相キシアスに連れ出されたのは守護の剣のドーム地下広場。ダキリスはキシアスによって魂を抜かれ、カーンに体を乗っ取られてしまった。そのときダキリスの魂のガラスの球が割れ、悲しみと怒りに我を忘れたとき、リランの隠されていた力が目覚めはじめた。覇者の剣を手に、猛然と立ち向かうリラン。なんとか城外に脱出はするが、魂の抜かれた兵士にぐるりと包囲されたそのとき、盗賊ダイン一党の首領、父親のダインが助けに現れた。

リランが目覚めると、そこは住み慣れたグリン峠の盗賊館の中にあるリランの寝室だった。そこでダインと魔導師アムネスによって明かされるリラン出生の秘密。自分が双子だったこと。生まれながらにして額に月の石が埋め込まれているわけ。眠っていた霊力のこと。そしてダキリスの魂が元に戻ること。すべての鍵はエリアの都にあった。そこにカーンとキシアスに率いられた城の兵隊たちが盗賊館を襲撃してきた。そして、リランとアムネスの静かな旅立ち。

いつもはここから感想を書くわけだが、今回は感想をパスしたいと思う。何故かというと、「エリアの魔剣1」は始まりの章であって、物語はまだ動き出したばかりだからだ。この時点で作品のどうこうを言える段階ではない。そういうわけで物語の完結まで感想は持ち越ししたい。そして、次巻でもリランの派手な暴れっぷりや、新たな仲間の加入に期待したい。まずは、関西弁のアレンかな、と想像。

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    2009

01.18

「けちゃっぷ」喜多ふあり

けちゃっぷけちゃっぷ
(2008/11/18)
喜多 ふあり

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ヒロシとの待ち合わせを妄想。ヒロシは私の脳内彼氏。にゃはははは。脳内彼氏だって、私何やってるんだろう? あれ、何か忘れてるな。私これから何しようと思ってたんだっけ。あ、そうだ自殺するんだった。いっけね――。 と私はブログに書き込んだ。私は日常で他人と会話をすることがない。ひきこもりだ。そんなイっちゃってるブログだから、何を書いても何も返ってこない。だから別に本当の気持ちも嘘も妄想もなんだって書いている。

声を出すよりもキーボードやケイタイのボタンを押す方が速い。自称改造人間ブログ更新ツヅケルと嘯き、そのときそのときの思考をすべて、ブログに垂れ流す。自ら進んでオダジョーのドラマ「サトラレ」になっている。そのブログに現れた脳内彼氏と同じ名のヒロシという人物。「どうせ死ぬんだったら、一度会ってくれないかな。あんただった俺の気持ちわかってくれるかも」 ヒロシは待ち合わせ場所をコメント欄に書き込み、フェイドアウトしていった。

ヒロシの間抜け面を拝みたい気持ちには勝てなくて、部屋から出たHIRO。そこに現れたヒロシは、オダジョー系のイケメン。ヒロシが目の前にいてもHIROは口をきかず、ソッコー連打で携帯からブログにアップ。それでも会話が成り立つ二人。そして連れて行かれた先は、AVの撮影現場。ヒロシはペーペーのAV男優だった。胡散臭いAV監督に気に入られたHIROは、自主制作映画に参加することにした。助手のHIRO、男優のヒロシ、監督の高山、女優のまひろの四人による、奇妙な撮影会が始まる。第45回文藝賞受賞作。

文藝賞だから文学なわけで、文学が苦手な自分には、何がいいたいのかよくわからなかった。だけど奇妙に思いながらも読めてしまった。この主人公の脳内が全部ブログでダダ漏れになっていくので、ほとんどが話し言葉のようで実際には書き言葉で埋もれている。ただその書き言葉が、にゃは、ウメウメ、イヤン、という軽い口調の羅列で、これが赦せるか嫌悪するかで読者の賛否は別れそう。

とにかくこの主人公は饒舌だ。思いついたことを延々と垂れ流す。もちろん言葉を話すわけではなく、言葉をブログに打っているわけだが。自分は読める派だったけれど、さすがに中盤あたりからは疲れが出だした。これが長編だったなら、持久力は持続しなかったかもしれない。文章への挑戦は感じることができた。だが、二作目ともなるとこれと同じものでは通用しない。でもちょいと面白い作家だなぁと思った。個人的には、この勢いを好しとしたい。

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    2009

01.17

「ぼくと、ぼくらの夏」樋口有介

ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)ぼくと、ぼくらの夏 (文春文庫)
(2007/05)
樋口 有介

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高校二年生の戸川春一は、調布署の刑事である父親と二人暮らし。夏休みのある朝、その父から、クラスメイトの女の子が自殺したという話を聞く。岩沢訓子のことを考えようとしたが、たいした印象をもっていないことに、すぐに気づいた。顔立ちはよかったがとにかく目立たない子で、勉強でも運動でも、クラスではすべてがその他だった。あの岩沢訓子が、自殺。橋の上から多摩川にとびおりたらしい。遺書があったというから、まず間違いないそうだ。

偶然街で酒井麻子と出会った。この春から同じクラスになったとはいえ、まだ一度も口をきいていなかった。ただばったり会って、知らん顔をして通り過ぎるのもへんだろう。何気なく訓子が死んだことを告げると、麻子がこれほど驚くとは思ってもいなかった。麻子と訓子は、家も近く、小学校から一緒だったという。それにうちへ遊びに来たのはあの子だけ。麻子の父親がヤクザというのも気にしなかったという。だから、友達と言えたのは、訓子だけだったという。

訓子は妊娠していた。それも四ヶ月だった。遺書と一緒に靴が脱いであった。自殺の作法らしいが、今の感覚で、靴を脱ぐかどうか。遺書の内容は「お父さん、お母さん、ごめんなさい」それだけだった。ばかな女子高生が悪い男に遊ばれて、おまけに妊娠までさせられて捨てられた。悩んだあげく、誰にも相談できずに多摩川に身を投げた。なんとなく、おかしい。春一と麻子は、ホームズとワトソンになり、同級生の死の謎を追う。サントリーミステリー大賞読者賞受賞作。

樋口作品を読むこと十四冊目にして、やっとデビュー作を手に取った。普通なら、本書の若さを指摘して、どこそこが甘かったとか、その後の作品と比べてしまうのだが、変わってないないなぁ、というのが逆に嬉しかった。主人公がモテて、ヒロインがいい女であることも、作風もそのまま。人物のかるみも、かわいらしさも、艶っぽさも、ニヒルでユーモアがあるところも、人物の立ち居地や役割までがまったく同じ。樋口作品は、一貫して同じをずっと継続している。それでいて、これが樋口有介のオリジナリティで、飽きが来ずに毎回楽しく読ませてくれる。そこがすごいと思う。

主人公とヒロインのキラキラとした青春。主人公と父親のひょうげたやり取り。第三者との淡々とした駆け引き。そして事件の真相。これらどれを取ってみても、読みどころになっている。読み出したら、彼らのひとつひとつの仕草に読者は引き込まれて、後はまさにノンストップだ。ただ個人的なことだが、犯人や、死んだ女子の背景は、早い段階で気づいてしまった。でもそれはお愛嬌であって、作品の面白さをマイナスするほどではない。樋口作品をもっと多くの方に読んで欲しい。読むたびに毎回こう思う。こんなにも面白いのだから、お薦め。

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樋口有介
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    2009

01.16

「どこから行っても遠い町」川上弘美

どこから行っても遠い町どこから行っても遠い町
(2008/11)
川上 弘美

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ビルの屋上には、妙な小屋が建っている魚屋の魚春。常連客で賑わう小料理屋と居酒屋の中間くらいのお店ぶどう屋。サイドメニューが充実しているたこ焼き屋のロマン。八百屋の八百吉。鳥肉屋の鳥勝。東京のはずれにある小さな町の商店街と、そこをゆきかう人びと。人と人とが濃く結びつき、それでいて侵しがたい領域もちゃんとある。そんな平凡な日々。

男二人で同居する平蔵さんと源さん。恋人の隣で眠れない塾講師の先生。穏当ではない父親と二人暮らしの高校生。家庭内別居をしている両親をじっと見つめる女子高生。人の口癖をずっと考え続ける三十代半ばの男性。三回別れた元恋人と店をやっている板前とおかみ。危ういひとと付かず離れずの関係を続ける大学生のわたし。大きな出会いをふたつした占い師。雨の写真を撮り続けている女性。ロマンで働いている一人暮らしの老女。好きな人が死ぬと、少しだけ自分も死ぬという春田真紀。

彼らはすこしずつ重なり合って、交じり合い、結びついたかと思えばぼやけてみたり、そうして大きな円になって、また最初に戻る。彼らは出会ったり、すれ違ったりしながらも、この小さな町のどこかで繋がっている。ここにある物語は、決してドラマチックなものではなくて、日常のどこにでもあるような、些細なエピソードの連なり。人が生きていくうえでの拠りどころのような、心の落ち着く在りかを描いていて、それが心地よくて、また、人の本質が巧みに散りばめられている。

そんな中で印象に残ったのは、男女の喧嘩のやり取りだ。「どうすればいい、なんて、聞かれても困る」という女の言葉に、男は口をつぐむ。すると女は「黙らないでよ」と。それならばと、とりあえず、謝ってみると、「ごめんなんて言ってほしいわけじゃない」と女が怒る。「じゃあ、どうすればいいの」という男に、「だから、あたしからこうしてって言うんじゃ、だめなの」男はため息をつくしかない。

男性なら、こういうシチュエーションは何度も経験していることだろう。女の“わかって欲しい病”ほど、面倒なものはない。わかるわけがないのに。女性にとっても、思い当たることがありそう。わかってもらえたためしがないのに。

そんな不毛なやり取りに対して、父から息子へのアドバイスがとても気の利いたものだった。情けなくもあるが、読んでいて膝を打ちたくなった。それは、「女は、どうやっても機嫌をなおさない。ただびくびくしながら、怒りをやり過ごすしかない」ということ。その通りかもしれない。このエピソードを読んでいて、何故か嬉しい気分になった。

このように、沢山のエピソードが盛り込まれているので、読む人それぞれの共感ポイントが見つかるかもしれないし、いろんな人に思いを馳せることができるかもしれない。そいう意味でいえば、好きな作品が人によって別れそうだし、ちょっとした名言集のような作品でもあると思った。また、人と人との距離感が絶妙で、上手く口にできないけれど、なんかいいのだ。

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    2009

01.15

「儚い羊たちの祝宴」米澤穂信

儚い羊たちの祝宴儚い羊たちの祝宴
(2008/11)
米澤 穂信

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上流家庭の人、或いは子女たちと、その家に雇われる少女たち。その子女たちが通う、大学の「バベルの会」という読書倶楽部で細く結ばれた作品集。「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」を収録。

「身内に不幸がありまして」
村里夕日は、五歳のときに丹山家の使用人として引き取られた。吹子お嬢さまのお世話を任された夕日は、お嬢さまのために秘密の書棚を作り、その秘密の書棚の本を共に読み、感想を話しあうことさえあった。お嬢さまは丹山家の跡取りとして美しく賢い令嬢に成長した。そして、「バベルの会」読書会の二日前、七月三十日のこと。丹山家のお屋敷が、勘当されたお兄様に襲われた。十二人の死傷者を出したお兄様は、お嬢さまに刀で手首を切り落とされ、逃げ出した。御前様は真実を伏せ、急逝したことにする。以来、七月三十日に、丹山家の女が次々と死ぬ。

「北の館の罪人」
内名あまりは、母が死んでしまうと、言い残された六綱家より他に、行くところがなかった。妾腹の子として、厄介者になることを覚悟で訪れた六綱家。しかし六綱家には、とうに厄介者の先客がいた。本館と渡り廊下を隔てる北の館には鍵のかかった黒い鉄の扉。窓にはすべて鉄格子。あまりは北の館の小間使いになり、そして牢番にもなった。幽閉されているのは現当主の兄。早太郎様はしかし、北の館を出たいとは思っていないようだった。早太郎様はしばしば、あまりに買い物を命じる。酢や、卵や、牛の血。早太郎様は何をしているんだろう。

「山荘秘聞」
高地の奥の奥にある飛鶏館は辰野様の別荘。お仕えしていた前降家が没落し、その主に紹介されたのが、飛鶏館の持ち主。屋島守子は、別荘の住み込み管理をすることになった。そうして一年が経ち、ふと気づく。管理する飛鶏館は、一年間でただのひとりも、お客さまを迎い入れたことがなかった。もともと奥様のために建てられた飛鶏館。屋島が飛鶏館に入って程なくのこと、その奥様が亡くなっていた。そんな悶々とした日々にも変転が訪れる。冬山登山中に滑落事故に遭った越智靖巳という遭難者を救助する。だが、救助隊が来ても、屋島は何も言い出さない。

「玉野五十鈴の誉れ」
純香は、小栗家のただ一人の子。お祖母さは小栗家の王として振舞った。常に厳しく躾けられた純香は、友との交友も認められなかった。十五の誕生日に、人を使うことを覚えるようにと贈られたのは、同い年の召使い。五十鈴はお祖母さまの前では愚直になり、純香の前で友となってくれた。純香に新しい世界を見せてくれた。本当に幸せだった。だが、純香はまだお祖母さまのことを、よく知ってはいなかった。婿養子の父の兄が殺人者となり、人殺しの血は軟禁され、離縁の末に再婚した母は男子を産んだ。お祖母さまのすべては、跡継ぎのために。

「儚い羊たちの晩餐」
一冊の日記。最初の頁に、「バベルの会はこうして消滅した」と走り書きが残っている。大寺毬絵は、わずかの会費を払えずにバベルの会を除名された。すべてはケチったパパのせいだ。家屋敷も大寺家の財産も、全部おじいちゃんが一代で築いた。それなのに本人は、あっさり死んでしまった。財産を受け継いだパパは、普段出すものは渋るくせに、外面のためにはじゃぶじゃぶ使う。特別な宴の料理を作る料理人を雇った。夏さんは大量に食材を買い込み、必ず心付けを求め、前の雇い主の話をする。最初のうちはこれが一流だと喜ぶふりをしていたが、そろそろ忍耐も限界らしい。


上流家庭というある種の閉鎖された世界。そこで生まれた歪みと闇が犯罪者を作り出す。それゆえに、動機にも歪みがあり、普通の作品ならば説得力に欠けるだろうが、この特異な世界観でのみは通用しているように思う。ですます調の語り、ゴシックな雰囲気、異常な暗黒性などが目を引いた。ただ、帯に書かれた「ラスト一行の衝撃」の謳い文句は見当外れ。そこを期待すると、消化不良を起こすかも。だが、「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「玉野五十鈴の誉れ」の三編は納得ができ、満足することができた。それにしてもこの著者は、お嬢さまが好きね。

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米澤穂信
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    2009

01.14

「第三の時効」横山秀夫

第三の時効 (集英社文庫)第三の時効 (集英社文庫)
(2006/03/17)
横山 秀夫

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F県警捜査一課の強行班捜査係が活躍するシリーズ第一弾。強行班捜査係は三つの班からなる。青鬼と揶揄される笑わない男、朽木班長率いる一斑。冷血の異名をとる公安あがり、楠見班長率いる二班。動物的勘の持ち主であり捜査官として天才の名を恣にしている、村瀬班長率いる三班。事件の解決のために、彼らの下で働く一癖も二癖もある刑事たちや、三つの班を束ねる捜査第一課長。「沈默のアリバイ」「第三の時效」「囚人のジレンマ」「密室の拔け穴」「ペルソナの微笑」「モノクロームの反轉」の六編を収録。

「沈默のアリバイ」
主犯の大熊と湯本は、パチンコ店の現金集配車を襲撃し、犯行を阻止しようとしたボディーガードをナイフで刺し殺した。状況証拠は次々と集まったが、大熊と同様、事件に直結する物証は見出せなかった。共犯者の片方が高飛びしている。湯本を叩いて吐かせる。朽木の決断は早かった。取り調べには島津を充てた。湯本が自供を始めたのは、逮捕後三十五日だった。その湯本が法定で無実を主張した。自分にはアリバイがあると。

「第三の時效」
タクシー運転手殺害事件の発生から丸々十五年が経過した。真の時効完成は七日後の午前零時だ。本間篤志を殺害後、武内利晴は台湾に渡航し七日間滞在した。捜査一課は今日を第一時効、七日後を第二時効と名付け、極秘裏に特別捜査態勢を敷いていた。十四歳のありさは自分の出生の秘密を知らない。武内はそのことに気づいている。そもそも警察はゆき絵がレイプされたことを公表していない。餌。楠見は彼女のことをそう称した。

「囚人のジレンマ」
田畑が捜査第一課長を任ぜられてから、殺しを同時に三つ背負ったのは初めてのことだった。三日に発生した主婦殺し。その二日後に起きた証券マン焼殺事件。そして、三日前に発生した調理師殺し。本部捜査一課から所轄に送り込んでいる強行犯捜査係の刑事たちは一筋縄でいかない。一斑の朽木。二班の楠見。三班の村瀬。課内の覇権を激しく競う彼らは、ともすれば田畑の指示を無視して、独断で突っ走る。だが、彼らは別格だった。

「密室の拔け穴」
本部庁舎、小会議室。班長代理の東出は、胸に苛立ちと不安を抱えて着座した。傍らに、同じ三班で同期の石神が座り、正面には、暴対課の課長と特捜班長が顔を揃えている。おそらくこの幹部捜査会議は限りなく裁判に近くなる。責任の所在をはっきりさせるためだ。いったい誰のミスで密室から犯人を取り逃してしまったのか。そのとき姿を現したのは三班の村瀬班長。脳梗塞に見舞われ、わずか二ヶ月で現場復帰を遂げるとは。

「ペルソナの微笑」
青酸カリを使ったホームレス殺人事件が起こった。F県警では、十三年前の青酸カリを使った事件は未決のままだった。子供を道具として使った犯人は捕まらなかった。矢代の胸はざわついていた。朽木班長は気づいている。阿部勇樹と同様に、矢代が昔、道具として事件に利用されたことを。偽りの笑みを見抜かれていた。笑わない男、朽木。矢代もまた、あの日から一度として笑ったことはないのだ。そこに、目撃者の似顔絵が一致した。

「モノクロームの反轉」
一家三人刺殺の一報に、捜一課長を務める田畑は、普通であれば、三班が出動し、一班は次の事件対応班として待機となるところ、一斑と三班を出動させた。初動捜査が終了したW署会議室は静まり返っていた。五十人からの人間がいるとも思えない。質問も意見もなかった。あるべき捜査報告も疎らだった。一斑と三班の人間は、部屋の中央に規制線でも引かれているかのように、左右に分かれて黙していた。


これまで読んだ横山作品の中で、面白さは本作が断トツかもしれない。描かれているのは事件だけど、その事件に関わる刑事たちにもドラマがあって、そのドラマと事件が重なることで、各作品に深みを与えている。そして個性的な三人の班長の存在も大きい。特に良かったのは、「第三の時效」「囚人のジレンマ」「ペルソナの微笑」の三編だ。個別の感想は敢えて控えるが、横山秀夫の刑事ものは、事件解決もさることながら人が面白い。それが如実に発揮された作品だと思えた。これは文句なくお薦めしたい。

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横山秀夫
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    2009

01.13

「ナンバーナイン」原田マハ

#9(ナンバーナイン)#9(ナンバーナイン)
(2008/03/06)
原田マハ

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20XX年。最王手の都市開発企業に就職して五年、秘書室に配属になって初出勤の朝、南駿介は社長に連れられて、あるギャラリーを訪ねた。社長は経済界でも著名な美術品の収集家である。来月、上海に着工する高層ビルだが、最上階に美術館を創ることになっており、南は購入する作品の選択と取引を任せられた。そのために紹介されたギャラリーのオーナー、深澤真紅。彼女の薬指にはダイヤの粒がキラリと光り、火傷の痕のような傷がうっすらと見えた。ふと、真紅の背後の壁に掛かっている一枚の絵に、南の視線は吸い寄せられた。作品名は「#9」という。

2001年。真紅はアートという名のポスターを売る、キャッチセールスのようなものをしていた。その夜、真紅は吸い寄せられるように、ジュエリーショップへと足を踏み入れた。場違いだとわかったが、好奇心が蠢いた。見るだけだって、いいんだから。ケースにかじりついていると、見知らぬ男性から声をかけられた。あなたの指を、貸していただけませんか。帰り際、店員が小さな紙袋を両手で掲げ、こちらへ差し出している。先ほどのお客様からです。ケースは空っぽだった。あのリングの影も形もない。そしてようやく、ケースの内側にあるシルクの上に、ボールペンの走り書きがあるのに気づいた。王剣という名前と電話番号。

真紅は男の影を追い上海へと旅立つ。そしてたどりついた古い洋館の名は「#9」。そこはまさしく、美術館そのものだった。想像を絶する頭脳と財力、そして美的感覚を持ちえた王剣のコレクションの数々。王剣に依頼されてこの館を管理しているデイヴィッドは骨董を極め、真紅は中国美術のすべてに触れる。真紅には、美術品を見抜く持って生まれた才能があり、やがて王剣のバイヤーとなって、壮大な中国現代アートのコレクションを創ることになる。そうしたある日、真紅は特別な手を持つマサージ師と出会う。豊かなイマジネーションをもたらしてくれた人は、館と同じ名前だった。#9ナンバーナインだった。

冒頭で強い真紅を登場させておいて、彼女がそこに至るまでの成長過程を読ませるという構成。出会いは王道。大金持ちと偶然出会い、それがきっかけで、別次元の世界に進出してゆく。一見はシンデレラ・ストーリーのようだが、その大金持ちは実は王子ではない。気に入らないことがあれば癇癪を起こす暴君でしかない。そこに、するすると登場してくるのが、#9の名を持つ男。あとは、王道路線へと戻り、冒頭のプロローグへと繋がっていく。少し王剣の存在が中途半端な気がしたが、とても静かでスマートな作品だと思った。フィクションでしかありえないお話だけど、王道が好きな方は嵌るかも。

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原田マハ
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    2009

01.12

「太陽の坐る場所」辻村深月

太陽の坐る場所太陽の坐る場所
(2008/12)
辻村 深月

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高校を卒業してから十年が経過し、二十八歳にもなると、全く年かさを感じさせない人物もいれば、一方で露骨に風貌の変化が見られる人物も出てくる。F県藤見高校の旧三年二組のクラス会は、卒業以来ほぼ一年に一回開かれている。その間、毎回幹事を務めているのが島津謙太だ。彼はF県内の地方銀行に大学卒業と同時に就職し、去年からは東京支店に配属された。飲み物を片手に水上由希がやって来る。大手アパレルメーカーで働く彼女は、見るたびに雑誌の中から抜け出てきたようなファッションに身を包んでいる。

真崎修。このクラス会への出席率の高い一人で、かつてのムードメーカー。彼の後ろには、その元彼女、松島貴恵の姿もある。真崎はフリーのウェブデザイナーをしている。長く都内に住んでいたのだが、三年前に結婚したのと同時に、生まれ故郷にUターンした。今回欠席した里見紗江子は、貴恵の小学校時代からの親友で、そこに真崎を交えた三人で当時から仲が良かった。紗江子自身は、映画の配給会社で勤務している。彼らの話題は、女優になったキョウコ。ただ単に忙しいとか、用事があるから来ないのか。だが、彼女は有名になる前から、頑ななまでに欠席している。

キョウコを初めてテレビで見た時の半田聡美の衝撃ときたらなかった。ドラマを何気なくつけっぱなしにしていたら、その中に取り澄ました顔の彼女が急に登場した。一瞬、何かの見間違いじゃないかと思った。高校時代を同じ教室で過ごした、かつてのクラスメートの顔に他ならなかった。すると、その時だった。耳の傍らで流していた彼らの会話の中から、不意に信じられない言葉が飛び込んできた。来年こそキョウコを呼び出す。聡美がいいんじゃない。聡美だったら昔からずっと演劇をやってたわけだし。

キョウコと向かい合うことで思い出される、高校時代の幼く、罪深かった出来事。よみがえる教室の悪意。二十八歳の大人になった半田聡美、里見紗江子、水上由希、島津謙太、高間響子の現在と過去の想いを描き、ラストには、辻村深月らしい得意のどんでん返しが待っている。しかし個人的にだが、ミステリーのからくりは途中で気がついてしまった。だが、それを抜きにしても面白かったと思う。

しつこいほどの息苦しいい女同士の人間関係、陰湿な女の醜い部分、東京進出組による田舎で永住することを選んだ同級生たちへの優越感、自分はあの人たちとは違うという自意識、自分のポジションなど、読んでいると、いい意味でお尻のあたりがもぞもぞとしてくる。本作以前では、人物像をわざとぼやけさせて、それを活かして読者をおおっと驚かせていたが、今回は、人の黒い部分が濃厚に描かれていて、これが読者の興味を惹き、これが読ませるものとなっている。

外面の印象や、前はこういう人だったという決めつけを人は持ちがちだけど、実際は、他人の内面はわからない。そういう違いの面白さもあって、その一方で、自分の本心に気づかないように蓋をしていたところ、その本心に気づいてしまったときの、みっともないほどの狼狽ぶりといった心情、揺れる描写が見事に冴えた作品だ。辻村深月は進化している。そう確信した読書となった。ただ惜しいのは、本文にあった影響か、表紙の制服女子がカラスに見えてしまうこと。ちょっと怖いんだけど…。

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辻村深月
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    2009

01.11

「ふしぎ自転車チャリィ」松久淳+田中渉

ふしぎ自転車チャリィふしぎ自転車チャリィ
(2008/10/30)
松久 淳田中 渉

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明日からは夏休み。でも、だんだんリオは、気分が落ち込んでいった。リオは自転車に乗れない。リオは自転車のことを考えると、いつもゆううつになる。三つ年上のお兄ちゃんは、かっこいい自転車に乗っているのに、リオには自転車がない。お兄ちゃんの自転車は大きすぎて、ちょっと進むとすぐに倒れてしまって、膝や肘をすりむいてしまった。それ以来リオは練習をやめてしまった。だからリオはまだ、自転車に乗れない。

商店街の仙太郎サイクルをのぞくと、仙太郎の姿が見えなかった。そっと奥へ入っていくと、一台の自転車が、ガタンと勝手に動きだした。少し大きくて古めかしい感じの自転車だった。そこに現れた仙太郎は、真剣な顔になって説明を始める。その自転車は、チャリィという特別な自転車で、ここではない世界と行き来ができる自転車。そして、選ばれた人しか乗ることができない。その選ばれた人はチャリィに乗って、別の世界にお届けものをする。

このお届けものは、世の中の形を変えてしまうくらい重大な内容のものらしい。リオはチャリィに選ばれた。そして、お届けものをすることに頷いた。難しいことはわからないままだったが、リオには一つだけわかっていることがあった。それは自転車に乗りたいということ。しかもチャリィというすごい自転車に乗れるのだ。リオは勇気を奮い起こし、チャリィに乗って、ヘルメットに変形したツバメのスワロウルを案内人に、空の国「エアリア」に出発する。

松久+田中コンビによる新作は、ちょっとびっくりの児童ファンタジー小説。空の国エアリアでリオを待ち受けていたのは、ダークコロソという伝説の巨神復活と、影で暗躍するカクタス財団の策謀。そこで出会うのは、採光夫リーダーの息子だが、採光夫ではなく料理人になりたいエリナ、あらぬ容疑で連れ去られた大聖堂の司教の養女で、身を隠しているクレル、司教と一緒にさらわれるところをいち早く気づいて、クレアを隠してくれた老婆ジーナ。チャリィに乗ったリオは、彼らと共にエアリア滅亡の危機と戦う。

児童書らしい児童書であって、読みやすいけれど、それ以上に、これといった感想が出てこない。悪くはないのだが、特別面白いというわけでもない。この作家でなければ、たぶん手にしなかっただろう作品だ。ひとつだけ言えることは、この著者の児童書はもういいかな。「ラブコメ」的なユーモアがあれば、もっと楽しくなったかもしれないが、大人が読む分には物足りなさに満ちていた。残念。

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松久淳+田中渉
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    2009

01.10

「妖怪アパートの幽雅な日常1」香月日輪

妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉 (講談社文庫)妖怪アパートの幽雅な日常〈1〉 (講談社文庫)
(2008/10/15)
香月 日輪

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稲葉夕士は、今年条東商業高校へ合格した。条東商は、就職に関しては実績のある高校だ。寮もある。両親を亡くしたのは、中学一年の春。二人が、知り合いの告別式へ出席した帰りの交通事故だった。あの日から、親戚の家で暮らしてきた。伯父さん夫婦も悪い人ではなかったけど、自分の世話を大変な負担に感じていることが伝わってきた。そのうえ、伯父さんの家には、夕士のことを嫌う恵理子がいた。やっと親戚の家から出られる時だった。

そこに信じられないことを聞かされた。寮が家事で全焼し、建て直すのに半年かかるそうだ。ふと気づくと、夕士は電車に乗っていた。それは、条東商へゆく線だった。謎の声に導かれ、その不動産屋に紹介されたのは、家賃二万五千円、光熱費、水道代、賄い費込みという破格のアパート。そこには、大好きな詩人が住んでおり、即入居を決めた。だが、この寿荘は、近所では妖怪アパートと呼ばれていた。

偏執狂的なファンをもつ詩人にして童話作家の一色黎明。昼は高校に通い、夜は除霊師の卵として修行する久賀秋音。海外で人気があるという画家の深瀬明。怪しい骨董屋に、プロの霊能力者。それ以外は、手首だけの賄いさんのるり子さんとか、掃除おばさんの鈴木さんとか、会社に勤める佐藤さんとか、影の薄い少年クリとか、名前がついたモノ以外にも、実にいろんなモノがこのアパートには巣食っていた。

このアパートに来てから、夕士は自分の考えや常識が、あっちこっちでひっくり返り、そのたびにもう笑うしかなくて、そのうち本当に愉快になってきてしまう。両親を失い、シビアな世の中をたった一人で生きていかねばならないと、ずいぶん肩に力が入っている状態だった。笑っていいんだ。自分の考えや常識で、自分を縛る必要はないんじゃないかと思った。このアパートが持っている「渾沌」が、面白かった。妖怪アパート・シリーズ第一弾。

書店でなんとなく見つけてなんとなく買った本。これは買って正解だった。主人公が前向きで真直ぐな好男子で、あっさり読めてキャラ読みもできる。もうちょっと気楽にいこう。自分をよく知るためには違う場所から見なきゃダメ。といった分かりやすいメッセージも心にすうっと浸み込んでくる。これはぜひとも、続編を読んでみたくなった。次回作の文庫化を気長に待つか、手っ取り早く図書館で借りるか、少々悩むところではあるが。

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    2009

01.09

「あなたにもできる悪いこと」平安寿子

あなたにもできる悪いことあなたにもできる悪いこと
(2006/08/01)
平 安寿子

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檜垣は女相手のセールスが得意だ。口先ひとつで世渡りするスーパーセールスマンと自任してきた。だが、檜垣にとって、セールスの仕事はその場しのぎの遊びみたいなもの。そろそろ新しいこと、したいなあと思案していたところに、おあつらえ向きに時任が現れた。お互いに三十八になり、二十年ぶりの同窓会で再会した。親に出資してもらった会社を作った坊ちゃん社長が、商品が売れなくても二十万出すから働いてくれなんて言っているのだ。その営業初日に時任が逃げた。

残されたのは、時任と共同出資していたという無愛想な里奈という女。「バイトしない?」の里奈の誘いで、二人は仕事があるときだけコンビを結成。里奈が持ってくる仕事はそれほど金にならないが、このご時世、働かねば生きていけない。檜垣は里奈の呼び出しを受けると、うきうきと待ち合わせ場所のカラオケ屋「ざ・のど自慢」の部屋のドアを開ける。

財産を巡っていがみ合う家族。不倫と公費着服の事実を隠蔽したい教師。NGOを踏み台に野心を遂げようとする自称善意の実践者。宗教の教祖を操って私服を肥やそうとたくらむコンサルタント。票集めのために飛び交う裏金をかすめ取るのが生き甲斐の選挙参謀。檜垣と里奈は、欲の赴くままに進もうとする彼らの前に両手を広げて通せんぼし、中坊のカツアゲみたいな寂しい金額を徴収する。小心者の小悪党コンビが活躍するユーモア溢れる連作小説。

面白かったのは、不倫男の女関係を清算するお話。集められたのは、肝心の浮気男を抜いた、妻、愛人A、愛人Bの女三人。女の見栄やプライド、欲望などを、口ひとつで結末を慰謝料へと持っていく手腕にブラボー。だけど、それ以外はちょっと消化不良気味かな。このコンビは根が小心者なので、こんなところで手打ちするのかよ、とあっけなく手を引くのが早い。そこが相手に位負けしているようでスッキリしない。

その一方で、各話の冒頭では、檜垣が怪しい仕事の斡旋や、独自のビジネスをしている。熱演する訪問販売、ベビーシッター付き訪問エステの提案、キャバ嬢に客をキャッチするやり方を伝授、スピリチュアル・グッズの販売、インチキなペット葬儀社、雑誌の自費出版を持ちかける、とこれら小引き出しがおもしろく、読者のツボを刺激する。

他の平安寿子作品のように、キャラに魅力を感じたり、共感したりすることはない。類似する作品でいえば、「パートタイム・パートナー」に近いのかな。とにかく、気楽に読める作品だと思った。

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平安寿子
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    2009

01.08

「コスモス 二番目に好きなもの」光丘真理

コスモス―二番目に好きなもの (ピュアフル文庫)コスモス―二番目に好きなもの (ピュアフル文庫)
(2007/07)
光丘 真理

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桜の花は、おまえだよ。昨日のあいつの声が、もう一度聞こえてきた。キザなやつ。それなのに、胸の奥の響き合いは、次第に高鳴っていく。いつしか不思議な幸福感に包まれていく。あいつとあたしは、同じ年の兄妹。どちらも中学三年生。去年、父と母が結婚して、この家に一緒に住むようになった。あいつは瞬。母、洋子さんの連れてきた子。あたしはみかげ。父、澤井周平の連れてきた子。

薔薇がよく似合っていたママが入院したのは、あたしが小六のとき。検診で子宮癌が見つかったときは、もう手のほどこしようがなかった。ママはわずか三ヶ月の入院で亡くなってしまった。父がママ以外の人と結婚するなんて、本当は赦せない。どんなに優しくて可愛い人だって、ママじゃない。でも、仕方ない。もう決まってしまったから。これから、この四人で暮らしていかなければならない。うまくやっていくしかない。

みかげは新しい母のことを、心の中であの人と呼んでいる。でも、赦しているような態度を無理やりとってしまう。瞬もまた、あの人と呼ぶ。愛し合ったんだから赦してやれよ、と言いつつ、でも、浮気して離婚した実父よりも、父のことを憎いと言う。お互いに、彼らを家族として認めない子どもたち。気持ち的にはわかる。いきなり親や兄妹とは割り切れないだろう。

そういう始まりだから、結構重い話なのかなと思ったが、学校生活が始まると雰囲気は一変する。美希と百合香と友達になったと思ったら、百合香の母と教頭のスキャンダルが発覚し、沈静化したと思った途端、次は担任の先生との不倫。このエロババアは何をしてるんだ、とアホらしくて失笑していたら、百合香が自殺未遂。その騒動が収束すると共に、みかげは瞬に対してキュンという感情を抱くようになる。

そして、あの人呼ばわりしていた洋子さんとも、裸の付き合いをしたことがきっかけでいい方向へと向かいだす。この女同士が一緒にお風呂に入る場面はめちゃくちゃ涙腺がやばくなった。このあたりから、みかげの心の中でママとおかあさんの折り合いが付き始め、同時に家族の幸福感を味わう。その一方で、瞬のことを思うと胸の奥のほうで切ない痛みを感じてしまう。

展開としては王道だけど、こういう分かりやすい安易は好きだ。それに四十歳目前の洋子さんがとにかくかわいい。子どもは、生まれる環境も、育つ環境も、選ぶことはできない。けれど、そこに幸福だと思える何かを見つけられる可能性はある。それは人それぞれだけど、何もかもが嫌だと心を閉ざしていると、そこにあるはずの幸福にも気づくことができない。ピュアフルらしい、素敵な作品だと思った。

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その他の作家
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    2009

01.07

「その角を曲がれば」濱野京子

その角を曲がればその角を曲がれば
(2007/02/15)
濱野 京子

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美香の言葉が引っかかる。杏らしくない? 私らしいって何だろう。可もなく不可もなく、目立たず騒がず。この立ち居地はけっこう気楽で居心地がいい。美香と樹里とは、三年で同じクラスになった。一年の時、部活が同じで顔なじみになったため、なんとなく毎日一緒にいる。あまり深く考えずにバドミントン部に入った。けれど今ひとつ気持ちが動かず、秋の新人戦の少し前にやめた。美香も途中退部組だった。樹里だけはただ続けただけでなく、エースに成長して、ダブルスでは県大会でベストエイトまで進んだ。

樹里はちょっと幼い感じの美香を見て、つい世話をやきたくなるようだ。樹里にとっては美香がいちばん大事な友だちで、たぶん、私のことは少しばかり煙たいのだろう。でも、実際には帰宅部同士の美香と私のほうが、ともに過ごす時間は長かった。なんとなく一人になりたい時、図書室はかっこうの隠れ場所だった。ふいに声がして振り返る。声の主は、葛西真由子だった。クラスメイトだが、かなり変わった子だった。教室でも一人でいることが多い。どこか超然とした雰囲気があって、どことなく近寄りがたい印象があった。大学生とつきあっているという噂を聞いたこともある。

気がつくと、真由子を見ている自分がいた。真由子はどこの高校を受けるのだろう。美香からは、毎日のようにお嬢様学校に一緒に行こうと誘われていたが、ずっとあいまいな態度でごまかしてきた。樹里はスポーツが盛んな高校に早々と目標を絞っていた。私が漠然と考えていたのは市立のある高校だった。自由な校風と聞いていた。思い立ってその高校に見学に行くと、校門の前で見知った顔にあった。真由子だった。真由子に連れられて行ったのは、郷土クラブの部室。杏はこの風変わりな学校訪問で、この高校の受験を決めた。

本が好きな杏、甘えっ子キャラの美香、バドミントン部のエースの樹里。クラスでは仲良し3人組だけど、ときどきお互いの気落ちが読めないときがある。三者三様の思い。いろいろなことがある、15歳。女子って難しくって、めんどくさい。自分が男だからか、ついこう思ってしまう。女子グループの均衡を保つために、新しく友だちになった子と内緒で一緒に過ごしたり、それを知った一人は、あの子が悲しむと分かっていてそれを告げ口したり、それを聞いた女子は、あの人と話してほしくないと言ってしまう。

女子の世界って、こんなに閉鎖的なの? 男からすれば、すごく息苦しく思う関係だけど、しかし彼女たちはこの関係を大事にしている。少女期から、このようにちょっとしたことで気持ちが揺れるなんて、乙女心は複雑すぎる。そんな彼女たちが成長して、女性になると、男としては、益々、女心が分からなくなってしまうのだ。だけど、そんな窮屈な感じも、ひとりひとりが成長することで、相手を思いやる心の余裕を身につけていく。女子に共感はできなくとも、これはいい作品だと思った。フュージョンが良かったので読んでみたら、本書もアタリだった。今後もこの作家さんを追いかけて行きたい。そう思える読書となった。お薦め。

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濱野京子
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    2009

01.06

「光」三浦しをん

光
(2008/11/26)
三浦 しをん

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美花はとてもきれいだ。信之は同い年の美花とは幼なじみで、美花とセックスすることしか考えていない。その傍ら、信之は輔が生まれてからずっと、それこそ本当の弟のように思い、気をつけて面倒を見てきた。だがこのごろでは、輔が鬱陶しくてならなかった。どこにでもついてきたり、訳知り顔で信之の行動を嗅ぎまわる。親に殴られたから卑屈になったのか、卑屈だから殴られるのか、小心なくせにずうずうしい性格を垣間見せる輔に、しょっちゅう苛つかされる。

美浜島ほどうつくしい場所はほかにない。だが、夜を越えた美浜島は、家屋は倒壊し、港には無数の残骸が浮いていた。集落は廃墟となり、死体が脈絡もなく転がっていた。地震による津波が島を飲み込み、偶然山に入っていた信之、美花、輔の三人の少年たちは助かった。大人で助かったのは三人。灯台守のじいさんと、美花をじろじろ眺めていた観光客と、輔の父親の洋一だった。明日にも島を離れるというその日の朝、美花が観光客に強姦された。殺してはいけないと、いまのこの島で言うのは無意味だ。好きな女が犯されているところを見たら、だれだってああする。

あの朝のことは、信之と美花の胸の内にしまわれ、全ては闇に葬り去られたはずだった。二十年後、過去を封印して暮らす信之の前に、もう一人の生き残りが姿を現わした。輔だった。輔は信之に揺さぶりをかけようとする。ためらいもなく殺す信之も、美花以外のだれも愛せない信之も、輔は好きだ。信之は、輔の英雄だった。汚れて歪んだ英雄だ。再び身を起こす信之は、いったいどんな顔を見せてくれるだろう。楽しみでならない。信之が本来の姿を取り戻すなら、嫌われても憎まれてもかまわない。どうせ、いまさらだ。こうして新たな暗黒が生まれ始める。

これはすごいぞ。これまでに読んだ三浦作品とは、明らかに一線を画す作品。読んでみると気づくと思うが、ここに出てくる人物たちは、全員がまともじゃない。美花のためならば冷酷になれる信之。男に媚びることで生きてきた美花。父親の暴力を唯一慰めてくれた信之を慕う輔。それに信之の妻となった南海子もまた…。性格破綻者のオンパレードだ。

最初からラストまで、空気が重く、息が詰まりそう。だけど、読者はいとも容易く闇に引き込まれてしまう。暴力で傷つけられたものは、暴力によってしか恢復しないのだろうか。暴力とは、自然が起こす暴力もあれば、人為的な暴力、精神的な暴力もある。そして、秘密を握って黙すのも暴力。夫婦、家族とは何だろう。ここにあるのは、暴力の連鎖と限りない絶望。この人たちは、これからもこのまま生きていくのだろうか。

ラストは一見朝日が昇るようなのに、彼らに光が射しているようには思えない。この気持ちの悪さに背筋がぞくぞくする。万人受けするような作品ではないが、白夜行のような重厚で濃密な闇が好きな方は嵌るだろう。余韻の引きもグレイト。新年早々、すごい作品と出会ってしまった。本書は間違いなく、本年のベスト5以内に入る作品だろうことは間違いない。これは、すごい。

三浦しをんさんのサイン本。我がことながら、よく買うよなぁ。

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他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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三浦しをん
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    2009

01.05

「橋をめぐる」橋本紡

橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ
(2008/11)
橋本 紡

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深川を舞台に描く六つの人生。「清洲橋」「亥之堀橋」「大富橋」「八幡橋」「まつぼっくり橋」「永代橋」を収録。

「清洲橋」
清洲橋を渡った。五年ぶりだった。隅田川を絶対に渡るまいと誓ったわけではなかった。なんとなく隅田川を越えないまま日々は流れ、気がつくと五年が過ぎていた。友香は今、二十七歳。そこまで強く父を恨んでいるわけではない。あえて表現するなら、性格の不一致。父と折り合いが悪くなったのはいつだろうか。はっきりとは覚えていない。いつしか父のことを受け入れられなくなり、それはやがて嫌悪へと変わっていた。家庭における父は傲慢そのものだった。その父が老い始めた。

「亥之堀橋」
亥之堀橋を渡りきった十字路の角に、焦茶色の賃貸マンションが建っている。十二階建てである。一階に入っているのが耕平の店であった。楓という。耕平は長年、バーテンをやってきた。酒も触るが、心も触る。銀座時代から、耕平は揉め事の仲介を頼まれることが多かった。場所を変え、深川に移っても、染み付いたものは変わらない。昔から深川に住んでいる人間と、ここ数年で移ってきた人間とでは、考え方に大きな隔たりがあった。その町内会とマンションの自治会で揉め事が起こった。

「大富橋」
間近に迫った大学受験や、ライバルとの競争なんかに絡め取られ、身動きできないでいる自らを、陸は情けなく感じた。大富橋で思い出したのは、嘉人のことだった。陸にとって、嘉人は特別な存在だった。ライバルの吉岡なんかとは、まったく違う。家が隣同士だし、同じ年の生まれなので、ゼロ歳からの付き合いだった。かたや学校一の秀才。かたや学校一の不良。嘉人はそう、とんでもないワルだった。吉岡の通夜は、迷惑この上ないことに、センター試験の二日前だった。その吉岡は親に陸のことを友達と話していた。

「八幡橋」
佳子と翔太は八幡橋の下をくぐった。九歳になった翔太の学校と、佳子の勤め先である英会話学校は、同じ方向なので、時間が重なるときは、一緒に家を出るのだった。そこに携帯電話が鳴った。三崎からのデートの誘いだった。息子をシッターに預け、男と会う。母だが、女。翔太の次を欲したのは佳子だった。もとの夫はそこまで積極的ではなかった。二度の流産。和也は相変わらず優しかったし、時間が解決してくれることを願ったが、どうにもならなかった。別れを切り出したのは佳子の方で、和也はただ頷いた。

「まつぼっくり橋」
美穂と哲也が条件を口にしていくたびに、不動産屋の顔が曇っていた。家賃に割けるのは十五万円が上限で、それ以上は無理だった。明るいし、行動力もあるけれど、いざ決断を迫られる場面になると、哲也はためらうことが多い。あまり深く考えず、決断がやたら早い美穂とは、正反対の性格。哲也とはこの前、婚約を交わしたばかりだ。彼が勤めているのは、中堅のデベロッパーの設計部門だった。本人は意匠屋と称している。彼の大学時代の同級生が、深川の不動産屋に勤めていることがわかったので、案内を頼むことになった。

「永代橋」
お父さんとお母さんのあいだがぎくしゃくしていた。千恵の私立中学進学が問題だった。一日が憂鬱だった。隠すのなら完全に隠して欲しいと思った。意外なことが起きたのは、夏休み直前のこと。お祖父ちゃんのところに行くことになった。お祖父ちゃんのエンジは圓治と書く。笑うエンジに、通りがかる人がしょっちゅう話しかけていった。みんなが知り合いの、エンジの住む街は、千恵には不思議なところだった。友達ができた。ずっとここで暮らすことになっても、かまわないような気がしはじめた。でも…。


個人的に好きだったのは、バーテンダーらしく、空気を読んで空気に任せる「亥之堀橋」と、受験勉強がすべてではなく、もっと友情が大事と気づく「大富橋」と、理想と現実の不動産探しと、価値観の違う婚約者が滑稽な「まつぼっくり橋」と、両親の不仲の原因になってしまった少女と、それを救う粋な江戸っ子じいさんの「永代橋」だ。逆に、父との折り合いが悪い「清洲橋」は、自分と重って分かりすぎてダメで、母でも女という「八幡橋」では、それ以前に息子のことを考えろとムカムカ。六試合中、四勝、二敗かな。

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橋本紡
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