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    2009

02.28

「荒野にネコは生きぬいて」G.D.グリフィス

荒野

荒野にネコは生きぬいて (文研じゅべにーる)

車の後ろの席で、子ネコは丸くなって、うとうとしていた。突然、車が止まった。奥さんは、ネコのえり首をつかまえると、道ばたの高い草むらへ子ネコを運んでいって、ぽいと投げこんだ。これは何かの新しい遊びに違いないと、子ネコは思った。その時、車は排気ガスの煙をあとに、うなりを上げて走り去っていた。

時間はどんどん過ぎていった。子ネコには、この遊びがわからなくなった。子ネコは心配になってきたので、体を洗うことに決めた。ネコというものは、不安になると体を洗うものなのだ。子ネコは気持ちがゆったりし、それで草の上に丸くなって居眠りした。やがて太陽が沈み、あたりが寒くなり、子ネコは目を覚ました。

子ネコはびっくりした。これは遊びなんかではない。子ネコは歩き始めた。あっという間に夜がくる。フクロウの気味悪い鳴き声に、子ネコはびっくりして、茂みへ飛び込んだ。震えながら、そこに、うずくまった。都会で生まれた子ネコは、自分が住んでいた大通りの騒々しさだけしか知らない。やがて、子ネコは勇気をふるい起こして歩きだした。

人間に飼われていた子ネコは捨てられ、何ともいいようのない空しさを感じながらも、生きるために殺しをやり、危ないと感じると、すぐに身を隠す野性本能を目覚めさせる。そして、さまざまな災難にあいながらも、こここそ自分の落ち着く場所だと思えるところを目指して旅を続ける。これはネコを捨てた飼い主を責めるお話ではない。飼いネコから野良になったネコの一生を綴ったドラマなのだ。

うちにも現在、二人の同居ネコがいる。あえて二匹とは言わない。何故なら、彼らは立派な家族だからだ。この二人は、ペットショップから高い金額を払って、うちにきたのではない。一人目は公園に捨てられていて、二人目は食べ物を求めて迷いこんできた。警戒心をまだ身につけていない無邪気な子ネコだったから、うちに馴染むことができた。そして、家族の一員となった。

わがままで身勝手なネコ様に育ってしまったうちの子にも、同居人の知らない冒険があったのだろう。飲み水に食べ物。乱暴な人や危険な乗り物。彼らは、どんな困難を乗り越えて、うちにたどり着いたのか。すっかり野性が退化した今となっては、我が家のネコからは、そうしたハードボイルドは見えてこない。うちに来て幸せ? そう問うても、答は返ってこない。だが、同居人は微笑む。ゴロゴロとのどを鳴らすネコを見て。

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    2009

02.28

2月に買った本の代金

個人メモです。

計13.953円


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自分への戒め
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    2009

02.28

2月に買った本

単行本

喋々喃々喋々喃々
(2009/02/03)
小川 糸

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きのうの世界きのうの世界
(2008/09/04)
恩田 陸

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ROCK’N’ROLL SWINDLE  正しいパンク・バンドの作り方ROCK’N’ROLL SWINDLE 正しいパンク・バンドの作り方
(2009/01/30)
嶽本 野ばら

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ポトスライムの舟ポトスライムの舟
(2009/02/05)
津村 記久子

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オニロックオニロック
(2009/02/14)
中村航

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プリンセス・トヨトミプリンセス・トヨトミ
(2009/02/26)
万城目 学

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虎と月 (ミステリーYA!)虎と月 (ミステリーYA!)
(2009/02/03)
柳 広司

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文庫本

天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)
(2009/02)
大崎 梢久都 りか

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ピース (中公文庫)ピース (中公文庫)
(2009/02)
樋口 有介

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スカイ・イクリプス―Sky Eclipse (中公文庫)スカイ・イクリプス―Sky Eclipse (中公文庫)
(2009/02)
森 博嗣

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    2009

02.27

「雪蟷螂」紅玉いづき

雪蟷螂 (電撃文庫)雪蟷螂 (電撃文庫)
(2009/02)
紅玉 いづき

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絶冬のアルバント山脈にある部族が対立をはじめて数十年、刃しか交えたことのなかったフェルビエ族とミルデ族。二つの部族の族長が、和平の証に迎える婚礼は十年前から決まっていた。想い人さえ喰らう雪蟷螂とも言われるフェルビエ族の女族長アルテシアと、永遠生を信仰するミルデ族長オウガとの政略結婚だった。三十年という、長い長い、大きな戦の終わりを迎えるために、十年の間、二つの部族は停戦を保った。

フェルビエのために生き、フェルビエのために死ぬ。族長の娘として生まれた、それが己のさだめだと、アルテシアは思っていた。蛮族フェルビエの戦士は誰もが勇敢だ。しかし婚礼は彼ら、彼女らの戦ではない。二刀の剣を下げ、裾をさばけば、かしづくのはひとりの侍女。そしてひとりの近衛兵。一団はいらない。この身ひとつがあればいい。これは、私の戦だ。フェルビエの女族長は、フェルビエの民を背負ったまま、宿敵のもとに嫁いでいく。

だが、事態は一変した。死人狂いのミルデ。彼らは近しい人間、愛した人間、尊ぶ人間が死に倒れた時、その肉体を神の依代とするために、特殊な技術でもって死体を保存する。それは神の宿る木乃伊。祭壇を与え、彼らは木乃伊となったその死後を永遠生と呼んだ。ミルデ族長の永遠生は絶対の守り神だ。その賊は、先代の首を持ち去ったのだ。この婚礼の危機に、フェルビエのアルテシアは、その首を取り戻し、真実を明らかにすることを誓う。

谷の魔女は、隠者であり賢者。千里の瞳を持ち、この山脈のはじまりと終わりを記すと言われている。かつてフェルビエとミルデが争いを終結させるため、婚礼の約定を交わした。その立会いとなったのが、山脈の魔女その人だった。彼女は山脈においてもこうも呼ばれるようになった。盟約の魔女。女族長アルテシアと近衛兵トーチカは魔女の谷へと旅立ち、侍女ルイはただひとりで、すべてのフェルビエを、すべてのミルデを欺くアルテシアの影となる。


感想だけど、物語の展開上、書けないことがほとんどだ。だから、ここでは愛について語ってみることにする。まずプロローグでいきなりガツンと魅了された。生きることに絶望した少年は、幼き雪蟷螂の少女と出会う。絶望に凍る少年を溶かしたのは少女の口づけ。ああ、やはり愛の作家だ。だが、少女は成長した時、愛を持たない女に育っていた。彼女にあるのは戦うという心だけ。しかし皮肉にも政略結婚という運命に突き進んでいく。

そんな彼女の側に仕えるのは、影武者のルイと近衛兵のトーチカ。この二人は、忠誠心の人というよりも愛の人だ。そして過去にも激情の愛があった。その「ほんとう」を見た主人公が、愛するという想いを欠いていたと気づいた時、急速に物語は動き出し、冒頭の場面と繋がって、静かに終焉へと向かう。これは人喰い物語であり、深い愛の物語であった。言いたいことはただ一つ。著者は愛を伝道する、愛の作家だということ。

追記。前作の「MAMA」に続き、またもやサイン本を頂いてしまった。センセイ、ありがとうございます。次は買って売り上げに貢献したいと思います(笑)

紅玉2

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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紅玉いづき
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    2009

02.26

「カソウスキの行方」津村記久子

カソウスキの行方カソウスキの行方
(2008/02/02)
津村 記久子

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芥川賞候補作の「カソウスキの行方」と、「Everyday I write a Book」「花婿のハムラビ法典」の三編を収録。

「カソウスキの行方」
不倫カップルの軽いプレイに巻き込まれた結果、通販会社の本社から、郊外の倉庫管理部門に飛ばされた二十八歳独身女性のイリエ。都心に借りていた部屋はそのまま残し、友達の部屋に転がりこんでいたイリエだが、その友達が結婚することになり、会社が借りているアパートに移ることになった。このアパートの部屋は、異常なほど寒い。家具の下見に行った友達のはずんだ電話の声に、イリエはなんとなく意思の疎通ができる男性の数を数えてみた。二つ年下の藤村は悪くはないが既婚者。もう一人は森川君。ほとんど興味のない相手だけど、好きになったということを仮定して、仮想好きの日々を始める。

「Everyday I write a Book」
地下鉄に導入されるICカードをデザインしたのは、シカドという男で、野枝は直接みかけたことがあった。シカドは絵本作家兼ミュージシャンと結婚した。思う人が彼女持ちだったりすることはよくある話だが、シカドの場合は何か諦めきれない。シカドの妻になった茉莉のブログを見つけた野枝は、なんとなく読み続けてしまう。ブログの茉莉は、野枝の余裕のない日々を笑っている気がする。同じくブログを見ているオサダとは、ほとんど週に一回という付き合いをしている。だが、オサダは、なぜか十時を過ぎて一緒に居てくれるということがなかった。

「花婿のハムラビ法典」
ハルオとサトミは、ただ同期という関係だったが、サトミの退職を機に、唐突に付き合うことが決まった。時間にルーズではあったが、付き合い始めた当時は、本当に良かった。しかしサトミが就職して、多忙になり始めると、様子は違ってきた。三回に一度は土壇場で会えないと言われ、会えばいつものように遅刻した。そのわりには、バカな内容のメールを突然送ってくる。サトミの行動を数値化してみると、その結果にハルオは頭痛を感じた。そこでハルオは決意した。サトミの不義理一ポイントに対して自分もひそかに一ポイントで対応して、不義理のバランスを取ると。


表題作の「カソウスキの行方」は、暇を持て余したのか、寂しさからなのか、仮想好き生活を始めた主人公のバカさに、クスクス笑い、時に吹き出してしまい、大ウケだった。愛すべき女性とは、こういう人なのかもしれない。とにかく、正直でかわいい人だ。

次の「Everyday I write a Book」は、気になる男のはずが、その対象はいつの間にかその妻に変わり、けれどやるせなさはそのまま変わらない。寂しさを埋めてくれそうな男はいるが、希望どおりに埋めてくれない。作品としては小粒だけど、そういうもどかしさもあるかなあと。

最後の「花婿のハムラビ法典」も笑えた。時間にルーズな女に惚れてしまった男の対処法がすげえバカ。でもギブ・アンド・テイクを求めてしまう気持ちもわかる。これが惚れた男の弱みでしょうか。その対極にいるのが女。妹と母親には精神的に不安定なところがあって…、それはおまえのことやろ。こんな女は大っ嫌いだー! 

これまで読んだ津村作品の中で一番笑えた作品集だった。憎めないダメ人間たちが愛おしくなってくる。そんな味のある作品で、おすすめです。

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津村記久子
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    2009

02.25

「夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
(2006/04/11)
米澤 穂信

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小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢さかしらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! 恋愛関係にも依存関係にもないが互助関係にある小鳩君と小佐内さんは、今日も二人で清く慎ましい小市民を目指す。

高校二年生の夏休み。その初日に、小佐内さんが小鳩君の家までやって来た。おもむろに小佐内さんは地図を見せた。この街の地図だ。ただ、いろいろと書き込みがされている。地図のあちらこちらに赤い印がつけられ、そのそばに固有名詞らしい文字列が書かれている。それは〈小山内スイーツ・セレクション夏〉と題されたこの街の地図で、夏のスイーツコンプリート計画表だった。

第一章「シャルロット」だけはぼくのもの」で、小佐内さんとの川中島対決にあえなく敗れた小鳩君は、〈小佐内スイーツ・セレクション夏〉に、パートナーとして加入させられる。甘いものが苦手なもの(自分を含む)にとっては、この行脚は地獄の道行きだろう。そうして第二章「シェイク・ハーフ」では、堂島健吾が残した半とだけ書かれた謎のメモ。つまり暗号ミステリになっている。

そうした中で、小鳩君は、小佐内さんに対して釈然としない思いを持つ。夏休みに三日と空けずに甘いものめぐり、挙句にじゃれつくようななぞなぞメール、謎を解いた瞬間の小佐内さんの笑み。二人は互恵関係にあるものの依存関係にはない。なのに誘ってくる。何か企んでいる? その一方で、健吾はいつものお節介を発揮して、薬物乱用グループを追っている。

小佐内さんの謎の行動と、見え隠れする薬物乱用グループ。二つは平行したものだったはずだけれど、やがて一点で交錯する。そこで明らかにされる小佐内さんの狼ぶり。小佐内さんが愛しているのは復讐。やられたらより強烈にやりかえさずにはいられないという性格。それらの事件すべてが小鳩君の口から語られたとき、スイーツの甘さは見事に消えて、後味の悪さしかそこには残らない。

これは、ひどい。あまりにもひどい味だ。(本文ラストより)

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米澤穂信
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    2009

02.24

「ROCKER」小野寺史宜

ROCKERROCKER
(2008/11)
小野寺 史宜

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第三回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞作。

ミミこと堀美実は十六歳の女子高生で、卒業に最低限必要な日数しか出席しないと決め、信念を持ってプチ不登校を実践している。ミミは両親が離婚する前の姓は白鳥だった。イトコのエイくんこと白鳥永生は二十七歳の高校教師で、聞くところによると、ギターはすごくうまかったらしい。何年も弾いていないとエイくんは言うが、たまにギターを弾いていることをわたしは知っている。それこそ憑かれたように弾きまくっていることを。ミミはよくエイくんのアパートに行く。泊まっていったりもする。だけど二人のあいだに愛はない。だってイトコだから。

友達を作らない女子高生のミミは、イトコのアパートをひっきりなしに訪ね、いいかげん高校教師の永生は、戯言なのか詭弁なのかで人を煙に巻く。そんな二人の前に現れるちょっと変わった人たち。ストーカー少年の光倉元希は高校にロック部の創設を望み(「ROCKER」)、女教師の寺橋水面は男子生徒から告白されて悩み、その広尾未知彦は付き合ってもらえなければ死ぬと言う(「TEACHER」)、レストランでバイトしている新妻里世は総合格闘技に打ちこみ(「FIGHTER」)、校長の娘という柴田佐和は一度に友達と恋人を得て(「FATHER」)、ミュージシャンである父親のステージでギターを弾くことになった永生と、ミミは一曲歌うことになった(「SINGER」)。

本書を手に取ったきっかけは、いわゆるジャケ読みだ。少女の目力にふらふらっと引き寄せられたのだ。当初思っていた内容と少し違ったが、これは読んで正解だった。ここにあるのはロックだ。テキトーな永生の存在自体がロックだ。カチッと枠にはまらずに、行き当たりばったりで展開するストーリーもロックだ。そのロックを通じて、イトコ同士の新たな人脈が繋がっていき、そして、後ろ向きだったミミも少しずつ変貌していく。

最初はイトコ二人のやり取りに引き込まれ、しだいに増えていく魅力ある人物たちに楽しくなり、友達を作らなかったミミの謎が明かされると、その作っていた壁を取り壊し、あとは音楽の素晴らしさと仲間に感動する。幻のデビュー作がこの著者にはあるみたいだが、これが実質デビュー作といっても構わないだろう。だが、こなれた文章に、洒落た会話とテンポの良さは、新人とは思えない心地よさがあった。

これは掘り出したかも。そして今後もっと大きく羽ばたきそうな匂いがぷんぷんする。今の内にツバをつけていると、見る目があったと自慢出来るかもよ。おすすめの一冊です。

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その他の作家
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    2009

02.23

「ピアニッシシモ」梨屋アリエ

ピアニッシシモ (講談社文庫)ピアニッシシモ (講談社文庫)
(2007/01/12)
梨屋 アリエ

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一方通行の狭い路地に、トラックがすっぽり停車していた。吉野松葉のアパートは、トラックの先の辻を曲がってすぐのところだ。部屋に入ると、路地のトラックが遠ざかっていく音がした。松葉の部屋の窓は、時子さんの家の北向きのキッチンに面している。松葉は、時子さんの家の音を聞くのが好きだった。家にひとりきりの夕暮れに、ここに人がいますよと遠慮がちにコトンと響く隣家の生活の音。そして、やさしいあの音色。

松葉は、あの音がもれてこないかと、耳をそばたてた。いやな予感がした。作業員が運び出した大きな不格好な荷物に、ひとつだけ心当たりがある。質素でこざっぱりした時子さんの家の中で、唯一大きな顔をして威張っていたのがグランドピアノだった。さっきのトラックはピアノの搬出作業をしていたのに違いない。松葉の予感は、外れていなかった。松葉はときどき耳にしていた時子さんのピアノの音が好きだったのだ。

悪趣味だとわかっていても松葉はそのピアノの行方を追い、新しい持ち主の紗英と出会う。紗英は、自信家で高慢。しゃべらなければ、絵画みたいにきれいな子だ。それに特別な存在だと思わせる雰囲気がある紗英は、才能豊かなピアニストの卵だった。一台のピアノが、結びつけた松葉と紗英。同い年でも、性格も家庭環境もまるで違うふたりの物語。

松葉のおとうさんは出世よりも趣味に熱心なサラリーマンで、いわゆる食玩コレクター。おかあさんは雑誌やテレビのランキングをチェックするのが大好きで、ブランドにはうるさい。そんなふたりの娘の松葉は、飛びぬけて出来がよくも悪くもなく、自慢できるような趣味や特技がないので本人もパッとしないと思っている。

そんなとりえのない松葉にとって、はやくから能力を発揮している人はうらやましい。自信家で気まぐれな紗英という人は、大人の顔色をうかがったり媚びたりせずに、自分の直感を信じて行動する。協調と同調のなかで生きてきた松葉には、紗英のきっぱりした態度は快く、怖さと同時にひかれる部分があった。

理想の大人とは思えない親や大人たち。そんな不満ある世界で暮らしている少女ふたり。自分に絶対の自信を持っている紗英は、やがて現実から逃げ出してしまい、自分の個性に自信のない松葉は、紗英への一方的な思いが通じなくなったとき、自分じゃない何かを演じて過ごすようになる。そこで少女はあることを経験し、幼い頃には楽しい世界に住んでいたことを思い出す。そこで得た結論は、正しい間違いは別にして、それが少女の等身大といえる姿ではないでしょうか。第33回日本児童文芸家協会新人賞受賞作。

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梨屋アリエ
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    2009

02.22

「ホワイトクロウ」加藤実秋

インディゴの夜 ホワイトクロウ (ミステリ・フロンティア)インディゴの夜 ホワイトクロウ (ミステリ・フロンティア)
(2008/11)
加藤 実秋

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高原晶と塩谷がオーナーを勤めるclub indigoはオープン三年目を迎え、ホストたちの熱意には勝てず、リニューアルを決定。ジョン太の指名客のツテで、有名なインテリアデザイナーに内装を依頼し、工期を決めた。改装工事には約二ヶ月かかるが、その間、なぎさママに紹介された元タイレストランで仮店舗営業することになる。そういう流れが根底にあるからか、シリーズ第三弾は、個性派ホストたちのサイドストーリーになっている。

アフロがトレードマークのジョン太は、神山商店街にある神山食堂に通い始めた。料理が旨く、値段も安く、特に二件隣の魚屋から仕入れる魚料理は絶品。そして、もうひとつ、ジョン太が通う理由があった。アルバイトの加奈ちゃんに惚れてしまったのだ。数日後、神山食堂を含めた商店街全体にスプレー塗料で落書きをされた。加奈にいいところを見せたいジョン太は、ホスト仲間のDJ本気と、若手ホストで元ナンパ師という経歴を持つモイチと共に、犯人を捕まえようと行動する。「神山グラフィティ」

アレックスは売れっ子ホストの一人であると同時に、プロのキックボクサーとしてリングに上がっている。アレックスの所属する二宮ジムは、所属選手二十八名、フィットネス会員が五十名ほどの小さなジムで、その会長が拉致された。近所のマンションの一室にバカラ賭博の賭場が開帳され、気がつけば一千万円もの借金を抱えていたのだ。取り仕切っているのは島津興行の島津という男で、バックにはヤクザがいるらしい。会長に恩義があるアレックスは、ボンサック、新開一志と共に、会長救出作戦を実行する。「ラスカル3」

犬マンは仕事帰りに碑文谷公園で一服する習慣で、歳の近いタクミくんとはそこで知り合い、言葉を交わすようになった。その日、犬マンは公園内で男の死体を見つけた。被害者は窃盗と強盗、傷害の常習犯で、六年の懲役を終えて、二週間前からこの公園で寝泊りしていた。容疑者として、警察に連れていかれたのは、ホームレスのリーダー格だった男。実はタクミくんはホームレスで、お世話になったリーダーを助けたい、真犯人を捕まえたいと言い出した。「シン・アイス」

club indigoの改装工事がいよいよ始まり、仮店舗での営業も始まった。内装を担当する笠原は超売れっ子のインテリアデザイナー。その笠原のアシスタント白戸仁美がオフィスを出たまま失踪した。白戸とデキていた笠原は動揺し、改装工事は工期が遅れ出した。それ以来、笠原の部下がclub indigoに現れるようになり、頼まれもしないのに雑用をこなしていく。その上謎のタイ人からの電話も度々かかってくる。迫りくるリオープンの日。仁美はジョン太の指名客でもあるため、indigoの面々は捜索を始める。「ホワイトクロウ」


ジョン太、アレックス、犬マンの物語が三編続き、最後に晶視点の物語が締める。そのせいか、ホストたちの活躍度は若干控えめで、ホストたちのプライベートな部分がわかるという点では面白かったけれど、これはインディゴではない。晶と塩谷のオーナーコンビ、マネージャーの憂夜さん、ジョン太たちホスト、四十三万円ことまりんを抱えたなぎさママ、豆柴こと刑事の柴田、そして、ホスト業界のトップに君臨している空也が揃ってこそ、インディゴだと思う。そういう意味でいえば、表題作だけが空也こそ登場しないがこの条件をクリアしている。ジョン太の恋模様を描いた「神山グラフィティ」も面白かったけれど、そんなこともあって少し物足りなかった。でも、ポンサックは好き(笑)

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加藤実秋
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    2009

02.21

「森に眠る魚」角田光代

森に眠る魚森に眠る魚
(2008/12)
角田 光代

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引っ越してきて、新人ママになった繁田繭子。ものすごい人見知りをする息子を持つ久野容子。息子を母に預け、お洒落して外出する高原千花。ボランティアの人脈だけがすべてだった小林瞳。母子ともにブランドを身にまとい、不倫関係を制裁できずにいる江田かおり。東京の文教地区の町で出会った五人の母親。育ってきた環境も、今の生活水準も違う母親たちだが、やがて母親たちは育児を通してしだいに心を許しあう。

繭子は開けっぴろげで話していて気持ちがいいし、容子はもの静かだが思慮深さが感じられ、かつて母親たちに感じた違和感を、瞳なら隅々までわかってくれるだろう。千花は派手で華やかだけど、気さくでこまやかな気配りができて、かおりは高級品に囲まれた理想の生活を過ごしている。この人たちとなら、ユウくんママ、コウちゃんママといったよそよそしいつきあいでもなく、ママ友なんて一時的なつながりでもない、もっと長いつきあいができるのではないか。だれかの母とか、だれかの妻ではなく、自分自身として。

だが、五人の母親は、小学校受験をきっかけにすれ違い、深い森の中へさまよい込んでいく。羨望、気後れ、嫉妬、疑心、不快感、疎外感、依存、陰口、被害妄想。他人と比べることで、母親たちは負の感情に溺れてしまうのだ。今、なんでここにいるんだろう。あの人とはわかり合えるはずだから共感したい。なのになぜ私を置いてゆくの。子どもを預かってあげたんだから……。あの人たちと離れればいい。そうだ、終わらせなきゃ。果ては憎悪。相手の存在自体を否定するまでになっていく。

母親たちの子どものためという考え自体が、自分の見栄でしかないように思う。それぞれの夫たちは、妻まかせというポジションに定着させてはいるが、この母親たちにもし意見を言ったとしても、口論でねじ伏せて、結果的に我を通してしまう人のように思えた。お受験を経験した方は、ここに共感を得るのだろうか。自分にはこの負の連鎖がわからないし、彼女たちが怖くてしかたなかった。

そんな母親たちの狂騒の中で、当事者である子どもたちが、とにかくかわいそうだった。子どもは親を選ぶことができない。その頼るべき母親が熱病にかかったように狂ってしまい、子どもたちの目にその母親はどう映っているのか。それを思うと寒気がする。そんな中で、おいら口調の光太郎くんの存在が、閉塞感が漂う息苦しさの救いになっていたように思う。そのようなお受験熱が醒めたあと、一気に訪れる静けさに、読者は考えさせられる。あれは何だったのだろうと。

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角田光代
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    2009

02.20

「君は永遠にそいつらより若い」津村記久子

君は永遠にそいつらより若い君は永遠にそいつらより若い
(2005/11)
津村 記久子

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主人公は掘貝佐世(ホリガイさん)。大学四年生で、卒業までの単位もすでに取得し、地元の地方公務員試験の合格通知をもらっている。だから、後の学園生活には、まったく予定がなく、バイトと学校と下宿を行き来するだけのぼんやりとした生活を送っている。ホリガイさんは二十二歳でいまだ処女。しかし処女という言葉にはもはや罵倒としての機能しかないような気もするので、童貞の女とか、不良在庫とか、劣等品種とか、ヒャダルコとか、ポチョムキンとか、何か別の言葉で呼んで欲しいと思っている。そして、適当なことを言ってはへたをうってばかりだから、変わった女の子だと思われ、根っこは人がいいので損ばかりしてしまう。

河北がいなければアスミちゃんと出会うこともなく、吉崎君が河北ともめていなければ、アスミちゃんを部屋に連れ帰ることもなかった。アスミちゃんがいなければイノギさんに声をかけることもなかったし、ヤスオカがうちにこなければ、イノギさんがあのことを切り出したかどうかわからない。穂峰君がまだ生きていれば、今ごろイノギさんといっしょにいたのかもしれない。少なくとも、疎遠になってしまうことはなかったのかもしれない。逆に会うこともなかったのかもしれない。第21回太宰治賞受賞作。

だらだらした日常も、人と関わることで、また新たな人との関わりが生まれる。それは通り過ぎていく人たちなのか。それとも、また逢いたいと思う人なのだろうか。そうした綱がりを得たことで、すぐそこに悪意があることを知る。その悪意によって、誰にも言えない弱さを抱えた人がいる。それを打ち明けられた時に何も言えずに歯噛みをする自分がいる。そうして月日が経ち、自分の答えが出た時、はたして相手に伝えることはできるのだろうか。

読んで思ったことは、強いなあ、ということ。そして、彼女にとって、それがいい出会いだったということ。面白い本だと思っていたのに、加速する終盤に感動が待っていた。この強引な作品展開に着いて行けたら、負けない強さや、わかってしまえる想像力のすごさに、身が震えるかもしれない。そうでない場合があるかもしれない。自分は前者だったので、これはすごかった、と言いたい。童貞も無事に捨てられたことだし、ってオイ。

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津村記久子
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    2009

02.19

「ROCK’N’ROLL SWINDLE」嶽本野ばら

ROCK’N’ROLL SWINDLE  正しいパンク・バンドの作り方ROCK’N’ROLL SWINDLE 正しいパンク・バンドの作り方
(2009/01/30)
嶽本 野ばら

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作家・嶽本野ばらは思った。出版した長編「変身」を読み返してみると、これはとんでもなくコンサバティブだと。基本的にパンク出身だった野ばらちゃんは、コンサバが大嫌い。なのに、コンサバ系ポップスを出してしまった。それゆえに、ずっともやもやして、自己嫌悪に陥って、バランスを取るのにパンクを聴きまくる日々を過ごす。そのうち、只のオーディエンスでいるのみでは耐えられなくなり、自分でもギターを弾きたくなってしまう。だが、ギターを弾いた経験などなかった。

というわけで、楽器店を訪問した野ばらちゃんは、ギターを始めるに必要な最小限の機材を買い求めしてしまう。そしてギター教室に通い始め、コードを一から習い出す。そうするうちに、懐かしい人から連絡が入った。ギタリストであり、ライブハウスの店長をする山本精一氏は、ギター教室に二回通っただけで、まだ、スリーコードも抑えられない野ばらちゃんに対し、ライブハウス二十五周年の記念イベントに参加してみないかと打診してきた。やるからには本気でいきたいと、野ばらちゃんはバンド結成を決意する。

当然ながら一人ではどうしようもない。思案した結果、かつてイベントでギターを弾いてもらったことがある、野ばらちゃん曰く、只のアホではない伝説のアホ集団、元DroopのMieshaを誘う。そして、その彼女が残りのメンバーを連れてきてくれた。ドラムは魔太郎クン。伝説のパンクバンド・WILLARDにいたというバリバリの経歴の持ち主。ベースはYURIA。本来はヴォーカル兼ギターで、主にアニメやゲームの主題歌などを歌っているアニメ&ゲーム界で名の通ったアイドル。

ヴォーカル兼ノイズギター:嶽本野ばら、ギター:Miesha、ベース:YURIA、ドラム魔太郎。こうしてパンクバンドDRAEWRS(ドロワーズ)は結成される。テキトーなスタジオでのリハ。無計画なバンド活動。思いつきで決まる目標。大麻不法所持による現行犯逮捕。バンドの危機。復帰の目処が立たないバンド。そして、ついにやって来た初ライブの日。

これがとてつもなく面白い。バンド経験者も、そうでない方も、笑いどころ満載のパンク・サクセスストーリーになっている。初心者の野ばらちゃんで笑い、バンドでは真面目だけど日常で暴走する魔太郎でまた笑い、ハチャメチャな論法で人を煙に巻くMieshaで大爆笑してしまう。特にMieshaと魔太郎のやり取りは吹き出し笑いの覚悟が必要。とにかく、何でっていうぐらい個性的なメンバーが集ってしまった。

そして、バンド小説って、人物に感情移入できたとしても、音楽のイメージが沸いてこないところが宿命的ではあるが、これはそんなマイナス部分を吹き飛ばす飛び道具がオマケとして付いている。なんと、DRAEWRSの初ライブ映像がDVDでスペシャル付録されているのだ。Mieshaの歪んだギター音、YURIAのグルーブあるベースライン、魔太郎のタイトなリズムを刻むドラム。カッコいい~!ルックスも音もカッコいい。肝心の野ばらちゃんはどうかって?それは読んだ人、映像を見た人に委ねたいと思う。買った人の特権だしね。


レポを一つ。嶽本野ばらさんのサイン会に参加しました。雰囲気がこれまでにない異常ぶり。女子率98パーセント。とにかく、男がいない。その集まった女の子たちが、下妻の桃子ちゃんたちばかり。さすが乙女のカリスマと言われるだけあるな~。

嶽本

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嶽本野ばら
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    2009

02.18

「七つの海を照らす星」七河迦南

七つの海を照らす星七つの海を照らす星
(2008/10)
七河 迦南

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七海学園は児童福祉法に基づく養護施設。親の死亡や離婚、虐待など、家庭で暮らせない事情のある、おおむね二歳から高校三年生までの子どもたちが生活している。勤めて二年目の北沢春菜は二十四歳。職業は保育士。今は仕事が恋人、のはずが、最近この恋人はつれない。憂鬱な気分のおおもとは、中二の葉子なのだ。彼女は学園のルールからの逸脱が目立ち始め、職員の皆が手を焼いている。学園一の情報通である亜紀はいう。葉子は先輩に取り憑かれている。だから他の子たちまで葉子を恐れている、と。児童相談所が好きではなかった春菜だが、ベテラン保育士に連絡するよう言われたので逆らえない。だが、やって来た担当児童福祉司の海王さんは、今まで出会った担当者とは違った空気をまとう人だった。「第一話 今は亡き星の光も」

第18回鮎川哲也賞受賞作である本書は、児童養護施設「七海学園」を舞台にした連作短編集。登場する少女たちには、それぞれに心に秘めた何かがあり、その聞き取り役は保育士の北沢春菜で、謎解き役は児童福祉司の海王さんである。その少女たちに人間ドラマがあって、これが各々に読み応えがあって面白い。そして、彼らには明日という未来がある。その児童に対する春菜の決断がまた、心憎いのだ。

中学二年生の亜紀は、おしゃべりで、軽薄で、いつもあてにならない噂話を抱えてやってくる。そんな亜紀の得意な話題の一つが「学園七不思議」。学園内外のどこまで本当かわからない奇妙な話、怪異を仕入れてきては、「これが七不思議の一つ」と紹介して皆を驚かせたりひんしゅくを買ったりしている。その亜紀が持ってくる七不思議と、七海学園で生活する少女らがからみ、六つのミステリーを形成している。

そして、最後に七番目の不思議が浮かび上がってくるという仕掛けになっている。一話一話の伏線が最終話へと繋がっていて、その最終話のラストを読んで、張り巡らされた伏線の緻密さに唸らされるのだ。これがデビュー作とは思えない構成力で、文章にも独特なリズム感があり、上下二段の文字に臆すこともなく、ページを捲る手が止められなかった。日常の謎系ミステリに新たな書き手が誕生。今後の活躍が益々楽しみになった。

以下収録作。「今は亡き星の光も」「滅びの指輪」「血文字の短冊」「夏期転住」「裏庭」「暗闇の天使」「七つの海を照らす星」 最終話がなければ、各編それぞれのあらすじを書いていたのに。

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    2009

02.17

「マイナークラブハウスへようこそ!」木地雅映子

マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫) (ピュアフル文庫)マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫) (ピュアフル文庫)
(2009/01/10)
木地 雅映子

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桃李大学付属、那賀市桃李学園、高等部。偏差値でも、スポーツでも優秀な、県下一の有名私立大学付属の中高一貫校。小さな里山ひとつ、全部が学校の敷地で、まるでひとつの町。ひとつの独立した共和国。その学園の奥深くに古ぼけた洋館がある。正式な名称は桃園会館。しかし生徒たちからは「マイナークラブハウス」と通称されていた。つまり部員5人未満のマイナーかつ弱小な文化部が集うクラブ棟である。

「第一話 内田紗鳥、桃園会館に足を踏み入れたる縁」
内田紗鳥は、バレーボールの特待生として、高等部からの入学を果たした。中学時代はキャプテンで、エースアタッカー。無事に合格して、入部して。なんだか、雰囲気がぎすぎすしているような、と思ったのは、勘違いではなかった。派閥があり、先輩、後輩の上下関係がやたら厳しく、おっとりしてどこか融通の利かない紗鳥は、全てのケガレを受けさせられて排除された。帰り支度で校門まで歩き、教室へ引きかえし、そうやって、うちに帰りたくなくて時間をつぶしているうちに、ふと足を踏み入れたのは、マイナークラブハウス。

「第二話 福岡滝、珍妙なる友を得る縁」
あたしたちみんな、滝ちゃんの部下じゃないし、もう、一緒の部で活動するのは、こりごりなの。高等部の手芸部で、もっとすごい服を、作ってやるんだ。そんな野望に燃えて、入部の手続きにやってきた福岡滝を出迎えたのは、中等部からの手芸部メンバーの直談判チームだった。やはり、入部届けを出せなかった滝は、帰国子女の畠山ぴかりと友達になり、不思議系女子のぴかりのハイテンションに振り回されつつ、部活勧誘会を見学する。そこに奇怪な葬列が出現し、中庭をぐるっと回って、古い洋館へと吸い込まれていった。

「第三話 高杢海斗、探求への一歩を踏み出したる縁」
中等部時代の高杢海斗は、自分では自分の女の子を見つける事の出来ない男子がみんなで妄想するというグループにいた。海斗が高等部で入部したのは歴史研究会。寮のルームメイトである天野晴一郎は、無口で無表情で、不気味な事この上ない。園芸部員の天野は、海斗も所属している奇妙な共同体の立派な一員である。学内の奇人・変人・はみ出しものばかりが寄り集まった、桃李学園の辺境地帯。弱小文化部ばかりが部室を置く、桃園会館。別名、マイナークラブハウス。その日、海斗は思う。寮に来てよかった。歴研に入ってよかった、と。

「第四話 八雲業平、岐路にて痛みを知る縁」
中等部の軽音楽部に所属する八雲業平は、中高生バンドのコンテストでミツアキと知り合い、かれこれ1年以上のつき合いになる。実力の釣り合った同士。しかし、ここへ来てどうも、その二人の実力に釣り合う、他のパートが見つからなくなってきた。その日ふたりは、中等部へ向かう途中、踏み分け道に入っていった。歩くにつれ、音楽が聞こえてきた。二人の目の前には、ひと昔前のミステリードラマに出てくる洋館みたいな、古ぼけた建物が出現した。それをバックに、がんがんにノリまくる、二人の対照的な女。衝撃が走った。

「第五話 畠山かおり、目覚めて夢を見る縁」
畠山かおりは面談室に案内された。娘のぴりかの担任教師との面談で、かおりは無意識に、優先順位を考える。なにをいちばん隠すべきか。どちらを知られるのが、より危険であるか。来校者用の玄関を出たところで、ひどい耳鳴りに襲われる。今にも気を失いそうだ。前後に人影がないのを確認してから、大きな木の後に回り込み、乾いた枯れ葉の上に腰を下ろし、目を閉じた。誰か来る。ぴりかの声に似ている。喋り方がひどく幼く、軽薄だったが、その独特の、潰したような甲高い声は、間違いなく娘のぴりかのものだ。

「おまけ マイナークラブハウスの大掃除」
演劇部の福岡滝と園芸部の天野晴一郎は、買出しチーム。歴研部の高杢海斗と三浦先輩と大賀竜之介、和琴部長の沢渡美優は、大掃除チーム。八雲業平とミツアキは、おじゃまチーム。演劇部の畠山ぴりか、文芸部の岩村聡、ウクレレ部の大村鈴は、準備チーム。今日は鍋を囲んだ、桃園会館七つのマイナークラブを率いていく部長就任式。

ふつうと闘った前二作とは違い、第三作となる本書は、突き抜けた人たちが主人公。みんなキャラ立ちしていて、中でも視点になることはないが、謎の多いぴりかの存在感が抜群。そのぴりかは、どの人が視点になろうとも、その不思議系キャラで絡んでくる。そして終盤に入ってくると、ぴりかの謎が少しずつ明かされていく。そこが連作集の面白味であり、一見彼らが自由に見えても、実は本書でも何かと闘っている姿が浮き上がってくるのだ。まだ語られてないことがあるし、続編の出版が待ち遠しい。

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木地雅映子
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    2009

02.16

「プラスマイナスゼロ」若竹七海

プラスマイナスゼロプラスマイナスゼロ
(2008/12/03)
若竹 七海

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葉崎山高校に通う少女三人。成績優秀品行方正、でも不運に愛される美しいお嬢様の天地百合子さまことテンコ、成績最低品行下劣、極悪腕力娘と陰で噂される黒岩有里ことユーリ、成績・運動能力・容姿・身長体重バストヒップはおろか靴のサイズまですべてが全国標準という、歩く平均値である崎谷美咲ことミサキ。なんとなくつるんでいるバラバラの三人。ある時、センコーが三人を見て、こう言った。プラスとマイナスとゼロが歩いてら。

そんな三人が通う葉崎山高校は、その名の通り葉崎山のてっぺんに建っている。五十年前、葉崎ファームという牧場のオーナーが、その山の一部を市に寄贈したことでできた。山道をてくてく登るしかない地の利のおかげで、登れる体力のある人間の使う施設に作るしかなかった、というのが創立の理由。なだらかな山の大部分は葉崎ファームの敷地になっていて、山道の片側は牛が草をはむ牧草地帯、もう片側は手つかずの森。牛の糞を踏まないように注意しながら、遅刻しないように山道をダッシュ。それに蛇の攻撃を受ける覚悟もしなければならない。

プラスマイナスゼロのトリオが遭遇する数々の事件。「そして、彼女は言った」では、幽霊にまとわりつかれ、「青ひげのクリームソーダ」では、完全犯罪をねらった事故現場の目撃者にされそうになり、「悪い予感はよくあたる」では、犯人はおまえだと真相を突きつけ、「クリスマスの幽霊」では、保険金詐欺の嘘を暴き、「たぶん、天使は負けない」では、マジシャンに振り回され、「なれそめは道の上」では、三人の少女の出会いと、濡れ衣事件が描かれている。

少女三人のアンバランスなキャラで読ませ、そこにユーモアと少しのミステリが加わり、最後にブラックなオチですとんと落とす。でも第一作の「そして、彼女は言った」では、最後のオチを読んでも理解できず、ぱらぱらとページを戻って、見つけたその複線の一行がオチに繋がっていたと気づく。三作目の「悪い予感はよくあたる」では、終盤に視点が誰であるかで混乱した。

そんな中で個人的な好みは、二作目の「青ひげのクリームソーダ」という作品で、そのラストではおおっと歓声をあげたくなった。ショート作の「クリスマスの幽霊」もスピード感があって面白く、最後の「なれそめは道の上」は別格でしょうか。これは楽しい青春小説であり、後味のわるい若竹風ミステリではありません。テンコがどんな不運に見舞われるかを楽しんでみましょう。

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若竹七海
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    2009

02.15

「月への梯子」樋口有介

月への梯子 (文春文庫)月への梯子 (文春文庫)
(2008/12/04)
樋口 有介

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ボクさんの知能は小学校の中学年程度でとまっているから、直前の用件や何時間先の予定を忘れることが、しばしば起こってしまう。本名は福田幸男で歳は四十、この歳になっても自分のことを「僕、僕」と自称し、周囲からいつの間にか「ボクさん」と呼ばれるようになっている。母親の寿子は父親が死んで以降は特に、立ち居振る舞いや身だしなみ、そして他人との接し方に関するボクさんへの躾に、異常な執着をみせた。それらは知能の停滞したボクさんに残せる、母親としての切実な処世訓だった。

ボクさんの仕事は「幸福荘」というアパートの管理と、近所の雑用。幸福荘は二十年前に寿子が自宅をアパートに改装したもので、部屋数はボクさんの居室を除いて全六室。どの部屋にも小体な台所とユニットバスがあり、桜台では先取的な間取りだったから、お陰でボクさんには沢渡屋や電気屋への貸地料を含めて毎月四十万円の収入がある。ボクさんがアパート経営の仕組みを覚え、メンテナンス技術を取得した八年前に、寿子は脳溢血で他界した。

平和に暮らしていたボクさんだがある日、アパートの外壁塗装を始め、5号室の窓前まで来たとき、カーテンの隙間から内部の惨状を目撃した。その瞬間、梯子の上で気を失って落下。入院して四日目に意識をとり戻した。栗村蓉子の死も現実、頭の鈍痛も足腰の打撲痛も現実、それらの現実はすべて容認するにしても、ボクさんが入院した翌日に幸福荘の全住人、団子木真司、雨貝孝作、物舟逸郎、青沼文香、軽井勇の五人全員がアパートから姿を消してしまったという説明は、どうやって納得すればいいのだろう。

梯子からの転落事故の影響か、体重が十二キロも減り、ボクさんの頭痛と不快感がすっかり消えたとき、記憶や知識や感情が脳のなかを我が物顔で行き来するようになっていた。それと、信じられないことではあるが、団子木は空き巣の常習犯で、雨貝と文香は名前と身分を偽っていた。気がつかなければ人の善意の中でだけ生きていけた。だが、知能を得たことで、見えてしまう真実。ボクさんは殺人事件を、そして失踪した住人たちの謎を探り始める。

読み始めは、ボクさんの設定に反則かなと思っていたが、脳に変化が起こってからは、いつもと同じハードボイルドに。これでやっと安心。だけど、その変化がきっかけで、人は善意だけじゃないことが見えてしまう。懇意にしていた不動産屋もそうだし、眺めるだけで幸せだった幼なじみの京子もまた、一人の疲れた中年女へと目に映る。そして幸福荘が悪の巣窟だったという事実。そんな現実に直面しても、ボクさんの持つかるみが救いとなっている。不遇の少女の行く末、京子との関係など、彼女らが救われていく姿は感動的。だが、その最後の最後で、読者の爽快な気持ちを揺るがせてしまう。あの託した指輪。あれをいい方向への予兆と、彼女の助けになると、そう思いたい。

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樋口有介
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    2009

02.14

「短劇」坂木司

短劇短劇
(2008/12/17)
坂木 司

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たとえば、憂鬱な満員電車の中で。あるいは、道ばたの立て看板の裏側で。はたまた、空き地に掘られた穴ぼこの底で。聞こえませんか。何かがあなたに、話しかけていますよ。坂木司、はじめての奇想短編集。少しビターですが、お口にあいますでしょうか。《本の帯より》

この帯の内容紹介はなんでしょうか。わかりやすくいえば、二十六のショートショート作品集。ここでいつもなら、個別のあらすじをみっちりと書くところだけど、さすがに二十六も書いていられない。そこで今回は、一行あらすじと、一行コメントという形式にしたい。

「カフェラテのない日」
満員電車のラッシュが耐え難いものに感じられたとき、反射する窓越しの彼女の後ろには。
ちょいとベタすぎ。でも嫌いではない、というか、こんなのに憧れる。

「目撃者」
会社の給湯室で人を見つめている流し台は、あの女だけは嫌いで、怒りがふつふつと。
初のSF作品。そして、心が宿った流し台は危険だ。

「雨やどり」
男女ふたりは、にわか雨に降られて書店に飛び込んだ。大学で同級だった二人の関係とは。
切な~い。だけど、男の気持ちはわかる。

「幸福な密室」
エレベーター内で女の子がじろりと俺を見た。そのとき停電が起こり、閉ざされた密室に。
シュールかつブラック。自分なら、一撃いれてたかも。問題あり?

「MM」
いつも巡るサイトに書き込まれた投稿。それはまるで自分のことだった。
さらっとしすぎで、オチは弱いかな。

「迷子」
人から愛されることがない堅物男は、人生ではじめて、初対面の人間に愛されたいと願う。
主人公の思考がもうひとつ伝わってこない。

「ケーキ登場」
あるカップル。誕生日の女。初老の男性と少女。レストランでそれぞれに思うこと。
多視点によって明らかにされるその内面。そこに面白さがあった。

「ほどけないにもほどがある」
ステカン貼り業界に現れたあいつ。その仕事ぶりは、プロとして矛盾したものだった。
何これ。正直よくわからなかった。

「最後」
河原にくるのも最後。蕎麦屋も、女遊びも、夜景も最後。最後を満喫する男たちだが。
ラスト一行の落ちがキレていた。これは素晴らしい。

「しつこい油」
女は実害を受けると、こつこつ行動を起こす。三度目の実害に、女は毒を作り出した。
執念と計算がとにかく気持ち悪い。黒いな~。

「最後の別れ」
絶海の孤島で生き残ったのは、敵同士だった兵士ふたり。その時、彼らが出した結論とは。
シュールすぎて、良さが見えてこない。

「恐いのは」
二人の老人が椅子に腰掛けて会話をしている。昨今は怖いですね。本当に怖いのは。
淡々とした会話で読ませるには、リズム感が欠如していたような。

「変わった趣味」
人型ロボットが浸透した東京。男たちは、ロボットを使ったプレイを打ち明けあう。
SF設定も、男たちのプレイも、ラストの落ちも、すべて中途半端。

「穴を掘る」
どうしようもなくやりきれない気持ちの行き先がなかったから、男は穴を掘り始めた。
これは素晴らしい。始まりから終わりまで全部が好みだった。

「最先端」
最先端のつけ爪に魅せられた女は、もどきと知りつつ安易に手を出してしまう。
新しいもの好きという人の心理、人の愚かさを皮肉った黒い話。キモいけど、好き。

「肉を拾う」
男は毎日、その施設で肉を拾い続ける。その日、男は青年から仕事の相談を受ける。
うげっ。これも食肉偽装? 頼むからやめてー!

「ゴミ掃除」
ふと暴力的な衝動が芽生えることがある。そんな時の男のストレス解消法とは。
倫理的にはダメだけどすかっとする。これはいいぞ。

「物件案内」
今では絶対にこの部屋を離れたくない。それもこれも、あの不思議な不動産業者のおかげ。
黒の中に咲く一輪の白。ほっとするね~。

「壁」
友人の旅行中、鳥の世話を仰せつかった。きれいだと思われたその部屋だったが。
微妙に面白くない。落ちにキレがあればなあ。

「試写会」
映画の試写会が当たった。男が試写に向かうと、そこで待っていたのは。
因果応報、地獄に落ちろ(by「少女」湊かなえ)。黒いけれど、気持ちいい~。

「ビル業務」
近くのビルのトイレに駆け込んだ男は、個室の壁に隠された通路を発見。その先には。
展開でいえば平凡だけど、話としては面白かった。

「並列歩行」
男は歩き続ける。なぜなら、向かい側の歩道には、そっくりな男が歩いていたから。
負けたくないという心理が絶妙。ただ、もう少し落ちにパンチがあればなあ。

「カミサマ」
四十歳を迎えた男には、夢も希望もなかった。男は樹海の奥へただただ歩いていく。
これまたシュールだ。そして変テコだが、狙いはわかる。

「秘祭」
とある地方のとある村に、他言無用の秘祭があった。男はその祭の見学を許された。
これが一番笑えた。当事者は悲惨でしかないけれど。

「眠り姫」
眠り姫を自分の目で見た者は、世界の秘密を知る。冒険家一行は、姫が眠る城を目指す。
言いたいことがわかるけれど、これがなんとも微妙。

「いて」
少女はひとり夜道に取り残された。そこでぷるぷるとふるえる「それ」を見つけた。
夜道には危険がいっぱい。だが、異物よりも人の方が怖い。


ショートショート作品集としての完成度は、ムラがあって、落ちのキレも少し鈍い。でもピカッと光る作品も何点かあり、「雨やどり」「ケーキ登場」「最後」「穴を掘る」「最先端」「ゴミ掃除」「物件案内」「試写会」「秘祭」は良かったと思う。

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坂木司
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    2009

02.13

「それでも、警官は微笑う」日明恩

それでも、警官は微笑う (講談社文庫)それでも、警官は微笑う (講談社文庫)
(2006/07/12)
日明 恩

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池袋署の武本巡査部長は、無口で無骨でキチクとあだ名され、融通の利かないところはあるが、刑事としては優秀で職人のような男である。潮崎警部補が池袋署に配属され、課長命令でコンビを組まされてもう六ヶ月になるが、武本は未だにその言動を理解することが出来ない。塩崎は、武本にとって未知の生物も同然だった。女性が好感を持つ容姿に、身を包むのはオーダーメイドのスーツと革靴である。そして、話し出すと止まらないこの年下の上司は、警視庁の治外法権と呼ばれる変り種である。

武本は、ここ数年で押収されるようになった小型密造拳銃を追っていた。しかし日本の警察の誇る膨大な銃の情報と照らし合わせても、専門家に尋ねても、その銃がどこで造られている何であるかは、未だ判別出来ていない。成分といい技術といい、造ったのは決して小規模な製造元ではないということだ。どこかに大がかりな密造組織あるに違いない。一方、麻薬捜査官の宮田は、覚醒剤乱用防止推進委員・泉真彦の拳銃自殺を、泉の体内から覚醒剤が検出したことに不信感を持った宮田は、泉の無実を証明するために追い続けていた。

拳銃所持の疑い、麻薬常習者、それぞれに狙いは違うものの、同じ男を追う二組は、期せずして関わりを持つようになる。そして各々の立場に戻るものの、またもや模型店で再会。そこでは店主が頭を打ち抜かれて殺されており、宮田も模型店の放火に巻き込まれて危ういところを武本が救う。この事件がきっかけで、単独行動をしていた宮田は麻薬捜査官を辞職。病床のベッドで自分の事情を武本と潮崎に打ち明ける。そこに浮かび上がってくるのは、九ミリ口径で全長百六十五ミリの小型拳銃。武本が追っている密造拳銃だった。第25回メフィスト賞受賞作。

前に一度読んでいたが、そういえば、ここにまだ書いていなかったことに気づき、再読することにした。しかし二度目にも関わらず、満足いく読書となった。警察小説としては別段目新しさがあるわけではない。だけど、スピード感に溢れ、ストーリーに展開力があり、凸凹コンビの行動力もあって、読者を飽きさせることなく読ませる吸引力がここにはある。

ありきたりというか刑事の王道をいく武本。ドラマ「踊る」の真下と設定がよく似たユル系ぼんぼんの潮崎。惚れた女のために執念で動く宮田。彼らの上司や同僚も含め、誰もが魅力的で、躍動感があって、素晴らしい。そして手前勝手に暗躍している陰の人物も、憎らしくって、悪役としての存在感を十分に発揮している。それと宮田の想う女は最初から好きになれなかったけれど、読み進めると、こうきたかという納得の配役になっている。

で、ラストまで読むと、やっぱりドラマ「踊る」を思い出させる。これはオマージュなんでしょうか。でも似ていたとしても、結果的に面白くなっているのだから、これはよしとしなくちゃ。それと、「後悔という字は、後で悔やむと書く」で始まる武本の親父の口癖(P204)も印象的だった。本は分厚いけれど、これは安心して読める作品だと思う。おすすめです。

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    2009

02.12

「GOTH  モリノヨル」乙一

GOTH  モリノヨルGOTH モリノヨル
(2008/12/17)
乙一

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私は少女を殺した。はじめてではない。四人目だ。出会って間もない、黒髪の少女だった。一人目は七年前の少女だ。撮影現場にそのまま放置したせいで、彼女は世間の注目をあつめてしまった。その後、二人目、三人目の被写体は念入りに隠して現場を撤収した。レンズをむけられると、人は自己を演出しようとする。被写体に宿る自意識、見られているという感覚がそうさせる。人間を被写体とし、望む写真を撮るには、被写体の演技が邪魔である。レンズをむけても演技をしない、自意識の宿らない被写体。想像力をかきたてる空白。作ってしまえばいいのだ。そのような被写体を。

そこに落葉樹林の奥へとむかう小路があった。やがてひらけた一画に出る。ただの荒地である。しかし、ここで人に会うことは予定にない。人影が気配に気づいてふりかえった。長い髪と制服、すべてが黒色である。戸惑っていると、少女が近づいてきた。写真、撮ってくれませんか。彼女はしっているのだ。ここが死体遺棄現場であることを。どの場所に死体が遺棄されていたのかもリサーチ済みらしい。七年前、死体を寝かせたその場所に、別の少女が横たわっている。森野と名乗った少女が主張するところのいわゆる記念写真を、十枚ほど撮ったところで撮影は終了した。

この被写体への興味がわいてきた。この少女をフィルムにおさめたかった。この美しい少女が死んでいるときの顔を写真に撮って持ち歩きたい。男の足は、自然と彼女を追いかけた。森野が無言で車に乗り込んでドアを閉める。彼女の死に顔を想像するとおちつかない。恋焦がれるように心臓が高鳴る。少女は横顔を夕焼けに染めながら、いつからか携帯電話を操作している。友達です――。映画「GOTH」の試写を観てインスピレーションを受けた乙一が、急遽、「GOTH」の後日談と言える新作小説を書き下ろし、ヒロインを演じた高梨臨という森野夜が写しとられた約150カットを収録。作家乙一×カメラマン新津保建秀によるコラボ作品。

物語としては満足することができた。絶対零度の冷ややかな空気の中で、殺人犯と森野夜が一緒に行動をしてしまう。これがすごくドキドキする。ただ、収録が一編だけというのがどうも寂しい。それと写真のことはよくわからないが、この存在意義がこちらに伝わってこない。それに何故、モデルは茶バツなんだろう。森野って黒髪の少女でしょ。中途半端で、なんだかな~という感じ。写真はいらないから、もう一編ぐらいを収録して欲しかった、と思うのは自分だけではないだろう。でも、森野の携帯メールはグッドだった(笑)

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乙一
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    2009

02.11

「少女」湊かなえ

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)
(2009/01/23)
湊 かなえ

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デビュー作「告白」の誕生は偶然ではなかった。本書によって、この著者の実力が本物だったと証明されたのだ。それがなにより嬉しく思う。「告白」の揺れが大波ならば、「少女」は小波といえるだろう。揺れ幅は少ないが、主人公の少女たちの造詣が綿密に繊細に作りこまれていて、その少女二人の語りを交互に進めていくことで、二つのパートがどのように繋がっていくのかが興味をそそっていく。そして疾走感ある文章が小気味いい。それと悪意の強さは「少女」のほうが色濃いかもしれない。

親友の自殺死体を見たという、友人のうっとりと酔いしれた語りを聞き、二人の少女はそれぞれに思う。それってただの自慢じゃないか。でも、少しうらやましい。不幸自慢ほど恥ずかしいものはないけれど、負けない自信はある。でも、わたしは死体を見たことがない。死体を見たい。いや、わたしは死ぬ瞬間を見てみたい。それも身近な人の。あることがきっかけで喜怒哀楽を失くした由紀は、読み聞かせボランティアで知り合った少年たちと交流を持つようになる。

敦子は人から嫌われているんじゃないかといつもビクビクし、携帯サイトの裏掲示板を覗いては、自分のことが書かれていないのに一息つく。でも、あたしも強くなりたいと思っていた。みんなから嫌われても、死ぬよりマシだってことくらいわかっていた。そこに体育の補習代わりとして、夏休みの二週間、老人ホームのボランティアに参加することになった。老人ホームなら、体の弱いお年寄りばかりだから、死体を見ることができるかもしれない。死体を見て、死を悟りたい。でも、由紀抜きで死を悟らなきゃ、意味がない。

友人といえる二人だが、微妙に距離を持ったまま、それぞれの夏休みを過ごすことになる。あえて連絡を絶った少女二人。お互いに好きと思う反面、ある時期から気まずくなってしまった。だけどその場で困難を迎えると、二人はお互いにあの子ならどうしただろうと想像してしまう。微妙に絡み合いつつも、なかなか一緒にはならない二人がもどかしい。そして、由紀は成功率七%の手術を受ける少年の父親探しをすることになり、敦子は期せずして死にかけた老女をとっさに救ってしまった。

少女二人の勝手な言いぶんがリアルで面白い。そしてミステリとしての驚き度もハンパじゃなくすごかった。少しずつ振りまいていた伏線を回収する終盤だけど、こうきたかと思った瞬間、それが意図も容易く反転させられる。しかも、それだけで終わりではない。まだ足りぬといわんばかりに、読者の予想を覆す仕掛けが次々と押し寄せてくるのだ。期待以上に大満足な作品だった。本文に「因果応報、地獄に落ちろ」とあったが、それを地で行ってしまう著者の勇気がすばらしい。次回作もまた、この路線で突っ走って欲しいと強く思った。ブラボー!


レポを一つ。サイン会に参加してきました。

湊さんは、ぽわんとしたお姉さんで、背がちっちゃかったです。
サイン会が始まると、頭はペコペコで、口からはお礼ばかり。
ういなー。すごくういかったです。

そんな湊さんに無理いって、一文を書いてもらいました。
因果応報、地獄に落ちろ、と(笑)

湊少女

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湊かなえ
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    2009

02.10

「ハブテトル ハブテトラン」中島京子

ハブテトル ハブテトランハブテトル ハブテトラン
(2008/12)
中島 京子

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ぼくの行っている東京の学校の五年三組は、先生が授業をしようと思っても、泣いたり騒いだりで、授業にならない。学級委員のぼくは、先生には「なんとかしろ」と言われるし、クラスの連中には「いい気になるんじゃねえ」とか言われて、どうしたらいいかわからなくなり、気がついたら、声が出なくなっていた。結局、五年生の一学期は、ほとんど学校に行けなかった。

飛行機に一人で乗るのは、初めてじゃない。おばあちゃんの家に、最初に一人で行ったのは九歳の夏だった。それから毎年、行っている。今年は、夏休みが終わっても、ぼくは東京に帰らないで、九月から、広島県福山市松永の小学校に通うことになる。九月のことを考えると、ちょっと暗くなりそうだった。だけど、今年は、もっと予想外の出来事が待っていた。なにしろ一緒にいるのはハセガワさんなんだから。おじいちゃんが脚と腕の骨を折って、入院していた。

のどかで穏やかな瀬戸内の小さな町。おばあちゃんの幼なじみというハセガワさんや、ウメちゃん、マテオ、ノブミツという友達や、オザヒロという女の子と出会った。ゲタリン、プリントップといったわけのわからないカタカナの謎を知った。地元のお祭りにも参加した。今治までしまなみ街道を渡ればすごく近いことがわかった。今治。東京で好きな女の子がいたが、怒らせたまま、会えなくなってしまった。後悔している。言わなきゃいけないことを、言ってないまま、彼女は今治に転校してしまった。会いに行きたい。

といったことを経験し、本の表紙場面へとストーリーは展開していく。学級崩壊の渦に飲み込まれて、素直で真直ぐな少年だからこそ、心がポキリと折れてしまった。それにしても、あの担任は酷いんじゃない。ちょっと赦せないなぁ。その一方で、松永では都会にはない人情があって、それが心地良い。それとするすると胸に飛び込んでくる同級生たちがすごく魅力的だった。自転車で女の子に会いに行く場面も、その対面した女の子の変わりようもすごくよくわかる。それに方言がきついハセガワさん。その際立ったおいしいキャラぶりが印象深かった。

「ハブテトル」とは備後弁で「すねている、むくれている」という意味。「ハブテトラン」とは否定形だそうで。この本は、大人よりも子供たちに読んでほしいな~。

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中島京子
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    2009

02.09

「愛の保存法」平安寿子

愛の保存法 (光文社文庫)愛の保存法 (光文社文庫)
(2007/12/06)
平 安寿子

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「愛の保存法」「パパのベイビーボーイ」「きみ去りしのち」「寂しがりやの素粒子」「彼女はホームシック」「出来過ぎた男」からなる、ダメ男とわがままな女たちが登場する短編集。

「愛の保存法」
久井光太郎と高坂まゆみが結婚することになり、奈香子は披露宴の司会役を嫌々ながらすることになった。現在離婚中の光太郎とまゆみは、過去十六年の間に三度結婚し、その度に式を挙げている。つまり今度が四度目の披露宴になるのだ。二人は十五歳になる娘の親でもある。まゆみがでしゃばりで話題の中心になっていたいタイプだということは、周知の事実だ。光太郎はいつ見ても安定した笑顔を崩さないが、その本心は不明だ。そんな結婚離婚を繰り返すはた迷惑な二人だが、そこには意外に深い理由があった

「パパのベイビーボーイ」
琴絵が、結婚の話は考え直したいと言い出した。理由は丈彦の親父にあった。本当は紹介なんかしたくなかった。結婚するのなら両方の親の顔合わせをしなければと琴絵が言い出したので、一生会わずにすませたいと思っている親父を紹介した。琴絵への愛ゆえにだ。父を思うと、丈彦の胸に普段使ったことのない荒々しい罵声の言葉が湯水のように湧いてくる。その親父と琴絵はキスしたと言う。しかも、お父さんを好きになったの、と言われてしまい、こんな気持ちで結婚なんてできないと告げられた。

「きみ去りしのち」
有子の母親が死んだという知らせがあった。卵巣に癌が発見されたとき既に末期だと宣告されていた。剛はこのところ毎日、心の中で訃報を聞いたときにどう振舞うか、予行演習をしていた。やることは、ひとつである。有子を抱きしめて、思う存分泣かせてやるのだ。その場面を思い浮かべるだけで、不謹慎だと思いながらも、うっとりした。母親の闘病中、有子の関心はそっちに集中した。剛も腫れ物に触るような気持ちで、及び腰だった。そんな八ヶ月が過ぎて、母親は死んだ。有子の心に大きな穴が開く。自分の出番だ。

「寂しがりやの素粒子」
二階から宅田が顔をのぞかせた。旋盤工の鉄太郎は、こいつの顔をなるべくなら見たくない。彼がいう仕事とは、論文とか文献を読むことなのだそうだが、当然、一円にもならない。宅田は息子が通っていた工業高校で、数学の講師をしていた大学院生だった。息子の不登校を説得し、復学のきっかけを作ってくれたのは彼だ。あれから、二年半である。宅田は会社からも妻からもリストラされていた。そのうえ、平気で教え子の家に転がり込んできた。そんなところに、独立していた娘が出戻ってきた。

「彼女はホームシック」
もうすぐ引っ越す。これは都季子の口癖だ。そして本当に、ほぼ二年おきに引っ越す。都季子はただ歩いているだけでも不動産屋の看板を見ると自動的に中に吸い込まれていき、マンションやモデルハウス見学で陶然とする。泊りがけの旅行に出かけても物件見学を強行する。一人で行ったら話を決めてしまう。夕食おごるから一緒にきて、わたしを止めて。都季子がそう頼み込むから、暇な文房具屋の島津とその店のバイトで都季子の姪のクルミは彼女の不動産見学ツアーに付き合ってきた。そう躾けられている。

「出来過ぎた男」
今年二十歳になる娘の瑠璃に告白しようと思う。信光に相談されたミチルは「いいんじゃない?」と軽く答えた。離婚したことを納得している子供たちだが、腹違いの兄弟がいることまでは知らない。わざわざ知らせることはないと、二人で決めたからだ。信光はどうしても瑠璃に告白したいそうだ。それだけにとどまらず、できることならみんな仲良くなってほしいと言う。みんなとは、瑠璃と貴光、二度目の妻との間の男の子、三度目の妻と作った女の子、さらに結婚していないが認知している男の子の計五人だ。


ここに登場するのはダメ男たちばかりだが、どうにも憎めないヤツらばかりだ。結婚離婚を繰り返すどうしようもないカップル。年甲斐もなく軽薄な父親と、その父に婚約者の気持ちを持っていかれた屈折した息子。彼女の母の葬儀を利用して、関係前進をねらう夢見がちな男。働かずに勉強しか頭にない、浮世離れした仙人のような男。女友達から呼び出しを受けると、ほいほい飛び出す便利屋化した男。あちこちに作った子供には受けがいい、子煩悩で絶倫な親父。それと比べて、わがままな女たちは少々きつい。簡単に憎めてしまうのだ。

ある男は解く。女の人には意見なんかしちゃいけない。そもそも女の人には男の意見なんか必要ない。何か相談されたり愚痴られたりしたら、優しく抱き寄せて、よしよし、きみのしたいようにしたらいいよと、こう言ってやらなくちゃ。それが、男のたしなみだよ。また、男は解く。昨日と今日で、言うことが全然違うんだから。平気で矛盾してるんだよ。だけど、それが女の人ってものなんだ。だから、何を言われても言い返しちゃいけない。はいはいと承る。それが女の人を安心させる――。まことにごもっともな意見だ。

その一方で女は毒を吐く。言わなきゃわかんないじゃ、そもそも、わかる頭がないってことよ。思いやりがないんだわ。本当に悲しかったり怖かったりすると、何にもいえなくなるのよ。言えなくても、あの人はわかってくれた。だからわたし、あの人の前でずいぶん泣いた。あの人、その間、ずっとそばに座ってくれた。わたし、もともと弱いのよ。わたし、あの人のこと、相当好きみたい――。自己弁護から逆ギレする女の対処法はないの?

こういった共感できる部分が多々あって、一見ダメな人間にも学ぶべきところがあったりもする。やっぱり平安寿子はいい。男女の本質が見事に描かれていて、あるある、わかる~、と膝を打ちまくりの読書となった。そうして、平安寿子のダメ人間を読んで我がふり直せ、ってか。それは一理あるかも。おすすめの一冊です。

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平安寿子
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    2009

02.08

「レモン・ドロップス」石井睦美

レモン・ドロップスレモン・ドロップス
(2004/05)
石井 睦美

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十五歳の美希は女子校に通い、歯科大学に通う優等生の姉はなにもせずに、結局は美希がお世話をしてしまう日々を送っている。そんな姉を羨ましく思いつつも、もっと、自分勝手にならなくちゃ。もっと、冷たい人間にならなくちゃ、とあたしなりの決意をもって生きている。友達の綾音は、いつも答えられないようなことばかり美希に聞いてくる。だから、綾音の気に入るような返事ができなくて、冷たいと綾音にいわれて、あれでよかったんだろうかって不安になってしまう。でも、そうしない自分がいるのもわかっていた。べたべたしたやさしさを排除する。それが、あたしの矜持。

そのレモン・ドロップは、駄菓子屋さんで見つけた。口の中で溶けて、ちいさな三日月へと形を変えていく。ドロップをなめながら、美希は、特別だったあの場所のことを考える。そこは失われた場所。おじいちゃんとおばあちゃんは、美希にとって、すごく特別っていう感じがした。それから、大きな蓄音機のあるその部屋も。夜、おじいちゃんたちの部屋から音楽が聞こえる。そうすると、美希はちょっとだけおじゃまする。いつもお気に入りの一曲だけ一緒に踊ったら戻ることにしていた。だけど、そんなことをしたのは随分と前のことだ。今では、甘酸っぱい三日月形のレモン・ドロップは、美希の精神安定剤になりつつある。

友達の綾音は電車でいつも見かける名前も知らない王子に夢中になっている。姉の真希ちゃんは恋人ができてどんどんかわいくなっていく。おばあちゃんは亡きおじいちゃんのことを強く思って生きている。自分だって思春期なのよう、と言ってみたって、好きな男の子が急にできるわけじゃない。恋の憧れだけが大きくなっていく美希だけど、いつのまにか真希ちゃんの彼氏がとても好きになっていた。心をちくりと痛めながらも、恋をしてしまった。そんなちょっとセンチな少女の物語。

ただいま女子、あるいはかつて女子だった人なら、あるあると思うのだろう。だけど、自分は元男子だったので、少女期の想いはよくわからない。切なさに自然と泣けてきたり、嫉妬と不公平感を一緒くたにして、爆発してしまう感情なんて持ち合わせていない。乙女心って複雑すぎてお手上げ状態。参ったなのだ。だけど、お父さんのことを嫌だなぁと思っていたり、幸せだったあの頃がなくなっていくのが怖いという気持ちはよくわかる。そう思うと、自分も十代を生きてきたんだよなと、ふと感慨深くなった。男女の違いはあれど、あの頃は一日が長かった。それはたぶん、がむしゃらな一日だったからだろう。

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石井睦美
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    2009

02.07

「笑う警官」佐々木譲

笑う警官 (ハルキ文庫)笑う警官 (ハルキ文庫)
(2007/05)
佐々木 譲

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札幌市内の集合住宅で、女性の変死体が発見された。死体で発見された女性は、北海道警察本部生活安全部に勤務する水村朝美巡査だった。被害者の身元がわかったとたん道警本部が割り込んできて、被疑者は交際相手で、水村の同僚にあたる津久井巡査部長だと断定。現場からは、被疑者のものと思われる指紋、遺留品等が多数発見された。そして被疑者が拳銃所持の可能性大であることから、射殺する指示が出された。その津久井は、明日の道議会の百条委員会に、警察の裏金問題の証人として出ることになっていた。

所轄の佐伯警部補の元に、津久井から無実を訴えた電話がかかってきた。かつておとり捜査で組んだことのある津久井の人柄を佐伯はよく知っていた。やつは水村朝美殺しには無関係だ。佐伯はやつの言葉を信じることができた。佐伯は思った。明日の朝までに、水村朝美殺しを解決して津久井の無実を証明する。そして百条委員会に、津久井を無事に送り込んでやらねばならない。佐伯の呼びかけで有志の者たちが集まった。町田、植村、諸橋、新宮、小島百合らとチームを結成し、極秘裡に捜査を始める。

被疑者になった津久井は、スケープゴートとして射殺されようとしている。彼の元上司は、拳銃摘発数ではやり手の捜査員だったが、こともあろうに数多くの拳銃を所持し、覚醒剤の密売買に手を染めて、その儲けを密告者の謝礼に当てていた。その男は暴走が発覚すると、ひとり罪を背負って警察組織から退場した。そもそも協力者に対する謝礼経費だが、実際に捜査員に渡っておらず、幹部のポケットマネーになっていた。それは警察官なら誰もが知る公然の秘密だという。

こんなきな臭いニュースは、なんとなく記憶にある。裏金問題は、警察だけでなく公務員全体で発覚する昨今だが、組織の慣習という名のもとで、長年の悪事に慣れきっているところが醜い。また最近では、社会保険を食い物にしていた職員があやふやなまま、その後が途切れている。それら裏金問題が世間に発覚すると、個人に濡れ衣を着せて、組織の罪を抹消しようとする。これは刑事たちによる権力に対する戦いでもある。

だけど、うたう刑事は射殺しろ、という命令はちょっと行き過ぎかもしれない。うたうとは、内部告発を指す隠語だ。それにやたらと銃を人に向けるのは問題があるように思えて、そこは現実味に欠けていて個人的に納得がいかない場面だった。しかし、それ以外では良質なサスペンス作品だと思う。チームの内部にスパイがいるようで、その裏をかいていくあたりは緊迫感があって読み応えがあった。ただ、文庫化に際して、タイトルを「うたう警官」から「笑う警官」に変更した経緯があとがきにあったが、そこは前のタイトルの方がしっくりきていたように思う。

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佐々木譲
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    2009

02.06

「トーキョー・クロスロード」濱野京子

トーキョー・クロスロード (teens’best selections)トーキョー・クロスロード (teens’best selections)
(2008/11)
濱野 京子

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高校二年生の森下栞は、休日になると、山手線の地図を壁に貼ってダーツする。当たりの駅で降りて、ぶらぶら歩き始め、面白いと思ったものを写メで撮る。こんなおかしな趣味のことは、友だちにも話してはいない。そしてたぶん、級友たちが見たら目を丸くするだろう。休日の私は、きびきびとした頼りがいのあるヤツではなく、家の中にいるまんまの格好で、てれてれと歩く。私でない私。だれも知らない私。孤独という名の解放。私が何ものであってもいい。そこで私はあわい喪失感にひたる。

その日もあてどなく歩いていた栞は、思いもかけず、中学最後の年の同級生、月島耕也と再会した。その夜、封印していたものが解かれたように、一気に思い出がおそってきた。耕也とはほとんど口をきいたこともなく、とりたてて興味を持った記憶もなかった。だが、あれは卒業式の数日後だった。愛や好意でなく、かといって戯れでもない。十五の春のファーストキスは、そんなだった。もう逢えないと知っていた。最初は、ひとりになって、静かに悲しみに浸りたくて歩き始めた。でも、いつしか、街を歩くことそのものに面白さを見出すようになった。

再会した耕也の屈託のない親しみや、感覚の近さに共感しつつ、二人で会って街を歩くようになった。それは耕也が友達の彼氏になった今も続く。好きな人といても手が届かない。だから、自分を裏切って亜子を引き合わせたのは栞自身。その一方で、二つ年上の同級生の麟太郎と河田貴子らとも親しくなり、彼らの学校以外での別の顔を知って、栞は自分と照らし合わせてみる。女子三人組の亜子のかわいさに惹かれ、美波の真直ぐな性格を羨ましく思いつつ、つい頼れる委員長を演じてしまう。私はいったい何なんだろう。

やはり濱野さんはいい。ヒロインの少女は、人の気持ちは見えるのに、自分の気持ちが見えていない。いや、気づいているのだが、恋に奥手で、それを表に出すことができない。その相手となる少年もまた、女心に鈍くて、そこがじれったくもあるが、この年代の男の子ってこんな感じなのかもしれない。

そこに現れる第二の少年の存在感がまた素晴らしい。優しくて、誠実で、少し大人で、自分というものをしっかり持っている。ヒロインもそこに気づくのだけど、でも、心に思っているのはずっと彼のことだけ。その彼もまた、その少年の存在が気になって、ヒロインの周辺をちょろちょろしてしまう。

ここには大人の駆け引きはない。その揺れ動く心を人に見せられずに、気づかれることを極度に恐れている。純粋そのものだけど、彼らのその純粋という若さがほろ苦く、それでいて切ない。でも、恋する乙女は、かわいくて素敵だった。煮えきらない彼の行動も元男子の自分には理解できた。恋っていいなぁ。素敵な一冊でした。

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濱野京子
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    2009

02.05

「四とそれ以上の国」いしいしんじ

四とそれ以上の国四とそれ以上の国
(2008/11)
いしい しんじ

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四国・阿波、ある夜、「藍」が逃げ出した。人間でいえば16、7の小娘――。
屋島の塩、阿波の藍染め、鳴門の渦、人形浄瑠璃、果てしない巡礼路……。
四国を舞台に、物語の魔法使い、いしいしんじが紡ぎだす目もあやな小説世界。読む者の心の奥底に秘められた哀しみ、怖れ、喜びを解き放つ、稀代のイリュージョンとも言うべき、めくるめく5篇を収録。《出版社より》

なんじゃこれ、というのが第一印象。そして、あらすじを書くことさえ拒否するような摩訶不思議な世界で、文章はうねうねと揺れ、人物も物語もうねうねと揺れ動く。父が死に高松の親戚に引き取られた四人の姉妹の物語「塩」。高松から高知へ列車で旅をする英語教師の物語「峠」。海沿いの巡礼路をひたすら歩く巡礼者の物語「道」。鳴門海峡の渦潮にひかれた弟思いのトラック運転手の物語「渦」。ひとり動きまわることを始めた熟成しきっていない藍と、その藍を追う藍師の物語「藍」。

これは四国の一地域をイメージ化して、さらに抽象化して、新たに生みだされた別の四国の物語という感じでしょうか。香川なら浄瑠璃やうどん、愛媛なら坊ちゃんや正岡子規、徳島なら鳴門の渦や繁華街の栄町、四万十川や吉野川と、そういったものが不意に登場することで、幻想めいた異世界と、よく知っている場所とを行き来する。どこか日本神話的な雰囲気を醸し出し、混沌のカオスに身を投じたような不思議な感覚を味わうことになる。

ここにあるのは「命」であって、生きるとはどういうことなのかを描いているような気がした。そして、四国の「四」とは「死」と繋がっているのかもしれない。とにかく、これでもかというぐらい大量のイメージが投げかけられてくる。ぼんやりとしながら読むと、文字に飲まれてしまいそう。本書は、頭でではなく、感性で読むと、心に何かが響いてくるのかもしれない。かなり難解だけど、ね。


いしいさんのサイン。

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    2009

02.04

「キネマの神様」原田マハ

キネマの神様キネマの神様
(2008/12)
原田 マハ

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父が入院した日は、奇しくも歩が十七年間務めた会社に辞表を提出したその日だった。こんな一大事は一生に一回で十分なのに、変にタイミングが合ってしまった。マンション管理人になるずっと前から、父はふらっといなくなっては二、三日後にげっそりして戻ってくることがしばしばあった。父は稼ぎのほとんどをふたつのことに費やしていた。ひとつはギャンブル。もうひとつは映画だ。幸いにも父の回復が予想以上に早く、無事に退院はできた。だが、父はギャンブルでどデカい借金をやらかしていた。

娘と母は決意した。父がギャンブル依存症という精神疾患だとわかってから、父再生計画なるものを勝手に作り上げる。これまでと違い自分は失業中なのだ。父の借金は自分で返してもらう。年金を差し押さえ、ギャンブルを厳禁にして、とにかく浴びるように映画を観せる。人生を通して映画に親しんできた父なのだから、きっと無害な趣味に没頭してくれるに違いない、と踏んでいたのに、父はバランスを崩したのか、生きる気力をなくしてしまった。

そんなある日、映画雑誌の超老舗から、映画評論を書いてみないかと、歩は編集部にスカウトされる。名画座で見た映画の感想をチラシ裏に書き殴っていたものを、父が映友社のブログに投稿していたのだ。だが実は、サイトの管理人が面白がっていたのは、長々と前置きを書いていた父自身の文章だったことが判明。父も連載ブログを書くことになった。ブログ「キネマの神様」は、アメリカに住む前の会社時代の後輩の助力で、英語版も開設された。そこにローズ・バットを名乗る人物から、挑発ともいえるコメントを書き込まれて……。

やはり原田マハはいい。まずキャラが魅力的だ。すれ違いは起こすが、映画がなにより好きという主人公の歩とその父(ゴウ)の父娘。アメリカに駆け落ちした元後輩で映画好きの清音。名画座の支配人で父の友人のテラシン。映画界のカリスマで社長兼編集長の高峰女史。その息子でひきこもり歴十五年というサイト管理人でハッカーの興太君(ばるたん)。頼りになるが気に食わない同僚の新村ジョー。そして、謎の攻撃者ローズ・バッド。皆がいわゆるキャラ立ちした面々だ。

そして、ゴウの映画レビューがとてもイケている。「ニュー・シネマ・パラダイス」は、ビデオを買いDVDも買ったぐらい個人的に大好きな映画だ。ゴウの映画紹介を読んで、その数々ある名場面を思い出して、それだけで泣きそうになった。ローズ・バッドと論争を戦わせる「フィールド・オブ・ドリームス」もしかりだ。ただ、これらはおもいっきりネタばれしている。そこは大丈夫なんでしょうか。

ラストがまたいい。お決まりの総出演なんだけど、みんながそろって人生最良の映画を名画座で観る。あのヴェイオリンの調べが脳裏に響いてくる。そして、あの男の子の笑顔を思い出す。そしてまた、泣けてくる。できれば映画館で観たいところだが、お手軽DVDでここは我慢だ。その映画は何かって? それは自分で読んで想像してください。答えはすぐ上にあるけれど。

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原田マハ
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    2009

02.03

「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)
(2004/12/18)
米澤 穂信

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「秋期限定栗きんとん事件」が発売されるということで、これまで積読だった本書を読むには時期がぴったりかも、と書庫?からひっぱり出してきた。小市民シリーズ第一弾。

中学から高校へと進学。多少意味合いは違うけれど、ぼくたちも高校デビューを狙っていた。中学三年の初夏から一緒にいる小鳩くんと小佐内さんは、共通の信条を持っていた。小市民たれ。日々の平穏と安定のため、小鳩くんと小佐内さんは断固として小市民でいたい。もっとも、その表れ方はちょっと違う。小佐内さんは隠れる。小鳩くんは笑って誤魔化す。二人はお互いを言い訳に使うように盾になる約束をしていた。穏やかな時間を作り出すだめに。

それなのに、二人の前には頻繁に謎が持ち込まれる。女生徒のポシェットが盗まれた、美術部員が描いたへたくそな二枚の似た絵、おいしいココアの作り方、試験中に教室の後から瓶が落ちて割れた謎、自転車泥棒の行方、と。探偵なんて、小市民志望がやることじゃない。仮に解いたとして、それを伝えるのが嫌だ。こうこうこうで、こうなりましたっていう解説を避けたい。でも、つい推理をして、解答を導き出してしまう小鳩くん。果たして彼らの望む平穏な日々、小市民の星を掴み取ることができるのだろうか?

クレープ、タルト、ヨーグルト、ケーキ、ロリポップ、と甘いお菓子がたくさん出てくるけれど、内容はちょっぴりビター気味。大方の意見では、甘いものが食べた~い、となるのだろうが、自分は甘いものを見ただけで吐き気がするほどの、甘系は苦手中の苦手。生クリームなんてとんでもない。乳製品なんて、口に入れた瞬間吐いちゃうぜ。

これは独立した短編ながらも、食い物の恨みは何とやらで、全体としても一つの事件になっている。そう、「春期限定いちごタルト事件」なのだ。中学時代に口を出したがって痛い目にあった小鳩くん。そして小佐内さんもまた、中学時代の自分から変わりたがっている。無類の甘い物好きで、人の背後に隠れたがる小佐内さんだけど、ラストで明らかにされるその本性は……ひぇ~~! これは彼女の一端でしかないが、どんな狼ぶりだったかは超気になってしまう。

近いうちに「夏季限定トロピカルパフェ事件」を読んで、その勢いで「秋期限定栗きんとん事件」へと流れ込んで行きたい。まだ若書きではあるが、ツボを押さえた作品であると思った。

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米澤穂信
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    2009

02.02

「大金星」水野敬也

大金星大金星
(2008/12/09)
水野 敬也

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大学生の御手洗歩は、家とゲームセンタを往復する生活を続けていた。ある日、渋谷で豆柴を連れた行き倒れの男を助ける。男は太っていた。背にはリュックを背負い、白いランニングシャツに肉団子のようなお腹。短パンからのぞかせている足は短く太い。顔がでかく、眉毛が異常に太く、ぎょろりとした大きな目。圧倒的な九州訛りから、西郷隆盛を連想させる。その男の名は花村春男といい、豆柴の名は義太夫といった。春男は何か恩返しがしたいという。「じゃあ……彼女とか?」冗談っぽく答えたところ、わなわなと震えだしながら唸るようにつぶやした。「じゃどん! こと女子に関しては、おいどん唯一の得意分野にごわす!」

学歴も、ブランドも、お金も、そしてルックスもなく、今まで一度も女の子と付き合ったことがないどころか、手を握ったことすらない恋愛ベタの主人公。そんな御手洗の人生を大きく変えるべく、小説家や詩人の格言に乗せて、二人と一匹のチャレンジが始まる。歩いてくる女子を立ち止まらせるという、いわゆるナンパに始めて挑み、その達成感からくる自分への酔いと、酒の酔いが重なり、御手洗は春男と義兄弟の契りを結ぶ。その春男は、どうしても新歓コンパに行ってみたいと、コンパのチラシを持ち出してきた。それは、憎き笠原のいるイベントサークルの新歓コンパだった。

GARDENはレベルの高い女の子ばかりだった。そして男たちは他にはない圧倒的なオーラを発散していた。遊びに遊んできたそんな余裕が漂っている。しかしコンパ会場にはもう一つ別の集団があった。そこにいる男たちはうつむいたり、隣の男とぶつぶつ会話をしたりしているのだけど、全然楽しそうではなく、ときおり物欲しそうに、盛り上がっている集団をちらちらと盗み見しているのだった。そこにいる男たちは、同じ側の男たちだと直感する。その中に、かつての親友がいた。整形した石川だった。御手洗は春男に石川を紹介し、新たに義兄弟の契りを結ぶ。そしてGARDENの本丸に潜り込もうと奮闘する。

「ゾウ」が成功への努力なら、本書は女性を落とす心得でしょうか。これが、ナンパ、合コンと、おもいっきりスケール小さいんですけど。それに、ガネーシャのユーモアは笑えたけれど、春男の行動は笑えねえ。それにつられる主人公も痛くて痛くて我慢がならない。おまけに、出てくる女子にしても、全然魅力を感じなくて、なんでこんな高飛車女に対して、必死にならなくてはならないんだろうと、そこに疑問を持ってしまう。

「ゾウ」が売れたから二匹目の泥鰌を狙ったのでしょうが、著者の一人よがりとしか思えないお寒い内容で、正直なところガッカリだった。いきなり、つづく、と終わっていたので続編があるのだろうが、こんなダダ滑りならもう読みたくない。図書館で借りて読んだから、まあなんだけど、買っていたなら金返せとキレていたかもしれない。そんな呆れるぐらい程度の低い一冊だった。

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    2009

02.01

「I’m sorry. mama.」桐野夏生

I’m sorry,mama. (集英社文庫)I’m sorry,mama. (集英社文庫)
(2007/11)
桐野 夏生

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児童福祉施設の保育士だった美佐江が、自宅アパートで25歳年下の夫と焼死した。その背景に、女の姿が浮かび上がる。盗み、殺し、火をつける「アイ子」。彼女の目的は何なのか。繰り返される悪行の数々。次第に明らかにされる過去。救いようのない怒りと憎しみとにあふれた女は、どこからやって来たのか。邪悪で残酷な女の生を、痛快なまでに描き切った問題作。《背表紙より》

こういうめちゃめちゃは大好きだ。理性というリミッターを外して生きてきた四十代のおばさんが主人公。そのアイ子は娼婦の館に生まれて両親は不明。放って置かれて育ち、置屋が潰れて、児童福祉施設に入所した。アイ子には虚言癖や盗癖があり、大人には子供とは思えない媚を売った。そして施設を出た後も、行く先で次々と事件を起こしていく。

金に汚く、盗みや奪うことは普通で、気に入らない人物がいれば、躊躇せずに火だるまにする。そして逃げ足ははやい。なんて危ないおばさんなんだろう。だけど嫌悪の対象にならないのは不思議だ。これは狂いっぷりが突き抜けているからなのか。その一方で、まるで気に入らなければ泣き叫び暴れまくるちびっ子ギャングが、そのまま大人になったかのようだ。たまに殺意を覚えるガキもいるけれど。(おっと)

普通のひとならば、理性、常識、倫理などがストッパーになり、その行為のもたらす影響に対して恐怖心を感じ、それが自制となる。でも根っこのところでは、殴ってやりたいとか、ツバをひっかけてやりたいとか、階段から突き落としてやりたいなど、瞬間的に思うことはある。でもそこをぐっと拳を握って我慢する。だからこそ、イライラが溜まってそれがストレスになる。でも本当は誰もが爆発したいという感情を燻らせている。

このおばさんにはそんな歯止めなど微塵もなく、感情のままに行動する。考えるということを知らない。このおばさんには、善悪の区別なんてこれっぽっちもない。ムカついたり、目障りだと思えばあっさり殺す。だから陰口のような陰湿な黒はこのおばさんにはないし、のの字を書いていじけるような鬱陶しいさもない。正邪でいえば悪女というか狂女だが、自由人とも取れてしまう一面がある。それを開放しているおばさんだからこそ、読んでいて、そこに快感を覚えてしまうのかもしれない。

そういうアイ子の周囲には、当たり前だけど普通のひとたちがいる。この普通のひとたちは、小金をちょろまかしたり、嫌がらせをしたり、成功者に追従したりするのだが、これらは誰もが持っている感情や、ちょっとしたことでしかない。だが、これらの人の方が醜いように思えてしまうから不思議だ。小物ぶりがみすぼらしくて、言うならば、生々しい嫌らしさがとても不潔で不快な気分になってくる。アイ子のほうが異質で異分子で異常なのにだ。そんなアイ子の出生の秘密とか、行き着いた先とかは、想像通りであっても、それはマイナスポイントとは思えない。さもありなん、という結末まで、黒好きには面白く読めた一冊だった。

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