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    2009

03.31

「廃墟建築士」三崎亜記

廃墟建築士廃墟建築士
(2009/01/26)
三崎 亜記

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不思議な建物をめぐる物語集。「七階闘争」「廃墟建築士」「図書館」「蔵守」を収録。

「七階闘争」
主婦が惨殺された。中学生がベランダから飛び降りた。火遊びが発端で火事になった。独居老人が腐乱死体となって発見された。事件の種類も、場所も、発生時刻もまちまちだ。だが、一つだけ共通している点があった。それは、全てビルの七階で起こったという点だった。事件が続発したため、市議会はマンションの七階だけを撤去することに決めた。七階に住む私は、七階に住む権利を守る住民運動に成り行きで参加するはめになった。

「廃墟建築士」
私は廃墟に魅せられた。いつか崩れ、自然へと回帰していく廃墟。私は悟ったのだ。廃墟を造ることこそが、私の生きるべき道であると。廃墟を造り続けて三十年。私の一番弟子ともいえる鶴崎は、廃墟建築よりも会社経営に長けていたのだろう。独立後、大企業をパトロンにして次々と高級廃墟を建築し、廃墟建築界の寵児として一躍名を馳せた。だが、鶴崎建設の偽装廃墟が問題になり…。

「図書館」
夏休み期間中、夜の図書館を子どもたちに体験させてやりたい。その依頼を実現すべく、ハヤカワ・トータルプランニングの日野原は小さな町にやって来た。図書館の野生を一般の人々にも触れる機会を持たせるべく派遣されてきた調教師だ。本たちは次々に書架から飛び立った。一日の労をねぎらいあうようにホバリングして群れ集い、誘い合って天井近くまで上昇して回遊し、つかの間の自由を謳歌する。

「蔵守」
蔵と呼ばれるその建物は、超然としてそこにある。私は守り続ける。向かい来る見えざる敵に対して、守りの意思を強く固める。一つの蔵として。一人の蔵守として。それぞれの役割を全うする蔵と蔵守。その存在は、ある日突然、蔵の内側に現れた。蔵守見習いは、ある日突然、蔵守の前に現れた。蔵とはいったい何なのか。なぜ略奪者は蔵を襲うのか。そして、彼らが守り続けているものとは一帯何なのか。


「七階闘争」は、七階を撤去する行政側と反対運動に身を投じる住人たちによる闘い。そこには見えない悪意もあって、という「となり町戦争」と対を成す作品。なぜと思わないで身を委ねて読むべし。「廃墟建築士」は、廃墟を新築する不思議世界だが、そこに時事ネタが加わる人間臭い作品。廃墟の探検って楽しそう。「図書館」は、「バスジャック」収録の「動物園」の続編。優雅に飛翔する本は見てみたい。でも本の反乱はゴメンだ。「蔵守」は、意識ある蔵と蔵守の二視点の物語。ぼやけた輪郭が徐々に鮮明になり、新たな息吹が感じられる不思議な作品。静かな余韻が印象的だった。


三崎亜記さんのサイン。

三崎

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三崎亜記
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    2009

03.31

3月に買った本の代金

個人メモです。

総額18.352円。 やっちゃった(汗)


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自分への戒め
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    2009

03.31

3月に買った本

単行本
三匹のおっさん三匹のおっさん
(2009/03/13)
有川 浩

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富子すきすき富子すきすき
(2009/03/19)
宇江佐 真理

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ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべてジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて
(2009/02/20)
海堂尊

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警官の紋章警官の紋章
(2008/12)
佐々木 譲

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赤い指赤い指
(2006/07/25)
東野 圭吾

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風の中のマリア風の中のマリア
(2009/03/04)
百田 尚樹

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幸せ最高ありがとうマジで!幸せ最高ありがとうマジで!
(2009/03/27)
本谷 有希子

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文庫本
The MANZAI〈5〉 (ピュアフル文庫)The MANZAI〈5〉 (ピュアフル文庫)
(2009/03/10)
あさの あつこ

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配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)配達あかずきん―成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)
(2009/03/20)
大崎 梢

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町長選挙 (文春文庫)町長選挙 (文春文庫)
(2009/03/10)
奥田 英朗

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妖怪アパートの幽雅な日常〈2〉 (講談社文庫)妖怪アパートの幽雅な日常〈2〉 (講談社文庫)
(2009/03/13)
香月 日輪

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なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)
(2009/03/10)
鯨 統一郎

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カンニング少女 (文春文庫)カンニング少女 (文春文庫)
(2009/03/10)
黒田 研二

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あがない (徳間文庫)あがない (徳間文庫)
(2009/03/06)
中野 順一

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生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)
(2009/02)
本谷 有希子

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江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)
(2007/08/11)
本谷 有希子

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レタス・フライ (講談社文庫)レタス・フライ (講談社文庫)
(2009/03/13)
森 博嗣

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秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
(2009/03/05)
米澤 穂信

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マンガ本
バクマン。 1 (1) (ジャンプコミックス)バクマン。 1 (1) (ジャンプコミックス)
(2009/01/05)
大場 つぐみ

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バクマン。 2 (2) (ジャンプコミックス)バクマン。 2 (2) (ジャンプコミックス)
(2009/03/04)
大場 つぐみ小畑 健

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flat 1 (1) (BLADE COMICS) (BLADE COMICS)flat 1 (1) (BLADE COMICS) (BLADE COMICS)
(2008/09/10)
青桐 ナツ

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    2009

03.31

「ポトスライムの舟」津村記久子

ポトスライムの舟ポトスライムの舟
(2009/02/05)
津村 記久子

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ナガセこと長瀬由紀子(二十九歳)は、新卒で入った会社を、上司からの凄まじいモラルハラスメントが原因で退社し、その後の一年間を受けた恐怖のリハビリに費やし、時給八〇〇円のパートから、月給手取り十三万八千円の契約社員に昇格し、先月、工場のライン副リーダーに昇格した。

ナガセは自分の腕に刺青を入れることを考える。「今がいちばんの働き盛り」と。先週、工場の給料日があった。いつも通りの薄給の明細を見て、おかしくなったようだ。時間を売って得た金で、食べ物や電気などのエネルギーを細々と買い、なんとか生き長らえている自分の生の頼りなさに。それを続けてなければならないということに。それを紛らわすための最高の特効薬が、「今がいちばんの働き盛り」という考え方だった。

工場のラインについている時間はもちろん、工場が終わってから友人のヨシカが経営しているカフェでパートをしている時も、家でデータ入力の内職をしている時も、ずっとそのことを考えていた。土曜のパソコン教室に出かけて、お年寄りにメールのやり方について教えている時に、このパソコン講師の仕事に刺青は不利なのではないか、とふと思い直した。

ナガセは実家で母親と暮らしている。できる限りの節約生活をしているため、観葉植物のポトスを育てることが唯一の安らぎだった。工場の掲示板に貼られた世界一周のポスター。代金、一六三万円。彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること。そこに離婚を決意した友人のりつ子が娘の恵奈と共に転がり込んできた。第140回芥川賞受賞作。

大事件が起こるわけではなく、淡々とした日常ながら、飽きずに一気に読めるのはいつもと同じ。金額を見て自分の生活とあてて計算してみたり、こういう時ってそんなふうに考えてしまうよね、自分だけの拘りだけどこれは譲れない、なんかわかる~、という小さな小さな共感。これが津村記久子という作家の魅力だと思う。

その一方で、同時収録の「十二月の窓辺」にあるような、無駄を一切省いた文体で、現代社会の病理を題材にした不穏な空気が終始漂う作品もまた、津村記久子らしい作品だ。ユーモアのある表題作で読者の興味を惹きつけ、極端に違う作風で読者を怖がらせる。いつものパターンだけど、この組み合わせのバランス感覚は絶妙だ。芥川賞受賞で初めて読んだ人は、これにビックリかな。津村作品では、これが普通なのだ。


津村記久子さんのサイン。

津村

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津村記久子
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    2009

03.30

「富子すきすき」宇江佐真理

富子すきすき富子すきすき
(2009/03/19)
宇江佐 真理

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「藤太の帯」「堀留の家」「富子すきすき」「おいらの姉さん」「面影ほろり」「びんしけん」の六編を収録。

「藤太の帯」
柳原には古着屋がひしめくように並んでいた。そぞろ歩くおゆみに格別ほしい物はなかったが、すぐ近くの床見世に飾られた一本の帯が目に飛び込んできた。俵藤太の百足退治が描かれた帯。おゆみは身体が丈夫ではなく、お守り代わりにするとその帯を買う。しかし、その後、藤太の帯を締めたおゆみを見ることはなかった。おゆみの通夜になかよしの四人の娘が集まった。おゆみの形見で、持ち主を選ぶというその帯が、仲良し四人娘の間を順に回っていく。

「堀留の家」
干鰯問屋蝦夷屋の手代の弥助と女中のおかな。蝦夷屋に奉公できるようにしてくれたのは掘留の夫婦で、二人が堀留の家と呼んでいるのは、堀留町二丁目にある元岡っ引き、鎮五郎の家だった。女房のお松は無類の子供好きであり、親に捨てられたなどの訳ありの子供が常時、堀留の家で暮らしている。弥助もおかなもその一人だった。捨て子として一緒に育ったおかなから思いを寄せられても、弥助は、妹以上の気持ちにはなかなかなれなかった。

「富子すきすき」
内匠頭が刀傷に及んだ仔細をもっと突き詰めてほしかったと富子は日毎、栓のないことばかり考える。そして、綱吉の裁量で、せめて浅野家が存続さえできていたなら、この度の赤穂藩士の討ち入りは、少なくとも行われることはなかったはずである。富子は上野介の死と跡継ぎの左兵衛の配流と、吉良家の改易に泣いて泣いて、虚ろな日々を過ごしていた。吉良上野介を、世間はますます悪者にしていく。「富子、すきすき」と言ってくれる優しい夫だったのに。

「おいらの姉さん」
生まれも育ちも吉原の沢吉は引き手茶屋の手代。根本屋を訪れたのは小原作左衛門という武士だった。初会の次に裏を返し、晴れてなじみとなるその夜、作左衛門の表情は心なしか上気しているように見えた。九重の名が出ると沢吉は我知らず緊張する。九重が禿であった頃から沢吉が知っている花魁だった。九重とは、花魁と引き手茶屋の手代以上の心の繋がりがあった。そしてひそかに思いを寄せていた。

「面影ほろり」
母親が病を得て床に就くと、八歳の市太郎は邪魔になるというので、辰巳芸者のおひさの家に預けられることになった。おひさは意気地と張りのある女で、女中のおつねは市太郎の姉のようなものだった。手習所の辰之進は少し変わった師匠だった。母親のことを別にすれば、市太郎の毎日は結構、楽しいものだった。だが、深川八幡宮の宵闇の日、忘れられない事件が起きた。市太郎が再び深川八幡宮を訪れることになったのは、二十五歳の時。祝言を挙げることになったからだ。

「びんしけん」
浅草の裏手に市右衛門店と呼ばれる裏店があった。店子としては古参の部類に入る小左衛門は手跡指南の師匠をしている。小左衛門はまれにみる堅物で、行儀にうるさく、子供が膝を崩そうものなら、傍らに置いた物差しでぴしりと打った。四十二歳になった今も小左衛門は独り者のままだった。そのような小左衛門の家に、お蝶がやってきた。二十歳になるのに、読み書きはおろか、まともな行儀作法も心得ていない。小左衛門は渋々引き受け、ひとつ屋根の下でお蝶と暮らすことにした。


人生の分岐点が訪れた時に、一途に想う江戸の女たちは何を思うのか。それぞれの女たち、また関わることになる人たちに起こる人間ドラマ。その心の動きが非常に面白い。特に良かった作品をあげてみる。捨て子として一緒に育った男女の「堀留の家」では、明暗別れる行末にやるせなさを感じる一方で、感動で胸がいっぱいになった。高嶺の花と知っていながら思い切れない「おいらの姉さん」は、報われない恋が切なくて、一生一度の瞬間に美しさを覚えた。忘れられない思い出とあの言葉が甦る「面影ほろり」では、ラストでおもわず涙しそうになった。この三編は断トツで好きな作品だった。

追記。トーク・ショー&サイン会に参加しました。お天気お姉さんに宇江佐さんという人がいて、天気でウェザってすごいと思ったことで、ご自分のペンネームにもらったそうで。他にも、デビュー前は現代ものを書いていたことや、時代ものしか書かない理由や、逆に時代ものは読まないこと、作品にまつわるお話や取材の裏話に、今後書きたい題材のことや、自身が少林寺拳法の有段者であること、函館のお宅での意外な執筆風景も披露されていました。自分の座った席が最前列ということもあって、とても有意義な時間を過ごすことができました。ちなみに宇江佐さんの最終的に欲しい賞は”菊池寛賞”だそうです(笑)

宇江佐真理さんのサイン。

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    2009

03.29

「赤い指」東野圭吾

赤い指赤い指
(2006/07/25)
東野 圭吾

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「あなた、早く帰ってきてほしいんだけど」妻の声には余裕がなかった。真っ先に思い浮かぶのは、母親の政恵のことだ。老母の身に何かあったのか。昭夫が八重子と結婚したのは、今から十八年前のことだ。三年後には子供が生まれた。男の子だった。直巳が生まれてから、八重子は子育てを中心に物事を考えるようになった。その子育てをきっかけに、八重子は正恵とそりが合わなくなった。

重い気持ちで家に帰ると、家の中はやけに暗かった。八重子は顔色が悪く、目が充血している。「庭を見て」と八重子がいった。ブロック塀の手前に女の子が死んでいた。昭夫は目の前が絶望的に暗くなった。少女の死体と部屋に閉じこもる中学三年の息子は、無関係ではない。その息子の顔に反省や後悔の色など微塵もなかった。どんな時でも自分は悪くなく、すべての責任は周りの人間にあるのだと甘え続けてきた顔だ。

「捨ててきて」八重子は顔を上げていった。無茶だ。昭夫は口の中で繰り返した。だがそう呟きながら、彼女のこの提案をじつは自分も待っていたことを自覚していた。その時ふと、ある考えが彼の脳裏を横切った。同時に、たった今生じたアイデアを振り払おうとした。考えること自体がおぞましく、思いついた自分自身を嫌悪しなければならないほど、そのアイデアは邪悪なものだったからだ。

これは加賀恭一郎のシリーズだそうで。「卒業」を随分前に読んだきりなので、シリーズものとしてではなく、単独作のように読んだ。この最低最悪のどうしようもない家族について、思ったことを語りだすと止まりそうにない。だけど、よくよく冷静に考えてみると、これはこれで非常にステレオタイプな人間たちばかりだ。

自分は逃げるばかりで、すべてを妻に任せてきた夫。ヒステリックで身勝手な一方で、息子を溺愛し甘やかすばかりの母親。その結果、現実に背を向け、自分の貧相な世界に閉じこもっている息子。そして、同居の母は認知症。あきらかにダメな人のオンパレードだが、こういう人たちはどこにでもいる。その小心ゆえに、バカ息子の犯罪を隠すという愚挙に突き進む。

こうした家庭崩壊という社会性のあるテーマが題材で、その犯人隠匿のための自分勝手な言動や行動に終始苛々とさせられて、嫌悪感が募るのだが、それなのに意外とするすると読めてしまう。さらに、最後には加賀が言い放ったひと言で溜飲を下げてしまう。東野さんらしいエンターテイメント小説であった。犯人側にこれっぽっちも同情できない作品だけど、直木賞受賞作の「容疑者Xの献身」よりも、こちらの方が好き。ただ、これ以上ネタバレなしで書くことは無理なので、この作品についてはここでおしまい。

おまけ。サイン本を購入できますと、講談社からのメールマガジンにあった。買い物カゴに入れて、届いたのがこれ。おおっと思った方。残念ながら、すでに売り切れです。というわけで、東野圭吾さんのサインをゲット。

東野

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東野圭吾
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    2009

03.28

「ICO霧の城」宮部みゆき

ICO-霧の城- (講談社ノベルス)ICO-霧の城- (講談社ノベルス)
(2008/06/20)
宮部 みゆき

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"生贄の刻"がきた。トクサ村では、何十年かに一人、頭に角を持った子供が生まれてくる。生まれたての赤ん坊の時は、角は目立たない。村の誰よりも丈夫に育つその子は普通の子供たちと、何ら変わらないようにも見える。しかし、頭の角は、まごうことなき"しるし"であった。その子がニエであることのしるし。やがてその子が"霧の城"へ行かねばならぬというしるし。村が背負わされたしきたりのしるし。その子が十三歳になると、角は本性を現す。一夜のうちに急速に伸びて、まるで小さな水牛のように、髪を分けて姿を現すのだ。それこそが生贄の刻である。霧の城が呼んでいる。時は満ちた。その子をニエとして捧げよと。

この村のしきたり。イコの頭には、いろんな言葉が浮かんできた。今の気持ちを説明するには、たくさんの言葉が要る。それを上手に選び出し、並べて口にするだけの自信がない。なにしろ、イコはまだ十三歳だった。しかし、イコはもう決心を固めていた。ニエとしての役割が、自分のなかではっきりと形を成していた。その頃、一番の仲良しのトトは、一緒に城へ行くと軽はずみな行動を起こし、城主の呪いで石化していた。その手には"光輝の書"があった。その書に印された祈りの言葉こそ、イコに着せる御印だった。イコはその特別な御印を着て、霧の城へと旅立つ。

仕掛けに手をかけると新たな通路が現れる。たどり着いたのは石棺が並んだ大広間。その石棺は、薄青く、また薄赤く、生き物のように脈動しながら、どくん、どくんと光っていた。石棺は大口を開けてイコを呑み込み、頭から食べようとした。でも、イコは、石棺にとっては毒になる食べ物だった。この御印は貴方のものだ。村長の言葉が耳に甦る。その時、鳥籠に囚われた少女を発見したイコは、彼女を助け出す。現れた煙のような黒い怪物が、少女を黒い渦へ引き込もうとする。助けようと少女のその手を握ると、ここではあるけれど現在ではない光景が広がった。

イコは言葉の通じないその少女の手を引き、とにかく外を目指して歩き出す。だが、その行く先々で黒い怪物に襲われる。「僕が君を守ってあげる。一緒にこの城を出て行こう。二人で手をつないで出て行こう」頭に角の生えたニエの少年・イコ。不思議な力を持つ少女・ヨルダ。彼女が囚われていた理由とは? いや、この少女こそ、何者だろう? なぜ霧の城は、角の生えた子を求めるのか。いったい、霧の城というのはどうしてこんなに不便に造ってあるのだろう。あっちにもこっちにも段差があって、真直ぐには進めない。運命に抗い、謎が渦巻く城からヨルダとともに脱出するため、イコは城主と対決する。


内容紹介を書き始めたら、止まらなくなってしまった。これはプレステ2のテレビゲーム「ICO」を元に、その物語世界をノベライズした作品らしい。だが、ここ何年もゲームをしない生活を送っているので、そのオリジナルを知らなかった。よって、ゲームを知らないただの本読み人の声だと思って下さい。

ネット書店アマゾンでは、ゲームと違うと酷評されていた。ゲームの良さを台無しにしたと言われていた。これを読むなら攻略本を読めという暴論まで。でも、宮部版「ICO」だけを読んだ人からすれば、これが「ICO」なのだ。ゲームは視覚効果が大きくて、プレイヤーが得る情報はその目に映るものがほとんだと思う。それを文字にして、文章に組み立てて、物語として膨らませるのだから、同じ「ICO」であってもこれはまったくの別もので当然だろう。

細かい物語の背景の描写。迷路のような城内にひとつひとつ苦労する主人公たち。そして、登場人物たちの心理描写やその時々の想い。ゲームには大筋のシナリオはあってもこれらはない。ゲームを体験した人からすれば、これら加えられた部分が余計で、「ICO」ではない理由なのかもしれない。だけど、これらがなければ本当に無味無臭な攻略本だ。そんなのを読んで面白いのだろうか。アマゾンの低度な意見に少々熱くなってしまった。

第一章から第二章までは、主人公の旅立ち、霧の城、ヨルダとの出会い、そのヨルダの正体が描かれている。これらは著者の熱意が空回りしてしまったのか、少々長すぎるように感じてしまった。だが、第三章に入ると俄然面白くなりだした。繁栄した過去の霧の城。城主である女王の闇。そこであった出会いの明と暗。そして、ことの真相と対決。最後は予定調和だけど、宮部さんらしい少年の冒険が楽しむことができた。ゲームを大事に思う人は無理して読まないで。世界観は同じだが、これは別ものだから。

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宮部みゆき
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    2009

03.27

「卵の緒」瀬尾まいこ

卵の緒 (新潮文庫)卵の緒 (新潮文庫)
(2007/06)
瀬尾 まいこ

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「卵の緒」「7’s blood」の二編を収録。

「卵の緒」
僕は捨て子だ。驚くことに母さんの僕に対する知識があやふやなのだ。へその緒が親子の証だって、青田先生が言ってた。だけど母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんてまじめな顔で言うから、うそなのか本当なのかまだ九歳の僕にはわからなくなった。捨て子疑惑はまるで晴れなかったけど、この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。それに、とにかく母さんは僕をかなり好きなのだ。それでいいことにした。悩んで禿げないためにもそう思い込むことにした。

うちの親父は木の又から産まれたらしい。自分は橋の下から拾われたそうだ。今なら冗談やからかいだと分かるが、子どもの頃にそう聞かされて、当時は真剣に悩んだ覚えがある。へその緒もあるそうだが、気持ち悪くて見たことがない。この主人公の男の子もまた、すごく不安がっている。でも母親は軽くいなしてしまう。しかしこの母親は不思議系で天然も入っているのか、憎めない存在で妙に愛おしく感じてしまう。瀬尾さんの優しい文章から、深い愛も伝わってくる。そうして、ラストには大きな感動が訪れてくるのだ。

「7’s blood」
七子と七生。父さんがつけた。私たちが似ているのは名前だけではない。驚くほど、顔つきも同じだ。だけど、正しい姉弟じゃない。七生は父の愛人の子どもだ。七生の母親が傷害事件を起こして刑務所に入ったため、我が家で預かることになった。といっても、父親はとっくの昔に死んでいるから、七生と我が家はなんら関係がない。なのに、七生を引き受けることになった。奇特な母さんが決めたことだ。七生が来て五日目、母さんは病院に運ばれた。

二人きりで暮らすことになった七生は、育った家庭環境ゆえに処世術を身につけていた。無邪気さ、気の利いた行動、子どもらしい笑顔。それらは相手が次にどうでるかを見透かして作られたもの。つまり、同情を引くための計算をする、子どもらしくない子ども。そんな子どもなので、七子は気味悪く思ってしまい、二人はぎくしゃくしてしまう。それでも一緒に生活していくうちに、なくてはならない存在に変化していく。いい加減な姉としっかり者で要領のいい弟と、「卵の緒」とは違う血の繋がりの物語。母親はなぜ七生を引き取ったのか。それに七子が気づいたとき、 大きな温かさに包まれて胸がいっぱいになった。

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瀬尾まいこ
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    2009

03.26

「天山の巫女ソニン 3」菅野雪虫

天山の巫女ソニン(3) 朱烏の星天山の巫女ソニン(3) 朱烏の星
(2008/02/15)
菅野 雪虫

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江南から沙維にもどったイウォル王子とソニン。午前中の仕事を終えたソニンは城を出て、鶴亀亭で働くミンに会いに行く。ソニンが十二年間、天山の書物と巫女の授業で学んだ知識の代わりに、ミンには十二年分の生活の中で身につけた経験があった。会うたびにたくましく、着々と人生を歩んでいく友人。ミンが地に足をつけ、しっかり自分の目で物事を判断しているのにくらべると、自分は何もみていないのではないかと、ときどきソニンは思う。イウォル王子もどんどん大人に、冷静になっていくのに、自分は天山で学んだ感情を抑える術を忘れ、子どもじみた単純な人間になってゆくような気がしていた。

その日、巨山王から、パロル王へ手紙がきた。手紙の内容は巨山の国で、沙維の民が捕らえられたというものだった。捕らわれた森の民というのは、沙維と巨山の国境に広がる山林地帯に古くから住んでいる部族。今回、通交証を持っていなかったという男は、文字を読めなかったため、期限の切れた通行証で移動できると勘違いしていたらしい。そして、捕まったのは、イウォル王子の母と乳母の一族だった。身元引受人の使者になったイウォル王子とソニンは巨山へと旅立つ。そして訪れた巨山で、獅子のような大きな白い犬を従えた孤高の王女イェラと出会う。

遊び相手としてつれてこられた娘たちの愚鈍な態度が腹立たしい。友人などいらない。常にそう思っていたイェラだが、一度だけ、その思いが揺らいだことがあった。それは三年前、イェラが十二歳のときのことだった。レンヒ。三歳で天山に巫女としてのぼり、十五歳で下山。結婚と夫の死別を繰り返し、沙維王の弟と結婚し、城に入る。巨山と江南との戦が始まった直後、甥にあたる七人の王子たちに毒を盛り、夫を殺害。その罪で捕まるが獄中で自死。禍々しい人生でありながら、イェラはなぜか一度だけ会ったその人を忘れることができなかった。そこに元天山の巫女だったソニンが現れた。

三巻目にして、やっと巨山の国と狼殺しの王が登場。柔和だが決断力と求心力のある王、豊で進んだ生活をする人々、長い冬を楽しむ文化のある国。だが、一歩城外へ出ると・・・。ソニンとイウォル王子は、その底辺に住む人たちのごたごたに巻き込まれてしまう。そしてイェラとの緊張感ある交流と、ソニンたちそれぞれの成長。今回はちょっと大人しいというか、小じんまりというか、わくわくする部分がなかったように思う。そこが残念だった。でもこれで三国が出揃ったわけで、全五巻の布石が終わったと見ていいのだろう。たぶん。

というわけで、これまでのおさらいをしておきたい。沙維を治めるパロル王は賄賂や横領に厳しく、金儲けに執着する者にはうまみがない。絶対勢力の一族が治める江南は、貧富の差が激しい国。巨山王のやり方には不満を持つ者が多いが、それ以上に熱烈な信奉者が多い巨山の国。そういった三国の違いや、その国に生まれたイウォルたち王族の考えの違い。そんな王子たちと交流を持つ、唯一の存在がソニン。この後、物語はどこへ行くのだろうか。

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菅野雪虫
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    2009

03.25

「きのうの世界」恩田陸

きのうの世界きのうの世界
(2008/09/04)
恩田 陸

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人気作家ではあるが恩田陸さんは苦手だ。それなのに、書店でサイン本を見つけてしまい、これはレアかも、とミーハー心に火が着いて、ついつい財布の紐がゆるんでしまった。だがやはり、苦手意識はあるし、本は分厚い。というわけで、これまで積んだままでいた。読み始めると、重厚な雰囲気が待ち受けていた。そう、これが苦手なのだ。数ページで挫けそうになった。しかし町の雰囲気だけで負けてなるものか。そう自分を叱咤して、読み進めることにした。以下は内容紹介。

東京で会社員として働いていた市川吾郎が、ある晩上司の送別会の席から忽然と姿を消し、その一年後、東京から遠く離れたM町の水無月橋で、死体となって現れた。塔と水路の町。M駅前から続く歴史の散歩道を進むと、いたる所に張り巡らされた水路と、町の象徴である二本の塔が目に入ってくる。三の塔も存在したが、その鉄塔は途中からなくなって壊れたままだ。丘陵地を縫うようにうねうねと続く道に入ると、川の音が聞こえなくなり、丘の上に辿り着く。丘の窪みに渡された、長さ五メートルもない、木造の橋。水の無い川に掛かった橋。これが水無月橋なのだ。

バス停に捨てられていた手書きの地図には、赤い矢印が付いていた。その矢印は地図の小さな橋に向かって付けられていた。そう、水無月橋があるところに。誰が地図を捨てたのか。なぜ捨てたのか。地図を捨てた人物は、殺人事件の犯人とイコールなのか。地図に印が付いていた場所で、地図が捨てられた日に他殺死体が見つかったのだから、関連があると考えるほうが自然である。M町を訪れた部外者や、事件と関わりのあった町の人々は想像する。市川吾郎はなぜこの町に現れたのか。市川はこの町の何を調べていたのか。どうして死ななければならなかったのか――。

途中までは面白かったです。徐々に見えてくる市川吾郎の輪郭。彼が取っていた謎の行動。この町の人々が塔に関心を持っていないこと。なぜ三の塔は壊れたままなのか。この町に隠されたある秘密。これらで読者の興味を惹くのはさすがに上手いと思う。だけど、謎を提示しただけで、うやむやのまま終わってしまったものはいったいどう解釈すればいいのだろうか。例えば、置いていかれるハンカチとか、焚き火の神様のことなど、残された疑問が気になって消化不良を起こす。

それとミステリとばかり思っていたら、突然SFの世界に突入するし、この町の創設者一族だから偉大なんだろうと思ったら、意外と小さなことを気にする黒い人であったり、最後に明かされる市川吾郎の死の真相には、そんなアホな!とおもわずツッコミを入れてしまう。ミステリ仕立ての数々の謎の提起は何だったの? というか、不条理極まりない。でも感想を一言でいえば面白かった。多視点を含めた章割りは飽きがこなくて見事だし、不満は多々あるものの、それらが雲の如く消えていくのだから不思議。だけど、やっぱり好きな作風ではなかった。この著者は、自分とは合わないな~と再認識した次第です。

恩田
恩田陸さんのサイン。

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恩田陸
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    2009

03.24

「ねたあとに」長嶋有

ねたあとにねたあとに
(2009/02/06)
長嶋 有

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山荘での退屈な時間を過ごすために発明(?)された、独創的な「遊び」の数々……ケイバ、顔、それはなんでしょう、軍人将棋。魅惑的な日々の「遊び」が、ひと夏の時間を彩ってゆく。小説家「コモロー」一家の別荘に集う、個性的な(実在する!?)友人たちとの夏の出来事をつづる、大人の青春小説。第一回大江健三郎賞受賞作家による朝日新聞夕刊連載の単行本化。

「ジャージの二人」の姉妹編のような作品。山荘というよりも山小屋。そこに夏の間だけ避暑にやって来るのは、作家のコモローと小道具屋を経営する父のヤツオ(おじさん)。二人の楽しみはテレビで天気予報を見ること。何故ならば、東京の今日の気温を知って優越に浸れるから。視点となるのは、この山小屋を訪れた、コモローの友人でウェブデザイナーの久呂子。

そして、山小屋に集う人々。おじさんのお店でアルバイトをしている巨乳のアッコさん。コモローの伯父でヤツオの兄のヨツオさん。コモローの友人で作家のコウさんと同じく友人で人気バンドのドラマーをするジョーさん。アッコさんの友人でいつも笑顔のエミさん。ヤツオの娘でコモローの異母妹のトモちゃん。テレビゲーム作家の相田カズトC。

いつも家の中でなにがしかの虫が飛び交っている。虫嫌いにはおぞましい空間だ。この山小屋を初めて訪れる者には、ここで過ごすルールが伝授され、そこで行われるオリジナルの遊びにも独自のルールが存在する。山中なのにアウトドアな遊びは一つもない。覇気のないヤツオの休みたがりが反映したのか、この家から一歩も動かず、その場にあるもので、すぐに遊べるインドアなゲームたち。

麻雀牌を使って、競馬に見立てたレースをする「ケイバ」。二個のサイコロ使って、恋人のプロフィール&容姿を作る「顔」というゲーム。敷地内(できれば室内)にやって来た虫を写真に撮り、虫だけをブログにアップする「ムシバム」こと虫のアルバム。分かるはずがない質問にフィーリングで回答していく「それはなんでしょう」。元オセロの駒を使った「軍人将棋」。言葉の終わり二文字をとってダジャレにする「ダジャレしりとり」。

この家でなければという人間関係と、ルールと、ここだけの遊び。つまりこの本自体が大人の遊びとなっている。また、これは!という、センスよい言葉があちこちに嵌っていて、たぶん計算があるのだろうが、それを「いかにも」と思わせないところがこの著者のすごいところ。どうでもいいことを楽しく遊ぶ。これってある意味ぜいたくなのかも。

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長嶋有
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    2009

03.23

「夏の日のぶたぶた」矢崎存美

ぶたぶた

夏の日のぶたぶた (デュアル文庫)

そのドアを開けた時から、僕こと菅野一郎の、本当の夏休みは始まった。その古ぼけて黒ずんだ扉を開けてくれたのは、小さなぶたのぬいぐるみだった。煤けた桜色で、突き出た鼻に黒いビーズの点目。手足と耳の内側に濃いピンクの布が張ってあり、右耳がそっくり返っているバレーボールくらいのぬいぐるみ。

一学期の終業式があった日、母さんが六歳の弟を連れて、家を出ていった。六年前、ちょうど弟が生まれた頃に、それまで代々やっていた酒屋をやめて「コンビニにする」と、父さんは一人で勝手に決めた。見たことのないくらいの壮絶な喧嘩の末、母さんが折れた形になった。それ以来、二十四時間営業は忙しく、いわゆる家族の団欒ってものがなくなった。

家にいてもしょうがないので、次の日から僕は店に出た。ただ、今まで母さんがやっていた経理や発注などの細かい作業を父さんがやるようになったので、僕は酒屋の頃からやっていた配達を受け持つことになった。その日、配達を頼まれたのは近所の幽霊屋敷と呼ばれている早坂さんち。勇気をふりしぼって行くと玄関から出てきたのは、ぶたのぬいぐるみ。山崎ぶたぶただった。

今回のぶたぶたは中学生の少年と交流。長編を読むのは久しぶりになるのかな。一郎の母さんが家出して実家へ帰ってしまった。それもしょうがないと思っていたところ、幼なじみの久美が、突然二人で迎えに行こうと言い出した。それに久美の様子も何かおかしい。一郎は迎えに行くにしても、二人きりだと間が持たないと思い、ぶたぶたにも同行して欲しいと頼み込んだ。こうして少年少女は、ぬいぐるみのふりをしたぶたぶたと旅立つ。

中学生の一郎がなんとも鈍くて幼い。そこが少し気になった。自分が中学生の頃って、おにゃん子が流行っていて、友達と誰が一番いいなどと語り合っていた。これはただませていただけだろうか。だけど、これぐらいが普通だと思う。とはいえ、一郎のひと夏の小旅行は、心温まるとてもいい物語で、シリーズを読み続けてきた人も楽しめるし、初めて読むという人もOKだと思う。でも、ぶたぶたにはもう少し動いて欲しかったような・・・。

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矢崎存美
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    2009

03.22

「パパママムスメの10日間」五十嵐貴久

パパママムスメの10日間パパママムスメの10日間
(2009/02/06)
五十嵐 貴久

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列車事故でパパと小梅の心が入れ替わり、無事もとに戻ってから2年が過ぎた。小梅は大学に合格し入学式を迎えたその日、落雷に遭い再び悪夢が!しかも今回はパパ→ママ、ママ→小梅、小梅→パパに!!そんな中、パパの会社の新化粧品に汚染野菜が含まれていることが分かって…。一体、3人はどうなる!?入れ替わったからこそ気づく家族の大切さとは。どんな家族も共感まちがいなし、とびっきりのエンターテインメント小説。《本の帯より》

ママになってしまったパパは、当然主婦をすることになるが、買い物ではママさん同士の見栄を張って失敗し、洗濯機を始めとした最近の家電製品の使い方が分からずに四苦八苦。小梅になったママは、友だち付き合いのある大学が始まり、慣れないハンバーガー屋のアルバイトでパニックを起こし、小梅に恋人のケンタ先輩のことも頼まれる。そして、パパになった小梅は、前回の経験もあるし、パパの部署が暇ということもあって余裕綽々。だが、会社一丸のプロジェクトに、中国から輸入している野菜に毒物混入いう噂が耳に入ってきて…。

なよっとした舘ひろしを思い出しながら面白く読めた。ただ、人物の入れ替わりが、二人から三人に増えた意図がよく分からなかった。パパの心がママの体へ、ママの心が小梅の体へ、小梅の心がパパの体へ。パパと小梅の入れ替わりは楽しく読めるのだが、今回初めて入れ替わりに加わったママの立ち居地が微妙だった。混乱からヒステリーになり、すぐに愚痴をこぼすママを読んでいるとイラッとくる。酔った勢いでフィーバーする辺りは笑えるが、全体的にママが弱点になっていたと思う。それに三人になったことで、個々の事件の深みが薄まっていたような感がある。

小梅も前よりはまったりとしていたが、腐れ縁の部下である中嶋がいつも側にいて、度々小波の笑いを誘ってくる。そんな中、地味だけど、主婦になったパパが何よりも笑わせてくれた。でも敢えてその内容には触れない。自分で読んで吹き出してもらいたいからだ。ただ、前作のドラマ化もあって、二匹目のなにやらを狙ったのだろうと想像するが、前作と比べると、失敗作ではないがいまひとつだったような。やはり思うことは一つ。ママはいらんかったよね。余計なお世話だけど。そういうマイナスはあっても、前作が好きなら、ある程度は楽しめるだろう。

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    2009

03.21

「バスジャック」三崎亜紀

バスジャック (集英社文庫)バスジャック (集英社文庫)
(2008/11)
三崎 亜記

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異質な世界を描く作家ということは、「となり町戦争」を読んで知っていた。この著者は、ずっとこのままで行くのだろうか。そう思いながらこの短編集を読んでいたら、味わいが分かるようになってきた。本を閉じた時には、好き、となっていた。「二階扉をつけてください」「しあわせな光」「二人の記憶」「バスジャック」「雨降る夜に」「動物園」「送りの夏」の七編を収録。

「二階扉をつけてください」
もう町内でお宅だけなんですけどねぇ。そろそろつけてもらえないですかねぇ。二階扉ですよ! 回覧板廻ってきたでしょう? 町内を一周してみる。確かにどの家の二階にも、扉がついていた。私も自宅につけようと、業者に連絡するが――。このシュールな展開から、こうきたかというブラックなオチ。これは「どこでもドア」か!?

「しあわせな光」
今夜は、どんな光景をみることができるのだろうか。部屋の中を走り回る僕がいた。まだ若い父親。エプロン姿の母親。どうやら、この丘の上からは、両親が生きていた頃の懐かしい光景を、窓の中に見ることができるらしい――。切なくも心が温まる素敵なショートストーリー。おばあちゃんに会いに行くのび太くんを思い出す。あれは泣けるねぇ。

「二人の記憶」
僕と彼女のズレは日に日に増していった。一緒に行ったお店、観た映画の内容、誕生日プレゼントに贈った指輪。前回遭った時の記憶が食い違うならまだしも、ひどい時には、五分前の食事の内容さえまったく違っていた――。少し奇妙な恋愛物語。これは切なすぎる。それに勇気あるなぁ。そして、ドラえもんのネタは思いつかないから、もうやめにする。

「バスジャック」
今、バスジャックがブームである。人々は、バスジャックの報道を見ては、心ひそかに応援し、溜飲を下げるのだった。四人の男女が一斉に立ち上がり、動き出した。乗客たちは、バスジャックであると理解した――。バシッと決まるとカッコいいのだけれど、オチが早い段階で見えてしまったし、もう少しページ数が欲しいとも思った。惜しい。

「雨降る夜に」
彼女が僕の部屋に訪れるのは、いつも雨の降る夜だった。自然な動きで玄関へ滑り込む見知らぬ彼女。勝手知ったる様子で本棚の前に立ち、気になった本を開いていく。そうして彼女は、今夜借りる五冊の本を選んだ――。僕の部屋を図書館だと思い込んでいるところがミソで、そこに本好きはグッときてしまう。うちにも来ないかな~。

「動物園」
動物を展示して観せるのが仕事という女性が、依頼されて動物園を訪れた。だが、長年動物と接してきた飼育係にとって、私たちの仕事は、感情的に相容れないもの。そんな相手には、現実を突きつけて見せるに限る――。飼育員との交流と、女性のこだわりと日常の倦怠。これぞ、ザ・三崎ワールドかも。

「送りの夏」
母は、いったいここで何をしているのか。誰と暮らしているのか。小学生の麻美はそれを確かめるために若草荘に来たのだ。不揃いなテーブルを囲んだのは、麻美を含めて十人。その内四人は、精巧に作られた人形のように身じろぎ一つすることはなかった――。誰かを失うことへのけじめ。その失うことに自分の身を馴染ませる人々。こういうお涙ものは生理的に苦手。雰囲気はあるけど。

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三崎亜記
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    2009

03.20

「アレグリアとは仕事はできない」津村記久子

アレグリアとは仕事はできないアレグリアとは仕事はできない
(2008/12)
津村 記久子

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「アレグリアとは仕事はできない」
万物には魂が宿る。ミノベの信仰にはそうある。だからミノベは舌打ちをし、目を眇め、衝動に震える足を踏み鳴らし、叫ぶのである。「おまえなあ、いいかげんにしろよ!」ミノベは、商品名アレグリアの原稿テーブルを、平手で何度も叩きつけた。アレグリアはうんともすんとも答えなかった。やっと動き出したかとなけなしの希望に目を輝かせたミノベを嘲うように、再び沈黙した。

A3からA1対応のプリンタ、スキャナ、コピーの三つの機能を持つ複合機であるアレグリアを、ミノベはほとんどコピー用途で使っていたが、他の二つでの仕事ぶりと比べて、彼女はまるでそれをさげすんでいるかのような拒みようだった。ピー、と八秒間鳴り、アレグリアは再びウォームアップに入った。自社ビル四階技術部フロアの片隅における機械と人との攻防は、当分終わりそうになかった。

ミノベに言わせると、アレグリアはどうしようもない性悪だった。快調なスキャン機能で、それを主に使う男性社員の歓心を買い、そのじつ怠惰そのものの態度をミノベには示し、まるで媚を売る相手を選んでいるようにも見える。メンテナンスの人間がやってくるとぐずっていたそれまでの様子を覆し、突然ちゃんと動き始めたりもする。こいつは女嫌いなんだと思います、と社内でただ一人ミノベと同じ仕事をしている先輩に話すと、不思議な顔をされた。

これは使えない機械との格闘でありながら、他人と理解し合うことの困難さを描いた作品だと思う。同じように不満に思っているはずの先輩が、何故か同調してくれないもどかしさ。しかも誰もこの慢性的な不具合に気づいてくれない腹立たしさ。とにかく、主人公の怒りっぷりと、話の切り口が面白かった。作品とは関係ないけれど、うちのコピー機もよく紙詰まりを起こす。だけどメンテナンスの人間がやってくると、嘘のように動き出す。何故だ!?

「地下鉄の叙事詩」
通勤通学客で満員の地下鉄車両内。心の中で周囲に毒を吐く大学生。運良くシートに座ることができたサラリーマン。通勤電車に乗ると人格が変わってしまうOL。痴漢に遭って抵抗できない少女。同じ電車に乗り合わせた四人が遭遇したある事件。それぞれの視点から描かれた書下ろし作品。

満員電車に乗ると、誰もが不快に思うことがあるだろう。イライラして毒づきたくもなるだろうし、座れたラッキーに余裕が持てたり、無性に攻撃的になる自分がいたり、痴漢に遭う可能性も。そういった乗客たちの心情がすごくリアルだった。そう言いながらも、自分の職種は満員電車とは縁がない。しかし学生時代の通学を思い出した。特に雨の日の電車内は、整髪料の異様な臭いが漂っていたことを。

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津村記久子
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    2009

03.19

「あなたがここにいて欲しい」中村航

あなたがここにいて欲しいあなたがここにいて欲しい
(2007/09)
中村 航

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表題作「あなたがここにいて欲しい」は、「夏休み」に登場した吉田くんと舞子さんの若かりし頃。それに「男子五篇」「ハミングライフ」の他二編を収録。

「あなたがここにいて欲しい」
カマボコがあるんですけど、食べますか? 大学の研究室には、吉田くんと舞子さんだけが残っていた。二人はそれぞれのPCに向かい、それぞれの作業をしていた。吉田くんは、小田原へ古い友達の又野君に会いに行くが、結局は会えなかった。吉田くんは又野君こそ、小田原最後の正当なヤンキーだと信じている。又野君に渡すつもりだった小田原土産のカマボコを、二人はつまんだ。二人は一緒に研究室を出て、駅まで歩いた。その日(カマボコ記念日)から、二人はときどき一緒に帰るようになった。

「男子五篇」
小学一年生、夜祭りは大人と一緒に行くものだった。小学三年になったら、祭りは友だちと一緒に行くものになっていた。小学六年には、ただ学校が休みになるラッキーな日になっていた。中学校ではサッカー部に入り、どうしても気になる同級生がいた。高校に入るとすぐ、バンドの真似事を始めた。十八歳、上京して大学生になった。レンズを作る会社でエンジニアとして働いた。その後、小説を書こうと思ったのは、案外自然なことだった。会社を辞めようと思ったのも、自然なことだった。二十九歳だった。

「ハミングライフ」
私は天気が良い日は、牛乳とサンドイッチを買い、公園に行く。茂みの下に、黄色い皿が見える。その向こうに目をやると、今度は猫だった。私は牛乳をあげてみることにした。牛乳を飲み終えた猫が去っていった茂みの先に、大きな木があり、ぽっかり空いた洞があった。私は昼休みになると公園に行き、猫に牛乳をやった。ウロの奥に、何か白いものがあった。Hello!と猫の絵が描かれた紙。私は返事を書いた。私は木のウロをウロポストと名付け、ウロポストにはだいたい毎日、小さなウロレターが届く。

「あなたがここにいて欲しい」は、恋の始まりと友情の確認の物語。著者らしい温かな作品で、こういうユルイ感じは好きだ。「夏休み」を読んでいると、さらに楽しめることは間違いない。「男子五篇」は、著者の自伝だろうか。主人公と過ごした年代が近い自分にとって、登場するアニメや音楽、バンド活動など重なる部分が多々あって、男の幼稚さに共感することができた。「ハミングライフ」は、猫を通して、男女がお互いを知らないまま交信を始める。とにかくメルヘンでかわいい作品だ。また雑学や言葉遊びも楽しかった。それにイラストもキュートだった。

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中村航
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    2009

03.18

「幸せになっちゃ、おしまい」平安寿子

幸せになっちゃ、おしまい幸せになっちゃ、おしまい
(2009/01/22)
平 安寿子

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おとぎ話の決まり文句はみんな嘘っぱち。ほんとうの人生は「めでたしめでたし」では終わらない!みなさん、絵に書いたような幸せを求めてはいませんか? 現実は、おとぎ話のように、「めでたしめでたし」では終わりません。そして、ハッピーな一幕があったとしても、その後の人生はまだまだ続くのです。

本書は、若くて元気な女子たちの後半戦が、やがてどうなっていくのかを教えてくれる一冊であり、何かを失ってこそ手に入れられるものがあることを、先輩女子の著者がナビゲートしてくれます。それを知っているのと知っていないのでは、大違い。この本を読んで、これからの人生への心構えができた人は、きっと快適な生活を手に入れられるはず。今日も頑張るあなたへお薦めのエッセイ集です。《出版社より》

平安寿子さんの新刊だー、と当たり前に飛びついたら、女性誌掲載のエッセイだった。思ったことを直接ぶつけてくるエッセイは苦手だし、女性向けだろうし、と読む前は弱腰になっていたが、読み始めてみるとそれは杞憂にすぎなかった。小説に出てくる女性たちが思っていることと大して変わらないし、文章がいつもの平さんだったからだ。

ただ、小説の感想と違って、エッセイのことを書くのは難しい。小説ならば、作品の内容紹介をして、読んで思ったことをここに書けばいい。だけど、エッセイの場合は、著者の思ったことの語りなので、それに対して自分が思ったことを書くのは何かへん。思ったこと返しをしてどうするねん、というわけだ。だから、現在、困惑しながら書き進めている。

そこで面白かったエピソードを、ずらずらっと挙げてみることにする。ただし、本を読む意味がなくなるから、その内容についてはあえて書かないけれど。平さんが思う幸せについてのこと、女性にとってのゲイの友達とは、初めての部屋探し、外国の日本食レストランについて、アジアン・ビューティの流行り、韓国で映画化されたこと、男性のトイレについて、マイナスの記憶はいつまでも覚えているということ、三十怖い病と四十怖い病、そして、自作についての裏話。

これらのエピソードを読んでいると、自分の中に何かがすとんと落ちてきて、気がつくとニヤリと笑っていた。同じことを思っていたとかではなくて、きれいに消化されたような心地良さとでも言えるのか、ただ単に波長が合うと言うのだろうか。上手く表現できないのがもどかしいが、こういう感覚を味わえるからこそ、平作品を読み続けているのは確かだ。本書を読んで一方的にだけど、また思った。著者の感性とは、気が合うと。次回作でも、平安寿子さん、こんにちはしましょう。

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平安寿子
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    2009

03.17

「WE LOVEジジイ」桂望実

WE LOVEジジイWE LOVEジジイ
(2009/01)
桂 望実

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恩を仇で返してしまった後輩の自殺により、コピーライターの岸川は引退を決めた。そして人と関わりたくなくて寂れた土地を探し、旧川西村のログハウスを借りて一年が経つ。妻からは離婚を宣言され、了承した。孤立には成功していた。話しかけてくるのは、近くのバネ工場で派遣スタッフとして働いている新山と、地域活性課職員の池田と、五十嵐商店のきよバアぐらいだった。静かに過ごせていることに満足はしているが、生活の不便さにはなかなか馴染めなかった。

その日、村を愛する池田は唐突に語りだした。高齢者ばかりの川西が、町にとって、いや、県にとってかけがえのない存在になれる企画を探し続けているが、失敗続きだという。工場誘致も原子力発電所のゴミ処理施設受け入れも盆踊り大会も。諦め切れないので、ヒントだけ、お願いできないでしょうか? 岸川はたいして深くも考えず、オリジナルの輪投げ大会をしたらどうだと池田に言った。

こんなふざけた話にのるような人がいるとは思っていなかった。だが、池田は猪突猛進し、上がり症の亀ジイは出場に意欲をみせ、友達思いのしげジイは心配することになった。岸川も池田から頼まれ、参加者を募るホームページを作らされ、ゲーム輪投げのルール作りにも参加した。こうして第一回全日本ゲーム輪投げ大会が開催される。だが、大会は大失敗に終わり、池田一人が矢面に立たされた。はたして次の大会は成功なるのか――。

愛車はBMW。趣味はラジコンヘリ。雨の日はDVD鑑賞。後輩の自殺から逃げ出した清川は、人との繋がりを避けて隠遁生活を送っているが、池田を始め、新山、しげジイと亀ジイ、きよバア、亀ジイの奥さんの菊バア、外国人就労者のアウベルトと犬のアイサツなどと次第に交流を持つようになり、生きていくことを見つめなおす。それと共に、清川が陣頭指揮を執って、大会の成功を目指していく。ベタなお話だけどこれがいい。

まず進化を遂げていく五十嵐商店がツボにはまった。きよバア不在時には、買ったものをメモに書いてお金を置いていく村民。夜には店のシャッターを勝手に持ち上げて買い物までする者も。コンビニがない村だけど、五十嵐商店は世界一安全な二十四時間営業のコンビニかも、と思い出したらくすくす笑いが止まらない。しげジイと亀ジイの友情はすべてが感動的で、他に何もいうことはない。それに輪投げというダサさが逆にイケていたと思う。

脱力系だけど、熱くなれて、ぐっとくる作品だった。ただ、ゲーム輪投げのルールが分かり辛かったのはもったいないかな~。それ以外はグッドだった。

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桂望実
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    2009

03.16

「煙霞」黒川博行

煙霞煙霞
(2009/01)
黒川 博行

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大阪の私立晴峰女子高校では、私学助成金の不正流用や、有無をいわさず人事権を行使するなど、理事長が学校法人を私物化していた。事業に失敗して転身した美術講師の熊谷とロックな音楽教諭の菜穂子は、同僚の体育講師から、ワンマン理事長を拉致して不正の証拠を突きつけ、理事長退任を迫る計画に誘われる。リストラの危機にある二人は職の保障を得ようと理事長の拉致に加担する。

理事長と愛人を拘束し、交渉は成功したかに思えた。だが、後を同僚にまかせて拘束現場から出た熊谷と菜穂子だが、その後理事長らが失踪してしまう。実は同僚の背後には黒幕が居て、その校地売買のブローカーの箕輪に理事長たちは誘拐されていた。結局は熊谷と菜穂子も箕輪に捕まり、菜穂子を人質に取られた熊谷は、理事長から金塊を奪う計画を手伝わされることに。

熊谷、愛人、佐藤を名乗る男は、車でミナミへ向かう。理事長の隠し財産である金塊を、佐藤の指示で車のトランクに積んだところ、愛人が車ごと金塊を持ち逃げする。二億三千五百万の金塊が盗まれた。さらに、金塊を積んだはずの車が途中で入れ替わり、愛人と金塊の行方も分からない。熊谷と菜穂子は釈放された。要するに、お払い箱。利用価値がなくなったのだ。

「でも、このままやったら腹の虫がおさまらへんやんか」「菜穂ちゃん、わるいことはいわへん」「熊さん、チンチンついてるんやろ。お願いやから、もうちょっとだけつきあってよ」「分かった。分かりました」菜穂子に頼まれて、熊谷と菜穂子は金塊争奪に車を走らせる。はたして誰と誰がグルでこの計画を立てたのか、金塊の行方は。ブローカー、理事長愛人、巻き込まれた教師たち。最後に笑うのは――。

学校経営の裏側が暴露され、誘拐モノで巻き込まれ型。悪党たちによる騙し騙され騙しあい。そして関わってしまった主人公の教師コンビは幸運なのか不運なのか。大阪弁のしゃれた会話がテンポよく跳び、大阪の街を忙しなく車で走らせ、目的は金塊にあるのだが、先がまったく読めない展開になっている。また悪党たちに計画性があるようでいてわりと杜撰。その抜けたところを読者はくすくす笑う。悪党小悪党が跋扈する中での、行き当たりばったりな主人公たち。この能天気さに味があるのが黒川作品。面白かったです。

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黒川博行
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    2009

03.15

「架空の球を追う」森絵都

架空の球を追う架空の球を追う
(2009/01)
森 絵都

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やっぱり罠にはまった。そんな気がする。ふとした光景から人生の可笑しさを巧妙にとらえる森絵都マジック。たとえばドバイのホテルで、たとえばスーパーマーケットで、たとえば草野球のグラウンドで、たとえばある街角で…人生の機微をユーモラスに描きだすとっておきの11篇。(「BOOK」データベースより)

足元もおぼつかない少年野球の練習を見つめる母親たち、年に二回の飲み会を催す高校時代の女友達、桜並木の連なる遊歩道で、邪心ある人とすれ違う通勤途中の女性、歯痛の社長にハチの巣退治を命じられ、右往左往する同僚たち、高級食材を淡々と買う夫人に憧れて、追いかけて観察してしまう女性、自由奔放な女になりたくて、逃がす目的でカブトムシを一匹買う主婦、御曹司との婚前旅行先のドバイにて、心をざらつかせてしまう女性、乗ったタクシーで縁と縁が繋がって、懐かしい人に会いに行くことになるカップル、温泉に来て、一緒にお風呂に入ろうとしない姉妹、国を追われ、難民キャンプで二十年過ごしている部族の女性、自分の上に振りかかっていたかもしれない災難を見続ける女性。

日常の光景からふっと湧き上がってくる彼女たちの想い。その一瞬の感情をとらえた作品になっている。ただ、すべてが女性視点になっているので、共感はほとんどなかった。女性が読み手なら、もっと共感があっただろう。だけど、くすっと笑える作品や、覗いてはいけないものを見てしてしまう作品や、おもわずツッコミを入れてみたくなる作品や、しみじみとなる作品など、情景やバリエーションは豊かだ。

個人的に好きだったのは、ただの酔っ払いと化した「銀座か、あるいは新宿か」、花より団子ではなく花より美人の「チェリーブロッサム」、他人が気になってしまう「パパイヤと五家宝」、何でというところに面白味がある「夏の森」、ラストに意外性のある「ドバイ@建設中」、オチにニヤリとしてしまう「二人姉妹」、深くて重い「太陽のうた」、こういう大人になりたいと思う「彼らが失ったものと失わなかったもの」だった。

こうして作品名をあげると好きな作品は多くあるが、飛びぬけて面白いと思ったのは「パパイヤと五家宝」ぐらい。多くの作品で、ラストでどうにかしようと垣間見える部分があり、またページ数も足りなくて、全体的に小さくまとまっていたように思えた。もっと彼女らしいのびのびとした長編を読みたい。できれば児童書の方で。そう偉そうに思ったのは自分だけだろうか。でも森絵都さんの大ファンですよ。

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森絵都
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    2009

03.14

「鬼の跫音」道尾秀介

鬼の跫音鬼の跫音
(2009/01/31)
道尾 秀介

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「鈴虫」「ケモノ」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の六編を収録した短編集。

「鈴虫」
私と杏子とSは、大学時代の友人同士だった。私は杏子のことが好きだった。杏子とSはつきあうようになり、私は黒い思いを抱えながら、湿った日々を過ごしていた。そして明確な殺意が生まれた。私はSの死体を穴の底に埋めた。鈴虫の声に気がついたのは、Sの死体にすっかり土をかけ終えたときのことだった。私の犯罪を知っているのは、あのときの鈴虫だけだ。

「ケモノ」
祖母と父と母と妹。僕だけが、できそこないの穀潰しの駄目人間で、本当の意味で家族の一員ではなかった。刑務所作業製品だという椅子の脚がぽきりと折れてしまった。その脚の断面に、何か彫ってある。「父は屍 母は大 我が妹よ 後悔はない Sという名前」Sの名前でヒットしたインターネットのサイトは、猟奇事件の情報を集めたものがほとんどだった。

「よいぎつね」
逃げるようにしてこの街を出ていってから、もう二十年も経つのだ。私は怖かった。あの人の甲高い悲鳴。冷たい記憶の手が心臓を摑み上げようとする。私たちは仲間四人で、度胸試しと称して、小さな悪事を働いていた。首謀者は大抵Sだった。女を一人、陵辱する。それが、今回私たちが思いついた度胸試しだった。次はおまえだ。私は、わかった、とうなずいた。

「箱詰めの文字」
僕は書きかけの原稿を机の上に広げたまま玄関へと向かった。青年はいきなり僕に向かって深々と頭を下げた。ふた月前の泥棒は自分です。怖くて、中身には指一本触れていません。招き猫の貯金箱を青年から手渡された。しかしいかんせん、僕はこの招き猫に見覚えがない。これを僕の押入れから盗んだのだという。貯金箱を開けてみると、一枚のメモが入っていた。瞬間、僕の思考は停止した。

「冬の鬼」
神社へ行き、祈願成就した達磨を火にくべた。父の工場が焼け、併設されていた家屋敷が焼け、家族を失い、縁者もなく、一人きりになって途方に暮れていた私を見つけてくれた。Sは私のことを愛していると言ってくれた。小さい頃から私が好きで、私だけを好きで、いまでも好きなのだと言ってくれた。そして、私はこの家に来た。持ってきたのは、土地を売った現金と、あの達磨だった。

「悪意の顔」
Sが僕を攻撃しはじめたのは、今年の春の終わりからだ。Sはみんなに嫌われていた。Sのお母さんが死んだとき、僕はSが可哀相だと思った。慰めたかった。僕もお父さんがいないから、わかるよ――。Sが僕を攻撃しはじめたのは、その翌日からだった。その女の人は僕をじっと見ていた。うちに来れば、助けてあげる。言い終えるなり、女の人は玄関の引き戸の奥へ消えていく。誰かのことを、怖がっているのね?見えるのよ。


謎の人物Sが全編に登場し、不幸を予感させるカラスが現れたとき、淡々と語られた世界は恐怖へと一変し、主人公を奈落の底へと突き落とす。そう、物語はすべて負の方向へ向かっていく。そういう作品なので、読み手によって賛否は別れそう。自分は好きだった。叙述的な「鈴虫」で世界観引き込まれ、技巧に勝る「ケモノ」のラストで衝撃を受け、幻想に満ちた「よいぎつね」ではそうきたかと頷き、狂気溢れる「箱詰めの文字」では期待通りの展開に満足し、日記を過去に遡る「冬の鬼」のラストでは痺れ、最後の「悪意の顔」では暗転するラストにままならない思いを。長編にある「やられた感」はない。でも黒好きの黒っ子にはアリだった。

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道尾秀介
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    2009

03.13

「プリンセス・トヨトミ」万城目学

プリンセス・トヨトミプリンセス・トヨトミ
(2009/02/26)
万城目 学

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このことは誰も知らない。五月末日の木曜日、午後四時のことである。大阪が全停止した。通常の街としての営業活動、商業活動は停止。地下鉄、バス等の公共機関も運転をやめた。種々の非合法活動すら、その瞬間、この世から存在を消した。東から新たにやってきた三人の調査官と、生まれたときから西にいた二人の少年少女である。いや、この場合、二人の少女というべきか。

一日に五個のアイスを食べ、静かなれど強固な意志を持つ鬼の松平。小柄でおっちょこちょいだが、ズバリと勘が的中するミラクル鳥居。すれ違う男たちを振り返させる、長身のクールビューティ旭・ゲーンズブール。会計検査院の三人の調査官は、東京から大阪にやって来た。会計検査院とは国家予算の使い道をチェックする機関で、調査官は全国の検査対象を実地検査する。

一方、女の子になりたい大輔は、セーラー服で中学校に通いはじめ、幼馴染の茶子は、世話のかかるやっちゃなあと心でつぶやきながら、そんな彼を守ってきた。やがて大輔らが暮らす空堀商店街に、会計検査院の調査官三人の手が伸びてくる。すると突然現れる地下トンネル。辿り着いたのは地下議事堂と本当の大阪城。そこに登場するのは大阪国総理大臣。そして王女の存在。その王女の身に何かがあったとき、大阪城は赤く燃え、千成瓢箪と共に大阪国が姿を現す。

京都、奈良ときて、ついに地元大阪。急な坂道の空堀商店街も、大阪城も府庁も当然知っている場所だし、何度も行ったことがある場所。土地勘があると、それだけで無性に嬉しくなってしまう。それに人が大阪人そのまんま。東京を含むお上が大嫌いで、阪神が好きで、それ以上に巨人が嫌いで、徳川が嫌いで、なにより太閤さんが好き。おまけをいえば、車の通らない赤信号は意味がないので当たり前に渡る。そして、大阪を独立国だと思っている。そういう特殊な大阪人の気質が見事に反映されている。

また登場人物の名前がまた面白い。主人公の真田大輔は、真田幸村の長男である大助。ヒロインの橋場茶子は、羽柴秀吉こと豊臣秀吉の側室である茶々(淀君)。調査官の松平元は、松平元康から改名した徳川家康。ヤクザの蜂須賀は、秀吉に仕えた野武士の蜂須賀小六。こういうお遊びもあって、架空の裏大阪史もからんで、大阪国の男たちはお上と対決する。荒唐無稽なお話だけど、こういう奇想天外な大ボラは大好き。「鴨川ホルモー」「鹿男あおによし」から続く、石居麻耶さんによるイラストも素敵。この二人は最強コンビでしょ。

そして、サイン会に参加してきました。
万城目氏は、明るくて爽やかで好男子でした。

万城目学

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万城目学
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    2009

03.12

「わたしとトムおじさん」小路幸也

わたしとトムおじさんわたしとトムおじさん
(2009/01/20)
小路 幸也

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トムおじさん。お母さんの弟だから、わたしにとっては叔父さん。ものを作るのが誰よりも上手なトムおじさん。そしていちばん得意なのはニセモノを作ること。新しく作ったのに、とっても古く見えるニセモノ。そういうものを作るのがおじさんの仕事。古い時代のものを使えるように直したり、まったく同じものを新しい材料でそっくりに作ることができる。わたしの大好きなトムおじさん。名前は八島斗六と書く。

わたしは帆奈・ニールセン。いろいろあって、ニューヨークに住むお母さんとお父さんと離れて、おじいちゃんとおばあちゃんとトムおじさんの四人で、日本で暮らしている。おじいちゃんの家は、大正時代からずっと続く蕎麦屋の八島庵。その頃からほとんど変わっていない店と家はとても古くて立派で、今は〈明治たてもの村〉の中にそっくりそのまま移築されて営業中。

明治たてもの村は、広い森林公園の中に造られた、町でいちばん有名な観光施設。明治たてもの村が自分の町。故郷。わたしはまだ十三歳の子供だけど、この村の雰囲気は大好き。そういう町での、わたしとおじさんの日々のお話。そしてこれは、わたしとおじさんの旅のものがたり。毎日の暮らしの中で、二人がどうやって生きていくかという旅。そういうお話。

移築された大正時代の旅館がオープンすることになり、初日は関係者として、元オーナーと現オーナーが招待された。だが、その二組は思いがすれ違ったまま今日まできてしまった。それは誤解が原因で、トムおじさんたちは二人をなんとかしようと奔走する。読み始めはあまりのまったりさに少々退屈気味で、失礼だけど、これって失敗作、などと思ってしまった。だけど一話の終盤に差し掛かると感動の展開で、これもいいかもと思った。

二話目は、ニューヨークと日本の学校の違いに馴染めなかった帆奈と、児童養護施設で暮らす恭介くんとの交流。三話目は、トムおじさんが高校時代に引きこもりなったわけ。これらもまったりだけど、すでに免疫がついたのか退屈は感じなかった。そして雪解けのようなほのかに温かいラストが心地良い。

トムおじさんや帆奈、ボランティアのミキちゃんとか、基本はいい人ばかり。癖がないと言えばそれまでだけど、子供は明るくなるのが仕事で、大人は優しくなるのが仕事、というメッセージは十分伝わってきた。でも、作品としては記憶には残らないような気が・・・(汗) 「バンドワゴン」も始めはこんな感じだったので、シリーズ化すると面白いかも。

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小路幸也
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    2009

03.11

「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」誉田哲也

ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華(あやかしのはな) (ウルフ・ノベルス)ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華(あやかしのはな) (ウルフ・ノベルス)
(2003/01)
誉田 哲也

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紅鈴には永年、愛した男がいた。欣治。作り物と見紛う端正な顔、透けるほど白い肌、強靭で無駄のない筋肉、あまり高くない背。二人はよく似た質の身体を持ちながら、その実、性格は正反対だった。無益な殺生を嫌い、弱者を助ける労を厭わなかった欣治。紅鈴が人間を殺すと、欣治は蔑むように言ったものだ。だが、欣治は残忍な面も持ち合わせていた。この世で時を分かち合える者は他にいない。そのかけがえのない唯一無二の存在、欣治は、殺された。あれから三年経つ。

東京警視庁目白警察署。今朝方、南池袋で喉元を猛獣に食い千切られたような変死体が発見された。凶器は牙。仏の傍には食い千切った皮膚があった。遺体は全体が白っぽくなるほどに出血している。それは傷口が頚動脈を横に切断していることからも疑う余地はない。だが、ならばその噴き出たはずの血はどこに行った? 発見現場にはほとんど血痕がなかった。死亡直後に遺体を運んだということか。だが、近隣を調べた限りではそのような場所は発見できていない。

同じ頃、ヒモのヨシキは転がったサンドバックになっていた。今ヨシキの腹を蹴っている男は、ついこの前まで働いていたスナックに出入りしていたヤクザ者。素人が筋者の女を寝取ったらどういうことになるか、というケジメだ。ヤクザは刃物を取り出し、ヨシキの腰を刺した。どこかで女の声がした。ちょっとハスキーな声。ヨシキは危機一髪のところを女に助けられる。さらに、女は手術が必要な傷を治してくれた。助けた理由は、ずっと一緒だった男に似ていたから。その男の名前は、欣治。

大阪弁が特徴的な井岡は、上からも下からも、横からも嫌われて、所轄をたらい回しされていたが、持ち前のするどい勘で大手柄を挙げ、晴れて捜査一課に異動となった。その井岡は、三年前に起きた大和会系組長連続殺害事件の手口と、今回の手口が酷似していることに気づき、大和会系の極心会の不審な動きや、その後に起こる巡査殺し、富山刑事の失踪、そして女子大生殺しから、極心会の追跡を恐れながら都会の闇に身を潜める人気風俗嬢、ヨシキと暮らし始めた吸血鬼――闇神の紅鈴に辿りつこうとしていた。


今や絶版となった幻のデビュー作を、上下二段組だし、マンガっぽいかなと勝手に想像して、まったく手つかずのまま放置していた。これは間違いだった。主人公は紅鈴だが、刑事の視点では、姫シリーズでおなじみのあの井岡が登場している。しかも驚きの人物が何者かに無残ともいえる姿で殺害されている。そういう点でいえば、刑事ものサスペンスとしても読めるし、エロスとバイオレンスが交じったエンタメとしても読める作品だ。分かりやすくいえば、アメリカ発の人気ドラマ、ジェシカ・アルバ主演の「ダーク・エンジェル」に近いかもしれない。今や人気作家になりつつある誉田哲也のデビュー作。このまま絶版でいいの? 復刊されたら誉田ファンは読むと思うのだけど。

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誉田哲也
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    2009

03.10

「傍聞き」長岡弘樹

傍聞き傍聞き
(2008/10)
長岡 弘樹

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特殊なお仕事をする人たちが登場するミステリ作品集。

「迷い箱」
刑務所から出所したものの身を寄せる家がない人たちに、住む場所と食事を提供し、さらには社会復帰へ向け、就職や生活に関する指導も行う更正保護施設。その施設で施設長として働く設楽結子には気にしている人物が居た。彼は泥酔状態で自転車にまたがり、学習塾から帰る途中の小学生を撥ねてしまい、重過失致死罪による実刑を受けた。彼は服役中に自殺未遂という騒ぎを起こしている。彼は今日施設を退所する。そして今日は女の子の命日でもある。もしかしたら彼は、自ら命を断つかもしれないのだ。

「899」
消防士の諸上将吾は隣家に住む初美に惚れていた。彼女は生後四ヶ月になる一人娘と暮らしている。奇遇を装って朝の挨拶を交わし、ほぼ週に一度の割合で、彼女が勤める蕎麦屋に通っている。彼女を食事に誘う計画を立てているが、そこから先がなかなか切り出せない。その日、初美の住む東隣の老人宅から出火した。消火活動が始まり、彼女の部屋に侵入したその時、四ヶ月の娘が取り残されていると無線が入った。先月の今日、息子を亡くした後輩を元気づけようと救出を指図した。だが、ベビーベッドの中は空だった。

「傍聞き」
先輩刑事だった夫を逆恨みで轢き殺されてから、羽角啓子は女手ひとつで娘を育ててきた。その娘は怒ると口を利かなくなり、ハガキを介して立腹の原因となった不満を伝えてくる。だからその理由を知るのは数日後になる。一方、捜査中の通り魔事件が難航する最中に、自宅の裏手に住む老女の家が強盗に遭い、啓子がかつて刑務所に送った横崎という男が容疑者として拘留された。その横崎が自分に対して復讐を企んでいるのではないかと危惧した矢先、横崎は留置場に面会にくるように求めてきた。そこである情報が告げられる。

「迷走」
室伏光雄は救急隊員。義父になる室伏隊長と組む出動は今日が初めてだった。その搬送の帰りに消防無線のアラームが鳴った。被害者は腹部をナイフで刺され出血していた。しかし受け入れ先の病院が見つからない。その時、患者は増原という医者に電話してくれと言い出した。その増原の運転する車が妻が乗る自転車に追突し、彼女は車椅子に座る生活を送ることになった。だが、目撃者の証言や、他の証言があったにも関わらず、増原は不起訴になった。その担当検察官をしていたのが、この患者だった。


作品タイトルがなかなか凝っている。まずは「迷い箱」。捨てなくてはと分かっていても、いざゴミ箱に入れるとなると、つい躊躇してしまう。そんなときは、ゴミ箱とは別の箱を用意して、その迷い箱の中に入れておく。そうして数日も経てば、捨てる決心がつくというもの。「899」は消防署の無線で使われる符丁。「傍聞き」とは、かたわらにいて、人の会話を聞くともなしに聞くと、ころっと信じてしまうこと。このタイトルが、ことの真相に至るキーワードになっている。日本推理協会賞短篇部門を受賞した表題作はさすがにうまい。ただ、それ以外の作品は、オチが読めてしまうという甘さも。それとだんまりをする二人の登場人物にイラっときた。でもこういうのは嫌いではない。

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    2009

03.09

「星月夜の夢がたり」光原百合

星月夜の夢がたり (文春文庫)星月夜の夢がたり (文春文庫)
(2007/07)
光原 百合鯰江 光二

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遠い昔の思い出や、幼い頃に聞いたお伽噺、切ない恋の記憶…。夢のかけらのような32篇の小さな物語を、ファンタジックなイラストで彩った、宝石箱のような絵本。ミステリーの書き手としても注目される著者の原点である、詩人、童話作家としての素顔の垣間見える作品集。

「星夜の章」……桜前線が通るのを目撃する「春が キタ」、見てはならないものを見てしまう「塀の向こう」、男はいつまでも馬鹿野郎という「カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策」、電話の沈黙に吸いよせられる「暗い淵」、新婚の教師とその教師に思いを寄せる女生徒「地上三メートルの虹」、苦手があっても大丈夫という「ぬらりひょんのひみつ」、見方が変われば息子を失った母親の悲劇という「三枚のお札異聞」、他人から見れば変でも本人たちにとってはそれが普通という「いつもの二人」、隠れんぼに誘われたのろまな少年の顛末とは「もういいかい」、ハッピーエンドのはずがハッピーエンドじゃなかったという「絵姿女房その後」、夕暮れに咲くマツヨイグサと夜に飛ぶ蛾の関係「遥かな約束」。

以下は内容を省略。

「月夜の章」……「海から来るモクリコクリ」「鏡の中の旅立ち」「萩の原幻想」「かぐや姫の憂い」「赤い花白い花」「チェンジ」「エンゲージリング」「無言のメッセージ」「お天気雨」「隠れんぼ」「天馬の涙」

「夢夜の章」……「ある似顔絵描きのこと」「新説耳なし芳一」「大岡裁き」「いなくなったあたし」「トライアングル」「天の羽衣補遺」「大食いのこたつ」「目覚めの時」「アシスタント・サンタ」「遥か彼方、星の生まれるところ」

一瞬の美しさや、はかなさ、人の思いや、そのすれ違い。人生の教訓や、もしも昔話を違う方向から眺めたら。それら瞬きのような一瞬を見事に捕らえた、大人のための絵本という感じだろうか。切ない作品であっても、そこには優しさがある。一度に読むにはもったいない、ファンタジックで、胸に染み入るような、素敵な物語たち。

印象に残ったのは、「塀の向こう」「カエルに変身した体験、及びそれに基づいた対策」「地上三メートルの虹」「三枚のお札異聞」「遥かな約束」「鏡の中の旅立ち」「エンゲージリング」「無言のメッセージ」「隠れんぼ」「大岡裁き」「トライアングル」「アシスタント・サンタ」「遥か彼方、星の生まれるところ」だった。これはいい作品集だと思う。

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    2009

03.08

「本日、サービスデー」朱川湊人

本日、サービスデー本日、サービスデー
(2009/01/21)
朱川湊人

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世界中の人間には、それぞれに一日だけ、すべての願いが叶う日がある。それが、サービスデー。神様が与えてくれた、特別な一日。本来は教えてもらえないその日を、思いがけず知ることになったら――。出版社や本の帯にはこう書かれているが、これは表題作だけに限った内容紹介であって、本書は連作集ではなく、「本日、サービスデー」「東京しあわせクラブ」「あおぞら怪談」「気合入門」「蒼い岸辺にて」という五つの独立した短編を収録した短編集だ。少し軽薄なところは気になるが、コミカルなもの、ブラックなもの、微笑ましいものなど、バラエティにとんだ朱川ワールドである。ただ、軽いあたりが記憶に残りそうにないとも思った。だから、メモメモ。以下、内容紹介。

「本日、サービスデー」
男はリストラを勧告された。その夜、大好きな映画を観ながら、寂しい晩餐を始めた。意外なことが起こったのは、映画が始まって十分ほどしてから、ちょうど日付が変わったばかりの頃だった。テレビ画面に女の顔らしきものが、ボンヤリと映った。しかも時間が経てば経つほど、だんだん鮮明になってきて、テレビから女の音声がハッキリと言った。今日はあなたの一生に一度のサービスデー。どんな願い事も叶う、すばらしい一日だと。けれど、それは本来、本人が知ってはいけないことだった。

「東京しあわせクラブ」
不道徳といえば不道徳なクラブがあるという。不道徳という言葉に、小説家の男は大いに刺激されるものを感じた。説明を求めると、要はある種の品物を集めているコレクターの集まりらしい。近々そのメンバーが自慢の品物を持ちよって、半年に一度の品評会を開くのだという。小説家はゲストとして参加が認められた。メンバーが次々とお宝を披露する。子供を虐待死させた家にかかっていた表札。団地で飛び降り自殺したおばさんのサンダル。このクラブは、何か犯罪や事件に関わるものをコレクションする人間の集まりだった。

「あおぞら怪談」
幽霊も血みどろとかはイヤだけど、ウチにいるようなヤツなら、別に怖くないかなぁ。彼はしれっとした口調で答えた。結局は自分の目で見ないと信じられないんじゃないかい? 男は彼と連れ立ってアパートへ向かった。何か白っぽいものが、すーっと動くのが見えた。くすんだ黄色のカーテンの端から、あきらかに人の手と思えるものが現れた。それは手首だった。どうやら若い女性の右手首らしい。名前をるり子と呼び、彼は怖がるどころか、完全に家族のように思っているようだった。

「気合入門」
三つ年上の兄貴はいつでも小一の自分をオマメ扱いだ。兄貴を見返してやりたい。そのチャンスが、不意にやって来た。兄貴はこの沼で、最高十二匹のザリガニを釣った。その時も少年は、ただ横で見ているだけだった。けれど今日は違う。少年の手には、父親に作ってもらったサキイカが結び付けてある仕掛けがあった。一分もしないうちに釣れた。二匹目も。また一匹。その時、アメリカザリガニが食いついた。動きに圧倒されて逃げられた。その迫力に負けた。怖かった。兄貴は気合が足りないと言っていた。

「蒼い岸辺にて」
こんな苦しさを、早織は今まで味わったことがなかった。目を開けると、蒼い世界に倒れていた。前の方を見ると、ひときわ蒼い、大きな海が見えた。海じゃねぇよ。河だ。近くでしゃがれた男の声がした。一艘の古いボートがあり、その舳先に男が座っていた。死んだら河を渡って、向こう岸に行くもんだろうが。死んだ? そうだ。もう生きていくのがイヤになって、薬を大量に飲んだのだ。その男は、早織の両手から残りの人生にあった未来を収集し、ムダになったと次々と処分していく。

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朱川湊人
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    2009

03.07

「喋々喃々」小川糸

喋々喃々喋々喃々
(2009/02/03)
小川 糸

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栞は、東京の下町の風情を残す谷中という町で、アンティークのきものを売って暮らしている。三軒長屋で、一階は店舗、二階は住居として使っている。店の名前は、ひめまつ屋という。縁もゆかりもない土地にとつぜん店を構えて、ゼロからのスタートだったけれど、親切な町の人や、同じく他所から来た人達のネットワークに支えられ、つましいけれど、衣食住だけはなんとか困らずにひとりでやっている。

両親の離婚の原因となったのは、花子曰く種違いの妹の楽子にあった。父は実家のある北陸の山奥で、ほぼ自給自足に近い生活を営んでいる。数年前、地元で同じバツイチの女性と再婚した。それ以降、栞もあの家には帰っていない。栞は父親の、妹は母親の籍に入り、母親と花子と楽子は、都営住宅に三人で暮らしている。栞だけがひとり谷中で暮らしている。

ご近所さんもふらりと訪れてはひめまつ屋に腰を落ち着ける。同じ町内に住んでいるオリーブ少女ようなまどかさんは、時々、お菓子を差し入れに来てくれる。息子夫婦と同居しているのだが、お嫁さんとの折り合いが悪いらしい。近所の寺の住職夫人、通称イメルダ夫人は、なぜか少し履いて飽きたらしい靴を持って来る。近くのお屋敷に住む老紳士のイッセイさんには、孫のようにかわいがってもらい、時々デートする。

その日、栞が一休みしようかしら、と思った時、ごめんください、と男性の声がした。一瞬父かと思った。男性の声質は父にそっくりなのに、外見は少しも似ていないので不思議な感じがする。男性は始めてのお茶会に着ていく着物を探しているという。栞は、たった今知ったばかりの男性の名前を心に刻む。木ノ下春一郎さんは、左手の薬指に結婚指輪をはめている人だった。

木ノ下さんと一緒にいると、なぜだか言葉がすらすらと飛び出し、もっと自分のことを聞いてほしいような気持ちになった。一緒にいると、なんだか肩の力が自然に抜けて、安心できる。そして木ノ下さんは、食べ物を品よく、それでいてすごくおいしそうに食べる。木ノ下さんと会うことを想像するだけで、呼吸が苦しくなってしまう。栞の心は木ノ下さんを求めてまっすぐ進む。

「喋々喃々」とは、小さい声で親しそうに語り合うさま。また、男女がむつまじげに語り合うさまをいう。まさにその言葉のように、二人は静かに言葉を交わし、言葉にならない思いを重ねていく。きれいな文章に、匂い立つ文体。色とりどりなきものに、情緒ある下町風情。移り行く季節に、四季の花々。そして、料理の数々。人を大切に思う気持ち、日々の細やかな暮らしを、どうぞご堪能あれ。前作以上におすすめです。

小川糸さんのサイン会に参加してきました。ちっちゃくてめっちゃかわいかったな~。

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    2009

03.06

「蜜蜂のデザート」拓未司

蜜蜂のデザート蜜蜂のデザート
(2008/12/03)
拓未司

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前作「禁断のパンダ」のラストには、がっかりでうんざりだったが、もう同じことはしないだろうと、シリーズ二作目を手に取ってみた。そしたら、いきなり冒頭で裏切られた。なんなんだ、この作家は。しかも美味そうな料理を売りにしているはずなのに、食中毒でゲロ、ゲロ、ゲロ。勘弁してくれって感じ。でもそれ以外は問題なく読めてしまう。いや、幸太と妻の綾香の会話は笑えてしまうし、食にまっすぐ向き合う幸太も良い。だけど、この悪意は問題ありでしょ。

大富豪の御曹司にプロポーズされて浮かれている千夏は、彼の両親に挨拶に行く途中、彼の母親のお気に入りという行列が出来るパティスリーでケーキを買って、緊張しながらも大豪邸の敷居を跨ぐ。次第に打ち解け、和やかな雰囲気になったその時、猛烈な吐き気が襲ってきた。次から次へと嘔吐した。ふと隣を見ると、彼も、彼の父親も、気がふれたように嘔吐していた。

〈ビストロ・コウタ〉の売りは、リーズナブルな料金と、それ以上のクオリティを感じされる料理。店は連日大いに賑わって繁盛していたし、安くて美味いレストランの代表格として、地元神戸の間では名声を得ている。だが、総じて高い評価を得ている料理に比べて、客たちの誰もがデザートの感想を語ってくれない。オーナーシェフの幸太は、初心に返ってデザートを勉強し直そうと決意を固めていた。

デザートに試行錯誤している幸太の前に、その日、人気パティスリーのオーナー兼パティシエの柿谷が現れ、デザートに対する消化不良な思いへの解答が知りたければ、自分の店に食べにくるようにと、偉そうにショップカードを手渡してきた。幸太は妻の綾香と息子の陽太を連れて彼の店を訪れた。そこに一人の女性客が男性スタッフに詰め寄って罵倒を浴びせ出す。その金切り声の中、幸太が見たものは、嘔吐している陽太の姿だった。食中毒ではなかった。卵アレルギーを突然発症したのだった。

ショックを受けつつ病院から出たところ、同行していた男性スタッフの坂本が、先ほどの女に襲われていた。わけを聞くと、千夏はモトカノで、二年前に彼が働く店に偶然やってきて、喧嘩をしてしまった。そして買っていったケーキを食べた人たちが、みんな食虫毒になり、それが原因で玉の輿が破談になってしまった。故意だと思った千夏は、それ以来、つけ回して復讐しようとしているという。

神戸のパティストリーで立て続けに起こっている食中毒事件。何者かが故意に食中毒を起こしているのか。そんな中で、幸太はやがて、甘いものが好きだった息子の陽太のため、卵アレルギーの子供が安心して食べられるスイーツを完成する。だが、そのレシピを盗まれ、さらに、坂本を襲っていた千夏の遺体が六甲山中で発見された。そして、幸太の店からも食中毒の客が出て…。これらの出来事の裏には何が隠されているのか?

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    2009

03.05

「天国はまだ遠く」瀬尾まいこ

天国はまだ遠く (新潮文庫)天国はまだ遠く (新潮文庫)
(2006/10)
瀬尾 まいこ

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主人公は二十三歳の千鶴。仕事も人間関係もうまくいかず、あせればあせるほど、追い込まれていった。毎日がだるい。身体の調子の悪さは、千鶴をどんどん落ち込ませた。何も楽しいことはなく、いつもだるかった。そんな毎日が延々と続いていた。早く解放されたいって、心身共に訴えていた。行く場所は決まっていた。誰も私を知っている人がいないところ。遠い海と濃い空を持つ日本海地方。夜の深さ。冬を前にした寒さ。北の気候は思っていたとおりだ。死ぬのには、ある種の勢いが必要だ。寒さ、暗さ、厳しさ。そういう空気が、私の背中を押してくれるだろう。

辿り着いたのは木屋谷という海のそばにある山奥の集落。民宿たむらの中から出てきたのは、まだ若い男だった。この男一人で暮らしているのだろうか。他に人がいる気配はなかった。めったに客は来ないので、どうしたらいいのかわからない、と言いつつ、男は部屋へ案内してくれた。そうだ。泊まれればいい。一晩のことだ。眠れる場所があれば、それでいいのだ。千鶴は睡眠薬を飲んで、すとんと眠りに落ちた。だが、目覚めは爽快。薬の影響はどこにもなく、爆睡したあとに訪れたのは、いつもよりも元気で、今までにないくらいにのんきな自分。そう、しくじってしまった。死ねなかったのだ。

自殺を諦めた千鶴は、毎日を同じように過ごした。朝、早く起き、男の用意した食事を食べ、自分の物を洗濯して、外へ出る。集落の周りをゆっくり回り、おばあさんにあいさつして、閉まったままの有機栽培のパン屋を覗く。集落を一回りしたら、原っぱでこれからのことを考えようと試みる。死ぬ気もなければ、何かを始める気も起きない。民宿の大雑把な田村さんとの交流を通し、そして、千鶴は本来の自分を取り戻していく。だが、どんなに居心地の良い場所でも、自分の居場所がここにないことに、千鶴は気づいてしまう。そして、自分の日常をちゃんと作るために、彼女は街へ帰る。

鬱々とした冒頭で嫌な気がしたが、これは想像したそういうお話ではなかった。日々の生活に疲れた主人公が、田村さんやのどかな自然を通して、ゆっくりと癒されていくという物語である。いい作品だ。特に個性的な田村さんには何度も笑わせられた。いい加減で、大雑把で、おとぼけで、適当で、吉幾三が好きで、それでいてさり気なく優しい。こんな人がそばにいたら、そりゃあ癒されるでしょ。また、のんきな主人公にも笑ってしまう。そんな二人のユーモアあるやり取りを楽しみつつ、それだけで終わらずに、自分の日常と向き合おうとする姿に勇気も感じさせられる。こういう人生の休憩も、本当に本当に疲れたら、ありかもしれない。そう思えた素敵な一冊でした。

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瀬尾まいこ
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