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    2009

04.30

「ブロードアレイ・ミュージアム」小路幸也

ブロードアレイ・ミュージアムブロードアレイ・ミュージアム
(2009/03)
小路 幸也

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一九二〇年代のニューヨーク。ブロードウェーから少し裏手にある私設博物館、BAMことブロードアレイ・ミュージアムに赴任した青年エディを迎えたのは、理由ありの収蔵品と奇妙なキュレーターたち。このBAMの一階の住人は、魅力的な赤毛の美女"ダンシング"メイベル、二階は100キロの巨漢"ベビーベッド"ブッチ、三階は滅多にしゃべらない寡黙な"セイント"モース、四階はベビーフェイスの伊達男"キッド"バーンスタイン、五階の新たな住人となったのは、唯一の堅気者、新人キュレーターのエディ。そして屋上のペントハウスに住むのは、エレベーターガールをする不思議な少女フェイ。

少女フェイは、理由ありの品物を見ると"触りたい病"になってしまう。フェイはその品物に触ることによって、未来の悲劇を読み取ってしまう不思議な力を持っていた。だが、その結末を話してしまうと、フェイが見た悲劇にさらに悲劇が重なってしまう。そこでBAMの面々は、いろいろ遠まわしな質問をして、フェイの反応を確認してから、それを調べて、悲劇が起こらないように事件解決に乗り出す。このBAMのもう一つの仕事とは、このフェイの不思議な力から導き出される出来事に、皆で協力しあってあたることだった。

フェイが触ったのはコルネットという楽器。天才と言われるトランペット吹きが、そのコルネットを吹きながら飛び降り自殺をした。しかもあのルイ・アームストロングがいちばん最初に手にしたコルネットで、彼本人から譲り受けたという話があった。そして亡くなった彼の兄とダンサーの女が行方不明になっていた。その一方で、四階の住人バーンスタインの亡き妻の妹がBAMにやって来た。「サッチモのコルネット」

危篤状態の母を見舞いたいお尋ね者と、その妹の結婚相手は警官で、三人は幼なじみだったという「ラリックのガラス細工」、ブッチとチェイニーという幼馴染が偶然出会い、その場にはもう一人ベーブ・ルースという幼馴染が居た。そしてチェイニーには溺愛する娘が居たという「ベーブ・ルースのボール」、詐欺師の過去を消して百貨店オーナーになった男。その百貨店で百人以上の人間が犠牲になるという未来の悲劇が見えた「シャネルの0番」、BAMの玄関前に籐籠に入れられた赤ん坊が置き去りにされ、その籐籠の底から拳大のダイヤモンドが出てくる「リンドバーグの帽子」。

読み始めは大雑把な印象を受けた。それと個人的なことだがカタカナを読むのが苦手な人なので、人物の把握に思ったよりも時間がかかった。一応作品の体裁はミステリになってはいる。だが、そこに重点を置いた作品ではないと思った。BAMのキュレーターの皆が一筋縄では行かない秘めた過去を持っている。そのBAMの面々の過去が徐々に明かされ、その各々が持つ特技がメイベルなら"ダンシング"という愛称に現れている。その特技を生かした各編のエンディングが読ませどころであり、ずっと引っ張り続けるフェイの正体がキーポイントになっている。

面白いと思ったのは、ちょいと泣かせる「ベーブ・ルースのボール」と、スパイ大作戦のような「シャネルの0番」と、すべての謎が明らかになる「リンドバーグの帽子」だった。でもその謎自体は想像できる範囲でしかない。けれど、なんというか王道の心地よさのようなものがそこにあった。そしてエピローグを読んで、意味不明だったエピソードをもう一度読むと、おお~!繋がった、となる。また読む人によって、お気に入りのキャラも見つかるんじゃないでしょうか。自分的にはブッチが好きで、もちろんフェイも好きだった。「はーい」というフェイの返事に萌えるんだ(笑)

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小路幸也
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    2009

04.30

4月に買った本の代金

個人メモです。

総額11.015円。


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自分への戒め
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    2009

04.30

4月に買った本

単行本

待ってる 橘屋草子待ってる 橘屋草子
(2009/02/05)
あさの あつこ

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うつくしい人うつくしい人
(2009/02)
西 加奈子

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捨て猫という名前の猫 (創元クライム・クラブ)捨て猫という名前の猫 (創元クライム・クラブ)
(2009/03)
樋口 有介

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遠くの声に耳を澄ませて遠くの声に耳を澄ませて
(2009/03)
宮下 奈都

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文庫本

海の底 (角川文庫)海の底 (角川文庫)
(2009/04/25)
有川 浩

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フライ,ダディ,フライ (角川文庫)フライ,ダディ,フライ (角川文庫)
(2009/04/25)
金城 一紀

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シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン (集英社文庫)シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン (集英社文庫)
(2009/04/17)
小路 幸也

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疾風ガール (光文社文庫)疾風ガール (光文社文庫)
(2009/04/09)
誉田 哲也

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鴨川ホルモー (角川文庫)鴨川ホルモー (角川文庫)
(2009/02/25)
万城目 学

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ルパンの消息 (光文社文庫)ルパンの消息 (光文社文庫)
(2009/04/09)
横山 秀夫

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お買い物
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    2009

04.29

「恋文の技術」森見登美彦

恋文の技術恋文の技術
(2009/03)
森見 登美彦

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京都から遠く離れた能登の寂しい実験室に飛ばされ、クラゲ研究に従事している大学院生の守田一郎。孤独と無聊を慰めるべく、文通の腕を磨こうと思い、また稀代の文通上手として名を馳せようと、京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。そしてゆくゆくは、いかなる女性も手紙一本で籠絡できる技術を身につけたいと、文通武者修行に励む。

守田一郎は海辺の実験所に閉じ込められ、実験は失敗が続き、指導してくれる谷口さんは罵倒しながらつかうあてのない精力を増強し、ときに能登島水族館のイルカに相談し、ときには和倉温泉に行き、ときには羽咋へUFOを探しに行き、天狗ハムをむしゃむしゃ食べて麦酒を飲み、ただひたすら手紙を書き続ける日々を送っている。

その手紙のうえで、友人である小松崎友也の恋の相談に乗り、大塚緋沙子先輩からは一方的に弄ばれ、かつて家庭教師をしていた間宮少年は異性を意識し出し、学生時代にクラブでお世話になった森見登美彦先生とは目的の見えないやり取りをし、女子高生の妹に見栄を張りつつ説教を垂れる。守田一郎は饒舌で筆まめだ。だが、未練ある伊吹さんへの恋文だけは思うように書けない。

面白かったのは、片思いの恋の相談から何故かおっぱいの呪縛に嵌っていく小松崎とのやり取りや、ゴキブリキューブ(太陽の塔)を思い起こす大塚緋沙子との報復合戦に、妹に尊敬されたくて偉ぶっているのに、実は見破られているトホホな書簡。そして、どれもがおかしな方向へと行ってしまう伊吹さんへの想いを綴った失敗書簡。特に其の四は、吹き出し笑いに注意が必要。

これと言ったストーリーがほぼ皆無で、ただ単に書簡を並べただけの作品。だけど、文通相手によって変わる文体が絶妙で、一つのできごとを複数の人物に伝えることで他の人物像や事件の顛末がわかるという構成にもなっており、また相手から送られてきた書簡の内容が推測出来るようになっている辺りが非常に巧い。そして、恋する守田一郎は自分の想いを伊吹さんに伝えられたのか。もちろん面白かったです。

電気ブラン、猫ラーメンに続き、天狗ハムが気になった。てかっ、楽天で買えるじゃん(笑)

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森見登美彦
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    2009

04.28

「夜の神話」たつみや章

夜の神話 (講談社文庫)夜の神話 (講談社文庫)
(2007/02/10)
たつみや 章

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都会っ子のマサミチは、新しい家ができあがるまでの間おばあちゃんの家に住むことになり、引っ越した田舎での生活に気が滅入っていた。一学期の終業式からの帰り道、なぜだかそこへ行ってみたくなった。そこは古びた神社で鎮守の森だった。そこで白い着物に白い袴のお兄さんが、紅白のまんじゅうを差し出した。マサミチの手はしぜんに上がって、口も勝手に開いた。そんなつもりはないのに、まんじゅうを食べ始めていた。ふと見たお兄さんの目は、銀色だった。流れ落ちている髪も、美しく冷たい月光色。

銀色のお兄さんは夜のお方さまと呼ばれ、アマテラスのご兄弟でツクヨミの神だった。まんじゅうは月夜が原のサトリ草で作られたもので、我欲に毒され「闇鬼」になった人の心を治す薬。マサミチは多分に闇鬼的になってしまっていた。さらにムー大陸が沈んだのは、神々方の闇鬼退治だったことを知る。そしてサトリ草の効き目でマサミチは家霊のヨネハラさんが見えるようになり、動物や虫や植物と対話できるようになって、命の大切さに少しずつ気づいていく。

その一方で、原子力発電所の技師である父が、同僚のスイチョさんを連れて家にやって来た。幼い頃から遊んでもらっていた、おもしろくて大好きなお兄さん。そのスイチョさんは衰弱し、全身を青い炎におおわれていた。原子炉で事故が発生し、スイチョさんは大量の放射能を含んだ蒸気を浴びて被爆していたのだ。なんとかスイチョさんを救えないかと、マサミチはツクヨミの神に会いに行くのだが、そこで月うさぎにだまされてマサミチはうさぎと身体が入れ替わってしまった。さらに、原子炉は暴走事故を起こそうとしていた。


今時の都会っ子である少年は、軟弱で文句ばかりたれている。友達ともなじめずにいつも不貞腐れている。そんな少年が成長していく冒険物語であり、現代社会が抱えた原発問題と向き合った作品だ。ツクヨミの神と出会い、生物の声が聞こえるようになり、うさぎに姿を替え、幻想的な月の世界、夢のような巨大な宇宙船と鳥船、瞬時に神棚へ移動と、とにかくスリリングな展開だ。だけど、若干慌しくもあった。もう少し一つの場面を掘り下げても良かったのではなかろうか。そこに漂いたいという思いを自分は持った。

そして前作では自然の崩壊を取り上げたように、今回は原子力発電所の事故を取り上げている。原子炉の暴発を食い止めようと奮闘する場面はもちろん応援したくなる。神々の助けにも胸が熱くなる。だけど、必ずしもハッピーエンドと言える終わり方ではなく、大人の嫌な部分が意図的に仕掛けられている。そこに空しさや、やり切れなさを感じてしまうのだ。でも少年は何が起こったのか真実を知っている。何事もままならないのがこの世界だけど、ほんの少しだけ見えた少年の明るい希望に、心なしか救われた思いがする。

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その他の作家
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    2009

04.27

「純情エレジー」豊島ミホ

純情エレジー純情エレジー
(2009/03)
豊島 ミホ

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べつに恋や愛を真剣に考えたわけじゃなく、ただカラダを重ねただけなのに……上京して、仕事して、別の恋人ができても、ふとした瞬間に心を支配する愛しい思い出たち。20歳のデビューから7年。より甘く、切なく、官能的に開花した著者が、人生最初の岐路に立った「オトナ」になりかけの女の子を描く全7篇。「最初のオトコ」が女の心の「ふるさと」になる――号泣必至のエロティック純愛小説。《出版社より》

「青空チェリー」で第一回「女による女のためのR―18文学賞」読者賞を受賞してデビューした豊島ミホさん。突然の休筆宣言にビックリしたが、置き土産は「女による女のためのR―18文学賞」出身者らしい作品になっている。そういう作品なので、内容紹介もできるだけ露骨な表現を避けて書いてみる。

磐田は終業式終了後の教室に樋口愛子とふたりで取り残されていた。再テストを受けているその時、見せてくれたらやらしたげる、と樋口はすり寄ってきた。樋口愛子には、ジュース一本で誰にでもやらせるって噂があった。「十七歳スイッチ」

照は、遥が最初にセックスをした相手。高校三年生だった。遥は二十五で、年に一度帰ってくる照を迎えるのは、七度目だった。作家になった照は、もう東京の人だった。会っている数日のあいだ、二人はセックスしかしない。おぼえたての高校生のままみたいに。「あなたを沈める海」

同い年の西目は、その知識や経験を隠さずに、手を取って教えてくれた。西目のすべてに、弓子はぞくぞくし、いつまで経っても飽きなかった。恋人、妻、愛人、どこにも分類されないまま関係だけが続いた。三十一歳にして、西目は結婚することになり、弓子は田舎に帰った。「指で習う」

万一は他人に期待せずに生きるのが一番楽な方法だと信じた。晴ちゃんと結婚したのは、彼女が自分と同じ行くところのない人間だったから。事故に遭い、今は脳だけが単体で生きている。どうして手を伸ばさなかったんだろう。俺を受け入れて欲しいと、晴ちゃんを幸せにすると言えばよかった。「春と光と君に届く」

マーは毎年山のようなスイカを出荷する。澄果はマーの嫁を見たことはない。畑で働くマーとだけ、時々約束して会った。澄果はマーが好きだった。お腹にメロンができた。畠くんの子どもだ。畠くんは見合いした相手で、妊娠したと、畠くんに言ったら結婚が決まるだろう。マーに会いたい、と思った。「スイカの秘密を知ってるメロン」

照は十八でライトノベルの新人賞を通って、東京に来た。気付くとまったく自由じゃなくなっている。照は、帰ろうと決めた。彼女と暮らすようになった去年から帰っていない、田舎の女のところに逃げようと思った。遥はまったく見事に、俺を俺から逃がしてくれた。「避行」

久遠は原石だ。そしてその原石を磨くのは私だ。中学の同級生だった。同級生でしかなかった。接点を持ったのは、東京に出てきてから。たくさん人がいても、誰も久遠と同じでない。きれいな久遠が、彼にふさわしいこの東京の中で、私をわざわざ探して会ってくれるのは、そこに郷里を探しているからだ。「結晶」


「十七歳スイッチ」の頃って、あいつはすぐにやらせてくれる、という噂がよく飛び交った。それが本当だったのか、偽ネタだったのかは分からない。それを作品にしてしまった豊島さん。勇気があるな~、と読者としては呆然とするしかない。主人公の男子は、挑発してくる女子を馬鹿にしているのだが、最後には負けてしまうところに共感。男の浅さってこんなもんでしょう。

「あなたを沈める海」と「避行」は対になった作品。前が女性視点で後が男性視点。ただ待つだけの女と身勝手な欲望を処理するだけの男。どちらもそこで止まってしまった男女だ。そして次の作品「指で習う」もまた、その時で止まってしまい過去を引きずって生きている。その真逆を行くのが「スイカの秘密を知ってるメロン」と「結晶」の二作品。前に一歩踏み出す作品だけど、自分の力ではないところが豊島さんらしいと思う。

ここに出てくるのは、ふわふわとした人たちで、何かに必死になるような人たちではなく、毎日をぼけ~と漂っているような人たちだ。そんなダメな人たちでも欲情するし、暇だからこそやることがなくて欲情するのかもしれない。いや、どこにでもいそうな普通の人なのかもしれない。自分だってその一人かもしれない。そんな彼ら彼女たちだからこそ愛おしく思えるのかもしれない。別れにせつなさを覚えるのかもしれない。したくなるのかもしれない。

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豊島ミホ
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    2009

04.26

「三匹のおっさん」有川浩

三匹のおっさん三匹のおっさん
(2009/03/13)
有川 浩

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六十歳を「おじいちゃん」の範疇に入れられるのはまだまだ違和感があった。六十歳はまだおっさんにしておいてほしい。まだまだ自分が衰えたとは思えず、その辺のゴロツキ風情なら、相手にできる自信がある武等派の二人。脳味噌としては頭脳派もいる。定年退職後、近所のアミューズメントパークに再就職した、剣道の達人キヨ。同じく武等派の柔道家、居酒屋「酔いどれ鯨」の元亭主シゲ。機械工場経営者で機械をいじらせたら無敵の頭脳派、暗器を懐に忍ばせたノリ。

キヨ、シゲ、ノリの三人は、子供の頃「三匹の悪ガキ」と呼ばれていた。そこで、「三匹の悪ガキ」のなれの果ての「三匹のおっさん」で、私設自警団を立ち上げた。最近は物騒な話が増えているからと、時間を持て余したおっさんの夜回り役だったはず。だが、キヨの孫・祐希とノリの娘・早苗の高校生コンビも手伝って、老いの片鱗を見せない「三匹のおっさん」は、ご町内の悪を斬って大活躍という六つの連作短編集。

「三匹が斬る!」という時代劇をご存知だろうか。殿様の愛称で呼ばれる素浪人(高橋英樹)、千石の愛称で呼ばれる素浪人(役所広司)、たこの愛称で呼ばれる素浪人(春風亭小朝)、それに加え、千両の愛称で呼ばれる素浪人(近藤真彦)。入れ替わりはあるが、基本はいつも三匹のトリオ。その三匹が旅の道中で悪人たちをばっさばっさと斬る痛快アクション時代劇。それが「三匹が斬る!」だ。

本書は、この「三匹が斬る!」をパロった作品と言えるだろう。今の若い人は、「三匹が斬る!」なんて知らないですよね。最近で言えばヤンクミの「ごくせん」でしょうか。ちゃんとした一話完結の大筋があって、最後に悪を懲らしめるというおきまりのパターンで終わる作品だ。有川さんと言えばベタ甘が有名だけど、もちろんベタ甘も健在で、今回はドラマの方でもベタな構成にしたというわけだ。

不正取引強盗、強姦未遂犯、初恋詐欺、動物虐待事件、スカウト詐欺、催眠商法などの事件が町内で起こり、それらの事件を三匹が解決する一方で、キヨと祐希という似た者同士の祖父と孫の関係、ノリと早苗という歳の離れた父娘の関係、祐希と早苗の高校生二人は恋に発展?という関係など、人と人の距離感が埋まっていくのも読みどころとなっている。

一つ言うことを忘れていた。正直に言うと冒頭はごめんだった。祐希の母親にイラッとくるところがあり、なんかいつもとの違いにヒヤヒヤした。けれど、その山を越えて、さらに読み進めていくと、めちゃめちゃ面白くなっていった。もちろん満足です。また三匹のおっさんや高校生コンビに逢いたいな~。基になる「続・三匹が斬る!」があるわけだから、次は「続・三匹のおっさん」だったりして(笑)


有川浩さんのサインはこれで二冊目。

有川浩2

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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有川浩
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    2009

04.25

「花々」原田マハ

花々花々
(2009/03/04)
原田 マハ

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順子は、沖縄・与那喜島のダイビングショップでアルバイトをしている。ふるさとの町、岡山にいたころは、ここに比べればはるかに埋め尽くされていた。あらゆるものがあった。家やビルや店、人間、わずらわしい人間関係、きれぎれになった家族、破裂しそうにいっぱいあった。それがいやでいやで、逃げ出してきたのだ。この圧倒的に空っぽな場所へと。何もない。それなのに、安息で満たされた風景。だが、この島に巨大リゾート開発の話が持ち上がり、反対していたオーナーの庄司もついに立ち退きに同意した。自分はまた、どこかへ流れていくのだろうか。

成子は、日本有数の都市開発起業に勤務し、都心で進んでいる巨大な複合開発のプロジェクトリーダーとして、日夜を分かたず働いている。夫とは、会話もないすれ違った夫婦生活。小型犬のホープを飼い始めたものの、夫婦のあいだの接着剤にはならなかった。その日、同郷の同級生、照屋俊一とひさしぶりに会った。彼は、故郷の与那喜島にリゾート開発を仕掛けていた。成子自身は、複雑な気持ちだった。なつかしい場所。けれど、忙しさにかまけて何年も帰っていない。そのくせ、何があろうと永遠にあのままなんだ、と心のどこかで信じていた。

純子と成子は、島を出る直前に友人になった。故郷の与那喜島に帰ってきた成子と純子は妙に会話が弾み、毎日会って話し込んだ。都心の開発を務めている成子だったが、次に手がける新しい事業を模索し始めてもいた。その内容は、ひとり旅が好きな女性が憧れる、島の宿をプロデュースすること。そして、リサーチのようなことの手伝いをしてみないかと純子は持ちかけられた。どこということはない、気持ちの向くままにどこかの島に行って、どんな様子か教える。それでお金をくれるなんて。しかし二人が見つけた物は、探していた目的以上の大きな物。ほんとうに大切なものが見えてきた。

「カフーを待ちわびて」の明青と幸の暮らしの傍でくり広げられていた、もう一つの物語。これは「カフー」の姉妹編だけど、人生の岐路に立った二人の女性の物語になっている。だから、明青や幸の存在は匂っていたけれど、最後まで登場しない。でも気になっていた明青と幸のその後は忘れた頃にさらっと披露されていた。これはちょっとしたサプライズだった。彼女たちが旅を通して得たものはあえて書かない。良くいえば王道。悪く言えば捻りがない。でもそれを見つけた最後のシーンは、とても印象的で爽やかだった。その一方で、離島のめずらしい花々がたくさん出ていたけれど、そのオチもこうなのね、とそこは少し苦笑だった。でも面白かったです。

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原田マハ
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    2009

04.24

「十四歳の情景」斎樹真琴

十四歳の情景十四歳の情景
(2009/02/19)
斎樹 真琴

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ちょうど新学期が始まる頃、私は視力を失い始めた。お母さんも兄貴も十四歳の頃に視力を失い始めたから、私も近いうちにそうなるだろうと覚悟していた。私の目が見えなくなるのは、正体不明の遺伝病ということになる。だから怖くなんてなかった。むしろ、嬉しかった。「時の情景」の正体を探れる日が、ようやくきたから。兄貴の昌義があれだけ怯えて怖がり、最後には命を捧げた「時の情景」を目にする日が、やっと訪れたのだ。

兄貴は死の前日まで日記を書いていた。お父さんもお母さんも兄貴が日記を残したことは知らない。兄貴の死の理由は、全て日記に書かれている。だけどもっと深い理由がありそうな気がしてならない。書かれている以外の死の理由が。「時の情景」は、少し先の出来事を見せてくれる。兄貴はそれを「時の情景」と名付けた。兄貴は「時の情景」に殺された。だから絶対に「時の情景」の謎を解いてやる。

滝口君は秘密を知っている。兄貴が死んでいるのを最初に発見したのは滝口君だった。目が見えなくなるにつれて兄貴の友達は減っていき、最後までそばにいたのは滝口君だけだった。日記には滝口君に私を頼んだことが、はっきりと書かれていた。私みたいにこっそり日記を手に入れたのと違って、兄貴の唯一の相談相手だった。だから拒絶する。大きな歯車が回っている。だから危ないから、近づかないで。“此の世の理”に抗おうとした十四歳の私が綴った日記。

前作と同じく、日記形式で描かれた作品。デビュー作を読んだ時にも思ったが、この作家さんは半端じゃなくすごい。読ませ方が上手いんだ。キャラに魅力があり、興味の引き方も巧みで、あっけなく人を殺す一方で、優しさが溢れている。ユーモアのセンスも中々のものだ。そして、この家系の血に刻まれた男の役目。この家系に生まれてきた女の役割。そして選ばれた男。

徐々に明かされていく特殊な遺伝を持った家系のこと。自殺した兄貴のこと。「時の情景」のこと。それら全貌が見えた時、読者の予想を裏切るエンディングが待っている。これ以上は言えないけれど、○○なことが淡々と綴られている。だってこれは日記なのだから。そこがまた、この作家の上手さだと思った。ああ、ネタに触れないと書けないことばかりなので、伝え難いことがもどかしい。

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    2009

04.23

「トイレのポツポツ」原宏一

トイレのポツポツトイレのポツポツ
(2009/02)
原 宏一

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鴨之木製麺工業は従業員四百五十人。そのうち工場で働いているパートやアルバイトを除いた正社員は百五十人。その平均年齢は四十五歳。そして創業者によるワンマン会社。本社は東池袋のオフィスビルの中にあり、二階から五階までの四フロアに営業部、食品開発部、食品検査室、販売促進部、総務部、経理部、社長室といった本社機能がすべて入っている。そして埼玉に工場と配送センターが建った埼玉工場がある。そんな中堅食品会社の内実を描いた連作小説。

「何だあのトイレのポツポツは!」成人男性の尿のしぶきが飛び散って小便器の床が汚れていたことに田布施部長は激怒していた。この製麺会社にきて一ヶ月そこそこの女性派遣社員・白石は、派遣会社に連絡がいって契約を打ち切られることを恐れて、部長に命じられた通りに「男はしっかり性器を握って一歩前へ!」と部内にメール送信した。そこからすべては始まった。「トイレのポツポツ」

今年で入社して十一年、目加田はずっと食品開発部の専門職であるデザインチームに所属して、デザインの制作一筋にやって来た。それが突然、生麺の新作開発をしろと異動を命じられた。そこで前任者から引き継いだ商品仕様書を読み進めると、この前任者の理想を追求したラーメンを世に出してやりたくなった。ムカチョー・タカスイ。つまり化学調味料無添加で多加水麺のラーメンを。「ムカチョー」

「本当に申し訳ありません」亀岡はひたすら謝り続けた。発注ミスの原因は本社にあった。それでも、こういうときは逆らわずに謝り続けるにかぎる。もとはといえば亀岡はアルバイトとしてこの会社に入った。以来、配送センター一筋でやってきた。そして三年前、課長に昇進して、配送センターの実務を取り仕切るようになった。会社には感謝してもしきれない。会社に忠義を尽くしたいと思っていた。「虹色のパレット」

女も三十半ばになると、おやじにしか相手にされないんだろうか。経理の竹之下は、最近真剣に焦ってしまう。そう思いながら経理伝票を整理していたところ、不意に声をかけられた。顔を上げると見たことのない社員がいた。会社に新しい風を吹かせるために引き抜かれてきた早乙女だった。どきりとした。だけど、好みのタイプであればあるほど、事務的な対応をしてしまう竹之下だった。「カチューシャ」

営業部の伊藤は、会社帰りにばったり派遣の白石と出くわして、酔うほどに二人の距離が縮まり、その勢いでラブホテルに飛び込んだ。結婚十ヶ月目にして浮気をしてしまった。ところが、やることを終えた深夜になって、彼女はホテルから飛び出していった。疾しい気持ちをもったままラブホから出勤してきた伊藤だが、商品にゴキブリが混入していたと、会社はパニックになっていた。「ラブホ出勤」

赤丸印刷の植村は、中国企業で提供先を見付けてコストダウンをはかろうと、中国の大連に飛んできた。なにしろ売り上げの八割を占めていた鴨之木製麺工業の仕事が、二月前を境にパッタリとなくなってしまった。殿様商売にあぐらをかいていたツケだった。その大連で、鴨之木製麺工業の元社員・田布施と再会した。その田布施はいう。中国と商売をするのなら、チェンイーしかない。「誠意」と文字を書きつけた。「チェンイー」

トイレ掃除のおばさんはいう。不思議なことだけど、社内が乱れてくるとトイレの汚れもひどくなるから。男子トイレは小便器のまわりの床におしっこのポツポツが増えるのだという。本書はまさにこの場面から始まる。この会社は大きな音を立てて軋みはじめている。田布勢部長は、トイレのポツポツに社内の空気を敏感に感じ取っていたのか。

セクハラ、社内の権力闘争、責任を負わない責任者、凝り固まった○○原理主義、ラベルの偽装表示、業者からのキックバック、食品偽装と、次々に会社の腐りが提示されていく。食品開発部の目加田も、配送担当課長の亀岡も、経理の竹之下も、営業部の伊藤も、会社が抱えている何かしらの問題に気づいていく。そして会社の腐った体質を改めようとするが…。

心ある人間が立ち上がろうとすると、次々に踏みつけにされていく。会社を去る者もいる。ほっとするものあるが、総じて切なくて後味が悪い。だけど、最後にはニヤリとする鮮やかな展開が待ち受けている。心が温かくなり、前向きな気持ちになれる作品なので、ぜひとも最後まで読んでもらいたい。会社という組織で働く人におすすめの一冊です。

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    2009

04.22

「八番筋カウンシル」津村記久子

八番筋カウンシル八番筋カウンシル
(2009/02/20)
津村 記久子

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小説の新人賞受賞を機に会社を辞めたタケヤス。実家に戻り、家業を継ごうと考えはじめるヨシズミ。地元の会社に就職するも家族との折り合いが悪く、家を買って独立したいと考えるホカリ。幼なじみの3人が30歳を目前に、過去からの様々な思いをかかえて再会する。久しぶりに歩く地元の八番筋商店街は中学生の頃と全く変わらないが、近郊に建設される巨大モールにまつわる噂が浮上したことで、地元カウンシル(青年団)の面々がにわかに活気づく。そんな中、かつて商店街で起こった不穏な出来事で街を追われたカジオと15年ぶりに再会し…。生まれ育った場所を出た者と残った者、それぞれの人生の岐路を見つめなおす終わらない物語。《本の帯より》

長編を読むのは「ミュージック・プレス・ユー」以来だろうか。商店街は後継者がおらず廃業する店は多い。そこに帰ってきた三十歳を前にした男二人と、そこから出て行きたい女が一人。会社員の働いているにもいろいろあるように、自営業者の働いているにもいろいろある。そのいろいろを地元の青年会という何かと狭い交友範囲の中で固まっている人たちがいる一方で、三人の元同級生たちは、大学を卒業して会社勤めを始めたので地域と関係が浅くなっていた。

彼ら同級生たちは地元の人間関係に依存するのはろくなもんじゃないと言い、狭い地域の世間というやり口の汚さを幼い頃から見て育っている。そこに住む人であっても、地元に対する温度差がある。閉塞感が居心地悪くて飛び出す者、愛着を感じて居つく者、一度は地元を出るがUターンしてくる者。どうするか、どうしたいかは、人それぞれだと思う。でも同じ商店街に生きる者として、意見を一つにまとめたいという青年会に属する人たちがいて、そこに巨大モール建設の話が持ち上がってきた。

その巨大モール建設の社員として、かつて商店街の人たちによって追い出された友達が帰ってきた。主人公は彼ら一家が追い出された経緯をすべて覚えている。想像や噂だけで無実の家族を追いつめた地元の人の悪意を胸に刻んでいる。そして主人公は彼を助けることが出来なかったと悔いている。そんなモール建設の賛成反対に真っ二つ加熱していく商店街の人たちを、三人の元同級生たちは少し引いた位置から見ているようだ。

今やどこにでもありそうな地方の問題。でも本書を読んでいると、この商店街の人たちが悪役に思えてしまうから不思議だ。主人公が回想する過去は酷いものだ。それに地元で慣習化したマイナールールは反感を買うものだ。その考えの狭さや押し付けも反発心を誘う。でも彼らはそこで生きている。だからモール建設は一番の関心事だ。だけど自分らが冤罪で追い出した家の子に聞くことはできない。そこで同級生だった主人公たちに聞けという。なんてご都合な人たちなんだ。

そういった世代間の軋轢をベースに、三十歳の岐路に立った主人公たちが、やっと大人になったと自覚してから、どう自分らしく生きるかをじっと考えて、実行していく。それは、長年の夢だった折り合いの悪い家からの独立であり、シャッターの閉まった商店街のお店の再出発であり、子供の頃からずっと特別だった女の子を忘れることなのかもしれない。三十を前にそれと向き合う彼らの姿に、どこか励まされる気持ちになった。そして、懐かしくもあった。でも大人になったとはまだ自覚できない自分もいた^^;

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津村記久子
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    2009

04.21

「ゆずゆずり」東直子

ゆずゆずりゆずゆずり
(2009/03)
東 直子

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今の住まいは、「仮住まい」と呼ばれるもので、わけあって、元の家を建てた組織からあてがわれて住んでいる。このマンションの一室に、最近やっとなじんできたところであった。同じ部屋に仮住まいしている同居人を、生まれ月にちなんで、イチ、サツキ、ナナ、と呼んでいる。わたしは、シワス。シワスは、まだ一度も会ったことがない人の書いたものを読み、しばし思考したのち、解釈および感想を述べる仕事をしている。

この人工都市は、数十年前までは、野生生物があまた生息する深い森だった。自宅から二十分ほど歩くと、人工都市は突然途絶え、開発されなかった自然のままの森の中に入っていくことができる。シワスは、ときどきその森の中に入って、一人で散策する。同居人と一緒に食事をし、映画のビデオを見て、植物を育て、おしゃべりをする。そんな人工都市での日常の狭間で、シワスの思考はあちこちに飛び、妄想は膨らみ、空想は回遊する。

そんなある日、「仮住まい人」をそろそろやめようか、という話が持ち上がる。仮住まい人になってから、二年が経とうとしていた。新聞に折り込まれている物件チラシを集め、間取り図を眺める。めぼしい物件の詳細を聞くために、業者の戸を叩く。ふとモデルルームを訪れて「新しい家」と契約。切ない引っ越しの荷造り。新居に積まれたダンボールの山。そして。


不思議な世界観で、捉えどころがない作品。だけど、ぐっと共感するエピソードや、おおっと心に響く名言があちこちに散りばめられていた。例えば、普通というのは、一人ひとりの中心にあるもので、そして、一人ひとりの価値観は違うのだから、他者から見れば普通の軸は、必ずどこかしらずれているとか、エレベーターにエスカレーター、動く歩道と、人は何も考えずに歩行できるものを次々に発明し、同時に、ハイヒールやミュールのような、歩行をひどく困難にするものを発明しているとか。

そんな中でもとびきりだったのは、ウルトラマンは怪獣を街の中へ放り投げたりしていたので、たくさんの人に恨まれているのでは、というもの。でも知っている建物が映像の中で壊されたりすると、なんとも気持ちがよいものだったりする。だけど現実だったとしたらたまったものではない、とツッコミを入れているところに面白味があった。けれん味がなく自然体で、忙殺とは無縁のような日々の暮らし。なんでもないことが心地良い。そんな陽だまりの昼寝のような、ほのぼのとした作品だった。

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東直子
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    2009

04.20

「散りしかたみに」近藤史恵

散りしかたみに (角川文庫)散りしかたみに (角川文庫)
(2001/08)
近藤 史恵

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見たかい。花道からはけてきた瞬間、菊花師匠はそう言った。歌舞伎座での本朝廿四孝の公演中、毎回決まった場面で桜の花びら一枚、ひらひらと落ちてくる。名探偵のあの人を連れといで。師匠の鶴の一声で、大部屋女形の瀬川小菊は今泉の事務所を訪ねることになった。今泉文吾は、小菊の大学時代の同級生で、なにを思ったのか、探偵事務所を開いている。一緒に歌舞伎座へ向かう二人だが、楽屋からすり抜けるように出てきた女性を見た瞬間、この話を下りる、この件には関わりたくない、と今泉は態度を豹変した。

彼女が出てきたのは、市川伊織の楽屋だった。市川伊織。若手の立役の中でも、実力者で通っている男。線が細すぎる、よく言えばあくがない、色気もまったくない。以前はこう評されていた。半年前、彼は芝居が終わって帰宅途中、何者かに襲われ、剃刀で顔を切り裂かれた。だが、すべての人の憶測を裏切って、市川伊織は事件の三ヵ月後、舞台に立ったのだ。彼は傷跡を隠そうとも、見せようともしていなかった。今月も、師匠演じる八重垣姫の許嫁、武田勝頼を演じている。市川伊織と関わりのあるあの女は何者なのか。

今泉が何と言おうが小菊は納得できなかった。八重垣姫は、師匠の代表的な役だし、今度の舞台にだって、師匠がどれほど力を入れているのか。廿四孝の舞台は、師匠が描いた絵だ。その絵に、何者かが違う色をのせている。それが何のためか知りたいし、師匠もなぜそんなことをするのか知りたがっている。だが、今泉は浮気調査の依頼人の夫に階段から付き落とされ、足を骨折して身動きが取れなくなっていた。今泉の指示を頼りに、探偵助手の山本くんと小菊は動きだす。「ねむりねずみ」に続く、梨園シリーズ第二弾。

読み終わってまず思ったことはアンフェアだということ。アンフェアについてはネタバレになるので書くことはできない。だからこれについては読んだかた自信で判断して欲しい。そしてもう一つは、もったいぶった今泉のことが好きになれなかったということ。これは前作の「ねむりねずみ」を読んだ時もそうだった。

探偵役とは、推理過程を最後になるまで明かさないのは当たり前。それは重々分かっているけれど、なぜか今泉に関しては鼻持ちならないやつに思えて、したり顔で登場する度にイラッとしてしまう。今泉の感じの悪さが気になるのは個人的な嫌悪感だろう。でも気持ち良く読んでいるところに水を指すのは辞めて欲しかった。

だが、歌舞伎をまったく知らない人でもするすると話に入り込めるところや、艶めいた情景などは評価できると思う。今泉は生理的にダメだけれど、小菊が山本くんや菊花師匠と会話する場面は面白く読めたし、やりきれない悲しみや想いもこちらに伝わってくる。だけど、先にも少し触れたが、トリックがアンフェアで、別に「ノックスの十戒」の信奉者ではないけれど、そこはすごく残念だった。


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    2009

04.19

「胡蝶の失くし物-僕僕先生-」仁木英之

胡蝶の失くし物―僕僕先生胡蝶の失くし物―僕僕先生
(2009/03/19)
仁木 英之

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シリーズ第三弾は前作と同じ連作形式になっている。そして今回は僕僕と王弁の物語というよりも、前回仲間に加わった薄妃と新たに一行に加わる劉欣、この二人の物語といえる。それに連作といっても、一話完結ではなく、時系列の流れがずっと続いているので、章ごとの内容紹介をするとどうしてもネタバレになってしまう。だけど、自分のための備忘録として書き残しておきたい。そういうわけなので今回はネタバレあり。未読のかたはご注意ください。

五色の光を放つ雲に乗った少女は、長くつややかな髪をなびかせながらひじ枕でまどろみ、そのすぐ後を行くあでやかな娘はほんのわずか、地面から浮いて歩いている。そして二人からわずかに送れて、眠そうな顔をした青年が眠そうな痩せた馬の手綱を引いて歩いていた。仙人の僕僕、ぼんぼん弟子の王弁、皮一枚の妖異薄妃、天馬の吉良の一行である。

一方、大唐帝国の都、長安の闇で蠢く暗殺集団があった。「光州仙居県黄土山から姿を消した仙人を追い、始末せよ」劉欣が与えられた任務の内容である。御史台察院の中でもっとも汚れた仕事を一手に引き受けるのが、胡蝶房と呼ばれる一団だった。胡蝶の頭領が承認すれば、命令は実行される。劉欣はその一員であった「職業兇徒」

妖異である薄妃と人間の彼が共にいられる方法を探そうと僕僕が言ってくれた。仙人は自信満々だし、弟子はまるで疑う様子もない。でも恋人と離れ離れにになって一ヶ月。ああ、会いたいな。その時、横柄だがぎこちない声と共に、相思水と書きされた碑から少女が出てきた。少女は相思水の女神、劫鰓と名乗った。「相思双流」

一行の路銀は底を尽きそうだった。一文なしでも全然平気。しかし王弁は、僕僕とできるだけ普通の旅がしたいと考えて、働くことを選んだ。薬種屋の主人は周典と名乗った。周典は客の相手をしていないときは雇い人をとにかく怒鳴り続けている。王弁はその店で荷運びとして働く趙呂老人と出会った。「主従顛倒」

劉欣は脱走者として追われることは何としても避けたかった。自分が胡蝶を裏切っているとは、どうしても思えなかった。その頃、僕僕一行は蒼梧の州兵に囲まれて城に入った。妖艶な女性に姿を変えた僕僕の色香に気をとられた官僚どもを他所に、つまらなくなった王弁は酒宴の席を立った。そこに面縛の導師が現れた。「天蚕教主」

面縛の導師の手中から救い出した人語を話す蚕の蚕嬢と、殺し屋の劉欣が一行に加わった。そして、僕僕の気によって風に自由に乗る力を身につけた薄妃は、限りなく人に近く、また人を超えた存在となって恋人の住む街へと帰っていく。その薄妃が無事に想いを遂げるまで見届けろと劉欣は僕僕に命じられた。「回来走去」

薄妃は恋に破れて帰ってきた。そして一行は貿易で栄える広州へやって来た。自分のことになると口をつぐむ蚕嬢の正体をはっきりさせるため、蚕の連れてこられたという苗国の商館に入った。そこに苗人同士の争いが起こる。それをきっかけに商館は軍隊に囲まれてしまう。その背後には道術師と胡蝶がいた。「恩讐必報」

次回作に続くという終わり方をしている。まだ途中なので、感想はパス!


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    2009

04.18

「崖の館」佐々木丸美

崖の館 (創元推理文庫)崖の館 (創元推理文庫)
(2006/12/21)
佐々木 丸美

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目も眩む断崖。百人浜の哀れな伝説が今も生きているその地に白い館が建っている。吹雪けば一面の白で木も館も見えなくなってしまう。雪はいつも道を埋めて交通を遮断してしまう。高校二年生の涼子と年上の五人のいとこたちは小さい頃から長い休みになるとこの館へ遊びに来た。館の主は涼子たちの大好きなおばさん。おばさんは気前が良くて話がわかって大金持ちでよき理解者である。おばさんは孤独を愛しこの世のしがらみから解き放たれて暮らしている。

おばさんは子供がなくて、姪の千波を養女にし、それは大事に育てた。千波は天性の才と美しさを持って生まれてきたかのようにまわりの人々を魅了した。おばさんはお金の力にまかせてありとあらゆる図書を集めて千波に与えた。千波は数年間でほとんど読破し、いとこの誰もかなわない教養と膨大な知識を身につけた。そして千波はいとこの一人研さんとの結婚の約束がとり交わされていた。その青春のさなかに千波は崖から足を滑らせて死んだ。二十歳の夏だった。

千波が崖から落ちて死ぬなんて誰にも信じられなかった。そしてみんなが考えた。これは本当に事故だろうかと。千波の事故から二年すぎた今も涼子たちはその哀しい思い出をたたみながらやって来る。しかし到着した当日、絵画が消失した。翌日、消えた棹子はあかずの間になった千波の部屋で発見された。研さんは非常階段から落とされた。電話線が切られ、交通も遮断された。とうとう殺人まで起こった。この館には昔から殺意がひそんでいた。そして、いとこの中に犯人がいる――。

東京創元社の復刊にハズレはない。そう思っていたから、この作家のことはまったく知らなかったけれど、なんとなく買っていた。約三十年前の作品なのに想像以上に面白かった。ただ、自分とは肌が合わない部分があった。このいとこたちは美術論や犯罪論などを延々と論じており、この偏った知的な会話をやかましいと感じてしまう自分がいた。こんな会話がまかり通るって外に友達がいないだろうとさえ想像してしまった。自分はこの人たちとは友達になれない。

だが、いわゆる「雪の山荘」ミステリとしての完成度の高さは感じられた。また、雰囲気のある作品でもあった。何かが起こりつつあるのに、どこかゲーム感覚なこの館の非日常感も心地よかった。誰もが千波を愛し尊敬し、特別な存在と認めて憧れ、そして誰かが笑顔の下で憎悪していた。その眼に見えない悪意を思うと背筋がゾクゾクしてきた。そして、千波が残した日記と、そこから導き出される真相と犯人。動機はやはりそれしかありえないけれど、きれいなゲームセットだと思った。

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    2009

04.17

「スノーフレーク」大崎梢

スノーフレークスノーフレーク
(2009/02/27)
大崎 梢

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主人公は函館に住む高校三年生の真乃。卒業式まで二週間を切っていた。真乃は大学の推薦枠に滑り込み、晴れてこの春から東京の四年制大学に通う。これから一歩踏み出すことになるのだけれど、この頃の自分はちょっとおかしい。ひどく感傷的。函館の町にはその子との思い出が今なお、そこかしこに息づいている。六年前に亡くなった男の子で、仲のいい幼なじみ。未だ忘れることが出来ない存在だった。

遠藤速人と真乃と亨の三人は、幼稚園も小学校も一緒だった。あのまま速人が死んでしまわなければ、亨との関係も変わっていただろうか。真乃と亨はたった一日だけのデートをする。気がつけば手を繋いでいた。そのとき、そのショップの角に人影が見えた。じっとこちらに視線を注いでいる。ハヤちゃん。中学生の頃、友だちのシーコが見たと言い、自分もそれらしい姿を垣間見た。とっさに連想したのは速人だった。

速人は小六の時に、一家心中に巻き込まれて死んだ。車ごと、函館湾の海に沈んだ。だが、速人だけ、死体があがらなかった。さらに翌日、本気で錯覚を起こすほど似かよった雰囲気の従兄弟、勇麻に出会った。そして勇麻のまわりで起きているという不審な出来事。ところが勇麻については顔なじみの及川夫人が不快をあらわにし、遠藤家を知る曾根崎は六年前の事件について疑問を口にする。そして亨もまた、真乃の知らない行動に出ていた。ほんとうは生きているのかもしれない。真乃はかすかな希望を胸に、速人の死にまつわる事件を調べ始める。

こういうしっとりした作風は初めてかもしれない。青春ミステリです。ヒロインの真乃は、自分はモテないと認識している女子で、亡くなったとされている幼なじみの速人を忘れられず、もう一人のモテ系幼なじみの亨から好意を寄せられている。少し変則気味の三角関係だ。そしておしゃれとおしゃべりが好きな友人の琴美は亨との付き合いを推奨し、理屈っぽくて趣味趣向の偏ったシーコは速人についてこだわりを持つ。そこに速人の従兄弟という勇麻が突然現れて、乙女心は揺れる~と思わせて、ええ~~っ!!という驚きがラストに待ち受けている。

と言っても、ミステリに意外性があるわけではなく、強引な辻褄合わせに驚いたというか…。事件の謎を追う過程はわくわくさせるものがある。ここで地下室!なんてドキドキもある。だけど、ミステリとしての結末はツッコミどころがあって、でも反対に、旅立ちの春という青春ものとしては悪くない。自分も初めはやり過ぎかなと思ったけれど、これも悪くないと思えてきた。高校生はこうあるべきという健全タイプの人は嵌るかも。ミステリでご飯が食べられるという人には不向きかも。どちらに重点を置いて読むかで賛否が別れそうだ。

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大崎梢
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    2009

04.16

「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ猫を抱いて象と泳ぐ
(2009/01/09)
小川 洋子

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伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡の物語。少年は極端に口数の少ない子供だった。唇がくっついたまま生まれたことが関係あるかどうか、それははっきり分からない。しかし反対に彼は、ようやくつかまり立ちをはじめた頃から、すべてのものに名前があることを理解し、驚異的スピードでそれを覚えていった。彼の頭の良さに最初に気づいたのは祖母だった。更にもう一つ際立っていたのは、並外れた集中力だった。

少年には話し相手がいた。壁と壁の隙間に挟まって出られなくなった少女だった。大人たちがミイラ、ミイラと言うのを耳にし、少年はそれが彼女の名前だと思い込んでいた。象のインディラは三十七年の生涯をデパートの屋上で閉じた。少年は、可哀相だと思いながら同時に、心のどこかでは、うらやましく思っていた。屋上に閉じ込められたまま一生そこから出られなかった象のことを。少年の友だちはインディラとミイラの二人だけだった。

慌てるな、坊や。男は言った。その言葉と声のトーンは、生涯を通して少年の警句となり灯台となり支柱となる運命にあった。廃バスに住む男はひどく太っていた。男はチェスという海に少年を放ち、彼が自ら発する光だけを頼りに、どんな深い海溝にも冷たい海流にもひるむことなく、無比の軌跡を描けるよう導いた。これが、少年とチェスの出会いだった。チェスと出会って以降、少年は男をマスターと呼ぶようになった。

少年は、チェスについてのすべてを、回送バスの中で学んだ。少年は難しい局面を迎えると、テーブルチェス盤の下に潜り込むようになった。マスターの愛猫ポーン撫でながら、盤を下から眺めるためだった。ボーンを撫でると、心が落ち着いて、頭の中が透明になって、駒の進むべき道が見えた。テーブル裏の木目模様に浮かぶチェス盤が見えていた。駒の位置も正確によみがえっていた。その位置関係によって集中力が一段と研ぎ澄まされた。

リトル・アリョーヒンは十一歳の身体のまま、それ以上大きくならなかった。身体はテーブルチェス盤の下に収まる大きさを保ち続けた。リトル・アリョーヒンは海底チェス倶楽部で、リトル・アリョーヒンとして数々のチェスを指した。皆の目に触れない狭い所に隠れてのからくりチェス人形の活動。その人形は相当に強く、しかもどんなに弱い相手に対しても美しい棋譜を残す。だが、不吉な予兆はとある雨の晩からはじまった――。


大きくなりすぎた象のインディラはデパートの屋上に閉じ込められた。少女のミイラは壁と壁の隙間に埋められた。マスターは太りすぎたためにバスから出られないまま死を迎えた。そして、リトル・アリョーヒンは小さい身体のままチェス盤の下に潜り込んでチェスを指す。共通するのは、みな閉じられた世界で生きているということ。チェスの駒もまた八×八の六十四升に閉じ込められている。だが、盤上で駒と駒が響き合ったとき、無限の宇宙に解き放たれたような美しい詩を生み出していく。閉塞感と開放感。このバランス感覚が素晴らしかった。

また、リトル・アリョーヒン以外にも魅力的なキャラクターが登場する。どんな家具でも修理してしまう祖父。ボロボロになった布巾を手放さない祖母。チェスのすべてを教えてくれたマスター。鳩を肩にとまらせた少女。彼女となら自由にチェスの海を冒険できる老婆令嬢。老人専用マンション・エチュードのどっしりとした総婦長さん。そして、右腕に猫のポーンを抱えた"リトル・アリョーヒン"。愛すべき善い人で、強い印象を残す人物たちだ。

このように風変わりな人たちが登場するが、どちらかといえば地味。だけど、密やかで美しく、静かなのに雄弁で、孤高だけど高潔で、作品の世界に深みがあって、強烈に余韻を引く作品。そして、最後は切なくて愛しくて涙がこぼれてきた。この物語を語るのに多くの言葉は必要ない。ただ心行くまま物語に身を任せてみてはどうだろう。胸がいっぱいになり読んで良かったと思えた一冊だった。


小川洋子さんのサイン。

小川洋子

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    2009

04.15

「蘭陽きらら舞」高橋克彦

蘭陽きらら舞蘭陽きらら舞
(2009/02)
高橋 克彦

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「だましゑ歌麿」では南町奉行所の見回り同心の仙波一之進。「おこう紅絵暦」では筆頭与力の妻にして元柳橋芸者のおこう。「春朗合わせ鏡」では青年絵師の春朗(後の葛飾北斎)。そして、姉妹篇四作目となる本書「蘭陽きらら舞」では、若衆髷を結い、女と見紛う美貌だが、役者仕込の俊敏さで荒事もこなす蘭陽が、相棒の春朗とともに江戸の怪事件に挑む。この蘭陽は元々「京伝怪異帖」に出てきた登場人物で、それが前作の「春朗合わせ鏡」でいきなり登場し、今回は主役に抜擢されている。もちろん、仙波、おこう、隠居の左門、とおなじみの面々も登場。

蘭陽が役者稼業から足を洗った理由と役者復帰をする「きらら舞」、芝居小屋から流されたきらきらの衣装で左団扇をねらう「はぎ格子」、派手に化物退治をして役者として名を売ろうとする「化物屋舗」、仕掛けの組み立て半ばにして殺されてしまった仕掛け作りの名人「出で湯の怪」、母親が居なくなってしまった芳吉と出会う「西瓜小僧」、芳吉を引き取りに来ない身内と、妙な野郎が蘭陽の周りをうろついている「連れトンボ」、祟りのせいで芝居が中止の危機を迎える「たたり」、芝居のよさを聞いて看板役者の若女形が出演したいと小屋主に申し入れきた「つばめ」、唐の数え唄を聞いて、蘭陽が生まれてはじめて好きになった女のことを思い出す「隠れ唄」、階段を逆立ちで下りている娘の幽霊画は、実際に見たとしか思えない「さかだち幽霊」、お庭番の襲撃を受けた蘭陽と、その騒動に巻き込まれた春朗「追い込み」、こうもりと呼ばれる盗賊団を追うことになる「こうもり」。

小説誌に連載された一話完結の連作作品なのでページ数の制限があったのだろう。だからなのか、どれもがあっさりとした作品になっており、あやふやな結末のまま締められた作品もあった。どこか中途半端。そんな印象を強く持った。だけど、おおっと思わせる作品も中にはあった。ホラーテイストの「化物屋舗」や、謎のまま残された仕掛けを組み立てる「出で湯の怪」や、記憶ミステリが冴える「隠れ唄」や、江戸人情にぐっとくる「さかだち幽霊」などは、面白く読むことができた。ただ「追い込み」だけは、「京伝怪異帖」と密接にリンクしているので、「京伝怪異帖」を読んでいなければ面白さは半減するだろう。

たくさんあるシリーズ作品だけど、この姉妹篇と「風の陣」だけは続けて出版されている。最終作が出ないまま止まっている「総門谷R」シリーズや、塔馬双太郎が探偵の「ダ・ヴィンチ殺人事件」は、かなり長いこと待っているけれど、いったいいつ読めるのだろう。高橋さん、頑張って。そうエールを送って、本日はここで終わりにしたい。

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高橋克彦
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    2009

04.14

「幸福な食卓」瀬尾まいこ

幸福な食卓 (講談社文庫)幸福な食卓 (講談社文庫)
(2007/06)
瀬尾 まいこ

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「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」春休み最後の日、朝の食卓で父さんが言った。我が家では朝ご飯は全員がそろって食べる。母さんが決めた習慣なのに、母さんがいなくなってからも正しく守られている。そして、ややこしいのは、みんなが重要な決心や悩みを朝食時に告白することだ。父さんは父さんを辞めて仕事を辞めて、浪人生になった。母さんは家を出て仕事を始め、家出中なのに料理を届けにくる。元天才児だった兄の直ちゃんは、青葉の会という農業団体で働き晴耕雨読な毎日を送っている。

佐和子の家族はちょっとヘン。だが、それには原因があったと明かされる。五年前、佐和子は父さんを助けるために救急車を呼んだ。そして父さんの命を救った。だけど、それが父さんを気負わせることになった。父さんの自殺未遂はたいしたことじゃない。でも、ずっと小さく家族の中でうずいている。母さんは家を出て、父さんは父さんを辞めた。直ちゃんは真剣さを捨てた。勉強のこと、友達のこと、元通りにしっくりいかない家族のこと。真面目で神経質な佐和子の悩みはつきない。

お父さんを辞める、お母さんを辞める、真剣になることを辞める。ここに登場するのは、家族としての役割を放棄した人たちだ。この人たちのように、ゆがみや困難をぱっと捨てられたら楽だろう。でも普通は自分の立場やしがらみがあって中々できない。しかしこの人たちはさらりとやってしまう。そこがすごく羨ましい。それを冷静に見ているのは、中学生から高校生へと成長していく妹の佐和子だ。

その佐和子にも困難はやって来る。だけど佐和子は自分だけはと困難に立ち向かおうとする。でも実は、家族に守られて生きている。ばらばらのようでいて繋がっているのだ。優しくて温かくてちょっと笑える微笑ましい作品だ。しかし最終章では一転して、佐和子に突然の不幸が降りかかってくる。これがとてつもなく切ない。なんで、こんな目に遭わせるのだと抗議したい。家族の良さや大事さを気づかせるためだとしても、これは酷いよ、やり過ぎだよう。

そんなブーイングをブーブー言っていると、奇抜だと思われた直ちゃんの彼女にしてやられた。身勝手な物言いだけど、本当はいい人だということがこちらに伝わってきた。そして甘いシュークリームを食べたくなった。でも甘いものが苦手なので即あきらめた。だけどやっぱり佐和子がかわいそうだ。どうしても納得できない。それだけ感情移入していたということだけど、瀬尾さんには違う方法で締めくくって欲しかった。

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瀬尾まいこ
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    2009

04.14

「空に唄う」白岩玄

空に唄う空に唄う
(2009/02/13)
白岩 玄

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主人公は新米のお坊さんの海生で、住職のじいちゃん、母さん、ばあちゃん、犬の真和の一匹と四人暮らし。その日、海生はお通夜をはじめてお勤めすることになった。お通夜とはいえ、じいちゃんの脇で補佐するだけの役目なのだ。亡くなったのは碕沢さんという方の娘さんらしく、歳は海生と同じ二十三歳。葬儀は会館ではなくウチの本堂でやるらしかった。

それなりに緊張はしていたものの、始まってしまえばやることはいつもと変わらなかった。チラと前に目をやれば、祭壇の中央には遺影が見える。碕沢さんちの娘さん。なんとなく夏の太陽を思い起こさせる笑顔。健康的でみずみずしくて、思わず目を留めてしまう。その時ふと見慣れぬものが視界に混ざりこんできた。

女の人が座っている。故人の眠る棺の上に腰かけてがっくりと頭をたれている。碕沢さんちの娘さんだということがわかった。私のこと、見えるんですか? 私、死んじゃったんですか? 彼女はどう見ても普通の人間に見えるけれど、世間的には死んでいるのだ。そして彼女自身も、そのことを受け入れられずにいるらしい。

海生だけが見える。声が聞こえる。さわれる。一方で、彼女と関われる時間が限られている。予兆もなしに姿が消えてしまうのだ。彼女はさわる物がみな硬く、物が動かせない。いや、海生の手渡しだと物が持てる。海生は人をうけ入れるタイプなので、この行くところがない碕沢さんが次第に心配になり、そこで奇妙な同居が始まった。

はっきり言うと、面白いと思えるところがほとんどなかった。海生にしか見えないというよくある設定にも関わらず、取り立てて独自の特色があったとは思えないし、ここにあるユーモアがとにかく薄っぺらい。それに海生に個性がなく、ユーレイの碕沢さんにも存在感がない。ないない同士の二人の関係を淡々と読まされるのは退屈だ。そして海生のお坊さんとしての日常がまったりと繰り返されるだけだ。ラストにしても、そこだけ読めば切ないのだけれど、唐突なご都合の展開に違和感があった。

う~ん。ぶっちゃけ、駄作?! それとも、ただ単に自分とは肌が合わなかっただけなのか。これは一つの意見であって、面白く読める方もいるのだろう。本の帯には、本屋さんからの感動の声も載せられていることだし。ただ、自分にはこの作品の面白さが伝わってこなかった。残念。

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    2009

04.13

「猫の名前」草野たき

猫の名前 (講談社文庫)猫の名前 (講談社文庫)
(2007/07/14)
草野 たき

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となりの家の窓が開く。紗枝子さんがあらわれる。約束の時間。佳苗はベランダの鉄格子をまたぐ。そして、ジャンプ。そうして、紗枝子さんの部屋に窓から侵入。いつもの、窓からのお呼ばれ。紗枝子さんは、佳苗の家のとなりに住んでいる人だ。年齢は佳苗の母親と同じ。中一で料理、中二で洋服作り、そして今は、家庭教師と生徒という関係。友人の絵理と夜遊びに行くときは、ふたりは紗枝子さんの家でお勉強していることになっている。一方、ライブハウスに行ったりするときは、紗枝子さんと一緒に出かける。

その日、佳苗は生活指導の先生に呼び出された。夜遊びがばれたか? そうではなかった。平野春名が会いたいと言い、会えなかったら、今度はビルの屋上から飛び降りると言っているらしい。彼女は手首を切って死のうとして入院しているという。小学校時代のクラスメイトだが、ほとんどしゃべったことがない。なんで、私が? 命、かかってる。先生のこのセリフは反則だ。これじゃ強迫じゃないか。佳苗は行くしかないとあきらめた。ところが、春名から出た言葉は予想外のものだった。

自分の犯している罪に気づきもしないで、のんきにふつうの毎日を送ってる。復讐したいの。たとえばさ、もう生きるのがイヤになりました。私が死ぬのは奥村さんのせいですっていう遺書を残してここの屋上から飛び降りれば、奥村さんの人生、変わっちゃうよね。ふふふと春名が笑う。とりあえず、私に生きててほしかったら、またお見舞いに来て。春名はどんどん勝手に話を進めた。理由がわからない佳苗は戸惑うばかり。またね、とは言わないで部屋を出る。そして、ダッシュ。佳苗は背筋をぞくぞくさせながら逃げた。

しかもそれ以降、友人の絵里とすれ違い、紗枝子さんとの仲直りもうまくいかない。人は気づかないうちに誰かを傷つけることもあるし、自分が傷つくこともある。ここに登場する人たちは傷ついた人たちばかりだ。そして何かが欠如している人だ。その感情の持っていく方向を間違えた人たちだ。学校生活がうまくいかないことを全部、佳苗のせいにする春名。佳苗をひとりじめしたくて、嘘をついたり秘密をばらすと脅迫する紗枝子さん。そして、自分がない佳苗。

主人公の佳苗には、自分というものがなく、小心ゆえに人に付き合って生きてきた。紗枝子さんの新しく買った猫のぬいぐるみの名前を毎回つけさせられたり、絵里が好きなバンドのライブに付き合って行ってあげたり。好きでもなく、興味もないのに付き合う。そして、友達でもないのに、行く義理もないのに、春名の一方的な命令をのんで病院へ見舞い続ける。佳苗はこれまでそうして生きてきた。だが、それではいけない局面がやって来たとき、彼女はどのような答えを出すのか。

人の心はどうして理解できないのか。人とはままならないものなのだ。だけどひとつだけ腑に落ちないことがあった。友人の絵理は知り合って一週間もしない人に、紗枝子さんにお金を借りてまでしてみつごうとする。大事な人が間違っていると思ったら注意をする。その人のこと思うなら当たり前のことだ。佳苗はそんな絵理を止める。佳苗の行為は間違っているとは思えない。それをきっかけに距離を置く絵理のほうが幼稚だ。しかし、仲直りは佳苗のほうからごめんと謝っている。どう考えても絵理に非があると思うのだが。

佳苗の反省、紗枝子さんの反省、春名の反省は大きな成長だと思えるが、いくら紗枝子さんのでっちあげだったとしても絵理のことだけは理解不能だった。なんかすっきりしない。消化不良だ。人に借りてまでみつぐ。これが女という生き物で、男には分からない何かがあったんだろうか。最後は友人を信じる信じないという論点のすり替えにもなっているような気がした。絵理以外が良かっただけに、もやもやの残った読書となったのは残念だ。

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草野たき
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    2009

04.12

「すりばちの底にあるというボタン」大島真寿美

すりばちの底にあるというボタンすりばちの底にあるというボタン
(2009/02/18)
大島 真寿美

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すりばち団地は、すりばち状の敷地に建っているから、ゆるい坂道や階段がやたら多い。薫子と雪乃は、すりばち団地の同じ棟で生まれた幼なじみ。母親どうしが妊娠中から仲よくなっていたので、赤ん坊のころからしょっちゅう一緒だった。もちろん、幼稚園も小学校もずっと同じ。ずっと仲良し。薫子はなんだかんだいったって、雪乃を信頼しているし、雪乃も薫子を信頼している。

晴人は去年の暮れに、すりばち団地に引っ越してきたばかりで、まだあまり、友だちがいない。学校にも、すりばち団地にも。薫子や雪乃と同じクラスになったが、一度もしゃべったことはない。昔からそうだった。晴人はあまりしゃべらない。しゃべりたいと思わない。晴人はすりばち団地で、おばあさんとおじさんと一緒に暮らしている。二人で暮らしてきた父親が消えてしまったからだった。

晴人が、「すりばちの底にあるというボタン」のうわさを聞いたのは、シュンおじさんからだった。すりばち団地の敷地の底にあるというボタンを押すと、夢がかなう、といううわさがあったと。晴人がボタンを探して歩いていたら、薫子につかまった。女の子二人に囲まれて、晴人の頭の中は真っ白になってしまった。だから、たぶん、正直にしゃべってしまったのはそのせい。

さっきまで元気いっぱいだった二人の女の子の様子ががらりと変わってしまっている。薫子と雪乃が知っていたのは、ボタンを押すとすりばち団地が消えてしまうということ。一方では、ボタンを押せば夢がかないといい、一方では、世界が滅びるという。いったいどういうことなのだろう? 薫子、雪乃、晴人、雪乃の兄の邦彦。四人は、真実を探しもとめ動きだす。

大島さんの児童書です。だから、出てくる人たちはいい人たちばっかり。でも、団地は寂れ、老人がだんだん増えて、子どもはぐっと減っている。また、ネットでは友だちはいるけれど、現実では友だちがいないという子どもが登場する。地域社会の崩壊、人間関係の未熟さ、家庭環境の違い、そして、二通りある都市伝説。これらが上手くミックスされて、明るい明日へと一歩踏み出していく。いいお話だ。とにかく、四人の少年少女たちがかわいかった。そして、たかたかたかたか、と坂をかけたくなった。

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大島真寿美
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    2009

04.11

「電化製品列伝」長嶋有

電化製品列伝電化製品列伝
(2008/11/05)
長嶋 有

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エッセイは苦手と思っていたら、ちょっと風変わりな書評だった。実は書評も苦手で、なんて思っていたが、これはそういった意味での書評ではない。説明が難しいので本文から抜粋してみると、「さまざまな文学作品の、その中の電化製品について描かれている場面だけを抜き出して熱く語った、珍妙な書評集」だそうです。ちなみにこの本は、講談社のプレゼントに当選したもので、買ったり借りたりした本ではない。つまり、当選しなければ読まなかった本というわけ。

読んで思ったことは、まず独自の切り口が長嶋有らしいこと。取り上げた作品の全体について評しているのではなく、作品の中での電化製品というアイテムの使われ方や役割、そこにいる人と人の距離感、作家のそこに込めたものを読み解く分析や、電化製品へのちょっと異常なこだわりに、むむむっとなり、そうなのかもしれない、と膝をぽんっと打ちたくなった。作家・長嶋有という視点に、新しい視点を教えてもらうような感じだろうか。だけど、こんな読み方は今後もするつもりはない。だってページが進みそうにないんだもの。

取り上げられた作品はざっとこんな感じ。

川上弘美「センセイの鞄」の電池
伊藤たかみ「ミカ!」のホットプレート
吉田修一「日曜日たち」のリモコン
柴崎友香「フルタイムライフ」のシュレッダー
福永信「アクロバット前夜」のマグライト
尾辻克彦「肌ざわり」のブラウン管テレビ
映画「哀しい気分でジョーク」のレーザーディスク
吉本ばなな「キッチン」のジューサー
生田紗代「雲をつくる」の加湿器
アーヴィン・ウェルシュ「トレインスポッティング」の電気毛布
小川洋子「博士の愛した数式」のアイロン
干刈あがた「ゆっくり東京女子マラソン」のグローランプ
高野文子「奥村さんのお茄子」の「オクムラ電機店」前編
高野文子「奥村さんのお茄子」の「オクムラ電機店」後編
栗田有起「しろとりどり」のズボンプレッサー
映画「グレゴリーズガール』の電動歯ブラシ
花輪和一「刑務所の中」の電気カミソリ
長嶋有「猛スピードで母は」の炊飯ジャー

この中で読んだ作品は、「センセイの鞄」「ミカ!」「フルタイムライフ」「猛スピードで母は」の四作品。これは多いんだか少ないんだか微妙な冊数だ。そんな中、福永信「アクロバット前夜」は面白そうだと思った。ただ、本の帯に一家に一冊とあったが、一家に一冊はいらんでしょ。

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長嶋有
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    2009

04.10

「天才探偵Sen3-呪いだらけの礼拝堂」大崎梢

天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)天才探偵Sen〈3〉呪いだらけの礼拝堂 (ポプラポケット文庫)
(2009/02)
大崎 梢

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渋井千はさつき小始まって以来の天才六年生。その千はあこがれの万希先生にだけはうっとりしてしまう。加奈は小三のときからおなじクラスで、やたら元気がよく、好奇心のかたまりで、雑草のようにたくましい。クラスの男子の中には、バンビみたいにかわいいというやつもいるけど。信太郎は幼稚園のときからのつきあいで、姿かたちはめちゃくちゃいいけれど勉強はからきしで、何かというと千をたよる軟弱者。そして怖がり。

聖クロス学園の礼拝堂地下室に大事にしまってある名画が、十年に一度、一般公開される。それが今年の学園祭で公開されるという。壁新聞を作っている千たちは取材に行くことになった。というのも、名画はクロ学の出身者が寄贈したもので、絵そのもののテーマは平和への祈り。ところが生徒の間では、呪いを呼ぶ絵とうわさされ、公開されると学園に災いがふりかかる、悪魔ばらいをしなくてはと、一部の生徒が本気でさわいでいるというのだ。

クロ学校内に入ると、悪魔ばらいの儀式に、あのミカエルさまがほしいわ、ぜったい手に入れてみせるから、という美形の信太郎を見た女の子たちの会話が耳に入った。いつの間にかそう呼ばれるようになった白バラ会の連中だった。絵の封印がとかれ、もうすぐここに悪魔があらわれる。あらゆる邪悪をまきちらし、学園を恐怖のどん底におとしいれる。それをふせぐには祈りしかない。白バラの祈りだ。と変わった人たちの集団らしい。

そして、十年前に現れたという悪魔、消えた信太郎、魔法陣をかこんだ悪魔ばらいの儀式、呪いにふりまわされる白バラ会の生徒たち、教祖に祭り上げられた白バラさま、ふわふわと白く揺れる不気味な影。十年に一度。名画が地下室から持ち上げられ、聖堂にうつされる。そのときだけ、何かがおこる。その礼拝堂の呪いの謎は、ぼくがかならず解いてみせる。となり町にある私立学園を舞台にしたシリーズ第三弾。

シリーズも三冊目にして安定期に入ったような気がした。これまではキャラの性格に頼る部分が垣間見えていたが、今回はキャラの跳ね度が若干押さえ目で、学園の謎に挑むほうに比重が感じられた。それとは別に、フリーライターの美幌沢和人が登場しなかったのは少し残念。だけど、安心して読める少年探偵団になってきたのは確かだ。気軽に読めるYAミステリとして、今後も読み続けていきたいと思う。次は美幌沢和人をお忘れなく~!

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大崎梢
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    2009

04.09

「ゆりかごで眠れ」垣根涼介

ゆりかごで眠れゆりかごで眠れ
(2006/04)
垣根 涼介

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日系コロンビア二世のリキ・コバヤシ・ガルシアは、ひとりの少女を伴い来日した。少女の名はカーサ。元浮浪児だった。エル・ハポネス――日本人。この日系コロンビア人の通り名だ。母国コロンビアの裏社会に生きる者なら、誰もが知っている。そんな異邦人が、最貧困の貧民窟からのし上がり、大規模なコカイン密輸組織の共同運営体ネオ・カルテルで重要な位置を占めている。組織の古参のボスの一人だ。

リキの部下であるパパリトは、コカの売人に身をやつしているが、本業は殺し屋だ。それが密告によって日本の警察に逮捕された。ゴンザロの組織にパパリトを売られたという事実。それはリキの組織がこの日本で軽んじられたことを意味する。舐められた、と言ってもいい。パパリト救出の件とは別に、ゴンザロの組織に仕返しをする。それも徹底的にやる。それが今回来日の目的だった。

刑事の武田は暴力団への潜入捜査をきっかけに、逆に組織に取り込まれた。そしてコカの中毒者になった。その武田が所属する組織犯罪対策課に密告があり、不法滞在容疑で別件逮捕してみたところ、殺人の容疑が浮上してきた。だが、このコロンビア人が捕まってから三週間というもの、周辺の繋がりがまったく出てこない。その事実自体が、逆にこの男の背後にある強固な組織の存在を濃厚に物語っていた。

若槻妙子は警察を辞めて初めて分かった。自分にはどこにも行きたいところがない。自分から話をしたいと思う相手もいない。世界に、厭いている。将来にも世の中にも何一つ期待することなく、淡々と生きていられる。その少女は道に迷っていた。迷子になったカーサをホテルに送り届けた妙子は、そこで自分と同じ匂いのするリキと出会う。そして妙子はカーサのお守り役を仕事として引き受けることになった。

コロンビア・マフィアのボスにまで上りつめた日系二世のリキ・コバヤシ・ガルシア。リキに惹かれてしまった元刑事の若槻妙子。リキなしには生きていけない元浮浪児のカーサ。警察組織の中で歪み、すり潰されていく刑事の武田。リキの部下で、ラティーノの殺し屋のパパリトとパト。危ない綱渡りをしながら生きつづけ、走りつづけることに、息切れを感じている男と女。彼らの未来に待つものは、一体何なのか?

「ワイルドソウル」の南米取材が存分に生かされた作品で、コカインを売りさばくマフィア、冷酷だが信のある登場人物、陽気なラティーノ、火を噴く銃器、腐敗した警察、改造された車、閉塞感の中で生きる男女と、いつもの垣根テイストが散りばめられたガッツリの大長編。重厚ながら疾走感ある文章が軽快さを生み、それぞれの登場人物の壮絶な過去を披露することで読者の興味を引き付ける。また主人公が自分のことよりも少女の行く末を案じている姿にぐっとくる。「ヒートアイランド」や「ワイルドソウル」にあったヒリヒリした緊迫感はないものの、全編を通した約束を守るという一つの想いに胸を打たれた。面白かったです。

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垣根涼介
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    2009

04.08

「助手席にて、グルグル・ダンスを踊って」伊藤たかみ

助手席にて、グルグル・ダンスを踊って (河出文庫)助手席にて、グルグル・ダンスを踊って (河出文庫)
(2006/09/05)
伊藤 たかみ

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主人公は高校三年生の僕ことカオル。父さんの愛車は赤いコンバーチブル。僕はその車に、女の子を乗せて走っていた。彼女の名前は大越ミオ。三日前に知り合ったばかりだ。だけど、始めから最高に気が合っていた。彼女は西区の出身だ。そこが僕たちの山手と違った場所だというのは、誰が見ても一目で分かる。そこに住んでいる人たちは、僕たち山手の家と比べて、ずっと貧しい。そういう空気は当たり前な町だった。

ミオがある女性ファッション雑誌の表紙を飾ったのは先月のことだ。ことさら盛り上がりを見せたのは男子生徒で、文化祭に行われる校内ミスコンがあったからだ。ミスコンはガチガチ・レースで、僕たちと同じ山手に住む、香代子って女の子がダントツだからで、わが校史上二人目の三年連続、三冠に輝く予定だった。だけど、突然のミオの出現で、ミスコンは混戦模様になった。この香代子ってのは、僕の友人の恋人で、これから僕が車で向かう先は、そんな香代子のバカでかい家だった。彼女の家でパーティーがあるのだ。

文筆業の父は息子に無関心で、同居する父の新しい恋人シーナさんは友だち感覚。彼女を車に乗せて走らせ、幼なじみとふらふら遊び、タバコを呑んで酒も飲んで、悪ぶることが格好いいと思っている年代の若者だ。こういう時期ってあると思うし、憧れる人もいると思う。だけど、この若者たちはお坊ちゃんで、親の財力に頼っているところが甘すぎる。せめて自分の遊ぶ金くらいはバイトするなりして稼ごうよ。そこが情けない。

まあ、そういうお坊ちゃんの青春グラフィティにも波乱は訪れる。山手と西区でつまらないケンカが始まるのだ。きっかけは、幼なじみの車を蹴られたことが発端だった。いつの間にか彼のことがそっちのけに、主人公の周りで大ごとになっていく。主人公はお金持ち側に属し、彼女はおもいっきり貧乏な家の子。そして、対立の決着をつけようとするその日、彼女は突然学校を辞めて、この町を出ると言い出した。さあどうする?

だけど、この坊ちゃんたちだって、自分の立場は分かっているだ。親の七光りを借りて、もっと大きくなる予定だけど、自分の才能の問題もあるし、さらに言えば、この町で暮らすことが条件であり、この町から離れれば、親の力は財力だけになっていく。それだけなら自分らは立ち枯れていく。だから、小さな自由の詰め込まれた学生生活を、今だけの自由を謳歌したいと、坊ちゃんなりに考えてはいるのだ。庶民からすれば、ふ~んと鼻で笑うような甘い考えだけど。

デビュー作なので荒さはあるものの嫌いではなかった。自分にもこういう年代があったし、若気からくる勘違いや思い込みや間違いもあった。今日はやることがありすぎて忙しいと思った日もあれば、なにもすることがないと一日ごろごろした記憶もあるし、土曜日に寝て起きたら月曜日の朝だったということもあった。そういうのも含めてすべてが若さなんだろう。第32回文藝賞受賞作。

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伊藤たかみ
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    2009

04.07

「エ/ン/ジ/ン」中島京子

エ/ン/ジ/ンエ/ン/ジ/ン
(2009/02/28)
中島 京子

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お父さんは、それはものすごいエンジンカだったのよ。猿人。まさに自分の顔を見て、少女は確信した。だが、母親は断固としてこう答えた。エンジンのエンは、厭世の厭。いとう、いやがる、という意味よ。そのことについては、あなたが大きくなったら話すわ。少女が大きくなったときには、母親は認知症を患っていたから、すでに娘との約束をすべて忘却していた。彼女も相当な人嫌いに育った。彼女自身も小さいころからいっぷう変わっていた。

葛見隆一が身に覚えのない幼稚園の同窓会の招待状を受け取ったのは、二〇〇三年の三月の初めだった。それは、勤務先から届いた、契約更新を見送るという内容の通達と同時に届けられた。同時に彼女も失った。三十三歳の誕生日の三日前だった。同窓会に出席する気になったのは、することが他になかったからだ。会場にいたのはクラハシレイコの娘という彼女だけだった。

蔵橋礼子は、一九七三年の一年間だけ、園児は三歳児のみの幼稚園を開いていた。隆一もその園に通っていたみたいだ。入園の記念だろう集合写真に三歳児の自分が写っていた。そして、目の前の彼女と似た面影がある男も写っていた。蔵橋ミライは、人嫌いだったという父親の行方を捜していた。隆一の二歳上の姉が写真の男を知っていて、男をゴリと呼んでいた。手がかりは、「エンジン」と「ゴリ」の、二つのあだ名だけ。ミライの父の痕跡を追ううち、二人は「ゴリ」が消えた時代に遭遇する。それは、高度成長後の一九七〇年代だった。

冒頭から引き込まれた物語だった。夢の幼稚園の先生を目指していたという、ミライの母親が作った「おそらのうた」の歌詞に爆笑。三歳児に歌わせる歌が「きのこぐも」に「なぱーむだん」って。そして、歳を十歳ごまかしてコンパニオンをしている玉緒と、売れているとは思えないミュージシャンの耕太、バイセクシャルらしき耕太の恋人で、公務員のトンちゃんらとのたわいのない会話の中で出てきたのは、エンジンでゴリと言ったら、宇宙猿人ゴリだろう、ということ。

宇宙猿人ゴリとは、一九七一年に放映された特撮ヒーロー物、スペクトルマンという番組の敵役だったらしい。自分は七十年代前半の生まれなので、ギリギリのところでそれを知らない。そのマニアックな宇宙猿人ゴリから、宇宙厭人ゴリという小説、それを書いた小説家、作中のモデルにした人物と、ドミノは次々と倒れ、一九七〇年代の時代背景と共に、行方をくらませた父と、記憶障害が進む母の、かつての本当の姿が浮かび上がってくる。そのエンジンをたどる旅の人と人との繋がりに胸がいっぱいになった。やはり中島京子さんはいい。おすすめの作品です。

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中島京子
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    2009

04.06

「幸せ最高ありがとうマジで!」本谷有希子

幸せ最高ありがとうマジで!幸せ最高ありがとうマジで!
(2009/03/27)
本谷 有希子

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とある町の新聞販売所。主の慎太郎は集金で留守中。後妻の美土理と住み込みバイトのえいみが廃棄する新聞を紐でしばる等の作業をしている。美土理の連れ子、紗登子は窓ガラスを拭いている。事務所の電話で、息子の功一が新規の勧誘を行っている。長い時間、それはほとんど変哲のない光景。この家族の日常を感じさせる。

自転車屋へ出かけようとする功一と、ほぼ入れ違いで女がやって来た。「どちらさまでしょう?」と美土理。「愛人です」と謎の女・明里。美土理は妻としてはどこか反応が鈍い。明里は愛人関係を嬉々と語りだす。すごく嬉しそうで楽しそうだ。もともと慎太郎の女癖の悪さは病的とも言えたため、妻と子供たちはその話をあっさり信じ込んでしまった。

だが、家族は一丸となって明里の存在を無かったことにしようとする。夫婦生活を見せてと家に上がりこもうとする明里を、妻と息子と娘は協力して阻止。明里は水をかけられ外に放り出された。だが、住み込みバイトのえいみの手引きによって、明里はなぜか敷地内のプレハブ小屋に密かにかくまわれることになった。

明星の目的は復讐なのか。否。明星は、縁もゆかりもない見ず知らずの人間だったのだ。一家を襲う不幸。それは無差別テロだった。悪魔的なエネルギーで一家を追いつめる謎の女。明るい人格障害という彼女が暴れるきっかけとなったのは何?  第53回岸田國士戯曲賞を受賞。「遭難、」「偏路」に続く戯曲作品。

今回も無茶苦茶な人ばかりだ。家庭を崩壊させて、その過程を楽しもうとする自称・明るい人格障害のヒロイン。人格障害に明るいなんてあるのか。どうやらあるみたいだ。その彼女とコンビを組むというか勢いで巻き込まれてしまうのは、リストカット癖のある現愛人の住み込みバイト。この人にもぼろがどんどん出てくる出てくる。

それに対するは嫁連合軍。夫に愛人がいたと知っても動揺しない後妻だが、実はある悟りを開いており、その連れ子で兄にパンツを見せる娘は冷静で、ひとり兄はパニックになって父のDNAと家庭環境に絶望する。そして、父はあわあわするばかり。平凡で平穏だと思われた一家庭だが、ひとつのきっかけで、嘘を抱えたなんちゃって家族だったと明るみになってゆく。

みんなぶっ飛んでいるんだけど、どこにでもいそうな人たちだ。人とは、何がしかの嘘をついて生きている。そこをこちょこちょと繋げてからめて出来たのがこの作品。そして、モンスターのようなヒロインにも、理由の分からない苦しみがあるということ。タバコに火がつかないとか、誕生日に誰も祝ってくれないとか、きっかけが何であれ、イライラは適度に解消しておかないと爆発するものなのだ。期待通りおもしろかったです。

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本谷有希子
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    2009

04.05

「英雄の書」宮部みゆき

英雄の書 上英雄の書 上
(2009/02/14)
宮部 みゆき

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英雄の書 下英雄の書 下
(2009/02/14)
宮部 みゆき

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主人公は小学五年生の森崎友理子。ある日、中学二年生の兄・大樹が同じクラスの男子生徒を二人、傷つけた。一人はお腹を刺し、一人は首を刺した。首を刺されたクラスメイトは、救急車が到着したときにはもう息がなかった。先生たち、生徒たちが事態を知って大騒ぎを始めたとき、大樹は姿を消していた。お兄ちゃんは悩んでいなかった。不機嫌でもなかった。いつものお兄ちゃんだった。完璧なお兄ちゃん。成績優秀でスポーツ万能で人気者のお兄ちゃんが、なぜ。一週間経ち、十日経っても、森崎大樹は見つからなかった。

友理子はふと大樹の部屋に入ってみた。そのとき、友理子は大樹の本棚にあった赤い本の声を聞く。赤い本は言った。あれに魅入られてしまった。あれは人間に取りついて、悪い事をさせる。人を操り、戦を起こし、世の中を乱すことが、あれの本性。あれは英雄というものだから。大叔父が遺した別荘には世界中から古い本が集められた図書室があった。大樹はその図書室から二冊の本を持ちだした。そのうちの一冊が赤い本(アジュ)で、もう一冊が英雄について書かれた写本のひとつ、エルムの書だった。

友理子はアジュと一緒に大叔父の別荘へ行く。すると、アジュの仲間である本たちが次々と話し出した。大樹はただ取り憑かれたのではない。召喚者となった。破獄だ。英雄は解き放たれた。封印は破られた。この世の終わりが訪れる。大樹はあらゆる物語の源泉がある無名の地に封じ込められていた英雄を召喚したのだという。賢者は語りだす。英雄とは、お前の生きるこの輪(サークル)に存在するもののなかで、もっとも美しく尊い物語だ。美しく尊い物語が光り輝けば、そこには同じくらい濃い影も生まれる。それもまた英雄だと賢者は説明した。

英雄の影の部分は、人間の怒りの感情を好む。そして、英雄の影の部分、邪悪なる部分のことは、黄衣の王と呼ぶ。黄衣の王に取り憑かれた人たちは戦を起こす。封印を破り、破獄した黄衣の王は、召喚者の身体を借りて、輪へと降臨する。大樹は、今や黄衣の王そのものへと成り果てた。友理子は兄を救い出すため、本たちの導きによってオルキャスト(印を戴く者)となり、物語の源泉である無名の地へと旅立つ。

内容紹介として、旅立ちまでをずらずらっと書いてみたが、これが長い。長すぎる。そして世界観やもろもろの説明が分かりにくい。英雄や物語という単語が出てくるが、これらは普段使っている意味とは概念がまったく違うものだ。これらは読んでいくと、おいおいと理解できるようにはなるが、それまでは頭の中で?がリフレインすることだろう。これから読むという方、上巻の223ページまでは我慢してください。そこが峠ですから。そして、ここから本当のファンタジーの世界が始まる。

額に紋章を戴いてオルキャストになった友理子は、ユーリと名乗り、魔法が使えるようになる。同行することになったアジュは、赤い本からハツカネズミへと化身して、ユーリを呪文にてサポートする。そして、少年無名僧のソラはユーリの従者となり、狼と呼ばれる戦士のアッシュも同行するようになる。要するに、RPGでいう四人パーティーの誕生だ。

ゲーム好きを公言している宮部さんらしい作品だ。ただ、先にも書いたことに繋がるが、設定を詳しく説明する必要はあったのだろうか。分からないものは分からない。こういう世界だというアバウトなもの、読者の想像に委ねても良かったように思えた。これはこうと詳しく説明されるのは苦痛だった。勉強が嫌いだったのに、楽しみの読書まで勉強とは、ね。

だけど、それを差し引いても面白かったと思う。無名僧の突然の動揺。アッシュとソラの微妙な関係。何かを知ったまま口に出さないアッシュ。どんどん様子がおかしくなってゆくソラ。ファンタジーなのに、随所にミステリー作家らしいサプライズも仕掛けられている。そして、主人公を助けてくれる本たち。本が主人公に語りかけるシーンはどれも美しくわくわくさせる。さらに、続編を匂わせるラスト。ある意味ここから物語が始まるという予感が心憎い演出だった。

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宮部みゆき
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    2009

04.04

「依頼人は死んだ」若竹七海

依頼人は死んだ (文春文庫)依頼人は死んだ (文春文庫)
(2003/06)
若竹 七海

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わたしは葉村晶という。性別・女、現在無職。以前は長谷川探偵調査所という零細な探偵社に勤めていた(「プレゼント」)。所長から呼び出しがあったとき、そういう話になることは想像していた。わたしはもうすぐ二十九になる。無能とまでは思わないが、有能というほどでもない。不細工とは思わないが、平凡な容貌だ。セールスポイントは貧乏を楽しめること。口が堅いこと。体力があること。要するに、長谷川探偵調査所以外の会社がわたしを雇いたがるとはとうてい思えなかった。フリーの契約探偵・葉村晶が真相を暴く事件簿。

「濃紺の悪魔」
依頼内容は身辺警護。葉村晶は、人気実業家の松島詩織に二十四時間張り付くことになった。しかし、詩織への嫌がらせは日に日にエスカレートしていく。この騒ぎのどこかに、中心があるはず。だが、詩織は中心についての心当たりを頑として話そうとはしなかった。

「詩人の死」
出版されたばかりの詩集の作者は西村孝。相葉みのりの婚約者だった男。彼は一ヶ月前、運転していた車をトンネル脇の壁に激突させた。おかげで、結婚後ふたりが暮らすはずだったマンションはみのりひとりの住居となり、西村の書斎になるはずだった部屋は、葉村晶に無料で貸し出されることになった。友人の婚約者の詩人はなぜ、自殺したのか。

「たぶん、暑かったから」
葉村晶の元に母の友人という市藤夫人が訪ねてきた。市藤夫人の娘、恵子が職場で上司を刺し、重症を負わせた。恵子は殺人未遂で逮捕された。恵子の供述によれば、「よく覚えていない。気がついたら相手が床に倒れていて、自分がねじまわしを持って立っていた」とのこと。警察は精神鑑定を受けさせることにしている。恵子の本当の姿を調べてくださいという依頼だった。

「鉄格子の女」
書誌学のレポートに選んだ挿絵画家で画家の森川早順に関する調査をして欲しい。葉村晶は大学生からアルバイトを引き受けた。調べていくにつれ、葉村はだんだん森川早順に興味を引かれ始めた。彼は謎の多い人物だった。一番の謎なのは、死の三年前に三浦半島に引きこもった理由。そして画風ががらりと変わってしまったこと。答えは彼の遺作「女」の中にあった。

「アヴェ・マリア」
一年前に起きた殺人事件。クリスマス・イブの惨劇、舞台は古い教会。管理人である八十二歳の老婆が死体で発見された。依頼は殺人事件そのものについて調べろというものではなかった。殺人のあった日にいったいどういうことが起きたのかを詳しく知りたい。できれば教会に長い間祭られていて、事件ののち姿を消した聖母マリア像の行方を調べてほしい、というものだった。葉村晶の契約探偵仲間の水谷潔は調査を開始する。

「依頼人は死んだ」
幸田カエデは最近、新進気鋭の書道家として注目を集めている女だが、そうでなくても高校時代から注目の的だった。葉村晶はそのオープニング・パーティーにて、カエデのアメリカ留学時代の友人で、佐藤まどかという女性から相談を持ちかけられた。検診をうけていないのに市役所からガンだという告知が送られてきたと。悪戯だと判断を下した葉村だが、数日後、彼女はガンを苦にして自殺したという。

「女探偵の夏休み」
婚約者を亡くし、マンションの一室を貸してくれたみのりが、旅行中のいっさいの費用を負担するから一緒に来て、と言い出したので、葉村晶は、海辺の高台にあるオーシャンビュー・プチ・ホテルにやって来た。気持ち悪い。なんだか、やっぱり、どうも腑に落ちない。なにか起こりそうな予感がする。なにか、良くないことが。その日、高いところから人が突き落とされた夢を見た。

「わたしの調査に手加減はない」
家賃ただの大家に逆らえず、葉村晶は中山慧美の依頼を受けることを、本人に会う以前に内心で決めていた。とはいうものの、夢のお告げを読み解けという依頼は前代未聞だ。中山慧美の幼なじみだった由良香織は十年前に死んだ。ところが最近になって、毎晩のように香織が夢に出てくるようになった。香織は私に言いたいことがあるんじゃないか。彼女は自殺したかもしれないというのだ。

「都合のいい地獄」
水谷潔が自殺した。葉村晶の友人の夫で、探偵だった男だ。葉村が病院の水谷に会いに行ったのは、一年前の一度だけ。なのに、病院のほうは、自殺する五日前に葉村が面会に来たと言っている。確かめてみると、最近、頻繁に水谷を見舞っていた葉村晶は男性であった。その後、接触を図ってきた悪魔は、葉村がどうしても知りたい謎と知人の命を天秤にかけるような選択を迫ってきた。

いつもと同じく、登場人物たちに癖があり、ラストのオチが読後感を悪くする。とにかく黒い作品だ。だけど、それがこのシリーズの売りポイントになっている。その中で、主人公の葉村晶はハードボイルドの人だ。ものすごくクールで、思ったことをストレートに相手にぶつける辛口で、気になったことはとことん調査する。そうして粘り強く調査を続け、隠されていた真実を白日の下に暴き出す。そして、連作短編の最後に待っているのは、これは長編だったのかと思わせるスケールの大きい一編だ。最高で最悪だけど、これは癖になる。これから読み始めるという方は、シリーズ第一作の「プレゼント」からどうぞ。

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若竹七海
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