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    2009

06.30

「フリッカー式」佐藤友哉

フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)フリッカー式 <鏡公彦にうってつけの殺人 > (講談社文庫)
(2007/03/15)
佐藤 友哉

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鏡家は壊れている。鏡家七人兄弟も、みごとなまでに破壊されていた。まともなのは僕(公彦)と佐奈だけだ。僕は妹の佐奈には甘かった。その佐奈が死んだ。首を吊って自殺した。大槻涼彦と名乗る男が僕のアパートにやって来た。大槻は愉快そうにビデオを再生した。映し出されたのはホテルの一室。それは中年男たちによる妹の陵辱ビデオだった。デブ。眼鏡。老人。三人のレイプ魔は財界などの大物だった。復讐してやる。だが一般人を殺すのとはわけが違う。大槻はプレゼントだと言って、一枚の封筒を取り出した。それは連中の愛娘の写真と行動スケジュールだった。僕はスタンガンを手に捕獲を開始する。

一方、公彦の幼馴染で同級生の明日美は、特異な能力を持っていた。最初に彼との接続が発生したのは小学校高学年のときだった。誰かの目を通した風景が広がる。ナイフが少女の首に突き刺さった。突き刺しジャック。八年間で七十七人もの少女を殺害した大量殺人者の名称だ。また接続が始まった。その現場には見覚えがあった。彼に殺害される少女の多くは、とびきりの笑顔だった。彼は、少女の首筋にナイフを突き刺した。行くしかない。少女の死体。その死体を見下ろすように、男が立っていた。二人の人間と一つの死体が集う部屋。半開きになったそのドア越しに、突き刺しジャックは立っていた。

さすがメフィスト賞受賞作。他の新人賞ではありえない壊れぶりだ。登場人物のほとんどが壊れている。でもなぜか憎めない。彼らの倫理観はともかく、その思考の末に出した結論が、わかってしまえるからだ。強姦魔のような凶悪犯によって身内に被害者が出たならば、その怒りはどうしたって収まりそうにない。例え犯人が死刑になったとしてもだ。人が人を裁くことは許されない。でもその行為がいけないと理性でわかっていても、感情的には別になってしまう。自分の手で破壊したいという衝動は押さえられない、と思う。

主人公は誘拐に成功した。だが、そのあとを考えていなかった。その困惑がまた、益々憎めなくするのだ。その一方で、ヒロインは突き刺しジャックを追いかけ、その過程である男と出会ってコンビを組むことになる。読者にとって、その男は愉快な男じゃないかと勘ぐる仕掛けが施されている。そしてジャックもまたヒロインに接近していく。その突き刺しジャックの犯行にも、一応筋が通った理由がある。人を殺す、という結論があって、読者の意識の中での、殺人という危険な定義を投げかけた作品のようだった。

この壊れた作品は、その後シリーズ化されているみたいだ。「鏡サーガ」と呼ばれているらしい。ロボット工学者という長男の潤一郎はどんな人?公彦が引っ張られた次男の創士は?自殺したという長女の癒奈は?予言能力を持つ次女の稜子は?三女の佐奈は?四女の奈緒美は?まだまだクレイジーな兄弟の物語が待っている。今後これらを読むのが楽しみになった。

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その他の作家
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    2009

06.30

6月に買った本の代金

個人メモです。

総額8.915円


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自分への戒め
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    2009

06.30

6月に買った本

単行本

ミッキーたくましミッキーたくまし
(2009/06)
西 加奈子

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龍神の雨龍神の雨
(2009/05)
道尾 秀介

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贖罪 (ミステリ・フロンティア)贖罪 (ミステリ・フロンティア)
(2009/06/11)
湊 かなえ

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骸骨ビルの庭(上)骸骨ビルの庭(上)
(2009/06/23)
宮本 輝

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骸骨ビルの庭(下)骸骨ビルの庭(下)
(2009/06/23)
宮本 輝

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文庫本

プラスチック・ラブ (創元推理文庫)プラスチック・ラブ (創元推理文庫)
(2009/06/20)
樋口 有介

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猫耳父さん (電撃文庫)猫耳父さん (電撃文庫)
(2009/06/10)
松原 真琴

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    2009

06.29

「マーキングブルース」室井滋

マーキングブルースマーキングブルース
(2009/03/17)
室井滋

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室井滋という名前を見て、想像するのは何か。庶民派女優、エッセイスト、よくしゃべる面白いおばちゃん、「やっぱり猫が好き」の次女……。思うことは人それぞれだろう。でも悪い印象はなく、とても感じのいい人という印象は共通するように思う。本書はそんな室井滋の初小説集らしい。それもご自身が猫を六匹も飼っているという猫好きで、その猫を視点とした猫と女の七つの物語だ。まずエッセイでは、私の立場で描かれたある一つのエピソードが語られる。次にそのエピソードを元にしたネコの立場で書かれた短編小説があり、という二部構成になっている。その合間には、ご自信で撮影された猫写真が収録されている。

猫随想「深夜の訪問者」/猫物語「帰省」
おしゃべり主婦がなんとなく興味を持ったもの。それはお盆の迎え火という行事だった。主婦の母が死んだのは五年前。この家に引っ越してきたのは三年前程前。焚いた盆の迎え火に帰ってきた家族の正体は?/知らぬが仏。なむなむ~。ユニークな発想で、こういう感性がある人って羨ましい。猫目線ならではの面白さが存分に出ていたように思う。

猫随想「可愛い仔がお家で待ってます」/猫物語「クリスマス、タクシーで」
タクシードライバーのおっちゃんの猫で、名前は市子。おっちゃんが、離れて暮らす娘の名前をつけた。実は、おっちゃんの猫になる前は全然違う名前がついていた。片カナでモモカと。モモカが市子に変わったのには、少しややこしい事情があった。/子が親を選べないように、飼い猫も飼い主を選べない。しめっぽいけど、おっちゃんにグッときた。

猫随想「真夜中のチラシ」/猫物語「29番の猫」
兄弟一匹だけが家に残され、あとの三匹はコインパーキングの一番端っこ、29番の白線の中に捨てられた。その日、28番に移動火葬車が停められた。幼い三匹は、飼い猫のお別れの儀式とやらを見守った。その時、飢えた妹二匹はお供えのキャットフードに飛びついてしまって。/ノラにはノラの意地がある。夢がある。29番が切ない。にく(肉)~。

猫随想「美容師A子、かく語りき」/猫物語「若いうちから猫と暮らすと」
弘美が泣いている。次第にイライラして、弘美に向かって呼び掛けてみた。だが、残念ながら、声は彼女に届かない。何故かというと、もうすでに死んだ猫だから。今いる所は、テーブルの上に置かれた骨壷の中だった。/猫の霊にまで心配される三十三歳独身女性。そうとうに病んでいる。猫好きもここまで行くと、怖い。

猫随想「あの仔のためならどこまでも」/猫物語「粉雪の舞う夜に」
小さなスーパーのレジ周りの風景はいつも同じだった。女主人の秀子がレジを打ち、看板猫のヒデ婆がレジ横に陣取っている。大晦日の夕暮れのこと。筋金入りの猫婆で、いつもは挨拶もしない人嫌いの志村婆が、妙に緊張した眼差しで睨みつけてきた。/猫のエサ代ってバカにならない。飼い主としては、我が身を削ってもという気はわかる。でもねえ。

猫随想「シゲルとチビ その愛の形」/猫物語「ぼくは繋がれし者」
飼い主は猫っ可愛がりというやつで、至れり尽くせりしてもらう毎日だ。食べ物は贅沢で、トイレもとっても清潔。おまけに冷暖房完備。ただ難点はひとつ。猫用リードを体に装着されて外をお散歩すること。その飼い主がやらかした悪気のないイイ事とは。/想像すると笑える。服を着せられた犬はよく見るけど、あれって犬的にはどうなんだろう。

猫随想「大切にしよう"エコ″と"ネコ″」/猫物語「男一匹、松岡!」
名は松岡。喫茶店のマスターがつけた名前だ。メシ場はあえて分散させている。マスターの店。ボランティアがやって来る公園。コンビニのわき道。そして、リリーが飼われている豪邸。その豪邸から人気がなくなった。/捨てられたロシアンブルーのリリーと、保護者になったノラの松岡の交流が微笑ましい。ラストの締めとしては絶妙。


猫と同居していると不思議に思うことは数々ある。例えば、壁の一点をじっと見つめていたり、はっと何もない空間を見たり、突然饒舌に話し出したり、居ないと思っていたら、なんでというところからゴソゴソ出てきたり、獲物を誇らしげに持ち帰ってきたり、ふいと出かけたまま何日も家に帰らずに心配させて、ふらっと何事もなかったように帰ってきたり。同居人はとにかく振り回されるのだ。

でもこいつが意外とかしこい。なでなですると小ちゃい頭。あっちを向いてこっちを向くと忘れていそう。しかし、窓を開ける、ドアを開ける。しかも、人間のその時の気分を読み取るすごいやつなのだ。でもその能力を発揮するのは、猫自身がそう思ったときだけ。それ以外のときは、オレ猫だよ~ん、と腹を出して撫でろのポーズ。ずるい。でも、その姿に「もう!」と人間は操られてしまうのだ。そういう人と猫の距離感の妙を本書で堪能されたし。


室井滋さんのサイン。

室井

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    2009

06.28

「アンハッピードッグズ」近藤史恵

アンハッピードッグズ (中公文庫)アンハッピードッグズ (中公文庫)
(2001/10)
近藤 史恵

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作家の真緒(マオ)はパリで暮らし始めて3ヶ月。3年前からホテルで働く岳(ガク)から、犬の弁慶の面倒を見るためにと、日本から呼びつけられて同棲が始まった。人なつっこさと愛嬌。このふたつはだれもがあげる、ガクの長所だろう。とはいえ、マオは他人ほど、彼のこの長所を評価するつもりはない。彼がそれをうまく武器にすりかえる瞬間を、何度も目にしている。マオだって、いつも彼のこの武器にほだされたり、振り回されたりしているようなものだ。

そんなある日、ガクが若い日本人カップルを連れて帰ってきた。都築夫婦は新婚旅行にきて、パスポートとお金を空港で掏られたという。とにかくホテルまで行けばなんとかなるだろうと思っていたが、旅行代理店の不備で、予約が入っていなくて、部屋も満室だった。それで、唯一の日本人スタッフであるガクが、親切心を出したわけだ。そこで、浩之と睦美夫婦をしばらく泊めることにした。しかし四人で出かけたベルサイユ宮殿ではぐれたことから、四人の関係の歯車は微妙に狂い始めた。

マオと浩之は待ち合わせ場所で待ち続けたのだが、ガクと睦美は一向に現れない。弘之は睦美のことが心配で、明らかに不機嫌だった。マオは知っている。ガクにはそばにいる人を楽しくする才能が備わっている。しかも相手が女性だと効果は絶大だ。案の定、睦美は浩之とはぐれたにも関わらず、彼女は明らかに楽しんでいた。その日から都築夫婦は不協和音を立て出した。

大人の恋愛小説は苦手だ。だが、著者はミステリ作家だけあって、一筋縄ではいかない作品へと仕上げていた。まず、過剰なドロドロが一切ない。嫉妬に狂うような鬱々とした描写もない。とても静かだ。だからといって、傷ついていないわけではない。思考を停止させているわけでもない。でも、二人はこうなることをあらかじめ知っていた。それでもある結末を迎えてしまう。

何百回も繰り返された喧嘩と仲直り。それでも一緒にいるマオとガク。うまくやるためのマナーとか、方程式とか、そういうのを心得て、なおかつ、パリで孤立した異邦人でいることで二人は平衡を保ってきた。そんな危ういバランスの上に成り立っているカップルと出会ってしまったことが、都筑夫妻の不幸だったに違いない。とびきりの毒に鳥肌が立った。そして、ため息をもらしたままページを閉じた。これはすごい。

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近藤史恵
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    2009

06.28

「なみだ特捜班におまかせ!」鯨統一郎

なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)なみだ特捜班におまかせ! (祥伝社文庫)
(2009/03/10)
鯨 統一郎

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伝説のサイコセラピスト・波田煌子。シリーズ第二弾は、彼女が迷宮入りとなった猟奇事件を捜査する特捜班に、犯罪心理分析官として民間からスカウトされた。とはいっても、この特捜班のメンバーが役立たずばかり。主任が定年を控えたさえない久保さん。次はダイナマイトボディだけをウリにしている左遷された前泊ナナ。エリートだが独善的でうるさ型の高島警視。取り柄といえば堅実な事務処理能力だけという花山仁(ぼく)。波田煌子は、プロファイルはおろか心理学の知識さえ覚束なく見えるのに、なぜかその不思議な推理は事件の核心へ。

被害者はバーに勤めていたホステス。その三井紀子が、マンションの二階にある自分の部屋で、全裸で殺されていた。口と女性器に、薔薇の花を挿し込まれて。現場からは、モンシロチョウの鱗粉が検出された。彼女はポプリが好きで、いつもはあけてあるポプリの瓶のフタが、なぜかみんな閉まっていた。そして何種類もある宝石の中から、ダイヤだけが盗まれていた。(「涙の赤い薔薇」)

被害者は寿司屋を経営していた男。被害者は自宅の家庭用冷蔵庫の中から、バラバラ遺体となって発見された。しかも三段に分かれた冷蔵庫で、一番上の冷凍室に頭、中段のいちばん広い冷蔵室に胴体と手、いちばん下の野菜室に足が入れられていた。奇妙なことに、冷蔵庫は、ガムテープによってドアの部分を外側から目張りされていた。部屋には被害者の血痕がかなり大胆に付着していた。(「涙の冷蔵庫殺人」)

被害者は大学生の男。真夏の江ノ島の海岸、しかも真っ昼間、海水浴客で賑わう浜辺に、被害者の生首が置かれていた。生首はなにも、隠されていたわけではない。周りの人間は勝手に思い込んでいたのだ。砂の中に体を埋めて、首だけ出しているものと。生首はパラソルの下にあったのだが、正確に覚えている目撃者はいなかった。(「涙の海岸物語」)

被害者は八階建ての大型文具店に勤めていたエレベーターガール。彼女がエレベーターに乗務しているときに、事件は起こった。五階で数人の客が乗り込んできたとき、彼女はお辞儀をした。そしてそのまま、首が落ちた。首が切断されていたのだ。しかも数人の乗客が「いらっしゃいませ」と言ったのを聞いていた。(「涙のエレベーターガール」)

被害者はアイドル歌手。テーマパークの人気アトラクションに〈ホラーゾーン〉というのがあった。平たく言えばお化け屋敷。違うのは、お化けがスターたちのフィギュアであるという点だ。そこで死体となって発見されたのが被害者。犯人によって、フィギュアと死体が入れ替えられていたのだ。(「涙の少女人形」)

被害者は資産家の人妻。殺害現場は自宅の庭にある小屋の中だった。その小屋で被害者は絞殺された後、ロングヘアの一部を切り取られ、さらに両腕が方の部分から切断されていた。そして、切断された腕は遺体の脇、もともと腕があった位置に置かれていた。被害者は、死後、犯されていた。(「涙のクニタチーゼ」)

被害者は元プロ野球選手。被害者は人形にされていた。それも小さな人形に。異常なことに、その人形は被害者本人の皮膚を使って作られていた。眉毛は本人の眉毛が使われ、鼻には鼻の皮膚が使われていた。発見場所は自主トレ用に建てた別荘で、毎年、シーズンオフには夫婦二人でこもっていた。(「涙のサヨナラホームラン」)


基本はすべて同じパターン。未解決事件の再捜査が始まる。エリート意識のかたまりである高島警視は独自の推理を披露する。煌子はその問題点を的確に突いていく。怒り心頭の高島警視は、煌子に嫌がらせをするが、本人はまったく気づいていない。高島警視主導で捜査が行われるが、早々に事件は暗礁に乗り上げてしまう。そこに、煌子がすっとぼけたプロファイルをお告げすると、事件はあっけなく解決。そこには鯨風味のユーモアが込められていて、大笑いという感じではないが、定型化された面白さが約束されているのだ。安心して読める。それがこのシリーズの特徴でしょうか。前作の「なみだ研究所へようこそ!」と合わせて、おすすめしたい。

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    2009

06.27

「訪問者」恩田陸

訪問者訪問者
(2009/05/14)
恩田 陸

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山中にひっそりとたたずむ古い洋館――。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる? 一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が! 冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた……。果たして「訪問者」とは誰か? 千沙子と昌彦の死の謎とは? そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った――。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー!《出版社より》

苦手を公言している作家なのに、また買っちゃいました。でもこれは読みやすかったです。劇団本谷有希子ならぬ劇団恩田陸という感じでしょうか。気難しい長男の朝霞千蔵、好奇心を隠そうとしない次男の千次、磊落な三男の千衛、悪戯っぽい末っ子の千恵子、その夫で驕慢な協一郎という朝霞一族の老人たち。そして働き者の家政婦の更科裕子。大人びた少女の愛華。彼らが住む館にやって来たのは、雑誌記者を名乗る井上とカメラマンの長田。老人たちたちはやたらと「訪問者」を気にしている。それは「訪問者に気を付けろ」という警告文が届いていたからだ。

そこに来客を告げるベルが鳴った。現れたのは少女の母親の澄子。昌彦の幼なじみでもある彼女は、とにかく表情をよく変える。ふと窓の外を見ると亡き千沙子の幽霊が。慌てて外に出てみると、見知らぬ男の死体が転がっていた。またベルが鳴った。すると、誰かが玄関の外に置いていったのは、昌彦が大事に持っていたという木彫りの象。またまたベルが鳴った。今度は、嵐による崖崩れで立ち往生になったという劇団員の小野寺敦だった。

登場人物のみなが怪しい。状況は嵐によって閉鎖された山荘。つまり密室だ。提示される謎も多い。実業家朝霞千沙子と映画監督峠昌彦の死はどちらも事故死だと思われているが二つの死は殺人なのか。昌彦の実父は誰なのか。隠し財産はあるのか。訪問者とは誰のことなのか。ああでもない、こうでもないと、議論が重ねられ、そこにまた現れた人物が次の疑問を提示して。

ページ数は少ないけれど、体よくあっちこっちと揺さぶられた。変にSF方向に行くこともなかった。一応筋は通っていたと思いたい。だけど、この結末に納得しろと言われると、なんかむくむくと反論が浮かぶようで、でも普通なら文句ありでも、恩田作品ならありなんでしょう。たぶん。たくさん読んでいる作家ではないが、これはわりと普通でした。一応、自分なりに褒めてます。


恩田陸さんのサインは二冊目。

恩田2

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恩田陸
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    2009

06.26

「あやまち」沢村凛

あやまちあやまち
(2004/04/24)
沢村 凛

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ヒロインは三園望美。美人でもなく、特技もなく、恋人もなく、誰にでもできそうな仕事を日々こなして、ぎりぎりの生活費を稼いでいる、三十代まぢかの一人暮らしの女。誰の役にも立たず、まるで暮らすために暮らしているような毎日。一日がはじまり、大した変化もなく一日が終わる。それがわたしの日常だった。平凡でも平穏な生活だった。

始まりは、いつもの電車の、いつもの車両の、いつもの場所だった。帰宅途中の電車のなか、その男を見て、わたしは「おや」と思った。尾行されている人間が尾行をまいたのだ。ホームに置き去りにされた歯の黄色い黒子の男は何者。この男は、どうして尾行されていたのだろうか。気がつくと、わたしは男を尾行していた。われながら突飛な行動だった。

地下鉄の駅の階段を歩いてのぼる。ふいに現れて、追い越し、前に出た。一ヶ月前から見かけるようになったこの人は、二ヶ月前の出来事を思い出させた。わたしの小さな冒険。気まぐれの尾行のことを。わたしたちは一瞬肩を並べたとき、一言つぶやくようになっていた。初心な逡巡をくりかえし、わたしたちは互いの名前を知らないまま、三回デートして、からだの関係をもった。

八木達哉。携帯電話も固定電話ももっていない人間が、いまどきもいるものだろうか。今はレンタルビデオ店のアルバイトをしているとしか聞いていない。客観的にみて、彼はうさんくさい。でも彼と会うと、また会いたいと思う。うさんくさい彼だけど、結婚詐欺師とは思いにくい。少しずつ距離を縮めていたところ、わたしは尾行された。住居をつきとめられた。間違いなくあの男。黒子だらけの顔の不気味な尾行者だった――。

人を好きになるのに理由はない。だけどこのヒロインは迂闊すぎやしないだろうか。確かに出会いは不確定要素だ。相手のことを知らないケースもあるだろう。これまでに縁はないが、一夜の恋もあるところにはあるのだろう。でも、ここで彼女の行動を肯定できるかと言えば、うんと頷くことはできない。都会に住む女性としては甘すぎる。そう思いつつ、前半の彼女の浮かれぶりは嫌いではなかった。

中盤からはサスペンス色が強くなる。黒子の男の尾行はめちゃめちゃキモい。しかし彼女はなぜ、誰にも相談しないのだろう。そこが腑に落ちない。今とはストーカーに対する認識が違うということなんだろうか。そして終盤に明かされる達哉の「あやまち」がまた、自分勝手な言い訳でしかなく、がっかりな代物だった。その告白に対して、彼女は自分のあやまちを責めていたが、それが普通だと思う。

個人的にだけど、この作品は微妙だった。にわか尻軽女は恋に浮かれ、ストーカー男の尾行はただキモくて、卑怯な男による自分勝手な告白に、迷惑だー!と叫びたくなった。なんやろね。この作品は。不幸な巡り合いでしょうか。そもそも名前を知らない相手と関係を持ったこと自体が、あやまちとしか思えなかった。手厳しいでしょうか。

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沢村凛
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    2009

06.25

「少し変わった子あります」森博嗣

少し変わった子あります少し変わった子あります
(2006/08)
森 博嗣

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もともとは後輩の荒木から聞いた話である。だが、荒木が行方不明だと聞かされるまで、私はすっかりそのことを忘れていた。荒木が知っている店らしかった。否、店という実態はなく、場所はその都度借りているらしく、方々を転々と移っているという。接客に現れるのは三十代の女将が一人だけ。何の店なのか、と訪ねると、よくわからない。ただ、料理を食べ、酒を飲むことはできるらしい。

その店で凄いところは、女性が一人出てくること。普通のどこにでもいる女の子と一緒に食事をする。請求は二人分をされる。ただ違うのは、毎回、違う子が来る。二度と同じ子は来ない。なにもない。本当に本当に、まったくない。ただ、黙々と料理を一緒に食べるだけ。わりと話をする子もいれば、ほとんど話さない子もいる。二人分の料金を支払って、相手に触れることさえない。俗っぽい趣向ではない。そう、アートなんだ。

そんな会話をしたのが一年前のこと。その後は荒木の姿を見かけなくなった。荒木の行方が知れないという状況が公になり、警察の人間は私のところにもやってきた。ただし、この話は警察に黙っていた。そして、警察が帰っていったあと、私はコンピュータのメールボックスを捜し、荒木から届いた古いメールを調べた。彼が通っていたその店の電話番号を見つけるのに、それほど時間はかからなかった。

主人公の思考や観察力がすごく森博嗣らしい。大学の教員である小山は、名前のない店の常連になった。ある女性は夢で見たゴジラのことを話し、ある女性はものごとを具体的にしか見れないと語り、ある女性は言葉を発せず、ある女性は自分の役柄について語り、ある女性は母親が死んだときのことを話し、ある女性はいろいろな町の話を語り、ある女性は教員をやめた理由を話す。

一見、何でもない描写が続いているようだ。だが、途中であるひっかかりを感じた。しかしそれは気のせいだったようにまた、何でもない描写が繰り返される。すると最後になったところで、途中で感じた違和感が実は、大きな意味を持っていたのだと知らされる。これは文学のようで、ミステリであり、その実はホラーなのかもしれない。そんな一風変わった作品だった。森博嗣自身が「少し変わった子」なのかも。褒めています。

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森博嗣
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    2009

06.25

「白いへび眠る島」三浦しをん

白いへび眠る島白いへび眠る島
(2005/05/25)
三浦 しをん

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悟史が本土の港湾都市、高垣の高校に入学してから三年。一晩船に揺られれば島には帰れるというのに、部活動を理由に、足は故郷から遠のきがちだった。盆暮れの数日しか拝島には戻らない。だが、幼なじみの光市はいつも変わらぬ態度で悟史を迎えた。まるで、昼の船で高垣まで買い物に行った者のように。光市と悟史のあいだでは、時間も距離もまたたくまに溶けだしてしまうかのようで、それは悟史自身にも不思議でならなかった。島の大人はきっと、「それが持念兄弟というものだ」と言うことだろう。

島には、掟とも言うべき独特の生活習慣が数多くある。集落内での濃密な近所づきあいや、新垣神社の祭り、持念兄弟の風習。島に対する違和感は完全に消え去らない。そう感じるのは、どうやら悟史だけのようであった。だから悟史は、生まれ育った場所だというのに、どうしてもなじめなかった。島の氏神である白蛇様を祀る新垣神社。荒神様とも呼ばれる氏神は集落で尊ばれ、恐れられていた。十三年ぶりの大祭をひかえ高揚する空気の中、悟史は大人たちの噂を耳にする。あれが出た、と。

幼いころから悟史は、不思議なものを見た。悟史は親にすら、自分の見てきたものを語ったことはなかった。境界がとろけだしそうな悟史に、確固たるラインを教えるのはいつも光市の役目だった。その夜、久しぶりに不思議を見た。その後、風呂に入っていると、窓の外にあれがいた。あれは海と山を行き来していると伝えられる化け物で、その名前を口にするのも忌まれていた。悟史の見たあれは、実態を持った人間のようだった。悟史は持念兄弟の光市とともにあれの正体を探り始める。

荒神崇拝、白蛇様、土着のあやかし、古来からの伝説。ふつうに和製ファンタジーでした。でもこういう民族学的な作品は好きだ。そこに登場するのが、絆で結ばれた持念兄弟だなんて、ボーイズラブが大好きな著者らしいこと。ここに乙女は萌えるのでしょう。男子には、ひがむなと日和子と佐和子の女子高生コンビでサービス。そして荒太と犬丸でミステリアスを演出。キャラの造詣だけでいえばまるでラノベのようだ。

だが、そうしたキャラ立ちはあえて狙ったのであろう。民族学のような特殊なジャンルは、読みなれていないと中々着いていけない。読者は戸惑っている内に、おいてけぼりになりがちだ。そこを考えて、著者は取っ付きやすいキャラを持ってくることで、作品世界に留まらせようとしたと、自分は見た。ただ、欲をいえば、因習に秘められた謎をもう少し広げて欲しかった。ちょっとあっさりしすぎで雰囲気不足のような気がした。でも作者の引き出しの多さに驚くと共に、自分的には満足だった。

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三浦しをん
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    2009

06.24

「温室デイズ」瀬尾まいこ

温室デイズ温室デイズ
(2006/07)
瀬尾 まいこ

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教室に飛行機が飛びはじめる。始まりの合図だ。もうすぐ崩れだす。この兆しを見逃すとだめだ。この後は割りと速い。元に戻すには半年以上かかるけど、崩すのに二週間とかからない。それなのに、教師はまだ気づかない。中学校は崩壊と再生を何回も繰り返しているはずなのに、教師の動きは鈍い。大事にならないと、動き出さない。日本の平和ボケは、学校の場でも存分に発揮されている。トイレでタバコの吸殻が発見された。授業中に教室を出て行く生徒が目立つ。窓ガラスが割られ、椅子が中庭に落ちた。始まってしまった。

みちるは小学六年生のころ学級崩壊を経験していた。締め付けの厳しい担任が転勤になり、重圧から解放された生徒たちは、すごい勢いではじけた。新しく担任となった先生は全生徒からなめられた。みんな好き勝手なことをした。どんどん崩れていった。それだけでは物足りなくなった。最初の標的は前川さんだった。かわいそうだ。そんなことを言えば、自分が第二の前川さんになることは明らかだった。学級崩壊の終わりを迎えたのは、前川さんの転校だった。自分たちのしていたことを、はっきり知る機会となった。

中学卒業まであと半年。今なら間に合う。元に戻せる。みちるは行動を起こした。次の日登校すると、教室にみちるの机はなかった。みちるへのいじめが始まった。だけどみちるの家は裕福ではなく、公立高校に通うために、ひどい環境の中、教室に出続けて、必死で勉強をする。一番仲良しの優子は、かつていじめから転校せざるをえなかった過去を持ち、みちるを助けられず、いじめを見ることさえも耐えられなくなって、教室に入れなくなった。そして相談室の別室登校、登校拒否、学びの部屋、カウンセラーと、ずるずる流されていく。

斎藤君はクラス全員の希望を聞いて購買部にパンを買いに走る。すばらしいリーダーシップを発揮して、小学校の学級崩壊を食い止めたその姿はなく、有能なパシリを自認している。みちるの幼なじみで、他の不良たちとは格が違う瞬は、カッとすると、いつだって頭より先に手が動いてしまう。ヤクザの親父みたいな人間になっていくと苦しみながらも、そんな自分を持て余している。不良にとってうざい役割を担当するスクールサポーターとしてやって来た臨時講師の吉川は、生徒と関わることを嫌って避難している。

学級崩壊。いじめ。生徒に迎合する教師。めっちゃしんどいです。いじめって集団催眠に近いのでしょうか。いじめる側に罪悪感はなく、それでも次は自分じゃないかとビクビクしている。でも集団心理でやってしまう。いじめられた被害者は、いじめられる側にも問題があると言われる。それもあるかもしれない。だけど、ない場合もある。いったいどうすればいいの? 理不尽ないじめが始まると、誰も助けてくれない。出口はあるのでしょうか。

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瀬尾まいこ
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    2009

06.23

「マイ・ブルー・ヘブン」小路幸也

マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴンマイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
(2009/04)
小路 幸也

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昭和二十年。国の政治に関わる文書が入った箱を父から託されたのは、子爵五条辻家の一人娘・咲智子。GHQの追っ手に追いつかれた咲智子を救ったのは、江戸っ子口調と見事なキングス・イングリッシュを使い分ける若い男性。堀田勘一であった。訳ありと見た勘一は、咲智子を実家の東京バンドワゴンに連れて行く。

勘一の父親の草平は、咲智子の父を知っていた。実は学生時代の友人で、さらに勘一の祖父は、一時代を築いた政財界の大物で、ある日突然のように引退していた。東京バンドワゴンは、その目に見えない遺産を引き継いだ古本屋だった。堀田家の家訓〈文化文明に関する些事問題なら、如何なる事でも万時解決〉に乗っ取り、咲智子は勘一の嫁サチと偽装して、かくまわれることになった。

稲妻のジョーと異名を取る貿易商のジョー、元陸軍情報部にいた十郎、猛獣使いという通り名を持つシンガーのマリアが、箱とサチを守るため東京バンドワゴンに集まってくれた。勘一に助けられ、頼りになるお父様や、優しいお母様や、同居する戦災孤児のかずみちゃんと出会い、一緒に住む事になった。そして、ジョー、十郎、マリアがやってきて、堀田家は大家族になった。だがサチの両親の行方は依然と不明で。

シリーズ番外編は、堀田家のルーツがわかる内容になっている。勘一とサチの出会いや、がらっぱちだけれど優しい勘一の若かりし頃や、いつも幽霊で見守っているサチさんのお嬢様ぶりも必見で、下町の古本屋の蔵になぜお宝の蔵書が眠っているのか、堀田家にあふれる家訓のこと、大家族でわいわい食卓を囲む風景、人助けをするという家柄も、時代と共に引き継がれてきたんだと、これを読めば知ることができる。

そして、サチを取り巻く困難な環境を打破しようとチーム・東京バンドワゴンが活躍した結果、古本屋の息子に生まれた我南人がなぜロックンローラーになったのか、あの口調になった理由など、シリーズを読んでいる人なら、思わずニヤリとしてしまうエピソードに繋がっていく。堀田家は今も昔も「LOVE」に溢れている。人を思いやる優しさに感動で胸が熱くなり、何度か涙しそうになった。番外編と侮ってはいけない一冊でした。

シリーズ二冊が文庫化した時期にこれって…、、商売上手?!再読したくなるよね(笑)

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小路幸也
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    2009

06.23

「悪いうさぎ」若竹七海

悪いうさぎ (文春文庫)悪いうさぎ (文春文庫)
(2004/07)
若竹 七海

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わたしは葉村晶という。数年前から長谷川探偵調査所という小さな探偵事務所と契約している、フリーの調査員である。社員として三年間勤めた後、長谷川所長の勧めもあって自由契約に落ち着いた。人手もしくは女手が必要になると、所長がわたしのところへ電話をよこす。わたしはそれに応じて駆けつけ、働く。フリーの調査員といえば聞こえはいいが、要するに何でも屋、フリーターだ。忙しいときは寝るヒマもないし、仕事がなければ即、飢える。

長谷川所長から電話があったのは、同業の東都総合リサーチからのご指名だった。仕事内容は家出中の十七歳の女子高生を家に連れ戻すというもの。本人の名前は平ミチル。顔なじみの桜井と新人の世良と共に、ミチルが同棲している部屋を訪ねた。だが突然暴走した世良に邪魔された挙句、晶の右足にひびが入り、同棲中だった男にわき腹を刺されて入院を余儀なくされた。世良は東都の社長の姪の息子だった。世良はまったく懲りていないし、反省している様子もないらしい。

一ヶ月後、行方不明になったミチルの友人・美和探しを彼女の父親から依頼される。訪ねたミチルは美和の居場所についてはなにも知らなかった。ただ、少し気になることがあるようで、話題がそのひっかかりにふれそうになると、質問をはぐらかし、あたりさわりのない話をする。ミチルは美和のことが気がかりになったようで、共通の友人である綾子と吉祥寺で会う約束をした。ところがその綾子が井の頭公園で殺されていた。さらに調査を進めると、もうひとり行方がわからいカナという女の子がいた。

悪趣味極まりない作品だった。元々容赦なしのブラック路線だけど、今回は想像以上に突き抜けていた。登場人物のほとんどが毒々しいぐらいはかわいいものだ。少女の失踪事件を軸に、晶は世良に逆うらみから嫌がらせを受け、奇天烈なババアに罵られ、親友のみのりは結婚詐欺にあっていて、晶も刺されることで始まり、突然監禁されたりで、晶だけでなく読んでいるこちらもグッタリしそう。トラブルメーカーを通り越して、祟られているとしか思えない悪意の数々だ。それに、タイトル「悪いうさぎ」に込められた本当の意味がまあ、全然、かわいくない。救いと言えば、新居の大家さん光浦ぐらいでしょうか。これから読むという方は心して読んで下さい。これは毒饅頭です(笑)

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若竹七海
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    2009

06.22

「警察庁から来た男」佐々木譲

警察庁から来た男警察庁から来た男
(2006/12)
佐々木 譲

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札幌方面本部の生活安全関連部署に、細かな不祥事が連続して起こっていた。そのうちとくに警察庁が関心を持つのは、タイ人の少女娼婦が道警に保護を求めたにも関わらず、暴力団に連れ戻された件。そしてぼったくりバーで客が殺害された蓋然性の高い事件で、札幌大通署がこれを事故扱いした件。このふたつだ。人身売買が警察の黙認のうえでおこなわれている。暴力団と警察が癒着している。このことを受けて、北海道に警察庁から監察の藤川がやって来た。

津久井は百条委員会で道警の不正について証言したために、飛ばされて警察学校に配属となっていた。それも教官としてではなく、総務係の営繕担当としてだ。その津久井は監察に呼び出された。一度うたった警官として監察に協力をして欲しいということだった。率直すぎるぐらいに素直な返答に、逆に藤川の真摯さを感じた津久井は、とことん協力することを胸に誓う。

一方、佐伯と部下の新宮は、不正規の捜査をおこなったため、大通署の幹部から大いに不興を買った。そこで盗犯係の中で変則的な組織替えが行われ、大規模な事件から外され、小さな事件をばかりを担当させられるようになった。生活安全課総務係の小島百合も佐伯や新宮と一緒に不正規捜査に関わった。だが彼女だけは報復人事を受けることはなかった。あのときの所属のまま、データベースの端末を相手にしている。

佐伯と新宮は札幌大署から程近いホテルでの部屋荒らしの件で捜査に向かっていた。被害にあった男は、昨年末、すすき野の風俗営業店での「会社員転落死事故」で死んだ男の父親だった。息子の死が転落事故として処理されたことに納得のいかない父親が、大通署に再捜査の依頼に来て、ホテルに泊まっていたのだという。転落事故に不信を抱いた佐伯は、新宮とともに事故現場である風俗営業店に向かうと、スーさんという謎の人物の名が出てきて。

前作よりも数段面白かった。人物像がすでに出来上がっており、腐敗した刑事も早い段階から登場するので、全体像はすぐに掴むことができた。物語の視点は、佐伯サイドと津久井サイドで交互に展開され、暴力団と警察の癒着、転落事件の真相に迫っていく。その一方で、前作にあった佐伯と津久井の潜入捜査失敗の顛末にも触れている。このシリーズの特徴は、事件の真相を追求するだけでなく、警察内部の腐敗を暴くことにもある。悪徳刑事を追いつめる。警察嫌いにとって、なんて響きのよい言葉だろう。(ヲイ) 第三巻も読むのが楽しみだ。

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佐々木譲
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    2009

06.21

「パラドックス13」東野圭吾

パラドックス13パラドックス13
(2009/04/15)
東野 圭吾

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日本時間で、三月十三日の午後一時十三分十三秒。P-13現象と呼ばれる事態は地球全体に関わる緊急事態だと、宇宙科学研究本部から総理官邸に報告された。公表すれば、間違いなくパニックが起きる。風評被害も出るだろうし、これに乗じて犯罪が起きることも予想できる。この件については一切極秘にすべきだと決められた。だがその一方で、最高レベルの警戒態勢を取る方針が打ち出された。

自分の身体が何かを通過していく感覚があった。同時に何かが全身を通過していく感覚もあった。その直後に警察官の久我冬樹は我に帰った。激しい爆発音で後ろを振り返った冬樹は、目の前で繰り広げられている光景に仰天した。あらゆる車が暴走し、あちらこちらで衝突していた。運転席には誰も乗っていない。火災が激しくなっている場所も少なくない。何が何だかわからなかった。世界から人々が消えたのだ。どこもゴーストタウンのようだった。

ファッションビルに小さな女の子が座っていた。少女が指差した先に女性が倒れている。女性の名は白木栄美子といった。娘のミオと二人暮らしなのだという。寿司屋で寿司を食っている男がいた。男は新藤太一といった。バイトを転々としているという。その時、ラジオから声が聞こえた。生存者はいますか。これを聞いた人は、東京駅まで来てください。災害時用の放送だった。自分たち以外に生存者がいるということだった。

ラジオ放送を流していたのは、警視庁捜査一課の管理官である兄の誠哉だった。そして集合場所には他の生存者の姿もあった。技術屋のサラリーマンは小峰義之といい、大手建設会社に勤務していたらしい。専務の戸田正勝は、重大な取引があったのだという。女子高生は中原明日香。老夫婦は、山西繁雄、春子と名乗った。アナウンスしていた女性は、富田菜々美といった。看護師をしているという。

彼らは安全確保のために移動したマンションで赤ん坊を見つけ、ホテルで倒れていたヤクザの河瀬を助けた。そして今後の生活の拠点にするには絶好の場所だと、総理官邸を目指すことにした。官邸の被害は殆どなく、発電設備も整っているし、食料の備蓄もある。だが平坦な道など、どこにもなかった。ところによっては隆起し、ところによっては割れたり陥没したりしていた。破片は巨大な瓦礫と化し、地面はすべて泥水に覆われている。

なぜ彼らだけがここにいるのか。人々はどこに消えたのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。そして一人、また一人と、命が失われていく。それは、この世界の掟だからかもしれない。この世界は、パラドックスの辻褄合わせのために作られた。だから、人間は消滅したほうがいいのか? 彼らは、この世界のパラドックスを読み解かなければならない。


東野作品でパニックサバイバルを読んだのは初めて。だけど悪くなかった。これまで自分が絶対だと信じていたものが、次々と壊れていく。法律は通用しない。ことの善悪さえ、自分たちで決めていかなければならないのだ。それまでのバックグラウンドも性格もまったく違うものが集まった集団だから、人間関係でぎすぎすしたり、自分勝手な行動を取って迷惑をかけるものが出てくる。つまりトラブルメーカーとなる人物が次々とリレーしていくのだ。

そうして、何が善で何が悪なのかを、ことある度に問いかけ続ける。助からないと判った人を安楽死させるのは是非か。危険に思える人間を仲間にすべきかどうか。足手まといになった人を置き去りにするのか。限られた食料を盗んだ人を許すべきか。新しい世界を造ってこの世界で生き続けるべきか。自分で死を選ぶかどうか。極限状態の中で見えてくるのは、人という生き物の生々しいあれこれ。重い。でもラスト数行のかすかな明るさには少しだけ救われた。それとイラッとさせた人の方に救いがなかったのは、著者のご愛嬌か。おもしろかったです。

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東野圭吾
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    2009

06.20

「モノレールねこ」加納朋子

モノレールねこモノレールねこ
(2006/11)
加納 朋子

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表題作の「モノレールねこ」を含む八編を収録した短編集。

「モノレールねこ」
そのねこは、デブで不細工で、ノラだった。ある日、ねこの首に、赤い首輪がついていた。小学五年生のぼくは、ねこの首輪を見ているうちに、いいことを思いついた。「このねこのなまえはなんですか?」紙にこう書き付けて、首輪にはさんでみた。すると返事はただひと言、こう書かれていた。「モノレールねこ」 ぼくとタカキの奇妙な文通が始まった。/出来すぎのラストだけど、こういうわかりやすい王道は好きだ。ちょっと幸せな気分に浸れました。これも一種の叙述トリック?(笑)

「パズルの中の犬」
結婚して、私は専業主婦となった。家事が苦にならないし、手際もいい方だと思う。だから夕食を作り終え、風呂の仕度を終えると、もうすることがなくなってしまう。夫を待つ間、趣味のジグソーパズルをする。それは「白いパズル」と外箱に印刷されていた。真っ白いパズルは、遅々として進まない。七割ほど完成したパズルに、それは出現した。どう見てもそれは犬だった。/忘れていたパンドラの箱を開けちゃったという作品。それにしてもこの母親は…ごめん、許せなかった。

「マイ・フーリッシュ・アンクル」
人生が一変するような報せがある日突然やって来た。海外旅行にいった家族全員が亡くなった。残されたのは中学生の私と、ダメでオロカで頼りない私の叔父さんだった。テツハル叔父はお父さんの歳の離れた弟だ。家族みんなで寄ってたかって甘やかした結果、叔父さんはとんでもないロクデナシに育ってしまった。こうして、叔父さんと私の生活は始まった。/ニートでダメ男で大馬鹿の叔父さんだけど、家族ってありがたいな~と思えた。ちょっとかわいかったし。

「シンデレラのお城」
気がついたら、独りでいることに何の恐怖心も不都合もない自分がいた。なのに、世間って冷たい。「どうして結婚しないの」なんて大きなお世話なことを聞いてくる。親からはいい加減身を固めろと言われ続けている。偽装結婚もありかなと思っているという三十も半ばの私の話に、もうすぐ四十になる独身男のミノさんは乗ってきた。数ヵ月後、私たちは晴れて偽物の夫婦となった。そしてそこには姿の見えない瑞樹という女性もいて。/こういう精神的なものを抱えた作品は苦手。気持ちは判るけど、怖くって。

「セイムタイム・ネクストイヤー」
なぜ私は生きているのだろう?あの子はもういないのに。三十も終わり頃になって、ようやく授かった子供だった。悲嘆に暮れる私を見かねて、夫は気晴らしに旅行に行こうと誘ってくれた。では一人で行きたいところがありますと言った。そこは、七五三のお祝いも兼ねた、娘の誕生祝いをしたホテルだった。あのときのホテルの、同じ部屋を予約してもらった。あのときと同じ、娘の誕生日に。/素敵な嘘というのもある。その嘘に騙されたいという人もいる。でも残念ながらリアリティがない。

「ちょうちょう」
俺はラーメンが好きなことにかけては、誰にも負けない自信があった。とは言え、大学出たての俺が一店舗を構えることができるのは、偉大なる叔父上のおかげである。そして俺は開店までのあいだ、本店でみっちりと修行を積んだ。厨房には俺と叔父の片腕と呼ばれていた上田さん。そしてアルバイト店員に恵ちゃんともう一人、北岡蘭子という女の子を雇った。こうして、「ラーメン蝶々」二号店は、順風満帆のスタートを切ったのだが。/見た目は大事だけど、中身はもっと大事ということかしら。いいコンビになりそうな予感。

「ポトスの樹」
俺の親父はどうしようもないクソオヤジで、扶養された憶えはひとかけらもない。はっきり言って、俺のストレスの大部分はクソオヤジが原因なのだ。社会人になったのを機に、俺はさっさと家をおん出てやった。まさに、人生最高のときだった。だが、ちょっとばかり、俺は迂闊だった。親というものが嫌でも密接にかかわってくるイベントを、ひとつ失念していたのである。/本当にクソオヤジだけど、孫だけは別ということか。自分の親だったなら問題があるけれど、お調子もんは嫌いじゃない。

「バルタン最期の日」
俺は公園の池に住む、一匹のザリガニだ。この世に生を受けてから、まだ一年にも満たない。それは文字通り、天からのプレゼントに見えた。自慢のハサミで、かぶりつこうとした、まさにそのとき。俺はつかんだ獲物ごと、水の外へと放り出された。子どもは俺をバケツの中にぽとりと入れた。俺はバケツに入れられたまま、フータの家まで連れて行かれることになった。そして俺はバルタンと名付けられた。/これ傑作かも。ザリガニが見た、フータの家族の屈託。おもいっきり笑わされました。そして感動も。

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加納朋子
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    2009

06.19

「深川にゃんにゃん横丁」宇江佐真理

深川にゃんにゃん横丁深川にゃんにゃん横丁
(2008/09)
宇江佐 真理

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悲しい朝も口惜しい夜も、猫がニャアと鳴けば大丈夫。明日はきっといい日になる――。深川・寺町、幅一間足らずの長屋横丁は、近所の猫の通り道。白に黒いの、よもぎにまだらが昼寝をしたりあくびをしたり。それにひきかえ雇われ大家の徳兵衛は、今日も店子たちのお世話に大忙し。けれども無病息災、お茶を入れつつ猫に煮干をやれるなら、こんな日々も悪くない。下町の人情と暮らしをあたたかく描き出す連作集!《出版社より》

必ず一匹や二匹の猫を見かけるにゃんにゃん横丁を抜け、仙台堀に向かった所に自身番がある。土地の岡っ引きの岩蔵が詰めており、喜兵衛店の大家の徳兵衛、書役の富蔵も一緒に詰めていて、岩蔵とともに色々と町内の雑事をこなしている。徳兵衛は五十五歳である。富蔵と徳兵衛は同い年で、子供の頃からの友人だった。指物師の女房のおふよも徳兵衛と富蔵の子供の頃からの友人で、町内のご意見番であり、喜兵衛店の店子でもあった。

喜兵衛店から咎人が出てしまった。咎人は泰蔵という二十五の若者だった。泰蔵の女房は娘を連れて男の許に走った。ある日、泰蔵は空き地で遊んでいた娘に気づいた。娘も泰蔵の顔を覚えていて、「ちゃん!」と懐かしそうに縋りついてきた。娘の喜ぶ顔を見ている内、泰蔵は時間を忘れた。女房は娘がいなくなったと自身番に訴えていた。泰蔵はかどわかしではない。だが、元の女房は泰蔵なんて知らないと言ってきた。(「ちゃん」)

男手ひとつで三人の息子を育てている川並鳶の巳之吉。女房は貧乏暮らしに耐えられず、家を出ていった。最近、長男と次男に川並鳶の仕事を仕込むため、巳之吉は二人を仕事場へ連れて行くようになったが、留守番を命じられたまだ十の音吉は素直に言うことを聞かない。悪さをする音吉に、もちろん近所から苦情が出る。子供相撲が開催されることになった。だが優勝候補の音吉は相撲に出たくないと駄々を捏ねて。(「恩返し」)

民蔵は、いつも酒に酔ってくだを巻いている男だった。元は名のある絵師の弟子だったが、何か不始末を起こして破門されたらしい。民蔵が酒浸りになったのは、それからだという。夫婦喧嘩は、いつも酒が原因だった。おもとは気丈な女だし、髪結いといいう手に職を持っているので、亭主に対してもへえへえなんてしない。喧嘩ばかりしていても、民蔵とおもとは十二の娘を頭に四人の子供をもうけている。その民蔵は酒毒が祟って倒れた。(「菩薩」)

煮売り屋は二十八になるお駒という女が切り盛りしていた。以前は亭主も仕入れを手伝っていたのだが、三年前に仲間と喧嘩になり、人足寄せ場送りになった。お駒は気丈に店を続けた。二人に子供はいなかったが、当時十五歳だった弟が一緒に住んでいた。それに、寄せ場送りになる少し前、亭主は友人から五歳の少年を預かっていた。この三年、三人でうまくやっていたところに、亭主が人足寄せ場から戻ってきた。(「雀、蛤になる」)

新しい店子の彦右衛門は老舗の薬種屋の大旦那だった。大店の女婿に入り、倅に商売を譲って隠居したから、これから気儘に独り暮らしがしたいそうだ。実は彦右衛門には婿に入る前に好いた娘がいた。その娘は火事で焼け死んだ。それは彦右衛門が婿に入ることを決心した後のことだった。娘は自分の人生にとって、どんな意味があったのか、その娘の住んでいた場所に自分の身を置いて、じっくり考えたいと思ったという。(「香、箱を作る」)

上方の本店で働いているおふよの長男の良吉が五年ぶりに江戸へ戻ってきた。だが、おふよ夫婦と孫娘のおさちとの蜜月は三日で仕舞いとなった。おさちは祖父母と仔猫に未練を残しながら、一家は再び上方へ向かった。徳兵衛も富蔵もおふよの寂しそうな顔を見るのが辛く、それから何となくおふよを避けるように過ごしていた。もっと親身におふよの話を聞いてやればよかったと、徳兵衛は後で悔やんだ。おふよの心の寂しさがあんな仕儀を呼び込んだような気がしてならなかった。(「そんな仕儀」)


江戸人情溢れる作品だ。今風にいえばお節介だけど、貧しく厳しい現実を抱えている人たちにとっては、その人情が救いとなる。大家の徳兵衛、書役の富蔵、ご意見番のおふよ。幼なじみである彼ら三人は、長屋に住む人たちのことを親身になって思いやり、頭を悩まし、奔走するのである。この舞台となるにゃんにゃん横丁には、その名の通りたくさんの猫が居ついている。人の言葉を話す猫まで存在する。(そう聞こえるだけ?)

人にドラマがあるように、猫にもドラマがある。まだら猫が子を産むと、その子猫がやがて大人になり、その猫が今度は子を産んでと、そこに猫の生がある。この猫たちは人と共に生きている。徳兵衛たちは自分にできることをやる。それは猫も同じかもしれない。そこが本書の一番の妙だったりする。猫好きも、そうでない方も、読んで損はないと思います。おすすめです。


宇江佐真理さんのサインは二冊目。ボールペン?なので若干見にくい写真。
写真をクリックすると、サインはアップ画像になります。

宇江佐2

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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    2009

06.19

「赤い月、廃駅の上に」有栖川有栖

赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)
(2009/02/04)
有栖川有栖

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有栖川有栖の新天地! 恐ろしくも、どこかやさしくせつない10の奇談。車窓から幻想の風景を望み、いざ幽妖の旅へ。作家生活20周年 記念出版《本の帯より》

一九七〇年の大阪万博が、最後で最高の想い出。地下鉄御堂筋線の車内で、そう語っていたかつての万博少年が失踪した(「夢の国行き列車」)
恐ろしく大きな鳥が見られるかもしれない。男は機関車が引く老朽化した客車に乗り込んだ。列車は目的の駅へと進んでいたはずが(「密林の奥へ」)
五人の物好きが終末に集まり、百物語と洒落込んだ。揃って独身男。彼らは全員がテツと呼ばれる人種だった。最後の蝋燭が消されたとき(「テツの百物語」)
貴婦人と呼ばれるSLの車内で、貴婦人と呼ぶのがふさわしい女性と乗り合わせた。彼女は教え子が交通事故に遭ったと聞いて、飛び乗ったという(「貴婦人にハンカチを」)
この列車の中でも、外でも、何かが着実に進行中だ。車掌の制服が黒くなってゆく。関わった大切な人たちが、出会った順番に窓の外を流れていった(「黒い車掌」)
奇談蒐集家を自称する船長が、自慢の怪談を披露する。船長の言葉が脳裏に谺する。生への執着は、人だけが持つのではない。やはり思念は残るようだ。そのとき海面に視えたのは(「海原にて」)
そこは隠れ家めいた小さなバー。カクテルはよそでは決して味わえない素晴らしさで、鉄道趣味もご愛嬌に思えてくる。そこに自殺した常連客とそっくりな双子の弟を名乗る人物が現れて(「シグナルの宵」)
どうやら死んだらしい。最果ての駅にいた。つまり、この世とあの世を鉄道がつないでいるのだ。三途の川に鉄橋が架かったというその汽車に乗っていると(「最果ての鉄橋」)
廃駅で一夜を過ごすことにした少年は外に出て、はっとした。月が赤い。真っ赤だ。鬼月。よろしくないものがくるので、家の外に出るなと言われていた(「赤い月、廃駅の上に」)
彼は紗枝を二度失っている。一度目は離婚によって、二度目は彼女の死によって。車窓から見えた信じがたい文字。アタシャール。二人だけの秘密の言葉がなぜ(「途中下車」)

本書はミステリーではなく幻想ホラーでしょうか。でもホラーという感じでもなかった。幻想小説というあたりが妥当かな。よって刺激的なものはない。恐えぇ~というものもない。雰囲気があって、じわ~と面白味が広がってくるので、それを噛み締めてみよう。例えば、「夢の国行き列車」では、誰も気づいていない中で、主人公と自分だけがあることを知って、二人だけの秘密の共有感が楽しめる。「テツの百物語」では、怪異よりも興味はやっぱり鉄道かよ!というマニアのマニアたるところに面白味があって、「貴婦人にハンカチを」では、美人に下心あった男性が一転して紳士に転じてしまう変わり身が面白く、「シグナルの宵」では、ミステリーではなく推理小説という雰囲気の中で、結末は逆転しているところにユーモアがあり、「最果ての鉄橋」では、そのブラックなユーモアに笑みさえ零れてしまう。表題作の「赤い月、廃駅の上に」だけは異質な作品。いずれも「テツ」に関連した物語だけれど、もちろんテツ以外の人もふつうに読めます。幻想的な作品が好きという方はどうぞ。

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    2009

06.18

「おまけのこ」畠中恵

おまけのこ (新潮文庫)おまけのこ (新潮文庫)
(2007/11)
畠中 恵

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一人が寂しくて泣きますか?あの人に、あなたの素顔を見せられますか?心優しき若だんなと妖たちが思案を巡らす、ちょっと訳ありの難事件。「しゃばけ」シリーズ第4弾は、ますます味わい深く登場です。鼻つまみ者の哀しみが胸に迫る「こわい」、滑稽なまでの厚化粧をやめられない微妙な娘心を描く「畳紙」、鳴家の冒険が愛らしい表題作など全5編。

「こわい」
若だんなが臥せって今日で十日、そのうち七日は、いつものように熱を出して、いつものように寝付いていた。問題はその後の三日間で、有り体に言えば、若だんなは見舞いに来た栄吉と大喧嘩をして、体に響くほど落ち込んでいたのだ。きっかけは、もの凄い味の、栄吉が作った饅頭だった。そこに狐者異という妖が現れた。飲んだら腕の良い職人になれる薬を持っているという。/ 狐者異に関わると不幸に巻き込まれてしまう。なんて切ない妖だ。でも受け入れられるには本人の辛抱もいる。これは人間も同じ。

「畳紙」
こってりと分厚く化粧をしたお雛は、若だんなを見舞うため離れに顔を出していた。お雛は手にした印籠に目を落としていた。長崎屋の離れから、持ち出してしまった物に違いない。その日の夜更け、お雛の部屋に屏風のぞきがやって来た。印籠を返してもらいに来たのだ。屏風のぞきを夢だと思ったお雛は、厚化粧をどうするかで悩んでいると打ち明けた。/ 口の悪い屏風のぞきだが、意外にいい奴だ。それにしてもお雛さん痛すぎ。厚化粧だけで痛いのに、乙女モード全開のお雛は、ただのしんどい女としか思えなかった。

「動く影」
一太郎が五つの春のこと。日本橋に飛縁魔という妖が出るという噂があった。その後、広徳寺から大事な鏡がなくなった。その一方で、離れにやってきた栄吉と妹のお春だが、お春がどうにも元気がないように見えた。おかしな動き回る影を見たというのだ。その直後、三人は噂の影を見た。一太郎は栄吉と共に長崎屋を抜け出して、何で影が出るようになったかを調べることに。/ 友だちが欲しいけれど、口にできない一太郎が健気だ。そして幼い一太郎の冒険にわくわく。か、かわいすぎる。

「ありんすこく」
この月の終わりに、吉原の禿を足抜けさせて、一緒に逃げることにしたよ。昼餉の膳を前にした若だんなが、仁吉と佐助に向かってそう言った。酒席で投扇興というものをして遊び、若だんなは禿のかえでに負けてしまった。勝ったご褒美は何が良いか聞いたら、廓の外に出たい、足抜けしたいって。だから手伝うと約束したという。/ 驚くような展開だけど、残念ながらこの話には裏がある。若だんなにもいつか春が来るのでしょうか。

「おまけのこ」
鳴家は来客が持参したであろう菓子が欲しくて、部屋の隅から入り込んだ。そこで綺麗なお月様の玉を見たとたん、菓子のことなど、すっかり忘れてしまった。天城屋が長崎屋に注文していた真珠の玉だった。それを櫛に嵌めて娘の婚礼に持たせるという。櫛職人の八介が玉を持ち出したところ、何者かに殴られ、月の玉は奪われようとしていた。月の玉を守らなくてはならない。鳴家は必死で飛びついた。/ 小さな鳴家の大冒険。今回はこれがベスト作品。鳴家のかわいらしさにやられてしまった。

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畠中恵
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    2009

06.17

「嫌な小説」京極夏彦

厭な小説厭な小説
(2009/05/14)
京極 夏彦

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「知りませんからね、読んで後悔しても。」悪寒、嫌悪、拒絶……あらゆる不愉快、詰め込んだ日本一のどんびきエンターテインメント登場――「厭だ。厭だ。厭だ――」感情的パワハラを繰り返す馬鹿な上司に対する同期深谷の、呪詛のような繰り言にうんざりして帰宅した私を、マイホームの玄関で見知らぬ子供が迎えた。山羊のような瞳。左右に離れた眼。見るからに不気味だ。なぜこんな子が、夫婦二人きりの家に? 妻はその子の存在を否定した。幻覚か? 怪訝に思う私。だが、これが底なしの悪夢の始まりだった……(「厭な子供」より)。「恐怖」と「異なるもの」を描き続ける鬼才が繰り出した「不快」のオンパレード。一読、後悔必至の怪作、ここに誕生! 《本の帯より》

予断を持たずに読むのがベストだと思う。でもあえて書いてみよう。人にとって、厭だと思うことは様々にある。食べ物をくちゃくちゃと噛み鳴らす音や、爪楊枝を咥えてシーシーする行為や、道端にかーっぺっと痰を吐くマナー違反。厭な行為のマイベストスリーだ。こういう生理的なものに留まらず、厭なものはいくらでもある。自慢されることや、嫌味を言われることや、愚痴を聞かされること。相手がいて感じる嫌悪だ。また、針に糸が通らないとか、ねじ穴が潰れてしまったとか、足の小指をぶつけたとか、怒りをどこにぶつけていいのか判らない厭なこともある。

本書はこういった日常にある厭なことが続けざまに起こり、そこに現実を破壊する厭な化け物が現れて、一見解放されたと思った途端、絶望へと突き落とす厭なオチへと雪崩こむ。ただオチは少し単調気味か。何も被害はないが、不気味な子供が夫婦の家に現れるようになった(「厭な子供」)、汚物を撒き散らす老人の世話に妻は疲れ、その行動がどうやらボケを装った嫌がらせにしか思えない(「厭な老人」)、何もかも失って絶望していた男は、宿泊すると幸せになれるホテルの招待状を貰い(「厭な扉」)、預かって欲しいと、仏壇を送りつけられた男は異臭に悩まされ(「厭な先祖」)、未練もないのに、何一つ話が通じずに女と別れられない(「厭な彼女」)、家の記憶が再現されて、厭なことばかりが反復される(「厭な家」)、そして、デジャヴュがループする(「厭な小説」)。

いろんな厭が出てくるが、一番の厭は登場人物にあった。空気が読めずに鈍感なうえに、自分がまともだと思い込んでいる。人として愚鈍なのに、しかも見下してくる。グリンピースが嫌いだと言ったのに、グリンピースを増量で出してくる。こいつらの言動には反吐が出そうだ。眉をひそめるだけで収まらず、殺意が湧いてくる。何が厭かって、会話が成り立っていないところが非常に気持ち悪い。不快だ。それにまともな精神構造の人はダメで、図太くてウザい人だけがのうのうと生きられる世界。主人公でなくとも、あぁ、厭だ、と言葉を漏らしてしまう。しかし前代未聞のエンターテインメントで、厭だけど、面白かった。

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    2009

06.16

「海の仙人」絲山秋子

海の仙人 (新潮文庫)海の仙人 (新潮文庫)
(2006/12)
絲山 秋子

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四年前、銀座のデパートの店員をしていた河野は、宝くじに当たり、真新しい通帳には三億円の数字が刻まれた。何に使おうか、彼は迷った。つまり、彼にはやりたいことが何もなかった。そこで会社をやめて旅に出た。そうして、敦賀で空き家になっていた古い家を買い取って一人暮らしを始めた。なによりいいのは海だった。街のどこにいても、海の気配が感じられた。何もしないひっそりした生活。そこへファンタジーが姿を現した。居候に来た。役立たずの神様はそう言って、奇妙な同居が始まった。

河野は岐阜から遊びに来たという女性、中村かりんと出会った。気がつけば、二人はすっかり打ち解けてしまっていた。河野は心の底から喜びが湧いてくるのを感じた。それは彼が長いこと感じていなかった喜びだった。かりんの全てが好ましく思えた。遠距離の付き合いが始まったが、セックスレスは二人の暗黙の了解になっていた。河野は同期の中で片桐妙子と一番仲がよかったが、女らしいと思ったことは一度もなかった。会社を辞めて以来会っていない。それが突然電話をかけてきて、敦賀に行くから留めてくれ、と言う。

河野とファンタジーは、片桐の旅につきあうことにした。その旅の途中で、河野の口から自分のトラウマが語られる。だが、河野はどうしても自分の過去をかりんに言えないでいた。かりんを好きになればなるほど、話せば今の関係は壊れてしまうのではないかと恐れた。数年が経ったある日、かりんは余命半年を宣告されたと河野に告げる。その一方で、片桐は誰と付き合っていても、もしも河野の気持ちが自分に向いたらという思いをずっと捨てきれないでいた。彼女と別れて自分のことを必要としてくれるのではないかと。

自分のスタイルを崩してしまえば、自分という人間が崩れてしまう。主人公は心に傷を持ったまま、居心地のいい場所から一歩も動けなかった。ファンタジーは言う。誰かと一緒に寝ても眠りにおちるときは独りだぞ。寝るときと死ぬときは独りなんだ。誰もが孤独なのだという言葉が表すように、物語は灰色のまま淡々と綴られていく。恋人がいたとしても、結婚していたとしても、子供がいたとしても、結局は、孤独は人に付きまとう。当たり前のことをさらりと突きつけられて、はっとそこにショックを受けてしまった。

働くことを辞めて、仙人のような隠者の生活を選んだ主人公に明日はあるのだろうか。そこにいて、いつか孤独という殻を破っていけるのだろうか。だが、突き放したまま放置することを著者はしなかった。最後に仄かな明かりを呼び寄せた。寂しい人間世界も捨てたものではないと、思っていたい。中々痛々しい作品だけど軽く読めるので、ぜひ一読を。おすすめです。

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    2009

06.15

「きりこについて」西加奈子

きりこについてきりこについて
(2009/04/29)
西 加奈子

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きりこは、ぶすである。きりこは、大阪の小さな街に住んでいる。きりこは一人娘で、大変可愛がられている。きりこは、両親から「きりこちゃんは、ほんまに可愛いなぁ」と、褒めに褒められて育てられた。きりこは、いつも耳元で聞こえる「可愛いなぁ」を体いっぱいに浴びて、すくすくと育ち、幼稚園に入っても、小学校に上がる頃になっても、「可愛い女の子」然としていた。きりこはつまり、自分がぶすであるということを、つゆほども、飼っている猫の髭の先ほども、思わなかったのだ。

その黒猫は、きりこが一年生のとき、体育館の裏で見つけられた。猫は、ラムサス2世と名づけられた。ラムセス2世は、きりこのことが好きだった。命を助けてもらった人、という恩義があるし、猫の彼にとっては、きりこの容姿は大変良い具合に見えたからだ。きりこはよく、ラムセス2世を抱き上げては、「賢いなぁ、賢いなぁ」と言った。きりこは自分が世界一可愛いと信じているので、自分以外の者にその言葉を使うことを許さなかっただけなのであるが、ラムサス2世は、それを感謝し、しだいに人間の言葉を覚えていった。

きりこが小学5年生のとき、ラムセス2世に手伝ってもらい、大好きなこうた君にラブレターを書いた。だけど、こうた君はクラス全員の前で、こう言ったのだ。「やめてくれや、あんなぶす」きりこは、失恋しただけではない。華やかであった自分の少女時代を、徹底的に失ってしまったのである。きりこは二年間ほど、鏡を見つめ続けた。人間より、猫のほうがええ。数年経って、改めてこのことを痛感したきりこは、猫のように、夜行動して、昼間は眠っているようになった。

きりこのそばにはいつもラムセス2世がいた。ラムセス2世は、猫の基準では、きりこがどれだけすばらしいかを話して聞かせる。きりこがひきこもり生活を始めてからは、尊敬はさらに高まる。きりこは猫のように一日中、眠り込んだ。猫にとって、眠り続けることは、とても高尚なことなのである。猫は、夢を見る訓練をしているのである。きりこは、夢を見た。それは、きりこが見た最初の予知夢だった。きりこは、外に出た。夢の中で泣き叫んでいた女の子を助けるためだった。きりこは、十八歳になっていた。

ラムセス2世による猫の価値観が面白く、すぐに作品の世界に引き込まれた。これは読んだ人がどうこう言うよりも、自分で読んで確かめてもらうしかない。きりこは両親に溺愛され、自分でもかわいいと思い込み、常に自信満々の少女時代を過ごす。この行くところ無敵っぷりはまるで女王様のようだ。これがまた、子供の世界が複雑なように見えて、実は単純なことわりにあると気づかされる。そしてある日、自分はぶすだと告げられ、世界が瞬く間に半回転してしまう。ここまでが吹き出し笑いの連続だった。

きりこの中にぶすという言葉が入り込んできた。だが、自分のどこがぶすなのかがまったくわからずに自問自答を繰り返す。また自分がぶすだと気づいてからは、きりこにとって雌伏の期間になる。その彼女のそばには頼もしいしゃべれる猫の相棒がおり、十八歳で目覚めたきりこは、「きりこは、きりこ以外、誰でもない」と、自分であることの大切さを理解する。すると、きりこの視界は突然開け、少女時代の無敵さも復活する。そうして出て来るのは、女と男という人間とは、社会とは、という人間世界の本質である。これがすごいのである。

かわいらしいユーモアがある一方で、手厳しさもたんと詰められているのだ。でも現実の残酷さや酷さがあるその傍では、猫が自分の肛門を舐めていたり、雌猫の肛門の匂いに誘われて追いかけていたりする。きりこじゃなくても、「猫って、ええなぁ」と声をもらしそうな呑気さだ。ラムサス2世なら、「世界で一番、猫がええんです」と答えてくれそう。これはもう、読んで欲しいとしかいいようがない。自分で何かを感じて欲しい。そして、猫の仕草や会話に萌えて頂きたい。とても面白かったです。

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西加奈子
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    2009

06.14

「ガール・ミーツ・ガール」誉田哲也

ガール・ミーツ・ガールガール・ミーツ・ガール
(2009/04/21)
誉田哲也

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アマチュアバンド「ペルソナ・パラノイア」のギタリストとして、真っ赤なギブソンのレスポール・ジュニアを手に、ライブの日々を送っていた柏木夏美。彼女のギターに衝撃を受けた宮原祐司は即刻、夏美にアプローチした。だが最初は断られた。もろもろの紆余曲折はあったものの(「疾風ガール」)、夏美は芸能事務所「フェイス・プロモーション」と契約した。現在の夏美と祐司は、アーティストとマネージャ-という関係で結ばれている。

夏美のメジャー・デビューが決まった。だがロック志向の強い夏美とプロデュサーは音楽観の違いから対立。レコーディング方法で揉め、プロモーションでも夏美は口を出し、マネージャーの宮原祐司は振り回されっぱなし。そんなある日、夏美に会社を潰して失踪中だった父親から電話があり、再会した父親は明らかに貧乏人だった。そこに夏美が忌み嫌っているトップ・シンガーの島崎ルイまで夏美の前に現れた。

プロデューサーであり、恋人であった秋吉と破局したルイは、秋吉が所属事務所の社長でもあるので、音楽活動が続けられなくなっていた。夏美はそのルイから起死回生のためのコラボを申し込まれた。夏美はルイの手助けと引きかえに、父親の借金分を前借りさせろとねじ込んだ。こうして夏美とルイのバンドメンバー集めが始まる。だが惚れ込んだ伝説のミュージシャンに参加を求めた二人は、ガキの音楽とまで言われて……。

またロックで元気な夏美に再会できたことが何よりも嬉しい。彼女は直情径行で妥協を知らない。自分でこうだと思ったら突っ走る。だが商売としての音楽と自分のやりたい音楽とのギャップにぶつかり、敬遠したいお人形タイプの売れっ子と音楽をすることになったりと、社会という大人の世界の壁にぶち当たる。しかし成り行きですることになったバイトを通し、バックグラウンドも性格まったく違うタイプの夏美とルイは、次第に心を通わせていき、互いに影響しあって一回り大きく成長していく。

そして著者の誉田氏は元ミュージシャンということもあって、かなり詳しく音楽業界に踏み込んでいる。楽器や機材を大事に扱っているところや、レコーディング風景や、大物ミュージシャンとの競演や、実際のステージでの演奏と、ロックの熱い雰囲気がこちらにビシビシと伝わってくる。まるで夏美の刻むビートが聴こえてきそうだ。

その一方で、圧倒的な才能を目の当たりにして、その道を去る人間たちの姿が描かれている。祐司はかつてルイの音楽に出会い、ベーシストの道を挫折。表舞台は諦め、裏方へ回る決心をして、才能ある夏美のマネージャーになった。祐司の上司も同じよう挫折したくちだ。音楽に熱くなったことがある人は、音楽から離れることはできない。それはリスナーも同じだ。音楽を聴いて、音楽小説を読んで熱くなる。それはこれからもずっとだ。また夏美たちに会いたい。そしてとても面白かったです。最後に一言を。ロック最高!!


誉田哲也さんのサイン。

誉田

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誉田哲也
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    2009

06.13

「ダナエ」藤原伊織

ダナエダナエ
(2007/01)
藤原 伊織

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表題作「ダナエ」、「まぼろしの虹」「水母」の三編を収録。

「ダナエ」
作品は、無残だった。鋭利な刃物で切り裂かれたキャンパスが傷の内側にたれさがり、ふた筋の深い裂け目をのぞかせている。さらに硫酸のその染みは、じりじりと周りを侵食しつつあるようにみえる。そこには、かつて年老いた男が描かれていた。この国の権力の中枢にあり、表の顔以上に隠然たる力を持つ老人のひとりだった。世界的な評価を得た画家・宇佐美がこれまで描いた唯一の肖像画のモデル。義父の古川宗三郎であった。犯人はどうやら少女で、「これは予行演習だ」と告げる。宇佐美の妻は、前夫のもとに娘を残していた。犯人は彼女なのか?

「まぼろしの虹」
この三月に大学を卒業したあと、浩平の就職したのはCMの制作プロダクションだった。浩平と佐紀は仲のよい姉弟。父母ともに、離婚経験を持ち、おたがいの連れ子が姉弟になった経緯がある。その両親が離婚する事態に直面していた。きっかけは母親の浮気だった。母親の不倫相手は話し方教室の講師・山根俊三。その世界では著名で、出身がテレビの人気アナウンサーだった。彼の元部下だったという男から、山根の良くない話を聞かされた浩平は、ふとその家に足を運ぶ気になった。山根の愛人。それがこの家の主だった。

「水母」
CM制作を手がける麻生は、森川という男から声をかけられた。森川と真弓は同僚で、現在かなり親密な関係にあるという。麻生と真弓はかつて同居人だった。その彼女の立場が危機に瀕しているので、相談に乗って欲しいということだった。二人が働く大学で、学生集めの手段として、対談形式の広告に進出することになった。その対談に真弓と前衛美術界の大御所である神保誠治の出演が決定した。彼女は神保を見ただけで異様に錯乱し、嘔吐する姿は麻生も見ていた。その反吐を吐く理由を知らないかということだった。


表題作の「ダナエ」と「まぼろしの虹」は面白く読めたけれど、最後の「水母」はもうひとつだった。「ダナエ」は、ギリシャ神話をモチーフにしたミステリ作品。その神話について詳しいことは本文にあるので控えるが、とにかく主人公の宇佐美は、何事に対しても温度の低い人で、その意表をつく態度に色気を感じた。彼には絵を描き続けて成功した陰で失ったものがある。そこに心を動かされ、ラストに感動した。「まぼろしの虹」は、その人柄にいつの間にやら丸め込まれているというところに面白味があった。人ってミステリアスな人に弱いから。あとお姉ちゃんがかわいかった。モチーフは藤原さんの奥さまでしょうか?「水母」は、個人的なことだけど人に魅力を感じなかった。昔の女ために一肌脱ぐぶっきらぼうな男。恋人のかつての男に依存しすぎる現彼氏。ちょっと極端な人すぎて……ごめん。

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藤原伊織
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    2009

06.13

「ヘブンズ・ドア」はらだみずき

ヘブンズ・ドア (角川文庫)ヘブンズ・ドア (角川文庫)
(2009/01/24)
はらだ みずき

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今まで好き勝手に生きてきた二十八歳の勝人の人生に、悪い風が急に吹き始めた。自動車整備工場をクビになり、女に逃げられ、友人に裏切られ、アパートを出ていけと迫られ、病気が発見された。しかも病気は脳にできた癌。脳腫瘍が見つかったのだ。動くと命の危険があるという勝人は、即入院。その夜、病院のヌシと呼ばれる十四歳の少女・白石春海と出会う。七歳から病院で暮らす彼女もまた、余命あと一ヵ月と告げられていた。

同じ境遇だと知った二人は、病院の調理場に忍び込み、偶然見つけたテキーラで乾杯する。「おまえ、知ってるか? 天国で今一番流行の話題って。海だよ。みんな海の話をするんだ。天国には海はないからさ」 春海は幼い頃から病院を出たことがなく、海をみたことがないと落ち込む。そんな姿を見て、勝人は同じ運命を背負ったかわいそうな少女に、海を見せてやると約束した。

病院の前に止まっていたブルーのベンツを盗んだ二人は、そのまま海に向けて出発する。ところが盗んだ車には、拳銃が積まれていた。どうせ死ぬんだ。勝人は郵便局で強盗をはたらいてしまう。そして、トランクを開けて荷物を入れようとすると、漆塗りの立派な重箱が出てきた。蓋を開けると、栗饅頭が整然と並べられている。だが、饅頭を取り出すと、その下にはびっしりとお札が並んでいた。

現金を積んだベンツを盗まれたK3ホールディングスは追ってくる。その一方で、勝人は同じ病院で入院していた十四歳の少女を誘拐し、強盗を繰り返しながら逃亡しているとして警察に指名手配された。両方の追撃から逃げながら海を目指す勝人と春海。しかし勝人の病状は確実に進行していた。全身が痙攣して震えだす。薬を飲んで何とか持ちこたえる。もう二人には時間がない。お互いに肩を支え合いながら、ひたすら走り続ける。はたして、二人だけの天国に、たどりつくことはできるのだろうか。

正直に言うと苦手なジャンルだった。本書や「セカチュー」などの、死んで泣かせますというお涙頂戴ものは生理的に合わない。それなのになぜ手に取ったのか。それは作者がはらだみずきだったからだ。「サッカーボーイズ」を読んで面白かったので、内容をよく確かめないまま買ってしまった。理由はそれだけだ。

本書は映画をノベライズした作品なので、やたらと展開が早い。いい意味で言えばスピィーディーだが、死に対する恐怖感だとか、人生と向き合う場面とかも、あっという間に通り過ぎてしまうのだ。だからどうしても心の揺れがこちらに伝わってこない。シナリオならこれでいいと思うが、小説というカテゴリではこれは非常に不味く、評価を下げざるをえない。

しかしその一方で、死に向かう物語には必ず付きまとうであろう息苦しさや重さや切なさをまったく感じさせなかった。それは自分のようにお涙頂戴ものを毛嫌いする人にとっては、逆に嫌悪なく読めてしまうという効果があった。これはいいことなのだろうか。さらに、「これまで生きてきて、何を成し遂げたのだろう」という勝人の自分への問いの回答に、ちょいと感動してしまった。これには参った。

とりあえず分かったことは、泣ける作品が苦手という人も読めるということ。ラノベのようなライトな一冊でした。

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はらだみずき
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    2009

06.12

「脇役スタンド・バイ・ミー」沢村凛

脇役スタンド・バイ・ミー脇役スタンド・バイ・ミー
(2009/04)
沢村 凛

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「カタブツ」の系譜をゆく、ミステリ連作集。「鳥類憧憬」「迷ったときは」「聴覚の逆襲」「裏土間」「人事マン」「前世の因縁」「脇役の不在」の六編を収録。

児童公園の横で、千秋の足がとまった。ハトに餌をやっているのだ。かーっと、千秋の頭に血がのぼった。ハトの害がこれだけ問題になっているではないか。けれども千秋は注意しなかった。ハトに餌をやっている人物は、かなり年齢のいったおばあさんだった。半日だけ老婆の話し相手をするアルバイトを引き受けた。あのおばあさんだった。鳥はいいわねえ。自由だものねえ。おばあさんは鳥に憧れていた。千秋はおばあさんを喜ばせる言葉をかけたばかりに、そのおばあさんは自宅のベランダか飛び降りて死亡した。「鳥類憧憬」

各編の主人公は、なんらかの事件に遭遇する。そこで自分なりの推理によって結論を導き出したうえで警察に行くと、出てくるのは脇田と名乗る刑事。主人公は脇田に事件の顛末を告げる。すると事の真相が思わぬ形でもたらされる。最終話以外、基本はこのパターンだ。第二話の「迷ったときは」では、OLが主人公で、会社から名簿のデーターを持ち出したら、殺人被害者の写真に入れ替わっていた。第三話の「聴覚の逆襲」では、音が筒抜けのアパート一階に住んでいる男性が主人公で、二階の住人が帰ってきた音だと確信があったが、聞き込みにやって来た刑事に信じてもらえなかった。彼女と共に自分たちで調査すると。

そういったミステリの趣向が楽しめるのが縦軸ならば、横軸は事件を通して動き出す各編の主人公たちの人間ドラマにある。ある人は、人生の帰結についてマイナス思考になっていて、ある人は、二人いる恋人のどちらと別れるかの答えを先延ばしにし、ある人は、まともな社会生活を送っている年上の彼女が、なぜ冴えない自分とつきあっているのか怪訝に感じ、ある人は、母親譲りのおせっかいを封印したことでうずうずしており、ある人は、会社を第一に考えるサラリーマンになったものだとふと気づく。事件が終れば一見なにごともなかったように戻ってきた風景のなかで、彼らはなにかが変わったことを知る。

各編の主人公たちは、事件に巻き込まれるけれど、彼らは決して当事者になることはなく、事件の周辺にいる一人の脇役でしかない。「スタンド・バイ・ミー」とは、私を助けてくれた人(支援してくれた人)という意味である。彼らの疑問が解決したとき、そのきっかけとなったのは誰か。最終話の「脇役の不在」で、その彼の正体が明らかになった時、読者はあっと驚くか、それとも、なんじゃいと不満を覚えるか、そこは賛否が別れそうだ。個人的にはスッキリしたかった。好みで言うと、最終話とそこに繋がる占い師さんのお話はいらなかったかも。いいすぎ?! 

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沢村凛
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    2009

06.12

「ぱちもん」山本甲士

ぱちもん (小学館文庫)ぱちもん (小学館文庫)
(2005/07/06)
山本甲士

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ぱちもんとは、関西弁でいう偽物。まがいもの。ここに出てくる胡散臭い探偵たちは、まさにぱちもんである。探偵以外も登場するが、こちらはぱちもんと関わってしまった人々である。彼らは己の思うままに、大阪の街をところ狭しと駆け回り、中々やるなと思わせておいて、最後にトホホなエンディングを迎えるというブラック・ユーモアあふれる連作短篇集だ。主人公となる人物は各編でフェイドアウトし、そこに出ていた登場人物が次の作品の主人公へとリレーしていく。


「受けた恩義は」
岩坂孝吉は、普段、自分はろくでもないことばかりやっていると、つくづく思う。依頼人からカネだけ取って何もしないとか、引っ張るだけ引っ張って水増し請求するなどしょっちゅうだし、依頼人や対象者に口止め料を要求するという、恐喝まがいのこともやる。たまにちゃんと調査をするにしても、盗聴、盗撮、他人宅の敷地内への侵入など、違法行為に手を染めるのは日常茶飯事である。しかし、だからこそ、受けた恩義だけは忘れない。隣人を殺してしまったという、命の恩人を、救おうと奔走する。

「夫が消えた」
綾野美咲は、どうするべきかを考えた。夫がいなくなってから二日が経った。警察署に出向いて、家出人捜索願の届けを出したが、警察は何もしてくれない。待つしかないのか。近所の目も気になる。あの女の存在も、夫が出ていった原因の一つのような気がする。あの女が隣に引っ越して来たのは、一年と少し前。トラブルの発端は、二ヶ月ほど前だった。ふと失敗しない探偵選びの方法に気づいた。警察に相談してみればいい。警察OBの探偵というのが少なからずいるというし、頼めば紹介してくれるのではないか。

「カネのにおい」
北川武文は、そろそろ興信所を辞めて独立しようと考えていた。その夜、合鍵を使って倉庫に侵入し、使えそうな機器を運び出した。退職金代わりである。車を発進させ、細い道路を走らせているときに、衝撃と共に、はね飛ばされる女性の姿が目に映った。しばらく走らせてから、公園脇の路肩に停めた。当て逃げをした。それは間違いない。だが、女性はすぐに起き上がろうとしていた。つまり、たいした事故ではなかったわけだ。そのとき、近くで接触事故が起き、当事者の口論から、一方的な暴力へと変わるその一部始終を撮影した。

「この悔しさ」
警察署を出た笹岡篤は、前方の後ろ姿を見て、署内ですれ違った松葉杖の女性らしいと気づいた。彼女の顔を見たとき、連想したのは、かつて自分の母が放っていた雰囲気だった。後ろ姿だけで、疲れた感じが伝わってきた。声をかけたいという衝動にかられている自身に戸惑った。近づくと、女性は戸惑った顔で見返した。こんなふうに、思いが焦がれるような体験は、初めてだった。その後、周辺をあちこちと歩いてみた。再会した彼女は、やはり憔悴しているような、生気のない雰囲気があった。彼女は借金を抱えていた。

「もぐらがここにも」
宮尾広志は、張り込みをしたせいで眠かった。張り込みといっても、誰かに依頼されてのことではない。不倫の匂いがするカップルの車がホテルから出てくるところを片っ端から赤外線カメラで撮影し、ナンバーをもとに陸運支局で所有者を割り出して相手に電話をかけるのである。収入の半分ぐらいがこの手の、恐喝まがいのシノギである。その日はまともな依頼が持ち込まれた。製菓会社をやっているが、うちの商品の情報が、商売敵の会社に流れている。社内にスパイがいるか調べて欲しい、という依頼だった。

「しばくど、しまいに」
鮎皮義紀は、標的を物色した。理想的なのは挑発に乗って手を出しそうな金持ちの息子である。特に女連れだと、いいところを見せようとするから引っかかりやすい。殴られるタイミングを計ることは、プロボクサー時代に身についている。鮎河は他人に顔を殴らせて慰謝料を取っている。何故か。正当防衛とはいえ、強盗犯人の少年は死亡した。死亡した少年の遺族を調べて欲しいという依頼をしたところ、探偵の報告では、見舞金ということで五百万円用意したら、息子に線香を上げることを承諾してもいいと、両親の意向が返ってきた。

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山本甲士
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    2009

06.11

「恋細工」西條奈加

恋細工恋細工
(2009/04)
西條 奈加

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仰向けに横たわった病人は、静かなたたずまいだった。もう、駄目なのだ。ふいにお凛は、はっきり悟った。四代続いた錺職、椋屋は、ざっと百年の伝統がある。この細工所をはじめたお凛の曾祖父は、職人の域をこえた見事な錺が評判を呼び、晩年は春仙を名乗った。そしてお凛の父、三代目長兵衛が亡くなると、姉と縁組した義兄、宇一が四代目春仙を襲名した。その四代目が病に伏せた。だが、五代目の器が弟子の中にいなかった。

お凛、おまえの目利きは誰よりたしかだ。だから頼む。時蔵という男を番屋から引き取ってくるんだ。お上の禁令にふれる奢った細工をこしらえ、手鎖を受けている。あつかい辛い男だが、そいつはめずらしい細工を手掛けている。少なくともこの江戸では、あいつより他にできる者はいない。きっと、五代目を立てるのに、この時蔵は欠かせない。年が明け、お凛は亡き義兄の言いつけどおり、時蔵という職人を迎えに出向いた。

四代目の遺言がひらかれた。その場には、一門の中から五人の職人が集められていた。五代目は、三年後に選ぶべし。五代目を選び決める者は、三代が娘、四代が義妹、凛とする。ここにはもう一人の職人が呼ばれていた。時蔵だった。たしかに時蔵の腕はすばらしい。揺るぎのない信念も、決して譲らぬこだわりも、細工の高みへと翔け上がる凄みに満ちている。だが時蔵がきてから、椋屋はおかしくなった。いちばん根深いのは時蔵対椋屋という、いわば技のにらみ合いだった。

時蔵は一匹狼の職人で、おれはてめえの作りてえもんを作ると、協調性の欠片もない。しかし誰も見たことがない平戸と呼ぶ線細工を、己で工夫を編み出していた。一方で、女は職人になれない世界で、意匠を編み出すというなら女にもできるんじゃないかと、先代の仕込みでお凛はみなに内緒で細工の修行をしていた。お凛は時蔵の細工に惚れ、独り黙々と細工に打ち込む天才肌の時蔵に振り回されながらも、次第に時蔵に惹かれていく。

だがここにきて、水野忠邦による贅沢品が禁止される取締りがいよいよ厳しくなり始めた。天保の改革で奢侈への戒めが激しくなる中、作りたいものが作れない職人たちのイライラが募り、親戚筋の生駒屋の商いも成り立たない状態に追い込まれた。お上にひと泡吹かせてやりたい。くすんじまった江戸の街に景気をつけてあげたい。生駒屋の道楽娘で、一番の親友であるお千賀から、お凛はとんでもない計画を持ちかけられた。

まっとうな時代小説でした。そして面白かったです。しかし欲張って詰めすぎたのでしょうか。終盤になるとバタバタとしていたところが気になった。しかし、その落ち着きのなさがもったいなかったけれど、それを差し引いてもこれまでの西條作品の中で一番の傑作だと思った。読んで損はないかと。おすすめです。

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西條奈加
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    2009

06.10

「天山の巫女ソニン4」菅野雪虫

天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺
(2008/11/27)
菅野 雪虫

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ソニンとイウォル王子が巨山を訪ねてから、五ヶ月近くが経っていた。新しい年が明けて、ソニンは数えで十四歳に、イウォル王子は十七歳になった。ソニンが侍女になるために初めて城の門をくぐった日から、まもなく丸二年になろうとしていた。ソニンは侍女としての仕事や生活にもすっかり慣れ、時間にも心にも余裕のある日々を送っていた。

「妹リアンがおまえに会いたがっている。だから、江南へ来てくれないか?」ソニンは使節団としてやって来たクワン王子から請われたことをイウォル王子に相談すると、イウォルも一緒に行こうとうなずいた。しかしパウロ王が倒れ、イウォルは行けなくなった。だがソニンだけは予定どおり、クワン王子の使節団と共に江南へと旅立つことになった。

その日、復興途中の江南を嵐が襲った。田畑は荒れ、多数の病人が発生した。江南を襲った未曾有の大嵐の被害は、沙維にもすぐに伝えられた。そしてイウォル王子は被害の状況を調べてくるように命じられた。その一方で、国交の途絶えていた巨山の物と人が雪崩のような勢いで入りこんできた。その中には密かな企みを胸に抱えたイェラ王女もあった。

医師団の来訪によって、江南の人々の間では巨山の評判が日に日に上がっていた。それと平行して、援助も沙維よりよっぽど早く、気前がいいじゃないかと、巨山の評価が上がるのに対して、なぜか沙維の評判が落ちていった。そして大輪の向日葵を思わせるイェラ王女の存在は、かつて江南を蹂躙した巨山軍の面影を、まったく感じさせなかった。

第四巻にして、三国の王子王女が初めて一堂に会した。だけどこれまでの中で一番地味な作品だ。なぜなら政治的な駆け引きがメインになっているからだ。まさか児童書で腹黒い外交を読まされるとは思わなかった。また王子王女と言っても、それぞれに立場が違う。イウォルは末王子で、クワンは一族に問題を抱え、イェラは父の狼殺しの王と戦っている。その中で、自分はどう対処すべきかと必死でもがいている。

クワンもイェラもソニンに対して心を開き本音を打ち明ける。そして知らず知らずのうちにソニンに影響を受けた王子王女たちは、自国のことや民のことを考えてある決断をする。それはソニンがいつの間にか三国のど真ん中に立たされているということだ。でも本人はそんな意識をまったく持っていない。ソニンは元天山の巫女から人間になっており、イウォルよりの傍観者でしかない。いや、ソニンは無欲が映す鏡なのかもしれない。

王子たちの本音はどこにあるのか。三国のバランスはどこで保たれているのか。ソニンにとっての幸せとは何か。そういう宿題を残して、本書は第五巻へと続く。次の第五巻は当初からの予定でいけば最終巻である。作品が進むにつれ巫女の意義が薄れてきた感はあるが、最後はどんな到達点に達するのだろうか。続きが待ち遠しい。

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菅野雪虫
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    2009

06.09

「三人姉妹」大島真寿美

三人姉妹三人姉妹
(2009/04)
大島 真寿美

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大学を卒業しても就職せず、就活もせず、単館映画館のバイトで小遣い稼ぎをしつつ大学時代から続く仲間と映画作りに励んでいる水絵は三人姉妹の末っ子。上の姉の亜矢は離婚するだのしないだの、といって息子の尚をつれて実家に戻ってきた。母親はたまにしか会えない尚が思いもかけずやってきたものだから、大喜びで孫をいじくり回している。下の姉の真矢は一年つづいた不倫を脱却し、今やすっかり調子を上げて、仕事と遊びにかけずり回っている。

水絵は一つ年下の右京くんと付き合い出して一ヵ月半。自分から好きになって、自分から接近していって、首尾良く付き合いだせたのに、全然愛されている気がしない。考えるのは右京くんのことばかりだった。私はこんなふうにならないと思っていたのに。姉たちの恋愛を間近に見てきて、ずいぶん賢くなっていると思っていたのに。いざ好きになってしまうと、姉たちがやってきたこととあまり変わらない気がした。なんでこんなに好きなんだろう?

その一方で、上の姉の離婚騒動による修羅場が起こり、姉にとっては小姑にあたる雪子さんと夜中のドライブを楽しみ、下の姉の真矢が謎の奇病に罹り、行きつけのバーのグンジさんはぎっくり腰になり、単身赴任から帰ってくる父の顔を見たくないと母は家出し、聞こえてくる恋人の二股疑惑に泣きわめき、撮り始めた映画の頓挫と共に気持ちが冷めて、なんの前触れもなく巣立ちのそそのかしがもたらされる。

三姉妹のみなが好き勝手に過ごしていて、でもお互いのことを話すまでもなく、知っている。そしてそれぞれに役割のようなものが自然と出来ていて、それでいて多くを干渉しない。三者三様の個性がぶつかることなく、何とも絶妙なコンビネーションで支え合っている。ここにあるのは、ぬるま湯に浸かっているようなまったりとした日常でしかない。でも実際の生活って、こんなものかもしれない。

別に大きなことが起こらなくても、毎日の中には小さな何がしかの刺激がある。恋人との温度差であったり、仕事のことであったり、愚痴や逃避やらと心の揺れは結構な数があるものだ。時間が経てば、あのとき何を一人で騒いでいたのかと呆れることであっても、そのときは真剣に悩んでいたり落ちていたりする。

そんな姉妹たちの愚痴を聞いてくれるのがグンジさんである。グンジさんはすごくいい人だけれど、かわいそうにまったくもって報われない。またそういう人に限って聞き上手であったりする。だから姉妹は彼に何でも話し、家でもまた、姉妹同士でわちゃわちゃと会話をする。そんなふうにちょっとやかましくはあるが、ゆるやかな毎日が楽しい一冊であった。おもしろかったです。

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大島真寿美
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