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    2009

07.31

「カンランシャ」伊藤たかみ

カンランシャカンランシャ
(2009/06/23)
伊藤たかみ

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隆一は、数年ぶりに学生時代からの先輩・直樹と再会した。直樹は元の部下だったいずみと結婚し、すぐに京都へ転勤となった。その後、人材派遣会社を設立し、その彼が、数ヶ月前にようやく東京へ戻ってきたのだ。隆一はいずみに頼まれごとをしていた。直樹の浮気調査だった。男同士でさりげなく探ってくれと言ったのだ。先輩はどうにも不自然だ。ちぐはぐな感じもする。

かつて隆一の妻が発したものとまったく同じだった。もっとも妻は、こちらが知らないふりをすればするほどぼろを出すようになった。それ以来、隆一は妻とは別居するだけで精一杯だった。いずみは、直樹と別れたいわけではなかった。彼の気持ちがここへ戻ってくればそれでいい。白黒はっきりされないまま、何となくもとのさやに収まればいい。そう願っていた。

直樹は、愛人の愛に捕まって、ずるずるともがいていた。妻と恋人のことを互い違いに思い起こしていた。直樹が結婚していることは、愛だって承知の上でこういう関係になった。ときには、どうしてこんなに腹立たしい女といつまでもつきあっているのかと考えてしまうこともある。もうこれで終わりにしようと思った。着地点は、またいつもの泥沼だった。

二人で会ううちに隆一はいずみのことが気になった。いずみへの想いはますます募り、ついに自分の気持ちを一方的に伝えてしまった。いずみがどう答えるかなどということは問題ではなかった。お互いに寂しかった。腹をくくると、いずみの心はようやく静まってきた。あ、あ、生きていると思った。二人は身体を重ねた。

いずみは隆一のことがあってから、直樹の身勝手なところが許せなくなっていた。今にもこう言ってしまいそうだった。あなたと愛人の間で何の諍いがあったのか知らないけど、私に八つ当たりしないでくれる。だけど、自分にまでいらいらが感染るのは嫌だ。そんな矢先、直樹が病院に運ばれた。脳出血を起こし、身体はなんともなくても、文字が読めなくなっていた。

予備知識なく、伊藤さんの新刊と手に取ったら、苦手な不倫ものだった。所詮綺麗ごとだろうけど、みんな自分勝手。特に直樹と愛なんて、とても共感なんてできやしない。愛については恐怖感さえ覚えた。だけど、不倫という括りさえ取り払えば、恋愛とはこんなものかもしれない。人に恋する瞬間。受け入れる瞬間。これからを思う時。どうにも止まらなくなる気持ち。そして、気持ちがふと離れる瞬間。元に戻れないと気づいてしまった時。誰しもが経験あることだろう。でも、不倫である以上、誰ひとり好きになれなかった。思ったほどドロドロしていないので、伊藤ファンはチャレンジしてみては。

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伊藤たかみ
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    2009

07.31

7月に買った本の代金

個人メモです。

総額10.952円


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自分への戒め
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    2009

07.31

7月に買った本

単行本
植物図鑑植物図鑑
(2009/07/01)
有川 浩

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アマルフィアマルフィ
(2009/04/28)
真保 裕一

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船に乗れ!(2) 独奏船に乗れ!(2) 独奏
(2009/07/02)
藤谷 治

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星間商事株式会社社史編纂室星間商事株式会社社史編纂室
(2009/07/11)
三浦しをん

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宵山万華鏡宵山万華鏡
(2009/07/03)
森見登美彦

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文庫本
レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1)レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1)
(2009/06/27)
有川 浩

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七度狐 (創元推理文庫)七度狐 (創元推理文庫)
(2009/07/05)
大倉 崇裕

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夏の口紅 (文春文庫)夏の口紅 (文春文庫)
(2009/07/10)
樋口 有介

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星空のした、君と手をつなぐ (ピュアフル文庫)星空のした、君と手をつなぐ (ピュアフル文庫)
(2009/07/10)
光丘 真理

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コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状 (ピュアフル文庫 む 1-2)コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状 (ピュアフル文庫 む 1-2)
(2009/07/10)
村山 早紀

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お買い物
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    2009

07.30

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫

クライマーズ・ハイ (文春文庫)クライマーズ・ハイ (文春文庫)
(2006/06)
横山 秀夫

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一九八五年。悠木と安西はザイルを組んで群馬県の最北端にある谷川岳の衝立岩に挑むはずだった。だが、約束は果たされなかった。その前夜、日航ジャンボ機が群馬県上野村山中の御巣鷹山に墜落したからだった。一瞬にして五百二十人の命が散った。悠木は地元紙「北関東新聞」の統括デスクとして、谷川岳ではない、もう一つの「墓標の山」と格闘することになった。そして、一方の安西は――。下りるために登るんさ。謎めいた言葉をぽろっと口にした同僚は、何本もの管を体に通され、目を開けたまま眠っていた。

悠木は、先月四十歳になった。社内で最古参の記者である。「無所属遊軍」「独り遊軍」などと様々な呼ばれ方をするが、要するに、部下を持たずに動くフリーハンドの立場にいる。羨む者も多いが、憐憫の視線を向ける者はさらに多い。同期の人間はとっくにデスク席に座っている。五年越しの懲罰人事。そう囁き合う局内の声は悠木の耳にも聞こえてきた。望月は一年生記者として悠木の下に配属された。見るからに頭の回転のよさそうな若者だったが、それを確かめる間もなく逝ってしまった。おそらく望月は悠木と同じ種類の人間だった。

悠木は息子の顔色を窺っていた。淳がどう育つかよりも、淳が自分をどう見ているか、この先ずっと自分を尊敬し好きなままでいてくれるのか、そのことが常に気になった。やがて淳の機嫌を取るようになっていた。だが、ひとたび淳が反抗の気配でも漂わそうものなら、どこまでも冷淡に当たった。悠木は父親になり損ねた。十三歳になった淳は暗い瞳の少年に育った。父親として何を教え、何を伝えるべきだったのか。それは今からでも取り返しがつくことなのか。だが、そもそも息子に伝えるべき大切なことは何であるのか、それが悠木にはわからなかった。

日航全権・悠木。黒板にそう大書きされた。悠木は喧騒の坩堝の底にいた。頭上から事故に関する断片情報が雨あられのように降ってくる。四方八方から怒声が飛んでくる。局内に浅ましい男の嫉妬が突き上げ、後輩の原稿を潰されたうえ屈服を余儀なくされ、紙面が勝手に掏り替えられ、社長派と専務派で牽制しあい、販売局とは軋轢を抱え、降って湧いたような巨大事故に呑み込まれ、翻弄され、自らの存在のちっぽけさを思い知るばかり。詳報に全力を注ぐ。だがまさしくそれこそが地元紙の存在理由だと気づいた。そして、クライマーズ・ハイ。一心に上を見上げ、脇目も振らずにただひたすら登り続けること。本書の読書もまた、クライマーズ・ハイ。ページを捲る手が止まらなかった。

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横山秀夫
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    2009

07.29

「ふちなしのかがみ」辻村深月

ふちなしのかがみふちなしのかがみ
(2009/07/01)
辻村 深月

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日常の隣に怪異がまぎれ込む。すこしふしぎ。そんな五編を収録したホラー短編集。

「踊り場の花子」
この学校の花子さんは、昔、音楽室から飛び降り自殺をした少女の霊だ。花子さんには七不思議があった。この学校の花子さんは階段に棲んでいる。花子さんに会いたければ、彼女の棲む階段を心の底から一生懸命、掃除すること。花子さんのくれる食べ物や飲み物を口にすると呪われる。花子さんの質問に、嘘を吐くと呪われる。花子さんが「箱」をくれると言っても、もらってはならない。花子さんにお願いごとをする時は、花子さんが望むものを与えること。花子さんの与える罰は、階段に閉じ込める、無限階段の刑。夏休みの間、教師は交互に日直が割り振られる。相川は一人職員室に詰めていた。

「ブランコをこぐ足」
何度も立ったり座ったりを繰り返しながらそれをこぐみのりの足、上がっていくスピード。高く舞い上がるブランコと鎖。そのうち、速度を挙げることにも厭きて、やがてみのりはこぐのをやめるはずだ。予想していたのに、そうはならなかった。ますます速度を上げる。次の瞬間だった。ブランコが前に振れた一瞬に、ふわっと座席から彼女の身体が浮かび上がった。と同時に、安全用に設けられたブランコの前の柵の向こう、ドサリという落下音。倒れたみのりは、正面から落ちた。死んだみのりは、「コックリさん」じゃなくて、「キューピット様」を呼び出せるリーダーだった。

「おとうさん、したいがあるよ」
幼い頃は毎年毎年、盆と正月には必ず訪れた母親の実家。私の出身県の田舎にあるその家には、祖父母が二人きりで住んでいた。そして、久しぶりにこの家にやってきた私たちは、中の様子に呆然とした。座敷一面に錯乱した衣類の山。台所に山と積まれた洗われていない食器。開けた冷蔵庫から腐臭がした。祖母は認知症に侵されていた。祖父は祖母のような認知症が始まっている様子はないものの、かなり足が悪く、家事がこなせなくなっていることは一目瞭然だった。犬小屋から出てきた死体は、近所に住んでいた女の子のものだった。座敷の押入れから出てきた死体は全部で四体。死体は結局、八体見つかった。

「ふちなしのかがみ」
そもそも香奈子がこの店に通い始めたのは、ここでサックスの演奏を担当している青年が目当てだ。まだ、高校生なのに本当にすごい。そんな噂を聞き、いてもたってもいられなくなった。そして、彼が実際に演奏する姿を初めて見た時の衝撃は、香奈子にとって生涯忘れられないものとなった。自分の未来の姿が鏡に映るという噂を聞いた。自分の年の数だけ、赤いろうそくを用意し、それを、鏡に全部映るように並べて、火をつける。その状態で鏡を背に立ち、そうして、午前零時に振り返ると、炎の向こうに自分の未来が映る。それは子どもの姿。女の子だった。きっと、自分と彼の未来の子どもだ。

「八月の天変地異」
俺が、こんな目に遭ってるのは、全部キョウスケのせいだ。キョウスケが俺の近所に住んでいなければ。あいつが喘息なんかじゃなくて、休み時間や放課後に校庭で遊ぶタイプだったら。おいつのお母さんに昔、「うちの子をよろしく」なんて言われなければ。俺とキョウスケは、みんなの中ではセットだった。友達がいない。そう思われていることがショックだった。自分が何を言ってるのか、してしまったのか。俺の親友は別にいて、それはみんなも知らない外の世界の人気者だ。ことあるごとに、俺はみんなの前でゆうちゃんの名前を出した。キョウスケは否定するようなことは、一言も話さなかった。


お気に入りだったのは「踊り場の花子」と表題作の「ふちなしのかがみ」だった。それまでの世界が反転するラストスパートが尋常じゃなかった。これはミステリ作家の書くホラーならではの楽しさだと思う。そして、トイレの花子さんやコックリさんなど、いつの時代でもどこの学校にも必ずあるような学校の怪談を辻村流に上手くアレンジしていた。そのコックリさんとぶらんこをくっ付けて、さらにハイジの歌までを絡めた「ブランコをこぐ足」も秀逸だった。子供の頃は一回転するのが夢だったけど、読んでいてゾッとした。現実と非現実が曖昧な「おとうさん、したいがあるよ」もエピローグが効果的だった。最後の「八月の天変地異」はホラーというよりもファンタジーか。切なさと優しさが込められ、読後感を温かに癒す作品だった。

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辻村深月
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    2009

07.28

「しをんのしおり」三浦しをん

しをんのしおり (新潮文庫)しをんのしおり (新潮文庫)
(2005/10)
三浦 しをん

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「漫画の王国」に生れた小説家の乙女な日常生活。バンドを追っかけ上方へ、愉快な仲間と朝まで語り、わきあがる妄想の楽園に遊ぶ…色恋だけじゃ、ものたりない!なぜだかおかしな日常はドラマチックに展開―日本の政局も、家族の事件も、人気のTVドラマも、考え始めたらいつのまにかヒートアップ!「読んで楽しく希望が持てる」、笑い出したら止まらない、抱腹微苦笑ミラクルエッセイ。

大阪から奈良へ行く電車の中で読もうと、持ち運びに便利なサイズの薄い本書を手に取った。ありゃりゃ、二日続けてエッセイじゃん。しかもエッセイ苦手なのに。内容を確かめなかった自分が悪い。でも、これしか本を持っていなかったので、しぶしぶ読むことにした。さて、気を取り直して本の紹介に行ってみよう。

春は、弟が欲しいという二つボタンのスーツを二人で探し、パンクバンド「グリーンデイ」のライブに行き、ジャンプ漫画を読み漁って「ワンピース」に嵌り、理想の高校生活をつくる遊びに興じ、家庭内の機械とバトルを繰り広げ、表参道散策を妄想する。

夏は、ビジュアル系バンド「BUCK-TICK」を追っかけ大阪に行き、古今集の恋歌を今風に紐解き、里中満智子の漫画「彼方へ!」を読み、欲しい服(十三万円)を必死で諦めようと努力し、何故いつも自分なんだと問いかけ、花火見物に男のジンベイ姿はないと一席ぶち、バイト先の置き薬の鎮痛剤が物凄くよく効く謎を知る。

秋は、断ることが特別苦手な友人の話を聞き、カップル王国お台場に潜入し、ずっと常識だと思っていたことが実は非常識だったと判明し、漫画について真剣に語り合い、自宅で宝塚のビデオを見て我が身を知り、弟とテレビのビリヤード大会を見ながら無駄口を戦わせる。

冬は、ネズミの死体を発見して死因を推理し、和菓子のようなエロティシズムに酔い、微妙に二度目の思春期らしい迷い多きお年頃がきたと了解し、京都旅行でなぜか子供向けテレビの戦隊物の設定を考え、ライトアップされた夜の清水寺に満足し、高倉健の日常を妄想し、少年漫画のキャラクターの中から好みのタイプを挙げあう。

ずっと前に読んだ「極め道―爆裂エッセイ」「妄想炸裂」よりは読みやすかった。だけど、やはりエッセイは鬼門かも。物事を見る感性が合わないと楽しくない。こんな見方もあるんだと新鮮に思う場合は確かにある。でも、三浦しをんさんのエッセイは琴線にぐっとこない。ツボが合わない。これは個人的なこと。小説は楽しく読めても、エッセイだけは別ものだと再確認した次第です。ごめんなさい。

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三浦しをん
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    2009

07.27

「ミッキーたくまし」西加奈子

ミッキーたくましミッキーたくまし
(2009/06)
西 加奈子

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西加奈子さんのエッセイ第二弾。今回もミッキー(西加奈子)はじけてます。そして全編のイラストも担当してます。というのも、「きいろいゾウ」や「通天閣」の表紙もご自信で担当していらっしゃる。才女?! いやいや、これを読めばかなり変な人だと知ることになるでしょう。そして前回よりも、とてつもなく辛口度がアップしてることに驚くでしょう。エッセイは苦手だけど、これは好き!

まずは、ジムで一緒になったユルユルの黒人に自意識を振り回され、ドキドキのニューヨーク旅行では、バスの車内マナーに困惑し、ちょっと危険な目に遭い、ボリューム満点なアメリカごはんにうんざりする。初めてのバリ旅行では、いろんなことに怒り、疑い深くなり、波に流され「へるぷみ~」と叫ぶ。のっけから、ミッキー笑わせてくれます。これは電車内の読書には向かない超危険な本です。マジで。

その後、感情の吐露について考え、合コンのシチュエーションで暴走し、自身の三十歳を語り、警告文と責任問題で一席ぶち、外人ならではの笑いにずるいと呟き、大好きな犬と猫で妄想し、安易な命名が目につくと嘆き、お釜が炭で出来ている炊飯器の買い物にテンションあがり、義姉に厄払いへ連れて行ってもらい、怖ぇタクシー運転手に乗り合わせ、首の激痛で外科に直行する。けっこうな毒舌&下品が炸裂してます。

さて、印象に残った他のエピソードをあげてみましょうか。猫は乗っかりますという「可愛死に」は、猫好きならあるあるとめちゃめちゃ共感できて、「少女漫画的恋愛指南」は、爆笑必至の妄想劇。食べながら読んでると、むせて鼻からブツが飛び出る危険あり。「ズルイ奴ら」は、本谷有希子さんの本を読んでるんや~と嬉しくなり、「スキルアップのからくり」では、女のスキルに冷静になっているミッキーが好き。

私事で恐縮ですが、前作「ミッキーかしまし」では、読書カードに記入して送ったところ、なんと、広報誌「ちくま」の読者のひろばに掲載されてしまった。ここに書いたことを纏めただけの文章ですが、すっごい嬉しかった。ふん!と鼻息荒い自慢です。よっしゃ今回も送ろう、と思っていたら、読書カードが挟まれていない。なんでやねん。そういうボヤキをしつつ、サイン四冊目をゲット。

西加奈子さんのサインです。

西加奈子4

他のサイン本はこちらをクリック。→「サイン本」

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西加奈子
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    2009

07.26

「ドスコイ警備保障」室積光

ドスコイ警備保障 (小学館文庫)ドスコイ警備保障 (小学館文庫)
(2006/09/06)
室積 光

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社員は全員、元力士。史上最強の警備会社が誕生した。名付けて「ドスコイ警備保障株式会社」。きっかけは、引退後の力士の就職先に心を痛めた相撲協会理事長・南ノ峰親方の親心だった。立ち会いのスピードはオリンピックの短距離選手級、体重百キロを軽く超える巨大、しかも全身が筋肉。この警備会社の社員には、少々の凶悪犯では絶対に敵いません。元スモウレスラーのガードマンなら外タレのウケも抜群です。予想外の展開に、読むのを止められなくなるほど面白い。あの『都立水商!』の著者が書いた、結末は大感動の上質エンターテインメントがついに文庫で登場です。《出版社より》

「都立水商」は面白かったけれど、最新作「ミステリ通り商店街」はもうひとつだった。笑えるんだけど、それ以上に行かない。かなり消化不良がたまったので、積んでいた本書で口直しをすることにした。そういえば、力士の引退後って、一握りの人が親方になり、タレントになり、チャンコ家さんを開業したりで、それ以外の仕事って思いつかない。そこで本書では、芸能プロダクション社長の敦子にマネージメントを依頼し、リストラ寸前のサラリーマン、近藤、山本、井上の同級生三人が力士の会社設立の中心に立ち、「ドスコイ警備保障株式会社」は誕生する。アイデアとしてはおもしろい。

社長の豪勇を筆頭に、前ノ海、青山、大東山と、社員は十五人でスタート。後にただのデブ松村が加わることになるが。まず、藤井興産の持っているビルの警備を任されることになった。ドスコイ警備保障の最初の仕事である。そこでの拳銃強盗逮捕のお手柄は大々的に報道され、ドスコイ警備保障の名前は一気に全国区になる。さらに世界的大スターのマーク・ジョンソンからボディーガードのオファーがあり、六人の力士の巨体でスターを囲む「鳥かごフォメーション」でガードし、松村は本人の前で踊りをまねしてバカ受けしてしまう。この辺はちょっとやりすぎか。でもやりすぎぐらいのほうが丁度いいのかもしれない。

途中、自分は偉いと勘違いしたTVディレクターの「なんじゃこりゃ」というエピソードはあるものの、「都立水商」のような無茶な展開が続けざまに起こる。ボクシング世界チャンピオンをKOしたり、突然泣かせモードに入ったのか、ええ話が連続して続いたり、意表をつくカップルが誕生したり、とにかくごちゃまぜのごった煮状態だ。読んでいて、「ドスコイ警備保障」はどこへ行った!という感じだけど、気がつけば、最後はぐちゃぐちゃのまま終わっていた。まとまりなんて、一切ねえ。でも勢いだけはめちゃくちゃある。おもしろければそれで問題ナシ。そんな一冊でしょうか。

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    2009

07.25

「おっぱいバレー2」水野宋徳

おっぱいバレー〈2〉恋のビーチバレーボール編 (リンダブックス)おっぱいバレー〈2〉恋のビーチバレーボール編
(2009/03)
水野 宗徳

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「キモ部」と呼ばれた三ヶ崎中学校バレーボール部。残念ながら試合は敗北し、彼らはおっぱいを見ることはできなかった。そして前任の顧問は去り、中学生最後の試合も勝てなかった。夏の大会に敗れた運動部の三年生は、一人、また一人と、慣れ親しんだコートやグラウンドに静かに別れを告げる。悔しさと諦めと本当にこれで終わっちゃうのか、という気持ちを残しながら。

夏休みに入り、育夫は無抵抗のまま母の勧める塾に向かう自分に嫌悪しながらも「なんだかんだ言ってもレベルの高い高校に入ったほうが将来得なんだろうな」と思ってしまう。その一方でおっぱいを諦めきれずに、生まれて初めてのナンパに成功(?)した育夫らは、その帰り道、怖いお兄さんたちに持っていたお金を没収されるという災難にあう。

ふと気づいたのは、町で開催されるビーチボール大会の賞金のこと。優勝賞金、五万円。一生懸命、バレーボールをやっていて良かった。五万円あればみんなで四十分・六千円でもみ放題の大豪遊。しかし競技種目に書かれてある見慣れない言葉に引っかかった。男女ミックス四人制。一チームは四人(男子二人、女子二人)の競技者と最大二人の交代競技者で構成される。

その時だった。育夫の頭の中であの唸り声が響いたのだ。フンガー。彼女は別の中学校の女子バレーボール部の三年生で、「フンガー」と言った。もちろん、育夫らが勝手につけたニックネームで本名は知らない。名前の由来はアタックを打つときの唸り声。バネのある高いジャンプ力で宙を舞い、豪快に長い腕を振り下ろし「フンガー」。偶然、彼女は育夫と同じ塾に通っていた。

メンバーは集まった。キャプテンは育夫。続いて古くからの悪友のヤスオ。後輩の城良樹。城の加入は女子メンバーからの強い要望だった。当然面白いはずがない。そして女子メンバーは、フンガーこと今井真理亜。あとの二人はフンガーが連れてきた女子バレーボール部の後輩。飯嶋純と黒江瑞樹だった。だが、夏の暑さに女子は耐えられない。必死についてくるフンガーさえも熱中症に倒れた。

受験を控える中、一時はチームの解散も考えた。一体何のために勉強してるんだろう。自分のモヤモヤを片付けてみると、バレーをやりたかった。バレーをやってないとダメだった。ビーチバレーボール大会で伝説を作る。友情あり、恋あり、不順な動機あり、そして、高村光太郎の「道程」あり、全部ひっくるめての「おっぱいバレー?」だった。二匹目の泥鰌を狙った作品と侮るなかれ。おもしろかったです。

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    2009

07.24

「ピース」樋口有介

ピース (中公文庫)ピース (中公文庫)
(2009/02)
樋口 有介

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埼玉県秩父にあるスナック〈ラザロ〉に常連客は集う。元警察官のマスター八田が十年ほど前に開いた店で、甥の梢路が簡単な料理を出し、学生アルバイトの玉枝がグラスを運び、東京から流れてきたピアニストの成子が古いジャズをひく。店は古い写真館を改装したもので天井は高く、ピアノのななめ左上には煤けたような色調の宗教画が掛かり、ピアノの後にはアンティークなジュークボックスが据えてある。常連客は、写真家の小長克己、セメント会社の技術者・山賀清二、秩父新報という地元紙の記者・香村麻美、アル中の女子大生・樺山咲という面々。平和な田舎町の平和な夜。

だが平和は突然に終わってしまった。成子の行方がわからなくなり、数日後に雑木林で発見された彼女の遺体はバラバラに切断されていた。遡ること一月ほど前、寄居の山中で歯科医のバラバラ死体が発見されており、事件はにわかに連続事件の様相を呈する。県警本部から秩父へ出向を命じられたのは定年まであと二年というベテラン刑事の坂森。隣町出身の坂森は、冗談で秩父弁を喋ってみたら、止まらなくなってしまった。事件は早々に暗礁に乗り上げてしまう。そこに地元の独身青年のバラバラ遺体が山道に遺棄された。

物静かでちょっと内気で陰日向なく働く好青年と見える一方で、その内気さのなかに不遜さや不適さが同居しており、百科事典を読んでいれば死ぬまで暇つぶしができるという平山梢路。その彼とベッドを共にして、疑念に揺れる離婚暦ある四十一歳の地方紙記者・麻美。そして「はあ」「ほうけえ」と言葉が昔に戻ってしまったベテラン刑事の坂森。この三人の視点を中心としてストーリーは展開していく。それ以外にも視点となる人物がいる。他ならぬ被害者となる人物だ。しかし、事件の糸口は中々見えてこない。接点も見つからない。怪しい人も見当たらない。

そんな中、転機は突然やって来る。思ってもいないところから犯人が登場するのだ。その上、犯人の動機におもわず唸らされた。事件の接点という意味での「ピース」と、もうひとつの「ピース」をめぐる真相が浮かび上がってくるのだ。そして作品タイトルに込められた「ピース」の意味がここで繋がる。これにはやられた。樋口作品はミステリとしての驚きはない。ヒントを頼りに読者が謎を解くという作風ではないからだ。どちらかといえば、サスペンスに近いと思う。でも本書に限っていえば、犯人の意外さというより犯行の理由が巧い。その動機に、読者も共感できてしまうからだ。

その後も坂森刑事がチクチクと妄想を語っているが、そこは必要かどうかわからない。衝撃の動機の余韻とでも捉えればいいのでしょう。過去の樋口作品とは一味違う、新たな樋口有介の魅力を堪能できる作品だと思った。いい女は出ない。キザなセリフ回しもない。甘酸っぱさもない。ほろ苦さもない。では何があるのか。すべては「ピース」にある。おすすめです。

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樋口有介
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    2009

07.23

「COW HOUSE」小路幸也

COW HOUSE―カウハウスCOW HOUSE―カウハウス
(2009/06)
小路 幸也

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じいさんと女の子がテニスをやっていた。でも違う。ここは鎌倉で、信じられないぐらい鬱蒼とした森の中の四千平米の敷地を誇る豪邸にあるテニスコートで、しかもここは無人のはず。僕が今日から管理人として住みこむ家。まだ二十五なのに仕事を干されて窓際族として過ごす家。なのに、あのじいさんと女の子は楽しそうにテニスをしている。隣で僕と一緒にぼーっとそれを眺めていた美咲に手で示して、坂城部長に電話した。みんなの憧れの人だった部長は、追い出せ、って。追い出せるだろうか。美咲だって追い出せなくていつの間にか部屋に居着かれてしまっていつの間にか恋人になってしまった僕に。

美咲はともかくとしてその横にふうかちゃんとじいさん。三人ならんでにこにこしながら僕に続いて家に上がろうとしている。こうなるだろうなとは思っていた。いつもそうなんだ。ふうかちゃんは百年に一人のピアノの天才だという。この家にあるピアノを貸してやって欲しいとじいさんはいう。じいさんの言う通り、大きなグランドピアノが、でんと音楽室の真ん中に置かれていた。それからの数分間。僕らは圧倒されていた。ふうかちゃんのピアノは、凄かった。その一方で、じいさんは家では大ボケの徘徊老人を演じていた。部長もプライベートでここに足しげく通うようになっていた。

いつの間にか集まったのはなぜか丑年ばかり。ここは今日から牛の家〈Cow House〉。みんな何かを抱え込んでいた。ふうかちゃんの、家庭の事情。じいさんの、家庭の事情。美咲の、育った家。そしてこの家〈Cow House〉。ふうかちゃんが本当にピアニストになりたいんだったら、その後押しをきちんとしてあげる。じいさんがボケたふりをしないできちんと暮らせるようにあの家の問題を解決してあげる。みんなこの〈Cow House〉に集まった牛だ。管理人は牛のことをきちんと把握しないとならない。カウボーイに投げ縄は必要なんだ。僕が立てた企画書に、部長は「動け」と言った。会社で聞いていた、あの声だった。


ハッピーエンドが大好きな人が読むと、最高!ブラボー!こういうのを読みたかったんだ!と拳を振り上げるような作品。たまにこういうのを読んだからか、自分もその一人だった。でもその一方で、ご都合主義を指摘する人も現れそう。読む人の状況や体調に左右されそうな作品だ。上手く行っていないときなら、けっ、所詮、夢物語なんだよ、と毒を吐いたかもしれない。いわゆる、王道だ。気分が高揚しているときに読めば最高かも。やさぐれているときは読むべからず。そんな一冊かな。

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小路幸也
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    2009

07.22

「玩具の言い分」朝倉かすみ

玩具の言い分玩具の言い分
(2009/05/14)
朝倉 かすみ

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大人の女性のそれぞれの事情を描いた六つの短編集。

「グラン・トゥーリズモ」
相葉万佐子(38)は、忘年会の失態を反省しつつ、同棲相手の待つコーポに帰りついた。ふと斉野政近のことを少し思った。斉野政近とは、高一のとき、同じクラスだった。グラン・トゥーリズモは、小さな町の若者には名の知れたラブホテルだった。月に二度、斉野政近とそこで過ごした。わたしたちが、わたしたちでいられる場所。それはもう、すべてだった。/若い頃に済ませる体験って、猿になれるんだよな~。あれって何だったんだろう。いや、お恥ずかしいことを。こほん。

「誦文日和」
わたしたちは商店街で生まれ育った。青物屋の晴子とはよく遊んだ。大人たちは晴子に優しく接したがる。晴子にはひとの心を引きつける独特のムードを持っていた。わたしたちは十七歳だった。青物屋の娘は男出入りのはげしい不良だと商店街でささやかれるようになり、わたしは真面目で礼儀正しい不器量な子ということで安定していた。わたしたちは三十二歳になっていた。/わたしから晴子に視点が変わってから、見事に見えるものが一変してしまった。これにはすごいとしか言いようがない。すごい。

「寄り目インコズ」
北風ミドリ、あずりんこと添田あずみ、ペコちゃんこと羽生田佳織、クーこと国枝久美子。高校時代の仲良し四人グループだった。皆、三十五歳。四人のうち、ふたりが家庭を持っている。ミドリたちは三人でクーの新居を訪問する日だった。ミドリは春に出会った男のことを考えていた。ミドリは異性と交際したことがなかった。しかし、三十五にしてミドリも女になった。/仲間内の会話が楽しかった。そして男を知った浮かれぶりは初々しかった。でも突き落としちゃうのよね。こういうの、好き!

「小包どろぼう」
茂美が帰宅したのと入れ違いで両親が出かけて行った。母の姉が肺炎で入院したらしい。母は三人姉妹の真ん中で、独身なのはきみちゃんだけだ。茂美はきみちゃん二号と呼ばれている。命名したのはきみちゃん本人だった。だんだん重苦しく感じてきた。茂美は、現在、四十三歳。きみちゃん同様、一度も結婚歴がないタイプの独身なのだ。きみちゃんの一大事なのに、留守番をいいつかっているきみちゃん二号の自分。その夜の客人は男三人だった。/少女思考は痛いけれど、待ってちゃダメ。それは男も同じかな。


「孑孒踊」
エッセイストの中川さち子は、昨晩、鵜沢芳之と性をかわした。全国紙の支局長だ。四十八歳。さち子より九歳上で、離婚歴がある。このまちに赴任したのは二年前だと聞いている。会館を経営している母と接すると胸がざわめく。その苛立ちは自分にも向かう。あたしは、なにも手に入れていない。やり遂げていない。鵜沢芳之からメールが来ていた。野心の向かう方向が定まった。支局長夫人だ。そうして肩書はエッセイストのままなのだから、申し分ない。/痛さ全開。でもこういう盲目な人っていいわ~。

「努力型サロン」
夫は海外出張中だ。IT関係の会社を経営していて、つきに一度は上海に行く。国枝久美子に不満はなかった。不妊治療に精を出した時期もあったが、結局は、自然に任せるというところに落ち着いた。今年、結婚八年目。夫は四十七歳で、妻は四十三歳だ。おそらく、子どものいない夫婦になる。友だちがみんな、うちに泊まることになった。高校時代の仲良し四人グループで、むかしみたいに夜通し賑やかにやるつもりだ。/「寄り目インコズ」に登場したクー目線。女性だけの悩みって結構あるもんですね。


朝倉かすみさんのサイン。

朝倉

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朝倉かすみ
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    2009

07.21

「シングルベル」山本幸久

シングルベルシングルベル
(2009/06/05)
山本 幸久

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我が子の相手探しに結婚セミナーに奔走する親たち、その切実な願いを軽やかにひっくり返す息子&娘たち…。さらには事態を混乱させる小悪魔少女や謎のストーカーも絡んで事態は思わぬ方向へ―。絵画修復師の進藤陽一(36歳・草食系男子)、外資系キャリアウーマンの円山すみれ(34歳・年収1200万円)、バンド大好きOLの大船彩子(30歳・前の恋に未練たらたら)、元人気モデルの双葉カトレーヌ(34歳・父はハリウッドスター?)、陽一に付きまとう小悪魔少女の美和子(12歳・タレント志望)。はたして陽一は誰と結婚するのか?それとも、その気はあるのか――?《本の帯より》

円山すみれの父はこの一年半で十二回、セミナーに参加していた。そのたびに二十人近い男性の写真を手に入れ、すみれの元へ宅配便で送ってくる。すみれは無視し続けた。母は真逆。結婚しろ、円山呉服店の将来だの言いやしない。その七代続いた円山呉服店は大番頭の尾崎なしでは今後の存続は不可能だ。中学をでてすぐ店で働きだした彼はいま四十なかばだ。二十代後半から商才を発揮し、バブル崩壊後の十五年間で、店の売り上げを三倍にした。母の夜遊びはここ数年のことだが、それも尾崎のおかげである。

大船彩子のバンドメンバーは五人とも会社の人間だ。三ヶ月前、彩子は三十歳の誕生日に親元を離れ、一人暮らしをはじめた。理由は簡単至極。失恋したからだ。ここは心気一転、実家をでて新しい恋をみつけよう。そう考えた。そのかわり、住む場所は私がさがしますとママは言い張った。敷金礼金、それに半年分の家賃も払います、とも言った。そこまでして、あたしを甘やかしたいのか。さらには千葉にあるテーマパークの年間パスポートを渡され、月に最低一度はいっしょにいくことを命ぜられた。

双葉カトリーヌは十二歳から二十七歳までモデルをしていた。二十代なかば、自分の容姿の衰えを感じた。その証明のごとく、仕事も極端に減った。私はモデルとしての賞味期限は過ぎたのだ。素直にそれを認め、カトリーヌは事務所の社長である母に引退したいと申し出た。モデルを辞め、マネージャーをするようになった。町島満里は、そこそこ売れっ子のモデルだ。いまいちなのは本人に欲がないせいだとカトリーヌは思う。何事においても淡白すぎる。この子くらいのときの私は、もっとギラギラしていた。

進藤陽一は美大に五年いた。ゲームの制作会社に就職するも一年足らずで退職した。その後、父の姉の菊枝、孝代、露子の叔母三姉妹の援軍を得て、親に二百万借金してベルギーのブリュッセルに二年間留学した。帰国後は絵画修復の会社に就職し、勤続十年になる。縁とは不思議なものである。今年の春から立てつづけにさまざまなひとと陽一は知り合いになった。まず円山すみれと知り合いになった。つぎは大船彩子だ。そして双葉カトレーヌだ。陽一は、三人のうちのひとりが気になっていた。

「婚カツ」という言葉は嫌いだけど、親の策略によって、知らない間にしていたという作品。出てくる息子&娘たちは、親ほどそんなに焦っていない。親からやいのやいの言われるのが煙たくて、親のことをうっとおしく思っている。まず結婚セミナーに参加した親目線でストーリーは始まる。そして、すみれ、彩子、カトレーヌと、女性陣の今が披露される。ここまでは面白く読めたのだけど、その後の陽一目線がごちゃごちゃとしていて、まとまりの悪さが目に付いた。分かっていることを一々説明されても読者は退屈なだけ。終盤はツメが甘かったんじゃ…、そう思ったのは自分だけでしょうか。

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山本幸久
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    2009

07.20

「真夜中の五分前」本多孝好

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真夜中の五分前〈side‐A〉 真夜中の五分前〈side‐B〉

小さな広告代理店に勤める僕は、社内で一番仕事はできるが集団のレベルに合わせることができない女性上司に唯一応えられた。時計を五分遅らせるのは、大学生の頃付き合っていた水穂の癖だった。ちょっと得した気分。いつも人より五分得していた水穂は、十九歳で人よりずっと早く死んでしまった。それに慣れていた僕は、今もなんとなく五分遅れの目覚まし時計を使っていた。最近別れた彼女から、「あなたは五分くらい狂っている」と言われたように、僕は世界の住人から、少しだけずれて生きているようだ。

そんな僕が市営プールで出会ったのは、同じ二十六歳で一卵性双生児のかすみ。かすみとゆかりの双子は、まったく同じ遺伝子を持って生まれた。入れ替わると親さえ気づかない。違うのは名前だけ。どんなに違うことをしようと思っても、結局、同じことをしているという。その妹ゆかりには、弁護士の尾崎という婚約者がいた。かすみは自分と同じ遺伝子を持った妹の恋人に恋をしていた。そして僕とかすみは、お互いの欠落した穴を埋めあうように、次第に親密になっていく。(「side-A」)

野毛さんが前の会社に電話してきたのは、ちょうど一年前だった。「砂漠で毛布を売らないか」IT企業の社長・野毛さんに誘われるまま会社を移った僕は、バイトと二人きりの職場で新しく働き始めた。僕の仕事は客入りの悪い飲食店を生まれ変わらせることだった。オーナーだけは代えず、まったく新しいコンセプトを提案し、そのコンセプトのもとに店を改装する。幸いにして今までにやった四つの店は順調に軌道に乗っていた。

尾崎さんはひどく痩せていた。肌も乾いていて不健康に浅黒い。一年半前、かすみの葬儀のときに目にした尾崎さんとは別人に見えた。頼みがある。ゆかりと会ってくれ。正確に言うのなら、僕の妻として、僕と一緒に暮らしている女に会って欲しい。あれはゆかりだと、かすみじゃないと、疑いを捨てられるよう確認して欲しいという頼みだった。双子だからって、二人が入れ替わっている?(「side-B」)

好きか、嫌いかでいえば、たぶん好きなほうだろう。ただ、もやもやしたものが残って、非常に不安定な気分に陥った。たぶん、恋愛小説の形は取っているが、実際は感情を失ってしまった主人公の再生を描いているのだろう。いや、大きな括りでいえば、大学の頃に付き合っていた水穂との恋愛小説なのかもしれない。彼は本当の意味でかすみを愛していたのだろうか。それとも失った感情を取り戻すきっかけを得ただけなんだろうか。かなり共感しにくい主人公だけど、死を扱った本多作品としては、読後感は悪くなかった。

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本多孝好
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    2009

07.20

「うそうそ」畠中恵

うそうそ (新潮文庫 は 37-5)うそうそ (新潮文庫 は 37-5)
(2008/11/27)
畠中 恵

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若だんな、湯治に行く。旅の前、長崎屋の離れで地震があった。そのとき、若だんなは妙な声を聞いたことがあった。あの声が奇妙な出来事の始まりだった。ここのところ江戸では地震が多い。その為に若だんなは頭に怪我までした。母のおたえは若だんなを、ここで寝かせておくのが不安になった。ではどうすればよいのか。庭の稲荷神様に伺いを立てたのだという。そのとき、稲荷神様が示して下さったのが、湯治にやるということ。父の藤兵衛も賛成した。必死に頼む若だんなに、ついに二人の手代が笑みを向けた。若だんなは、仁吉と佐助、それに兄さんの松之助と、箱根へ旅に出た。

ところが出発早々、頼りの手代たちが消えてしまった。残ったのは、病弱な若だんな、松之助兄さん、そして三匹の鳴家。そのうえ塔之沢の宿に着けば、生まれて初めて人さらいにあい、山では天狗が空より襲いかかってきて、崖下に女の子を見たその時、若だんなは崖から転げ落ちてしまった。その女の子は、箱根の山神の御子、姫神様だった。しかし、何故か若だんなは姫神に嫌われており、昨今起こる地震は山神の不機嫌のせいだという。姫神のお比女は、神として役立たずの自分に苦しんでいた。

シリーズ第五弾は、デビュー作以来の長編作品。今回は短編のような推理の冴えはありません。でもその分、若だんな、かわいそうなくらい巻き込まれています。そしてけっこうハードボイルドを経験しています。もちろん具合も悪くなる。湯治に行ったはずなのに。だけど真直ぐな若だんなだから、どんどん自分から渦中に進んでいるような向きが見える。今回はお目付け役の仁吉と佐助とははぐれたこともあって、こっそり冒険を楽しんでいるような面が見えて、そこに読者は若だんなとムフフを共有できるという感じでしょうか。

そして今回のテーマは、誰も彼も、己一人の思いすら持て余しているということ。松之助兄さんは未だに、己の居場所に心細い思いを抱えている。姫神のお比女は御しきれない己自身に、頭を抱えている。雲助の新龍は向き合うのも痛いような昔を秘めたまま、強がっている。侍の勝之進らは、無謀だと言われ危険と分かっていることに、頭からのめり込むように突っ込んでいってしまう。天狗の蒼天坊はお比女を思う余り突っ走る。仁吉や佐助は変わらず若だんなを思ってくれるが、これも他を顧みない。そして若だんなは…、あるいは読んでいる自分は……。

そういった、わりと身近なところをチクっと突いてきます。そこを突かれてしまうと、ぐらぐらと心を揺らしてしまうところを描いていました。自分の無力なところって、本人が分かっていても指摘はされたくない。でもそれを乗り越えるのって大変なんだよ。そういうの鳴家はないんだろうな~。でも、そんな鳴家の活躍がけっこう大きな位置を占めていたりして。若だんなの冒険と合わせておもしろかったです。

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畠中恵
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    2009

07.19

「神の守り人 帰還編」上橋菜穂子

神の守り人<帰還編> (偕成社ワンダーランド)神の守り人<帰還編> (偕成社ワンダーランド)
(2003/01/22)
上橋 菜穂子

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はるか、太古の昔に栄えた国、ロタルバル。おそろしき神の名はタルハマヤ。かつて、この神を祭り、最高の栄華を誇った氏族、それが、タルの民の祖先、シウル氏族だった。娘はタルハマヤとひとつになり、〈神とひとつになりし者〉と呼ばれ、圧倒的な恐怖で百年もロタルバルに君臨した。だが、ロタ人の長、カシャル〈猟犬〉、シウル人司祭が手を結び、残酷な神人を殺す決断をくだした。それ以来、シウルという氏族名を捨て、タル〈陰〉に生きる民となり、カシャル〈猟犬〉は彼らを見守ってきた。

かつてのロタルバルの聖地に、〈おそろしき神の流れくる川〉が流れ、少女アスラの中にタルハマヤが宿った。バルサはアスラを連れ、隊商の護衛としてロタ王国に入った。その道中で狼に襲われた時、アスラは大いなる力を召喚し、笑いながら狼を虐殺していった。神が祈りを聞き届けて、神が助けてくれた。だから、アスラは罪の意識を感じることもなかった。そして、自分の召喚に応じてくれると確信した。バルサは強く思った。アスラにあれを召喚させてはならない。人を殺させてはならない。

〈猟犬〉スファルの娘シハナが、父さえもあざむいて、何かの計画を進めていた。その計画を知ったスファルはタンダを助け、二人は川筋の民のネットワークをたどりながら、聖地ジタンを目指す。そのシハナの罠に落ちたバルサは重傷を負った。アスラは「バルサは死んだ」とシハナに騙されたまま、〈神を招く者〉が、〈神とひとつになりし者〉となるべく、ジタンへ向かう。ロタ王国は南北の対立を抱えており、それら氏族の人々が建国ノ儀の行われるジタン要塞に集った。いくつもの思惑が絡み合い、大きなうねりが起きはじめていた。そして、バルサもまたタンダと合流しジタンに入った。

そして舞台は〈タルハマヤの在す地〉と呼ばれた聖都ジタン。臆病で怖がりの少女アスラは、おそろしい神の力を使えるようになって、憎しみを存分に叩きつける快感を知った。だが、人を傷つけるということ、人を殺すということ。その意味を実感したときには、もう何もかも手遅れ。後悔もなにも、役に立たない。苦悩は一生魂につきまとい、消えることもない。バルサは知っている。人を傷つけて生きる人生が、どんなものであるか、いやというほど知っている。この思いはアスラに届くのか。チキサも妹を思う。そして、シハナの計画を阻止することはできるのか。

誰しも身の丈を超えたものを持つと、ロクなもんじゃない。それは力であり、金であり、権力であり…。くれぐれも身を慎みましょう、ということ。そして、国の命運は、ゲームのようにシュミレーション通りにはいかない。それが、自信のかたまりであってもだ。〈神を招く者〉アスラと〈猟犬〉シハナの危うさに、無差別テロを見るようでドキドキだった。


「精霊の守り人」 
 
「闇の守り人」 
「夢の守り人」 
「虚空の旅人」
「神の守り人 来訪編」
「神の守り人 帰還編」
「蒼路の旅人」
「天と地の守り人 ロタ王国編」
「天と地の守り人 カンバル王国編」
「天と地の守り人 新ヨゴ皇国編」
「流れ行く者 守り人短篇集」

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上橋菜穂子
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    2009

07.19

「神の守り人 来訪編」上橋菜穂子

神の守り人<来訪編> (偕成社ワンダーランド)神の守り人<来訪編> (偕成社ワンダーランド)
(2003/01/22)
上橋 菜穂子

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少女アスラは、自分の身に宿っているタルハマヤを、よいカミサマだと信じている。残酷な鬼子タルハマヤ。だが、シンタダン牢城での、すさまじい虐殺をまのあたりにしてしまった兄チキサは間違っていたと思うようになっていた。アスラから出てきた〈あれ〉は、人を、まるで嵐が木々を刈り倒すようにして殺していった。〈あれ〉には、情けというものが、まったく感じられなかった。あまりにも残酷で無表情な力だった。

女用心棒のバルサは、幼い兄妹を、いかに危険な者だとわかっていても、無力な子どもを見捨てることは出来なかった。ロタ国の〈猟犬〉と呼ばれるスファルたち呪術師から、バルサはアスラを守って逃げた。タンダとスファルたちが争っている物音が、背後から聞こえてきたが、バルサは振り返らなかった。振り返ったら、タンダの思いが無駄になるからだ。兄妹は、ロタの森の奥深くに暮らすタルの民だった。

タルの民のなかに、恐ろしい神を招く力を秘めた〈異能者〉が生まれることがあった。少女アスラは〈異能者〉だった。怯えたり、腹を立てたり、我を忘れたときに、〈あれ〉は突然現れる。そして無差別に人の喉を咬み裂く。また、ふつうの人が見ることのできない風景を見ることができた。この世に重なった、神がみの世界を、ぼんやりとした、ゆらめきのように、見ることができた。それは〈ノユーク〉の世界だった。

スファルという呪術師は、アスラが災いを呼ぶのを恐れて殺そうとしているのだという。スファルらが〈猟犬〉なら、バルサは賢く老獪な獣だ。これまでの人生の大半を、ひたすら追手から逃げて暮らしてきた日々が、バルサに力を与える。人質になったタンダとチキサの身を案じながらも、バルサは追手を罠にひっかけ撃退し、一路、四路街の街を目指す。そして、隊商の護衛として、ロタ王国へ旅立つ。帰郷編に続く。


「精霊の守り人」 
 
「闇の守り人」 
「夢の守り人」 
「虚空の旅人」
「神の守り人 来訪編」
「神の守り人 帰還編」
「蒼路の旅人」
「天と地の守り人 ロタ王国編」
「天と地の守り人 カンバル王国編」
「天と地の守り人 新ヨゴ皇国編」
「流れ行く者 守り人短篇集」

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    2009

07.18

「警官の紋章」佐々木譲

警官の紋章警官の紋章
(2008/12)
佐々木 譲

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「笑う警官」「警察庁から来た男」あっての作品。この二冊を押さえていないと十分に楽しめないと思う。濃密と言っていいぐらい作品間のリンクがあります。極端を言えば、続けて読むのがベスト。これから読むというかたは読む順番にご注意を。そういう自分は、前を忘れてた。

制服警官の日比野伸也の父は、道警本部の不祥事の公判出廷を翌日に控え、突然死亡した。警察組織を売ることができず、かと言って、偽証することができない堅物であった。そして上からの説得もあった。証人にならず、公判に出ないで、組織を守られる方法。彼が選んだ手段は自殺だった。

北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。洞爺湖サミットの結団式となれば、東京から「彼」もやって来る。父の死について責任を取る舞台としては、結団式のイベントはうってつけだ。勤務中の制服警官・日比野伸也は拳銃を所持したまま失踪した。

サミット警備シフトが敷かれる中、うたった警官・津久井卓は、遊軍として警務部に配属された。そして津久井は、拳銃を所持したまま失踪した日比野の追跡を命じられた。大通署生活安全課の小島百合は、婦女暴行殺人犯を撃った婦警として、結団式に出席するサミット担当特命大臣・上野麻里子の担当SPとなった。

大通署刑事課の特別対応班という窓際にいる佐伯宏一は、かつて中古車の密輸犯を突き止め男を逮捕した。だがもっと大きな事件の内偵を進めているからと、事件を上に取り上げられた。その事件は北朝鮮からの覚醒剤密輸事件へと発展した。その事件は本当に存在したのか疑惑が強まり新ためて追う。それぞれがお互いの任務のために、式典会場に向かうのだが...。

おもしろかったです。これまでで一番と断言してもいいほどに。今回のテーマは、キャリアと呼ばれる警察官僚に対する、現場の刑事の矜持でしょうか。佐伯は埋もれてしまった自分の事件を独自に調べ、津久井は消えた警官を追い、小島百合は身辺警護。佐伯の唯一の部下・新宮がほとんど登場しない。だけど、彼が実はキープレイヤーだったりするのです。三人の視点はラストまで交わらないけれど、彼らが一同に揃う緊迫したラストは鳥肌ものでした。ところで、ライフルが積まれた盗難車の行方はどうなったのだろう。これって著者お得意の意味不明な次巻へのネタ振り?シリーズ第四弾も楽しみだ。


佐々木譲さんのサイン。

佐々木譲

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佐々木譲
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    2009

07.17

「碧空の果てに」濱野京子

碧空の果てに (カドカワ銀のさじシリーズ)碧空の果てに (カドカワ銀のさじシリーズ)
(2009/05/29)
濱野 京子

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ユイ自治領の領主ラワンには三人の子があった。十六で他国へ嫁いだ長女のアイリン、その二つ下でまもなく十七になるメイリン、唯一の男子で六歳の跡取りラルー。病弱な跡取りに不安を覚えたラワンが、メイリンを他国へ嫁がせずに優れた婿をとり、ゆくゆくはメイリンとその夫となる者にラルーの補佐をさせようと考えたのも、故なきことではない。それほど、幼い時から聡明で闊達、領民にも慕われていたメイリンへの期待は高かったのだ。

メイリンは馬の一番の乗り手であった。そして大力の持ち主だった。ラワンはその力を決して人に示してはならないといい渡した。そして、男を立てて一歩退くことを覚えよ、と。メイリンは納得できなかった。男ならば力は大きな美質となるのに、なぜ女にあってはならないのか。女とは何かと不自由なもの。この国の外に出てみたい。どんな暮らしをしているのだろう。そして、十七の誕生日を前に、メイリンはだれにも告げず、男のふりをして生まれ故郷を旅立ったのだった。

たどり着いたのはシーハン公国。自由の国で賢者が多く、技術力に秀でた地だった。この地では代々の王が国を統べるのではなく、住民に選ばれた一代限りの首長が政治を行っているという。たまたま逗留することになったフェイエ家は、シーハン公国の貴族で、重職を担う家柄だった。メイリンは妹のロロに連れられ、あちこちに出かけるうちに、おおむね国内の様子が呑み込めるようになっていた。そんな中で、ターリ首長は塔にこもったままで、人々の前に姿を現そうとしなかった。

メイリンはフェイエに伴われ、ターリ首長を訪ねた。ターリは、足が不自由だが鋭い頭脳で国を守る美貌の青年だった。メイリンは数日おきにターリのもとを訪れ、塔の最上階から地上へひきずりおろそうとする。そして、メイリンはターリの足になることを誓い、ターリにつかえる従者となった。やがて心を通わせた二人は、シーハンをねらう大国アインスの侵略と、この国を害せんとする内部の者の陰謀と対決することになった。

ファンタジーの意匠をまといつつも、作品の底辺にあるのはいつもと同じもの。女であるがゆえに、自分は何をなし、何のために生きるものなのか。ヒロインはずっと問い続けている。自己のアイデンティティ探しの旅だ。そこに男女三人の恋模様と、その行方がからみ、ヒロインは己の心を揺らし続ける。互いをじっと見つめるのも愛。遥か遠くを見つめる目線を重ねていくのも愛。黒髪の乙女の凛とした姿が、大地の草原に映える一冊だった。

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濱野京子
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    2009

07.16

「凍える牙」乃南アサ

凍える牙 (新潮文庫)凍える牙 (新潮文庫)
(2000/01)
乃南 アサ

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深夜のファミリーレストランで突然炎が噴き上がった。一瞬のうちに席に座っていた男が炎に包まれたのだ。やがて、炎は男から店に燃え移り、一階、更に、炎は二階、三階と広がり、六階建ての五階の一部にまで達した。初動捜査により、焼死体のベルトに時限発火装置が仕掛けられていたと判明した。被害者の右大腿部および左足首に、何ものかによって咬まれた痕、恐らく、かなり大型の犬などによって咬まれた咬傷の痕が残っていた。

警視庁機動捜査隊の音道貴子は、警視庁立川中央署の滝沢と捜査にあたることになった。典型的な男社会とはいえ、滝沢という古参の刑事は、まるで貴子を敵か何かのように思っているらしい。「だから女は面倒だ」とでも言われたりしては、たまったものではない。滝沢は貴子の挨拶にすら答えようとしなかった。苦手な相手だ、とても好きになど、なれそうもない。取りあえず、ベテランの滝沢が、自分で判断して動いているのだから、貴子としてはそれに従うだけだった。

被害者の身元は分かった。職業も、私生活の部分もおおよそが掴めてきている。現場には、時限発火装置という決定的な物証までがある。だが捜査はすっかり暗礁に乗り上げていた。そこに野犬らしいものに襲われて死亡する事件が立て続けに起こった。どうも本件の被害者の咬傷痕と酷似しているらしい。オオカミではないかという見方が強い。貴子は、オオカミに犬をかけ合わせて出来たウルフドッグというオオカミ犬に行き着いた。やがて、オオカミ犬の飼い主の中に、警察犬の訓練を担当していた男が浮上してきて……。


なんかこういう女刑事って食傷気味。ぱっと思いつくのは、どうしても好きになれない村上緑子。次に思いついたのは、まだマシな平野瑞穂。その次に思い出したのは、別格の姫川玲子。共通するのは女性蔑視。滝沢はわかりやすく貴子を無視し、他の人には愛想がよく、わざと喧嘩を売るような物言いばかりをしてくる。一方の貴子だって、女だから嘗められまいと、肩肘張って無愛想を通し、心の中で毒を吐き続けている。男嫌いと女嫌い。どっちもどっちで、徐々に相手を認めて気持ちを通わせて。ありだけど、読んでいて全然新鮮味がなかった。

そんな古臭い対立はともかく、事件のほうは面白かった。オオカミ犬が出た時点で、犯人や、犯人の動機などは見えてしまう。しかしそれでも読ませてしまう要因がここにはあった。オオカミ犬の疾風(ハヤテ)だ。人見知りが激しく、絶対に飼い主以外には懐かない。名前が現すように、一陣の風のように走り続ける。家族だけを大切にする。その家族、飼い主の命令で人間を殺害し続ける哀れなオオカミ犬。その疾風と向かい合う音道貴子。そこに何とも言えぬ感動が込みあげてきた。疾風が悪いのではない。そうするように命じたのは飼い主である。それがとても切なかった。

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    2009

07.15

「東京箱庭鉄道」原宏一

東京箱庭鉄道東京箱庭鉄道
(2009/05/14)
原 宏一

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妹尾順平は、亡くなった祖父から遺産としてアパートを受け継ぎ、勤めていた広告代理店を辞めて、アパートの大家になった。楽隠居は思ったより楽しくなかった。二十代半ばにして悠々自適は苦痛だと言ってもよかった。これではいけないと思い、大家の仕事に差し支えることがない、交通誘導員の夜バイトをはじめた。その日、妹尾は夜バイトから解放されて吉野家でビールを飲んでいると、カウンターの左隣にいた男から、不意に声をかけられた。「総額四百億円をかけて、東京のどこかに鉄道を敷いていただきたい。鉄道開通までの期限は三年」と。日野宮氏は真剣だった。

そこで妹尾は、元同僚で飲み友達のリエを誘った。リエは決断すると早かった。三日としないうちにオフィスを見つけて契約し、およそオフィスと名がつくところで必要とされる備品が揃えられ、いつのまにやら「鉄路プランニング」という株式会社が設立され、妹尾は代表取締役社長、リエは専務取締役に就任していた。このプロジェクトのメインスタッフは、少数精鋭の五人と決めていた。まず、元国鉄マンだった徳さんを正式なメンバーに迎え入れた。残りの二人の若手メンバーも決定した。雑学女王のひとみと、機転の利くミキオだ。はたして素人に、鉄道を開通できるのか?

さささっと「新宿路線案」と「世田谷路線案」が出来て、プレゼンの席であっさり却下。プロに頼めばいくらでも考えてくれるプランは必要ない。箱庭鉄道のような鉄道をこしらえていただきたいとおっしゃる。それなら最初に言っとけよ~、と100ページほどが無駄になる展開に唖然。読者をなめてませんか? いやいや、魅力的な設定で面白いんだけど……、やっぱりなめてます? それとも、そうでもしないとページ数が稼げないとか。東京に土地勘がなくて、必至になって想像を膨らませたのに、プンプンって感じだった。

そういう無駄な前半を経て、一時脱力し、中盤からやっと素人らしい鉄道造りが始まる。ミキオのショー。徳さんの都電会議。ひろみの伊予鉄道。リエのディズニーランド。みんなの発想が積み重なって、妹尾は閃いた。それは坂の町サンフランシスコを駆けるケーブルカーだった。そしてルートも決まった。ゴーサインが出た。西都建設が全面支援し、国土交通省や東京都などの関係各所の認可も一斉に下りた。

だが……、やっぱり気持ちよくする気はないのね。乗ってきたら、また水を指す。しかも、事の顛末を語る説明口調が助長で。そうそう上手くいくものだとは思わない計画だが、なんともじれったい。これぞ、企画倒れって具合でしょうか。突然詐欺とか言われても、納得出来ないって。夢はあっても、リアリティーがなぁ。個人的にだけど、期待したほどではなかった。これ、がっくり狙いだったら、めっちゃがっくりしたよ。

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    2009

07.14

「RDG2 はじめてのお化粧」荻原規子

RDG2  レッドデータガール  はじめてのお化粧 (カドカワ銀のさじシリーズ)RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧 (カドカワ銀のさじシリーズ)
(2009/05/29)
荻原 規子

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このあらすじは、第三巻を読むときのための個人的な備忘録です。よってかなり内容を書いているので、未読のかたはご注意を。

生まれ育った紀伊山地の玉倉神社を出て、鈴原泉水子は東京の鳳城学園高等部に入学した。鳳城学園は、中等部の募集をはじめてから四年、高等部にいたってはまだ二年目という新設校だった。敷地はかなり広く、高尾山に連なる丘陵の裾野に三角形に広がっている。泉水子は、見識を広め、多くの人と交流できるようになるために、あえて首都まで出てきたはずだった。けれども、自分は他の生徒にはない大きなギャップをかかえている。「姫神憑き」の人間が、世間でどう暮らせばいいのか、ひどく不安なのだ。

学園で泉水子を迎えたのは、山伏修行中の相楽深行。泉水子の入学に先立って、彼は半年前に転入していた。あいかわらず背が高い。その年齢の男子にしては立ち姿がくずれず、照れもしない優等生なのもあいかわらずだった。だが、愛想よくした仮面をはずせば、深行の目もとは打って変わって鋭くなるのだ。口調もそっけない。彼の優等生ぶりにおそれをなすと、こちらがばかを見るばかりだ。思い出したおかげで、泉水子はだいぶ気が楽になった。

寮はすべて二人部屋で、同室になるのは宗田真響。弱気になる泉水子だったが、才色兼備の真響と、その三つ子の弟の真夏と親しくなり、なんとか新生活を送り始める。しかし、事態は急転する。各クラスに分かれての最初のホームルームだった。クラスに何かがいた。その同級生は人じゃない。それは学年一の秀才高柳一条が操る式神で、高柳は呪術を使って学園を牛耳ろうとする陰陽師だった。そして宗田きょうだいもまた、高柳とは別の立場にいる素養を持った人物で、高柳の野望を阻止するため、深行と真響は手を組むことにした。

真響は高柳の仕掛けた呪いによって大怪我を負った。深行も怪我をした。怒った真夏は、幼くして亡くなった三つ子の三人目、神霊の真澄を呼び寄せ、その日のうちに高柳と決着をつけてしまった。泉水子と深行は最後まで見届けた。泉水子は、自分が特別おかしな人間じゃないかって、ずっとつらかったけど、そうじゃないことがよくわかった。そう、ホッとしたのもつかの間でしかなかった。深行の父、相楽雪政が、英語の非常勤講師としてやって来たのだ。

その雪政は泉水子に話してくれた。学園に特殊な生徒が集められたこと、真に保護するべき人材を探す試みがあること、神霊と接することのできる人間は、今では絶滅危惧種であること。つまり、国家や世界人類規模で保護するプロジェクトで、人的世界遺産の認定のようなものだと。絶滅の恐れのある一定種の野生生物をレッド・データ・リストとして指定し保護するシステム。それが野生生物だけではなく、特殊な人にも適用されたのだと。

そして、泉水子の前に現れた影の会長、穂高が口にした「審神者」の意味。姫神が発した「泉水子を姫神にさせてはならない」という言葉の意味。東京にまでくっついて来た、泉水子の「使い神」和宮。まだまだ謎を残したまま次巻へと引き継がれる。第三巻が楽しみだ。

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    2009

07.13

「チャンネルファンタズモ」加藤実秋

チャンネルファンタズモチャンネルファンタズモ
(2009/05)
加藤 実秋

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帝都テレビに入社して十六年。百太郎(ももたろう)は報道部の生え抜きディレクターとして、数々のスクープをものにしてきた。だがトラブルに巻き込まれ、一身上の都合という名目で退社することになった。百太郎の再就職先は、零細CS放送局のチャンネルファンタズモだった。世界初のオカルト番組専門放送局という触れ込みで、超常現象や都市伝説、心霊スポットの紹介番組などを二十四時間放送している。

百太郎は、早速「突撃!隣の超常現象」という番組を担当することになった。相棒は、霊感ゼロのオカルト構成作家なんて不名誉な肩書を返上したいという、元レディースのヘッドでオカルトマニアのミサと、霊体を感知できる天才霊能猫のヤマト。百太郎は、ミサ、ヤマトと共に、胡散臭いオカルト・スポットへ取材に出かける。まったく信じていない百太郎と、信じきっているミサが喧嘩しつつ、そこにある謎を解いていく。四つの連作短編集。

「FOAF」
コミュニティセンターのトイレに、お化けが出たという。出たのは、トイレの花子さんではなく、トイレのナナコさん。ドアをノックして、「ナナコさん遊びましょ」と言うと、「はーい。何か面白いこと言って」と言われる。そこで、寒いことしか言えないと舌を引きずり出されて、はさみで切られる、という噂だった。教わった通りにミサが呼び出してみると、面白さはお気に召さなかったようで、後から急に飛びかかられた。

「ジョニーの涙」
盛神池にジョニーが現れた。入り江の岸にずるずるっと這い上がったそれは、体長は一メートルちょっと。細くて平べったくて、長い尻尾が生えていた。一瞬トカゲかワニと思われたが、顔の周りに襟がついていた。低くて重い地鳴りのような鳴き声も聞こえた。そして、ジョニーは泣いていた。果たしてUMAか。目撃情報を元に、夜中に張り込んでいると、ドーベルマン三匹を連れた怪しい男二人が現れ、脅しをかけてきた。

「繋がる闇」
事件が起きたのは三年前。屋敷で独り暮らしをしていた資産家の老婆が、一階の居間で胸をめった刺しにされて亡くなっているのが発見された。事件の後、この家は売りに出されたが買い手はつかず、しばらくして「夜中に室内から呻き声が聞こえる」「血まみれの老女が窓辺に立っているのを見た」等の目撃談がささやかれるようになった。現場の廃家に踏み込んだところ、そこで大学生の首吊り遺体を発見してしまった。

「スノウホワイト」
百太郎は、改めて一年前の事件を調べることにした。その製薬会社は、厚労省との癒着や巨額献金、怪しげな会社とのつながりなど噂が絶えなかった。百太郎は疑惑を暴こうと取材を進めていた。そして、事件は起こった。製品の品質管理をしていた社員が何者かに殺された。その事件の三ヶ月前、工場で製造された薬が、出荷後すぐに回収されたという噂が流れた。製薬会社は繋がりのある政治家や企業を使い、圧力をかけてきた。百太郎は帝都テレビを退職することで事態を収束させた。


ミステリとしては結末が見え見えで、キャラ立ちも、うーん、イマイチ。ユーモアとしても空回りで、テレビ番組をパクリまくっているのだけど、完全にスベッテる。それが痛々しくて、ただただ寒かった。笑えないお笑いって、目を背けたくなるものだ。これはそんな感じ。個人的にだけど、不完全燃焼だった。ごめんなさい。でもライトで面白いと言う人もいると思います^^;

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加藤実秋
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    2009

07.12

「フェイク・ゲーム」阿川大樹

フェイク・ゲームフェイク・ゲーム
(2009/05)
阿川 大樹

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比嘉翔太は左腕の痺れで目が覚めた。酒に酔ったリツをアパートに送ってきて、そのままベッドに倒れこんだのだ。もともと昔のバイト仲間であるリツに町で偶然会ってからというのも、いつだって彼女のペースに振り回されていた。それをイヤだと思っていない。夜はキャバ嬢、昼間は足裏マッサージと、たくましく働いていたリツは、ふつうとはちがったところのある不思議な女で、それだからこそ彼女と一緒にいる時間は特別な人生を送っているみたいに楽しかった。いきさつはともかく、ついにしたのだ。彼女は、二つの身分証を持っていた。外国人登録証明書の名前は琳霞梅。国籍は中国。運転免許証の名前は西山律子。

海外勤務族の家庭に生まれた高岡麗美は、中学生まで中国系社会を転々としながら育った。戸梶という男が自分の経営する高級クラブのかけだしホステスである麗美に興味をしめしたのは何故なのか。ヤクザのトップである戸梶は、麗美の野心に気づいたからだった。組織内外で麗美は独身である戸梶の愛人と見られている。むしろそう見せていたが実際はちがう。麗美がビジネスをするにあたって、組織のどこに行っても必要な権限を発揮できるためには、姐さんであることが最高に望ましい方便だった。麗美は、そうして戸梶の片腕になった。それ以来、ずっと戸梶のもとで働いていた。曜日によってホステスとして出勤している。大学は要領よく卒業した。

リツことリン・シャメイ。彼女は日本の行政システムの盲点を突き、中国の国籍を残したままでほんとうの日本人になって、不法滞在していた。そして、同じような中国人に対し、日本国籍を売るビジネス始め、それがきっかけで日中のヤクザ組織から追われ、忽然と姿を隠した。リツを探し始めた翔太の前に現れたのは不思議な女。戸梶のもとで六本木のビジネスを成功に導き、新宿の裏社会を支配する中国人の黄亮文にトレードされ、歌舞伎町の女王と呼ばれるに至った中国人、リーメイこと麗美その人だった。リーメイは、中国から留学生として引っ張ってくる輸入ビジネスを管理してきた。そこにただ一人で穴を開け、立場を揺るがしたのがリツだったのだ。

一方は、他人の資本を使って、自分の才覚と決断力でビジネスをし、その成功よって自分の存在価値を確認している。一方はしたたかさという己の才覚だけで、金持ちになるために必死になっている。権力を握る側と、これから這い上がっていこうとする側の野心。翔太は居酒屋でアルバイトを始めただけで、それまでに会ったこともない不思議な女リツに出会い、意図しないうちにリーメイ(麗美)という女と関わりを持った。中国人が日本人になり、日本人が中国人になる。対照的だがどこか似ている二人。その麗美サイドの立身ぶりは浮世離れしていたと思うが、アンダーグラウンドで生きるパワーは感じることができた。実際にいるとしたら困った二人だけど、おもしろかったです。そして歌舞伎町って怖い。完全な偏見だけど。

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阿川大樹
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    2009

07.11

「薬屋のタバサ」東直子

薬屋のタバサ薬屋のタバサ
(2009/05)
東 直子

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わたしの人生そのものが、散歩のような気がしてくる。今、ここにいるのも、便宜的に寝泊りをしているだけの、散歩の途中なのかもしれない。商店街を抜け、その道を越えた先にタバサ薬局店はある。ここがわたしの今の居場所だ。一つ屋根の下で男と女が二人きりで暮らす。普通は夫婦、もしくは恋人だ。でも、わたしたちは違う。タバサは、ここに置いて欲しい、と突然申し入れた素性の知れない女を置いてくれるばかりか、わずかながらも給与を与えてくれるというのである。思わず深々と頭を下げ、よろしくお願いします、と答えた。

わたしは、うしろは振り向くまい、と心に決めた。思い出さないこと。迷わないこと。わたしに残された人生を、ただしずかに生き抜くこと。平穏な時間。それ以外に、欲しいものなんてわたしにはもうない。わたしがこの町に足を踏み入れることになった瞬間の記憶は、ひどくおぼろだった。自分の足でやってきたのは確かだ。ただ、理由がわからないままなのだ。タバサは言っていた。ここは何代も前から続いてきた薬屋で、この家に生まれた長男は、必ず薬剤師になることが運命づけられている。

タバサの薬はよく効くという。タバサは夜中に白衣をはおり巡回に出る。タバサだけでなく、店を訪れるお客も意味あり気な顔を見せる。庭の奥の池はいろいろなものを全部飲み込んでくれるという。その池を自分の血で赤く染めようとしたために、タバサの母は出血多量で死んでしまった。ころんでしまうよって、マサヤというおばあさんが言っていた。そして、わたしもタバサの薬を身体に入れた。わからないことだらけ。わたしの身に何が起こっているのか理解できない。ただ、ここにいるために流されていることだけはわかる。

どこか不穏なのに、わたしの思考はそれ以上進むことはない。そして突然幻想的な世界へと迷い込む。それはタバサの薬が見せた幻覚なのか、それが本当なのかはわからない。だが確実にわたしはそこで見たある人に引かれていく。わからないなりに、よくない方向へ向かっていると思う。そのように不安定なまま、現実と幻想はある一点へ、タバサの望む結末へと引き寄せられていく。最後まで読んでもよくわからなかった。わたしは薬を飲むことを辞めてしまったのだろうか。タバサがほんとうは何を望んでいるのか。わたしはころんでしまったのだろうか。

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東直子
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    2009

07.10

「てるてるあした」加納朋子

てるてるあした (幻冬舎文庫)てるてるあした (幻冬舎文庫)
(2008/02)
加納 朋子

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金遣いが荒い両親のせいで、夜逃げすることになり、十五歳の照代は一人で切符を買い、一人で電車に乗って、一人で佐々良にやってきた。母の遠い親戚だという、鈴木久代さんだけが、頼りだった。久代さんは、たぶん七十歳か、それとも八十歳か、とても歳をとっていた。鶏ガラのように痩せていて、近所の人たちから魔女と呼ばれていた。元教師で、家事や作法に口うるさい。居候の身としては、「はい」と答えて言うとおりにする。最悪だ。

そう、佐々良という町が舞台で、久代といえば「ささらさや」に登場した三婆の一人。本書「てるてるあした」は、「ささらさや」の姉妹編なのだ。もちろん、ぼんやりのサヤさんにユウ坊も登場する。ヤンママで節約家のエリカさんに無口なダイヤくんも、相変わらず大声で世話焼きのお夏さんに、少女のようで好奇心旺盛な珠ちゃんと、残りの三婆も健在だ。

サヤさんは言った。佐々良は不思議な町。他の場所でなら絶対起きないことが、ここでなら起きるの。あり得ないことが、当たり前な顔して、会いにきてくれるの。照代はいつも怒っている。人を見れば見下げ、佐々良は寂れた町だと馬鹿にして、自分ばっかり不幸だ、かわいそうだ、私の気持ちなんてわからないと拗ねている。常にイライラして、何でもないことにすぐカチンとくる。ようするに、わがままで、甘えんぼで、大人を恨んでいる情緒不安定な女の子だ。読んでいてムカっとくる子だ。

そのどうしようもない感情がピークに達し、ヒステリーを起こす寸前、ふいにもの悲しい着メロ「てるてる坊主」が鳴る。知らないアドレスからのメールは、液晶画面にひらがなばかりで、その本文は照代を少しだけ慰めてくれる。メッセージを送ってきた相手はいったい誰なのか。そして照代は女の子の幽霊を見る。その女の子が照代に夢を見せて、何かを伝えようとしてくる。

そんな照代にも知り合いができる。嘘つきのクセして、隠し事がとても下手なエラ子だ。佐々良高校に入学早々もう落ちこぼれている。魔法みたいに機械をなおすリサイクル電気店の松ちゃんもそうだ。サヤさんは言った。人の心は鏡みたいなもので、嫌いだって気持ちも、好きだって気持ちも、ぜんぶ自分に跳ね返ってくると。照代は周囲のすべてが、羨ましくて、妬ましくて、自分が真っ黒になってしまう。そんな自分がいちばん嫌いだと思っている。そういう素の自分をふと出せることができるのが、エラ子であり、松っちゃんだ。

久代さんはいつだって真っ当で正しい。久代さんの「働け」発言だって正当だ。でも照代の胸にいちいち突き刺さる。正しいから、間違っていないから、だから余計胸にこたえる。照代は傷つくと、興奮して家を飛び出しては、渋々帰るの繰り返し。まったく可愛げのないやつだ。しかし、かつての久代さんと幽霊の女の子との関係と、久代さんの照代に対する厳しさが繋がった時、本当の意味での優しさに、読者は泣かずにいられない。でも、「てるてる あした。きょうはないても あしたはわらう」なのだ。ここは佐々良。不思議が起きる町。希望をくれる町。人が温かい町。

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加納朋子
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    2009

07.09

「神去なあなあ日常」三浦しをん

神去なあなあ日常神去なあなあ日常
(2009/05)
三浦 しをん

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神去村の住人には、わりとおっとりした人が多い。彼らの口癖は「なあなあ」で、「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」ってニュアンスだ。主人公は平野勇気。高校を出たら、適当にフリーターで食っていこうと思っていた。ところが、式を終えて教室に戻ったとたん、担任の熊やんが言った。先生が就職先を決めてきてやったぞ。家まで帰ると、母はさっそく俺の部屋に自分の持ち物を運び入れていた。しばらくして知ったことだが、林業に就職することを前提に、国が助成金を出している「緑の雇用」制度に勝手に応募されていたのだ。わけがわからないまま辿り着いたのは、三重県中西部の山奥にある神去村。小さな無人駅に出迎えに来てくれたのは、髪を金髪に染めたヨキというガタイのいい男だった。

謎はたくさんあったけど、とにかくその日から二十日ほどの研修がはじまった。「山で起こりうる危険」や「山仕事用語」について講義を受けた。チェーンソーの扱いかたも習った。そのころには、どうやら林業の現場に送り込まれたらしいと、ようやく事態が飲みこめた。森林組合での初期研修が終わった日、再びヨキが軽トラで迎えにきた。しばらくのあいだ、ヨキの家に居候させてもらうことになった。ヨキは、妻のみきさんと、祖母の繁ばあちゃんと、犬のノコと、三人と一匹で暮らしていた。中村林業で働くのは、すでに決定しているらしい。勇気はヨキと一緒の班になった。メンバーは、ヨキ、おやかたの清一さん、五十歳ぐらいの巌さん、七十四歳だという最年長の三郎じいさんだ。

横浜生まれ都会育ちの十八歳・勇気が、野生児のような先輩たちの指導のもと林業の技と心を体得していく。春は、潅木の切り倒しや、苗木の植えつけ。花粉の洗礼を受けつつ、幼い三太が神隠しに遭い、神去桜でお花見。夏は、下刈りや、畑の収穫。神去山から霧が落ちる神おろしに不思議な気配を感じ、初めて見たホタルに驚き、夏祭りにも参加する。秋は、ヒノキの枝打ち。山火事で活躍したのが認められ、いつまでも余所者扱いした住人の態度が軟化した。そして神去山に住んでいる神さま、オオヤマズミさんをお祀りする神事、四十八年ぶりの大祭に参加し、不思議なものを見る。雪が積もってからは、雪おこしをしたり、畑で育てている杉の苗の根もとを藁で覆ったり。することはいろいろある。

山の生き物は、山のもの。山での出来事は、神さまの領域。お邪魔してるだけの人間は、よけいなことには首をつっこまない。山は毎日、ちがう顔を見せる。木は一瞬ごとに、成長したり衰えたりする。些細な変化かもしれないが、その些細な部分を見逃したら、絶対にいい木は育てられないし、山を万全の状態に保つこともできない。ヨキ、清一さん、三郎じいさん、巌さんの働きぶりを見て、勇気はそれを知った。なあなあな山奥の日常を、勇気のままならない恋を、爆笑必至の大祭を、ご堪能あれ。おもしろかったです。

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三浦しをん
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    2009

07.08

「龍神の雨」道尾秀介

龍神の雨龍神の雨
(2009/05)
道尾 秀介

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父が出ていき、母が交通事故で死に、残されたのは酒屋で働く十九歳の蓮と中学三年生の妹・楓。そして血の繋がっていない継父は、彼らに暴力を振った挙句、仕事もせず、部屋に閉じ篭っている。ふた月ほど前に聞いた、楓の告白。あの男を殺したい。蓮は湯沸器のスイッチを入れたまま仕事に出かけた。湯沸器は不完全燃焼を起こしてくれる――かもしれない。室内に一酸化炭素が流れ出し、寝ているあの男を殺してくれる――かもしれない。その日は台風の影響により、雨の勢いが強まりつつあった。

一方、母が海で死に、父が病気で死に、残されたのは小学五年生の圭介と中学二年生の兄・辰也。そして血の繋がっていない継母に嫌われようと、兄はわざと万引きを繰り返す。母を殺したのはあの人だと疑う辰也。母親を殺したのは自分だと思っている圭介。嵐の夜、圭介と辰也は、蓮と楓を見た。二人で運んでいた大きな荷物。兄妹が落とした赤くて四角い布を持ち帰った辰也。早朝、ノートに綴っていた脅迫状らしい辰也の文章。心の読めない兄。変わってしまった兄。圭介はずっと怖かった。すべては雨のせいだった。

よく似た家庭環境の二組のきょうだい。一方はお互いを思いやることで過ちを犯す。一方は過去に目が眩んで疑念が疑念を呼ぶ。些細な勘違いと思い込みが新たな悪意を引き寄せ、二組のきょうだいを交錯させる。掛け違えたボタン、と言うにはあまりにも大きな歪み。すべては雨のせいなのか。雨を降らした龍のいたずらなのか。龍神の雨。彼らは雨の中に龍を見た。龍が駆け抜けた。その龍の突風は読者をも襲った。やられた。やられたーー!! まんまと道尾の仕掛けにしてやられた。

これは道尾。これは道尾。そう思いながら読んでいたはずなのに、非常に緊迫感があって、気づけば文字を追うことで必死になっていた。いつの間にか作品の世界にどっぷりと引き込まれ、疑うことを忘れていた。途中でふとこれは伏線ぽいと思う。だがなにしろ展開がはやい。結果で言うと、それは伏線だった。けれど、その読みは検討違いな方向でしかなかった。トリック・スター道尾は健在だった。

前作の長編は、伊坂のものまねとまで強く言ってしまったが、本書は道尾ならではのカタルシスを味わうことができた。やっぱり道尾は面白い。期待通りにやってくれた。とにかく構成力が半端じゃない。単純なミスリードなんだけど巧い。こういう作品を今後も期待したい。また、やられたー!と叫びたい。そして、誰の心の中にも、禍々しい化け物はいるのかもしれない、と思った。


道尾秀介さんのサイン。

道尾秀介2

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道尾秀介
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    2009

07.07

「空をつかむまで」関口尚

空をつかむまで空をつかむまで
(2006/04)
関口 尚

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美里中の水泳部には正式な部員がひとりしかいない。この三年間ずっとだ。だから、水泳部兼将棋部顧問のウガジンは将棋部員だった優太とモー次郎を臨時部員として連れてきた。つまり、好き好んで水泳部に来ているわけじゃない。無理やりなのだ。優太は膝の怪我で小学生のころスター選手だったサッカーをあきらめ、走ることを避けて将棋部に入って過ごしていた。膝なんて治らなくっていい。正直に言えば、大好きで、あんなにも得意だったサッカーで、わざわざ負けるためにサッカー部に戻るのはいやだった。

モー次郎は水泳部なのにカナヅチだ。モー次郎は同じ学年のやつからのけ者にされている。周りの空気が読めないし、人の話しは聞いていないし、聞いていないから突拍子もないことを言っていやがられる。太っているからではなく、家が牛乳販売店なのでモー次郎と呼ばれている。モー次郎は実用車で毎朝牛乳配達をしてから、学校にやってくる。岡本暁人。あだ名は姫。ただひとりの正式な水泳部員だ。それには理由がある。姫は二百メートル自由形の県中学記録を保持している。その姫がやる気をなくし、水泳部は解散した。

優太と美月は幼なじみだ。美月と姫は一年生の夏休みくらいから付き合いはじめた。優太はそれを知って初めて自分が美月を好きなのだと自覚した。姫とモー次郎は同じ小学校で、小学校のころの姫は怖かったらしい。美月と付き合ってから姫は変わったという。その姫がすぐにどうしても水泳部をやりたいと言い出した。ウガジンは条件を出した。三人が市町村合併記念のトライアスロンに出場し、優勝して美里中の名前を歴史に残せと。美里村の市町合併に伴い、それに合わせて美里中学もなくなることになっていた。

今大会にはローカル・ルールのひとつとして、リレー部門があった。県下でもトップクラスの水泳選手である姫がスイム。毎朝自転車で牛乳配達をしているモー次郎がバイク。膝が悪いと痛いふりをしていた優太がランを担当することに決まった。高飛車なライバルの登場。練習を見てくれる謎の鶴じい。美月を中心にした三角関係。フツーじゃない家族のこと。自分に負けない心。そして、友達宣言と誓い。なんだ、ふつうの青春小説か、と思わせて、そこで終わっていないのが本書のすごいところ。このあと何が起こるのでしょうか。それは自分で読んで確かめてもらいたい。おもしろかったです。

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関口尚
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    2009

07.06

「ハナシがちがう!」田中啓文

ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)ハナシがちがう!―笑酔亭梅寿謎解噺 (集英社文庫)
(2006/08)
田中 啓文

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上方落語の大看板・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさせられた、金髪トサカ頭の不良少年・竜二。大酒呑みの師匠にどつかれ、けなされて、逃げ出すことばかりを考えていたが、古典落語の魅力にとりつかれてしまったのが運のツキ。ひたすらガマンの噺家修業の日々に、なぜか続発する怪事件!個性豊かな芸人たちの楽屋裏をまじえて描く笑いと涙の本格落語ミステリ。

高座の最中に三味線弾きの弦が三本とも切れた(「たちきり線香」)、楽屋で傍若無人な芸人が毒殺された(「らくだ」)、どうしてもテレビ出演を拒むベテラン漫才師(「時うどん」)、身に覚えのないことで襲われる竜二(「平林」)、無茶もんで売っている兄弟子に殺人の容疑がかかった(「住吉駕籠」)」、師匠の初孫が誘拐された(「子は鎹」)、真冬にいないアレを探す(「千両みかん」)、とそれぞれの謎の答えは、作品タイトルになっている落語の演目とリンクしている。

その一方で、落語は嫌いと言っていた竜二が、師匠の落語を聞いておもしろいと思うようになり、落語にどっぷりはまっていくという、竜二の修行の日々が描かれている。その間には、豪放磊落な師匠にしばかれたり、酔った師匠に振り回されたりと、隙あらば逃げ出したいと思ってしまうエピソードがあり、でも気つけば客と一緒に笑っていたり、師匠のすごさに素直にやられてしまう竜二がかわいかったし、師匠の無茶ぶりも笑えた。

竜二と梅寿師匠の師弟間のやり取りがとにかく楽しい。兄弟子の梅雨はその名のとおりうっとおしいやつで、姉弟子の梅春は竜二に稽古をつけてくれて、師匠の次男で昔なにかとお世話になった竹下刑事はそのギャップにニヤリで、漫才師の柿実うれる・うれない師匠は好意的な態度が癒しで、その付き人で竜二と同い年のピン芸人であるチカコは、新しい笑いをぶって竜二を惑わして。脇を固める人たちも個性的で魅力があった。

落語の噺ってひとつとして同じものはない。それは古典落語にしても言える。昔からあるネタを、いろんな噺家がそれぞれの個性で演じることによって、その同じネタが噺家の噺となる。竜二には落語の才能があるらしい。でも本人は全く気づいてない。兄弟子たちも一目置いているようだが、いまひとつ描ききれていなかった。そこは残念。だが、今後彼はどんな落語家に育っていくのだろうか。続編を読むのが楽しみだ。

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