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    2009

12.31

2009年度の本代

個人メモです。

年間合計161.196円

お、おわっと。なんともまあ......。


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自分への戒め
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    2009

12.31

12月に買った本の代金

個人メモです。

総計12.383円


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自分への戒め
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    2009

12.31

12月に買った本

単行本
ハッピー・リタイアメントハッピー・リタイアメント
(2009/11)
浅田 次郎

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クリスタル エッジ (YA!ENTERTAINMENT)クリスタル エッジ (YA!ENTERTAINMENT)
(2009/12/11)
風野 潮

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エリアの魔剣 2 (YA! フロンティア) (YA!フロンティア)エリアの魔剣 2 (YA! フロンティア) (YA!フロンティア)
(2009/12/25)
風野 潮

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空色メモリ空色メモリ
(2009/11/27)
越谷 オサム

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吉祥寺の朝日奈くん吉祥寺の朝日奈くん
(2009/12/11)
中田永一

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遥かなる水の音遥かなる水の音
(2009/11/26)
村山 由佳

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文庫本
シュガーダーク  埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
(2009/11/28)
新井 円侍

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シアター! (メディアワークス文庫)シアター! (メディアワークス文庫)
(2009/12/16)
有川 浩

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マジカル・ドロップス (光文社文庫)マジカル・ドロップス (光文社文庫)
(2009/12/08)
風野 潮

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妖怪アパートの幽雅な日常〈3〉 (講談社文庫)妖怪アパートの幽雅な日常〈3〉 (講談社文庫)
(2009/12/15)
香月 日輪

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魂追い (角川ホラー文庫)魂追い (角川ホラー文庫)
(2009/12/25)
田辺 青蛙

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通天閣 (ちくま文庫)通天閣 (ちくま文庫)
(2009/12/09)
西 加奈子

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再びのぶたぶた (光文社文庫)再びのぶたぶた (光文社文庫)
(2009/12/08)
矢崎 存美

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    2009

12.31

「球体の蛇」道尾秀介

球体の蛇球体の蛇
(2009/11/19)
道尾 秀介

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一九九二年、秋。一七歳だった私・友彦は、海沿いの町に暮らす乙太郎さんの家でやっかいになっていた。乙太郎さんと、娘のナオ。そして私の三人で同居していたのだ。乙太郎さんとは血がつながっているわけではない。ただ私が生まれた家の隣に、ずっと住んでいただけだ。母が家を出ていき、ついで父が東京へ転勤することが決まったとき、絶対に父親に従いていきたくないと叫んだ私を、乙太郎さんは引き取ってくれた。とりあえずウチで暮らせよと言ってくれた。ナオは私よりも二歳下だった。仲のいい幼馴染だった。乙太郎さんは白蟻駆除の会社を経営していた。私はその仕事を土日だけアルバイトしていた。

サヨは乙太郎さんのもう一人の娘で、ナオの姉だった。彼女は中学二年生でこの世を去った。奥さんとサヨは七年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。サヨのことを一番よく知っていたのは自分だと、私はいまでも思っている。物静かで大人しい姉。彼女に対してそんなイメージを抱いていないのは、きっと私だけだろう。両親でさえ、妹でさえ、サヨの本当の顔には気づいていなかった。彼女の中にはいつも、静かに燃えているものがあった。冷たいはずなのに、触れたら火傷を負うようなものを、彼女は抱えていた。そしてそんなサヨに、私は幼い頃から強く惹かれていた。

その立派な家には初老の男が住んでいた。点検口から這い出した私が顔を上げると、白いワンピースの女性が、立ち止まってこちらを見ていた。しばらく前から町で見かけていた、どこかサヨに似た人だった。年上の彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになる。それが、燃えてはいけないものが燃えている臭いだということに、私はすぐに気がついた。七年前のキャンプ場で、私は同じ臭いを嗅いだからだ。屋敷は全焼。老主人は焼死した。彼女がやったのかもしれない。そんな疑いが、胸の中で黒い頭をもたげはじめていた。「第一章」

物語はその後、「第二章」「第三章」と移り変わってゆく。主人公は、幼い偽善が招いたサヨの悲劇から胸に一つの重石を抱えて生きている。白いワンピースの女性‐智子に惹かれた一因もその出来事によるものだった。智子はサヨに似ていた。どこが似ているのか。何が似ているのか。一人の女性に執着するあまり、私は迷走し始める。馬鹿げた狡猾さ、小さな嘘が勘違いを招き、やがて取り返すことの出来ないあやまちを繰り返すことになる。吐き出すことが出来ない苦しさ、罪の意識を描きながら、最後は優しい火を灯して温めてくれたことにほっとする。ミステリではないが、こういうのもアリだと思った。

伊坂に続き、道尾も脱ミステリの新境地にチャレンジした。これって流行なのか? 従来のファンはやきもきするだろう。しかし幸いにも、自分は両者の新境地を受け入れることが出来た。文学は苦手だけど、この人たちの文学は面白いと思った。ミステリとしての驚きはなくても、根っこにある閉塞感や寂寥感はいつもと同じだと思ったからだ。また小道具のスノードームの使い方が印象的であった。仕掛けがなくても読ませる作品。これはある意味で上等でしょう。いつものように、「これは道尾」と身構えずに読むことをおすすめします。

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道尾秀介
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    2009

12.29

「マイナークラブハウスの森林生活」木地雅映子

マイナークラブハウスの森林生活―minor club house〈2〉 (ピュアフル文庫)マイナークラブハウスの森林生活―minor club house〈2〉 (ピュアフル文庫)
(2009/05/11)
木地 雅映子

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桃李学園高等部の片隅に建つ古ぼけた洋館「マイナークラブハウス」に集う弱小文化部―ウクレレ部、園芸部、演劇部、思想研究会、歴史研究会、和琴部―の面々は、自由気ままに青春を謳歌…しているように見えるが、一筋縄でいかぬのが思春期というもの。新・演劇部長、畠山ぴりかの涙のワケは!?謎が謎を呼び、続きが気になってしかたがない学園・青春小説シリーズ、待望の第2弾。《出版社より》

「第六話 高橋奈緒志郎、捨て子拾いの血を知る縁」
新・演劇部長の畠山ぴりかは、マイナークラブハウスの合同合宿に置いてけぼりをくらっていた。そこに顔を出したのは思想研究会の前会長、高橋奈緒志郎。ぴりかを不憫に思った奈緒志郎は、世話好きな母がどうにかしてくれるだろうと、天然ボケの後輩を自宅へ連れて帰る。高橋家は、奈緒志郎を頭に、まりあ、透、吉宗の四人きょうだい。商社勤めの父は、少々キケンな国に長期出張中。奈緒志郎は、受け入れ体質の高橋家の業に気づく。

「第七話 福岡滝、飛天山に幼馴染の闇を見る縁」
新・園芸部長、天野晴一郎の飛天山にある屋敷で合同合宿をすることにした桃園会館の面々。天野と付き合い出した演劇部の福岡滝は、疑問に思っていたことをふと彼に聞いてみた。小さかった頃に口がきけず、いつしゃべれるようになったのか。奇妙な会話術を身につけた天野は、子供の頃の記憶の多くを思い出せずにいた。今回参加しなかったぴりかが、天野の育てた野菜畑を荒らす話になったとき、突然天野の様子がおかしくなる。

「第八話 太賀竜之介、迷走の果てに為すべきことを為す縁」
歴史研究会一年の太賀竜之介は、天野晴一郎の呟きの意味を、なんとなく察することができた。その日の竜之介は、朝からぴりかの行水を観察し続け、部活の時間には地面にかがみ込んでいる天野を観察し続けていた。気づかれないように天野の後を追うが、藪の中ですっかり見失ってしまった。おまけに、道までわからなくなった。来た方角へ、帰ろう。そう思って、体の向きを変えた途端、おかしなものを発見した。

「第九話 柳場良子、子供の砦に迷い込みたる縁」
教諭の柳場良子が頼ってもらえたのは、最悪の事態になった後だった。西本結花は、バレーボール部の監督と関係し妊娠したのだ。その日、畠山ぴりかの母から電話があった。畠山ぴりかの母、畠山かおりは、いわゆる観察を要する保護者だった。かおり自身の説明によれば、精神的に不安定な娘をケアしているらしい。だが、良子には、娘よりもむしろ、母親であるかおりの方が、一層不安定な状態にあるように思われた。

「第十話 サバトラのきゅうり、ニンゲンの娘を野良に仕込む縁」
野良猫(きゅうり)はおれの道を行く。もしゃもしゃ(ぴりか)はいつも喋っている。きゅうりという音声→駆けつける→食べ物が出てくる。ということもあるが、時々はハズれる。庭のあの植物も、なぜか同じ音声で呼ばれている。不思議な話だ。のっぽ(天野)ときたら、気配を消すのがうまい。びっくりさせられるのは、どんな猫だってニガテだ。もしゃもしゃも、のっぽがニガテらしい。もしゃもしゃは、林の中に巣をつくった。

「おまけ マイナークラブハウスの新学期」
奈緒志郎は、ぴりかと一緒に畑を荒らした妹弟たちを連れて、合宿帰りの天野に頭を下げた。天野の表情が、いつもより、こころなしか柔らかく、人間臭い。まるで、自分がいない間、ぴりかが元気でドロボーしていたことに、安堵しているみたいだ。そして、マイナークラブハウス部員たちの新学期が始まった。

今回も面白かった。一見ドタバタ学園小説のようでも、実は奥が深い作品だ。世間から変わり者と見られても、どうしようもない家庭の事情を抱えていても、彼らを何の問題もなく受け入れてくれるマイナークラブハウスと、支えてくれる仲間たち。ぴりかが押しつぶされそうな母との関係。天野の消えた記憶。そういった問題も、ここマイナークラブハウスでは些細なこと。親を敵にしようとしない彼らが健気だ。また応援したくなる。第三巻も楽しみだ。

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木地雅映子
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    2009

12.27

「天使の耳の物語」成井豊

天使の耳の物語天使の耳の物語
(2009/11/02)
成井 豊

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三沢静治は大学を卒業後、都立高校の教諭になった。詠子は内定をもらっていた広告代理店に就職。三年目に結婚。一年後に妊娠して、それで生まれたのが響太で、さらに三年後に生まれたのが奏だった。息子の響太の方は内向的なのが気になったが、その分、成績優秀で、有名大学の法学部に現役で合格した。娘の奏は、現在は私立大学の文学部に通っている一年生。快活で、常にたくさんの友達を持っていた。奏が大学に進学して、そろそろ子育てもゴールに近づいたと思っていた。

ある日、不慮の事故によって、病院で目覚めた静治は、頭の怪我が原因だろうか、他人の心を読み取る能力を持ってしまった。が、これが「読み取る」と言えるだろうか。読み取るつもりなんかないのに、勝手に耳に飛び込んでくる。こちらに選択権はない。こんな力、持てても、全然うれしくない。なんということだ。自分が思っていたほど、家族に愛されていなかった。何もかもがうまく行っている、と思っていた。夫婦の関係はもちろん、親子の関係もきわめて良好だと思っていた。

クソジジイとか、頑固ジジイとか。響太と奏の声だ。家族のことは、大きな問題さえなければ、それでいいと思っていた。必死に働いてきた。それは、自分のためでもあるが、同時に家族のためだと思っていた。確かに、家族より仕事を優先にしたことは多々ある。だが詠子や響太や奏の言い分は違う。自分のことしか考えてないと言う。響太は就職をしないでミュージシャンになると言い出し、奏はどうも恋をしているらしくイライラしている。いつのまにか心が離れてしまった家族を取り戻したいお父さんの奮闘記。

全体的に読みやすく、家族の中で浮いているお父さんの立ち居地とかはふつうに面白かった。その一方で、安易に先の展開が見えてしまうことや、心の声が聞こえるという設定にしても、あっさりしすぎのように思えた。それと小さな世界で小さく動いていると思っていたら、舞台の原作らしいことを読後に知った。舞台の演目ならこれぐらいで纏めるのが丁度いいのかもしれない。しかし一冊の本としては、記憶に残るようなパンチ力に欠けていたように思う。劇団ファンの人にはゴメンなさい。

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    2009

12.26

「笑いの果てまでつれてって」西田俊也

笑いの果てまでつれてって笑いの果てまでつれてって
(2009/10/20)
西田俊也

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お笑い芸人のミナミは、テレビにも出たし、ラジオのレギュラーも持っていたことがある。しかし、ここ数年ですっかり人気も落ち、今はホテトルの運転手をして暮らしていた。年末の今年もあと六日で終わるという日の昼あたり、以前、ホテトルで窃盗の嫌疑をかけられ、ミナミに助けられて、仕事を辞めた京子がお金を返しに来た。ちょうどその頃、お笑い学校の同級生だった友人マリから仕事の依頼が来ていた。今働いている北海道は稚内の老人ホームの年越しイベントで漫才をやらないかというのだ。

断るつもりだったミナミだが、京子が正月に帰るところがないと聞き、わけのわからないノリで、最後の舞台をみせようと京子を北海道へ誘う。だがミナミは相方探しにつまずく。自殺未遂をしたばかりの最初の相方サカイを説得し、そしてミナミの父ハツオも親バカを発揮して漫才を見ると何故か同乗し、四人を乗せたオンボロ車は二十七日朝、大阪を出発する。何か心にわだかまりを秘めた四人だ。そんな彼らは、それぞれの思いを乗せ、最果ての地、稚内をめざして車を爆走させる。

車がパンクして立ち寄った田舎のタイヤ屋では、今風のお笑いが好きな息子とその親父に出会い、成り行きで乗り込んだ東京のテレビ局では、同期の売れっ子漫才師から車を盗み、逃亡中の仙台では、実家が全焼したと火事の知らせを受け、ようやく着いた苫小牧では、婚約者の父とミナミは二人きりで一晩を過ごすなど、行く手に待ち受けるさまざまな事件を乗り越え、果たして、大晦日、忘れられた漫才師は、最後の舞台に立つことが出来るのか。

ミナミ、京子、サカイ、ハルオ。主な登場人物はこの四人だけ。彼らによる会話主体のユーモア系ロードノベルだ。文章自体は軽く読める。だけど、人物造形が薄い上に、誰のセリフなのかがわかりづらい。地の文で揺らぐ場面も度々あり、話の展開が理解しづらく混乱する。また笑いのツボも合わなかった。別に内容がスカスカでも、有意義な楽しい時間を過ごさせてくれればそれでいい。でも自分はダメだった。これを面白いと感じる方もいるだろう。ただ、文章だけで笑えるかどうかは、読者と著者の相性にあるとつくづく思った。

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    2009

12.24

「陽だまりの偽り」長岡弘樹

陽だまりの偽り陽だまりの偽り
(2005/07)
長岡 弘樹

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日常に起きた事件をきっかけに浮かびあがる、人間の弱さや温もり、保身や欲望。誰しも身に覚えのある心情を巧みに描きだした五編を収録。自分の失態を取り消したい。無かったことにしたい。こうすればうやむやに出来るのではないか。悪魔の囁きに心惹かれる主人公たちだが、意外や意外、ほろ苦くも心憎いオチが待っている。実際のところ、そうそう上手く救われるわけがない。しかし、主人公たちを突き落とさないラストは読後感を良くしていた。そのメルヘンが面白い。

梶山郁造は、正直な話、自分はアルツハイマー型の痴呆症を疑っている。だが、真実を知るのが怖くて、まだ医者の診察を受けていない。このことだけは、誰にも悟られないように注意している。職を退いてから七年半になるとはいえ、元は市立中学の校長だ。今は町内会長を務めている。他人に無様なところは見せられない。息子の嫁から預かった現金を落としてしまったが、どこで落としたのかも覚えていない。ボケ老人のレッテルを貼られることを恐れ、郁造はある行為に踏み切る。(「陽だまりの偽り」)

居道葉子は、離婚して以来、がむしゃらに働いてきた。明日おこなわれる下半期の異動で、ついに課長になる。業務関係の連絡に紛れ込むようにして、少年補導センターから電話が入った。センターの職員は、息子の修児が万引きしたのだと説明した。職場にいるところを呼び出されたのも、これが初めてではなかった。その後、葉子は修児と並んで、専門員からこんこんと説教を受けた。その帰り道に人身事故を起こしてしまった。やっとつかんだ地位を絶対に手放したくない。焦る葉子に修児が口にした言葉は。(「淡い青の中に」)

崎本俊三は、市役所の管財課で課長を勤めている。柵のことは市民からの電話で教えられた。市役所庁舎のすぐ横に立つ立体駐車場。その屋上を囲っている鉄柵の鉄格子が一本抜けていた。たしかに危なかった。崎本は鉄柵に注意書きを吊るし、とりあえずの応急措置を施した。ところが翌日からの一週間、会議が立て続けにあったせいで、この一件はすっかり忘れてしまった。その屋上の隙間から酔った市民が転落して死亡したのだ。十日間も放置していたのは、自分だ。どんな責任を負うことになるのか。(「プレイヤー」)

以前は守下要一の生活にも順風が吹いていた。首都圏の新聞社に勤務し、報道部のカメラマンとして、きっちり仕事をこなしてきた。あの事故を起こす直前までは。交通事故を起こし、新米記者の身体にハンディを負わせた。逃げるように田舎に帰った森下は、父親が細々と続けていた写真館の仕事を手伝いはじめた。経営は行き詰っていた。追い討ちをかけるように、父親が脳梗塞で倒れた。返済のための借金を繰り返した。森下は身代金目的の誘拐を決行した。ずっと怯えていた。どこの刑務所に入れられるのか。(「写心」)

ジョギング中の志野田正臣は、ふと、かすかに不穏な気配を感じた。「おら」か「こら」か。はっきりしないが、そんな低い声を聞いたような気もした。だが、路地をのぞいても、人影は見当たらなかった。その日、息子の克己は友人と二人、四人組の男たちに取り囲まれ、金を出せと脅された。財布は取られたものの、克己に怪我はなかった。しかし、友人の方は暴行を受け、意識不明の重体となった。その似顔絵に、別件で逮捕した男の顔が合致した。ところが、克己は警察へ面通しに行くことを拒んだ。(「重い扉が」)

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    2009

12.22

「海峡の南」伊藤たかみ

海峡の南海峡の南
(2009/09/15)
伊藤 たかみ

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僕と歩美は、倒れた祖父を見舞うため北海道にやって来た。彼女とは共に関西育ちだ。はとこ同士になるが、幼馴染であり、身体を重ねる仲だ。高校生の頃から、互いに恋人がいないときに限りよく一緒に寝た。親も含めた親類には内緒にしていた。それは罪悪感からではなく、親類だの血縁だのという面倒くささかららくるものだった。金にも飯にもならない血縁のしがらみが鬱陶しかったのだ。離婚した彼女と再び始まった関係を隠しているのも、同じ理由だった。

若き日に関西に出奔した父は、金儲けを企てては失敗し、母にも愛想を尽かされ、十年も前にチェンマイに行くと最後の手紙が来て以来、音信不通のままだ。僕は彼を捜そうともしなかったし、一家離散している現状で今さら捜す気にもなれずに放ったらかしにしてある。祖父の相続のこともあり、智弘伯父に促され僕は父の居場所を捜すことになった。父の記憶が少しずつ甦っていく。父はナイチに来る前の話はほとんどしなかった。写真も持っていなかった。僕の頭の中にいる彼は、北海道とナイチで違う男なのだった。

内職の斡旋をしていた父。金魚を輸出する投資話に乗っかっていた父。女との逢い引きのためだしに使われたことも、ちゃらんぽらんな父に安心して、なぜか僕は言いなりになったのだ。父はどうして家を捨て、そもそも生まれ故郷の北海道を捨て、どこに行き着くこともなく姿を消したのか、居場所はあったのか。失踪宣告の申し立てをしてから十年以上経ち、父が還暦を迎えたことを知ったのは父宛に届いた同窓会の通知。それは三十を過ぎても足場の定まらない自身への問いかけへと重なってゆくのだった。

父と息子の関係を描いた作品は苦手だ。折り合いの悪い父と似ていると言われるのも嫌だ。しかし本書で突いているのはまさにそこだ。自分と父親は違うと思っていた。でも自分にもその父と同じ血が流れていることを実感する。あの人は僕の父親なんだって。普段なら怖気に包まれるような内容だ。だが嫌悪感はなかった。いや、心細さや寂寥感が胸に浸みてきた。父を思う息子に涙腺が緩みそうだった。これを読んだからといって、父に優しくはできないが、妙に琴線に触れてきた作品だった。

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伊藤たかみ
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    2009

12.21

「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」中村弦

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語
(2008/11)
中村 弦

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時は明治・大正の御世。孤独な建築家・笠井泉二は、依頼者が望んだ以上の建物を造る不思議な力を持っていた。老子爵夫人には亡き夫と過ごせる部屋を、へんくつな探偵作家には永遠に住める家を。そこに一歩足を踏み入れた者はみな、建物がまとう異様な空気に戸惑いながら酔いしれていく…。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。《出版社より》

祖父の代から建築業を営む矢向丈明は、中学時代から親交があり、東京帝国大工科大学で同じ師に学んだ笠井泉二の家を訪れた。上代子爵家から請け負った注文に応えるためには、たんに経験豊かな建築家ではだめだ。それ以上の何かが必要なので、彼に頼みにやって来たのだった。老子爵夫人が建てて欲しいといっているのは、生きている人間と死んでいる人間とが、いっしょに暮らすための家。仕事を受けた泉二は、亡くなった先代のこと、老婦人のこと、二人がともに過ごした日々について、詳しくたずねる。(「冬の陽」)

鹿鳴館の次席館員を務めている守谷喜久臣は、小学校の合同展覧会で「ろくめいくわんのゆめ」と題された絵を見た瞬間、頭に衝撃を受けた。その絵は鹿鳴館の特徴を的確につかんでいた。それ以上に驚くのは、柱のあいまが設計図面の透視図法のように抜け、建物の内部が透けて見えていることだった。そして下には、ごくかぎられた関係者しか知らない秘密の地下道が描かれていた。政府の機密が何故。その絵の作者は、息子と同じ尋常小学校に通う小学一年生の少年、洗濯屋の息子の笠井泉二だった。(「鹿鳴館の絵」)

坂牧克郎は県の警察部を追われ、片田舎の小さな警察署に飛ばされた。以来、その署の薄暗い部屋のかたすみで書類仕事をこなす日々がつづいている。野分村に変わり者の小説家が住んでいた。その大西湖南が行方知れずになっているらしい。自分の意思で消えたのか、事件に巻き込まれたのか、克郎は事件性の有無を調べてみるように命じられた。湖南が住んでいたのは、名称に偽りも誇張もない迷宮閣と名付けられた館。湖南は建築家の笠井泉二に「永久に住めるような建物をつくってほしい」と依頼したという。(「ラビリンス逍遥」)

東京帝国大学工科大学の二学期を終えたとき八人いた建築学科の三年生は、七人に減っていた。堀田はほんとうに事故で死んだのか。矢向丈明は雨宮に誘われ、後藤、富永、苑子と共に、テーブル・ターニングという西洋の交霊術を行なった。はじめる前は疑いをいだいていた丈明だが、目前で実際に卓が動き、霊媒のような役割をはたしていた苑子が緊張で気を失うにおよんで、自分たちはほんとうに堀田の霊と交信したのだと確信を持った。ただ、返答の内容が合点いかない。殺したのは笠井泉二である。(「製図室の夜」)

矢向丈明が見覚えある男と再会したのは、恩師の葬儀からの帰途だった。平丘賢悟は建築学科の丈明たちの一年先輩にあたり、かつて笠井泉二が勤めていた光竹本店の建築部で泉二と机をならべて仕事をした男だ。また、泉二の亡き妻・黎子の実の兄でもある。斎場で泉二と会おうとしても会えず、代わりにここで平丘と会えたことに、丈明は因縁めいたものを感じた。黎子が死んだ年、海外視察に出ていた泉二と平丘だが、泉二の身に何か異変があったという噂を聞いたことがあった。(「天界の都」)

敷丸商事社長の敷丸隆介は、妻のための別邸の設計を笠井泉二に依頼した。敷丸輝子が信州の村から東京へ移ってきたのは、彼女が数えで九つのときだった。友達をつくれずに孤独なままだった彼女は、近所に意外なひとりの友を得た。建物の絵ばかりを描いていた少年だった。彼は輝子のために将来の家の絵を描いてくれた。輝子はその絵をながめることで、悲しい日々を生き抜くことができた。ところが、二人が幼馴染であったことを知った夫の隆介は、二人が男女の仲にあると疑い、泉二に対して拳銃を向けてきた。(「忘れ川」)

異能の建築家・笠井泉二が建築に携わる様子を描いた話もあれば、登場人物が住む不思議な屋敷の設計者としてその影が見え隠れするだけの話もあり、また同級生から見た笠井泉二の話もある。笠井泉二という建築家を様々な角度から眺めるような、笠井泉二が設計した建物を見るような、そんな構成になっている。笠井泉二は、「むこう側」の世界と「こちら側」の世界とをつないでいるようだ。そのモチーフが、彼の建築には欠かせない天使の像だ。幻想的で神秘的な美しさがあり、独特な雰囲気が心地良い作品であった。

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    2009

12.20

「同期」今野敏

同期同期
(2009/07/17)
今野 敏

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宇田川亮太と蘇我和彦は同期だ。年齢も同じ三十二歳だ。二人とも私立大学を卒業して警察官になった。蘇我が本庁の公安に配属になったのは二年前のことだった。宇田川は野心が強いタイプだが、それに比べて、蘇我はまったく上昇志向が見られなかった。宇田川は、悔しかった。日常的に努力している自分よりも先に、本庁に呼ばれたのだ。蘇我に遅れること一年、宇田川も本庁刑事部捜査一課に転属になる。これで、蘇我と肩を並べたことになった。いずれにしろ、蘇我は気になる存在だった。

十日前に、月島署管内で刺殺された遺体が発見された。被害者の身元は指定暴力団の幹部だった。警視庁捜査一課の宇田川は、被害者と対立している暴力団事務所の家宅捜索に駆り出された。そのとき構成員のひとりが逃走した。宇田川も飛び出していた。男を追跡中に宇田川は発砲を受ける。あわやのところを救ってくれたのは公安に所属する蘇我だった。なぜこの場に彼が。それから、三日後のことだった。蘇我が突然、懲戒免職になった。蘇我は、宇田川の前から姿を消してしまい、連絡も取れなくなった。

その男の遺体が発見されたのは、アパートの一室だった。被害者は、宇田川に発砲して逃走した人物だった。特捜本部を仕切る組対四課は、指定団体の抗争事件として力技で片付けようとする。しかし、二つの殺人事件の手口が類似していることから、同一犯の可能性が浮かび上がってきた。事件関係者の証言から、二件の殺人の容疑者として浮上したのは、懲戒免職になったあと、行方がわからない蘇我だった。宇田川は同期の蘇我を助けるために、そして刑事の誇りを持って真相を追い求める。

新米刑事の宇田川、パートナーとなる所轄のベテラン捜査員の土岐、宇田川の先輩で土岐と同期の植松、上司の名波係長という刑事たち。組対の滝田課長、原田管理官、若手の柚木。さらに上の上層部の面々。大物右翼の八十島秋水、指定団体幹部の仁志。そして、宇田川の同期である元公安の蘇我。個性豊かなキャラの強い登場人物が多く、彼らの対立や協調だけでわくわくする展開が待っている。事件の概要も二転、三転する。宇田川は、先輩の助けを借りながら、なんとか逆境を乗り越え活路を見出してゆく。

刑事としてどう生きるかを確立できていない宇田川の成長を描きつつ、警察がさまざまな思惑のもとで動いていることを実感させる作品だ。キャリアやノンキャリアを含めて、多くの警察官が正義感や誇りを持って仕事をしている。刑事、組対、公安と立場は違っていても、彼らは事件解決に向けて各々に努力しているのである。今回は公安の動きは一切本文で触れられていない。そこは少し残念な点だが、公安については「曙光の街」が埋めてくれるだろう。それにしても格好いい。刑事たちの誇りと友情に痺れた作品だった。


今野敏さんのサイン。
今野2

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今野敏
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    2009

12.19

「らいほうさんの場所」東直子

らいほうさんの場所らいほうさんの場所
(2009/11/11)
東 直子

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姉の志津は、インターネット上の占いサイトを毎週更新している。生まれ月で運勢を占うという方法は、志津が独自に考え出したものだ。誰かに師事したということはなく、全くの独学である。最初は、個人の無料サイトとして、ひっそりはじめたものだったのだが、徐々に評判を呼び、スポンサーがつくようになったのだ。それまでは、街の片隅で、占いや人生相談をしていたのだが、今はやめている。志津は、人と直接会うことなく、好きな時間にできる、今の自分の仕事のスタイルに満足していた。

妹の真奈美は市民センターに勤めている。真奈美は、何年も前の姉の言葉を、記憶から掘り起こしては不満に思う。手に職を持っていないのに、堅いとこにまたちゃんと勤められてよかったじゃない。こんな年になるまできょうだいが一緒に暮らしているなんて、思いもよらなかった。せっかく、一度は結婚して出ていったのに、とんだ失敗だった。あんな男にさえ出会わなければ。姉への不平は、十年近く前に別れた元夫への恨みへとつながっていく。気に入らないなあ、あたしの人生。

末っ子の俊は派遣で肉体労働をしている。俊は、自分の身体が大きくなりすぎたことを、悲しく思う。大きくなんか、ならなければよかったのに。小さかったときは、家族が交代で、自分を抱きしめて、大切にしてくれた。もう一度、小さくなることはできないかな、と俊は思う。そうしたら、働かなくてもよくなるだろうし、両親も戻ってきてくれるような気がする。ようするに、俊は体だけは大きいが、いつまでたっても子供のような心を持つ大人になれない弱者だった。

三姉弟が暮らす両親の遺したマンションの専用庭の片隅には、彼らが「らいほうさんの場所」と呼ぶ秘密の庭があった。ある日、やって来たのは、この間スーパーでばったり出会った、志津の昔の客だと名乗った若い女だった。なんだって、家までしつこくつけまわしにきたのか。予期せぬ女の訪問をきっかけに、三姉弟の一見のどかな生活はほころび始める。そして三人が常に気にしている庭の「らいほうさんの場所」とは、はたして何なのか。こんもりと盛られた土の下に何が埋められているのか?

全編がのんびりしていながら、姉の弟に対する異常で過保護な愛とか、そんな二人を見て気持ち悪く思っている妹や、社会に適合できない弟や、占いに逆恨みして嫌がらせをする女など、だんだんと不穏な空気が満ちてきて、どんどん居心地が悪くなってゆく。そして「らいほうの庭」とは、謎に包まれたまま踏み込んではいけない聖域のような、家族の象徴性の高い場所に位置し続けている。いかにも東直子ワールドだ。ある意味ホラーであり、家族の危機と再生の物語としても読める、不思議な作品だった。

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東直子
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    2009

12.17

「精霊のクロニクル」平谷美樹

精霊のクロニクル精霊のクロニクル
(2009/09)
平谷 美樹

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瀬田暢は、中学校の入学式以来ずっと学校へ行っていない。両親や教師たちはいじめを根本的な理由と決めつけて、そればっかりをほじくり出そうとする。そんな簡単な理由じゃない。暢が学校へ行かないのは、そこが自分の居場所じゃないからだ。両親も、同級生も、先生たちも、学校そのものも、もの凄く異質なものと感じられた。苦しい。だから苛立つ。そんな苛立ちを少しの間でも忘れさせてくれるのがこの公園、このベンチなのだ。そこに、まるで奇跡のように深山の樹木であるブナが一本、ぽつねんと立っている。

ある日、公園のベンチで微睡み始めた暢は、今までにない感覚に包まれて、何かがブナを登り詰めて、天高く飛翔して行くのを見た。いつのまにか眠りについていた。長い長い、そして、とてもリアルな夢だった。それは、旧石器時代と思われる世界で生きていた自分の祖先の追体験だった。人々は精霊と交流し、獣や精霊とともに森の中で生きていた。狼を守護精霊とし、同時に隠された憑き精霊という呪いを背負い込んだ始祖。それらを受け継いだセタ一族の村長の血筋。彼らと同じ守護精霊の紅い狼の印は、暢にも印されていた。

旧石器時代のプンキネ。縄文早期に暮らしたラメトゥク。縄文中期のアラス。彼らの家族、一族との絆を断ち切られた旅立ちは切実であった。それでも、暢は自分の居場所を探して旅をしたいと痛切に思った。目指すのはブナの森だ。プンキネが旅した雪原に心当たりがあった。夢の中に出てきた“湖と野原”(ト・ヌプ)という地名だ。現在の岩手県遠野市の“遠野”という地名の語源ではないかと言われているアイヌ語だ。強力な引力のようなものが、暢を北へ引き付ける。暢は自分の居場所を求めて、一人旅立つ。

自分が食う分以外は逃がせ。山での狩も、川の漁にも獲物の数を制限する掟があった。多くの村が好きなだけ動物や魚を獲れば、あっという間に山にも川にも獲物がいなくなる。狩とは、動物の命を奪う行為だ。それは、人々の命を繋ぐために行われる。だが、人は豊になれば、食うためではなく珍しいものを手に入れるために獲物を狩るようになる。欲は積み重なるが、それでもなお満たされることはない。様々な形の呪物が造られていく。新しい風習が生まれる。追従する村も現れる。そうして、人と精霊の関わりが希薄になっていく。

そして縄文晩期のクカの時代に、西の大陸から海を渡ってきた旅人が訪れ、そのまま居ついて村を作る。彼らは天照らす神を信仰し、米を栽培し、鉄で武器を製造する。豊かな生活と便利を持ち込んだ弥生人は、土地に執着するが故に戦いの歴史をもたらすことになる。先住民クカと侵略者ナカツビコとの戦いは大変迫力がある。縄文人の祖先がたどった人生を知り、弥生人が作り上げた未来に住む現代の暢は、何を思うのか。消えた風景に寂しさを感じ、それでも今に物足りないと思う自分がいる。考えさせ、読ませる作品であった。

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    2009

12.16

「ぶたぶたと秘密のアップルパイ」矢崎存美

ぶたぶたと秘密のアップルパイ (光文社文庫)ぶたぶたと秘密のアップルパイ (光文社文庫)
(2007/12/06)
矢崎 存美

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イラストレーター森泉風子は、駅前の喫茶店でお金を払った時、レシートのキリ番を出した。特典としてもらったのはコーヒー無料券。もう一つは、会員制の三号店への特別ご招待券。ただし、三号店の会員になるには、誰にも話せない秘密をそこにいる店員に話さなくてはいけないという条件があった。その店員というのが、見た目は愛らしいピンクのぬいぐるみだが、中身は分別ある心優しい中年男・山崎ぶたぶただった。そこにぶたぶたと友だちになりたいという高校生の小野寺悠がやって来た。「キリ番とアップルパイ」

沼尾椛は、婚約者の弟である小野寺悠とケーキを食べに行く約束をしていた。珍しいアップルパイだという。そこは、悠が会員になっている喫茶店で、連れは一人だけしか連れていけないらしい。さらに、予約しないと食べられないパイだという。食べたい。スイーツおたくとしての闘士が湧き上がる。しかし、店内でぶたぶたを一目見た椛は、悲鳴をあげて倒れてしまった。彼女は幼い頃から見えないものが見てしまうことから目を逸らし、一度も見ようとせずにずっと怯え続けていた。「お守りの代わりに」

風子のもとへ、意外な人物からメールが届いた。中学卒業以来、会っていなかった友人だ。中学の頃は、その亜里砂とともにマンガ研究会に入って、せっせと作品を描いていた。その夜も、亜里砂から電話がかかってきた。まるで学生に戻ったような無邪気な会話が楽しかった。それ以降、毎日のように電話してメールして、週一で会って、本当に中学生に戻ったみたいだ。彼女は短いマンガを今も描いていた。偶然だが、しゃべるぶたの従者がいた。亜里砂にぶたぶたを見せてあげたら、喜ぶだろうか。「賢者フェルナンド」

オーナーの右京が、ぶたぶたと出会ったきっかけはアップルパイにあった。彼に初めて会ったのは、とある喫茶店だ。ぶたぶたは雇われマスターだった。オーナーは経営する自分の店でデザートに力を入れようとしていた。有名なパティシエの人にレシピを作ってもらっていた。しかしオーナーはモヤモヤしていた。作ってもらいたいと思っているケーキがあるが、それをどうしても言い出せなかった。それは、中学生の頃に夢の中で食べた、現実では食べたことのないアップルパイだった。「雪の夜」

小野寺悠は、ずいぶんとぶたぶたのいる喫茶店に行っていなかった。椛が倒れてから、兄の様子もおかしくなるし、両親が深刻な顔をしているし、悠にはくわしいことを何も言ってくれないので、不安ばかりが募る。椛とは、倒れてから一度だけ電話で話したが、あんなふうになった原因が悠にあるのに、彼女は「ありがとう」と言ったのだ。なぜだろう。それもたずねたかったのに。椛と兄の婚約が、破棄されるかもしれない。「そういうことなら、ぶたぶたのところに行けば?」偶然すれ違った風子に勧められた。「消えていく秘密」

今回のぶたぶたは、会員制の喫茶店の店員さん。おいしい珈琲はもちろん、食べたことのない手作りのアップルパイで訪れるお客をもてなしてくれる。そしてキーワードとなるのが、誰にも話せない秘密。一話完結もあれば、連作によって解決する秘密の悩みごと。ぶたぶたのいる喫茶店に通う客たちはみな、ここで心の荷物を下ろし、新しい人生へと踏み出す勇気をもらってゆく。自分はコーヒーもアップルパイも苦手だけど、こういう隠れ家なら行ってみたい。そしてぶたぶたに秘密を聞いてもらいたい。

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    2009

12.15

「蒼路の旅人」上橋菜穂子

蒼路の旅人 (偕成社ワンダーランド (31))蒼路の旅人 (偕成社ワンダーランド (31))
(2005/04/23)
上橋 菜穂子

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北の大陸に大きな変化のうねりが迫っていた。攻めのぼる障害となってきた海の王国サンガルが、圧倒的なタルシュ帝国の軍事力をまのあたりにして、変わりはじめたからだ。サンガル王国が新ヨゴ皇国に援軍をもとめてきた。帝は海軍大提督トーサみずからが艦隊を導くように命じた。皇太子チャグムの母方の祖父トーサは、チャグムのもっとも大きな後ろ盾だ。今回のことは、帝にとって、邪魔な養父を消す絶好の機会なのだ。それほど帝は、才気溢れる若者に成長したチャグムをうとんじているのだった。そして帝である父に怒りをぶつけたチャグムもまた、旗艦に同船してトーサを助けるように命じられた。

トーサはチャグムを守るだめに、自ら炎に包まれた旗艦と共に海に沈んだ。チャグムは捕虜となる。サンガル王国はすでにタルシュ帝国に服従しており、忠誠を示すために罠をはっていたのだ。チャグムは虜囚小屋から逃亡するが、タルシュ帝国の密偵ヒュウゴにさらわれた。ヒュウゴはタルシュ帝国にほろぼされた同じ祖をもつヨゴ皇国の者だった。鷹のような男ヒュウゴは、チャグムを帝にすることが新ヨゴ皇国を救う、ただひとつの道だと言った。チャグムは、ヒュウゴを手伝うサンガルの年若い女船頭セナの海賊船に乗せられ、タルシュ帝国へつれていかれる。

故国は滅亡の淵にある。帝国の兵力を後ろ盾にして国に帰り、父に退位を迫って帝になる。属国になれば新ヨゴ皇国は焼野が原にはならない。我が子を殺せと命じられるような、人の心を持たぬ冷たい憎い男を殺すだけだ。国と民を戦火から救うという、大切な理由もある。それなのになぜ、殺したくないのか。父も、兵士たちも、だれも殺したくない。死なせたくない。けれど、それは、かなわぬ夢なのだろうか。帝国の第二王子ラウルに謁見したチャグムは決断を迫られる。チャグムが考え抜いた末の決断とは……。チャグムの旅は始まったばかりである。そして、今後バルサはどう絡んでくるのか。続きが気になる。


「精霊の守り人」 
 
「闇の守り人」 
「夢の守り人」 
「虚空の旅人」
「神の守り人 来訪編」
「神の守り人 帰還編」
「蒼路の旅人」
「天と地の守り人 ロタ王国編」
「天と地の守り人 カンバル王国編」
「天と地の守り人 新ヨゴ皇国編」
「流れ行く者 守り人短篇集」

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    2009

12.13

「メギド」渡辺裕之

メギドメギド
(2009/09/19)
渡辺 裕之

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ベトナム戦争が泥沼化し、日本国内でも政情不安が続いていた1972年、奥多摩にほど近い檜原村の滝壺の縁でひとりの美青年が発見された。彼はすべての記憶を失い、頭部に大きな手術痕が残っていた。やすらぎの郷というキャンプ場を経営している根岸達夫に助けられ一字をもらって達也と名づけられた青年は、キャンプ場の仕事を住み込みで手伝うことになった。やがて、戦中から兵器開発を続ける軍需会社“大島産業”から達也に刺客が送り込まれた。だが、達也はメギドと呼ばれるもうひとりの人格を自覚、敵を撃退する。

達也は断片的にメギドとしての殺人の記憶が甦るようになる。メギドはハルマゲドンが行われる丘の名前、神と悪魔、善と悪が最後の戦いをする戦地。メギドこそ達也であり、一つの体の中で善と悪が闘っている。達也は、生まれつき二つの人格を持ち、一つの肉体の中で葛藤している。しかも脳に古武道の達人の脳細胞を埋められた人間兵器だった。そして記憶喪失になる強い暗示をかけられているのだ。達也はやすらぎの郷を飛び出し、新宿に流れ、幻覚のビジョンに導かれるまま天竜峡の竜泉寺を目指した。

ぱっと思い出したのはジェシカ・アルバ主演の「ダーク・エンジェル」という海外ドラマ。その日本版と思っていただければほぼ間違いない。主人公は、大島産業の人体実験施設から脱走したものの、自分が誰なのか、どこからやって来たのか記憶を失っている。しかし、危険が訪れると古武道の達人となる。圧倒的な強さだ。だがそれは悪の人格メギドであって、その間達也は眠っている。やがて達也自身もその能力を発揮し出すが、脳の中では二つの人格を共有できても、メギドが表に出ると暴走してしまう。

そういう独自の人物設定はあるものの、それ以外の大筋は「ダーク・エンジェル」そのもの。出会う人に恵まれつつも、刺客の襲撃を受けては闘う。強いけれど心に弱い部分がある。零チャイルドと呼ばれる自分と同じように製造された人間兵器がいる。そして記憶がブロックされたままの達也はプロテクターを解除するため研究所に侵入し、同じ境遇の仲間でありながら洗脳された兵士たちが立ち塞がることになる。アクションものとしては定番の部類に入るのだろう。そして意外とライトで取っつきやすい作品だった。

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    2009

12.12

「祝福されない王国」嶽本野ばら

祝福されない王国祝福されない王国
(2009/07)
嶽本 野ばら

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正義は欺瞞、平等は害悪、犯罪は愉悦――愛する女性の清い心を信じた若者は悲惨な末路を辿り、不正を根絶しようとした王は民を殺し、国を失う。残忍で非情、身も蓋もない話ばかりです。しかし、これが僕たちの現実の世界のありようです。現代アートの鬼才、藤本由紀夫のオブジェ作品とともに贈る、黒い諧謔と毒に満ちた寓話集。《出版社より》

一定の基準を元に国民のすべてを平等にして幸福になった国の末路とは(「exchange」)、愛してしまった女性を檻に監禁して国を逃亡した王子は(「cage」)、百年後の未来から会いにきた女性に惚れた男は(「eat me」)、外国の芸術に価値があると信奉する国の王は(「receptacle」)、国中の人から信仰の対象として崇め奉られた青年の顛末は(「lie cylinder」)、お互いの合意さえあれば良いとする国に漂流した牧師は(「et/te」)、観た者を虜にする得体のしれないものと、箱に入れられたそれに取り憑かれて狂気する人々(「effect/cause」)、七人の王子の中から跡目を誰に譲るか決められない王は(「east of the moon or west of the sun」)、王を含め嘘吐きの国民ばかりが棲む国の行方とは(「spin/mediums-ex.change」)。

架空の倫理観の違う国を舞台にした黒い寓話集。さくっと読めるものの、似たような設定が多かったような。価値観の違い、理不尽、不条理などその言葉は違っていても、全部黒いと判っているオチであるが故に、代わり映えのないものと思え、衝撃の受けの弱さを感じてしまった。寓話が示す教訓にしても心に響いてくるものがない。それと新しいことに挑戦するのはいいが、野ばらさんにしか書けないという作品とも思えなかった。自分としては、悪くはないけど、なんかもう一つ。厳しいでしょうか。

そういう感想を別にして、嶽本野ばらさんのサイン会に参加してきました。以前に経験した時と同じですが、やはり桃子ちゃんがいっぱい。サイン会も二度目になると、ひらひらした桃子ちゃんたちにドキドキすることもなく、自分は異分子だという疎外感はあまり感じなかった。そして恒例の抱きつきツーショットを希望する女の子が多いだろうと見越し、サイン会開始の一時間後の列に並ぶが、その作戦は見事に不発。列は遅々と進まない。ようやく順番が回ってきたとき、「何か書いてもらっていいですか?」と、お願いしてみた。


嶽本野ばらさんのサイン。(おまけ付き)

嶽本野ばら1 嶽本野ばら2

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嶽本野ばら
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    2009

12.10

「巡査の休日」佐々木譲

巡査の休日

巡査の休日

村瀬香里はストーカー被害に遭っていた風俗嬢だ。ストーカーの鎌田光也は、帯広で強姦殺人を犯していたとわかり、大通署生活安全課の小島百合が張りつけ警戒についた。捜査本部の読みどおり、その村瀬のアパートに鎌田は侵入した。しかし警戒中の小島に右肩を撃たれ、住居不法侵入現行犯で逮捕されたのだ。鎌田は銃傷の治療のため、医大病院に緊急入院、監視付の特別病室で治療中だった。その彼が、人質を取って脱走し、行方不明になって一年が経っていた。

津久井卓は帯広警察署の在籍であるが、道警本部内に置かれた鎌田事件捜査本部に出向という名目で組み入れられていた。鎌田の足どりは完全に途絶えていた。そこに神奈川県で現金輸送車を襲撃する未遂事件が起こった。犯人は二人組。遺留品のマスクに残っていた唾液から、ひとりは道警が全国に指名手配している鎌田と断定された。もうひとりの男の身元は判明していない。鎌田はかつて自衛隊にいた。津久井は捜査員の渡辺と組んで、鎌田の自衛隊当時の交友関係を洗い出す。

二年前、裏金問題が表沙汰になったとき、佐伯宏一や新宮昌樹は幹部たちを無視して越規行動を取った。その結果、同じ大通署刑事一課の盗犯係ながら、ふたりだけ組織本体から分離された配属となった。要するに干されたのだ。バイクを使った二人組のひったくり事件が東署管内で連続して起こり、ついで大通署管内で二件発生した。佐伯と新宮は現場付近で聞き込み調査をする。その一方で、佐伯はキャリアの連中がでっちあげた架空の犯罪を知り、その事件と自分なりのケリを着ける。

村瀬香里は風俗の仕事を辞め、美容学校に通い出していた。また、誰かが狙っている。村瀬のネットワーク・サービスに、「また会おうね」「見つけたよ。気をつけな」というメッセージが送られたのだ。さらに、親しい友人の携帯が盗まれ、村瀬の携帯に同じ文面のメールが届いた。再び小島百合は村瀬の警護を命じられる。その村瀬は、北海道の一大イベント・よさこいソーラン祭りに出場することが決まっていた。小島は自らもよさこいで旗手として踊ることになる。

「笑う警官」、「警察庁から来た男」、「警官の紋章」に続く、北海道警シリーズ第四弾。というわけで、先行する作品を読んでいないと、随所で置いていかれてしまう場面がある。しかし、面白い。小島百合、津久井卓、佐伯宏一、新宮昌樹の四人は、かつて一度だけチームを組むことがあった。その名も裏捜査本部。それ以降は、各々がニアミスする程度の関係で、今回の行動も各自で独立したものだ。それでも読ませる内容だった。だが一読者は強く思う。またいつか裏捜査本部を、と。

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佐々木譲
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    2009

12.08

「寂しい写楽」宇江佐真理

寂しい写楽寂しい写楽
(2009/06/26)
宇江佐 真理

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伝蔵(山東京伝)の洒落本の三冊が寛政の御改革に触れ、伝蔵は手鎖五十日、板元の耕書堂蔦屋は身代半減、闕所の沙汰を受けた。一世を風靡した草双紙、美人画、狂歌集が蔦屋から出たことなど、今では夢のように思われた。朋誠堂喜三二、恋川春町、大田南畝、喜多川歌麿など、名のある戯作者や絵師は蔦屋の元から去って行った。幕府の倹約令に触れないものは、もはや役者絵ぐらいのもの。大首絵をやる。そればかりではない。雲母摺りの技も使うのだ。大首絵も雲母摺りも袂を分けた歌麿が考案したものだった。

絵師に選ばれたのが、東洲斎写楽。本業は能役者で、斉藤十郎兵衛という男だった。ひと月足らずの間に、大首絵の雲母摺りで三十枚の役者絵を出す。幾ら速筆の絵師でも、その数は無理。そこで助っ人に借り出されたのが、山東京伝の伝蔵、鉄蔵(後の葛飾北斎)、幾五郎(後の十返舎一九)だった。世間はもう蔦屋は終わりだと見限っているかも知れない。蔦重健在なりと江戸の人々に知らせたい。もうひと花咲かせ、元の店の間口を取り戻すまでは。懸案の役者絵は蔦屋重三郎の賭けであり、祈りでもあった。

写楽の正体を問う作品ではないので書くが、東洲斎写楽とは、あまりに真に迫った大判雲母摺りの第一期から、第二期、第三期、第四期と出版数は増えるものの、描けば描くほど絵が下手になっていくのは何故か、約十ヶ月という短期間に活動をやめてしまったのは何故か、蔦屋が無名の新人の浮世絵を多く出版したのは何故か、などといった点が写楽探しの謎を生み、別人説の候補として多くの浮世絵師の名が挙げられた。しかし近年の研究によって阿波の能役者・斎藤十郎兵衛説が有力とされている。

そうした流れがある中、本書は能役者の斎藤十郎兵衛を写楽としつつ、別人説の候補として名が挙がった戯作者の山東京伝、浮世絵師の葛飾北斎、滑稽本の十返舎一九を影武者とする蔦屋重三郎による工房説を取り入れている。そして「寂しい写楽」というタイトルが現すように、身上半減の憂き目を見た蔦屋重三郎、女房を亡くした山東京伝、勝川派を破門された若き日の葛飾北斎、上方から流れてきたばかりの十返舎一九と、寂しい境遇にいる人物を配している。そして写楽もまた、寂しい男として描かれている。

写楽絵も当時は売れずに寂しかった。そして日本が開国されて外国人が行き来するようになった時、浮世絵は日本土産の包み紙として用いられていた。そのSharakuを見たドイツの美術研究家クルトが、レンブラント、ベラスケスと並ぶ世界三大肖像画家と激賞したことがきっかけで、写楽は日本で初めて評価を受けるに至った。海外で評価されたから、これはすごいものらしいってのも寂しい。気づいた時には多量の浮世絵が海外に散逸していたのも寂しい限りだ。思えば、寂しい、寂しい、寂しい写楽であった。

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    2009

12.07

「僕たちの旅の話をしよう」小路幸也

僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)僕たちの旅の話をしよう (MF文庫ダ・ヴィンチ)
(2009/10)
小路 幸也

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山奥の小さな村に住む少女が、十個の赤い風船に手紙を託して空に放った。その風船を受け取ったのは、東京に住む三人の少年少女。やがて少女の手紙を介して知り合った少年たちは、チャットで話し、実際に会って親交を深め、三人で夏休みに少女に会いに行くことを計画する。しかし、そこにはお金の問題、親の問題があり、さらに理不尽な現実が事件となって立ちふさがった。

どれほど遠くのものでも見えてしまう小五の芳野健一。お父さんは元メジャーリーガー。野球ができなくなってからは、スピリチュアルなものにお金をつぎ込んでなんとかしてもらおうとしている。料理研究家のお母さんは忙しくてほとんど家にいない。超高層マンションの最上階という家のことは、変わり者のユウジおじさんの恋人・真屋さんが完璧にこなしてくれている。

どんな匂いもかぎわける小六の喜田麻里安。お母さんは小さなスナックのママをやっている。家は最下層だけど、お金持ちの人のことをうらやましいと思ったことはない。生まれたときからずっとこういう生活だからどうしようもない。そしてカンザキがいる。お母さんのスナックの用心棒兼お母さんのパートタイム愛人兼バーテンダー。とはいっても、実質はお母さんのヒモ。

あらゆる音を拾う耳を持つ小六の米沢隼人。隼人はかつて心臓の手術で一年近く入院していた。だから六年生といっても年齢はひとつ上。母は家を出て新しい家族を作り、弁護士の父と四つ上の兄という男ばかりの家の中は、それなりにうまくやっている。大人の事情はよくわからないが、しょうがないと納得している。人生は、いろいろある。臨死体験をした隼人は、十三歳でそこまで悟っていた。

風船に手紙を託した小六の藤倉舞は、山の谷にある小さな集落に祖父母と暮らしている。山の森の中なので、インターネットも、携帯電話も電波がとどかない。学校に先生は二人いるが、生徒は舞ひとり。おばあちゃんといっしょに家事を全部やり、おじいちゃんの畑の手伝いもしている。村には商店がなくなってしまったので、近くのお年寄りたちの分も一緒に、ふもとの町まで買い物にもいっている

三人はただ山村の少女のもとに遊びに行きたいだけなのに、子供という力の弱さが邪魔をする。子供って、大人の人の助けがないと生きていけない。でも、どうして大人は子供のことを考えないのか。大人の都合で振り回される子供はかわいそうだ。しかし、大人は大人で世間というしがらみがあるので柔軟に動くことができない。その点、子供は自由だ。後先考えずに無茶だってできる。彼ら子供たちの、一夏の冒険に、わくわくの一冊だった。

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小路幸也
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    2009

12.05

「ぬるい男と浮いてる女」平安寿子

ぬるい男と浮いてる女ぬるい男と浮いてる女
(2009/10)
平 安寿子

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開業医を目指した貴子が出会ったのは、跡継ぎのいない村上クリニック。医者になる気がまるでなかった定雄とビジネスライクに結婚し、村上の家に入ったよそ者だ。何年経っても、その感覚は消えない。夫は病院経営コンサルト業を興し、今度はカフェを経営するという。しかも店長は、養父が言うところの「バカな親父とバカな母親の間に産まれた筋金入りのバカ」という甥っこにやらせるそうだ。店のコンセプトは、洗練された人がいい時間を過ごせるサロン、とは、オーナー(夫)の言葉だ。(「長い目で見て」)

サチオは勤める銀行から退職勧告を受けて故郷に帰った。そして、銀行勤めの経験を売り物に、地元の不動産会社に就職した。仕事の取引先でもある中学時代の親友の父親が死んだという知らせが来て、葬式に行った。そこで中学卒業以来となる彼女を見つけた。彼女は地元で手広くチェーン展開しているスーパーマーケットの娘だ。サチオは彼女に恋をしてしまった。その小森玖美の趣味は葬式に行くことだった。付き合いがないのに、葬式があると必ず来る。しかも、泣く。(「ブルーブラックな彼女」)

展示家具のショールームで働く剛は、モテたいヤリたいという肉欲が薄いことから「草食系男子」と呼ばれている。まったくダメとか、嫌いというのではない。でも、ご要望には応えなければならないとなると、萎えてしまう。剛だって、デートはする。女友達も数人いる。だが、いつも割り勘だ。女の子とも友達関係でいるほうが好ましい。恋人より、友達がほしい。どうしてそうなのか、なんて、生まれつきだ。剛は、生きることより、自宅で快適に暮らすことのほうに関心がある。それはもう、昔からだ。(「滅亡に向かって」)

一枝は高卒ですぐに就職し六十歳の定年まで働いたから、厚生年金の給付額はけっこういい。マンションのローンは退職金で完済したし、貯金もある。頼れるのは自分と金だけだ。一枝が恐れているのは、死よりも病気だ。年金相談センターでバイトするようになってから、特にそれを感じるようになった。一枝は用心深い。でなければ、優雅なひとり暮らしを享受できない。大人のためのバレエ教室に通っているのは、別の人生を歩んでいたかもしれないという「気分」が味わえるからだ。(「浮いてる女」)

何を考えてる? 収はよくそう訊かれる。バイトしているスニーカー専門店では、二歳年下の裕太が、高校生の麗菜が、先輩バイトが、あるいは店長が、よってたかって収の何も考えていないおバカぶりを指摘する。怒られる。説教される。こんな収だが、まだクビにはなっていない。いないより、まし。店長がそうボヤいているのを聞いた。ああ、そうかと、収は思った。ということは、いたほうがいいんだ。なら、いよう。アルバイト先さえしくじなければ、一人の暮らしを守っていられる。(「ぬるい男」)

トシオが彼女に出会ったのは、去年の今頃のことである。彼女は電気製品を狂わせる。そういう体質なのだという。身体が電気的な何かを発して、影響を及ぼすらしい。これはどうやら遺伝的なものらしく、彼女の家ではテレビや洗濯機がすぐ壊れた。しかし、別に問題は感じなかった。機械は壊れるものだから。トシオは不思議ちゃんが嫌いだ。だから、彼女の言うことも納得できない。でも、腹は立たなかった。反発するなんて、とても無理だ。彼女はあまりにも素敵だった。四十歳で、淫乱であっても。(「えれくとり子」)

ちょっとヘンな男女6人の人生模様を描く短篇集。他人から見ると変わり者でも、本人たちにとってはそれがふつう。他人に迷惑や不快感を与えなければ別に問題はない。ここに登場する男女は、そういう意味では許せる人たちだ。本人の生き方や、人とは異なる嗜好にしても、それほどクセがあるわけではない。ほんのちょっとヘンなだけ。だからなのか、読み終えてもあまり印象に残らない。面白さもいつもの平作品と比べると控えめ。この「ちょっと」という匙加減を、もう一杯ぐらい加えて欲しかった。

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平安寿子
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    2009

12.03

「ロード&ゴー」日明恩

ロード&ゴーロード&ゴー
(2009/10/21)
日明 恩

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東京消防庁に入庁して十五年、元暴走族のヘッドという過去を持つ生田温志は周囲も認める熟練した運転技術を持っているベテラン機関員。だが、今に至るまで運転してきたのは消防車で、救急車ではない。ともに緊急車両ではあるが、求められる運転技術はまったく異なる。恵比寿出張所に異動して二ヶ月。救急車の機関員として、自分はまだまだということを生田は自覚していた。

その日、隊長の筒井、救命士の森英利子、機関員の生田の三人は、いつものように救急搬送を繰り返し、給油してから出張所に戻ろうとしていた。その時、路上で倒れていた男を発見して車内に収容したところ、男は突然刃物を森の喉に突きつけた。悠木と名乗ったその男は、家族を人質に取られ、謎の男に命じられて爆弾を持って救急車をジャックした。そして爆弾は犯人の遠隔操作で爆発させることができる。

犯人の指示は、救急車のルールを守って時間内に指定された病院へ向かうこと。同じ頃、警視庁とテレビ各局に犯人から犯行声明が入った。二億円を要求する。車内の様子がすべて無線で傍受され、ネットにアップされる中、タイムリミットを目指して走る爆弾が詰まれた救急車と、それを追いかけるマスコミ車両、さらに空撮するヘリコプターが、東京の街中を駆け巡る。犯人グループの真の目的は何なのか?

まず、救急車や出張所、救急隊員たちの役割が細かく描かれている。さらに、救急搬送の問題点や受け入れる側の病院の内情なども問題提起されている。救急隊員や医者は出来る範囲の中で精一杯のことを尽くしている。それでも起こる妊婦の受け入れ拒否によるたらい回しなど、どこに不備があるのかが判りやすく提示されている。それにも関わらず、システムが一向に改善されないのは誰が悪いのか。本書の鍵はそこにある。

生田の運転する救急車内部の刻々と変わる状況、無線を統括する冷静な通信員の鬼島、消防無線の傍受が趣味という女子高生の真琴、犯人からの犯行声明を握りつぶしてしまった報道番組スタッフの徳居、対応に追われる警視庁、そしてその他の消防職員たち。それぞれの視点で立場を変えて物事を見せる物語の面白さに興奮する。さらに怒涛の赤い展開は圧巻の一言。街中をノンストップで走りぬける救急車のように一気に読ませる作品だった。

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    2009

12.02

「オチケン」大倉崇裕

オチケン! (ミステリーYA!)オチケン! (ミステリーYA!)
(2007/10)
大倉 崇裕

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大学に入学して早々、廃部の危機に瀕した落研(落語研究会)に入部するはめになった越智健一。そこで待ち受けていたのは、古い部室(幽霊が出る噂アリ)と、風変わりな二人の先輩―天才的な落語の才能を持つ(らしい)、飄々とした岸と、爽やか青年なのに、なぜか押しが強い中村―だった。落語なんてまったく知らず冷や汗ものなのに、勝手な先輩たちに振り回され、ろくに授業も出られず、サークル間の陰謀にも巻き込まれる。そのうえ、キャンパスで奇妙な事件が起きて…。抱腹絶倒の中篇を二篇収録した、連作落語ミステリー。

そもそも、岸弥一郎という先輩のことも、今年二年生になる中村誠一という先輩のことも、越智は何も知らない。さらに言えば、自分が在籍している落研のことも、そして、自分がなぜ落研に入部しなければいけないのかも。落研の部員は岸と中村、それに越智の三人だけ。この学校は、部員が三人を切ると、自動的に廃部にされる。だから今年は、最低でもひとり入部させる必要があった。そうして岸に連れてこられたのが越智だった。名前が越智健一でオチケンとシャレているという理由で。

落研の部室がある黎明棟は、ほぼすべての公認文化系団体の部室があり、満室状態が続いていた。つまり、新たに公認された団体には、部室がないということだ。だから彼らは、どこかの部が廃部になるのを、いまかいまかと待っている。そしていま、もっとも廃部に近いのが、落研だった。昨今のブームで部員百三十人の「お笑い研究会」、部員数は三十二名で結成二十年目の「釣竿会」、ボランティア活動を中心にしている部員二十人の「折り紙の会」の三団体が、「落研」の部室を狙っていた。

問題は部室の使用申請書にあった。五月に行われる文化系団体総会を通じて学校側へ提出する。それを怠ると、部室を追いだされてしまう。二回までは、厳重注意で再発行してもらえる。三枚目をなくしたら、それでお終り。ところが、岸がすでに二枚なくし、部室の金庫にある申請書が再発行をしてもらえる最後の一枚だった。その申請書が紛失した。部室で寿限無を語る幽霊の声を聞く(「幽霊寿限無」)、馬術部の依頼で喫煙する未成年部員たちを盗撮した犯人を調べる(「馬術部の醜聞」)。そして申請書はどこに?

お人よしでバカ正直な越智君は、単位の必要な授業に出られず、アルバイトも探せず、オチケン部員でいることの意義を見出せない中、何かと騒動を引き寄せてしまう巻き込まれ系。謎の多いミステリアスな先輩二人が魅力的で、落語がヒントとなる事件解明も軽妙。また合間に導入される落語の内容も判りやすい。ただ退学や廃部の条件は厳しすぎでしょ。そういうツッコミ部分はあるものの、肩肘はらずに軽く読める一冊。序章っぽい感じなので、先輩たちのキャラが鮮明になった続編「オチケン、ピンチ!!」の方も気になる。

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    2009

12.01

「午前零時のサンドリヨン」相沢沙呼

午前零時のサンドリヨン午前零時のサンドリヨン
(2009/10/10)
相沢 沙呼

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ポチこと須川くんが、高校入学後に一目惚れしたクラスメイト。不思議な雰囲気を持つ女の子・酉乃初は、実は凄腕のマジシャンだった。放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』でマジックを披露する彼女は、須川くんたちが学校で巻き込まれた不思議な事件を、抜群のマジックテクニックを駆使して鮮やかに解決する。それなのに、なぜか人間関係には臆病で、心を閉ざしがちな初。はたして、須川くんの恋の行方は―。学園生活をセンシティブな筆致で描く、“ボーイ・ミーツ・ガール” ミステリ。第十九回鮎川哲也賞受賞作。

子供の頃の自分が夢中になったのは、テレビの中の初代・引田天功の脱出イリュージョン。そして初めて目の前でマジックを見たのは、二代目・引田天功。現在のプリンセス・テンコーだ。現在では世界的なエンターティナーになった彼女だが、当時見たのは百貨店のフロアを借りた手品ショウ。バニーのような格好で、おかん曰く「大人の男は手品よりも太腿を見ているのよ」という言葉を記憶している。なぜそのような古い記憶を思い出したのか。それは主人公の須川くんの目線が、たびたび女子の太股にいってしまうからだ。

ギャップというものに惹かれることがある。例えば、眼鏡女子の素顔や、怖そうな人が見せる動物好きな一面。人の身体をバチバチ叩くような人が、飲み会でテーブルを拭いている姿や、ふと見せるしおらしさ。その意外性を知って、ぐっとくることってあるでしょう。学校では物憂げな表情で、ほとんど笑わなくて、口数が少なくて、どことなく近寄り難い。そんな彼女がバーのカウンター越しに、見たこともないような表情と、聞いたこともないような声で、素敵なマジックを披露してくれたら。日常にある謎を解いてくれたら。

図書室で見つけた変てこな書架。三段目の雑誌だけ真ん中の一冊以外すべて逆向きに収められていた謎(「空回りのトライアンフ」)、音楽室に置き忘れたハンカチを盗むと、机にナイフで三つのfを刻んで去っていった怪盗スリーエフの正体(「胸中カード・スタッブ」、学校で飛び降り自殺した女の子の幽霊のしわざとされた不思議(「あてにならないプレディクタ」、さらなる幽霊騒ぎが起こる中、最近の酉乃さんの様子がおかしい(「あなたのためのワイルド・カード」)。

マジックは不思議を楽しむものであって、推理小説のように解明を楽しむものではない。マジックはその名前の通り、魔法。マジックにタネがあるのは誰にだってわかっている。それを踏まえて不思議を楽しむのがマジック。その言葉の通りマジックのタネ明かしはしない。しかし、日常の謎は解き明かしてくれる。そして、問題を抱えている生徒に優しく接することで、その人を救っていく。人間関係はちょっぴりビターだが、恋はわりと甘くて、マジックと連動したミステリは巧みで、読後感が心地良い一冊であった。


相沢沙呼さんのサイン。

相沢1

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