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    2010

03.30

「キケン」有川浩

キケンキケン
(2010/01/21)
有川 浩

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成南電気工科大学。この成南大に数ある部活の一つに「機械制御研究部」があった。略称「機研(キケン)」。しかし、この略称が部にまつわる様々な事件から、ある種の畏怖や慄きを持って名付けられたことは、機研黄金期の在学生には広く有名だった。機研(キケン)=危険。その黄金期。「機研」は正しく危険人物に率いられた危険集団であった。

上野直也、成南大二回生。部長。大学きっての危険人物、その名も「成南大のユナ・ボマー」。大神宏明、二回生。副部長。通称「大魔神」、迫力で右に出る者なし。元山高彦、一回生。持って生まれた常識が部活動では弱点に? 自宅が喫茶店。視点であり、突っ込み担当。池谷悟、一回生。人当たりのいい情報通。大らかさが大器の予感。多少のことでは動揺しない。

新入生の元山と池谷は正式に「機研」の部員となった。そこではじめてのミッション。名付けて新人部員獲得作戦。とんとんと四十人を越える入部希望者が集まった。しかしそれを十人前後まで減らす、と上野は明言している。火薬好きのユナ・ボマー上野は一体どんな秘策を用意しているのか。X‐Dayは各部が趣向を凝らすクラブ説明会だ。

新入部員も大(魔)神の洗礼を受けつつ、日々「機研」に馴染んでいった。その大神がお嬢様系の女子大生からラブレターをもらった。上野の代筆をきっかけに、二人は付き合うことになり、デートを重ねていく。大事件が勃発したのは、付き合いはじめて三ヶ月目に入る頃合いだった。両親が出かけているから、うちに遊びに来ないかと誘われたのだ。

学際の季節がやって来た。「機研」の模擬店は伝統的にラーメン屋。しかもスープから作る本格派。学際中に一日か二日「奇跡の味」が出るらしい。でもあくまで偶然任せだと指摘した元山は、模擬店の店長に任命されてしまう。お店の子である元山は、本番までにただ一人でスープを完成させることになった。

学際の本番がやって来た。しかも因縁あるPC研がほとんど向かい合わせでラーメン屋をぶつけてきた。目標は売上げ百万円。実際にそれに近い売上げを毎年叩き出していたわけだから、味の完成度はともかく本気度は学内ぶっちぎりが伝統だったのだろう。いよいよ「らぁめんキケン」始動。はたして目標は達成できるのか。

秋の研究発表で「機研」はラジコン式の二足歩行型ロボットを提出して高い評価を得た。それが理事長の目に止まり、ご指名がかかった。県主宰の中途半端な自己満足でしかないロボット相撲大会に出場して、イベントを盛り上げるようにと。ロボット操作に任命されたのは、いつも冷静な池谷だった。

「機研」は全員が無事に進級し、二回生は三回生に、一回生は二回生になった。上野部長、大神副部長の体制は変わらない。たまたま元山しか部室にいないタイミングだった。床の上に散らばっていたビスとボールペンのプラ軸を利用して、即席の空気銃を作り、壁に向かって発射した。二回生と一回生の意見が一致した。このビスを完全に埋没させたい。


すっごく面白かった。男子なら、元男子なら、こういう無茶は憧れる。それとも君は経験したか。自分は後者の方だった。やったな~! ここでは言えない無茶をいっぱい。男子が集まって、何しよっか?と集まれば、それ自体が危険の始まり。でも本人は危険だと思っていない。無知の強さだ。楽しいこと。迷惑なこと。危ないこと。命に関わること。

その楽しかった当時の思い出だけど、今できることはほとんど一つもない。その行いが法に引っかかるからだ。当時はやっちゃったのだ。地域のみなさま、爆音でごめんなさい。学校関係者の方、散らかしてごめんなさい。そして警察の人、名前って残っているのかな? でも、当時は楽しかったー! そんなことを思い出した一冊だった。また、最後にほろっとくるところがグッド。

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有川浩
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    2010

03.27

「真綿荘の住人たち」島本理生

真綿荘の住人たち真綿荘の住人たち
(2010/02)
島本 理生

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それは由緒正しい木造二階建てのアパートだった。東京は江古田にあるレトロな下宿「真綿荘」。一階には、恋愛小説家でもある大家の綿貫さんと、大家の内縁の夫で画家の晴雨(せう)さん。二階には、男嫌いで愛想はないけど面倒見の良い事務員の椿さん。大柄なのがコンプレックスで自分に恋など似合わないと思っている性格の良い女子大生の鯨ちゃん。大学に入ったら可愛いい彼女をつくると心に誓う北海道からやって来たばかりの大和くん。彼ら住人の恋はどれもままならない。

昔ながらの風景が残る江古田という町の情景や、間取り図のある木造二階建ての真綿荘の描写など、どこもかしこも開発が進む現在において、どこか懐かしい場所に安心感を覚える自分がいた。実際に寮生活をしたとか、下宿したとか、そういう集団生活をした経験はない。だが、同じ釜の飯を食っていることで生まれる第二の家族という感覚は、ひと昔前の昭和年代の人なら、不思議となんとなくノスタルジックで既視感ある光景に思えてくるだろう。

女子高生の八重子と付き合っている椿さんは、女同士の恋人の一途な愛情表現に戸惑い、大和に片想い中の鯨ちゃんは、親切だと思っていた先輩に告白されて揺れ、彼女が欲しい大和くんは、壮絶に性格の悪い大学の先輩美女からかけおちを誘われる。住人それぞれを主人公とする一話完結の連作短編であり、そして全編を通して浮かび上がってくるのは、十七年前にただ一度関係をもったきりの男を内縁の夫と呼んでいる大家の綿貫さんとそれを否定も肯定もしない晴雨さんの関係である。

クールな椿さんや、清楚な鯨ちゃんや、楽天的な大和くんがとにかく可愛い。男女に関係なく、ぎゅっと抱きしめたくなる愛おしさだ。また真直ぐな八重子や、気弱な荒野先輩や、振り回し系の絵麻さんと、少し変わった個性の脇役たちも憎めずに面白かった。それと引きかえ、綿貫さんと晴雨さんのいびつな関係は…。時間も文体もガラリと変わり、異様な雰囲気でもって、謎が謎を深くし、でも妙に色っぽくて、お互いにしか理解できない世界観が、島本風の小宇宙を創っていた。

デビュー作の頃の軽いノリと、第二期の暗くてエロい、もとい、ある意味で深い恋愛を、力技でぐぐっとくっ付けた作品だと思った。そしていわゆる文学ってやつになっている。あと、島本作品に共通しているダメ男も健在! しかも今回はとびきりのダメ男だった。その男に惹かれた女もダメっぽくて、ダメだと気づいたまともな人は離れていく。しかし、こういう居心地良さそうな下宿なら住んでみたい。しかも、女子率の高い下宿って、ねえ。

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島本理生
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    2010

03.24

「金曜のバカ」越谷オサム

金曜のバカ金曜のバカ
(2010/01/30)
越谷 オサム

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天然女子高生と気弱なストーカーが繰り返す、週に一度の奇天烈な逢瀬のの行き着く先は――?(「金曜のバカ」) ピュア過ぎてアブノーマルなヤツらが繰り広げる妄想と葛藤! ちょっと変でかわいい短編小説集。《出版社より》

金曜って嫌いだ。いつもの場所でおじさんが待っている。疲れたと言ってもなかなか休ませてくれなくて、一時間も汗をかかされる。それを考えると気が滅入ってくる。それでも一年以上ずるずる続いてきたのは、はっきりいってお小遣いのため。その日、変態抱きつき魔の青年が笹薮の中から飛び出してきた。それ以降、週に一度の奇妙な逢瀬が繰り返される(「金曜のバカ」)。こういう誤解をまねく健全さって、著者の十八番。とにかく愉快だ。

市立病院から電話があった。想像はどうしても不吉な方向に傾いてしまう。流れ星だった。妻の無事を願えばよかったと、星が消えてしばらく経ってから思い至った。また、星が降る夜に逢えたらいいね。幼さを残した響きが、耳に蘇った。寒さに震えるその声を聞いたのは、もう八年も前の初冬のことだ。とうの昔に忘れたはずなのに、こんな夜に思い出すなんて(「星とミルクティー」)。あれれ!と思う反面、淡い思いがきれいだ。

どでかい二階建てバスが見えてきた。〈ドリーム高松・松山号〉だ。今夜、おれはあれに乗って東京に行くのだ。そう思うと、腰のあたりがゾクゾクしてくる。しかも、マミと二人だけで行くのだ。腰の前の方がムズムズしてきた。旅程は三泊四日。うち二泊はバスの中で寝る。ともかく、おれはこんな辺鄙な田舎で一生を終えるのは嫌だ(「この町」)。こういう年頃ってあるよな~、と自分のウン年前を懐古。嫌な汗が出てきた。

片岡くんは、恐竜とか好き? 薫さんに訊かれ、僕は反射的に「まさか」と答えてしまった。ごめん、薫さん。今でも恐竜大好きです。もう三年近くも前になるのか。そのころ、僕には彼女がいた。ところが、恐竜オタクが原因で、手も繋がないうちにフラれてしまった。恐竜オタを隠して、黛さんと史上最大の恐竜博にでかける(「僕の愉しみ 彼女のたしなみ」)。好きなことって、語りたい。でも趣味が合わないと、会話はドン引きの一方通行で。

今のあたしに課せられているのは、我が家の柴犬ゴンの散歩くらいのもの。みんなはコンクール目指して毎日遅くまで頑張っているのに、あたしは一人ぼっちでウンコ拾ってる。そうかといって、いまさら吹奏楽部には戻りにくいし、戻るつもりはない。あの内臓が冷えていくような苦しさを味わうくらいなら、犬の下の世話の方がましだ。それなのに、自分が退部の原因とも知らず、後輩の荻野くんがポジティブな言葉を畳み掛けてくる(「ゴンとナナ」)。後半のゴン目線が面白かった。

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越谷オサム
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    2010

03.22

「高原王記」仁木英之

高原王記高原王記
(2010/02/09)
仁木 英之

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鍛え抜かれた体と心を持ち、過酷な修行の末に英雄の称号を許されたタンラ。そして、最も天に近いといわれる峰の精霊・ジュンガ。途方もない試練を乗り越え盟約を結んだ二人は、世界の中心に位置する高原を守り、人々の尊崇を受けながら日々を過ごしていた。だがある時、タンラは強大な力を持つ光の術師によって心を壊されてしまう。折しも高原は、次々と現れる妖魔と旱魃に襲われ、過去に例のない大災厄の中にあった。タンラとジュンガは、壊れかけた絆を修復できぬまま、高原を救うための旅に出るが…。ファンタジーノベルの新たなる到達点。《出版社より》

この内容説明だけを読むと、引退英雄タンラと精霊ジュンガの物語だと勘違いしてしまう。でも、大いに違う。タンラたちを率いる高原最強の英雄にして聖者である大総官王ダンジェ・ザフがいて、何かにつけ二番手にしかなれなかった宰相チャオトンがいる。このチャオトンが野心ある男で、この男の独断裁量もあって国は傾倒していく。だが、そこには様々な要因がからんでいる。人の王と竜の王の血を引くジュエルが誕生し、そのジュエルが高原を統べる偉大な王へと成長するが、突然、王位を捨てて姿をくらましてしまうのだ。

その裏側というか、人々の見えていないところで暗躍しているのが光の術師ゴンバ・ルドだ。与え奪う絶対の力を持つ者が「神」と呼ばれるのだとすれば、間違いなく自分こそがその「神」と呼ばれる存在だと彼は信じている。英雄タンラを変えてしまったのも、そのゴンバ・ルドだ。そこに王国の女たちがさらに翻弄される。英雄を超えた英雄ジュエルを生んだ竜の娘ファム。ジュエルの妻になることを夢見るタンラの弟子になったミト。ここに傲慢さと欲望や嫉妬と未練がみせる人間ドラマがあるのだ。

さて、肝心の元英雄タンラと相棒の精霊ジュンガは何をしているのか。主人公たちが敵と戦ってレベルアップし、最後にはダンジョン奥のラスボスを倒す…。そういうゲーム的な要素を期待すると肩透かしを食うことになる。タンラたちは傍観者でしかない。揺れ動く国の情勢。それを読者の目線になって、たまに解説者になって、見ているだけだ。ファンタジー=夢の世界。そう思い込んでいる読者が概ね大半だろう。しかし、ここにあるのは、とにかく泥臭い人間の感情だ。最後に少しだけゲーム的な要素は見えるものの、しかし派手なアクションはやはり皆無だ。読み手によって賛否は別れるかも。

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仁木英之
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    2010

03.21

「もいちどあなたにあいたいな」新井素子

もいちどあなたにあいたいなもいちどあなたにあいたいな
(2010/01)
新井 素子

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あたしの名前は菅原澪湖(みおこ)二十一歳。菅原大介・陽湖(ようこ)の一人娘だ。死んでしまった真帆ちゃんという女の子はあたしの従姉妹。父の妹であるやまとばちゃんの娘。水野真帆ちゃん、五ヶ月。菅原大介の妹である菅原和は、水野恭一さんと結婚をし、今の名字は水野さん。やまとおばちゃんがつまって、やまとばちゃんになった。真帆ちゃんは、四十近いやまとばちゃんが体外受精なんかにまで挑戦して、やっとの思いで生んだ子供だった。その子供が、死んでしまった。

誰もがまず子供好きすぎるキョウ叔父さんのことを気遣うだろう。それは当然のことだろう。だからこそ、あたしだけは、父だけは、まずやまとばちゃんを気遣わなければいけない。たとえどんなに打たれ強く見えたとしても、やまとばちゃん、実の母だもの。母なんか、やまとばちゃんのことを「和さんは強い人、きつい人」って誤解しているけど、でもそれは違うのだ。それをあたしは判っている。父も判っている。だから、あたし達がやまとばちゃんを守らないといけないのだ。

でも、それにしても、何かがおかしい。やまとばちゃんが、あたしのことを〝みーちゃん″ではなく〝澪湖″って呼ぶ。それにまた、キョウ叔父さんのことを〝キョウちゃん″ではなく〝恭一さん″と呼んでいる。これは変だ、これはおかしい。これは絶対に、変! それに、二年も三年も前の水着の日焼け跡が背中にあるって。それまでの違和感も含めて、この時のあたしは確信したのだ。やまとばちゃん……違う。この人は、今、ここにいる〝このひと″は、あたしのやまとばちゃんじゃ、ないっ!

お初の作家さんです。読み終えて巻末の著作リストを見てみると、どうやらティーン向けのレーベルでは有名な人らしい。おぼろげだが、ウン十年前に妹の本棚でこの名前を見かけたような…。目の前にあるお宝を見過ごして素通りしていたのかも。というのも、すごく面白かったからだ。まずキャラが取っつきやすい。おきゃん(死語?)な大学生の澪湖。空回りしている莫迦父の大介。リアルに呪っている母の陽湖。この親子三人の視点でリレーして、物語は展開していく。

途中、若干苦手な設定説明の部分はあるものの、頭の回転がのろそうな澪湖と同じくらいのスピードでついていくことができた。これ以上はやければ無理。そこの匙加減はさすがティーンの見方。すごく読者に親切だ。そして、見えてくる真実がなんとも切ない。でもこういうのは嫌いじゃない。頭の中で、作品タイトルがリフレインするのだ。もいちどあなたにあいたいな。もいちどあなたに、あいたいな。もう一度、あなたに、会いたいな。く~~っ! この言葉のつまった感じが、たまらない。

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    2010

03.19

「アルタンタハー 東方見聞録奇譚」長崎尚志

アルタンタハー 東方見聞録奇譚アルタンタハー 東方見聞録奇譚
(2010/01/27)
長崎 尚志

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父危篤。その報せを受けたライターの安東貞人は、病院で出会った父の戦友だという不審な男・源田から、モンゴル捕虜収容所で囁かれた「チンギス・ハーンの黄金伝説」の話を聞かされる。純粋さと胡散臭さ、疑り深さが入り混じった不思議な老人だ。半信半疑ながら貞人は、マルコ・ポーロの東方見聞録とフビライ・ハーン、奥州平泉の藤原一族、彼らに共通する一連の黄金伝説を調査していく。(「黄金の鶏」)

不忍通り沿いの古本店「古代堂」店主の篠原祐太は、古書鑑定に出向いた横浜の家で、松田一族に伝わる「御園王の黄金伝説」の財宝探しの依頼を受ける。手がかりは一枚の写真。松田の先祖と外国人とが奇妙な五輪塔と共に写っていた。調査を進めていくと、やがて松田の孫と祖父の奇妙な関係が見えてきて、さらに篠原自身も封印した過去と対峙することになり…。(「黄金の鞍」)

黄金伝説による財宝探しと、民間伝承を軸とした歴史ミステリであり、過去に縛られたふたりの男の自分探し旅を描いた作品だ。こういう取っつきにくそうなジャンルの作品は基本的に好きだ。ただ、思っていたよりもあっさりしていた。義経=チンギス・ハーン同一人物説、奥州藤原一族の消えた黄金伝説など、胸躍る題材を用いながらも、その扱いがぞんざいで、そこがもったいない。

また、余分だと思われる文章や描写が多く、スピード感に欠けているように思えた。特に二作目ではそれが悪い方に走っているような気がした。それはむずかしい本の題名を意味もなくだらだらと並べていたところだ。だから何?(怒) 暗算少女なら素直に感心できるが、天才少年と称されたボウズが東海道五十三次の宿場を抑揚もなく唱えているのと同じだ。活かされない上面の知識は読者にとって邪魔でしかない。

先にも書いたとおり嫌いではない。好きなジャンルだから、もっといい作品に仕上げて欲しい。だからこそ、あえてここまで辛らつに評してきた。人物を掘り下げることと、同じ描写を何度も鬱々と繰り返すことは違う。物語のキーとなる事柄を簡潔に伝えるのと、判りにくい例えで長々と説明するのはどちらがいいのか。さり気なく披露される博識と、知識を誇った博識では、どちらが読者に受け入れられやすいか。

元々が漫画の原作者らしい。失礼だが、漫画に疎いので存じ上げなかった。そういえば、ちょっと起の序章は長すぎるとは思ったが、起承転結はしっかりしていた。文章デビューで、歴史ミステリを選ぶなんて変人?! 一読者は、この変人、もとい、希少なジャンルを書いてくれる作家を、これからも応援したい。つうか、面白い歴史ミスを読みたい! 次回作に期待かな。

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    2010

03.17

「神様のすること」平安寿子

神様のすること神様のすること
(2010/01)
平 安寿子

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決して偉くも賢くもない、欠点だらけの父や母や友人たち……そのかけがえのなさに気付いた時、これほど胸が締めつけられる。親を見送るまでの長い日々を描く、かつてない自伝的私小説!《出版社より》

母が意識を取り戻したとき、「八十三まで生きることにした」と言った。そのとき、母は七十七と八ヶ月の齢を重ねていた。母の状態は予断を許さず、そのときが来ても延命措置はしないと担当医師と意思の確認までしたあとのことだった。わたしは母と違って、懐かしむのが好きだ。思い出すのが好きだ。だから、母の過去を、母に成り代わって懐かしみ、思い出す。ことに、わたしのお気に入りの京ちゃんのことを。

教養がないという根深いコンプレックスを抱えていた母。教養自慢で常に高いレベルを求めた伯母。出銭を抑えて現状維持を図る小心な父。そして、自分がしたいようにする自分だけの世界の女王様として君臨した若き日の著者の姿や、小説家になるまでの経緯が、その時の事情と今思えばというカタチで語られる。ちょっとビックリなぐらい、その人の欠点や痛い部分が赤裸々に綴られている。

もし自分の周囲にそういう人がいれば、お近づきになりたくない人もいる。でも著者の視点で物事を見れば、その人たちは可愛そうな人で、憎めない人になるのだ。この不思議なレンズがあるからこそ、三十代四十代の、いわゆる負け犬組の女性だって愛おしく思えてくる平作品が生まれてくるのだろう。その一方で、母のお葬式でいかにして喪主挨拶で聴衆にウケるかとシュミレーションするブラックな著者がいる。これは作家の業なのか。

子供とは無縁な平作品だが、いじめに関して目からウロコな言葉があった。子供というのは性悪で、いじめを娯楽にする生き物だ。昭和三十年代、小学校ではおおっぴらに貧乏人が「クサイ」「汚い」といじめられた。子供は天使などという戯言をわたしは信じない。自分が優位に立つために他者を踏みつけにする卑しさを、人間はみんな根本的に持っていると思う。他者と出会った子供が一番にやるのは、攻撃だ。(P105) 強気な記述だが、まったく同感だ。子供の満面の笑みと暴力ほど恐ろしいものはない。

そして、母の容態に振り回され続けた著者は、母の死を見届けたところで筆を置く。ここでも著者は正直だ。要介護状態になった年寄りには、何が起きるかわからない。こんなことなら、早くお迎えに来たほうが当人だって楽に違いない。あっちは死にかけてるけど、こっちは生きてるんだよ、と。憚れるような内容だが、介護を経験したことがある家族からすれば、実に的を射た意見だ。この潔い本音もまた、平作品を読みたくなる吸引力の一つなのかもしれない。

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平安寿子
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    2010

03.15

「愛は苦手」山本幸久

愛は苦手愛は苦手
(2010/01)
山本 幸久

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“アラフォー”って自分では笑って言えるけど、他人にそう呼ばれると、なぜか嫌。20代はみんな私に優しくて、30代も大丈夫と思ってて。でも、気がついたら前に進めないよ…。愛についてふと考える彼女たち―連作短篇集。「カテイノキキ」「買い替え妻」「ズボンプレッサー」「町子さんの庭」「たこ焼き、焼けた?」「象を数える」「まぼろし」「愛は苦手」を収録。

ミシンがでてきた。結局つかったのは、娘の晴美が幼稚園か小学校にあがりたての頃だ。学校でつかうぞうきんや工作袋をつくってあげたはずだ。お母さん、ありがとう。あの頃は口癖のように晴美は毎日言ってくれた。高校生になったいまのあの子のありがとうは、バイト先の回転寿司のお客のためだけになってしまった。(「カテイノキキ」)

悦子は、牛丼屋でバイトを始めた。四十前にバツイチの男と職場結婚し、寿退社をして、東京都下に暮らしている。たしかに彼の家はなんでも揃っていた。だがそれは秀隆の前妻が揃えたものだった。そんなものは使いたくない、と悦子は言わずにおいた。時間をかけても、少しずつでも、ぜんぶ買い替えてしまおう。そう心に誓った。(「買い替え妻」)

テレビの中では、一介の大学教授にすぎない元夫をなぶりものにしている。父さん、芸能プロダクションに入ったんだって。娘の理名が教えてくれた。汚い部屋だ。死んだ母親によく注意されたものだ。元夫や娘にも。その娘も、高校卒業してすぐ、結婚してうちをでていってしまった。恵利の部屋に相談にやって来たのは…。(「ズボンプレッサー」)

猫の額と呼ぶにふさわしい狭い庭には、前の住人の趣味で、さまざまな草木が植えられていた。引っ越してから一ヶ月、仕事が忙しくて手をつけていないせいで、草木は伸び放題、雑草も生い茂っている。いずれも老人だった。ほとんどの人が可憐の家の前で足をとめ、庭を見ていく。そしてけっして好意的とは言えない反応を示した。(「町子さんの庭」)

ようやくしだした大掃除の途中、シンク下の収納場所からたこ焼き器がでてきた。これは元上司の一旗さんの家から借りてきたものだ。まだ仕事をしている頃である。その夜、帰宅した夫から一旗さんが亡くなったことを聞いた。自然とたこ焼き器に目がいった。途端、借りた日のことをはっきりと思い出すことができた。(「たこ焼き、焼けた?」)

だいじょうぶかい。だいじょうぶですか。養父と真紀は始終、お互いこの言葉を言いあっている。後期高齢者と妊婦がふたりでいれば自然とそうなるのかもしれない。一緒に暮らして一ヶ月、夫の宏治は仕事が忙しく、そのあいだ、彼の父とはいえ他人と広いとは言えないアパートの一室で一緒にいるのはどうしても緊張を強いられる。(「象を数える」)

選挙で駒坂九助は落選した。これまで三十年近く衆議院議員の地位にあり、三度入閣したにもかかわらずだ。衆議院議員が落選するとなにになるのか。答えは無職のおじさんだった。駒坂の愛人、藤堂美鈴は一方的な解雇を言い渡された。住むところもブラックカードもホストもバカラのグラスもヴィトンもグッチもすべてが消えていく。(「まぼろし」)

茂絵の勤める針糸本舗は駅ビル内にある。洋服のお直しの店で、子供の幼稚園グッズは余技というか副業のようなものだ。茂絵を含めてスタッフは四名。早番遅番と分かれ、店には常に二名いるようシフトが組まれている。遥は格好も戸籍も男だ。しかし心は違う。仕草も女そのものである。最近、遥は恋人との仲がぎくしゃくしているらしい。(「愛は苦手」)

これまで読んでいた山本作品とは一味違う。だけどこの既視感は何だ? 主人公は四十代の女性。最近ではアラフォーなんて言ってるけど、独身なら三十代よりプレッシャー強し、子供がいれば子供のことが判らなくなり、夫は夫で化けの皮がはげているし、専業主婦になっていれば働いていた頃を思い出す。また双方の親の立場もあり、さらに離婚していれば…。そうだ。これは平安寿子さんの得意分野だった。

三十代、四十代は、人間ドラマの宝庫だ。それも男性より女性の方によりあると思う。女性はなんでもない日常に、怒り、哀しみ、憎しみ、虚しさ、悔しさ、切なさ、そして愛おしさまで、さまざまな感情がいっぺんに押し寄せ、胸をかき乱されるのだ。働いて稼ぐことが偉いと思っている男にはないところで揺れている。そこが面白い。乱れる女心は平さんと比較しがちだが、でも著者は男性だ。これは☆五つをあげてもいいような。

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山本幸久
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    2010

03.12

「張り込み姫 君たちに明日はない3」垣根涼介

張り込み姫 君たちに明日はない 3張り込み姫 君たちに明日はない 3
(2010/01/15)
垣根 涼介

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今日で村上真介は三十五歳になった。しかし誕生日の日も、面接を続けていた。従業員三十名ほどの極細零細企業「日本ヒューマンリアクト(株)」。業種は、ありていに言えばリストラ代行業務だ。真介の仕事は、クビ切り面接官。アシスタントの川田美代子が差し出すファイルを手に取り、真介は次の被面接者を呼び出す。

武田優子、二十八歳。履歴欄を見て、何か腑に落ちないものを感じた。大学の哲学科卒。スイスにあるホテルの専門学校に留学。帰国してわずか半年のホテル勤務。その後の一年のブランク。次いで、この英会話学校に入社。やっていることが、妙にちぐはぐなのだ。どうもこの女のイメージングができない。(「ビューティフル・ドリーマー」)

古屋陽太郎、二十四歳。ストレートで大学を卒業後、世界最大の広告代理店に入社。わずか二年後に退社。一年プー太郎生活をして、業界最王手の製紙会社に入社する。しかしこの会社もほんの半年で辞め、現在の王手旅行代理店に就職。一生この会社に勤める気はない。でも本気を出さずに、社員としてもらっている給料の約三倍の収益は出してきた。(「やどかりの人生」)

宅間幹夫、三十三歳。工業高校を卒業後、自動車ディーラーにメカとして入社。同期で最も早く一級整備士の資格を取得。その後、年度末に行われる社員総会で最優秀メカニックとして四度も表彰されている。また会社史上最年少でチーフ・メカニックに昇格。宅間には現在、彼個人についている客が、三十名ほどいる。必ず宅間を指名してくるクルマ中毒ばかりだった。(「みんなの力」)

日野恵、二十八歳。東京大学の文Ⅲを卒業後、出版社に入社。少なくとも入社時は、典型的な文学畑志望者だ。ところが、彼女が配属されたのは写真週刊誌編集部。ある者は部署替えを上司に直訴し、ある者は会社を去って行ったのに対し、この日野は入社以来休刊日の日までの六年間、夜討ち朝駆けは当たり前の、不規則極まりない生活。でも、それももうすぐ終わりだ。(「張り込み姫」)

垣根涼介の休筆明けを待ってました。で、復帰後第一作は、テレビドラマと連動した「君たちに明日はない」の三作目。でも、これまでとは少し違う。英会話学校、旅行代理店、自動車ディーラー、出版社。それぞれの職種の裏側などは綿密に取材されている。そこでリストラ候補になる人たちの想い。これが第三話以外にグッとこない。第四話の表題作も人物だけを見れば面白いが、職種に興味を持てなくて…。

しかし、なんでこんなにもやっつけなんだ。一番はレギュラー陣をないがしろにしているところだ。真介と美代ちゃんはOK。真介と陽子さんの進展。これって重要な筋の一つですよね。それがあまりにもなくて、ビックリしすぎた。まんねりのスパイラルが悪い方向に出ているような気が……。垣根涼介さん。これはもうどうしようもないですけど、大急ぎで軌道修正してください。一読者として、ファンとして、お願いします。

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垣根涼介
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    2010

03.10

「千里伝 五嶽真形図」仁木英之

千里伝 五嶽真形図千里伝 五嶽真形図
(2009/10/28)
仁木 英之

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かつて世界には何もなかった。崑崙の偉大なる老君は無から有を作り出し、女神である西王母は天地に存在する全てを創る権限と万物の陰陽を結び付ける秘宝・五嶽真形図を与えられ、その仕上げとして主となる可能性を持つ種をいくつか生み出した。激しい競争が繰り広げられた末、人は勝利し、繁栄を享受することになった。今からおよそ一千年前、漢の武帝が西王母から五嶽真形図を授けられた。だが武帝はその付託に答えることが出来ず、図は姿を消した。しかし千年の時を経て図は目覚めの時を迎え、再び力を取り戻そうとしている。そして天地を統べる力を秘めたその図を狙って、動き出した者たちがいた。

西王母は千年の昔、この大地に三つの種を残していた。その一つが千里。国有数の戦士であり、万騎を率いる将軍である祖父と父の血と、この世の覇権を争ったいにしえの“人”の血を引く母の血も引いている。千里は十八になったこの年も、まだ五歳児の外見である。そのうえ、性格からも言葉遣いからも子供っぽさが抜けない。しかし秘めた力は底知れないものがあるようだ。チャイダム高原で随一の狩人であるバソンは、ただ行きがかり上知り合った不思議な老人に依頼され旅立った。悩める少林修行僧である絶海は、教えを授けてくれる影の導きで崑山を後にする。

ここまで書いていて思うことはひとつ。携帯電話や家電製品の説明書を要約しているのと同じではないか。あるいはドラクエやファイナルファンタジーの世界観をしつようにしつように噛み砕いている。こんな説明は面白いのか? 実際に感じたところを言えば、前半と中盤が長すぎる。そこが説明書くさいからだ。そこで一言。163ページまでは我慢していただきたい。そこから物語が動きますから。バラバラだったキャラが合流し、パーティーを組んだドタバタした冒険がやっとスタートするから。

彼らは、旅と目的を同じくする仲間でありながら、なかなか心を一つに出来ない。そこがもどかしくもあり、物語の重要な要素でもある。民族が違うだけで反発しあう者たちがはたして異なる種族と判りあうことが出来るのか。人には人の正義があり、自分たちの天地を侵略する悪の軍団にも正義がある。図をめぐる争奪戦は決して勧善懲悪の構図にはなっていない。中華ファンタジーとはいえ、現代のもくすぶりを抱えている差別とちっとも変わらないのだ。そして、人は常に試されている。

少年たちの冒険と成長を楽しみながら、少し考えさせる。そんな重厚さとライトが共存した一冊であった。ただアクションシーンは思っていたほど多くはなく、前半のもたつきが印象を悪くしていたのがもったいないところだ。しかし悪たれの千里にしても最後には愛着がわいてきた。続編が出るようならぜひ読みたい。影が薄かった絶海にしても伸び代はあるはずだ。もっと面白くなりそうな予感がする。要するに、これからかな。


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    2010

03.08

「太陽の村」朱川湊人

太陽の村太陽の村
(2010/01/28)
朱川 湊人

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父親の定年を祝うハワイ旅行に出かけた坂木一家は、帰りの飛行機で事故に遭う。意識を取り戻した主人公・龍馬は、自分がタイムスリップして過去の世界に来てしまった事を悟る。どうする俺??? おたくで引きこもりの龍馬は、やがて農作業や素朴な村民との触れあいにより、現代とは正反対の生活に喜びを見出していくのだが…。「都市と田舎」、「過去と未来」、「バーチャルとリアル」、「文明と未開」の狭間に揺れる青年の葛藤と成長を直木賞作家が描く。著者新境地のタイムスリップ・エンタテインメント!《出版社より》

身長百六十七センチで、体重百二十四キロの相撲取り体型。おまけに、オタクでひきこもり。そんな二十四歳の坂木龍馬は、父親の定年を祝うハワイ旅行に出かけた帰りの飛行機で事故に遭う。気がつくと、海坊主に間違われて後ろ手に縛られていた。ぐるりと取り囲んで見下ろしている誰もが異様なスタイルだった。真っ先に思い出したのは、黒澤明の「七人の侍」に登場する貧しい農民たちだ。幸いにも、水戸黄門に似た村長に助けられ、この日本であるらしいド田舎の村で生活を始めることになった。

電気もガスも水道もなく、コンビニはもちろん、普通の食料品店やスーパーの類も、まったくない。昔ながらの静かな生活というか、ここまで何もないと、都市生活野郎は逆に不安になって来る。何もかもおかしな村に戸惑う龍馬。そこに、力自慢の金太郎、イケメンの桃太郎と、どこかで聞いたような名前の人物が現れ、さらに、乱暴者の此世介と神通力を持っている阿世介という地頭・佐宗八百万の冷酷非道な兄弟たちまで登場。これって過去にタイムスリップ? これまでにないユーモアが読者を襲う、怒涛のエンタテイメント作品。

ぐふふ、と笑える。わはは、と笑える。ぷーっ、と噴出す。こんなに笑える朱川作品は初めてだ。前半の主人公のヘタレぶりは、正直に言えばキショい。オタクをどうこう言わないが、その考えは甘いやろ、という情けない有様だ。だが、重労働の田おこしや、恋する浦さんへの思い、走れメロスの独演会は、読んでいてテンション上がる。また、突然の活劇への恐怖心も、何も考えずに動く体当たりもグッド。そう、まるで漫画のようなハチャメチャな展開だ。最後のオチは賛否が別れるだろうが、それを差し引いても楽しかった。これぞ、爆笑エンタメ。

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朱川湊人
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    2010

03.06

「リライブ」小路幸也

リライブリライブ
(2009/12/22)
小路 幸也

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獏は、悪夢を食べない。人の思い出を食べる。命の灯火が消える瞬間、獏が囁きかける。あなたの思い出をいただく代わりに、もう一度、人生をやり直してみませんか。友人知人恋人親兄弟。あるいは友情や愛情や信頼といった形のないもの。あなたのこれまでの人生で失ってしまった大切なもの、何か一つを、取り戻せる瞬間を、与えてくれるのだという。言ってみれば、過去に戻り、選ばなかった人生を歩むことができる。そして、もう一度生き直した人生で死ぬときに、獏のことを含めて全てを思い出す。何を望むかは自由。どんなことでも。あなたが、それを望むのなら。

母と二人で下宿屋を営んでいるお年頃の輝子。その彼女の前に現れたのは、若宮と柿沢という二人の大学生だった(「輝子の恋」)。真理絵の人生で、いちばんの親友。そして、自分の母親になった琴美の恋(「最後から二番目の恋」)。前から気になっていた。仲の良い友達の、彼女(「彼女が来た」)。バレンタインデーに、チョコと「イマジン」のLPを受け取った。それが初めてジョン・レノンと、美波さんを意識した日(「J」)。編集をする亜由は、真琴さんのお弁当屋で研修医の三坂さんと出会った。(「生きること」)。墓掘り人の八郎は、先の世の夢を見る(「あらざるもの」)。病気の少女のために、暴走族を辞めて募金活動をする若者(「すばらしきせかい」)。

各編の主人公達は、幸せだと思える夢のようなものを見て、獏と別れていく。読者もそこは優しい気持ちになれるはずだ。ところが、本書には意外な二段落ちが待っている。そこにはもう一人の意思が介在しているのだ。それはめずらしくブラックな代物で、ちょいと面白い仕掛けだ。ただ、少々理解しにくいところが残念だった。誰が登場し、何を願ったのかが、よく考えないと上手く呑み込めないからだ。だけど、こういう人の心の暗い部分は個人的に好きだ。いつもストレートな人物ばかりのところに、この黒いスパイスは面白いと思った。著書は新たな武器を手に入れた? 次回作にも期待したい。

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    2010

03.05

「太陽のパスタ、豆のスープ」宮下奈都

太陽のパスタ、豆のスープ太陽のパスタ、豆のスープ
(2010/01/30)
宮下 奈都

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譲さんとの結婚はなくなった。結婚式を二ヵ月後に控えたある日、明日羽(あすわ)は突然、婚約破棄を言い渡された。二年もつきあっていたのに、僕たちなんだか合わないみたいだね、だって。傷付き、混乱し、暗闇をさまよう彼女に、叔母のロッカさんは明日へのリストを作るよう勧める。「やりたいことや、楽しそうなこと、ほしいもの、すべて書き出してごらん」 それは溺れそうになった者が藁につかむように縋る、ドリフターズ・リスト(漂流する者たちの指針になるリスト)だという。

ロッカさんというのは母の妹だ。六花、と書く。正確な歳は知らないが、母とはひとまわり以上違うと聞いたことがある。家にはときどき現れて、母とお茶を飲んでいたり、そのままご飯を食べる席にいたりもする。独身で、三つ先の駅にアパートを借りてひとりで住んでいる。明日羽が書いた最初のドリフターズ・リストは、食べたいものを好きなだけ食べる、髪を切る、ひっこし、おみこし、たまのこし。「とりあえず引越しね」そのリストを見たロッカさんが何気ない調子で言う。

「オッケーだって」ロッカさんから電話があったのは翌日だった。そこはロッカさんのアパートと目の先のアパートだった。実家を出て一人暮らしを始めた明日羽は、ひっこしに線を引いた。びーっと消すと思いのほか爽快だ。次は、これだ。携帯を出して、幼なじみの京のボタンを押す。京介という名前を封印した姉のような美容師の京に、思っていた以上に髪をばっさりと切られるのだった。ドリフターズ・リストを足がかりに、明日羽は、ほんの小さな、けれども確かな一歩を踏み出してゆく。

主人公の明日羽は、不器用にもがきながらも、自分のことをもっと知ろうと、丁寧に考えて答えを出していく。自分がひとりではなんにもできなかったこと、いろんな人がそれを支えてくれたことにも、送ればせながら気づいていく。そして、前をむいていよう、そう思えるようになるのだ。そんな彼女を愛おしく思う。自分の足で一歩ずつ進んでいくって事は、気持ち次第で実はすごく簡単なことなのかもしれない。このままでいいのか? そう思っているのなら、うつむくのはやめて、意識して前を向けばいい。ゆっくりでも成長していけばいい。これからの自分の人生、悔いを残さないヒントがあるような気がした。

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宮下奈都
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    2010

03.03

2月に買った書籍の代金

個人メモです。

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    2010

03.02

2月に買った書籍

僕の明日を照らして僕の明日を照らして
(2010/02/10)
瀬尾まいこ

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V.T.R. (講談社ノベルス)V.T.R. (講談社ノベルス)
(2010/02/05)
辻村 深月

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W――二つの夏W――二つの夏
(2010/02/01)
永嶋 恵美

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NのためにNのために
(2010/01/27)
湊 かなえ

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告白告白
(2008/08/05)
湊 かなえ

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塩の街 (角川文庫)塩の街 (角川文庫)
(2010/01/23)
有川 浩

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ハナシがはずむ!―笑酔亭梅寿謎解噺〈3〉 (集英社文庫)ハナシがはずむ!―笑酔亭梅寿謎解噺〈3〉 (集英社文庫)
(2010/02/19)
田中 啓文

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幕末魔法士―Mage Revolution (電撃文庫)幕末魔法士―Mage Revolution (電撃文庫)
(2010/02/10)
田名部 宗司

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かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書)
(2010/01/27)
万城目 学

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