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    2009

02.15

「月への梯子」樋口有介

月への梯子 (文春文庫)月への梯子 (文春文庫)
(2008/12/04)
樋口 有介

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ボクさんの知能は小学校の中学年程度でとまっているから、直前の用件や何時間先の予定を忘れることが、しばしば起こってしまう。本名は福田幸男で歳は四十、この歳になっても自分のことを「僕、僕」と自称し、周囲からいつの間にか「ボクさん」と呼ばれるようになっている。母親の寿子は父親が死んで以降は特に、立ち居振る舞いや身だしなみ、そして他人との接し方に関するボクさんへの躾に、異常な執着をみせた。それらは知能の停滞したボクさんに残せる、母親としての切実な処世訓だった。

ボクさんの仕事は「幸福荘」というアパートの管理と、近所の雑用。幸福荘は二十年前に寿子が自宅をアパートに改装したもので、部屋数はボクさんの居室を除いて全六室。どの部屋にも小体な台所とユニットバスがあり、桜台では先取的な間取りだったから、お陰でボクさんには沢渡屋や電気屋への貸地料を含めて毎月四十万円の収入がある。ボクさんがアパート経営の仕組みを覚え、メンテナンス技術を取得した八年前に、寿子は脳溢血で他界した。

平和に暮らしていたボクさんだがある日、アパートの外壁塗装を始め、5号室の窓前まで来たとき、カーテンの隙間から内部の惨状を目撃した。その瞬間、梯子の上で気を失って落下。入院して四日目に意識をとり戻した。栗村蓉子の死も現実、頭の鈍痛も足腰の打撲痛も現実、それらの現実はすべて容認するにしても、ボクさんが入院した翌日に幸福荘の全住人、団子木真司、雨貝孝作、物舟逸郎、青沼文香、軽井勇の五人全員がアパートから姿を消してしまったという説明は、どうやって納得すればいいのだろう。

梯子からの転落事故の影響か、体重が十二キロも減り、ボクさんの頭痛と不快感がすっかり消えたとき、記憶や知識や感情が脳のなかを我が物顔で行き来するようになっていた。それと、信じられないことではあるが、団子木は空き巣の常習犯で、雨貝と文香は名前と身分を偽っていた。気がつかなければ人の善意の中でだけ生きていけた。だが、知能を得たことで、見えてしまう真実。ボクさんは殺人事件を、そして失踪した住人たちの謎を探り始める。

読み始めは、ボクさんの設定に反則かなと思っていたが、脳に変化が起こってからは、いつもと同じハードボイルドに。これでやっと安心。だけど、その変化がきっかけで、人は善意だけじゃないことが見えてしまう。懇意にしていた不動産屋もそうだし、眺めるだけで幸せだった幼なじみの京子もまた、一人の疲れた中年女へと目に映る。そして幸福荘が悪の巣窟だったという事実。そんな現実に直面しても、ボクさんの持つかるみが救いとなっている。不遇の少女の行く末、京子との関係など、彼女らが救われていく姿は感動的。だが、その最後の最後で、読者の爽快な気持ちを揺るがせてしまう。あの託した指輪。あれをいい方向への予兆と、彼女の助けになると、そう思いたい。

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