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    2009

03.01

「黒百合」多島斗志之

黒百合黒百合
(2008/10)
多島 斗志之

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昭和二十七年。十四歳の寺元進が六甲山を訪れたのは、父の古い友人である浅木さんに招かれたからだった。夏休みになったら、うちへ来ないかね。六甲山に小さな別荘があるんだ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ。一彦はあけすけに言うと、利口さを鼻にかけている少年の顔つきをしていた。ただ陰湿さは感じなかった。長めの前髪を掻きあげる癖が、目ざわりだった程度だ。

倉沢香と知り合ったのは、六甲山にあるヒョウタン池のほとりだった。進や一彦と同い年だった。性格がいいのか悪いのか、よく判らない子だった。顔立ちも、ほんの少し可愛いという程度で、特に目を引くほどではない。けれど笑ったときの口もとが妙に魅力的で、進も一彦もすぐに彼女を好きになった。ふたりの初恋だった。

夏休みの宿題の日記、水泳とスケッチ、天狗塚へのハイキング……。仲良くなった三人は毎日のように夏休みの日々を過ごしていく。少年二人と少女一人の微妙な三角関係。親友であり恋のライバルである進と一彦は、香の一挙一動に心が揺れ動く。この六甲の別荘地での淡くて甘酸っぱい恋が、物語の本筋となっている。

その一方で、進の父たちが大戦前のドイツ視察中に出会った恬然とした女性との交流と、戦時中の神戸における鉄道員と少女のママゴトのような恋模様と、それが原因で引き起こされた空襲の中での殺人という、二つのエピソードが挿入され、一見関係のないと思われる三つのパートが結びついた時、読者の唖然とした驚愕と共に、物語は静かに幕を下ろす。

しっとりとした文章に、匂いたつ文体。少年たちの幼く淡い恋物語だと思わせておいて、実は緻密な複線が仕掛けられた超絶ミステリという快作になっている。トリックは、判ってしまえばありふれたものでしかない。読み手の中で、これはきっとあの人の事なのだろうと想像させる。そのミスリードが非常に巧みで、読者はあっさりと著者が用意したレールに乗せられてしまう。

そうして散りばめられた複線すべてが繋がった時、読者だけに真相が明かされて、あの出来事は、あの人は、とすべての謎が氷解し、一方では、少年たちには美しい思い出だけが与えられる。よくよく考えると、何も知らないままの少年たちにとって、これはすごい毒だ。それと、読み終えた今だからこそ思うのだが、このタイトルの露骨さには苦笑いするしかない。でも上手い。この作品は一読の価値ありだと思う。


多島斗志之さんのサイン。

多島

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comments

しんちゃん、こんにちは!
おお~『黒百合』もサイン本なのですね!いいわぁ。
東京創元社でサイン本注文出来たのに、見送ってしまって、後から激しく後悔しました。
こんなに素晴らしい作品だったんならサイン本が欲しかったーーっ!って。
青春小説と思いきや…のあたりは読ませますね。
大好きな作品です。

リサ:2009/03/03(火) 16:20 | URL | [編集]

リサさん、こんばんは。
書店で偶然見つけ、買っちゃいました。
すまんね~。でもこれは買って正解でした。
思わぬ展開に、おおお~!とやられました。
同じく大好きです。

しんちゃん:2009/03/04(水) 19:21 | URL | [編集]

青春小説の部分も、好き♪と思ったのですが、
単なる青春小説に終わってないところがまたなんとも。
上手いなぁ~と唸った作品でした。
すっかり騙されちゃったけれど、
騙されて爽快でした。

エビノート:2009/03/04(水) 19:31 | URL | [編集]

エビノートさん
文芸でも、ミステリでも、これはすごかったですよね。
そして文章にも雰囲気があったと思います。
読んで良かった~!

しんちゃん:2009/03/06(金) 18:06 | URL | [編集]

いやあ、この裏側にある毒々しさは並みじゃありませんよ。だって考えてもみて下さい。あの人とあの人が嫁姑になるんですよ。そうなったら、当然あの二人はどこかで顔を会わせるだろうし……。

たまねぎ:2009/03/11(水) 22:11 | URL | [編集]

たまねぎさん
著者の仕掛けた悪意はぞくぞくしますよね。
こういう黒い裏拳は好きだな~。←悪趣味

しんちゃん:2009/03/13(金) 21:54 | URL | [編集]

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『黒百合』多島斗志之


黒百合 多島斗志之/東京創元社 「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、...

2009/03/03(火) 16:17 | ひなたでゆるり

黒百合 〔多島 斗志之〕


黒百合多島 斗志之東京創元社 2008-10売り上げランキング : 5287おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ 「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手に...

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黒百合  多島斗志之


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