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    2009

04.16

「猫を抱いて象と泳ぐ」小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ猫を抱いて象と泳ぐ
(2009/01/09)
小川 洋子

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伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡の物語。少年は極端に口数の少ない子供だった。唇がくっついたまま生まれたことが関係あるかどうか、それははっきり分からない。しかし反対に彼は、ようやくつかまり立ちをはじめた頃から、すべてのものに名前があることを理解し、驚異的スピードでそれを覚えていった。彼の頭の良さに最初に気づいたのは祖母だった。更にもう一つ際立っていたのは、並外れた集中力だった。

少年には話し相手がいた。壁と壁の隙間に挟まって出られなくなった少女だった。大人たちがミイラ、ミイラと言うのを耳にし、少年はそれが彼女の名前だと思い込んでいた。象のインディラは三十七年の生涯をデパートの屋上で閉じた。少年は、可哀相だと思いながら同時に、心のどこかでは、うらやましく思っていた。屋上に閉じ込められたまま一生そこから出られなかった象のことを。少年の友だちはインディラとミイラの二人だけだった。

慌てるな、坊や。男は言った。その言葉と声のトーンは、生涯を通して少年の警句となり灯台となり支柱となる運命にあった。廃バスに住む男はひどく太っていた。男はチェスという海に少年を放ち、彼が自ら発する光だけを頼りに、どんな深い海溝にも冷たい海流にもひるむことなく、無比の軌跡を描けるよう導いた。これが、少年とチェスの出会いだった。チェスと出会って以降、少年は男をマスターと呼ぶようになった。

少年は、チェスについてのすべてを、回送バスの中で学んだ。少年は難しい局面を迎えると、テーブルチェス盤の下に潜り込むようになった。マスターの愛猫ポーン撫でながら、盤を下から眺めるためだった。ボーンを撫でると、心が落ち着いて、頭の中が透明になって、駒の進むべき道が見えた。テーブル裏の木目模様に浮かぶチェス盤が見えていた。駒の位置も正確によみがえっていた。その位置関係によって集中力が一段と研ぎ澄まされた。

リトル・アリョーヒンは十一歳の身体のまま、それ以上大きくならなかった。身体はテーブルチェス盤の下に収まる大きさを保ち続けた。リトル・アリョーヒンは海底チェス倶楽部で、リトル・アリョーヒンとして数々のチェスを指した。皆の目に触れない狭い所に隠れてのからくりチェス人形の活動。その人形は相当に強く、しかもどんなに弱い相手に対しても美しい棋譜を残す。だが、不吉な予兆はとある雨の晩からはじまった――。


大きくなりすぎた象のインディラはデパートの屋上に閉じ込められた。少女のミイラは壁と壁の隙間に埋められた。マスターは太りすぎたためにバスから出られないまま死を迎えた。そして、リトル・アリョーヒンは小さい身体のままチェス盤の下に潜り込んでチェスを指す。共通するのは、みな閉じられた世界で生きているということ。チェスの駒もまた八×八の六十四升に閉じ込められている。だが、盤上で駒と駒が響き合ったとき、無限の宇宙に解き放たれたような美しい詩を生み出していく。閉塞感と開放感。このバランス感覚が素晴らしかった。

また、リトル・アリョーヒン以外にも魅力的なキャラクターが登場する。どんな家具でも修理してしまう祖父。ボロボロになった布巾を手放さない祖母。チェスのすべてを教えてくれたマスター。鳩を肩にとまらせた少女。彼女となら自由にチェスの海を冒険できる老婆令嬢。老人専用マンション・エチュードのどっしりとした総婦長さん。そして、右腕に猫のポーンを抱えた"リトル・アリョーヒン"。愛すべき善い人で、強い印象を残す人物たちだ。

このように風変わりな人たちが登場するが、どちらかといえば地味。だけど、密やかで美しく、静かなのに雄弁で、孤高だけど高潔で、作品の世界に深みがあって、強烈に余韻を引く作品。そして、最後は切なくて愛しくて涙がこぼれてきた。この物語を語るのに多くの言葉は必要ない。ただ心行くまま物語に身を任せてみてはどうだろう。胸がいっぱいになり読んで良かったと思えた一冊だった。


小川洋子さんのサイン。

小川洋子

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comments

こんにちは。
リトル・アリョーヒンだけでなく出てくる人みんな愛おしい
そんな本ですよね。

なな:2009/04/16(木) 18:58 | URL | [編集]

こんばんは。
地味で静かな話なんだけど、美しくて切なくて心に残る話でしたね。
インディラなどのエピソードは小川さんらしいし、
祖父母やマスター、肩に鳩を乗せた少女など
登場人物もみんな魅力的でした。
チェス盤の下の閉じられた世界でリトル・アリョーヒンは
無限の宇宙を感じていたと思います。

シンプルなサインも小川さんらしい感じですね。

mint:2009/04/16(木) 20:02 | URL | [編集]

ななさん、こんにちは。
チェス倶楽部の事務局長以外はそうでした。細かすぎるかな(笑)
自分のお気に入りは、マスターと鳩を肩にとまらせた少女でした。

しんちゃん:2009/04/17(金) 18:00 | URL | [編集]

mintさん
地味だけど、しっとりとした色気のある作品でしたね。
これが小川さん初読みだったので、らしさ等は分からないです。
こういうちょっと不思議がらしいのでしょうか。 違和感はなかったです。

しんちゃん:2009/04/17(金) 18:05 | URL | [編集]

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