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    2009

06.02

「厭世フレーバー」三羽省吾

厭世フレーバー厭世フレーバー
(2005/08/03)
三羽 省吾

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父親が会社を辞めたのは、夏の盛りのことだ。やんわりと依願退職を促された感じらしい。父親は一ヶ月程、所在なさげに家でゴロゴロしていたかと思うと、ある日プイとどこかへ消えてしまった。携帯電話も解約していて連絡がつかない。もちろん向こうからの連絡もなし。会社と一緒に、一家の主であることも辞めたわけだ。

中二の次男・ケイは、ムカついていた。父さんじゃなく、残された家族に対してだ。家族の誰もが、あの出来事をきっかけに本性を現したみたいで、それらのことごとくが醜悪で、とにかくムカついた。母さんは酒浸りになって家事の殆どを放棄した。姉さんは夜な夜な遊び歩くようになった。兄さんはやたらと口煩くなり、爺さんのボケの進行は加速した。だから陸上競技をやめて、ちゃんと一人で走り出すことにした。一年半あれば、中坊でも少しは稼げるだろう。それを元手に家を出る。早速、新聞配達を始めた。「十四歳」

高校生の長女・カナは、目的もなく街の中を歩いていた。一人でいたくなくて、でも家には帰りたくなくて、人込みの中をウロウロしてた。そのうち人の目とか煙草の煙とかネオンとか、そういうものが鬱陶しくなって路地裏に逃げ込むと、そこで仕込みをしていた店長に呼び止められた。どうにも放っておけない様子だったらしい。そうして、おでん屋でバイトするようになった。店長も奥さんも終電まで働くことを黙認してくれた。「十七歳」

社会人の長男・リュウは、最近、嘘ばかりついている。最大の嘘は、四年も勤めた防犯関係の会社を辞めていることを家族に言っていないことだ。幸いというかなんというか、その翌月から失業保険が支給された。そんなワケで、今日も早朝からスーツを着込み、とっくに辞めた会社に行くようなフリをして家を出る。実際に向かうのは、ハローワークかアルバイト。日雇い現場に立ち始めて、二ヶ月が経とうとしていた。「二十七歳」

須藤家の母・薫が目覚めて台所に行くと、子供たちはとっくに出掛けた後だった。酷い二日酔いを押して養父の食器を洗い、猫の餌を用意する。主婦失格の私としても、これだけはやらなきゃ。何しろ、ゴミ出しも食器洗いも子供たちに助けられ、洗濯はするけど洗いっ放しで畳まないし、夕食もスーパーの惣菜で済ませてるから、そのうち家族失格の烙印を押されかねない。酒が残った頭で、失踪したあの人との出会いを思い出す。「四十二歳」

ボケが進行した祖父・新造は、大恐慌の真っ只中に生まれた。実の親の顔は覚えていない。二つで遠縁の裕福な家に貰われたからだ。その家には、気が弱く、身体も丈夫ではなかった跡取り息子がいた。当時既に六十を越えていた養父が、若い妾にやっと産ませた一粒種だった。十歳に近づいたその頃、太平洋戦争が始まった。生家に捨てられ、貰われた家を追われた、自分の若い頃の話を祖父は語り出す。「七十三歳」


章ごとに語り手が変わる家族小説と思わせて、その枠をはみ出していく作品であった。十四歳のケイ、十七歳のカナ、この二人の嫌悪や倦怠からの脱却を通し、失踪した父のことが徐々に明かされていく。普通に想像するであろうリストラされたリーマン像が、ガタガタと崩れていくのだ。そうして二十七歳のリュウ、彼らの母である薫の章で、この家族のこみいった秘密が明かされる。さらに、祖父の語りで、この家族の成り立ちが明かされる。

七十三年を生きてきた祖父からすれば、孫たちの苦悩は厭世ごっこかもしれない。でも当人にとっては切実なこと。自分なりの折り合いをつけながら、一歩、また一歩と、前へ向かって進むしかない。そして最後まで登場しなかった父も、いつかは帰ってくるのでしょう。なんたって、そういう癖が子供の頃からある人らしいから。このバカ親父も憎めないんだよなぁ。何かが残る作品ではないが、ほんの少し心が温まり、おもしろく読めた一冊だった。

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三羽省吾
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comments

しんちゃん☆こんばんは
会社に行ってるフリをしていたり、酒浸りになってしまったり、ボロボロでバラバラな家族だけど、決して特別な家じゃないと思うなぁ。
わたしは、最後のおじいさんが気になります。自分の子供の頃のことを考えれば今の方がマシ、この位で死にたいとか言うな!ってところに、妙にカッコ良さを感じちゃいました。

Roko:2009/06/04(木) 21:34 | URL | [編集]

Rokoさん、こんばんは。
おじいさん、妙にカッコ良いいけれど、猫に向かってしゃべってるんですよね(笑)
まともなように見えて、やはりボケてるじゃん。そのユーモアにツボでした。
一人ならありがちだけど、家族全員というところが絶妙だと思いました。

しんちゃん:2009/06/05(金) 18:01 | URL | [編集]

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