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    2009

08.13

「刻まれない明日」三崎亜記

刻まれない明日刻まれない明日
(2009/07/10)
三崎亜記

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開発保留地区――10年前、街の中心部にあるその場所から理由もなく、3095人の人間が消え去った。今でも街はあたかも彼らが存在するように生活を営んでいる。しかし、10年目の今年、彼らの営みは少しずつ消えようとしていた。大切な人を失った人々が悲しみを乗り越え新たな一歩を踏み出す姿を描く長編。

「序章 歩く人」
紗弓は街に着いてから、ベンチに座り込んでいた。足音が響く。歩いてきたのは、紗弓と同年代の男性。純粋で、完成された「歩行」だった。歩く人は、国土保全省・主任歩行技師。歩くことによって道路を守る技術者で、道路という概念を固定化しているという。彼は明後日から一ヶ月かけて、この街のすべての道を歩くそうだ。紗弓はお願いして、助手として雇われた。紗弓は「あの事件」で、一人だけ消え残った者だった。事件の恐怖を閉じ込めるために、代償としてこの街での記憶をすべて失った。失った記憶を取り戻したいし、消え残った意味も知りたい。そう思って十年ぶりに戻ってきたのだった。

「第一章 第五分館だより」
藤森さんは中央図書館で働き出して二ヵ月半、ようやく仕事の流れもつかめてきた頃だった。ただ、引っ越してきてから何度も、「この街では」の言葉でうやむやにされてきた。西山係長と一緒に仕事をするように命じられた。一度も顔を合わせたことのない人物だ。係長は「担当者」だった。図書館第五分館は十年前まで事件の場所にあって、今は存在しない。いや、確かに存在する。つまり、存在しないのに、存在する図書館。そこでは、いないはずの人々が今も、本を借り続けているらしい。その貸出データを抽出し、家族のもとに届ける。だが、今年になって、急激に今まで借りていた人が本を借りなくなっていた。

「第二章 隔ての鐘」
俊の見下ろす風景の中に、開発保留地区があった。その無機質な名称は、便宜的なものとはいえ、どうしてもなじめなかった。十年前のあの事件の地であり、俊にとっては父の最期の地でもあるからだ。最近聴こえない。昔は頻繁に聴こえていた鐘の音は、今年に入ってめっきり聴こえなくなっていた。この街のごく一部の人々にだけ聴こえる鐘の音。保留地区は、廃墟以上に寒々しかった。俊は異国の少女と出会う。鈴は「共鳴士」の修行者だった。鈴の国においても、この街の「鐘の音」は歪みとして認識されていた。鈴はその理由を探り、歪みを正すべくやって来たのだ。俊と鈴は、鐘の音が歪む原因を追い始めた。

「第三章 紙ひこうき」
坂口さんが視線を落とすと、白いものが着地していた。紙ひこうきだった。ベランダから身を乗り出し、上の階を見渡す。ふと、動くものの気配。屋上だった。彼女はそこに座っていた。ラジオはバスの運行状況を告げた。彼女の右手が、守るような仕草でそっと左手を押える。彼女は昔、バスの運転士をしていた。紙ひこうきを飛ばす女性、持田さんと屋上で会うようになっていた。バスターミナルの一画に、閑散とした乗り場があった。十二番乗り場。この乗り場から出発するバスは一本もない。だけど、遠くはなれた場所から走るバスの光だけが見える。バスの光を見つめ続ける持田さんの姿が思い浮かんだ。

「第四章 飛蝶」
まだ、あの人に追いつけていない。あの頃の彼女の歌う歌、響く声、涼やかなまなざし、そして時折見せる寂しげな微笑。十三歳だった宏至には、すべてが輝いて見えていた。あれから十年。この壁には蝶がとまっていた。いや、蝶の姿が描かれていただけなのだが、宏至にとってはまさに蝶はそこに存在した。青く描かれた大小さまざまな蝶は、街中に散らばっている。彼らがこの街に姿を現して、十年が経った。今年の春ぐらいから、蝶たちはある日突然姿を消すようになった。宏至にとってそれは、彼女の化身ともいえる存在だった。宏至は、彼女と出逢ってしまった場所で、彼女から受け継いだ奏琴を奏でていた。

「光のしるべ」
事件現場の地下深奥部には、国内法にも国際法にも違反した、気化思念貯蔵プラントが建造され、この街の住民に必要な気化思念の実に四十倍もの量が違法蓄積されていた。いったい何を目的としたものかは、事情を一部知らざるを得なかった黒田さんたち供給管理公社の分局職員にも知らされていない。事件後十年を経て、安定化の道筋が整い、今日黒田さんは第五層を解放する。あの日、黒田さんはここにいた。黒田さんが危険を冒してプラントへ向かわなければ、被害は三千人にとどまらず、最終的には街全体に及んでいただろう。黒田さんは失われることはなかった。だが、まったく別の後遺症が発生した。

「新たな序章 つながる道」
歩き始めよう。アタッシュケースを持ち直し、幡谷さんはゆっくりと第一歩を印した。動作の一つとしての歩行から、自らと美知を互いに反応させ合う触媒としての歩行へと、少しずつ切り替えてゆく。この街は二年ぶりだった。歩くべき場所までは、駅から五キロほどあった。とはいえ、一日に数十キロを歩く幡谷さんにとって、それは苦となる距離ではなかった。幡谷さんは駅前の雑踏を構成する一人となって、街に溶け込んだ。その歩行は、風が吹き、雨が降るのと同様の、自然の営みの一つと化していた。道が、幡谷さんの歩行を迎える。幡谷さんは、歩くことによって道を道として帰属させる、歩行技師だった。


「失われた町」に続き、めっちゃあらすじを書いた。気がつけば書いていた。前作の続編ではない。だが、世界観は良く似ている。ここは月ヶ瀬とは遠く離れた違う街だ。でも同じ陸続きではあるようだ。そして、失われた人々と残された人々がいて、その人の記憶や想いをつないでいく。新たな一歩を踏み出していく。個々の章の完成度も高く、各章のつながり方も巧みだった。また、「ヒノヤマホウオウを展示している動物園」や「七階撤去」と、旧作とのリンクを発見する楽しみもあった。ただ、前作では理由がわからないまま人も街も失ってしまったが、今回はその原因を説明しようとする場面が終盤にあり、現実感が迷い込んでくる必要はあったのだろうかと疑問に思う。ちょっとがっかりだった。でも全体的には面白く読めた。そして、好きだった。

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三崎亜記
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刻まれない明日 〔三崎 亜記〕


刻まれない明日祥伝社 2009-07-10売り上げランキング : 31557おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ 内容紹介 開発保留地区――10年前、街の中心部にあるその場所から理由もなく、3095人の人間が消え去った。 今でも街はあたかも彼らが存在する

2009/10/25(日) 20:04 | まったり読書日記

刻まれない明日*三崎亜記


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2009/11/13(金) 06:53 | +++ こんな一冊 +++

『刻まれない明日』


 三崎亜記  祥伝社 『失われた町』の続編つか姉妹編。続編であることに宣伝面であまり触れられていないような気がするのはなんで。  10 年前に 3,000 人の人間が消えた。その区画は今、「開発保留地区」として管理されている。  だがその町のレストランでは、消えた...

2011/07/16(土) 00:12 | blog mr

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