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    2010

02.23

「美しき天然 嘉仁皇太子の修学旅行」田中聡

美しき天然美しき天然
(2009/12/04)
田中 聡

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大正天皇は皇太子時代に日本国内をくまなく旅した。旅先では、厳しいスケジュールにも関わらず、一人で散歩にでたり、人々に話しかけたり、思いがけない言動で人々を驚かせた。その史実を下敷きとして、皇太子のお伴をしていた有栖川宮威仁、新聞記者だった「電通」の創設者のひとり権藤震二、同じく新聞記者の山路愛山、ときの政治家・山県有朋、小説家・江見水蔭、人類学者・坪井正五郎、そして日本の山を守っているという謎の民スクナ衆…その巫女であるサワ、スクナ衆から離れて今は都会に住んでいる笙吉など、さまざまな登場人物の暗躍を描く。皇太子といっしょに鉄道に乗って、高崎、軽井沢、長野、新潟、長岡、柏崎、高田、桐生、水戸など、近代化に沸き揺れていた、明治の日本を巡る歴史伝奇小説。

スクナ衆とは、少彦名命に由来する氏族で、藩政の境界をこえて歩いて山々や川筋の全体を見渡し、天地の動向をとらえてきた者たちだ。山河が安らいでさえいれば、誰が国を治めようともかまわない。山に暮らして山河を守ることがスクナたる所以である。山県有朋はスクナについて知っており、今度の皇太子の巡啓中にスクナが皇太子に接触するといって警戒していた。そこで山県が寄こしたスクナの事情通というのが沼部笙吉だった。笙吉はスクナとはすっかり縁を切ったつもりでいた。ところが、皇太子の巡啓についてスクナの姿を追ううちに心が揺れてくる。サワに会いたい。恋しいサワに。

日本は殖産興業と富国強兵を推し進めるべく国民を励ましていた。ところが、山林の乱伐や河川の分水工事、石油の採掘と、新しい文明がかつてあった自然を破壊していた。銅山事業では鉱毒問題が起きていた。皇太子は旅先で荒れた禿山の風景を眺める。ふと皇太子の眼に、木々に深く包まれた山の姿が見えた。ふいに「山へお帰り」という声が脳裏に奔る。それはスクナによる術なのか。スクナは皇室の権威を使って日本を破壊から守ろうと術を使って暗躍する。笙吉は自分の無力さを実感する。実際にスクナの術を止められる自信などない。それでもここにいた。

笙吉は何のために旅を続けるのだろう。皇太子の心に何が去来するのだろう。スクナ衆のいうシラベとは何か。そして近代国家への道を突き進む日本という国の行く末とは。山とは文明にとって妨げなのか。山にはいくつもトンネルが開かれる。石油で走る車が広がればトンネルもより多く必要になる。石油はその工事のための機械をも進歩させる。河川工事などもそれで確実にできる。民の命を守り、交通を盛んにし、産業を発展させる。そうして国はいっそう栄える。

読者は、大阪と奈良を往来するとき自動車で生駒山を越えている。そこでいつも見る風景は、広がっていく茶色い山肌。見るたびに茶色の面積が増え、なんだか悲しい気持ちになる。そこは確実に緑が減っているのだ。これは生駒山の一部分であるが、そういう場所が全国にあると思うと恐ろしく思う。だけど、そこで働いて、利益をあげて、家族を食べさせている人がいて、ぐるぐる回ってその恩恵を受ける自分もいて…。実感のない自分も、茶色い山肌を作っている原因の一人だと気づかせてくれる一冊だった。

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