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    2011

03.10

「白いしるし」西加奈子

白いしるし白いしるし
(2010/12)
西 加奈子

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夏目が好きそうな絵を描く。友人の瀬田がそんな風に言って、フレイヤーをくれたのが、五月の終わりのことだった。私も絵を描いている。夏目香織、三十二歳。独身で恋人もおらず、新宿三丁目にあるバーでアルバイトをしながら、金にならぬ絵を描いている。まさに細々とした生活というやつである。絵はずっと描いていた。だが、そううまくはいかなかった。個性が強すぎるようで、媒体を選んだ。

ギャラリーは小さな一軒屋だった。そこには、私を祝福するように、真っ白な光があった。白い地に、白い絵の具が、すう、と引かれている。それは、山の稜線だった。私の絵とは、対極にあるような絵。白い富士山。美しい稜線。私はこの絵が、本当に好きだった。今思うと、その興奮は、その絵に出遭えたことと、自分はきっと、彼に恋をするだろう、という、予感からくるものであった。

夏目の人生は、失恋の歴史であった。青い髪の人に始まり、カメラマン、ミュージシャン、劇団員。彼らは皆、容赦なく私の前から姿を消し、そしてすぐさま、新しい恋にいそしんだ。彼らの変わり身の早さに、いつも驚嘆した。そのダメージのたびに、私は体重を失い、動けなくなった。でも、間島昭史を見たとき、からだの中が、内臓の、血液の、もっと奥にある何かが、発熱して、動き出す予感がしていた。

体を重ねた。彼のすることのすべてが、私の琴線に触れた。だが、彼が家に来てから、私は笑うことが出来なくなった。私はずっと、怖がっていた。彼への愛情は増すばかりで、際限はなかったが、その底なしの先が怖かった。彼から生い立ちを聞いたのは、彼が家に来て、何度目かの夜だった。彼が去るとき、私は泣かなかった。彼が去った後も、泣かなかった。彼は、恋人の元へ帰った。

彼のどこが好きなのだ、と聞かれたら、彼が好きなのだ、としか、答えられない。人を好きになるのに理由なんてない。人は恋をしてアホになり、幾度と失恋の傷であかん人になっても、また人は恋をする。アホな人と、あかん人を、繰り返して生きていく。あまりの切迫に気おされ、苦しさに溺れそうでも、大阪弁の文章が刻むリズムは心地よく、いつまでも読んでいたくなる。失恋小説であり、恋愛小説。そんな一冊だった。

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西加奈子
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