自分の腕に自信を持つバーテンダーの山県だが、働いていた渋谷のバーが潰れてしまう。そんな山県の新しい職場は、煮物のにおいがこもったカラオケが鳴る場末のスナックだ。バーテンダーとして働き出したものの、この店にはカクテルを飲みたいと言う客はいない。後悔しながら働く日々のなか、家出少女の亜須美を拾い、部屋で預かることに。スナック「メメントモリ」に訪れるダメ人間たちが絡むエンタメ小説です。
起こる出来事はありふれたものだが、さらっと読めて好きだった。キャラものというほどのキャラ立ちをしているわけでなく、どちらかと言うと人物たちは薄い。ストーリー展開もドタバタもしていないし、わりと淡々としていて盛り上がりもない。事件が起こっても、いつの間にか地味に解決する。ほんとすべてが地味。だけど黙々と読ませる何かがって、本の世界に引き込まれて夢中になって読むことができた。
登場人物をおさらいしてみる。まず、山県はこんな真面目なやつおらんやろ、というぐらい真面目。一緒に住むことになった亜須美にも、いっさい手を出さない。浮世離れと言ってもいいぐらい感情を表にださず、すべてをたんたんと事務的にこなす。リアル感に欠けると言えるが、何故かすんなりと迎えいれてしまう不思議なヤツ。
山県の部屋に転がり込んだ亜須美も、突飛なことをするのかと思ったが、いたって普通。ちょっぴり山県に恋心を見せるが、進展しないままいきなりフェイドアウトする。もう少し二人のベタな恋が読みたかったというのが本音かな。
山県の前の店の常連客の翔子も、いきなり押し掛けてきて最初はインパクトがあったが、いつの間にかこちらも落ち着いた存在になり下っている。スナックのオーナー兼ママの絢子も、我儘さが前面にくるのかと思ったが尻すぼみ。もっと無茶苦茶な捻くれた性格なのかと期待したが、実は優しさを持った普通の人でした。ちゃんちゃん、という淡々さ。
これだけ盛り上がる要素がない人物たちばかりが出てくるのは珍しい。そんな誰にも感情移入をしないまま最後まで読んでも、何故か楽しめてしまう不思議な作品。面白く読めた本なのに、褒めどころがまったく思いつかないんだよなー。大きな事件も起こらず、人物たちも薄く、すべてが地味なのだが、好きな本だった。
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