2007年07月30日 (月) | 編集 |
![]() | 雪が降る 藤原 伊織 (2001/06) 講談社 この商品の詳細を見る |
「台風」
吉井卓也のかつての部下が、会社内で上司を危うく殺しかけた。彼は上司の歪な懲罰に、ついにキレてしまったのだ。彼の呆然自失な震える左手を見て、かつて一度だけ人を殺した男に出会ったことを、吉井は思い出す。現実と過去が交錯した作品です。
吉井がかつて知り合った男との、馴れ初めから別れまでを回想する。淡い憧れをいだいたお兄さんへの哀愁が印象的でした。朗らかなお兄さんが絶望し、殺人をしてしまう経緯はすごく切なかった。しかし最後のオチにはニヤリ笑い。藤原さんのセンスが光っています。
「雪が降る」
同期ながらも上司にあたる高橋の息子から、「母を殺したのは、志村さん、あなたですね。」という電子メールが、志村秀明の元へ届いた。志村は高橋の息子に会い、封印させた淡くて苦い記憶を少年に語り出す。
志村と高橋の同期二人は、かつて一人の女性を巡って火花を散らした。そして志村は敗れ、女性のことを忘れることにした。そして数年後、偶然映画館で再会した二人は、過去の幸せだった頃を思い出す。それら全てを少年に打ち明ける志村は男前です。そして何も知らずに志村を信頼する高橋も男前だし、話を聞いて納得した少年も男前。渋い男たちがかっこよかった。
「銀の塩」
ボロアパートに住む島村は、隣人のバングラディシュ人の青年・ショヘルに誘われ軽井沢に避暑にきていた。そこで出会った里見という女性と恋に落ちるショヘル。しかしショヘルには内緒でやらなければならない夜の仕事を抱えていた。
この島村という男は「テロリストのパラソル」の彼ですよね。相変わらずなキレ者ぶりが渋かった。ショヘルと里見の恋は、まあありがち。ネタバレしますが、一瞬の恋って素敵ですね。この作品では、島村とウブなショヘルの交流が面白かったです。
「トマト」
自分は人魚だというきれいな少女と、むごたらしい顔の男の、不思議な一瞬のひと時を描いたショートショート。
少女に声を掛けられた男が、一緒にホテルのバーでトマトを食べるだけ。すごくシュールです。理解して読むのではなく、感覚で読むのでしょう。
「紅の樹」
堀江徹は、本来なら父親の組の跡目を継ぐはずだった。しかしその父が病死したあと、組は解散に追い込まれ、堀江は父が五分の縁を交わしていた秦野会の預かりになった。そして自らの希望で人を撃ったあと、突然に稼業から足を洗いたくなり、世話役だった遠山の勧めで身を隠す。それから二年半後、堀江の住むアパートに田島幸枝と舞の親子が引っ越してきた。するとかつての自分と同じ臭いがする男たちが、親子を脅しに現れた。
本作中もっとも長い中篇。未だ追われ者の生活をしている堀江が、田島親子と温かな関係を築く。しかし親子もまたヤクザに追われる者だった。堀江は彼女たちを守るために、自分の身を顧みずに行動する。まさにハードボイルドの王道。田島母との淡い関係、少女の澄んだ瞳に真摯に答える堀江に、キュンとくるものがありました。そしてラストの場面は壮絶の一言。とても熱くてすごく切なかったです。
「ダリアの夏」
かつて野球選手だった考志だが、怪我を負い野球を断念。今はデパートの商品配送のアルバイトをしている。そんな彼が配送先のお屋敷で出会ったのは、元女優の由利、姿を消した大御所俳優、彼らの息子の野球少年だった。
歪な両親の間で育つ少年が健気。考志は深く関わるつもりは無いのだが、由利の身勝手さと少年の野球への思いに、つい関わってしまう。さらっとしている考志にも熱いものが眠っていて、それが目覚めていく姿は気持ちが良かった。
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